IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MCPPイノベーション合同会社の特許一覧

特許7127320接着性樹脂組成物の製造方法、接着層の形成方法及び積層体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物の製造方法、接着層の形成方法及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 167/00 20060101AFI20220823BHJP
   C09J 123/10 20060101ALI20220823BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20220823BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C09J167/00
C09J123/10
C08L67/00
C08L23/10
B32B25/08
B32B27/32 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018056223
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167448
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】門脇 裕司
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-081485(JP,A)
【文献】特開2002-144486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0059606(US,A1)
【文献】特開2002-155135(JP,A)
【文献】特開2017-082033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 123/00 - 123/36
C09J 167/00 - 167/08
C08L 67/00 - 67/08
C08L 23/00 - 23/36
B32B 25/00 - 25/20
B32B 27/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が58~73質量%である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーを、ラジカル発生剤の存在下、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性処理して得られる変性ポリエステル系エラストマー(A)と、下記条件(B-i)および(B-ii)を満たすプロピレン系樹脂(B)とを混合する接着性樹脂組成物の製造方法であって、変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)との合計100質量%における変性ポリエステル系エラストマー(A)の割合が25~65質量%で、プロピレン系樹脂(B)の割合が35~75質量%である接着性樹脂組成物の製造方法
(B-i)融解熱量が2~50mJ/mgの範囲である。
(B-ii)プロピレン・α-オレフィン共重合体であって、該α-オレフィンが、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-ノネンからなる群から選択される少なくとも2種である。
【請求項2】
前記接着性樹脂組成物が粘着付与剤を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の接着性樹脂組成物の製造方法
【請求項3】
前記接着性樹脂組成物の食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の蒸発残留物試験法のヘプタン溶出試験における蒸発残留物が400μg/ml以下である、請求項1又は2に記載の接着性樹脂組成物の製造方法
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の接着性樹脂組成物の製造方法により製造された接着性樹脂組成物により接着層を形成する接着層の形成方法
【請求項5】
請求項4に記載の接着層の形成方法により接着層を形成する積層体の製造方法
【請求項6】
前記積層体は、前記接着層の一方の面に接する層がスチレン系樹脂層であり、他方の面に接する層がエチレン・ビニルアルコール共重合体層である、請求項5に記載の積層体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂組成物およびそれを用いた接着層と積層体に関する。さらに詳しくは、変性ポリエステル系エラストマーおよびプロピレン系樹脂を含む接着性樹脂組成物と、この接着性樹脂組成物よりなる接着層及びこの接着層を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと記載)はガスバリア性に優れているため、EVOH層を含む積層体を食品包装材に適用することで、食品の賞味期限の延長を図ることができ、長距離流通や廃棄食品の低減が可能となる。しかし、EVOHは親水基である水酸基を有しているために、湿度の影響を受けやすく、湿度が高い状態ではガスバリア性が悪化する問題がある。この欠点を改良する方法として、EVOH層を、ポリオレフィンやポリスチレン(以下、PSと記載)といった透湿度の低い樹脂よりなる層との積層体とする方法が有効である。
【0003】
従来、EVOHとポリオレフィンとの接着には、極性基グラフトポリオレフィンを接着樹脂として用いることが知られており、この場合の接着のメカニズムは、EVOHと極性基グラフトポリオレフィンとは、極性基グラフトポリオレフィンの極性基とEVOHの水酸基との化学的な相互作用により接着し、一方、極性基グラフトポリオレフィンとポリオレフィンとは相溶性で接着力を発現していると推定される。
【0004】
これに対して、PSとEVOHの接着には、EVOHとポリオレフィンとの接着とは異なる接着方法が提案されており、例えば、特許文献1や特許文献2には、官能基グラフトポリオレフィン、スチレン系樹脂及び粘着付与剤を含む接着性樹脂組成物が開示されている。ここで、粘着付与剤としては、石油系炭化水素樹脂やロジン等を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-265751号公報
【文献】特開平11-35749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載のPSとEVOHとの接着方法は、石油系炭化水素樹脂やロジン等の粘着付与剤を用いるものであるが、いずれも耐油性に劣るものであり、例えば、PS層とEVOH層とを、このような粘着付与剤を含む接着性樹脂組成物よりなる接着層で接着した積層体を油性食品の包装に用いると、接着層から粘着付与剤が油に溶け出す懸念があった。その結果、PS層とEVOH層をこのような接着層で接着した積層体を食品包装材として使用する場合は、内容物の制約を受けることとなる。
このようなことから、内容物適性の拡大のために、接着性樹脂組成物の耐油性を向上させることが求められる。
【0007】
本発明は、粘着付与剤を使用せずに、PS層およびEVOH層に対する接着強度が高く、耐油性に優れた接着性樹脂組成物と、この接着性樹脂組成物を用いた接着層及び積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し、特定の構成単位を持つ変性ポリエステル系エラストマーと、特定のプロピレン系樹脂を配合した接着樹脂組成物を用いることで、粘着付与剤を含まず耐油性に優れ、スチレン系樹脂層とエチレン・ビニルアルコール共重合体層とを高強度に接着することができることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
[1] ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が58~73質量%である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーを、ラジカル発生剤の存在下、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性処理して得られる変性ポリエステル系エラストマー(A)と、下記条件(B-i)および(B-ii)、または(B-i)および(B-iii)を満たすプロピレン系樹脂(B)とを含み、変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)との合計100質量%における変性ポリエステル系エラストマー(A)の割合が25~65質量%で、プロピレン系樹脂(B)の割合が35~75質量%である接着性樹脂組成物。
(B-i)融解熱量が2~50mJ/mgの範囲である。
(B-ii)プロピレン・α-オレフィン共重合体であって、該α-オレフィンが、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-ノネンからなる群から選択される少なくとも2種である。
(B-iii)プロピレン単独重合体である。
【0011】
[2] 粘着付与剤を含有しないことを特徴とする[1]に記載の接着性樹脂組成物。
【0012】
[3] 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の蒸発残留物試験法のヘプタン溶出試験における蒸発残留物が400μg/ml以下である、[1]又は[2]に記載の接着性樹脂組成物。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物よりなる接着層。
【0014】
[5] [4]に記載の接着層を含む積層体。
【0015】
[6] 前記接着層の一方の面に接する層がスチレン系樹脂層であり、他方の面に接する層がエチレン・ビニルアルコール共重合体層である、[5]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粘着付与剤を用いることなく、従って、耐油性に優れ、PS層とEVOH層に対して高い接着強度を発現することができる接着性樹脂組成物が提供される。本発明の接着性樹脂組成物によれば、食品包装の用途においても内容物の制約を受けることなく、油性食品の包装材にも適した積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0018】
[1]接着性樹脂組成物
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有率が58~73質量%である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーを、ラジカル発生剤の存在下、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性処理して得られる変性ポリエステル系エラストマー(A)25~65質量%と、下記条件(B-i)および(B-ii)、または(B-i)および(B-iii)を満たすプロピレン系樹脂(B)35~75質量%とを合計で100質量%含むことを特徴とする。
(B-i)融解熱量が2~50mJ/mgの範囲である。
(B-ii)プロピレン・α-オレフィン共重合体であって、該α-オレフィンが、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-ノネンからなる群から選択される少なくとも2種である。
(B-iii)プロピレン単独重合体である。
【0019】
[1-1]変性ポリエステル系エラストマー(A)
本発明における変性とは、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーの不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体によるグラフト変性、末端変性及びエステル交換反応による変性、分解反応による変性等をいう。具体的に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が結合している部位としては、末端官能基やアルキル鎖部分が考えられ、特に末端カルボン酸、末端水酸基及びポリアルキレンエーテルグリコールセグメントのエーテル結合に対してα位やβ位の炭素原子が挙げられる。特に、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントのエーテル結合に対してα位の炭素原子に多く結合しているものと推定される。
【0020】
変性ポリエステル系エラストマー(A)の原料である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、通常、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有するソフトセグメントと芳香族ポリエステルを含有するハードセグメントからなるブロック共重合体である。ソフトセグメントはポリアルキレンエーテルグリコールセグメント又はこれを含有するセグメントであることが、接着性発現のために重要である。また主査の炭素原子間に2重結合、または3重結合を含む不飽和ポリエステル系エラストマーは、熱や光による着色が起こりやすい上、成形時にもゲルが発生しやすことから、特にフィルム状やシート状の複合積層体においては外観に問題があり不適当であるため、本発明では飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いる。
【0021】
変性ポリエステル系エラストマー(A)の原料である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量は、該飽和ポリエステル系エラストマー中58~73質量%であることが必要であり、好ましくは60~70質量%である。ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が上記範囲未満では、スチレン系樹脂層に対して十分な接着性を発現することが困難であり、上記範囲を超えると材料強度が低下し、十分な接着性を得ることが困難である。
【0022】
このソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2及び1,3-プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール等が挙げられる。特に好ましいものは、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールである。
【0023】
本発明において、ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、数平均分子量が400~6000のものが通常使用されるが、600~4000のものが好ましく、特に1000~3000のものが好適である。数平均分子量が400以上であると、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により十分な変性効果を得ることができ、良好な接着性を発現できる。一方、6000以下であると、系内での相分離が起こり難く、共重合などで得られるポリマーの物性の低下を抑制することができる。なお、ここでいう「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものである。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMER LABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すれば良い。
【0024】
飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、通常、
i)炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールと、
ii)芳香族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボン酸或いはこれらのアルキルエステルと、
iii)数平均分子量が400~6000のポリアルキレンエーテルグリコール
とを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0025】
炭素原子数2~12の脂肪族及び/又は脂環式ジオールとしては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として通常用いられるものが使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも、1,4-ブタンジオール、エチレングリコールが好ましく、特に1,4-ブタンジオールが好ましい。これらのジオールは、1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0026】
芳香族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として一般的に用いられるものが使用でき、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好適である。また、これらのジカルボン酸は2種以上を併用してもよい。
芳香族ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボンのアルキルエステルを用いる場合は、上記のジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等が用いられる。好ましいものは、ジメチルテレフタレート及び2,6-ジメチルナフタレートである。
【0027】
また、上記の成分以外に3官能性のトリオールやトリカルボン酸またはそれらのエステルを少量共重合させてもよく、さらにアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸やそのジアルキルエステルも共重合体成分として使用してもよい。
【0028】
ポリアルキルエーテルグリコールの種類や好適な分子量範囲としては、前述と同様なものを使用できる。
【0029】
本発明に好適なポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなる飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、三菱ケミカル社製「テファブロック」、東洋紡績社製「ペルプレン」、東レ・デュポン社製「ハイトレル」等を用いることができる。
【0030】
飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性に用いる不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;例えば、コハク酸2-オクテン-1-イル無水物、コハク酸2-ドデセン-1-イル無水物、コハク酸2-オクタデセン-1-イル無水物、マレイン酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物、1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、exo-3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、endo-ビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2.]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、グリシジルメタクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸(2-エチルヘキシル)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等の不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。この中では、不飽和カルボン酸無水物が好適である。
【0031】
不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体は、変性すべき飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーや、変性条件に応じて適宜選択すればよく、また2種以上を併用してもよい。不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体は有機溶剤等に溶解して加えることもできる。
【0032】
変性処理に際してラジカル反応を行うために用いるラジカル発生剤としては、例えばt-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ターシャリーブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素等の有機及び無機過酸化物、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ-t-ブタン等のアゾ化合物、およびジクミル等の炭素ラジカル発生剤等が挙げられる。
【0033】
これらのラジカル発生剤は、変性処理に用いる飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーの種類、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類や、変性条件に応じて適宜選択すればよく、また2種以上を併用しても良い。ラジカル発生剤は有機溶剤等に溶解して加えることもできる。
【0034】
また、得られる接着性樹脂組成物の接着性をさらに向上させるために、変性処理時にはラジカル発生剤だけでなく、変性助剤として、不飽和結合を有する化合物を併用することもできる。
不飽和結合を有する化合物とは、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体以外の炭素-炭素多重結合を有する化合物のことをいい、具体的には、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、フェニルスチレン、o-クロロメチルスチレン等のビニル芳香族単量体等が挙げられる。これらの配合により、変性効率の向上が期待できる。
【0035】
変性処理に用いる不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、ラジカル発生剤の配合割合は、飽和ポリエステル系エラストマー100質量部に対して、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が0.01~30質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部、特に好ましくは0.1~1質量部であり、ラジカル発生剤が0.001~3質量部、好ましくは0.005~0.5質量部、より好ましくは0.01~0.2質量部、特に好ましくは0.01~0.15質量部である。
【0036】
不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の配合量が上記下限以上であると、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性を十分に行って良好な接着性を発現させることができる。また、上記上限以下であれば、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体自体が結合して、ブツとなって外観不良や接着不良を発生させることを防止することができる。
【0037】
また、ラジカル発生剤の配合量が上記下限以上であると、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性を十分に行って良好な接着性を発現させることができる。また、上記上限以下であると、生成する変性ポリエステル系エラストマー(A)の溶融時の粘度の低下を抑制し、プロピレン系樹脂(B)とブレンドするときに十分なせん断をかけることができ、変性ポリエステル系エラストマー(A)の分散性を高め、良好な接着性を発現させることができるようになる。
【0038】
飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、ラジカル発生剤、並びに、必要に応じて添加される成分である不飽和結合を有する化合物等の配合成分を用いて、本発明で用いる変性ポリエステル系エラストマー(A)を得るための配合方法は、溶融法、溶液法、懸濁分散法等があり、特に限定されない。実用的には溶融混練法が好ましい。
【0039】
溶融混練のための具体的な方法としては、粉状又は粒状の飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、ラジカル発生剤、並びに、必要に応じて添加される成分である不飽和結合を有する化合物を所定の配合割合にて、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を用いて均一に混合した後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸又は二軸などの多軸混練押出機等の通常の混練機を用いて混練する方法が例示できる。
【0040】
各成分の溶融混練の温度は、通常100~300℃の範囲、好ましくは120~280℃の範囲、特に好ましくは150~250℃の範囲である。さらに各成分の混練順序及び方法は、特に限定されるものではなく、飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、ラジカル発生剤、並びに、必要に応じて添加される成分である不飽和結合を有する化合物を一括して混練する方法でも、各成分の内の一部を混練した後、残りの成分を混練する方法でもよい。ただし、ラジカル発生剤は、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、或いは不飽和結合を有する化合物と同時に添加することが、得られる変性ポリエステル系エラストマー(A)の接着性向上の点から好ましい。
【0041】
このようにして製造される変性ポリエステル系エラストマー(A)の赤外吸収スペクトル法により分析される変性量は、下記式の値で、0.01~15であることが望ましく、より好ましくは0.03~2.5であり、さらに好ましくは0.1~2.0であり、特に好ましくは0.1~1.8である。
1786/(Ast×r)
[ただし、A1786は、変性ポリエステル系エラストマー(A)の厚さ20μmのフィルムについて測定された、1786cm-1のピーク強度であり、Astは、標準試料(ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が65質量%である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー)の厚さ20μmのフィルムについて測定された、基準波数のピーク強度であり、rは、変性ポリエステル系エラストマー(A)中のポリエステルセグメントのモル分率を、上記標準試料中のポリエステルセグメントのモル分率で除した値である。]
【0042】
上記の変性ポリエステル系エラストマー(A)の赤外吸収スペクトル法による変性量の値を求める具体的な方法は、次の通りである。
すなわち、厚さ20μmのフィルム状の試料を100℃で15時間減圧乾燥して未反応物を除去し、赤外吸収スペクトルを測定する。得られたスペクトラムから、1786cm-1に現れる酸無水物由来のカルボニル基の伸縮振動による吸収ピーク(1750~1820cm-1の範囲にある該吸収帯の両側の山裾を結んだ接線をベースラインとする)のピーク高さを算出して「ピーク強度A1786」とする。
一方、標準試料(ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が65質量%である飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー)の厚さ20μmのフィルムについて、同様に赤外線吸収スペクトルを測定する。得られたスペクトラムから、基準波数のピーク、例えばベンゼン環を含む芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーの場合は、872cm-1に現れるベンゼン環のC-Hの面外変角による吸収ピーク(850~900cm-1の範囲にある該吸収帯の両側の山裾を結んだ接線をベースラインとする)のピーク高さを算出して「ピーク強度Ast」とする。なお、この基準波数のピークについては、変性による影響を受けず、かつ、その近傍に重なり合うような吸収ピークのないものから選択すればよい。
これらの両ピーク強度から、前記式に従って赤外吸収スペクトル法による変性量を算出する。その際、rとしては、変性量を求める変性ポリエステル系エラストマー(A)中のポリエステルセグメントのモル分率を、上記標準試料中のポリエステルセグメントのモル分率で除した値を使用する。また、各試料のポリエステルセグメントのモル分率mrは、ポリエステルセグメント及びポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの重量分率(W及びW)と両セグメントを構成する単量体単位の分子量(e及びe)とから、次式によって求める。
mr=(W/e)/[(W/e)+(W/e)]
【0043】
また、本発明で用いる変性ポリエステル系エラストマー(A)のメルトフローレイト(MFR,230℃,2.16kg,JIS K7210)は1~60g/10分であることが好ましく、より好ましくは4~50g/10分であり、さらに好ましくは6~40g/10分である。変性ポリエステル系エラストマー(A)のMFRはプロピレン系樹脂(B)のMFRよりも高い方が好ましい。接着性を担う変性ポリエステル系エラストマー(A)は海相となり、PSやEVOH等の被着体と接し、接着強度を発現する必要がある。一般的に非相溶の多成分系樹脂組成物は高いMFRの成分が海相になり、低いMFRの成分が島相になることが知られている。変性ポリエステル系エラストマー(A)のMFRがプロピレン系樹脂(B)のMFRよりも低い場合、変性ポリエステル系エラストマー(A)が島相となり、被着体と接しないため、接着強度は発現しない。変性ポリエステル系エラストマー(A)のMFRが上記上限を超えると、プロピレン系樹脂(B)とのMFR格差が大きすぎ、均一な分散構造が採れず、接着性を発現しない。また変性ポリエステル系エラストマー(A)のMFRが上記下限未満であると、島相となってしまい、接着性を発現しない。
【0044】
本発明の接着性樹脂組成物は、上記の変性ポリエステル系エラストマー(A)の1種のみを含むものであってもよく、変性に用いた飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーや不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の種類、物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0045】
[1-2]プロピレン系樹脂(B)
本発明で用いるプロピレン系樹脂(B)は、下記条件(B-i)および(B-ii)、または(B-i)および(B-iii)を満たす必要がある。
(B-i)融解熱量が2~50mJ/mgの範囲である。
(B-ii)プロピレン・α-オレフィン共重合体であって、プロピレンのコモノマーである該α-オレフィンが、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-ノネンからなる群から選択される少なくとも2種である。
(B-iii)プロピレン単独重合体である。
【0046】
融解熱量が50mJ/mgを超えると、変性ポリエステル系エラストマー(A)との親和性が乏しく、接着性樹脂組成物としての機械的強度が低下する。すなわち、スチレン系樹脂層やエチレン・ビニルアルコール共重合体層との接着強度が良好であっても、接着層自体の強度が低いために、接着層の凝集破壊となり、良好な接着強度が得られない。
コモノマーが1種のみのプロピレン系樹脂は、変性ポリエステル系エラストマー(A)との親和性が乏しく、接着樹脂組成物としての機械的強度が低下する。変性ポリエステル系エラストマー(A)との親和性を十分にするには2種以上のコモノマーであることが必要である。
またプロピレン単独重合体の場合には立体規則性を制御することで、融解熱量を変えることができる。低い立体規則性を有することで変性ポリエステル系エラストマー(A)との親和性を得ることができる。
【0047】
上記の通り、プロピレン系樹脂(B)は、変性ポリエステル系エラストマー(A)との親和性を保持するために、融解熱量が50mJ/mg以下であることが必要であり、融解熱量が50mJ/mgを超えるものでは非晶成分が十分でなく、変性ポリエステル系エラストマー(A)との十分な親和性が得られない。プロピレン系樹脂(B)の融解熱量は好ましくは45mJ/mg以下、さらに好ましくは40mJ/mg以下である。一方、融解熱量の下限は、機械的強度保持の観点から、2mJ/mg以上であり、好ましくは5mJ/mg以上である。
なお、プロピレン系樹脂(B)の融解熱量は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0048】
また、プロピレン系樹脂(B)は、プロピレン・α-オレフィン共重合体であって、該α-オレフィンが、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-ノネンからなる群から選択される少なくとも2種であることを必要とする。つまり、プロピレンを主構成単位とし、プロピレン以外の2種以上の異なるα-オレフィンを構成単位として含む共重合体である。上記のα-オレフィンの種類において、エチレン及び1-ブテンを共重合の構成単位として含むことが好ましい。
プロピレン系樹脂(B)がプロピレン単独重合体である場合は、立体規則性を制御し、低い立体規則性であることが好ましい。
【0049】
また、本発明で用いるプロピレン系樹脂(B)のメルトフローレイト(MFR,230℃,2.16kg,JIS K7210)は0.1~20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5~15g/10分であり、さらに好ましくは0.5~10g/10分である。MFRが上記下限以上であれば、変性ポリエステルエラストマー(A)とのMFR格差が大きすぎず、混練により十分な分散性を得ることができ、この結果、良好な接着性を得ることができる。また、MFRが上記上限以下であれば、成形性が不足している変性ポリエステル系エラストマー(A)に十分な成形性を付与することができる。十分な接着性および成形性を付与するには、プロピレン系樹脂(B)のMFRは変性ポリエステル系エラストマー(A)のMFRよりも小さくすることが好ましい。
【0050】
本発明の接着性樹脂組成物は、上記のプロピレン系樹脂(B)の1種のみを含むものであってもよく、モノマー組成、その他物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0051】
[1-3]配合割合
本発明の接着性樹脂組成物を構成する変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)の配合割合は、これらの合計100質量%に対して変性ポリエステル系エラストマー(A)が25~65質量%であることが必要であり、好ましくは30~60質量%、より好ましくは35~55質量%である。変性ポリエステル系エラストマー(A)が上記範囲未満では接着強度に乏しく、上記範囲を超えると流動性が高すぎるため、共押出成形時に均一な膜厚を得られにくく、また吸湿しやすくなるため、成形時に発泡し、良好な品質の積層体が得られにくく、成形性が乏しくなる。
【0052】
一方、プロピレン系樹脂(B)は、変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)との合計100質量%に対して35~75質量%であることが必要であり、好ましくは40~70質量%、さらに好ましくは45~65質量%である。プロピレン系樹脂(B)が上記範囲未満では、変性ポリエステル系エラストマー(A)の成形性の問題が発生してしまい、上記範囲を超えると接着性に劣り、好ましくない。
【0053】
本発明の接着性樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(B)の配合割合が、変性ポリエステル系エラストマー(A)よりも多いことが好ましい。即ち、接着性樹脂組成物としての成形性を得るには、プロピレン系樹脂(B)を主成分にすることが好ましい。一方で、良好な接着性を発現するには、上記の通り、特定の変性ポリエステル系エラストマー(A)の配合割合が必要である。
【0054】
[1-4]その他付加的成分
本発明の接着性樹脂組成物には、変性ポリエステル系エラストマー(A)及びプロピレン系樹脂(B)以外にも本発明の目的・効果を損なわない範囲で、目的に応じて任意の成分を配合することができる。具体的には、変性ポリエステル系エラストマー(A)及びプロピレン系樹脂(B)以外の樹脂成分や、ゴム成分、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維等のフィラー、パラフィンオイル等の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤、帯電防止剤、防菌剤、蛍光増白剤等の各種添加物を添加することができる。中でも、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、芳香族アミン系等の各種酸化防止剤の少なくとも一種を添加することが好ましい。
【0055】
ただし、粘着付与剤は、前述の通り、耐油性を損なう原因となるため、本発明の接着性樹脂組成物は粘着付与剤を含まないことが好ましい。即ち、本発明の接着性樹脂組成物は、特定の変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含むことで、粘着付与剤を配合することなく、接着性樹脂組成物としての必要特性を十分に満たすことができる。
【0056】
[1-5]製造方法
本発明の接着性樹脂組成物は、変性ポリエステル系エラストマー(A)、プロピレン系樹脂(B)、及び必要に応じて用いられるその他の付加的成分を、種々公知の手法、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、混合後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融混練し、造粒あるいは粉砕する手法により製造することができる。
【0057】
[1-6]ヘプタン溶出試験における蒸発残留物
本発明の接着性樹脂組成物は、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の蒸発残留物試験法のヘプタン溶出試験における蒸発残留物が400μg/ml以下であることが好ましい。
ヘプタン溶出試験における蒸発残留物は耐油性の指標であり、ヘプタン溶出試験における蒸発残留物が400μg/ml以下であれば耐油性に優れ、幅広い種類の内容物の包装に用いることができる。
なお、ヘプタン溶出試験の具体的な方法は、後掲の実施例の項に記載する通りである。
【0058】
[2]接着層及び積層体
本発明の接着性樹脂組成物は積層体の接着層を構成する接着性樹脂組成物として有用であり、その場合、本発明の接着性樹脂組成物からなる接着層と接する層として、スチレン系樹脂、EVOH、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂およびポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には、エチレン含量が15~60モル%であるEVOH;ポリエチレンテレフタレート(PET)、共重合PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂(PES系樹脂);6-ナイロン、6,6-ナイロン、6-6、6-ナイロン、12-ナイロン、キシリレン基含有ポリアミド樹脂等のポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、4-メチル-1-ペンテン樹脂等のポリオレフィン系樹脂(PO系樹脂);一般用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン・メタクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂(PS系樹脂);ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・メチルアクリレート・ブタジエン共重合体等のアクリル系樹脂;およびポリカーボネート樹脂(PC系樹脂);さらに、前記樹脂と板状フィラー等の充填材との混合物等の材料が挙げられる。
【0059】
本発明の接着性樹脂組成物は特にEVOH層とスチレン系樹脂層との接着性に優れるものであるため、少なくとも一部にEVOH層/接着層/スチレン系樹脂層の3層積層構造を有する積層体の接着層構成材料として、本発明の接着性樹脂組成物は特に有効である。
【0060】
接着層に接する層に用いられるEVOHとしては、エチレン含量が好ましくは15~65モル%、さらに好ましくは25~50モル%のものが用いられる。エチレン含量が少なすぎる場合には熱分解しやすく、溶融成形が困難であり、また吸水し、膨潤しやすく耐水性に劣る。一方エチレン含有量が多すぎる場合には、耐ガス透過性が低下する傾向がある。
【0061】
接着層に接する層に用いられるスチレン系樹脂とはスチレンの単独重合体、スチレンとアクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等の共重合体あるいはそれらのゴム変性物等のスチレンを主体とした樹脂であり、具体的にはポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(ゴム配合ポリスチレン)、AS樹脂(SAN)、ABS、SMA(スチレン・無水マレイン酸重合体)等と呼称されている熱可塑性樹脂が用いられる。
【0062】
本発明の接着性樹脂組成物よりなる接着層の厚みには特に制限はないが、十分な接着力を得た上で厚みを抑える観点から5~100μmの範囲であることが好ましい。
【0063】
[3]積層体の製造方法
本発明の積層体を製造する方法としては、従来より公知の種々手法を採用することができる。例えば、押出機で溶融させた、個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層する共押出手法によるインフレーションフィルム、Tダイフィルム、シート、パイプや、溶融した個々の樹脂を同一金型内にタイムラグを付けインジェクションする、共インジェクション成形等が挙げられる。
【実施例
【0064】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例によって限定されるものではない。
【0065】
[変性ポリエステル系エラストマー(A)]
<変性ポリエステル系エラストマー(A)の構成材料>
飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーA-1:
ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールをソフトセグメントとするポリエステルポリエーテルブロック共重合体であって、該共重合体中のポリテトラメチレンエーテルグリコールセグメントの含有量が72質量%の飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー
不飽和カルボン酸B-1:和光純薬工業株式会社製「無水マレイン酸(試薬特級)」
ラジカル発生剤C-1:日油株式会社製「ナイパーBW」(ベンゾイルパーオキサイド)
【0066】
<変性ポリエステル系エラストマー(A)の製造>
飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーA-1:100質量部、不飽和カルボン酸B-1:0.5質量部、ラジカル発生剤C-1:0.13質量部を、株式会社日本製鋼所製TEX-30型混練機(径30mm、温度190~220℃)中で溶融混練した後、ペレタイザ―を通してペレット化し、変性ポリエステル系エラストマー(A)を得た。
変性ポリエステル系エラストマー(A)物性評価は以下に示す方法で行った。
【0067】
(1)メルトフローレイト(MFR)
得られたペレットについて、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件でMFRを測定した。
【0068】
(2)赤外吸収スペクトル法による変性量
得られたペレットをプレス成形(230℃)により、厚さ20μmのフィルム状に成形したサンプルを使用し、FT-IR装置(JASCO FT/IR610、日本分光株式会社製)にて、本文記載の手順に従い、赤外吸収スペクトル法による変性量を算出した。なお、標準試料中のポリエステルセグメントのモル分率は0.15、Astは0.144であった。
【0069】
変性ポリエステル系エラストマー(A)の評価結果は下記の通りである。
MFR(230℃,2.16kg):34g/10分
変性量:0.28
【0070】
[プロピレン系樹脂(B)]
プロピレン系樹脂(B)としては以下のものを用いた。
B-1:プロピレン・α-オレフィン共重合体(三井化学社製、製品名「タフマーPN2060」)
プロピレン以外のα-オレフィン:エチレンおよび1-ブテン
MFR(230℃,2.16kg):6g/10分
融解熱量:15mJ/mg
B-2:プロピレン・α-オレフィン共重合体(エクソンモービルケミカル社製、製品名「VISTAMAXX3000」)
プロピレン以外のα-オレフィン:エチレン
MFR(230℃,2.16kg):8g/10分
融解熱量:25mJ/mg
B-3:プロピレン・α-オレフィン共重合体(三井化学社製、製品名「タフマーXM7070」)
プロピレン以外のα-オレフィン:1-ブテン
MFR(230℃,2.16kg):7g/10分
融解熱量:40mJ/mg
B-4:プロピレン・α-オレフィン共重合体(日本ポリプロ社製、製品名「WINTEC WFX4M」)
プロピレン以外のα-オレフィン:エチレン
MFR(23℃,2.16kg):7g/10分
融解熱量:85mJ/mg
B-5:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、製品名「ノバテックPP MA3」)
プロピレン以外のα-オレフィン:含有せず
MFR(230℃,2.16kg):10g/10分
融解熱量:100mJ/mg
【0071】
上記プロピレン系樹脂(B)の物性評価は以下に示す方法で行った。
【0072】
(1)メルトフローレイト(MFR)
JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件でMFRを測定した。
【0073】
(2)融解熱量
示差操作熱量計(DSC)を用い、一旦200℃まで温度を上げて熱履歴を消去した後、10℃/分の降温速度で-10℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定した際の、吸熱ピークトップの温度を融解ピーク温度とし、20℃から180℃までの吸熱ピークの積分値を融解熱量とした。単位はmJ/mgである。
【0074】
[実施例1]
変性ポリエステル系エラストマー(A)を45質量%、プロピレン系樹脂(B-1)を55質量%配合し、タンブラーブレンド後、二軸スクリュ押出機(温度200℃、吐出量10kg/時間、回転数300rpm)で溶融混練させ、これをダイよりストランド状に押出し、カッティングして接着性樹脂組成物を作製し、以下の接着性評価および耐油性評価を行った。
結果を表1に示す。
【0075】
[接着性評価]
得られた接着性樹脂組成物を用い、Tダイ成形機を用いて、耐衝撃性ポリスチレン/接着性樹脂組成物/EVOH/接着性樹脂組成物/直鎖状低密度ポリエチレンの4種5層積層フィルムを成形した。成形温度230℃、ラインスピード20m/minで各層の厚さ30/10/20/10/30μmの層構成で、総厚み100μmのフィルムを得た。耐衝撃性ポリスチレン層にはPSジャパン社製「HT478」、EVOH層にはクラレ社製の「EVAL F101B」(エチレン含量:32モル%)、直鎖状低密度ポリエチレン層には日本ポリエチレン社製の「ノバテックC6 SF8402」を用いた。
得られた積層フィルムを15mm幅の短冊状に切出し、耐衝撃ポリスチレン層の1層と接着性樹脂組成物/EVOH/接着性樹脂組成物/直鎖状低密度ポリエチレンの4層との間の接着強度を、T型剥離試験により剥離速度300mm/分で測定した。剥離強度が3N/15mm以上あれば十分な接着強度であり、包装材として用いることができる。
【0076】
[耐油性評価:ヘプタン溶出試験]
食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の蒸発残留物試験法のヘプタン溶出試験を参考に、下記の通り行った。
接着性樹脂組成物をプレス成形(温度200℃,加圧50kgf/cm、2分間)し、厚さ0.5mmのシートを作製した。そのシートをヘプタンとともにフラスコに入れ、25℃で1時間浸漬させ、可溶性分を浸出させた。その後、試験溶液をナス型フラスコに250ml移し、減圧濃縮して数mlとした。その濃縮液およびそのフラスコをヘプタン約5mlずつで2回洗った洗液を、あらかじめ105℃で乾燥した重量既知の耐熱ガラス製の蒸発皿に採り、水浴上で蒸発乾固した。次いで、105℃で2時間乾燥した後、デシケータ―中で放冷した。その後、秤量し、蒸発皿の前後の重量差を求め、次式により蒸発残留物の量を求めた。
蒸発残留物(μg/ml)=(a-b)×1000/試験溶液の採取量(ml)
上記式において、aは蒸発皿の前後の重量差(mg)であり、bは試験溶液と同量のヘプタンについて得た空試験値(mg)である。
ヘプタン溶出試験における蒸発残留物が200μg/ml以下であれば、耐油性に優れるため、包装材として、内容物適性を広くすることができる。
なお、耐油性評価は接着強度が3N/15mm以上の高い接着強度を発現したものに対してのみ行った。
【0077】
[実施例2、3および比較例1~4、7]
配合を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様にして接着性樹脂組成物を作製し、接着性評価および耐油性評価を行った。
なお、比較例1~7は接着強度が3N/15mm以下であり、不十分であったため耐油性試験は行わなかった。
結果を表1に示す。
【0078】
[比較例5]
変性ポリエステル系エラストマー(A)単品についてそのまま接着性評価を試みたが、積層フィルムを成形できなかった。
【0079】
[比較例6]
プロピレン系樹脂(B-1)単品についてそのまま接着性評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例8]
従来技術の粘着付与剤配合品を以下の通り調製し、接着性評価および耐油性評価を行い、結果を表1に示した。
直鎖状エチレン・1-ブテン共重合体(密度0.920g/cm、MFR2g/10分(190℃,2.16kg))100質量部、およびマレイン酸無水物1質量部、t-ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂社製、パーブチルD)0.04質量部を、スーパーミキサーで1分間混合した後、二軸押出機(径30mm、L/D42)を用いて、混練温度230℃、スクリュ回転数300rpm、吐出量15kg/時間の条件で溶融混練し、これをダイよりストランド状に押出し、カッティングすることにより変性エチレン系重合体を得た。
このエチレン系重合体20質量部、直鎖状エチレン・オクテン共重合体(密度0.870g/cm、MFR1g/10分(190℃、2.16kg))60質量部、粘着付与剤として荒川化学工業社製「アルコン P-115」20質量部を、スーパーミキサーで1分間混合した後、二軸押出機(径30mm、L/D42)を用いて、混練温度230℃、スクリュ回転数300rpm、吐出量15kg/時間の条件で溶融混練させ、これをダイよりストランド状に押出し、カッティングすることにより従来技術の粘着付与剤配合品を得た。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より明らかなように、変性ポリエステル系エラストマー(A)とプロピレン系樹脂(B)とを本発明の規定範囲内で含む実施例1~実施例3の接着性樹脂組成物であれば、接着強度3.8N/15mm以上と十分な接着強度を発現し、またヘプタン溶出試験における蒸発残留物が少なく、耐油性が良好である。このように、接着性と耐油性がバランス良く発現されるため、包装材としての内容物適性を広げることができる。
【0083】
比較例1~2はプロピレン・α-オレフィン共重合体のプロピレン以外の共重合成分であるα-オレフィンが1種のみのプロピレン系樹脂(B-2)又は(B-3)が配合されたものであるが、接着強度が低いものであった。接着強度が不十分であるため、層間剥離による内容物漏れが発生する懸念があり、包装材としては不適当である。
比較例3はプロピレン・α-オレフィン共重合体のプロピレン以外の共重合成分であるα-オレフィンが1種のみであり、且つ、融解熱量が大きいプロピレン系樹脂(B-3)が配合されたため、接着強度が低いものであった。接着強度が不十分であるため、層間剥離による内容物漏れが発生する懸念があり、包装材としては不適当である。
【0084】
比較例4はコモノマーがなく、融解熱量が大きいプロピレン単独重合体(B-5)が配合されたため、接着強度が低いものであった。接着強度が不十分であるため、層間剥離による内容物漏れが発生する懸念があり、包装材としては不適当である。
【0085】
変性ポリエステル系エラストマー(A)のみを用いた比較例5は溶融時の流動性が高すぎるために、共押出成形で均一な厚みの積層体を得ることができず、接着性評価は行うことができなかった。即ち、変性ポリエステル系エラストマー(A)のみでは積層体への適用は困難であった。
【0086】
プロピレン系樹脂(B-1)のみを用いた比較例6は、変性ポリエステル系エラストマー(A)が配合されていないため、接着強度が不十分であり、層間剥離による内容物漏れが発生する懸念があり、包装材としては不適当である。
【0087】
比較例7は変性ポリエステル系エラストマー(A)の配合量が少ないため、接着強度が不十分であり、層間剥離による内容物漏れが発生する懸念があり、包装材としては不適当である。
【0088】
比較例8は接着強度を満足するものであったが、耐油性の低い粘着付与剤を配合しているため、ヘプタン溶出量が増え、耐油性に劣り、油性食品包装等の耐油性の必要な包装材には不適当である。