(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】速溶出性三次元造形物用材料、速溶出性三次元造形物用フィラメント、速溶出性三次元造形物、及び速溶出性三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20220823BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220823BHJP
A61K 9/44 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K47/32
A61K9/44
(21)【出願番号】P 2021159682
(22)【出願日】2021-09-29
(62)【分割の表示】P 2018510634の分割
【原出願日】2017-04-05
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2016076810
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(72)【発明者】
【氏名】池田 宙瞳
(72)【発明者】
【氏名】服部 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小林 正範
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/038356(WO,A1)
【文献】国際公開第02/092057(WO,A1)
【文献】特表2001-512488(JP,A)
【文献】国際公開第2014/144661(WO,A1)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2015年,494,pp.657-663
【文献】Journal of Controlled Release,2015年,217,pp.308-314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層方式の三次元造形において三次元造形物を形成するために用いられる材料であって、
有効成分と、
水溶性の熱可塑性高分子と、
水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、
可塑剤成分と、を含有しており、
前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコールであって、
前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、
前記材料の総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であることを特徴とする速溶出性三次元造形物用材料。
【請求項2】
第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法において前記三次元造形物を形成したときの前記有効成分の溶出率が30分以内に80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の速溶出性三次元造形物用材料。
【請求項3】
熱溶解積層方式の三次元造形において三次元造形物を形成するために用いられるフィラメントであって、
有効成分と、
水溶性の熱可塑性高分子と、
水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、
可塑剤成分と、を含有しており、
前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコールであって、
前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、
前記フィラメントの総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であることを特徴とする速溶出性三次元造形物用フィラメント。
【請求項4】
請求項1に記載の速溶出性三次元造形物用材料からなる三次元造形物であって、
前記三次元造形物がリング形状の固形物であることを特徴とする速溶出性三次元造形物。
【請求項5】
熱溶解積層方式の三次元造形によって三次元造形物用材料から三次元造形物を製造する方法であって、
有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分と、を混合し、前記三次元造形物用材料を得る材料混合工程を含み、
前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、ポリエチレングリコール‐ポリビニルアルコール‐グラフトコポリマー、ポリビニルアルコール‐アクリル酸‐メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上であって、
前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、
前記三次元造形物の総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であることを特徴とする速溶出性三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする請求項5に記載の速溶出性三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の速溶出性三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、マルチトールであることを特徴とする請求項7に記載の速溶出性三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式の三次元造形によって形成される速溶出性三次元造形物用材料、速溶出性三次元造形物用フィラメント、速溶出性三次元造形物、及び速溶出性三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ上で作成した3D-CAD(computer aided design)データを設計図として、三次元造形物用材料を三次元上に積層配置することで三次元造形物を造形することが可能な3Dプリンター技術が知られている。
この3Dプリンター技術は、主に積層方式の違いによって複数に分類することができる。例えば、三次元造形物用材料となる熱可塑性樹脂を熱溶解してノズルから押し出し、造形ステージ上に積層させながら造形する熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling、FDM方式)や、三次元造形物用材料となる粉末樹脂を造形ステージ上に敷き詰めて接着剤を吹きつけていく粉末固着方式がある。そのほか、光造形方式、粉末レーザー焼結方式等もある。
そうした中で、例えば特許文献1には、熱溶解積層方式で用いられる三次元造形物用材料の発明として、反りが少なく、表面研磨し易い材料が開示されている。当該材料を用いることで、新規形状の産業用部品の作成や、生産前段階におけるデザイン確認などに有益である旨が開示されている。
【0003】
また最近では、3Dプリンターを用いて製造されたレベチラセタム固形物が、SPRITAM(登録商標)として、アメリカ食品医薬品局(FDA、Food and Drug Administration)で医薬品として認可されているなど、3Dプリンターが医薬品製剤の新しい製造方法として注目されているところである。
例えば、非特許文献1には、熱溶解積層方式の三次元造形によって作製されたオーダーメード型の徐放性プレドニゾロン錠剤が開示されている。
このプレドニゾロン錠剤は、基剤として水溶性の熱可塑性高分子(ポリビニルアルコール)を含むものであって、医薬有効成分となるプレドニゾロンの溶出率がおよそ8~18時間で80%以上であることが開示されている。
【0004】
また例えば、非特許文献2には、熱溶解積層方式の三次元造形によって作製され、薬物の用量を調整可能な錠剤が開示されている。
この錠剤は、基剤としてポリビニルアルコールを含み、モデル薬物となるフルオレセインの溶出率がおよそ4.5~9時間で80%以上であることが開示されている。
また例えば、非特許文献3には、熱溶解積層方式の三次元造形によって作製され、放出制御された4-アミノサリチル酸と5-アミノサリチル酸をそれぞれ含む錠剤が開示されている。
この錠剤は、基剤としてポリビニルアルコールを含み、5-アミノサリチル酸の溶出率がおよそ1.5~2.5時間で80%以上であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】European Journal of Pharmaceutical Sciences 68(2015) 11-17
【文献】International Journal of Pharmaceutics 476(2014) 88-92
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 89(2015) 157-162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、3Dプリンターを用いて固形物(三次元造形物)を製造するにあたって、熱溶解積層方式や粉末固着方式を採用することが一般に考えられるが、粉末固着方式で製造しようとすると、三次元造形物の強度が比較的弱くなってしまい、流通過程で割れや欠け等、固形物が破損するリスクがあった。また、熱溶解積層方式を採用すると、固形物が崩壊しないため、有効成分の溶出速度が遅延する課題があった。
そのため、熱溶解積層方式を採用して、良好な射出成形性と印刷性を兼ね備えながらも、比較的速やかに有効成分が溶出する固形物の開発が求められていた。
具体的には、非特許文献1、2、3のような固形物と比較して、有効成分の溶出速度がより速くなるように調製された速溶出性を示す固形物の開発が求められていた。
また、固形物を好適に三次元造形することが可能な技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱溶解積層方式の三次元造形によって形成され、速やかに有効成分が溶出する速溶出性三次元造形物の製造方法を提供することにある。
また本発明の他の目的は、熱溶解積層方式によって三次元造形するときに、良好な射出成形性と印刷性を兼ね備えた速溶出性三次元造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、熱溶解積層方式の三次元造形に用いられる三次元造形物用材料が、有効成分と、特定の水溶性の熱可塑性高分子と、特定の水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分とを特定の割合で含有することで、比較的速やかに有効成分が溶出する三次元造形物を作製することが可能であることを明らかにして、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、当該三次元造形物用材料が、三次元造形物用フィラメントを作製するときに、良好な射出成形性を有し、熱溶解積層方式によって三次元造形するときに、良好な印刷性を兼ね備えていることを明らかにして、本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、前記課題は、本発明によれば、熱溶解積層方式の三次元造形において三次元造形物を形成するために用いられる材料であって、有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分と、を含有しており、前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコールであって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、前記材料の総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であること、により解決される。
上記構成により、速溶出性の三次元造形物を実現することができる。
また、熱溶解積層方式によって三次元造形するときに、良好な射出成形性と印刷性を兼ね備えた三次元造形物を実現できる。
また上記のように、水溶性の熱可塑性高分子、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール、並びに可塑剤成分について、それぞれの素材を最適化することや、当該素材の含量を最適化することで、一層良好な射出成形性と印刷性を付与することができ、また、前記有効成分の溶出速度がより速くなるように調整可能な三次元造形物を実現できる。
【0011】
このとき、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法において前記三次元造形物を形成したときの前記有効成分の溶出率が30分以内に80%以上であると良い。
上記構成により、従来と比較して、より一層の速溶出性を示す三次元造形物を作製することができる。
【0012】
また、前記課題は、熱溶解積層方式の三次元造形において三次元造形物を形成するために用いられるフィラメントであって、有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分と、を含有しており、前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコールであって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、前記フィラメントの総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であること、によっても解決される。
【0013】
また、上記速溶出性三次元造形物用材料からなる三次元造形物であって、前記三次元造形物がリング形状の固形物であると良い。
上記構成により、従来の円柱形状や楕円柱形状の固形物と比較して表面積をより大きく確保することができ、固形物の前記有効成分の溶出をより速くするように調整できる。
【0014】
また、前記課題は、熱溶解積層方式の三次元造形によって三次元造形物用材料から三次元造形物を製造する方法であって、有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分と、を混合し、三次元造形物用材料を得る材料混合工程を含み、前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、ポリエチレングリコール‐ポリビニルアルコール‐グラフトコポリマー、ポリビニルアルコール‐アクリル酸‐メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、スクロース、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であって、前記三次元造形物の総重量に対して、前記有効成分が0.1~20重量%であって、前記水溶性の熱可塑性高分子の含量が20~55重量%であって、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量が20~55重量%であること、によっても解決される。
【0015】
このとき、前記水溶性の熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上であると良い。
また、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト、及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上であると良い。
また、前記水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールは、マルチトールであると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱溶解積層方式の三次元造形によって形成され、速やかに有効成分が溶出する速溶出性三次元造形物の製造方法を提供することができる。
また、熱溶解積層方式によって三次元造形するときに、良好な射出成形性と印刷性を兼ね備えた速溶出性三次元造形物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2A】実施例2-1(円柱形状)の固形物を示す斜視図である。
【
図2B】実施例2-2(リング形状1)の固形物を示す斜視図である。
【
図2C】実施例2-3(リング形状2)の固形物を示す斜視図である。
【
図3】試験例2の形状が異なる固形物による溶出試験の結果データである。
【
図5】試験例4のイヌ経口吸収性試験の結果データである。
【
図11】試験例10の溶出試験の結果データである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、
図1~
図11を参照しながら説明する。
本実施形態は、熱溶解積層方式の三次元造形によって形成される三次元造形物であって、医薬有効成分と、ポリビニルアルコールと、マルチトールと、クエン酸トリエチルとを含有することを特徴とする速溶出性三次元造形物の発明に関するものである。
また、上記の速溶出性三次元造形物を形成するために用いられる速溶出性三次元造形物用フィラメント、及び速溶出性三次元造形物用材料の発明に関するものである。
【0019】
「三次元造形物用材料」とは、三次元造形において特に熱溶解積層方式に好適に用いられ、経口投与用、経口摂取用、口腔内投与用、直腸内投与用、又は膣内投与用として利用可能な成分から構成される速溶出性材料である。
三次元造形物用材料は、例えば粉末状からなり、各構成成分を好適に配合することにより得られるものであるが、特に形状を限定することなく変更可能である。例えば、各構成成分を配合して得られる粉末を造粒することによりペレット状にしても良い。
【0020】
「三次元造形物用フィラメント」とは、押出機(エクストルーダー)等を用いて、三次元造形物用材料を圧縮して溶融混練し、押出成形することにより得られるものであって、例えば直径1.0~3.0mm程度の糸状体として形成されている。
【0021】
「三次元造形物」とは、熱溶解積層方式の3Dプリンター機器を用いて、三次元造形物用フィラメントを熱溶解してノズルから吐出し、造形ステージ上に積層させながら造形することにより得られるものである。
三次元造形物の投与経路は特に制限されない。例えば、経口投与、又は経口摂取、口腔内投与、直腸内投与、膣内投与等が挙げられる。好ましくは、経口投与である。
三次元造形物は、医薬に限定されることはなく、例えば、経口摂取用の固形食品として特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等であっても良い。
三次元造形物は、リング形状からなることが望ましいが、特に形状を限定することなく変更可能であって、従来のように円柱形状や楕円柱形状であっても良い。
【0022】
次に、三次元造形物用材料の各構成成分について説明する。
三次元造形物用材料は、有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールと、可塑剤成分と、を含有するものである。
なお、三次元造形物用材料は、さらに各種の添加剤成分を含有していても良い。例えば、結合剤、安定化剤、崩壊剤、崩壊助剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤等を1種以上組み合わせて適宜適量含有していても良い。
【0023】
「有効成分」とは、医薬品、医薬部外品、健康食品等に含まれる物質のうち生理活性を示すものをいう。有効成分は、三次元造形物の有効成分となるものであって、熱溶融しても安定であれば特に制限されない。例えば、医薬でもよい。他の態様として、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等に含まれる有効成分でも良い。医薬有効成分の場合、難水溶性の医薬有効成分であることが望ましい。
ただし、上記の医薬有効成分に特に限定されることなく、水不溶性又は水溶性の医薬有効成分であっても良いし、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等に含まれる有効成分であっても良い。
三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント、三次元造形物)の有効成分の含量は、三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント、三次元造形物)の総重量に対して0.1~40重量%、好ましくは0.1~20重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0024】
「熱可塑性高分子」とは、熱可塑性、すなわち、常温では変化しにくいが、適当に加熱すると塑性を示して自由な変形が可能となり、また冷却すると再び固くなる性質を備えた高分子物質をいう。三次元造形物の基剤となり、良好な射出成形性と印刷性(可塑性)を付与するものである。水に対する有効成分の溶出性を高めるために、水溶性の熱可塑性高分子であることが望ましい。
具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、ポリエチレングリコール‐ポリビニルアルコール‐グラフトコポリマー、ポリビニルアルコール‐アクリル酸‐メタクリル酸メチル共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上の熱可塑性高分子であることが望ましい。
【0025】
例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール‐ポリビニルアルコール‐グラフトコポリマー、及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上の熱可塑性高分子であっても良い。好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される1種類以上の熱可塑性高分子である。
印刷性の観点からはポリビニルアルコールがより好ましい。
また、熱可塑性高分子としてポリビニルアルコールを用いることで、可塑性が高くより強靭なフィラメントが調製できる。
【0026】
水溶性の熱可塑性高分子がポリビニルアルコールの場合には、高い水溶性を示すものであって、平均分子量(平均重合度)が比較的小さく、鹸化率が比較的低い高分子化合物であることが望ましい。
具体的には、平均分子量が20000(平均重合度400)以下であって、好ましくは10000(平均重合度200)以下であって、より好ましくは6000(平均重合度120)以下であることが望ましく、また、鹸化率が90.0mol%以下であって、好ましくは80.0mol%以下である。
【0027】
水溶性の熱可塑性高分子の含量は、三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント、三次元造形物)の総重量に対して20~90重量%であって、好ましくは20~80重量%であって、より好ましくは20~40重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0028】
「水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール」とは、良好な可塑性を付与し射出成形性や印刷性を高めたり、水に対する有効成分の溶出性を高めたりするものである。
例えば、良好な射出成形性及び三次元造形時における良好な吐出性及び印刷性を確保するために、熱でカラメル化やメイラード反応を起こしにくい糖アルコールが好ましい。例えば、ガラス転移温度が第十六改正日本薬局方による室温(1~30℃)以上、好ましくは40℃以上の糖アルコールであってもよい。
「水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール」とは、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、イソマルト及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上の糖アルコールであることが望ましく、好ましくはマルチトール、イソマルト及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上の糖アルコールである。より好ましくはマルチトールである。
ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、上記に特に限定されることなく変更可能であって、例えば、糖としてスクロース等であっても良い。
【0029】
水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールの含量は、三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント、三次元造形物)の総重量に対して10~65重量%、好ましくは10~60重量%であって、より好ましくは20~65重量%、更に好ましくは20~60重量%、特に好ましくは35~55重量%、特に好ましくは20~55重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0030】
「可塑剤成分」とは、三次元造形物用フィラメント、三次元造形物の可塑剤となるものであって、良好な射出成形性と印刷性を確保するために添加するものである。
具体的には、クエン酸トリエチル、マクロゴール、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びヒマシ油からなる群より選択される1種類以上の可塑剤であることが望ましく、好ましくはクエン酸トリエチルである。
ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、上記に特に限定されることなく変更可能である。
【0031】
可塑剤成分の含量は、三次元造形物用材料(三次元造形物)の総重量に対して1~30重量%であって、好ましくは1~10重量%であって、より好ましくは1~5重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0032】
次に、三次元造形物(固形物)の製造方法について説明する。なお、本発明は本製造方法に特に限定されるものではない。
本実施形態の三次元造形物の製造方法は、水溶性の熱可塑性高分子、有効成分、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール、並びに可塑剤成分を混合し、三次元造形物用材料を得る材料混合工程と、
前記三次元造形物用材料を圧縮させながら溶融混練する圧縮溶融混練工程と、
圧縮溶融混練した前記三次元造形物用材料を射出成形した後、ワインダーで巻き取ってフィラメントを作製するフィラメント作製工程と、
前記フィラメントを熱溶解してノズルから押し出して、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を造形する造形工程と、を順次行うものである。
【0033】
つまり、この三次元造形物の製造方法では、まず、材料混合工程において、混合機を用いて、有効成分、水溶性の熱可塑性高分子、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール、並びに可塑剤成分をそれぞれ所定の配合比で混合し、三次元造形物用材料を得る。
そして、得られた三次元造形物用材料を、圧縮溶融混練工程において、公知の押出機(例えば、エクストルーダー)を用いて、所定の圧力で圧縮させながら溶融混練する。溶融混練後に、フィラメント作製工程において、成形機を用いて射出成形し、射出成形されたものを自動ワインダーで巻き取ることにより、三次元造形物用フィラメントを得る。
なお、三次元造形物用材料を押出機内で好適に溶融混練するためには、溶融温度を120~200℃、好ましくは140~170℃に設定しておくことが望ましい。また、混練時にはバレル回転数を上げて100~200rpmに設定し、射出成形時にはバレル回転数を下げて5~30rpmに設定しておくことが望ましい。また、溶融混練時間を3~15分に設定しておくことが望ましい。
【0034】
そして、造形工程において、公知の熱溶解積層方式の3Dプリンター機器を用いて、得られた三次元造形物用フィラメントを熱溶解してノズルから吐出し、造形ステージ上に積層させながら造形することにより三次元造形物が得られる。
なお、三次元造形物用フィラメントを好適にノズルから吐出するためには、ノズル温度を80~250℃、好ましくは110~200℃、より好ましくは、150℃又は160℃以上で、更に250℃又は200℃以下に設定しておくことが望ましい。
【0035】
上記のように、本発明の三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント)を用いて三次元造形物を製造することで、良好な射出成形性と印刷性(可塑性)を兼ね備え、医薬有効成分の溶出速度が速くなるように調整された速溶出性を示す固形物を形成することができる。
ここで「射出成形性」について説明すると、三次元造形物用フィラメントは、まず一定の太さで成形される必要がある。成形されたフィラメントの径がばらつくと、3Dプリンター機器からの吐出量がばらついてしまい、印刷不良が生じ易くなってしまうからである。また、射出成形後は、比較的速やかに固まる必要がある。固まる時間が遅いと、結果として一定の太さのフィラメントにならないからである。
【0036】
また「印刷性」について説明すると、三次元造形物用フィラメントは、まず3Dプリンター機器にセットするために当該機器付属のシリコンチューブ内に挿入する必要がある。そのとき、幾分曲げることが可能な柔軟性が要求される(少なくとも熱したときに曲げることができればセット可能である)。また、当該機器にセットするために適宜折り曲げたときに折れてしまわない程度の可塑性が必要である。可塑性が低く脆いと一部が欠けて隙間が生じてしまい、安定した印刷が難しくなるからである。また、3Dプリンター機器のノズル先端部で溶融した後、一定量で溶融物が吐出されることが求められる。
本発明の三次元造形物用材料を使用すれば、射出成形性と印刷性において良好な結果を示し、所望の三次元造形物を形成することができる。
【0037】
また「速溶出性を示す三次元造形物」について説明すると、本発明では第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)において、固形物の有効成分の溶出率が120分以内に80%以上を示すもの、好ましくは85分以内に80%以上を示すもの、より好ましくは60分以内に80%以上示すもの、更に好ましくは30分以内に80%以上を示すもの、特に好ましくは溶出率が30分以内に85%以上を示すもの、特に好ましくは溶出率が30分以内に90%以上を示すもの、特に好ましくは溶出率が15分以内に85%以上を示すものである。溶出率の上限は100%となる。溶出試験に用いる試験液としては、例えば、溶出試験第1液や水などを用いることができる。
本発明の三次元造形物用材料を使用すれば、速やかに有効成分が溶出するような速溶出性固形物を形成することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1:マルチトールの配合比が異なる三次元造形物>
三次元造形物となる固形物を、表1に示す配合比からなる三次元造形物用材料を用いて射出成形機を備えた混練機であるXplore(登録商標、DSM社製)によりフィラメントを調製し、熱溶解積層方式の3Dプリンター機器であるEagleed(登録商標、レイズ・エンタープライズ社製)を用いて作製した。
具体的な素材としては、有効成分としてN2-[(2E)-3-(4-クロロフェニル)-2-プロペノイル]-N-[2-オキソ-2-(4-{[6-(トリフルオロメチル)ピリミジン-4-イル]オキシ}ピペリジン-1-イル)エチル]-3-ピリジン-2-イル-L-アラニンアミド(アステラス製薬、日本薬局方溶出試験第1液に対する溶解度>100μM、日本薬局方溶出試験第2液に対する溶解度:23.2μM、以下、化合物Aと略す)を選択し、熱可塑性高分子としてポリビニルアルコール(Poly(vinyl alcohol)[Mw 6000]、Polysciences社製、以下記載無い場合同じ)を選択し、糖アルコールとしてマルチトール(SweetPearl P200 、Roquette社製、以下記載無い場合同じ)を選択し、可塑剤成分としてクエン酸トリエチル(Triethyl Citrate、東京化成工業社製、以下記載無い場合同じ)を選択した。
【0040】
また、マルチトールの配合比を0重量%としたものを対比例1-1のマルチトール0重量%サンプルとし、マルチトールの配合比を35重量%としたものを実施例1-1のマルチトール35重量%サンプルとし、マルチトールの配合比を55重量%としたものを実施例1-2のマルチトール55重量%サンプルとし、固形物(n=2)を作製した。
実施例1-1~2及び対比例1-1の形状は、円柱形状であって、3D CADデータの設定値を固形物の高さ=1.5mm、固形物の直径=12.0mmとなるようにした。
【表1】
【0041】
<試験例1:有効成分の溶出試験>
表1に示す実施例1-1~2及び対比例1-1の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm(revolution per minute))に従って、溶出試験を行った。
試験液は溶出試験第1液900mlを使用し、試験開始後における有効成分(化合物A)の溶出率を紫外・可視吸光光度法(UV-VIS法)によって評価した。
【0042】
(試験例1の結果、考察)
試験結果を解析して、実施例の固形物による「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図1に示す。
実施例1-1の固形物については、55分経過後の平均溶出率が87.9%を示した。
実施例1-2の固形物については、45分経過後の平均溶出率が87.5%を示した。
【0043】
試験例1の結果から、マルチトールを配合することにより、速やかな溶出を示すことが分かった。また、マルチトールの配合割合を増大することにより、さらに速やかに有効成分が溶出することが分かった。
【0044】
<実施例2:形状が異なる三次元造形物>
形状の異なる三次元造形物として、
図2Aに示す円柱形状(実施例2-1)、
図2Bに示すリング形状1(実施例2-2)、
図2Cに示すリング形状2(実施例2-3)、計3種類の固形物(n=2)を作製した。
各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20重量%、ポリビニルアルコールを20重量%、マルチトールを55重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【表2】
【0045】
<試験例2:有効成分の溶出試験>
実施例2-1~3の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0046】
(試験例2の結果、考察)
試験結果を解析して、実施例2-1~3の固形物による「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図3に示す。
試験例2の結果から、実施例2-1の円柱形状の固形物については、45分経過後の平均溶出率が87.5%を示した。実施例2-2のリング形状1の固形物については、20分経過後の平均溶出率が95.3%を示した。実施例2-3のリング形状2の固形物については、10分経過後の平均溶出率が94.1%を示した。
また、表面積が増大する実施例2-2~3のリング形状を選択することにより、さらに速やかな溶出性を示した。
【0047】
<実施例3:有効成分100mg含有の三次元造形物>
有効成分100mg含有の三次元造形物として、表3に示す形状、配合比からなる実施例3の固形物を作製した。
なお、実施例3の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20重量%、ポリビニルアルコールを20重量%、マルチトールを55重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【表3】
【0048】
<試験例3:有効成分の溶出試験>
表3に示す実施例3の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0049】
(試験例3の結果、考察)
溶出試験の結果を解析して、実施例3の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図4に示す。
試験例3の結果から、実施例3の固形物は、20分経過後の溶出率が92.0%を示した。
【0050】
<試験例4:イヌ経口吸収性の評価試験>
実施例3の固形物を用いて、イヌ経口吸収性を評価する試験を行った。
具体的には、実施例の固形物を投与検体とし、イヌに対して実施例3の固形物を少量の水と共に経口投与した。経口投与後、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、24時間の合計8時点で採血を行った。その後、遠心分離によって得られた血漿中の薬物濃度は、液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定した。なお、本試験においてイヌを4匹用意した(n=4)。
なお、摂餌・摂水としては、実施例3の固形物投与前16時間から固形物投与後8時間の採血終了時まで絶食とし、また、投与前30分から投与後2時間の採血終了時まで絶水とした。
胃内のpH調整としては、実施例3の固形物を投与前30分、固形物を投与後30分及び90分に、ペンタガストリン(0.015mg/kg)を筋肉内投与した。
投与方法の詳細としては、固形物を投与後、速やかにカテーテルで水を投与し、総投与液量が最高で50mlとなるようにした。
【0051】
(試験例4の結果、考察)
試験結果を解析して、実施例3の固形物による「経口投与後の時間(h)」と、「血漿中濃度(μg/ml)」との関係を表したグラフを
図5に示す。
また、
図5のグラフに基づいて求められた「Cmax(μg/ml)」、「Tmax(h)」及び「AUC
0-24(μg・h/ml)」を表4に示す。
【表4】
なお、「Cmax(μg/ml)」とは、最高血漿中濃度を示し、「Tmax(h)」とは、最高血漿中濃度の到達時間(Cmaxに到達する時間)を示す。
「AUC
0-24(μg・h/ml)」とは、経口投与後の時間から24時間までの血漿中濃度時間曲線下面積を示す。
実施例3のTmaxは1.2±0.8(h)であり、またAUCは35.1±11.1(μg・h/ml)であることから、本発明の固形物は生体内でも速やかに薬物を放出する性能を有していると考えられた。
【0052】
試験例1~4の結果から、本発明の各実施例の三次元造形物用材料(三次元造形物用フィラメント)を用いて三次元造形物を調製することで、良好な射出成形性と印刷性(可塑性)を兼ね備えた速溶出性固形物を作製することができると分かった。
【0053】
<実施例4:各種糖及び糖アルコールを含有した三次元造形物>
有効成分50mg含有の三次元造形物として、表5に示す処方、配合比からなるフィラメントを作製し、このフィラメントを用いて、3Dプリンターにて実施例4-1~8の固形物を作製した(n=3)。
なお、実施例4-1~8の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、リングの外径=12.0mm、内径=7.6mmに設定した3D CADデータを元に印刷した。各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20重量%、ポリビニルアルコールを40重量%、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコールを35重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【0054】
なお、糖又は糖アルコールとして、実施例1と同様のマルチトールの他に、キシリトール(製品名キシリトール、和光純薬工業社製)、マンニトール(製品名Pearlitol 200SD、Roquette社製)、ラクチトール(製品名ラクチトール一水和物、和光純薬工業社製)、スクロース(製品名スクロース、和光純薬工業社製)、エリスリトール(製品名エリスリトール100M、物産フードサイエンス社製)、ソルビトール(製品名ソルビトール、関東化学社製)、イソマルト(製品名Galen IQ720、BENEO-Palatinit GmbH社製)を用いた。
【表5】
【0055】
<試験例5:有効成分の溶出試験>
実施例4-1~8の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0056】
(試験例5の結果、考察)
溶出試験の結果を解析して、実施例4-1~8の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図6に示す。
試験例5の結果から、実施例4-1~8の固形物は、30分経過後の溶出率がそれぞれ91%(実施例4-1:マルチトール)、95%(実施例4-2:キシリトール)、93%(実施例4-3:マンニトール)、85%(実施例4-4:ラクチトール)、93%(実施例4-5:スクロース)、90%(実施例4-6:エリスリトール)、80%(実施例4-7:ソルビトール)及び92%(実施例4-8:イソマルト)を示した。
【0057】
<実施例5:異なる有効成分を含有した三次元造形物>
有効成分50mg含有の三次元造形物として、表6に示す処方、配合比からなるフィラメントを作製し、3Dプリンターにて実施例5-1~2の固形物を作製した(n=3)。実施例5-1は、有効成分としてアセトアミノフェン(製品名局方アセトアミノフェン、山本化学工業社製)、実施例5-2は、有効成分としてテオフィリン(製品名Theophylline、東京化成工業社製)を配合した。
なお、実施例5-1~2の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、リングの外径=12.0mm、内径=7.6mmに設定した3D CADデータを元に印刷した。各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分を20重量%、ポリビニルアルコールを40重量%、マルチトールを35重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【表6】
【0058】
<試験例6:有効成分の溶出試験>
実施例5-1~2の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0059】
(試験例6の結果、考察)
溶出試験の結果を解析して、実施例5-1~2の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図7に示す。
試験例6の結果から、実施例5-1~2の固形物は、30分経過後の溶出率がそれぞれ97%(アセトアミノフェン)、91%(テオフィリン)を示し、化合物A以外の異なる有効成分においても本発明を適用可能なことが確認された。
【0060】
<比較試験例1:不溶性成分を含有した三次元造形物との比較>
本発明の糖及び/又は糖アルコールの代わりに、不溶性成分のリン酸三カルシウム及びタルクを用いて、有効成分50mg含有の三次元造形物として、表7に示す処方、配合比からなるフィラメントを作製し、3Dプリンターにて対比例2-1~2の固形物を作製した(n=3)。
なお、対比例2-1~2の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、リングの外径=12.0mm、内径=7.6mmに設定した3D CADデータを元に印刷した。各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20重量%、ポリビニルアルコールを40重量%、リン酸三カルシウム(製品名リン酸三カルシウム 食品添加物、関東化学社製)又はタルク(製品名クラウンタルク局方PP、松村産業社製)を35重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【表7】
【0061】
<試験例7:有効成分の溶出試験>
表7に示す対比例2-1~2の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0062】
(試験例7の結果、考察)
上記溶出試験の結果を解析して、対比例2-1~2の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図8に示す。
試験例7の結果から、対比例2-1~2の固形物は、30分経過後の溶出率がそれぞれ63%(対比例2-1:リン酸三カルシウム)、60%(対比例2-2:タルク)といずれも80%より低い値を示すことが分かった。
従って、糖及び/又は、糖アルコールを添加することで、リン酸三カルシウムやタルク等を含有させるより、速い溶出速度を示す製剤が調製可能なことが確認された。
【0063】
<実施例6:マルチトールの配合比が異なる三次元造形物>
表8に示す処方、配合比からなる実施例6のフィラメントを作製し、3Dプリンターにて固形物を作製した(n=3)。
なお、実施例6の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、リングの外径=12.0mm、内径=7.6mmに設定した3D CADデータを元に印刷した。各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20重量%、ポリビニルアルコールを55重量%、マルチトールを20重量%、クエン酸トリエチルを5重量%となるように調製した。
【表8】
【0064】
<試験例8:有効成分の溶出試験>
表8に示す実施例6の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0065】
(試験例8の結果、考察)
上記溶出試験の結果を解析して、実施例6の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図9に示す。
試験例8の結果から、実施例6の固形物は、30分経過後の溶出率が80%を示すことが確認された。実施例2-2のマルチトールの添加量55重量%の処方及び実施例4-1のマルチトールの添加量35重量%の処方と比較することで、マルチトールの添加量の増加に伴い、溶出率が増加することが分かった。
【0066】
<実施例7:熱可塑性高分子が異なる三次元造形物>
熱可塑性高分子として、ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone [Mw 40000]、Sigma-Aldrich社製)及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーE (Eudragit EPO、 Evonik社製)を選択し、表9に示す処方、配合比からなる実施例7-1~2のフィラメントを作製した。各構成成分の配合比としては、総重量100重量%に対して有効成分として化合物Aを20%重量、熱可塑性高分子を40%重量、マルチトールを35%重量、クエン酸トリエチルを5%重量となるように調製した。
ポリビニルピロリドンを用いて作製したフィラメントはポリビニルアルコールを用いて製したフィラメントに比べて脆い傾向を示した。
【表9】
【0067】
<試験例9:有効成分の溶出試験>
表9に示す実施例7-1~2のフィラメントならびに実施例4-1で作製したポリビニルアルコールとマルチトールとを含有したフィラメント、及び対比例2-1で作製したポリビニルアルコールとリン酸三カルシウムとを含有したフィラメントを用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
なお、有効成分として化合物Aを50mg含む重量のフィラメントを用いた。
【0068】
(試験例9の結果、考察)
溶出試験の結果を解析して、実施例4-1、7-1~2及び対比例2-1のフィラメントにおける「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図10に示す。
試験例9の結果から、実施例7-1~2のフィラメントは、5分経過後の溶出率が100%(実施例7-1:ポリビニルピロリドン)及び91%(実施例7-2:アミノアルキルメタクリレートコポリマーE)を示した。実施例4-1のポリビニルアルコールとマルチトール含有フィラメントならびに対比例2-1のポリビニルアルコールとリン酸三カルシウムとを含有したフィラメントの5分経過後の溶出率は44%及び25%だったことから、ポリビニルピロリドン及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いた実施例7-1~2の処方においても速溶性があることが分かった。
【0069】
<実施例7-1の固形物:ポリビニルピロリドンを用いた三次元造形物>
実施例7-1で作製したフィラメントを用いて、3Dプリンターにて実施例7-1の固形物を作製した(n=3)。
なお、実施例7-1の固形物の形状として
図2Bに示すリング形状1を選択し、リングの外径=12.0mm、内径=7.6mmに設定した3D CADデータを元に印刷した。印刷物の重量ならびに固形物の高さを表10に示す。
【表10】
【0070】
<試験例10:有効成分の溶出試験>
実施例7-1の固形物を用いて、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って、試験例1と同様にして溶出試験を行った。
【0071】
(試験例10の結果、考察)
溶出試験の結果を解析して、実施例7-1の固形物における「試験開始後の時間(min)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図11に示す。
図11には、実施例4-1の固形物のグラフも併せて表示した。
試験例10の結果から、実施例7-1の固形物は、30分経過後の溶出率が99%を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の三次元造形物は、医薬品、医薬部外品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント用の各種造形物として好適に用いられ、産業上の利用可能性を有する。