(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220822BHJP
C22C 29/08 20060101ALN20220822BHJP
C22C 1/05 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23B27/14 A
C22C29/08
C22C1/05 G
(21)【出願番号】P 2019546800
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2018054798
(87)【国際公開番号】W WO2018158243
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-05
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オーケソン, レイフ
(72)【発明者】
【氏名】ステンバーリ, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】マデルード, カール-ユーアン
(72)【発明者】
【氏名】ノルグレン, スサン
(72)【発明者】
【氏名】フォッスベック ニロット, エリアス
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-204424(JP,A)
【文献】特表2002-520484(JP,A)
【文献】特開2003-205406(JP,A)
【文献】特開2005-126824(JP,A)
【文献】特開2013-129915(JP,A)
【文献】特表2015-503034(JP,A)
【文献】特表2019-516007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0224344(US,A1)
【文献】国際公開第2017/148885(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
C22C 29/08
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCと金属結合相とガンマ相とを含む超硬合金基材を含む切削工具であって、超硬合金が、
でNが80μm
2未満であるほどうまく分布されたガンマ相を有し、上式中、X(μm
2)は、ガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)が粒子面積(x軸)に対してプロットされている
相対累積プロットにおける累積相対
粒子面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)であり、且つ、
Yは補正因子
であり、
相対累積プロットと面積分率はEBSD分析から取得され、
と定義され
、前記aWC
av
は前記WC粒の平均面積である、異常WC粒のEBSD分析から得られる面積分率は0から0.03の間である、
切削工具。
【請求項2】
ガンマ相の量が3から25体積%の間である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
Nによって与えられるガンマ相分布が15から75μm
2の間である、請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
異常WC粒の面積分率が0から0.025の間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
金属結合相の量が2から20重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
金属結合相が4から12重量%の量のCoである、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
超硬合金基材が、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを含み、表面ゾーンの厚さが10から35μmの間である、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
ガンマ相が立方晶炭化物及び/又は炭窒化物の固溶体、(W,M)C又は(W,M)(C,N)であり、MがTi、Ta、Nb、Hf、Zr、Cr及びVのうちの1つ以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
超硬合金基材にコーティングが施されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ相を含有する超硬合金基材を含む切削工具に関し、該超硬合金は、均一に分布したガンマ相と、減少した量の異常WC粒とを有する。
【背景技術】
【0002】
ガンマ相を含有する超硬合金基材を含む切削工具は、当該技術分野では知られている。
【0003】
より耐摩耗性があり、したがってより長持ちする工具を入手しようとする取り組みが常に存在する。しかし、工具には予想工具寿命があること、すなわち、生産計画を容易にするためには工具が少なくとも一定時間持ちこたえると信じられることも重要である。切削作業を同時に実行している多数の機械の責任者が1名であることは普通である。
【0004】
各機械は、運転中か否かに応じて、スクリーン上に緑色又は赤色のライトを表示する。切削工具は、生産を最大化するために、破損する前に交換される。これは、予期せぬ中断時間を回避するためである。したがって、予想される最小工具寿命があることにより、生産を最大化することが容易になる。予期せぬ早期の工具破損は、予期せぬ中断時間につながり、計画された工具交換まで常に緑色のライトが点いていることには大きな利点がある。
【0005】
工具寿命がより予想可能であり、したがって早期の破損がより少ない切削工具を得る方法の一つは、亀裂の形成を減らすことと、大きな欠陥の数を減らすことで亀裂の伝播速度を減らすことである。
【0006】
本発明の目的の一つは、超硬合金の早期破損の量が低減された切削工具を得ることである。
【0007】
本発明の別の目的は、機械加工作業で使用されるとき、塑性変形に対する改善された耐性を有する切削工具を得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】累積相対面積(y軸)が粒子面積(x軸)に対してプロットされた累積プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、WC、金属結合相及びガンマ相を含む超硬合金基材を含む切削工具に関し、該超硬合金はうまく分布したガンマ相を有する。ガンマ相の分布は、
でNが80μm
2未満であるほどであり、
上式中、ガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)が粒子面積(x軸)に対してプロットされている累積プロット(0から1まで)において、X(μm
2)は累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)であり、
Yは補正因子
であり、相対累積プロットと面積分率はEBSD分析から取得される。
【0010】
さらに、超硬合金は異常WC粒の量が減少しているため、
と定義される、異常WC粒のEBSD分析から取得される面積分率は0から0.03の間である。
【0011】
本発明による超硬合金の特性評価は、電子線後方散乱回折(EBSD)を使用して実施される。EBSDは、ビームを指定した距離(ステップ幅)ずつ試料表面上で移動させ、試料が水平に対して70°傾いたときに生成される回折パターンから、各ステップにおける試料の位相及び結晶方位を測定するSEM法である。この情報は、試料の微細構造マップ(粒界、相及び粒の大きさ及び相対位置を測定するための結晶学的情報を使って試料を簡便に評価することができるもの)を作成するために使用することができる。
【0012】
超硬合金には、異常WC粒は可能な限り少ししか含まれていないようにするべきである。異常WC粒とは、通常、平均的なWC粒径より数倍大きなWC粒を意味する。本明細書における異常WC粒の量は、超硬合金材料のEBSD分析から測定される。
【0013】
異常WC粒の面積分率は、WC粒の総面積に対する、WC粒の平均面積aWC
avの10倍よりも大きいWC粒の面積分率として定義される。
【0014】
本発明によれば、異常粒の面積分率は、0から0.03、好ましくは0から0.025、より好ましくは0から0.02である。
【0015】
立方晶炭化物及び/又は炭窒化物の固溶体であるガンマ相は、立方晶炭化物及び/又は炭窒化物とWCから焼結中に形成され、(W,M)C又は(W,M)(C,N)(ここで、Mは、Ti、Ta、Nb、Hf、Zr、Cr及びVのうちの1つ以上である)と表すことができる。
【0016】
ガンマ相の量は、適切には3から25体積%、好ましくは5から17体積%である。これはさまざまな方法、例えば、基材の断面の光学顕微鏡(Light Optical Microscope)(LOM)画像又は走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真のいずれかの画像解析を行い、ガンマ相の平均分率を計算することによって測定可能である。超硬合金が表面ゾーンに勾配を伴う場合、本明細書で与えられるガンマ相の量はバルクで測定される。また、ガンマ相の量は、EBSD分析からも取得できる。
【0017】
本発明の一実施態様では、超硬合金の総量に対して、Nbの量は0.2から1重量%の間であり、Taの量は2から3重量%の間であり、Tiの量は1.6から2.1重量%の間である。
【0018】
ガンマ相の分布は、可能な限り均一でなければならない。ガンマ相のEBSD分析は、ガンマ相粒子で実施されており、すなわちガンマ相粒では実施されていない。EBSDデータを処理することにより、粒子又は粒を測定するかどうか選択できる。粒とは、本明細書では単結晶を意味するのに対し、粒子は、互いに直接接触する2つ以上の粒を含有する。
【0019】
本発明によれば、ガンマ相は、制御された粒子径でうまく分布している。
【0020】
ガンマ相の分布はEBSD分析によって測定され、下記式の値N(μm
2)によって与えられる。
【0021】
EBSD分析からのガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は、粒子面積(x軸)に対してプロットされる。
図1を参照されたい。累積プロットから、該累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)、すなわち値X(μm
2)が得られる。0.90に正確に一致する値がない場合、0.90の上下2つの値の平均がXとして使われる。
【0022】
値Yは、超硬合金中の様々な量のガンマ相に相関する補正因子である。Yは、立方晶炭化物と立方晶炭窒化物(ガンマ相)を炭化物と炭窒化物の合計量、すなわちWC(六方晶)とガンマ相(立方晶)の両方で割った面積分率の比率である。面積分率は、EBSDデータから取得される。
【0023】
本発明によれば、ガンマ相分布Nは、好適には80μm2未満、好ましくは15から75μm2、より好ましくは35から70μm2である。
【0024】
本発明の一実施態様では、超硬合金基材は、ガンマ相がない、結合相富化表面ゾーンを含む。
【0025】
表面ゾーンの厚さは、好適には10から35μmである。この厚さは、ガンマ相を含有するバルクとガンマ相がない表面ゾーンの境界と、基材の表面との間で測定される。SEM又はLOM画像では、この境界は非常に明確であるため、簡単に識別できる。表面ゾーンの厚さの測定は、刃先に近すぎないように、平らな表面、好ましくは逃げ面で行われる必要がある。それは、本明細書では、測定が刃先から少なくとも0.3mmのところで実施される必要があることを意味する。
【0026】
結合相富化(binder enriched)とは、本明細書では、表面ゾーンの結合相含有量がバルクの結合相含有量の少なくとも1.3倍であることを意味する。表面ゾーンの結合相含有量は、好適には表面ゾーンの総厚さ/全深さの半分で測定される。バルクとは、本明細書では、表面ゾーンではない領域と定義される。バルクに対して実施されるすべての測定は、表面ゾーンに近すぎない領域で実施される必要がある。それは、本明細書では、バルクの微細構造に対して実施される測定が表面から少なくとも200μmの深さで実施される必要があることを意味する。
【0027】
ガンマ相がないというのは、本明細書では、表面ゾーンがガンマ相粒子を全く含有しないか、又は非常に少量(すなわち0.5面積%未満)しか含有しないことを意味する。
【0028】
結合相は好適には、焼結体の2から20重量%、好ましくは焼結体の4から12重量%の量のFe、Co及びNiのうちの1つ以上、好ましくはCoから選択される。
【0029】
本発明の一実施態様では、Co含有量は、焼結体の4から9重量%の間、好ましくは4.5から8重量%の間である。
【0030】
本発明の一実施態様では、Crが超硬合金中に存在する場合、Crの一部は結合相に溶解している。
【0031】
該超硬合金は、超硬合金の分野で一般的な他の構成成分も含むことができる。リサイクル材(PRZ)を使用する場合、そのZr、V、Zn、Fe、Ni及びAlも少量存在し得る。
【0032】
本発明の一実施態様では、超硬合金の総量に対して、Nbの量は0.2から1重量%の間であり、Taの量は2から3重量%の間であり、Tiの量は1.6から2.1重量%の間であり、Co含有量は4.5から8重量%の間である。さらに、Nは80μm2未満であり、異常粒の面積分率は0から0.03である。
【0033】
本発明の一実施態様では、超硬合金インサートは、耐摩耗性CVD(化学蒸着)又はPVD(物理蒸着)コーティングが施されている。
【0034】
本発明のさらに別の実施態様では、超硬合金インサートは、耐摩耗性CVDコーティングが施されている。
【0035】
本発明のさらに別の実施態様では、超硬合金インサートは、複数の層、好適には少なくとも金属炭窒化物層及びAl2O3層、好ましくは少なくとも1つのTi(C,N)層及びα-Al2O3、並びに任意選択的に外側のTiN層を含む耐摩耗性CVDコーティングが施されている。
【0036】
該コーティングはまた、ブラッシング、ブラストなど、当該技術分野で知られている追加の処理に供され得る。
【0037】
切削工具とは、本明細書では、インサート、エンドミル又はドリルを意味する。
【0038】
本発明の一実施態様では、切削工具は、インサート、好ましくは旋削インサートである。
【0039】
本発明の一実施態様では、該超硬合金基材は、鋼、鋳鉄又はステンレス鋼の旋削のために使用される。
【実施例】
【0040】
実施例1
超硬合金基材は、エタノールと水(9重量%水)から成る粉砕液中で、(Ta,Nb)C、(Ti,W)C、Ti(C,N)と共にリサイクル超硬合金材料(PRZ、Znプロセスを使用してリサイクル)を最初に予備粉砕することにより製造された。粉体と粉砕液の比率は、4524g粉体/1L粉砕液であった。粉砕は、スラリーが粉砕チャンバーと保持タンクとの間を循環する水平撹拌ミルである、NetzschのLABSTARと呼ばれる撹拌ミルで実施された。1500rpmで、蓄積エネルギー0.36kWhまでスラリーを粉砕した。
【0041】
PRZ、すなわちリサイクルされた材料の量は、総粉体重量の40重量%である。表2に、使用したPRZの組成を重量%で示す。残りの原料は、表1の組成が得られるような量で加えられる。
【0042】
予備粉砕工程の後、WC、Co粉体及びPEG(ポリエチレングリコール)をスラリーに加え、10kg粉体/2.3L粉砕液になるようにスラリーに粉砕液を加え、その後1500rpmで蓄積エネルギー1.18kWhまで全ての粉体を一緒に粉砕した。PEGの量は、乾燥粉体の総重量の2重量%であった(PEGは、乾燥粉体の総重量に含まれない)。
【0043】
WC粉体は、高温浸炭WCである、Wolfram Bergbau und Hutten社のHTWC030と呼ばれる市販のWC粉体であった。ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)は、2.9μmであった。
【0044】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0045】
その後、最初にH2中で450℃まで脱脂し1350℃以下で減圧加熱することにより、このグリーン体を焼結した。その後、20mbar Arと20mbar COを流す保護雰囲気を導入し、その後1450℃の温度で1時間維持する。
【0046】
得られた超硬合金を、以下、本発明1とする。
【0047】
比較のために、超硬合金基材を、予備粉砕工程中の粉体重量が4425gであったこと、2回目の粉砕工程が蓄積エネルギー1.02kWhまで実施されたこと、及びASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)7.15μmを有する一般的な(高温浸炭されたものではない)WCが使用されたことの相違点を有するものの、本発明1と同じ方法で製造した。得られた超硬合金を、以下、比較例1とする。
【0048】
得られた材料である本発明1及び比較例1はいずれも、それぞれ厚さが19.8μmと22.3μmの、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを有する。
表1
表2
PRZ-粉体(最大100%)の残りは、微量のFe、Ni及びAlである。
【0049】
実施例2(微細構造)
焼結材料の微細構造もEBSDで分析した。60*100μmの4つの画像を使用した。
【0050】
バルク材料の断面を、ダイヤモンドスラリーを使用してダイヤモンドサイズ1μmまで機械研磨し、次に日立製E3500でイオン研磨ステップを行うことにより、電子後方散乱回折(EBSD)特性評価用にインサートを作製した。
【0051】
作製した試料を試料ホルダーに取り付け、走査型電子顕微鏡(SEM)に挿入した。試料を、EBSD検出器に向かって水平面に対し70°傾斜させた。特性評価に使用したSEMは、Zeiss Supra 55 VPで、240μmの対物絞りを使用し、「高電流」モードを適用し、高真空(HV)モードで動作させた。使用したEBSD検出器はOxford Instruments社製Nordlys Detectorであり、Oxford Instruments社製「AZtec」ソフトウェア バージョン3.1を使用して動作させた。EBSDデータの取得は、研磨された表面に集束電子ビームを当て、1000x600μmの測定ポイントに対して0.1μmのステップサイズを使用してEBSDデータを連続的に取得することによって行われた。この目的でEBSD分析を行う場合、EBSDデータの取得元の総面積が少なくとも12000μm2になるように画像の数を選択する必要がある。
【0052】
【0053】
基準相は、
WC(六方晶),59の反射体,Acta Crystallogr.,[ACCRA9],(1961),vol.14,p200-201
Co(立方晶),68の反射体,Z.Angew.Phys.,[ZAPHAX],(1967),vol.23,p245-249
Co(六方晶),50の反射体,Fiz.Met.Metalloved,[FMMTAK],(1968),vol.26,p140-143
立方晶炭化物相,TiC,77の反射体,J.Matter.Chem.[JMACEP],(2001),vol.11,p2335-2339の反射体であった。
【0054】
これらの超硬合金は、Co結合相とガンマ相の2つの立方晶相を含むため、相が正しく識別されるように、つまりインデックス化が正確であるように注意する必要がある。それにはいくつか方法があるが、その一つは、同じ試料上で、EDS又は後方散乱画像化を行うことであって、これは、相の化学組成に依存し、それによって結合相とガンマ相の違いが比較のために示される。
【0055】
EBSDデータは、AZtecで収集され、Oxford instruments社製HKL チャネル5(HKL Tango バージョン5.11.20201.0)で分析された。ノイズの低減は、大きなスパイクを除去し、ゼロ解外挿レベル5を実施することにより行われた。WC粒は、5度の臨界誤配向角で測定された。ガンマ相粒間の粒界が除去され、ガンマ相粒子のみが分析された。これは、チャネル5で、臨界誤配向を90度に設定することで行われた。4ピクセル(0.04μm2)未満の粒子は、全てノイズとして除去された。
【0056】
ガンマ相の分布はEBSD分析によって測定され、下記式の値N(μm
2)によって与えられる。
【0057】
EBSD分析からのガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は、粒子面積(x軸)に対してプロットされる。累積プロットから、累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)、すなわち値X(μm2)が得られる。0.90に正確に一致する値がない場合、0.90の上下2つの値の平均がXとして使われる。
【0058】
値Yは、超硬合金中の様々な量のガンマ相に相関する補正因子である。Yは、立方晶炭化物と立方晶炭窒化物(ガンマ相)を炭化物と炭窒化物の合計量、すなわちWC(六方晶)とガンマ相(立方晶)の両方で割った面積分率の比率である。面積分率は、EBSDデータから取得される。
【0059】
異常WC粒の面積分率は、WC粒の総面積に対する、WC粒の平均面積aWC
avの10倍よりも大きいWC粒の面積分率として定義される。
【0060】
結果を表3に示す。
【0061】
表3には、保磁力(Hc)及び重量比磁気飽和磁性(weight specific magnetic saturation magnetism)を示す。
【0062】
保磁力と重量比磁気飽和磁性は、Foerster Koerzimat CS1.096を使用して測定された。
表3
【0063】
実施例3
超硬合金基材は、エタノールと水(9重量%水)から成る粉砕液中で、(Ta,Nb)C、(Ti,W)C、Ti(C,N)及びPEG(ポリエチレングリコール)と共にリサイクル超硬合金材料(PRZ)を最初に予備粉砕することにより製造された。粉体と粉砕液の比率は、5481g粉体/1.35L粉砕液であった。粉砕は、スラリーが粉砕チャンバーと保持タンクとの間を循環する水平撹拌ミルである、NetzschのLABSTARと呼ばれる撹拌ミルで実施された。1500rpmで、蓄積エネルギー0.56kWhまでスラリーを粉砕した。
【0064】
PEGの量は、乾燥粉体の総重量の2重量%であった(PEGは、乾燥粉体の総重量に含まれない)。
【0065】
予備粉砕工程の後、WC粉体及びCo粉体をスラリーに加え、10kg粉体/2.3L粉砕液になるようにスラリーに粉砕液を加え、その後1150rpmで蓄積エネルギー1.15kWhまで全ての粉体を一緒に粉砕した。
【0066】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0067】
PRZ、すなわちリサイクルされた材料の量は、総粉体重量の50重量%であった。表5に、使用したPRZバッチ611の組成を重量%で示す。残りの原料は、表4の組成が得られるような量で加えられる。
【0068】
その後、最初にH2中で450℃まで脱脂し、1350℃以下で減圧加熱することにより、このグリーン体を焼結した。その後、20mbar Arと20mbar COを流す保護雰囲気を導入し、その後1450℃の温度で1時間維持する。
【0069】
WC粉体は、高温浸炭である、Wolfram Bergbau und Hutten社のHTWC040と呼ばれる市販のWC粉体であった。ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)は、3.9μmであった。
【0070】
この超硬合金基材を、本発明2とする。
【0071】
比較のために、基材(比較例2)を、最初に全ての原材料粉体を一般的なボールミルで14時間粉砕することによって、すなわち予備粉砕を行わずに、製造した。
【0072】
原料は本発明2と同じだが、PRZの別のバッチであるバッチ576(表5参照)を使用したことと、ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)4.80μmを有する従来の(高温浸炭されたものではない)WCを使用したことが相違点である。残りの原料は、表4の組成が得られるような量で加えられる。
【0073】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成し、続いてそれを本発明2と同じ方法で焼結した。この切削工具を比較例2とする。
【0074】
その後、本発明2及び比較例2の両方の基材に、従来の技術を使用して堆積されたTiCN層とα-Al2O3層とを含む同じCVDコーティングを施した。
【0075】
得られた基材、本発明2及び比較例2はいずれも、コーティングされたインサートで測定した場合にそれぞれ23μmと25μmの厚さを有する、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを有する。
表4
表5
PRZ-粉体(最大100%)の残りは、微量のFe、Ni及びAlである。
【0076】
実施例4(微細構造)
実施例3の焼結材料の微細構造は、実施例2と同じ方法で分析されたが、60*40μmの6つの画像が使用されたというのが相違点である。
【0077】
測定結果は以下の表6で見ることができる。
【0078】
表6には、保磁力(Hc)及び重量比磁気飽和磁性も記載している。
表6
【0079】
実施例5(実動例)
実施例3及び4の切削工具は、切削液を使用する、鋼、SS1312での長手方向の旋削作業でも試験された。以下のパラメーターが使用された。
Vc=80m/分f=0.15mm/r、I=1.0で増加
ap=1.5mm
【0080】
試験された刃先の数は、15であった。
工具寿命の判断基準は刃の破損とした。
【0081】
【0082】
結果から、(試験した15本の刃のうち)刃先の最初の破断までの時間が増加していることがわかる。15本全ての結果を示す
図2において、本発明2の場合多数の刃先が数秒以内の間隔で破断しているのに対し、比較例2の工具寿命はよりばらつきがあることが見て取れる。
【0083】
実施例6(実動例)
実施例3及び4の切削工具は、切削液を使用する、鋼、SS1672での断続旋削作業でも試験された。以下のパラメーターが使用された。
Vc=220m/分
f=0.3mm/r
ap=3mm
【0084】
試験された刃先の数は、3であった。刃先はそれぞれ7、8、9サイクル後に調べられ、摩耗は良好(すなわち、あまり摩耗していない)、刃先のわずかなフリッタリング(frittering)、そしてチッピングに分類された。
【0085】
結果を表8に示す。
表8
本発明2は、比較例2よりも耐チッピング性が向上していることが明らかに分かる。
【0086】
実施例7
エタノールと水(9重量%水)から成る粉砕液中で、(Ta,Nb)C、(Ti,W)C、Ti(C,N)と共にリサイクル超硬合金材料(PRZ)を最初に予備粉砕することにより、超硬合金基材が製造された。粉体と粉砕液の比率は、232kg粉体/80L粉砕液であった。粉砕は、粉砕チャンバーと保持タンクとの間をスラリーが循環する水平撹拌ミルであるNetzschのLMZ10と呼ばれる攪拌ミル内で行われた。650rpmで、蓄積エネルギー30kWhまでスラリーを粉砕した。
【0087】
PRZ、すなわちリサイクルされた材料の量は、総粉体重量の20重量%である。表10に、使用したPRZ(バッチno.828)の組成を重量%で示す。残りの原料は、表9の組成が得られるような量で加えられる。
【0088】
予備粉砕工程の後、WC、Co粉体及びPEG(ポリエチレングリコール)をスラリーに加え、800kg粉体/160L粉砕液になるようにスラリーに粉砕液を加え、その後650rpmで蓄積エネルギー90kWhまで全ての粉体を一緒に粉砕した。
【0089】
PEGの量は、乾燥粉体の総重量の2重量%であった(PEGは、乾燥粉体の総重量に含まれない)。
【0090】
WC粉体は、Wolfram Bergbau und Hutten社から購入したHTWC040と呼ばれる高温浸炭WCであった。ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)は、3.9μmであった。
【0091】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0092】
その後、最初にH2中で450℃まで脱脂し、1350℃以下で減圧加熱することにより、このグリーン体を焼結した。その後、20mbar Arと20mbar COを流す保護雰囲気を導入し、その後1450℃の温度で1時間維持する。
【0093】
得られた超硬合金を、以下、本発明3とする。
【0094】
比較のために、全ての原材料粉体を一般的なボールミルで11時間粉砕することによって(すなわち予備粉砕を行わずに)まず超硬合金基材を製造することによって、基材(比較例3)を製造した。
【0095】
原料は本発明3と同じだが、PRZの別のバッチの総粉体重量の15重量%を使用したこと(バッチ757、表10参照)と、ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)7.0μmを有する従来の(高温浸炭されたものではない)WCを使用したことが相違点である。
【0096】
他の原料の量は、表9の組成が達成されるようにした。
【0097】
得られた超硬合金を、以下、比較例3とする。
表9
表10
PRZ-粉体(最大100%)の残りは、微量のFe、Ni及びAlである。
【0098】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0099】
得られた材料である本発明3及び比較例3はいずれも、それぞれ厚さが22μmと22.3μmである、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを有する。
【0100】
実施例8(微細構造)
実施例7の焼結材料の微細構造は、実施例2と同じ方法で分析された。
【0101】
測定結果は以下の表11で見ることができる。
【0102】
表11には、保磁力(Hc)及び重量比磁気飽和磁性も記載している。
表11
【0103】
実施例9(実動例)
実施例7、本発明3及び比較例3に従って作製されたインサートを、従来の技術を使用して堆積されたTiCN層とα-Al
2O
3層とを含む同じCVDコーティングでコーティングした。コーティングされたインサートは、乾燥条件下で正面削り作業(facing operation)で試験された。被削材は鋼(SS2541)で、条件は以下の通りであった。
工具寿命の判断基準:メイン刃先でVb≧0.5mm
結果を表12に示す。
表12