(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ラムライン制御装置と方法
(51)【国際特許分類】
B64G 1/26 20060101AFI20220823BHJP
F42B 15/01 20060101ALI20220823BHJP
F02K 9/90 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B64G1/26 A
F42B15/01
F02K9/90
(21)【出願番号】P 2018141090
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 琢博
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩仁
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-271199(JP,A)
【文献】特開昭58-126298(JP,A)
【文献】特開昭51-055599(JP,A)
【文献】特開昭61-143300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/26
F42B 15/01
F02K 9/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機軸を中心にスピンしながら飛行する飛翔体に設けられたラムライン制御装置であって、
前記機軸に直交する方向にガスジェットを噴射するガス噴射装置と、
前記飛翔体のピッチ、ヨー、ロールの姿勢レート及びピッチ、ヨー、ロールの姿勢角を出力する慣性計測装置と、
前記ガス噴射装置に対する噴射指令信号を出力する姿勢制御装置と、を備え、
前記姿勢制御装置は、
前記ガスジェットの噴射方向の実ロール角を演算し出力する実ロール角演算器と、
目標姿勢に対するヨー姿勢誤差角及びピッチ姿勢誤差角と、これらに基づき前記ガスジェットを噴射する補正ロール角を演算する補正ロール角演算器と、
前記補正ロール角に基づき、前記機軸を前記目標姿勢の方向に姿勢制御するために前記ガスジェットを噴射する目標ロール角を修正する主ロール角演算器と、
前記実ロール角が前記目標ロール角に到達したときに前記噴射指令信号を出力する噴射制御器と、を有
し、
前記ガス噴射装置は、前記機軸に直交する方向に前記ガスジェットの反力を発生させる複数のガス噴射口を有しており、
前記噴射制御器は、複数の前記ガス噴射口から前記ガスジェットを同一のロール角において順に噴射させるマルチモードと、複数の前記ガス噴射口のうち1つのみから前記ガスジェットを同一の前記ロール角において噴射させるシングルモードと、を有する、ラムライン制御装置。
【請求項2】
前記姿勢制御装置は、さらに、
スピン周期を計算するスピン周期演算器と、
ニューテーション周期を計算するニューテーション演算器と、を有する、請求項1に記載のラムライン制御装置。
【請求項3】
前記噴射制御器は、マヌーバ誤差角が0に近づいたタイミングで、前記ガス噴射装置による前記ガスジェットの力積量を段階的に低減する、請求項1に記載のラムライン制御装置。
【請求項4】
機軸を中心にスピンしながら飛行する飛翔体のラムライン制御方法であって、
前記機軸に直交する方向にガスジェットを噴射するガス噴射装置と、
前記飛翔体のピッチ、ヨー、ロールの姿勢レート及びピッチ、ヨー、ロールの姿勢角を出力する慣性計測装置と、
前記ガス噴射装置に対する噴射指令信号を出力する姿勢制御装置と、を準備し、
前記ガス噴射装置は、前記機軸に直交する方向に前記ガスジェットの反力を発生させる複数のガス噴射口を有しており、
前記噴射指令信号を出力する噴射制御器が、複数の前記ガス噴射口から前記ガスジェットを同一のロール角において順に噴射させるマルチモードと、複数の前記ガス噴射口のうち1つのみから前記ガスジェットを同一の前記ロール角において噴射させるシングルモードと、を有し、
前記姿勢制御装置により、
(A)目標姿勢に対するヨー姿勢誤差角及びピッチ姿勢誤差角と、これらに基づき前記ガスジェットを噴射する補正ロール角を演算し、
(B)前記補正ロール角に基づき、前記機軸を前記目標姿勢の方向に姿勢制御する前記ガスジェットを噴射する目標ロール角を修正し、
(C)前記ガスジェットの噴射方向の実ロール角を演算し、該実ロール角が前記目標ロール角に到達したときに前記噴射指令信号を出力し、
(D)前記噴射指令信号に基づき前記ガス噴射装置により前記ガスジェットを噴射する、ラムライン制御方法。
【請求項5】
マヌーバ誤差角が0に近づいたタイミングで、前記ガス噴射装置による前記ガスジェットの力積量を段階的に低減する、請求項
4に記載のラムライン制御方法。
【請求項6】
前記力積量の低減を、ニューテーション周期で実施する、請求項
5に記載のラムライン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン中の飛翔体のラムライン制御装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラムライン制御とは、スピン状態の飛翔体(例えばロケット)の慣性空間での姿勢を制御することをいう。ラムライン制御は、スピン中の飛翔体の機軸(スピン軸)に対し直交する方向にガスジェットを噴射する姿勢制御システム(Reaction Control System:以下、「RCS」と呼ぶ)により行われる。
【0003】
上述したラムライン制御は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1の「噴射弁の制御方法及び装置」では、貯気槽とこの貯気槽に充填された気体を噴射させる噴射器との間を結ぶ流路に設けられた噴射弁を噴射指令により駆動制御する。制御装置は、ある噴射における噴射推力の立上り時間を噴射弁の動作状態から計測しておき、この計測値を予め設定された遅れ時間設定値と比較してその差分を前回の遅れ時間として次回の噴射指令に対する噴射弁の駆動制御の遅れ時間として補償する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のラムライン制御は、以下の問題点があった。
(1)ラムライン制御のために、RCSの制御遅れ(演算遅れ、信号伝送遅れ等)の同定を行い高精度な噴射タイミングの管理が必要であった。また制御遅れの変動が予想を超えると制御ができなかった。
(2)制御時間の短縮のためガスジェットの1スピンあたりの力積量を高めると、ガスジェットにより発生するニューテーション角が増大する。そのため、相反する「制御時間の短縮」と「ニューテーション角の低減」の両立が困難であった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解消するために創案されたものである。すなわち本発明の第1の目的は、制御遅れの変動が大きい場合でも、スピン中の飛翔体を高精度に姿勢制御できるラムライン制御装置と方法を提供することにある。
また、第2の目的は、相反する「制御時間の短縮」と「ニューテーション角の低減」を両立させて、制御時間を短縮し、かつニューテーション角を短時間に低減できることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、機軸を中心にスピンしながら飛行する飛翔体に設けられたラムライン制御装置であって、
前記機軸に直交する方向にガスジェットを噴射するガス噴射装置と、
前記飛翔体のピッチ、ヨー、ロールの姿勢レート及びピッチ、ヨー、ロールの姿勢角を出力する慣性計測装置と、
前記ガス噴射装置に対する噴射指令信号を出力する姿勢制御装置と、を備え、
前記姿勢制御装置は、
前記ガスジェットの噴射方向の実ロール角を演算し出力する実ロール角演算器と、
目標姿勢に対するヨー姿勢誤差角及びピッチ姿勢誤差角と、これらに基づき前記ガスジェットを噴射する補正ロール角を演算する補正ロール角演算器と、
前記補正ロール角に基づき、前記機軸を前記目標姿勢の方向に姿勢制御するために前記ガスジェットを噴射する目標ロール角を修正する主ロール角演算器と、
前記実ロール角が前記目標ロール角に到達したときに前記噴射指令信号を出力する噴射制御器と、を有し、
前記ガス噴射装置は、前記機軸に直交する方向に前記ガスジェットの反力を発生させる複数のガス噴射口を有しており、
前記噴射制御器は、複数の前記ガス噴射口から前記ガスジェットを同一のロール角において順に噴射させるマルチモードと、複数の前記ガス噴射口のうち1つのみから前記ガスジェットを同一の前記ロール角において噴射させるシングルモードと、を有する、ラムライン制御装置が提供される。
【0009】
また本発明によれば、機軸を中心にスピンしながら飛行する飛翔体のラムライン制御方法であって、
前記機軸に直交する方向にガスジェットを噴射するガス噴射装置と、
前記飛翔体のピッチ、ヨー、ロールの姿勢レート及びピッチ、ヨー、ロールの姿勢角を出力する慣性計測装置と、
前記ガス噴射装置に対する噴射指令信号を出力する姿勢制御装置と、を準備し、
前記ガス噴射装置は、前記機軸に直交する方向に前記ガスジェットの反力を発生させる複数のガス噴射口を有しており、
前記噴射指令信号を出力する噴射制御器が、複数の前記ガス噴射口から前記ガスジェットを同一のロール角において順に噴射させるマルチモードと、複数の前記ガス噴射口のうち1つのみから前記ガスジェットを同一の前記ロール角において噴射させるシングルモードと、を有し、
前記姿勢制御装置により、
(A)目標姿勢に対するヨー姿勢誤差角及びピッチ姿勢誤差角と、これらに基づき前記ガスジェットを噴射する補正ロール角を演算し、
(B)前記補正ロール角に基づき、前記機軸を前記目標姿勢の方向に姿勢制御する前記ガスジェットを噴射する目標ロール角を修正し、
(C)前記ガスジェットの噴射方向の実ロール角を演算し、該実ロール角が前記目標ロール角に到達したときに前記噴射指令信号を出力し、
(D)前記噴射指令信号に基づき前記ガス噴射装置により前記ガスジェットを噴射する、ラムライン制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補正ロール角演算器により、目標姿勢に対するヨー姿勢誤差角及びピッチ姿勢誤差角と、これらに基づきガスジェットを噴射する補正ロール角を演算する。さらに、主ロール角演算器により、補正ロール角に基づき、機軸を目標姿勢の方向に姿勢制御するためにガスジェットを噴射する目標ロール角を修正する。
従って、制御遅れの変動が大きく、ヨー姿勢誤差角が発生する場合でも、目標ロール角を常に修正するので、スピン中の飛翔体を高精度に姿勢制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】飛翔体とターゲット座標系との関係を示す模式図である。
【
図2】本発明によるラムライン制御装置を備えた飛翔体の模式図である。
【
図4】本発明のラムライン制御装置の全体構成図である。
【
図5】ピッチ姿勢誤差角のみが0でなく、ヨー姿勢誤差角が0の場合の、飛翔体の後方矢視図である。
【
図6】ピッチ姿勢誤差角とヨー姿勢誤差角の両方が0でない場合の、飛翔体の後方矢視図である。
【
図7】噴射制御器による噴射指令信号とガス噴射装置によるガスジェットの実噴射出力の遅れとの関係を示す図である。
【
図8】本発明によるラムライン制御方法の全体フロー図である。
【
図9】
図8の噴射指令信号出力ステップS3の詳細フロー図である。
【
図10】噴射制御器によるガスジェット噴射の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、飛翔体1とターゲット座標系との関係を示す模式図である。
この図において、ターゲット座標系は、通常、地球中心に対する基準座標を定義した直交グローバル座標系Gt(Xt,Yt,Zt)である。ここでは、便宜上飛翔体1の一部をターゲット原点Otとする任意の直交グローバル座標系Gt(Xt,Yt,Zt)で図示している。
以下の例では、地表面に対し水平な直交2軸をXt,Ytとし、2軸Xt,Ytに直交し地球に向かう方向軸をZtとする。
【0014】
図1において、飛翔体1は、飛翔体1の一部をローカル原点Obとする任意の直交ローカル座標系Rb(Xb,Yb,Zb)を有する。ローカル原点Obはここでは重心位置とする。
以下の例では、飛翔体1の機軸2の方向を軸Xbとし、軸Xbに対する直交2軸をYb,Zbとする。
また以下の例では、軸Ybと平行方向にガス噴射装置9のガス噴射口10,11が設けられている。
【0015】
図1は、飛翔体1の機軸2(すなわち軸Xb)がターゲット座標系の軸Xtに対して角度αだけ傾いている状態を示している。以下、この角度を「マヌーバ誤差角α」と呼ぶ。
またこの図において、ヨー姿勢誤差角ΔLyは、ターゲット座標系のXt-Yt面における機軸2のベクトル誤差角であり、ピッチ姿勢誤差角ΔLzは、ターゲット座標系のXt-Zt面における機軸2のベクトル誤差角である。
【0016】
図1において、本発明によるラムライン制御装置100は、飛翔体1を姿勢制御して機軸2(すなわち軸Xb)をターゲット座標系の軸Xtに一致させる機能を有する。
【0017】
図2は、本発明によるラムライン制御装置100を備えた飛翔体1の模式図である。
この図において、飛翔体1は機軸2を中心にスピンしながら慣性飛行する。Gは飛翔体1の重心であり、3はラムライン制御による機軸2の目標姿勢である。目標姿勢3は、以下の例では
図1におけるターゲット座標系の軸Xtである。
【0018】
図2において、ラムライン制御装置100は、機軸2に直交する方向にガスジェット4を噴射するガス噴射装置9を有する。
ガス噴射装置9は、ローカル座標系のYb-Zb平面と平行にガス噴射口10,11を有する。
【0019】
図2において、飛翔体1は、地上局からの指令を受け付けるインタフェース装置6を有する。またラムライン制御装置100は、さらに慣性計測装置20と姿勢制御装置30を有する。
上位の制御装置6は、例えば地上と交信し、ラムライン制御装置100に指令値を出力する。指令値は、例えば目標姿勢3の方向である。
【0020】
図3は、慣性計測装置20の出力を入力とする姿勢制御装置30の全体構成図である。
この図において、慣性計測装置20は、例えばジャイロセンサ、加速度計、等を有し、飛翔体1のピッチ、ヨー、ロールの姿勢レート及びピッチ、ヨー、ロールの姿勢角をリアルタイムに出力する。姿勢レートとは姿勢角速度の意味である。なお「リアルタイム」とは、「制御装置の制御サイクル毎に」の意味であり、例えば機体の応答性やRCSの応答性に合わせて設定される。
【0021】
図3において、姿勢制御装置30は、実ロール角演算器32、補正ロール角演算器33、スピン周期演算器34、及びニューテーション演算器35を有する。
【0022】
実ロール角演算器32は、慣性計測装置20の出力から実ロール角θbを求める。
【0023】
補正ロール角演算器33は、姿勢誤差演算機能とマヌーバ誤差角演算機能を有する。
補正ロール角演算器33は、姿勢誤差演算機能により、慣性計測装置20の姿勢角出力から目標姿勢3に対するヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzをリアルタイムに演算し出力する。
また補正ロール角演算器33は、マヌーバ誤差角演算機能により、姿勢誤差演算機能で求めたヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzより、マヌーバ誤差角αをリアルタイムに算出する。
【0024】
スピン周期演算器34は、慣性計測装置20の出力から飛翔体1のスピン周期Tpをリアルタイムに計算する。
【0025】
ニューテーション演算器35は、慣性計測装置20の出力から飛翔体1のニューテーション周期Tnをリアルタイムに計算する。
ニューテーションとは、スピンする飛翔体1の機軸2に直交する方向に外力を与えた場合に、コリオリの力と遠心力により発生する機軸2のいわゆる「みそすり運動」である。このニューテーション(みそすり運動)は、ガスジェット4の噴射により必然的に発生する。
なお、ニューテーション角βは、みそすり運動の円錐角を意味する。
【0026】
図4は、本発明のラムライン制御装置100の全体構成図である。
図3と
図4において、補正ロール角演算器33は、さらに、ヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzに基づきガスジェット4を噴射する補正ロール角θcを演算する機能を有する。
後述する
図6から、補正ロール角θcは、以下の式で求めることができる。
θc=arctan(ΔLy/ΔLz)・・・(1)
【0027】
図3と
図4において、姿勢制御装置30は、さらに、主ロール角演算器36と噴射制御器37を備える。
【0028】
主ロール角演算器36は、補正ロール角θcに基づき、ガス噴射口11の搭載位相θaやガス噴射装置9の応答遅れθ1やその他の遅れを補正して目標ロール角θxを出力する。
目標ロール角θxは、飛翔体1の機軸2を目標姿勢3(マヌーバ誤差角αの指令値)の方向に姿勢制御するためにガスジェット4を噴射するロール角θである。
後述する
図6から、目標ロール角θxは、以下の式で求めることができる。
θx=θa+θc-θ1-θ2/2・・・(2)
【0029】
噴射制御器37は、目標ロール角θxと慣性計測装置20で検出された実ロール角θbが主ロール角演算器36の出力した目標ロール角θxに到達した瞬間に噴射指令信号Aを出力する。この噴射指令信号Aによりガス噴射装置9が作動して機軸2に直交する方向にガスジェット4を噴射する。このガスジェット4の噴射により、飛翔体1が姿勢変更される。
ガスジェット4の噴射は、噴射方向が実質的に一定とみなせるように、短時間(例えば、50~100ms)であるのがよい。また、目標ロール角θxは噴射時間の中央のタイミングに合わせることが好ましいので、あらかじめ決めた噴射予定時間の1/2の時間だけ早く噴射開始するのがよい。
【0030】
図5と
図6は、
図2の飛翔体1の後方矢視図である。このうち、
図5はピッチ姿勢誤差角ΔLzのみが0でなく、ヨー姿勢誤差角ΔLyが0の場合であり、
図6はピッチ姿勢誤差角ΔLzとヨー姿勢誤差角ΔLyの両方が0でない場合である。
【0031】
図5と
図6において、ピッチ姿勢誤差角ΔLzは、ターゲット座標系のXt-Zt面における機軸2のベクトル誤差角である。
図6において、ヨー姿勢誤差角ΔLyは、ターゲット座標系のXt-Yt面における機軸2のベクトル誤差角である。
【0032】
図5と
図6において、ガス噴射装置9は、機軸2に直交する方向にガスジェット4を噴射する。
【0033】
ガス噴射装置9は、機軸2に直交する方向にガスジェット4の反力を発生させる複数のガス噴射口10,11を有している。
この例でガス噴射装置9は、機軸2に直交するYb-Zb平面上に位置し、かつ機軸2に対し互いに反対方向にガスジェット4を噴射する2つのガス噴射口11を有する。
なお、ガス噴射口11は、2つに限定されず、3以上であってもよい。
【0034】
図5と
図6において、ロール角θは、機軸2を中心にスピンする飛翔体1において、基準方向に対しガスジェット4の噴射方向が位置する角度である。基準方向は、この例では機軸2を通る機体のZb軸と反対方向である。
ガス噴射口11の搭載位相θaは、予め既知である。以下、ガス噴射口11の搭載位相θaがYb方向(軸Zbから90度)の場合を説明する。
【0035】
図7は、噴射制御器37による噴射指令信号Aとガス噴射装置9によるガスジェット4の実噴射出力の遅れとの関係を示す図である。
この図において、横軸はロール角θ、縦軸は噴射指令信号Aと実噴射出力を示している。
【0036】
ガス噴射口11の搭載位相θaは既知(軸Zbから90度)であり、噴射中心のロール角θが搭載位相θa+補正ロール角θcのときにガスジェット4を噴射することを想定する。補正ロール角θcはリアルタイムに変化する。
噴射指令信号Aとガスジェット4の実噴射との間には遅れ時間に相当する遅れ位相角θ1が存在する。遅れ位相角θ1は予め実験等で計測されて既知である。
実噴射出力の噴射時間に相当する噴射指令信号Aの指令継続角度θ2は、予め既知である。指令継続角度θ2は、長噴射と短噴射に可変であるのがよい。
この場合、噴射指令信号Aの開始角度θsと終了角度θeは、以下の式で求めることができる。
θs=θa+θc-θ1-θ2/2・・・(3)
θe=θa+θc-θ1+θ2/2・・・(4)
【0037】
なお、
図7では、ガスジェット4の実噴射出力は一定であり、かつ噴射中心のロール角θに対して対称であると仮定している。そのため、ガスジェット4の実噴射出力が変動したり、噴射中心に対し噴射初期と噴射後期とで実噴射出力が異なる場合にガスジェット4の実質的な噴射方向(θa+θc)に誤差が発生する。
【0038】
本発明において、噴射制御器37は、噴射指令信号AとしてシングルモードM1とマルチモードM2を指令する。すなわち、噴射指令信号Aは、シングルモードM1又はマルチモードM2を指令する指令信号を含む。
シングルモードM1とマルチモードM2は、飛翔体を目標方向にマヌーバさせるための同一のロール角θにおいて、ガスジェット4を噴射させる点では、同じである。
シングルモードM1では、単一のガス噴射口10からガスジェット4を噴射させる。この場合、残りのガス噴射口11は、飛翔体を目標方向にマヌーバさせるための同一のロール角θにおいてガスジェット4を噴射せずに通過する。
マルチモードM2では、複数のガス噴射口10と11からガスジェット4を飛翔体を目標方向にマヌーバさせるための同一のロール角θにおいて順に噴射させる。
【0039】
噴射制御器37は、さらに、噴射時間を任意に変更できることが好ましい。例えば、噴射制御器37は、噴射時間を長噴射(例えば100ms)と短噴射(例えば50ms)の2段階に切り換える。すなわち、噴射指令信号Aは、長噴射又は短噴射を指令する指令信号を含む。
【0040】
上述した構成により、噴射指令信号Aにより、スピン1回当たりのガスジェット4の反力(力積量)を最大(マルチモードM2の長噴射)から最小(シングルモードM1の短噴射)までの4通りに変化させることができる。
【0041】
図5と
図6において、シングルモードM1とマルチモードM2の両方において、1回のガスジェット4の噴射により、飛翔体1の機軸2が目標姿勢3の方向(破線の矢印で示す方法)に姿勢変更される。姿勢変更後の現在姿勢は、慣性計測装置20よりリアルタイムに検出される。
【0042】
なお
図5に示すように、ヨー姿勢誤差角ΔLyが0の場合、ロール角θがガス噴射口11の搭載位相θa(=90度)の時に、ガスジェット4を噴射する。
この場合、理想的には、ガスジェット4は水平方向に噴射され、機体の機軸2は、マヌーバさせたい目標姿勢3の方向(この例で鉛直下向き)に姿勢変更される。
しかし、実際には、ガスジェット4の噴射遅れ等で、ガスジェット5で示す位置で噴射した場合、この図に矢印7で示すように、目標姿勢3からずれた方向にマヌーバする場合がある。
【0043】
図8は、本発明によるラムライン制御方法の全体フロー図である。
この図において、本発明のラムライン制御方法は、S1~S5の各ステップ(工程)を有する。
本発明のラムライン制御方法は、予め上述したラムライン制御装置100を準備する。
【0044】
補正ロール角演算ステップS1では、目標姿勢3に対するヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzと、これらに基づきガスジェット4を噴射する補正ロール角θcを演算する。
【0045】
目標ロール角修正ステップS2では、補正ロール角θcに基づき、機軸2を目標姿勢3(マヌーバ誤差角αの指令値)の方向に姿勢制御するガスジェット4を噴射する目標ロール角θxを修正する。
目標ロール角θxは、θx=θa+θc・・・(5)で求めることができる。
【0046】
噴射指令信号出力ステップS3では、ガスジェット4の噴射方向の実ロール角θbを演算し、実ロール角θbが目標ロール角θxに到達したときに噴射指令信号Aを出力する。
【0047】
ガスジェット噴射ステップS4では、噴射指令信号Aに基づきガス噴射装置9によりガスジェット4を噴射する。ガスジェット4の噴射は、後述する例では、最大(マルチモードM2の長噴射)から最小(シングルモードM1の短噴射)までの4通りが可能である。1スピンあたり力積最大の噴射では、マヌーバ速度を最大にでき制御時間を短縮できる。目標に近づくにつれて、1スピンあたり力積を徐々に減らして最小化することで制御終了時点の制御誤差が最小化される、かつ、発生ニューテーションを小さく抑えられる。
【0048】
姿勢変更ステップS5では、ガスジェット4の噴射により、飛翔体1の機軸2が目標姿勢3の方向に姿勢変更される。
【0049】
ステップS1~S5は、機軸2が目標姿勢3と一致するまで繰り返され、機軸2が目標姿勢3と一致したときラムライン制御が終了する。後述する例では、マヌーバ誤差角αが許容誤差角未満になったときに、機軸2と目標姿勢3が一致したと判断する。
【0050】
図6に示したように、補正ロール角演算器33は、ガスジェット4に直交する方向が機軸2の目標姿勢3の方向となるように補正ロール角θcを演算する。
また、主ロール角演算器36は、補正ロール角θcに基づき、目標ロール角θxを修正する。
修正後の目標ロール角θxは、
図6におけるθa+θcに相当する。補正ロール角θcは正負のいずれであってもよい。
【0051】
図4と
図6に示すようにヨー姿勢誤差角ΔLyが0でない場合、補正ロール角演算器33により、ヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzが演算される。次いで、これらに基づき、補正ロール角演算器33により、補正ロール角θcが演算され、主ロール角演算器36により目標ロール角θxが修正される。
【0052】
図6の例の場合、主ロール角演算器36による修正後の目標ロール角θxは、搭載位相θa+補正ロール角θcである。すなわち、ガス噴射装置9によりガスジェット4を、θx=θa+θcの方向に噴射することにより、コリオリの力が目標姿勢3の方向に作用し、破線の矢印で示すように、飛翔体1の機軸2を目標姿勢3の方向に姿勢変更することができる。
従って、ヨー姿勢誤差角ΔLyが発生する場合でも、補正ロール角θcをフィードバック制御することで、短時間に目標ロール角θxを修正することができる。
【0053】
図9は、
図8の噴射指令信号出力ステップS3の詳細フロー図である。
上述したように姿勢制御装置30は、実ロール角θb、ヨー姿勢誤差角ΔLy、ピッチ姿勢誤差角ΔLz、スピン周期Tp、マヌーバ誤差角α、及びニューテーション周期Tnをリアルタイムに計算し出力する。
姿勢制御装置30はさらに、これらのデータに基づき、ガス噴射装置9に噴射指令信号Aをリアルタイムに出力する。
【0054】
図9において、噴射指令信号出力ステップS3は、T1~T8の各ステップ(工程)からなる。
【0055】
図10は、噴射制御器37によるガスジェット噴射の説明図である。この図において、横軸は制御時間t、縦軸の(A)はマヌーバ誤差角α、(B)は力積量、(C)はニューテーション角βである。
【0056】
制御時間tは、本発明によるラムライン制御の開始後の経過時間である。
【0057】
力積量は、噴射制御器37で制御されるガスジェット4の反力の大きさである。
上述したように、この例では、最大(マルチモードM2の長噴射)から最小(シングルモードM1の短噴射)までの4通りに変化させることができる。
【0058】
図10(A)において、マヌーバ誤差角αは、第1閾値α1、第2閾値α2、及び第3閾値α3が設定されている。各閾値は正の値であり、大きさがα1>α2>α3となるように設定されている。
なお、第3閾値α3は、目標とする許容誤差角であり、例えば1°以下である。
【0059】
図10(A)(B)において、噴射制御器37は、マヌーバ誤差角αが0に近づいたタイミングで、ガス噴射装置9によるガスジェット4の力積量を段階的に低減する。
【0060】
制御時間tの初期(
図9のステップT1)において、マヌーバ誤差角αが第1閾値α1より大きい(α>α1)ときは、
図10(B)において、ガスジェット4の反力(力積量)を最大に設定し、2つのガス噴射口10と11からガスジェット4の長噴射を順に噴射させる。最大の力積量は、例えばマルチモードM2の長噴射(T5)による。
この構成により、機軸2が目標姿勢3に近づく速度(マヌーバ速度)を最大化できる。
一方、
図10(C)に示すように、この場合、力積量が大きいので、ニューテーション角βも大きくなる。
【0061】
スピン周期Tpは例えば1sec(1Hz)~0.5sec(2Hz)であり、ニューテーション周期Tnはスピン周期Tpより長い。
1回のニューテーション周期Tnの間に、1回のスピン周期Tp毎に1回(シングルモード)か2回(マルチモード)のガスジェット4を噴射する。
【0062】
制御時間tの中期(
図9のステップT2)において、マヌーバ誤差角αが第1閾値α1以下で第2閾値α2より大きい(α1≧α>α2)ときは、ガスジェット4の反力(力積量)を最大と最小の中間に設定する。この場合、中間の力積量は、例えば、マルチモードM2の短噴射(T6)、又はシングルモードM1の長噴射による。
この構成により、
図10(C)に示すように、力積量が初期より小さいので、ニューテーション角βを初期より小さくすることができる。
【0063】
なお、制御時間tの初期から中期への切換えは、図に示すようにニューテーション角βが最小の時点に一致させる。これにより、発生するニューテーション角βの最大値を、ガスジェット4の力積量に比例させて小さくできる。
【0064】
制御時間tの後期(
図9のステップT3)において、マヌーバ誤差角αが第2閾値α2以下で第3閾値α3より大きい(α2≧α>α3)ときは、力積量を最小(ステップT7:シングルモードM1の短噴射)に設定する。これにより、一方のガス噴射口10(又は11)のみからガスジェット4を噴射する。この場合も、制御の切換えは、図に示すようにニューテーション角βが最小の時点に一致させる。
この構成により、
図10(C)に示すように、力積量が小さいので、発生するニューテーション角βの最大値をさらに小さくすることができる。
【0065】
制御時間tの後期(
図9のステップT4)において、マヌーバ誤差角αが第3閾値α3以下(α≦α3)のときは、ガスジェット4の噴射を停止し制御を終了する(T8)。
この場合も、制御の切換えは、図に示すようにニューテーション角βが最小の時点に一致させる。
すなわち、ガスジェット4の力積量の変更は、常にニューテーション周期Tnで実施する。
【0066】
ニューテーション角βを減少させるには、受動又は能動のニューテーション制御(アクティブニューテーションコントロール)が必要であり、いずれの場合もニューテーション角βの大きさに比例して制御時間が長くなることが知られている。
本発明によれば、マヌーバ誤差角αが0に近づいたタイミングで、ガスジェット4の力積量を段階的に低減するので、残存するニューテーション角βを短時間に減少させることができる。
【0067】
上述した本発明の実施形態によれば、補正ロール角演算器33により、ヨー姿勢誤差角ΔLy及びピッチ姿勢誤差角ΔLzと、これらに基づきガスジェット4を噴射する補正ロール角θcを演算する。さらに、主ロール角演算器36により、補正ロール角θcに基づき、機軸2を目標姿勢3の方向に姿勢制御するためにガスジェット4を噴射する目標ロール角θxを修正する。
従って、制御遅れの変動が大きく、ヨー姿勢誤差角ΔLyが発生する場合でも、目標ロール角θxをリアルタイムに修正するので、スピン中の飛翔体1を高精度に姿勢制御できる。
【0068】
また、マヌーバ誤差角αが0に近づいたタイミングで、ガス噴射装置9によるガスジェット4の力積量を段階的に低減する。これにより、目標に近づいた時の収束性を悪化させることなく、ガスジェット4の力積量を上げることができる。従って、相反する「制御時間の短縮」と「ニューテーション角の低減」を両立させて、制御時間を短縮し、かつニューテーション角βを短時間に低減できる。
【0069】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0070】
A 噴射指令信号、G 重心、Gt ターゲット座標系、
M1 シングルモード、M2 マルチモード、
Ot ターゲット原点、Ob ローカル原点、Rb 直交ローカル座標系、
Tp スピン周期、Tn ニューテーション周期、
α マヌーバ誤差角、α1 第1閾値、α2 第2閾値、
β ニューテーション角、θ ロール角、θ1 遅れ位相角、
θ2 指令継続角度、θa 搭載位相、θb 実ロール角、
θc 補正ロール角、θe 終了角度、θs 開始角度、
θx 目標ロール角、θy 修正ロール角、Δθ 角度差、
ΔLy ヨー姿勢誤差角、ΔLz ピッチ姿勢誤差角、
1 飛翔体、2 機軸、3 目標姿勢、4 ガスジェット、
6 インタフェース装置、9 ガス噴射装置、10,11 ガス噴射口、
20 慣性計測装置、30 姿勢制御装置、32 実ロール角演算器、
33 補正ロール角演算器、34 スピン周期演算器、
35 ニューテーション演算器、36 主ロール角演算器、
37 噴射制御器、100 ラムライン制御装置