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  • 特許-加泥材 図1
  • 特許-加泥材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】加泥材
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/08 20060101AFI20220823BHJP
   E21D 9/13 20060101ALI20220823BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C09K8/08
E21D9/13 A
E21D9/06 301M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018189388
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020055984
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 志照
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-124620(JP,A)
【文献】特開平7-145370(JP,A)
【文献】特開平11-303571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0008778(US,A1)
【文献】米国特許第4801389(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00-8/94
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアガムと有機チタン化合物を含有する、加泥材。
【請求項2】
前記有機チタン化合物が、チタントリエタノールアミネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩のうちのいずれか1つである、請求項1に記載の加泥材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加泥材に関する。
【背景技術】
【0002】
泥土圧シールド工法は、掘削土砂と加泥材を混練することで、混合土(掘削土砂と加泥材の混合土;以下同様)の塑性流動性を高め、切羽を安定に保持しながら掘削する工法である。従来、加泥材として、天然高分子であるグアガム、及びホウ砂が用いられている(例えば、特許文献1参照)。ホウ砂がグアガムを架橋しゲル化することで、混合土の塑性流動性が高まり、切羽の安定性が保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-303571号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】環境省 土壌環境基準 別表URL:https://www.env.go.jp/kijun/dt1.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ホウ砂の構成元素であるホウ素は、土壌環境における溶出基準値が定められている(例えば、非特許文献1参照)。従って、ホウ砂を含む加泥材を積極的に使用することは困難である。
【0006】
本発明は、混合土の塑性流動性を高めることが可能な新規の加泥材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る加泥材は、グアガムと有機チタン化合物を含有する。
【0008】
前記有機チタン化合物は、チタントリエタノールアミネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩のうちのいずれか1つであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、混合土の塑性流動性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加泥材の設計方法を示すフロー図である。
図2】実施例及び比較例における有機チタン化合物の量と加泥材の粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
==実施形態==
本実施形態は、グアガムと有機チタン化合物を含有する加泥材に関する。
【0012】
[加泥材]
加泥材は、混合土の塑性流動性を高めるために掘削土砂に混合する添加材である。本発明において加泥材は、グアガムと有機チタン化合物を含有する。
【0013】
[グアガム]
グアガムは天然高分子である。グアガムは、有機チタン化合物により架橋される。
【0014】
[有機チタン化合物]
有機チタン化合物は、ゲル化剤として機能する。具体的に、有機チタン化合物中のTiが、グアガムのOH基同士を架橋する(化学式1参照)。このような架橋反応により、グアガムは三次元の網目構造を形成し、網目構造の内部に溶媒を膨潤したゲルとなる。グアガムがゲル化することで、混合土の塑性流動性が高まる。
【0015】
【化1】
【0016】
有機チタン化合物は、チタントリエタノールアミネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩のうちのいずれか1つであることが好ましい。
【0017】
[加泥材の設計方法]
加泥材を設計する方法を、図1のフロー図を用いて説明する。
【0018】
手順1:注入率の決定(図1の(1))
本明細書において「注入率」とは、掘削土砂に対するグアガム溶液の注入割合(体積%)を指す。注入率は、掘削土砂の組成やその粒度、混合土の用途に応じて最適な塑性流動性を有するよう当業者が適宜設定することができるが、10~80体積%であることが好ましく、15~40体積%であることがより好ましい。
【0019】
手順2:グアガム溶液の濃度決定(図1の(2))
手順1で決定した注入率を基に、グアガム溶液の濃度を決定する。本実施形態に係る加泥材においてグアガム溶液の濃度は、掘削土砂の組成やその粒度、混合土の用途に応じて最適な塑性流動性を有するよう当業者が適宜設定することができる。
【0020】
架橋反応において、グアガム溶液の濃度が低いと、グアガム同士の遭遇率が下がるため、架橋反応効率が下がる。一方、架橋反応においてグアガム溶液の濃度が高いと、グアガム同士の遭遇率が上がるため、架橋反応効率が上がる。一方、グアガム溶液の濃度が高くなり過ぎると、強固なゲルが形成され混合土の塑性流動性が低くなるため、加泥材として好ましくない。
【0021】
そこで、本実施形態に係る加泥材におけるグアガム溶液の濃度としては、1~50kg/m3であることが好ましく、1~20kg/m3であることがより好ましく、5~10kg/m3であることがより好ましく、8~10kg/m3であることがさらに好ましい。
【0022】
手順3:有機チタン化合物の量の決定(図1の(3))
グアガムの量に対する有機チタン化合物の量を決定する。本実施形態に係る加泥材において有機チタン化合物の量は、架橋反応が起こり、混合土が最適な塑性流動性を有する量であれば、当業者が適宜設定することができる。
【0023】
架橋反応において有機チタン化合物の量が少ないと、グアガム同士を架橋するTiの量が少なくなるため、架橋反応効率が下がる。一方、架橋反応において有機チタン化合物の量が多いと、グアガム同士を架橋するTiの量が多くなるため、架橋反応効率が上がる。一方、グアガムの量に対する有機チタン化合物の量が多くなり過ぎると、強固なゲルが形成され混合土の塑性流動性が低くなるため、加泥材として好ましくない。
【0024】
そこで、本実施形態に係る加泥材における有機チタン化合物の添加量としては、グアガムの量に対して、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、有機チタン化合物の量の決定に際しては、混合土のブリージング率を検討することが好ましい。ブリージング率は、「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)」(JSCE-F 522-2007)の手順をアレンジした方法に基づいて行うことができる。混合土のブリージング率が3%以下の場合、本実施形態に係る加泥材の配合として採用できる。
【0026】
==実施例==
(1)高分子物質の選定
高分子物質の種類に応じた、有機チタン化合物の量と加泥材の粘度との関係を、以下の試験により検証した。表1に、実施例及び比較例で用いた材料とその組成を示した。
【0027】
【表1】
【0028】
(加泥材の作製)
実施例の加泥材は、以下の手順で作製した。まず、水500mlを攪拌機(製品名:スリーワンモータ;製造元:東京硝子器械(株))で攪伴しながら、所定量のグアガム(三晶(株))を継粉にならないよう添加した。1時間程度攪伴し、グアガムが完全に溶解した後、グアガムの量に対して、所定重量%の有機チタン化合物(製品名:TC-400;製造元:マツモトファインケミカル社)を添加し、有機チタン化合物が完全に溶解するまで撹拌を行い、加泥材を作製した。
【0029】
比較例の加泥材は、グアガムの代わりにキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ(株))を加えた材(比較例1-1~1-2)と、有機チタン化合物を加えず、グアガムのみを加えた材(比較例1-3~1-4)を作製した。
【0030】
(粘度の測定)
作製した加泥材の粘度を測定した。粘度の測定は、B型粘度計(製造元:東機産業社)を用いて回転数30rpmで混和しながら行った。
【0031】
(試験結果)
図2は、有機チタン化合物の量と加泥材の粘度との関係を示したグラフである。
【0032】
図2に示したように、高分子物質としてグアガムを添加した加泥材(実施例参照)は、有機チタン化合物の添加量が増加するにつれて粘度が高くなった。一方、高分子物質としてキサンタンガムを添加した比較例1-1~1-2は、粘度がほぼ0であった。
【0033】
この実験結果は、OH基が少ないキサンタンガムはTiによる架橋反応が起きずゲルとならないのに対し、OH基に富むグアガムはTiによる架橋反応を呈しゲルとなることに由来すると考えられる。なお、グアガムを10kg/m3と有機チタン化合物をそれぞれ6、8、又は10重量%添加した加泥材(実施例1-3~1-5参照)は、強固なゲルが作製され、粘度計のローターが滑るため粘度を測定することができなかった。
【0034】
(2)加泥材の機能性試験
次に、グアガムと、有機チタン化合物を含有する加泥材を用いてテーブルフロー試験、ブリージング試験を行い、加泥材の機能を調べた。
【0035】
(試料土の作製)
トチクレー(関東化成(株))、炭酸カルシウム(東北重炭工業(株))、7号,5号,3号珪砂((株)丸東)、7号,5号砕石((株)東海砂利)を表2に記載した割合で混合し、3種類の模擬土H,M,Lを作製した。模擬土H,M,Lの各組成は、表3に記載した通りである。次に、塩化物イオン濃度が7,000mg/Lとなるように2.189倍希釈した人工海水((株)日本海水)を模擬土に対して15重量%添加し、ソイルミキサー(ニッケン(株))で1分間混練した。実施例の(1)と同様に調製したグアガム溶液を模擬土に対して25体積%添加し、ソイルミキサーで1分間混練した。その後、有機チタン化合物(製品名:TC-400;製造元:マツモトファインケミカル社)を、グアガムの量に対して所定重量%添加して、ソイルミキサーで1分間混練して試料土H,M,Lを作製した。作製した試料土をブリージング袋(公益社団法人 土木学会)につめて、24時間吊るして養生した。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
(テーブルフロー試験の試験手順)
養生後の試料土を用いて、テーブルフロー試験を行った。テーブルフロー試験は、「セメントの物理試験方法」(JISR5201)の「12フロー試験」(http://kikakurui.com/r5/R5201-2015-01.html)に準じて行った。具体的には、養生後の試料土をフローテーブルの中央に置いたフローコーンに2層に分けて詰めた。突き棒により各層の全面を各々15回突き、必要に応じて試料土を補い表面を均した。その後直ちにフローコーンを垂直方向に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、試料土が広がった後の最大径と、最大径に直角な方向に延びる経を測定し、2値の平均値を算出した。試験は2回行い、その平均値をフロー値直後として表4にまとめた。
【0039】
テーブルフロー試験後、容器に試料土を回収し容器上部をラップで養生して1日保管した。翌日、養生した試料土をソイルミキサーで1分間混練し、上述と同様の手順により試料土のテーブルフロー試験を行った。試験は2回行い、その平均値をフロー値1日後として表4にまとめた。
【0040】
(ブリージング試験の試験手順)
テーブルフロー試験後の試料土を用いてブリージング試験を行った。ブリージング試験は、「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)」(JSCE-F 522-2007)をアレンジした方法で行った。具体的には、ブリージング袋の中に試料土を約20cmの高さまで充填した。試料土内に空気が混入した場合は、ブリージング袋の外側をたたき空気を追い出した。充填が完了した直後の時刻を記録し、ブリージング袋に充填した試料土を、振動しない水平な台に吊り下げ24時間静置した。容量1,000mlのメスシリンダーに水400mlを入れて、空気が混入しないように試料土を充填したブリージング袋を静かにメスシリンダーに挿入した。メスシリンダーの水面と試料土を充填したブリージング袋の上面が一致するまでブリージング袋を下げて、このときの液面の目盛りを読み、この値から最初に入れた水の量である400mlの値を引くことによって、24時間後の試料土の体積(VS)(ml)を算出した。その後、メスシリンダー内のブリージングによる液の液面と、試料土を充填したブリージング袋の上面が一致するまでブリージング袋を沈めて、このときの液面の目盛りを読み、24時間後の試料土とブリージングによる液の体積(V)(ml)を計測した。式1を用いてブリージング量を算出し、式2を用いてブリージング率を算出した。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
【表4】
【0044】
(試験結果)
テーブルフロー試験、ブリージング試験の結果を表4に示す。「直後」、「1日後」のフロー値がともに130mm以上であり、かつブリージング率が3%以下である場合、加泥材の機能が良好であるとして「○」と評価した。「直後」若しくは「1日後」のフロー値が130mm未満である、又はブリージング率が3%より大きい場合、加泥材の機能がやや良好であるとして「△」と評価した。
【0045】
5kg/m3のグアガムを添加した実施例2-1~2-9の試料土は、「直後」、「1日後」ともにフロー値が130mm以上であったものの、ブリージング率が3%を超えたため、加泥材としての機能はやや良好であった。8又は10kg/m3のグアガム溶液を添加した実施例2-10~2-22の試料土は、「直後」、「1日後」ともにフロー値が130mm以上であり、かつブリージング率が3%以下であったため、加泥材としての機能は良好であった。
図1
図2