(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】産業車両の油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/00 20060101AFI20220823BHJP
F16H 61/64 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
F16H61/00
F16H61/64
(21)【出願番号】P 2019033457
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 啓介
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-005176(JP,U)
【文献】特開昭55-069351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00
F16H 61/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油を所定の設定圧以下に調圧する圧力制御バルブと、
前記エンジンの出力をトランスミッションに伝達または遮断するクラッチと、
前記圧力制御バルブにより所定の設定圧以下に調圧された作動油をクラッチへ導くクラッチ制御油路と、
前記クラッチ制御油路に設けられ、前記クラッチ制御油路の作動油を調圧してクラッチをインチング状態とするインチングバルブと、
前記クラッチ制御油路から分岐される作動油流路を有し、前記圧力制御バルブにより調圧された作動油をトルクコンバータへ導くトルコン油路と、
前記トルコン油路における作動油の圧力を確保するトルコン圧制御器と、
前記トルクコンバータを通過した作動油を冷却器へ導き、前記冷却器により冷却された作動油をクラッチへ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路と、を有する産業車両の油圧駆動装置において、
前記クラッチ制御油路に生じるショックを緩和するアキュムレータと、
前記圧力制御バルブを通過する作動油を前記トルコン油路に導く導通油路と、
前記トルコン油路を構成する
とともに前記クラッチ制御油路から分岐される作動油流路における前記トルコン圧制御器よりも上流に設けられた油路圧力調整器と、
前記トルコン油路における前記油路圧力調整器の下流側にて分岐され、前記トルコン圧制御器を通過する作動油を前記クラッチ冷却油路における前記冷却器の上流へ導くバイパス油路と、を有
し、
前記導通油路は、前記バイパス油路の前記トルコン油路における分岐位置と前記トルクコンバータとの間にて合流することを特徴とする産業車両の油圧駆動装置。
【請求項2】
前記トルコン圧制御器は、前記トルコン油路の作動油が設定されたトルコン設定圧以上になると開くリリーフバルブであることを特徴とする請求項1記載の産業車両の油圧駆動装置。
【請求項3】
前記バイパス油路における前記トルコン圧制御器の下流において分岐される分岐油路と、
前記分岐油路に設けられるオリフィスと、
前記オリフィスを通過する作動油を受け取るタンクと、を有することを特徴とする請求項1又は2記載の産業車両の油圧駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、産業車両であるエンジン式フォークリフトでは、エンジンの動力がトルクコンバータを介してトランスミッションに伝達される。そして、この種のエンジン式フォークリフトは、通常、インチングバルブを設けた油圧駆動装置を有している。インチングバルブは、クラッチに供給される作動油の圧力(流量)を制御することにより、クラッチをインチング(半クラッチ)状態とし、フォークリフトによる荷役の作業性を向上させたり、発進や停止を円滑にしたりする。この種のエンジン式フォークリフトは、トルクコンバータにおいて使用された作動油を用いてクラッチを冷却するように構成されていることがある。この場合、インチング状態ではクラッチが発熱するのでクラッチを冷却するための作動油の流量を増大させることが好ましい。
【0003】
ところで、産業車両の油圧駆動装置に関する従来の技術としては、例えば、特許文献1に開示された産業用車両の油圧供給装置が知られている。特許文献1に開示された産業用車両の油圧供給装置は、エンジンにより駆動される主油圧ポンプおよび副油圧ポンプを有する。さらに、油圧供給装置は、主油圧ポンプからの圧油をトルコンおよびトランスミッション制御装置にそれぞれ導く主油圧回路と、副油圧ポンプからの圧油を主油圧回路に合流して導く副油圧回路とを有する。
【0004】
主油圧ポンプには、オイルフィルタおよび管路を介してレギュレータが接続されている。レギュレータには、管路を介してトルコンが接続され、レギュレータを通過した圧油はトルコンに作動油として供給される。レギュレータには、管路を介してトルコンが接続され、レギュレータを通過した圧油はトルコンに作動油として供給される。管路には安全弁(リリーフ弁)が接続され、管路内の圧力が安全弁の設定圧を超えると、管路内の圧油は安全弁からタンクにリリーフされる。トルコンには、管路およびオイルクーラを介して、トランスミッションのクラッチ部に潤滑油を供給するための潤滑回路部が接続され、潤滑回路部にはオイルクーラで冷却された圧油が導かれる。
【0005】
エンジン回転速度が高く、トルコン入口圧が上昇して安全弁の設定圧を超えると、レギュレータから排出された圧油は安全弁からリリーフし、トルコンの作動油の圧力が設定圧以下に抑えられる。これによりトルコンが保護される。
【0006】
別の従来の技術として、例えば、特許文献2には、高回転・高車速領域において作動油あるいは潤滑油の冷却を効率的に行うことができる車両用動力伝達装置の油圧システムが開示されている。この車両用動力伝達装置の油圧システムは、オイルポンプと、オイルポンプから吐出される油圧を調圧して油圧回路に供給するレギュレータバルブと、油圧回路の所定箇所を流れる油を冷却する熱交換器とを備えている。そして、レギュレータバルブから流出する過剰油をオイルポンプの入力側に戻すための再循環油路が設けられている。車両用動力伝達装置の油圧システムは、再循環油路から分岐して熱交換器の入力側に接続されたバイパス油路と、再循環油路側の油が熱交換器の入力側に導かれるようにバイパス油路を開放する制御機構とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5025732号公報
【文献】特許第6277216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された産業用車両の油圧供給装置では、トルコン入口圧が安全弁の設定圧を超えると、レギュレータから排出された圧油は安全弁からリリーフされるため、リリーフされた圧油を冷却のために利用できず、オイルポンプのした仕事が有効活用できないという問題がある。また、特許文献2に開示された車両用動力伝達装置の油圧システムは、油を冷却する熱交換器への油量を増大させるものの、産業車両が備えるインチングバルブの作動によってインチング状態としたクラッチを冷却することを考慮したものではなく、改良する必要がある。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、クラッチがインチング状態であっても作動油によりクラッチを十分に冷却することができる産業車両の油圧駆動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油を所定の設定圧以下に調圧する圧力制御バルブと、前記エンジンの出力をトランスミッションに伝達または遮断するクラッチと、前記圧力制御バルブにより所定の設定圧以下に調圧された作動油をクラッチへ導くクラッチ制御油路と、前記クラッチ制御油路に設けられ、前記クラッチ制御油路の作動油を調圧してクラッチをインチング状態とするインチングバルブと、前記クラッチ制御油路から分岐される作動油流路を有し、前記圧力制御バルブにより調圧された作動油をトルクコンバータへ導くトルコン油路と、前記トルコン油路における作動油の圧力を確保するトルコン圧制御器と、前記トルクコンバータを通過した作動油を冷却器へ導き、前記冷却器により冷却された作動油をクラッチへ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路と、を有する産業車両の油圧駆動装置において、前記クラッチ制御油路に生じるショックを緩和するアキュムレータと、前記圧力制御バルブを通過する作動油を前記トルコン油路に導く導通油路と、前記トルコン油路を構成する作動油流路における前記トルコン圧制御器よりも上流に設けられた油路圧力調整器と、前記トルコン油路における前記油路圧力調整器の下流側にて分岐され、前記トルコン圧制御器を通過する作動油を前記クラッチ冷却油路における前記冷却器の上流へ導くバイパス油路と、を有し、前記導通油路は、前記バイパス油路の前記トルコン油路における分岐位置と前記トルクコンバータとの間にて合流することを特徴とする。
【0011】
本発明では、圧力制御バルブが油圧ポンプからの作動油を所定の設定圧以下に調圧し、調圧された作動油はクラッチ制御油路およびトルコン油路を流れる。トルコン圧制御器はトルコン油路を流れる作動油を調圧し、調圧された作動油はトルクコンバータへ導かれる。トルクコンバータを通過した作動油は、クラッチ冷却油路を流れ、冷却器により冷却される。冷却された作動油はクラッチを冷却する。エンジンの回転数が上昇し、作動油の圧力が第1設定圧を超えようとすると、圧力制御バルブが開き、圧力制御バルブを通過する作動油はトルコン油路に導かれる。トルコン圧制御器はトルコン油路の作動油の圧力を確保し、トルコン圧制御器を通過する作動油はトルクコンバータを通過せずに冷却器に流れる。その結果、エンジン回転数が高くても、冷却器に導かれる作動油は、トルクコンバータを通過した作動油およびバイパス油路を通る作動油であるから、作動油量が増大し、クラッチを十分に冷却することができる。
【0012】
また、上記の産業車両の油圧駆動装置において、前記トルコン圧制御器は、前記トルコン油路の作動油が設定されたトルコン設定圧以上になると開くリリーフバルブである構成としてもよい。
この場合、トルコン油路の作動油の圧力がトルコン設定圧以上になると、リリーフバルブが開くので、トルクコンバータに過度の圧力がかかることはない。また、エンジン回転数が低く作動油の流量が少なく、トルコン油路の作動油の圧力がトルコン設定圧未満のときにリリーフバルブは閉じているので、バイパス通路に作動油が流れることはなく、トルクコンバータの作動油不足を防止することができる。
【0013】
また、上記の産業車両の油圧駆動装置において、前記バイパス油路における前記トルコン圧制御器の下流において分岐される分岐油路と、前記分岐油路に設けられるオリフィスと、前記オリフィスを通過する作動油を受け取るタンクと、を有する構成としてもよい。
この場合、作動油がバイパス通路を流れるとき、バイパス通路を流れる作動油の一部はオリフィスを通じてタンクに戻るため、冷却器に導かれる作動油の圧力が抑制され、冷却器を保護することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クラッチがインチング状態であっても作動油によりクラッチを十分に冷却することができる産業車両の油圧駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るフォークリフトの油圧駆動装置の油圧回路図である。
【
図2】(a)はエンジン回転数と主圧との関係を示すグラフ図であり、(b)はエンジン回転数と冷却器に導かれる作動油量との関係を示すグラフ図である。
【
図3】第2の実施形態に係るフォークリフトの油圧駆動装置の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る産業車両の油圧駆動装置について図面を参照して説明する。本実施形態の産業車両は、内燃機関を走行駆動源とするエンジン式フォークリフトである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のエンジン式フォークリフト(以下、単に「フォークリフト」と表記する)は、エンジン10と、トルクコンバータ11と、トランスミッション12と、を有する。エンジン10は、トルクコンバータ11と接続される出力軸13を備えている。
【0018】
トルクコンバータ11は、ポンプ(図示せず)とタービン(図示せず)を備えている。トルクコンバータ11のポンプはトルクコンバータ11に封入されている作動油をタービンに送り込むための要素であり、出力軸13と連結されている。トルクコンバータ11のタービンはポンプから送り込まれた流体の運動エネルギーを回転運動に変換し、回転動力を得るための要素である。トルクコンバータ11は、作動油の入口11Aおよび作動油の出口11Bを有する。トランスミッション12は、トルクコンバータ11と連結された入力軸14のほか、車軸(図示せず)と連結される出力軸15を備えている。
【0019】
入力軸14には前進クラッチ16および後進クラッチ17が設けられている。前進クラッチ16と出力軸15の間にはギヤ列18が設けられ、後進クラッチ17と出力軸15との間にはギヤ列19が設けられている。前進クラッチ16は、入力軸14とギヤ列18とを接続したり解除したりする。後進クラッチ17は、入力軸14とギヤ列19とを接続したり解除したりする。つまり、前進クラッチ16および後進クラッチ17は、エンジン10の出力をトランスミッション12に伝達または遮断する。入力軸14の回転は前進クラッチ16のギヤ列18又は後進クラッチ17のギヤ列19を介して出力軸15に伝達される。フォークリフトの前後進の切り替えは、ディレクションレバー(図示せず)の操作により操作される前後進切替バルブ26により行われる。
【0020】
図1に示すエンジン式フォークリフトの油圧駆動装置(以下、単に「油圧駆動装置」と表記する)20は、エンジン10により駆動される油圧ポンプ21を備えている。油圧ポンプ21は、一方向に回転可能であり、作動油を吸い込むための吸込口21Aと、作動油を吐出するための吐出口21Bと、を有している。油圧ポンプ21の吸込口21Aには、作動油を貯留するタンク24が作動油流路25を介して接続されている。
【0021】
油圧ポンプ21の吐出口21Bと前後進切替バルブ26とは、作動油流路27を介して接続されている。前後進切替バルブ26と前進クラッチ16とは、作動油流路28を介して接続され、前後進切替バルブ26と後進クラッチ17とは、作動油流路29を介して接続されている。作動油流路27における油圧ポンプ21と前後進切替バルブ26との間には、インチングバルブ30が設けられている。作動油流路28における油圧ポンプ21とインチングバルブ30との間に、アキュムレータ31が接続されている。アキュムレータ31は、前後進切替バルブ26の切り替え時に作動油流路27に生じるショックを緩和する。
【0022】
前後進切替バルブ26は、運転席に備えられるディレクションレバー(図示せず)の操作により3位置に切換え操作される4ポート3位置切換弁である。前後進切替バルブ26は、インチングバルブ30と接続されるポートと、前進クラッチ16と接続されるポートと、後進クラッチ17と接続されるポートと、作動油流路32を介してタンク24と接続されるポートと、を有する。
【0023】
ディレクションレバーが前進側に傾動されるとき、前後進切替バルブ26は第1位置となり、前後進切替バルブ26は前進クラッチ16に作動油を供給するほか、後進クラッチ17の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第1位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18と完全に接続し、後進クラッチ17はギヤ列19との接続を解除する。
【0024】
ディレクションレバーが後進側に傾動されるとき、前後進切替バルブ26は第2位置となり、前後進切替バルブ26は後進クラッチ17に作動油を供給するほか、前進クラッチ16の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第2位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18との接続を解除し、後進クラッチ17はギヤ列19と完全に接続する。
【0025】
ディレクションレバーが中立位置のとき、前後進切替バルブ26は第3位置となり、前後進切替バルブ26は前進クラッチ16および後進クラッチ17への作動油の供給を遮断し、前進クラッチ16および後進クラッチ17の作動油をタンク24へ戻す。従って、前後進切替バルブ26が第3位置のとき、前進クラッチ16はギヤ列18との接続を解除し、後進クラッチ17はギヤ列19との接続を解除する。
【0026】
インチングバルブ30は、フォークリフトの運転席に備えられるインチングペダル33の操作により3位置に切換え操作される3ポート3位置切換弁である。インチングバルブ30は、油圧ポンプ21と接続するポートと、前後進切替バルブ26と接続されるポートと、作動油流路34を介してタンク24と接続されるポートと、を有する。
【0027】
インチングペダル33が踏み込まれないとき、インチングバルブ30は第1位置となり、インチングバルブ30は前後進切替バルブ26へ作動油を供給可能な状態に保持する。従って、インチングバルブ30が第1位置のとき、前進クラッチ16がギヤ列18に完全に接続することが可能な状態になるか、若しくは、後進クラッチ17がギヤ列19に完全に接続することが可能な状態になる。
【0028】
インチングペダル33が最大量踏み込まれるとき、インチングバルブ30は第2位置となり、インチングバルブ30は、前後進切替バルブ26へ供給される作動油を完全に遮断する状態に保持する。従って、インチングバルブ30が第2位置のとき、前後進切替バルブ26の位置に関わらず、前進クラッチ16および後進クラッチ17の少なくとも一方が対応するギヤ列18、19と解除される状態になる。
【0029】
また、インチングペダル33が中間位置まで踏み込まれるとき、インチングバルブ30は第3位置となり、インチングバルブ30は、インチングバルブ30が備えるオリフィスを介して前進クラッチ16又は後進クラッチ17に作動油を供給する。従って、インチングバルブ30が第3位置では、前後進切替バルブ26が第1位置又は第2位置であれば、前進クラッチ16又は後進クラッチ17が半クラッチ状態となる。
【0030】
このように、本実施形態の油圧駆動装置20では、作動油を前進クラッチ16および後進クラッチ17へ導くクラッチ制御油路は、作動油流路27、28、29により構成されている。
【0031】
ところで、油圧ポンプ21の吐出口21Bとトルクコンバータ11の入口11Aとは、作動油流路27から分岐された作動油流路35を介して接続されている。トルクコンバータ11の出口11Bと冷却器36の入口36Aとを接続する作動油流路37が接続されている。冷却器36はトルクコンバータ11を通過した作動油を冷却する。冷却器36の出口36Bと前進クラッチ16および後進クラッチ17とは、作動油流路38を介して接続されている。作動油流路38にはストレーナ39が設けられている。作動油流路38を通る作動油は、前進クラッチ16および後進クラッチ17を冷却してタンク24へ回収される。
【0032】
作動油流路35には、第1オリフィス40が設けられている。第1オリフィス40は、油路圧力調整器に相当し、エンジン10の回転数が低いときでも、トルクコンバータ11に作動油を導くとともに前進クラッチ16および後進クラッチ17を作動させる作動油を作動油流路27に導くために設けられている。作動油流路35および作動油流路27の一部(作動油流路27における油圧ポンプ21と作動油流路35の起点との間)は、作動油をトルクコンバータ11へ導くトルコン油路に相当する。作動油流路37、38は、トルクコンバータ11を通過した作動油を冷却器36へ導き、冷却器36により冷却された作動油を前進クラッチ16および後進クラッチ17へ導くクラッチ冷却用のクラッチ冷却油路に相当する。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却した作動油は、図示されない作動油流路を介してタンク24へ戻る。
【0033】
作動油流路27における油圧ポンプ21と作動油流路35の起点との間には、作動油流路42が接続されており、作動油流路42は作動油流路35における第1オリフィス40とトルクコンバータ11との間に接続されている。作動油流路42は導通油路に相当する。作動油流路42には、第1圧力制御バルブ41が設けられている。第1圧力制御バルブ41は、油圧ポンプ21からの作動油の圧力(主圧)Pmを第1設定圧P1以下に調圧する圧力制御バルブに相当する。また、第1設定圧P1は、所定の設定圧に相当する。第1圧力制御バルブ41は、作動油の主圧Pmが第1設定圧P1以下では閉じ、作動油の主圧Pmが第1設定圧P1を超えると開く主圧設定用のリリーフバルブである。第1圧力制御バルブ41が開き、第1圧力制御バルブ41を通過する作動油は、作動油流路35における第1オリフィス40とトルクコンバータ11との間を通る。
【0034】
また、作動油流路35における第1オリフィス40とトルクコンバータ11との間から分岐され、作動油流路37と接続するバイパス油路としての作動油流路43が設けられている。作動油流路43には、第2圧力制御バルブ44が設けられている。第2圧力制御バルブ44は、トルコン油路における作動油の圧力を確保するトルコン圧制御器に相当する。第2圧力制御バルブ44は、トルクコンバータ11の入口11A側の作動油の圧力(トルコン圧)をトルコン設定圧としての第2設定圧P2(図示せず)以下に調圧する。第2圧力制御バルブ44は、トルコン圧が第2設定圧P2以下では閉じ、トルコン圧が第2設定圧P2を超えると開くトルコン圧設定用のリリーフバルブである。第2圧力制御バルブ44が開き、第2圧力制御バルブ44を通過する作動油は、作動油流路43を通る。第2設定圧P2は第1設定圧P1よりも小さい(P1>P2)。
【0035】
作動油流路43における第2圧力制御バルブ44と作動油流路37との間から、分岐される作動油流路45が設けられている。作動油流路45は作動油流路43を通る作動油の一部をタンク24に戻すための油路であり、バイパス油路におけるトルコン圧制御器の下流において分岐される分岐油路に相当する。作動油流路45には、第2オリフィス46が設けられている。第2オリフィス46は、作動油流路43を通る作動油を作動油流路37に導くために設けられている。また、第2オリフィス46が設けられていることにより、作動油流路43を通る作動油の一部が作動油流路45および第2オリフィス46を通じてタンク24へ戻される。このため、エンジン10の回転数が高くなっても、作動油流路43を通って冷却器36へ導かれる作動油量は過度に増大することがない。
【0036】
次に、本実施形態に係る油圧駆動装置20の作用について説明する。エンジン10が駆動されるとエンジン10の回転数は上昇し、エンジン10により駆動される油圧ポンプ21は、タンク24から作動油を汲み上げる。
図2(a)に示すように、油圧ポンプ21により汲み上げられた作動油の圧力(主圧Pm)は、第1圧力制御バルブ41によって第1設定圧P1以下に設定される。
【0037】
例えば、フォークリフトが前進(又は後進)するとき、オペレータは、ディレクションレバーを前進側(又は後進側)へ傾動する。ディレクションレバーが前進側(又は後進側)へ傾動されると、前後進切替バルブ26は第1位置(又は第2位置)となる。フォークリフトの通常の走行時において、インチングペダル33は踏み込まれないのでインチングバルブ30は第1位置である。このため、第1設定圧以下に設定された作動油は、作動油流路27、インチングバルブ30および前後進切替バルブ26を通り、作動油流路28を通じて前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を作動させる。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)は入力軸14とギヤ列18(又はギヤ列19)とを接続する。
【0038】
一方、第1設定圧P1以下に設定された作動油は、作動油流路35を通過してトルクコンバータ11に導かれる。トルクコンバータ11に導かれた作動油はトルクコンバータ11を作動させる。作動油流路35の作動油の圧力(トルコン圧)は第2圧力制御バルブ44によって第2設定圧P2以下に設定される。第2設定圧P2以下に設定されたトルクコンバータ11を通過したのち冷却器36に導かれる。冷却器36は導かれた作動油を冷却する。冷却器36において冷却された作動油は、作動油流路38、ストレーナ39を通り、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)に導かれ、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却する。前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を冷却した作動油はタンク24へ戻る。フォークリフトは、オペレータのアクセルペダルの操作に応じて前方(又は後方)へ走行する。
【0039】
ところで、フォークリフトが荷役作業を行うとき、オペレータはインチングペダル33を踏み込んで前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を半クラッチ状態とする場合がある。このとき、インチングバルブ30は、第3位置となり、前後進切替バルブ26への作動油は絞られる。半クラッチ状態では、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)が発熱するが、特に、エンジン10の回転数が高くなると発熱量は多くなる。オペレータがアクセルペダルを踏み込むと、エンジン10の回転数が上昇するので、油圧ポンプ21から汲み上げた作動油の圧力が第1設定圧力を超えようとする。このとき、作動油の圧力が第1設定圧力となるように第1圧力制御バルブ41は開く。第1圧力制御バルブ41が開くことにより、第1圧力制御バルブ41を通過する作動油は、作動油流路35に導かれる。
【0040】
第1圧力制御バルブ41を通過する作動油が作動油流路35に導かれることにより、トルコン圧が第2設定圧P2を超えようとする。このとき、作動油の圧力が第2設定圧P2となるように第2圧力制御バルブ44は開く。第2圧力制御バルブ44が開くことにより、第2圧力制御バルブ44を通過する作動油は、作動油流路43を通じて作動油流路37に導かれる。作動油流路43を通過する作動油の一部は第2オリフィス46を通じてタンク24へ戻る。
【0041】
冷却器36にはトルクコンバータ11を通過した作動油のほかに、作動油流路43を通過する作動油が導かれる。このため、第1圧力制御バルブ41および第2圧力制御バルブ44が開いている状態では、
図2(b)に示すように、第1圧力制御バルブ41および第2圧力制御バルブ44が開いていない状態と比べると、冷却器36に導かれる作動油量Qは増大する。なお、
図2(b)に一点鎖線により示す比較例は、第1圧力制御バルブ41を通過する作動油をタンク24に戻すようにした例である。比較例では、作動油量がQ1を超えることはないが、本実施形態では、エンジン回転数が増大すると作動油量Qは作動油量Q1を超える。
【0042】
半クラッチ状態以外のインチング状態である、インチングペダル33を最大量踏み込む状態であっても、第1圧力制御バルブ41および第2圧力制御バルブ44が開いている状態では、冷却器36に導かれる作動油は増大する。また、通常の走行であっても、第1圧力制御バルブ41および第2圧力制御バルブ44が開いている状態では、冷却器36に導かれる作動油は増大する。
【0043】
本実施形態の油圧駆動装置20は以下の作用効果を奏する。
(1)第1圧力制御バルブ41が油圧ポンプ21からの作動油を第1設定圧P1以下に調圧し、調圧された作動油はクラッチ制御油路としての作動油流路27~29およびトルコン油路を流れる。トルコン圧制御器としての第2圧力制御バルブ44はトルコン油路としての作動油流路27の一部および作動油流路35を流れる作動油を第2設定圧以下に調圧し、調圧された作動油はトルクコンバータ11へ導かれる。トルクコンバータ11を通過した作動油は、クラッチ冷却油路としての作動油流路37、38を流れ、冷却器36により冷却される。冷却された作動油はクラッチを冷却する。エンジン10の回転数が上昇し、作動油の圧力が第1設定圧P1を超えようとすると、第1圧力制御バルブ41が開き、第1圧力制御バルブ41を通過する作動油はトルコン油路に導かれる。第2圧力制御バルブ44はトルコン油路の作動油の圧力を確保し、第2圧力制御バルブ44を通過する作動油はトルクコンバータ11を通過せずに冷却器36に流れる。その結果、エンジン回転数が高くても、冷却器36に導かれる作動油は、トルクコンバータ11を通過した作動油およびバイパス油路を通る作動油であるから、作動油量Qが増大し、クラッチを十分に冷却することができる。
【0044】
(2)トルコン油路としての作動油流路27の一部および作動油流路35の作動油の圧力がトルコン設定圧である第2設定圧P2以上になると、第2圧力制御バルブ44が開くので、トルクコンバータ11に過度の圧力がかかることはない。また、エンジン回転数が低く作動油の流量が少なく、トルコン油路の作動油の圧力が第2設定圧P2未満のときに第2圧力制御バルブ44は閉じているので、バイパス油路としての作動油流路43に作動油が流れることはなく、トルクコンバータ11の作動油不足を防止することができる。
【0045】
(3)作動油流路43における第2圧力制御バルブ44の下流において分岐される分岐油路としての作動油流路45と、作動油流路45に設けられる第2オリフィス46と、第2オリフィス46を通過する作動油を受け取るタンク24と、を有する。このため、作動油が作動油流路43を流れるとき、作動油流路43を流れる作動油の一部は第2オリフィス46を通じてタンク24に戻るため、冷却器36に導かれる作動油の圧力が抑制され、冷却器36を保護することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る油圧駆動装置について説明する。本実施形態の油圧駆動装置は、トルコン圧制御器が第1の実施形態と異なる。第2の実施形態では、第1の実施形態と同じ構成は、第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0047】
図3に示すように、油圧駆動装置50は、作動油流路43に設けられる第3オリフィス51を有している。第3オリフィス51は、トルコン油路における作動油の圧力を確保するトルコン圧制御器に相当する。作動油流路43に第3オリフィス51が設けられることにより、作動油流路35に導かれる作動油の一部が作動油流路43に導かれる。そして、作動油流路35に導かれる作動油のうち、作動油流路35に導かれる作動油の一部を除く作動油は、トルクコンバータ11へ導かれる。
【0048】
本実施形態では、作動油流路35における第1オリフィス40とトルクコンバータ11との間の作動油の圧力(トルコン圧)が、エンジン10の回転数によっては第2設定圧P2を超える可能性があるが、冷却器36へ導く作動油を増大させることができる。エンジン回転数が高くても、冷却器36に導かれる作動油は、トルクコンバータ11を通過した作動油およびバイパス油路を通る作動油となり、前進クラッチ16(又は後進クラッチ17)を十分に冷却することができる。
【0049】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0050】
○ 第1、第2の実施形態では、バイパス油路から分岐される分岐油路を設け、分岐油路にオリフィスを設けたが、この限りではない。分岐油路および分岐油路のオリフィスを設けないようにしてもよい。この場合、トルコン圧制御器が第2圧力制御バルブであれば、作動油の増量に対応可能な冷却器とすることが好ましい。また、トルコン圧制御器がオリフィスであれば、トルクコンバータおよび冷却器を作動油の増量に対応可能とすることが望ましい。
○ 第1、第2の実施形態では、産業車両としてフォークリフトを例示して説明したが、産業車両はフォークリフトに限定されない。産業車両としては、例えば、建設車両であってもよく、この場合、本発明は建設車両のインチングバルブを有した油圧駆動装置に適用可能である。
○ 第1オリフィス40は、エンジン10の回転数が低いときでも、トルクコンバータ11に作動油を導くとともに前進クラッチ16および後進クラッチ17を作動させる作動油を作動油流路27に導くことができればよく、例えば減圧弁に変更してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 エンジン
11 トルクコンバータ
12 トランスミッション
16 前進クラッチ
17 後進クラッチ
20、50 油圧駆動装置
21 油圧ポンプ
24 タンク
25、27、28、29、32、34、35、37、38、42、43、45 作動油流路
26 前後進切替バルブ
30 インチングバルブ
31 アキュムレータ
33 インチングペダル
36 冷却器
40 第1オリフィス(油路圧力調整器としての)
41 第1圧力制御バルブ(圧力制御バルブとしての)
44 第2圧力制御バルブ(トルコン圧制御器としての)
46 第2オリフィス
51 第3オリフィス(オリフィスとしての)
Pm 主圧
P1 第1設定圧(所定の設定圧としての)
P2 第2設定圧(トルコン設定圧)