(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20220823BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20220823BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20220823BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220823BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01J49/06 300
H01J49/10
H01J49/04 950
H01J49/00 500
H01J49/02 200
(21)【出願番号】P 2020560714
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046885
(87)【国際公開番号】W WO2020129199
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 克
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06417511(US,B1)
【文献】特開2004-111149(JP,A)
【文献】特開2013-143196(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
H01J 49/10
H01J 49/04
H01J 49/00
H01J 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が
四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極は、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができる、質量分析装置。
【請求項2】
分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が
四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に延伸する途中の少なくとも一部で、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように屈曲した形状とされ、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの該4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができる、質量分析装置。
【請求項3】
前記電圧生成部は、前記第1の直流電圧よりも大きな電圧値である前記第2の直流電圧を前記(N-4)本のロッド電極に印加する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記N重極の配置の中心軸と前記四重極の配置の中心軸とが平行で且つ一直線上に位置しておらず、
前記イオン輸送光学系は、前記第1の直流電圧と前記第2の直流電圧との差によって、イオンをその途中で前記二つの中心軸に直交する方向に偏向させるものである、請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記N重極の配置の中心軸と前記四重極の配置の中心軸とが一直線上に位置する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記Nは6~12の範囲の偶数である、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項7】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、1以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項8】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、2以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次々段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項9】
イオンを所定のガスと接触させて解離させるコリジョンセルを有し、
前記コリジョンセル内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項10】
イオンを所定のガスと反応させるリアクションセルを有し、
前記リアクションセル内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記電圧生成部は、前記第1の直流電圧よりも大きな電圧値である前記第2の直流電圧を前記(N-4)本のロッド電極に印加する、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項12】
前記N重極の配置の中心軸と前記四重極の配置の中心軸とが平行で且つ一直線上に位置しておらず、
前記イオン輸送光学系は、前記第1の直流電圧と前記第2の直流電圧との差によって、イオンをその途中で前記二つの中心軸に直交する方向に偏向させるものである、請求項11に記載の質量分析装置。
【請求項13】
前記N重極の配置の中心軸と前記四重極の配置の中心軸とが一直線上に位置する、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項14】
前記Nは6~12の範囲の偶数である、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項15】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、1以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項14に記載の質量分析装置。
【請求項16】
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室と、質量分離部が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室と、の間に、2以上の中間真空室を有し、
前記イオン化室の次々段の中間真空室内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項14に記載の質量分析装置。
【請求項17】
イオンを所定のガスと接触させて解離させるコリジョンセルを有し、
前記コリジョンセル内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項14に記載の質量分析装置。
【請求項18】
イオンを所定のガスと反応させるリアクションセルを有し、
前記リアクションセル内に前記N本のロッド電極が配設されている、請求項14に記載の質量分析装置。
【請求項19】
分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が
四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極は、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加す
る、質量分析装置。
【請求項20】
分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が
四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に延伸する途中の少なくとも一部で、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように屈曲した形状とされ、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加す
る、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、イオン源で生成されたイオンを質量分析部まで輸送するためにイオン輸送光学系が用いられる。イオン輸送光学系の性能は、イオンの検出感度、検出信号の安定性といった、質量分析装置自体の性能に大きく影響する。
【0003】
エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:以下「ESI」略す)イオン源などの大気圧イオン源を用いた質量分析装置では、略大気圧雰囲気であるイオン源と、質量分析部が配設され高真空雰囲気に保たれる高真空室との間に、隔壁で隔てられた真空度が異なる複数の部屋が設けられる。通常、その複数の部屋にはそれぞれ、イオン輸送光学系が配設される。イオン輸送光学系は、前段から送られて来たイオンを受け取り、イオンを閉じ込めつつ輸送して後段へと受け渡す機能を有する。
【0004】
真空度が比較的低い部屋に配設されるイオン輸送光学系は、多くの場合、イオンと残留ガスとの衝突によるイオンのクーリング作用を利用した高周波イオンガイドである。高周波イオンガイドは、主として高周波電場により発生する擬ポテンシャル(pseudopotential)を利用してイオンを所定の空間に閉じ込めつつイオンを輸送するものであり、その構造により2種類に大別される。
【0005】
高周波イオンガイドの一つの種類は、イオン光軸を取り囲むように、四本、六本、又は八本(又はそれ以上)の本数のロッド電極を配置した多重極型イオンガイドである(特許文献1など参照)。多重極型イオンガイドでは、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極に位相が反転した高周波電圧を印加することで、ロッド電極で囲まれる空間に擬ポテンシャルを生成し、それによりイオンを閉じ込めつつ輸送する。
【0006】
高周波イオンガイドの他の一つの種類は、イオンの輸送方向に、例えば中央開口を有する円盤状等、イオンを囲む形状の電極を多数枚積層したイオンファンネルである(特許文献2など参照)。イオンファンネルでは、イオン輸送方向に隣接する電極に位相が反転した高周波電圧を印加することで、各電極の近傍にイオンを反射させる擬ポテンシャルを形成し、それによりイオンを閉じ込めつつ輸送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2008/136040号
【文献】米国特許第6107628号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
質量分析装置、特に大気圧イオン源を用いた質量分析装置において分析感度を高めるには、イオン輸送光学系におけるイオンの輸送効率を高めることが重要である。しかしながら、多重極型イオンガイド及びイオンファンネルのいずれにおいても以下のような課題があった。
【0009】
多重極型イオンガイドにおけるイオンの閉込め能力やイオンの収束能力は、ロッド電極の本数に依存する。一般に、イオンの閉込め能力はロッド電極の本数が多いほうが高いものの、イオンの収束能力はロッド電極の本数が少ないほうが高い。そのため、イオンの閉込め能力及びイオンの収束能力の一方を優先すると他方が犠牲になるというジレンマがあり、閉込め能力及び収束能力の両方を共に改善することで、総合的なイオンの輸送効率を高めることが難しい。
【0010】
一方、イオンファンネルはイオンの閉込め能力は高いものの、イオンファンネルの中心軸(イオン光軸)付近にイオンを収束させる電場の作用は小さい。そのため、一般に、イオンを収束させるために、イオンの輸送方向に電極の開口径を徐々に絞る構成となっている。しかしながら、開口径が絞られた電極はイオンや中性粒子により汚染され易い。特に、イオンファンネルではイオン輸送方向に隣接する電極の間隔をかなり狭くする必要があるため、イオン通過空間に入った中性粒子は電極間の間隙を通過しにくく電極に衝突し易い。そのため、上記のような汚染が生じ易く、汚染によって電場が乱れて性能が低下し易いという課題がある。
【0011】
本発明の目的は、上述したような従来の多重極型イオンガイド及びイオンファンネルの課題を解決し、イオンの輸送効率を向上させることにより、分析感度を向上させることができる質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明の一つの態様の質量分析装置は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極は、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように該中心軸に対し傾斜して配設され、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができる構成である。
【0013】
また上記課題を解決するために成された本発明の他の態様の質量分析装置は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部と、
を含み、
前記N本のロッド電極が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極のうちの4本のロッド電極が四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極のうちの少なくとも2本のロッド電極が、イオンの輸送方向に延伸する途中の少なくとも一部で、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸に近づくように屈曲した形状とされ、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極のうちの該4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができる構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る質量分析装置のイオン輸送光学系では、イオンの入射側では高いイオン閉込め作用により、入射して来るイオンを効率良く捕捉し、イオンの出射側では高いイオン収束作用により、イオンを細径に絞って後段へと送り出すことができる。これにより、本発明に係る質量分析装置によれば、イオン輸送光学系において高いイオン輸送効率を実現することで、質量分析に供するイオンの量を増加させることができる。その結果、分析感度を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る質量分析装置のイオン輸送光学系では、イオンファンネルで生じるような電極の汚染が生じにくい。そのため、本発明に係る質量分析装置によれば、イオン輸送光学系の電極が汚染されることによる性能の低下も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態である質量分析装置の概略構成図。
【
図2】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドをイオン入射側から見た平面図。
【
図3】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドを上方から見た平面図。
【
図4】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドの斜視図。
【
図5】本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイドを通過するイオンの軌道をシミュレーションした結果を示す図。
【
図6】第1の変形例であるイオンガイドをイオン入射側から見た平面図。
【
図8】第2の変形例であるイオンガイドをイオン入射側から見た平面図。
【
図10】第2の変形例であるイオンガイドを通過するイオンの軌道をシミュレーションした結果を示す図。
【
図11】さらに他の変形例であるイオンガイドを上方から見た平面図。
【
図12】さらに他の変形例であるイオンガイドを上方から見た平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態である質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で用いる各図面は模式的なものであり、各構成部材の寸法の比等は実際の装置を反映したものではない。また、説明に不要な構成要素が適宜省略されたものであることも当然である。
【0018】
<本実施形態の装置の構成>
図1は、本実施形態の質量分析装置の概略構成図である。本実施形態の質量分析装置はシングルタイプの四重極型質量分析装置であり、多段差動排気系の構成を有している。
【0019】
チャンバ1内には、略大気圧雰囲気であるイオン化室2と、最も真空度の高い(つまりはガス圧が低い)高真空室5と、それら二つの部屋の間で段階的に真空度が高くなる、第1中間真空室3及び第2中間真空室4と、が配設されている。図では省略しているが、第1中間真空室3内はロータリポンプにより真空排気され、第2中間真空室4及び高真空室5内はロータリポンプとターボ分子ポンプとの組合せにより真空排気される。
【0020】
イオン化室2には、エレクトロスプレイイオン化を行うためのESIスプレー6が設けられている。イオン化室2と第1中間真空室3との間は、細径の加熱キャピラリ7により連通している。第1中間真空室3内には第1イオンガイド20が配設されており、該第1イオンガイド20には第1イオンガイド電圧発生部13から所定の電圧が印加される。第1中間真空室3と第2中間真空室4との間は、スキマー8の頂部に形成されているイオン通過孔9を通して連通している。第2中間真空室4内には第2イオンガイド10が配設されており、該第2イオンガイド10には第2イオンガイド電圧発生部14から所定の電圧が印加される。高真空室5内には、四重極マスフィルタ11とイオン検出器12とが配設されている。四重極マスフィルタ11にはマスフィルタ電圧発生部15から所定の電圧が印加される。第1イオンガイド電圧発生部13、第2イオンガイド電圧発生部14、及びマスフィルタ電圧発生部15でそれぞれ生成される電圧は、制御部16により制御される。
【0021】
ここでは、チャンバ1内に配置された各要素の配置や相互の位置関係の理解を容易にするために、
図1中に示すように、X、Y、Zの3軸を定めている。Z軸は、第1イオンガイド20の内部を除く、ほぼ全体のイオン経路におけるイオン光軸の方向であり、X軸、Y軸は互いに直交し、且つZ軸に直交する方向の軸である。X軸、Y軸、Z軸は必ずしも装置の上、下、右、左等の方向を示すものではないが、ここでは、説明の便宜上、Y軸方向は装置の上下方向を示すものとする。したがって、この実施態様の装置では、ESIスプレー6は下向きに試料液を噴霧する構成となっているが、これは単なる一例であり、適宜に変更が可能である。
【0022】
<本実施形態の装置における概略動作の説明>
本実施形態の質量分析装置における分析動作は、以下の通りである。
目的成分を含む試料液はESIスプレー6に供給される。試料液はESIスプレー6の先端で片寄った電荷を付与されつつ略大気雰囲気中に噴霧される。噴霧された試料液滴は大気と衝突して微細化され、液滴中の溶媒が蒸発する過程で、試料成分由来のイオンが生成される。生成された各種イオンは大気等と共に加熱キャピラリ7に吸い込まれ、第1中間真空室3へ送られる。第1中間真空室3へ入ったイオンは、第1イオンガイド電圧発生部13から第1イオンガイド20に印加される電圧により形成される電場によって、捕捉且つ収束される。そして、細径に収束されたイオンは、イオン通過孔9を通して第2中間真空室4へ送られる。
【0023】
なお、加熱キャピラリ7の出口の中心軸とイオン通過孔9の中心軸とは一直線上に位置しておらず、いわゆる軸ずらしの構成が採用されている。これは、イオンと共に第1中間真空室3へ送られて来る、イオン化していない試料成分分子や活性中性粒子を第1中間真空室3内で排除し、第2中間真空室4へ送らないようにするためである。
【0024】
第2中間真空室4へ入ったイオンは、第2イオンガイド電圧発生部14から第2イオンガイド10に印加される電圧により形成される電場によって捕捉且つ収束され、高真空室5へ送られる。高真空室5内に入った試料由来の各種イオンは、四重極マスフィルタ11に導入される。この各種のイオンのうち、マスフィルタ電圧発生部15から四重極マスフィルタ11に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが該四重極マスフィルタ11を通り抜け、イオン検出器12に到達する。イオン検出器12は、到達したイオンの数に応じたイオン強度信号を生成し出力する。例えばマスフィルタ電圧発生部15は、目的とする試料成分のイオンの質量電荷比に対応する電圧を四重極マスフィルタ11に印加する。これにより、夾雑物由来のイオンの影響等を除外し、目的とする試料成分のイオンの強度信号を得ることができる。
【0025】
<第1イオンガイド20の詳細な構成と動作>
本実施形態の質量分析装置において、第1中間真空室3内に配設される第1イオンガイド20は、上述したように、加熱キャピラリ7を通して第1中間真空室3内に送られたイオンを、スキマー8のイオン通過孔9まで案内するものである。次に、第1イオンガイド20の構成と動作について詳細に説明する。
【0026】
図2は、第1イオンガイド20をイオン入射側から見た平面図である。
図3は第1イオンガイド20を上方から見た平面図である。
図4は、第1イオンガイド20の斜視図である。
【0027】
第1イオンガイド20は、細長い円柱形状である6本のロッド電極211~216を含む。
図2に示すように、イオンの入射側(
図1では左側)の端面では、6本のロッド電極211~216は、Z軸に平行である第1中心軸201を中心とする正六角形203の頂点の位置に配置されている。この6本のロッド電極211~216のうちの4本のロッド電極212、213、215、216はZ軸に平行に配置されている。一方、6本のロッド電極211~216のうちの2本のロッド電極211、214は、他の4本のロッド電極212、213、215、216つまりはZ軸に対して非平行であり、いずれもイオンの輸送方向に向かうに従い第1中心軸201に近づくように傾斜して配置されている(
図3参照)。
【0028】
上述したように2本のロッド電極211、214がZ軸に対し傾斜して配置されることで、イオンの出射側(
図1では右側)の端面において、4本のロッド電極211、214、215、216は、Z軸に平行である第2中心軸202を中心とする矩形204の頂点の位置に配置されている。この矩形204は厳密には正方形でないが、概ね正方形であるとみなすことができる。したがって、4本のロッド電極211、214、215、216は、イオン出射側の端面では実質的に四重極の配置になっている。
即ち、第1イオンガイド20における6本のロッド電極211~216は、イオンの入射側では六重極の配置であり、イオンの出射側では四重極の配置となっている。六重極の配置の中心である第1中心軸201と四重極の配置の中心である第2中心軸202とは、互いに平行であるものの一直線上には位置していない。
【0029】
第1イオンガイド電圧発生部13から各ロッド電極211~216に印加される電圧は
図2中に記載の通りである。即ち、第1中心軸201の周りで隣接する任意の2本のロッド電極には、互いに位相が反転した同じ振幅の高周波電圧+Vcosωt又は-Vcosωtが印加される。したがって、第1中心軸201の周りの周回方向に、+Vcosωtと-Vcosωtとが交互に印加されている。また、上記高周波電圧に加えて、4本のロッド電極211、214、215、216には、第1イオンガイド20の内部でイオンを効率よく輸送するための直流電圧U1が印加される。一方、他の2本のロッド電極212、213には、分析対象であるイオンの極性が正である場合には直流電圧U1よりも高い(正極性側に大きい)直流電圧U2が印加され、分析対象であるイオンの極性が負である場合には直流電圧U1よりも低い(負極性側に大きい)直流電圧U2が印加される。
なお、一般的には、4本のロッド電極211、214、215、216に印加される直流電圧U1は同一であるが、必ずしも完全に同一である必要はない。直流電圧U2についても同様である。また、これは後述する変形例においても同様である。
【0030】
各ロッド電極211~216に印加される高周波電圧Vcosωt又は-Vcosωtにより、それら6本のロッド電極211~216で囲まれる空間には、イオンを閉じ込める作用を有する多重極高周波電場が形成される。この多重極高周波電場は、イオンの入口付近では第1中心軸201を中心とする六重極高周波電場であるが、イオンの出口付近では第2中心軸202を中心とする四重極高周波電場であり、イオンの入口と出口との間では六重極高周波電場から四重極高周波電場に徐々に電場の状態が変化する。
【0031】
一方、6本のロッド電極211~216に印加される直流電圧U1と直流電圧U2との電圧差によって、第1中心軸201を中心に分布しているイオンを第2中心軸202に近づくように押圧する、つまりはイオンの軌道を偏向させるように作用する電場が形成される。つまり、6本のロッド電極211~216に印加される直流電圧によって形成される直流電場の作用の一つは、輸送中のイオンを偏向させる作用である。
【0032】
また、6本のロッド電極211~216で囲まれる空間の入口付近における第1中心軸201上の直流的な電位は、直流電圧U1と直流電圧U2に依存するのに対し、出口付近における第2中心軸202上の直流的な電位は、主として直流電圧U1のみに依存する。分析対象であるイオンの極性が正である場合、直流電圧U2はU1よりも高いため、入口付近における第1中心軸201上の直流的な電位のほうが出口付近における第2中心軸202上の直流的な電位よりも高くなる。このため、6本のロッド電極211~216で囲まれる空間内を輸送されるイオンの光軸上のポテンシャル分布を考えると、概ね、入口から出口に向かうに従い下り勾配の分布となる。これは、言い換えれば正極性のイオンを加速させる加速電場であるから、上記空間内に入ったイオンには出口へと向かう運動エネルギーが付与される。つまり、6本のロッド電極211~216に印加される直流電圧によって形成される直流電場の他の作用は、輸送中のイオンを加速する作用である。
【0033】
これにより、6本のロッド電極211~216で囲まれる空間に、概ねZ軸方向に入射したイオンは六重極高周波電場により捕捉され、Z軸方向に進行するに従い、全体的にロッド電極215、216に近づく方向に偏向される。また、イオンが進行する際に運動エネルギーを付与されるため、例えば途中で残留ガスとの接触によりエネルギーを失った場合でも滞留することなく出口に向かって円滑に進行する。そして、イオンが第1イオンガイド20の出口に近づくに伴い、四重極配置となる4本のロッド電極211、214、215、216による四重極高周波電場に捕捉され、第2中心軸202付近に収束されて、細径のイオン流となって出射する。第1イオンガイド20へイオンを送り込む加熱キャピラリ7の出口の中心軸と第1中心軸201とはほぼ一致しており、第1イオンガイド20から後段へとイオンを送り込むイオン通過孔9の中心軸と第2中心軸202とはほぼ一致している。したがって、この第1イオンガイド20は、イオンの入射軸と出射軸とがずれた状態である軸ずらしイオン光学系である。
【0034】
第1イオンガイド20のイオンの入射側では、六重極高周波電場によってイオンは捕捉される。略大気圧雰囲気であるイオン化室2から第1中間真空室3内に送られるガスは、加熱キャピラリ7の微小径の出口から吐き出される際に超音速自由噴流となる。そのため、超音速自由噴流に特徴的なバレルショックが発生し、ガスに乗ったイオンは径方向に大きく拡がってしまう。これに対し、六重極高周波電場は四重極高周波電場に比べてイオンの閉込め作用が強い(言い換えれば、イオンのアクセプタンスが良好である)ため、拡がった状態のイオンを良好に捕捉して内部空間に取り込むことができる。それにより、イオンが径方向に拡がった状態であっても、第1イオンガイド20の入射側でのイオンの損失を抑えることができる。
【0035】
上述したようにその内部空間に効率良く取り込まれたイオンは、第1イオンガイド20の内部空間内を進行するに従い、第2中心軸202付近に収束される。出口側の四重極高周波電場は入口側の六重極高周波電場に比べてイオンの閉込め作用は相対的に低いものの、その反面、イオンを収束する作用は強い。そのため、イオンは第2中心軸202付近に良好に収束される。そして、細径に絞られたイオン流が第1イオンガイド20から出射し、イオン通過孔9を効率良く通り抜けて第2中間真空室4へと送られる。それにより、第1イオンガイド20の出射側において、イオンがイオン通過孔9の周囲の壁面に衝突することに起因する損失も抑えることができる。
【0036】
また、輸送途中でイオンは運動エネルギーを付与されるので、残留ガスとの衝突でエネルギーを失ったイオンが散逸してしまうことも回避できる。それにより、第1イオンガイド20の内部空間でのイオンの通過効率も良好である。
【0037】
さらにまた、上述したように第1イオンガイド20は軸ずらし光学系であるので、例えばイオン化していない試料分子や活性中性粒子などの中性粒子がイオンと共に入射して来た場合でも、そうした中性粒子は偏向されないためイオン通過孔9に到達しない。それにより、中性粒子が後段に送られることを回避することもできる。
【0038】
図5は、第1イオンガイド20を通過するイオンの軌道をコンピュータシミュレーションした結果を示す図である。ここでは、ガス圧を100Paと想定している。このガス圧はイオン化室に隣接する中間真空室内のガス圧としてはごく一般的な値であり、このガス圧の条件下では上述した超音速自由噴流が形成されることが知られている。シミュレーションでは、この超音速自由噴流によるイオンの拡がりも考慮している。なお、
図5では、イオン軌道を見易くするために、手前側に位置する3本のロッド電極211、212、216を図示せず、向こう側の3本のロッド電極213、214、215のみを示している。
【0039】
図5に示すように、第1イオンガイド20の入口側において拡がりつつ入射してきたイオンが良好に捕捉されて内部空間に導かれていることが分かる。また、イオンは下向きに徐々に偏向されつつ輸送され、出口付近では十分に収束され、細径のイオン流として出射されていることも分かる。このように、本実施形態の質量分析装置における第1イオンガイド20では、イオンが効率良く、つまりは少ない損失で以て輸送されることが、シミュレーション結果からも理解できる。その結果、より多くのイオンが四重極マスフィルタ11に導入されることになるので、高い分析感度を実現することができる。
【0040】
なお、上述したように、イオンの出射側端面において、4本のロッド電極211、214、215、216が配置される矩形204は厳密には正方形でないが、2本のロッド電極215、216もZ軸に対し少し傾け、2本のロッド電極211、214の傾き量も少し大きくすることで、イオンの出射側端面において4本のロッド電極211、214、215、216が正方形の頂点の位置に配置されるようにしてもよい。こうした構成によれば、第1イオンガイド20の出口付近でのイオンの収束性が一層良好になる。また、軸ずらし量を調整する目的で、第2中心軸202が、第1中心軸201からさらに離れるように、4本のロッド電極211、214、215、216の出口側を-Y軸方向(
図2における下方向)に傾けるなどの調整も可能である。
【0041】
上記実施形態における第1イオンガイド20は6本のロッド電極を含み、イオン入射側で六重極配置となるようにしていたが、ロッド電極の数は6以上の偶数であればよい。ロッド電極の数を増やすほどイオンガイドの入口でのイオンの閉込め能力は高くなるものの、ロッド電極の数を或る程度以上多くしても閉込めの能力の向上の程度は僅かである。また、ロッド電極の数が多いほど、イオンガイドの構成は複雑になり、組立性やメンテナンス性は低下する。こうしたことから考えると、実用的には、ロッド電極の数は、6本、8本、10本、又は12本程度でよい。以下に変形例として、ロッド電極の数を8本にした場合、12本にした場合について説明する。
【0042】
<イオンガイドの第1の変形例>
図6は、第1の変形例であるイオンガイド30をイオン入射側から見た平面図である。また、
図7は、このイオンガイド30の斜視図である。
【0043】
イオンガイド30は、細長い円柱形状である8本のロッド電極311~318を含む。
図6に示すように、イオンの入射側の端面では、8本のロッド電極311~318は、中心軸(イオン光軸)301を中心とする正八角形303の頂点の位置に配置されている。8本のロッド電極
311~
318のうちの4本のロッド電極312、313、316、317はZ軸に平行に配置されている。一方、8本のロッド電極311~318のうちの他の4本のロッド電極311、314、315、318はZ軸に対し非平行であり、いずれもイオンの輸送方向に向かうに従い、それぞれX-Z平面上で且つ中心軸301を通るY軸に近づくように(全体としては中心軸301に近づくように)、傾斜して配置されている。
【0044】
上述したように4本のロッド電極311、314、315、318がZ軸に対し傾斜して配置されることで、イオンの出射側の端面では、その4本のロッド電極311、314、315、318が中心軸301を中心とする矩形304の頂点の位置に配置され、それ以外のロッド電極は4本のロッド電極311、314、315、318で囲まれる空間の外側に位置する。この場合、矩形304は正方形である。したがって、このイオンガイド30における8本のロッド電極311~318は、イオンの入射側では八重極配置であり、イオンの出射側では四重極配置となっている。
【0045】
この場合には、上記実施形態における第1イオンガイド20の構成とは異なり、八重極配置と四重極配置とで中心軸301は同じであり、軸ずらし光学系ではない。そのため、
図1中の第1イオンガイド20に代えてこのイオンガイド30を用いる場合には、加熱キャピラリ7の出口の中心軸とスキマー8のイオン通過孔9の中心軸とが一直線上に位置するように加熱キャピラリ7又はスキマー8の位置を変更する。なお、これは後述する第2の変形例によるイオンガイドを使用する場合も同様である。
【0046】
各ロッド電極311~318に印加される電圧は
図6中に記載の通りであり、中心軸301の周りで隣接する2本のロッド電極には、互いに位相が反転した同じ振幅の高周波電圧+Vcosωt又は-Vcosωtが印加される。また、上記高周波電圧に加えて、イオンの出射側で四重極を形成する4本のロッド電極311、314、315、318には、イオンガイド30の内部でイオンを効率よく輸送するための直流電圧U1が印加される。一方、それ以外の4本のロッド電極312、313、316、317には、分析対象であるイオンの極性が正である場合には直流電圧U1よりも高い直流電圧U2が印加され、分析対象であるイオンの極性が負である場合には直流電圧U1よりも低い直流電圧U2が印加される。
【0047】
これにより、イオンガイド30の入口にはイオンの閉込め作用が強い八重極高周波電場が形成され、第1中間真空室内に導入されたイオンは効率良く捕捉され、イオンガイド30の内部空間に取り込まれる。取り込まれたイオンは、主として4本のロッド電極312、313、316、317に印加されている直流電圧により形成される直流電場によって、他の4本のロッド電極311、314、315、318で囲まれる空間に徐々に押し込まれる。この場合には、入口側と出口側とでイオン光軸は一直線上であるため、実質的にイオンを偏向させる電場は作用しないが、イオンを出口に向かって加速する(運動エネルギーを付与する)加速電場としての作用は有する。そして、イオンは出口に近づくに伴い、4本のロッド電極311、314、315、318で囲まれる空間に形成される四重極高周波電場により中心軸301付近に収束され、細径のイオン流となって出射する。
このようにして、このイオンガイド30でも高いイオン輸送効率を達成することができる。
【0048】
なお、この第1の変形例や次の第2の変形例のように、輸送途中でイオンを偏向させる必要がない場合には、直流電圧U2が直流電圧U1よりも高くなくても(イオンが正極性である場合)よい。分析対象のイオンが正極性であって、直流電圧U2が直流電圧U1よりも低い場合、上記説明から明らかであるように、イオンガイドの入口付近における中心軸上の直流的な電位は、出口付近における中心軸上の直流的な電位よりも低くなる。即ち、複数本のロッド電極で囲まれる空間内を輸送されるイオンの光軸上のポテンシャル分布を考えると、概ね、入口から出口に向かうに従い上り勾配の分布となる。これは、正極性のイオンを減速させる減速電場であるから、上記空間内に入ったイオンは出口へと向かうに伴い徐々に運動エネルギーを奪われる。つまり、複数のロッド電極に印加される直流電圧によって形成される直流電場の作用は、輸送中のイオンを減速する作用である。
【0049】
例えば
図1に示した質量分析装置の構成において、加熱キャピラリ7の両端の圧力差、加熱キャピラリ7の開口径などの関係で、イオン化室2から第1中間真空室3内に流入する大気の流速が大きいような場合、第1中間真空室3内に導入されるイオンが持つ初期的な運動エネルギーが大き過ぎて高周波電場で捕捉しにくいことがある。こうした場合には、イオンガイドの内部空間に出口に向かう加速電場を形成するのではなく減速電場を形成しておき、この減速電場の作用により、イオンが持つ運動エネルギーを積極的に減じるようにするとよい。それによって、高周波電場でイオンを良好に捕捉し、収束させつつ出口に導くことができる。
【0050】
このように、直流電圧U1と直流電圧U2との大小の関係は、イオンガイドに入射して来るイオンをどのように制御したいのかによって、適宜変更することができる。
【0051】
<イオンガイドの第2の変形例>
図8は、第2の変形例であるイオンガイド40をイオン入射側から見た平面図である。また、
図9は、このイオンガイド40の斜視図である。さらに、
図10は、イオンガイド40を通過するイオンの軌道をコンピュータシミュレーションした結果を示す図である。
【0052】
イオンガイド40は、細長い円柱形状である12本のロッド電極411~422を含む。
図8に示すように、イオンの入射側の端面では、12本のロッド電極411~422は、中心軸(イオン光軸)401を中心とする正十二角形403の頂点の位置に配置されている。12本のロッド電極411~422のうちの8本のロッド電極412、413、415、416、418、419、421、422はZ軸に平行に配置されている。一方、12本のロッド電極411~422のうちの他の4本のロッド電極411、414、417、420はZ軸に対し非平行であり、いずれもイオンの輸送方向に向かうに従い、中心軸401に近づくように傾斜して配置されている。
【0053】
上述したように4本のロッド電極411、414、417、420がZ軸に対し傾斜して配置されることで、イオンの出射側の端面では、その4本のロッド電極411、414、417、420が中心軸401を中心とする正方形404の頂点の位置に配置され、それ以外のロッド電極は4本のロッド電極411、414、417、420で囲まれる空間の外側に位置する。したがって、このイオンガイド40における12本のロッド電極411~422は、イオンの入射側では十二重極配置であり、イオンの出射側では四重極配置となっている。この場合にも、軸ずらし光学系ではない。
【0054】
各ロッド電極411~42
2に印加される電圧は
図8中に記載の通りであり、中心軸401の周りで隣接する2本のロッド電極には、互いに位相が反転した同じ振幅の高周波電圧+Vcosωt又は-Vcosωtが印加される。また、上記高周波電圧に加えて、イオンの出射側で四重極を形成する4本のロッド電極411、414、417、420には、イオンガイド40の内部でイオンを効率よく輸送するための直流電圧U1が印加される。一方、それ以外の8本のロッド電極412、413、415、416、418、419、421、422には、分析対象であるイオンの極性が正である場合には直流電圧U1よりも高い直流電圧U2が印加され、分析対象であるイオンの極性が負である場合には直流電圧U1よりも低い直流電圧U2が印加される。
【0055】
これにより、イオンガイド40の入口にはイオンの閉込め作用が八重極高周波電場よりもさらに強い十二重極高周波電場が形成され、第1中間真空室内に導入されたイオンは効率良く捕捉され、イオンガイド40の内部空間に取り込まれる。取り込まれたイオンは、主として8本のロッド電極412、413、415、416、418、419、421、422に印加されている直流電圧により形成される直流電場によって、他の4本のロッド電極411、414、417、420で囲まれる空間に徐々に押し込まれる。この場合にも、入口側と出口側とでイオン光軸は一直線上であるため、実質的にイオンを偏向させる電場は作用しないが、イオンを出口に向かって加速する(運動エネルギーを付与する)加速電場としての作用は有する。そして、イオンが出口に近づくに伴い、4本のロッド電極411、414、417、420で囲まれる空間に形成される四重極高周波電場により中心軸401付近に収束され、細径のイオン流となって出射する。
【0056】
図10に示すイオン軌道のシミュレーション結果からも、イオンガイド40の入口側において拡がりつつ入射してきたイオンが良好に捕捉されて内部空間に導かれていることが分かる。また、イオンは進行するに伴い中心軸401付近に収束され、出口付近では十分に収束されて細径のイオン流として出射されていることも分かる。このように、イオンガイド40でも高いイオン輸送効率を達成することができる。
【0057】
<イオンガイドのさらに他の変形例>
上記実施形態及び各変形例では、第1イオンガイド20又はイオンガイド30、40に含まれる6、8又は12本のロッド電極の長さは略同一である。但し、イオン出射側端面で四重極配置となる4本のロッド電極を除く他のロッド電極、例えば
図2~
図4に示した第1イオンガイド20における2本のロッド電極212、213は、必ずしもイオン出射端面まで延在している必要はない。何故なら、このロッド電極212、213はイオンの出口付近における四重極高周波電場の形成に寄与しておらず、且つ、イオンの出口付近では直流電場によるイオン偏向の作用も不要だからである。そうした観点から、イオン出射側端面で四重極配置となる4本のロッド電極を除く他のロッド電極は、当初、比較的広い内部空間に拡がっていたイオンが四重極配置となる4本のロッド電極で囲まれる空間に確実に入るまでの間の領域に存在していればよい。
【0058】
図11は、ロッド電極の一部を他のロッド電極よりも短くした構成の一例であるイオンガイドを上方から見た平面図である。
図3と比較すれば明らかであるように、この例では、6本のロッド電極211~216のうち、2本のロッド電極212、213の長さが他の4本のロッド電極211、214、215、216の長さL1よりも短いL2となっている。イオンガイド20に入射したイオンがこの長さL2の間に、十分に偏向されて4本のロッド電極211、214、215、216により形成される高周波電場中に入れば、実質的に、2本のロッド電極212、213の長さがL1である場合とほぼ同様の効果を得ることができる。これは、ロッド電極の数が6以外の場合でも同様である。
【0059】
また、上記実施形態及び各変形例において、イオンガイド20、30、40に含まれるロッド電極は直線状であり、一部のロッド電極をZ軸に対し傾けて配置していたが、直線状ではなく、その延伸方向の途中の少なくとも一部で屈曲した形状のロッド電極を用いることもできる。
図12は、屈曲形状のロッド電極を用いた、一変形例であるイオンガイド50を上方から見た平面図である。
【0060】
図3と比較すれば明らかであるように、この例では、6本のロッド電極511~516のうち、2本のロッド電極511、514が屈曲形状となっている。こうした構成でも、イオンガイド50の入口では六重極配置、出口では四重極配置が実現できるので、イオンの輸送効率については、上記実施形態におけるイオンガイドとほぼ同等の効果を得ることができる。なお、ここでいう屈曲形状は、必ずしもロッド電極の延伸方向の一部が湾曲しているものとは限らず、例えばロッド電極の延伸方向の一部(一箇所とは限らない)が所定角度で折り曲げられた形状も含む。
【0061】
また、上記実施形態や変形例の説明では、分析対象のイオンの極性を正としていたが、分析対象のイオンの極性が負である場合、イオンガイドに含まれる各ロッド電極に印加する直流電圧やそれ以外の各部に印加する直流電圧を適宜に変更すれば対応可能であることは明らかである。
【0062】
<他の実施形態の質量分析装置>
上記実施形態の質量分析装置では、第1イオンガイド20を第1中間真空室3内に配置していたが、第1中間真空室3に比べればガス圧が低いものの高真空室5に比べればガス圧が高い第2中間真空室4内に、第1イオンガイド20や上記各変形例のイオンガイドを配置する構成としてもよい。即ち、
図1中の第2イオンガイド10として、第1イオンガイド20や上記各変形例のイオンガイドを利用してもよい。
【0063】
また、シングルタイプの四重極型質量分析装置ではなく、トリプル四重極型質量分析装置や四重極-飛行時間型質量分析装置、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置など、大気圧又はそれに近いガス圧の下でイオン化を行い、高真空雰囲気中に配設された質量分離器まで、1又は複数の中間真空室を経てイオンを輸送する質量分析装置において、それら中間真空室の内部に上記第1イオンガイド20又は上記各変形例のイオンガイドを配置する構成としてもよい。また、イオン源はESIイオン源に限らず、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法、リアルタイム直接分析(DART)法など、様々なイオン化法によるイオン源に置き換えることができる。即ち、イオン源や質量分離器は上記記載のものに限らず、様々な種類又は方式のものを用いることができる。
【0064】
また、中間真空室の内部に上記第1イオンガイド20又は上記各変形例のイオンガイドを配置するのではなく、外部からコリジョンガスやリアクションガスなどの種々のガスが導入され、そのガスを利用してイオンに対する各種の操作を行うセルの内部に、上記第1イオンガイド20又は上記各変形例のイオンガイドを配置する構成としてもよい。
【0065】
具体的には、例えばトリプル四重極型質量分析装置や四重極-飛行時間型質量分析装置は、イオンを衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation:CID)により解離させるコリジョンセルを備えるが、そのコリジョンセルの内部に、上記第1イオンガイド20又は上記各変形例のイオンガイドを配置する構成としてもよい。また、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)質量分析装置は、一般的に、干渉イオンや分子を排除するためにコリジョンセルやリアクションセルを備えるが、そのコリジョンセルやリアクションセルの内部に、上記第1イオンガイド20又は上記各変形例のイオンガイドを配置する構成としてもよい。
【0066】
また、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を加えても、本特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0067】
以上、図面を参照して本発明における種々の実施形態を説明したが、最後に、本発明の種々の態様について説明する。
【0068】
本発明の第1の態様の質量分析装置は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系(20、13)は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極(211~216)と、
前記N本のロッド電極(211~216)のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部(13)と、
を含み、
前記N本のロッド電極(211~216)が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極(211~216)のうちの4本のロッド電極(211、214、215、216)が四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極(211、214、215、216)のうちの少なくとも2本のロッド電極(211、214)は、イオンの輸送方向に進行するに従い、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸(201、202)に近づくように該中心軸(201、202)に対し傾斜して配設され、
前記電圧生成部(13)は、前記N本のロッド電極(211~216)に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極(211、214、215、216)に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極(211~216)のうちの前記4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極(212、213)には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができるものである。
【0069】
この第1の態様の質量分析装置によれば、イオン輸送光学系のイオンの入射側ではイオンの収束作用は相対的に弱いもののイオンの閉じ込め作用が強いために、導入されたイオンを少ない損失で捕捉することができる。一方、イオン輸送光学系のイオンの出射側では、イオンの閉じ込め作用は相対的に弱いもののイオンの収束作用が強いために、イオンを細径に絞って送り出すことができる。それにより、例えば超音速自由噴流のためにイオンが拡がりつつ導入される場合でも、イオンを効率良く収集して細径のイオン通過孔を通して後段へと輸送することができる。その結果、質量分析に供するイオンの量を増加させ、分析感度を改善することができる。
【0070】
また本発明の第2の態様の質量分析装置は、分析対象であるイオンを輸送するイオン輸送光学系を有する質量分析装置であって、
前記イオン輸送光学系(50、13)は、
全体としてイオンの輸送方向に延伸するように配置された6以上の偶数であるN本のロッド電極(511~516)と、
前記N本のロッド電極のそれぞれに所定の電圧を印加する電圧生成部(13)と、
を含み、
前記N本のロッド電極(511~516)が、イオンの入射側ではN重極の配置であり、イオンの出射側では該N本のロッド電極(511~516)のうちの4本のロッド電極(511、514、515、516)が四重極高周波電場を形成する四重極の配置となるように、該4本のロッド電極(511、514、515、516)のうちの少なくとも2本のロッド電極(511、514)が、イオンの輸送方向に延伸する途中の少なくとも一部で、前記N重極の配置又は前記四重極の配置の中心軸(501、502)に近づくように屈曲した形状とされ、
前記電圧生成部は、前記N本のロッド電極(511~516)に対し、イオン光軸の周りに隣接するロッド電極同士に互いに位相が反転する高周波電圧を印加するとともに、イオンの出射側で四重極配置となる前記4本のロッド電極(511、514、515、516)に第1の直流電圧を印加し、前記N本のロッド電極(511~516)のうちの該4本のロッド電極以外の(N-4)本のロッド電極(512、513)には前記第1の直流電圧とは異なる第2の直流電圧を印加することができるものである。
【0071】
この第2の態様の質量分析装置によれば、上記第1の態様の質量分析装置と同様の効果を奏する。即ち、例えば超音速自由噴流のためにイオンが拡がりつつ導入される場合でも、イオンを効率良く収集して細径のイオン通過孔を通して後段へと輸送することができる。それにより、質量分析に供するイオンの量を増加させ、分析感度を改善することができる。
【0072】
本発明の第3の態様の質量分析装置は、第1又は第2の態様の質量分析装置において、
前記電圧生成部(13)は、前記第1の直流電圧よりも大きな電圧値である前記第2の直流電圧を前記(N-4)本のロッド電極に印加するものである。
【0073】
第3の態様の質量分析装置によれば、例えば正極性であるイオンに対しては、N本のロッド電極で囲まれる、イオンの入口付近の空間の中心軸上の直流電位は、4本のロッド電極で囲まれる、イオンの出口付近の空間の中心軸上の直流電位よりも高くなる。即ち、ロッド電極で囲まれる空間には、イオンの入口側から出口側に向かって下り勾配のポテンシャル分布が形成されるから、それによってイオンは加速される。これにより、残留ガス等の衝突によりイオンが運動エネルギーを失った場合でも、イオンに運動エネルギーを付与して円滑に出口まで導くことができ、イオンの輸送効率を改善することができる。
【0074】
本発明の第4の態様の質量分析装置は、第3の態様の質量分析装置において、
前記N重極の配置の中心軸と前記四重極の配置の中心軸とが平行で且つ一直線上に位置しておらず、
前記イオン輸送光学系は、前記第1の直流電圧と前記第2の直流電圧との差によって、イオンをその途中で前記二つの中心軸に直交する方向に偏向させるものである。
【0075】
第4の態様の質量分析装置によれば、イオンを効率良く輸送することができるだけでなく、その輸送途中で電場の作用によりイオン光軸をずらすことができる。それにより、イオンと共にロッド電極で囲まれる空間に入った、試料成分分子や活性中性粒子などの中性粒子はその空間内を輸送される途中でイオンと分離され、こうした中性粒子を除いたイオンのみが出口から出射される。その結果、中性粒子がイオンと共に後段に送られることを低減することができる。
【0076】
本発明の第5の態様の質量分析装置では、第1又は第2の態様の質量分析装置において、前記N重極の配置の中心軸(301)と前記四重極の配置の中心軸(301)とが一直線上に位置している。
【0077】
第5の態様の質量分析装置によれば、イオン輸送光学系におけるイオン入射側のN重極の配置の中心軸とイオン出射側の四重極の配置の中心軸とが一直線上であるので、該イオン輸送光学系を通過する際のイオンの損失が少なく、入射したイオンを効率良く収束して出射させることができる。
【0078】
本発明の第6の態様の質量分析装置では、第1又は第2の態様の質量分析装置において、前記Nは6~12の範囲の偶数とされる。
【0079】
第6の態様の質量分析装置によれば、イオン輸送光学系のロッド電極の構成が複雑になり過ぎることを避けながら、実用上十分に高いイオン輸送効率を実現することができる。
【0080】
本発明の第7の態様の質量分析装置では、第6の態様の質量分析装置において、
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室(2)と、質量分離部(11)が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室(5)と、の間に、1以上の中間真空室(3、4)を有し、前記イオン化室(2)の次段の中間真空室(3)内に前記N本のロッド電極(211~216)が配設されている。
【0081】
第7の態様の質量分析装置によれば、イオン化室で生成されて次段の中間真空室に送り込まれた試料成分由来のイオンを効率良く、つまりはイオンの損失を抑えながら、次の中間真空室又は高真空室に輸送することができる。それにより、質量分析に供するイオンの量を増やし、高い分析感度を実現することができる。
【0082】
本発明の第8の態様の質量分析装置では、第6の態様の質量分析装置において、
大気圧雰囲気中で試料成分をイオン化するイオン化室(2)と、質量分離部(11)が配設され、高真空雰囲気に保たれる高真空室(5)と、の間に、2以上の中間真空室(3、4)を有し、前記イオン化室(2)の次々段の中間真空室内(4)に前記N本のロッド電極(211~216)が配設されている。
【0083】
第8の態様の質量分析装置によれば、前段の中間真空室から次段の中間真空室に送り込まれた試料成分由来のイオンを効率良く、つまりはイオンの損失を抑えながら、次の中間真空室又は高真空室に輸送することができる。それにより、質量分析に供するイオンの量を増やし、高い分析感度を実現することができる。
【0084】
本発明の第9の態様の質量分析装置では、第6の態様の質量分析装置において、
イオンを所定のガスと接触させて解離させるコリジョンセルを有し、前記コリジョンセル内に前記N本のロッド電極が配設されている。
【0085】
第9の態様の質量分析装置によれば、コリジョンセルに導入されたイオンの損失を抑えつつ、効率良く解離させることができる。また、そのイオンが解離されることで生成されたプロダクトイオン等を効率良く、つまりはイオンの損失を抑えながら、コリジョンセルから排出し、例えば後段の質量分離器へ輸送することができる。それにより、トリプル四重極型質量分析装置や四重極-飛行時間型質量分析装置において質量分析に供するイオンの量を増やし、高い分析感度を実現することができる。
【0086】
本発明の第10の態様の質量分析装置では、第6の態様の質量分析装置において、
イオンを所定のガスと反応させるリアクションセルを有し、前記リアクションセル内に前記N本のロッド電極が配設されている。
【0087】
第10の態様の質量分析装置によれば、リアクションセルに導入されたイオンの損失を抑えつつ、分析対象のイオンとともに導入された不所望の中性粒子などを効率良くガスと反応させることができる。それにより、ICP質量分析装置において、分析に不要である中性粒子や干渉イオンを良好に除去する一方、分析対象のイオンは効率良く後段へと輸送し質量分析に供することができる。その結果、干渉を排除しつつ高い分析感度を実現することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…チャンバ
2…イオン化室
3…第1中間真空室
4…第2中間真空室
5…高真空室
6…ESIスプレー
7…加熱キャピラリ
8…スキマー
9…イオン通過孔
10…第2イオンガイド
11…四重極マスフィルタ
12…イオン検出器
13…第1イオンガイド電圧発生部
14…第2イオンガイド電圧発生部
15…マスフィルタ電圧発生部
16…制御部
20、30、40、50…第1イオンガイド(イオンガイド)
201、501…第1中心軸
202、502…第2中心軸
203…正六角形
204、304…矩形
211~216、311~318、411~422、511~516…ロッド電極
301、401…中心軸
303…正八角形
304…矩形
403…正十二角形
404…正方形