(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07H 5/02 20060101AFI20220822BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20220822BHJP
A61K 51/00 20060101ALN20220822BHJP
A61K 51/04 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
C07H5/02
C07B59/00
A61K51/00 200
A61K51/04 320
(21)【出願番号】P 2021006102
(22)【出願日】2021-01-19
(62)【分割の表示】P 2016087358の分割
【原出願日】2016-04-25
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168848
【氏名又は名称】黒崎 文枝
(72)【発明者】
【氏名】中川原 潤
(72)【発明者】
【氏名】谷口 寛史
(72)【発明者】
【氏名】前田 龍平
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮一
(72)【発明者】
【氏名】外山 正人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 侑紀
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012684(JP,A)
【文献】特表2014-508731(JP,A)
【文献】特表2013-539497(JP,A)
【文献】特開平11-295494(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063940(WO,A1)
【文献】GE Healthcare社,FASTlab Synthesizer FDG citrate Application Manual,2013年6月改訂版,2013年
【文献】Eberl, S. et al.,High beam current operation of a PETtrace(TM) cyclotron for 18F- production,Applied Radiation and Isotopes,2012年,Vol.70,p.922-930
【文献】石渡 喜一ほか編,PET用放射性薬剤の製造および品質管理-合成と臨床使用のてびき-,第4版,2011年,p.37-46
【文献】日本核医学技術学会編,ポジトロン断層撮影[PET]技術マニュアル,第1版,2006年
【文献】SIIKANEN, J. et al.,A niobium water target for routine production of [18F]Fluoride with a MC 17 cyclotron,Applied Radiation and Isotopes,2013年,Vol. 72,pp. 133-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 5/02
C07B 59/00
A61K 51/00 - 51/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JCTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)[
18F]フッ化物イオンを含有する
18O濃縮水から[
18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記
18O濃縮水から分離された[
18F]フッ化物イオンを用いて、1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2
-[
18F]フルオロ-2-デオキシグルコース(
18F-TAFDG)を得る工程と、
(c)前記
18F-TAFDGの加水分解反応を実行して2-[
18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(
18F-FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相
間移動触媒を用いて[
18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、前記工程(a)の開始時において、300GBq以上の[
18F]フッ化物イオンを使用し、工程(a)の開始時における[
18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上、前記炭酸カリウムを4~20μg、前記相
間移動触媒を30~150μg使用し、かつ、前記相
間移動触媒の炭酸カリウムに対するモル比が、相
間移動触媒/炭酸カリウム=1.5~4であ
り、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35~0.6である、
18F-FDGの製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、
(a-1)[
18F]フッ化物イオンを含有する
18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記陰イオン交換樹脂に[
18F]フッ化物イオンを吸着させる工程と、
(a-2)前記炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[
18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる工程と、
(a-3)溶出した前記[
18F]フッ化物イオンの水溶液を、前記相
間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び前記水溶性有機溶剤を蒸発させる工程と、
を含む、請求項1に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項3】
前記相
間移動触媒がクリプタンドである、請求項2に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤がアセトニトリルである、請求項2又は3に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)の開始時において、600~1000GBqの[
18F]フッ化物イオンを使用する、請求項1乃至4いずれか一項に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項6】
工程(a)の開始時における[
18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40~150μg使用する、請求項1乃至5いずれか一項に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)における放射性フッ素化反応の反応時間が1.5~7分である、請求項1乃至6いずれか一項に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)の前記放射性フッ素化反応は、アセトニトリル中で前記TATMの[
18F]フッ素化を行うものである、請求項1乃至7いずれか一項に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)の前記加水分解反応は、酸加水分解反応である、請求項1乃至8いずれか一項に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項10】
前記工程(c)の前記加水分解反応は、塩酸存在下に実行されるものである、請求項9に記載の
18F-FDGの製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)の前記加水分解反応は、反応時間が6~15分である、請求項10に記載の
18F-FDGの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性フッ素標識有機化合物は、医療用画像診断法の一つである陽電子放出断層撮影(以下、「PET」という)において利用される。現在、主要な放射性フッ素標識有機化合物は、その前駆体と[18F]フッ化物イオンとの有機化学反応により製造される。
【0003】
放射性フッ素標識有機化合物として代表的な化合物である2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(以下、「18F-FDG」という)の製造方法としては種々の方法が報告されており、例えば、ハマハーにより提案された方法(以下、「ハマハー法」)がよく知られている。
【0004】
ハマハー法では、まず、18F、炭酸カリウム及び相間移動触媒を含む溶液を蒸発乾固
させて18Fを活性化させる。次に、活性化された溶液に、標識前駆体化合物である1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース(以下、「TATM」という)のアセトニトリル溶液を加えて加熱し、中間体である1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-[
18F]フルオロ-2-デオキシグルコース(以下、「18F-TAFDG」という)を得る。続いて、18F-TAFDGを脱保護工程及び精製工程に付して18F-FDGを得る(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2007/063940号公報
【文献】国際公開WO2007/066567号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hamacher K., Coenen H. H., Stocklin G., "Efficient Stereospecific Synthesis of No-carrier-added-2-[18F]fluoro-2-deoxy-D-glucose Using Aminopolyether Supported Nucleophilic Substitutionm."J. Nucl. Med., 1986, 27, 2, p.235-238
【文献】K. Hamacher et al., "Computer-aided Synthesis (CAS) of No-carrier-added 2-[18F]Fluoro-2-deoxy-D-glucose: an Efficient Automated System for the Aminopolyether-supported Nucleophilic Fluorination" Applied Radiation and Isotopes, (Great Britain), Pergamon Press, 1990, 41, 1, p.49-55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、活性化させた[18F]フッ化物イオンを含む混合物に標識前駆体であるTATMを加える工程を、気密条件下で行ったり(特許文献1)、放射性フッ素標識反応において溶液中に一定量の水を含有させたり(特許文献2)することにより、安定して高い放射性フッ素化収率を達成し得ることを知得した。
【0008】
しかしながら、18F-FDGの生産量をより高めるべく、[18F]フッ化物イオンを大容量用いると、18F-FDGの収率が低下することが、本発明者らの知見により明らかとなった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合であっても、18F-FDGを安定して収率よく製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記目的の下に鋭意研究した結果、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合、標識前駆体の使用量を調整することにより、18F-FDGを収率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程と、
(c)加水分解反応を実行して2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(18F-FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用する、18F-FDGの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射性フッ素化反応において、標識前駆体であるTATMの[18F]フッ化物イオン1GBqに対する使用量を一定量以上とすることとしたので、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合であっても、18F-FDGを安定して収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法の実施形態について説明するが、本発明は当該実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
本発明の製造方法は、少なくとも上記工程(a)~(c)を行うことにより実施できる。以下、各工程について説明する。
【0015】
工程(a)
工程(a)は、[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程である。本発明では、工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用するが、好ましくは、500GBq以上、より好ましくは600~1000GBq使用する。
【0016】
[18F]フッ化物イオンは公知の方法にて得ることができ、例えば、18O濃縮水をターゲットとしてプロトン照射を行うといった方法により、得ることができる。このとき、[18F]フッ化物イオンはターゲットとした18O濃縮水中に存在している。
【0017】
工程(a)は、得られた18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離できる方法であればどのような方法で行ってもよいが、[18F]フッ化物イオンの分離と併せて、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含むことが好ましく、かかる好ましい方法としては、例えば、下記工程(a-1)~(a-3)を含む方法が挙げられる。
【0018】
工程(a-1):[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる。
工程(a-2):炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる。
工程(a-3):溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させる。
【0019】
ここで、本発明において、「工程(a)の開始時」とは、18O濃縮水のプロトン照射の終了時、すなわち、工程(a-1)の開始時であってもよいし、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させた状態、すなわち工程(a-2)の開始時であってもよいし、陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出した直後、すなわち、工程(a-3)の開始時であってもよい。
【0020】
以下、工程(a-1)~(a-3)について説明する。
【0021】
工程(a-1)では、[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる。陰イオン交換樹脂としては、固相抽出カートリッジ型が好ましく、例えば、Waters社から販売されているSep-Pak(登録商標)製品のAccell Plus QMAを使用することができる。また、Bio-Rad社から販売されているAG1X8(140-1431 Analytical grade, 50-100 mesh)を用いてもよい。したがって、工程(a-1)は、例えば、陰イオン交換樹脂が充填されたカートリッジに[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を通過させることにより行うことができる。陰イオン交換樹脂は、使用前に炭酸イオン形に調製しておくことが好ましい。
【0022】
工程(a-2)では、炭酸カリウムを含む水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて、[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる。工程(a-2)は、例えば、[18F]フッ化物イオンを吸着した陰イオン交換樹脂が充填されたカートリッジに炭酸カリウムを含む水溶液を通過させることで行うことができる。
【0023】
炭酸カリウムを含む水溶液は、[18F]フッ化物イオンの溶離液として使用されるが、このとき炭酸カリウムは、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、4~20μg使用することが好ましく、6~20μg使用することがより好ましい。
【0024】
溶離液中の水は、炭酸カリウムを溶解でき、かつ、工程(a-3)の蒸発時間を最小限にできるものであれば制限されないが、例えば、0.1~1mLとすることができる。なお、後述のように、この溶離液に、下記相間移動触媒及び/又は下記水溶性有機溶剤を予め混合しておいてもよい。
【0025】
工程(a-3)では、溶出した[18F]フッ化物イオンの水溶液を、相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させる。
【0026】
相間移動触媒は、水溶性有機溶剤に溶解して使用することが好ましく、これを工程(a-2)の溶離液に予め混合しておいてもよいし、工程(a-2)で得られた溶出液に混合させてもよい。
【0027】
相間移動触媒としては、クリプタンドやクラウンエーテルが挙げられるが、クリプタントが好ましく、4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロー[8,8,8]-ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)がより好ましい。
【0028】
相間移動触媒は、炭酸カリウムのカリウムイオンを捕捉するために使用されるため、工程(a‐2)で使用する炭酸カリウムの量に対応して使用すればよいが、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、30~150μg使用することが好ましく、45~150μg使用することがより好ましい。相間移動触媒の炭酸カリウムに対するモル比は、相間移動触媒/炭酸カリウム=1.5~4とすることが好ましく、2~3.5がより好ましい。
【0029】
水溶性有機溶剤としては、工程(a-2)で溶離液として使用した水と混合するものであれば特に限定されず、沸点が水に近く水と共沸するものが好ましく、沸点が水より低いものがより好ましい。好ましい水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、1,4-ジオキサン、アセトニトリルが挙げられ、アセトニトリルが特に好ましい。
【0030】
水溶性有機溶剤の量は、相間移動触媒を溶解でき、かつ、工程(a-3)の蒸発時間を最小限にできるものであれば制限されないが、例えば、0.5~2.5mLとすることができる。
【0031】
工程(a-3)は、工程(a-2)で得られた溶出液を相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下、容器内で加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させることにより行うことができる。加熱温度は、水及び水溶性有機溶剤が蒸発できる温度であれば制限されないが、例えば、70~150℃とする。
【0032】
工程(b)
工程(b)は、18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程である。
【0033】
本発明において、TATMは、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、40μg以上使用するが、好ましくは、40~150μg使用する。これにより、安定して、収率よく18F-FDGを製造することができる。
【0034】
工程(a-2)で使用される炭酸カリウムは、放射性フッ素化反応において塩基として働き、反応を促進させる。そこで、工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.3~0.6であることが好ましく、0.35~0.6であることがより好ましい。
【0035】
TATMは、水溶性有機溶剤に溶解させて[18F]フッ化物イオンと反応させることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、工程(a-3)で例示したものを使用することができ、好ましくは工程(a-3)で使用したものと同じものを使用し、より好ましくはアセトニトリルを使用する。
【0036】
使用する水溶性有機溶剤の量は、TATMを溶解できるものであれば限定されないが、例えば、0.5~2.5mLとすることができる。
【0037】
放射性フッ素化反応は、加熱して実行することが好ましく、加熱温度は、65~125℃が好ましい。反応時間は、反応温度に応じて適宜設定されるが、好ましくは10秒~15分、より好ましくは30秒~10分、更に好ましくは、1.5~7分である。
【0038】
工程(b)の放射性フッ素化反応は、工程(a-3)において水及び水溶性有機溶剤を蒸発した残渣に、TATMの水溶性有機溶剤溶液を加えることで、実行することが好ましい。このとき反応容器を気密状態にすることが好ましい。そして、放射性フッ素化反応の終了後、開放状態で水溶性有機溶剤を蒸発させ、工程(b)を終了することが好ましい。
【0039】
工程(c)
工程(c)は、加水分解反応を実行して2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(18F-FDG)を得る脱保護工程である。
【0040】
加水分解反応は、酸加水分解反応であってもよいし、アルカリ加水分解反応であってもよいが、酸加水分解反応が好ましい。酸加水分解反応は、例えば、工程(b)で得られた放射性フッ素化反応の残渣に、酸性溶液を添加することで実行できる。アルカリ加水分解反応は、例えば、工程(b)で得られた放射性フッ素化反応の残渣に、アルカリ性溶液を添加することで実行できる。加水分解反応におけるアルカリまたは酸の添加量、反応温度、及び反応時間としては、公知のものを用いることができる(「PET用放射性薬剤の製造および品質管理-合成と臨床使用のてびき-(第4版)」、PET化学ワークショップ編参照)。
【0041】
酸加水分解反応は、100~140℃に加熱して実行することが好ましい。また、酸性溶液として、塩酸を用いることが好ましい。この場合、0.5~4mol/Lの塩酸を0.5~4mL使用することが好ましく、反応時間は30秒~20分が好ましく、6~15分がより好ましい。
【0042】
工程(c)の終了後、必要に応じて精製工程に付し、適宜、安定剤などの添加剤を加え、滅菌フィルターに通液し、希釈、分注して製剤化してもよい。
【0043】
精製工程は、例えば、一連の精製カラム(陽イオン交換樹脂、イオン遅滞樹脂、オクタデシルシリル化シリカゲル及びアルミナ)に通液にすることで実行することができる。
上記実施形態は、以下の技術思想を包含する。
1.(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程と、
(c)加水分解反応を実行して2-[18F]フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(18F-FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用する、18F-FDGの製造方法。
2.前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを4~20μg、前記相間移動触媒を30~150μg使用する、上記1に記載の18F-FDGの製造方法。
3.前記工程(a)が、
(a-1)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる工程と、
(a-2)前記炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる工程と、
(a-3)溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、前記相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び前記水溶性有機溶剤を蒸発させる工程と、
を含む、上記2に記載の18F-FDGの製造方法。
4.前記相間移動触媒がクリプタンドである、上記2又は3に記載の18F-FDGの製造方法。
5.前記水溶性有機溶剤がアセトニトリルである、上記2乃至4いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
6.前記工程(a)の開始時において、600~1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用する、上記1乃至5いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
7.工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40~150μg使用する、上記1乃至6いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
8.前記工程(b)における放射性フッ素化反応の反応時間が1.5~7分である、上記1乃至7いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
9.前記工程(b)の前記放射性フッ素化反応は、アセトニトリル中で前記TATMの[18F]フッ素化を行うものである、上記1乃至8いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
10.前記工程(c)の前記加水分解反応は、酸加水分解反応である、上記1乃至9いずれか一項に記載の18F-FDGの製造方法。
11.前記工程(c)の前記加水分解反応は、塩酸存在下に実行されるものである、上記10に記載の18F-FDGの製造方法。
12.前記工程(c)の前記加水分解反応は、反応時間が6~15分である、上記11に記載の18F-FDGの製造方法。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容のみに限定されるものではない。
【0045】
実施例1~5、比較例1
[工程(a)]
18O照射水をTR19サイクロトロン(商品名,Advanced Cyclotron Systems社製)でプロトン照射することで生成した[18F]フッ化物イオンを陰イオン交換樹脂カートリッジ(Sep-Pak Accell Plus Light QMA,Waters社製)に通液し、陰イオン交換樹脂に吸着捕集させることにより保持させた(工程(a-1))。表1に記載の量の炭酸カリウムを水で溶解した溶液(0.6mL)を前記カートリッジ通液し、[18F]フッ化カリウム溶出液を得た(工程(a-2))。表1に記載の量のクリプトフィックス222(商品名)をアセトニトリルで溶解した溶液(1.5mL)を[18F]フッ化カリウム溶出液に加え、濃縮乾固した(工程(a-3))。なお、工程(a-2)の開始時には、工程(a-1)の開始時から約1分30秒経過しており、工程(a-3)の開始時には、工程(a-1)の開始時から約2分経過していた。
【0046】
[工程(b)]
残渣に、表1に記載の量のTATMをアセトニトリルで溶解した溶液(1mL)を加えて、反応器内が84~92℃になるように加熱して反応させた後、濃縮乾固した(工程(b))。
【0047】
[工程(c)]
残渣に1mol/L塩酸溶液(2.0mL)を加えて、還流下で反応させた後、一連の精製カラム(陽イオン交換樹脂,イオン遅滞樹脂,オクタデシルシリル化シリカゲル及びアルミナ)に通液し、更に、反応容器を注射用水(10mL)により洗浄し、同様に一連の精製カラムに通液した後、メンブランフィルターで粗ろ過して、18F-FDGを得た(工程(c))。
【0048】
得られた18F-FDGの合成収率は、下記式(1)に従って求めた。
18F-FDGの合成収率(%)=B/A×100 (1)
ただし、A及びBは以下の通り。
A:陰イオン交換カラムへの[18F]フッ化物イオンの吸着捕集(工程(a-1)の開始時の放射能量。
B:18F-FDGの精製終了後の放射能量。
ここで、放射能量は、陰イオン交換カラムへの[18F]フッ化物イオンの吸着捕集開始時を基準として、全体の放射能量の計算を行った。また、放射能量の測定には、CRC-712X(商品名、CAPINTEC社製)を用いて行った。
【0049】
結果を表1に示す。表1の結果から、工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、TATMを40μg以下使用した比較例1に比べ、TATMを40μg以上使用した実施例1~5の場合、高い合成収率が得られ、さらには、炭酸カリウム及び相間移動触媒の使用量を高めた実施例1~2及び4~5では合成収率のばらつきも少なくなることがわかる。
【0050】
【0051】
実施例6~11
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオンの放射能量、TATM、炭酸カリウム及び相間移動触媒の使用量、工程(b)の反応時間、並びに、工程(c)の反応時間を表2に示す値に変更した以外、実施例1と同様に実験を行い、合成収率を求めた。
【0052】
結果を表2に示す。表2の結果から、放射性フッ素化反応の反応時間を1.5~7分とし、加水分解反応の反応時間を6~15分とすることで、18F-FDGが収率よく得られることが示された。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、放射性医薬品として用いられる18F-FDGを効率良く大量生産するのに利用できる。