(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】芳香族ビスマレイミド化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019133486
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065921(JP,A)
【文献】特開2013-001872(JP,A)
【文献】特表2006-526014(JP,A)
【文献】特開平04-114035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0225059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00- 73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示され
、A
1
が下記式(2)のとき、A
2
が下記式(3)であるか、またはA
1
が下記式(3)のとき、A
2
が下記式(2)である芳香族ビスマレイミド化合物。
【化1】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化2】
(aは1~6の数である)
【化3】
から選ばれる2価の基であり、mは1~30の数であり、nは1~5の数であり、A
1及びA
2はそれぞれ独立して、下記式(2)
【化4】
(式中、X
2は独立して、下記式
【化5】
(aは1~6の数である)
【化6】
から選ばれる2価の基であり、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である)
または下記式(3)
【化7】
(式中、X
1は前記と同じものを示す)
で示される2価の芳香族基である)
【請求項2】
前記式(1)の芳香族ビスマレイミド化合物の数平均分子量が3,000~50,000であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ビスマレイミド化合物。
【請求項3】
前記式(1)のX
1と前記式(3)のX
1とが同じ2価の基を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の芳香族ビスマレイミド化合物。
【請求項4】
下記式(4)
【化8】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化9】
(aは1~6の数である)
【化10】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(5)
【化11】
(式中、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化12】
(aは1~6の数である)
【化13】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとを、モル比で芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.50/1.0で反応させて、アミック酸を合成し、閉環脱水する工程Aと、
該工程Aに次いで、前記工程Aで得られた反応物と下記式(6)
【化14】
(式中、X
1は前記と同じ)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程Bと、
該工程Bに次いで、前記工程Bで得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程Cとを有することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法。
【請求項5】
下記式(4)
【化15】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化16】
(aは1~6の数である)
【化17】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(6)
【化18】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化19】
(aは1~6の数である)
【化20】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとを、モル比で芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.50/1.0で反応させて、アミック酸を合成し、閉環脱水する工程A’と、
該工程A’に次いで、前記工程A’で得られた反応物と下記式(5)
【化21】
(式中、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化22】
(aは1~6の数である)
【化23】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程B’と、
該工程B’に次いで、前記工程B’で得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程C’を有することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビスマレイミド化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマレイミド樹脂は高耐熱樹脂の一つと知られ、エポキシ樹脂とポリイミドとの耐熱性の差を埋めることができる可能性があるものとして従来から検討されてきた。近年でも新規のビスマレイミド化合物の報告がされている(特許文献1及び2)。また、非常に低誘電特性を有するビスマレイミド化合物の報告もされている(特許文献3)。これらは、基板用樹脂としての使用が多く、含浸ワニス、積層板さらには成形品などに広く用いられている。しかし、多くの場合、ビスマレイミド化合物自体をフィルム化しようとしてもフィルムにならないために、ビスマレイミド化合物はフィルム化剤とともに用いられるが、ビスマレイミド化合物自体の特性を有効に活用できないことがある。
【0003】
ビスマレイミド化合物の多くは分子量が2,000以下の低分子やモノマーであり、マレイミドを繰り返し単位に含み、高分子量化したもの(特許文献4)はあっても、分子の主鎖に直鎖状や鎖状の高分子骨格を有し、分子の両末端にマレイミド基を有している高分子量のビスマレイミド化合物の報告例は極めて少ない。
【0004】
また、多くの芳香族ビスマレイミド化合物は、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、DMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)等の高沸点非プロトン性極性溶媒にしか溶解しないなどの欠点を有しており、他の汎用性のある溶剤に溶解するものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-219539号公報
【文献】特開2018-012671号公報
【文献】特開2014-194021号公報
【文献】特開2012-036233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、フィルム化剤を使用することなく、フィルム化可能で、高沸点非プロトン性極性溶媒以外の溶剤にも溶解する新規の芳香族ビスマレイミド化合物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記芳香族ビスマレイミド化合物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
<1>
下記式(1)で示される芳香族ビスマレイミド化合物。
【化1】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化2】
(aは1~6の数である)
【化3】
から選ばれる2価の基であり、mは1~30の数であり、nは1~5の数であり、A
1及びA
2はそれぞれ独立して、下記式(2)
【化4】
(式中、X
2は独立して、下記式
【化5】
(aは1~6の数である)
【化6】
から選ばれる2価の基であり、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である)
または下記式(3)
【化7】
(式中、X
1は前記と同じものを示す)
で示される2価の芳香族基である)
<2>
前記式(1)の芳香族ビスマレイミド化合物の数平均分子量が3,000~50,000であることを特徴とする<1>に記載の芳香族ビスマレイミド化合物。
<3>
前記式(1)のX
1と前記式(3)のX
1とが同じ2価の基を有することを特徴とする<1>または<2>に記載の芳香族ビスマレイミド化合物。
<4>
前記式(1)において、A
1が前記式(2)のとき、A
2が前記式(3)であるか、またはA
1が前記式(3)のとき、A
2が前記式(2)であることを特徴とする<1>から<3>のいずれか1つに記載の芳香族ビスマレイミド化合物。
<5>
下記式(4)
【化8】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化9】
(aは1~6の数である)
【化10】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(5)
【化11】
(式中、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化12】
(aは1~6の数である)
【化13】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとを、モル比で芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.50/1.0で反応させて、アミック酸を合成し、閉環脱水する工程Aと、
該工程Aに次いで、前記工程Aで得られた反応物と下記式(6)
【化14】
(式中、X
1は前記と同じ)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程Bと、
該工程Bに次いで、前記工程Bで得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程Cとを有することを特徴とする<1>から<4>のいずれか1つに記載の芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法。
<6>
下記式(4)
【化15】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化16】
(aは1~6の数である)
【化17】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(6)
【化18】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化19】
(aは1~6の数である)
【化20】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとを、モル比で芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.50/1.0で反応させて、アミック酸を合成し、閉環脱水する工程A’と、
該工程A’に次いで、前記工程A’で得られた反応物と下記式(5)
【化21】
(式中、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化22】
(aは1~6の数である)
【化23】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程B’と、
該工程B’に次いで、前記工程B’で得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程C’を有することを特徴とする<1>から<4>のいずれか1つに記載の芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族ビスマレイミド化合物は、フィルム化剤を使用することなく、フィルム化可能で、高沸点非プロトン性極性溶媒以外の溶剤にも溶解する。このような特徴を有する本発明の芳香族ビスマレイミド化合物は、接着剤、プライマー、コーティング材等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で合成された芳香族ビスマレイミド化合物の
1H-NMRスペクトルチャート。
【
図2】実施例1で合成された芳香族ビスマレイミド化合物のIRスペクトルチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0012】
<芳香族ビスマレイミド化合物>
本発明のビスマレイミド化合物は、下記式(1)で示される新規な芳香族ビスマレイミド化合物である。
【化24】
(式中、X
1は独立して、下記式
【化25】
(aは1~6の数である)
【化26】
から選ばれる2価の基であり、mは1~30、好ましくは2~20の数であり、nは1~5、好ましくは1~3、より好ましくは1の数であり、A
1及びA
2はそれぞれ独立して、下記式(2)
【化27】
(式中、X
2は独立して、下記式
【化28】
(aは1~6の数である)
【化29】
から選ばれる2価の基であり、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である)
または下記式(3)
【化30】
(式中、X
1は前記と同じものを示す)
で示される2価の芳香族基である。)
【0013】
X1としては、原料の入手のしやすさの観点から-CH2-、-C(CH3)2-が好ましい。mは1~30の数であり、好ましくは2~20の数である。mがこの範囲にある場合、上記芳香族ビスマレイミド化合物の未硬化時の溶液への溶解性やフィルム化能と、得られる硬化物の強靭性や耐熱性とのバランスが良いものとなる。nは1~5の数であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1である。
【0014】
X2としては、原料の入手のしやすさの観点から-CH2-、-C(CH3)2-が好ましい。また、R1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子等で置換された基、例えば、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。R1としては、原料の入手のしやすさの観点から、水素原子または非置換又は置換の炭素数1~3の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、A1とA2は異なることがより好ましい。
【0015】
前記式(1)の芳香族ビスマレイミド化合物の数平均分子量は好ましくは3,000~50,000であり、より好ましくは5,000~40,000である。数平均分子量がこの範囲であると、芳香族ビスマレイミド化合物が溶剤に対して安定的に溶解し、フィルム化能も良好なものになる。
なお、本発明中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0016】
[GPCの測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.35mL/min
検出器:RI
カラム:TSK-GEL Hタイプ(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL
【0017】
また、前記式(1)のX1と前記式(3)のX1とが同じ2価の基を有する。本発明の芳香族ビスマレイミド化合物は、同じビスフェノール骨格を有する2価の酸無水物とジアミンとを用いて製造される。以下、その製造方法について詳述する。
【0018】
<芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法>
本発明の芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法については、特に制限はないが、例えば以下に示すどちらかの方法により効率的に製造することができる。
【0019】
一つの方法としては、下記式(4)
【化31】
(式中、X
1は上記と同じであり、独立して、下記式
【化32】
(aは1~6の数である)
【化33】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(5)
【化34】
(式中、R
1、X
2は上記と同じであり、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化35】
(aは1~6の数である)
【化36】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程Aと、
該工程Aに次いで、前記工程Aで得られた反応物と下記式(6)
【化37】
(式中、X
1は上記と同じ)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程Bと、
該工程Bに次いで、前記工程Bで得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程Cとを有する芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法である。
【0020】
もう一つの方法としては、下記式(4)
【化38】
(式中、X
1は上記と同じであり、独立して、下記式
【化39】
(aは1~6の数である)
【化40】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジフタル酸無水物と下記式(6)
【化41】
(式中、X
1は上記と同じ)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程A’と、
該工程A’に次いで、前記工程A’で得られた反応物と下記式(5)
【化42】
(式中、R
1、X
2は上記と同じであり、R
1は独立して、水素原子、塩素原子、または非置換又は置換の炭素数1~6の脂肪族炭化水素基であり、X
2は独立して、下記式
【化43】
(aは1~6の数である)
【化44】
から選ばれる2価の基である)
で示される芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程B’と、
該工程B’に次いで、前記工程B’で得られた反応物と無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程C’を有する芳香族ビスマレイミド化合物の製造方法である。
【0021】
上記二つの製造方法を示したが、基本的な流れとしては芳香族ジフタル酸と芳香族ジアミンとでアミック酸を合成し、閉環脱水する工程A(又は工程A’)を経て、工程A(又は工程A’)の後に先の工程A(又は工程A’)とは異なる芳香族ジアミンを加えてアミック酸を合成し、さらに閉環脱水する工程B(又は工程B’)を経て、工程B(又は工程B’)の後に無水マレイン酸を反応させ、マレアミック酸を合成し、最後に閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖する工程C(又は工程C’)を経ることで芳香族ビスマレイミド化合物を得ることができ、上記二つの製造方法の異なる点は、主に、投入する芳香族ジアミンの種類の順番のみである。
反応は、アミック酸、又はマレアミック酸の合成反応と閉環脱水反応との二つに大別することができ、以下に詳述する。
【0022】
工程A(又は工程A’)では、まず初めに特定の芳香族ジフタル酸無水物と特定の芳香族ジアミンを反応させることでアミック酸を合成する。この反応は、一般的には、高沸点非プロトン性極性溶媒中、室温(25℃)~100℃で反応が進行するが、芳香族ジフタル酸無水物と芳香族ジアミンとの反応では、高沸点非プロトン性極性溶媒ではなく、アニソール及びその誘導体(例えば、o-メチルアニソール、p-メチルアニソール等)を溶媒として用いることができる。
続く、アミック酸の閉環脱水反応は120~180℃の条件で反応した後、縮合反応により副生した水を系中から取り除きながら進行させる。閉環脱水反応を促進させるために高沸点非プロトン性極性溶媒や酸触媒を添加することもできる。高沸点非プロトン性極性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また酸触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
芳香族ジフタル酸無水物と芳香族ジアミンの配合比は、モル比で芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.50/1.0とすることが好ましく、芳香族ジフタル酸無水物/芳香族ジアミン=1.01~1.15/1.0とすることがより好ましい。この比で配合することで、結果的に両末端イミド基含有コポリマーを合成することができる。
【0024】
工程B(又は工程B’)では、まず初めに工程A(又は工程A’)によって得られた両末端イミド基含有コポリマーと特定の芳香族ジアミンを反応させることでアミック酸を合成する。この反応も、一般的には、高沸点非プロトン性極性溶媒中、室温(25℃)~100℃で反応が進行するが、両末端イミド基含有コポリマーと特定の芳香族ジアミンとの反応では、高沸点非プロトン性極性溶媒ではなく、アニソール及びその誘導体(例えば、o-メチルアニソール、p-メチルアニソール等)を溶媒として用いることが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
同様にして、続くアミック酸の閉環脱水反応は120~180℃の条件で反応した後、縮合反応により副生した水を系中から取り除きながら進行させる。閉環脱水反応を促進させるために高沸点非プロトン性極性溶媒酸触媒を添加することもできる。高沸点非プロトン性極性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また酸触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
両末端イミド基含有コポリマーと芳香族ジアミンの配合比としては、モル比で1.0:1.6~2.5であることが好ましく、1.0:1.8~2.2であることがより好ましい。
【0026】
工程C(又は工程C’)では、工程B(又は工程B’)で得られた両末端にアミノ基を有するジアミンと、無水マレイン酸とを室温(25℃)~100℃で反応させることでマレアミック酸を合成し、最後に120~180℃の条件で副生する系中の水を取り除きながら閉環脱水することによって分子鎖末端をマレイミド基で封鎖し、目的とする芳香族ビスマレイミド化合物を得ることができる。
【0027】
両末端にアミノ基を有するジアミンと無水マレイン酸の配合比は、モル比で1.0:1.6~2.5であることが好ましく、1.0:1.8~2.2であることがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、実施例及び比較例中において、「室温」は25℃を意味する。
【0029】
実施例1
ビスマレイミド化合物(式7)の製造
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた1Lのガラス製4つ口フラスコに、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物65.06g(0.125モル)、4,4-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)35.26g(0.115モル)及びアニソール250gを加え、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、コポリマーを合成した。
その後、室温まで冷却したコポリマー溶液入りのフラスコに、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン7.05g(0.015モル)を加え、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、両末端ジアミン体を合成した。
得られた両末端ジアミン体溶液入りのフラスコを室温まで冷却してから無水マレイン酸を1.45g(0.015モル)加え、80℃で3時間撹拌することでマレアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、目的物の芳香族ビスマレイミド化合物のワニスを得た。その後、130℃、減圧下(10mmHg以下)でアニソールを留去し、濃褐色固体を得た。得られた生成物の
1H-NMR及びIRスペクトルから、下記式7で示される構造であることがわかった。
1H-NMRスペクトルを
図1に、IRスペクトルを
図2に示す。また、得られた生成物の数平均分子量は11,600であった。
【化45】
m=5、n=1(それぞれ平均値)
1H-NMR(400MHz、CDCl
3)δ1.26-1.28(-C
6H
2(-CH
2-C
H
3)
2、12H)、1.72-1.78(-C(C
H
3)
2-、12H)、2.45-2.52(-C
6H
2(-C
H
2-CH
3)
2、8H)、3.7(-C
6H
2-C
H
2-C
6H
2-、2H)、4.14(-C
H=C
H-、4H)、6.65‐7.05(芳香族環由来、14H)、7.06‐7.14(芳香族環由来、8H)、7.28‐7.48(芳香族環由来、24H)、7.92‐7.95(芳香族環由来、2H)
【0030】
実施例2
ビスマレイミド化合物(式8)の製造
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた1Lのガラス製4つ口フラスコに、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物65.06g(0.125モル)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン54.05g(0.115モル)及びアニソール250gを加え、80℃で6時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、コポリマーを合成した。
その後、室温まで冷却したコポリマー溶液入りのフラスコに、4,4-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)4.60g(0.015モル)を加え、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、両末端ジアミン体を合成した。
得られた両末端ジアミン体溶液入りのフラスコを室温まで冷却してから無水マレイン酸を1.45g(0.015モル)加え、80℃で3時間撹拌することでマレアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、目的物の芳香族ビスマレイミド化合物のワニスを得た。その後、130℃、減圧下(10mmHg以下)でアニソールを留去し、下記式8で示される構造を有する濃褐色固体を得た。また、得られた生成物の数平均分子量は15,100であった。
【化46】
m=5、n=1(それぞれ平均値)
【0031】
実施例3
ビスマレイミド化合物(式9)の製造
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた1Lのガラス製4つ口フラスコに、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物65.06g(0.125モル)、4,4-メチレンビス(2,6-ジプロピルアニリン)40.78g(0.115モル)及びアニソール250gを加え、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、コポリマーを合成した。
その後、室温まで冷却したコポリマー溶液入りのフラスコに、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン7.05g(0.015モル)を加え、80℃で3時間撹拌することでアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、発生した水分を留去しながら2時間撹拌し、両末端ジアミン体を合成した。
得られた両末端ジアミン体溶液入りのフラスコを室温まで冷却させてから無水マレイン酸を1.45g(0.015モル)加え、80℃で3時間撹拌することでマレアミック酸を合成した。その後、そのまま150℃に昇温し、副生した水分を留去しながら2時間撹拌し、目的物の芳香族ビスマレイミド化合物のワニスを得た。その後、130℃、減圧下(10mmHg以下)でアニソールを留去し、下記式9で示される構造を有する濃褐色固体を得た。また、得られた生成物の数平均分子量は12,500であった。
【化47】
m=5、n=1(それぞれ平均値)
【0032】
得られたビスマレイミド化合物(実施例1~3)及び下記ビスマレイミド化合物(比較例1~3)について、各種有機溶媒に対する溶解性と、フィルム化能を下記方法で調べた。結果を表1に示す。
比較例1:4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(ケイアイ化成製)
比較例2:2,2’-ビス-[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン(ケイアイ化成製)
比較例3:長鎖アルキル基含有ビスマレイミド化合物(BMI-1500、Designer Molecules Inc.製)
【0033】
溶解性試験
有機溶媒(アニソール、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF))100gに対して、各ビスマレイミド化合物を25℃で溶解し、溶解量(g/100g溶媒)を測定した。
【0034】
フィルム化能の評価方法
各ビスマレイミド化合物のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(有効成分50質量%)を、ベーカー式アプリケーターを用いて、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(G2-38、帝人製)上に30μm厚、A4サイズ(210mm×297mm)に塗工し、150℃で乾燥させた。乾燥後、外観がきれいで問題なくフィルム化しているものを○、はじきが発生してフィルム化できなかったり、ビスマレイミドが析出して凝集が発生し、外観不良を生じたりしたものを×とした。
【0035】