(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220823BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20220823BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20220823BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
H01M10/06 Z
H01M10/12 M
(21)【出願番号】P 2018239855
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和間 良太郎
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-327299(JP,A)
【文献】特開2005-310688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤を含み、
前記炭素材料の外部比表面積をSm
2/g、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量C
cn質量%とするとき、
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量C
e(質量%)は、下記式(1):
(f(S・C
cn)+0.10)≦C
e≦(f(S・C
cn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・C
cn)は、下記式(2):
(-7.3×10
-7×S
2+0.0010×S)×C
cn ≦f(S・C
cn)≦ (-8.0×10
-7×S
2+0.0011×S+0.070)×C
cn (2)
を充足し、
前記炭素材料の外部比表面積Sは、1.5m
2/g以上680m
2/g以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記炭素材料の含有量C
cnは、0.75質量%以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記炭素材料は、アセチレンブラックを含む、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記炭素材料の含有量C
cnは、2.5質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
外部比表面積Sm
2/gを有する炭素材料および有機防縮剤を含む負極電極材料を調製する工程と、
前記負極電極材料を備える負極板を準備する工程と、
電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程と、を備え、
前記外部比表面積Sは、1.5m
2
/g以上680m
2
/g以下であり、
前記鉛蓄電池において、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量C
cn質量%とするとき、前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量C
e(質量%)が、下記式(1):
(f(S・C
cn)+0.10)≦C
e≦(f(S・C
cn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・C
cn)が、下記式(2):
(-7.3×10
-7×S
2+0.0010×S)×C
cn ≦f(S・C
cn)≦ (-8.0×10
-7×S
2+0.0011×S+0.070)×C
cn (2)
を充足するように、前記負極電極材料を調製する工程において、前記炭素材料および前記有機防縮剤を添加する、鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、および電解液などが含まれる。負極板には、負極電極材料が含まれ、負極電極材料には、炭素材料、有機防縮剤などが含まれる。有機防縮剤としては、リグニン、合成防縮剤などが用いられる。
【0003】
特許文献1には、電解液量を制限したシール型鉛蓄電池において、活物質100重量部に対してカーボンを1~4重量部、硫酸バリウムを1~4重量部、リグニンをカーボンに吸着されない遊離分として0.05~0.4重量部添加してなる極板を負極とし、K、Ca、Alの少なくとも一種を硫酸塩換算で5~40g/L添加してなる希硫酸を電解液とすることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、陰極板活物質に、0.4~3.0%のリグニンをカーボンに吸着させたものを添加する鉛電池用陰極板の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、ペースト式負極板を用いる密閉形鉛蓄電池において、前記ペースト式負極板は、負極活物質層にリグニンを吸着した炭素粉末を含有する密閉形鉛蓄電池が記載されている。
【0006】
特許文献4には、鉛粉を主成分とするペースト状負極活物質を、鉛合金製の集電体に充填して作成されたペースト式負極板を用いる液式鉛蓄電池において、重量平均分子量が12000以上であって、硫黄含有量が3.0wt%以上でかつその硫黄含有量のうち有機硫黄含有量が80wt%以上であるリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、平均一次粒子径が0.8μm以下である硫酸バリウムと、かさ密度が0.27g/mL以上で比表面積が250m2/g以上であるオイルファーネスブラックとを前記活物質に添加してなる鉛蓄電池が記載されている。
【0007】
特許文献5には、負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えている液式鉛蓄電池において、前記負極活物質は、海綿状鉛と、カーボンと、スルホン酸基を有するビスフェノール縮合物から成る水溶性高分子と、セルロースとを含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-36882号公報
【文献】特開昭59-23470号公報
【文献】特開2001-155723号公報
【文献】特開2008-152955号公報
【文献】国際公開第2013/005733号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
負極電極材料中に有機防縮剤および炭素材料が含まれると、有機防縮剤が炭素材料に吸着され、有機防縮剤の効果が十分に得られなくなる場合がある。その結果、部分充電状態(PSOC)での充放電サイクル(以下、PSOCサイクルと称する。)におけるサイクル耐久性が低下したり、低温ハイレート(HR)放電性能が低下したりする場合がある。一方で、負極電極材料中に炭素材料が含まれると、電解液への流出が顕著になる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤を含み、
前記炭素材料の外部比表面積をSm2/g、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量Ce(質量%)は、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・Ccn)は、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足し、
前記炭素材料の外部比表面積Sは、1.5m2/g以上680m2/g以下である、鉛蓄電池に関する。
【0011】
本発明の他の側面は、外部比表面積Sm2/gを有する炭素材料および有機防縮剤を含む負極電極材料を調製する工程と、
前記負極電極材料を備える負極板を準備する工程と、
電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程と、を備え、
前記鉛蓄電池において、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量Ce(質量%)が、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・Ccn)が、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足するように、前記負極電極材料を調製する工程において、前記炭素材料および前記有機防縮剤を添加する、鉛蓄電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
PSOCサイクルにおけるサイクル耐久性および低温HR放電性能の低下を抑制できるとともに、炭素材料の電解液への流出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2】外部比表面積Sが異なる複数の炭素材料を用いて導き出される炭素材料の外部比表面積S(m
2/g)と炭素材料1g当たりの有機防縮剤の吸着量(g)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
負極電極材料において、有機防縮剤が炭素材料に吸着されると、有機防縮剤の効果が十分に得られない場合がある。本発明者は、有機防縮剤の効果が、炭素材料の性状によって大きく影響されることを見出した。より具体的には、炭素材料への有機防縮剤の吸着量(質量%)が、炭素材料の外部比表面積および負極電極材料中の炭素材料の含有量と相関することを見出した。炭素材料の外部比表面積が大きくなると、炭素材料に有機防縮剤が多く吸着するため、有機防縮剤の鉛に対する防縮効果を確保し難くなる。外部比表面積が小さくなると、有機防縮剤の防縮効果は確保し易いものの、炭素材料の外部比表面積に対して過剰に有機防縮剤が存在することとなり、炭素材料同士の導電性が確保しにくくなるため、炭素材料の添加効果が低減される。また、負極電極材料中に炭素材料が含まれると、電解液への炭素材料の流出が問題となることがある。しかし、有機防縮剤の作用により炭素材料の流出が抑制されることが分かった。本発明の一側面に係る鉛蓄電池およびその製造方法は、このような知見に基づいて得られたものである。
【0015】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備える。負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤を含む。炭素材料の外部比表面積をSm2/g、負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ce(質量%)は、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足する。そして、f(S・Ccn)は、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足する。ここで、炭素材料の外部比表面積Sは、1.5m2/g以上680m2/g以下である。
【0016】
本発明の他の側面に係る鉛蓄電池の製造方法は、外部比表面積Sm2/gを有する炭素材料および有機防縮剤を含む負極電極材料を調製する工程と、負極電極材料を備える負極板を準備する工程と、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程と、を備える。ここで、鉛蓄電池において、負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ce(質量%)が、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・Ccn)が、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足するように、負極電極材料を調製する工程において、炭素材料および有機防縮剤を添加(または配合)する。
【0017】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを、炭素材料の外部比表面積Sおよび炭素材料の含有量Ccnに応じて、式(1)の下限以上にすることで、負極活物質である鉛に対して効果的に有機防縮剤を作用させることができる。これにより、有機防縮剤の鉛への防縮効果を確保できる。また、有機防縮剤が炭素材料表面に吸着することで負極電極ペーストを混練する時の炭素材料の分散性を向上でき、これにより炭素材料の高い導電性を有効利用できる。有機防縮剤の高い防縮効果を確保できることから活物質比表面積を高く維持でき、優れた低温HR放電性能が得られる。また、炭素材料の高い導電性を有効利用できることから、高い充電受入性を確保することもできる。
【0018】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを、炭素材料の外部比表面積Sおよび炭素材料の含有量Ccnに応じて式(1)の上限以下とすることで、鉛および/または放電により生成する硫酸鉛の有機防縮剤による過度な被覆が抑制される。これにより、充電受入性の低下が抑制される。また、放電により生成する硫酸鉛のサイズが大きくなることが抑制されることで、充電時に硫酸鉛から鉛へ還元され易くなる。その結果、硫酸鉛が蓄積し易いPSOCサイクルでも、硫酸鉛の蓄積を抑制することができる。よって、PSOCサイクルにおける高いサイクル耐久性を確保することができる。
【0019】
また、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを、炭素材料の外部比表面積Sおよび炭素材料の含有量Ccnに応じて制御することで、有機防縮剤による防縮効果を確保しながらも、炭素材料の電解液への流出を抑制することができる。これは、炭素材料に吸着した有機防縮剤が硫酸中で変性することにより、結着効果が得られることによるものと考えられる。
【0020】
一般に、炭素材料には、様々な外部比表面積Sを有するものがある。本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、炭素材料の外部比表面積Sを、1.5m2/g以上680m2/g以下とする。これにより、炭素材料の含有量Ccnおよび有機防縮剤の含有量Ceに応じて、炭素材料の外部比表面積Sを制御することになるため、上記のように有機防縮剤および炭素材料の効果を有効に発揮させることができる。その結果、高い電池特性(つまり、PSOCサイクルにおけるサイクル耐久性、低温HR放電性能、および充電受入性)を確保できるとともに、炭素材料の流出を抑制することができる。
【0021】
なお、式(2)において、f(S・C
cn)の上限および下限は、外部比表面積Sが異なる複数の炭素材料を用いて導き出される炭素材料の外部比表面積S(m
2/g)と炭素材料1g当たりの有機防縮剤の吸着量(g)との関係(
図2)および炭素材料の含有量C
cnから求められる。
図2に示すように、炭素材料1g当たりの有機防縮剤の吸着量(g)は、炭素材料の外部比表面積Sに応じて、式(A)以上で式(B)以下となる。これらの式に負極電極材料中の炭素材料の含有量C
cn(質量%)を乗じたものが、負極電極材料中の有機防縮剤の吸着量の目安となる。このような吸着量を考慮して、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量C
eを式(1)に基づいて制御することにより、高い電池特性を確保しながら、炭素材料の流出を抑制できる。
【0022】
図2の関係は、以下の手順により求められる。まず、有機防縮剤と炭素材料とを所定の質量比で混合する。得られる混合物に、この混合物の総質量に対して10倍以上20倍以下の質量の純水を添加して、24時間撹拌する。得られる分散液から固形分を濾過し、濾液を回収する。この濾液について紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV-2600)を用いて紫外可視吸収スペクトルを測定する。濾液は、必要に応じて、スペクトル測定に先立って希釈され、測定に適したスペクトル強度となるように含有成分の濃度が調節される。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、濾液に含まれる有機防縮剤の濃度を求める。濾液に含まれる有機防縮剤の濃度、上記混合物の総質量、有機防縮剤と炭素材料との質量比、および純水の質量から、炭素材料1g当たりの有機防縮剤の吸着量(g)を求める。そして、用いた炭素材料の外部比表面積Sm
2/gに対して有機防縮剤の吸着量をプロットする。得られる吸着量プロットの分布の上限近傍および下限近傍のそれぞれについて、負の二次関数で近似することにより、f(S・C
cn)の上限および下限の式が得られる。ただし、二次関数は、頂点のx値(つまり、外部比表面積Sの値)が680を超えるように上記分布の上限近傍および下限近傍のプロットにフィッティングされる。なお、有機防縮剤と炭素材料とは、有機防縮剤/炭素材料(質量比)が、1/0.5~1/5の範囲で混合する。このときの質量比は、実際の負極板に用いられる負極電極材料における有機防縮剤と炭素材料との質量比を採用すると精度が高まり好適である。
【0023】
炭素材料の外部比表面積Sは、JIS K 6217-7:2013に記載の方法により求められる。この方法で求められる外部比表面積Sは、全比表面積からミクロ孔と呼ばれる孔径の小さな細孔に由来する表面積を除外したものである。ミクロ孔には有機防縮剤が侵入することができないため、外部比表面積は、実質的に有機防縮剤が吸着可能な比表面積を与える。
【0024】
負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccnおよび有機防縮剤の含有量Ceは、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池の負極板について求めるものとする。また、炭素材料の外部比表面積Sも、満充電状態の鉛蓄電池の負極板から採取した炭素材料について求めるものとする。なお、求められる炭素材料の外部比表面積Sは、負極電極材料を調製する前の原料の炭素材料の外部比表面積とほぼ同じである。
【0025】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。
【0026】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0027】
負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccnは、0.75質量%以上であることが好ましい。炭素材料の含有量Ccnが多いと、有機防縮剤への影響が大きいが、このような場合でも、有機防縮剤の含有量Ceおよび炭素材料の外部比表面積Sを上記のように制御することで、有機防縮剤の高い防縮効果を確保しつつ、炭素材料の添加効果を発現させることができる。よって、充電時に硫酸鉛から鉛へ還元され易くなり、PSOCサイクルにおける高いサイクル耐久性をさらに確保し易くなる。また、有機防縮剤の含有量Ceおよび炭素材料の外部比表面積Sを上記のように制御することで、炭素材料の含有量Ccnが多い場合でも炭素材料の流出を抑制できる。
【0028】
炭素材料は、アセチレンブラックを含むことが好ましい。アセチレンブラックは不純物が少なく有機防縮剤の吸着にばらつきが生じ難いとともに、高い導電性を有する。そのため、アセチレンブラックを含む炭素材料を用いることで、有機防縮剤の効果が安定して発揮されるとともに、硫酸鉛の還元性をより高め易い。
【0029】
炭素材料の含有量Ccnは、2.5質量%以下が好ましい。この場合、有機防縮剤の含有量Ceおよび炭素材料の外部比表面積Sを上記のように制御することで、有機防縮剤が過度に炭素材料に吸着されることが抑制され、高い防縮効果を確保することができる。よって、PSOCサイクルにおいて、より高いサイクル耐久性を確保し易くなる。また、有機防縮剤による高い結着効果を確保することができるため、炭素材料の流出を抑制し易くなる。
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池およびその製造方法について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0031】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0032】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0033】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0034】
負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤を含む。さらに、負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、有機防縮剤以外の防縮剤、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0035】
(炭素材料)
炭素材料としては、外部比表面積Sが1.5m2/g以上680m2/g以下であるものが用いられる。炭素材料の外部比表面積Sは、1.5m2/g以上であり、2m2/g以上(好ましくは2.0m2/g以上)であってもよい。より高いサイクル耐久性を確保し易い観点からは、外部比表面積Sは、15m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましい。外部比表面積Sは、680m2/g以下であり、650m2/g以下であってもよい。より高い定温HR放電性能を確保し易い観点からは、外部比表面積Sは、150m2/g以下または100m2/g以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。外部比表面積Sは、例えば、1.5m2/g以上(または2m2/g以上)680m2/g以下、1.5m2/g以上(または2m2/g以上)650m2/g以下、1.5m2/g以上(または2m2/g以上)150m2/g以下、1.5m2/g以上(または2m2/g以上)100m2/g以下、15m2/g以上(または30m2/g以上)680m2/g以下、15m2/g以上(または30m2/g以上)650m2/g以下、15m2/g以上(または30m2/g以上)150m2/g以下、もしくは15m2/g以上(または30m2/g以上)100m2/g以下であってもよい。
【0036】
炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素材料を一種含んでいてもよく、二種以上を組み合わせ含んでもよい。
【0037】
炭素材料は、アセチレンブラックを含むことが好ましい。アセチレンブラックを含む炭素材料を用いることで、有機防縮剤の効果が安定して発揮されるとともに、硫酸鉛の還元性をより容易に高めることができる。このような効果を確保し易い観点から、炭素材料に占めるアセチレンブラックの比率は、例えば、10質量%以上であり、15質量%以上であってもよく、50質量%以上が好ましく、80質量%以上または90質量%以上がより好ましい。炭素材料に占めるアセチレンブラックの比率は、100質量%以下である。炭素材料をアセチレンブラックのみで構成してもよい。
【0038】
負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccnは、例えば、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよい。炭素材料の含有量Ccnは、0.75質量%以上であってもよく、1質量%以上または1.5質量%以上であってもよい。このように炭素材料の含有量Ccnが多い場合には、放電時(特に、放電深度が深い(例えば、40%以上80%以下の)場合)の硫酸鉛の還元が、鉛上だけでなく、炭素材料の高い導電性を利用して炭素材料の粒子上でも行われると考えられる。そのため、炭素材料の含有量Ccnが多い場合でも、有機防縮剤の含有量Ceおよび炭素材料の外部比表面積Sを制御することで、高いサイクル耐久性をさらに確保し易くなるとともに、炭素材料の電解液への流出を抑制できる。高サイクル耐久性および炭素材料の流出抑制の観点からは、炭素材料の含有量Ccnは、2.5質量%以下が好ましく、2.1質量%以下がさらに好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0039】
(有機防縮剤)
有機防縮剤としては、例えば、リグニン類、合成有機防縮剤が用いられる。リグニン類としては、例えば、リグニン、リグニン誘導体が挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子である。合成有機防縮剤としては、例えば、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物、例えば、ホルムアルデヒドなど)による縮合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよく、10,000以下であってもよい。Mwが10,000以下の有機防縮剤は、外部比表面積Sの値に応じて炭素材料に吸着され易いが、有機防縮剤の含有量Ceおよび炭素材料の外部比表面積Sを制御することで、有機防縮剤の防縮効果を十分に発揮させることができる。有機防縮剤のMwの下限は特に制限されないが、例えば、3,000以上であり、4,000以上が好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
なお、本明細書中、重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0041】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上であってもよい。一方、3質量%以下が好ましく、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0042】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤、炭素材料、および硫酸バリウムの分析および物性の決定方法などについて説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して1つのセルに含まれる全ての負極板を取り出し、水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、取り出した全ての負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料を得るとともに、初期試料の質量(M0)を測定する。
【0043】
《有機防縮剤の分析》
粉砕された初期試料の一部を採取して、4.5mol/L濃度のNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。上記手順の操作は、一度のみでは有機防縮剤の全量は抽出されず、残渣に残存する場合がある。その場合は、濾過時に得られた残渣を用いて上記の操作を繰り返す。このとき、操作は、抽出される有機防縮剤の質量が、前の操作までで抽出された有機防縮剤の質量の合計の100分の1以下になるまで上記と同様の条件で繰り返す。
【0044】
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
【0045】
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0046】
有機防縮剤のMwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:NaClを1mol/L濃度で含む溶液(溶媒:水とアセトニトリルとを体積比=7:3で含む混合溶媒))
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=12,500、7,500、5,200、1,680)
【0047】
《炭素材料と硫酸バリウムの分析》
粉砕された初期試料の一部を採取し、質量(M1)を測定する。この初期試料に、(1+2)硝酸を加え、鉛成分が完全に溶解するまで加熱する。このとき、(1+2)硝酸の添加量は、初期試料1g当たり5mlとする。次に、加熱により得られる混合物を濾過して、炭素材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0048】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、混合試料の質量(Mm)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引くことにより、混合試料中の炭素材料の質量(Mn)を算出する。得られた硫酸バリウムの質量MBおよび炭素材料の質量Mnと初期試料の質量M1から負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量(質量%)および炭素材料の含有量Ccn(質量%)を求める。
【0049】
上記と同様にして濾別された試料を、比重1.4の希硫酸に分散させて5分静置する。このとき、試料中に含まれる炭素材料の質量が少なくとも0.5gとなるような量の試料を用いる。静置後、上部の液体を採取して濾過することで炭素材料を分離する。このとき、試料を分散させた混合物の体積の1/5以上1/4以下の体積の液体を採取する。分離された炭素材料を、さらに4.5mol/L濃度のNaOH水溶液に浸漬して30分以上撹拌する。撹拌後、得られる混合物を濾過することにより炭素材料を分離し、水洗および乾燥させる。得られる炭素材料の外部比表面積S(m2/g)は、JIS K 6217-7:2013に記載の方法で求める。具体的には、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(島津製作所社製、トライスター3000)を用いて、窒素吸着等温線を相対圧0.5以上まで測定し、tプロット解析を行うことで外部比表面積S(m2/g)を求める。
【0050】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0051】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0052】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。
【0053】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0054】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および/または微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
【0055】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0056】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0057】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。セパレータは、袋状に形成されていてもよい。その場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0058】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20以上1.35以下であり、1.25以上1.32以下であることが好ましい。
【0059】
(鉛蓄電池の性能評価)
鉛蓄電池のPSOCサイクルにおけるサイクル耐久性は、例えば、サイクルにおける放電末電圧に基づいて評価できる。サイクル耐久性、低温HR放電性能、充電受入性、および炭素材料の電解液への流出は、それぞれ、次のようにして評価される。
【0060】
(サイクル耐久性)
満充電後の鉛蓄電池について、25℃で、PSOCサイクル試験を行う。より具体的には、下記の(a)~(c)を1サイクルとして、5000サイクル繰り返し、5000サイクル目の単セル当たりの放電末電圧(V)を求める。
(a)放電深度調整:定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流値(A)で30分間放電する。
(b)放電:定格容量(Ah)として記載の数値と同じの電流値(A)で60秒間放電する。
(c)充電:定格容量(Ah)として記載の数値の2倍の電流値(A)で30秒間充電する。
【0061】
放電末電圧が高いほどPSOCサイクルにおけるサイクル耐久性が高いことを意味する。
PSOCサイクル試験における5000サイクル目の放電末電圧は、1.8V/セル以上が好ましく、1.964V/セル以上がさらに好ましい。
【0062】
(炭素材料の電解液への流出)
満充電後の鉛蓄電池の1つのセルについて電解液を全て取り出し、電解液中に含まれる炭素材料を濾過により回収する。このとき、セパレータに付着した炭素材料も水洗し、電解液に含まれる炭素材料とともに、濾過することにより回収する。回収した炭素材料を水洗および乾燥し、乾燥後の炭素材料の質量(me)を測定する。上述の手順で求められる炭素材料の含有量Ccn(質量%)に上記初期試料の質量M0を乗じ、100で除することにより、負極電極材料中の炭素材料の質量mnを求める。電解液中の炭素材料の質量meを、炭素材料の質量mnで除することにより、比:me/mnを求める。me/mn比に基づいて、炭素材料の電解液への流出を評価する。me/mn比が小さいほど、炭素材料の流出が少ないことを意味する。
【0063】
me/mn比は、例えば、7.0×10-2未満であり、6.5×10-2以下が好ましく、5.0×10-2以下であってもよく、3.0×10-2以下または2.0×10-2以下であってもよい。負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを、炭素材料の外部比表面積Sおよび炭素材料の含有量Ccnに応じて制御することで、有機防縮剤による防縮効果を確保しながらも、このようなme/mn比にまで炭素材料の電解液への流出を抑制することができる。
【0064】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0065】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0066】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0067】
[鉛蓄電池の製造方法]
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。
【0068】
正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0069】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
【0070】
負極板を準備する工程に先立って、外部比表面積Sm2/gを有する炭素材料および有機防縮剤を含む負極電極材料が調製される。このとき、鉛蓄電池において、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ce(質量%)が、上記式(1)を充足し、f(S・Ccn)が、上記式(2)を充足するように、炭素材料および有機防縮剤が添加(または配合)される。
【0071】
負極電極材料を調製する工程では、例えば、ペースト状の負極電極材料(負極ペースト)が調製される。負極ペーストは、例えば、鉛粉、炭素材料、有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで調製される。
【0072】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0073】
化成は、例えば、硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、負極板を充電することにより行なうことができる。また、化成は、鉛蓄電池の電槽内で行なってもよい。極板群や鉛蓄電池を組み立てた後に、電槽内で電解液に極板群を浸漬させた状態で充電することにより行ってもよい。化成により、負極板では海綿状鉛が生成する。
【0074】
鉛蓄電池の製造方法において、負極電極材料の調製工程以外については、公知の手順が利用できる。
【0075】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池およびその製造方法を以下にまとめて記載する。
(1)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、炭素材料および有機防縮剤を含み、
前記炭素材料の外部比表面積をSm2/g、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量Ce(質量%)は、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・Ccn)は、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足し、
前記炭素材料の外部比表面積Sは、1.5m2/g以上680m2/g以下である、鉛蓄電池。
【0076】
(2)外部比表面積Sm2/gを有する炭素材料および有機防縮剤を含む負極電極材料を調製する工程と、
前記負極電極材料を備える負極板を準備する工程と、
電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程と、を備え、
前記鉛蓄電池において、前記負極電極材料中の前記炭素材料の含有量Ccn質量%とするとき、前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量Ce(質量%)が、下記式(1):
(f(S・Ccn)+0.10)≦Ce≦(f(S・Ccn)+0.25) (1)
を充足し、
f(S・Ccn)が、下記式(2):
(-7.3×10-7×S2+0.0010×S)×Ccn ≦f(S・Ccn)≦ (-8.0×10-7×S2+0.0011×S+0.070)×Ccn (2)
を充足するように、前記負極電極材料を調製する工程において、前記炭素材料および前記有機防縮剤を添加する、鉛蓄電池の製造方法。
【0077】
(3)上記(1)または(2)において、前記炭素材料の含有量Ccnは、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.75質量%以上、1質量%以上、または1.5質量%以上であってもよい。
【0078】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記炭素材料の含有量Ccnは、2.5質量%以下、または2.1質量%以下であってもよい。
【0079】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記炭素材料は、アセチレンブラックを含んでもよい。
【0080】
(6)上記(5)において、前記炭素材料に占めるアセチレンブラックの比率は、10質量%以上、15質量%以上、50質量%以上、80質量%以上、または90質量%以上であってもよい。
【0081】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤のMwは、100,000以下、20,000以下、または10,000以下であってもよい。
【0082】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤のMwは、3,000以上、または4,000以上であってもよい。
【0083】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記外部比表面積Sは、2m2/g以上、15m2/g以上、または30m2/g以上であってもよい。
【0084】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記外部比表面積Sは、650m2/g以下、150m2/g以下、または100m2/g以下であってもよい。
【0085】
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.1質量%以上であってもよい。
【0086】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0087】
(13)上記(1)~(12)のいずれか1つにおいて、既述の手順で測定されるPSOCサイクル試験における5000サイクル目の放電末電圧は、1.8V/セル以上、または1.964V/セル以上であってもよい。
【0088】
(14)上記(1)~(13)のいずれか1つにおいて、前記炭素材料の前記電解液への流出の程度を表すme/mn比は、7.0×10-2未満、6.5×10-2以下、5.0×10-2以下、3.0×10-2以下、または2.0×10-2以下であってもよい。
【0089】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
《鉛蓄電池E1~E11およびR1~R8》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、炭素材料と、有機防縮剤(具体的には、リグニンスルホン酸塩)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、既述の手順で求められる負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccnが表1に示す値となり、炭素材料中のアセチレンブラックの比率(AB比率)が表1に示す値となるとともに、有機防縮剤の含有量Ceが上記式(1)を充足するように各成分を混合する。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。炭素材料としては、表1に示す外部比表面積を有するものを用いる。なお、既述の手順で求められる炭素材料の外部比表面積Sは、負極ペーストの調製に用いられる炭素材料の外部比表面積とほぼ同じである。
【0091】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0092】
(c)試験電池の作製
負極板をポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容する。負極板1枚を正極板2枚で挟持して極板群を形成する。
【0093】
極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、鉛蓄電池を組み立てる。組み立て後の電池に化成を施し、液式の鉛蓄電池を完成させる。鉛蓄電池の出力は2Vで、定格5時間率容量は5Ahである。化成後の電解液の比重は1.28である。化成後の負極電極材料には、0.5質量%のBaSO4が含まれる。
【0094】
(2)評価
(a)負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccn
満充電状態の試験電池から取り出した負極板について、既述の手順で負極電極材料中の炭素材料の含有量Ccn(質量%)を求める。
【0095】
(b)負極電極材料中の有機防縮剤の含有量CeおよびMw
満充電状態の試験電池から取り出した負極板について、既述の手順で負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ce(質量%)およびMwを求める。
【0096】
(c)サイクル耐久性
満充電状態の試験電池を用いて、既述の手順で、PSOCサイクル試験を行い、5000サイクル目の単セル当たりの放電末電圧を測定し、サイクル耐久性を下記の基準で評価する。
A:放電末電圧が1.964V/セル以上である。
B:放電末電圧が1.8V/セル以上1.964V/セル未満である。
C:充放電を5000サイクル行うことができるが、放電末電圧は1.8Vセル未満である。
D:充放電を5000サイクル行うことができない。
【0097】
(d)低温HR放電性能
満充電後の鉛蓄電池を、定格容量(Ah)の数値の5倍の値とした放電電流(A)にて、-15℃で端子電圧が1V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(放電持続時間)(s)を求める。鉛蓄電池A5の放電持続時間を100としたときの放電持続時間の比率で低温HR放電性能を評価する。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。
【0098】
(e)充電受入性
下記の条件で、満充電後の鉛蓄電池を、放電深度(DOD)10%まで放電するとともに、放電後の鉛蓄電池の充電を行う。充電受入性は充電開始後の10秒間の電気量で比較する。
放電(DOD調整):定格容量(Ah)の数値の0.2倍の電流値(A)、30分
休止:24時間
充電(充電受入性):定電圧(2.4V/セル、最大電流16.67A)、10秒
温度:25℃
【0099】
(f)炭素材料の電解液への流出
満充電後の鉛蓄電池について、既述の手順で炭素材料の電解液への流出をme/mn比により評価する。
【0100】
鉛蓄電池E1~E11およびR1~R8の結果を表1に示す。表1では、式(1)の左辺(f(S・Ccn)+0.10)をL1、右辺(f(S・Ccn)+0.25)をR1で示す。
【0101】
【0102】
表1に示されるように、式(1)を充足しない鉛蓄電池R1~R6では、サイクル耐久性および充電受入性が低くなるか、もしくは低温HR放電性能が低くなる。また、外部比表面積Sが1.5m2/g未満または680m2/gより大きい鉛蓄電池R7またはR8でも、サイクル耐久性および充電受入性が低くなるか、もしくは低温HR放電性能が低くなる。
【0103】
それに対し、炭素材料の外部比表面積が1.5m2/g以上680m2/g以下であり、式(1)を充足する鉛蓄電池E1~E11では、高いサイクル耐久性および低温HR放電性能を確保できている。また、高い充電受入性が得られる。これは、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量Ceを、炭素材料の外部比表面積Sおよび炭素材料の含有量Ccnに応じて制御することで、有機防縮剤による防縮効果を確保することができるとともに、充電時に硫酸鉛から鉛への還元性が高まるためと考えられる。有機防縮剤の含有量Ceが同程度であっても、式(1)を充足しない場合には、低温HR放電性能またはサイクル耐久性が大きく低下する(鉛蓄電池E6~E8とR1~R3との比較、鉛蓄電池E2とR4との比較)。
【0104】
鉛蓄電池E1~E11では、炭素材料の電解液への流出も抑制されている。特に、炭素材料の含有量Ccnが高い(例えば、0.75質量%以上の)場合には、炭素材料の電解液への流出は大きくなる傾向にある。しかし、このような場合であっても、炭素材料の外部比表面積が1.5m2/g以上680m2/g以下で、式(1)を充足する場合には、炭素材料の流出が抑制される。より具体的には、炭素材料の含有量Ccnが1.5質量%の場合、鉛蓄電池E1では、鉛蓄電池R2に比べて30%も流出が抑制される。Ccnが2.1質量%の場合、鉛蓄電池E3では、鉛蓄電池R1に比べて24%も流出が抑制される。さらに、Ccnが0.9質量%の場合、鉛蓄電池E2では、鉛蓄電池R1に比べて65%も流出が抑制される。このように、炭素材料の電解液への流出が抑制されるのは、有機防縮剤により炭素材料の表面が適度に被覆されることで、高い結着効果が得られることによるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば液式の鉛蓄電池に適用可能であり、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓