(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/239 20060101AFI20220823BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20220823BHJP
【FI】
B60R21/239
B60R21/2338
(21)【出願番号】P 2018169804
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸一
(72)【発明者】
【氏名】楠村 拓也
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-216943(JP,A)
【文献】特開2010-023763(JP,A)
【文献】特開2005-014861(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102491(WO,A1)
【文献】特開2010-163064(JP,A)
【文献】特表2009-523638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/239
B60R 21/2338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベントホールを有するエアバッグ本体と、
基端部が該ベントホール周囲のエアバッグ本体に連なり、該エアバッグ本体の外面側から起立した展開状態をとり得るガスダクトとを有するエアバッグにおいて、
該ガスダクトの基端部は該ベントホールの縁部から離隔しており、
該エアバッグ本体のうち、該ベントホールの縁部と該ガスダクトの基端部との間のベントホール周囲部に、該ベントホールよりも小径の小孔が設けられていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記小孔は、前記ベントホールの周方向に間隔をおいて複数個設けられていることを特徴とする請求項1のエアバッグ。
【請求項3】
前記小孔は2~12個設けられていることを特徴とする請求項2のエアバッグ。
【請求項4】
前記エアバッグは助手席用エアバッグであることを特徴とする請求項1~3のいずれかのエアバッグ。
【請求項5】
前記ガスダクトは、前記エアバッグ本体から離隔するほど小径となるテーパ形状部を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかのエアバッグ。
【請求項6】
前記ガスダクトは、前記基端部から先端部までテーパ形状部となっていることを特徴とする請求項5のエアバッグ。
【請求項7】
前記ガスダクトの先端部の直径Tと前記ベントホールの直径Dとの比T/Dが0.5~1.5であることを特徴とする請求項5又は6のエアバッグ。
【請求項8】
前記エアバッグは、大柄乗員及び小柄乗員を受承する第1領域と、大柄乗員のみを受承する第2領域とを備えており、
該第2領域と前記ガスダクトとをつなぐテザーが設けられており、
前記ガスダクトは、膨張したエアバッグの前記第2領域が大柄乗員を受承するまでは、前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより前記小孔を覆っており、
該第2領域が大柄乗員を受承すると、前記第2領域の前方移動に伴って、該ガスダクトが前記エアバッグ本体から外方に起立状態となることを特徴とする請求項1~7のいずれかのエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両乗員を衝突時等に拘束するためのエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
膨張したエアバッグが車両乗員を拘束したときに、ベントホールを介してエアバッグ内部からガスが流出することにより該車両乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0003】
特許文献1には、エアバッグ内部のガス圧が所定圧に達するまではベントホールが蓋部材によって覆われており、所定圧を超えるとこのガス圧により該蓋部材が押し開かれてベントホールが開放するよう構成されたエアバッグが記載されている。
【0004】
同号公報のエアバッグにあっては、該エアバッグが膨張する場合、エアバッグ内部のガス圧が所定圧となるまではベントホールが蓋部材によって覆われており、該ベントホールからのガスの流出が規制されているので、エアバッグ内部が速やかに高圧となり、エアバッグが迅速に展開する。
【0005】
そして、エアバッグ内部のガス圧が所定圧を超えると、該蓋部材が押し開かれてベントホールが開放するので、この膨張したエアバッグに車両乗員が突っ込んで来た場合には、該ベントホールを介してエアバッグ内部からガスが流出することにより、該車両乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0006】
特許文献2には、ベントホールが筒状とされ、エアバッグ内圧が低いときには筒状部が折れ曲ることにより排気が抑制され、エアバッグ内圧が高くなると筒状部が直筒状となり、排気量が増大するエアバッグが記載されている。
【0007】
特許文献3には、乗員の体格をセンサで検知し、体格が大きいときにはベントホールを閉塞状態とし、体格が小さいときにはベントホールを早目に開放状態とするエアバッグ装置が記載されている。特許文献3では、ベントホールの開度を切り替えるために、ベントホールを開閉するためのテザーの一端を保持する保持装置を作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-16228号公報
【文献】特開2010-163064号公報
【文献】特開2017-178224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、乗員の体格を検知するためのセンサ及び該センサの検知信号に基づいて作動する保持装置並びにその制御装置を用いることなく、大柄乗員拘束時におけるベントホールからの流出ガス流速増大を抑制することができるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエアバッグは、ベントホールを有するエアバッグ本体と、基端部が該ベントホール周囲のエアバッグ本体に連なり、該エアバッグ本体の外面側から起立した展開状態をとり得るガスダクトとを有するエアバッグにおいて、該ガスダクトの基端部は該ベントホールの縁部から離隔しており、該エアバッグ本体のうち、該ベントホールの縁部と該ガスダクトの基端部との間のベントホール周囲部に、該ベントホールよりも小径の小孔が設けられている。
【0011】
本発明の一態様では、前記小孔は、前記ベントホールの周方向に間隔をおいて複数個設けられている。
【0012】
本発明の一態様では、前記小孔は2~12個設けられている。
【0013】
本発明の一態様では、前記エアバッグは助手席用エアバッグである。
【0014】
本発明の一態様では、前記ガスダクトは、前記エアバッグ本体から離隔するほど小径となるテーパ形状部を有する。
【0015】
本発明の一態様では、前記ガスダクトは、前記基端部から先端部までテーパ形状部となっている。
【0016】
本発明の一態様では、前記ガスダクトの先端部の直径Tと前記ベントホールの直径Dとの比T/Dが0.5~1.5である。
【0017】
本発明の一態様では、前記エアバッグは、大柄乗員及び小柄乗員を受承する第1領域と、大柄乗員のみを受承する第2領域とを備えており、該第2領域と前記ガスダクトとをつなぐテザーが設けられており、前記ガスダクトは、膨張したエアバッグの前記第2領域が大柄乗員を受承するまでは、前記テザーを介して前記第2領域に引っ張られることにより前記小孔を覆っており、該第2領域が大柄乗員を受承すると、前記第2領域の前方移動に伴って、該ガスダクトが前記エアバッグ本体から外方に起立状態となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエアバッグにあっては、車両の衝突時等にインフレータが作動し、エアバッグ本体が膨張し、乗員がエアバッグ本体によって受承(拘束)される。
【0019】
エアバッグ本体が乗員を拘束すると、ベントホール及び小孔からガスが流出する。小柄乗員を拘束した場合、ベントホール及び小孔を通るガス流速(排気流速)が小さい。小孔を通るガスの流速が小さいと、ベントホールからガスダクトを通って流出するガス流が乱れることが少なく、ベントホールからガスがスムーズに流出する。
【0020】
エアバッグ本体が大柄乗員を拘束した場合、ベントホール及び小孔を通るガスの流速が大きい。小孔を通るガスの流速が大きいと、ベントホールからガスダクトを通って流出するガス流が乱流化し、ベントホールからの排気が阻害される。このため、大柄乗員拘束時の排気流速の増大が抑制される。
【0021】
このように、本発明によると、乗員の体格を検知するためのセンサを用いることなく、大柄乗員拘束時の流出ガス流速増大が抑制される。
【0022】
本発明の一態様にあっては、小柄乗員は、エアバッグ本体の第1領域によって受承され、大柄乗員はエアバッグ本体の第1領域及び第2領域の双方によって受承される。エアバッグ本体が小柄乗員を受承した場合、ガスダクトはテザーに引っ張られて小孔を覆う姿勢となるので、小孔からのガス流出が少なく、ベントホールからガスがスムーズに流出する。
【0023】
エアバッグ本体が大柄乗員を受承した場合、ガスダクトはエアバッグ本体から起立し、小孔を覆わなくなるので、小孔からの流出ガス流速が大きくなり、ベントホールからの流出ガス流速の増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図4】第2の実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図5】第2の実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【
図6】第2の実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、本明細書において、前後方向はエアバッグ装置を搭載した自動車の前後方向と合致し、左右方向は該自動車の左右方向と合致する。
【0026】
図1~3に示す助手席用エアバッグ1は、エアバッグ本体2と、該エアバッグ本体2に連結されたガスダクト3とを有する。膨張した状態におけるエアバッグ本体2の側面にベントホール5が設けられている。ガスダクト3は、その基端側がエアバッグ本体2のベントホール5の周縁部に縫合糸7によって縫着されている。ガスダクト3は、エアバッグ本体2と同一の基布よりなることが好ましい。
【0027】
エアバッグ本体2の後面が乗員を受承する乗員対向面2aとなっている。エアバッグ本体2には、インストルメントパネル(インパネ)4側の面に開口(図示略)が設けられ、この開口の周縁部が助手席用エアバッグ装置のコンテナ(図示略)に連結されている。コンテナに支持されたインフレータ(図示略)からのガスによってエアバッグ1が膨張する。エアバッグ本体2は、エアバッグ1の大部分を構成するものであり、インパネ4と助手席乗員との間に膨張し、乗員を受け止める。
【0028】
ガスダクト3は、基端部が大径であり、先端部3tが小径のテーパ筒形である。ガスダクト3の基端部の直径はベントホール5の直径よりも大きく、ガスダクト3の基端部はベントホール5の周縁から所定距離離隔している。エアバッグ本体2のうち、ガスダクト3の基端部とベントホール5の周縁との間(ベントホール周囲部)に複数の小孔6(
図2,3)が設けられている。小孔6は、ベントホール5を周回する方向に等間隔で設けられている。小孔6の数は2~12個特に6~8個程度が好ましい。
【0029】
ガスダクト3の先端部3tの開口の直径Tとベントホール5の直径Dとの比T/Dは、0.5~1.5特に0.8~1.2であることが好ましい。
【0030】
ガスダクト3が展開した状態におけるガスダクト3のエアバッグ本体2からの起立高さHとガスダクト3の基端部の直径Bとの比H/Bは0.1~3特に0.3~1であることが好ましい。
【0031】
エアバッグ1は、ガスダクト3がエアバッグ本体2の側面に重なった状態で折り畳まれて前記コンテナ内に収容される。このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突すると、インフレータが作動し、該インフレータからのガスによってエアバッグ本体2がインパネ4と助手席乗員との間に膨張する。
【0032】
エアバッグ本体2が乗員を拘束すると、ベントホール5及び小孔6からガスが流出する。小柄乗員を拘束した場合、ベントホール5及び小孔6を通るガス流速(排気流速)が小さい。小孔6を通るガスの流速が小さいと、ベントホール5からガスダクト3を通って流出するガス流が乱れることが少なく、ベントホール5からガスがスムーズに流出する。
【0033】
エアバッグ本体2が大柄乗員を拘束した場合、ベントホール5及び小孔6を通るガスの流速が大きい。小孔6を通るガスの流速が大きいと、ベントホール5からガスダクト3を通って流出するガス流が乱流化し、ベントホール5からの排気が阻害される。このため、大柄乗員拘束時の排気流速の増大が抑制される。
【0034】
図4~8を参照して第2の実施の形態に係るエアバッグ1Aについて説明する。
【0035】
この実施の形態にあっては、エアバッグ本体2の乗員対向面2aは、下部が第1領域Iであり、上部が第2領域IIである。
図4の線分Cは、第1領域Iと第2領域IIとの境界線を示している。インパネ4に沿って膨張完了し、乗員を受け止めていない状態のエアバッグ1を側面から見たエアバッグ側面視において、エアバッグ本体2の全高をZとし、エアバッグ本体最低レベル部から線分Cまでの高さをhとした場合、h/Zは好ましくは0.4~0.9特に好ましくは0.5~0.7とされる。
【0036】
ガスダクト3の姿勢を制御するために、テザー8が設けられている。テザー8は、一端が、第2領域IIの左右幅方向の中央付近に縫合糸9によって縫着されている。テザー8の他端は、ガスダクト3の先端側に縫着されている。
【0037】
エアバッグ1Aのその他の構成はエアバッグ1と同一である。このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突すると、インフレータが作動し、該インフレータからのガスによってまずエアバッグ本体2がインパネ4と助手席乗員との間に膨張する。
【0038】
図4は、エアバッグ本体2が乗員を受承していない状態を示し、
図5はエアバッグ本体2が小柄乗員(例えばAF05)を受承した状態を示している。
【0039】
エアバッグ本体2が小柄乗員(例えばAF05)を拘束したときには、
図5の通り、乗員対向面2aのうち第1領域Iのみが前方に乗員によって押し込まれる。
【0040】
この状態にあっては、エアバッグ本体2の乗員対向面2aの第2領域IIは、
図7の通り、後方に向って膨らみ出した状態となっている。この状態では、テザー8がガスダクト3を乗員対向面2aの左右方向中央部に向けて引っ張るので、ガスダクト3は起立展開が阻止され、小孔6を覆っている。このため、小孔6を通るガス流速は小さく、ベントホール5からガスがスムーズに流出する。
【0041】
膨張したエアバッグ本体2が大柄乗員P(例えばAM50)を拘束した場合、
図6,8の通り、乗員対向面2aの第1領域及び第2領域IIの双方が押し込まれ、エアバッグ本体2の内圧が比較的大きく上昇する。第2領域IIも押し込まれることにより、テザー8がベントホール5に接近し、テザー8の張力が消失する。これにより、ガスダクト3はエアバッグ本体2内のガス圧によってエアバッグ本体2から側外方に展開して起立する。そうすると、小孔6からの流出ガス流速が大きくなり、ベントホール5からガスダクト3を通って流出するガス流の乱流化が促進され、これによってベントホール5からのガス流出量が制約される。
【0042】
このように、エアバッグ1,1Aによると、拘束する乗員の体格に応じてガスダクト3の姿勢が制御され、大柄乗員拘束時のベントホールからの排気流速の増大が抑制される。また、このエアバッグ1,1Aでは、ガスダクト3の姿勢制御のためのセンサや保持装置、その制御回路等が不要であり、構成コストが安価である。
【0043】
上記実施の形態では、ガスダクト3は全体としてテーパ形状となっているが、一部、例えば先端側が直筒状とされてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 エアバッグ
2 エアバッグ本体
3 ガスダクト
4 インパネ
5 ベントホール
6 小孔
8 テザー