(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ポリ乳酸から成る容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 13/06 20060101AFI20220823BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20220823BHJP
B29C 49/06 20060101ALI20220823BHJP
B29B 11/08 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B29B13/06
B29C45/78
B29C49/06
B29B11/08
(21)【出願番号】P 2018074408
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】國枝 宏希
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-073955(JP,A)
【文献】国際公開第2003/008178(WO,A1)
【文献】特開2002-017170(JP,A)
【文献】特開2007-118350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
B29C 37/00-37/04
B29C 71/00-71/02
B29C 45/00-45/84
B29C 48/00-48/96
B29C 49/00-49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性異性体(D)含有量が4%以下である
重量平均分子量10000~300000のポリ乳酸を用い、
射出成形後に二軸延伸ブロー成形を行う熱溶融成形により容器を製造する方法において、
前記射出成形におけるバレル温度が210℃以下であり、前記
射出成形工程に供給されるポリ乳酸の含水率が20ppm~100ppm範囲に
あり、前記容器が飲料用容器であることを特徴とするポリ乳酸から成る容器の製造方法。
【請求項2】
前記
射出成形工程の前にポリ乳酸の調湿工程を有する請求項1記載のポリ乳酸から成る容器の製造方法。
【請求項3】
前記調湿工程が乾燥装置を備えており、下記式
K=[Ln(Miw)/(Mpw
)]/(Tip)
式中、Miwは、調湿工程における空気中の初期水分量であり、Mpwは、一定乾燥時間(Tip)後の空気中の水分量である、
から算出される前記乾燥装置の乾燥速度定数(K)を用い、ポリ乳酸の含水率を20~100ppmの範囲内に到達するために必要な乾燥時間(t)を、下記式
t=[Ln(Mo/Mt)]/K
式中、Moはポリ乳酸の初期含水率(ppm)であり、Mtは調湿後の目的とするポリ乳酸の到達含水率(20~100ppmの範囲)である、
から算出して、ポリ乳酸の含水率を調整する請求項2記載のポリ乳酸から成る容器の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ乳酸の初期含水率を、ポリ乳酸の到達飽和含水率である3500ppmに調整して調湿工程に導入する請求項2又は3記載のポリ乳酸から成る容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸から成る容器を熱溶融成形により成形する製造方法に関するものであり、より詳細には、ポリ乳酸の加水分解とアセトアルデヒド(AA)の生成を抑制可能であり、飲料用途に好適な容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化がもたらすさまざまな環境問題を防止するため、大気中の温室効果ガス濃度を低減させる対策として、植物産生樹脂であるバイオプラスチックの運用が期待されている。従来の石油系プラスチックから植物産生プラスチック(バイオプラスチック)への転換と、その樹脂の再利用を目的としたリサイクル技術の検討が進められている。中でも、工業的に量産され、入手が容易な、バイオプラスチックとして、脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸(PLLA)が注目されている。
【0003】
ポリ乳酸は、トウモロコシなどの穀物澱粉や、キャッサバなどの塊根類、ジャガイモなどの塊茎類、または、タロイモなどの球茎類の澱粉質の乳酸発酵物、L-乳酸をモノマーとして重合体したポリエステルである。一般に、L-乳酸の直接重縮合法やL-乳酸のダイマーであるラクタイドの開環重合法により製造される。従来の石油系プラスチックと異なり、資源の枯渇化の心配もなく、また、自然界に廃棄された場合でも、微生物分解により堆肥化が可能であり、また、最終的に水と炭酸ガスに分解されても、発生炭酸ガスは地上の植物に再度取り込まれるため、大気中へ炭酸ガスを蓄積することがない。そのため、ポリ乳酸は、植物から生まれ、植物に帰る、完全リサイクル型プラスチック素材として、その実用化が期待されている。
【0004】
ポリ乳酸から成る容器も種々提案されており、例えば、下記特許文献1には、光学活性異性体(d)含有量が4.0%以下であるポリ乳酸の二軸延伸ブロー成形及び熱固定で形成された容器であって、側壁部における広角X線測定で求めた2θ=10乃至25°の回折ピークの半価幅(X)が0.624°乃至1.220°の範囲にあることを特徴とする二軸延伸ブロー熱固定成形容器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリ乳酸は、熱溶融成形過程の加水分解性や、末端カルボキシル基に由来すると推定されるアセトアルデヒド(AA)の生成、並びに、光学活性異性体の光学活性異性転移(ラセミ化)による結晶性の低下など、熱成形時に解決しなければならないポリ乳酸に特有の課題が残されている。
従って本発明の目的は、ポリ乳酸から成る容器の熱溶融成形による製造方法において、加水分解とアセトアルデヒド(AA)の生成を抑制可能であり、飲料用途に好適な容器の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、光学活性異性体(D)含有量が4%以下である重量平均分子量10000~300000のポリ乳酸を用い、射出成形後に二軸延伸ブロー成形を行う熱溶融成形により容器を製造する方法において、前記射出成形におけるバレル温度が210℃以下であり、前記射出成形工程に供給されるポリ乳酸の含水率が20ppm~100ppm範囲にあり、前記容器が飲料用容器であることを特徴とするポリ乳酸から成る容器の製造方法が提供される。
【0008】
本発明のポリ乳酸から成る容器の製造方法においては、
(1)前記射出成形工程の前にポリ乳酸の調湿工程を有すること、
(2)前記調湿工程が乾燥装置を備えており、下記式(1)
K=[Ln(Miw)/(Mpw)]/(Tip)・・・(1)
式中、Miwは、調湿工程における空気中の初期水分量であり、Mpwは、一定乾燥時間(Tip)後の空気中の水分量である、
から算出される前記乾燥装置の乾燥速度定数(K)を用い、ポリ乳酸の含水率を20~100ppmの範囲内に到達するために必要な乾燥時間(t)を、下記式(2)
t=[Ln(Mo/Mt)]/K・・・(2)
式中、Moはポリ乳酸の初期含水率(ppm)であり、Mtは調湿後の目的とするポリ乳酸の到達含水率(20~100ppmの範囲)である、
から算出して、ポリ乳酸の含水率を調整すること、
(3)前記ポリ乳酸の初期含水率を、ポリ乳酸の到達飽和含水率である3500ppmに調整して調湿工程に導入すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ乳酸から成る容器の製造方法においては、熱溶融成形工程に供給されるポリ乳酸の含水率を20~100ppmの範囲に調整しておくことにより、熱溶融成形工程における加水分解を抑制できると共に、アセトアルデヒド(AA)の発生を抑制することができ、フレーバー性を損なうことなく、ポリ乳酸から成る容器を成形することができる。
また本発明の製造方法においては、ポリ乳酸の含水率を効率よく調整することができることから、生産性及び経済性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリ乳酸から成る容器の製造方法においては、ポリ乳酸として光学活性異性体(D)含有量が4%以下であるポリ乳酸を使用すること、及び熱溶融成形工程に供する際のポリ乳酸の含率が20~100ppmの範囲にあることが重要な特徴である。
すなわち、ポリ乳酸は、光学活性異性体樹脂であり、その機械的強度や耐熱性は光学活性異性体(D%)組成量に依存し、光学活性異性体(D)の含有量が低い高純度ポリ乳酸は高い結晶性を示し、融点を有すると共に、延伸により機械的強度が向上するが、光学活性異性体(D)の含有量が高いポリ乳酸は、非晶性であり、耐熱性と機械的強度が低下する。
本発明においては、光学異性体(D)の含有量が4%以下のポリ乳酸を使用することによって、機械的強度に優れた容器を製造することが可能になる。
【0011】
その一方、ポリ乳酸は高温で光学活性異性転移(ラセミ化)を生じることから、たとえ高純度のL-ポリ乳酸を用いて熱成形しても、熱成形過程で、光学活性異性転移が生じ、光学純度の低下と機械的強度や耐熱性能が低下する場合がある。
すなわち、結晶性ポリ乳酸は、分子内水素結合を形成した剛直なヘリックスコイル構造であることから、溶融初期段階は、比較的流動性の悪い剛直な構造であり、剪断発熱を起こしやすい。そのため、乾燥すればするほど(絶乾状態に近づくほど)、溶融成形時の剪断発熱にてラジカルが発生し、結果的にゲレーション(ゲル化)を起こしやすい。また、この剪断発熱によりアセトアルデヒド(AA)生成量も増加する傾向にある。一方、ポリ乳酸の含水率が高いとポリ乳酸が加水分解されやすく、カルボキシル基末端数が増加するため、やはりアセトアルデヒド(AA)の発生量が増加する。そのため、ポリ乳酸を用いた熱溶融成形工程においては、樹脂の流動特性を考慮した含水率に調湿する必要がある。
本発明においては、熱溶融成形工程に供されるポリ乳酸の含水率を20~100ppmに調整することにより、上記のような不都合を生じることなく、機械的強度、耐熱性、及びフレーバー性に優れた容器を製造することを見出した。
【0012】
(ポリ乳酸)
本発明に用いるポリ乳酸は、下記式(I)
-[-O-C(CH3)H-CO-] ・・・(I)
で表される反復単位から成り、構成単位が実質上L-乳酸から成り、光学異性体であるD-乳酸の含有量が4.0%以下のものである。
【0013】
本発明に用いるポリ乳酸は、勿論これに限定されないが、10000~300000、特に20000~250000の範囲の重量平均分子量(Mw)を有することが好ましい。また密度1.26~1.20g/cm3、融点160~200℃、メルトフローレート(ASTM D1238,190℃)2~20g/10分の範囲にあることが好ましい。
【0014】
容器製造に用いられるポリ乳酸には、その用途に応じて、各種着色剤、充填剤、無機系或いは有機系の補強剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を、公知の処方に従って配合することができる。
【0015】
また、本発明の製造方法により成形されるポリ乳酸から成る容器では、上記ポリ乳酸を単層で使用することもできるし、内容物の性状に応じて、他の樹脂との積層体で用いることもできる。例えば、酸素に対するバリアー性が要求される用途には、エチレン・ビニルアルコール共重合体、メタキシリレンアジパミド(MXD6)のようなガスバリアー性樹脂が積層体の形で使用され、また、水蒸気に対するガスバリアー性が要求される用途には、環状オレフィン共重合体等の水蒸気バリアー性樹脂が積層体の形で使用される。更に、本発明の成形体には、ガスバリアー性を向上させるために、金属酸化物等の被覆層を設けることも可能である。
【0016】
(製造方法)
本発明は、光学活性異性体(D)含有量が4%以下であり、含水率が20~100ppm、特に50~100ppmの範囲にあるポリ乳酸を用いることが重要な特徴であり、ポリ乳酸の含水率が上記範囲にある限り、調湿工程に付する必要はないが、熱溶融成形工程に供する直前にポリ乳酸を乾燥除湿して上記範囲の含水率のポリ乳酸とし、その含水率を維持したまま熱溶融成形工程に供給し、これを熱溶融成形することにより容器を製造することが重要な特徴である。
このため本発明のポリ乳酸から成る容器の製造方法においては、熱溶融成形工程の直前にポリ乳酸の含水率を上記範囲に調整するための調湿工程を備えていることが望ましい。
【0017】
[調湿工程]
前述したとおり、ポリ乳酸は絶乾状態に近い状態で熱溶融成形に供給されると、熱溶融成形工程においてペレット同士の摩擦や剪断発熱にてラジカルが発生して樹脂のゲル化が生じると共に、剪断発熱によりアセトアルデヒド(AA)が発生することから、ポリ乳酸は少なくとも20ppmの含水率を有することが必要である。その一方、含水率が100ppmよりも高いと、熱溶融成形工程で樹脂が加水分解すると共に、やはりアセトアルデヒド(AA)量を増加させてしまう。
調湿工程においては、熱風乾燥装置や真空乾燥装置等の従来公知の乾燥装置を用いて、ポリ乳酸のペレットの含水率を上記範囲になるように調整する。
調湿に際しては、乾燥温度・風量・露点温度・樹脂量・乾燥タンク容量/形状が異なる場合は、乾燥途中でポリ乳酸ペレットの含水率をその都度測定し、目標到達湿度となった時に、乾燥を終了させることになる。しかし、前出乾燥条件の一部が異なっても、乾燥時に用いる乾燥機の乾燥能力が確認できれば、その乾燥能力から、乾燥時間を把握することができ、結果、適性乾燥条件の樹脂を適時に成形機に供給することができる。
一般に調湿工程で使用する乾燥装置は、乾燥温度、風量、風速、露点温度等の条件が決まれば、乾燥速度定数(K)が一定になる。使用する乾燥装置の乾燥速度定数(K)が乾燥過程で求められれば、乾燥装置への導入前ポリ乳酸の初期含水率(Mo)から、目的とする到達含水率(Mt)に至る必要乾燥時間(t)を求めることができ、より正確な調湿が可能となる。
【0018】
すなわち、調湿工程で使用する乾燥装置における乾燥速度定数(K)を下記式(1)
K=[Ln(Miw)/(Mpw]/(Tip)・・・(1)
式中、Miwは、調湿工程における乾燥装置内の空気中の初期水分量であり、Mpwは、一定乾燥時間(Tip)(hr)後の乾燥装置内の空気中の水分量である、
から算出する。尚、乾燥装置内の空気中の水分量測定については後述する。
次いで、この乾燥速度定数(K)を用い、調湿工程において初期含水率(Mo)のポリ乳酸が、目的とする到達含水率(Mt)になるために必要な乾燥時間(t)を、下記式(2)
t=[Ln(Mo/Mt)]/K・・・(2)
式中、Moはポリ乳酸の初期含水率(ppm)である、
から算出する。
これにより、初期含水率(Mo)のポリ乳酸を使用した場合、調湿工程において(t)時間乾燥することにより、ポリ乳酸の含水率を目的とする、20~100ppmの到達含水率(Mt)に調湿できる。
【0019】
また上記調湿方法においては、調湿工程に供給するポリ乳酸の初期含水率を飽和含水率となるように、加湿しておくことも好適である。初期含水率未知のポリ乳酸を用いた場合、ポリ乳酸の初期含水率を測定してから調湿工程に供給する必要があるが、ポリ乳酸の初期含水率を飽和含水率に加湿することで、初期含水率の測定が省略できる。
すなわち、ポリ乳酸の平衡吸湿率は一般に0.2~0.3%とされているが、我々の経験上では飽和含水率は3500ppmであることが知られており、適宜条件で容易に飽和含水率まで加湿することができる。
これにより、例えば目的とする到達含水率を100ppmとした場合には、上記式(2)は
t=[Ln(3500/100)]/K・・・(2‘)
となり、飽和含水率3500ppmに調湿されたポリ乳酸を用いることにより、乾燥速度定数(K)だけで調湿に必要な時間を容易に算出できる。
【0020】
ポリ乳酸の含水率を飽和含水率である3500ppmに調整する方法としては、特に限定されない。高湿度条件下への保管、水分の噴霧、水中への浸漬等の方法で行うこともできるが、過剰な水分の供給はポリ乳酸の加水分解を促進させるおそれがあるので、好適には、RH80%以上の高湿度環境下で24~48時間保管にて吸湿させることが好ましい。
尚、ポリ乳酸の含水率は、カールフィッシャー電量滴定法等公知の方法で測定することができる。
【0021】
[熱溶融成形工程]
前記調湿工程で含水率が調整されたポリ乳酸は、その含水率が維持されたまま熱溶融成形工程に供給される。
熱溶融成形としては、射出成形、押出成形、圧縮成形等、樹脂を加熱溶融して成形する従来公知の成形法を採用できる。本発明においては、これらの成形法から直接容器を製造するものであってもよいし、射出成形或いは押出成形によりパイプ状のパリソンを成形し、これをブロー成形した後、ピンチオフして底部を形成するダイレクトブロー成形や、射出成形や圧縮成形等により成形した有底プリフォームを用いた二軸延伸ブロー成形、或いは押出成形により成形されたシートの圧空成形等により成形することもできる。
ポリ乳酸から成る容器は、延伸により配向結晶を付与し、熱固定することによって、耐熱性及び機械的強度や透明性が顕著に向上することから、上記記成形法の中でも、二軸延伸ブロー成形によることが特に好ましい。
【0022】
前述した調湿工程で含水率が20~100ppmの範囲内に調整されたポリ乳酸は、この含水率を維持したまま押出機などに投入されて溶融混練される。この際、溶融混練の温度(押出機の設定温度)を180~210℃の温度とすることが好適である。上記範囲よりも溶融混練の温度が低い場合には、充分溶融混練することができない。一方上記範囲よりも溶融混練温度が高い場合も剪断発熱により光学活性異性転移(ラセミ化)が生じて、耐熱性が低下すると共にアセトアルデヒド(AA)発生量が増加する。
溶融混練されたポリ乳酸は、射出成形では射出機から射出されて、最終容器に対応する口頚部を備えた非晶質の有底プリフォームとして成形される。尚、二軸延伸ブロー成形に使用する有底プリフォームの成形は、従来公知の方法により行うことができる。
延伸のためのプリフォームの加熱温度(延伸温度)は、一般に70~150℃、特に80~120℃の範囲にあることが好ましい。
ボトル等への二軸延伸ブロー成形は従来公知の方法で行うことができ、一段ブロー成形の他、二段ブロー成形により行うことができる。
延伸温度にあるプリフォームをブロー成形金型内でボトル軸方向に引っ張り延伸すると共に、流体吹き込みによりボトル周方向に膨張延伸させる。延伸倍率はこれに限定されないが、軸方向延伸倍率を1.5~5.0倍、特に2~3倍、周方向延伸倍率を1.5~5.0倍、特に2~3倍、面積延伸倍率を2.25~9.0倍、特に4~7倍として二軸延伸ブロー成形を行うのが好ましい。
ポリ乳酸から成る容器は耐熱性に劣ることから、熱固定を行うことが望ましい。一段ブロー成形の場合は、最終容器形状に対応するキャビティ型の表面温度を熱固定温度に維持し、延伸ブロー成形と熱固定とが一つのモールド内で行われるようにする。熱固定温度は一般に、70~150℃、特に90~120℃の範囲にあることが好ましい。熱固定温度が高い方が配向結晶化の程度は高くなるが、型からの取り出し性(取り出しの際の変形防止)の点で上記範囲内にあることが好ましい。
【0023】
[ポリ乳酸から成る容器]
本発明の製造方法により製造されるポリ乳酸から成る容器は、含水率が調整されたポリ乳酸を用いて成形されていることから、成形性に優れていると共に、アセトアルデヒド(AA)の発生が抑制され、フレーバー性に優れている。また二軸延伸ブロー成形及び熱固定を経た容器とすることにより優れた耐熱性及び透明性を備えることができる。
【実施例】
【0024】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明は、実施例の範囲に限定されるものではない。
【0025】
(使用するポリ乳酸)
ポリ乳酸A:重量平均分子量(MW)がMW=20,950で、且つ、光学活性異性体(d)比率が1.5%のポリ-L-乳酸(PLLA)樹脂を用いた。
ポリ乳酸B:重量平均分子量(MW)がMW=214,500で、且つ、光学活性異性体(d)比率が5.0%のポリ-L-乳酸(PLLA)樹脂を用いた。
【0026】
(ポリ乳酸の乾燥前処理)
ポリ乳酸を、40℃RH85%条件下に7日放置し吸湿させた、日中は2時間おきに樹脂の重量測定し(夜間測定は行なっていない)、その重量変化から平衡吸水状態に至る時間を求めた。重量が平衡値に達した樹脂を、カールフィッシャー電量滴定法、三菱化学社製、VP06A Water Vaperizerを用い、120℃-30min条件で含水率を測定した。
【0027】
(乾燥条件の算出)
カワタ(株)製温風循環型乾燥機を用いた。温風循環型乾燥機の樹脂投入タンクへ温風を導入する温風導入口と、樹脂を通気後の温風の出口に、露点温度計(温風温度と相対湿度を計測)を設置し、応答速度60secで温度と相対湿度を計測した。
次にパーソナルコンピューターを用い、計測した相対湿度を下記式(3)及び(4)にて絶対湿度に換算した。
温度t(℃)における飽和水蒸気量(A(t))を下記式(3)で計算する、
A(t)=217・e(t)/(t+273.15)・・・(3)
次に、温度(t℃)のワグナー式である下記式(4)で近似した飽和水蒸気圧e(t)を上記式(3)に代入した。
e(t)=Pc・exp[(A・x+B・x1.5+c・x3+D・x6)/(1-x)] ・・・(4)
式中、Pc=221200[hPa]
Tc=647.3[K]
x=1-(t+273.15)/Tc
A=-7.76451
B=1.45838
C=-2.7758
D=-1.23303
上記式(3)及び(4)で求めた水分量を用い、前記式(1)及び(2)から、乾燥機の乾燥速度定数(K)と含水率100ppmに到達する時間(t)を算出した。
【0028】
(プリフォーム成形)
バレル温度を180℃~210℃とする温度条件下、スクリュウー回転数180rpm、金型温度15℃の金型を用い、口径28mmφのポリ乳酸製プリフォームを作成した。尚、比較のため、バレル温度を210℃~230℃の成形試験も行った。
【0029】
(二軸延伸ブローボトルの成形)
上記ポリ乳酸製のプリフォームを、一旦、冷却後、赤外線加熱ヒーターで90℃に再加熱後、金型温度85℃のブロー金型を用い、初期ブロー圧力1.5MPa、メインブロー圧力3MPaにて、500ml容のボトルにブロー成形した。
【0030】
(評価方法)
[ゲレーション]
成形されたポリ乳酸ボトルの表面の外観観察から、ゲルによる凹凸が確認された場合、ゲルの生成がありとして×とした。延伸成形ボトルの外表面がなだらかなボトルについては○とした。
【0031】
[重量平均分子量の測定]
成形されたポリ乳酸ボトルの胴部からサンプルを切り出し、10mgを精秤後、CHCL3に溶解し、0.45μmフィルターで濾過後、濾液10μlを、東ソー(株)社製)HLC-8129GPC(Gel Permiation)でTSK Guard colume、H-Hカラムを用い、カラム温度40℃、展開溶媒CHCl3(溶出量:0.6ml/min)、UV検出器を用い分子量を測定した。
【0032】
[光学活性異性体量の測定]
成形されたポリ乳酸ボトルの胴部からサンプルを切り出し、20mgを精秤後、1N-NaOH・1mlに入れ、密封後、100℃に1時間放置し加水分解した。蒸留水8mlを添加後、1N―CuSO4を1,ml添加した、0.45μmフィルターで濾過後、島津製作所(株)製、高速液体クロマトグラフィーLC-VPシステムで、三菱化学社(株)製MCT-GEL 10Wカラムを用い、UV―VIS検出器で、硫酸銅水溶液を展開溶媒とした測定を行った。
【0033】
[アセトアルデヒド(AA)溶出性試験]
成形されたポリ乳酸ボトルに保存した水を1ml採取し、濃度0.1%の2,4-ジニトロフェニルヒドラジンンリン酸溶液を0.2ml添加した。30分後、液を0.45μmフィルターで濾過後、高速液体クロマトグラフィー(アジレントテクノロジー(株)製Agilent 1200 Infinity)で測定した。測定検出限界は5ppbである。
アセトアルデヒド(AA)溶出量が10ppb未満であるものを○とし、10ppb以上40ppb未満の物を△、40ppb以上を×とした。
【0034】
(熱収縮性)
成形されたポリ乳酸ボトルの満注入内容量(g)を20℃水道水充填量から求めた。次にボトルを55℃恒温槽に18日保存し、再度満注内容量(g)を測定した。ここで、経時後の満注内容量W1(g)と初期満注内容量W0(g)から、下記式(5)
熱収縮率(%)=(W0-W1)/W0×100・・・(5)
により熱収縮率を求めた。
熱収縮率が6%未満のボトルを○、熱収縮率が6%以上のボトルを×とした。
【0035】
(実施例1)
ポリ-L-乳酸(PLLA)として前記ポリ乳酸Aを用いた、40℃・RH85%に2日間放置後、100℃の温風循環乾燥装置を用い、樹脂投入1時間後と2時間後の空気中の水分量を(空気中)絶対湿度に換算後、(Miw:1時間後)、(Mpw:2時間後)から、前記式(1)を用い、乾燥速度定数(K)を求めた。この場合の乾燥速度係数(K)は K=0.7282 となった。次に、この乾燥速度定数(K)から前記式(2)を用い、乾燥時間(t)を算出後、温風循環乾燥装置にポリ乳酸を投入した時間を起点に算出した(t)時間後、乾燥ポリ乳酸を射出成形機に投入した。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で含水率を求めたところ、95ppmであった。バレル温度を180℃~210℃として射出成形を行った。
得られたプリフォームを、二軸延伸ブロー成形し、500ml容のポリ乳酸ボトルを作成した。このボトルにつき、外観検査からのゲレーション有無判定、GPCによる重量平均分子量(Mw)測定から加水分解性を判断、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による光学活性異性転移(ラセミ化)の確認、及び、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるアセトアルデヒド(AA)溶出量の測定を行った。
【0036】
(実施例2)
50℃の温風循環乾燥装置を用いた以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸ボトルを作成した。また、この場合の乾燥速度係数(K)は K=0.1107 となった。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、95ppmであった。
【0037】
(実施例3)
ポリ乳酸の含水率が100ppmになる乾燥時間+3時間後に、乾燥樹脂を熱成形機に供給した以外は実施例1と同様にした。また、この場合の乾燥速度係数(K)は実施例1同様 K=0.7266 であった。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、30ppmであった。
【0038】
(比較例1)
ポリ乳酸Aに代えて前記ポリ乳酸Bを用いた以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸ボトルを作成した。また、この場合の乾燥速度係数(K)は実施例1同様 K=0.7258 であった。更にポリ乳酸の含水率が100ppmになる乾燥時間(t)後に熱成形機に供給した。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、90ppmであった。
【0039】
(比較例2)
ポリ乳酸の含水率が100ppmになる乾燥時間(t)-2時間後に乾燥樹脂を熱成形機に供給した以外は実施例1と同様にした。また、この場合の乾燥速度係数(K)は実施例1同様 K=0.7288 であった。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、124ppmであった。
【0040】
(比較例3)
ポリ乳酸の含水率が100ppmになる乾燥時間(t)+6時間後に乾燥樹脂を熱成形機に供給した以外は実施例1と同様にした。また、この場合の乾燥速度係数(K)は実施例1同様 K=0.7279 であった。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、18ppmであった。
【0041】
(比較例4)
射出成形機のバレル温度を210~230℃にし、ポリ乳酸の含水率が100ppmになる乾燥時間(t)+6時間後に乾燥樹脂を熱成形機に供給した以外は、実施例1と同様にした。また、この場合の乾燥速度係数(K)は実施例1同様 K=0.7268 であった。乾燥樹脂の一部を採取し、カールフィッシャー電量滴定法で求めた含水率は、18ppmであった。
【0042】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリ乳酸から成る容器の製造方法においては、含水率が20~100ppmのポリ乳酸を用いて熱溶融成形を行うことにより、加水分解とアセトアルデヒドの生成を抑制可能であり、フレーバー性に優れていることから、特に飲料用容器の製造に好適に使用できる。