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特許7127632自動回路形成装置、自動回路形成方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】自動回路形成装置、自動回路形成方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B82B 1/00 20060101AFI20220823BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220823BHJP
【FI】
B82B1/00
B82Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019200100
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070137
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】河野 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】舟山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】田所 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏哉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 篤志
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129169(JP,A)
【文献】特開2007-071669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0284787(US,A1)
【文献】特開2009-239178(JP,A)
【文献】特表2019-514022(JP,A)
【文献】特開2017-122774(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0104708(KR,A)
【文献】田畑博史 他,SiO2/Si基板上に転写した配向CNTを用いた単電子トランジスタの作製 Fabrication of single electron transistors using transfer printed aligned carbon nanotubes on Si02/Si substrate,第56回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 Vol.1 ,2009年03月30日,517頁,ISBN:978-4-903968-90-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00 - 3/00
B82Y 5/00 - 99/00
B60J
C01B、G01N、G01L、G01Q、G02B、G02F、G03F、G06T、H01J、H01L、H01Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に配されたナノスケールのカーボンナノチューブである対象物の各々を含む画像を取得する観測部と、
前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標として端点座標及び電極向きを取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の前記端点座標及び電極向きを取得する認識部と、
前記対象物の各々の前記端点座標及び電極向きから回路を設計する回路設計部と、
設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する電極形成部と、
を含む自動回路形成装置。
【請求項2】
記基板に前記カーボンナノチューブがランダムに散布されている状態について、ランダムに散布されている状態について、前記観測部は、前記画像を取得する請求項1に記載の自動回路形成装置。
【請求項3】
前記認識部による前記端点座標及び電極向きの取得、前記回路設計部による前記回路の設計、及び前記電極形成部による前記電極の形成により、
前記基板において、前記対象物の各々を一体として、電極向きの配向性に依存しないセンサが形成される請求項1又は請求項2に記載の自動回路形成装置。
【請求項4】
基板に配されたナノスケールのカーボンナノチューブである対象物の各々を含む画像を取得し、
前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標として端点座標及び電極向きを取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得し、
前記対象物の各々の前記端点座標及び電極向きから回路を設計し、
設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する、
ことを含む処理をコンピュータが実行することを特徴とする自動回路形成方法。
【請求項5】
基板に配されたナノスケールのカーボンナノチューブである対象物の各々を含む画像を取得し、
前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標として端点座標及び電極向きを取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の前記端点座標及び電極向きを取得し、
前記対象物の各々の座標から回路を設計し、
設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する、
ことをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動回路形成装置、自動回路形成方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの物体を基板上に配置して回路設計を行う技術がある。
【0003】
例えば、電気泳動を利用してあらかじめ設置した電極に、ナノスケールのカーボンナノチューブを移動させ、大規模な回路設計を可能にする技術がある(非特許文献1参照)。
【0004】
また、光学顕微鏡を利用して、グラフェンの検出及びマニピュレーションを行う装置がある。この装置では、予め設置した電極にグラフェンの移動を可能とする(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Engel, Michael, et al. "Graphene-enabled and directed nanomaterial placement from solution for large-scale device integration."Nature communications 9.1 (2018): 4095.
【文献】Masubuchi, Satoru, et al. "Autonomous robotic searching and assembly of two-dimensional crystals to build van der Waals superlattices."Nature communications 9.1 (2018): 1413.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1の技術は、電極を予め形成しておいた基板上でカーボンナノチューブを移動させる技術であるが、電気泳動による移動であるため、可能な回路のパターンが限られてしまう。
【0007】
また、非特許文献2の技術は、グラフェンの移動が行えるものの、カーボンナノチューブのように脆い対象物をマニピュレータで移動させるのは困難である。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、短時間、かつ、容易に、ナノスケールの対象物を用いた基板上の回路を設計できる自動回路形成装置、自動回路形成方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る自動回路形成装置は、基板に配されたナノスケールの対象物の各々を含む画像を取得する観測部と、前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標を取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得する認識部と、前記対象物の各々の座標から回路を設計する回路設計部と、設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する電極形成部と、を含んで構成されている。
【0010】
第2の発明に係る自動回路形成方法は、基板に配されたナノスケールの対象物の各々を含む画像を取得し、前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標を取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得し、前記対象物の各々の座標から回路を設計し、設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する、ことを含む処理をコンピュータが実行することを特徴とする自動回路形成方法である。
【0011】
第3の発明に係るプログラムは、基板に配されたナノスケールの対象物の各々を含む画像を取得し、前記画像の対象物の各々について、予め学習された前記対象物の座標を取得するためのモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得し、前記対象物の各々の座標から回路を設計し、設計された前記回路に従って、前記基板上の前記対象物の各々を用いた電極を形成する、ことをコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動回路形成装置、自動回路形成方法、及びプログラムによれば、短時間、かつ、容易に、ナノスケールの対象物を用いた基板上の回路を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る自動回路形成装置の構成を示すブロック図である。
図2】自動回路形成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】基板及び基板上のカーボンナノチューブ及び位置の基準となる十字マーカを観測した画像の一例を示す図である。
図4】画像中の対象物のアノテーションの一例を示す図である。
図5】対象物の検出結果の一例を示す図である。
図6】ナノセンサ群の使用による、受信信号のエネルギー増加に関する概念図である。
図7】ランダム配置のナノアンテナ群の使用による、信号の配向性に依存しないナノシステムに関する概念図である。
図8】従来の手法と本実施形態の手法とを比較したプロセスフローの一例である。
図9】本発明の実施形態に係る自動回路形成装置における自動回路形成処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
<本発明の実施形態に係る概要>
【0016】
まず、本発明の実施形態における概要を説明する。従来、ナノスケールの対象物(例えば、カーボンナノチューブなど)を用いて回路を設計するためには、対象物を規則的に配置する、又は、ランダムに配置された対象物を人手で観測し、観測した座標を入力した上で、回路を設計する必要があった。前者は配置自体に大きなコストが必要であり、また、可能な配置のパターン及び対象物が限られる。これは、カーボンナノチューブのマニピュレーションが困難だからである。また、後者は観測及び設計の人手での作業が膨大であった。以下、本実施形態で対象物とは、ナノスケールの対象物を指す。対象物としては、カーボンナノチューブ、又はグラフェン等が挙げられる。
【0017】
そこで本発明の実施形態に係る手法では、人手で行われていた観測及び回路設計を自動化する。対象物をランダムに基板上に散布し、画像を撮像して観測する。機械学習などの手法を用いて対象物の画像中の座標を、人手を介さずに取得する。また、得られた座標から自動的に回路を設計し電極を形成する。これによって、対象物をマニピュレーション等によって移動させる必要がなく、かつ、人手での作業を必要とせずに、大幅にコストを削減することができる。
【0018】
以下、上記の観点の手法を実現するための自動回路形成装置の構成を説明する。
【0019】
<本発明の実施形態に係る自動回路形成装置の構成>
本発明の実施形態に係る自動回路形成装置の構成について説明する。図1に示すように、本発明の実施形態に係る自動回路形成装置100は、観測部110と、認識部112と、回路設計部114と、電極形成部116と、記憶部120とを含んで構成されている。
【0020】
図2は、自動回路形成装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。図2に示すように、自動回路形成装置100は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0021】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、自動回路形成プログラムが格納されている。
【0022】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0023】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0024】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0025】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0026】
以上が自動回路形成装置100のハードウェア構成についての説明である。以下、自動回路形成装置100の各部の処理について説明する。
【0027】
観測部110は、基板に配されたナノスケールの対象物の各々を含む画像を取得する。観測部110には、例えば、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いる。他には、光学顕微鏡又はカメラ等を用いてもよい。図3は、基板及び基板上のカーボンナノチューブ及び位置の基準となる十字マーカを観測した画像の一例を示す図である。図3に示した例は、観測部110で観測する画像は、カーボンナノチューブをランダムに散布した基板である。観測部110は、本実施形態では、基板にカーボンナノチューブがランダムに散布されている状態について、画像を取得する。このように、基板上にランダムにカーボンナノチューブを散布して、回路を設計し、電極を形成すると、後述する配向性に依存しないセンサの形成が可能となる。
【0028】
記憶部120には、予め学習された対象物の座標を取得するためのモデルが記憶されている。当該モデルは、対象物の座標として端点座標及び電極向きを取得するように、機械学習の手法により予め学習されている。機械学習の手法は、例えば、参考文献1に記載のDeep neural networkの一種であるfaster-RCNN等の画像認識の手法を用いる。モデルの学習には、画像中の対象物の座標のアノテーションを用いて、対象物の検出を行う。具体的な学習手法、検出の手法については後述する。機械学習の手法としては、他のニューラルネットワークを用いた画像認識の手法を用いてもよく、例えば、SSD(Single Shot MultiBox Detector)などの検出手法を用いてもよい。また、他にも、ハフ変換などの画像処理を用いてもよい。
[参考文献1]Faster R-CNN: Towards Real-Time Object Detection with Region Proposal Networks, Ren+ 2016
また、記憶部120には、予め既存手法で作成しておいた、対象物の各々の端点座標及び電極向きから回路としてのCADデータを作成するスクリプトが格納されている。
【0029】
認識部112は、画像の対象物の各々について、記憶部120に記憶されているモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得する。取得する座標とは、観測部110で取得された画像に写された基板に配された対象物の各々の端点座標及び電極向きである。
【0030】
次に、モデルの学習に用いるアノテーションの手法を説明する。図4は、画像中の対象物のアノテーションの一例を示す図である。アノテーションで、対象物の電極向きを決める基準を以下に示す。1.対象物の端点の片方が折れ曲がっており、かつ、もう一方の端点が折れ曲がっていないときは、折れ曲がっている部分がカソード、もう一方の端点がアノードとする。2.対象物の両方の端点が折れ曲がっていないとき、端点周辺にゴミ(図4中の黒い点など)が多い方をカソード、もう一方をアノードとする。また、画像中に存在する対象物のうち、アンテナとして不適な短い対象物はアノテーションしないようにして学習データから除く。
【0031】
次に、モデルによる対象物の検出の手法を説明する。認識部112は、モデルとして物体検出アルゴリズムの1つであるfaster-RCNNを用いて、対象物を検出し、座標を取得する。図5は、対象物の検出結果の一例を示す図である。図5に示すように、物体検出アルゴリズムは、4つの角の座標を求めて、画像中の物体が存在領域を矩形で囲う。また、囲った領域に何が存在しているかを推測することを目的とするアルゴリズムであり、自動運転などに応用されている。物体検出アルゴリズムの学習データとして、上述したアノテーションされた画像を用いる。これにより学習後のモデルは、学習に用いていない新規の画像に対しても、カーボンナノチューブなどの対象物のある領域を自動的に囲って取得できるようになる。また、当該モデルにより、何が写っているのかを推定する代わりに、対象物が矩形の中でどの向きを向いているか、及び、端点のどちらをカソード側の電極、アノード側の電極にすべきかを推定できる。これにより、対象物の座標として、対象物の端点座標及び電極向きが取得できる。
【0032】
回路設計部114は、認識部112で取得された対象物の各々の端点座標及び電極向きに従って、回路を設計する。ここで設計する回路は、記憶部120に記憶してあるスクリプトを用いて、CADデータとして自動生成すればよい。なお、CADデータの自動生成には他にも、機械学習技術などを用いても良い。
【0033】
電極形成部116は、回路設計部114で設計された回路に従って、基板上の対象物の各々を用いた電極を形成する。電極形成部116は、基板上に電極を形成するためのマニピュレータ(図示省略)に指示を出し、回路を示すCADデータに従って、電極を形成する。マニピュレータは、CADデータを読み取って自動又は半自動的に電極を形成する装置であればよい。
【0034】
以上の認識部112による座標の取得、回路設計部114による回路の設計、及び電極形成部116による電極の形成により、基板において、対象物の各々を一体として、電極向きの配向性に依存しないセンサが形成される。以下に、当該センサについて説明する。
【0035】
配向性に依存しないセンサとは、すなわち、平面な基板上(以下、単に平面とも記載する)に、ランダムに配置された複数のナノスケールのマテリアルによって可能となる極小のナノメカニカルシステムである。当該ナノメカニカルシステムは、基板に、それぞれの単一ナノマテリアル(例えば、対象物であるカーボンナノチューブ1本)から成るナノセンサ群を有することで、電磁界や光の、配向性に依存しない検知を可能とする。
【0036】
本実施形態の手法によって、既存の微小な機械振動子を用いた系で生じるデメリットを回避し、ナノメカニカルシステム実現への貢献が期待できる。デメリットとは、例えば、以下のデメリット1及びデメリット2であり、図6及び図7を参照して説明する。図6は、ナノセンサ群の使用による、受信信号のエネルギー増加に関する概念図である。図7は、ランダム配置のナノアンテナ群の使用による、信号の配向性に依存しないナノシステムに関する概念図である。
【0037】
デメリット1は、センサ部(ナノマテリアル)が微小サイズであるため、信号から受け取れるエネルギーが乏しく、感度が悪い、という点である。これは、現在の様々なセンサは、アンテナ部が検知対象となる電波、光、及び熱等からエネルギーを受け取って動作する、という性質に起因する。受け取れるエネルギーの量はアンテナのサイズ及び表面積の広さに依存するため、微小なセンサでは必然的にその量は減少し、結果として感度特性が悪くなる。ナノメカニカルシステムによって、このようなデメリット1の解決が期待される理由として、1つでは表面積が非常に小さなナノセンサでも、10個、100個、のように複数を一体のセンサとして用いると、合計した表面積は増加する。図6に示すように、結果として、信号から受け取れるエネルギー量が増加するに伴い、感度が向上し、微弱な信号が検知可能となる。
【0038】
デメリット2は、単一のセンサでは、配置されたナノマテリアルの向きに依存し、検知が困難な信号の到来方向が存在する、という点である。これは、一例として、ナノスケールの機械振動子においては、ナノマテリアルに対し、適切な方向、すなわち1次元材料であれば長手方向に垂直な向き、2次元材料であればなら面内垂直方向から信号が入射されるのが好ましい。しかしながら、信号の到来方向は逐次変化する場合が多く、信号検出に不向きな方向からの入射には対応が困難である。デメリット2の解決が期待される理由として、図7に示すように、ランダムに配置されるナノマテリアルによってナノセンサ群を作製すると、どの信号入射方向に対しても適切な向きとなるナノアンテナが確率的に存在するからである。これにより、信号が到来する向きに依らない、つまり配向性のないナノシステムが形成可能となる。
【0039】
図8は、従来の手法と本実施形態の手法とを比較したプロセスフローの一例である。本実施形態の手法を用いれば、従来では人の手でしか行うことしかできなかったナノデバイス作製工程の時間効率の飛躍的な改善が期待される。
【0040】
以下に、図8に示すような、「従来の人の手による処理」と「本手法が提案するシステム構成による処理」とを行った際の時間を比較した。なお処理時間は、以下の仮定に基づき算出されている。ナノマテリアルとしてカーボンナノチューブを用い、カーボンナノチューブの端点に電極を有する素子1000個から成る1個のシステムを作製するための時間を求める。各工程の人の作業時間は、これまで素子を作製してきた作業者の実体験に基づくため、熟練度による生じる違いは無視する。本手法による処理時間は、本手法の検討段階における試験時の時間とする。
【0041】
まず、人の手による処理について説明する。1ステップ目は、SEMでナノマテリアルの画像を取得する工程が、1枚1枚人が撮影するとして、10分×1000個=10000分(約167時間)と試算される。2ステップ目は、画像から、ナノマテリアルの位置情報(座標、及び角度)を取得する工程が、1個ずつ人が算出するとして、15分×1000個=15000分(約250時間)と試算される。3ステップ目は、位置情報(座標、及び角度)に基づいて、CADデータを作成する工程が、1部材ずつ人がデザインするとして、15分×1000個=10000分(約250時間)と試算される。4ステップ目は、CADデータに基づいて、に電極を形成する工程が、CADデータの1ファイルごとに人が処理するとして10分×1000個=20000分(約167時間)と試算される。
【0042】
次に、本手法の処理について説明する。1ステップ目で、SEMでナノマテリアルの画像取得する工程が、平面内を自動撮影するとして、0.25分×1000個=250分(約4時間)と試算される。2ステップ目は、画像に基づいて、自動で位置情報を取得するとして、0.0004分×1000個=0.4分(約0.06時間)と試算される。3ステップ目は、位置情報(座標、及び角度)に基づいて、自動でCADデータを作成するとして、0.05分(約0.0008時間)と試算される。4ステップ目は、CADデータに基づいて電極形成する(CADデータの統一ファイルを作成して電極を形成する)工程が、0.12分×1000個=100分(約2時間)と試算される。
【0043】
以上から、これまで人の手による処理で約884時間、つまり現実的な実動時間を8時間とすると110日の歳月を要していた作業が、本実施形態により約6時間(約0.25日)での実現が可能となる。上記から、本実施形態の手法は、これまで現実的には困難であった、単一ナノマテリアルを用いた多量のナノデバイス群から構成されるナノシステムの実現に大きな貢献が期待できる。
【0044】
<本発明の実施形態に係る自動回路形成装置の作用>
次に、自動回路形成装置100の作用について説明する。図9は、自動回路形成装置100による自動回路形成処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から自動回路形成プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、自動回路形成処理が行なわれる。
【0045】
ステップS100において、CPU11は、基板に配されたナノスケールの対象物の各々を含む画像を取得する。
【0046】
ステップS102において、CPU11は、画像の対象物の各々について、記憶部120に記憶されているモデルを用いて認識し、当該対象物についての基板上の座標を取得する。取得する座標とは、観測部110で取得された画像に写された基板に配された対象物の各々の端点座標及び電極向きである。
【0047】
ステップS104において、CPU11は、ステップS102で取得された対象物の各々の端点座標及び電極向きに従って、回路を設計する。
【0048】
ステップS106において、CPU11は、ステップS104で設計された回路に従って、基板上の対象物の各々を用いた電極を形成する。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る自動回路形成装置によれば、短時間、かつ、容易に、ナノスケールの対象物を用いた基板上の回路を設計できる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0051】
例えば、上述した実施形態では対象物(カーボンナノチューブ)を基板上にランダムに散布する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ある程度の方向性をもって対象物を基板上に散布してもよい。これにより、任意の回路の設計、及び電極の形成ができる。
【符号の説明】
【0052】
100 自動回路形成装置
110 観測部
112 認識部
114 回路設計部
116 電極形成部
120 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9