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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】細胞傷害性粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/69 20170101AFI20220822BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 17/04 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220822BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220822BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20220822BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
A61K47/69
C12N15/88 Z
C07K17/04
C07K16/30
A61K9/127
A61P35/00
A61K31/7068
A61K47/68
A61K9/14
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 C
A61K39/395 L
C07K7/08 ZNA
C12N15/13
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019520598
(86)(22)【出願日】2017-08-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 AU2017050885
(87)【国際公開番号】W WO2018071959
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-06-01
(31)【優先権主張番号】2016904292
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】510069984
【氏名又は名称】バイオセプター・(オーストラリア)・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シャオジュアン・ゴン
(72)【発明者】
【氏名】ミヌー・ジェー・モハダム
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・アレクサンダー・バーデン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196337(JP,A)
【文献】特表2013-502204(JP,A)
【文献】特表2014-520759(JP,A)
【文献】Gemcitabine-loaded liposomes: rationale, potentialities and future perspectives,International Journal of Nanomedicine,2012年,2012:7,Pages 5423-5436
【文献】CD133 antibody-conjugated immunoliposomes encapsulating gemcitabine for targeting glioblastoma stem cells,Journal of Materials Chemistry B,2014年,2,Pages 3771-3781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C12N、C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞傷害性粒子であって、
- リポソーム;
- 前記リポソームの脂質二重層中または前記リポソームの脂質二重層上に含まれる細胞傷害性化合物のプロドラッグ;
- 癌細胞上のP2X受容体に結合するため前記リポソーム上に配置されることで、前記粒子が癌細胞に発現するP2X受容体を有する癌細胞に結合することを、前記粒子が前記癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含み、
前記可変ドメインが、単一ドメイン抗体(sdAb)、一本鎖Fvフラグメント、F(ab’)2、Fab、Fab’、Fd、および、Fvフラグメントからなる群から選択され、
前記可変ドメインが、非機能的P2X受容体に結合するが、機能的P2X受容体に結合しない、粒子。
【請求項2】
前記細胞傷害性化合物は、ゲムシタビンである、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記リポソームは、前記リポソームの脂質層を形成する炭化水素鎖を含み、かつ前記ゲムシタビンの第一級アミンは、カルバメート基を介して前記脂質層の炭化水素鎖に結合する、請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
前記リポソームは、抗体の前記リポソームへのコンジュゲーションを可能にする、前記リポソーム上に配置されたマレイミド基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
前記可変ドメインは、配列GHNYTTNILPGLNITC(配列番号2)からなるペプチドに結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
前記可変ドメインは、配列KYYKENNVEKRTLIK(配列番号3)からなるペプチドに結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項7】
前記可変ドメインは、
RNHDMG(配列番号4)のアミノ酸配列を有するCDR1;
AISGSGGSTYYANSVKG(配列番号5)のアミノ酸配列を有するCDR2;および、
EPKPMDTEFDY(配列番号6)のアミノ酸配列を有するCDR3;
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項8】
前記可変ドメインは配列番号7に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項9】
前記可変ドメインは配列番号7に示すアミノ酸配列からなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項10】
複数の請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞傷害性粒子および薬学的に有効な希釈剤、賦形剤またはキャリアを含む医薬組成物。
【請求項11】
癌を有する個体の処置に使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の粒子または組成物。
【請求項12】
癌の処置のための薬物の製造における、請求項1~9のいずれか一項に記載の粒子または組成物の使用。
【請求項13】
前記癌は充実性腫瘍である、請求項11に記載の粒子または組成物。
【請求項14】
前記癌は乳癌である、請求項13に記載の粒子または組成物。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の粒子または組成物を含む、癌細胞を殺すための組成物。
【請求項16】
前記癌は充実性腫瘍である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記癌は乳癌である、請求項16に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容を本明細書に参照により援用する豪州特許出願公開第2016904292号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、癌の化学療法、ナノ粒子の、特にリポソームの形成、および細胞傷害性薬物と細胞傷害性薬物への抗体とのコンジュゲーションに関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書における任意の従来技術への言及は、この従来技術が任意の法域において共通の一般知識の一部を形成すること、またはこの従来技術が当業者により理解された、関連するものと見なされた、および/または、他の複数の従来技術と組み合わされたと合理的に予測できることを承認または示唆するものではない。
【0004】
大部分の癌は、腫瘍の外科的除去、化学療法および/または放射線療法を含むアプローチの組み合わせにより処置されることが多い。外科的手技は、通常腫瘍を全体として除去するのに十分でないため、手術は、頻繁には化学療法および/または放射線療法を伴う。化学療法は、腫瘍細胞を殺すための薬剤の使用を含み、放射線療法は、腫瘍細胞を殺すまたは縮小させるための高エネルギー線(たとえばx線)による処置を含む。
【0005】
残念ながら、化学療法および放射線は、疲労;悪心;嘔吐;疼痛;脱毛;貧血;中枢神経系の問題;感染症;血液凝固の問題;口、歯肉および咽頭の問題;下痢;便秘;神経および筋肉への作用;腎臓および膀胱への作用;インフルエンザ様症状;体液貯留;ならびに生殖器に対する作用を含む重篤な、場合によっては生命を脅かす副作用を引き起こす。
【0006】
化学療法は、処置に患者への細胞傷害性薬物の全身投与が含まれるため、そうした重度の副作用を引き起こす。これらの作用物質は、腫瘍細胞を正常な細胞と区別できず、したがって、腫瘍細胞だけでなく健康な細胞も殺す。腫瘍部位に治療有効用量を送達するため、著しい大用量を患者に投与しなければならないので、副作用がひどくなる。放射線療法は化学療法よりいくらか局所的に施されるが、放射線処置でもやはり腫瘍の近傍の正常組織の破壊が起こる。
【0007】
よって、治療薬のターゲティング(たとえば、特定の組織または細胞型への;正常組織でなく特異的な病変組織への等)は、癌などの組織特異的疾患(たとえば前立腺癌)の処置において望ましい。たとえば、細胞傷害性抗癌剤の全身送達と異なり、標的送達は、その作用物質が健康な細胞を殺すのを防ぎ得る。加えて、標的送達であれば、作用物質の用量を少なくしてまたは投与頻度を減らして投与することを可能にし、一般に伝統的な化学療法に伴う望ましくない副作用を減らし得ると考えられる。
【0008】
癌治療の進歩にもかかわらず、毒性の強い作用物質の癌細胞への標的送達が依然として必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の必要性に対応しようとし、一実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- コア;
- 前記コアに含まれる、または前記コア内もしくは上に封入される細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためコア上に配置されることで、粒子が癌細胞に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0010】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- リポソーム;
- 前記リポソームに含まれる、または前記リポソーム内もしくは上に封入される細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されることで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0011】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- リポソーム;
- 前記リポソームに含まれる、または前記リポソーム内もしくは上に封入されるゲムシタビンの形態の細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されることで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0012】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- リポソームの脂質層を形成する炭化水素鎖を含むリポソーム;
- ゲムシタビンの形態の細胞傷害性化合物であって、ゲムシタビンの第一級アミンがカルバメート基を介して脂質層の炭化水素鎖に結合する細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されることで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0013】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- 下記を含むリポソーム:
- リポソームの脂質層を形成する炭化水素鎖
- リポソームへの抗体のコンジュゲーションを可能にするリポソーム上に配置されたマレイミド基;
- ゲムシタビンの形態の細胞傷害性化合物であって、ゲムシタビンの第一級アミンがカルバメート基を介して脂質層の炭化水素鎖に結合している細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されたマレイミド基に結合することで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0014】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- 下記を含むリポソーム:
- リポソームの脂質層を形成する炭化水素鎖
- リポソームへの抗体のコンジュゲーションを可能にするリポソーム上に配置されたマレイミド基;
- ゲムシタビンの形態の細胞傷害性化合物であって、ゲムシタビンの第一級アミンがカルバメート基を介して脂質層の炭化水素鎖に結合している細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されたマレイミド基に結合することで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン
を含み、
可変ドメインは下記式1:
CDR1-CDR2-CDR3
により定義され
式中、CDR1はRNHDMG(配列番号4)であり、
式中、CDR2はAISGSGGSTYYANSVKG(配列番号5)であり、
式中、CDR3はEPKPMDTEFDY(配列番号6)である
細胞傷害性粒子を提供する。
【0015】
好ましくは、可変ドメインは、式FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4のフレームワーク領域を含む。
【0016】
別の実施形態では、細胞傷害性粒子であって、
- 下記を含むリポソーム:
- リポソームの脂質層を形成する炭化水素鎖
- リポソームへの抗体のコンジュゲーションを可能にするリポソーム上に配置されたマレイミド基;
- ゲムシタビンの形態の細胞傷害性化合物であって、ゲムシタビンの第一級アミンがカルバメート基を介して脂質層の炭化水素鎖に結合する細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2XRに結合するためリポソーム上に配置されたマレイミド基に結合することで、粒子が癌細胞上に発現するP2XRを有する癌細胞に結合することを、粒子が癌細胞と接触するときに可能にする複数の可変ドメイン、
を含み、
可変ドメインは、以下のアミノ酸配列(配列番号7):
【化1】
を有する
細胞傷害性粒子を提供する。
【0017】
いずれかの実施形態では、ゲムシタビンの第一級アミンは、脂質層の炭化水素鎖に共有結合している。好ましくは第一級アミンは、ゲムシタビンのシトシンC4アミンである。
【0018】
本発明のいずれかの実施形態では、リポソームは、球状リポソームである。
【0019】
別の実施形態では、上記の複数の細胞傷害性粒子および薬学的に有効な希釈剤、賦形剤またはキャリアを含む医薬組成物を提供する。典型的には、医薬組成物は静脈内投与に適している。
【0020】
さらなる実施形態では、上記の粒子または組成物を個体に投与することで、個体の癌を処置することを含む、癌を有する個体を処置する方法を提供する。
【0021】
さらなる実施形態では、上記の粒子または組成物を個体に投与することで、個体の腫瘍容積を減少させることを含む、癌を有する個体の腫瘍容積を減少させる方法を提供する。
【0022】
さらなる実施形態では、癌を有する個体の処置に使用される上記の粒子または組成物を提供する。
【0023】
さらなる実施形態では、癌の処置のための薬物の製造における、上記の粒子または組成物の使用を提供する。
【0024】
さらなる実施形態では、上記の粒子または組成物と癌細胞を接触させることを含む、癌細胞を殺すための方法を提供する。
【0025】
さらなる実施形態では、上記の粒子または組成物を含むキットを提供する。
【0026】
本発明のいずれかの態様では、細胞傷害性化合物は、ゲムシタビンを含んでもよい。好ましくは、ゲムシタビンは、ゲムシタビンがコアまたはリポソームに結合するまたは取り込まれることを可能にするコンジュゲートの形態である。
【0027】
本発明のいずれかの態様では、細胞傷害性粒子のコアまたはリポソームは、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)からなる。
【0028】
本発明のいずれかの態様では、可変ドメインは、単一ドメイン抗体でもよいし、あるいは本明細書に記載する他の任意の抗体構造の一部であってもよい。さらに、可変ドメインは、ヒト化されていてもあるいはヒトでもよい。
【0029】
本発明のいずれかの態様では、複数の可変ドメインが、癌細胞上のP2XRに選択的に結合するためコア上に配置される。さらに、選択的結合は、アポトーシス孔を形成できないP2XRに対するものであってもよい。
【0030】
本発明のさらなる態様および前の段落に記載した態様のさらなる実施形態は、例によっておよび添付図面を参照しながら記載される、以下の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】オレイル-ゲムシタビンコンジュゲートおよびリポソームへの形成を示す細胞傷害性ナノ粒子の形成を示す。
図2】マレイミド基を介した抗体可変ドメインのリポソームへのコンジュゲーションを示す。
図3】リポソームのサイズ分布を示す。
図4】ELISAによるリポソームの血清学的結合を示す。タンジェンシャルフロー濾過(TFF)洗浄後のタンパク質濃度は、400~500μg/mLの範囲である。
図5】SDS PAGEゲル(Nupage 4~12% Bis trisゲル、MOPS緩衝液(1×))により証明された抗体のリポソームへのコンジュゲーションを示す。ゲルを180Vで55分泳動した。
図6】細胞傷害性粒子の4T1腫瘍への選択的局在化を示す。
図7】動物NIRイメージング全体から、(B)抗体コンジュゲート細胞傷害性粒子が(A)非抗体コンジュゲート粒子よりかなり長く腫瘍内に保持されることが明らかになる。
図8】ナノ粒子が選択的に局在することを示す(96時間時点での切除腫瘍の総放射効率(total radiant efficiency)平均+-SEM(p/s)/[AμW/cmA]))。ビヒクル対照(PBS;群1)、非コーティングナノ粒子(群2);Abコーティングナノ粒子(群3)およびHEL4コーティングナノ粒子(群4)を尾静脈からの静脈注射により50μL容量で試験0日目に1回投与した。
図9-1】図9。96時間でのNIRシグナル強度を示す。エキソビボ生物発光イメージングから、抗体コーティングNPが裸のナノ粒子より切除腫瘍における蓄積が多いことが示された。A:PBS群;B:非コーティングナノ粒子;C:抗体コーティングナノ粒子;D:HEL4コーティングナノ粒子。
図9-2】図9の続き。
図10-1】図10。4T1マウス乳房腫瘍を持つマウスに対する抗体コンジュゲートナノ粒子の有効性(接種後の日数に対する処置群ごとの平均腫瘍容積)を示す。静脈内処置を週に3回行った。
図10-2】図10の続き。
図11-1】図11。抗体コーティングナノ粒子の投与頻度の効果(接種後の日数に対する処置群ごとの平均腫瘍容積)を示す。静脈内処置を週に2回行った。
図11-2】図11の続き。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明のいくつかの実施形態について詳細に言及する。本発明について実施形態と共に説明するが、その意図するところは、本発明をそれらの実施形態に限定するものではないことが理解されよう。一方で、本発明は、特許請求の範囲により規定される本発明の範囲内に含まれ得るすべての代替例、変形例および等価物を包含することを意図している。
【0033】
当業者は、本発明の実施の際に使用することができる、本明細書に記載されたものと類似または同等の多くの方法および材料を認識するであろう。本発明は、記載された方法および材料に一切限定されるものではない。
【0034】
本明細書に開示および定義される本発明は、すべての本文または図面で言及したまたはそこから明らかである2つ以上の個々の特徴のすべての代替の組み合わせまで及ぶことが理解されよう。これらの異なる組み合わせのすべてが、本発明の様々な代替の態様を構成する。
【0035】
本明細書に言及した特許および刊行物のすべてについて参照によりその全体を援用する。
【0036】
本発明は、細胞傷害性薬物からなりかつ粒子上に配置された複数の可変ドメインを有する、細胞傷害性粒子であって、可変ドメインが癌細胞上のP2XRに結合することを可能にする細胞傷害性粒子を提供する。本粒子は、癌細胞に発現するP2XRを有する癌細胞に、粒子が癌細胞と接触すると結合することができる。
【0037】
いくつかの態様では、本発明の細胞傷害性粒子は、細胞傷害性薬物の持続放出を可能にするだけでなく、細胞傷害性薬物から生じる毒性を低下させることもできる。これは、P2XRに結合するための可変ドメインにより、粒子の癌性組織への結合特異性が確保されることで、健康な非癌性組織に対する毒性が低下するためである。したがって本発明は、細胞傷害性薬物を癌性細胞に届ける他の手段に対して利点がある。
【0038】
A.定義
本明細書の解釈においては、一般に以下の定義を適用し、適切な場合には、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆も同様である。
【0039】
「プリン受容体」は一般に、リガンドとしてプリン(ATPなど)を使用する受容体をいう。
【0040】
「P2X受容体」は一般に、3つのタンパク質サブユニットまたはモノマーから形成されるプリン受容体をいい、モノマーの少なくとも1つは、実質的に下記配列番号1に示すアミノ酸配列を有する。
配列番号1
【化2】
【0041】
P2X受容体は、3つのモノマーから形成されるという点で、「3量体」または「3量体性」である。「P2X受容体」は、P2X受容体の天然に存在する変異体を包含し、たとえば、P2Xモノマーは、スプライス変異体、対立遺伝子変異体およびアイソフォームであり、P2X受容体を形成するモノマーの天然に存在する切断型または分泌型(たとえば、細胞外ドメイン配列からなる型またはその切断型)、天然に存在する変異体型(たとえば、選択的スプライシング型)および天然に存在する対立遺伝子変異体を含む。本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に開示される天然配列P2Xモノマーポリペプチドは、配列番号1に示した全長アミノ酸配列を含む成熟または全長天然配列のポリペプチドである。いくつかの実施形態では、P2X受容体は、改変されたアミノ酸配列を有してもよく、たとえば配列番号1に示した配列内のいくつかのアミノ酸が置換、欠失していても、あるいは残基が挿入されていてもよい。
【0042】
「機能的P2X受容体」は一般に、ATPに結合するための3つのインタクトな結合部位またはクレフトを有するP2X受容体の形態をいう。ATPに結合すると、機能的受容体は、非選択的ナトリウム/カルシウムチャネルを形成し、これが、カルシウムイオンおよび900Da以下の分子のサイトゾルへの侵入を可能にする孔様構造に変化し、その1つの結果がプログラム細胞死の誘導になり得る。正常なホメオスタシスでは、機能的P2X受容体の発現は一般に、プログラム細胞死を起こす細胞、たとえば胸腺細胞、樹状細胞、リンパ球、マクロファージおよび単球に限定される。機能的P2X受容体は、赤血球および他の細胞型にも一部発現することがある。
【0043】
「非機能的P2X受容体」は一般に、機能的P2Xと異なるコンフォメーションを有することで、アポトーシス孔を形成できないが、隣接するモノマー間に位置する単一の機能的ATP結合部位の維持を通じて、依然として非選択的チャネルとして働くことができるP2X受容体の形態をいう。一例は、1つまたは複数のモノマーがPro210(配列番号1による)にシス異性化を有する場合に生じる。この異性化は、たとえば、モノマー一次配列の突然変異または異常な翻訳後プロセシングを含む、モノマーのミスフォールディングを引き起こす任意の分子イベントに起因し得る。異性化の1つの結果として、受容体が3量体の1つまたは2つのATP結合部位でATPに結合できず、そのためチャネルの開口部を広げることができない。この状況では、受容体は孔を形成することができず、これによりカルシウムイオンがサイトゾルに入ることができる程度が限定される。非機能的P2X受容体は、広範囲に及ぶ上皮癌および造血器癌に発現する。
【0044】
「癌関連P2X受容体」は一般に、癌細胞(前腫瘍性細胞、腫瘍性細胞、悪性細胞、良性細胞または転移性細胞を含む)上に見られるが、非癌細胞または正常細胞上には見られないP2X受容体である。
【0045】
「E200エピトープ」は一般に、配列GHNYTTNILPGLNITC(配列番号2)を有するエピトープをいう。
【0046】
「E300エピトープ」は一般に、配列KYYKENNVEKRTLIK(配列番号3)を有するエピトープをいう。
【0047】
「複合体エピトープ」は一般に、E200エピトープおよびE300エピトープまたはこれらのエピトープの一部が並列して形成されるエピトープをいう。
【0048】
「抗体」または「免疫グロブリン」もしくは「Ig」は、脊椎動物の血液または他の体液中に見られ、免疫系において抗原に結合することで異物を特定および/または中和する働きをするガンマグロブリンタンパク質である。
【0049】
抗体は一般に、2本の同一な軽(L)鎖および2本の同一な重(H)鎖からなるヘテロ4量体糖タンパク質である。L鎖はそれぞれ、1つのジスルフィド共有結合によりH鎖に連結される。2本のH鎖は、H鎖アイソタイプによって1つまたは複数のジスルフィド結合により互いに連結される。H鎖およびL鎖はまた、規則的に間隔をあけて配置された鎖内ジスルフィド架橋を有する。
【0050】
H鎖およびL鎖が特定のIgドメインを決定する。より詳細には、H鎖はそれぞれ、N末端に可変ドメイン(VH)、続いてα鎖およびγ鎖でそれぞれ3つの定常ドメイン(CH)、μアイソタイプおよびεアイソタイプで4つのCHドメインを有する。L鎖はそれぞれ、N末端に可変ドメイン(VL)、続いてそのもう一方の末端に定常ドメイン(CL)を有する。VLは、VHと並び、CLは、重鎖の第1の定常ドメイン(CHL)と並んでいる。
【0051】
抗体は、様々なクラスまたはアイソタイプに分類することができる。免疫グロブリンには、5つのクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる重鎖を有する。γクラスおよびaクラスはさらに、3/4の配列および機能における比較的小さな相違に基づきサブクラスに分かれ、たとえば、ヒトは、以下のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2を発現する。どの脊椎動物種のL鎖も、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパおよびラムダと呼ばれる明らかに異なる2つのタイプのどちらかに分類することができる。
【0052】
定常ドメインは、ジスルフィドによりつながれている両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含むFc部分を含む。ADCCなどの抗体のエフェクター機能は、Fc領域の配列により決定され、Fc領域は、ある種の細胞に見られるFc受容体(FcR)により認識される部分でもある。
【0053】
VHとVLが対を形成し一緒になって、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを含む「可変領域」または「可変ドメイン」を形成する。重鎖の可変ドメインは、「VH」ということもある。軽鎖の可変ドメインは、「VL」ということもある。Vドメインは、抗原結合に影響を与える「抗原結合部位」を含み、特定の抗体のその特定の抗原に対する特異性を規定する。V領域は、約110アミノ酸残基に及び、一般に各々9~12アミノ酸長である「超可変領域」(一般に約3つ)と呼ばれる可変性が特に高くより短い領域で分離された、15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)(一般に約4つ)と呼ばれる比較的変異の少ない領域からなる。FRは主に、βシート型をとり、超可変領域は、βシート構造を連結し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成する。
【0054】
「超可変領域」は、配列において超可変性である、および/または、構造が明確なループを形成する抗体可変ドメインの領域をいう。一般に、抗体は、VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)の6つの超可変領域を含む。
【0055】
「フレームワーク」残基または「FR」残基は、本明細書に定義された超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0056】
「抗原結合部位」は一般に、Vドメインに抗原結合機能を付与するのに必要である超可変性領域およびフレームワーク領域を少なくとも含む分子をいう。本明細書に記載の方法において抗原結合部位は、抗体の形態でもあるいは抗体フラグメントの形態(dAb、Fab、Fd、Fv、F(ab’)2またはscFv)でもよい。
【0057】
「インタクトな」または「全」抗体は、抗原結合部位のほか、CLと、少なくとも重鎖定常ドメインCH1、CH2およびCH3とを含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(たとえばヒト天然配列定常ドメイン)でもあるいはそのアミノ酸配列変異体でもよい。
【0058】
「可変ドメインを含む全抗体のフラグメント」は、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメントおよびFvフラグメント;ダイアボディ;直鎖状抗体、一本鎖抗体分子;および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体を含む。
【0059】
「Fabフラグメント」は、L鎖全体と共に、H鎖の可変領域ドメイン(VH)および1本の重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)からなる。各Fabフラグメントは、抗原結合に関して一価である、すなわち、1つの抗原結合部位しか有さない。
【0060】
「Fab’フラグメント」は、CH1ドメインのカルボキシ末端に抗体ヒンジ領域由来の1つまたは複数のシステインを含む、わずかな追加の残基を有する点でFabフラグメントと異なる。本明細書におけるFab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’を表す。
【0061】
「F(ab’)2フラグメント」は、二価の抗原結合活性を有する、ジスルフィド結合した2つのFabフラグメントにほぼ対応し、やはり抗原に架橋することができる。
【0062】
「Fv」は、完全な抗原認識および結合部位を含む最小抗体フラグメントである。このフラグメントは、非共有結合性の密な会合状態の、1つの重鎖可変領域ドメインおよび1つの軽鎖可変領域ドメインの2量体からなる。
【0063】
一本鎖Fv(scFv)種では、フレキシブルなペプチドリンカーにより1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインを、その軽鎖および重鎖が二本鎖Fv種のそれと類似の「2量体」構造で会合し得るように、共有結合することができる。これら2つのドメインのフォールディングから、抗原結合のためのアミノ酸残基を与えかつ抗体に抗原結合特異性を付与する、6つの超可変ループ(H鎖およびL鎖から各々3つのループ)が生じる。
【0064】
「sFv」または「scFv」とも略記される「一本鎖Fv」は、連結して単一のポリペプチド鎖を形成するVH抗体ドメインおよびVL抗体ドメインを含む抗体フラグメントである。好ましくは、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間に、scFvが抗原結合のため所望の構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーをさらに含む。
【0065】
「単一の可変ドメイン」は、抗原を認識し結合する能力を有するFvの半分(抗原に特異的な3つのCDRのみを含む)であるが、全結合部位より親和性が低くなる。
【0066】
「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を持つ抗体フラグメントをいい、そのフラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH-VL)に軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。この小さな抗体フラグメントは、鎖内でなく鎖間のVドメインの対形成が達成され、二価のフラグメント、すなわち、2つの抗原結合部位を有するフラグメントが得られるように、VHドメインとVLドメインとの間に短いリンカー(約5~10残基)を用いてsFvフラグメント(前段落を参照)を構築することにより調製される。
【0067】
ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る。二重特異性ダイアボディは、2つの抗体のVHドメインおよびVLドメインが異なるポリペプチド鎖上に存在する、2つの「交差」sFvフラグメントのヘテロ2量体である。トリアボディおよびテトラボディも一般に当該技術分野において公知である。
【0068】
「単離された抗体」は、同定され分離された、および/または、その既存の環境の成分から回収された抗体である。汚染成分として、抗体の治療的使用を妨害し得ると考えられる物質があり、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を挙げることができる。
【0069】
「ヒト抗体」は、ヒトにより産生される抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を有する抗体をいう。ヒト抗体は、ファージディプレイライブラリーを含め、当該技術分野において公知の様々な技術を用いて作製することができる。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してそうした抗体を産生するように改変されているが、その内在性遺伝子座が無効にされている、トランスジェニック動物に抗原を投与することにより調製してもよい。
【0070】
「ヒト化」形態の非ヒト(たとえば、齧歯動物)抗体は、非ヒト抗体に由来する最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の抗体特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見られない残基を含んでもよい。これらの改変体は、抗体性能をさらに改良するため作られる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的全部を含み、超可変ループの全部または実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FRの全部または実質的全部がヒト免疫グロブリン配列のそれに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれの少なくとも一部をさらに含む。
【0071】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体をいう、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量で存在する可能性があると考えられる自然発生突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、抗原上の単一の抗原部位または決定基を指向する。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体で汚染されずに合成できる点で有利である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法により調製することができる。「モノクローナル抗体」はまた、分子工学技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。
【0072】
「抗P2X受容体抗体」または「P2X受容体に結合する抗体」という用語は、P2X受容体、典型的には非機能的P2X受容体または癌関連P2X受容体を標的とする際に診断薬および/または治療薬として有用であるような十分な親和性でP2X受容体に結合できる抗体をいう。好ましくは、P2X受容体抗体の無関係のタンパク質に対する結合の程度は、たとえば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、Biacoreまたはフローサイトメトリーにより測定すると、抗体のP2X受容体に対する結合の約10%未満である。いくつかの実施形態では、P2X受容体に結合する抗体は、<1μM、<100nM、<10nM、<1nMまたは<0.1nMの解離定数(Kd)を有する。抗非機能的P2X受容体抗体は一般に、これらの血清学的特徴の一部または全部を有し、かつ非機能的P2X受容体に結合するが、機能的P2X受容体に結合しない抗体である。
【0073】
「親和性成熟」抗体は、その1つまたは複数の超可変領域に1つまたは複数の変化を有し、その結果、抗原に対する抗体の親和性が、それらの変化を有さない親抗体と比較して向上した抗体である。好ましい親和性成熟抗体は、ターゲット抗原に対してナノモルあるいはさらにはピコモルの親和性を有する。親和性成熟抗体は、当該技術分野において公知の手順により作製される。
【0074】
「阻止」抗体」または「アンタゴニスト」抗体は、それが結合する抗原の生物活性を阻害または低下させる抗体である。好ましい阻止抗体またはアンタゴニスト抗体は、抗原の生物活性を実質的にまたは完全に阻害する。
【0075】
「アゴニスト抗体」は、本明細書で使用する場合、目的のポリペプチドの機能活性の少なくとも1つを模倣する抗体である。
【0076】
「結合親和性」は一般に、分子(たとえば、抗体)の単一の結合部位とその結合相手(たとえば、抗原)との間の非共有結合性相互作用の合計の強度をいう。他に記載がない限り、本明細書で使用する場合、「結合親和性」は、結合対(たとえば、抗体および抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性をいう。分子XのそのパートナーYに対する親和性は一般に、解離定数(Kd)で表すことができる。親和性は、本明細書に記載したものを含む当該技術分野において公知の通常の方法により測定することができる。低親和性抗体は一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は一般に、抗原により速く結合し、より長い時間結合したままである傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法は、当該技術分野において公知であり、そのいずれも本発明の目的に使用することができる。
【0077】
「エピトープ」は一般に、抗体の抗原結合部位が結合する抗原の一部をいう。エピトープは、抗原結合部位を形成する抗体CDRの超可変ループが、タンパク質一次構造のようなアミノ酸配列に結合するという意味で「リニア」であってもよい。いくつかの実施形態では、エピトープは、「コンフォメーショナルエピトープ」である、すなわちCDRの超可変ループが、タンパク質の三次または四次構造で示される残基に結合するエピトープである。
【0078】
「処置」は一般に、治療処置および予防(prophylacticまたはpreventative)措置の両方をいう。
【0079】
処置を必要とする被検体は、良性、前癌性または非転移性の腫瘍をすでに有する被検体のほか、癌の発生または再発を予防しようとする被検体を含む。
【0080】
処置の目的または成果は、細胞の数を減少させること;原発腫瘍サイズを縮小させること;周辺臓器への癌細胞浸潤を阻害すること(すなわち、ある程度遅延させること、好ましくは停止させること);腫瘍転移を阻害すること(すなわち、ある程度遅延させること、好ましくは停止させること);腫瘍成長をある程度阻害すること;および/または障害に関連する症状の1つまたは複数をある程度軽減することであってもよい。
【0081】
処置の有効性は、生存期間、増悪までの期間、奏効率(RR)、奏効期間および/または生活の質を評価することにより測定することができる。
【0082】
「前癌性」または「前腫瘍形成」は一般に、典型的には癌に先行するまたは進展する状態または成長をいう。「前癌性」成長は、細胞周期のマーカーにより判定できる異常な細胞周期制御、増殖または分化を特徴とする細胞を有してもよい。
【0083】
癌の他の例として、芽腫(髄芽腫および網膜芽腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫および滑膜細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマおよび島細胞癌を含む)、中皮腫、シュワン腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺癌、メラノーマ、白血病またはリンパ球悪性腫瘍、小細胞肺癌(SGLG)、非小細胞肺癌(NSGLG)、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む肺癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃腸癌を含む胃(gastricまたはstomach)癌、膵癌、膠芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、ヘパトーマ、乳癌(転移性乳癌を含む)、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎(kidneyまたはrenal)癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌、肛門癌、陰茎癌、精巣癌、食道癌、胆道の腫瘍のほか頭頸部癌が挙げられる。
【0084】
[癌に]「関連する状態または症状」は、癌の結果として生じた、癌に先行した、または癌から進行したどの病態でもよい。たとえば、癌が皮膚癌である場合、その状態または関連する症状は、微生物感染であってもよい。癌が二次腫瘍である場合、その状態または症状は、腫瘍転移を有する関連臓器の臓器機能不全に関連してもよい。一実施形態では、本明細書に記載の処置の方法は、個体における癌に関連する個体の状態または症状の最小化または処置のためのものである。
【0085】
本明細書で使用する場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「を含む(comprise)」という用語および「を含む(comprising、comprisesおよびcomprised)」などの用語の変化形は、さらなる添加剤、要素、整数またはステップを除外しないことを意図している。「を含む(including)」および「を含む(comprising)」は同義で使用することがある。
【0086】
B.細胞傷害性粒子
一実施形態では、
- コア
- 前記コアに含まれる、または前記コア内もしくは上に封入される細胞傷害性化合物;
- 癌細胞上のP2X受容体に結合するためコア上に配置された複数の可変ドメインであって、その配置は、粒子が癌細胞と接触すると、粒子が癌細胞上のP2X受容体に架橋することを可能にする可変ドメイン
を含む細胞傷害性粒子を提供する。
【0087】
B.1 コア
コアは一般に、粒子の全体的な寸法および物理的特徴を規定し得る。
【0088】
コアは、脂質、タンパク質、糖または他の生体分子から形成されていてもよい。あるいは、コアは、ポリマー、樹脂、プラスチックまたはセラミックもしくはガラスから形成されていてもよい。
【0089】
特に好ましい一実施形態では、コアは、リポソーム、ミセル、マイクロエマルジョンまたはマクロエマルジョンの形態で用意される。
【0090】
ミセルは、臨界ミセル濃度として知られる詳細に明らかにされた濃度で形成される両親媒性(界面活性剤)分子のコロイド凝集体である。ミセルは、非極性部分を内面に、極性部分を水に接触した外面に向ける。ミセルにおける凝集分子の典型的な数(凝集数)は50~100である。
【0091】
すべてのミセル溶液が膨潤してマイクロエマルジョンを形成できるとは限らないが、マイクロエマルジョンは本質的に膨潤ミセルである。マイクロエマルジョンは、熱力学的に安定で自然に形成され、極小の粒子を含む。マイクロエマルジョンの液滴直径は典型的には10~100nmに及ぶ。
【0092】
マクロエマルジョンは、100nmより大きい直径を有する液滴である。
【0093】
リポソームは、水性内部を取り囲む脂質二重層を含む脂質閉鎖小胞である。リポソームは典型的には、25nm~1μmの直径を有する(たとえば、D.O.Shah(ed),1998,Micelles,Microemulsions,and Monolayers:Science and Technology,Marcel Dekker;A.S.Janoff(ed),1998,Liposomes:Rational Design,Marcel Dekkerを参照)。
【0094】
好ましくはコアは、リポソームの形態で用意される。この実施形態では、粒子は、抗体-リポソームコンジュゲートと呼ばれることがある。
【0095】
リポソームは、ホスホグリセリドおよびスフィンゴ脂質(その代表的な例として、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、リソフォスファチジル-エタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジステアロイル-ホスファチジルコリンまたはジリノレオイルホスファチジルコリンがある)を含む脂質からなってもよい。リンを欠いた他の化合物、たとえばスフィンゴ脂質およびグリコスフィンゴ脂質ファミリーも企図している。加えて、上述の両親媒性脂質は、トリアシグリセロールおよびステロールを含む他の脂質と混合してもよい。
【0096】
リポソームは、約50nm~200μmに及ぶ直径を有してもよい。したがって、リポソームは、音波処理した小さな一枚膜ベシクル(SUV)、大きな一枚膜ベシクル(LUV)、または逆相蒸発(REV)、フレンチプレス(FPV)もしくはエーテル注入(EIV)により調製されたリポソームであってもよい。所望のサイズのリポソームを分画および精製する方法を含む、そうしたサイズのリポソームを調製する方法は、当業者に知られている。典型的には、リポソームは、約10~600nmに及ぶ直径を有する。一実施形態では、リポソームは、約50~200nmの直径を有する。一実施形態では、リポソームはLUVである。
【0097】
典型的には、本発明のリポソームは、リポソーム脂質二重層の一枚膜である。しかしながら、本発明のリポソームは、2枚以上の脂質二重層を含んでもよいことが理解されよう。よって一実施形態では、リポソームは、ボルテックスした大きな多重膜ベシクル(MLV)などの多重膜ベシクルであってもよい。
【0098】
本明細書に記載するように、リポソームを癌細胞に結合させるためリポソームに電荷を付与するための化合物は、癌細胞の脂質二重層とリポソーム二重層との間の融合を高めるのに有利である。たとえば、DOTAPは、リポソーム脂質二重層をターゲット細胞に結合させるための結合手段として特に有用である。
【0099】
リポソームは、初期エンドソームのpHでリポソーム脂質二重層を不安定化させるように改変してもよい。初期エンドソームは、エンドサイトーシス経路の初期に形成される液胞またはベシクルである。このオルガネラは典型的には、5.5~6.0に及ぶpHを有する。
【0100】
リポソームは、よく知られた技術により構築することができる(たとえば、G.Gregoriadis(ed.),1993,Liposome Technology Vols.1-3,CRC Press,Boca Raton,FLを参照)。典型的には脂質をクロロホルムに溶解させ、回転蒸発によりチューブまたはフラスコの表面上に薄膜状に広げる。脂質の混合物からなるリポソームが望ましい場合、個々の要素を最初のクロロホルム溶液中で混合する。有機溶媒を除去した後、水からなり、任意選択的に緩衝液および/または電解質を含む相を加え、入れ物を撹拌して脂質を懸濁させる。次いでこの混合物をホモジナイザーの使用により乳化し、凍結乾燥し、融解して多重膜リポソームを得る。あるいは、一枚膜リポソームは、逆相蒸発法により製造することができる(Szoka and Papahadjopoulos,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194-4198)。一枚膜ベシクルは、音波処理または押出により調製してもよい。音波処理は一般に、脂質の融点により決定される制御温度でBranson社製チップソニファイアー(G.Heinemann Ultrashall und Labortechnik,Schwabisch Gmund,Germany)などの槽型ソニファイアーを用いて行われる。押出は、Lipex Biomembrane Extruder(Northern Lipids Inc,Vancouver,British Columbia,Canada)などのバイオメンブレンエクストルーダーにより行ってもよい。押出フィルターに規定された細孔サイズにより、特定のサイズの一枚膜リポソームのベシクルを得てもよい。リポソームはさらに、Ceraflow Microfilter(Norton Company,Worcester,MAから市販されている)などの非対称セラミックフィルターを通して押し出すことにより形成してもよい。
【0101】
リポソーム調製後、形成過程で所定のサイズにならかなったリポソームは、押出により所定のサイズにして所望のサイズ範囲および比較的狭い分布のリポソームサイズを達成してもよい。約0.1~0.5ミクロンのサイズ範囲であれば、リポソーム懸濁液は、従来のフィルター(たとえば、0.22ミクロンフィルターまたは他のフィルター)による濾過により滅菌できる。濾過滅菌法は、ハイスループットで行ってもよい。
【0102】
リポソームを所望のサイズにするには、超音波処理、高速ホモジナイズ処理および加圧濾過を含む、いくつかの技術が利用可能である(M.J.Hope et al.,1985,Biochimica et Biophysica Acta 812:55;米国特許第4,529,561号明細書および同第4,737,323号明細書)。槽音波処理またはプローブ音波処理のいずれかでリポソーム懸濁液を音波処理すると、サイズが約0.05ミクロン未満の小さな一枚膜ベシクルまで徐々にサイズの縮小が起こる。多重膜ベシクルは、典型的には約0.1~0.5ミクロン、好ましくは約0.1~0.2ミクロンに選択されたリポソームサイズまで標準的なエマルジョンホモジナイザーを通して再循環させてもよい。リポソームのベシクルの大きさは、準弾性光散乱(QELS)により測定することができる(Bloomfield,1981,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.10:421-450を参照)。リポソームの平均直径は、形成されたリポソームの音波処理により小さくしてもよい。断続的な音波処理サイクルをQELS評価と交互に行い効率的なリポソーム合成に導いてもよい。
【0103】
リポソームは、小孔のポリカーボネート膜または非対称セラミック膜を通して押し出して、明確なサイズ分布を得てもよい。典型的には、所望のリポソームのサイズ分布が達成されるまで、膜を通して懸濁液を1回または複数回循環させる。リポソームを連続的により小さな孔膜を通して押し出して、リポソームサイズの段階的な縮小を達成してもよい。
【0104】
特に好ましい実施形態では、細胞傷害性粒子は、リポソームの脂質層にオレイン酸脂肪酸鎖を含むリポソーム形態のコアを含む。コアは、好ましくは球状の二分子膜の形態をとりリポソームを形成する。オレイン酸は、ゲムシタビンに結合するためカルバメート基を形成するため官能基化しても、あるいは免疫グロブリンドメインに結合するためマレイミド基で官能基化してもよい。好ましくはリポソームは、約60~150nmのサイズを有する。
【0105】
B.2 可変ドメイン
癌細胞上のP2X受容体に結合するためコア上に配置された可変ドメインは、全抗体、または可変ドメインを含む抗体のフラグメントの形態で用意してもよい。
【0106】
一実施形態では、可変ドメインは、癌関連P2X受容体に結合するためのものである。
【0107】
別の実施形態では、可変ドメインは、非機能的P2X受容体に結合するためのものである。
【0108】
一実施形態では、可変ドメインは、非機能的受容体に結合するが、機能的受容体には結合しないように、機能的P2X受容体と非機能的P2X受容体とを識別する可変ドメインである。可変ドメインの例として、E200エピトープ、E300エピトープ、または、たとえば、それらのすべてを援用するPCT/AU2002/000061号明細書、PCT/AU2002/001204号明細書、PCT/AU2007/001540号明細書、PCT/AU2007/001541号明細書、PCT/AU2008/001364号明細書、PCT/AU2008/001365号明細書、PCT/AU2009/000869号明細書およびPCT/AU2010/001070号明細書のような複合体エピトープに結合するものがある。
【0109】
可変ドメインのフラグメントは、一本鎖抗体、一本鎖FvフラグメントならびにF(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、FdフラグメントおよびFvフラグメントを含む。
【0110】
可変ドメインは、モノクローナル抗血清またはポリクローナル抗血清に由来してもよい。
【0111】
可変ドメインは、ヒト、ヒト化、キメラ、マウス、ラット、ウサギまたは他の哺乳類種であってもよい。
【0112】
可変ドメインは、親和性成熟していてもよい。
【0113】
可変ドメインが配置された抗体は、複数の特異性または結合価を有してもよい。
【0114】
可変ドメインは、選択された方法による投与に適するように改変してもよい。
【0115】
可変ドメインは、任意のアイソタイプの抗体で用意してもよい。抗体は、ハイブリドーマまたは組換え発現により製造してもよいし、あるいは、たとえば哺乳動物、特にヒトまたはマウスから得られるような血清から得てもよい。抗体はさらにトリから得てもよい。
【0116】
特に好ましい実施形態では、可変ドメインは、下記式1により定義される。
CDR1-CDR2-CDR3
式中、CDR1はRNHDMG(配列番号4)であり、
式中、CDR2はAISGSGGSTYYANSVKG(配列番号5)であり、
式中、CDR3はEPKPMDTEFDY(配列番号6)である。
【0117】
特に好ましい実施形態では、可変ドメインは、以下のアミノ酸配列(配列番号7):
【化3】
または
【化4】
(配列番号8)
を有する。
【0118】
B.3 可変ドメインのリポソームへのコンジュゲーション
可変ドメインまたは抗体は、従来の技術を用いてリポソームにコンジュゲートしてもよい(たとえば、M.J.Ostro(ed.)1987,Liposomes:from Biophysics to Therapeutics,Marcel Dekker,New York,NYを参照)。リポソームを調製し、その表面に免疫グロブリンをコンジュゲートする1つの好ましい方法は、Y.Ishimoto et al.,1984,J.Immunol.Met.75:351-360により記載されている。この方法に従い、ジパルミトイルホスファチジルコリン、コレステロールおよびホスフォチジルエタノールアミンからなる多重膜リポソームを調製する。次いで精製されたフラグメントを架橋剤N-ヒドロキシスクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートによりホスファチジルエタノールアミンに連結する。抗体またはフラグメントのリポソームへの連結は、予めトラップされたマーカー、たとえば、カルボキシフルオレセンスのリポソームからの放出により証明される。この放出は、コンジュゲート抗体に対する二次抗体、フラグメント、または補体とのインキュベーション時に起こる。
【0119】
可変ドメインおよび抗体はさらに、糖質部分を介してリポソームまたは本発明の別のキャリアに連結してもよい。そうした連結は、糖質部分が超可変領域または抗体結合部位にないという条件で、使用してもよい。こうして、糖質との架橋を介したコンジュゲーションは、結合に影響を与えずに、結合部位は依然として細胞表面抗原に結合するのに役立つ。本発明の抗体または抗体フラグメント(Fv以外)をポリマー骨格またはリポソームに連結するのに好ましい1つの方法は、定常領域の糖質部分を介してコンジュゲーションを行うものである。これにより、利用できる抗原結合部位の数が最大になる。抗体フラグメント(および抗体)と連結するためのヒドラジド基を生成するため糖環部分を誘導体化するための方法は、確立されている(J.D.Rodwell et al.,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2632-36を参照)。こうして調製されたいくつかの免疫コンジュゲートが、臨床試験中である、または通常の臨床使用の承認を申請中である。
【0120】
モノクローナル抗体のリポソームの表面への結合はさらに、グルタルアルデヒドを用いてホスファチジルエタノールアミンと抗体との間の架橋の形成により達成してもよい。同様に、ターゲティング抗体は、リポソームの表面上に固定されてステルスコーティングとして働く反応性PEG基を介してリポソームに架橋してもよい。
【0121】
あるいは、チオール化した抗体を、マレイミド基を導入した脂質を含むリポソームと反応させてもよい。リポソームの表面上に残存するマレイミド基は、チオール化したポリアルキレングリコール部分を含む化合物とさらに反応させてもよい。抗体または抗体フラグメントのチオール化は、通常タンパク質のチオール化に使用されるN-スクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、イミノチオランまたはメルカプトアルキルイミデートの使用により達成してもよい。あるいは、抗体の内在性のジチオール基を還元してチオール基を形成してもよい。抗体機能を維持するため、後者の方法が好ましい。別の方法によれば、全抗体をペプシンなどの酵素で処理してF(ab)2フラグメントを形成し、次いでこれをジチオスレイトール(DTT)で還元してFabフラグメントを形成し、その結果1~3個のチオール基が生成される。チオール化抗体のマレイミド基含有リポソームへのコンジュゲーションは、pH6.5~7.5の中性の緩衝溶液中、各要素を2~16時間反応させることにより達成してもよい。
【0122】
B.3 細胞傷害性薬物
好ましくは細胞傷害性薬物は、複製中に核酸鎖に取り込まれたときアポトーシスに至るヌクレオシドアナログである。
【0123】
好ましくはヌクレオシドアナログは、ピリミジンである。
【0124】
ピリミジンは、ゲムシタビン(4-アミノ-1-(2-デオキシ-2,2-ジフルオロ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)ピリミジン-2(1H)-オン)(ジェムザール)。またはシタラビン(4-アミノ-1-[(2R,3S,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]-1,2-ジヒドロピリミジン-2-オンもしくはara-C)から選択してもよい、
【0125】
好ましくはピリミジンはゲムシタビンである。
【0126】
B.4 細胞傷害性薬物のリポソームへのコンジュゲーション
一般に細胞傷害性薬物は、リポソームの脂質層を形成するため脂質要素を官能基化し、次いで官能基を細胞傷害性薬物と脂質-薬剤コンジュゲートを形成するように反応させることにより、リポソームにコンジュゲートしてもよい。次いで薬剤コンジュゲートは、上記の通り他の脂質要素と、リポソームの形成に適用される条件で混合される。一実施形態では、オレイン酸炭化水素脂肪酸鎖を官能基化し、細胞傷害性薬物とオレイン酸との間にカルバメート基の形成を可能にする。
【0127】
C.医薬組成物および癌治療
一実施形態では、本発明による複数の細胞傷害性粒子および薬学的に有効な希釈剤、賦形剤またはキャリアを含む医薬組成物を提供する。一実施形態では、組成物に使用される粒子は、リポソームの形態のコアを有する。
【0128】
組成物の粒子は、同じ密度の可変ドメインを有してもよい。
【0129】
組成物中の各粒子のコアは、同じ表面積を有してもよい。
【0130】
一実施形態では、個体の癌、特に低コピー数または低発現もしくは低産生の細胞表面P2XRを有する癌細胞を含む癌を処置する方法であって、治療有効量の上記の粒子または組成物を個体に与えることで、個体の癌を処置する方法を提供する。この実施形態では、低コピー数または低発現もしくは低産生の細胞表面P2XRを有する癌細胞を含む癌を有する個体の処置に使用される上記の粒子または組成物を提供する。
【0131】
本発明の粒子または組成物は、それを必要とする被検体に経口経路、非経口(たとえば静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、直腸または経膣)経路、吸入適用または局所適用により投与してもよい。投与の一形態は、緩衝液(たとえば酢酸、リン酸またはクエン酸緩衝液)、界面活性剤(たとえばポリソルベート)、任意選択的に安定剤(たとえばヒトアルブミン)を含む注射用、特に静脈内もしくは動脈内注射用または点滴用の溶液であると考えられる。他の方法では、粒子は、疾患の部位に直接送達することで、罹患細胞または組織の抗体への曝露を増加させることができる。
【0132】
非経口投与用の調製物は、無菌の水性(水性キャリアは、水、アルコール性/水性の溶液剤、乳濁剤または懸濁剤、たとえば食塩水および緩衝化媒体を含む)または非水性(非水性溶剤として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある)の溶液剤、懸濁剤および乳濁剤を含む。薬学的に許容されるキャリアは、0.01~0.1M、好ましくは0.05Mのリン酸塩緩衝液または0.9%の食塩水を含む。他の一般的な非経口ビヒクルは、リン酸ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルまたは不揮発性油を含む。静脈内ビヒクルは、体液および栄養補液、電解質補液(リンゲルデキストロースをベースとしたものなど)ならびに同種のものを含む。たとえば、抗菌物質、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスならびに同種のものなど、防腐剤および他の添加剤がさらに存在してもよい。
【0133】
より詳細には、注射用途に適した医薬組成物は、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および無菌の注射用溶液または分散液を即時調製するための無菌粉末を含み、そうした場合、組成物は、無菌でなければならず、シリンジ操作が容易である程度の流動性があるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定であるべきであり、好ましくは細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールならびに同種のもの)およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であればよい。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合に必要とされる粒度の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。本明細書に開示された治療方法に使用するのに好適な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,16th ed.(1980)に記載される。
【0134】
微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールおよび同種のものにより達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、たとえば、糖、多価アルコール、たとえばマンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを含ませると好ましい。注射用組成物の吸収の持続化は、組成物中に吸収を遅延させる作用物質、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含ませることにより実現することができる。
【0135】
いずれにせよ、無菌の注射用溶液は、必要量の本発明の粒子を、必要に応じて本明細書に列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶剤に混和し、続いて濾過滅菌することにより調製することができる。一般に、分散剤は、基本的な分散媒および上記に列挙したものから必要とされる他の成分を含む無菌ビヒクルに活性化合物を混和することにより調製される。無菌の注射用溶液用の無菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥、フリーズドライおよび噴霧乾燥であり、これにより活性成分と任意の所望の追加成分の粉末が、あらかじめ無菌濾過したその溶液から得られる。注射用の調製物は、処理されて、アンプル、バッグ、ビン、シリンジまたはバイアルなどの容器に充填され、当該技術分野において公知の方法により無菌条件下で密封される。さらに、調製物は、キットの形態で包装し、販売してもよい。そうした製品には好ましくは、付随の組成物が障害に罹患しているまたは罹患しやすい被検体を処置するのに有用であることを示すラベルまたは添付文書が付いている。
【0136】
本明細書に記載する障害の処置のための、本発明の組成物の有効用量は、投与の手段、ターゲット部位、患者の生理状態、患者がヒトかそれとも動物か、投与される他の医薬品、および処置が予防かそれとも治療かを含む多様な因子によって異なる。処置投薬量は、安全性および有効性を最適化するため、当業者に知られた通常の方法を用いて調節してもよい。
【0137】
本発明の粒子は、腫瘍または組織の切除または除去のための外科的介入の前、その間またはその後に投与してもよい。
【0138】
一実施形態では、本方法は、疾患進行を遅延させるのに特に有用である。
【0139】
一実施形態では、本方法は、全生存期間のほか無増悪生存期間を含むヒトの生存期間を延長するのに特に有用である。
【0140】
一実施形態では、本方法は、癌のすべての徴候が処置に反応して消失する、治療による完全奏効を得るのに特に有用である。これは、必ずしも癌が治癒したことを意味しない。
【0141】
一実施形態では、本方法は、処置に反応して、1つまたは複数の腫瘍または病変のサイズが縮小するあるいは体内の癌の程度が軽くなる、治療による部分奏効を得るのに特に有用である。
【0142】
一実施形態では、癌は、前癌性または前腫瘍性である。
【0143】
一実施形態では、癌は、二次癌または転移である。二次癌は、任意の器官または組織、特に肺、肝臓、腎臓、膵臓、腸および脳などの比較的高い血行動態圧を有する器官または組織に位置してもよい。
【0144】
D.活性のアッセイ
本発明の粒子の活性は、細胞毒性、細胞増殖抑制作用、アポトーシス誘導、細胞形態、サイトカイン産生、シグナル伝達、細胞増殖および活性化状態、ならびにタンパク質発現および活性化を含む様々な細胞機能パラメーターを参照してインビトロで測定してもよい。さらに他の生物学的に適切なエンドポイントを検討してもよい。
【0145】
本発明のいくつかの特定の実施形態では、活性は、MTTアッセイまたはXTTアッセイ(細胞増殖);トリパンブルー排除アッセイ(細胞生存率);膜ホスホセリンの非対称、アネキシン5結合およびカスパーゼアッセイ(アポトーシス);ならびにサイトカイン産生(細胞機能)によってアッセイしてもよい。
【0146】
アッセイは、P2XRを発現する細胞株を利用してもよい。好ましくは高いコピー数または産生もしくは発現のP2XRを有する細胞株(PC3など、下記で考察される)および低いコピー数または産生もしくは発現のP2XRを有する細胞(COLO25など、下記で考察される)を利用する。
【0147】
一実施形態では、これらのアッセイは、粒子のコア上に配置するための可変ドメインの量を判定するのに特に有用であり得る。
【実施例
【0148】
実施例1:リポソーム形成
イムノリポソームの製造は、2つの主要部分、すなわちナノ粒子構築および抗体コンジュゲーションからなる。
【0149】
ナノ粒子構築:ナノ粒子レシピエントは、DOPC(Avanti Polar Lipids製)、Gem-Ole(カルバメート化学結合を介してオレイルコロルホマートをヒドロキシル保護ゲムシタビン塩基に反応させることにより合成、SOP-Syn001-002)およびマレイミド-スクシニル-PEG4000-オレエート(スクシニルPEG4000-オレエートをマレイミド-スクシニル-PEG4000-オレエートに変換することにより合成、SOP-Syn 003-005)である。43%DOPC、30%Gem Oleおよび27%マレイミド-スクシニル-PEG4000-オレエートをEtOHに溶解させ、回転蒸発により薄膜を生成させる。薄膜をさらに10mg/mLの濃度になるように1×PBSで水和する。水和したナノ粒子溶液を2分間音波処理し、次いで200nm膜に3回、100nm膜に6回通して、平均径50~100nmの平均サイズを有する半透明のナノ粒子溶液を得る。
【0150】
抗体コンジュゲーション:ナノ粒子溶液と混合する前にトラウト試薬により抗体を活性化する。コンジュゲートしたナノ粒子をL-システインでクエンチし、タンジェンシャルフロー濾過により精製する。次いでイムノリポソームをさらに100nm膜を通して3回押し出し、続いて200nm膜を通して無菌濾過する。本明細書に使用された抗体は、単一ドメイン抗体であった。単一ドメイン抗体は、配列番号4、5および6に示すCDR配列を含んでいた。さらに、可変ドメインは、配列番号7に示すアミノ酸配列を含んでいた。
【0151】
図1は、オレイル-ゲムシタビンコンジュゲートおよびリポソームへの形成を示す細胞傷害性ナノ粒子形成の模式図である。図2は、マレイミド基を介した抗体可変ドメインのリポソームへのコンジュゲーションを示す。図3は、リポソームのサイズ分布を示す。
【0152】
実施例2:細胞傷害性ナノ粒子の結合特異性
抗体のリポソームへのコンジュゲーションは、SDS PAGEゲル(Nupage 4~12% Bis trisゲル、MOPS緩衝液(1×))により証明された(図5を参照)。
【0153】
さらに本発明のリポソームを、P2XRのE200エピトープに結合するその能力について評価した。その結果(ELISAによる、図4に示す)から、ナノ粒子がE200エピトープに対して粒子親和性を有することが立証される。したがって、本発明のリポソームは、非機能的P2XRを発現する癌性細胞に選択的結合を行う。
【0154】
実施例3:4T1-luc2腫瘍を持つマウスにおける蛍光標識ナノ粒子の体内分布イメージング
親油性近赤外(NIR)蛍光色素DiR(ThermoFisher)を、裸のナノ粒子、HEL4(アイソタイプ)でコーティングしたナノ粒子および抗P2XRに結合するための可変ドメインでコーティングしたナノ粒子(P2X結合ドメインコーティングナノ粒子または「BIL03s-コーティング」)の脂質二重層に組み込んだ。雌Balb/cマウスに4T1-luc2マウス乳癌細胞を同所性(第4乳腺脂肪織)接種した。50μL用量のナノ粒子を試験0日目に静脈内注射し、近赤外(NIR)イメージングを処置後6日目、12日目、24日目、48日目および96日目に行った。終了時に、切除した肝臓、脾臓および腫瘍のNIRイメージングを行い、腫瘍組織について生物発光イメージングを行った。
【0155】
動物NIRイメージングおよびエキソビボ生物発光全体から、P2XR結合ドメイン(BIL03s)でコーティングしたナノ粒子の腫瘍における蓄積が対照ナノ粒子(裸の粒子またはHEL4コーティングのいずれ)よりも多いことが示された(図6および7を参照)。特に、図6は、細胞傷害性粒子の4T1腫瘍への選択的局在化を示す。腫瘍における、抗体コンジュゲート細胞傷害性粒子の蓄積は、非抗体コンジュゲート粒子よりかなり多い(図7および9)。特に、図9は、エキソビボ生物発光イメージングによって、抗体コーティングナノ粒子が切除腫瘍において裸のナノ粒子より高い蓄積を有したことを示す。
【0156】
図8は、ナノ粒子が選択的に局在することを示す(96時間時点での切除腫瘍の総放射効率(total radiant efficiency)平均+-SEM(p/s)/[AμW/cmA]))。ビヒクル対照(PBS;群1)、非コーティングナノ粒子(群2);Abコーティングナノ粒子(群3)およびHEL4コーティングナノ粒子(群4)を尾静脈からの静脈注射により試験0日目に50μL容量で1回投与した。
【0157】
実施例4:P2XRに結合するためのドメインにコンジュゲートしたゲムシタビンリポソームナノ粒子の有効性
本試験は、4T1マウス乳房腫瘍モデルにおいてP2X結合ドメインコーティングナノ粒子(すなわち、「BIL03sコーティング」)およびHEL4コーティングナノ粒子の、細胞傷害性薬物ゲムシタビンを腫瘍に送達する有効性を判定することを目的とした。
【0158】
ナノ粒子は、週3回静脈内投与した。ナノ粒子は、0.2mgのゲムシタビンあるいはPBS緩衝液(対照)のいずれかを含んでいた。
【0159】
腫瘍容積を試験期間にわたり測定した(図10を参照)。推定腫瘍容積が1000mmを超えたとき、マウスを屠殺した。
【0160】
図10は、4T1マウス乳房腫瘍を持つマウスに対する抗体コンジュゲートナノ粒子の有効性を示す。図11は、抗体コーティングナノ粒子の投与頻度の効果を示す。
【0161】
結果から、ゲムシタビンを含むP2X結合ドメインコーティングナノ粒子は、ゲムシタビンを含むHEL4コーティングナノ粒子と比較して大きな腫瘍抑制および生存期間の延長を実現することが示された(P=0.0456)。
【0162】
実施例5:投与レジメンの調査
図11は、腫瘍成長の阻害についてゲムシタビンを含むP2X結合ドメインコーティングナノ粒子の有効性をゲムシタビン単独と比較した試験の結果を示す。本試験は、0.3mgのゲムシタビン(「フリーのゲムシタビン」)または0.3mgのゲムシタビンの用量に相当するゲムシタビンを含むP2X結合ドメインコーティングナノ粒子の投与後の結果を比較した。
【0163】
2つの処置の有効性は、同程度であったことから、P2X結合ドメインコーティングナノ粒子の1つの利点は、P2X結合ドメインコーティングナノ粒子を使用する場合、投与の頻度を減少できることであることが示された。
【0164】
本コーティングナノ粒子は、持続放出および毒性の低減を実現することで、既存の癌処置剤に対して利点がある。
【0165】
インビボ試験の知見からも、投与されるゲムシタビンの量を増加させながら投与の頻度を減少させることで、市販されているゲムシタビンに対して、ゲムシタビンを含むP2X結合ドメインコーティングナノ粒子の、より大きな有効性が得られ得ることが示される。言い換えれば、処置の頻度を減少させても、現在のゲムシタビン投与レジメンと同等の有効性が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
【配列表】
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