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特許7127145船舶の係留施設に対する衝突の防止を支援するためのシステム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】船舶の係留施設に対する衝突の防止を支援するためのシステム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 43/18 20060101AFI20220822BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B63B43/18
B63B49/00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020551021
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037107
(87)【国際公開番号】W WO2020070841
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500370230
【氏名又は名称】株式会社日本海洋科学
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沓名 弘二
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-286694(JP,A)
【文献】特開2004-318380(JP,A)
【文献】米国特許第6734808(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 43/18
B63B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
係留施設に向かい航行する船舶の形状を示す形状データと、前記船舶の重量を示す重量データと、前記船舶の制動能力を示す制動能力データと、前記船舶と前記係留施設の距離を示す距離データと、前記船舶の速度を示す速度データを取得する取得手段と、
前記形状データと前記重量データと前記制動能力データと前記距離データと前記速度データを用いて、前記船舶が前記係留施設に衝突する危険度を特定する特定手段と
を備え、
前記取得手段は、前記船舶の制動を補助する補助船舶の制動能力を示す補助制動能力データを取得し、
前記特定手段は、前記補助制動能力データを用いて前記危険度を特定する
システム。
【請求項2】
前記取得手段は、前記船舶の喫水を示す喫水データを取得し、
前記特定手段は、前記喫水データを用いて前記危険度を特定する
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記取得手段は、経時変化する前記船舶の現在の位置を示す船舶位置データを継続的に取得し、
前記取得手段は、前記船舶位置データを用いて前記船舶の現在の速度を示す前記速度データと前記船舶と前記係留施設の現在の距離を示す前記距離データを継続的に生成することによって取得し、
前記特定手段は、現在の前記危険度を継続的に特定する
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記取得手段は、前記船舶の制動距離に影響を与える経時変化するパラメータの値を示すパラメータデータを継続的に取得し、
前記特定手段は、前記パラメータデータを用いて現在の前記危険度を継続的に特定する
請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記特定手段は、過去に特定した前記危険度に基づき将来の危険度を推定する
請求項又はに記載のシステム。
【請求項6】
前記特定手段が特定した前記危険度を表示する表示手段
を備える請求項1乃至のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記距離データは、仮想的な複数の前記船舶と前記係留施設の距離と、実際の前記船舶と前記係留施設の距離を示し、
前記速度データは、仮想的な複数の前記船舶の速度と、実際の前記船舶の速度を示し、
前記特定手段は、前記距離データと前記速度データが示す、仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々と、実際の距離と速度の組み合わせとに関し前記船舶が前記係留施設から当該距離の位置において当該速度で航行している場合の前記危険度を特定し、
前記表示手段は、前記船舶と前記係留施設の距離を示す軸と、前記船舶の速度を示す軸とを有し、前記仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々に関し前記特定手段が特定した前記危険度と、前記実際の距離と速度の組み合わせに関し前記特定手段が特定した前記危険度とを示すグラフを表示する
請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記特定手段が特定した前記危険度を用いて前記船舶を制動する制動システムを制御する制動制御手段
を備える請求項1乃至のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記制動制御手段は、前記特定手段が特定した前記危険度を用いて前記船舶の制動を補助する補助船舶の動作を制御する
請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記距離データは、仮想的な複数の前記船舶と前記係留施設の距離を示し、
前記速度データは、仮想的な複数の前記船舶の速度を示し、
前記特定手段は、前記距離データと前記速度データが示す、仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々に関し、前記船舶が前記係留施設から当該距離の位置において当該速度で航行している場合の前記危険度を特定し、特定した前記危険度に基づき、複数の距離の各々に関し、前記船舶と前記係留施設の距離が当該距離である場合に、前記船舶が前記係留施設に衝突する危険度が所定の値となる前記船舶の速度をガイド速度として特定する
請求項1乃至のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記速度データは、前記仮想的な複数の前記船舶の速度に加え、実際の前記船舶の速度を示し、
前記特定手段が特定した前記ガイド速度と前記速度データが示す実際の前記船舶の速度を表示する表示手段
を備える請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記特定手段が特定した前記ガイド速度を用いて前記船舶を制動する制動システムを制御する制動制御手段
を備える請求項10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
前記制動制御手段は、前記特定手段が特定した前記ガイド速度を用いて前記船舶の制動を補助する補助船舶の動作を制御する
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
コンピュータを、
請求項1乃至及び10のいずれか1項に記載のシステムが備える前記取得手段、前記特定手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁等の係留施設に衝突する船舶の衝突を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶が岸壁等の係留施設に係留されるために接近する際、操船者が船舶の速度を減速するタイミングを誤った等の理由により、船舶が係留施設に衝突してしまう、という事故が発生している。そのような事故は多大な経済的損失をもたらすため、防止される必要がある。
【0003】
そのため、係留施設に対する船舶の衝突を防止するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、複数のGPSユニットにより求めた船舶の位置を、予め求めてある離着桟する港湾の画像に重ねて表示するとともに、船舶が離着桟する岸壁又は桟橋と船舶との距離、及び検出した船舶の対地速度、船首方位を表示するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-137309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシステムによれば、操船者が係留施設に衝突しないように船舶の速度を減速するためのタイミングや減速の程度を判断するための根拠となる情報が操船者に提供される。従って、そのような情報が与えられない状況下で操船者が係留施設へ船舶を接近させる場合と比較し、船舶が係留施設に対し衝突する可能性が低減される。
【0006】
ただし、特許文献1に記載のシステムによる場合、当該システムから提供される情報に基づき、操船者は自らの経験等に基づき、船舶をいつどの程度、減速させるべきか、という点を判断しなければならない。操船者がその判断を誤ると、船舶が係留施設に衝突してしまう危険性が生じる。
【0007】
上記のような事情に鑑み、本発明は、係留施設に対する船舶の衝突を高い確率で防止することを可能とする手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、係留施設に向かい航行する船舶の形状を示す形状データと、前記船舶の重量を示す重量データと、前記船舶の制動能力を示す制動能力データと、前記船舶と前記係留施設の距離を示す距離データと、前記船舶の速度を示す速度データを取得する取得手段と、前記形状データと前記重量データと前記制動能力データと前記距離データと前記速度データを用いて、前記船舶が前記係留施設に衝突する危険度を特定する特定手段とを備えるシステムを、第1の態様として提案する。
【0009】
第1の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設からどの程度の距離においてどの程度の速度で航行すれば船舶が係留施設に衝突する危険度がどの程度高いか、が特定される。従って、例えば操船者は、係留施設に船舶を衝突させないために、係留施設に向かい航行する船舶の船速をどのタイミングでどのように減じればよいかを知ることができる。その結果、当該システムによれば、係留施設に対する船舶の衝突が高い確率で防止される。
【0010】
上記の第1の態様に係るシステムにおいて、前記取得手段は、前記船舶の喫水を示す喫水データを取得し、前記特定手段は、前記喫水データを用いて前記危険度を特定する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0011】
第2の態様に係るシステムによれば、船舶の喫水が考慮された上で、船舶が係留施設からどの程度の距離においてどの程度の速度で航行すれば船舶が係留施設に衝突する危険度がどの程度高いか、が特定される。
【0012】
上記の第1又は第2の態様に係るシステムにおいて、前記取得手段は、前記船舶の制動を補助する補助船舶の制動能力を示す補助制動能力データを取得し、前記特定手段は、前記補助制動能力データを用いて前記危険度を特定する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0013】
第3の態様に係るシステムによれば、利用可能な補助船舶の制動能力が考慮された上で、船舶が係留施設からどの程度の距離においてどの程度の速度で航行すれば船舶が係留施設に衝突する危険度がどの程度高いか、が特定される。
【0014】
上記の第1乃至第3のいずれかの態様に係るシステムにおいて、前記取得手段は、経時変化する前記船舶の現在の位置を示す船舶位置データを継続的に取得し、前記取得手段は、前記船舶位置データを用いて前記船舶の現在の速度を示す前記速度データと前記船舶と前記係留施設の現在の距離を示す前記距離データを継続的に生成することによって取得し、前記特定手段は、現在の前記危険度を継続的に特定する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0015】
第4の態様に係るシステムによれば、衛星測位システム等を用いて継続的に測定される船舶の位置に基づき、船舶が係留施設に衝突する危険度が継続的に特定されるため、例えば操船者は、現在の船舶の速度を減じるべきか否かを知ることができる。
【0016】
上記の第4の態様に係るシステムにおいて、前記取得手段は、前記船舶の制動距離に影響を与える経時変化するパラメータの値を示すパラメータデータを継続的に取得し、前記特定手段は、前記パラメータデータを用いて現在の前記危険度を継続的に特定する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0017】
第5の態様に係るシステムによれば、例えば風向、風速等の時々刻々と変化するパラメータの影響が考慮された上で、船舶が係留施設に衝突する危険度が継続的に特定される。
【0018】
上記の第4又は第5に係るシステムにおいて、前記特定手段は、過去に特定した前記危険度に基づき将来の危険度を推定する、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0019】
第6の態様に係るシステムによれば、船舶の速度の変化等に応じて、船舶が係留施設に衝突する危険度がどのように変化したかが考慮された上で、船舶が係留施設に衝突する危険度が継続的に特定される。
【0020】
上記の第1乃至第6のいずれかの態様に係るシステムにおいて、前記特定手段が特定した前記危険度を表示する表示手段を備える、という構成が第7の態様として採用されてもよい。
【0021】
第7の態様に係るシステムによれば、係留施設に船舶を衝突させないために、係留施設に向かい航行する船舶の船速をどのタイミングでどのように減じればよいかを判断するための情報が可視化される。
【0022】
上記の第7の態様に係るシステムにおいて、前記距離データは、仮想的な複数の前記船舶と前記係留施設の距離と、実際の前記船舶と前記係留施設の距離を示し、前記速度データは、仮想的な複数の前記船舶の速度と、実際の前記船舶の速度を示し、前記特定手段は、前記距離データと前記速度データが示す、仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々と、実際の距離と速度の組み合わせとに関し前記船舶が前記係留施設から当該距離の位置において当該速度で航行している場合の前記危険度を特定し、前記表示手段は、前記船舶と前記係留施設の距離を示す軸と、前記船舶の速度を示す軸とを有し、前記仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々に関し前記特定手段が特定した前記危険度と、前記実際の距離と速度の組み合わせに関し前記特定手段が特定した前記危険度とを示すグラフを表示する、という構成が第8の態様として採用されてもよい。
【0023】
第8の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設からどの程度の距離においてどの程度の速度で航行すれば船舶が係留施設に衝突する危険度がどの程度高いか、という情報がグラフで表示されるため、例えば操船者は、それらの情報を直感的に把握することができる。
【0024】
上記の第1乃至第8のいずれかの態様に係るシステムにおいて、前記特定手段が特定した前記危険度を用いて前記船舶を制動する制動システムを制御する制動制御手段を備える、という構成が第9の態様として採用されてもよい。
【0025】
第9の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設に衝突する危険度が許容範囲内に収まるように自動的に船舶の制動が制御されるため、例えば操船者が船舶の制動を制御する負担が軽減される。
【0026】
上記の第9の態様に係るシステムにおいて、前記制動制御手段は、前記特定手段が特定した前記危険度を用いて前記船舶の制動を補助する補助船舶の動作を制御する、という構成が第10の態様として採用されてもよい。
【0027】
第10の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設に衝突する危険度が許容範囲内に収まるように自動的に補助船舶の制動が制御されるため、例えば補助船舶の操船者が補助船舶の制動を制御する負担が軽減される。
【0028】
上記の第1乃至第6のいずれかの態様に係るシステムにおいて、前記距離データは、仮想的な複数の前記船舶と前記係留施設の距離を示し、前記速度データは、仮想的な複数の前記船舶の速度を示し、前記特定手段は、前記距離データと前記速度データが示す、仮想的な距離と速度の複数の組み合わせの各々に関し、前記船舶が前記係留施設から当該距離の位置において当該速度で航行している場合の前記危険度を特定し、特定した前記危険度に基づき、複数の距離の各々に関し、前記船舶と前記係留施設の距離が当該距離である場合に、前記船舶が前記係留施設に衝突する危険度が所定の値となる前記船舶の速度をガイド速度として特定する、という構成が第11の態様として採用されてもよい。
【0029】
第11の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設に衝突する危険度を十分に低く保つために、船舶が係留施設からどの程度の距離においてどの程度の速度で航行すべきか、が特定される。従って、例えば操船者は、係留施設に船舶を衝突させないために、係留施設に向かい航行する船舶の船速をどのタイミングでどのように減じればよいかを知ることができる。その結果、当該システムによれば、係留施設に対する船舶の衝突が高い確率で防止される。
【0030】
上記の第11の態様に係るシステムにおいて、前記速度データは、前記仮想的な複数の前記船舶の速度に加え、実際の前記船舶の速度を示し、前記特定手段が特定した前記ガイド速度と前記速度データが示す実際の前記船舶の速度を表示する表示手段を備える、という構成が第12の態様として採用されてもよい。
【0031】
第12の態様に係るシステムによれば、例えば操船者は、現在の船舶の速度を減じるべきか否かを容易に知ることができる。
【0032】
上記の第11又は12の態様に係るシステムにおいて、前記特定手段が特定した前記ガイド速度を用いて前記船舶を制動する制動システムを制御する制動制御手段を備える、という構成が第13の態様として採用されてもよい。
【0033】
第13の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設に衝突する危険度が許容範囲内に収まるように自動的に船舶の制動が制御されるため、例えば操船者が船舶の制動を制御する負担が軽減される。
【0034】
上記の第13の態様に係るシステムにおいて、前記制動制御手段は、前記特定手段が特定した前記ガイド速度を用いて前記船舶の制動を補助する補助船舶の動作を制御する、という構成が第14の態様として採用されてもよい。
【0035】
第14の態様に係るシステムによれば、船舶が係留施設に衝突する危険度が許容範囲内に収まるように自動的に補助船舶の制動が制御されるため、例えば補助船舶の操船者が補助船舶の制動を制御する負担が軽減される。
【0036】
また、本発明は、コンピュータを、上記の第1乃至第6及び第11のいずれかの態様に係るシステムが備える前記取得手段、前記特定手段として機能させるためのプログラムを第15の態様として提案する。
【0037】
第15の態様に係るプログラムによれば、コンピュータを用いて、第1乃至第6及び第11のいずれかの態様に係るシステムが実現される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、係留施設に対する船舶の衝突が高い確率で防止される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】一実施形態に係るシステムが船舶の操船室に配置された状態を示した図。
図2】一実施形態に係るシステムの実現に用いられるコンピュータの構成を示した図。
図3】一実施形態に係るシステムの機能構成を示した図。
図4】一実施形態に係るシステムが危険度を特定するために用いるデータを説明するための図。
図5】一実施形態に係るシステムが表示する現在の危険度を示す画像を例示した図。
図6】一変形例に係るシステムが表示するグラフ。
図7】一変形例に係るシステムが表示するグラフ。
図8】一変形例に係るシステムに入力されるデータに応じて表示されるグラフが変化する様子を示した図。
図9】一変形例に係るシステム1が船舶の操船室に配置された状態を示した図。
図10】一変形例に係るシステムの機能構成を示した図。
図11】一変形例に係るシステムが表示するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係るシステム1を説明する。図1は、システム1が係留施設9(岸壁、桟橋等)に向かい航行する船舶8の操船室に配置された状態を示した図である。本実施形態において、システム1はディスプレイ及びキーボード等が内蔵された1台のコンピュータがプログラムに従った処理を実行することにより実現される。
【0041】
船舶8には、GNSSユニット2及びGNSSユニット3が異なる位置に設置されている。GNSSユニット2及びGNSSユニット3はGNSS(Global Navigation Satellite System)の受信ユニットであり、衛星測位システムの人工衛星から送信される電波を受信して、受信した電波を用いて自装置の地球上における位置(緯度、経度)を測定する装置である。システム1は、有線又は無線によりGNSSユニット2及びGNSSユニット3の各々から、それらの装置が測定した位置を示す船舶位置データを継続的に受信する。
【0042】
船舶8におけるGNSSユニット2及びGNSSユニット3の設置位置は既知であり、システム1はGNSSユニット2から受信する船舶位置データと、GNSSユニット3から受信する船舶位置データに基づき、船舶8の地球上における位置と、船舶8の船首が向いている方角を特定することができる。
【0043】
船舶8には、さらに、風向及び風速を測定する風向風速計4が配置されている。システム1は、有線又は無線により風向風速計4から、風向風速計4が測定した風向及び風速を示す風向風速データを継続的に受信する。なお、風向風速計4により測定される風向及び風速は、船舶8の制動距離に影響を与える経時変化するパラメータの例である。また、風向風速データは、船舶8の制動距離に影響を与える経時変化するパラメータの値を示すパラメータデータの例である。
【0044】
図2は、システム1の実現に用いられるコンピュータ10の構成を示した図である。コンピュータ10はプログラムに従いデータ処理を行うプロセッサ101と、プログラムを含む各種データを記憶するメモリ102と、有線又は無線で外部の装置との間でデータ通信を行う通信インタフェース103と、液晶ディスプレイ等の表示装置104と、キーボード等のユーザの操作を受け付ける操作装置105を備える。
【0045】
図3は、システム1の機能構成を示した図である。コンピュータ10のプロセッサ101が、本実施形態に係るプログラムに従うデータ処理を行うと、図3に示した構成を備える装置として動作する。以下に、システム1の機能構成を説明する。
【0046】
取得部11は、主としてプロセッサ101の制御下で動作する通信インタフェース103により実現され、外部の装置から各種データを取得する。取得部11は、係留施設9の2次元形状と位置を示す係留施設データを取得する係留施設データ取得部100と、船舶8の3次元形状を示す形状データを取得する形状データ取得部110と、船舶8の重量を示す重量データ取得部111と、船舶8の制動能力を示す制動能力データを取得する制動能力データ取得部112と、タグボート等の船舶8の制動を補助する補助船舶の制動能力を示す補助制動能力データを取得する補助制動能力データ取得部113と、船舶8の喫水を示す喫水データを取得する喫水データ取得部114を備える。
【0047】
本実施形態では、船舶8の制動力は連続的に変更できず、最弱レベル(Dead Slow Astern)、弱レベル(Slow Astern)、強レベル(Half Astern)、最強レベル(Full Astern)の4つの中から選択されるものとする。制動能力データは、これらの4つのレベルに応じた制動力を示す。一方、補助船舶の制動力は連続的に変更できるものとする。また、補助船舶は複数利用可能である。従って、補助制動能力データは、利用可能な複数の補助船舶の各々の最大制動力を示す。
【0048】
係留施設データ取得部100、形状データ取得部110、重量データ取得部111、制動能力データ取得部112、補助制動能力データ取得部113及び喫水データ取得部114が取得するデータは、通常、船舶8が航行を開始する前に、例えば船舶8の乗組員等のユーザによりシステム1に入力されるデータであり、船舶8の航行中に変化しない。
【0049】
取得部11は、さらに、GNSSユニット2及びGNSSユニット3から船舶8の航行中に継続的に船舶位置データを取得する船舶位置データ取得部115と、船舶位置データ取得部115により取得された船舶位置データを用いて船舶8の現在の速度を示す速度データを継続的に生成する速度データ生成部116と、係留施設データ取得部100により取得された係留施設データと船舶位置データ取得部115により取得された船舶位置データを用いて船舶8と係留施設9の現在の距離を示す距離データを継続的に生成する距離データ生成部117と、船舶位置データ取得部115により取得された船舶位置データを用いて船舶8の航行方向を示す航行方向データを継続的に生成する航行方向データ生成部118と、風向風速計4から船舶8の航行中に継続的に風向風速データを取得するパラメータデータ取得部119を備える。
【0050】
速度データ生成部116、距離データ生成部117及び航行方向データ生成部118は、プロセッサ101により実現される。
【0051】
記憶部12は、プロセッサ101の制御下で動作するメモリ102により実現され、取得部11が取得又は生成した各種データを記憶するとともに、特定部13により特定された、船舶8が係留施設9に衝突する危険度を示す危険度データを記憶する。
【0052】
特定部13は、プロセッサ101により実現され、取得部11が取得し、記憶部12に記憶されている各種データを用いて、船舶8が係留施設9に衝突する危険度(以下、単に「危険度」という)を特定し、特定した危険度を示す危険度データを生成する。
【0053】
表示部14は、プロセッサ101の制御下で動作する表示装置104により実現され、特定部13が特定した危険度を表示する。
【0054】
図4は、特定部13が危険度を特定するために用いるデータを説明するための図である。特定部13は以下のデータを用いて危険度を特定する。
(a)係留施設9の2次元形状と位置を示す係留施設データ
(b)船舶8の3次元形状を示す形状データ
(c)船舶8の重量を示す重量データ
(d)船舶8の制動能力を示す制動能力データ
(e)補助船舶の制動能力を示す補助制動能力データ
(f)船舶8の喫水を示す喫水データ
(g)船舶8の現在の位置を示す船舶位置データ
(h)船舶8の現在の速度を示す速度データ
(i)船舶8と係留施設9の現在の距離を示す距離データ
(j)船舶8の航行方向を示す航行方向データ
(k)船舶8が置かれた環境下の風向と風速を示す風向風速データ
【0055】
係留施設9の2次元形状と位置(例えば、点Bで示される係留施設9の代表位置)は係留施設データにより特定される。船舶8の位置(例えば、点Pで示される船舶8の代表位置)は船舶位置データにより特定される。船舶8と係留施設9と距離(矢印Dの長さ)は距離データにより特定される。
【0056】
船舶8の現在の航行の方向(矢印V1の方向)は航行方向データにより特定され、航行の速度(矢印V1の長さ)は速度データにより特定される。船舶8の重量は重量データにより特定される。
【0057】
船舶8が受ける風の方向(矢印V2の方向)と速度(矢印V2の長さ)は風向風速データにより特定される。
【0058】
矢印V2で示される方向及び速度の風は、船舶8の水上に出ている部分にあたり、船舶8に対し矢印V3で示される推力を加える。特定部13は、形状データと喫水データにより特定される船舶8の水上に出ている部分の3次元形状と、風向風速データにより特定される風の方向及び速度を用いて、風により船舶8が受ける推力の方向(矢印V3の方向)及び強さ(矢印V3の長さ)を特定する。
【0059】
特定部13は、上記のように、係留施設9までの距離、現在の航行の速度及び方向、重量、風により受ける推力が特定された船舶8が、制動能力データにより特定される船舶8の制動能力と補助制動能力データにより特定される補助船舶の制動能力のいずれをどの程度用いれば係留施設9の手前で静止できるかを特定する。
【0060】
本実施形態において、危険度は「1」~「7」の自然数のいずれかで示されるものとする。危険度の値が示す内容は以下のとおりである。
(危険度「1」)補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の40%未満の距離で静止できる。
(危険度「2」)補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の40%以上70%未満の距離で静止できる。
(危険度「3」)補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の70%以上100%未満の距離で静止できる。
(危険度「4」)補助船舶一隻の制動力と船舶8の弱レベルの制動力を用いて、係留施設9の手前で静止できる。
(危険度「5」)補助船舶一隻の制動力と船舶8の強レベルの制動力を用いて、係留施設9の手前で静止できる。
(危険度「6」)補助船舶全隻の制動力と船舶8の最強レベルの制動力を用いて、係留施設9の手前で静止できる。
(危険度「7」)補助船舶全隻の制動力と船舶8の最強レベルの制動力を用いても、係留施設9の手前で静止できない。
【0061】
特定部13は、例えば、まず、船舶8の現在の危険度が「1」であるか否かを判定する。具体的には、特定部13は、船舶8を補助船舶の制動力は用いずに船舶8の最弱レベルの制動力を用いて船舶8を制動した場合に、船舶8が静止するまでに要する距離を算出する。
【0062】
船舶8が静止するまでに要する距離は、船舶8が水から受ける粘性抵抗により変化する。船舶8が水から受ける粘性抵抗は船舶8の水面下に没している部分が水を押しのける際に生じる抵抗であり、形状データと喫水データにより特定される船舶8の水上に出ている部分の3次元形状と、船舶8の航行の速度及び方向を用いて、既知の算出式に従い算出される。
【0063】
特定部13は、速度データにより特定される現在の船舶8の速度に関し粘性抵抗を算出し、単位時間(例えば1秒)経過後の船舶8の速度を算出し、その時点における船舶8の速度に関し粘性抵抗を算出し、という具合に、経時変化する船舶8の速度を順次、算出する。そして、特定部13は、船舶8の速度が0ノットに達するまでに船舶8が航行した距離を、各単位時間における速度と単位時間の積を総和することで算出する。
【0064】
特定部13は、上記のように算出した距離が係留施設9までの距離の40%未満であれば危険度が「1」であり、40%以上であれば危険度が「1」より高いと判定する。
【0065】
特定部13は、危険度が「1」より高いと判定した場合、船舶8の現在の危険度が「2」であるか否かを判定し、危険度が「2」より高いと判定した場合は、危険度が「3」であるか否かを判定し、という具合に、危険度が特定されるまで、より高い危険度に関し、危険度の内容に応じた判定を行う。その結果、特定部13は、船舶8の現在の危険度が「1」~「7」のいずれであるかを特定することができる。
【0066】
特定部13により特定された危険度を示す危険度データは、その時点における船舶8と係留施設9の距離を示す距離データと対応付けられて、記憶部12に記憶される。表示部14は、記憶部12に順次記憶される危険度データのうち最新の危険度データが示す危険度を表示する。図5は、表示部14が表示する現在の危険度を示す画像を例示した図である。
【0067】
例えば船舶8の操船者は、図5の画像が示す危険度を見て、船舶8の速度を減速すべきか否か、また、減速すべきであればどの程度、減速すべきか、を判断することができる。例えば、船舶8の操船者は、危険度が「1」又は「2」であれば船舶8の速度を上げ、危険度が「3」であれば船舶8の速度を現状で維持し、危険度が「4」~「7」であれば船舶8の速度を下げるように、船舶8の主機やスラスタの出力を調整したり、必要に応じて、補助船舶の操船者に対し船舶8を制動するように指示を行ったりする。
【0068】
操船者が図5の画像を十分に高い頻度で監視し、正しく船舶8の速度を調整すれば、危険度が「6」や「7」に達することはない。従って、船舶8は確実に係留施設9の手前で静止することができる。
【0069】
[変形例]
上述した実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で様々に変形することができる。以下にそれらの変形の例を示す。以下の変形例の2以上が組み合わされてもよい。
【0070】
(1)上述した実施形態において、特定部13は危険度を「1」~「7」の自然数のいずれかで離散的に示すものとしたが、特定部13が実質的に連続的に変化する数値で危険度を示してもよい。
【0071】
例えば、上述した実施形態においては、「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の40%未満の距離で静止できる。」という条件を満たす場合、危険度は一律に「1」とされる。これに代えて、例えば、以下のように細かく区分される危険度が特定部13により特定されてもよい。
【0072】
(危険度「0.1」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の4%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.2」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の4%以上8%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.3」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の8%以上12%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.4」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の12%以上16%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.5」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の16%以上20%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.6」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の20%以上24%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.7」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の24%以上28%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.8」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の28%以上32%未満の距離で静止できる。」
(危険度「0.9」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の32%以上36%未満の距離で静止できる。」
(危険度「1.0」)「補助船舶の制動力は用いず、船舶8の最弱レベルの制動力を用いて、係留施設9までの距離の36%以上40%未満の距離で静止できる。」
【0073】
特定部13が、上述した実施形態において危険度「2」~「7」のいずれかに区分されていた条件についても、危険度「1」に関し上述したように細かく区分された危険度を特定すれば、危険度は実質的に連続的に変化する数値で表現される。
【0074】
また、特定部13が、制動能力データが示す船舶8の最大の制動力に対し、船舶8が係留施設9に衝突せずに静止するために必要な船舶8の制動力の比率と、補助制動能力データが示す補助船舶の最大の制動力に対し、船舶8が係留施設9に衝突せずに静止するために必要な補助船舶の制動力の比率との、少なくとも一方に基づき、危険度を特定してもよい。
【0075】
以下の式1は、特定部13が危険度の特定に用いる式の一例である。
R=B/Bmax×0.7+C/Cmax×0.3・・・(式1)
【0076】
ただし、
R:危険度
max:船舶8の最大の制動力
B:船舶8が係留施設9に衝突せずに静止するために必要な船舶8の制動力
max:補助船舶の最大の制動力
C:船舶8が係留施設9に衝突せずに静止するために必要な補助船舶の制動力
であり、船舶8の制動力が優先的に用いられるものとする。
【0077】
特定部13が、例えば式1に従い特定する危険度は、実質的に連続的に変化する数値で表現される。
【0078】
(2)上述した実施形態において、表示部14は図5に例示したように、船舶8の現在の危険度のみを表示するものとした。表示部14が、船舶8の現在の危険度に加え、特定部13が過去に特定した危険度の変化を表示してもよい。また、特定部13が、過去に特定した危険度に基づき将来の危険度を推定し、表示部14が、船舶8の現在の危険度に加え、特定部13が推定した将来の危険度を表示してもよい。
【0079】
図6は、この変形例に係るシステム1の表示部14が表示するグラフの例である。図6のグラフの横軸は船舶8と係留施設9の距離を示し、縦軸は特定部13により特定又は推定された危険度を示す。
【0080】
図6のグラフのうち実線の部分は、特定部13が過去に特定した危険度の実績の経時変化を示す。一方、図6のグラフのうち破線の部分は、特定部13が過去に特定した危険度に基づき推定した将来の危険度の経時変化を示す。
【0081】
特定部13が過去に特定した危険度に基づき将来の危険度を推定する方法としては、例えば、現在用いられている船舶8の制動力と補助船舶の制動力が継続して用いられた場合の将来の危険度を推定する方法が一例として挙げられる。
【0082】
操船者等は、図6のグラフを見て、船舶8を係留施設9の手前で確実に静止させるために、現状を維持すべきか、より大きな制動力を用いて船舶8の速度を減じるべきか、その際、どの程度、用いる制動力を増加させるべきか、といった判断を正しく行うことができる。
【0083】
(3)表示部14が、図7に示す形式のグラフを表示する構成が採用されてもよい。図7のグラフの横軸は船舶と係留施設9の距離(以下、単に「距離」という)を示し、縦軸は船舶の速度(以下、単に「速度」という)を示す。
【0084】
図7のラインL1~L6は以下を示す。
(ラインL1)危険度「1」と「2」の境界線
(ラインL2)危険度「2」と「3」の境界線
(ラインL3)危険度「3」と「4」の境界線
(ラインL4)危険度「4」と「5」の境界線
(ラインL5)危険度「5」と「6」の境界線
(ラインL6)危険度「6」と「7」の境界線
【0085】
図7のラインSは、係留施設9の管理者から提示される基準となる距離と速度の関係を示す。図7のラインMは、船舶8の現在に至るまでの距離と速度の経時変化(実績)を示す。
【0086】
表示部14が図7に描くラインL1~L6は、特定部13が、仮想的な複数の様々な距離と速度の組み合わせ(図7のグラフ平面上の様々な点に応じた距離と速度の組み合わせ)に関し、その距離の位置において、その速度で船舶8が航行している場合の危険度を特定することにより決定された境界線である。
【0087】
船舶8が航行中、特定部13は時々刻々と変化する風向風速に応じて、仮想的な複数の様々な距離と速度の組み合わせに関する危険度の特定を継続的に繰り返し、ラインL1~L6を再決定する。従って、風向風速が変化すれば、表示部14が表示するグラフにおけるラインL1~L6の形状は変化する。
【0088】
また、船舶8が航行中、特定部13は時々刻々と変化する風向風速と、船舶8の現在の距離及び速度に応じて、船舶8の現在の危険度の特定を継続的に繰り返す。従って、船舶8の航行に伴い、表示部14が表示するグラフにおけるラインMは左下へと延びてゆく。
【0089】
この変形例に係るシステム1によれば、例えば操船者は、船舶8が航行中に、時々刻々と変化する風向風速に応じた現在の危険度の分布と、その分布における船舶8の現在の危険度と、過去から現在に至る船舶8の危険度の経時変化とを同時に直感的に知ることができる。そして、操船者は、例えばラインMがラインL3より上に出た場合、船舶8の速度を減速するように船舶8の主機やスラスタの出力を調整したり、必要に応じて、補助船舶の操船者に対し船舶8を制動するように指示を行ったりする。その際、操船者は、船舶8の現在の距離(横軸の位置)におけるラインL1~L6の傾きを見て、どの程度、船舶8を減速させる必要があるかを知ることができる。
【0090】
また、この変形例に係るシステム1によれば、操船者は、船舶8が係留施設9に向かう航行を開始する前に、安全に船舶8を係留施設9の手前で静止させるために必要な補助船舶の制動能力及び数を決定するための情報を得ることができる。
【0091】
操船者は、船舶8が係留施設9へ向かう時期の予報されている風向風速を示す風向風速データをシステム1に入力する。また、操船者は、調達可能な補助船舶のうち、調達の候補となる補助船舶の各々に関し制動能力を示す補助制動能力データをシステム1に入力する。システム1の表示部14には、操船者により入力されたデータが示す風向風速及び補助船舶の制動能力に応じたラインL1~L6が表示される。
【0092】
図8は、システム1に入力されるデータに応じて表示部14に表示されるグラフが変化する様子を示した図である。図8の左側のグラフは、風向風速データのみが入力された場合に表示部14が表示するグラフを例示している。図8の中央のグラフは、風向風速データに加え、調達可能な補助船舶のうちの1隻に関する補助制動能力データが入力された場合に表示部14が表示するグラフを例示している。図8の右側のグラフは、調達可能な補助船舶のうちの別の1隻に関する補助制動能力データが追加で入力された場合に表示部14が表示するグラフを例示している。
【0093】
操船者は、風向風速データを入力した後、ラインL1~L6の縦軸方向の間隔が十分に広く、船舶8の危険度を常にラインL3以下に維持することが困難でない、と判断されるグラフが表示されるまで、補助制動能力データを追加入力する。例えば、図8の中央のグラフにおけるラインL1~L6の縦軸方向の間隔は狭すぎるが、図8の右側のグラフにおけるラインL1~L6の縦軸方向の間隔は十分に広い場合、操船者は補助制動能力データを入力した2隻の補助船舶を調達する必要がある、と判断することができる。
【0094】
(4)システム1が、船舶8の航行中に特定部13が継続的に特定する危険度を用いて、船舶8を制動する制動システムを制御する制動制御手段を備えてもよい。また、システム1が、船舶8の航行中に特定部13が継続的に特定する危険度を用いて、補助船舶の動作を制御する制動制御手段を備えてもよい。
【0095】
図9は、この変形例に係るシステム1が船舶8の操船室に配置された状態を示した図である。
【0096】
この変形例に係るシステム1は、船舶8が備える制動システム81に対し制御信号を有線又は無線で送信する。また、この変形例に係るシステム1は、補助船舶7の動作を制御する動作制御システム71に対し制御信号を無線で送信する。
【0097】
図10は、この変形例に係るシステム1の機能構成を示した図である。制動制御部15は、特定部13により新たな危険度が特定され、その危険度を示す危険度データが記憶部12に記憶されると、記憶部12から最新の危険度データを読み出し、読み出した危険度データが示す危険度に応じて、制動システム81又は動作制御システム71に対する制御指示データを生成する。通信部16は、制動制御部15により生成された制御指示データを制動システム81又は動作制御システム71に送信する。なお、制動制御部15はプロセッサ101により実現される。また、通信部16は、プロセッサ101の制御下で動作する通信インタフェース103により実現される。
【0098】
制動制御部15は、例えば以下の規則に従い制御指示データを生成する。
(危険度が「1」~「3」の場合)制御指示データを生成しない。
(危険度が「4」の場合)弱レベルの制動力で船舶8を制動することを指示する制動システム81に対する制御指示データを生成する。
(危険度が「5」の場合)強レベルの制動力で船舶8を制動することを指示する制動システム81に対する制御指示データを生成する。また、補助船舶7の最大制動力に対し半分の大きさの制動力で船舶8を制動する動作を指示する動作制御システム71に対する制御指示データを生成する。
(危険度が「6」~「7」の場合)最強レベルの制動力で船舶8を制動することを指示する制動システム81に対する制御指示データを生成する。また、補助船舶7の最大制動力で船舶8を制動する動作を指示する動作制御システム71に対する制御指示データを生成する。
【0099】
なお、上述した規則は一例である。例えば、制動制御部15が、特定部13が過去に特定した危険度の変化に基づき、制御指示データにより制動システム81又は動作制御システム71に対し指示する制御の内容を決定してもよい。例えば、特定部13により所定回数連続して危険度が「4」と特定された場合、弱レベルではなく強レベルの制動力で船舶8を制動することを指示する制御指示データを生成する、といった規則が採用されてもよい。
【0100】
制動制御部15が制御指示データを生成した場合、それらの制御指示データは通信部16により制動システム81又は動作制御システム71に送信される。制動システム81は、システム1から制御指示データを受信すると、受信した制御指示データが示す指示に従い、船舶8の制動装置(主機、スラスタ等)を制御する。動作制御システム71は、システム1から制御指示データを受信すると、受信した制御指示データが示す指示に従い、補助船舶7の制動装置(スラスタ等)を制御する。
【0101】
この変形例に係るシステム1によれば、操船者が表示部14に表示される危険度を監視し船舶8の速度を調整する作業の負担が軽減される。
【0102】
(5)特定部13が、船舶8の係留施設9からの距離に応じた危険度が所定の値となる船舶8の速度をガイド速度として特定し、表示部14が、特定部13により特定されたガイド速度を表示してもよい。
【0103】
図11は、この変形例において表示部14が表示するグラフの例である。図11のグラフは、図11のラインL3とラインMを抜き出して表示したものである。図11のラインL3は、船舶8の係留施設9からの距離に応じたガイド速度を示すラインの一例である。
【0104】
操船者は、表示部14に表示される図11の形式のグラフを監視することで、船舶8の速度をいつ、どの程度、減速させればよいかを知ることができる。
【0105】
なお、図11の例でガイド速度を示すラインL3は、船舶8の係留施設9からの距離に応じた危険度が「3」と「4」の境界値となる場合の船舶8の速度を示すグラフである。ラインL3は、船舶8の係留施設9からの距離に応じたガイド速度を示すグラフの一例であって、例えば、ラインL2とラインL3の中間のライン(危険度「3」の領域の縦軸方向の中央を通るライン)が、船舶8の係留施設9からの距離に応じたガイド速度を示すグラフとして表示されてもよい。また、船舶8の係留施設9からの距離に応じたガイド速度を示すグラフとして、1本のラインが表示される代わりに、領域(すなわち2本のライン)が表示されてもよい。例えば、ラインL2とラインL3の間の領域が、船舶8の係留施設9からの距離に応じたガイド速度を示すグラフとして表示されてもよい。
【0106】
また、上述した変形例(4)のシステム1の制動制御部15が、危険度に代えてガイド速度を用いて、制動システム81及び動作制御システム71を制御する構成が採用されてもよい。この変形例において、制動制御部15は、例えば以下の規則に従い制御指示データを生成する。
(現在の速度がガイド速度以下である場合)制御指示データを生成しない。
(現在の速度がガイド速度を超えている場合)所定レベルの制動力で船舶8を制動することを指示する制動システム81に対する制御指示データと、所定レベルの制動力で船舶8を制動する動作を指示する動作制御システム71に対する制御指示データを生成する。
【0107】
(6)上述した実施形態において、特定部13は船舶の制動距離に影響を与える経時変化するパラメータである風向風速を危険度の特定に用いる。特定部13が用いるパラメータの種別は風向風速に限られない。例えば、特定部13が、風向風速に加え、潮向潮速を危険度の特定に用いてもよい。
【0108】
この場合、船舶8には、潮向潮速を測定する潮向潮速計が配置される。システム1は、船舶8の航行中に、潮向潮速計から継続的に、潮向潮速計が測定した潮向潮速を示す潮向潮速データを受信し、船舶8が水から受ける粘性抵抗の算出に用いる。
【0109】
なお、対水船速計が船舶8に設置されている場合、速度データが示す船舶8の対地船速と、対水船速計により測定される船舶8の対水船速の差から特定される潮向潮速が、危険度の特定に用いられてもよい。
【0110】
(7)上述した実施形態において、システム1は1つのコンピュータにより実現される。これに代えて、システム1が複数の装置により実現されてもよい。
【0111】
(8)船舶8は係留施設9の手前で静止した後、通常、主機が停止した状態で補助船舶に側方から押されて係留施設9に横付けされる。すなわち、船舶8が係留施設9に係留されるまでの航行は、船舶8が係留施設9に向かい船首方向に移動する過程(以下、「アプローチ」という)と、係留施設9の手前でいったん静止した船舶8が補助船舶に押されて右舷又は左舷の方向に移動する過程(以下、「バーシング」という)に区分される。
【0112】
上述した実施形態においてシステム1が特定する危険度は、アプローチにおける危険度である。システム1がバーシングにおいても危険度を特定し、特定した危険度を、例えば図7に示す形式で表示してもよい。
【0113】
バーシングにおいては、船舶8が備える制動能力のうち、主機の制動能力は利用されない。従って、船舶8がスラスタを備える場合、特定部13は、制動能力データが示す船舶8の制動能力のうち、スラスタの制動能力のみを用いて、危険度の特定を行う。また、船舶8がスラスタを備えない場合、特定部13は、制動能力データが示す船舶8の制動能力は用いずに危険度の特定を行う。
【0114】
また、バーシングにおいては、船舶8の移動方向がアプローチにおける場合と異なる。従って、特定部13は、バーシングにおいては、船舶8が水から受ける粘性抵抗の特定において、形状データが示す船舶8の3次元形状の移動の方向を右舷又は左舷の方向に変更して用いる。
【0115】
また、バーシングにおいては、船舶8と係留施設9の距離が近いため、表示部14は、図7のグラフを表示する際、横軸のスケールを拡大する。
【0116】
なお、システム1は、アプローチにおけるグラフとバーシングにおけるグラフの表示を切り替えを、例えば操船者等のシステム1に対する操作に応じて行う。また、システム1が、例えば、距離データが示す船舶8と係留施設9の距離が所定値以下となり、速度データが示す船舶8の速度が所定値以下となったことを検知して、表示するグラフを自動的に切り替えてもよい。
【0117】
(9)上述した実施形態において、システム1の重量データ取得部111は、ユーザによりシステム1に入力される重量データを取得するものとした。これに代えて、重量データ取得部111が、喫水データ取得部114により取得された喫水データが示す喫水から船舶8の重量を特定し、特定した重量を示す重量データを生成することによって重量データを取得してもよい。
【0118】
(10)上述した実施形態においては、システム1は、一般的なコンピュータに、プログラムに従った処理を実行させることにより実現される構成が採用されている。これに代えて、システム1が、いわゆる専用装置として構成されてもよい。
【0119】
本発明は、システム1、コンピュータをシステム1として機能させるためのプログラム、当該プログラムを持続的に記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体、システム1が実行する処理の方法、の各々として把握される。
【符号の説明】
【0120】
1…システム、2…GNSSユニット、3…GNSSユニット、4…風向風速計、7…補助船舶、8…船舶、9…係留施設、10…コンピュータ、11…取得部、12…記憶部、13…特定部、14…表示部、15…制動制御部、16…通信部、71…動作制御システム、81…制動システム、101…プロセッサ、102…メモリ、103…通信インタフェース、104…表示装置、105…操作装置、100…係留施設データ取得部、110…形状データ取得部、111…重量データ取得部、112…制動能力データ取得部、113…補助制動能力データ取得部、114…喫水データ取得部、115…船舶位置データ取得部、116…速度データ生成部、117…距離データ生成部、118…航行方向データ生成部、119…パラメータデータ取得部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11