(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 25/02 20060101AFI20220823BHJP
B43K 21/00 20060101ALI20220823BHJP
B43K 24/12 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B43K25/02 110
B43K21/00 A
B43K24/12
(21)【出願番号】P 2018225016
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017230170
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 恭平
(72)【発明者】
【氏名】本田 善之
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-240409(JP,A)
【文献】特開2007-055156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 25/02
B43K 21/00-21/26
B43K 24/00-24/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内部に筆記芯を収納し、軸筒内部から外部に貫通し軸筒長手方向に延びる窓孔から筆記芯後端に設けたスライダーが露出し、該スライダーを前記窓孔を形成する縁部に対して摺動させることで軸筒の先端開口部から筆記芯先端に設けたペン先を出没させる出没式筆記具において、前記筆記芯の代わりに軸筒に取付可能であり、かつ、前記窓孔の少なくとも一部を被覆可能な取付部材を備えた出没式筆記具。
【請求項2】
前記取付部材を、前記縁部に対して摺動不能とした請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記取付部材に、前記縁部の少なくとも一部と面一となる外壁形成部を設けた請求項1又は請求項2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記取付部材に、前記軸筒の外面より突出すると共に、前記軸筒の長手方向に沿って延在し、前記軸筒との間に挟持部を形成した筆記具用クリップを設けた請求項1から請求項3のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記軸筒内部の空間を前後に区画する仕切りを設け、該仕切りに、前記軸筒内部の空間を前後に貫通し前記筆記芯が案内される案内孔を設け、前記取付部材に、前記仕切りのうち前記案内孔の後方縁部に係止する係止部と、該係止部より前方に、前記案内孔に挿入可能な小径部とを設け、該小径部は、前記係止部から小径部の先端に向かって縮径させた請求項1から請求項4のいずれかに記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内部に筆記芯を収納した出没式筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒内部に筆記芯を収納し、筆記芯の先端に設けたペン先を軸筒の先端開口部から出没させる出没式筆記具が存在する。ペン先の出没操作は、筆記芯の後端に設けたスライダーを操作することによって行われる。具体的には、スライダーが、軸筒に設けた窓孔から軸筒の外へ露出しており、軸筒の長手方向に延びる窓孔に対して摺動させるに伴って、ペン先が出没する。
このような出没式筆記具においては、軸筒内部に収納する筆記芯の数や種類が検討されている。
例えば特許文献1(特開2016-135606号公報)には、軸筒内部に3本の筆記芯を収納する出没式多芯筆記具の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の出没式筆記具において、元の出没式多芯筆記具より筆記芯の数が少ない出没式筆記具を得ようとすると、単に元の出没式多芯筆記具から筆記芯を抜いただけでは使用されなくなった窓孔が外観を損ねてしまう。そのため、新たに筆記芯の数に合わせた窓孔を有する軸筒を設計する必要があり、生産にコストを要していた。
【0005】
本発明は、外観を損ねることも、元の出没式多芯筆記具から軸筒の構造を変えることもなく、筆記芯の数を減らした出没式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸筒内部に筆記芯を収納し、軸筒内部から外部に貫通し軸筒長手方向に延びる窓孔から筆記芯後端に設けたスライダーが露出し、該スライダーを前記窓孔を形成する縁部に対して摺動させることで軸筒の先端開口部から筆記芯先端に設けたペン先を出没させる出没式筆記具において、前記筆記芯の代わりに軸筒に取付可能であり、かつ、前記窓孔の少なくとも一部を閉塞可能な取付部材を備えた出没式筆記具を第1の要旨とし、また、前記取付部材を、前記縁部に対して摺動不能としたことを第2の要旨とし、また、前記取付部材に、前記縁部の少なくとも一部と面一となる外壁形成部を設けたことを第3の要旨とし、また、前記取付部材に、前記軸筒の外面より突出すると共に、前記軸筒の長手方向に沿って延在し、前記軸筒との間に挟持部を形成した筆記具用クリップを設けたことを第4の要旨とし、また、前記軸筒内部の空間を前後に区画する仕切りを設け、該仕切りに、前記軸筒内部の空間を前後に貫通し前記筆記芯が案内される案内孔を設け、前記取付部材に、前記仕切りのうち前記案内孔の後方縁部に係止する係止部と、該係止部より前方に、前記案内孔に挿入可能な小径部とを設け、該小径部は、前記係止部から小径部の先端に向かって縮径させたことを第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の要旨においては、出没式筆記具に、筆記芯の代わりに軸筒に取付可能であり、かつ、前記窓孔の少なくとも一部を閉塞可能な取付部材を備えたので、筆記芯を減らした際に、スライダーの摺動操作に使われなくなった窓孔が切り欠きのままになることがなく、出没式筆記具の外観を損ねないため、元の出没式筆記具の軸筒の構造を変えることなく筆記芯の数を減らした出没式筆記具を提供することができる。
本発明の第2の要旨においては、取付部材が縁部に対して摺動不能であることによって、取付部材をスライダーと間違えて摺動操作を行おうとした使用者が、すぐに操作対象を誤認していることに気づくことができ、より好ましい出没式筆記具を提供することができる。
本発明の第3要旨においては、外壁形成部が、縁部の少なくとも一部と面一となることで、外壁形成部と縁部の境目が目立たなくなるので、より外観を損ねることがなく、なおかつ、軸筒外壁への転写印刷等の装飾が施しやすくなり、より好ましい外観の出没式筆記具を提供することができる。
本発明の第4の要旨においては、元の出没式筆記具の軸筒はスライダーを露出させる位置に窓孔を形成しており、取付部材を取り付けた際に、スライダーの代わりに筆記具用クリップがあることによって、出没式筆記具に筆記具用クリップとしての機能を付加できるのみならず、他のスライダーとの位置関係が好ましいので、全体として違和感の無い外観の出没式筆記具を得ることができる。
本発明の第5の要旨においては、軸筒内部の空間を前後に区画する仕切りを設け、該仕切りに、前記軸筒内部の空間を前後に貫通し前記筆記芯が案内される案内孔を設け、前記取付部材に、前記仕切りのうち前記案内孔の後方縁部に係止する係止部と、該係止部より前方に、前記案内孔に挿入可能な小径部とを設け、該小径部は、前記係止部から小径部の前端に向かって縮径させたので、取付部材を軸筒に取り付ける際に、小径部が案内孔の後方縁部に接触してしまっても、小径部の形状に沿って案内孔に案内されやすく、かつ、係止部が案内孔の後方縁部に係止することで、取付操作をしている使用者は小径部の挿入終了位置を容易に認識することができるので、取付部材を取り付けやすくなり、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】コイルスプリング5及びクリップ6の外観斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の出没式筆記具は、軸筒内部に筆記芯を収納している。後述する取付部材を取り付けた出没式筆記具は、筆記具として機能させるために、軸筒内部に1本以上の筆記芯を収納している。よって、取付部材を取り付ける前の出没式筆記具は、軸筒内部に2本以上の筆記芯を収納した出没式多芯筆記具である。なお、取付部材を取り付けた出没式筆記具が軸筒内部に2本以上の筆記芯を収納した出没式多芯筆記具であってもよく、必要に応じた筆記芯の数が選択可能である。
【0010】
軸筒は、筆記芯先端のペン先が出没可能な先端開口部を備えている。また、軸筒の内部に筆記芯を収納した際に、筆記芯の後端に設けたスライダーが、後述する窓孔から軸筒の外部へと露出するようにしてある。
軸筒は公知の材料から成形することができ、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリロニトリルスチレン、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、又は、ポリエチレンテレフタレート等の材料が適宜選択可能である。軸筒はこれらの材料から1部材で成形してもよく、前軸や後軸等の複数の部材を結合して構成してもよい。
【0011】
筆記芯としては、先端にペン先、後端にスライダーを備えていればよく、例えば、ボールペン用のリフィルや、シャープペンシル用のユニットなどが適宜選択可能である。ボールペン用のリフィルを採用する場合、スライダーの色をインキの色と同じ色にすることによって、色表示とすることができる。また、軸筒が透明である場合には、外部から軸筒内部のリフィルが視認でき、その際、リフィルの色をインキの色と同じ色にすることによって、色表示とすることができる。
【0012】
窓孔は、軸筒内部から外部に貫通し、軸筒の長手方向に延びた形状の切り欠きである。窓孔を形成している縁部に対して筆記芯のスライダーを摺動させることで、軸筒の先端開口部から筆記芯先端のペン先が出没する。
窓孔の数は、取付部材を取り付ける前の出没式筆記具においては軸筒内部に収納する筆記芯の数と同じ数だけ設けられている。
【0013】
取付部材は、筆記芯の代わりに軸筒に取り付け可能であり、かつ、軸筒に取り付けた際には窓孔の少なくとも一部を被覆可能な部材である。
軸筒に取り付け可能とは、取付部材を軸筒に装置した状態で、少なくとも軸筒から自然落下はしないような状態を形成することができる形状や構造を指すものである。
窓孔の少なくとも一部を被覆可能とは、切り欠きとしての窓孔を介して、視認されることを意図していない軸筒内部の様子が窓孔全域を通じて見えてしまうことが無い程度に、取付部材が視認される状態を指すものである。
このような取付部材を筆記芯の代わりに出没式筆記具の軸筒に取り付けることで、元の出没式筆記具から筆記芯を減らした際に、スライダーの摺動操作に使われなくなった窓孔が切り欠きのままになることがなく、出没式筆記具の外観を損ねないため、元の出没式筆記具の軸筒の構造を変えることなく筆記芯の数を減らした出没式筆記具を提供することができ好ましい。
よって取付部材の形状、構造、材質、及び、軸筒への取付方法等は、これらの作用効果を奏するものであれば任意のものが適宜選択可能である。例えば、取付部材の形状として、転がり止めとしての突起や、消し具、ストラップホルダー等の他の機能を有する形状、構造であっても良い。また材質としては、公知の材料から成形することができ、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリロニトリルスチレン、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、又は、ポリエチレンテレフタレート等の材料が適宜選択可能である。取付方法としても、軸筒内部から抜かれた筆記芯が収納されていた位置に取り付けたり、軸筒の外部からスライダーが露出していた窓孔を覆うように取り付ける等が例示できる。
【0014】
取付部材を軸筒に取り付けた際に、窓孔を形成する縁部に対して摺動不能とすると、取付部材をスライダーと間違えて摺動操作を行おうとした使用者が、すぐに操作対象を誤認していることに気づくことができ、より好ましいものである。
摺動不能とは、使用者が取付部材に対して、スライダーに対する摺動操作を行う際と同様のベクトルの力をかけた場合に、取付部材が軸筒に対して取り付けられた位置から一切動かないか、又は動いたとしても軸筒先端開口部から筆記芯先端のペン先を突出させるのに必要な距離よりもはるかに短い距離しか動かすことができない程度の状態を指すものである。
よって、取付部材の取付方法としては、例えば、縁部に取付部材自体を嵌め込む、いわゆる嵌合構造をもって取り付ける等が挙げられる。また、必ずしも窓孔を形成する縁部と取付部材とが接触している必要は無く、例えば取付部材を軸筒内部にて、軸筒の内壁から離間した位置で、他の部材によって前後から挟み込んだり等の手段が挙げられる。ただし、先述の取付部材による窓孔の被覆効果も鑑みると、なるべく縁部に近い位置に取り付けることが好ましく、縁部に直接接触していると、なお好ましい。
【0015】
取付部材に、窓孔を形成する縁部の少なくとも一部と面一となる外壁形成部を設けると、取付部材を軸筒に取り付けた際に、外壁形成部と縁部の境目が目立たなくなるので、より外観を損ねることがなく、なおかつ、軸筒外壁への転写印刷等の装飾が施しやすくなり、より好ましい外観の出没式筆記具を提供することができる。
縁部の少なくとも一部と面一とは、取付部材を軸筒に取り付けた際に、外壁形成部と、縁部の軸筒外壁側との間の段差が極めて小さい状態を指すものである。面一となる範囲が、縁部に全周に近い程、装飾を施しやすくなる。特に先述の取付部材を縁部に対して摺動不能とする構成と合わせて採用すると、外壁形成部も縁部に対して摺動不能となるため、さらに転写印刷等の装飾が施しやすくなり、より好ましいものである。
【0016】
取付部材に、取付部材を軸筒に取り付けた状態において、軸筒の外面より突出すると共に、軸筒の長手方向に沿って延在し、軸筒との間に挟持部を形成した筆記具用クリップを設けると、より好ましい。詳細には、元の出没式筆記具の軸筒はスライダーを露出させる位置に窓孔を形成しており、取付部材を取り付けた際に、スライダーの代わりに筆記具用クリップがあることによって、出没式筆記具に筆記具用クリップとしての機能を付加できるのみならず、他のスライダーとの位置関係が好ましいので、全体として違和感の無い好ましい外観の出没式筆記具を得ることができるものである。他のスライダーとの位置関係が好ましいとは、通常出没式多芯筆記具の窓孔は、スライダーの数に応じて、軸筒の周方向にほぼ等間隔に形成しているため、スライダーに置き換わって筆記具用クリップが配置されると、他のスライダーとの間隔がほぼ等間隔である状態を指すものである。
筆記具用クリップの種類としては、取付部材と一体に形成した固定クリップや、基部としての取付部材と筆記具用クリップとの間にコイルスプリング等の弾撥部材を配置し、該弾撥部材による弾撥力によって、常に筆記具用クリップの後端側が軸筒から離れる方向に付勢されることで、筆記具用クリップの先端側が軸筒に近づく方向に付勢される、いわゆるバインダークリップなどが適宜選択可能である。
【0017】
軸筒内部には、その内部の空間を前後に区画する仕切りを設け、該仕切りに、軸筒内部の空間の前後に貫通する案内孔を設けることが好ましい。該案内孔に筆記芯が案内されることによって、筆記芯が軸筒内で位置決めされ、よりスムーズにペン先を出没させることができる。
そして、前記取付部材に、前記仕切りのうち前記案内孔の後方縁部に係止する係止部と、該係止部より前方に、前記案内孔に挿入可能な小径部とを設け、該小径部は、前記係止部から小径部の先端に向かって縮径させたものとすると、取付部材を軸筒に取り付ける際に、小径部が案内孔の後方縁部に接触してしまっても、小径部の形状に沿って案内孔に案内されやすく、かつ、係止部が案内孔の後方縁部に係止することで、取付操作をしている使用者は小径部の挿入終了位置を容易に認識することができるので、取付部材を取り付けやすくなり、好ましい。
また、取付部材の軸筒内部に収納される部分のうち、細径の棒状部の先端に係止部及び小径部を設けると、取付部材を軸筒に取り付ける際に、他の筆記芯等の部材と接触しにくく、好ましい。
【0018】
係止部は、径方向における外接円の直径が案内孔の内径よりも大きい径を有していることによって、案内孔の後方縁部に係止することができるものであり、係止部全体の径を大きくするのみならず、突起を設ける等の手段により、前記外接円の直径の大きさを調節しても良い。
小径部は、係止部の基端部から取付部材の先端に向って縮径している。特にその先端形状が砲弾型に丸みを帯びた形状であると、より案内孔に挿入しやすくなり好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を示す。
図1は、本発明の出没式筆記具の外観斜視図であり、
図2は、本発明の出没式筆記具の縦断面図である。
軸筒1は、前軸1aと後軸1bの2部材で構成されている。前軸1aと後軸1bは、螺子螺合によって接続されている。前軸1aと後軸1bは、それぞれポリカーボネートでできており、耐衝撃性や成形性に優れている。
また、前軸1aの外壁には、把持部材であるグリップ2を備えてある。グリップ2はゴムや、エラストマーや、これらの混合物などの弾性体でできているため、使用者が把持した際に、ソフトな感触が得られると共に、滑りにくくなっている。
【0020】
軸筒1の内部には、筆記芯としてボールペン用のリフィル3が収納されており、本実施例では、2本のリフィル3が収納されている(
図2においては1本は図示せず)。リフィル3の後端に設けたスライダー3bが、軸筒1に設けた窓孔1cを介して露出している。スライダー3bを、軸筒1の長手方向に延びた窓孔1cに対して摺動させることによって、軸筒1内部をリフィル3が移動し、リフィル3の先端に設けたペン先3aが、軸筒1の先端開口部1dから出没する。
軸筒1の内部空間は、後軸1bに設けた仕切り1fによって前後に区画されている。仕切り1fには、後述する案内孔1gが設けられており、リフィル3は、該案内孔1gを貫通して収納されている。
【0021】
軸筒1の内部には、1本のリフィル3の代わりに、取付部材としてのクリップ基部4が取り付けられている。クリップ基部4のクリップ取付部4cは、軸筒1の軸芯から径方向外方に離れる方向に突出した形状となっており、クリップ基部4を取り付けた際に、窓孔1cを介して、クリップ取付部4cが露出し、窓孔1cを被覆している。
【0022】
軸筒1の後端開口部1eには、頭冠7が取り付けられている。該頭冠7は、クリップ基部4が無い状態では、後端開口部1eに対していわゆる乗り越え嵌合によって多少の前後動が可能でありながら、自然落下しない程度に取り付けられている。頭冠7は、リフィル3のスライダー3b及びクリップ基部4の、軸筒内部における周方向及び径方向の移動を規制している。さらに後述する仕切り1fとでクリップ基部4を挟むことで、クリップ基部4が前後動しないよう、つまり窓孔1cの縁部に対して摺動不能となるよう取り付けられている。言い換えれば、頭冠7は、前進不能のクリップ基部4と当接していることで、自身も前後動不能に取り付けられている。頭冠7の後端には、イヤフォンジャックアクセサリー等の装飾品を取り付けるための窪みが形成されており、先述の通り頭冠7が前後動不能であるため、イヤフォンジャックアクセサリー等の装飾品が取り付けやすくなっている。なお、頭冠7は、ポリカーボネートでできており、耐衝撃性や成形性に優れている。
【0023】
窓孔1cの1つからは、後述するクリップ取付部4cが露出しており、軸筒1の外面より突出すると共に、軸筒1の長手方向に沿って延在し、軸筒1との間に挟持部を形成するクリップ6が、コイルスプリング5と共に取り付けられている。本実施例において、窓孔1cは軸筒1の周方向に均等に設けられているため、クリップ6が窓孔1cから露出したクリップ取付部4cに取り付けられることで、他のリフィル3との位置関係が好ましい、筆記具全体として違和感の無い出没式筆記具を得ることができた。
本実施例におけるクリップ6は、コイルスプリング5の弾撥力によって、常にクリップ6の後端側が軸筒1から離れる方向に付勢されることで、クリップ6の先端側が軸筒1に近づく方向に付勢され、クリップ6と軸筒1との間に物を挟むことができる、いわゆるバインダークリップを採用している。バインダークリップを使用する際には、後端側を軸筒1に近づける方向に押すことで先端側が開くものであるが、一般的には、少なからずクリップ6に対して前方に向かう力が働くものである。そこでクリップ基部4が前後動不能であるため、該力に対してクリップ6が動かないため、より先端側を開きやすいものである。
【0024】
図3は、仕切り1f付近の拡大図である。なお、説明の都合上、後軸1bの外壁のみを縦割りした図としている。
仕切り1fには、案内孔1gが3箇所に設けられている。そのうち2つはリフィル3を貫通させており、リフィル3が軸筒1内で位置決めされ、ペン先3aが軸筒1の先端開口部1dからよりスムーズに出没可能となっている。
3箇所の案内孔1gのうち1つは、クリップ基部4の先端部に設けた小径部4aが挿入されており、係止部である係止突起4bが案内孔1gの後方縁部に係止している。これらの構造及び先述の頭冠7によって、クリップ基部4は、窓孔1cを形成する縁部に対して摺動不能に取り付けられている。
【0025】
図4は、クリップ基部4の外観斜視図である。
クリップ基部4には、細径の棒状部の先端に、係止部としての係止突起4bと、さらにその先端側に、小径部4aが設けてある。
係止突起4bの径方向における外接円の直径が案内孔1gの内径よりも大きい径となっているため、小径部4aを案内孔1gに挿入した際に、係止突起4bと案内孔1gの後方縁部とが係止し、挿入終了を認識することができる。
また、小径部4aは、係止突起4bの基端部からクリップ基部4の先端に向って縮径しているので、挿入部4aを案内孔1gに挿入する際に、挿入部4aが案内孔1gの後方縁部に接触してしまっても、挿入部4aの形状に沿って案内されるので、よりクリップ基部4を取り付けやすくしている。本実施例における挿入部4aは、先端も曲面である砲弾形状であるため、特に案内孔1gに挿入しやすくなっている。
ここで、
図2から
図4を参照し、クリップ基部4について詳述する。クリップ基部4に軸筒1内部に収納される棒状部とその先端の係止突起4b及び小径部4aがあることによって、クリップ基部4を軸筒1の後端開口部1eから内部に取り付けることができる。仮にクリップ基部4を軸筒1の窓孔1cの外部から取り付ける構造であると、窓孔1cから軸筒1内部に入り込み過ぎないよう窓孔1cの形状に合わせた略板状の形状を選択せざるを得ず、クリップ6を先にクリップ取付部4cに取り付けなければ、全体的に持ちにくく位置決めもしにくいものであるが、本実施例のようにクリップ基部4が全体的に軸筒1の長手方向に沿った棒状の形状かつ軸筒1の後端開口部1eから内部に取り付け可能であることで、クリップ6を取り付けなくても、クリップ基部4の取付位置が決めやすくなっている。さらに、クリップ基部4にはクリップ取付部4cが成形されてるため、クリップ基部4を軸筒1内部に挿入した後、窓孔1cから優先的に露出したクリップ取付部4cを把持して引っ張ることができるので、より組み立てやすくなっている。
さらに、クリップ基部4を軸筒1の窓孔1cの外部から取り付ける場合は、クリップ基部4が窓孔1cから軸筒1の内部に入ってしまわないよう、窓孔1cの縁部から軸筒1の外壁側に突出した部分を設ける必要があり、外壁形成部4fによる面一とすることができる範囲が小さくなってしまうが、本実施例のようにクリップ基部4を軸筒1の内部で係止による取付可能な構造であると、窓孔1cからクリップ基部4が外れることが無く、窓孔1cと面一としたい分だけ外壁形成部4fを設計することができるものである。
クリップ取付部4cにはバインダークリップであるクリップ6を取り付けるが、クリップ基部4を軸筒1の外部から取り付ける場合であると、クリップ6の先端側の開閉操作に伴い、クリップ基部4自体の先端側が持ち上がって、最悪の場合クリップ基部4が外れてしまう恐れがあるが、本実施例のようにクリップ基部4を軸筒1の内部で係止による取付可能な構造であることで、クリップ6の開閉操作に伴ってクリップ基部4が取付位置から動いたり、軸筒1から外れることが無いため、クリップ基部4の窓孔1cの縁部に対する摺動不能及び外壁形成部4fによる窓孔1cの縁部と面一することを、確実なものとすることができる。
【0026】
クリップ基部4の側面には、それぞれ肉抜き部4eが設けてある。クリップ基部4はポリカーボネートからなる部材であるが、一般的に樹脂成形品は、成形の過程で冷却に伴い表面が収縮し、いわゆるヒケが生じてしまうことがある。ヒケが生じると、樹脂製品全体が湾曲してしまう、表面に不要な凹凸が生じてしまう、外観を損ねるなどの悪さに繋がる。このヒケを防止するために、あらかじめ肉抜き部4eを設けており、本実施例においては、片面につき2箇所に分けて設けている。クリップ基部4の側面全体に渡って1箇所で肉抜きしてしまうと、クリップ基部4自体の強度が低下するおそれがあるためである。特に本実施例では、バインダークリップを採用しているため、常にクリップ6の先端側がクリップ基部4と接触し、付勢されている。さらにクリップ6の開閉に伴って、クリップ6の先端側がクリップ基部4に衝撃が加わるおそれがある。これらの他にも、例えば後述するクリップ6の取り付け時に、軸筒1長手方向に直交する方向にも荷重が加わるおそれがある。これらに対して、クリップ6の先端側がクリップ基部4に接触する位置付近を境に、肉抜き部4bを2箇所に分けることによって、クリップ基部4の強度を保っている。
【0027】
クリップ基部4の、窓孔1cを介して軸筒1の外部に露出する部分の一部に、窓孔1cの縁部と面一となる外壁形成部4fが設けてある。これにより、窓孔1cとクリップ基部4との境目が目立たなくなって外観を損ねないうえ、軸筒1外壁への転写印刷などの装飾が施しやすくなる。
【0028】
図5は、コイルスプリング5及びクリップ6の外観斜視図である。
クリップ6の軸筒側には、クリップ6の回転軸となる嵌合突起4dが嵌め合わせられる貫通孔6aと、スプリング固定用突起6bが設けてある。
嵌合突起4dは、軸筒長手方向及びクリップ取付部4cが突出する方向のそれぞれに直交する方向に突出しているため、貫通孔6aもこれに合わせた位置に設けてある。なお、嵌合突起4dのクリップ側の一部は面取りされており、貫通孔6aとの嵌め合わせがしやすくなっている。
スプリング固定用突起6bは、クリップ6側から軸筒1に向って突出した突起であり、コイルスプリング5が固定される突起である。コイルスプリング5の他端は、クリップ基部4における、クリップ取付部4cの後端側に設けられた平面に接触する。
【0029】
図6は、クリップ6及び頭冠7の組立図である。
本実施例においては、軸筒1にリフィル3の代わりにクリップ基部4を取り付けると、窓孔1cからクリップ取付部4cが露出するため、そこにスプリング5とクリップ6を取り付けることができる。その後、リフィル3を後軸1bの先端側から挿入し、最後に頭冠7を後端開口部1eから取り付ける。これによって、窓孔1cの数及び位置を変更した新たな軸筒1を設計することなく、筆記芯であるリフィル3を1本減らした出没式筆記具を得ることができる。
なお、組立て時において、軸筒1内の案内孔1gの1つがクリップ基部4の小径部4aによって先に閉塞されるため、残りの案内孔1gにリフィル3を挿入する際の誤挿入を防止することができる。また、小径部4aの最大外径は、リフィル3の内径よりも大きいため、仮にリフィル3の挿入時に、小径部4aに接触させてしまっても、小径部4aはリフィル3内に入りきることは無いため、誤挿入を防止することができ、より組み立てやすくなっている。
【符号の説明】
【0030】
1 軸筒
1a 前軸
1b 後軸
1c 窓孔
1d 先端開口部
1e 後端開口部
1f 仕切り
1g 案内孔
2 グリップ
3 リフィル
3a ペン先
3b スライダー
4 クリップ基部
4a 小径部
4b 係止突起
4c クリップ取付部
4d 嵌合突起
4e 肉抜き部
4f 外壁形成部
5 コイルスプリング
6 クリップ
6a 貫通孔
6b スプリング固定用突起
7 頭冠