(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】樹脂多層基板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220823BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220823BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220823BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20220823BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B32B27/00 A
B32B27/30 D
B32B27/18 A
B32B7/027
H05K1/03 670
H05K1/03 630D
H05K1/03 610Q
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2021537342
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020029985
(87)【国際公開番号】W WO2021025055
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019144542
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】西村 道治
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-348139(JP,A)
【文献】特開平3-160079(JP,A)
【文献】特開2009-137290(JP,A)
【文献】特開2012-160741(JP,A)
【文献】特開2017-164905(JP,A)
【文献】特開2012-121956(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098011(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/30
B32B 27/18
B32B 7/027
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂層を積層して形成される基材を備え、
前記複数の樹脂層は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた複数の第1樹脂層と、第2樹脂層と、を有し、
前記第2樹脂層は、前記複数の第1樹脂層同士の密着性よりも、前記第1樹脂層との密着性が高く、
フッ素樹脂を含み、
前記複数の第1樹脂層のうち少なくとも1以上の前記第1樹脂層は、前記第2樹脂層と接合される、樹脂多層基板。
【化1】
(一般式(1)中、Xは、O,-CH
2-または-CH
2-CH
2-を示し、置換基R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n
1は0~5までの整数である。)
【請求項2】
前記複数の第1樹脂層のうち、積層方向に隣接する少なくとも2つの前記第1樹脂層は、前記第2樹脂層を介して接合される、請求項
1に記載の樹脂多層基板。
【請求項3】
前記第2樹脂層の厚みは、前記複数の第1樹脂層の厚みよりも薄い、請求項
1または
2に記載の樹脂多層基板。
【請求項4】
剥離試験を行った際に、前記複数の樹脂層同士の界面は剥離せず、前記複数の樹脂層のいずれかの内部で凝集破壊される、請求項1から
3のいずれかに記載の樹脂多層基板。
【請求項5】
前記複数の第1樹脂層は、所定の機能を有する添加剤が添加されている、請求項1から
4のいずれかに記載の樹脂多層基板。
【請求項6】
前記添加剤は、前記複数の樹脂層のUV吸収性を高める機能を有する材料である、請求項
5に記載の樹脂多層基板。
【請求項7】
前記添加剤は、前記複数の樹脂層の可撓性を高める機能を有する材料である、請求項
5に記載の樹脂多層基板。
【請求項8】
前記基材に形成される導体パターンを備え、
前記添加剤は、前記複数の樹脂層の熱膨張係数を下げる機能を有する材料である、請求項
5に記載の樹脂多層基板。
【請求項9】
前記複数の樹脂層の面方向における熱膨張係数は、10ppm/℃以上20ppm/℃以下である、請求項
8に記載の樹脂多層基板。
【請求項10】
前記基材は曲げ部を有する、請求項1から
9のいずれかに記載の樹脂多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の樹脂層を積層して形成した樹脂多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低誘電率・低損失な材料として知られているノルボルネン系重合体は、高周波回路基板用の材料として期待されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ノルボルネン系重合体を含んだ樹脂層同士は密着性が低く、これらの樹脂層を積層して多層基板を形成するのは困難であるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、ノルボルネン系重合体を含んだ複数の樹脂層を積層する構成において、樹脂層同士の界面の密着性を高めた樹脂多層基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂多層基板は、
複数の樹脂層を積層して形成される基材を備え、
前記複数の樹脂層は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた複数の第1樹脂層を有し、
前記複数の第1樹脂層のうち、積層方向に隣接する少なくとも2つの第1樹脂層の一方は、他方の第1樹脂層との界面側に、表面処理により変質された変質部を有し、
前記変質部同士の密着性、および、変質されていない非変質部と前記変質部との密着性は、前記非変質部同士の密着性よりも高いことを特徴とする。
【0007】
【0008】
(一般式(1)中、Xは、O,-CH2-または-CH2-CH2-を示し、置換基R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n1は0~5までの整数である。)。
【0009】
本発明の樹脂多層基板は、
複数の樹脂層を積層して形成される基材を備え、
前記複数の樹脂層は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた複数の第1樹脂層と、第2樹脂層と、を有し、
前記第2樹脂層は、前記複数の第1樹脂層同士の密着性よりも、前記第1樹脂層との密着性が高く、
前記複数の第1樹脂層のうち少なくとも1以上の前記第1樹脂層は、前記第2樹脂層と接合されること特徴とする。
【0010】
【0011】
(一般式(1)中、Xは、O,-CH2-または-CH2-CH2-を示し、置換基R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n1は0~5までの整数である。)。
【0012】
本発明の樹脂多層基板の製造方法は、
複数の樹脂層を積層して形成される基材を備える樹脂多層基板の製造方法であって、
前記複数の樹脂層は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた少なくとも1つの第1樹脂層を有し、
前記第1樹脂層は、前記ノルボルネン系重合体と反応する添加剤を含有し、
前記第1樹脂層の前記ノルボルネン系重合体と添加剤とを表面処理により反応させて、表面処理の効果の減衰に伴って、厚み方向において反応前の材料と反応後の材料との組成に傾斜を生じさせることを特徴とする。
【0013】
【0014】
(一般式(1)中、Xは、O,-CH2-または-CH2-CH2-を示し、置換基R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n1は0~5までの整数である。)
この構成によれば、ノルボルネン系重合体を含む複数の第1樹脂層の密着性が高まるため、複数の第1樹脂層を積層した低誘電率で低損失な樹脂多層基板を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノルボルネン系重合体を用いた複数の樹脂層を積層する構成において、樹脂層同士の界面の密着性を高めた樹脂多層基板を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(A)は第1の実施形態に係る樹脂多層基板101の断面図であり、
図1(B)は樹脂多層基板101の分解断面図である。
【
図2】
図2は、樹脂多層基板101の製造方法を順に示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101Aの外観斜視図である。
【
図4】
図4(A)は樹脂多層基板101Aを利用した電子機器301の筐体1内部の平面図であり、
図4(B)は電子機器301の断面図である。
【
図5】
図5(A)は第2の実施形態に係る樹脂多層基板102の断面図であり、
図5(B)は樹脂多層基板102の分解断面図である。
【
図6】
図6(A)は第3の実施形態に係る樹脂多層基板103の断面図であり、
図6(B)は樹脂多層基板103の分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と同様の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0018】
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係る樹脂多層基板101の断面図であり、
図1(B)は樹脂多層基板101の分解断面図である。
図1(A)および
図1(B)では、構造を分かりやすくするため、変質部D1,D2をクロスハッチングで示している。
【0019】
樹脂多層基板101は、基材10、導体パターン31,32および層間接続導体V1等を備える。樹脂多層基板101は、これ以外の構成も備えるが、
図1(A)および
図1(B)では図示省略している。
【0020】
基材10は可撓性を有する矩形の平板であり、互いに対向する第1主面VS1および第2主面VS2を有する。導体パターン31,32および層間接続導体V1は、基材10の内部に形成されている。
【0021】
基材10は、第1樹脂層11,12,13をこの順に積層して形成される。第1主面VS1および第2主面VS2は、複数の第1樹脂層11~13の積層方向(Z軸方向)に直交する面である。第1樹脂層11,12,13は、例えば下記の一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた樹脂シートである。
【0022】
【0023】
一般式(1)中、Xは、O,-CH2-または-CH2-CH2-を示し、置換基R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n1は0~5までの整数である。
【0024】
一般式(1)で表される構造を有する付加型のポリノルボルネンの置換基R1、R2、R3およびR4は、その目的に応じて、種類および繰り返し単位の割合を調整することによって所定の特性を有したものにできる。好ましくは、Xが-CH2-、mが1000以上、n1が0か1であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つがエステル基、エーテル基または水酸基を含有することが好ましい。より好ましくは、mが5000以上、n1が0、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つがエステル基または水酸基を含有することが好ましい。
【0025】
なお、上記アルキル基は、例えば、直鎖もしくは分岐した炭素数1~10の飽和炭化水素、または環状の飽和炭化水素等が挙げられる。上記アルケニル基は、例えば、ビニル、アリル、ブチニル、シクロヘキセニル基等が挙げられる。上記アルキニル基は、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、ヘキシニル、オクチニル、ヘプチニル基等が挙げられる。アリール基は、例えば、フェニル、トリル、ナフチル、アントラセニル基等が挙げられる。また、アラルキル基は、例えば、ベンジル、フェネチル基等が挙げられる。エポキシ基は、例えばグリシジルエーテル基等が挙げられ、アルコキシシリル基は、例えばトリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリエトキシシリルエチル基等が挙げられる。(メタ)アクリル基は、例えばメタクリロキシメチル基等が挙げられ、エステル基は、例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、n-ブチルエステル、t-ブチルエステル基等が挙げられる。
【0026】
第1樹脂層11の表面には、導体パターン31が形成されている。導体パターン31は、第1樹脂層11の中央付近に配置された矩形の導体パターンである。導体パターン31は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、第1樹脂層11は、表面(Z軸方向に隣接して密着する第1樹脂層12との界面FS1)側に、表面処理(後に詳述する)によって変質された変質部D1を有する。変質部D1は、変質されていない非変質部ND1,ND2,ND3(
図1(A)および
図1(B)の第1樹脂層11~13のうち変質部D1,D2以外の部分)同士の密着性よりも、第1樹脂層(変質部または非変質部)との密着性を高めた部分である。すなわち、変質部D1同士の密着性、および、変質されていない非変質部ND1,ND2,ND3と変質部D1との密着性は、非変質部ND1,ND2,ND3同士の密着性よりも高い。具体的には、本実施形態の変質部D1は、ガラス転移温度(Tg)が非変質部ND1よりも低い。
【0027】
第1樹脂層12の表面には、導体パターン32が形成されている。導体パターン32は、第1樹脂層12の中央付近に配置される矩形の導体パターンである。導体パターン32は、例えばCu箔等の導体パターンである。また、第1樹脂層12は、層間接続導体V1が形成されている。さらに、第1樹脂層12の表面(Z軸方向に隣接して密着する第1樹脂層13との界面FS2)側に、表面処理(後に詳述する)によって変質された変質部D2を有する。変質部D2は、変質されていない非変質部ND1,ND2,ND3同士の密着性よりも、第1樹脂層(変質部または非変質部)との密着性を高めた部分である。具体的には、本実施形態の変質部D2は、ガラス転移温度(Tg)が非変質部ND2よりも低い。
【0028】
図1(A)に示すように、導体パターン31,32は、層間接続導体V1を介して電気的に接続されている。
【0029】
上述したように、変質部D1,D2の第1樹脂層11,12に対する密着性は、非変質部ND1,ND2,ND3同士の密着性よりも高い。具体的に、本実施形態の変質部D1,D2は、ガラス転移温度(Tg)が非変質部ND1,ND2,ND3よりも低い。一般に、ノルボルネン系重合体の主鎖骨格はガラス転移温度が300℃前後と高く、熱に対する分子運動性が低い。一方で、上記構成によれば、第1樹脂層同士の界面FS1,FS2側に位置する変質部D1,D2の、熱に対する分子運動性が非変質部ND1,ND2よりも高い。そのため、複数の第1樹脂層11~13同士の密着性が高まり、第1樹脂層11~13を用いた低誘電率で低損失(誘電正接の低い)樹脂多層基板を実現できる。
【0030】
なお、樹脂多層基板101は、剥離試験を行った際、第1樹脂層11~13同士の界面は剥離せず、第1樹脂層11~13のいずれかの内部で凝集破壊される。なお、ここで言う「凝集破壊される」とは、例えば、面積比としての(凝集破壊率)/(界面破壊率)が10%以上の場合を言う。なお、面積比としての(凝集破壊率)/(界面破壊率)は、50%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。剥離試験は、例えば90度ピール強度試験(IPC-TM-650 2.4.9またはJIS C 6471 8.1)やランドプル強度試験である。また、本明細書中の「凝集破壊」とは、樹脂層同士の界面ではなく、樹脂層の内部で破壊されることを言う。
【0031】
なお、本実施形態の変質部D1,D2は、第1樹脂層11~13の界面FS1,FS2のうち導体パターン31,32に接する部分(導体パターン31,32を挟んで第1樹脂層11~13同士が接合される部分)には形成されていない。しかし、複数の第1樹脂層11~13を積層して基材10を形成した後(加熱プレス後)、第1樹脂層11~13を構成する樹脂が導体パターン31,32の表面の微細な凹凸に入り込む(アンカー効果または投錨効果)。そのため、基材10において導体パターン31,32を介した第1樹脂層11~13同士の密着性は高い。
【0032】
本実施形態に係る樹脂多層基板101は、例えば次に示す製造方法によって製造される。
図2は、樹脂多層基板101の製造方法を順に示す断面図である。なお、
図2では、説明の都合状、ワンチップ(個片)での製造工程で説明するが、実際の樹脂多層基板101の製造工程は集合基板状態で行われる。「集合基板」とは、複数の樹脂多層基板101が含まれる基板を言う。
【0033】
まず、
図2中の(1)に示すように、複数の第1樹脂層11,12,13を準備する。第1樹脂層11~13は、例えばノルボルネン系重合体を用いたシートである。
【0034】
次に、第1樹脂層11,12にそれぞれ導体パターン31,32を形成する。具体的には、第1樹脂層11,12の表面に金属箔(例えばCu箔)をラミネートし、その金属箔をフォトリソグラフィでパターニングする。これにより、第1樹脂層11の表面に導体パターン31を形成し、第1樹脂層12の表面に導体パターン32を形成する。
【0035】
また、第1樹脂層12には、層間接続導体V1が形成される。層間接続導体V1は、例えばレーザー照射またはドリル等で第1樹脂層12に孔を設けた後、その孔にCu,Snもしくはそれらの合金等の金属粉と樹脂材料とを含む導電性ペーストを配設(充填)し、後の加熱プレスによって導電性ペーストを固化させることにより設けられる。
【0036】
次に、
図2中の(2)に示すように、第1樹脂層11,12の表面を表面処理によって変質させる。具体的には、第1樹脂層11の表面に対して、プラズマ放電、コロナ放電、電子線照射、レーザー照射または光照射(例えば、UV処理)等のいずれかを行う(
図2中の(2)に示す白抜き矢印を参照)。これにより、第1樹脂層11の表面側の一部(導体パターン31が形成されていない部分。後の積層時に、第1樹脂層12との界面となる部分)に、変質部D1が形成される。また、第1樹脂層12の表面側の一部(導体パターン32が形成されていない部分。後の積層時に、第1樹脂層13との界面となる部分)に、変質部D2が形成される。
【0037】
なお、本実施形態では、変質部D1,D2のガラス転移温度(Tg)が、非変質部ND1,ND2,ND3よりも低く変質されている。
【0038】
次に、
図2中の(3)に示すように、第1樹脂層11,12,13の順に積層(載置)する。なお、積層したときに第1樹脂層11の変質部D1は、Z軸方向に隣接する第1樹脂層12(非変質部ND2)に当接し、第1樹脂層12の変質部D2は、Z軸方向に隣接する第1樹脂層13(非変質部ND3)に当接する。
【0039】
その後、積層した複数の第1樹脂層11~13を加熱プレス(一括プレス)して、
図2中の(4)に示す基材10(樹脂多層基板101)を形成する。
【0040】
上記製造方法によれば、第1樹脂層11,12のうち他の第1樹脂層との界面側に、熱に対する分子運動性が高い(ガラス転移温度の低い)変質部D1,D2がそれぞれ設けられる。そのため、第1樹脂層11~13の非変質部ND1,ND2,ND3同士を直接接合する場合に比べて、複数の樹脂層同士の界面の密着性が高い樹脂多層基板を容易に製造できる。
【0041】
また、上記製造方法によれば、積層した第1樹脂層11,12,13を加熱プレス(一括プレス)することにより、基材10を容易に形成できるため、樹脂多層基板101の製造工程が削減され、コストを低く抑えることができる。また、上記製造方法によれば、塑性変形が可能で、且つ、所望の形状を維持(保持)できる樹脂多層基板を容易に製造できる。
【0042】
さらに、上記製造方法によれば、第1樹脂層12に設けた孔に導電性ペーストを配設し、加熱プレス(一括プレス)によって導電性ペーストを固化させて層間接続導体V1を形成するため、形成が容易である。つまり、積層した第1樹脂層11~13の加熱プレス処理で同時に層間接続導体V1も形成できるため、スルーホールめっき等で層間接続導体を形成する場合に比べて、工程を削減できる。
【0043】
本発明の樹脂多層基板は、例えば次のように用いられる。
図3は、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101Aの外観斜視図である。
図4(A)は樹脂多層基板101Aを利用した電子機器301の筐体1内部の平面図であり、
図4(B)は電子機器301の断面図である。
【0044】
電子機器301は、樹脂多層基板101A、筐体1、バッテリーパック2、回路基板201,202、電子部品71,72等を備える。なお、電子機器301は、これ以外の素子も備えるが、
図4(B)では図示省略している。
【0045】
樹脂多層基板101Aは、例えば、複数の回路基板同士を接続するケーブルである。
図3に示すように、樹脂多層基板101Aは、接続部CN1,CN2および線路部SLを有する。接続部CN1,CN2は、他の回路基板に接続する部分である。図示省略するが、線路部SLには、接続部CN1,CN2間を繋ぐ伝送線路が構成されている。樹脂多層基板101では、接続部CN1、線路部SLおよび接続部CN2が、+X方向にこの順に配置されている。
【0046】
樹脂多層基板101Aは、基材10Aおよびプラグ51,52等を備える。基材10Aは、長手方向がX軸方向に一致する略矩形の平板である。樹脂多層基板101Aの基本的な構成は、上述した樹脂多層基板101と略同じである。プラグ51は接続部CN1に設けられ、プラグ52は接続部CN2に設けられている。
【0047】
図4(A)および
図4(B)に示すように、筐体1内には、樹脂多層基板101A、バッテリーパック2、回路基板201,202および電子部品71,72等が配置されている。回路基板201,202は、例えばプリント配線板である。電子部品71,72は、例えばチップ型インダクタやチップ型キャパシタ等のチップ部品、RFIC素子、アンテナ装置またはインピーダンス整合回路等である。
【0048】
回路基板201の表面には複数の電子部品71が実装されており、回路基板202の表面には複数の電子部品72が実装されている。バッテリーパック2は、回路基板201,202間に配置されている。樹脂多層基板101Aは、回路基板201,202間を接続している。具体的には、樹脂多層基板101Aのプラグ51が、回路基板201の表面に配置されたレセプタクル61に接続される。また、樹脂多層基板101Aのプラグ52が、回路基板201の表面に配置されたレセプタクル62に接続されている。
【0049】
なお、回路基板201,202の表面とバッテリーパック2の上面は、Z軸方向の高さが異なっている。樹脂多層基板101Aは曲げた状態(樹脂多層基板101Aの線路部のみがバッテリーパック2の上面に接した状態)で、回路基板201,202にそれぞれ接続される。すなわち、樹脂多層基板101Aの基材10Aは、曲げ部を有する。
【0050】
このように、本発明の樹脂多層基板101Aは樹脂層同士の密着性が高く、樹脂層同士の界面での剥離(デラミネーション)を抑制できるため、曲げて接続する場合等にも利用できる。
【0051】
《変質部の変形例》
なお、本実施形態では、第1樹脂層11,12に、ガラス転移温度が他の部分(非変質部ND1~ND3)よりも低い変質部D1,D2を形成する例を示したが、熱に対する分子運動性を高めた変質部はこれに限定されるものではない。例えば、変質部D1,D2の損失正接が非変質部ND1~ND3よりも高い場合も、第1樹脂層同士の密着性が高まる。損失正接(tanδ)は、以下に示す式で求められる。
【0052】
【0053】
E”:複素弾性率の虚数部(損失弾性率)
E’:複素弾性率の実数部(貯蔵弾性率)
損失弾性率(E”)、貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)は、例えば動的粘弾性測定で測定される。
【0054】
また、本実施形態では、熱に対する分子運動性を高めることによって、第1樹脂層との密着性を高めた変質部D1,D2を示したが、本発明の変質部はこれに限定されるものではない。変質部は、化学的な反応・結合等によって第1樹脂層との密着性を高めた部分でもよい。例えば、変質部がノルボルネン系重合体の官能基を非変質部よりも増やした部分であっても、第1樹脂層との密着性は高まる。上記官能基は、例えば水酸基やカルボン酸等の有機基である。
【0055】
《第1樹脂層に対する添加剤の添加》
また、第1樹脂層11~13には、樹脂層の製造工程において、用途に応じた所定の機能を有する添加剤(例えば、公知の劣化防止剤、紫外線防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤または赤外線吸収剤など)が添加(混練、塗布または偏析等)されていてもよい。上記添加剤の種類としては、例えば(イ)表面処理を促進させるために第1樹脂層に添加する材料、または(ロ)第1樹脂層の物性や化学的性質を変化させるために添加する材料等がある。
【0056】
(イ)添加剤が、表面処理を促進させるために第1樹脂層に添加する材料の場合
例えば、UV処理によって第1樹脂層の表面処理を行う場合には、UV吸収性を高める機能を有する材料を、添加剤として第1樹脂層11,12に予め添加することが好ましい。
【0057】
(ロ)添加剤が、第1樹脂層の物性や化学的性質を変化させるために添加する材料の場合
添加剤は、例えば、公知の安定化剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤や赤外吸収剤等のほか、第1樹脂層11~13のガラス転移温度を下げる(または、損失正接を高める)機能を有する材料であってもよい。一例として、第1樹脂層11~13にエステルが含まれる場合には、第1樹脂層11~13に長鎖カルボン酸(または長鎖アルコール)を添加剤として添加してエステル交換させることにより、ガラス転移温度を下げることができる。具体的には、一般式(1)の置換基R1、R2、R3およびR4がアルコールの場合には長鎖カルボン酸(R-COOH)を添加し、置換基R1、R2、R3およびR4がカルボン酸の場合にはアルコールを添加すればよい。
【0058】
また、添加剤は、例えば、第1樹脂層11~13の可撓性を高める機能を有する材料であってもよい。一例としては、上記添加剤は、一般式(2)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環オレフィンポリマー(COC/COP)でもよい。ノルボルネン系重合体よりもガラス転移温度(Tg)の低い、これら開環オレフィンポリマーを添加することにより、第1樹脂層のガラス転移温度(Tg)が下がるとともに、(常温時の)可撓性が高まる。この構成によれば、基材10の曲げ耐性が高まり、破断伸びや脆性破壊し難くできる。
【0059】
【0060】
(一般式(2)中、置換基R5、R6、R7およびR8はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。n2は0~5までの整数である。)。
【0061】
また、添加剤は、例えば、第1樹脂層11~13の面方向の分子配向性を高める等によって、第1樹脂層11~13の熱膨張係数を下げる機能を有した材料でもよい。一例として、上記添加剤は、熱膨張係数の小さなガラスフィラーや液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。なお、第1樹脂層11~13の面方向(X軸方向またはY軸方向)における熱膨張係数は、10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることが好ましい。Cu箔である導体パターン31,32の熱膨張係数は約16ppm/℃であるため、第1樹脂層11~13と導体パターン31,32との熱膨張係数差を極めて小さくできる。したがって、この構成により、製造時(例えば、加熱プレス時)や後の加熱工程(リフロープロセス時)等における樹脂層と導体パターンとの熱膨張係数差に起因する、基材10の反りや層間剥離(または、樹脂層と導体パターンとの剥離)の発生等が抑制される。
【0062】
さらに、添加剤は、例えば、第1樹脂層11~13の燃焼性を低下させる機能を有した材料でもよい。上記添加剤は公知の難燃剤であり、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ素化合物または炭酸アンモニウム等の無機系材料、臭素化合物やリン酸エステル等の有機系材料等である。
【0063】
《表面処理の変形例》
なお、本実施形態では、表面処理によってガラス転移温度(Tg)を低く変質して変質部D1,D2を形成した例を示したが、本発明の「表面処理」はこれに限定されるものではない。本発明の「表面処理」は、例えば、第1樹脂層の表面を改質することにより変質部を形成してもよく、第1樹脂層の表面に光(例えば、偏光した光)を照射して或る方向の分子配向性を高めることにより変質部を形成してもよい。また、本発明の「表面処理」は、例えば、化学的処理によって第1樹脂層11~13の表面同士を反応させてもよい。上記化学処理は、例えば架橋剤等を第1樹脂層11~13の表面に塗布し、第1樹脂層11~13の表面を変質させる場合等が含まれる。
【0064】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、2つの第1樹脂層を積層して形成される樹脂多層基板の例を示す。
【0065】
図5(A)は第2の実施形態に係る樹脂多層基板102の断面図であり、
図5(B)は樹脂多層基板102の分解断面図である。
図5(A)および
図5(B)では、構造を分かりやすくするため、変質部D2をクロスハッチングで示している。
【0066】
樹脂多層基板102は、基材10Aを備える点で、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101と異なる。樹脂多層基板102の他の構成については、樹脂多層基板101と略同じである。
【0067】
以下、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101と異なる部分について説明する。
【0068】
樹脂多層基板102は、基材10A、導体パターン31等を備える。基材10Aは、第1樹脂層11a,12aをこの順に積層して形成される。第1樹脂層11a,12aは、第1の実施形態で説明した第1樹脂層11,12と略同じである。
【0069】
第1樹脂層11aの表面には、導体パターン31が形成されている。導体パターン31は第1の実施形態で説明したものと同じである。第1樹脂層12aは、裏面(Z軸方向に隣接して密着する第1樹脂層11aとの界面FS1)側に、表面処理によって変質した変質部D2を有する。本実施形態では、変質部D2が第1樹脂層12aの裏面全体に形成されている。
【0070】
このような構成でも、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101と同様に、樹脂層同士の密着性が高い樹脂多層基板を実現できる。
【0071】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、第1樹脂層以外の第2樹脂層を備えた樹脂多層基板の例を示す。
【0072】
図6(A)は第3の実施形態に係る樹脂多層基板103の断面図であり、
図6(B)は樹脂多層基板103の分解断面図である。
図6(A)および
図6(B)では、構造を分かりやすくするため、変質部D2,D3をクロスハッチングで示している。
【0073】
樹脂多層基板103は、基材10Bを備える点で、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101と異なる。樹脂多層基板103の他の部分については、樹脂多層基板101と実質的に同じである。
【0074】
以下、第1の実施形態に係る樹脂多層基板101と異なる部分について説明する。
【0075】
基材10Bは、第1樹脂層11b、第2樹脂層20、第1樹脂層12b、第1樹脂層13bをこの順に積層して形成される。第1樹脂層11b、12b、13bは、第1の実施形態で説明した第1樹脂層11~13と同じものである。第2樹脂層20は、第1樹脂層11b~13b(非変質部)同士の密着性よりも、第1樹脂層11b~13b(非変質部)との密着性の高い接着層である。第2樹脂層20は、例えばパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のようなフッ素樹脂や、ビスマレイミドやスチレンエラストマー、エポキシ等の樹脂シートである。
【0076】
本実施形態では、
図6(B)に示すように、Z軸方向に隣接する2つの第1樹脂層11b,12bが、第2樹脂層20を介して接合されている。なお、第2樹脂層20の厚み(Z軸方向の厚み)は、第1樹脂層11b~13bそれぞれの厚みよりも薄い。
【0077】
さらに、第1樹脂層12bは、表面(Z軸方向に隣接して密着する第1樹脂層13bとの界面FS3)側に変質部D2を有し、第1樹脂層13bは、裏面(Z軸方向に隣接して密着する第1樹脂層12bとの界面FS3)側に変質部D3を有する。本実施形態では、第1樹脂層12bの変質部D2と第1樹脂層13bの変質部D3とが、対向している。
【0078】
上述したように、Z軸方向に隣接する2つの第1樹脂層11b,12bは、(第1樹脂層との密着性が、第1樹脂層同士の密着性よりも高い)第2樹脂層20を介して接合されていてもよい。この構成によれば、密着性の高い変質部を第1樹脂層同士の界面側に設けた場合と同じように、第1樹脂層(非変質部)同士を直接接合する場合よりも、樹脂層同士の界面の密着性を高まる。
【0079】
ノルボルネン系重合体を含む第1樹脂層11b~13bは他の材料の樹脂層に比べて高周波特性に優れるため、高周波特性に優れた樹脂多層基板を実現する点で、第2樹脂層(接着層)を用いず第1樹脂層同士を接合させることが望ましい。また、第2樹脂層を用いずに第1樹脂層同士を接合することで、樹脂層同士の熱膨張係数差に起因する層間剥離も抑制できる。但し、本実施形態で示したように、第2樹脂層20を間に挟んで2つの第1樹脂層11b,12b同士を接合する場合には、第2樹脂層20の厚みが、第1樹脂層11b~13bそれぞれの厚みよりも薄いことが好ましい。第2樹脂層20を薄くすることによって、より低誘電率・低損失(誘電正接が低い)の樹脂多層基板を実現できる。
【0080】
なお、第2樹脂層20は、フッ素樹脂からなる樹脂シートであることが好ましい。フッ素樹脂からなる樹脂シートは、他の材料からなるシートに比べて、低誘電率・低損失、且つ曲げ性にも優れているためである。なお、第2樹脂層20は、フッ素樹脂を含んだ樹脂シート(例えば、ノルボルネン系重合体とフッ素樹脂とを混ぜ合わせた樹脂)でもよい。
【0081】
なお、第2樹脂層20は、第1樹脂層にUV吸収性を高める機能を有する材料を添加材として添加し、レーザー照射または光照射を行って得られた層であってもよい。この場合、第2樹脂層20は、レーザー照射または光照射により第1樹脂層の全体がエステル交換反応を起こして得られる。すなわち、第2樹脂層20の全体が第1樹脂層の変質部と同等の構造を有している。したがって、第2樹脂層20の構造は、
図2のように第1樹脂層11の表面側の一部に変質部D1が形成されている構造とは異なる。また、第2樹脂層20は、加熱により第1樹脂層の全体がエステル交換反応を起こして得られてもよい。
【0082】
また、本実施形態に係る樹脂多層基板103のように、Z軸方向に隣接して密着する2つの第1樹脂層12b,13bは、いずれも界面FS3側に変質部D2,D3を有する構成であってもよい。なお、本実施形態では、第1樹脂層12bの変質部D2と第1樹脂層13bの変質部D3とが、Z軸方向に対向して密着(接合)した構成を示したが、この構成に限定されるものではない。Z軸方向に隣接する2つの第1樹脂層の変質部同士が、Z軸方向に対向していなくてもよい。
【0083】
《実施例》
以下に、本発明の樹脂多層基板の実施例について説明する。本願発明者は、第1の実験として、本発明に係る樹脂多層基板が奏する効果を明確にするために、以下に説明する比較例1および実施例1ないし実施例22を作成した。そして、本願発明者は、比較例1および実施例1ないし実施例22の密着力、凝集破壊率/表面破壊率および面方向における熱膨張係数を測定した。
【0084】
面方向における熱膨張係数とは、以下の式(A)で表される。
ΔL=αLΔT・・・(A)
樹脂層の主面が広がる方向(面方向)の熱膨張係数:α
樹脂層の主面が広がる方向(面方向)における樹脂層の長さ:L
樹脂層の主面が広がる方向(面方向)における樹脂層の伸び量:ΔL
温度上昇:ΔT
なお、本願発明者は、熱膨張係数の測定を以下の手法により行った。本願発明者は、幅5mm、長さ16mmに切り出したサンプルを作製した。そして、本願発明者は、TA instruments社製熱機械的分析装置(商品名:TMA Q400)により、荷重0.1Nの引張りモードで室温から170℃までサンプルを昇温させた。そして、本願発明者は、サンプルを室温まで冷却する過程において、50℃~80℃の範囲内の熱膨張係数の平均値を求めることにより、熱膨張係数を測定した。表1は、比較例1および実施例1ないし実施例22の条件を示した表である。
【0085】
【0086】
P-1は、化学式(3)である。
【0087】
【化3】
ただし、n0、R1~R4は、以下のとおりである。
n0=0
R1:-C(=O)O-C
3H
7
R2:-H
R3:-H
R4:-H
P-2は、化学式(4)である。
【0088】
【化4】
ただし、n0、R1~R4は、以下のとおりである。
n0=0
R1:-C(=O)O-C
3H
7
R2:-H
R3:-C(=O)O-C
3H
7
R4:-H
P-3は、化学式(5)である。
【0089】
【化5】
ただし、n0、R1~R4は、以下のとおりである。
n0=0
R1:-C(=O)O-C
2H
4-COOH
R2:-H
R3:-H
R4:-H
P-4は、化学式(6)である。
【0090】
【化6】
ただし、n0、R1~R4は、以下のとおりである。
n0=0
R1:-C(=O)O-C
2H
4-OH
R2:-H
R3:-H
R4:-H
なお、P-1~P-4の構造を有する第1樹脂層の合成および成膜については、例えば、特開2010-189619号公報および特開2010-286837号公報に記載されている。
【0091】
また、PIADは、樹脂層のUV吸収性を高める機能を有する材料である。PIADは、荒川化学工業株式会社製の溶剤可溶型ポリイミドワニスである。LCP-NFおよびBNは、樹脂層の熱膨張係数を下げる機能を有する材料である。LCP-NFは、例えば、特許5904307号に記載の液晶ポリマーパウダーである。BNは、デンカ株式会社製のデンカボロンナイトライドである。
【0092】
PFAは、AGC株式会社製のAGC Fluon+ EA2000である。SAFYは、ニッカン工業株式会社製のニカフレックスSAFYである。
【0093】
表2は、実験結果を示した表である。
【0094】
【0095】
実施例1ないし実施例8、実施例15、実施例17、実施例19および実施例21の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、比較例1の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。理由は、実施例1ないし実施例8、実施例15、実施例17、実施例19および実施例21がUV照射、プラズマ放電またはコロナ放電により表面処理によって変質された変質部を備えるからである。
【0096】
また、実施例4および実施例5の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、実施例1および実施例2の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。
【0097】
また、実施例6ないし実施例8の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、実施例1および実施例2の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。理由は、実施例6ないし実施例8では、LCP-NFまたはBNが添加されることにより、樹脂層の面方向における熱膨張係数(CTE)が低下したからである。
【0098】
また、実施例9ないし実施例16の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、比較例1の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。理由は、実施例9ないし実施例16が接着層としての第2樹脂層を備えているからである。
【0099】
なお、実施例13ないし実施例16、実施例18、実施例20および実施例22の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、プラズマ放電またはLCP-NFにより向上していることが分かる。
【0100】
本願発明者は、本発明に係る樹脂多層基板が奏する効果を明確にするために、第2の実験として以下に説明する比較例2および実施例23ないし実施例26を作成した。そして、本願発明者は、比較例2および実施例23ないし実施例26のガラス転移温度(Tg)の低下量(ΔTg)、密着力、凝集破壊率/表面破壊率および熱膨張係数を測定した。表3は、比較例2および実施例23ないし実施例26の条件を示した表である。
【0101】
【0102】
P-5は、化学式(7)である。
【0103】
【化7】
ただし、n0、R1~R4は、以下のとおりである。
aについて
n0=0
R1:-C(=O)O-C
2H
4-OH
R2:-H
R3:-H
R4:-H
bについて
n0=0
R1:-C(=O)O-C
2H
4OC
2H
4O-C
4H
9
R2:-H
R3:-H
R4:-H
実施例23ないし実施例26では、表3に示すように第1樹脂層に変質部を形成した。そこで、100重量部のP-1および10重量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルを含有する片面銅貼り板の第1樹脂層にキセノンフラッシュランプを照射した。第1樹脂層の厚みは50μmであった。これにより、第1樹脂層の表層付近の樹脂と添加剤とが反応し、P-5の構造を有する変質部が第1樹脂層の表層付近に形成された。実施例23ないし実施例26では、変質部の厚みは5μmであった。キセノンフラッシュランプの強度およびキセノンフラッシュランプによる発熱は、第1樹脂層の表層から深くなるにつれ減衰する。したがって、第1樹脂層の表層付近ではP-5の構造を有する変質部が形成される。ただし、第1樹脂層の表層から離れるにしたがって、P-5の割合が減少し、P-1の割合が増加する。すなわち、P-5とP-1との組成に傾斜が発生する。P-5とP-1との組成の傾斜は、第1樹脂層の表層から5μmの範囲で発生していた。a/bは、第1樹脂層の表層におけるP-1の質量/第1樹脂層の表層におけるP-5の質量である。
【0104】
本願発明者は、上記のように変質部を形成した第1樹脂層を用いて、ガラス転移温度(Tg)の低下量(ΔTg)および熱膨張係数を測定した。更に、本願発明者は、上記のように変質部を形成した第1樹脂層と変質部を形成していない樹脂層とを貼り合わせて、密着力、凝集破壊率/表面破壊率を測定した。
【0105】
表4は、実験結果を示した表である。
【0106】
【0107】
実施例23ないし実施例26の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、比較例2の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。理由は、実施例23ないし実施例26が変質部を備えるからである。このように、加熱によるエステル交換反応によりP-1の構造をP-5の構造に変質させて得られる変質部によっても、樹脂多層基板の密着力および凝集破壊率/界面破壊率が向上することが分かる。
【0108】
また、実施例25および実施例26に示すように、a/bが低くなると、ΔTgが大きくなっている。これは、第1樹脂層の熱に対する分子運動性が高くなり、第1樹脂層同士の密着性が高まっていることを意味する。
【0109】
なお、実施例24および実施例26においても、LCP-NFまたはBNが添加されることにより、第1樹脂層の面方向における熱膨張係数(CTE)が低下していることが分かる。
【0110】
本願発明者は、本発明に係る樹脂多層基板が奏する効果を明確にするために、第3の実験として以下に説明する比較例3および実施例27ないし実施例29を作成した。そして、本願発明者は、比較例3および実施例27ないし実施例29のガラス転移温度(Tg)の低下量(ΔTg)の密着力、凝集破壊率/表面破壊率および面方向における熱膨張係数を測定した。表5は、比較例3および実施例27ないし実施例29の条件を示した表である。
【0111】
【0112】
実施例27ないし実施例29では、表5に示すように第1樹脂層に変質部を形成した。そこで、P-1およびジエチレングリコールモノブチルエーテルを含有する片面銅貼り板の第1樹脂面にキセノンフラッシュランプを照射した。第1樹脂層の厚みは50μmであった。このとき、エチレングリコールモノブチルエーテルの添加量を10phr~30phrに変化させた。これにより、第1樹脂層の表層付近の樹脂と添加剤とが反応し、P-5の構造を有する変質部が第1樹脂層の表層付近に形成された。実施例27ないし実施例29では、変質部の厚みは5μmであった。キセノンフラッシュランプの強度およびキセノンフラッシュランプによる発熱は、第1樹脂層の表層から深くなるにつれ減衰する。したがって、第1樹脂層の表層付近ではP-5の構造を有する変質部が形成される。ただし、第1樹脂層の表層から離れるにしたがって、P-5の割合が減少し、P-1の割合が増加する。すなわち、P-5とP-1との組成に傾斜が発生する。P-5とP-1との組成の傾斜は、第1樹脂層の表層から5μmの範囲で発生していた。a/bは、第1樹脂層の表層におけるP-1の質量/第1樹脂層の表層におけるP-5の質量である。
【0113】
本願発明者は、上記のように変質部を形成した第1樹脂層を用いて、ガラス転移温度(Tg)の低下量(ΔTg)および熱膨張係数を測定した。更に、本願発明者は、上記のように変質部を形成した第1樹脂層と変質部を形成していない樹脂層とを貼り合わせて、密着力、凝集破壊率/表面破壊率を測定した。
【0114】
表6は、実験結果を示した表である。
【0115】
【0116】
実施例27ないし実施例29の密着力および凝集破壊率/界面破壊率は、比較例3の密着力および凝集破壊率/界面破壊率より高いことが分かる。理由は、実施例27ないし実施例29が変質部を備えるからである。このように、加熱によるエステル交換反応によりP-1の構造をP-5の構造に変質させて得られる変質部によっても、樹脂多層基板の密着力および凝集破壊率/界面破壊率が向上することが分かる。
【0117】
また、実施例27および実施例29に示すように、a/bが低くなると、ΔTgが大きくなっている。これは、第1樹脂層の熱に対する分子運動性が高くなり、第1樹脂層同士の密着性が高まっていることを意味する。
【0118】
実施例23ないし実施例29の樹脂多層基板の製造方法は、以下の通りである。複数の樹脂層は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体を用いた少なくとも1つの第1樹脂層12を有している。
【0119】
【0120】
(一般式(1)中、Xは、O,-CH2-または-CH2-CH2-を示し、置換基R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、またはこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、n1は0~5までの整数である。)
また、第1樹脂層12は、ノルボルネン系重合体と反応する添加剤を含有する。添加剤は、PIADまたはエチレングリコールモノブチルエーテルである。そして、第1樹脂層12のノルボルネン系重合体と添加剤とを表面処理により反応させて、表面処理の効果の減衰に伴って、厚み方向において反応前の材料(P-1)と反応後の材料(P-5)との組成に傾斜を生じさせる。表面処理は、加熱およびUV照射が挙げられる。表面処理の化学反応は、加熱によるエステル交換反応、UV照射によるUV硬化反応等である。実施例23ないし実施例29のように第1樹脂層12において変質部を部分的に形成する手法として、以下の手法が挙げられる。例えば、熱によるエステル交換反応の場合には、キセノンフラッシュランプのように高エネルギーを短パルスで照射することで、第1樹脂層12の表面のみ加熱し、熱拡散させる方法がある。また、近赤外照射処理や赤外照射処理等のように、照射エネルギーが第1樹脂層12に吸収されることにより、第1樹脂層12において変質部を部分的に形成する方法がある。一方、UV硬化によるエネルギー反応の場合は、照射エネルギーが吸収されることにより、第1樹脂層12において変質部を部分的に形成する方法がある。キセノンフラッシュランプの一例は、例えば、ウシオ電機株式会社製の瞬間加熱・高温焼成フラッシュランプアニールが挙げられる。また、松本金属工業株式会社製の近赤外照射処理の一例は、例えば、超近赤外線加熱装置が挙げられる。これらの方法によれば、厚み方向において反応前の材料(P-1)と反応後の材料(P-5)との組成に傾斜を生じる。
【0121】
《その他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、基材が矩形または略矩形の平板である例を示したが、基材の形状はこれに限定されるものではない。基材の形状は、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更可能である。基材の平面形状は、例えば多角形、円形、楕円形、L字形、U字形、クランク形、T字形、Y字形等でもよい。
【0122】
また、以上に示した各実施形態では、3つの第1樹脂層を積層して形成された基材、または3つの第1樹脂層と1つの第2樹脂層とを積層して形成された基材の例を示したが、本発明の基材はこの構成に限定されるものではない。基材を形成する第1樹脂層の層数および第2樹脂層の層数は、適宜変更可能である。また、基材の表面にカバーレイフィルムやレジスト膜等の保護層が形成されていてもよい。
【0123】
また、樹脂多層基板に形成される回路構成は、以上に示した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更可能である。樹脂多層基板に形成される回路は、例えば導体パターンで形成されるコイル(インダクタ)やキャパシタ、各種フィルタ(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ)等の周波数フィルタが形成されていてもよい。また、樹脂多層基板には、各種伝送線路(ストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナライン等)が形成されていてもよい。さらに、樹脂多層基板には、チップ部品等の各種電子部品が実装または埋設されていてもよい。
【0124】
なお、導体パターン31,32の形状・位置・個数は、以上に示した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更可能である。導体パターンの平面形状は、例えば多角形、円形、楕円形、円弧状、リング状、L字形、U字形、T字形、クランク形等でもよい。また、以上に示した各実施形態では、導体パターン31,32が基材の内部に形成される例を示したが、導体パターン(外部接続用の電極を含む)は、基材の表面に形成されていてもよい。さらに、樹脂多層基板は、回路に接続されないダミー電極(ダミー導体)を備えていてもよい。
【0125】
また、以上に示した各実施形態では、第1樹脂層12に設けた孔に配設(充填)した導電性ペーストを、加熱プレス処理によって固化してなる層間接続導体V1の例を示したが、層間接続導体はこれに限定されるものではない。樹脂多層基板に形成される層間接続導体は、例えば、樹脂層に形成した孔内にめっき処理によって設けられためっきビア(スルーホールめっき、またはフィルドビアめっき)、上記めっきビア(または金属ピン等)とめっきビアに接合される導電性接合材とを有した導体等でもよい。
【0126】
なお、
図6の樹脂多層基板101において、複数の第1樹脂層11b~13bのうち少なくとも1以上の第1樹脂層が、第2樹脂層20と接合されていればよい。例えば、
図6の樹脂多層基板101において、第1樹脂層11bの代わりに、第3樹脂層が第2樹脂層20と接合されていてもよい。この場合、複数の1つの第1樹脂層12bが、第2樹脂層20と接合されている。
【0127】
なお、
図6の樹脂多層基板101において、変質部D2,D3は必須ではない。
【0128】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0129】
CN1,CN2…接続部
SL…線路部
D1,D2,D3…変質部
ND1,ND2,ND3…非変質部
FS1,FS2,FS3…界面
V1…層間接続導体
VS1…第1主面
VS2…第2主面
1…筐体
2…バッテリーパック
10,10A,10B…基材
11,11a,11b,12,12a,12b,13,13b…第1樹脂層
20…第2樹脂層
31,32…導体パターン
51,52…プラグ
61,62…レセプタクル
71,72…電子部品
101,101A,102,103…樹脂多層基板
201,202…回路基板
301…電子機器