IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関の始動制御装置 図1
  • 特許-内燃機関の始動制御装置 図2
  • 特許-内燃機関の始動制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】内燃機関の始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/06 20060101AFI20220823BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220823BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
F02D19/06 D
F02D29/02 321A
F02D29/02 321B
F02D45/00 358
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018198342
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020066997
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 桂誠
(72)【発明者】
【氏名】那須田 悠貴
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166438(JP,A)
【文献】特開2003-206772(JP,A)
【文献】特開2017-057781(JP,A)
【文献】特開2014-169662(JP,A)
【文献】特開2013-072313(JP,A)
【文献】特開2009-097364(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112855359(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/06
F02D 29/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料または液体燃料のいずれかで運転可能な内燃機関と、
大気圧を取得する大気圧取得部と、
前記大気圧が所定の閾値未満の場合には、前記液体燃料を使用して前記内燃機関を始動させ、前記大気圧が所定の閾値以上の場合には、前記気体燃料を使用して前記内燃機関を始動させる制御部と、を備える内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、予め設定された自動停止条件が成立した場合に前記内燃機関を自動停止させ、予め設定された再始動条件が成立した場合に前記内燃機関を再始動させ、
前記再始動時の前記閾値を、前記内燃機関の初回始動時よりも高く設定する請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記大気圧取得部の異常を検出した場合には、前記液体燃料を使用して前記内燃機関を始動させる請求項1または請求項2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バイフューエル内燃機関の通常始動時において、低温始動時及び高回転域は、エネルギー密度の高い液体燃料を使用し、低回転域及び中回転域は、ガス燃料を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-211610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、気体燃料または液体燃料のいずれかで運転可能な内燃機関において、始動時に毎回液体燃料を使用すると、液体燃料の燃費効率が気体燃料の燃費効率より劣るため、燃費が悪化するといった課題がある。
【0005】
一方で、低気圧時には、内燃機関の圧縮行程にてシリンダ内の温度上昇量が低下する。始動後の通常運転時には内燃機関の機関回転数が高回転で安定しているため問題ないが、始動時には、通常運転時よりも低い回転数で内燃機関の運転を開始するため、より温度上昇量が低下し、液体燃料と比較して発火点の高い気体燃料での運転が安定せず、始動性が悪化するといった課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、始動性を確保しながら燃費を向上させることができる内燃機関の始動制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、気体燃料または液体燃料のいずれかで運転可能な内燃機関と、大気圧を取得する大気圧取得部と、前記大気圧が所定の閾値未満の場合には、前記液体燃料を使用して前記内燃機関を始動させ、前記大気圧が所定の閾値以上の場合には、前記気体燃料を使用して前記内燃機関を始動させる制御部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明によれば、始動性を確保しながら燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の始動制御装置のブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る内燃機関の始動制御装置の始動時燃料選択処理の手順を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例の他の態様に係る内燃機関の始動制御装置の始動時燃料選択処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関の始動制御装置は、気体燃料または液体燃料のいずれかで運転可能な内燃機関と、大気圧を取得する大気圧取得部と、大気圧が所定の閾値未満の場合には、液体燃料を使用して内燃機関を始動させ、大気圧が所定の閾値以上の場合には、気体燃料を使用して内燃機関を始動させる制御部と、を備えるよう構成されている。
【0011】
これにより、本発明の一実施の形態に係る内燃機関の始動制御装置は、始動性を確保しながら燃費を向上させることができる。
【実施例
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る内燃機関の始動制御装置について詳細に説明する。
【0013】
図1において、本発明の一実施例に係る内燃機関の自動停止制御装置を搭載した車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、変速機3と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit)8とを含んで構成される。
【0014】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0015】
エンジン2には、スタータ21が連結されている。スタータ21は、エンジン2のクランクシャフトに連結されている。スタータ21は、電力が供給されることにより回転することでクランクシャフトを回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与える。
【0016】
このエンジン2は、各気筒の燃焼室内に噴射する燃料として、液体燃料のガソリンと気体燃料のCNGの2種の燃料から、一つが選択されて供給される。エンジン2は、ガソリンタンク4に貯蔵されるガソリンを燃焼室内に供給するガソリン供給系と、ガス燃料タンク5に高圧で貯蔵されるCNGを燃焼室内に供給するガス燃料供給系とを備えている。
【0017】
燃料切替装置6は、エンジン2の各気筒の燃焼室内に噴射する燃料を切り替える。燃料切替装置6は、ECU8の制御により、エンジン2の各気筒の燃焼室内に噴射する燃料を、ガソリンタンク4に貯蔵されるガソリンと、ガス燃料タンク5に貯蔵されるCNGとで切り替える。
【0018】
変速機3は、エンジン2から出力された回転を変速し、駆動軸11を介して駆動輪10を駆動する。変速機3は、図示しない平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構を備えている。変速機3は、運転者による図示しないシフトレバーの操作に応じて、変速機構における変速段を選択するようになっている。
【0019】
変速機3は、シフトレバーの操作に応じて、例えば、所定の変速比に対応する1速~5速の変速状態、エンジン2から出力された回転を駆動軸11に伝達しないニュートラル状態、車両1を後進させるためのリバース状態のいずれかの状態をとる。
【0020】
エンジン2と変速機3の間には、例えば乾式単板式のクラッチ31が設けられており、クラッチ31は、エンジン2と変速機3との間の動力伝達を接続または切断する。
【0021】
このクラッチ31における動力伝達の接続状態と切断状態との間の状態の遷移は、クラッチペダル81の踏み込み位置、すなわちクラッチストロークに対応している。
【0022】
クラッチペダル81が踏み込まれていない状態では、クラッチ31は接続状態となり、クランクシャフトの回転が変速機3に伝達される。
【0023】
一方、クラッチペダル81が踏み込まれている状態では、クラッチ31は切断状態となり、クランクシャフトから変速機3への動力の伝達が切断される。
【0024】
クラッチペダル81には、クラッチペダルスイッチ82が設けられている。クラッチペダルスイッチ82は、クラッチ31が切断状態か否かを検出する。
【0025】
ECU8は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0026】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU8として機能させるためのプログラムが格納されている。
【0027】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、このコンピュータユニットは、本実施例におけるECU8として機能する。
【0028】
ECU8の入力ポートには、前述のクラッチペダルスイッチ82に加え、使用燃料選択スイッチ9、アクセル開度センサ84、ブレーキスイッチ86、車速センサ87、水温センサ88、大気圧取得部としての大気圧センサ89等の各種センサ類が接続されている。
【0029】
使用燃料選択スイッチ9は、運転者の操作を受け付け、エンジン2の各気筒の燃焼室内に噴射する燃料として、ガソリンとCNGのどちらかを選択する信号を出力する。ECU8は、使用燃料選択スイッチ9からの信号に従って、エンジン2の各気筒の燃焼室内に噴射する燃料を切り替える。
【0030】
アクセル開度センサ84は、運転者によって操作されるアクセルペダル83の開度であるアクセル開度を検出する。ブレーキスイッチ86は、ブレーキペダル85が運転者により踏み込まれたか否かを検出する。車速センサ87は、駆動輪10の回転速度などから車両1の速度を検出する。
【0031】
水温センサ88は、エンジン2の冷却水の温度を検出する。大気圧センサ89は、大気圧を検出する。
【0032】
一方、ECU8の出力ポートには、前述の燃料切替装置6、スタータ21、に加え、図示しないインジェクタを含む各種制御対象類が接続されている。インジェクタは、エンジン2に燃料を供給する。ECU8は、スタータ21やインジェクタを制御することで、エンジン2の始動や停止、出力トルクなどを制御する。
【0033】
ECU8は、予め設定された自動停止条件が成立するとエンジン2を停止させ、予め設定された再始動条件が成立するとエンジン2を再始動させるアイドリングストップ機能を制御するようになっている。
【0034】
自動停止条件としては、例えば、車速が所定車速以下であること、変速機3がニュートラル状態であること、ブレーキペダル85が踏み込まれたこと、クラッチペダル81が踏み込まれていない状態であること、アクセル開度が所定開度以下であること、などの全てが成立したことを条件とする。一方、再始動条件としては、例えば、変速機3がニュートラル状態において、クラッチペダル81が踏み込まれたこと、ブレーキペダル85の踏み込みがないこと、などの何れかが成立したことを条件とする。
【0035】
ECU8は、大気圧センサ89が検出する大気圧が所定の閾値未満である場合は、始動性の良いガソリンを使用してエンジン2を始動させ、大気圧センサ89が検出する大気圧が所定の閾値以上である場合は、燃費効率の良いCNGを使用してエンジン2を始動させる。
【0036】
ECU8は、大気圧センサ89が異常となり大気圧を取得できない場合には、ガソリンを使用してエンジン2を始動させる。
【0037】
以上のように構成された本実施例に係る内燃機関の始動制御装置による始動時燃料選択処理について、図2を参照して説明する。なお、以下に説明する始動時燃料選択処理は、エンジン始動時に実行される。
【0038】
ステップS1において、ECU8は、エンジン始動条件(前述の再始動条件も含む)が成立したか否かを判定する。エンジン始動条件が成立していないと判定した場合、ECU8は、処理を終了する。
【0039】
エンジン始動条件が成立したと判定した場合、ステップS2において、ECU8は、大気圧センサに故障があるか否かを判定する。大気センサに故障があると判定した場合、ステップS4において、ECU8は、始動性の良いガソリンを、始動に使用する燃料として選択する。
【0040】
ステップS2において、大気センサに故障がないと判定した場合、ステップS3において、ECU8は、大気圧センサ89が検出する大気圧が所定の閾値未満であるか否かを判定する。大気圧が所定の閾値未満であると判定した場合、ステップS4において、ECU8は、始動性の良いガソリンを、始動に使用する燃料として選択する。
【0041】
大気圧が所定の閾値未満でないと判定した場合、ステップS5において、ECU8は、燃費効率の良いCNGを、始動に使用する燃料として選択する。
【0042】
ステップS6において、ECU8は、ステップS4またはステップS5において選択された燃料を使用してエンジン2を始動させる。
【0043】
このように、本実施例では、大気圧センサ89が検出する大気圧が所定の閾値未満である場合は、CNGより発火点が低く、始動性の良いガソリンを使用してエンジン2を始動させ、大気圧センサ89が検出する大気圧が所定の閾値以上である場合は、燃費効率の良いCNGを使用してエンジン2を始動させる。
【0044】
これにより、低気圧時には始動性に優れた液体燃料により始動することで始動性を確保し、低気圧以外のときは、燃費効率の良い気体燃料により始動することで燃費を向上させることができる。
【0045】
また、大気圧センサ89が故障した場合には、常に始動性の良い液体燃料を使用して始動しているため、仮に低気圧の状態であっても確実にエンジン2を始動させることができる。
【0046】
本実施例の他の態様としては、ECU8は、イグニッションキーやイグニッションスイッチのオンによりエンジン2を始動させる初回始動時と、前述の自動停止後にエンジン2を始動させる再始動時とでは、再始動時の大気圧の閾値を初回始動時の大気圧の閾値よりも高く設定する。
【0047】
このように構成された、本実施例の他の態様に係る内燃機関の始動制御装置による始動時燃料選択処理について、図3を参照して説明する。なお、以下に説明する始動時燃料選択処理は、エンジン始動時に実行される。
【0048】
前述の実施例と同様に、ステップS1において、ECU8は、エンジン始動条件(前述の再始動条件も含む)が成立したか否かを判定する。エンジン始動条件が成立していないと判定した場合、ECU8は、処理を終了する。
【0049】
エンジン始動条件が成立したと判定した場合、ステップS11において、ECU8は、エンジン始動がアイドリングストップからの再始動であるか否かを判定する。再始動であると判定した場合、ステップS12において、大気圧を判定する閾値として値の高い高大気圧閾値を選択する。
【0050】
再始動ではないと判定した場合、ステップS13において、大気圧を判定する閾値として高大気圧閾値よりも値の低い低大気圧閾値を選択する。
【0051】
ステップS2において、ECU8は、大気圧センサに故障があるか否かを判定する。大気センサに故障があると判定した場合、ステップS4において、ECU8は、始動性の良いガソリンを、始動に使用する燃料として選択する。
【0052】
ステップS2において、大気センサに故障がないと判定した場合、ステップS3において、ECU8は、ステップS12またはステップS13において選択された閾値を使って、前述の実施例と同様に、大気圧センサ89が検出する大気圧が選択された閾値未満であるか否かを判定する。大気圧が所定の閾値未満であると判定した場合、ステップS4において、ECU8は、始動性の良いガソリンを、始動に使用する燃料として選択する。
【0053】
大気圧が所定の閾値未満でないと判定した場合、ステップS5において、ECU8は、燃費効率の良いCNGを、始動に使用する燃料として選択する。
【0054】
ステップS6において、ECU8は、ステップS4またはステップS5において選択された燃料を使用してエンジン2を始動させる。
【0055】
このように、本実施例の他の態様では、再始動時の大気圧の閾値を初回始動時の大気圧の閾値よりも高く設定しているため、再始動時の液体燃料により始動させる大気圧域を拡大し、低気圧による始動性の低下によって発進がもたつくことを、抑制することができる。
【0056】
初回始動と再始動とのいずれの始動時においても、運転者が発進操作を行なう前にエンジン2の始動を完了しないと発進がもたつくこととなる。また、再始動時は、初回始動時と比べ始動から発進操作までの時間が短い。このため、再始動時には液体燃料により始動させる大気圧域を拡大し、低気圧による始動性の低下によって発進がもたつくことを、抑制している。
【0057】
なお、本実施例においては、変速機3として、マニュアルトランスミッションの場合を示したが、自動変速機のCVT(Continuously Variable Transmission)、AT(Automatic Transmission)、DCT(Dual Clutch Transmission)、AMT(Automated Manual Transmission)などであっても、同様の効果が得られる。
【0058】
また、バイフューエルエンジンのみで駆動するバイフューエルエンジン搭載車両の場合を示したが、駆動用電動モータを搭載するストロングハイブリッド車両や、発電だけでなくエンジン始動機能を備えた電動モータを搭載するマイルドハイブリッド車両であっても、バイフューエルエンジンを搭載していれば同様に実施することができる。
【0059】
また、大気圧取得部として大気圧センサ89を用いたが、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛生からの電波により位置情報を取得し、位置情報に基づいて通信により取得した気象情報により大気圧を取得するように構成してもよい。
【0060】
本実施例では、各種センサ情報に基づきECU8が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0061】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 エンジン
6 燃料切替装置
8 ECU(制御部)
9 使用燃料選択スイッチ
21 スタータ
89 大気圧センサ(大気圧取得部)
図1
図2
図3