(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20220822BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20220822BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/70
F16H61/68
(21)【出願番号】P 2021561364
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043300
(87)【国際公開番号】W WO2021106758
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019216980
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 克宏
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-96404(JP,A)
【文献】特開平3-157561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00
F16H 61/00
F16H 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源により駆動されるオイルポンプからのポンプ吐出油に基づいてライン圧を調圧し、前記ライン圧を元圧として締結される複数の摩擦要素の締結状態変更により複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機の制御装置であって、
前記変速機コントロールユニットは、
前記摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイドへ出力する変速制御部と、
有段変速機構への入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証するライン圧下限値を変更制御するライン圧制御部を有し、
前記ライン圧制御部は、
前記有段変速機構への入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性を、前記インギヤ中に最大圧指令を前記クラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性よりも低圧側に設定し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段である場合は、低圧側に設定した前記目標ライン圧特性のうちの前記ライン圧下限値をさらに低圧側に設定する、
自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ライン圧制御部は、所望の変速応答性を確保する第1ライン圧下限値と、前記オイルポンプの駆動トルク低下を確保する第2ライン圧下限値の選択制御を行い、
前記所定のギヤ段より高速段側のギヤ段で
前記インギヤ中と判定された場合は前記第2ライン圧下限値を選択し、前記所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での変速中と判定された場合は前記第1ライン圧下限値を選択する
自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ライン圧制御部は、前記所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での走行中、
前記インギヤから変速制御開始へ移行すると、前記第2ライン圧下限値からステップ的に前記第1ライン圧下限値へ変更する
自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ライン圧制御部は、変速制御を終了すると、前記第1ライン圧下限値から徐々に前記第2ライン圧下限値へ戻す
自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ライン圧制御部は、停車しているか否かを判定し、停車していると判定された場合の
前記ライン圧下限値を、前記所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段で走行していると判定された場合の
前記ライン圧下限値より低く設定する
自動変速機の制御装置。
【請求項6】
駆動源により駆動されるオイルポンプからのポンプ吐出油に基づいてライン圧を調圧し、前記ライン圧を元圧として締結される複数の摩擦要素の締結状態変更により複数のギヤ段を切替える変速制御を行う自動変速機の制御方法であって、
前記摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイドへ出力し、
有段変速機構への入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証するライン圧下限値を変更制御し、
前記有段変速機構への入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性を、前記インギヤ中に最大圧指令を前記クラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性よりも低圧側に設定し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段である場合は、低圧側に設定した前記目標ライン圧特性のうちの前記ライン圧下限値をさらに低圧側に設定する、
自動変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2016-65585Aが開示する無段変速機のライン圧制御装置は、車両の運転状態を含む車両情報に基づいて車両走行状態が定常走行状態に保持されることを予測し(ステップS102~S105の処理を行う構成)、定常走行状態保持の予測時に、ライン圧を、入力トルク要求に対して動力伝達部分の滑りを抑える通常ライン圧としての目標ライン圧よりも低圧側の定常走行時用低ライン圧に制御するものが知られている。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、JP2016-65585Aに記載された先行技術にあっては、車両走行状態が定常走行状態に保持されている場合にのみ、通常ライン圧としての目標ライン圧よりも低圧側の定常走行時用低ライン圧に制御している。よって、燃費性能を向上するため、ライン圧の設定に更なる改善が求められている、という課題があった。
【0004】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、走行中、ライン圧を下げる走行機会を増やすことでポンプ消費エネルギーを削減しながら、変速応答性の低下により運転者に違和感を与えるのを抑制することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある態様によれば、自動変速機の制御装置は、駆動源により駆動されるオイルポンプからのポンプ吐出油に基づいてライン圧を調圧し、ライン圧を元圧として締結される複数の摩擦要素の締結状態変更により複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える。変速機コントロールユニットは、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイドへ出力する変速制御部と、有段変速機構への入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証するライン圧下限値を変更制御するライン圧制御部を有する。ライン圧制御部は、有段変速機構への入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性を、インギヤ中に最大圧指令を前記クラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性よりも低圧側に設定し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段である場合は、低圧側に設定した目標ライン圧特性のうちのライン圧下限値をさらに低圧側に設定する。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、走行中、ライン圧を下げる走行機会を増やすことでポンプ消費エネルギーを削減しながら、変速応答性の低下により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
【
図2】
図2は、自動変速機のギヤトレーンの一例を示すスケルトン図である。
【
図3】
図3は、自動変速機での変速用摩擦要素の各ギヤ段での締結状態を示す締結表図である。
【
図4】
図4は、自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
【
図5】
図5は、自動変速機のコントロールバルブユニットを示す油圧制御系構成図である。
【
図6】
図6は、変速機コントロールユニットのライン圧制御部にて実行されるライン圧下限値制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、ギヤトレーンへの入力トルクに対する目標ライン圧特性において第1ライン圧下限値と第2ライン圧下限値の一例を示す特性図である。
【
図8】
図8は、8速段インギヤ→8-9変速中→9速段インギヤへ移行した場合の第1ライン圧下限値と第2ライン圧下限値の切替え特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1の制御装置は、前進9速・後退1速のギヤ段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「ライン圧下限値制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成(
図1)]
エンジン車の駆動系には、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3は、ギヤトレーン3aとパークギヤ3bを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0011】
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個のソレノイドバルブを有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
【0012】
エンジン車の電子制御系には、
図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。つまり、変速機コントロールユニット10の起動/停止を、イグニッションスイッチによる起動/停止の場合に比べて起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」としている。
【0013】
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送信するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送信する。この変速機コントロールユニット10は、他にタービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、第3クラッチ油圧センサ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0014】
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。第3クラッチ油圧センサ15は、第3クラッチK3のクラッチ油圧を検出し、第3クラッチ油圧PK3を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0015】
シフタコントロールユニット18は、運転者によるシフタ181へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を判定し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送信する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0016】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(
図4参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0017】
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0018】
アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。
【0019】
エンジンコントロールモジュール11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とは、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して接続されているため、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転速度Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
【0020】
[自動変速機の詳細構成(
図2、
図3、
図4)]
自動変速機3は、複数のギヤ段が設定可能なギヤトレーン3a(有段変速機構)と複数の摩擦要素を有し、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチソレノイドに最大圧指令を出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20に出力する。
(d) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0021】
自動変速機3は、
図2に示すように、ギヤトレーン3aを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0022】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0023】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0024】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0025】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0026】
自動変速機3は、
図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0027】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0028】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0029】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0030】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0031】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0032】
図3に基づいて、各ギヤ段を成立させる変速構成を説明する。1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブギヤ段である。
【0033】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0034】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブギヤ段である。
【0035】
さらに、1速段から9速段までのギヤ段のうち、隣接するギヤ段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギヤ段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0036】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、基本的に6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0037】
そして、変速機コントロールユニット10には、
図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギヤ段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が
図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が
図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0038】
[油圧制御系の詳細構成(
図5)]
変速機コントロールユニット10によって油圧制御されるコントロールバルブユニット6は、
図5に示すように、油圧源として、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1(駆動源)によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63(駆動源)によりポンプ駆動される。
【0039】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23を備える。そして、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切り替え弁66を備える。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を備える。
【0040】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。ここで、ライン圧ソレノイド21は、変速機コントロールユニット10に有するライン圧制御部100から制御指令により調圧駆動する。
【0041】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、
図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。ここで、クラッチソレノイド20は、変速機コントロールユニット10に有する変速制御部101から制御指令により調圧駆動する。変速制御部101は、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する。これに伴い、ライン圧制御部100は、ギヤトレーン3aへの入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性PLcを、インギヤ中に最大圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する場合の目標ライン圧特性PLc'よりも低圧側に設定している(
図7を参照)。
【0042】
ロックアップソレノイド23は、ライン圧調圧弁64によるライン圧PLの調圧時における余剰油を用いてロックアップクラッチ2aの差圧を制御する。なお、ロックアップクラッチ2aの差圧制御においては、入力トルクの変動に対して完全締結状態を保つ差圧制御ではなく、入力トルクの変動に対して微小スリップを許容する差圧制御とする。
【0043】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切り替え弁66への切替え圧とを作り出し、摩擦要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0044】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦要素とギヤトレーン3aを含むパワートレーン(PT)へクーラー69を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0045】
ブースト切り替え弁66は、潤滑ソレノイド22からの切替え圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切り替え弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0046】
P-nP切り替え弁67は、潤滑ソレノイド22(又はパークソレノイド)からの切替え圧によってパーク油圧アクチュエータ68へのライン圧路を切り替える。Pレンジへの選択時にパークギヤ3bを噛合わせるパークロックと、PレンジからPレンジ以外のレンジへの選択時にパークギヤ3bの噛合を解除するパークロック解除を行う。
【0047】
このように、運転者が操作するシフトレバーと機械的に連結され、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路やPレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止したコントロールバルブユニット6の構成としている。そして、シフタ181によりD,R,Nレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、6個の摩擦要素を独立に締結/解放する制御を採用することで「シフト・バイ・ワイヤ」を達成している。さらに、シフタ181によりPレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、パークモジュールを構成するP-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を作動させることで「パーク・バイ・ワイヤ」を達成している。
【0048】
[ライン圧下限値制御処理構成(
図6)]
図6は、ライン圧下限値を変更制御するライン圧制御部100にて実行されるライン圧下限値制御処理を示す。以下、
図6の各ステップについて説明する。ここで、「ライン圧下限値」とは、ギヤトレーン3aへの入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性PLcにおいて、ギヤトレーン3aへの低入力トルク域にて入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証する目標ライン圧値をいう(
図7を参照)。
【0049】
ステップS1では、処理スタートに続き、走行中であるか否かを判定する。YES(走行中)の場合はステップS2へ進み、NO(停車中)の場合はステップS5へ進む。ここで、例えば、Dレンジなどの走行レンジ位置の選択時であって、車速が停車判定閾値以上の場合に走行中と判定し、それ以外の場合に停車中と判定する。
【0050】
ステップS2では、S1での走行中であるとの判定に続き、自動変速機3のギヤ段が、7速より高速段側のギヤ段(8速段、9速段)であるか否かを判定する。YES(8速段、9速段)の場合はステップS4へ進み、NO(1速段~7速段)の場合はステップS3へ進む。
【0051】
ステップS3では、S2での自動変速機3のギヤ段が1速段~7速段であるとの判定に続き、目標ライン圧特性のライン圧下限値として、第1ライン圧下限値PL1minを選択し、リターンへ進む。
【0052】
ここで、「第1ライン圧下限値PL1min」とは、
図7に示すように、目標ライン圧特性PLcにおいて、所望の変速応答性を確保するように決められた低入力トルク域の最低限ライン圧をいう。即ち、第1ライン圧下限値PL1minが選択されると、目標ライン圧特性PLcは、入力トルクTinが第1入力トルクTin1以下の低入力トルク域のときに目標ライン圧PLtが第1ライン圧下限値PL1minとされる。そして、入力トルクTinが第1入力トルクTin1を超える高入力トルク域のときに入力トルクTinが大きくなるほど比例的に目標ライン圧PLtを高くする特性により与えられる。なお、ギヤトレーン3aへの入力トルクTinは、ロックアップクラッチ2aの締結時にエンジントルク推定値を用い、ロックアップクラッチ2aの解放時にエンジントルク推定値とトルクコンバータ2でのトルク比を乗算した値を用いる。
【0053】
ステップS4では、S2での自動変速機3のギヤ段が8速段又は9速段であるとの判定に続き、変速制御開始か否かを判定する。YES(8速段と9速段の間での変速制御開始)の場合はステップS6へ進み、NO(8速段又は9速段でのインギヤ中)の場合はステップS5へ進む。なお、変速制御開始は、例えば、変速制御部101からの8速→9速のアップシフト要求や9速→8速のダウンシフト要求をライン圧制御部100が入力することで判定する。
【0054】
ステップS5では、S1での停車中であるとの判定、或いは、S4での8速段又は9速段でのインギヤ中との判定に続き、目標ライン圧特性のライン圧下限値として、第2ライン圧下限値PL2minを選択し、リターンへ進む。
【0055】
ここで、「第2ライン圧下限値PL2min(<第1ライン圧下限値PL1min)」とは、
図7に示すように、目標ライン圧特性PLcのうち、オイルポンプ61,62の駆動トルク低下を確保するように決められた低入力トルク域の最低限ライン圧をいう。即ち、第2ライン圧下限値PL2minが選択されると、目標ライン圧特性PLcは、入力トルクTinが第2入力トルクTin2(<Tin1)以下の低入力トルク域のときに目標ライン圧PLtが第2ライン圧下限値PL2min(<PL1min)とされる。そして、入力トルクTinが第2入力トルクTin2を超える高入力トルク域のときに入力トルクTinが大きくなるほど比例的に目標ライン圧PLtを高くする特性により与えられる。
【0056】
ステップS6では、S4での8速段と9速段の間での変速制御開始との判定に続き、インギヤ中に選択されている第2ライン圧下限値PL2minから第1ライン圧下限値PL1minへステップ的にライン圧下限値を変更し、ステップS7へと進む。
【0057】
ステップS7では、S6でのPL2min→PL1minへのステップ的変更、或いは、S8での変速制御未終了であるとの判定に続き、変更後の第1ライン圧下限値PL1minを維持し、ステップS8へ進む。
【0058】
ステップS8では、S7でのPL1minの維持に続き、変速制御終了か否かを判定する。YES(変速制御終了)の場合はステップS9へ進み、NO(変速制御未終了)の場合はステップS7へ戻る。なお、変速制御終了は、例えば、ギヤトレーン3aの入力回転速度と出力回転速度から実ギヤ比を算出し、算出した実ギヤ比が変速後の変速段ギヤ比の誤差範囲内に入っていたら判定する。
【0059】
ステップS9では、S8での変速制御終了との判定、或いは、S10での第2ライン圧下限値PL2minへ未到達であるとの判定に続き、第1ライン圧下限値PL1minから第2ライン圧下限値PL2minへと徐々に戻し、ステップS10へ進む。
【0060】
ステップS10では、S9でのPL1min→PL2minへ徐々に戻す処理に続き、ライン圧下限値が第2ライン圧下限値PL2minへ到達したか否かを判定する。YES(PL2minへ到達)の場合はリターンへ進み、NO(PL2minへ未到達)の場合はステップS9へ戻る。
【0061】
次に、「技術背景と課題解決方策」について説明する。そして、実施例1の作用を、「ライン圧下限値制御処理作用」、「ライン圧下限値制御作用」に分けて説明する。
【0062】
[技術背景と課題解決方策(
図7)]
ライン圧を低下させる自動変速機としては、JP2016-65585Aに開示されているように、定常走行状態保持条件(エコモードON、かつ、高速道路走行中)が成立すると、CVTライン圧を下げる指示を出力するものが知られている。
【0063】
しかし、エコモードをOFFとしている走行中や高速道路以外の道路での走行中である場合には、定常走行状態保持条件が成立せず、CVTライン圧として通常ライン圧制御が実行されることになる。よって、ライン圧を低下させる機会が定常走行状態保持条件により限られ、実効ある燃費性能の向上を望むことができない、という課題があった。
【0064】
これに対し、変速機ユニットとして、実施例1のように、インギヤ中にクラッチソレノイドに最大圧指令を出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイドへ出力するユニットを用いるとする。この場合、締結油圧を下げることに伴ってライン圧PLも低く抑えることができるため、
図7に示すように、目標ライン圧特性PLcを、インギヤ中に最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性PLc'よりも低圧側に設定することができる。このため、走行中、定常走行状態保持条件の判定を要さず、常時、目標ライン圧特性PLc'よりも低圧側に設定された目標ライン圧特性PLcを用いてライン圧制御が行われる。よって、定常走行状態保持条件を与える場合よりも燃費性能を向上できるが、燃費性能に関しては、制約が厳しい条件下であってもライン圧PLを低下させる機会を更に増大したいという要望がある。
【0065】
本発明者は、上記課題やライン圧PLを低下させる機会を更に増大したいという要望を検討した結果、
(A) 目標ライン圧特性は、低入力トルク域のライン圧下限値特性と高入力トルク域の入力トルク比例特性を組み合わせた特性であり、ライン圧下限値特性によりライン圧が制御されるのは、主に入力トルクが低いコースト走行域である。このため、低入力トルク域のライン圧下限値特性については、ライン圧の値を更に下げる余地が残っている。
(B) ライン圧は摩擦要素の元圧であるためライン圧の高さは変速応答性に影響を与える要因になる。そこで、変速応答性の要求を自動変速機のギヤ段の低速段側と高速段側で比較した場合、ギヤ段が高速段側であるときよりギヤ段が低速段側であるときの方が変速応答性の要求が高い。
という点に着目した。
【0066】
上記着目点に基づいて、本開示では、メカオイルポンプ61及び電動オイルポンプ62と、オイルポンプ61,62からのポンプ吐出油に基づいてライン圧PLを調圧し、ライン圧PLを元圧として締結される複数の摩擦要素の締結状態変更により複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニット10を備える。この自動変速機3の制御装置であって、変速機コントロールユニット10は、ギヤトレーン3aへの入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証するライン圧下限値を変更制御するライン圧制御部100を有する。ライン圧制御部100は、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段により走行しているか否かを判定し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段であると判定された場合の第2ライン圧下限値PL2minを、所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段と判定された場合の第1ライン圧下限値PL1minより低く設定する、という解決手段を採用した。
【0067】
即ち、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段であると判定された場合の第2ライン圧下限値PL2minは、第1ライン圧下限値PL1minより低く設定される。このため、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段で走行しているとき、ライン圧下限値が低くされることで、メカオイルポンプ61や電動オイルポンプ62の駆動トルクを下げることができる。よって、メカオイルポンプ61の駆動による燃費性能や電動オイルポンプ62の駆動による電費性能を向上できる。また、所定のギヤ段は、供給されるライン圧が下がっても、変速の応答遅れが運転者に違和感を与えないギヤ段が設定される。このため、ライン圧下限値が低くされても、変速の応答性に関して運転者に違和感を与えるのを抑制できる。例えば、本実施例のように9速の変速段が有る場合には、6速がその所定の変速段となり、8速、9速が所定のギヤ段より高速側のギヤ段となる。
【0068】
一方、所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段と判定された場合の第1ライン圧下限値PL1minは、第2ライン圧下限値PL2minより高く設定される。このため、所定のギヤ段より低速段側のギヤ段での走行中、変速要求にしたがって変速するとき、締結される摩擦要素への油量が不足することなく、変速応答性が確保されることになる。つまり、変速の応答遅れにより運転者に違和感を与えるのが抑制される。
【0069】
この結果、走行中、ライン圧PLを下げる走行機会を増やすことでポンプ消費エネルギーを削減しながら、変速応答性の低下により運転者に違和感を与えるのを抑制することができることになる。特に、インギヤ中に最大圧指令を出力する場合の目標ライン圧特性PLc'よりも低圧側に目標ライン圧特性PLcを設定している場合であっても、ライン圧下限値と高速段側のギヤ段に着目したことで、ライン圧PLを下げる走行機会が確保されることになる。つまり、
図7の矢印に示すように、目標ライン圧特性の全体的な低下と、低下させた目標ライン圧特性のうちのライン圧下限値の低下との相乗作用により、実効あるポンプ消費エネルギーの削減(=燃費性能/電費性能の向上)を達成できる。
【0070】
[ライン圧下限値制御処理作用(
図6)]
まず、ライン圧下限値制御処理作用を
図6のフローチャートに基づいて説明する。停車中は、S1→S5→リターンへと進む。よって、S5では、目標ライン圧特性のライン圧下限値として、オイルポンプ61,62の駆動トルク低下を確保するように決められた第2ライン圧下限値PL2minが選択される。
【0071】
走行中であって、自動変速機3のギヤ段が1速段~7速段の場合は、S1→S2→S3→リターンへと進む。よって、S3では、目標ライン圧特性のライン圧下限値として、所望の変速応答性を確保するように決められた第1ライン圧下限値PL1minが選択される。
【0072】
走行中であって、自動変速機3のギヤ段が8速段又は9速段でのインギヤ状態である場合は、S1→S2→S4→S5→リターンへと進む。よって、S5では、目標ライン圧特性のライン圧下限値として、オイルポンプ61,62の駆動トルク低下を確保するように決められた第2ライン圧下限値PL2minが選択される。
【0073】
走行中であって、自動変速機3が8速段又は9速段のインギヤ中から変速(アップ/ダウン変速)が開始される場合は、S1→S2→S4→S6→S7→S8へと進み、S8にて変速制御未終了であると判定されている間、S7→S8へと進む流れが繰り返される。S6では、8速段又は9速段でのインギヤ中に選択されている第2ライン圧下限値PL2minから第1ライン圧下限値PL1minへステップ的にライン圧下限値が変更される。S7では、変更後の第1ライン圧下限値PL1minが維持される。
【0074】
そして、S8にて変速制御終了が判定されると、S8からS9→S10へと進み、S10にて第2ライン圧下限値PL2minへ未到達と判定されている間、S9→S10へと進む流れが繰り返される。S9では、ライン圧下限値が第1ライン圧下限値PL1minから第2ライン圧下限値PL2minへと所定の変化勾配により徐々に戻される。そして、S10にて第2ライン圧下限値PL2minへ到達と判定されると、S10からリターンへ進む。
【0075】
[ライン圧下限値制御作用(
図8)]
上記のように、ライン圧下限値制御処理において、所望の変速応答性を確保する第1ライン圧下限値PL1minと、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の駆動トルク低下を確保する第2ライン圧下限値PL2minの選択制御が行われる。そして、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段(8速段、9速段)でインギヤ中と判定された場合は第2ライン圧下限値PL2minが選択される(
図6のS4→S5)。所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での変速中と判定された場合は第1ライン圧下限値PL1minを選択する(
図6のS4~S10)。
【0076】
即ち、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段(8速段、9速段)でインギヤ中か変速中かにかかわらず第2ライン圧下限値PL2minを選択すると、変速中、変速応答性の低下により運転者に違和感を与えるおそれがある。これに対し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段(8速段、9速段)のときには、インギヤ中であるか変速中であるかで切り分ける。そして、インギヤ中は第2ライン圧下限値PL2minを選択し、変速中は第1ライン圧下限値PL1minを選択すると、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段(8速段、9速段)での走行中、ポンプ消費エネルギーの削減と変速応答性の確保の両立が図られる。
【0077】
上記のように、ライン圧下限値制御処理において、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での走行中、インギヤから変速制御開始へ移行すると、第2ライン圧下限値PL2minからステップ的に第1ライン圧下限値PL1minへ変更する(
図6のS4→S6)。
【0078】
即ち、インギヤから変速制御開始へ移行するシーンにおいては、応答良く変速により締結される摩擦要素への油量を確保する必要があり、変速開始域で変速により締結される摩擦要素への油量が確保できないと、変速応答性を低下させることになる。これに対し、
図8の時刻t1に示すように、8速インギヤから9速への変速制御を開始すると、第2ライン圧下限値PL2minからステップ的に第1ライン圧下限値PL1minへ変更され、変速により締結される摩擦要素への油量が応答良く供給される。このように、インギヤから変速制御開始へ移行する場合、第2ライン圧下限値PL2minからステップ的に第1ライン圧下限値PL1minへ変更することで、変速により締結される摩擦要素への油量が応答良く供給されることになる。よって、インギヤから変速制御開始へ移行する場合、第2ライン圧下限値PL2minから第1ライン圧下限値PL1minへ徐々に変更する場合に比べ、高い変速応答性を確保できる。
【0079】
上記のように、ライン圧下限値制御処理において、変速制御を終了すると、第1ライン圧下限値PL1minから徐々に第2ライン圧下限値PL2minへ戻す(
図6のS8→S9)。
【0080】
即ち、変速制御を終了するシーンにおいて、第1ライン圧下限値PL1minからステップ的に第2ライン圧下限値PL2minへ戻すと、変速終了により締結状態とされている摩擦要素への締結油圧の一時的な低下により、変速制御の終了直後に摩擦要素が滑り出すおそれがある。これに対し、
図8に示すように、第1ライン圧下限値PL1minによる時刻t2にて変速制御を終了すると、徐々にライン圧下限値を低下させ、時刻t3にて第2ライン圧下限値PL2minへ戻される。このように、変速制御を終了すると、第1ライン圧下限値PL1minから徐々に第2ライン圧下限値PL2minへ戻すことで、摩擦要素への締結油圧の一時的な低下が抑えられ、変速制御の終了直後に摩擦要素が滑り出すのを防止できる。
【0081】
上記のように、ライン圧下限値制御処理において、停車しているか否かを判定し、停車していると判定された場合の第2ライン圧下限値PL2minを、所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段で走行している判定された場合の第1ライン圧下限値PL1minより低く設定する(
図6のS1→S5)。
【0082】
即ち、所定のギヤ段より低速段側のギヤ段での停車シーンにおいて、自動変速機3の変速段に基づいて第1ライン圧下限値PL1minを選択すると、変速しても変速応答性が要求されないシーンであるのもかかわらず、無駄にライン圧下限値を高めておくことになる。これに対し、停車していると判定された場合、第2ライン圧下限値PL2minを選択することで、ライン圧PLを下げる機会が増大し、ポンプ消費エネルギーの削減性能(=燃費性能/電費性能)を更に向上できる。
【0083】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を奏する。
【0084】
(1) 駆動源(エンジン1、電動モータ63)により駆動されるオイルポンプ(メカオイルポンプ61、電動オイルポンプ62)からのポンプ吐出油に基づいてライン圧PLを調圧し、ライン圧PLを元圧として締結される複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の締結状態変更により複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニット10を備える自動変速機3の制御装置であって、
変速機コントロールユニット10は、有段変速機構(ギヤトレーン3a)への入力トルクの大きさにかかわらず最低限ライン圧として保証するライン圧下限値を変更制御するライン圧制御部100を有し、
ライン圧制御部100は、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段により走行しているか否かを判定し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段であると判定された場合のライン圧下限値(第2ライン圧下限値PL2min)を、所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段と判定された場合のライン圧下限値(第1ライン圧下限値PL1min)より低く設定する。
このため、走行中、ライン圧PLを下げる走行機会を増やすことでポンプ消費エネルギーを削減しながら、変速応答性の低下により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0085】
(2) ライン圧制御部100は、所望の変速応答性を確保する第1ライン圧下限値PL1minと、オイルポンプ(メカオイルポンプ61、電動オイルポンプ62)の駆動トルク低下を確保する第2ライン圧下限値PL2minの選択制御を行い、
所定のギヤ段より高速段側のギヤ段でインギヤ中と判定された場合は第2ライン圧下限値PL2minを選択し、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での変速中と判定された場合は第1ライン圧下限値PL1minを選択する。
このため、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での走行中、インギヤ中に第2ライン圧下限値PL2minを選択し、変速中に第1ライン圧下限値PL1minを選択することで、ポンプ消費エネルギーの削減と変速応答性の確保との両立を図ることができる。
【0086】
(3) ライン圧制御部100は、所定のギヤ段より高速段側のギヤ段での走行中、インギヤから変速制御開始へ移行すると、第2ライン圧下限値PL2minからステップ的に第1ライン圧下限値PL1minへ変更する。
このため、インギヤから変速制御開始へ移行する場合、ライン圧下限値のステップ的な変更によって変速により締結される摩擦要素への油量が応答良く供給され、ライン圧下限値を徐々に変更する場合に比べ、高い変速応答性を確保することができる。
【0087】
(4) ライン圧制御部100は、変速制御を終了すると、第1ライン圧下限値PL1minから徐々に第2ライン圧下限値PL2minへ戻す。
このため、変速制御を終了すると、第1ライン圧下限値PL1minから徐々に第2ライン圧下限値PL2minへ戻すことで、摩擦要素への締結油圧の一時的な低下が抑えられ、変速制御の終了直後に摩擦要素が滑り出すのを防止することができる。
【0088】
(5) ライン圧制御部100は、停車しているか否かを判定し、停車していると判定された場合のライン圧下限値(第2ライン圧下限値PL2min)を、所定のギヤ段以下の低速段側のギヤ段で走行していると判定された場合のライン圧下限値(第1ライン圧下限値PL1min)より低く設定する。
このため、停車していると判定された場合、第2ライン圧下限値PL2minを選択することで、ライン圧PLを下げる機会が増大し、ポンプ消費エネルギーの削減性能(=燃費性能/電費性能)を更に向上させることができる。
【0089】
(6) 変速機コントロールユニット10は、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する変速制御部101を有し、
ライン圧制御部100は、有段変速機構(ギヤトレーン3a)への入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性PLcを、インギヤ中に最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性PLc'よりも低圧側に設定する。
このため、目標ライン圧特性の全体的な低下と、低下させた目標ライン圧特性PLcのうちのライン圧下限値の低下との相乗作用により、実効あるポンプ消費エネルギーの削減性能(=燃費性能/電費性能)を達成することができる。
【0090】
以上、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0091】
実施例1では、ライン圧制御部100として、自動変速機3のギヤ段を2つのグループに分け、低速段側のギヤ段グループのときに第1ライン圧下限値PL1minを選択し、高速段側のギヤ段グループのときに第2ライン圧下限値PL2minを選択する例を示した。しかし、ライン圧制御部としては、自動変速機のギヤ段を3以上のグループに分け、或いは、ギヤ段毎に分け、分けたギヤ段グループや分けたギヤ段毎に異なるライン圧下限値を選択するような例としても良い。
【0092】
実施例1では、変速機コントロールユニット10として、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する変速制御部101を有する例を示した。しかし、変速機コントロールユニットとしては、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力する変速制御部を有する例に対しても適用することができる。
【0093】
実施例1では、自動変速機として、3つの摩擦要素の締結により前進9速後退1速を達成する自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、2つの摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良いし、4つの摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良い。また、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギヤ段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と多段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0094】
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機3の制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機の制御装置としても適用することが可能である。
【0095】
本願は、2019年11月29日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-216980号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。