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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】トロコイド表示機構
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/04 20060101AFI20220822BHJP
   G04B 19/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
G04B19/04 Z
G04B19/02 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020570516
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 IB2019055105
(87)【国際公開番号】W WO2019244035
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】00768/18
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】520110814
【氏名又は名称】マニュファクチュール・ドルロジュリ・オーデマ・ピゲ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】レ-メルメ・ジル
(72)【発明者】
【氏名】コルニベ・シルヴァン
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5280461(US,A)
【文献】特開2008-196884(JP,A)
【文献】特開昭52-117162(JP,A)
【文献】独国実用新案第29903950(DE,U1)
【文献】欧州特許出願公開第2993532(EP,A2)
【文献】特開2015-7540(JP,A)
【文献】スイス国特許発明第702133(CH,B5)
【文献】独国実用新案第29905074(DE,U1)
【文献】スイス国特許発明第692257(CH,A5)
【文献】特表2014-519613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
G04C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計のムーブメントによって表示軸線について回転駆動されることが意図されている移動体と
移動体上で、表示軸線平行に遊星軸線の周りに旋回され、表示軸線らゼロでない第1離でずらされている、遊星と
表示領域と
星に固定されていて、指示部の表示領域に対する位置が情報を提供する指示部と、
径を持ち、表示軸線中心があり、運動学的に遊星に結合されている冠
を備える、時計に情報を表示する機構において、
表示指示部が、遊星軸線から、第1離以上の第2離に配置されていることを特徴とする、時計に情報を表示する機構。
【請求項2】
第2離は第1距離と前記半径との和より長い、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項3】
移動体は、前記表示領域を基準にして反時計方向に旋回する、請求項に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項4】
前記表示領域に対して固定されている、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項5】
冠は前記ムーブメントによって表示軸線周りに回転駆動されることが意図されている、請求項に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項6】
表示される前記情報がパワーリザーブである、請求項5に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項7】
冠は、遊星と噛み合う内側歯を備える、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項8】
冠は、移動体に搭載されている反転ピニオンを介して遊星と間接的に噛み合う外側歯を備える、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項9】
1表示周期の間、遊星は移動体を基準にしてn+1回転を実施する一方、移動体は前記表示領域を基準にして反対方向にn回転を実施する、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項10】
指示部は、遊星に搭載されている針の端部である、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項11】
第1離は第2離に等しい、請求項1に記載の時計に情報を表示する機構。
【請求項12】
請求項1に記載の、時計に情報を表示する機構を備える、レトログラード表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に時計用のトロコイド表示機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計技術において、移動装置が非円形の閉じた軌道に沿って移動可能となっている表示機構のいくつかの例が知られている。これらの表示装置は、新規で独創的な形態の表示を提供したい場合、細長い文字板の形態に追従するようにしたい場合、あるいは、表示の容易な区別が可能になる特別な主張を表示に与えたい場合に、求められる。
【0003】
特許文献1(EP2993532)には、例えば、回転軸について回転する針が記載されている。この針は、旋回腕部と差動歯車からなる機構によって駆動される、時計の中心について楕円軌道をたどる移動体に取り付けられている。この針は、時計の中心に常に位置合わせされている。
【0004】
特許文献2(CH708264)では、多関節レバーからなる機構によって運動が得られるという別の解決策を提案している。特許文献3(CH702133)では、遊星歯車列を有する遊星系に基づいて、同様の問題の解決策を提案している。他の実施形態、例えば特許文献4(DE29905074)は、自由形状の溝の中で摺動する可動要素を使用する。
【0005】
特許文献4(DE29903950)は、表示器が冠内を転がる歯車の面上の点であり、トロコイド軌道、内トロコイド軌道又は外トロコイド軌道を生成する、表示機構を提案している。
【0006】
針の非円形軌道の生成を可能にする既知のシステムは、しばしば規模が大きく複雑であるか、表示が文字板の周縁部で実施不能であるかの少なくとも一方で、情報の読み取りを困難にし、不正確にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第2993532号明細書
【文献】スイス国特許発明第708264号明細書
【文献】スイス国特許発明第702133号明細書
【文献】西独国実用新案公開第29905074号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、公知の装置の制限から解放された内トロコイド又は外トロコイド表示部を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、この目的は、主請求項の主題によって達成され、特に、時計のための情報を表示するための機構によって、達成される。この機構は、
表示軸について時計のムーブメントによって回転されることを意図した移動体と、
表示軸に平行で、表示軸からのゼロでない距離d1で移動体上に回転する遊星と、
表示領域と、
遊星に取り付けられていて、表示領域に対する相対的な位置が、前記情報を提供する指示部と、
表示軸線上に中心があり、遊星と運動学的に結合されている冠と、
を備える。新規には、表示指示部は、遊星軸線から距離d2に配置されていて、距離d2は距離d1以上である。
【0010】
換言すると、移動体は、指示部とは逆方向に旋回する。情報が時計回りに表示される従来のものでは、移動体はしたがって反時計回りに旋回する。本発明は、先行技術と比較して、指示部の移動距離を長くすることで、表示領域の周縁部に情報を表示可能であるため、情報の読み取りが容易になり、精度が向上するという利点がある。代替的に、所与の表示サイズに対して、本発明は、より小型の駆動機構の提案を可能にする。
【0011】
有利な一実施形態によると、距離d2は距離d1+rよりも長く、これにより、指示部の軌道を、冠が画定する円の完全に外側に得られる。
【0012】
従属請求項の対象である本発明の他の利点は、明細書を読むと明らかになるであろう。
【0013】
本発明の実施例は、添付の図によって図示された説明に示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明による表示部の実施形態を文字板側から見た図である。
図2図2は、図1の機構を板部側から見た図である。
図3a図3aは、12時の位置における本発明の表示機構を示す。
図3b図3bは、2時の位置における本発明の表示機構を示す。
図3c図3cは、6時の位置における本発明の表示機構を示す。
図4図4は、本発明の表示機構を組み込んだ時計の文字板を示す。
図5図5は、指標部によって記述された軌道が4次の周期的対称性を持つ非円形曲線である、変形例を模式的に示す。
図6図6は、指標部によって記述された軌道が5次の周期的対称性を持つ非円形曲線である、変形例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図1から図4を参照して、表示機構は、時計機構の動きによって回転駆動される移動体10から構成されている。図示の例では、この駆動は、移動体10に取り付けられたピニオン13によって得られ、時計ムーブメントの図示しない歯車部と協働するが、他の駆動手段も可能である。
【0016】
移動体10は、後述するように、表示部が作られる楕円体の中心軸である表示軸線17を中心に旋回する。移動体10は、以下に見られるように、表示部が作られる楕円の中心軸である表示軸線17の周りを旋回可能な遊星歯車20が固定される偏心軸線又は支承部を備えている。遊星歯車20には針51が固定的に付いている。針51の先端は、表示領域80に対する相対的な位置が表示すべき情報を提供する指示部50をなしている。図示の例では、表示領域80は時計の文字板である。文字板には、表示領域80を基準にして指示部50の位置をより簡単かつ正確に決定するための指標83が設けられている。
【0017】
円い冠30は、表示軸線17と同心に配置され、遊星20と協働する。好ましい一態様では、冠30は固定されていて、この冠の減速率は、冠30の歯数が遊星20の歯数の2倍であるという点で1÷2であり、よって、移動体10が表示領域に対して一方向に所与の角度で回転するとき、遊星20は、移動体10に対して相対的に、反対方向に2倍の角度で回転する。
【0018】
これらの2つの反対の回転の結果、遊星20は、表示領域80に対して、移動体10の回転と等しい角度と反対の角度で回転する。表示部によって記述される軌道は、表示部軸と遊星軸に対する相対的な位置に依存する。本発明の特定の側面によると、表示器と遊星軸線27との間の距離d2は、表示軸線17と遊星軸線27との間の距離d1よりも大きいか、又は等しい。指示部50のためのそれら設定の結果は、したがって、移動体10とは逆方向の楕円軌道となる。
【0019】
図示例のように、距離d2が、d1と冠30の半径rとの和よりも大きいならば、指示部50によって記述される軌道は、冠30の外側に完全に存在する。
【0020】
図示例では、機構は、時、分、又は秒といった時間情報の表示を可能にする。図3Aから図3Cは、機構を明らかにするべく文字板の一部をもって、表示部の3つの表示位置を示す。図3Aでは、遊星軸線27は6時の位置にあり、指示部50は12時の位置を示している。図3Bでは、2時の表示部の位置を示す。移動体10は反時計回りに60°回転され、針は移動体10に対して時計回りに120°回転された状態である。この結果は、針の基の位置から右上に向かう反時計方向の円を描くことを伴って、2時を示す針に期待されるように、指示部50の時計回りの60°の回転である。
【0021】
図3Cは、6時の位置を示す。移動体10は、文字板に対して反時計回りに半回転し、針が文字板に対して時計回りに半回転している。
【0022】
図4は、本発明による腕時計の文字板の可能な一実施態様を示す。有利には、円形のカバー87が移動体10に固定されていて、針51の軸を通過させるための遊星軸線27と平行な穴部を有している。カバー87は、文字板の開口部の内側であって、文字板と同じ高さに配置されている。カバー87は、遊星歯車20と冠30とを隠すために使用され、文字板の中央領域に針の基部が「動き回る」印象を与えるために使用される。
【0023】
指示部50は、長半軸a=d2+d7及び短半軸b=d2-d1を有する楕円を記述することに留意されたい。
【0024】
また、本発明は、遊星歯車が針を駆動する場合に限定されるものではない。遊星20自体が可視の特徴点を有する、あるいは、遊星が、特徴点又は任意の指示器や表示手段を持つ移動体を駆動するような、さまざまな変形もまた、着想可能であろう。
【0025】
本発明の枠組みの中で、冠30と歯車20との間の伝達比を1÷2とは異なるものを選択することにより、他の非円形曲線を得てもよい。より一般的な曲線の級を実際のところ生成可能であり、ここでは冠30と歯車20との間の伝達比1÷2に対応する楕円は特別なケースに過ぎない。図5は、冠30と遊星20との間の減速比が3÷4(簡略化のため、基本的な円のみを示す)の場合の例を示す。遊星20は、次数4の周期的対称性を有する曲線を記述した指示部50を有し、4つの実質的に直線の辺と丸みを帯びた角とを有する。1表示周期の間、指示部50は、歯車20及び歯車30の寸法に対する距離d2を変化させることによってその形状を変更可能な軌道100を記述する。伸長は、より丸みを帯びた軌道をもたらす。好ましくは、距離d2は、曲線100が冠30の基本円の完全に外側に位置するように選択されるが、これは本発明の必須の特徴ではない。
【0026】
全体として、指示部50が、1表示周期の間に、単一ループとn+1個の頂点とを備える曲線を記述できる機構は、移動体10が表示領域を基準にして反対方向にn回転を行うときに、遊星20が移動体10を基準にして反対方向にn+1回転を実施するときに得られる。これは、冠30が固定されている場合、遊星歯車20と冠との間のn/(n+1)の比に対応する。n=1は、図1から図3に示された場合であり、楕円軌道を与える。n=2は、2/3の比と三角形軌道を与えるであろう。n=3は、図5の特定の場合で、移動体10は、遊星20が移動体10について4回転するとき、軸線17について3回転を記述する。
【0027】
冠30と遊星20のサイズの間の異なる比率を選択することで、他の軌道が生成可能であることも理解されるだろう。比率4÷5、5÷6は、五角形、六角形などの、最も多様な文字板形態に適合され得る軌道を生成する。
【0028】
減速率は、非連続の整数で表してもよい。この場合、指示部50は、1表示周期中に表示軸線17を中心に複数回の回転を行い、軌道100は、複数の交差するループを示す。指示部の回転数は、移動体10に対する遊星の相対的な回転数と、表示部に対する移動体10の相対的な回転数との差に相当する。
【0029】
図6の例では、比率が3÷5である本発明の変形例を示す。1表示周期の間、遊星20は、移動体10を基準にして5回転し、一方、後者は軸線17を中心に3回回転する。指示部50は、このようにして、2回転して5点星の形をした軌道100を記述する。
【0030】
本発明によると、不図示の変形態様が無限にあり得る。例えば、5÷7の比率は、7つの実質的に直線的な側面と丸みを帯びた角を持つインターリーブ軌道を生成する。5/8の比率は、3回転と8頂点の軌道を生成する、などの変種があり得る。
【0031】
回転数を増加させると、軌道100の長さが長くなり、表示される情報の可読性や精度が向上する。
【0032】
不図示の変形例では、指示部50は、距離d1に等しい距離d2にあり、直線的な軌道を記述する。
【0033】
本発明の表示装置とレトログラード機構を組み合わせることにより、軌道や位置の適応が容易なレトログラード表示装置を提供可能である。
【0034】
本発明の特定の観点によると、冠は固定されないが、ムーブメントによって表示軸線17の周りで回転駆動されることが意図される。これにより、例えば、指示部の運動性を変えずに遊星歯車のサイズを小さくしたり、表示部の中央をすっきりさせたりすることが可能になる。また、パワーリザーブのような差分情報を表示するための2入力機構を実現することが可能となる。
【0035】
図示しない本発明の別の変形例によると、冠30は、移動体10に取り付けられた反転ピニオンを介して遊星20と間接的に噛み合う外歯を有する。反転ピニオンにより、遊星20は、移動体10の回転方向とは逆方向に回転可能である。冠30に外歯を使用することにより、特に冠30が移動可能である場合には、機構を簡素化できる。
【0036】
本発明の機構によると、手段の顕著な経済性を持った独創的な形状の表示を可能にするので、洗練されたデザインの時計を製作する場合に特に好適である。また、文字板の中央部に機構が配置されているため、ディスクや小針を備えた他の周辺表示と組み合わせて複雑な時計を作製可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 移動体
13 駆動ピニオン
17 表示軸線
20 遊星歯車
27 遊星軸線
30 冠
50 指示部
51 針
80 表示領域
83 指標
87 カバー
a 長半軸
b 短半軸
d1 軸線17、27の中心間の距離
d2 表示器から遊星軸線27までの距離
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6