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  • 特許-排気ガス浄化用組成物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/70 20060101AFI20220822BHJP
   B01J 37/28 20060101ALI20220822BHJP
   B01J 29/82 20060101ALI20220822BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B01J29/70 A ZAB
B01J37/28
B01J29/82 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021543954
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022264
(87)【国際公開番号】W WO2021044687
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019161816
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】西川 丞
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 麻祐子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-234109(JP,A)
【文献】特開平11-226425(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131195(WO,A1)
【文献】特表2014-519970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物であって、
前記リンを含有するBEA型ゼオライトは、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上であり、
メソ細孔にリンが修飾され、1000℃で25時間の熱耐久試験後の比表面積維持率が68%以上である、排気ガス浄化用組成物。
【請求項2】
前記リンを含有するBEA型ゼオライトのマイクロ細孔容積V2が0.1cm/g以上0.3cm/g以下の範囲内である、請求項1に記載の排気ガス浄化用組成物。
【請求項3】
前記リンを含有するBEA型ゼオライトのメソ細孔容積V1が0.001cm/g以上0.08cm/g以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用組成物。
【請求項4】
前記リンを含有するBEA型ゼオライトのP/Alモル比が0.7以上1.0以下の範囲内である、請求項1から3のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用組成物。
【請求項5】
前記リンを含有するBEA型ゼオライトのSiO/Alモル比が10以上100以下の範囲内である、請求項1から4のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用組成物。
【請求項6】
リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物の製造方法であって、
BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が1.8以上であるBEA型ゼオライトを準備する工程と、
前記BEA型ゼオライトと、リンを含有する化合物を接触させて、リンを含有する化合物を前記BEA型ゼオライトに付着させ、メソ細孔にリンが修飾される工程と、
リンを含有する化合物を含む前記BEA型ゼオライトを熱処理し、リンを含有するBEA型ゼオライトを得る工程と、を含み、前記BEA型ゼオライトが、1000℃で25時間の熱耐久試験後の比表面積維持率が68%以上である、排気ガス浄化用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記リンを含有する化合物が、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の排気ガス浄化用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理する温度が、200℃以上800℃以下の範囲内である、請求項6又は7に記載の排気ガス浄化用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車や自動二輪車(乗鞍型車両ともいう)等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中には、未燃燃料による炭化水素(HC)、不完全燃焼による一酸化炭素(CO)、過度の燃焼温度による窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。このような内燃機関からの排気ガスを処理するために、排気ガス浄化用触媒に用いる排気ガス浄化用組成物が用いられている。排気ガス中の例えば炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素に転化させて浄化する。一酸化炭素は(CO)は酸化して二酸化炭素に転化させて浄化する。また、窒素酸化物(NOx)は還元して窒素に転化させて浄化する。炭化水素(HC)の触媒による浄化は、排気ガス温度の影響が強く、一般に300℃以上の高温が必要とされている。内燃機関の始動直後の排気ガス温度が低いときは、炭化水素(HC)は触媒によって浄化されにくいにもかかわらず、内燃機関始動直後には、炭化水素(HC)が排出されやすい。このため、内燃機関始動直後は炭化水素(HC)を吸着しておき、排気ガス温度が300℃以上となって触媒が活性化された際に、炭化水素(HC)を放出し、且つ浄化する排気ガス浄化用組成物が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、周期表第11族元素及びリンを含有するゼオライト触媒の活性化方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、550℃の温度においてヘキサンを分解するものであり、例えば900℃以上1100℃の高温の温度範囲でも使用される排気ガスの浄化用には、耐久性に問題がある。特許文献2には、厳しい熱環境下においても、BEA型ゼオライトの構造維持が可能なリンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-239924号公報
【文献】国際公開第2018/131195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BEA型ゼオライトは、炭化水素(HC)の吸着能に優れているため、厳しい熱環境下における耐熱性のさらなる向上が求められている。
【0006】
そこで本発明は、厳しい熱環境下においても使用可能である、耐熱性をより向上したリンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物であって、前記リンを含有するBEA型ゼオライトは、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上である、排気ガス浄化用組成物を提案する。
【0008】
本発明は、リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物の製造方法であって、
BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が1.8以上であるBEA型ゼオライトを準備する工程と、
前記BEA型ゼオライトと、リンを含有する化合物とを接触させて、リンを含有する化合物を前記BEA型ゼオライトに付着させる工程と、
リンを含有する化合物を含む前記BEA型ゼオライトを熱処理し、リンを含有するBEA型ゼオライトを得る工程と、を含む、排気ガス浄化用組成物の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、厳しい熱環境下における骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が低減された、リンを含有するBEA型ゼオライトを含み、耐熱性をより向上した排気ガス浄化用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び比較例3の排気ガス浄化用組成物については、BJH法の測定により得られた細孔分布及び累積細孔分布のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態の一例は、リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物であって、前記リンを含有するBEA型ゼオライトは、BJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法(Saito-Foley法)により測定される細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上である、排気ガス浄化用組成物である。マイクロ細孔容積V2は、具体的には、詳細を後述するSF法により測定される0nm以上2nm以下の範囲の細孔径のマイクロ細孔容積である。
【0013】
ゼオライトは、四面体構造をもつTO単位(Tは中心原子)が酸素(O)原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を示す。具体的には、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下、「IZA」とも称する。)の構造委員会データ集に記載されたケイ酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩が含まれる。
【0014】
ここで、ケイ酸塩には、例えばアルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が含まれる。ゲルマニウム塩には、例えばアルミノゲルマニウム塩等が含まれる。ヒ酸塩には、例えばアルミノヒ酸塩等が含まれる。ゼオライトとして用いられる例えばアルミノケイ酸塩は、例えば骨格中のSi又はAlの一部が、Ti、Ga、Mg、Mn、Fe、Co、Zn等の2価や3価のカチオンで置換したものも含まれる。ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩を含むゼオライトを用いることが好ましい。
【0015】
排気ガス浄化用組成物に含まれるゼオライトは、BEA型ゼオライトを含むことが好ましい。ゼオライトの骨格構造は、IZAによりデータベース化されている。BEA型ゼオライトには、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔と、細孔径が2nm以下の範囲であるマイクロ細孔が含まれる。ここで細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャンネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示す。細孔径とは、細孔(チャンネル)の形状が真円形の場合は、その平均直径を意味する。細孔の形状が楕円形等の一方向に長い形状である場合には、短径を意味する。
【0016】
排気ガス浄化用組成物は、リンを含有するBEA型ゼオライトを含み、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔にリンが修飾されているため、メソ細孔の孔径が小さくなってマイクロ細孔となり、BEA型ゼオライトに含まれるメソ細孔の細孔容積を低減することができる。ゼオライトに含まれるメソ細孔は、厳しい熱環境下におかれた場合に、骨格構造の欠損の起因になると考えられる。排気ガス浄化用組成物に含まれるリンを含有するBEA型ゼオライトは、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が低減されているため、厳しい熱環境下におかれた場合であっても、骨格構造を維持し、耐熱性をより向上することができる。
【0017】
リン源から発生したリンは、例えばリン酸イオンの形態になっていると推測され、細孔容積比V2/V1が1.8以上であるBEA型ゼオライトにおいて、ブレンステッド酸点よりも、金属イオンであるルイス酸点に結合しやすいと推測される。このため、細孔容積比が2.0以上のリンを含有するBEA型ゼオライトは、メソ細孔にリンが修飾されて孔径が小さくなり、マイクロ細孔となった場合であっても、表面のブレンステッド酸点は、維持されている。排気ガス浄化用組成物に含まれるリンを含有するBEA型ゼオライトは、熱によって生じる欠損の起因となるメソ細孔が低減されて、厳しい熱環境下におかれた場合であっても、BEA型ゼオライトの骨格構造が維持され、骨格構造中に炭化水素(HC)を吸着することができる。BEA型ゼオライトの表面に存在するブレンステッド酸点とルイス酸点は、ピリジンをプローブ分子とした赤外分光法(IR)による赤外吸収スペクトルによって、それぞれの酸点(水酸基(OH))の存在を推測することが可能である。例えば、ピリジンをプローブ分子として、赤外分光法(IR)によってBEA型ゼオライトの赤外吸収スペクトルを測定すると、ブレンステッド酸点又はルイス酸点の違いによって、それぞれ異なる波数領域にプローブ分子の吸収バンドが現れ、さらに各プローブ分子の吸収バンドとは異なる波数領域に酸点(水酸基(OH基))の吸収バンドが現れる。このプローブ分子の吸収バンドの波数領域と、水酸基(OH基)の吸収バンドの波数領域とから、ブレンステッド酸点と、金属イオンの欠陥等に由来するルイス酸点を推測することが可能である。
【0018】
リンを含有するBEA型ゼオライトは、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径が2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上である。リンを含有するBEA型ゼオライトの細孔容積比(V2/V1)が2.0以上であると、メソ細孔容積V1に対してマイクロ細孔容積V2が大きく、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が低減され、厳しい熱環境下におかれた場合であっても骨格構造が維持されて、耐熱性をより向上することができる。また、リンを含有するBEA型ゼオライトは、マイクロ細孔に炭化水素(HC)を吸着させて、炭化水素(HC)の高い浄化性能を維持することができる。リンを含有するBEA型ゼオライトの細孔容積比(V2/V1)は、メソ細孔容積V1に対するマイクロ細孔容積V2が大きい方が好ましい。細孔容積比(V2/V1)は、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.4以上、さらに好ましは2.5以上である。細孔容積比(V2/V1)の上限値は特に制限されないが、BEA型ゼオライトの強度維持の点から、細孔容積比(V2/V1)は、10以下であってもよく、6.5以下であってもよく、4.0以下であってもよい。
【0019】
メソ細孔容積V1は、ISO 15901-2に記載のBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)による窒素吸着等温線から算出される、細孔径2nm以上100nm以下である細孔の合計の容積である。
【0020】
マイクロ細孔容積V2は、ISO 15901-3(JIS Z8831-3)に記載の定数を使用して、SF法(Saito-Foley法)による窒素吸着等温線から算出される、細孔径0nm以上2nm以下である細孔の合計の容積である。メソ細孔容積V1及びマイクロ細孔容積V2を測定する際には、測定対象となる試料は、予め付着している水又は有機物などの吸着揮発性物質を除去するために、後述する実施例に記載の条件にて、加熱しながら真空排気をする前処理を行う。
【0021】
リンを含有するBEA型ゼオライトのマイクロ細孔容積V2は、0.1cm/g以上0.3cm/g以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.12cm/g以上0.29cm/g以下の範囲内であり、さらに好ましくは0.15cm/g以上0.28cm/g以下の範囲内であり、特に好ましくは0.16cm/g以上0.28cm/g以下の範囲内である。リンを含有するBEA型ゼオライトのマイクロ細孔容積V2が0.1cm/g以上0.3cm/g以下の範囲内であれば、メソ細孔容積に対するマイクロ細孔容積の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上となり、メソ細孔容積に対してマイクロ細孔容積を十分に大きくすることができる。リンを含有するBEA型ゼオライトのマイクロ細孔容積V2が0.1cm/g以上0.3cm/g以下の範囲内であれば、効率的に、マイクロ細孔に炭化水素(HC)を吸着して、炭化水素(HC)を酸化し、炭化水素(HC)を浄化することができる。
【0022】
リンを含有するBEA型ゼオライトのメソ細孔容積V1は、0.001cm/g以上0.08cm/g以下の範囲内であることが好ましくは、より好ましくは0.075cm/g以下であり、さらに好ましくは0.070cm/g以下であり、特に好ましくは0.065cm/g以下である。リンを含有するBEA型ゼオライトのメソ細孔容積V1は、小さい方が好ましいが、メソ細孔の存在しないBEA型ゼオライトを形成すること困難であり、0.001cm/g以上の容積のメソ細孔が含まれる。本実施形態に係る細孔容積比V2/V1が2.0以上のリンを含有するBEA型ゼオライトは、メソ細孔がリンで修飾されるため、メソ細孔容積を0.08cm/g以下に小さくすることができる。
【0023】
リンを含有するBEA型ゼオライトのアルミニウムに対するリンのモル比であるP/Alモル比が0.7以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。BEA型ゼオライトの骨格構造を形成するTO単位のT原子(中心原子)としてのAlに対するリン(P)のモル比であるP/Alモル比が0.7以上1.0以下の範囲内であれば、BEA型ゼオライトに含まれるリンは、Alによって形成されるルイス酸点に修飾され、吸着した炭化水素(HC)の酸化の活性点となるブレンステッド酸点が維持されるため、浄化性能を維持したまま、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔を低減することができ、厳しい熱環境下においても骨格構造を維持して、耐熱性をより向上することができる。リンを含有するBEA型ゼオライト中のP/Alモル比が1を超えて大きくなると、リンの含有量が大きくなり、炭化水素の酸化反応の活性点となるブレンステッド酸点にもリンが修飾される可能性があり、活性点が少なくなって、浄化性能を維持することが難しくなる場合がある。リンを含有するBEA型ゼオライト中のアルミニウム(Al)量及びリン(P)量は、後述する実施例の方法による組成分析装置として、蛍光X線分析装置(例えば株式会社リガク製)を用いてリンを含有するBEA型ゼオライト中のアルミニウム(Al)量及びリン(P)量を測定し、得られた測定値から算出することができる。
【0024】
リンを含有するBEA型ゼオライトのSiO/Alモル比が10以上100以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは20以上90以下の範囲内であり、さらに好ましくは25以上80以下の範囲内である。リンを含有するBEA型ゼオライトのSiO/Alモル比が10以上100以下の範囲内であれば、厳しい熱環境に置かれた場合におけるBEA型ゼオライトの骨格構造の維持と、高い炭化水素(HC)の吸着能とを高度にバランスさせることができる。また、リンを含有するBEA型ゼオライトのSiO/Alモル比が10以上100以下の範囲内であれば、吸着した炭化水素(HC)を浄化する際の酸化反応の活性点となるブレンステッド酸点を十分に有する。リンを含有するBEA型ゼオライト中のSiO/Alモル比は、後述する実施例の方法による組成分析装置として、蛍光X線分析装置(例えば株式会社リガク製)を用いてリンを含有するBEA型ゼオライト中のアルミニウム(Al)量及びケイ素(Si)量を測定し、得られた測定値からSiO/Alモル比を算出することができる。
【0025】
次に排気ガス浄化用組成物の製造方法の一例について説明する。排気ガス浄化用組成物の製造方法は、以下に記載する例に限定されない。
【0026】
リンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物の製造方法は、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ孔容積V1に対する、細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の比(V2/V1)が1.8以上であるBEA型ゼオライトを準備する工程と、前記BEA型ゼオライトと、リンを含有する化合物とを接触させて、リンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させる工程と、リンを含有する化合物を含む前記BEA型ゼオライトを熱処理し、リンを含有するBEA型ゼオライトを得る工程と、を含む。
【0027】
BEA型ゼオライトを準備する工程
BEA型ゼオライトとして、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ孔容積V1に対する、細孔径2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が1.8以上であるBEA型ゼオライトを準備する。準備するBEA型ゼオライトの細孔容積比(V2/V1)は、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、特に好ましくは2.5以上である。準備するBEA型ゼオライトの細孔容積比(V2/V1)は、8.0以下でもよく、7.0以下でもよい。リンを含有させるBEA型ゼオライトして、細孔容積比(V2/V1)が1.8以上であれば、メソ細孔にリンを修飾させて、メソ細孔の孔径を小さくしてマイクロ細孔とし、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔を低減して、耐熱性をより向上することができる。BEA型ゼオライトは、リンを含有する化合物と接触させる前に乾燥させて用いてもよい。BEA型ゼオライトを乾燥させる場合には、乾燥温度は80℃以上200℃以下とすることができ、乾燥時間は0.5時間以上5時間以内とすることができる。また、乾燥時の圧力は、特に制限されず、大気圧(0.1MPa)であってもよく、0.1MPa以下の減圧下であってもよい。
【0028】
リンを含有する化合物を付着させる工程
BEA型ゼオライトとリンを含有する化合物とを接触させて、リンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させる方法としては、蒸着法、含浸法、沈殿法、イオン交換法等が挙げられる。蒸着法としては、BEA型ゼオライトと、リンを含有する化合物を容器に入れて、常温又は加熱してリンを含有する化合物を蒸発させて、BEA型ゼオライトに付着させる方法が挙げられる。含浸法としては、リンを含有する化合物と溶媒とを混合した液体にBEA型ゼオライトを浸漬し、常圧又は減圧下で混合液を加熱乾燥させて、リンを含有させる化合物をBEA型ゼオライトに付着させる方法が挙げられる。ここで、BEA型ゼオライトに付着させたリンを含有する化合物は、リンであってもよく、リンを含むイオンであってもよい。含浸法としては、インシピエントウェットネス(incipientwetness)法、蒸発乾固法、ポアフィリング(pore-filling)法、スプレー法、平衡吸着法等が挙げられる。沈殿法としては、混錬法、沈着法等が挙げられる。
【0029】
蒸着法によりリンをBEA型ゼオライトに付着させる場合には、リンを含有する化合物として、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等が挙げられる。沸点が低い点から、リン酸トリメチルが好ましい。含浸法によりリンをBEA型ゼオライトに付着させる場合には、リンを含有する化合物は水溶性であることが好ましく、例えばリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素塩、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素塩等が挙げられる。リン酸としては、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリリン酸(H10)、ポリリン酸、メタリン酸(HPO)、ウルトラリン酸等が挙げられる。乾燥が容易である点から、オルトリン酸等のリン酸、リン酸トリメチル、リン酸二水素アンモニウム又はリン酸水素二アンモニウムのリン酸アンモニウムが好ましい。リンを含有する化合物と混合する溶媒としては、例えば脱イオン水、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の極性有機溶媒が挙げられる。取り扱い易く、乾燥しやすい点から脱イオン水、エタノールを用いることが好ましい。混合液の全体量100質量%に対して、リンを含有する化合物は、1質量%以上25質量%以下の範囲内であってもよく、2質量%以上20質量%以下の範囲内であってもよく、5質量%以上15質量%以下の範囲内であってもよい。含浸法によりBEA型ゼオライトにリンを含有する化合物を付着させる場合は、混合液中にBEA型ゼオライトを含浸する時間は、0.5時間以上2時間以内とすることができる。含浸後、リンを含有する化合物を含むBEA型ゼオライトを乾燥してもよく、乾燥温度は80℃以上200℃以下とすることができ、乾燥時間は0.5時間以上5時間以内とすることができる。また、乾燥時の圧力は、特に制限されず、大気圧(0.1MPa)であってもよく、0.1MPa以下の減圧下であってもよい。
【0030】
熱処理工程
蒸着法又は含浸法によりBEA型ゼオライトにリンを含有する化合物を付着させた後、熱処理し、リンを含むBEA型ゼオライトを得る。熱処理温度は、BEA型ゼオライトの骨格構造を維持して、メソ細孔にリンを修飾させるために、200℃以上800℃以下の範囲内であることが好ましく、400℃以上700℃以下の範囲内であることがより好ましい。熱処理する雰囲気は、大気雰囲気、窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
BEA型ゼオライトにリンを含有する化合物を付着させた後、熱処理することによって、メソ細孔にリンが修飾され、メソ細孔の細孔径が小さくなってマイクロ細孔となり、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔を低減して、耐熱性をより向上することができる。
【0031】
以上のようにして得られたリンを含有するBEA型ゼオライトは、BJH法により測定される細孔径2nm以上100nm以下の範囲であるメソ細孔容積V1に対する、SF法により測定される細孔径が2nm以下の範囲であるマイクロ細孔容積V2の細孔容積比(V2/V1)が2.0以上であり、メソ細孔容積V1に対してマイクロ細孔容積V2が大きく、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が低減され、厳しい熱環境下におかれた場合であっても骨格構造を維持して、耐熱性をより向上することができる。
【0032】
以上のようにして得られたリンを含有するBEA型ゼオライトを含む排気ガス浄化用組成物は、900℃以上1100℃以下の温度範囲、例えば900℃以上1000℃以下の温度範囲の高温に晒された場合であっても、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が低減されているため、BEA型ゼオライトの骨格構造が維持されて、安定した炭化水素(HC)の吸着能を示す。さらに、排気ガス浄化用組成物に含まれるリンを含有するBEA型ゼオライトは、リンが修飾されている場合であっても、吸着した炭化水素(HC)の酸化反応の活性点となるブレンステッド酸点が維持されているため、900℃以上1100℃以下の温度範囲の高温に晒された場合であっても、安定した高い浄化性能を示す。このような排気ガス浄化用組成物は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の化石燃料を動力源とする内燃機関の排気ガス浄化用触媒として、安定した高い排気ガス浄化性能を発揮することができる。特に、本実施形態の排気ガス浄化用組成物は、その高い耐熱性から、自動四輪車や自動二輪車などの内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために好適に用いることができる。本実施形態の排気ガス浄化用組成物は、排気ガス中の特に炭化水素(HC)の浄化に有効に用いられる。本実施形態の排気ガス浄化用組成物は、内燃機関の排気通路を流通する排気ガスに含有される炭化水素(HC)の浄化に好適に用いることができ、排気ガス浄化方法を提供することもできる。
【0033】
排気ガス浄化用組成物は、前記細孔容積比(V2/V1)が2.0以上のリンを含有するBEA型ゼオライトからなる排気ガス浄化用組成物であってもよく、リンを含有するBEA型ゼオライト以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば本実施形態の排ガス浄化用組成物に含まれるリンを含有するBEA型ゼオライト以外の従来公知の触媒材料等が挙げられる。
【0034】
排気ガス浄化用組成物は、粉末状、ペースト状、顆粒状等のいずれの形態であってもよい。例えば、本実施形態の排気ガス浄化用組成物は、触媒支持体上に形成される触媒層として用いることができる。触媒支持体としては、例えば、セラミックス又は金属材料からなる支持体を用いることができる。触媒支持体として用いられるセラミックスとしては、アルミナ(Al)、ムライト(3Al-2SiO)、コージェライト(2MgO-2Al-5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。触媒支持体として用いられる金属材料としては、例えばステンレス等が挙げられる。触媒支持体の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハニカム形状、板形状、ペレット形状等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の排気ガス浄化用組成物を触媒層に用いた触媒構造体は、本実施形態の排気ガス浄化用組成物以外の従来公知の触媒材料からなる触媒層を含んでいてもよい。また、触媒支持体上に形成される触媒層に用いた触媒構造体は、本実施形態の排気ガス浄化用組成物を用いて、触媒支持体上に形成した触媒層を有する触媒構造体として、DPF(Diesel Particulate Filter)やGPF(Gasoline Particulate Filter)に用いることができる。
【0036】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
0.01MPaの大気雰囲気中、150℃で8時間乾燥したプロトン型BEA型ゼオライトaを準備した。後述する方法により測定したプロトン型BEA型ゼオライトaのSiO/Alモル比は37.5であり、細孔容積比V2/V1は2.9であった。蒸着法により、リンを含有する化合物を準備したプロトン型BEA型ゼオライトaに付着させた。具体的には、乾燥したプロトン型BEA型ゼオライト3.00g(乾燥重量)と、99質量%のリン酸トリメチル0.31gとを密閉容器に入れ、0.01MPaまで減圧したのち、80℃で8時間静置し、リンを含有する化合物を蒸着させたBEA型ゼオライトを得た。得られたリンを含有する化合物を含むBEA型ゼオライトの粉末を、0.1MPaの大気雰囲気中、120℃で2時間乾燥させた。乾燥させたリンを含有する化合物を含むBEA型ゼオライトの粉末を、0.1MPaの大気雰囲気中、600℃で3時間熱処理し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトからなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0038】
実施例2
使用したリン酸トリメチルの量を0.37gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトからなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0039】
実施例3
0.1MPaの大気雰囲気中、室温で8時間乾燥したプロトン型BEA型ゼオライトaを準備した。インシピエントウェットネス法により、リンを含有する化合物を準備したプロトン型BEA型ゼオライトaに付着させた。具体的には、準備したプロトン型BEA型ゼオライト3.00g(乾燥重量)を、リン酸トリメチル0.26gを溶媒である脱イオン水2.7mLに溶解させた混合液に含侵して0.1MPaの大気雰囲気中、120℃で2時間乾燥させた。乾燥させたリンを含有する化合物を付着させたBEA型ゼオライトの固体を、0.1MPaの大気雰囲気中、600℃で1時間熱処理して、リンを含有するBEA型ゼオライトの固体を得た。得られた固体を粉砕して、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0040】
実施例4
リン酸水素二アンモニウム0.24gを脱イオン水2.7mLに溶解させた混合液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、インシピエントウェットネス法によりリンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させて、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0041】
参考例5
蒸発乾固法により、リンを含有する化合物をプロトン型BEA型ゼオライトに付着させたこと以外は、実施例4と同様にした。具体的には、準備したプロトン型BEA型ゼオライト3.00g(乾燥重量)gを、リン酸水素二アンモニウム0.24gを脱イオン水2.7mLに溶解させた混合液に含侵添加して、BEA型ゼオライトを含むスラリーを得た。得られたスラリーを、0.1MPaの大気雰囲気中、ビーカー中で撹拌下で加熱し乾燥させたこと以外は、実施例4と同様にして、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を得た。リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を、排気ガス浄化用組成物とした。
【0042】
実施例6
0.1MPaの大気雰囲気中、150℃で8時間乾燥したプロトン型BEA型ゼオライトaを準備した。85%オルトリン酸0.24gを脱イオン水2.7mLに溶解させた混合液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、インシピエントウェットネス法によりリンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させて、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0043】
実施例7
0.1MPaの大気雰囲気中、150℃で8時間乾燥したプロトン型BEA型ゼオライトbを準備した。後述する方法により測定したプロトン型BEA型ゼオライトbのSiO/Alモル比は37.4であり、細孔容積比V2/V1は6.9であった。プロトン型BEA型ゼオライトbを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、インシピエントウェットネス法によりリンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させて、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0044】
比較例1
0.1MPaの大気雰囲気中、150℃で8時間乾燥したプロトン型BEA型ゼオライトcを準備した。後述する方法により測定したプロトン型BEA型ゼオライトcのSiO/Alモル比は32.0であり、細孔容積比V2/V1は1.6であった。なお、プロトン型BEA型ゼオライトcとしては、国際公開第2018/131195号の実施例1で用いたプロトン型BEA型ゼオライトと同じものを用いた。プロトン型BEA型ゼオライトcを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、蒸着法によりリンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させて、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0045】
比較例2
使用したリン酸トリメチルの量を0.73gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末を製造し、リンを含有するBEA型ゼオライトの粉末からなる排気ガス浄化用組成物を得た。
【0046】
比較例3
リンを含有させることなく、実施例1で準備したプロトン型BEA型ゼオライトaの粉末を、排気ガス浄化用組成物とした。
【0047】
比較例4
リンを含有させることなく、実施例7で準備したプロトン型BEA型ゼオライトbの粉末を、排気ガス浄化用組成物とした。
【0048】
比較例5
リンを含有させることなく、比較例1で準備したプロトン型BEA型ゼオライトcの粉末を、排気ガス浄化用組成物とした。
【0049】
各実施例及び比較例で準備したプロトン型BEA型ゼオライトと、各実施例及び比較例の排気ガス浄化用組成物について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。表1において、蒸着法は「VD」と記載し、インシピエントウェットネス法は「IW」と記載し、蒸発乾固法は「DU」と記載した。
【0050】
SiO/Alモル比
走査型蛍光X線分析装置(型番:ZSX PrimusII、株式会社リガク製)を用いて、BEA型ゼオライト及び排気ガス浄化用組成物中のSi量及びAl量を測定し、得られたSi量及びAl量からSiO/Alモル比を算出した。測定試料の調製方法は、以下のようにした。
測定試料の調製方法
BEA型ゼオライト又は排気ガス浄化用組成物を直径30mmの塩化ビニル管に詰め、圧縮成型して測定試料を調製した。
【0051】
P/Alモル比
走査型蛍光X線分析装置(型番:ZSX PrimusII、株式会社リガク製)を用いて、BEA型ゼオライト及び排気ガス浄化用組成物中のP量及びAl量を測定し、得られたP量及びAl量からP/Alモル比を算出した。測定試料の調製方法は、以下のようにした。
測定試料の調製方法
BEA型ゼオライト又は排気ガス浄化用組成物を直径30mmの塩化ビニル管に詰め、圧縮成型して測定試料を調製した。
【0052】
メソ細孔容積V1及びマイクロ細孔容積V2
窒素吸着等温線測定
メソ細孔容積V1、マイクロ細孔容積V2は、窒素吸着等温線から算出した。
BEA型ゼオライト又は排気ガス浄化用組成物の窒素吸着等温線は、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置(型番:BELSORP-maxII、マイクロトラックベル株式会社製)を用いて、高純度窒素ガスを77Kで試料に吸着させ、容量法により測定した。測定試料は、乾燥重量で0.1g~0.2gを試料管に秤量した。測定前処理は、510℃で真空排気(1×10-5kPa)を8時間以上行った。窒素吸着等温線は、相対圧(P/P)10.5以下から測定した。
【0053】
メソ細孔容積V1の測定方法
メソ細孔容積V1は、ISO 15901-2に記載のBarrett,Joyner及びHalendaによるメソ細孔分布の決定法(BJH法)により、測定して得られた窒素吸着等温線から算出した。算出には、脱離曲線を使用し、窒素分子の吸着断面積は0.1620nmとして算出した。細孔径が2nm以上100nm以下の範囲の細孔容積をメソ細孔容積V1とした。なお、実施例1及び比較例3の排気ガス浄化用組成物については、BJH法の測定により得られた細孔分布及び累積細孔分布のグラフを図1に示す。グラフ中において、左の縦軸は細孔面積分布を示し、右の縦軸は2nm以上の細孔の累積細孔面容積を示す。
【0054】
マイクロ細孔容積V2の測定方法
マイクロ細孔容積V2は、SF法(Saito-Foley法)に従い、測定して得られた窒素吸着等温線から、マイクロ細孔分布及び容積を算出した(A.Saito,H.C.Foley,Microporous Materials,3(1995)531)。マイクロ細孔容積の算出に使用した物理定数、吸着材及び吸着質ガスのパラメータは、Physical Parameters for Microporo Size Calculation(ISO 15901-3、JIS Z8831-3)に記載の定数を使用した。窒素分子の吸着断面積は0.1620nmとして算出した。細孔径が0nm以上2nm以下の範囲の細孔容積をマイクロ細孔容積V2とした。
【0055】
BET比表面積
ISO 9277(JIS Z8330:2013)に準拠して測定した窒素吸着等温線からBET法により比表面積を算出した。
【0056】
熱耐久試験
各実施例及び比較例の排気ガス浄化用組成物を、1000℃で25時間、10体積%HO雰囲気にて、下記サイクルで熱耐久試験を行った。
サイクル:下記組成のモデルガスを流量3L/minで時間80sec、Airを流量3L/minで時間20secを交互に流した。
モデルガス組成:Cを70mL/min、Oを70mL/min、NをBalanceとした。
モデルガス及びAirには、それぞれ、10体積%HOとなるように水入りタンクより気化させた水蒸気を混入させた。温度により飽和水蒸気圧を調整し、上記体積%の水蒸気量とした。
【0057】
比表面積維持率
熱耐久試験前後の排気ガス浄化用組成物のBET比表面積を測定し、熱耐久試験前のBET比表面積に対する熱耐久試験後のBET比表面積の割合を、BET比表面積維持率として算出した。具体的には、下記式(1)により、BET比表面積維持率を算出した。
(1)比表面積維持率(%)=(熱耐久試験後のBET比表面積/熱耐久試験前のBET比表面積)×100
【0058】
XRD維持率
熱耐久試験前後の排気ガス浄化用組成物のX線回折スペクトルを、X線回折装置(型番:MiniFlex600、株式会社リガク製)を用いて測定した。熱耐久試験前後の排気ガス浄化用組成物のX線回折スペクトルにおける回折角度2θが22.4°付近の最強ピークのピーク強度をXRD結晶度とし、下記式(2)によりXRD維持率を算出した。
(2)XRD維持率=(熱耐久試験後のXRD結晶度/熱耐久試験前のXRD結晶度)×100
【0059】
トルエン吸着性能
熱耐久試験前後の排気ガス浄化用組成物200mgを、それぞれ流通反応装置に充填し、下記に示す組成の評価用ガス50℃にて、流量30L/minで30分間流通しトルエンを吸着させた。昇温脱離法によりトルエンを脱離させ、質量分析計によりトルエン脱離量を測定した。比較例3の熱耐久試験後の排気ガス浄化用組成物のトルエン吸着量を1.0とした任意単位の量を、表1に示す。なお、トルエン昇温脱離の測定はマイクロトラック・ベル社製の触媒評価装置(BELCATおよびBELMass)を用い、脱離したトルエンの量(すなわち、排気ガス浄化用組成物のトルエン吸着量)の測定はマイクロトラック・ベル社製のChemMasterを用いて行った。なお、トルエン吸着性能の測定は、実施例1,4,7及び比較例1から4の排気ガス浄化用組成物についてのみ行った。
評価用ガスの組成:トルエン0.1体積%、へリウム99.9体積%
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、実施例1から7の排気ガス浄化用組成物は、比表面積維持率が65%以上であり、XRD維持率も70%以上であった。この結果から、熱耐久試験後も、リンを含有するBEA型ゼオライトの骨格構造が維持されており、骨格構造の欠損の生成が抑制されていることが確認できた。実際に、実施例1,4,7の排気ガス浄化用組成物のトルエン吸着量は、熱耐久試験前は、比較例1よりも多いが、比較例3よりも少なくなっていたが、熱耐久試験後は、トルエン吸着性能が比較例1,3よりも優れていた。
【0062】
実施例1から6は、いずれもリンを修飾させる前よりも、リンを修飾させた後の方が、メソ細孔容積V1が低減していた。実施例7は、リンを含有する前のBEA型ゼオライトのメソ細孔容積が小さいため、リンを含有する化合物をBEA型ゼオライトに付着させた後、熱処理することによって、骨格構造が少々欠損し、メソ細孔容積が増えたと推測される。しかしながら、実施例7は、細孔容積比(V2/V1)が2.0以上であるため、熱耐久試験後の骨格構造の欠損の生成は抑制されている。
【0063】
比較例1及び2のリンを含有するBEA型ゼオライトは、細孔容積比(V2/V1)が、2.0未満であり、骨格構造の欠損の起因となるメソ細孔が十分に低減されていないため、熱耐久試験後の比表面積維持率及びXRD維持率が低く、骨格構造が欠損していた。比較例3から5のBEA型ゼオライトは、細孔容積比(V2/V1)が2.0以上となる場合であっても、リンを含有していないため、熱耐久試験後の比表面積維持率及びXRD維持率が非常に低くなり、骨格構造が欠損していた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示に係る排気ガス浄化用組成物は、厳しい熱環境下に置かれた場合であっても、炭化水素(HC)の浄化性能を維持して、耐熱性をより向上することができる。よって、本開示に係る排気ガス浄化用組成物は、自動四輪車や自動二輪車などの内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために好適に用いることができる。
図1