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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】チタン基合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019560494
(86)(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 GB2018050210
(87)【国際公開番号】W WO2018138502
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】1701251.9
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】アラボルト マルティネス,エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】リード,ロジェ
(72)【発明者】
【氏名】ゴング,イーラン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-199955(JP,A)
【文献】特公昭48-037643(JP,B1)
【文献】特開2012-052219(JP,A)
【文献】特開平03-274238(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0039819(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106868341(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5~2.5質量%のアルミニウム、0.5~1.5質量%のバナジウム、0.0~3.0質量%の鉄、0.0~1.0質量%のクロム、0.0~3.0質量%のニッケル、1.0~4.0質量%のモリブデン、0.0~1.0質量%のケイ素、0.0~0.2質量%のホウ素、0.0~0.5質量%のスズ、0.0~0.5質量%のジルコニウム、0.0~1.0質量%のニオブ、0.0~1.0質量%のタンタル、0.0~0.5質量%のカルシウム、0.0~0.5質量%の炭素、0.0~0.5質量%のマンガンから成り、残部はチタン及び不可避的不純物から成り、鉄及びニッケルのうち、一方は少なくとも2.0質量%の量で存在し、他方は1.0質量%以下の量で存在する、チタン基合金組成物。
【請求項2】
少なくとも1.0質量%のアルミニウムを備える、請求項1に記載のチタン基合金組成物。
【請求項3】
最大で2.25質量アルミニウムを備える、請求項1または2に記載のチタン基合金組成物。
【請求項4】
0.5質量%以下の鉄を備える、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項5】
0.5質量%以下のクロム備える、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項6】
0.1質量%以上のケイ素備える、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項7】
0.05質量%以上のホウ素備える、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項8】
1.0質量%以上のバナジウムを備える、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項9】
Fe質量%+Ni質量%≦2.5%である、請求項1ないし8のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項10】
1.5質量%以上のモリブデン備える、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項11】
3.25質量%以下のモリブデンを備える、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項12】
前記チタン合金組成物の構造が、SPF温度において30~50体積%のβ相を有し、残部がα相である、請求項1ないし11のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項13】
Fe質量%+Ni質量%+Cr質量%≦3.5ある、請求項1ないし12のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項14】
Nb質量%+Mo質量%≦4.0である、請求項1ないし13のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項15】
Zr質量%+Sn質量%+Mo質量%≦4.0である、請求項1ないし14のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項16】
Cr質量%+Mn質量%≦0.5である、請求項1ないし15のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項17】
0.25質量%以上のニッケルを備える、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のチタン基合金組成物。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1つに記載の合金組成物で作られた、熱成形製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在の合金よりコストが低いシート状金属形成工程における超塑性成形性の向上と、冷間成形性の改善と、のために設計されたチタン基合金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超塑性を有し、超塑性成形部品の製造にしばしば用いられる、α+βチタン合金の典型的な組成物の例を、表1に列挙する。表1は、超塑性成形用途として商業的に用いられるチタン合金の、質量%における公称組成である。
【0003】
【表1】
【0004】
これらの合金は、温度、流動応力及びひずみ速度に関連して、比較的劣った超塑性及び冷間成形性と、比較的狭い成形性ウィンドウと、を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表1に記載の超塑性合金と比較して同等の超塑性成形性または表1に記載の超塑性合金より優れた超塑性成形性を有する、α+βTi合金を提供することを目的とする。原材料費が表1に記載の超塑性合金と同等または表1に記載の超塑性合金より低廉であり、機械加工性及び冷間成形性が表1に記載の超塑性合金と同等または表1に記載の超塑性合金より優れていることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば0.5~2.5質量%のアルミニウム、0.5~1.5質量%のバナジウム、0.0~3.0質量%の鉄、0.0~1.0質量%のクロム、0.0~3.0質量%のニッケル、1.0~4.0質量%のモリブデン、0.0~1.0質量%のケイ素、0.0~0.2質量%のホウ素、0.0~0.5質量%のスズ、0.0~0.5質量%のジルコニウム、0.0~1.0質量%のニオブ、0.0~1.0質量%のタンタル、0.0~0.5質量%のカルシウム、0.0~0.5質量%の炭素、0.0~0.5質量%のマンガンから成り、残部はチタン及び不可避的不純物から成り、鉄及びニッケルのうち、一方は少なくとも2.0質量%の量で存在し、他方は1.0質量%以下の量で存在する、チタン基合金組成物が提供される。この組成物によれば、コスト、密度及び使用温度における最適な機械的性能と、低応力超塑性成形性、低温超塑性成形性及び十分な微細構造安定性と、の間で、良好なバランスが得られる。
【0007】
一つの実施形態では、チタン基合金は、少なくとも1.0質量%のアルミニウムを備える。これにより、合金密度が低く保たれるとともに、拡散メリット指数が高まって合金の成形性及び強度が高められる。
【0008】
一つの実施形態では、チタン基合金組成物は、最大で2.25%、または2.25%未満、または2.0%以下のアルミニウムを備える。これは、合金の冷間成形性を向上させ、超塑性成形のための温度をさらに低下させるのに有利である。
【0009】
一つの実施形態では、チタン基合金は、0.5質量%以下の鉄を備える。これは、合金の安定性を向上させて、オメガ相の形成(いわゆる「ベータフレック(beta fleck)」)を回避するのに有利である。
【0010】
一つの実施形態では、チタン基合金は、0.5質量%以下のクロム、好ましくは0.4質量%以下のクロムを備える。これは、合金の安定性を向上させて、オメガ相の形成(いわゆる「ベータフレック(beta fleck)」)を回避するのに有利である。
【0011】
一つの実施形態では、チタン基合金組成物は、0.1質量%以上のケイ素、好ましくは0.2質量%以上のケイ素、より好ましくは0.5質量%以上のケイ素を備える。これは、強度及び耐クリープ性を高めるのに有利である。
【0012】
一つの実施形態では、チタン基合金組成物は、0.05質量%以上のホウ素、好ましくは0.1質量%以上のホウ素を備える。これは、合金の延性を高めるのに有利である。
【0013】
一つの実施形態では、チタン基合金組成物は、0.25質量%以上のニッケルを備える。これにより、拡散メリット指数が確実に、より高くなる。
【0014】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。特記しない限り、全ての量は質量%である。
【0015】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、チタン基合金組成物を決定したプロセスを示す流れ図である。
図2図2は、アルミニウム、バナジウム、クロム、鉄、ニッケル及びモリブデンのそれぞれについて、組成が、最適な超塑性成形のための温度及び密度にどのように影響するかを示す。
図3図3は、アルミニウム、バナジウム、クロム、鉄、ニッケル及びモリブデンのそれぞれについて、組成が、最適な超塑性成形のための温度及びコストにどのように影響するかを示す。
図4図4は、アルミニウム、バナジウム、クロム、鉄、ニッケル及びモリブデンの組成が、正規化された拡散性に対する超塑性成形のための最適な温度に与える影響を示す。
図5図5は、表1に記載の4つの市販の合金と比較した、図2~4から明らかな合金特性におけるトレードオフ及び本発明の合金におけるトレードオフを示す。
図6図6は、最適な超塑性形成温度に対する組成の変化の影響を示す。Fe及びNiを0に固定した。
図7図7は、最適な超塑性形成温度に対する組成の変化の影響を示す。Cr及びNiを0に固定した。
図8図8は、最適な超塑性形成温度に対する組成の変化の影響を示す。Cr及びFeを0に固定した。
図9図9は、合金システムにおける組成の関数としての密度の変化を示す。Fe及びNiを0に固定した。
図10図10は、合金システムにおける組成の関数としての密度の変化を示す。Cr及びNiを0に固定した。
図11図11は、合金システムにおける組成の関数としての密度の変化を示す。Cr及びFeを0に固定した。
図12図12は、コストに対する組成の影響を示す。Fe及びNiを0に固定した。
図13図13は、コストに対する組成の影響を示す。Cr及びNiを0に固定した。
図14図14は、コストに対する組成の影響を示す。Cr及びFeを0に固定した。
図15図15は、拡散性に対する組成の影響を示す。Fe及びNiを0に固定した。
図16図16は、拡散性に対する組成の影響を示す。Cr及びNiを0に固定した。
図17図17は、拡散性に対する組成の影響を示す。Cr及びFeを0に固定した。
図18図18は、最適な合金組成及び目標特性を見出すために、コンピュータソフトウェアで使用される制約を示す。
図19図19は、コスト、密度、正規化された拡散性及び安定性に対する、y軸上の最適な超塑性成形のための温度のグラフである。本発明における合金設計領域及び合金位置の全体にわたる変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来、チタン基合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、チタン基合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、すなわちもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0018】
チタン合金においては一般的に、機械的強度を向上させるために、アルミニウム(Al)がα安定剤として添加される。一方、Alを多量に添加すると、特に切削加工において、冷間加工性が低下する。また、Alを過度に添加すると、安定性の問題が生じる。すなわち、高温での長時間暴露後のα形成の再配列反応により、延性の低下及び応力腐食が生じる。
【0019】
一般的に、脆い金属間化合物を形成することなく機械的強度を向上させるために、バナジウム(V)がβ安定剤として添加される。Vにより、β相と共に固溶体が作られる。
【0020】
超塑性成形中の流動応力を低減し、ひずみ速度感受性を最大とするために、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びクロム(Cr)が、β安定化元素として添加される。これらの元素は、Vの拡散性よりも高い拡散性を有するため、Ti-6Al-4Vの拡散性を高めることができる。
【0021】
強度と耐クリープ性を高めるために、少量のシリコン(Si)が添加される。高温では、Siはα相に溶解し、ケイ化物として析出し、上昇(climb)および滑走(glide)からの移動性転位を固定する。ケイ素は、以下に説明する計算の一部ではないが、経験から、最大1.0%だが、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、最も好ましくは少なくとも0.5%のシリコンの添加が、強度と延性の向上に有益であり、したがって本発明の合金に含まれることが示されている。
【0022】
少量のホウ素(B)を添加することにより、粒界でのホウ素偏析による以前のβ粒界凝集(prior-β grain-boundary cohesion)の強化により延性が向上する。ホウ素は、以下に説明する計算の一部ではないが、経験から、最大0.2%だが、好ましくは0.1%までに制限して添加することが有益であり、したがって本発明の合金に含まれることが示されている。延性を向上するには、0.05%以上または0.1%以上の少量のホウ素が有益である。本発明者らは、スズ、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、カルシウム、炭素、マンガンなどの他の一般的に使用される合金元素の低レベルの影響をモデル化していなかった。
【0023】
ジルコニウムやスズなどの中性相の元素は、0.5%以下の量で添加できる。これらは、α-β相の比率を変更しない。ZrおよびSnの密度はMoの密度に近いため、密度を課された制約内に収めるために、以下の制約を導入してもよい(Zr質量%+Sn質量%+Mo質量%≦4.0質量%)。
【0024】
ニオブとタンタルは、チタン合金において同様の効果があり、それぞれ1%以下の量でβ安定剤として添加することができる。NbおよびTaは、合金の安定性に影響を与えず、Moに匹敵する密度および価格を有する。Nbおよび/またはTaは、Moの代替物として作用し得る。したがって、好ましくは、NbおよびTaの量は、以下の方法で制限される:Nb質量%+Ta質量%+Mo質量%≦4.0質量%。好ましくは、Nb質量%+Ta質量%≦1.0質量%。
【0025】
マンガンはβ共析安定剤であるため、Mnをさらに添加すると、SPF温度が低下するが、Cr、Ni、Feと同様に不要な相の形成が促進される。Crと非常に類似した密度とコストを有するため、MnでCrの量(最大0.5質量%)を置き換えることができる。したがって、好ましくは、Cr質量%+Mn質量%≦1.0質量%であり、より好ましくは、Cr質量%+Mn質量%≦0.5質量%である。
【0026】
カルシウムと炭素はそれぞれ最大0.5%のレベルで存在する可能性があり、このレベルで合金の特性を大きく変えるとは考えられていない。
【0027】
本明細書においては、チタン基合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0028】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、「合金設計」法を用いて調べた、質量%における合金設計領域を示す。
【0029】
【表2】
【0030】
設計プロセスは、合金設計領域を、完全な合金設計領域をカバーする異なる組成に離散化することを含む。たとえば、他の添加元素の量を一定にしたまま、異なる組成間で特定の各元素の量を0.01または0.001変化させる。したがって、合金設計領域内の特定の合金組成の巨大な要素(a huge member)が決定される。各合金組成について、特性が計算される。
【0031】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculate PHAse Diagram)と呼ばれることが多い。これらの計算は、新たな合金の最適な相構造が見いだされる温度(合金の融点の40%を超える温度及びα対β相の比が約0.6である温度)について行われる。
【0032】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。超塑性を利用することによって最大の成形性を必要とするチタン合金の場合、熱活性化変形が活性である温度でβ相の体積分立が30~50%の間にあるとき、強化領域が見られる。例えば、合金の融解温度の0.4倍である(0.4T/Tm)。これは、示差走査熱量測定によって、またはβ相がα相でなくマルテンサイトに変態するように温度から急冷することによって実験的に測定することができ、金属組織学的検査によって観察することができる。
【0033】
不適切な微細構造アーキテクチャに基づく特定の合金組成の排斥は、不安定な沈殿物を形成する感受性の推定からも行われる。現在の計算では、CALPHADモデリングを使用してα析出物の形成を予測している。さらに、「ベータフレック」と呼ばれる有害な偏析相を形成する合金の感受性は、モリブデンと同等の質量パーセントで計算される。
【0034】
モデルは、これらの設計基準を満たしていない特定の合金組成をすべて排斥し、クリープ温度(>0.4T/Tm)で30~50%の間のβの体積分率になるように計算された、設計空間内の特定の合金組成のみを維持する。これらの形態の経験は、不安定な偏析相「ベータフレック」を形成する傾向が低いと予想される。
【0035】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリットインデックスは、合金の所望の特性を示す式(後述)に従って計算される値である。メリット指数の例には、β拡散メリット指数(平均組成のみに基づく合金の超塑性成形性を表す)、超塑性成形温度メリット指数、密度、コスト、および拡散性が含まれる。
【0036】
上記段階の終了時には、熱力学的要件とすべてのメリットインデックスを満たした合金組成のみが残り、これが最適化された合金組成である。
【0037】
最初のメリット指数は、超塑性が最適となる温度、または、微細構造が40%のβ相と60%のα相で構成される温度である。提案された設計空間内の各単一組成の40%β相の温度を決定するために、平衡熱力学計算を実行した。この超塑性成形(SPF)温度が低いほど、成形に必要なエネルギーが少なく、損傷が少ない。たとえば、成形温度が低いほど、酸化による損傷が少ない。
【0038】
2番目のメリット指数は、β相の拡散性である。これは、超塑性変形を活性化するために必要な応力に強く関連する。βのより速い拡散性は、超塑性チタンの流動応力の減少に直接つながる。これは、拡散性がより速い拡散種によって以下の式のように制御されているため、β-Ti上のチタンよりもトレーサー拡散性が高い元素(例えば、Fe、Ni、Cr)をわずかな割合で添加することで達成される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、xは元素iの濃度である。Dは、表3に示すトレーサー拡散性である。形成抵抗メリット指数はこの拡散性に直接関連している。明確にするために、形成抵抗メリット指数は、βチタン上のVの拡散性の関数として記述されている(表3参照)。表3に、870℃におけるβ安定化元素の拡散性(D)を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
第3のメリット指数は、密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び5%の補正係数を用いて計算された。これは、より正確な予測を与えることが実際に示されているためである。ここで、ρは所与の元素の密度であり、xiは合金元素の原子分率である。
【0043】
【数2】
【0044】
第4のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率xiに、合金元素の現在(2015)の原材料コストcを掛けたものを用いた。
【0045】
【数3】
【0046】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成物による影響を受けない。
【0047】
5番目のメリット指数は、β相の安定性である。「ベータフレック」と呼ばれるω-相の形成を回避するために、非固溶β安定剤の量を最大値以下に抑える必要がある。この合計は、Ni、Fe、Crの質量%の合計として、以下のように明確に定義される。
【0048】
【数4】
【0049】
安定指数が3~3.5の値を超える場合、合金は合金の溶融および凝固時にω偏析相を形成しやすくなる。これは、使用条件下における延性の低下につながる。ただし、この指数は合金の成形抵抗に直接関係し、抵抗が低いほど、安定メリット指数は高くなる。最適な成形性と微細構造安定性のためには、この5番目のメリット指数は2~3の値の間が最適であると想定される。
【0050】
6番目のメリット指数は、アルミニウム含有量である。これは、合金の機械加工性、強度、安定性に直接関係している。アルミニウムの値が大きい(>7質量%)と、α相で脆性が発生する。中程度のアルミニウム含有量(3-6質量%)によって強度は良好となるが、機械加工性が困難となる。アルミニウムを含有させないことにより、冷間加工性は大幅に向上するが、強度は大幅に低下する。これにより、アルミニウムの最大含有量は2.5%となった。アルミニウム濃度を2.25%以下、2.25%未満、または2.0%以下に下げると、冷間成形性が向上し、超塑性成形の温度をさらに下げるのに役立つ。
【0051】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、同等のグレードの合金と同等以上の超塑性成形性、強度、延性の組み合わせを示す新しいチタン合金の組成を特定することであった。合金の密度、コスト、および処理も、新しい合金の設計において考慮されている。合金組成物で作られた熱成形製品は、好ましくは、粒径が10ミクロン未満、より好ましくは6または7ミクロン未満の等軸α-β微細構造を有する。
【0052】
市販の超塑性チタン合金の材料特性を、表4に列挙する。この材料特性は、ABD法を用いて求められた。これらの合金について列挙された、予測される特性との関連を踏まえ、新しい合金の設計が検討された。この方法を使用して、さまざまな特性をターゲットとする新しい合金組成を提案した。表5および本発明による公称組成を有するABD-SPTi合金の計算された材料特性も示されている。表4は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙された、一般的に用いられる4つのSPFTiと、表5に列挙された新しい合金ABD-SPTiの組成と、を用いて計算した結果である。表5は、提案された方法論を用いて得られたチタン合金の組成である。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
上記の方法を使用して、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、比較的低温及び低応力において、良好な冷間成形性かつ超塑性成形を達成することであった。合金のコストは、現在市販されているものと同等またはそれ以下であった。これらの特性は、密度及び安定メリット指数よりも重要である。
【0056】
上記の方法を使用して決定された、表1の商業的に使用されている合金の材料特性は、本発明に含まれる合金の特性とともに、表4に列挙されている。これにより、優れた冷間成形性を可能にする少量のアルミニウム、大幅に増加した拡散メリット指数(大幅に低い応力が超塑性成形に必要であることを意味する)、及び、大幅に低下した超塑性成形温度が示される。合金のコストは、市販の合金の大部分よりも低く、少なくとも最も安価な市販の合金に匹敵する。合金の密度は市販の合金の密度よりもわずかに大きく、安定メリット指数も高くなる。
【0057】
市販の合金よりもアルミニウムおよびバナジウムの量が少ないため、本発明の合金は、市販の合金よりも強度が低いと予想される場合もある。安定性が低いということは、合金がマルテンサイトを形成しやすいことも意味する。
【0058】
図1は、本発明の合金を設計するプロセスの流れ図である。最初のステップとして、設計領域が定義される。設計領域を表2に示す。次に、設計領域は、多くの異なる個々の合金組成に離散化され、これらの個々の合金組成のそれぞれについて、上記の熱力学計算が実行される。
【0059】
熱力学的計算と計算されたメリット指数に基づいて、インポート設計パラメーターに対する各合金元素の効果をプロットし得る。図2-4は、このようなプロットである。
【0060】
図2に、x軸に沿った合金密度及びy軸に沿った超塑性成形温度に対する、合金成分の影響を示す。これにより、一般に、合金の密度が増加すると、超塑性成形温度が低下することが示される。
【0061】
図3に、x軸に沿ったコスト及びy軸に沿った超塑性成形温度に対する合金組成の影響をプロットした。これは、コストと超塑性成形温度の間には、密度と超塑性成形温度の間のような強い相関関係がないことを示す。
【0062】
図4は、異なる組成において、y軸に沿った超塑性成形温度に対する正規化された拡散性を、x軸に沿って示す。これらの結果で印象的なのは、正規化された拡散性に対するニッケルの強い影響です。
【0063】
設計プロセスの次の段階は、合金に必要な特性を決定することであった。これを、図5を使用して説明する。図5では、図2-4の影響が、三角形の外側に互いにプロットされている。三角形の内側にプロットされているのは、表1の4つの市販合金の位置と、これらの合金における、コスト、成形性及び密度の観点からの相対的な性能である。また、本発明によって達成される特性のバランス、すなわち、市販の合金と比較した比較的低いコスト、市販の合金と同様の密度、及び市販の合金と比較して優れた成形性もプロットされている。
【0064】
図6-17は、他の元素の固定量が異なる場合の、x軸に沿ったアルミニウム含有量とy軸に沿ったバナジウム含有量の変動を伴う特定のメリット指数の変動を示すプロットである。言及されていない元素は、ゼロパーセントで存在する。
【0065】
図6-17のデータと、表4に示す、既存の市販合金の計算されたメリット指数と、に基づいて、本発明の合金における所望のメリット指数が考案された。これらを図18に絵で示す。
【0066】
組成によるメリット指数の最大の変動は、ニッケル含有量による正規化された拡散性の変動である(図4)。可能な限り高い拡散性を達成するためには、他のメリット指数を満たしながら、ニッケルをできるだけ多くすることが必要である。ニッケルの拡散性の強い影響は図4に見ることができ、図17にも示されている。また、図8からわかるように、ニッケル含有量を増やすと、超塑性成形温度を下げる(図8のグラフにおいて、左から右に行くにつれて超塑性成形温度が低下する)という有益な効果もある。したがって、ニッケルの最小レベルは、好ましくは0.25%以上に設定される。3.0以下の安定メリット指数の要件を満たすため(式4参照)、拡散メリット指数を劇的に増加させながら、ニッケルの量を3.0%までに制限する。ニッケル含有量は鉄に置き換えてもよい。これにより、正規化された拡散性が低下する代わりに(図16および17を参照)、コストと成形温度がさらに有利に減少するが(図13及び14、図7および8を参照)、拡散メリット指数は2以上に維持される。
【0067】
ニッケルと鉄のうちいずれか一方(両方ではない)が2.0%以上で存在することにより、拡散メリット指数が少なくとも2を満たすことが確実となる。ニッケルと鉄のうちもう一方は、微細構造安定性を維持するために、最大1.0%存在する。3.0以上の正規化された拡散性の最小値を満たすために、ニッケルの望ましい最小レベル(2.0%)が選択される(図17のグラフの中央の列を参照)。
【0068】
ニッケル含有量を3.0%までとすることにより、式4にも存在する鉄とクロムの低レベルを0.0%に設定して、可能な限り安定性を高めることができる。ニッケルの最低レベルの2.0%では、鉄とクロムのいずれかが最大1.0%存在する可能性があり、それにより鉄とクロムの量の上限が設定される。鉄とクロムの両方が存在する場合、それらは0.5%まで存在する可能性があり、それにより鉄とクロムの好ましい上限が設定される。鉄の含有量が最大3.0%の場合、式4にも含まれるニッケルとクロムの低レベルは、可能な限り安定性を高めるために0.0%に設定される。鉄の最低レベルの2.0%では、鉄とクロムのいずれかが最大1.0%存在する可能性があり、それにより鉄とクロムの量の上限が設定される。ニッケルとクロムの両方が存在する場合、それらは最大0.5%存在する可能性があり、それによりニッケルとクロムの好ましい上限が設定される。いずれにせよ、安定性を高めるために、クロムの好ましい上限は、0.5%以下、好ましくは0.4%以下である。
【0069】
図10と11からわかるように、高レベルの鉄とニッケルは一般に、合金の密度に有害である。図9-11からわかるように、アルミニウムは密度に最も強い影響を与える元素である。したがって、合金には、高レベルの鉄またはニッケルを補うために、できるだけ多くのアルミニウムが含まれている。
【0070】
しかしながら、アルミニウムは、本発明の合金で最適化されることを目的とする他のほとんどの特性にとって有害である。ニッケルの最大レベルが3.0%の場合、図11に示すように、アルミニウムの最小量が0.5%であれば、バナジウムの最大量が0.5%、モリブデンの最大量が4.0%(以下で説明)であっても、合金の密度は、4.6 g / cm3未満と大幅に制限される。ニッケルが鉄に置き換えられると、密度が低下する。したがって、アルミニウムの最小レベルは0.5%、好ましくは1.0%に設定される。これにより、密度がさらに低下する。
【0071】
モリブデンのレベルを4.0%超に増やすと、有害なことに、合金の密度とコストが増加するため、モリブデンの最大量は4.0%に設定される。ただし、モリブデンのレベルを上げると、安定性を低下させることなく(モリブデンは式4には現れない)、超塑性成形温度を下げるのに役立つ(図8の右側の列を参照)。一方、超塑性成形温度を下げるのに役立つ他の元素は、他の理由で制限されている。たとえば、鉄とクロムは式4によって制限され、バナジウムはコストによって制限される(図12~14を参照)。したがって、(アルミニウムの最大量を2.5%、バナジウムの最小量を0.5%(以下を参照)、及びニッケルの最小量を2.0%(上記)として)超塑性成形温度を実質的に725℃より低くするために、モリブデンの最小量を1.0%に設定する。レベルを上げると超塑性成形温度が低下するので、Moは少なくとも1.5%または2.5%の量で存在することが望ましい。最も好ましくは、安定した微細構造を維持しながら超塑性成形温度をさらに下げるために、Moは少なくとも2.75%で存在する。合金のコスト、拡散性、および密度を設計制約内に十分に収めるために、Moは3.25%未満の量で存在することが望ましい。
【0072】
バナジウムは超塑性成形温度を上げるのに有益であるが(図6~8を参照)、密度への影響に関しては実質的に中立である。バナジウムは、正規化された拡散性に対して有害である(図4および15~19を参照)。ただし、バナジウムが合金のコストに及ぼす影響は、バナジウムの量を1.5%までに制限する最大の要因ということである。バナジウムの量を1.5%までに制限することにより、合金のコストを5300以下に抑えることができる(図12-14を参照)。
【0073】
安定性(式4)に影響を与えずに、超塑性成形温度を改善する際に、バナジウムの効果から利益を得るために、バナジウムの最低レベルとして少なくとも0.5%が選択される。これは、モリブデンとニッケルが最低レベルで、アルミニウムが最高レベルであっても、実質的に最大725℃の超塑性変形温度が達成可能であることを意味する。合金の強度を高め、超塑性温度をさらに下げるために、Vは少なくとも1.0%の量で存在することが望ましい。
【0074】
アルミニウムは、冷間成形性、超塑性成形温度、および拡散性に悪影響を与えるため、制限されている。アルミニウム含有量を2.5%以下に制限することにより、図18のメリットインデックスを合金範囲の極値で達成できると同時に、市販の表1の合金のいずれよりも低い冷間成形性指数も達成できる。望ましくは、合金強度を提供し、合金の総密度を下げるのを助けるために、少なくとも1.0%の量でAlが存在する。
【0075】
これらの考慮事項に基づいて、合金の組成が図19に従って決定される。この表は、0.5~2.5%のアルミニウムの量が従来の合金よりもはるかに少ないことを示している。これは、表4に示すように、本発明の合金が良好な冷間成形性を有する点に特に現れている。
【0076】
0.5~1.5%のバナジウムの量も、表1の市販合金の量よりもはるかに少ない。これにより、合金のコストを低く抑えることができる。
【0077】
ニッケルの量が2.0~3.0%(比較的高い)の場合、鉄とクロムの量も比較的制限される。大量のニッケルは、非常に高い拡散メリット指数と低いSPF温度の実質的な原因である。良好な合金安定性を提供して脆性挙動のリスクを低減するために、NiおよびFeは2.5%以下の量で存在することが望ましい。Niは、その高い拡散性のためにFeよりも好ましいが、コストと密度が主な関心事である場合、Feを2.0~2.5質量%の量でNiに置き換えることができる。これにより、低いSPF温度が達成されるが、合金は依然として良好な微細構造安定性を提供する。
【0078】
モリブデンの許容量と、好ましくより高い最小レベルと、についても、表1の市販の合金と比較して高くなっている。多量のニッケルとモリブデンの組み合わせが、本発明の合金の超塑性成形温度が低い主な原因である。
【0079】
ケイ素とホウ素の量は、熱力学的計算から得られるのではなく、強度と耐クリープ性を高め、合金の延性を高めるという知識から添加される。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図11a
図11b
図12a
図12b
図13a
図13b
図14a
図14b
図15a
図15b
図16a
図16b
図17a
図17b
図18
図19a
図19b