(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】電動回転機の絶縁体劣化診断装置及び絶縁体劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20220823BHJP
G01R 31/72 20200101ALI20220823BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20220823BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
G01R31/34 D
G01R31/72
G01R31/12 Z
G01N21/33
(21)【出願番号】P 2019178024
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳起
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-221880(JP,A)
【文献】実開平04-055582(JP,U)
【文献】国際公開第2008/044263(WO,A1)
【文献】特開昭64-063837(JP,A)
【文献】特開2018-200179(JP,A)
【文献】特開平04-099970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/72
G01R 31/12
G01N 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動回転機の絶縁体劣化診断装置であって、
上記電動回転機内の部分放電状態を電気的に測定する部分放電測定部と、
上記電動回転機内の気体のうち、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度を測定する気体濃度測定部と、
上記部分放電測定部での測定値と上記気体濃度測定部での測定値とに基づき、放電箇所を推定する放電箇所推定部と、
を備え
、
上記放電箇所推定部は、上記部分放電測定部での測定値が予め設定した第1の閾値を超えると共に上記気体濃度測定部での測定値が予め設定した第2の閾値を超える場合には、放電箇所を固定子コイル表層と判定し、上記部分放電測定部での測定値が上記第1の閾値を超えると共に上記気体濃度測定部での測定値が予め設定した上記第2の閾値以下の場合には、放電箇所を固定子コイル内部と判定する、
ことを特徴とする電動回転機の絶縁体劣化診断装置。
【請求項2】
上記部分放電測定部は、固定子コイルでの部分放電に起因して発生した電磁波信号を検知する構成であることを特徴とする請求項
1に記載した電動回転機の絶縁体劣化診断装置。
【請求項3】
上記部分放電測定部は、固定子コイルでの部分放電に起因して発生したパルス電流を電気信号として検知する構成であることを特徴とする請求項
1に記載した電動回転機の絶縁体劣化診断装置。
【請求項4】
上記部分放電測定部及び上記気体濃度測定部は、上記電動回転機の稼働中に測定を実行することを特徴とする請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載した電動回転機の絶縁体劣化診断装置。
【請求項5】
電動回転機の絶縁体劣化診断方法であって、
上記電動回転機内の部分放電状態を電気的に測定すると共に、上記電動回転機内の気体のうちの、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度を測定し、
測定した上記部分放電状態と気体濃度とから、放電箇所を推定
し、
測定した部分放電状態から固定子コイルで部分放電があると判定した際、測定した気体濃度が予め設定した第2の閾値を超えている場合は固定子コイル表層での部分放電とし、測定した気体濃度が上記第2の閾値以下の場合は固定子コイル内部での部分放電とする、
ことを特徴とする絶縁体劣化診断方法。
【請求項6】
上記部分放電状態の測定は、固定子コイルでの部分放電に起因して発生した電磁波信号を検知して測定することを特徴とする請求項
5に記載した電動回転機の絶縁体劣化診断方法。
【請求項7】
上記部分放電状態の測定は、固定子コイルでの部分放電に起因して発生したパルス電流を電気信号として検知することで測定することを特徴とする請求項
5に記載した絶縁体劣化診断方法。
【請求項8】
上記部分放電状態の測定及び上記気体濃度の測定を、上記電動回転機の稼働中に実行することを特徴とする請求項
5~請求項
7のいずれか1項に記載した絶縁体劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動回転機の絶縁体劣化を診断する技術に係り、特に、絶縁体劣化の位置を推定することで、電動回転機の寿命や更新の要否をより簡便に把握可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動回転機の寿命は、固定子コイルの絶縁体劣化に依存する。この固定子コイルの絶縁体劣化によるトラブルは、軸受や端子部などによるトラブルとは異なり、電動回転機一式の取り換えとなる場合がある。特に、製鉄プラントなどの設備で使用される回転機の駆動源に用いられる高出力の電動回転機は、特注品が多く、その製造に半年以上も掛かるものもある。このため、電動回転機が寿命となってからの発注では、設備の稼働に大きく影響する。したがって、電動回転機の寿命を把握する上で、電動回転機における固定子コイルの絶縁体劣化状態を正確に診断することが重要である。
固定子コイルの絶縁体劣化状態は、例えば、絶縁体中の空隙(ボイド)に起因する部分放電の放電電荷量を測定することによって測定することができる。この方法を利用した電動回転機における、固定子コイルの絶縁状態の検査方法として、以下の技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、高圧回転電機の実装コイルとは別に複数の診断用コイルを設け、診断用コイルの最大放電電荷量と放電開始電圧とをサンプリングし、これらの値と部分放電発生位置との相関関係を求める。そして、特許文献1に記載の方法では、被検コイルの放電開始電圧等を検出することにより、被検コイルの部分放電発生位置を特定する。
特許文献2に記載の方法では、被検モータの各相間に対して電圧を印加し、その際に相間に生じる部分放電の放電電荷量を基に絶縁良否を検査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-101339号公報
【文献】特開2005-257549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、回転電機を製造した際における、製品品質の保証のための検査を前提とした技術である。このため、特許文献1の技術は、回転電機の運転中での診断には採用することは難しく、しかも診断用コイルを用いた事前のデータ採取が必須である。したがって、特許文献1の技術は、設備に組み込まれて、実際に稼働中の回転電機の状態監視・点検・保守作業に適用することは困難である。
また、特許文献2の技術は、部分放電の放電電荷量を測定するパラメータとして絶縁体中の空隙の大きさしかみていない。このため、特許文献2の技術は、固定子の絶縁体劣化状態を正確に測定することが困難であり、部分放電の発生部位の特定も困難である。
【0006】
本発明は、上記のような点に着目したもので、絶縁体劣化の位置を推定することで、電動回転機の寿命や更新の要否をより簡便に把握可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
部分放電について、本発明者らが鋭意検討したところ、次のような知見を得た。
固定子コイルの絶縁体劣化部では部分放電が発生する。部分放電の発生部位としては、表層部と固定子内部の2種類に大別される。前者は、固定子コイル表層部におけるレジン剥離等で発生し、絶縁体への影響が少なく、腐食ガスによる内部部品、構造体の腐食が問題となることが多い。この表層部の劣化の場合、内部の目視点検、レジン塗布等の簡易補修で済む。一方、後者は、固定子コイルの内部の絶縁体劣化によるものであり、多くの場合簡易補修が不可能であり、大がかりな補修(巻替、全含浸)や更新が必要となって、多額の費用を要する。ここで、固定子コイルの表層部とは、電動回転機を運転可能に組み付けた状態で、固定子コイルの外表面(外表面を覆う樹脂が剥離した表面も含む)のうち、周囲の外気に直接曝される部位を指す。
【0008】
そして、部分放電が発生する際のガス濃度を確認したところ、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度によって、部分放電の発生部位が、固定子コイルの表層部若しくは内部かを推定できるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0009】
すなわち、課題解決のために、本発明の一態様は、電動回転機の絶縁体劣化診断装置であって、上記電動回転機内の部分放電状態を電気的に測定する部分放電測定部と、上記電動回転機内の気体のうち、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度を測定する気体濃度測定部と、上記部分放電測定部での測定値と上記気体濃度測定部での測定値とに基づき、放電箇所を推定する放電箇所推定部と、を備えることを要旨とする。
【0010】
また、本発明の他の態様は、電動回転機の絶縁体劣化診断方法であって、上記電動回転機内の部分放電状態を電気的に測定すると共に、上記電動回転機内の気体のうちの、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度を測定し、測定した上記絶縁体劣化状態と気体濃度とから、放電箇所を推定することを要旨とする。
また、本発明の他の態様は、電動回転機内の部分放電状態と、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体の濃度とから、部分放電時の放電箇所を推定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、部分放電による絶縁体劣化の位置を推定可能となる。この結果、本発明の態様によれば、電動回転機の寿命や更新の要否をより簡便に把握可能とするができようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る絶縁体劣化診断装置の構成を説明する概念図である。
【
図2】部分放電信号と検出ガス濃度との関係の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に基づく実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(電動回転機)
本実施形態が診断対象とする電動回転機(以下、電動機とも記載する)は、例えば数千Wクラスの高出力三相交流空気冷却式全閉形電動機である。もっとも、本発明の診断対象となる電動回転機は、空気冷却式全閉形電動機以外の電動機であっても良い。
電動機は、回転子と、この回転子の周りに配置された固定子コイルとを有している。電動機は、電源からU相、V相、W相の各々に対応して設けられた3つの電源経路U、V、Wを通して固定子コイルに交流電圧が印加される。
【0014】
(絶縁体劣化診断装置の構成)
本実施形態の絶縁体劣化診断装置は、
図1に示すように、部分放電測定部2と、気体濃度測定部3と、絶縁体劣化診断部4とを備える。
<部分放電測定部2>
部分放電測定部2は、電動機1内の部分放電状態を電気的に測定する処理を行う。部分放電測定部2は、例えば、電動機1における固定子コイルでの部分放電よって生じる電磁波信号を測定する処理を行ったり、電動機1における固定子コイルでの部分放電に伴う電気信号、例えばパルス電流を測定する処理を行ったりする。部分放電測定部2は、連続的若しくは間欠的に測定を実行し、測定した測定値を絶縁体劣化診断部4に供給する。
【0015】
ここで、固定子コイルは、固定子コイルを例えば樹脂からなる絶縁体で覆った構造になっている。固定子コイルの絶縁体が劣化すると、絶縁体中に空隙(ボイド)が生じる。空隙と絶縁体とでは誘電率が異なる。このため、絶縁体に交流電圧を印加すると、この空隙による電位差により部分放電が生じる。空隙は、部分放電の発生回数に伴って大きくなり、空隙が大きくなると、部分放電による放電電荷量も大きくなる。部分放電測定部2は、例えば、測定した電磁波信号を部分放電状態の信号としたり、測定したパルス電流から部分放電状態としての放電電荷量を求める。
【0016】
部分放電状態の測定方法は、例えば、絶縁体劣化で生じる部分放電に起因する電磁波を部分放電状態の信号として検出する。この測定方法は、例えば、各相の界磁巻線で発生した部分放電による電磁波をそれぞれコンデンサ(検出素子)によって検出し、さらにコンデンサからの出力信号についてハイパスフィルタで高調波ノイズやラジオノイズ等のノイズを除去して部分放電によって生じる電磁波信号を、部分放電状態の信号とする。例えば特開2002-311080号公報に記載の方法を採用してもよい。
一方、部分放電測定部2は、部分放電に伴い回路中に発生する放電パルス電流より、放電電荷量を求め、部分放電状態の信号として検出してもよい。この放電パルス電流の測定としては、例えば、公知の結合コンデンサ法、接地線電流法、または放射電磁界法などを採用すればよい。
【0017】
また、部分放電が生じると、電磁波の他、超音波や紫外線が放出されることが知られている。この部分放電に伴い放出された超音波や紫外線を、部分放電状態の信号として検出してもよい。
その他の部分放電状態の信号の測定方法としては、例えば特開2017-15624号公報に記載の方法を採用してもよい。
なお、部分放電状態の信号の測定は、電動機1の稼働中に部分放電信号が取得可能な測定方法を採用することが好ましい。
【0018】
<気体濃度測定部3>
気体濃度測定部3は、電動機1内の気体のうち、オゾン、窒素酸化物及び硝酸から選択した1以上の気体(以下、検出ガスとも記載する)の濃度を測定する。気体濃度測定部3は例えばガスモニターで構成される。気体濃度測定部3は、連続的若しくは間欠的に測定を実行し、測定した測定値を絶縁体劣化診断部4に供給する。
ここで、電動機1は、回転子と、回転子の周りに配置された固定子コイルと、これらを収容した筐体とを備える。気体濃度測定部3は、例えば、筐体の外面に気体サンプリング口を設け、その気体サンプリング口には吸引ポンプを介してガス分析計を接続して構成する。
【0019】
ガス分析計は、検出ガスの気体濃度を時系列で測定する。ガス分析計は、得られた測定値を連続的に出力可能な計器であれば、特に限定するものではない。ガス分析計は、例えば、オゾンを測定対象とする場合は、紫外線吸収法を用いた公知のオゾン濃度計が例示できる。紫外線吸収法は、オゾンが254nmの紫外線に対して強い吸収を示すことを利用し、測定セル内に導入したガスによって吸収された光量と透過した光量の関係に従いオゾン濃度を求めるものである。
ガス分析計は、測定した気体濃度(分析値)を、例えば電圧信号に変換し、その変換した電圧信号を絶縁体劣化診断部4に、例えば連続的に供給する。
【0020】
<絶縁体劣化診断部4>
絶縁体劣化診断部4は、絶縁体劣化判定部4Aと、放電箇所推定部4Bとを有する。
[絶縁体劣化判定部4A]
絶縁体劣化判定部4Aは、部分放電測定部2が測定した機内の部分放電状態に基づき、部分放電状態(部分放電状態の信号)が予め設定した第1の閾値S1を超えたと判定すると、絶縁体が劣化状態と判定する。
【0021】
[放電箇所推定部4B]
放電箇所推定部4Bは、絶縁体劣化判定部4Aで絶縁体が劣化状態と判定すると、気体濃度測定部3が測定した気体濃度によって放電箇所、すなわち絶縁体劣化箇所を推定する。
放電箇所推定部4Bは、例えば、部分放電測定部2での測定値が予め設定した第1の閾値S1を超えると共に気体濃度測定部3での測定値が予め設定した第2の閾値S2を超える場合には、放電箇所を固定子コイル表層と判定し、部分放電測定部2での測定値が第1の閾値S1を超えると共に気体濃度測定部3での測定値が予め設定した第2の閾値S2以下の場合には、放電箇所を固定子コイル内部と判定する。
【0022】
(動作その他)
本実施形態の絶縁体劣化診断装置は、部分放電測定部2が部分放電状態を測定、すなわち、固定子コイルの絶縁体劣化状態を測定する。これによって、固定子コイルの絶縁体劣化状態の発生の有無が検出される。
ただし、部分放電測定部2の測定だけでは、放電が発生した部位の特定はできない。そこで、本実施形態では、ガス分析計等からなる気体濃度測定部3によるガス濃度による測定値を併用して、放電が発生した部位の推定を行う。
【0023】
ここで、電動機1の固定子コイルで部分放電が生じると、オゾンや窒素酸化物(NOx)が生成することが知られている。部分放電の発生部位が固定子コイルの表面であった場合、生成したオゾンや窒素酸化物は、電動機1内の空気等の冷媒気体中に放散・混合され、冷媒気体中のオゾン濃度や窒素酸化物濃度が上昇する。また、電動機1内の空気等、冷媒気体中に水分が含まれていると、窒素酸化物が水分と反応して硝酸が生成する。
一方、発明者らの検討によれば、部分放電の発生部位が電動機1の固定子コイル内部であった場合は、固定子コイル表面が絶縁体で被覆されているため、オゾンや窒素酸化物が生成しても固定子コイルの内部から冷媒気体中に放出されないか、放出量が抑えられる。
【0024】
したがって、電動機1の筐体内部のオゾン、窒素酸化物、硝酸の少なくとも1種の気体濃度を時系列で測定し、上記の放電電荷量の増加と同時にこれら気体濃度の増加が認められれば、部分放電の発生部位が固定子コイルの表面であると推定できる。逆に、上記の放電電荷量は増加しても、これら気体濃度の増加が認められない場合には、部分放電の発生部位が固定子コイルの内部であると推定できる。
そして、固定子コイル表面での部分放電と放電位置を特定した場合には、固定子コイル表面やコイルエンド部などの表面的な劣化であるため、その表面部に対するレジン塗布等による簡易な補修によって対応すればよい。
これに対し、固定子コイル内部で部分放電と放電位置を特定した場合には、絶縁体内部の劣化のため、簡易な補修で対応が困難であるので、巻き替え、全含浸などの更新対応を行う。
【0025】
電動機1の絶縁体劣化診断方法をより具体的に説明する。
高出力三相交流空気冷却式全閉形電動機1の運転中(稼働中)、絶縁体劣化診断装置は、部分放電信号を時系列的に収集すると共に、電動機1の筐体内の気体を連続サンプリングし部分放電信号の取得と同期をとってオゾン濃度等を時系列的に収集する。そして、絶縁体劣化診断装置は、部分放電信号が、
図2のように、第1の閾値S1を超えたら、点検・補修が必要な規模の部分放電が発生したと判断し、電動機1の運転を停止して点検・補修が必要な絶縁体劣化状態と判定する。
【0026】
また、絶縁体劣化診断装置は、点検・補修が必要な絶縁体劣化状態と判定した際、取得した検出ガスの気体濃度の測定値が第2の閾値S2未満であれば、固定子コイルの内部で部分放電が発生したと推定し、巻替や全含浸等の本格補修、又は更新が必要と判断する。この場合、固定子コイルの内部でも部分放電が発生していたと推定し、この段階をもって巻替や全含浸等の本格補修、又は更新処理を行う。
一方、取得した検出ガスの気体濃度の測定値が第2の閾値S2を超えていれば、部分放電は固定子コイルの表面で発生したと推定する。この場合は、内部の目視点検の結果に従い、レジン塗布や腐食部品の交換等の簡易補修を行った上で、再稼働させる。
【0027】
ここで、部分放電位置特定のための検出ガスの気体濃度の測定値は、点検・補修が必要な絶縁体劣化状態と判定した部分放電信号の取得と同期をとって取得した測定値を使用する。ただし、部分放電位置特定のための検出ガスの気体濃度の測定値の取得タイミングはこれ限定されない、例えば、部分放電信号が予め設定した閾値を超え、電動機1の運転を停止するまでの期間の検出ガスの気体濃度の測定値であっても良い。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、固定子コイルの絶縁体劣化状態、特に部分放電の発生部位が、表層部か固定子内部かを推定することで、電動機1の寿命や更新の要否をより簡便に把握することができる。
すなわち、本実施形態によれば、電動機1の絶縁体劣化状態を電気的測定手段で測定すると共に、電動機1内のオゾン、窒素酸化物、硝酸の少なくとも1種の気体濃度を測定し、これらの測定値の組合せにより放電箇所の推定が可能になった。また、これらの測定を電動機1の運転中に時系列で行うようにしたので、点検・保守・補修作業による停止時間を最短としつつ必要な補修が可能になった。
【符号の説明】
【0029】
1 電動回転機(電動機)
2 部分放電測定部
3 気体濃度測定部
4 絶縁体劣化診断部
4A 絶縁体劣化判定部
4B 放電箇所推定部
S1 第1の閾値
S2 第2の閾値