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  • 特許-樹脂シート及び樹脂多層基板 図1
  • 特許-樹脂シート及び樹脂多層基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】樹脂シート及び樹脂多層基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220823BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220823BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220823BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220823BHJP
   B32B 27/36 20060101ALN20220823BHJP
【FI】
B32B27/00 A
B32B27/30 D
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
H05K1/03 610H
B32B27/36
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021537343
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020029986
(87)【国際公開番号】W WO2021025056
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019144542
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】西村 道治
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-171538(JP,A)
【文献】特開2002-265729(JP,A)
【文献】特開2019-52288(JP,A)
【文献】特開2003-200534(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098012(WO,A1)
【文献】特開2019-65061(JP,A)
【文献】特開2013-151638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0301627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/30
C08J 5/18
H05K 1/03
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の樹脂材料と、前記1種以上の樹脂材料の重量の合計より少ない重量の液晶ポリマーとを、含んでおり、
前記1種以上の樹脂材料を含み、かつ、前記液晶ポリマーを含まない比較樹脂シートが有する面方向の熱膨張係数より小さい面方向の熱膨張係数を有しており
前記液晶ポリマーは、ナノファイバー液晶ポリマーである、
樹脂シート。
【請求項2】
前記1種以上の樹脂材料の比誘電率は、前記液晶ポリマーの比誘電率より小さい、
請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記1種以上の樹脂材料の誘電正接は、前記液晶ポリマーの誘電正接より小さい、
請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記液晶ポリマーは、繊維状の粒子を含んでいる、
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記繊維状の粒子は、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上であり、
前記繊維状の粒子の平均径は、1μm以下である、
請求項4に記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記1種以上の樹脂材料の融点の内の最も高い融点は、前記液晶ポリマーの融点より30℃以上低い、
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記1種以上の樹脂材料は、フッ素樹脂である、
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項8】
前記フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカンである、
請求項7に記載の樹脂シート。
【請求項9】
前記樹脂シートの面方向の熱膨張係数は、5ppm/℃以上20ppm/℃以下である、
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の複数の樹脂シートが積層された構造を有する積層体を備えている、
樹脂多層基板。
【請求項11】
前記樹脂多層基板は、前記樹脂シートの積層方向が変化する曲げ部を、有している、
請求項10に記載の樹脂多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料により作製された樹脂シート及び樹脂多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速通信用回路基板の誘電体として、低誘電率及び低誘電正接を有する誘電体材料を用いた銅貼り積層板及び多層プリント基板が検討されている。低誘電率及び低誘電正接を有する誘電体材料として、環状オレフィンポリマーやフッ素樹脂材料等の熱可塑性樹脂の開発が盛んである。一方で、低誘電率及び低誘電正接を有する熱可塑性樹脂は、高い熱膨張係数を有している。そのため、熱可塑性樹脂の熱膨張係数と導体である銅箔の熱膨張係数との差により、熱負荷による変形差から、反り、精度悪化、ハンドリング性の悪化が生じる。
【0003】
従来の樹脂シートに関する発明としては、例えば、特許文献1に記載の多層プリント回路基板が知られている。この多層プリント回路基板では、フッ素系基材層が積層された構造を有している。フッ素系基材層は、ガラスクロスに未焼結のPTFE(ポリテトラフロオロエチレン)を含浸させたプリプレグである。ガラスクロスの熱膨張係数は、PTFEの熱膨張係数より低い。これにより、フッ素系基材層の熱膨張係数が低下する。その結果、特許文献1に記載の多層プリント回路基板では、多層プリント回路基板内の導電体層の熱膨張係数とフッ素系基材層の熱膨張係数との差に起因する多層プリント回路基板の歪や反りが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-268365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスクロスがフッ素系基材層に含まれると、多層プリント回路基板の脆くなる。そのため、多層プリント回路基板を曲げて用いることが難しくなる。
【0006】
本発明の目的は、樹脂シートの熱膨張係数を低下させつつ、樹脂シートが脆くなることを抑制できる樹脂シート及び樹脂多層基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、ガラスクロス等の無機物は、熱膨張係数を低下させる機能を有する。しかしながら、ガラスクロス等の無機物は、高誘電率及び高誘電正接を有する。そのため、ガラスクロスなどの無機物がフッ素系基材層に添加されると、フッ素系基材層の誘電特性が悪化する。本願発明者は、このような観点から、ガラスクロス等の無機物に代わる材料について検討したところ、本願発明に思い至った。
【0008】
本発明の樹脂多層基板は、
1種以上の樹脂材料と、前記1種以上の樹脂材料の重量の合計より少ない重量の液晶ポリマーとを、含んでおり、
前記1種以上の樹脂材料を含み、かつ、前記液晶ポリマーを含まない比較樹脂シートが有する面方向の熱膨張係数より小さい面方向の熱膨張係数を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂シートの熱膨張係数を低下させつつ、樹脂シートが脆くなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、樹脂多層基板10の分解斜視図である。
図2図2は、樹脂多層基板10の断面図である。
図3図3は、電子機器1の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[樹脂多層基板の構造]
以下に、本発明の実施形態に係る樹脂多層基板10の構造について図面を参照しながら説明する。図1は、樹脂多層基板10の分解斜視図である。図2は、樹脂多層基板10の断面図である。図3、電子機器1の正面図である。
【0012】
まず、本明細書において、方向を以下のように定義する。樹脂多層基板10の積層体12の積層方向を上下方向と定義する。樹脂多層基板10の信号導体層18が延びる方向を前後方向と定義する。樹脂多層基板10の信号導体層18の線幅方向を左右方向と定義する。上下方向、前後方向及び左右方向は、互いに直交している。なお、本明細書における方向の定義は、一例である。従って、樹脂多層基板10の実使用時における方向と本明細書における方向とが一致している必要はない。
【0013】
樹脂多層基板10は、例えば、携帯電話等の電子機器内において、2つの回路を接続するために用いられる。樹脂多層基板10は、図1に示すように、積層体12、信号導体層18、第1グランド導体層20、第2グランド導体層22、外部電極24,26、複数の第1層間接続導体v1、複数の第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12を備えている。
【0014】
なお、図1では、複数の第1層間接続導体v1及び複数の第2層間接続導体v2の内の代表的な層間接続導体、導体非形成部及び空隙に参照符号を付した。
【0015】
積層体12は、板形状を有している。積層体12は、図1に示すように、上下方向に見て、前後方向に延びる長辺を有する長方形状を有している。従って、積層体12の前後方向の長さは、積層体12の左右方向の長さより長い。積層体12の前後方向の長さは、積層体12の上下方向の長さより長い。積層体12は、可撓性を有する。
【0016】
積層体12は、図1に示すように、樹脂シート16a~16d及びレジスト層17a,17bが上下方向(積層方向)に積層された構造を有している。レジスト層17a、樹脂シート16a~16d及びレジスト層17bは、上から下へとこの順に並ぶように積層されている。樹脂シート16a~16dは、可撓性を有する誘電体シートである。樹脂シート16a~16dの材料については後述する。樹脂シート16a~16dは、上下方向に見て、積層体12と同じ長方形状を有している。また、レジスト層17a,17bの詳細については後述する。
【0017】
信号導体層18は、図1に示すように、積層体12に設けられている。より詳細には、信号導体層18は、樹脂シート16cの上面に設けられている。これにより、信号導体層18は、積層体12内に設けられている。信号導体層18は、前後方向に延びる線形状を有している。信号導体層18は、樹脂シート16cの上面の左右方向の中央に配置されている。信号導体層18の前端は、樹脂シート16cの前端部に位置している。信号導体層18の後端は、樹脂シート16cの後端部に位置している。信号導体層18には、高周波信号が伝送される。
【0018】
第1グランド導体層20は、積層体12に設けられている。第1グランド導体層20は、上下方向に見て信号導体層18と重なるように、信号導体層18の上に配置されている。第1グランド導体層20は、樹脂シート16aの上面に設けられている。第1グランド導体層20は、図1に示すように、上下方向に見て、前後方向に延びる長辺を有する長方形状を有している。第1グランド導体層20は、上下方向に見て、積層体12と略一致する形状を有している。ただし、第1グランド導体層20は、上下方向に見て、積層体12より僅かに小さい。第1グランド導体層20には、グランド電位が接続される。
【0019】
第2グランド導体層22は、積層体12に設けられている。第2グランド導体層22は、上下方向に見て、信号導体層18と重なるように、信号導体層18の下に配置されている。より詳細には、第2グランド導体層22は、樹脂シート16dの下面に設けられている。第2グランド導体層22は、図1に示すように、上下方向に見て、前後方向に延びる長辺を有する長方形状を有している。第2グランド導体層22は、上下方向に見て、積層体12と略一致する形状を有している。ただし、第2グランド導体層22は、上下方向に見て、積層体12より僅かに小さい。第2グランド導体層22には、グランド電位が接続される。以上のような、信号導体層18、第1グランド導体層20及び第2グランド導体層22は、図2に示すように、ストリップライン構造を有している。
【0020】
外部電極24は、樹脂シート16dの下面の左端部に設けられている。外部電極24は、上下方向に見て、長方形状を有している。外部電極24が第2グランド導体層22と絶縁されるように、外部電極24の周囲には第2グランド導体層22が設けられていない。外部電極24は、上下方向に見て、信号導体層18の前端部と重なっている。高周波信号は、外部電極24を介して、信号導体層18に入出力する。外部電極26は、外部電極24と前後対称な構造を有する。従って、外部電極26の説明を省略する。
【0021】
レジスト層17a,17bは、可撓性を有する保護層である。レジスト層17a,17bは、上下方向に見て、積層体12と同じ長方形状を有している。レジスト層17aは、樹脂シート16aの上面の全面を覆っている。これにより、レジスト層17aは、第1グランド導体層20を保護している。
【0022】
レジスト層17bは、樹脂シート16dの下面の略全面を覆っている。これにより、レジスト層17bは、第2グランド導体層22を保護している。ただし、レジスト層17bには、開口h11~h18が設けられている。開口h11は、上下方向に見て、外部電極24と重なっている。これにより、外部電極24は、開口h11を介して樹脂多層基板10から外部に露出している。開口h12は、開口h11の右に設けられている。開口h13は、開口h11の前に設けられている。開口h14は、開口h11の左に設けられている。これにより、第2グランド導体層22は、開口h12~h14を介して樹脂多層基板10から外部に露出している。なお、開口h15~h18はそれぞれ、開口h11~h14と前後対称な構造を有する。従って、開口h15~h18の説明を省略する。
【0023】
以上のような信号導体層18、第1グランド導体層20、第2グランド導体層22及び外部電極24,26は、例えば、樹脂シート16a~16dの上面又は下面に設けられた銅箔にエッチングが施されることにより形成されている。
【0024】
複数の第1層間接続導体v1は、信号導体層18の左に位置するように、積層体12に設けられている。複数の第1層間接続導体v1は、前後方向に等間隔に一列に並ぶように配置されている。複数の第1層間接続導体v1は、樹脂シート16a~16dを上下方向に貫通している。複数の第1層間接続導体v1の上端は、図2に示すように、第1グランド導体層20に接続されている。複数の第1層間接続導体v1の下端は、図2に示すように、第2グランド導体層22に接続されている。これにより、複数の第1層間接続導体v1は、第1グランド導体層20と第2グランド導体層22とを電気的に接続している。
【0025】
複数の第2層間接続導体v2は、信号導体層18の右に位置するように、積層体12に設けられている。複数の第2層間接続導体v2は、前後方向に等間隔に一列に並ぶように配置されている。複数の第2層間接続導体v2は、樹脂シート16a~16dを上下方向に貫通している。複数の第2層間接続導体v2の上端は、図2に示すように、第1グランド導体層20に接続されている。複数の第2層間接続導体v2の下端は、図2に示すように、第2グランド導体層22に接続されている。これにより、複数の第2層間接続導体v2は、第1グランド導体層20と第2グランド導体層22とを電気的に接続している。
【0026】
層間接続導体v11は、樹脂シート16c,16dの前端部に設けられている。層間接続導体v11は、樹脂シート16c,16dを上下方向に貫通している。層間接続導体v11の上端は、信号導体層18の前端部に接続されている。層間接続導体v11の下端は、外部電極24に接続されている。これにより、層間接続導体v11は、信号導体層18と外部電極24とを電気的に接続している。なお、層間接続導体v12は、層間接続導体v11と前後対称な構造を有する。従って、層間接続導体v12の説明を省略する。
【0027】
以上のような複数の第1層間接続導体v1、複数の第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12は、ビアホール導体である。ビアホール導体の形成は、以下の通りである。レーザービームにより樹脂シート16a~16dに貫通孔を形成する。金属と樹脂との混合物である導電性ペーストを貫通孔に充填する。樹脂シート16a~16dの熱圧着の際に導電性ペーストが焼成されることにより、ビアホール導体が形成される。導電性ペーストが用いられることにより、樹脂シート16a~16dの一括加熱プレス時に、複数の第1層間接続導体v1、複数の第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12を接続できる。そのため、複数の第1層間接続導体v1、複数の第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12を容易に形成できると共に、複数の第1層間接続導体v1、複数の第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12の配置の自由度が高くなる。
【0028】
次に、樹脂多層基板10を備える電子機器1について図3を参照しながら説明する。電子機器1は、樹脂多層基板10及び回路基板100を備えている。樹脂多層基板10は、コネクタ30a,30bを更に備えている。コネクタ30aは、レジスト層17bの下面の前端部に実装される。コネクタ30aは、中心導体及び外導体を含んでいる。中心導体は、はんだにより外部電極24に電気的に接続される。外導体は、はんだにより第2グランド導体層22に電気的に接続される。
【0029】
コネクタ30bは、レジスト層17bの下面の後端部に実装される。コネクタ30bは、中心導体及び外導体を含んでいる。中心導体は、はんだにより外部電極26に電気的に接続される。外導体は、はんだにより第2グランド導体層22に電気的に接続される。
【0030】
回路基板100は、基板本体102及びコネクタ104a,104bを備えている。基板本体102は、板形状を有している。コネクタ104aは、基板本体102の前部の上面に実装されている。コネクタ104aは、中心導体及び外導体を含んでいる。コネクタ104aの中心導体は、コネクタ30aの中心導体に接続される。コネクタ104aの外導体は、コネクタ30aの外導体に接続される。
【0031】
コネクタ104bは、基板本体102の後部の上面に実装されている。コネクタ104bは、中心導体及び外導体を含んでいる。コネクタ104bの中心導体は、コネクタ30bの中心導体に接続される。コネクタ104bの外導体は、コネクタ30bの外導体に接続される。
【0032】
ところで、図3に示すように、コネクタ104aの上下方向における位置は、コネクタ104bの上下方向における位置と異なる。そのため、樹脂多層基板10は、曲げられて使用される。具体的には、積層体12の上面が山折りされている共に、積層体12の上面が谷折りされている。このように、樹脂多層基板10は、樹脂シート16a~16dの積層方向が変化する曲げ部12aを、有している。
【0033】
[樹脂シートの樹脂材料]
次に、本実施形態に係る樹脂シートの樹脂材料について説明する。なお、積層前の樹脂シートを積層後の樹脂シート16a~16dと区別して、樹脂シート16と呼ぶ。
【0034】
樹脂シート16の材料は、高周波特性の観点から低い比誘電率及び低い誘電正接を有していることが好ましい。このような、低い比誘電率及び低い誘電正接を有している材料としては、例えば、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、COP(環状オレフィンポリマー)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)が挙げられる。PFAには、例えば、AGC株式会社製のFluon+EA2000を用いることができる。COPには、例えば、日本ゼオン株式会社製のZEONORを用いることができる。SPSには、例えば、クラボウ社製のOidysを用いることができる。樹脂シート16がPFA、COP、SPSのような小さな比誘電率及び小さな誘電正接を有する樹脂材料を含んでいると、高周波特性に優れた樹脂多層基板10が得られる。
【0035】
しかしながら、PFA、COP、SPSのような小さな比誘電率及び小さな誘電正接を有する樹脂材料は、表1に示すように、大きな熱膨張係数を有している。PFA、COP、SPS及びLCP(液晶ポリマー)の物性値を示した表である。
【0036】
【表1】
【0037】
樹脂シート16の樹脂材料の熱膨張係数が大きくなると、以下に説明するように、樹脂多層基板10の製造時に樹脂多層基板10に歪や反りが発生する場合がある。樹脂多層基板10は、信号導体層18、第1グランド導体層20及び第2グランド導体層22のように導体層を備えている。導体層の材料は、例えば、銅である。銅の熱膨張係数は、約16である。一方、表1に示すように、PFAの熱膨張係数は、200より大きい。COPの熱膨張係数は、60以上である。SPSの熱膨張係数は、60より大きい。このように、PFA、COP、SPSのような小さな比誘電率及び小さな誘電正接を有する樹脂材料の熱膨張係数は、銅の熱膨張係数より大きい場合がある。そのため、樹脂シート16の熱圧着工程において、樹脂シート16の単位長さ当たりの伸び量と信号導体層18、第1グランド導体層20及び第2グランド導体層22の単位長さ当たりの伸び量とに差が生じる。その結果、樹脂多層基板10に歪や反りが発生する場合がある。
【0038】
そこで、本願発明者は、樹脂シート16の樹脂材料を以下の様に設計した。樹脂シート16は、1種以上の樹脂材料、及び、1種以上の樹脂材料の重量の合計より少ない重量の液晶ポリマーを含んでいる。なお、1種以上の樹脂材料は、樹脂シート16に含まれる樹脂材料の内の液晶ポリマーを除く部分である。1種以上の樹脂材料は、LCPの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有している。これにより、樹脂シート16は、第1比較樹脂シートが有する面方向の熱膨張係数より小さい面方向の熱膨張係数を有している。第1比較樹脂シートとは、1種以上の樹脂材料を含み、かつ、LCPを含まない樹脂シートである。第1比較樹脂シートは、樹脂シート16と同じ構造を有している。樹脂シート16の面方向の熱膨張係数は、例えば、5ppm/℃以上20ppm/℃以下であることが好ましい。樹脂シート16の面方向の熱膨張係数は、10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0039】
面方向の熱膨張係数とは、以下の式(A)で表される。
ΔL=αLΔT・・・(A)
樹脂シート16の主面が広がる方向(面方向)の熱膨張係数:α
樹脂シート16の主面が広がる方向(面方向)における樹脂シート16の長さ:L
樹脂シート16の主面が広がる方向(面方向)における樹脂シート16の伸び量:ΔL
温度上昇:ΔT
なお、本願発明者は、熱膨張係数の測定を以下の手法により行った。本願発明者は、幅5mm、長さ16mmに切り出したサンプルを作製した。そして、本願発明者は、TA instruments社製熱機械的分析装置(商品名:TMA Q400)により、荷重0.1Nの引張りモードで室温から170℃までサンプルを昇温させた。そして、本願発明者は、サンプルを室温まで冷却する過程において、50℃~80℃の範囲内の熱膨張係数の平均値を求めることにより、熱膨張係数を測定した。
【0040】
更に、1種以上の樹脂材料の比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。また、1種以上の誘電正接の比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。
【0041】
1種以上の樹脂材料は、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、PFAである。PFAの熱膨張係数は、表1に示すように、LCPの熱膨張係数より大きい。更に、PFAの比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。また、PFAの誘電正接は、LCPの誘電正接より小さい。
【0042】
また、1種以上の樹脂材料は、例えば、COPであってもよい。COPの熱膨張係数は、表1に示すように、LCPの熱膨張係数より大きい。更に、COPの比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。また、COPの誘電正接は、LCPの誘電正接より小さい。
【0043】
また、1種以上の樹脂材料は、例えば、SPSであってもよい。SPSの熱膨張係数は、表1に示すように、LCPの熱膨張係数より大きい。更に、SPSの比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。また、SPSの誘電正接は、LCPの誘電正接より小さい。
【0044】
このように、樹脂シート16が、LCPの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有する1種以上の樹脂材料と、1種以上の樹脂材料の重量の合計より少ない重量のLCPとを、含んでいる。そのため、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数は、1種以上の樹脂材料を含み、かつ、LCPを含まない第1比較樹脂シートの面方向の熱膨張係数より小さくなる。従って、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数は、導体層の熱膨張係数に近づくようになる。これにより、樹脂多層基板10の製造時に樹脂多層基板10に歪や反りが発生することが抑制される。特に、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数が20ppm/℃以下であれば、樹脂多層基板10の製造時に樹脂多層基板10に歪や反りが発生することが効果的に抑制される。
【0045】
また、LCPは、ガラスクロスと異なり、柔軟性を有する。従って、樹脂シート16がLCPを含んでいたとしても、樹脂シート16が脆くなることが抑制される。その結果、可撓性に優れた樹脂多層基板10を得ることができる。
【0046】
また、1種以上の樹脂材料の比誘電率は、LCPの比誘電率より小さい。これにより、樹脂シート16の比誘電率は、LCPのみを樹脂材料として含む第2比較樹脂シートの比誘電率より低くなる。その結果、樹脂多層基板10の高周波特性が向上する。
【0047】
また、1種以上の樹脂材料の誘電正接がLCPの誘電正接より小さい場合、樹脂シート16の誘電正接は、LCPのみを樹脂材料として含む第2比較樹脂シートの誘電正接より低くなる。その結果、樹脂多層基板10の高周波特性が向上する。
【0048】
ところで、樹脂シート16が含むLCPの量が多くなると、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数が小さくなる。しかしながら、樹脂シート16が含むLCPの量が多くなり過ぎると、樹脂シート16の比誘電率及び誘電正接が大きくなってしまう。この場合、樹脂多層基板10において良好な高周波特性を得ることが難しくなる。そこで、樹脂シート16は、1種以上の樹脂材料の重量の合計より少ない重量のLCPを含んでいればよい。樹脂シート16は、100重量部の1種以上の樹脂材料、及び、10重量部以上70重量部以下のLCPを含んでいることが好ましい。樹脂シート16は、100重量部の1種以上の樹脂材料、及び、15重量部以上50重量部以下のLCPを含んでいることがより好ましい。樹脂シート16は、100重量部の1種以上の樹脂材料、及び、20重量部以上40重量部以下のLCPを含んでいることが特に好ましい。
【0049】
[LCP-NF]
ところで、LCPは、図2に示すように、繊維状の粒子を含んでいることが好ましい。具体的には、LCPは、LCP-NF(ナノファイバー液晶ポリマー)であることが好ましい。以下に、LCP-NFについて説明する。
【0050】
LCP-NFは、繊維部と、塊状部とを含んでいる。繊維部は、繊維状の粒子が凝集した凝集部として、LCP-NFに含まれていてもよいし、塊状部は、塊状の粒子を含みつつ凝集した凝集部としてLCPに含まれていてもよい。なお、LCP-NFは、塊状部を含まなくてもよい。
【0051】
繊維部は、繊維状の粒子である。本実施形態において、繊維状の粒子は、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上のLCP粒子である。繊維状の粒子の長手方向の長さ及び繊維径は、走査型電子顕微鏡で繊維状の粒子を観察したときに得られる繊維状の粒子の画像データから測定することができる。
【0052】
LCP-NFにおいては、繊維状の粒子の平均径は、1μm以下である。繊維部の平均径の値は、繊維部を構成する複数の繊維状の粒子における繊維径の平均値である。このように、本実施形態に係るLCP-NFは、微細繊維状の粒子を含んでいる。
【0053】
塊状部は、実質的に繊維化されていないLCP-NFである。塊状部は、扁平状の外形を有していてもよい。LCP-NFにおいて、塊状部の含有率が20%以下である。すなわち、LCP-NFにおいて、塊状部の含有率が比較的低くなっている、又は、LCP-NFは、塊状部を含んでいない。塊状部の含有率は、LCP-NFに含まれる凝集部の数に対する塊状部の数で評価される。LCP-NFを平面に載置したときに最大高さが10μmより大きい凝集部が、塊状部であり、最大高さが10μm以下の凝集部が、繊維部である。
【0054】
以上のように、LCPがLCP-NFであることにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数がより小さくなる。具体的には、繊維状の粒子は、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上である。更に、繊維状の粒子の平均径は、1μm以下である。このような、LCP-NFは、表面積が大きいという性質を有する。そのため、LCP-NFは、他の部材(すなわち、1種以上の樹脂材料)と密着しやすい。更に、LCP-NFの主鎖構造の長手方向の熱膨張係数は負である。これにより、樹脂シート16の温度が上昇した際に、1種以上の樹脂材料が延びることをLCP-NFが効果的に妨げるようになる。よって、LCPがLCP-NFであることにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数がより小さくなる。また、樹脂シート16が少量のLCP-NPを含むことにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数が十分に小さくなる。
【0055】
また、以下の理由によっても、LCPがLCP-NFであることにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数がより小さくなる。より詳細には、樹脂シート16の形成時には、1種以上の樹脂材料を溶媒に溶融させた溶液を作製する。更に、溶液に、LCP-NFを混合する。この溶液をスピンコーティング等により、金属板上に塗り広げる。そして、乾燥工程にて、溶媒を揮発させる。溶媒の揮発に伴い、溶液の厚みが薄くなる。LCP-NFは、繊維状の粒子である。そのため、繊維状の粒子は、溶液内において倒れる。その結果、LCP-NFの主鎖構造の長手方向は、図2に示すように、樹脂シート16の面方向に沿った方向となる。前記の通り、LCP-NFの主鎖構造の長手方向の熱膨張係数は負である。これにより、樹脂シート16の温度が上昇した際に、1種以上の樹脂材料が面方向に伸びることをLCP-NFが効果的に妨げるようになる。以上より、LCPがLCP-NFであることにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数がより小さくなる。また、樹脂シート16が少量のLCP-NPを含むことにより、樹脂シート16の面方向の熱膨張係数が十分に小さくなる。
【0056】
また、LCP-NFは、サーモトロピック液晶ポリマーからなる。LCP-NFは、不活性雰囲気下で400℃まで加熱した後、40℃/min以上の降温速度で常温まで冷却し、再び40℃/minの昇温速度で加熱しつつ示差走査熱量計を用いて測定した吸熱ピーク温度が、330℃を超える。これにより、LCP-NFは耐熱性が高く、電子材料として用いることができる。なお、本明細書においては、上記のように測定される吸熱ピーク温度を、単に「融点」という場合がある。
【0057】
LCP-NFは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置を用いた粒度測定により測定されるD50の値が、13μm以下であることが好ましい。
【0058】
[樹脂シート16の製造方法]
次に、樹脂シート16の製造方法について説明する。樹脂シート16の製造方法では、まず、LCP-NFを作製する。LCP-NFの製造方法は、粗粉砕工程と、微粉砕工程と、粗粒除去工程と、繊維化工程とを、この順で備えている。
【0059】
粗粉砕工程においては、まず、原料として、LCPの成形物を準備する。LCPの成形物としては、一軸配向したペレット状、二軸配向したフィルム状、又は、粉体状のLCPが挙げられる。LCPの成形物としては、製造コスト等の観点から、ペレット状又は粉体状のLCPが好ましく、ペレット状のLCPがより好ましい。LCPの成形物には、電解紡糸法又はメルトブロー法などにより直接成形された繊維状のLCPは含まれない。ただし、LCPの成形物には、ペレット状のLCP又は粉体状のLCPを破砕することにより繊維状に加工されたLCPが含まれていてもよい。
【0060】
LCPの成形物の融点は、330℃より大きいことが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。これにより、電子部品用材料として好適な耐熱性の高いLCP-NFが得られる。
【0061】
次に、LCPの成形物を粗粉砕することで、粗粉砕LCPを得る。例えば、LCPの成形物を、カッターミル装置で粗粉砕することにより、粗粉砕LCPを得る。粗粉砕LCPの粒子の大きさは、後述する微粉砕工程の原料として用いることができる限り、特に限定されない。粗粉砕LCPの最大粒径は、例えば3mm以下である。
【0062】
LCP-NFの製造方法は、粗粉砕工程を必ずしも備えていなくてもよい。例えば、LCPの成形物が微粉砕工程の原料として用いることができるものであれば、LCPの成形物を直接微粉砕工程の原料として使用してもよい。
【0063】
微粉砕工程においては、LCPとして、粗粉LCPを、液体窒素に分散させた状態で粉砕して、粒状の微粉砕LCPを得る。微粉砕工程においては、メディアを用いて、液体窒素に分散している粗粉砕LCPを粉砕する。メディアは、例えば、ビーズである。微粉砕工程においては、液体窒素を取り扱うという観点から、比較的技術的な問題が少ないビーズミルを用いることが好ましい。微粉砕工程に用いることができる装置としては、例えば、アイメックス社製の液体窒素ビーズミルである「LNM-08」が挙げられる。
【0064】
微粉砕工程において、液体窒素にLCPを分散させた状態で粉砕する粉砕方法は、従来の凍結粉砕法とは異なる。従来の凍結粉砕法は、被粉砕原料及び粉砕装置本体に液体窒素を注ぎかけながら、被粉砕原料を粉砕する方法であるが、被粉砕原料が粉砕される時点において液体窒素は気化している。すなわち、従来の凍結粉砕法では、被粉砕原料が粉砕される時点において被粉砕原料は液体窒素に分散していない。
【0065】
従来の凍結粉砕法においては、被粉砕原料自体が有する熱、粉砕装置から発生する熱、及び、被粉砕原料の粉砕により発生する熱が、液体窒素をきわめて短時間に気化させる。このため、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部に位置する粉砕中の原料は、液体窒素の沸点である-196℃よりはるかに高い温度となっている。すなわち、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部の温度が通常0℃~100℃程度の条件下で粉砕を実施している。従来の凍結粉砕法において、可能な限り液体窒素を供給した場合においても、粉砕装置の内部の温度は、最も低い場合でおよそ-150℃である。
【0066】
このため、従来の凍結粉砕法において、例えば、一軸配向したペレット状のLCP又はペレット状のLCPの粗粉砕物を粉砕した場合には、LCPの分子軸の軸方向に略平行な面に沿って粉砕が進行するため、アスペクト比が大きく、かつ、繊維径が1μmよりはるかに大きい繊維状のLCPが得られる。すなわち、従来の凍結粉砕方向において、一軸配向したペレット状のLCP又はペレット状のLCPの粗粉砕物を粉砕しても、粒状の微粉砕LCPを得ることができない。
【0067】
被粉砕原料を液体窒素に分散させた状態で粉砕するため、従来の凍結粉砕法と比較して、より一層冷却された状態の原料を粉砕できる。具体的には、液体窒素の沸点である-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕できる。-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕すると、被粉砕原料の脆性破壊が繰り返されることで、原料の粉砕が進行する。これにより、例えば、一軸配向したLCPを粉砕した場合においても、LCPの分子軸の軸方向に略平行な面での破壊が進行するだけでなく、上記軸方向に交差する面に沿って脆性破壊が進行するため、粒状の微粉砕LCPを得ることができる。
【0068】
また、微粉砕工程においては、液体窒素中において、脆性破壊することで粒状となったLCPに対して、脆化させた状態のまま、引き続きメディアなどで衝撃を与え続ける。これにより、微粉砕工程において得られたLCPには、外側表面から内部にかけて複数の微細なクラックが形成されている。
【0069】
微粉砕工程により得られる粒状の微粉砕LCPは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置で測定したD50が50μm以下であることが好ましい。これにより、下記に示す繊維化工程において粒状の微粉砕LCPがノズルで詰まることを抑制することができる。
【0070】
粗粒除去工程において、上記微粉砕工程で得られた粒状の微粉砕LCPから粗粒を除去する。例えば、粒状の微粉砕LCPをメッシュで篩いにかけることにより、篩下の粒状の微粉砕LCPを得ると共に、篩上の粒状のLCPを除去することで、粒状の微粉砕LCPに含まれる粗粒を除去することができる。メッシュの種類は適宜選択すればよいが、メッシュとしては、例えば目開きが53μmのものが挙げられる。なお、LCP-NFの製造方法は、粗粒除去工程を必ずしも備えていなくてもよい。
【0071】
繊維化工程においては、粒状LCPを湿式高圧破砕装置で破砕して、LCP-NFを得る。繊維化工程においては、まず、微粉砕LCPを分散媒に分散させる。分散させる微粉砕LCPは、粗粒が除去されていなくてもよいが、粗粒が除去されていることが好ましい。分散媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、キシレン、フェノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ヘキサン、又は、これらの混合物等が挙げられる。
【0072】
次に、分散媒に分散させた状態の微粉砕LCP、すなわち、スラリー状の微粉砕LCPを、高圧で加圧した状態で、ノズルを通過させる。高圧でノズルを通過させることにより、ノズルでの高速流動による剪断力又は衝突エネルギーがLCPに作用して、粒状の微粉砕LCPを破砕することで、LCPの繊維化が進行し、LCP-NFを得ることができる。上記ノズルのノズル径は、高い剪断力又は高い衝突エネルギーを与えるという観点から、上記ノズルにおいて微粉砕LCPの詰まりが発生しない範囲で可能な限り小さくすることが好ましい。粒状の微粉砕LCPは粒径が比較的小さいため、繊維化工程において用いる湿式高圧破砕装置におけるノズル径を小さくすることができる。ノズル径は、例えば0.2mm以下である。
【0073】
上記したように、粒状の微粉砕LCP-NFに複数の微細なクラックが形成されている。このため、湿式高圧分散器での加圧により、分散媒が、微細なクラックから微粉砕LCPの内部に侵入する。そして、スラリー状の微粉砕LCPがノズルを通過して常圧下に位置したときに、微粉砕LCPの内部に侵入した分散媒がわずかな時間で膨張する。微粉砕LCP内部に侵入した分散媒が膨張することにより、微粉砕LCPの内部から、破壊が進行する。このため、微粉砕LCPの内部まで繊維化が進み、かつ、LCPの分子が一方向に並んでいるドメイン単位に分離する。このように、繊維化工程においては、微粉砕工程で得られた粒状の微粉砕LCPを解繊することで、従来の凍結粉砕法で得られた粒状のLCPを破砕することで得られるLCP-NFより、塊状部の含有率が低く、かつ、微細繊維状であるLCP-NFを得ることができる。
【0074】
LCP-NFを含有する樹脂シート16の作製方法は、溶剤に樹脂を溶解させた溶液製膜、溶剤に樹脂を分散させたディスパージョンコーティング、樹脂を溶融温度以上で溶融させ成形する溶融成膜のいずれでも作製可能である。 まず、溶液成膜法による樹脂シートの作成方法について説明する。1種以上の樹脂材料を溶媒に溶解させた溶液を作製する。1種以上の樹脂材料は、例えば、PFA、COP、SPS等である。溶媒は、PFA、COP、SPS等の1種以上の樹脂材料を溶解することができる液体である。このような溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、脂肪族アルコール及び水等である。
【0075】
更に、上記溶液に、LCP-NFを混合する。ただし、溶媒は、LCP-NFを溶解することができない。更に、溶媒は、LCP-NFの構造を崩さない。そのため、LCP-NFは、繊維状の粒子の状態を保ったまま、1種以上の樹脂材料を溶媒に溶解させた溶液において分散している。
【0076】
次に、溶液をスピンコーティングにより金属板上に薄く塗布する。そして、塗布した溶液を乾燥させて、溶液中の溶媒を揮発させる。これにより、樹脂シート16が完成する。
【0077】
なお、樹脂シート16は、溶融成膜法によって作成されてもよい。まず、1種以上の樹脂材料とLCP-NFとを混合した混合材料を作成する。1種以上の樹脂材料は、例えば、PFA、COP、SPS等である。
【0078】
更に、上記混合材料を加熱することにより、混合材料の1種以上の樹脂材料を溶融させる。ただし、溶融した混合材料では、1種以上の樹脂材料が溶融し、かつ、LCP-NFが溶融していない。更に、LCP-NFの構造は、混合材料の加熱により崩れない。そのため、1種以上の樹脂材料の融点の内の最も高い融点は、LCP-NF(液晶ポリマー)の融点より30℃以上低いことが好ましい。また、1種以上の樹脂材料は、加熱により組成が崩れない耐熱性熱可塑性樹脂である。この後、溶融した混合材料を押し出し成形にてシート状に加工する。これにより、樹脂シート16が完成する。
【0079】
(その他の実施形態)
本発明に係る樹脂シートは前記実施形態に係る樹脂シート16,16a~16dに限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。
【0080】
なお、樹脂シート16,16a~16dは、LCPの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有する1種以上の樹脂材料を含んでいればよい。従って、樹脂シート16,16a~16dは、LCPの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有する1種の樹脂材料を含んでいてもよいし、LCPの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有する2種以上の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0081】
なお、樹脂シート16,16a~16dでは、1種以上の樹脂材料の含有率が樹脂シート16,16a~16dの全体の50%より大きいことが好ましい。
【0082】
樹脂多層基板10の高周波特性の観点からは、1種以上の樹脂材料の比誘電率は、LCPの比誘電率より小さいことが好ましい。このことは、1種以上の樹脂材料の比誘電率が、LCPの比誘電率以上であることを妨げるものではない。
【0083】
樹脂多層基板10の高周波特性の観点からは、1種以上の樹脂材料の誘電正接は、LCPの誘電正接より小さいことが好ましい。このことは、1種以上の樹脂材料の誘電正接が、LCPの誘電正接以上であることを妨げるものではない。
【0084】
樹脂シート16,16a~16dにおいて、LCPは、LCP-NFでなくてもよい。LCPがLCP-NFでない場合であっても、樹脂シート16,16a~16dの面方向の熱膨張係数の低減が図られる。なお、LCPがLCP-NFでない場合、樹脂シート16の製造時に、溶媒は、1種以上の樹脂材料及びLCPを溶融できることが好ましい。これにより、樹脂シート16,16a~16dにおいて、1種以上の樹脂材料及びLCPが均一に混合されるようになる。その結果、樹脂シート16,16a~16dの各種特性が均一になる。また、LCPがLCP-NFでない場合、樹脂シート16の製造時に、混合材料を加熱することにより、混合材料の1種以上の樹脂材料及びLCPを溶融させる。これにより、樹脂シート16,16a~16dにおいて、1種以上の樹脂材料及びLCPが均一に混合されるようになる。その結果、樹脂シート16,16a~16dの各種特性が均一になる。
【0085】
なお、1種以上の樹脂材料は、例えば、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種を含んだノルボルネン系重合体であってもよい。
【0086】
【化1】
【0087】
一般式(1)中、Xは、O,-CH-又は-CH-CH-を示し、置換基R、R、R及びRはそれぞれ、水素、直鎖もしくは分岐した有機基、又はこれら有機基の一部がハロゲンもしくはニトリル基等で置換された誘導体から選ばれる基を含有する基を示す。上記有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシシリル基、エポキシ基を含有する有機基、エーテル基を含有する有機基、(メタ)アクリル基を含有する有機基、エステル基を含有する有機基、ケトン基を含有する有機基である。これらの基は、アルキル基、エーテル基、エステル基を介して結合されていてもよく、同一でも異なっていてもよい。mは10~10000の整数であり、nは0~5までの整数である。
【0088】
一般式(1)で表される構造を有する付加型のポリノルボルネンの置換基R、R、R及びRは、その目的に応じて、種類及び繰り返し単位の割合を調整することによって所定の特性を有したものにできる。好ましくは、Xが-CH-、mが1000以上、nが0か1であり、R、R、R及びRの少なくとも1つがエステル基、エーテル基又は水酸基を含有することが好ましい。より好ましくは、mが5000以上、nが0、R、R、R及びRの少なくとも1つがエステル基又は水酸基を含有することが好ましい。
【0089】
なお、上記アルキル基は、例えば、直鎖もしくは分岐した炭素数1~10の飽和炭化水素、又は環状の飽和炭化水素等が挙げられる。上記アルケニル基は、例えば、ビニル、アリル、ブチニル、シクロヘキセニル基等が挙げられる。上記アルキニル基は、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、ヘキシニル、オクチニル、ヘプチニル基等が挙げられる。アリール基は、例えば、フェニル、トリル、ナフチル、アントラセニル基等が挙げられる。また、アラルキル基は、例えば、ベンジル、フェネチル基等が挙げられる。エポキシ基は、例えばグリシジルエーテル基等が挙げられ、アルコキシシリル基は、例えばトリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリエトキシシリルエチル基等が挙げられる。(メタ)アクリル基は、例えばメタクリロキシメチル基等が挙げられ、エステル基は、例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、n-ブチルエステル、t-ブチルエステル基等が挙げられる。
【0090】
なお、1種以上の樹脂材料は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPO(ポリフェニレンオキサイド)やその他の樹脂であってもよい。PEEKには、例えば、クラボウ社製のEXPEEKを用いることができる。
【0091】
なお、樹脂多層基板10は、曲げ部12aを有していなくてもよい。
【0092】
なお、樹脂多層基板10の例として、高周波伝送信号線路を挙げた。しかしながら、樹脂多層基板10は、アンテナ等の高周波回路基板であってもよい。
【0093】
第1層間接続導体v1、第2層間接続導体v2及び層間接続導体v11,v12は、スルーホール導体であってもよい。スルーホール導体は、樹脂シート16a~16dに形成された貫通孔にCuのメッキを施すことにより形成される。めっき工法を用いた場合には積層後に複数の絶縁層に跨って形成されたスルーホールにメッキされることが一般的であるが、同一金属で金属結合させるので接続の信頼性が高く、導体抵抗も小さくしやすい。
【符号の説明】
【0094】
1:電子機器
10:樹脂多層基板
12:積層体
12a:曲げ部
16,16a~16d:樹脂シート
17a,17b:レジスト層
18:信号導体層
20:第1グランド導体層
22:第2グランド導体層
図1
図2
図3