(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】電力変換装置及び電力変換方法
(51)【国際特許分類】
H02M 5/293 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
H02M5/293
(21)【出願番号】P 2020146154
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】唐鎌 寛崇
(72)【発明者】
【氏名】内野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】猪木 敬生
(72)【発明者】
【氏名】田中 正城
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-146688(JP,A)
【文献】特開2015-082949(JP,A)
【文献】特開2004-336848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 5/293
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路と、
前記マトリクスコンバータ回路の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御部と、
前記マトリクスコンバータ回路の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御部と、
前記指令周波数と前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に前記第1モード制御部による制御が実行され、前記差が前記閾値を下回っている場合に前記第2モード制御部による制御が実行されるように、前記差と前記閾値とに基づいて前記マトリクスコンバータ回路の制御モードを切り替えるモード切替部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記第2モード制御部は、前記マトリクスコンバータ回路の二次側電流の位相と前記マトリクスコンバータ回路の一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°となるように前記マトリクスコンバータ回路の二次側電圧の目標位相を生成し、前記目標位相と前記マトリクスコンバータ回路の二次側電圧の位相との偏差を縮小するように前記マトリクスコンバータ回路を制御する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第2モード制御部は、前記マトリクスコンバータ回路の一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°である目標位相を生成し、前記目標位相と前記マトリクスコンバータ回路の二次側電流の位相との偏差を縮小するように前記マトリクスコンバータ回路を制御する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2モード制御部は、前記偏差に基づいて位相指令値を生成し、前記位相指令値に対応する位相を有する二次側電圧を出力させるように前記マトリクスコンバータ回路を制御する、請求項2又は3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2モード制御部は、前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数に基づいて遅れ補償値を算出し、前記遅れ補償値を前記位相指令値に加算することで、前記偏差の縮小の遅れを補償する、請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第2モード制御部は、前記指令周波数と、前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数との重み付き平均値に基づいて前記遅れ補償値を算出し、前記モード切替部が前記第1モード制御部による制御を前記第2モード制御部による制御に移行させた後に、前記遅れ補償値における前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数の重みを徐々に大きくする、請求項5記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第2モード制御部は、前記モード切替部が前記第2モード制御部による制御を前記第1モード制御部による制御に移行させる前に、前記遅れ補償値における前記指令周波数の重みを徐々に大きくする、請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第2モード制御部は、前記マトリクスコンバータ回路の一次側電圧の振幅と異なる振幅指令値に対応する振幅を有する二次側電圧を出力させるように前記マトリクスコンバータ回路を制御する、請求項2~7のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記マトリクスコンバータ回路の二次側電流とキャリア周波数とに基づいて平均昇温レベルを推定する平均昇温推定部と、
前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数と前記指令周波数との差に基づいて集中係数を算出する係数算出部と、
前記平均昇温レベルと前記集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定する局所昇温推定部と、
前記局所昇温レベルに基づき劣化レベルを算出する劣化レベル算出部と、
前記劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知する報知部と、を更に備える、請求項2~8のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記劣化レベル算出部は、前記局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、前記劣化進行度を積算することとを繰り返して前記劣化レベルを算出する、請求項9記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記劣化レベル算出部は、前記局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数と前記指令周波数との差に基づいて昇温頻度を算出することと、前記劣化進行度を前記昇温頻度にて積算することとを繰り返して前記劣化レベルを算出する、請求項10記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記係数算出部は、前記第1モード制御部による制御が前記第2モード制御部による制御に移行するのに応じて前記集中係数を小さくする、請求項9~11のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項13】
一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路により、前記マトリクスコンバータ回路の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御と、
前記マトリクスコンバータ回路により、前記マトリクスコンバータ回路の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御と、
前記指令周波数と前記マトリクスコンバータ回路の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に前記第1モード制御が実行され、前記差が前記閾値を下回っている場合に前記第2モード制御が実行されるように、前記差と前記閾値とに基づいて前記マトリクスコンバータ回路の制御モードを切り替えるモード切替と、を含む電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及び電力変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力変換部から負荷への出力電圧の周波数と、交流電源の周波数との差が所定範囲内となった場合に、電力変換部により出力電圧を上昇させる電圧上昇制御と、電力変換部により出力電圧の位相を交流電源の電圧位相に追従させる追従制御とを行い、これらの制御が終了した場合に、電力変換部により交流電源を負荷に直結させるマトリクスコンバータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、マトリクスコンバータ回路による制御の自由度と、マトリクスコンバータ回路におけるスイッチング素子の発熱抑制との両立に有効な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路と、マトリクスコンバータ回路の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御部と、マトリクスコンバータ回路の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御部と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御部による制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御部による制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路の制御モードを切り替えるモード切替部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換方法は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路により、マトリクスコンバータ回路の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御と、マトリクスコンバータ回路により、マトリクスコンバータ回路の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路の制御モードを切り替えるモード切替と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、マトリクスコンバータ回路による制御の自由度と、マトリクスコンバータ回路におけるスイッチング素子の発熱抑制との両立に有効な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
【
図2】双方向スイッチの具体例を示す模式図である。
【
図3】一次側電圧及び二次側電流の推移を例示するグラフである。
【
図4】第1モード制御部の構成を例示するブロック図である。
【
図5】第2モード制御部の構成を例示するブロック図である。
【
図6】劣化検出部の構成を例示するブロック図である。
【
図9】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図10】制御モード切替手順を例示するフローチャートである。
【
図11】第1モード制御手順を例示するフローチャートである。
【
図12】第2モード制御手順を例示するフローチャートである。
【
図13】位相追従制御手順を例示するフローチャートである。
【
図14】劣化検出手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
〔電力変換装置〕
図1に示す電力変換装置1は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行う装置である。例えば電力変換装置1は、電源91から供給された一次側電力を二次側電力に変換して電動機92に供給する。また、電力変換装置1は、電動機92が発生した二次側電力(回生電力)を一次側電力に変換して電源91に供給する。
【0011】
一次側電力及び二次側電力は、単相交流電力であってもよいし、3相交流電力であってもよい。また、一次側電力及び二次側電力は直流電力であってもよい。以下においては、一次側電力及び二次側電力がいずれも3相交流電力である場合について説明する。例えば一次側電力は、R相、S相及びT相の3相を含み、二次側電力は、U相、V相及びW相の3相を含む。
【0012】
電力変換装置1は、マトリクスコンバータ回路10と、フィルタ30と、電圧検出回路40と、電流センサ50と、制御回路100とを備える。以下、各要素の構成を詳細に例示する。
【0013】
(マトリクスコンバータ回路)
マトリクスコンバータ回路10は、複数のスイッチング素子を有し、直流化する過程を経ることなく、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行う。例えばマトリクスコンバータ回路10は、一次側のパワーライン11R,11S,11Tと、二次側のパワーライン12U,12V,12Wと、9組の双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWとを有する。パワーライン11RはR相の送電ラインであり、パワーライン11SはS相の送電ラインであり、パワーライン11TはT相の送電ラインである。パワーライン12UはU相の送電ラインであり、パワーライン12VはV相の送電ラインであり、パワーライン12WはW相の送電ラインである。
【0014】
双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWのそれぞれは、一次側から二次側に電流を流す状態と、二次側から一次側に電流を流す状態と、電流を流さない状態との3状態を切り替える。
【0015】
双方向スイッチ2RUは、パワーライン11Rとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2SUは、パワーライン11Sとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2TUは、パワーライン11Tとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0016】
双方向スイッチ2RVは、パワーライン11Rとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2SVは、パワーライン11Sとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2TVは、パワーライン11Tとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0017】
双方向スイッチ2RWは、パワーライン11Rとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2SWは、パワーライン11Sとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ2TWは、パワーライン11Tとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0018】
図2に例示するように、双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWは、2個のスイッチ21,22を有する。スイッチ21は、オン状態において、二次側から一次側への電流を通さずに一次側から二次側に電流を通す。スイッチ22は、オン状態において、一次側から二次側への電流を通さずに二次側から一次側に電流を通す。また、スイッチ21、22は、オフ状態では、上記オン状態の通流方向とは逆方向の電圧印加に対してオフ状態を維持できる逆阻止能力をもつスイッチである。
【0019】
双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWは、スイッチ21をオン状態としてスイッチ22をオフ状態とすることで上記第1オン状態となり、スイッチ21をオフ状態としてスイッチ22をオン状態とすることで上記第2オン状態となり、スイッチ21,22をオフ状態とすることで上記双方向オフ状態となる。なお、
図2において、双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWは、逆阻止能力のないスイッチ21,22のそれぞれに直列に接続されたダイオードを含んだ構成であってもよい。この場合、スイッチ21とダイオードとの接続点と、スイッチ22とダイオードとの接続点とが接続されていてもよい。
【0020】
図1に戻り、フィルタ30は、その一次側における電圧又は電流の高調波成分を低減させる。例えばフィルタ30は、インダクタ31R,31S,31Tと、コンデンサ34R,34S,34Tとを有する。インダクタ31R,31S,31Tは、パワーライン11R,11S,11Tにそれぞれ設けられている。コンデンサ34Rは、インダクタ31Rよりも二次側において(インダクタ31Rと双方向スイッチ2RU,2RV,2RWとの間において)パワーライン11Rと中性点35との間に設けられている。コンデンサ34Sは、インダクタ31Sよりも二次側において(インダクタ31Sと双方向スイッチ2SU,2SV,2SWとの間において)パワーライン11Sと中性点35との間に設けられている。コンデンサ34Tは、インダクタ31Tよりも二次側において(インダクタ31Tと双方向スイッチ2TU,2TV,2TWとの間において)パワーライン11Tと中性点35との間に設けられている。このように、フィルタ30が電源91とマトリクスコンバータ回路10との間に設けられることで、電源91の電圧又は電流は、フィルタ30により高調波成分が低減されることとなる。
【0021】
電圧検出回路40(電圧センサ)は、マトリクスコンバータ回路10の一次側における電圧の瞬時値を検出する。例えば電圧検出回路40は、フィルタ30の一次側それぞれの相電圧の瞬時値を検出する。なお、電圧検出回路40は、フィルタ30の二次側それぞれの相電圧の瞬時値を検出してもよい。以下、マトリクスコンバータ回路10の一次側における電圧を「一次側電圧」という。また、マトリクスコンバータ回路10の一次側における電流を「一次側電流」という。
【0022】
電流センサ50は、マトリクスコンバータ回路10の二次側における電流(マトリクスコンバータ回路10と電動機92との間に流れる電流)の瞬時値を検出する。例えば電流センサ50は、パワーライン12U,12V,12Wの電流の瞬時値を検出する。以下、マトリクスコンバータ回路10の二次側における電流を「二次側電流」という。また、マトリクスコンバータ回路10の二次側における電圧を「二次側電圧」という。電流センサ50は、パワーライン12U,12V,12Wの全相の二次側電流値を検出するように構成されていてもよいし、パワーライン12U,12V,12Wのいずれか2相の二次側電流値を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流値の合計はゼロなので、2相の二次側電流値を検出する場合にも全相の二次側電流値の情報が得られる。
【0023】
(制御回路)
制御回路100は、一次側電力と二次側電力との間の電力変換を行うようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。マトリクスコンバータ回路10において、二次側位相と一次側位相とが揃った状態が維持されると、マトリクスコンバータ回路10のいずれかのスイッチング素子に電流が集中し、当該スイッチング素子における発熱が大きくなる。また、二次側周波数が一次側周波数に近付くにつれてこの現象が二次側周波数と一次側周波数の差の周波数で繰り返し生じる。
【0024】
これに対し、制御回路100は、マトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御と、マトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路10の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路10の制御モードを切り替えるモード切替と、を実行するように構成されていてもよい。これにより、二次側位相と一次側位相とが揃った状態が回避されるので、スイッチング素子の発熱が抑制される。なお、差が所定の閾値を下回るとは、差が正の値であるか負の値であるかによらず、その大きさ(絶対値)が所定の閾値を下回ることを意味する。同様に、差が所定の閾値を超えるとは、差の大きさが所定の閾値を超えることを意味する。以下においても同様である。
【0025】
例えば制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、位相・振幅算出部111と、電力変換制御部112と、電流情報取得部113と、第1モード制御部114と、第2モード制御部115と、モード切替部116と、劣化検出部117とを有する。
【0026】
位相・振幅算出部111は、電圧検出回路40が取得したパワーライン11R,11S,11Tの相電圧に基づいて、一次側電圧の位相、振幅及び周波数を算出する。以下、位相、振幅及び周波数の算出結果を「一次側電圧の情報」という。
【0027】
電力変換制御部112は、マトリクスコンバータ回路10の二次側に制御指令に対応する交流電圧又は交流電流を出力させるように、キャリア波に連動して双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWのオン・オフを切り替える。例えば電力変換制御部112は、一次側電圧情報と、電圧指令とに基づいて、電圧指令に対応する二次側電圧を出力させるように、キャリア波に連動して双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWのオン・オフを切り替える。
【0028】
より具体的に、電力変換制御部112は、一次側電圧情報に基づいて、R相、S相及びT相のそれぞれを順次基準相として選択し、基準相と他の2相との電位差によって、電圧指令に対応する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。例えば電力変換制御部112は、一次側電圧の各相のうち、R相の電圧が最大となる第1区間においてR相を正の基準相とし、T相の電圧が最小となる第2区間においてT相を負の基準相とし、S相の電圧が最大となる第3区間においてS相を正の基準相とし、R相の電圧が最小となる第4区間においてR相を負の基準相とし、T相の電圧が最大となる第5区間においてT相を正の基準相とし、S相の電圧が最小となる第6区間においてS相を負の基準相とすることを、一次側電圧の周波数にて繰り返す。
【0029】
電力変換制御部112は、基準相が二次側に接続された状態を保ちながら、他の2相と二次側との間のオン・オフを切り替える。例えば第1区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2RU,2RV,2RWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2SU,2TU,2SV,2TV,2SW,2TWのオン・オフを切り替える。第2区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2SU,2SV,2SWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2RU,2TU,2RV,2TV,2RW,2TWのオン・オフを切り替える。第3区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2TU,2TV,2TWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2RU,2SU,2RV,2SV,2RW,2SWのオン・オフを切り替える。第4区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2RU,2RV,2RWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2SU,2TU,2SV,2TV,2SW,2TWのオン・オフを切り替える。第5区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2SU,2SV,2SWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2RU,2TU,2RV,2TV,2RW,2TWのオン・オフを切り替える。第6区間において、電力変換制御部112は、双方向スイッチ2TU,2TV,2TWのいずれかをオン状態に保ちながら、双方向スイッチ2RU,2SU,2RV,2SV,2RW,2SWのオン・オフを切り替える。第1区間~第6区間のそれぞれの長さ(位相角)は、1/6周期(60°)である。以下、R相、S相及びT相のいずれかが正の基準相となる期間(上記第1区間、第3区間、及び第5区間)を正基準期間といい、R相、S相及びT相のいずれかが負の基準相となる期間(上記第2区間、第4区間、及び第6区間)を負基準期間という。
【0030】
電力変換制御部112は、通常は一次側電圧の二次側電圧への利用率を最大にするため、一次側の力率が1となるように、一次側電流の位相を制御している。電力変換制御部112は、第1区間においてR相の電圧が正のピーク値となり、第2区間においてT相の電圧が負のピーク値となり、第3区間においてS相の電圧が正のピーク値となり、第4区間においてR相の電圧が負のピーク値となり、第5区間においてT相の電圧が正のピーク値となり、第6区間においてS相の電圧が負のピーク値となる範囲内で、第1区間~第6区間をずらして一次側の力率を調節してもよい。例えば電力変換制御部112は、第1区間、第3区間及び第5区間の中心位相を、R相、S相、及びT相の電圧が正のピーク値となる位相に対して-30°超、30°未満の範囲でずらす。また、電力変換制御部112は、第2区間、第4区間及び第6区間の中心位相を、R相、S相、及びT相の電圧が負のピーク値に対して-30°超、30°未満の範囲でずらす。以下、第1区間、第3区間及び第5区間の中心位相を正基準位相という。第2区間、第4区間及び第6区間の中心位相を負基準位相という。R相、S相、及びT相の電圧が正のピーク値となる位相を「一次側の正ピーク位相」という。R相、S相、及びT相の電圧が負のピーク値となる位相を「一次側の負ピーク位相」という。
【0031】
電圧指令は、振幅指令値と位相指令値とを含む。振幅指令値は、二次側電圧の振幅に対する指令値である。位相指令値は、二次側電圧の位相に対する指令値である。一例として、振幅指令値は、固定座標系における電圧指令ベクトルの大きさに対応し、位相指令値は、固定座標系における電圧指令ベクトルの回転角度に対応する。固定座標系は、電動機92のステータに固定された座標系である。固定座標系の具体例としては、直交するα軸及びβ軸を座標軸とするαβ座標系が挙げられる。
【0032】
電力変換制御部112は、振幅指令値と位相指令値を取得し、振幅指令値と位相指令値とに対応する振幅と位相とを有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。電流情報取得部113は、二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部113は、電流センサ50から、パワーライン12U,12V,12Wの電流値を取得する。
【0033】
第1モード制御部114は、マトリクスコンバータ回路10の二次側周波数を指令周波数に追従させる。二次側周波数は、二次側電圧又は二次側電流の周波数を意味する。例えば第1モード制御部114は、二次側電圧の周波数を指令周波数に追従させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。また、二次側電流の周波数は、二次側電圧の周波数に追従する。このため、二次側電圧の周波数を指令周波数に追従させることは、二次側電流の周波数を指令周波数に追従させることと同義である。以下においては、第1モード制御部114による制御を「第1モード制御」という。
【0034】
第2モード制御部115は、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する。二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持することは、当該差の大きさを60°の奇数倍±30°に維持することを意味する。例えば、二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持することは、当該差が正の値である場合には当該差を60°の奇数倍±30°に維持し、当該差が負の値である場合には当該差を-30~-90°に維持することを意味する。第2モード制御部115は、二次側位相と一次側位相との差を45~75°に維持してもよく、二次側位相と一次側位相との差を55~65°に維持してもよく、二次側位相と一次側位相との差を実質的に60°に維持してもよい。
【0035】
二次側位相とは、二次側電圧又は二次側電流の位相である。一次側位相とは、一次側電圧又は一次側電流の位相である。例えば第2モード制御部115は、電流情報取得部113が取得した二次側電流の位相と、位相・振幅算出部111が算出した一次側電圧の位相との差を60°の奇数倍±30°に維持するようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。以下においては、第2モード制御部115による制御を「第2モード制御」という。
【0036】
モード切替部116は、指令周波数と一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御部114による制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御部115による制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路10の制御モードを切り替える。例えばモード切替部116は、指令周波数と一次側周波数との差が所定の第1閾値以下となるのに応じて、第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させる。モード切替部116は、指令周波数と一次側周波数との差が所定の第2閾値を超えるのに応じて、第2モード制御部115による制御を第1モード制御部114による制御に移行させてもよい。一次側周波数は、一次側電圧又は一次側電流の周波数を意味する。
【0037】
例えばモード切替部116は、指令周波数と一次側電圧の周波数との差が第1閾値を下回るのに応じて第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させ、指令周波数と一次側電圧の周波数との差が第2閾値を超えるのに応じて第2モード制御部115による制御を第1モード制御部114による制御に移行させる。第1閾値と第2閾値とは等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。例えば第2閾値が第1閾値より大きくてもよい。
【0038】
なお、一次側電圧の周波数と、一次側電流の周波数とは実質的に等しい。このため、指令周波数と一次側電圧の周波数との差が第1閾値を下回ることは、指令周波数と一次側電流の周波数との差が第1閾値を下回ることと同義である。指令周波数と一次側電圧の周波数との差が第2閾値を超えることは、指令周波数と一次側電流の周波数との差が第2閾値を超えることと同義である。
【0039】
モード切替部116が、第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させた後に、第2モード制御部115は、二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する前に、二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°の範囲外から当該範囲内まで徐々に変化させてもよい。
【0040】
図3は、モード切替部116が第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させる前後における、一次側電圧及び二次側電流の推移を例示するグラフである。このグラフにおいて、横軸は経過時間を表し、縦軸は一次側電圧又は二次側電流の大きさを表し、実線のプロットは一次側電圧の推移を表し、破線のプロットは二次側電流の推移を表す。
【0041】
グラフの原点に対応する時刻t0から時刻t1にかけては、第1モード制御部114による制御が行われている。この制御においては、指令周波数が徐々に上昇しており、時刻t1において、指令周波数と一次側電圧の周波数との差が第1閾値を下回っている。モード切替部116は、この時点で第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させる。
【0042】
第2モード制御部115は、時刻t1から時刻t2にかけて、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差を60°まで徐々に変化させる。その後、第2モード制御部115は、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差を実質的に60°に維持している。二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差が60°に保たれることによって、二次側周波数は一次側周波数に等しくなるが、二次側電流の位相と一次側電圧の位相とが揃った状態は回避される。
【0043】
劣化検出部117は、一次側周波数と、二次側周波数と、二次側電流と、キャリア波の周波数(以下、「キャリア周波数」という。)とに基づいてスイッチング素子の劣化レベルを評価し、劣化レベルの評価結果が所定レベルを超えた場合には劣化を報知する。例えば劣化検出部117は、位相・振幅算出部111が算出した一次側電圧の情報と、指令周波数と、電流情報取得部113が取得した二次側電流の情報と、電力変換制御部112におけるキャリア周波数とに基づいてスイッチング素子の劣化レベルを評価する。以下、第1モード制御部114、第2モード制御部115、及び劣化検出部117の構成をより詳細に例示する。
【0044】
(第1モード制御部)
第1モード制御部114は、モード切替部116により第1モード制御が選択されている場合に、上位コントローラ200から指令周波数を取得し、二次側周波数を指令周波数に追従させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。一例として、
図4に示すように、第1モード制御部114は、電圧指令生成部121と、振幅指令値算出部122と、位相指令値算出部123とを有し、これらによる一連の制御サイクルを繰り返す。
【0045】
電圧指令生成部121は、指令周波数ω*に基づいて、二次側電圧に対する電圧指令を算出する。例えば電圧指令生成部121は、V/f方式により、回転座標系における電圧指令ベクトルを算出する。回転座標系は、指令周波数に同期して回転する座標系である。回転座標系の具体例としては、ロータの磁極方向を目標方向とするγ軸と、γ軸に垂直なδ軸とを座標軸とするγδ座標系が挙げられる。電圧指令生成部121は、二次側電流の検出値、トルク指令等に基づいて電圧指令ベクトルを算出してもよい。
【0046】
振幅指令値算出部122は、二次側電圧の振幅に対する指令値を算出する。以下、二次側電圧の振幅に対する指令値を「振幅指令値」という。例えば振幅指令値算出部122は、電圧指令ベクトルの大きさを振幅指令値|V|として算出する。
【0047】
位相指令値算出部123は、二次側電圧の位相に対する指令値を算出する。以下、二次側電圧の位相に対する指令値を「位相指令値」という。例えば位相指令値算出部123は、固定座標系に対する回転座標系の回転角度と、回転座標系における電圧指令ベクトルの位相角度とに基づいて、位相指令値θPWMを算出する。
【0048】
振幅指令値算出部122は振幅指令値|V|を電力変換制御部112に出力し、位相指令値算出部123は位相指令値θPWMを電力変換制御部112に出力する。電力変換制御部112は、振幅指令値|V|に対応する振幅と、位相指令値θPWMに対応する位相とを有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。
【0049】
(第2モード制御部)
第2モード制御部115は、モード切替部116により第2モード制御が選択されている場合に、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°の値となるように二次側電圧の目標位相を生成し、目標位相と二次側電圧の位相との偏差を縮小するようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。例えば第2モード制御部115は、上記偏差に基づいて位相指令値を生成し、振幅指令値に対応する振幅と、位相指令値に対応する位相とを有する二次側電圧を出力するようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。第2モード制御部115は、振幅指令値を、一次側電圧の振幅と異なる値としてもよい。
【0050】
一例として、
図5に示すように、第2モード制御部115は、電圧指令生成部136と、振幅指令値算出部131と、電流・電圧位相差検出部133と、目標位相算出部132と、位相指令値算出部134とを有し、これらによる一連の制御サイクルを繰り返す。
【0051】
電圧指令生成部136は、電圧指令生成部121と同様に、指令周波数ω*に基づいて、二次側電圧に対する電圧指令を算出する。例えば電圧指令生成部136は、V/f方式により、回転座標系における電圧指令ベクトルを算出する。電圧指令生成部136は、二次側電流の検出値、トルク指令等に基づいて電圧指令ベクトルを算出してもよい。
【0052】
振幅指令値算出部131は、振幅指令値算出部122と同様に振幅指令値を算出する。例えば振幅指令値算出部131は、電圧指令ベクトルの大きさを振幅指令値|V|として算出する。振幅指令値|V|は、一次側電圧の振幅と異なっていてもよい。電流・電圧位相差検出部133は、二次側電流の位相に対する二次側電圧の位相差を算出する。以下、電流・電圧位相差検出部133が算出する差を「電流・電圧位相差」という。
【0053】
例えば電流・電圧位相差検出部133は、二次側電圧の位相を表す情報として、一つ前の制御サイクルにおいて電力変換制御部112に出力された位相指令値を取得する。以下、この位相指令値を、「前サイクルの位相指令値」という。また、電流・電圧位相差検出部133は、電流情報取得部113が取得したパワーライン12U,12V,12Wの電流値Iu,Iv,Iwに基づいて二次側電流の位相を算出する。そして、電流・電圧位相差検出部133は、前サイクルの位相指令値と、算出した二次側電流の位相とに基づいて、電流・電圧位相差を算出する。
【0054】
目標位相算出部132は、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°の値となるように二次側電圧の目標位相を生成する。例えば目標位相算出部132は、一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°である電流目標位相を算出する。二次側電流の位相が一次側電圧の位相より進んでいる場合、目標位相算出部132は、一次側電圧の位相に対し60°の奇数倍±30°を加算して電流目標位相を算出してもよい。二次側電流の位相が一次側電圧の位相より遅れている場合、目標位相算出部132は、一次側電圧の位相から60°の奇数倍±30°を減算して電流目標位相を算出してもよい。目標位相算出部132は、電流・電圧位相差検出部133が算出した電流・電圧位相差を、電流目標位相に加算して二次側電圧の目標位相を生成する。
【0055】
位相指令値算出部134は、目標位相と二次側電圧の位相との偏差に基づいて位相指令値を算出する。例えば位相指令値算出部134は、目標位相と上記前サイクルの位相指令値との偏差を算出し、当該偏差を縮小するように位相指令値を算出する。例えば位相指令値算出部134は、加え合わせ点141に示されるように、目標位相と前サイクルの位相指令値との偏差を算出する。位相指令値算出部134は、伝達関数142に示されるように、上記偏差に比例・積分演算を行う。更に位相指令値算出部134は、伝達関数143に示されるように、上記比例・積分演算の結果に1制御サイクルの周期Tsを乗算し、位相変更量を算出する。更に位相指令値算出部134は、加え合わせ点144に示されるように、前サイクルの位相指令値に位相変更量を加算して、位相指令値θPWM2を算出する。
【0056】
振幅指令値算出部131は振幅指令値|V|を電力変換制御部112に出力し、位相指令値算出部134は位相指令値θPWM2を電力変換制御部112に出力する。電力変換制御部112は、振幅指令値|V|に対応する振幅と、位相指令値θPWM2に対応する位相とを有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。
【0057】
上述のように、電流・電圧位相差検出部133は、前サイクルの位相指令値に位相変更量を加算しているので、位相指令値θPWM2には1サイクル分の遅れが含まれることとなり、その分上記偏差の縮小が遅れることとなる。そこで、第2モード制御部115は、一次側周波数に基づいて遅れ補償値を算出し、遅れ補償値を位相指令値に加算することで、偏差の縮小の遅れを補償してもよい。例えば第2モード制御部115は、補償値算出部135を更に有する。
【0058】
補償値算出部135は、一次側周波数ωinに基づいて遅れ補償値を算出する。例えば補償値算出部135は、一次側周波数ωinに上記周期Tsを乗算して遅れ補償値を算出する。位相指令値算出部134は、加え合わせ点147に示されるように、前サイクルの位相指令値に遅れ補償値を加算して現在の二次側電圧の位相推定値を算出し、この位相推定値を上記加え合わせ点144に入力する。これにより、現在の二次側電圧の位相推定値に、位相変更量を加算した位相指令値θPWM2が算出される。
【0059】
第1モード制御から第2モード制御に移行するのに伴い、指令周波数ω*が一次側周波数ωinに接近するのに合わせ、補償値算出部135は、指令周波数ω*と、一次側周波数ωinとの重み付き平均値に基づいて遅れ補償値を算出してもよい。例えば補償値算出部135は、上記重み付き平均値に周期Tsを乗算して遅れ補償値を算出する。モード切替部116が第1モード制御を第2モード制御に移行させた後に、補償値算出部135は、遅れ補償値における一次側周波数ωinの重みを徐々に大きくし、指令周波数ω*の重みを徐々に小さくする。これにより、二次側周波数が指令周波数ω*から一次側周波数ωinに移行し、第1モード制御から第2モード制御への移行がよりスムーズになるとともに、第2モードにてより安定した制御が可能となる。
【0060】
また、補償値算出部135は、モード切替部116が第2モード制御を第1モード制御に移行させる前に、遅れ補償値における指令周波数ω*の重みを徐々に大きくし、一次側周波数ωinの重みを徐々に小さくしてもよい。例えばモード切替部116は、指令周波数と一次側電圧の周波数との差が上記第2閾値を超えるのに応じて第2モード制御部115に移行準備指令を出力する。これに応じ、補償値算出部135は、遅れ補償値における指令周波数ω*の重みを徐々に大きくし、一次側周波数ωinの重みを徐々に小さくする。この間は、第2モード制御が継続される。第2モード制御部115は、遅れ補償値における一次側周波数ωinの重みがゼロになったときに、モード切替部116に準備完了通知を出力する。これに応じ、モード切替部116が第2モード制御を第1モード制御に移行させる。
【0061】
なお、第2モード制御部115は、二次側電圧に対する目標位相に代えて、二次側電流に対する目標位相を生成し、目標位相と二次側電流の位相との偏差を縮小するようにマトリクスコンバータ回路10を制御してもよい。例えば第2モード制御部115は、目標位相と二次側電流の位相との偏差に対して比例・積分演算等を行って位相変更量を算出し、これを上記二次側電圧の位相推定値に加算して位相指令値θPWM2を算出してもよい。
【0062】
(劣化検出部)
劣化検出部117は、二次側電流とキャリア周波数とに基づいて平均昇温値(平均昇温レベル)を推定することと、一次側周波数と二次側周波数との差に基づいて電流の集中係数を算出することと、平均昇温値と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定することと、局所昇温レベルに基づき劣化レベルを算出することと、劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知することと、を実行する。
【0063】
例えば
図6に示すように、劣化検出部117は、平均昇温推定部151と、係数算出部152と、局所昇温推定部153と、劣化レベル算出部154と、比較部157と、報知部158とを有する。平均昇温推定部151は、二次側電流と、キャリア周波数とに基づいて平均昇温値を推定する。例えば平均昇温推定部151は、次式に基づいて平均昇温値を算出する。
ΔT=A・I
2+(B+C・fc+D)・I・・・(1)
ΔT:平均昇温値
I:二次側電流の振幅
fc:キャリア周波数
A,B,C,D:係数
【0064】
係数A,B,C,Dは、実機試験又はシミュレーションなどにより予め求められている。式(1)により算出される平均昇温値は、二次側電流の導通により生じる定常ロスと、スイッチング素子のオン・オフによるスイッチングロスとを含む。
【0065】
係数算出部152は、一次側周波数と二次側周波数との差に基づいて集中係数を算出する。例えば係数算出部152は、一次側周波数と指令周波数との差の情報をモード切替部116から取得し、これに基づいて集中係数を算出する。具体的に、係数算出部152は、一次側周波数と指令周波数との差の絶対値が小さくなるにつれて集中係数を大きくする。例えば劣化検出部117は、係数プロファイル記憶部161を更に有する。
【0066】
係数プロファイル記憶部161は、一次側周波数と指令周波数との差の絶対値が小さくなるにつれて集中係数が大きくなるように、差の絶対値と集中係数との関係を表す係数プロファイルを記憶する。係数プロファイル記憶部161が記憶する係数プロファイルは、離散的なデータ列であってもよいし、関数であってもよい。
【0067】
係数算出部152は、一次側周波数と指令周波数との差の絶対値と、係数プロファイルとに基づいて集中係数を算出する。例えば係数算出部152は、係数プロファイルにおいて、一次側周波数と指令周波数との差の絶対値に対応する集中係数を導出する。
【0068】
図7は、係数プロファイルを例示するグラフであり、横軸は差の絶対値の大きさを表し、縦軸は集中係数を表す。この係数プロファイルは、差の絶対値が所定の閾値f1以上である場合には集中係数がゼロとなり、差の絶対値が閾値f1未満である場合には、差の絶対値が小さくなるにつれて徐々に集中係数が大きくなるように定められている。
【0069】
局所昇温推定部153は、平均昇温値(平均昇温レベル)と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定する。例えば局所昇温推定部153は、平均昇温値に集中係数を乗算して局所昇温レベルを算出する。係数プロファイルが
図7のように定められている場合、差の絶対値が閾値f1以上である場合には、局所昇温レベルはゼロとされ、昇温に起因する劣化進行は無視される。
【0070】
劣化レベル算出部154は、局所昇温レベルに基づきスイッチング素子の劣化レベルを算出する。例えば劣化レベル算出部154は、局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、劣化進行度を積算することとを上記制御サイクルで繰り返して劣化レベルを算出する。
【0071】
昇温によりスイッチング素子が劣化する一因としては、昇温と降温とに伴う導電部の収縮が挙げられるので、スイッチング素子の劣化レベルには、昇温と降温とを繰り返す頻度も影響する。そこで劣化レベル算出部154は、局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、一次側周波数と指令周波数との差に基づいて昇温頻度を算出することと、劣化進行度を昇温頻度にて積算することとを繰り返して劣化レベルを算出してもよい。例えば劣化レベル算出部154は、劣化プロファイル記憶部162と、劣化進行度算出部155と、頻度算出部156と、積算部159とを有し、これらにより劣化進行度の積算を繰り返す。
【0072】
劣化プロファイル記憶部162は、局所昇温レベルと、劣化進行度との関係を表す劣化プロファイルを記憶する。
図8は、劣化プロファイルを例示するグラフであり、横軸は局所昇温レベルを表し、縦軸は劣化進行度を表す。この劣化プロファイルは、局所昇温レベルが所定の閾値T1以下である場合には劣化進行度がゼロとなり、局所昇温レベルが閾値T1を超えている場合には、局所昇温レベルが大きくなるにつれて劣化進行度が大きくなるように定められている。更に、この劣化プロファイルは、局所昇温レベルが閾値T1よりも大きい閾値T2以上である場合には劣化進行度が一定値となるように定められていてもよい。
【0073】
劣化進行度は、スイッチング素子の劣化を昇温・降温の繰り返し回数に換算した値であってもよい。スイッチング素子の寿命(許容劣化レベル)は、昇温・降温の繰り返し回数で定められる場合があるので、劣化進行度が昇温・降温の繰り返し回数で表されている場合、劣化レベルと寿命との比較が容易となる。
【0074】
劣化進行度算出部155は、局所昇温レベルと、劣化プロファイルとに基づいて劣化進行度を算出する。例えば劣化進行度算出部155は、劣化プロファイルにおいて、局所昇温レベルに対応する劣化進行度を導出する。
【0075】
頻度算出部156は、単位時間あたり(例えば1秒あたり)に生じる局所昇温の頻度を算出する。スイッチング素子の温度は、一次側電圧の位相と二次側電流の位相とが揃っている期間に局所的に上昇し、一次側電圧の位相と二次側電流の位相とのずれが拡大するに従って徐々に低下する。このため、単位時間あたりに、一次側電圧の位相と二次側電流の位相とが揃う頻度が、局所昇温の頻度に相当するといえる。そこで、頻度算出部156は、一次側周波数と二次側周波数との差を、局所昇温の頻度として算出する。例えば頻度算出部156は、一次側周波数と指令周波数との差の絶対値を局所昇温の頻度として算出する。
【0076】
積算部159は、劣化進行度算出部155が算出した劣化進行度を、頻度算出部156が算出した頻度にて積算する。例えば積算部159は、上記劣化進行度に上記頻度を乗算して、単位時間当たりの劣化進行度を算出し、更にこれに制御サイクルの周期Tsを乗算して1サイクルあたりの劣化進行度を算出する。そして、一つ前の制御サイクルにおいて算出された劣化レベルに、上記1サイクルあたりの劣化進行度を加算する。
【0077】
比較部157は、劣化レベル算出部154が算出した劣化レベルと、所定レベルとを比較する。報知部158は、劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知する。例えば報知部158は、劣化レベルが所定レベルを超えたことを液晶モニタ等の表示デバイスに表示する。報知部158は、劣化レベルが所定レベルを超えたことの通知信号を上位コントローラ200に出力してもよい。
【0078】
上述したように、一次側周波数と二次側周波数との差が小さくなるにつれて、一次側電圧の位相と二次側電流の位相とが揃った状態が継続する時間が長くなる。このため、一次側周波数と二次側周波数との差が小さくなるにつれて、マトリクスコンバータ回路10のいずれかのスイッチング素子の局所的な昇温値が大きくなり、これによる温度の変動幅も大きくなる。劣化検出部117によれば、この温度変動を加味してスイッチング素子の劣化レベルを評価し、適切なタイミングでスイッチング素子の劣化を報知することができる。
【0079】
ここで、上記第1モード制御においては、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差が無制限に変化し得る。一方、第2モード制御においては、二次側位相と一次側位相との差が60°の奇数倍±30°に保たれる。モード切替部116が第1モード制御を第2モード制御に移行させると、一次側電圧の位相と二次側電流の位相とが揃った状態が強制的に回避されるので、局所的な昇温の発生が抑制される。これに対応し、係数算出部152は、第1モード制御が第2モード制御に移行するのに応じて集中係数を小さくしてもよい。例えば係数算出部152は、第1モード制御が第2モード制御に移行するのに応じて集中係数をゼロにしてもよい。
【0080】
第1モード制御を第2モード制御に移行させることは、マトリクスコンバータ回路10におけるスイッチング状態を、第1状態から、第1状態よりもスイッチングロスと定常ロスとの合計ロスが小さい第2状態に移行させることの一例だといえる。そこで、モード切替部116は、一次側周波数と二次側周波数との差が所定レベルを下回るのに応じて、上記第1状態を上記第2状態に移行させる状態移行部に相当する。
【0081】
第1状態は、マトリクスコンバータ回路10の一次側と二次側との間の接続状態を切り替えるスイッチングが行われる状態であり、第2状態は、第1状態に比較してマトリクスコンバータ回路10の一次側と二次側との間の接続状態の切り替え頻度が低いスイッチングが行われる状態であってもよい。例えば第2状態は、第1状態に比較してキャリア周波数が低い状態であってもよい。
【0082】
また、第2状態は、マトリクスコンバータ回路10により一次側と二次側とを直結した状態であってもよい。例えば第2状態は、パワーライン11R,11S,11Tと、パワーライン12U,12V,12Wとをマトリクスコンバータ回路10によりそれぞれ直結した状態であってもよい。
【0083】
(制御回路のハードウェア構成)
図9は、制御回路100のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図9に示すように、制御回路100は、プロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、通信ポート194と、入出力ポート195と、スイッチ制御回路196とを有する。プロセッサ191は、複数のプロセッシングデバイスを含んでいてもよく、メモリ192は複数のメモリデバイスを含んでいてもよく、ストレージ193は複数のストレージデバイスを含んでいてもよい。
【0084】
ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御と、マトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路10の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路10の制御モードを切り替えるモード切替と、を含む電力変換方法を制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。ストレージ193は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路10の二次側電流に基づいて平均昇温値(平均昇温レベル)を推定することと、マトリクスコンバータ回路10の一次側周波数と二次側周波数との差に基づいて集中係数を算出することと、平均昇温値と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定することと、局所昇温レベルに基づき劣化レベルを算出することと、劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知することと、含む電力変換方法を制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶していてもよい。例えばストレージ193は、上記各機能ブロックを制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0085】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート195は、プロセッサ191からの指令に従って、電圧検出回路40及び電流センサ50との間で電気信号の入出力を行う。通信ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、上位コントローラ200との間で情報通信を行う。スイッチ制御回路196は、プロセッサ191からの指令に従って、マトリクスコンバータ回路10に、双方向スイッチ2RU,2SU,2TU,2RV,2SV,2TV,2RW,2SW,2TWのオン・オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0086】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0087】
〔電力変換手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行するマトリクスコンバータ回路10の制御手順を例示する。この制御手順は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御と、マトリクスコンバータ回路10により、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路10の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路10の制御モードを切り替えるモード切替と、を含む。この制御手順は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路10の二次側電流に基づいて平均昇温値(平均昇温レベル)を推定することと、マトリクスコンバータ回路10の一次側周波数と二次側周波数との差に基づいて集中係数を算出することと、平均昇温値と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定することと、局所昇温レベルに基づき劣化レベルを算出することと、劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知することと、を更に含んでいてもよい。
【0088】
例えば制御回路100は、制御モード切替手順と、第1モード制御手順と、第2モード制御手順と、劣化検出手順とを並行して実行する。以下、各手順を詳細に例示する。
【0089】
(制御モード切替手順)
図10に示すように、制御回路100は、ステップS01,S02,S03,S04,S05,S06を順に実行する。ステップS01では、モード切替部116が、第1モード制御部114に第1モード指令を出力する。これに応じ、第1モード制御部114が第1モード制御手順を開始する。ステップS02では、指令周波数と一次側周波数との差が第1閾値を下回るのを、モード切替部116が待機する。ステップS03では、モード切替部116が、第2モード制御部115に第2モード指令を出力する。これに応じ、第2モード制御部115が第2モード制御手順を開始する。ステップS04では、指令周波数と一次側周波数との差が第2閾値を超えるのを、モード切替部116が待機する。
【0090】
ステップS05では、モード切替部116が、第2モード制御部115に、第1モード制御への移行準備指令を出力する。これに応じ、第2モード制御部115は、後述のように第1モード制御への移行準備を開始する。ステップS06では、モード切替部116が、第2モード制御部115による上記移行準備の完了を待機する。その後、制御回路100は処理をステップS01に戻す。これにより、再度第1モード制御部114による第1モード制御手順が再開される。制御回路100は、以上の手順を繰り返す。
【0091】
(第1モード制御手順)
図11に示すように、制御回路100は、ステップS11~S16を順に実行する。ステップS11では、第1モード制御部114が、モード切替部116からの上記第1モード指令の出力を待機する。ステップS12では、電圧指令生成部121が、指令周波数ω*に基づいて、二次側電圧に対する電圧指令ベクトルを算出する。ステップS13では、振幅指令値算出部122が、電圧指令ベクトルの大きさを振幅指令値として算出する。ステップS14では、位相指令値算出部123が、固定座標系に対する回転座標系の回転角度と、回転座標系における電圧指令ベクトルの位相角度とに基づいて、位相指令値を算出する。ステップS15では、振幅指令値算出部122が振幅指令値を電力変換制御部112に出力し、位相指令値算出部123が位相指令値を電力変換制御部112に出力する。電力変換制御部112は、二次側電圧の振幅に対応する振幅と、位相指令値に対応する位相とを有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。
【0092】
ステップS16では、第1モード制御部114が、モード切替部116から上記第2モード指令が出力されているか否かを確認する。ステップS16において第2モード指令が出力されていないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS12に戻す。以後、モード切替部116から第2モード指令が出力されるまでは、第1モード制御手順が繰り返される。ステップS16において第2モード指令が出力されていると判定した場合、制御回路100は第1モード制御手順を完了する。
【0093】
(第2モード制御手順)
図12に示すように、制御回路100は、まずステップS21,S22,S23,S24を実行する。ステップS21では、第2モード制御部115が、モード切替部116からの第2モード指令の出力を待機する。ステップS22では、補償値算出部135が、遅れ補償値における一次側周波数の重みを徐々に大きくし、指令周波数の重みを徐々に小さくすることを開始する。ステップS23では、第2モード制御部115が、二次側電流の位相と、一次側電圧の位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する位相追従制御を実行する。ステップS23の具体的内容については後述する。ステップS24では、モード切替部116から上記第1モード制御への移行準備指令が出力されているか否かを、第2モード制御部115が確認する。
【0094】
ステップS24において移行準備指令が出力されていないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS23に戻す。以後、上記移行準備指令が出力されるまでは、上記位相追従制御が継続される。
【0095】
ステップS24において移行準備指令が出力されていると判定した場合、制御回路100はステップS25,S26,S27を実行する。ステップS25では、補償値算出部135が、遅れ補償値における指令周波数の重みを徐々に大きくし、一次側周波数の重みを徐々に小さくすることを開始する。ステップS26では、第2モード制御部115が、上記位相追従制御を実行する。ステップS27では、遅れ補償値における一次側周波数の重みがゼロに達したか否かを、第2モード制御部115が確認する。
【0096】
ステップS27において遅れ補償値における一次側周波数の重みがゼロに達していないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS26に戻す。以後、遅れ補償値における一次側周波数の重みがゼロに達するまでは、上記位相追従制御が継続される。ステップS27において遅れ補償値における一次側周波数の重みがゼロに達したと判定した場合、制御回路100は第2モード制御手順を完了する。
【0097】
図13は、ステップS23,S26における位相追従制御手順を例示するフローチャートである。
図13に示すように、制御回路100は、ステップS31,S32,S33,S34,S35,S36,S37,S38,S39を順に実行する。ステップS31では、電圧指令生成部136が、指令周波数ω*に基づいて、二次側電圧に対する電圧指令ベクトルを算出する。ステップS32では、振幅指令値算出部131が、電圧指令ベクトルの大きさを振幅指令値として算出する。
【0098】
ステップS33では、電流情報取得部113が、二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部113は、電流センサ50から、パワーライン12U,12V,12Wの電流値を取得する。ステップS34では、電流・電圧位相差検出部133が、二次側電流の位相に対する二次側電圧の位相差(上記電流・電圧位相差)を算出する。
【0099】
ステップS35では、目標位相算出部132が、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°となるように二次側電圧の目標位相を生成する。例えば目標位相算出部132は、一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°である電流目標位相を算出し、電流目標位相に電流・電圧位相差を加算して二次側電圧の目標位相を生成する。ステップS36では、位相指令値算出部134が、目標位相と、上記前サイクルの位相指令値との偏差を算出し、当該偏差を縮小するための上記位相変更量を算出する。
【0100】
ステップS37では、補償値算出部135が、上記遅れ補償値を算出する。ステップS38では、位相指令値算出部134が、前サイクルの位相指令値に遅れ補償値を加算して現在の二次側電圧の位相推定値を算出し、これに上記位相変更量を加算して位相指令値を算出する。
【0101】
ステップS39では、振幅指令値算出部131が、振幅指令値を電力変換制御部112に出力し、位相指令値算出部134が、位相指令値を電力変換制御部112に出力する。電力変換制御部112は、振幅指令値に対応する振幅と、位相指令値に対応する位相とを有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御する。以上で1サイクルの位相追従制御手順が完了する。なお、各ステップの実行順序は適宜変更可能である。
【0102】
(劣化検出手順)
図14に示すように、制御回路100は、まずステップS41,S42,S43,S44,S45,S46,S47を実行する。ステップS41では、平均昇温推定部151が、二次側電流と、キャリア周波数とに基づいて平均昇温値を推定する。ステップS42では、係数算出部152が、一次側周波数と二次側周波数との差に基づいて集中係数を算出する。ステップS43では、局所昇温推定部153が、平均昇温値と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定する。ステップS44では、劣化進行度算出部155が、局所昇温レベルと、上記劣化プロファイルとに基づいて劣化進行度を算出する。
【0103】
ステップS45では、頻度算出部156が、一次側周波数と二次側周波数との差を、局所昇温の頻度として算出する。ステップS46では、積算部159が、劣化進行度算出部155により算出された劣化進行度を、頻度算出部156により算出された頻度にて積算し、劣化レベルを算出する。ステップS47では、劣化レベル算出部154が算出した劣化レベルが所定レベルを超えているか否かを、比較部157が確認する。
【0104】
ステップS47において劣化レベルが所定レベルを超えていないと判定した場合、制御回路100は処理をステップS41に戻す。以後、劣化レベルが所定レベルを超えるまでは、劣化進行度及び頻度を算出することと、頻度の算出結果にて劣化進行度を積算することとが繰り返される。
【0105】
ステップS47において劣化レベルが所定レベルを超えていると判定した場合、制御回路100はステップS48を実行する。ステップS48では、劣化レベルが所定レベルを超えたことを、報知部158が報知する。以上で劣化検出手順が完了する。
【0106】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、一次側電力と二次側電力との間で双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路10と、マトリクスコンバータ回路10の二次側周波数を指令周波数に追従させる第1モード制御部114と、マトリクスコンバータ回路10の二次側位相と一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する第2モード制御部115と、指令周波数とマトリクスコンバータ回路10の一次側周波数との差が所定の閾値を上回っている場合に第1モード制御部114による制御が実行され、上記差が上記閾値を下回っている場合に第2モード制御部115による制御が実行されるように、上記差と上記閾値とに基づいてマトリクスコンバータ回路10の制御モードを切り替えるモード切替部116と、を備える。
【0107】
マトリクスコンバータ回路において、二次側位相と一次側位相とが揃った状態が維持されると、マトリクスコンバータ回路のいずれかのスイッチング素子にスイッチングに伴うロスが集中し、当該スイッチング素子における発熱が大きくなる。
【0108】
二次側位相と一次側位相とが揃った状態におけるロスを抑制するためには、マトリクスコンバータ回路により二次側と一次側とを直結させることが有効であるが、二次側と一次側とが直結した状態においては二次側振幅を制御することができない。
【0109】
これに対し、本電力変換装置1によれば、二次側周波数が一次側周波数に近付くのに応じて第1モード制御部114による制御が第2モード制御部115による制御に切り替えられる。第2モード制御部115は、マトリクスコンバータ回路10により、二次側位相と、一次側位相との差を60°の奇数倍±30°に維持する。これにより、二次側位相と一次側位相とが揃った状態が回避されるので、スイッチング素子の発熱が抑制される。また、第2モード制御部115による制御中も、二次側振幅の制御の自由度は維持される。従って、二次側電力の制御の自由度と、スイッチング素子の発熱抑制との両立に有効である。
【0110】
第2モード制御部115は、マトリクスコンバータ回路10の二次側電流の位相とマトリクスコンバータ回路10の一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°となるようにマトリクスコンバータ回路10の二次側電圧の目標位相を生成し、目標位相と二次側電圧の位相との偏差を縮小するようにマトリクスコンバータ回路10を制御してもよい。この場合、スイッチング素子における発熱をより確実に抑制することができる。スイッチング素子におけるロスは、二次側電流が正のピーク値となる位相(以下、「二次側の正ピーク位相」という。)が上記正基準位相(上記第1区間、第3区間及び第5区間の中心位相)となる場合に最大化され、二次側の正ピーク位相と上記正基準位相との位相差が60°の奇数倍である場合に最小化される。したがって、一次側の力率が1となっている場合(正基準位相が上記一次側の正ピーク位相に一致している場合)二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差を60°の奇数倍±30°にすることによって、スイッチング素子におけるロスを小さくすることができる。上述のように、電力変換制御部112が、一次側電力の力率調整のために正基準位相を一次側の正ピーク位相からずらすことも考えられる。この場合、位相をずらす範囲を-30°超、30°未満の範囲に留める場合が多い。したがって、このような場合でも、二次側電流の位相と一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°であれば、少なくとも二次側電流と一次側電圧に位相差が無い場合に比較して、スイッチング素子におけるロスは小さくなる。
【0111】
第2モード制御部115は、マトリクスコンバータ回路10の一次側電圧の位相との差が60°の奇数倍±30°である目標位相を生成し、目標位相とマトリクスコンバータ回路10の二次側電流の位相との偏差を縮小するようにマトリクスコンバータ回路10を制御してもよい。この場合、スイッチング素子における発熱をより確実に抑制することができる。
【0112】
第2モード制御部115は、上記偏差に基づいて位相指令値を生成し、位相指令値に対応する位相を有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御してもよい。この場合、二次側電圧の位相を迅速に目標位相に追従させることができる。
【0113】
第2モード制御部115は、一次側周波数に基づいて遅れ補償値を算出し、遅れ補償値を位相指令値に加算することで、上記偏差の縮小の遅れを補償してもよい。この場合、二次側電圧の位相をより迅速に目標位相に追従させることができる。
【0114】
第2モード制御部115は、指令周波数と、一次側周波数との重み付き平均値に基づいて遅れ補償値を算出し、モード切替部116が第1モード制御部114による制御を第2モード制御部115による制御に移行させた後に、遅れ補償値における一次側周波数の重みを徐々に大きくしてもよい。この場合、第1モード制御部114による制御から第2モード制御部115による制御への移行をスムーズに行うことができる。
【0115】
第2モード制御部115は、モード切替部116が第2モード制御部115による制御を第1モード制御部114による制御に移行させる前に、遅れ補償値における指令周波数の重みを徐々に大きくしてもよい。この場合、第2モード制御部115による制御から第1モード制御部114による制御への移行をスムーズに行うことができる。
【0116】
第2モード制御部115は、一次側電圧の振幅と異なる振幅指令値に対応する振幅を有する二次側電圧を出力させるようにマトリクスコンバータ回路10を制御してもよい。この場合、制御の自由度を有効活用することができる。
【0117】
電力変換装置1は、二次側電流とキャリア周波数とに基づいて平均昇温値(平均昇温レベル)を推定する平均昇温推定部151と、一次側周波数と指令周波数との差に基づいて集中係数を算出する係数算出部152と、平均昇温値と集中係数とに基づいて局所昇温レベルを推定する局所昇温推定部153と、局所昇温レベルに基づき劣化レベルを算出する劣化レベル算出部154と、劣化レベルが所定レベルを超えたことを報知する報知部158と、を更に備えていてもよい。この場合、二次側周波数が一次側周波数に近付くにつれて生じ易くなるロスの集中を考慮した劣化レベルの評価と、制御モードの切り替えによるロスの集中抑制との組み合わせにより、マトリクスコンバータ回路10の信頼性を更に高めることができる。
【0118】
劣化レベル算出部154は、局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、劣化進行度を積算することとを繰り返して劣化レベルを算出してもよい。この場合、劣化レベルをより適切に評価することができる。
【0119】
劣化レベル算出部154は、局所昇温レベルに基づき劣化進行度を算出することと、一次側周波数と指令周波数との差に基づいて昇温頻度を算出することと、劣化進行度を昇温頻度にて積算することとを繰り返して劣化レベルを算出してもよい。この場合、劣化レベルをより適切に評価することができる。
【0120】
係数算出部152は、第1モード制御部114による制御が第2モード制御部115による制御に移行するのに応じて集中係数を小さくしてもよい。この場合、劣化レベルの過大評価を抑制し、マトリクスコンバータ回路10を無駄なく使いこなすことができる。
【0121】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0122】
1…電力変換装置、10…マトリクスコンバータ回路、114…第1モード制御部、115…第2モード制御部、116…モード切替部、151…平均昇温推定部、152…係数算出部、153…局所昇温推定部、154…劣化レベル算出部、158…報知部。