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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20220822BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20220822BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20220822BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20220822BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20220822BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
C08J9/26 102
H01M50/417
H01M50/489
H01G11/52
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021526945
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024244
(87)【国際公開番号】W WO2020256138
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019115778
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020015799
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】片山 正己
(72)【発明者】
【氏名】関口 学
(72)【発明者】
【氏名】川口 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】金尾 雅彰
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193816(JP,A)
【文献】特開2017-165938(JP,A)
【文献】特開2001-081221(JP,A)
【文献】特開2005-314544(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194504(WO,A1)
【文献】特開2018-131596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
H01M 2/16
H01M 50/417
H01M 50/489
H01G 11/52
C08L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンを含むポリオレフィン微多孔膜であって、昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークを141.0℃~150.0℃の範囲内に有し、かつ粘度平均分子量(Mv)が400,000以上2,000,000以下であるポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークを142.1℃~150.0℃の範囲内に有する、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が、15μm以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークのうち、141.0℃~150.0℃の範囲内に最大のピーク高さを持つ、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)が、600,000以上2,000,000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜は、前記ポリエチレンとして、粘度平均分子量(Mv)が600,000以上2,000,000以下のポリエチレン原料を、前記ポリオレフィン微多孔膜の質量を基準として55質量%以上含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
前記ポリオレフィン微多孔膜の120℃における熱収縮率が、MD、TDともに15%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたReversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量が、45J/g以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項9】
前記ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度が、70gf/(g/m)以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項10】
前記ポリオレフィン微多孔膜のハーフドライ法に準拠して測定された平均孔径が0.050μm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項11】
前記ポリオレフィン微多孔膜の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力が、MD、TDともに4.0gf以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜を含む、電気化学デバイス用セパレータ。
【請求項13】
請求項12に記載の電気化学デバイス用セパレータを含む、電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜などに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜(以下、単に「PO微多孔膜」と略記することがある。)は、種々の物質の分離のために、又は選択透過分離膜、隔離材等として広く用いられている。その用途としては、例えば、精密ろ過膜;リチウムイオン電池、燃料電池等の電池のセパレータ;コンデンサー用セパレータ;機能材を孔の中に充填させ、新たな機能を出現させるための機能膜の母材等が挙げられる。中でも、携帯電話、スマートフォン、ウェアラブル機器、ノート型パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットPC、デジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池(LIB)用のセパレータとして、PO微多孔膜が好適に使用されている。
【0003】
従来、PO微多孔膜は、LIB用セパレータとして使用されるために、POの融点を下回る温度又は外部応力に対して寸法安定性を、融点付近でシャットダウン性能を、そして更に高温での耐破膜性能を有することが求められていた。また、LIB用セパレータの熱安定性と他の性質とのバランスという観点からも各種のPO微多孔膜及びそれらの製造方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、LIB用セパレータとして好適なPO微多孔膜の優れた機械的特性、電気的特性及び高温特性という観点から、粘度平均分子量(Mv)が2,000,000のポリエチレン(PE)とMvが250,000のPEを1:1でブレンドした原料を押し出して、得られたゲル状シートを122℃で7×7倍(MD×TD)に同時二軸延伸することが記述されている。
【0005】
特許文献2には、PO微多孔膜の強度、耐熱性及び薄膜化という観点から、固有粘度が8.5dl/g以上60dl/g以下のPEとMvが510,000のPEとを混合質量比30/70を混錬することにより得られた組成物に流動パラフィンを導入し、その組成物の固有粘度を7.0dl/g以上に調整し、その組成物の圧縮成形により形成されたシートを延伸倍率6倍×6倍(MD×TD)又は4倍×4倍(MD×TD)で延伸して、流動パラフィンを抽出することが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-20357号公報
【文献】特許第6520248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、スマートフォン、ウェアラブル機器などのLIB搭載デバイスは、小型化/薄型化が顕著である一方で、LIBの容量を従来品より向上させることが求められている。その為、LIBメーカーは、正極の高ニッケル(Ni)含有率化又はセパレータの薄膜化などを進めているが、安全性の担保との両立が難しくなっている。特に、衝突試験の合格水準にはより高い膜の強度が必要であり、これを担保したまま薄層化することが求められている。さらに、オーブン試験では高温時の膜の熱収縮が低いことが必要である。また、電動工具などのパワーツール向けの高出力な電池には、これらに加えて高透過性も必要となる。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の方法に従って、Mvが2,000,000以上のポリエチレン(いわゆるUHMWPE)原料を用いてPO微多孔膜の製造を試みても、上記の観点からはなお改善の余地があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて、電気化学デバイスの衝突試験とオーブン試験における安全性を向上させることができるポリオレフィン微多孔膜、並びにそれを用いた電気化学デバイス用セパレータ及び電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、温度変調DSC法により測定されるポリオレフィン微多孔膜のNonreversing Heat Flowの融解ピークを特定の温度範囲内に制御することにより衝突試験とオーブン試験における安全性の両立が可能となることを見出して、本発明を完成させた。本発明の実施形態の例を以下に列記する。
[1]
ポリエチレンを含むポリオレフィン微多孔膜であって、昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークを141.0℃~150.0℃の範囲内に有するポリオレフィン微多孔膜。
[2]
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークのうち、141.0℃~150.0℃の範囲内に最大のピーク高さを持つ、項目1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3]
前記ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)が、600,000以上2,000,000以下である、項目1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[4]
前記ポリオレフィン微多孔膜は、前記ポリエチレンとして、粘度平均分子量(Mv)が600,000以上2,000,000以下のポリエチレン原料を、前記ポリオレフィン微多孔膜の質量を基準として55質量%以上含む、項目1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[5]
前記ポリオレフィン微多孔膜の120℃における熱収縮率が、MD、TDともに15%以下である、項目1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6]
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたReversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量が、45J/g以上である、項目1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7]
前記ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度が、70gf/(g/m)以上である、項目1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[8]
前記ポリオレフィン微多孔膜のハーフドライ法に準拠して測定された平均孔径が0.050μm以下である、項目1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[9]
前記ポリオレフィン微多孔膜の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力が、MD、TDともに4.0gf以下である、項目1~8のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[10]
前記ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が、8μm以下である、項目1~9のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[11]
項目1~10のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜を含む、電気化学デバイス用セパレータ。
[12]
項目11に記載の電気化学デバイス用セパレータを含む、電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリオレフィン微多孔膜を電気化学デバイス用セパレータとして備える電気化学デバイスの衝突試験とオーブン試験における安全性の高度な両立を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】衝撃試験の概略図である。
図2】実施例1の温度変調DSCの測定結果の概略図である。
図3】比較例9の温度変調DSCの測定結果の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記することがある。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本明細書では、製膜時の膜の流れ方向をMDとし、膜平面内においてMDと90度で交差する方向をTDとして定義する。
【0014】
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜(PO微多孔膜)は、ポリオレフィンとしてポリエチレン(PE)を含み、かつ昇温速度1℃/minの温度変調DSC(示差走査熱量)法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowについて、以下に示される特性を有する。
【0015】
所望により、PO微多孔膜は、膜厚、平均孔径、熱収縮率、気孔率、透気度、突刺強度なども以下に示されるように特定されることができ、その表面には無機塗工層又は接着層が形成されることもできる。本実施形態において説明される複数の特性は、それぞれ独立に活用されることができ、又は任意に組み合わせられることができる。なお、特に言及しない限り、PO微多孔膜の物性の測定方法は、実施例の項目において詳述される。
【0016】
<温度変調DSC法により測定される特性>
本実施形態に係るPO微多孔膜は、昇温速度1℃/minで温度変調DSC法により昇温測定されたときに、Nonreversing Heat Flowの融解ピークを141.0℃~150.0℃の範囲内に有する。
【0017】
シャットダウン特性及び製膜性の観点からPE(例えば、HDPE)を主成分として含む(通常、50質量%以上含む)微多孔膜は、一般に、DSC測定において130.0℃~140.0℃の範囲内に吸熱ピークが見られる。これはポリエチレンの安定構造である斜方晶の平衡融点は141.5℃であるためである。一方、DSC測定において、延伸軸方向に高度に配向されたポリエチレンを1℃/min以下の低速で昇温すると、斜方晶の融解と同時に六方晶の生成が起こり、その六方晶の融解由来の吸熱ピークが141.0℃以上の高温に観測される。すなわち、融解ピークの温度及び吸熱量が、DSC測定対象である微多孔膜中のポリエチレンの分子配向度の強さを表す。
【0018】
また、PO微多孔膜のDSC測定において温度変調DSCを用いると、測定成分を熱応答に追従できる成分(Reversing Heat Flow)と熱応答に追従できない成分(Nonreversing Heat Flow)とに分離することができる。上記の六方晶の融解由来の吸熱ピークはNonreversing Heat Flowに現れるため、昇温速度が大きく、温度変調を用いない通常のDSCでは斜方晶の融解由来のピークのショルダーとなってしまう六方晶の融解由来のピークを明確に分離することができる。本実施形態のPO微多孔膜では、実施例1(図2)に示すようなNonreversing Heat Flowの融解ピークが141.0℃~150.0℃の範囲内に現れる。一方、従来のPO微多孔膜では、比較例9(図3)に示すように、ショルダーは見られるものの、141.0℃~150.0℃の範囲内にピークは現れない。本実施形態では、理論に拘束されることを望まないが、温度変調DSC法により測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークを141.0℃~150.0℃の温度範囲内に有するPO微多孔膜は、高度に配向されているために、従来品よりも高強度かつ低熱収縮のセパレータとして使用が可能となり、それを用いた電気化学デバイス(例えばLIB等)の衝突試験およびオーブン試験の安全性が良好となることを見出した。
【0019】
PO微多孔膜は、薄膜でさえも衝突試験とオーブン試験における安全性を高度に両立するという観点から、昇温速度1℃/minでの温度変調DSC法により昇温測定されたときに、Nonreversing Heat Flowの融解ピークを143.0℃~150.0℃の範囲内に有することが好ましく、145.0℃~150.0℃の範囲内に有することがより好ましい。
【0020】
昇温速度1℃/minでの温度変調DSC測定においてNonreversing Heat Flowの融解ピークは、例えば、PO微多孔膜の製造プロセスにおいて、単一成分(ホモ)PE原料の使用、後述されるPE原料のMvの調整、延伸面倍率及び/又は延伸温度の調整などによって、上記で説明された温度範囲内に存在するように制御されることができる。
【0021】
さらに、使用するポリエチレンの分子構造によってもNonreversing Heat Flowの融解ピークの温度範囲を制御することができる。原料ポリマーの多分散度(Mw/MnおよびMz/Mw)が高くなることによって、PO微多孔膜のNonreversing Heat Flowの融解ピーク温度が高くなる傾向にある。特定の理論に縛られることを望むものではないが、同じ平均分子量の原料の場合、多分散度が大きいことは、より高分子量成分が多いことを暗示しており、この高分子量成分の存在のため、ポリエチレン分子鎖の絡み合いが強くなり、結果として、六方晶の融解ピークの上昇と、突き刺し強度の向上に寄与していると考えられる。
【0022】
PO微多孔膜は、衝突試験とオーブン試験における安全性の向上という観点から、昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたNonreversing Heat Flowの融解ピークのうち、ピーク高さが最大である温度が、141.0℃~150.0℃の温度範囲内にあることが好ましく、143.0℃~150.0℃の温度範囲内にあることがより好ましく、145.0℃~150.0℃の温度範囲内にあることがさらに好ましい。141.0℃以上の高温での融解熱量が大きいことは、PE結晶が高度に配向していることを示しており、高度に配向した結晶が観察されるPO微多孔膜は、衝突試験・オーブン試験における安全性が良好になる傾向にある。Nonreversing Heat Flowの融解ピークのうち、ピーク高さが最大である温度は、例えば、PO微多孔膜の製造プロセスにおいて、ホモPE原料の使用、後述されるPE原料Mvの調整、延伸面倍率及び/又は延伸温度の調整、HS工程での横延伸倍率の調整、同時二軸延伸などによって上記で説明された温度範囲内に存在するように制御されることができる。ここで、融解ピーク温度とは、Nonreversing Heat Flow(W/g)の値が極小値を取る温度をいい、そしてピーク高さとは、融解ピーク温度でのNonreversing Heat Flow(W/g)の値の絶対値をいう。すなわち、ピーク高さが最大である温度は、Nonreversing Heat Flow(W/g)の値が最小であるときの温度を示す。
【0023】
PO微多孔膜は、衝撃試験における安全性の向上という観点から、昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたReversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量が、45J/g以上であることが好ましく、46J/g以上又は47J/g以上であることがより好ましく、50J/g以上であることがさらに好ましい。原理は定かではないが、Reversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量が45J/g以上であると、衝撃試験の安全性が良好になる傾向にある。他方、Reversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量は、熱収縮の抑制という観点から、70J/g以下であることが好ましく、65J/g以下であることがより好ましい。PO微多孔膜のReversing Heat Flowの120.0℃以下の融解熱量は、例えば、PO微多孔膜の製造プロセスにおいて、原料組成の最適化、延伸面倍率の調整、熱固定時の横延伸温度及び/又は緩和温度の調整などにより上記で説明された数値範囲内に制御されることができる。
【0024】
昇温速度1℃/minの温度変調DSC法により測定されたPO微多孔膜については、Reversing Heat Flowのピーク温度は、例えば、PE原料の融点などに応じて、130.0℃~140.0℃の範囲内に任意に調整されることができる。
【0025】
<PO微多孔膜の粘度平均分子量>
本実施形態に係るPO微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)は、400,000以上2,000,000以下であることが好ましい。PO微多孔膜そのものの分子量が高くなることによって、膜の強度が発現し易くなり、衝突試験とオーブン試験における安全性も良好になる傾向にある。このような観点から、PO微多孔膜のMvは、より好ましくは500,000以上であり、さらに好ましくは600,000以上であり、最も好ましくは700,000以上である。一方、PO微多孔膜の粘度平均分子量を2,000,000以下に調整することは、HS工程によって熱収縮を抑制する観点から好ましい。同様の観点から、PO微多孔膜のMvの上限は、1,500,000以下であることがより好ましい。
【0026】
本明細書では、PO微多孔膜の粘度平均分子量は、PO微多孔膜そのもののMvを測定することで得られる。なお、PO微多孔膜の粘度平均分子量は、例えば、分子量の異なる原料ポリマーの組成比を変更すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0027】
<熱収縮率>
電気化学デバイスの利用範囲の拡大に伴い、衝突試験と共に、高温環境下、例えばオーブン試験において、デバイス安全性を確保するためには、セパレータとして使用されるPO微多孔膜の高温(例えば、PO融点付近、又はPO微多孔膜の融点付近など)での熱収縮率を制御することが重要であると考えられる。PE結晶が高度に配向し、かつ熱収縮率が一定範囲にあるPO微多孔膜は、衝突試験やオーブン試験において良好な性能を確保する観点から好適である。
【0028】
より詳細には、衝突試験やオーブン試験での安全性を向上させるには、PO微多孔膜の120℃での熱収縮率が、MD及びTDにおいて15%以下であることが好ましく、MD及びTDにおいて12%以下であることがより好ましい。また、電池内で拘束されない方向は必ずしも両方向ではなく、セパレータの熱収縮による電極同士の接触を防ぐ観点で、少なくとも一方の熱収縮率が8%以下であることがさらに好ましく、6%以下であることが特に好ましい。PO微多孔膜の120℃での熱収縮率の下限値は、例えば、MD、TDともに、-5%以上、-2%以上、-1%以上、又は0%以上であることができる。
【0029】
PO微多孔膜の120℃での熱収縮率を上記の数値範囲内に制御する手段、或いは、PO微多孔膜の150℃での熱収縮率を下記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、PO微多孔膜の製造プロセスにおいて、PE原料Mvの調整、熱固定(HS)時のTD延伸及び/又は緩和の倍率および温度の調整などが挙げられる。
【0030】
より高温での安全性を評価するためのオーブン試験での安全性を向上させるという観点では、PO微多孔膜の120℃での熱収縮を抑制することに加えて、さらに高温の領域である150℃での熱収縮も抑制することが重要であると考えられる。PO微多孔膜のTMAにおいてMD及びTD最大収縮応力を4.0gf以下に調整することとも関連して、120℃での熱収縮だけでなく150℃での熱収縮も抑制すると、高温時の収縮応力の上昇が緩やかになり、セル内圧による拘束力又は塗工層による収縮抑制力を利用してデバイスの高温安全性を向上させられることがある。
【0031】
PO微多孔膜の150℃での熱収縮率は、高温(例えば、PO融点付近、又はPO微多孔膜の融点付近など)環境下のPO微多孔膜が急激に収縮することを抑制し、さらにはセル内圧又は塗工層による拘束をも利用してPO微多孔膜の収縮を抑制するという観点から、MD及びTDにおいて70%以下であることが好ましく、より好ましくは、MD及びTDにおいて69%以下又は68%以下である。PO微多孔膜の150℃での熱収縮率の下限値は、例えば、MD、TDともに、-5%以上、-2%以上、-1%以上、又は0%以上であることができる。
【0032】
<突刺強度>
PO微多孔膜の目付(g/m)に換算されたときの突刺強度(以下、目付換算突刺強度という。)は、70gf/(g/m)以上であることが好ましい。PO微多孔膜の目付換算突刺強度が70gf/(g/m)以上であると、衝突試験の安全性が良好になる傾向にある。この傾向から、PO微多孔膜の目付換算突刺強度は、90gf/(g/m)以上であることがより好ましく、100gf/(g/m)以上であることがさらに好ましい。目付換算突刺強度の上限値は、熱収縮抑制の観点から、例えば、154gf/(g/m)以下であることができる。
【0033】
PO微多孔膜の目付に換算されていない突刺強度(以下、単に突刺強度という。)については、その下限値が、好ましくは200gf以上、より好ましくは、230gf以上、250gf以上、又は280gf以上である。200gf以上の突刺強度は、電気化学デバイスに衝撃が加わった際の安全性の観点から好ましい。また、PO微多孔膜の突刺強度の上限値は、膜の加熱時の配向緩和及び膜の延伸工程などの観点から、好ましくは680gf以下、より好ましくは、630gf以下、600gf以下、又は550gf以下である。
【0034】
PO微多孔膜の目付換算突刺強度又は突刺強度を上記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、PO微多孔膜の製造プロセスにおいて、ホモPE原料の使用、PE原料Mvの調整、延伸面倍率及び/又は延伸温度の調整などが挙げられる。
【0035】
<孔径>
本実施形態に係るPO微多孔膜の孔径は、0.050μm以下であることが好ましい。本明細書では、PO微多孔膜の孔径は、ハーフドライ法に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用いて測定された、平均孔径を意味する。PO微多孔膜は、0.050μm以下の孔径のために、異物が入り込まず、目詰まりし難くなり、セパレータとして電気化学デバイスに実装されると、サイクル性能を向上させることが好ましい。さらに、PO微多孔膜の孔径が小さいほど衝撃試験の安全性も向上する傾向にある。これは、PO微多孔膜が小孔径であるほど衝撃を均一に分散することができ、破壊され難くなるためである。
【0036】
PO微多孔膜の孔径は、電気化学デバイスのサイクル性能をさらに向上させるという観点から、好ましくは0.047μm以下、より好ましくは0.044μm以下、さらに好ましくは0.040μm以下である。PO微多孔膜の孔径の下限値は、微多孔が存在する限り、0μmを超えることができ、例えば0.01μm以上であることができる。
【0037】
PO微多孔膜の孔径を上記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、後述されるPO微多孔膜の製造方法において、後述されるPE原料のMvを調整すること、延伸面倍率及び/又は延伸温度を調整すること、同時二軸延伸であること、抽出工程の前に延伸工程を行うこと;樹脂成形物の総延伸倍率を調整すること;熱固定(HS)工程時に、HS延伸温度およびHS緩和温度を調整すること、HS延伸温度<HS緩和温度に調整すること、HS延伸倍率を調整すること、HS緩和倍率を調整することなどを、単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0038】
<膜厚>
PO微多孔膜の膜厚は、電気化学デバイス内に占めるセパレータの体積を減少させてエネルギー密度を向上させるという観点から、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは、12μm以下、10μm以下又は8μm以下であり、さらに好ましくは、6μm以下、又は5μm以下である。PO微多孔膜の膜厚は、電極間の絶縁を維持する観点から1μm以上が好ましい。
【0039】
PO微多孔膜の膜厚を上記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、溶融混錬樹脂中のポリマー含有率(PC)、後述されるPO微多孔膜の製造方法における(ダイ)リップクリアランス、キャストクリアランス、延伸倍率、HS延伸倍率、緩和率などの制御が挙げられる。
【0040】
<透気度>
PO微多孔膜の透気度は、膜透過性を担保して電気化学デバイスの出力特性を維持するという観点から、空気100cm当たり、好ましくは180秒以下、より好ましくは160秒以下、さらに好ましくは140秒以下である。透気度の下限値は、膜厚と気孔率と孔径のバランスを取るという観点から、空気100cm当たり、好ましくは50秒以上、より好ましくは55秒以上、さらに好ましくは70秒以上、又は80秒以上である。PO微多孔膜の透気度は、例えば、後述されるPO微多孔膜の製造方法においてHS延伸倍率、HS緩和倍率、HS緩和温度などを調整することにより、上記の数値範囲内に制御されることができる。
【0041】
<気孔率>
PO微多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは、33%以上又は35%以上である。25%以上の気孔率は、良好な出力特性を確保する観点から好適である。気孔率の上限としては、好ましくは70%未満、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下である。70%未満の気孔率は、上記で説明された突刺強度を確保する観点及び耐電圧性を確保する観点から好ましい。
【0042】
<シャットダウン温度及び破膜温度(メルトダウン温度)>
PO微多孔膜のシャットダウン温度は、151℃以下であることが好ましく、より好ましくは、150℃以下、149℃以下、148℃以下、147℃以下、146℃以下、145℃以下、144℃以下、143℃以下、142℃以下、又は141℃以下である。例えばHEVのエンジンルーム、温暖地域などの高温環境下で電気化学デバイスの性能の維持、及び電気化学デバイスの異常発熱時の安全性の確保という観点から、151℃以下のシャットダウン温度が見出された。また、シャットダウン温度の下限値は、塗工工程又は電池作製のプレス工程で熱を掛けた際、孔が閉塞しないという観点から、例えば、110℃以上、120℃以上、130℃以上、又は140℃以上でよい。
【0043】
シャットダウン温度を151℃以下に調整するためには、後述されるPE原料のMvを最適な範囲にすること、Mv=50万以下のPE原料を最適な範囲でブレンドすること、延伸面倍率及び/又は延伸温度を最適な範囲にすること、同時二軸延伸であること、溶融混錬時の固形分:可塑剤の比率を最適な範囲にすること、熱固定工程におけるHS緩和温度を最適な範囲にすること、及び熱固定工程における熱固定倍率を最適な範囲にすることが好ましい。溶融混錬時の固形分:可塑剤比率が低いと、孔径が大きくなりシャットダウンし難くなる傾向がある。ここで溶融混錬時の固形分:可塑剤比率の範囲は、全溶融混錬物中の質量を基準としてPO成分比率が20質量%以上34質量%以下であることが好ましい。熱固定工程における熱固定温度が高過ぎると、樹脂の結晶性が高まり、樹脂の溶融開始温度が高くなり、シャットダウンし難くなる傾向がある。ここでHS緩和温度の最適な範囲は、PO微多孔膜の融点-5℃の温度以上、その融点未満である。熱固定工程におけるHS延伸倍率が高過ぎると、孔径が大きくなりシャットダウンし難くなる傾向にある。ここで熱固定倍率の最適な範囲は、熱固定工程前の寸法を基準として1.5倍以上2.2倍以下である。
【0044】
本実施形態に係るPO微多孔膜の破膜温度(メルトダウン温度)は、電気化学デバイスの温度に対する安定性及び安全性の観点から、好ましくは、150℃以上、155℃以上、又は160℃以上であり、より好ましくは、170℃以上、180℃以上、190℃以上、又は200℃超である。PO微多孔膜の破膜温度の上限値は、限定されるものではないが、ポリオレフィンの種類、PO以外の成分の種類、POと他の成分との混合割合などに応じて、例えば240℃以下、240℃未満、235℃以下、又は230℃以下であることができる。
【0045】
<TMAの最大収縮応力>
PO微多孔膜の熱機械分析(TMA)において、最大収縮応力が、MD、TDともに4.0gf以下であることが好ましい。電気化学デバイスの利用範囲の拡大に伴い、高温環境下でのデバイス安全性を確保するためには、セパレータとして使用されるPO微多孔膜のTMAが重要であると考えられる。このような観点から、4.0gf以下の最大収縮応力を有するPO微多孔膜は、セパレータとして電気化学デバイスに組み込まれると、拘束状態(例えば、PO微多孔膜上に形成された無機塗工層、デバイス内の極板などによりセパレータが挟まれた状態)で高温時の収縮が抑制され、セル内圧による拘束力又は塗工層による収縮抑制力と共に、デバイスの高温安全性を向上させる傾向にある。
【0046】
PO微多孔膜のTMAでの最大収縮応力は、電気化学デバイスの高温環境下での安全性をさらに向上させるという観点から、MD、TDともに、より好ましくは3.5gf以下、さらに好ましくは3.0gf以下である。TMAの最大収縮応力の下限値は、電気化学デバイスの生産工程におけるプレス時に電極とセパレータの密着性を向上させるという観点から、MD、TDともに、より好ましくは1.0gf以上、さらに好ましくは1.5gf以上、最も好ましくは2.0gf以上である。
【0047】
PO微多孔膜のTMAでの最大収縮応力を上記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、原料POとして、粘度平均分子量(Mv)が50万以上であるエチレンホモポリマーを使用すること;原料POのMvを50万以上200万以下の範囲内に調整すること;後述されるPO微多孔膜の製造方法において、抽出工程前に行われる延伸工程の延伸倍率をMD、TDともに8倍以下に制御すること、及び/又は総延伸倍率を80倍以下に制御することなどを、単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0048】
<PO微多孔膜の含有成分>
本実施形態に係るPO微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物から形成される。所望により、樹脂組成物は、無機粒子、ポリオレフィン以外の樹脂などをさらに含んでよい。PO樹脂組成物中に含まれる全ての樹脂の合計含有率(PC)は、PO微多孔膜の強度及び膜厚の観点からは、34質量%以下であることが好ましい。
【0049】
本実施形態において使用されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(例えば、ホモ重合体、共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これらの重合体は、1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0050】
PO原料中のPE原料の合計割合は、シャットダウン特性を発現させるという観点から、50質量%~100質量%であることが好ましく、80質量%~100質量%であることがより好ましい。
【0051】
PO微多孔膜は、Mvが600,000以上2,000,000以下のポリエチレン(PE)原料を、PO微多孔膜の質量を基準として、55質量%以上含むことが好ましく、65質量%以上含むことがより好ましく、75質量%以上含むことがさらに好ましい。Mvが70万以上200万以下のPE原料をPO微多孔膜に55質量%以上含むと、延伸時に結晶が高度に配向し、それによりPO微多孔膜は、高強度かつ低熱収縮性になる傾向がある。同様の観点から、PO微多孔膜の製造に使用されるPO原料は、エチレンホモポリマーであることが好ましく、Mvが600,000以上2,000,000以下のエチレンホモポリマーであることが好ましい。PO微多孔膜中に含まれるポリオレフィン樹脂の量は、PO微多孔膜の質量を基準として、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であってもよい。
【0052】
また、ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.930g/cm未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.940g/cm未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910g/cm以上0.970g/cm未満)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、ポリエチレンを単独、ポリプロピレンを単独、又はポリエチレンとポリプロピレンの混合物のいずれかのみを使用する事は、均一なフィルムを得る観点から好ましい。
【0053】
また、ポリオレフィン樹脂は、PO微多孔膜をセパレータとして備える電気化学デバイスの安全性の観点からは、0.930g/cm以上0.942g/cm未満の密度を有する中密度ポリエチレン(PE)であることが好ましく、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)以外のPEでよい。さらに、PO微多孔膜が薄膜でさえも電気化学デバイスの安全性を向上させるという観点から、粘度平均分子量100万未満の中密度ポリエチレン、及び粘度平均分子量100万以上200万以下かつ密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満の超高分子量ポリエチレンから選択される少なくとも1種をPO微多孔膜の質量を基準として、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが最も好ましい。
【0054】
ポリオレフィン樹脂は、PEでは安全性を確保し難い高温領域(160℃以上)において安全性を確保するという観点からは、ポリプロピレン(PP)を含むことが好ましい。ポリプロピレンとしては、耐熱性の観点からプロピレンのホモポリマーが好ましい。耐熱性をさらに向上させるという観点からは、ポリオレフィン樹脂は、主成分としてのポリエチレンと、ポリプロピレンとを含むことがより好ましい。したがって、PO原料中のPP原料の割合は、0質量%を超え、かつ10質量%以下であることが好ましい。ここで、特定の成分を主成分として含むことは、特定の成分の含有率が50質量%以上であることを意味する。
【0055】
PEとPPを併用する場合には、ポリエチレンとしては、粘度平均分子量100万未満の中密度ポリエチレン、及び粘度平均分子量100万以上200万以下かつ密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満の超高分子量ポリエチレンから選択される少なくとも1種を用いることで、強度と透過性をバランスさせ、更に適切なシャットダウン温度を保つ観点から好ましい。また、粘度平均分子量200万以上の超高分子量ポリエチレンを含まないことも適切なシャットダウン温度を保つ観点からより好ましい。
【0056】
PO樹脂の粘度平均分子量(後述する実施例における測定法に準じて測定される。)としては、500,000以上2,000,000以下であることが好ましい。PO樹脂そのものの分子量が高くなることによって、膜の強度が発現し易くなり、衝突試験とオーブン試験における安全性も良好になる傾向にある。このような観点から、PO樹脂のMvは、より好ましくは600,000以上であり、さらに好ましくは700,000以上である。一方、PO樹脂の粘度平均分子量を2,000,000以下に調整することは、HS工程によって熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0057】
ポリエチレン原料の多分散度(Mw/Mn)は、4.0以上12.0以下が好ましい。多分散度(Mw/Mn)は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。理由は定かではないが、原料ポリマーの多分散度が高くなることによって、PO微多孔膜のNonreversing Heat Flowの融解ピーク温度が高くなる傾向にある。このような観点から、ポリエチレン原料の多分散度の下限は6.0以上が好ましく、7.0以上がより好ましい。また、上限については、HS時の気孔率低下の観点から、12.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。したがって、ポリエチレン原料の多分散度の範囲としては、6.0以上12.0以下、7.0以上12.0以下、4.0以上10.0以下、6.0以上10.0以下、7.0以上10.0以下の順に好ましい。
【0058】
さらに、ポリエチレン原料のZ平均分子量と重量平均分子量の比(Mz/Mw)は、2.0以上7.0以下が好ましい。比(Mz/Mw)は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。理由は定かではないが、原料ポリマーのMz/Mwが高くなることによって、PO微多孔膜のNonreversing Heat Flowの融解ピーク温度が高くなる傾向にある。このような観点から、ポリエチレン原料のMz/Mwは4.0以上が好ましく、5.0以上がより好ましい。したがって、ポリエチレン原料のMz/Mwの範囲としては、4.0以上7.0以下、5.0以上7.0以下の順に好ましい。
【0059】
前記樹脂組成物には、必要に応じて、無機粒子、フェノール系又はリン系又はイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の各種添加剤を混合してよい。
【0060】
〔ポリオレフィン微多孔膜の製造方法〕
本実施形態に係るPO微多孔膜の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、
ポリオレフィン樹脂と、所望により各種添加剤とを含む樹脂組成物を混合する混合工程(a)と、
工程(a)で得られた混合物を溶融混練して押出す押出工程(b)と、
工程(b)で得られた押出物をシート状に成形するシート成形工程(c)と、
工程(c)で得られたシート状成形物を、少なくとも一回、少なくとも一軸方向に延伸する一次延伸工程(d)と、
工程(d)で得られた一次延伸膜から孔形成材料を抽出する抽出工程(e)と、
工程(e)で得られた抽出膜を所定の温度で熱固定(HS)する熱固定工程(f)とを含む方法が挙げられる。
【0061】
上記PO微多孔膜の製造方法により、リチウムイオン二次電池およびその他の電気化学デバイス用セパレータとして用いる場合に、衝突試験とオーブン試験における安全性を高度に両立することが可能なPO微多孔膜を提供することができる。中でも、一次延伸工程(d)でMD及びTDに延伸し、抽出工程(e)を経た後に熱固定工程(f)にてTDに熱固定する方法は、得られるPO微多孔膜の孔径と熱収縮率などを上記で説明された数値範囲内に調整し易い傾向にある。なお、本実施形態のPO微多孔膜の製造方法は、上記製造方法に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0062】
〔混合工程(a)〕
混合工程(a)は、ポリオレフィン樹脂と、所望により各種添加剤とを含む樹脂組成物を混合する工程である。なお、混合工程(a)においては、必要に応じて、他の成分を樹脂組成物と混合してもよい。
【0063】
孔形成材料は、PO樹脂及び無機粒子の材料と区別される限り、任意でよく、例えば可塑剤であることができる。可塑剤としては、PO樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒、例えば、流動パラフィン(LP)、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等を使用してよい。
【0064】
樹脂組成物中の可塑剤の含有率は、好ましくは60質量%~90質量%であり、より好ましくは70質量%~80質量%である。可塑剤の含有率を60以上質量%に調整することで、樹脂組成物の溶融粘度が低下し、メルトフラクチャーが抑制されることで、押出時の製膜性が向上する傾向にある。他方、可塑剤の含有率を90質量%以下に調整することにより製膜工程中での原反伸びを抑制できることがある。
【0065】
(任意の添加剤)
工程(a)において、POを含む樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;フェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0066】
工程(a)における混合の方法としては、特に限定されないが、例えば、原材料の一部又は全部を必要に応じてヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等を用いて予め混合する方法が挙げられる。その中でも、ヘンシェルミキサーを用いて混合を行う方法が好ましい。
【0067】
〔押出工程(b)〕
押出工程(b)は、工程(a)で得られた樹脂組成物を溶融混練して押出す工程である。なお、押出工程(b)では、必要に応じて、他の成分を樹脂組成物と混合してもよい。
【0068】
工程(b)における溶融混練の方法としては、特に限定されないが、例えば、工程(a)で混合した混合物を含む全ての原材料を、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー押出機;ニーダー;ミキサー等により溶融混練する方法が挙げられる。その中でも、溶融混錬は二軸押出機によりスクリューを用いて行うことが好ましい。また、溶融混練を行う際、可塑剤の添加は2回以上に分けて行う事が好ましく、更に、複数回に分けて添加剤の添加を行う場合、1回目の添加量が全体の添加量の80重量%以下となるように調整する事が、含有成分の凝集を抑えて均一に分散させる観点から好ましい。これにより大面積でシャットダウンすることで発熱を抑制し、セルの安全性を向上させる観点から好ましい。
【0069】
工程(b)において孔成形剤を使用する場合、溶融混練部の温度は、樹脂組成物を均一に混錬する観点から200℃未満が好ましい。溶融混練部の温度の下限は、ポリオレフィン樹脂を可塑剤へ均一に溶解させる観点からポリオレフィンの融点以上である。
【0070】
本実施形態では、混練時において、特に限定されないが、原料のPOに酸化防止剤を所定の濃度で混合した後、それらの混合物の周囲を窒素雰囲気に置換し、窒素雰囲気を維持した状態で溶融混練を行うことが好ましい。
【0071】
工程(b)においては、上記混練を経て得られた混練物が、T型ダイ、環状ダイ等の押出機により押し出される。このとき、単層押出しであってもよく、積層押出しであってもよい。押出しの際の諸条件は、特に限定されず、例えば公知の方法を採用できる。また、得られるPO微多孔膜の膜厚の観点から、(ダイ)リップクリアランスなどを制御することが好ましい。
【0072】
〔シート成形工程(c)〕
シート成形工程(c)は、押出工程(b)で得られた押出物をシート状に成形する工程である。シート成形工程(c)により得られるシート状成形物は、単層であってもよく、積層であってもよい。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、押出物を圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。
【0073】
圧縮冷却方法としては、特に限定されないが、例えば、冷風、冷却水等の冷却媒体に押出物を直接接触させる方法;冷媒で冷却した金属ロール、プレス機等に押出物を接触させる方法等が挙げられる。これらの中でも、冷媒で冷却した金属ロール、プレス機等に押出物を接触させる方法が、膜厚制御が容易な点で好ましい。
【0074】
工程(b)の溶融混練以降、溶融物をシート状に成形する工程における設定温度は、押出し機の設定温度より高温に設定することが好ましい。設定温度の上限は、ポリオレフィン樹脂の熱劣化の観点から、300℃以下が好ましく、260℃以下がより好ましい。例えば、押出機より連続してシート状成形体を製造する際に、溶融混練工程後、シート状に成形する工程、即ち、押出機出口からTダイまでの経路、及びTダイの設定温度が押出し工程の設定温度よりも高温に設定されている場合は、樹脂組成物と孔形成材料が分離することなく、溶融物をシート状に成形することが可能となるため好ましい。また、得られるPO微多孔膜の膜厚の観点から、キャストクリアランスなどを制御することが好ましい。
【0075】
得られたシート状成形体の厚みは、例えば、工程(d)における延伸後の厚みなどに応じて、600μm以上2000μm以下であることができる。
【0076】
〔一次延伸工程(d)〕
一次延伸工程(d)は、シート成形工程(c)で得られたシート状成形物を、少なくとも一回、少なくとも一軸方向に延伸する工程である。この延伸工程(次の抽出工程(e)より前に行う延伸工程)を「一次延伸」と呼ぶこととし、一次延伸によって得られた膜を「一次延伸膜」と呼ぶこととする。一次延伸では、シート状成形物を、少なくとも一方向へ延伸することができ、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。
【0077】
一次延伸の延伸方法としては、特に限定されないが、例えば、ロール延伸機による一軸延伸;テンターによるTD一軸延伸;ロール延伸機及びテンター、又は複数のテンターの組み合わせによる逐次二軸延伸;同時二軸テンター又はインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。中でも、衝撃試験の安全性向上および得られるPO微多孔膜の物性安定性の観点から、同時二軸延伸が好ましい。
【0078】
一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率は、好ましくは5倍以上であり、より好ましくは6倍以上である。一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率が5倍以上であることにより、得られるPO微多孔膜の強度がより向上する傾向にある。また、一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率は、好ましくは9倍以下であり、より好ましくは、8倍以下又は7倍以下である。一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率が9倍以下であることにより、延伸時の破断がより抑制される傾向にある。二軸延伸を行う際は、逐次延伸でも同時二軸延伸でもよいが、各軸方向の延伸倍率は、それぞれ、好ましくは5倍以上9倍以下であり、より好ましくは、6倍以上8倍以下、又は6倍以上7倍以下である。
【0079】
一次延伸温度は、PO樹脂組成物に含まれる原料樹脂組成及び濃度を参照して選択することが可能である。MD及び/又はTDの延伸温度は、100℃~135℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは110℃~130℃、さらに好ましくは115℃~128℃、よりさらに好ましくは、116℃~122℃、118℃~122℃、又は116℃~118℃の範囲内である。延伸温度は、MDとTDのいずれについても、破断抑制の観点から100℃以上であることが好ましく、膜強度を高める観点から135℃以下であることが好ましい。
【0080】
〔抽出工程(e)〕
抽出工程(e)は、一次延伸工程(d)で得られた一次延伸膜から孔形成材料を抽出して、抽出膜を得る工程である。孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤に一次延伸膜を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法等が挙げられる。孔形成材を抽出する方法は、バッチ式及び連続式のいずれであってもよい。また、多孔膜中の孔形成材、特に可塑剤の残存量は、1質量%未満にすることが好ましい。
【0081】
孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ孔形成材又は可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0082】
〔熱固定工程(f)〕
熱固定工程(f)は、抽出工程(e)で得られた抽出膜を、所定の温度で熱固定する工程である。この際の熱処理の方法としては、特に限定されないが、テンター又はロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作を行う熱固定方法が挙げられる。
【0083】
熱固定工程(f)における延伸操作は、MD及びTDのうちの少なくとも1つの方向にPO微多孔膜を延伸する操作であり、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。衝突試験とオーブン試験における安全性を高度に両立することが可能なPO微多孔膜を提供するという観点では、少なくともTDに熱固定を行うことが好ましい。
【0084】
熱固定工程(f)におけるMD及びTDの延伸倍率は、それぞれ、好ましくは1.50倍以上2.20倍以下であり、より好ましくは1.80倍以上2.10倍以下である。工程(f)でのMD及びTDの延伸倍率は、膜を高度に配向させ、Nonrev.Heat Flowの融解ピークの温度を高める、あるいは膜の強度を発現させるという観点から1.50倍以上が好ましく、破断抑制の観点から2.20倍以下が好ましい。
【0085】
この延伸操作における延伸温度は、温度変調DSC法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowの高温側のピーク温度より20℃低い温度以上、かつ同ピーク温度より10℃以下の温度範囲にあることが好ましい。延伸温度が上記範囲内であることにより、得られるPO微多孔膜の孔径が制御され易い傾向にある。
【0086】
熱固定時のMD及び/又はTD延伸温度としては、具体的には、PO微多孔膜の温度変調DSC測定においてNonreversing Heat Flowの融解ピークを制御するという観点から128℃以上が好ましく、電気化学デバイスの出力特性の観点から129℃以上がより好ましく、衝撃試験における安全性の観点から130℃以上がさらに好ましく、オーブン試験における安全性の観点から132℃以上が特に好ましい。
【0087】
熱固定工程(f)における緩和操作は、MD及びTDのうちの少なくとも1つの方向にPO微多孔膜を縮小する操作のことであり、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。熱固定工程(f)における緩和倍率は、好ましくは0.95倍以下であり、より好ましくは0.90倍以下であり、さらに好ましくは0.85倍以下である。工程(f)における緩和倍率が0.95以下であることにより、熱収縮が抑制される傾向にある。また、緩和倍率は、緩和温度を高めるという観点から、0.50倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.70以上である。ここで「緩和倍率」とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことをいい、MD及びTDの双方を緩和した場合は、MDの緩和倍率とTDの緩和倍率を乗じた値のことである。
緩和倍率=(緩和操作後の膜の寸法(m))/(緩和操作前の膜の寸法(m))
【0088】
この緩和操作における緩和温度は、得られるPO微多孔膜の孔径の観点から、熱固定工程(f)における延伸温度よりも高いことが好ましく、得られるPO微多孔膜の熱収縮率及び気孔率の制御の観点から、温度変調DSC法により昇温測定されたNonreversing Heat Flowの高温側のピーク温度より20℃低い温度からピーク温度より10℃高い温度までの間がより好ましい。また、緩和操作における温度が上記の範囲内であることで、延伸工程による残留応力を除去することができるだけでなく、分子鎖の配向を強固に固定化することもできるため、PO微多孔膜の融点近傍におけるイオン透過性の低下を防ぎ、電気化学デバイス性能を向上させる観点から好ましい。
【0089】
熱固定時の具体的な緩和温度としては、PO微多孔膜の温度変調DSC測定においてNonreversing Heat Flowの融解ピークを制御するという観点から128℃以上が好ましく、電気化学デバイスのサイクル特性の観点から131℃以上がより好ましく、安全性の観点から133℃以上がさらに好ましい。
【0090】
上記工程(a)~(f)の順序は、本発明の効果を損なわない限り、任意に変更されることができる。上記工程(a)~(f)後に、PO微多孔膜の総延伸倍率は、50倍以上100倍以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは60倍以上90倍以下であり、さらに好ましくは70倍以上80倍以下の範囲内にある。ここで「総延伸倍率」とは、一次延伸工程(d)におけるMD及び/又はTDの延伸倍率と熱固定工程における延伸倍率及び/又は緩和倍率を乗じた値のことをいう。
【0091】
〔他の工程〕
本実施形態のPO微多孔膜の製造方法は、上記工程(a)~(f)以外の他の工程を含むことができる。他の工程としては、特に限定されないが、例えば、上記熱固定の工程に加え、積層体であるPO微多孔膜を得るための工程として、単層体であるPO微多孔膜を複数枚重ね合わせる積層工程が挙げられる。代替的には、PO微多孔膜の製造方法は、共押出で得られた積層体を工程(a)~(f)の後に剥離することで2枚以上の単層体を得る剥離工程を含んでもよい。また、本実施形態のPO微多孔膜の製造方法は、PO微多孔膜の表面に対して、電子線照射、プラズマ照射、界面活性剤の塗布、化学的改質等の表面処理を施す表面処理工程を含んでもよい。更には、無機粒子の材料を、PO微多孔膜の片面又は両面に塗工して、無機材層を備えたPO微多孔膜を得てもよい。
【0092】
<無機塗工層の形成>
安全性、寸法安定性、耐熱性などの観点から、PO微多孔膜表面に無機塗工層を設けることができる。無機塗工層は、無機粒子などの無機成分を含む層であり、所望により、無機粒子同士を結着させるバインダ樹脂、無機粒子を溶媒中に分散させる分散剤などを含んでよい。
【0093】
無機塗工層に含まれる無機粒子の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
バインダ樹脂としては、例えば、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、及び含フッ素樹脂などが挙げられる。また、バインダ樹脂は、ラテックスの形態であることができ、水又は水系溶媒を含むことができる。
分散剤は、スラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテル、界面活性剤などである。
【0094】
無機粒子の粒子径分布において、粒径D50は、好ましくは0.05μm~1.2μm、より好ましくは0.05μm~0.8μm、更に好ましくは0.05μm~0.5μmの範囲内である。D50が0.05μm以上であると、多孔層からPO微多孔膜の孔内への無機粒子のマイグレーションが抑制されて、多層多孔膜の透過性が良好になることがある。また、D50が1.2μm以下であると、多孔層の耐熱性が得られ易い。
【0095】
無機塗工層は、例えば、上記で説明された含有成分のスラリーをPO微多孔膜表面に塗布乾燥することにより形成されることができる。
【0096】
<接着層の形成>
エネルギー密度を高めるために近年車載向け電池にも採用されることが増えているラミネート型電池の変形又はガス発生による膨れを防ぐため、PO微多孔膜表面に、熱可塑性樹脂を含む接着層を設けることができる。接着層に含まれる熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンテトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0097】
更に、熱固定工程(f)、積層工程又は表面処理工程の後に、PO微多孔膜を捲回したマスターロールに対して、所定の温度条件下においてエージング処理を施した後、該マスターロールの巻き返し操作を行うこともできる。これにより、巻き返し前のPO微多孔膜より熱的安定性の高いPO微多孔膜を得易くなる傾向にある。上記の場合、マスターロールをエージング処理する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは45℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。また、PO微多孔膜の透過性保持の観点から、マスターロールをエージング処理する際の温度は、120℃以下が好ましい。エージング処理に要する時間は、特に限定されないが、24時間以上であると、上記効果が発現し易いため好ましい。
【0098】
<電気化学デバイス用セパレータ>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスのためのセパレータとして利用されることができる。ポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン二次電池に組み込まれることによって、リチウムイオン2次電池の熱暴走を抑制することができる。
【0099】
<電気化学デバイス>
本実施形態に係るPO微多孔膜を捲回するか、又は複数積層して成る捲回体又は積層体を収納している電気化学デバイスも本発明の一態様である。電気化学デバイスとしては、例えば、非水系電解液電池、非水系電解質電池、非水系リチウムイオン二次電池、非水系ゲル二次電池、非水系固体二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。
【0100】
本実施形態に係る非水電解質電池は、上述したPO微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩を含む。)を備えている。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、非水電解液電池用セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、容器に収容されている。
【0101】
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0102】
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等から成る群から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素化合物、錫化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。特に、珪素(Si)若しくは錫(Sn)の単体又は合金、化合物、固溶体等の珪素化合物若しくは錫化合物が、電池の容量密度が大きくなる傾向にあるため好ましい。
【0103】
炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。
【0104】
負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン-ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
【0105】
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(CFSO、LiAsF、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。
【0106】
なお、上述した各種パラメータの測定方法については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定されるものである。
【実施例
【0107】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。特に断りのない場合は、室温23℃、湿度40%の環境で測定した。
【0108】
(1)分子量及び密度
(1a)GPC-光散乱によるポリエチレンの多分散度(Mw/Mn)、(Mz/Mw)の測定(光散乱-絶対法)
示差屈折率計と光散乱検出器を接続したGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、多分散度(Mw/Mn)、及び、(Mz/Mw)を測定した。具体的には、Agilent社製、示差屈折計(RI)と、光散乱検出器(PD2040)、を内蔵したPL-GPC200を使用した。カラムとして、Agilent PLgel MIXED-A(13μm、7.5mmI.D×30cm)を2本連結して使用した。160℃のカラム温度で、溶離液として、1,2,4-トリクロロベンゼン(0.05wt%の4,4’-Thiobis(6-tert-butyl-3-methylphenolを含有)を、流速1.0ml/min、注入量500μLの条件で測定し、RIクロマトグラムと、散乱角度15°と90°の光散乱クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムより、Cirrusソフトを用いて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びz平均分子量(Mz)を得た。このMzとMwの値を用いて多分散度(Mz/Mw)を、また、MwとMnの値を用いて多分散度(Mw/Mn)を得た。なお、ポリエチレンの屈折率増分の値は、0.053ml/gを用いた。
【0109】
(1b)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定(GPC-相対法)
・試料の調製
ポリオレフィン原料を秤量し、濃度が1mg/mlになるように溶離液1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を加えた。高温溶解器を用いて、160℃で30分静置した後、160℃で1時間揺動させ、試料が全て溶解したことを目視で確認した。160℃のまま、試料液を0.5μmフィルターでろ過し、ろ液をGPC測定試料とした。
・GPC測定
GPC装置として、Agilent社製のPL-GPC220(商標)を用い、東ソー(株)製のTSKgel GMHHR-H(20) HT(商標)の30cmカラム2本を使用し、上記で調整したGPC測定試料500μlを測定機に注入し、160℃にてGPC測定を行った。
なお、標準物質として市販の分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データを得た。ポリエチレンの場合は、ポリスチレン換算の分子量分布データに0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算の分子量分布データを取得した。これより、各試料の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を算出することで、分子量分布(Mw/Mn)を得た。
【0110】
(1c)粘度平均分子量(Mv)
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。PO微多孔膜およびポリエチレン原料については次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレン原料については、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0111】
(1d)密度(g/cm
JIS K7112:1999に従い、密度勾配管法(23℃)により、試料の密度を測定した。
【0112】
(2)膜厚(μm)
東洋精機(株)社製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて、室温23±2℃でPO微多孔膜又は多孔層の膜厚を測定した。
【0113】
(3)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料をPO微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/密度)/体積×100
【0114】
(4)透気度(sec/100cm
JIS P-8117に準拠した透気抵抗度を透気度とした。
PO微多孔膜の透気度の測定は、JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G-B2(商標)を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下でPO微多孔膜の透気抵抗度を測定し、透気度とした。
【0115】
(5)突刺強度(gf)及び目付換算突刺強度(gf/(g/m))
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでPO微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、先端が直径1.0mm、曲率半径0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を求め、目付に換算した値(gf/(g/m))も算出した。
【0116】
(6)孔径(μm)
ハーフドライ法に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用い、PO微多孔膜の平均孔径(μm)を測定した。浸液には同社製のパーフルオロポリエステル(商品名「Galwick」、表面張力15.6dyn/cm)を用いた。乾燥曲線、及び湿潤曲線について、印加圧力、及び空気透過量の測定を行い、得られた乾燥曲線の1/2の曲線と湿潤曲線とが交わる圧力PHD(Pa)から、次式により平均孔径dHD(μm)を求め、孔径とした。
dHD=2860×γ/PHD
【0117】
(7)120℃又は150℃での熱収縮率(%)
PO微多孔膜をMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、所定温度(120℃又は150℃)のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを2枚の紙に挟んだ。紙としては、富士ゼロックスインターフィールド製V-Paperモノクロコピー/プリンター用紙(坪量64g/m)を使用した。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にて熱収縮率を算出した。測定はMD方向、TD方向でそれぞれ行なった。
熱収縮率(%)={(100-加熱後の長さ)/100}×100
【0118】
(8)温度変調DSCの吸熱ピーク温度(℃)
装置はTAインスツルメント製DSC Q200を用いた。測定は下記の条件にて行った。
測定温度範囲:40℃~190℃、
平均昇温速度:1.0℃/min.
温度変調振幅:±0.16℃
温度変調周期:60秒
測定雰囲気:50ml/min.窒素雰囲気下
温度校正および熱量校正は、インジウムを標準物質として用い、昇温速度1.0 ℃/min.の条件で行った。
試料容器:日立ハイテクサイエンス製 AIオープン型試料容器、およびクリンプカバー
サンプリング方法:折り重ねた膜試料を4.5mmφに打ち抜き、5~7mg試料容器に入れてクリンプした。
【0119】
Reversing Heat Flow、Nonreversing Heat Flowの算出は、TA社製解析ソフトUniversal Anaysis 2000を用いて行った。上記の条件で得られた全熱流のうち、温度変調に追従する成分をReversing Heat Flowとし、全熱流からReversing Heat Flowを差し引くことで得られた成分をNonreversing Heat Flowとした。このように得られたReversing Heat Flow、Nonreversing Heat Flowから、吸熱ピーク温度(℃)を算出し、そのうちNonreversing Heat Flowにおいて吸熱ピークの高さが最大の温度(℃)を最大ピーク温度(℃)とした。
【0120】
(9)Reversing Heat Flowの120.0℃までの熱量(J/g)
TA社製解析ソフトUniversal Anaysis 2000を用いて上記で得られたReversing Heat Flowの42.0℃~170.0℃にベースラインを引き、120.0℃で垂線を下ろした際の面積を算出し、120.0℃までの吸熱量を融解熱量とした。
【0121】
(10)シャットダウン温度測定
厚さ10μmのNi箔を2枚(A,B)用意し、一方のNi箔Aを縦15mm、横10mmの長方形部分を残してテフロン(登録商標)テープでマスキングするとともに他方のNi箔Bには測定試料のセパレータを置き、セパレータの両端をテフロン(登録商標)テープで固定した。このNi箔Bを電解液1mol/Lのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ-ブチルラクトン=体積比1/1/2の混合溶媒)に浸漬してセパレータに電解液を含浸させた後、Ni箔(A,B)を貼り合わせ、2枚のガラス板で両側をクリップで押さえた。このようにして作製したNi箔電極を25℃のオーブンに入れ、200℃まで2℃/minで昇温した。この際のインピーダンス変化を電気抵抗測定装置「AG-4311」(安藤電気社製)を用いて、1V、1kHzの条件下で測定した。この測定においてインピーダンス値が1000Ωに達した温度をシャットダウン温度(℃)とした。
【0122】
(11)破膜温度
上記シャットダウン温度測定において、電気抵抗値が10Ωから10Ωに到達し、その後、再び10Ωを下回るときの温度を破膜温度とした。ただし、抵抗値が当初から10Ωを超えている場合は、10Ωを下回る時の温度を破膜温度とした。
【0123】
(12)TMAの最大収縮応力(gf)
島津製作所製TMA50(商標)を用いてサンプルの熱収縮を測定した。MD(TD)方向の値を測定する場合は、TD(MD)方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を1.0g、定長測定モードとし、30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度でサンプルを加熱し、その時に発生する荷重(gf)を測定し、その最大値をMD(又はTD)最大熱収縮応力(gf)とした。
【0124】
(13)無機粒子の平均粒径及び粒子径分布
無機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒子径分布及びメジアン径(μm)について、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、無機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒子径分布を測定した。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダ高分子の粒子径分布を用いて、無機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒子径分布を調整した。累積頻度が50%となる粒径をD50とした。
【0125】
(14)電池評価
以下の手順a-1~a-5により、電池を作製した。
a-1.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。この時の正極活物質塗布量は109g/mであった。
【0126】
a-2.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。この時の負極活物質塗布量は52g/mであった。
【0127】
a-3.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
【0128】
a-4.接着層の形成
以下の手順により、実施例及び比較例で得られたPO微多孔膜上に、接着層を形成した。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に、水64部とペレックスSS-L(花王株式会社製アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム 固形分45%)0.25部とを投入した。さらに、反応容器の温度を80℃に保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を0.15部、上記反応容器に添加した。
過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を添加した5分後に、以下のとおり作製した乳化液を、滴下槽から上記反応容器に150分掛けて滴下した。
乳化液の作製:
メタクリル酸メチル(MMA)24部、アクリル酸ブチル(BA)34部、アクリル酸(AA)1.5部、n-ドデシルメルカプタン(nDDM)0.1部、ペレックスSS-L1.5部、過硫酸アンモニウム0.15部、および水69部を、ホモミキサーにより6000rpmで5分間混合して乳化液を作製した。
【0129】
乳化液滴下終了後、反応容器の温度を80℃に保ったまま60分維持し、その後、室温まで冷却した。次に、上記反応容器に25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.0に調整し、さらに水を加え、固形分含有率を40質量%に調整し、接着塗工液としてのアクリルエマルジョンを得た。
【0130】
得られたエマルジョン7.5質量部を92.5質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、PO微多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗布した。塗布物を60℃にて乾燥して、水を除去した。さらに、もう片面も同様にして塗布液を塗工し、乾燥させることにより、接着層を有する電気化学セル用セパレータを得た。
【0131】
a-5.電池作製
上記a-1~a-3で得られた正極、負極、及び非水電解液、並びに上記a-4で得られたセパレータを使用して、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3000mAhのラミネート型二次電池を作製した。
【0132】
a-6.容量測定(mAh)
上記のようにして組み立てたラミネート型二次電池にて、電流値1500mA(0.5C)、及び終止電池電圧4.2Vの条件下で6時間定電流定電圧(CCCV)充電を行った。このとき充電終了直前の電流値はほぼ0の値となった。その後、25℃雰囲気下で電池を1週間放置(エージング)した。
【0133】
その次に、電流値3000mA(1.0C)、及び終止電池電圧4.2Vの条件下で3時間定電流定電圧(CCCV)充電し、一定電流値(CC)3000mAで電池電圧3.0Vまで放電する、というサイクルを行った。このときの放電容量を初回放電容量Xとした。初回放電容量Xが3000±10mAh以内の電池を電池評価に使用した。
【0134】
b.出力試験(25℃)
上記のようにして組み立てて評価のために選定されたラミネート型二次電池について、25℃の雰囲気下の恒温状態で放電終止電圧3Vまでの1C放電容量と5C放電容量を測定し、5C容量/1C容量を出力特性値とした。なお、下記基準に即して出力特性値を評価した。
A:出力特性値が0.90以上。
B:出力特性値が0.80以上0.90未満。
C:出力特性値が0.80未満。
【0135】
c.サイクル試験
上記のようにして組み立てて評価のために選定された電池を用いて、(i)電流量0.5C、上限電圧4.2V、合計8時間の定電流定電圧充電、(ii)10分間の休止、(iii)電流量0.5C、終止電圧3.0Vの定電流放電、(iv)10分間の休止、のサイクル条件下で都合100回の充放電を行った。上記充放電処理は全て25℃の雰囲気下にてそれぞれ実施した。その後、上記初回電池容量X(mAh)に対する上記100サイクル目の放電容量の比を100倍することで、容量維持率(%)を求めた。なお、下記基準に即して容量維持率を評価した。
A:容量維持率(%)が90%以上。
B:容量維持率(%)が80%以上90%未満。
C:容量維持率(%)が80%未満。
【0136】
d.オーブン試験(150℃)
上記のようにして組み立てて評価のために選定された電池を用いて、充電後の電池を室温から150℃まで5℃/分で昇温し、150℃で所定の時間放置し、発火状況を確認した。なお、下記基準に即して高温保管試験の結果を評価した。
A:放置時間60分以上でも発火しなかったもの。
B:放置時間30分以上60分未満で発火したもの。
C:放置時間30分未満で発火したもの。
【0137】
e.衝撃試験
図1は、衝撃試験の概略図である。
衝撃試験では、試験台上に配置された試料の上に、試料と丸棒(φ=15.8mm)が概ね直交するように、丸棒を置いて、丸棒から61cmの高さの位置から、丸棒の上面へ18.2kgの錘を落すことにより、試料に対する衝撃の影響を観察する。
図1を参照して、実施例及び比較例における衝撃試験の手順を以下に説明する。
上記のようにして組み立てて評価のために選定されたラミネート型二次電池について、電流値3000mA(1.0C)、及び終止電池電圧4.2Vの条件下で3時間定電流定電圧(CCCV)充電した。
次に、25℃の環境下で、上記のようにして組み立てて評価のために選定された電池を平坦な面に横向きに置き、電池の中央部を横切るように、直径15.8mmのステンレスの丸棒を配置した。丸棒は、その長軸がセパレータの長手方向と平行となるように配置した。電池の中央部に配置した丸棒から電池の縦軸方向に対して、直角に衝撃が加わるように、18.2kgの錘を61cmの高さから落下させた。衝突後、電池の表面温度を測定した。5セルずつ試験を行い、下記基準に即して評価した。本評価項目については、A(良好)とB(許容)を合格の基準とした。なお、電池の表面温度とは、電池の外装体の底側から1cmの位置を熱電対(K型シールタイプ)で測定した温度をいう。
A(良好):全てのセルにおいて、表面温度上昇が30℃以下。
B(許容):表面温度が30℃超過100℃以下のセルがあるが、全てのセルにおいて表面温度が100℃以下。
C(不可):1個以上のセルで表面温度が100℃を超過、又は発火
【0138】
[実施例1]
表1に示されるポリエチレン(PE)種及びポリプロピレン(PP)種、並びに表2に示されるPE種、PP種及び原料組成比に従って、PE及びPPをヘンシェルミキサーで混合し、さらに酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を適量加えて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し、押し出される全混合物(100.1質量部)中に占める流動パラフィン(LP)量比が75.0質量部となるように、2回に分けて流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードで添加した。設定温度は、混練部は160℃、Tダイは200℃とした。続いて、溶融混練物をTダイよりシート状に押出し、表面温度70℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚み1100μmのシート状成形物を得た。
【0139】
得られたシート状成形物を同時二軸延伸機に導き、一次延伸膜を得た(一次延伸工程)。設定延伸条件は、MD延伸倍率7倍、TD延伸倍率7倍、MD及びTD延伸温度118℃とした。次いで、得られた一次延伸膜を塩化メチレン槽に導き、十分に浸漬して、可塑剤である流動パラフィンを抽出除去した後、塩化メチレンを乾燥除去し、抽出膜を得た。
【0140】
続いて、熱固定を行なうべく抽出膜をTD一軸テンターに導いた。熱固定工程として、TD延伸温度130℃、TD延伸倍率2.00倍の条件下での延伸操作の後、緩和温度132℃、緩和倍率0.80倍の条件下で緩和操作を行った。得られたPO微多孔膜の各種特性を上記方法により評価した。製膜条件を表2に、結果を表4に示す。また、得られたPO微多孔膜の温度変調DSCの測定結果の概略図を図2に示す。
【0141】
[実施例2~36,38~44及び比較例1~11]
原料種、原料組成比、シート厚み、延伸工程条件、熱固定工程条件及び総延伸倍率を、それぞれ表2又は表3に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にしてPO微多孔膜を得た。得られたPO微多孔膜の各種特性を上記方法により評価した。結果を表4又は表5に示す。また、比較例9で得られた微多孔膜の温度変調DSCの測定結果の概略図を図3に示す。
【0142】
[実施例45]
実施例1のポリオレフィン微多孔膜の表面に、コロナ放電処理を実施した。表2に示されるとおり、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト、ブロック状、D50=0.70μm)を95.0質量部と、アクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm)を固形分換算で4.0質量部、並びにポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)固形分換算で0.8質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を得て、ポリオレフィン微多孔膜の処理表面にグラビアコーターを用いて塗布液を塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、ポリオレフィン微多孔膜の一面に、塗工厚み2μm及び気孔率50%の多孔層を形成して、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜は、総厚7.5μm、透気度130sec/100cm、120℃での熱収縮率2.0%/1.5%であった。多層多孔膜をセパレータとして備える電池評価結果も表7に示す。
【0143】
[実施例46~48]
基材とするポリオレフィン微多孔膜および使用するフィラーの粒径を、それぞれ表6に示すように設定したこと以外は実施例45と同様にして多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜の各種特性を上記方法により評価した。結果を表7に示す。
【0144】
【表1-1】
【0145】
【表1-2】
【0146】
【表2-1】
【0147】
【表2-2】
【0148】
【表2-3】
【0149】
【表2-4】
【0150】
【表2-5】
【0151】
【表2-6】
【0152】
【表3-1】
【0153】
【表3-2】
【0154】
【表4-1】
【0155】
【表4-2】
【0156】
【表4-3】
【0157】
【表4-4】
【0158】
【表4-5】
【0159】
【表4-6】
【0160】
【表5-1】
【0161】
【表5-2】
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【0164】
表4の結果から明らかなように、温度変調DSCのNonreversing Heat Flowの高温側のピーク温度が141.0℃以上である実施例ではオーブン試験と衝撃試験が良好なセパレータを得ることができた。特に、PO微多孔膜の粘度平均分子量が大きくなるほど、Nonreversing Heat Flowの高温側のピーク温度が高温側にシフトし、衝撃試験が良化傾向であった(実施例1 VS 実施例16 VS 実施例17 VS 実施例18)。さらに、原料PEのMw/Mn又はMz/Mwが高いものはオーブン試験と衝撃試験を高次元で両立できた(実施例1 VS 実施例20)。さらに、PO微多孔膜に無機粒子を含む多孔層を導入することで、PO微多孔膜よりもオーブン試験が向上することが見られた(実施例1 VS 実施例45)。
図1
図2
図3