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特許7127796排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法
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  • 特許-排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法 図1
  • 特許-排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/32 20060101AFI20220823BHJP
   B63H 21/14 20060101ALI20220823BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20220823BHJP
   F01N 3/04 20060101ALI20220823BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20220823BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B63H21/32 Z
B63H21/14
B63B79/40
F01N3/04 A
F01N3/08 B
F02D19/06 B
F02D19/06 G
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018058354
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019167054
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】西尾 澄人
(72)【発明者】
【氏名】岸 武行
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109134(JP,A)
【文献】特開2015-091699(JP,A)
【文献】特開2016-084818(JP,A)
【文献】特開2014-098340(JP,A)
【文献】特開2015-132179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0213197(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/14,21/32-21/34,21/38
B63B 49/00,79/40
F01N 3/04, 3/08- 3/38
F02D 19/06-19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載された燃焼機関と、
前記燃焼機関から排出された排ガスに含まれる有害物質を処理する排ガス処理手段と、
船舶の位置を検出する位置検出手段と、
前記有害物質と海域と現在および将来の前記有害物質の規制値と規制発効時期との関係を記憶する排ガス規制記憶手段と、
前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記海域に基づいて、前記船舶が前記海域内にある時刻が前記海域における前記規制発効時期以後である場合に、前記船舶が前記海域に入る前に前記有害物質の排出が前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合するように、前記排ガス処理手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項2】
前記排ガス規制記憶手段は、複数種類の前記有害物質ごとに前記関係を記憶し、
前記制御手段は、前記有害物質ごとに前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする請求項1に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項3】
前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記有害物質又は前記海域又は前記規制値又は前記規制発効時期のいずれかが変更された場合、前記変更に応じて前記排ガス規制記憶手段の記憶内容を更新する更新手段を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項4】
前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置が前記排ガス規制記憶手段に記憶された第1の海域から前記第1の海域よりも厳しい前記規制値が設定された第2の海域に近づいた場合、前記船舶が前記第1の海域から前記第2の海域内に入る前に、前記有害物質の排出が前記第2の海域における前記規制値に適合するように処理することが可能な状態に前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項5】
前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置が前記排ガス規制記憶手段に記憶された第3の海域から前記第3の海域よりも緩やかな前記規制値が設定された第4の海域へ退出しようとする場合、前記船舶が前記第3の海域から前記第4の海域に出た後に、前記有害物質の排出が前記第4の海域における前記規制値に適合するように処理することが可能な状態に前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項6】
前記燃焼機関に複数種類の燃料を切り替えて供給する燃料供給手段を更に備え、
前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と、前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記関係とに基づいて、前記燃料供給手段が供給する前記燃料を前記関係に含まれる前記規制値に応じて切り替え、前記排ガス処理手段に前記燃料に対応した処理を行わせることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項7】
前記有害物質が硫黄酸化物であり、
前記排ガス処理手段が、前記排ガスを液体で洗浄して前記硫黄酸化物を除去するスクラバを含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項8】
前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と、前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記関係とに基づいて、前記スクラバの方式を前記関係に含まれる前記規制値に適合する方式に切り替えることを特徴とする請求項7に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項9】
前記スクラバが、前記燃焼機関から排出された前記排ガスに含まれる前記有害物質である粒子状物質も更に処理することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項10】
前記燃焼機関が、メタンを含むガスを燃焼し、前記排ガス処理手段が、前記燃焼機関から排出された前記排ガスに含まれる前記有害物質である未燃メタンを処理することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載された排ガス規制に対応した運転を行なう船舶。
【請求項11】
船舶の位置を検出し、
有害物質と海域と現在および将来の前記有害物質の規制値と規制発効時期との関係を記憶し、
検出された前記船舶の位置と記憶された前記海域に基づいて、前記船舶が前記海域内にある時刻が前記海域における前記規制発効時期以後である場合に、前記船舶が前記海域に入る前に前記有害物質の排出が前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合するよう、前記有害物質の処理を制御することを特徴とする船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項12】
複数種類の前記有害物質ごとに前記関係を記憶し、前記有害物質ごとに前記処理を制御することを特徴とする請求項11に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項13】
記憶された前記有害物質又は前記海域又は前記規制値又は前記規制発効時期のいずれかが変更された場合、前記変更に応じて記憶内容を更新することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項14】
前記記憶内容を遠隔操作によって更新することを特徴とする請求項13に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項15】
前記有害物質の排出が、前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合可能な状態に変更されたときに、前記海域の管轄部署に前記変更を報告することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項16】
前記有害物質の排出が、前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合可能な状態に変更できないときに、前記海域の管轄部署に前記変更ができないことを報告することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【請求項17】
前記有害物質の前記処理において貯留した廃液を、前記廃液の廃棄が許容された前記海域において廃棄することを特徴とする請求項11から請求項16のいずれか1項に記載された船舶の排ガス規制に対応した運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の運転時に排出される排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶の燃料として、原油からガソリン等を留出させた後の残渣油が用いられており、残渣油を燃焼機関で燃焼させたことにより発生する排ガス中には、二酸化炭素のほかに、窒素酸化物(以下、「NOx」と称する。)、硫黄酸化物(以下、「SOx」と称する。)及び粒子状物質(以下、「PM」と称する。)等が多く含まれている。これらは環境保全の妨げになる有害物質であるので、国際協定で規制がなされており、2017年現在、硫黄分の規制(以下、「SOx規制」と称する。)として、一般海域で3.5%、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)によるIMO規制範囲内の排出規制海域(ECA:Emission Control Area)内において0.5%の地域と0.1%の地域、IMO規制範囲外の地域規制として0.1%の地域が存在する。
【0003】
また、NOxの規制(以下、「NOx規制」と称する。)として、一般海域で2次規制がなされており、ECA内の海域で3次規制がなされている。
【0004】
更に、PMの規制(以下、「PM規制」と称する。)は、SOx規制で代用されており、一般海域で3.5%、ECA内の海域で0.1%の規制がなされている。
【0005】
これらの規制には、時期、領域、規制値が複雑に絡んでおり、将来、更に厳しく高度な規制がなされる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-341742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、採用されている対応として、規制海域に応じて、硫黄含有量の多い高硫黄含有燃料(本願では、「C重油」と称する。)と硫黄含有量の少ない低硫黄燃料(本願では、「A重油」と称する。)を切り替える方法と、燃料を浄化して排出する方法とが採用されている。
【0008】
例えば、燃料を切り替える方法として、船舶にC重油とA重油の両方を搭載し、船舶の規制海域への出入りに応じて、船員が手作業で使用燃料を切り換えていた(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかし、従来のような手作業の方式では、規制海域の出入りを正確に把握した上で迅速に操作するのが困難であり、SOx排出に関する規制を遵守できなかったり、高価な燃料を浪費したりするおそれがあった。また、燃料切換作業を行う船員の負担が大きいという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、上記のような現状を改善すべく、燃料の切り替えや浄化を、人力に頼ることなく、自動で行い、かつ、船舶が規制海域に入る前に、規制海域における規制発効時期に関連付けられた規制値に適合するように燃料を処理することが可能な状態に制御することができる発明を提案するものである。
【0011】
本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶、及び船舶の排ガス規制に対応した運転方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0012】
本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶は、船舶に搭載された燃焼機関と、前記燃焼機関から排出された排ガスに含まれる有害物質を処理する排ガス処理手段と、船舶の位置を検出する位置検出手段と、前記有害物質と海域と現在および将来の前記有害物質の規制値と規制発効時期との関係を記憶する排ガス規制記憶手段と、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記海域に基づいて、前記船舶が前記海域内にある時刻が前記海域における前記規制発効時期以後である場合に、前記船舶が前記海域に入る前に前記有害物質の排出が前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合するように、前記排ガス処理手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
このような構成とすることで、規制海域における規制発効時期に関連付けられた有害物質の規制値に適合するように燃料を自動的に処理することができ、人力による場合の処理し忘れによる規制不遵守を回避することができる。また、排ガス処理作業を行う船員の負担を軽減することができる。
【0014】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置が前記排ガス規制記憶手段に記憶された第1の海域から前記第1の海域よりも厳しい前記規制値が設定された第2の海域に近づいた場合、前記船舶が前記第1の海域から前記第2の海域内に入る前に、前記有害物質の排出が前記第2の海域における前記規制値に適合するように処理することが可能な状態に前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする。
【0015】
このような構成とすることで、船舶が規制海域に入る前に、有害物質の排出が第2の海域における規制値に適合するように処理することが可能な状態に排ガス処理手段を制御することができる。
【0016】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置が前記排ガス規制記憶手段に記憶された第3の海域から前記第3の海域よりも緩やかな前記規制値が設定された第4の海域へ退出しようとする場合、前記船舶が前記第3の海域から前記第4の海域に出た後に、前記有害物質の排出が前記第4の海域における前記規制値に適合するように処理することが可能な状態に前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする。
【0017】
このような構成とすることで、規制が緩やかな海域において排ガス処理手段に無用な負担をかけることがなくなり、高価な高級燃料の消費を節約することができる。
【0018】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記排ガス規制記憶手段は、複数種類の前記有害物質ごとに前記関係を記憶し、前記制御手段は、前記有害物質ごとに前記排ガス処理手段を制御することを特徴とする。
【0019】
このような構成とすることで、対象海域に応じた燃料の排ガス処理を行うことができ、排ガス処理装置に無用な負担をかけることがなくなる。
【0020】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記有害物質又は前記海域又は前記規制値又は前記規制発効時期のいずれかが変更された場合、前記変更に応じて前記排ガス規制記憶手段の記憶内容を更新する更新手段を更に備えたことを特徴とする。
【0021】
このような構成とすることで、排ガス規制記憶手段に記憶された規制情報を常に最新の規制情報に自動的に保有することができるため、確実に規制を遵守することができ、人力による場合の更新し忘れによる規制不遵守を回避することができる。また、燃料切換作業を行う船員の負担を軽減することができる。
【0022】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記燃焼機関に複数種類の燃料を切り替えて供給する燃料供給手段を更に備え、前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と、前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記関係とに基づいて、前記燃料供給手段が供給する前記燃料を前記関係に含まれる前記規制値に応じて切り替え、前記排ガス処理手段に前記燃料に対応した処理を行わせることを特徴とする。
【0023】
このような構成とすることで、それぞれの規制海域に対応した燃料を使用し、その燃料に応じた排ガス処理を行うことができるため、高価な高級燃料の消費を節約することができ、燃料の種類ごとの適切な排ガス処理を行うことができる。
【0024】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記有害物質が硫黄酸化物であり、前記排ガス処理手段が、前記排ガスを液体で洗浄して前記硫黄酸化物を除去するスクラバを含むことを特徴とする。
【0025】
このような構成とすることで、規制海域にSOx規制がある場合に、スクラバにより排ガスから効率的にSOxを除去することができる。
【0026】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記制御手段は、前記位置検出手段で検出された前記船舶の位置と、前記排ガス規制記憶手段に記憶された前記関係とに基づいて、前記スクラバの方式を前記関係に含まれる前記規制値に適合する方式に切り替えることを特徴とする。
【0027】
このような構成とすることで、大洋,河川,港内等、多様な航行海域における排ガスの処理が可能となる。
【0028】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記スクラバが、前記燃焼機関から排出された前記排ガスに含まれる前記有害物質である粒子状物質も更に処理することを特徴とする。
【0029】
このような構成とすることで、より多様な排ガス規制に対応することができる。
【0030】
また、本発明に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶において、前記燃焼機関が、メタンを含むガスを燃焼し、前記排ガス処理手段が、前記燃焼機関から排出された前記排ガスに含まれる前記有害物質である未燃メタンを処理することを特徴とする。メタンを含むガス燃料とは、例えば天然ガスやバイオガス、LPガス、プロパンガス等が含まれる。
【0031】
このような構成とすることで、より多様な排ガス規制に対応することができる。
【0032】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、船舶の位置を検出し、有害物質と海域と現在および将来の前記有害物質の規制値と規制発効時期との関係を記憶し、検出された前記船舶の位置と記憶された前記海域に基づいて、前記船舶が前記海域内にある時刻が前記海域における前記規制発効時期以後である場合に、前記船舶が前記海域に入る前に前記有害物質の排出が前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合するよう、前記有害物質の処理を制御することを特徴とする。
【0033】
このような構成とすることで、規制海域における規制発効時期に関連付けられた有害物質の規制値に適合するように燃料を処理することができる。
【0034】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、複数種類の前記有害物質ごとに前記関係を記憶し、前記有害物質ごとに前記処理を制御することを特徴とする。
【0035】
このような構成とすることで、対象海域に応じた燃料の排ガス処理を行うことができ、排ガス処理装置に無用な負担をかけることがなくなる。
【0036】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、記憶された前記有害物質又は前記海域又は前記規制値又は前記規制発効時期のいずれかが変更された場合、前記変更に応じて記憶内容を更新することを特徴とする。変更を更新する時、例えば遠隔操作によって更新すれば、同じ会社に所属する異なる船の記憶内容を同時に一回で自動的に更新する事が出来る。インターネットを使った情報伝達(IoT)を利用すれば、この装置を搭載する世界中にある船舶の記憶内容を更新することも可能となる。
【0037】
このように構成することで、排ガス規制記憶手段に記憶された規制情報を常に最新の規制情報に自動的に保有することができるため、確実に規制を遵守することができ、人力による場合の更新し忘れによる規制不遵守を回避することができる。
【0038】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、前記有害物質の排出が、前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合可能な状態に変更されたときに、前記海域の管轄部署に前記変更を報告することを特徴とする。
【0039】
このように構成することで、船舶の排ガス処理が規制海域の排ガス規制に適合していることの報告義務を遵守することができ、人力による場合の報告し忘れによる規制不遵守を回避することができる。
【0040】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、前記有害物質の排出が、前記海域における前記規制発効時期に関連付けられた前記規制値に適合可能な状態に変更できないときに、前記海域の管轄部署に前記変更ができないことを報告することを特徴とする。
【0041】
このように構成することで、船舶の排ガス処理が規制海域の排ガス規制に適合していることの報告義務を遵守することができ、人力による場合の報告し忘れによる規制不遵守を回避することができる。
【0042】
また、本発明に係る船舶の排ガス規制に対応した運転方法において、前記有害物質前記処理において貯留した廃液を、前記廃液の廃棄が許容された前記海域において廃棄することを特徴とする。
【0043】
このように構成することで、船舶の排ガス処理による廃液の廃棄ルールを遵守することができ、人力による場合の過失による廃液の廃棄が許容されていない地域における廃液の廃棄を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス処理の制御に関する制御ブロック図である。
図2A】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶で用いられる排ガス規制のタイムテーブルである。
図2B図2Aのタイムテーブルに示すNOxの段階的規制の詳細を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶で用いられる排ガス規制のタイムテーブルが更新される様子を示した図である。
図4】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例1を表す図である。
図5】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例2を表す図である。
図6】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス規制に対応した運転方法における制御タイミングを表す図である。
図7】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例1、2の制御を説明するフローチャートである。
図8】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス規制に対応した運転方法における制御タイミングを表す図である。
図9】本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例3の制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(排ガス処理システムの説明)
以下、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス処理の制御について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス処理の制御に関する制御ブロック図である。
【0046】
図1において、燃焼機関10は、船舶に搭載された蒸気を発生するボイラー等の外燃機関、エンジンやガスタービン等の内燃機関、例えば船舶用ディーゼル機関等であり、2ストロークディーゼル機関、又は4ストロークディーゼル機関であることが好適である。燃焼機関10は、燃料供給手段20から供給された燃料を燃焼させて、スクリュー等の推進装置(図示せず)や発電機(図示せず)を作動させるが、燃料の燃焼に伴い、SOx、NOx、PM等の有害物質を排ガスとして排出する。
【0047】
燃料供給手段20は、燃料タンクを一つ備える場合と、燃料の種類に応じて複数の燃料タンクを備える場合がある。燃料タンクを複数備える場合は、C重油用のメインタンクとA重油用のサブタンク等の複数の燃料タンクを備える。サブタンクにはガス燃料を貯えるガス燃料タンク(液化ガスや高圧ガスタンク)も含まれる。
【0048】
切替又は調整手段30は、例示として、燃料切替バルブであり、船舶が一般海域にある場合と規制海域にある場合とで、それぞれの海域における規制値に応じて燃料供給手段20の燃料タンクを切り替えて供給させる。
【0049】
位置検出手段40は、衛星通信等を利用して、海洋上の船舶の位置及び時刻を検出するものであり、例えば、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)を利用することができる。これにより、位置検出手段40は、船舶の現在位置をその時刻とともに随時若しくは定期的に検出し、船舶が一般海域にあるか、又は、船舶が規制海域にあるか、又は、船舶が一般海域から規制海域に進入しようとしているか、若しくは、船舶が規制海域から一般海域に退出しようとしているか等の情報を、その時刻とともに制御手段100に送信する。
【0050】
排ガス規制記憶手段50は、例えば、後述するタイムテーブルを有し、タイムテーブル上で船舶が航海する地図情報、後述する一般海域、規制海域等の海域に関する海域情報、海域ごとにおける規制対象の有害物質情報、規制発効時期情報、規制期間情報、これらの相互間の関係、又は規制発効時期情報に関連付けられた規制値情報との関係、海域毎における有害物質の規制値情報と規制発効時期情報との関係、規制海域の外域における外域規制値等の規制情報等を記憶している。これらの情報は、個別に説明する必要がない場合は、「規制情報」と称する場合がある。更新手段60は、人力により、若しくは自動的に、通信、インターネット等から入手した情報に基づいて、排ガス規制記憶手段50の規制情報を最新の情報に随時若しくは定期的に更新する。
【0051】
本願では、IMO規制範囲内のECA海域及びIMO規制範囲外の地域規制海域を「規制海域」と定義し、それ以外の海域を「一般海域」と定義する。
【0052】
排ガス処理手段70は、例えば、後述するように、NOxを浄化するための選択的触媒還元技術(SCR:Selective Catalytic Reduction)を用いた尿素SCR装置(SCR装置)や、主にSOxを除去するためのスクラバを備え、特にC重油を燃料として用いた場合に、排ガスからNOxやSOx等の有害物質を除去処理して船舶外部に排出したり、貯留タンクに貯留する機能を有し、切替又は調整手段30により、燃料供給手段20の燃料タンクが切り替えられた場合や、処理しようとする有害物質に応じて、SCR装置やスクラバを起動し、船舶が海域内にある時刻が当該海域における規制発効時期以後である場合に、有害物質の排出が当該海域における当該規制発効時期に関連付けられた規制情報に適合した適切な排ガス処理を行う。
【0053】
排ガス処理手段70は、SOx、NOxだけでなく、後述する、PM、未燃メタン、トータルハイドロカーボン、ブラックカーボン等の有害物質も、対象の規制海域における規制値に適合するよう処理できる機能を有する。
【0054】
図1の白抜き矢印で示すように、燃料供給手段20から供給された燃料は、配管パイプ(図示しない)により切替又は調整手段30を通過して燃焼機関10に供給され、燃焼機関10で発生した排ガスは排ガス処理手段70で処理されて、船舶の外部に排出される。
【0055】
その他、船舶が排ガスを処理した後の廃液を廃棄できない海域に位置している場合のために、その廃液を貯留する貯留タンク(図示せず)も備える。
【0056】
ここで、本願において「適合した」とは、船舶が規制海域に入る前に、船舶から排出される排ガスに含まれる有害物質濃度が規制値と同じか規制値を下回っていること、排ガスの有害物質濃度が規制情報に含まれる規制ルールに対応し、または遵守されていること、船舶が規制海域に入る前に、その規制海域における規制情報に含まれる規制ルールを遵守する排ガス処理状態に排ガス処理装置の準備が完了していること、又は、船舶が規制海域に入る前に、当該有害物質をその規制海域の規制情報に適合するように処理することが可能な条件又は状態に変更したこと、又は、当該有害物質をその規制海域の規制情報に適合するように処理することが可能な条件又は状態になったこと、若しくは、排ガス処理手段70の排ガス処理機能の機能又は設定の切り替え作業が完了したことをいう。
【0057】
また、本願において「対応した」とは、上記の「適合した」の定義と同等に用いられる。
【0058】
完了通知手段80は、排ガス処理手段70における、排ガス中に含まれる有害物質の処理が、船舶がこれから進入しようとする規制海域における規制値に適合する状態となったことを船員に通知する。報告手段90は、船舶が規制海域に進入する前に、排ガス処理手段70の排ガス処理機能がその規制海域の規制情報に適合可能な状態になったこと、適合可能な状態に変更されたこと、又は何らかの理由で、船舶が規制海域に進入する前に規制情報に適合可能な状態にできないこと、適合可能な状態に変更できなかったことを、その規制海域の管轄部署に報告する。
【0059】
制御手段100は、燃焼機関10乃至報告手段90を制御する。
【0060】
制御手段100は、更新手段60を制御し、インターネットや管轄部署等から規制情報に関する更新情報を受信する。制御手段100は、更新手段60が得た更新情報を、その都度、排ガス規制記憶手段50に送信し、排ガス規制記憶手段50が有するタイムテーブルの規制情報を更新する。
【0061】
制御手段100は、位置検出手段40を作動させ、船舶の位置をその時刻とともに随時若しくは定期的に検出させ、制御手段100に送信させる。例えば、船舶が、一般海域から規制海域に進入しようとしていること、若しくは近づいていることを位置検出手段40が検出し、情報を送信し、制御手段100がその情報を受信すると、制御手段100は切替又は調整手段30の切り替え又は調整指示の要否を判断する。
【0062】
制御手段100は、燃料供給手段20が燃料タンクを複数備える場合であって、船舶が一般海域にある場合と規制海域にある場合とで、燃料を切り替え又は調整する必要がある場合、切替又は調整手段30により、一般海域では高硫黄含有燃料の燃料タンクに切り替え、規制海域では低硫黄燃料の燃料タンクに切り替える等の制御を行う。
【0063】
制御手段100は、船舶が一般海域にあって、燃料供給手段20から、例えば、硫黄等を高濃度で含有するC重油が供給されている場合、制御手段100は、排ガス処理手段70の尿素SCR装置やスクラバを起動させ、排ガスからNOx、PM、SOx等の有害物質を除去処理させて船舶外部に排出させる。
【0064】
制御手段100は、船舶が規制海域にあって、燃料供給手段20から、例えば、低硫黄濃度のA重油が供給されている場合、排ガス処理手段70のガス通路(図示しない)を切り替え、尿素SCR装置やスクラバを起動させずに、排ガスを船舶外部に排出させる。
【0065】
制御手段100は、位置検出手段40からの位置情報を継続的に受信し、位置情報から船舶の位置、船舶の速度、規制海域までの距離等の情報から、船舶が規制海域との境界に到達するまでの残り時間を継続的に計算しながら、排ガス処理手段70において、船舶が規制海域に進入する前に、若しくは船舶が規制海域との境界に到達する前までに、排ガス中に含まれる有害物質を、船舶がこれから進入しようとする規制領域に適合する規制値内の濃度に処理可能な状態となるよう、燃料供給手段20からの燃料を切替又は調整し、排ガス処理手段70を構成する装置の起動、機能の切り替え、機能の変更等を行ない、処理可能な状態になったこと、切替又は調整手段30の切り替え、又は調整、若しくは排ガス処理手段70の準備が完了したことを判断すると、完了通知手段80を起動して、そのことを船員に通知する。
【0066】
併せて、船舶が規制海域に進入する前に、排ガス処理手段70の排ガス処理機能がその規制海域に適合した機能に設定若しくは切り替えが完了したこと、若しくは何らかの理由で船舶が規制海域に進入する前に完了できなかった場合は、制御手段100は報告手段90を起動し、その規制海域の管轄部署に報告する。
【0067】
その他、制御手段100は、船舶が、排ガスを処理した後の廃液の廃棄が許容されていない海域に位置している場合は、その廃液を船舶内に備えた貯留タンク(図示しない)に貯留させる。
【0068】
このように、制御手段100が燃焼機関10乃至報告手段90を制御することで、規制海域における規制発効時期に関連付けられた規制値に適合するように燃料を自動的に処理することができ、また、これらの作業を人力によった場合に生じ得る、処理し忘れによる規制不遵守を回避することができる。また、排ガス処理作業を行う船員の負担を軽減することができる。
【0069】
また、船舶の排ガス処理によって生じた廃液の廃棄ルールを遵守することができ、人力によった場合に、廃液の廃棄が許容されていない地域で廃液を廃棄してしまう過失を防止することができる。
【0070】
更に、船舶の排ガス処理が規制海域の排ガス規制に適合していることの報告義務を遵守することができ、人力による場合の報告し忘れによる規制不遵守を回避することができる。
【0071】
(排ガス規制のタイムテーブル)
次に、排ガス規制記憶手段50が有するタイムテーブルについて説明する。図2Aは、本発明の実施形態に係る排ガス規制に適合した運転を行なう船舶で用いられる排ガス規制のタイムテーブルである。図2Bは、図2Aのタイムテーブルに示すNOxの段階的規制の詳細を示す図であり、図2Aで示した示すNOxの段階的規制(1次規制、2次規制、3次規制)の詳細内容を示す。図2Bに示すように、燃焼機関10の回転数によって設定された、燃焼機関10の仕事量当たりのNOxの排出重量が、規制値として設定されている。2次規制は1次規制に比べて20%の削減となっており、3次規制は1次規制に比べて80%の削減となっている。3次規制は、現時点において、ECA領域内規制となっている。
【0072】
図3は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に適合した運転を行なう船舶で用いられる排ガス規制のタイムテーブルが更新される様子を示した図であり、排ガス規制の変更時点毎に、排ガス規制が更新されていく様子を、図3(a)から図3(k)まで、場所と規制値成分について表したタイムテーブルである。
【0073】
図3(a)~図3(k)に示すように、排出ガス規制は年代が進むごとに厳しくなっており、規制成分については現在規制されている成分についてだけ表示しているが、図2Aのタイムテーブルに表記したように、将来はメタンを含むTHCやブラックカーボン等の成分が規制追加されたり、場所が追加されたりするなど、高度化多様化する可能性がある。
【0074】
タイムテーブルには、SOx規制、NOx規制、PM規制、メタンスリップを含むトータルハイドロカーボン(THC:Total Hydro Carbons)規制、ブラックカーボン(BC:Black Carbon)規制の規制対象について、規制海域、規制発効時期(規制開始時期、適用期間)、規制値との関係をタイムテーブルにしたものである。「規制発効時期以後」とは、規制が発効したとき及びその後の規制が有効である期間を意味し、規制発効期間、規制有効期間、規制期間を意味する。
【0075】
例えば、SOx規制をみると、一般海域では、2017年現在、3.5%以内となっており、規制海域であるECA海域の北米200海里内では、2011年に4.5%以内であったが、年代が進むにつれて、3.5%以内、1.0%以内と段階的に厳しく又は高度な規制が適用され、2017年現在、0.1%以内となっている。また、将来、更に厳しく又は高度な規制が適用される可能性がある。
【0076】
ここで、本願では複数の規制数値があるとき、より小さな規制数値を、「厳しい」規制値と定義し、場所の追加や規制成分の追加によって複雑に異なる規制値を「高度な」規制値、より大きな規制数値を「緩やかな」規制値、単純でシンプルな規制値を「低度な」規制値と定義する。
【0077】
また、同じECA海域であっても、中国沿岸は、2016年まで3.5%以内であったが、2017年現在、0.5%以内となっている。
【0078】
このように、規制対象の規制値は、有害物質の種類、規制海域、規制発効時期で異なっており、同じ規制海域内であっても、国や場所によって規制対象や発効時期、規制値が異なる。
【0079】
従って、船舶の排ガス処理システムとしては、図3(a)から順に、図3(b)、図3(c)、図3(d)、…、図3(k)に示すように、常に最新の規制情報を更新手段60が取り込み、その都度、図2Aのタイムテーブルに基づいた規制値を最新のものに更新することによって、排ガス処理手段70が、それぞれの規制海域において規制に適合した燃料を用い、また、規制対象の排ガスをその期間において適用されている規制値で適切に処理できる状態に管理しておく必要がある。
【実施例1】
【0080】
(燃料タンクが複数の場合の実施例)
(一般海域)
次に、図を用いて本願発明における実施例1を説明する。図4は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例1を表す図である。実施例1では、以下で説明する制御手順をすべて制御手段100(図1)が自動で行う。
【0081】
実施例1は、燃料供給手段20Aとして、メインタンク21とサブタンク22を備えた場合の例であり、規制が比較的緩やかな一般海域における運転用に、メインタンク21で高硫黄含有燃料(本願では、C重油とする。)を貯蔵し、規制が一般海域よりも厳しい規制海域における運転用に、サブタンク22で低硫黄燃料(本願では、A重油とする。)を貯蔵する。
【0082】
位置検出手段40としてのGPS40が時刻情報を含む船舶の位置情報を取得し、制御手段100は位置情報に基づいて、燃料切替バルブ30を制御する。制御手段100が、現在、船舶が一般海域にあるとの位置情報をGPS40から得た場合、燃料切替バルブ30を燃料供給手段20Aのメインタンク21が開となるように切り替え、C重油を燃焼機関10としてのエンジン10に供給する。エンジン10で燃焼されたC重油は有害物質を排出するが、制御手段100は排ガス規制記憶手段50(図1)のタイムテーブル(図2A)を参照して規制情報を確認し、排ガス濃度センサ71で検出された排ガスの有害物質濃度が、現在船舶140が運転している一般海域における規制値に適合している場合、排ガス処理手段70Aの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、排ガスをバイパス通路73に通す処理を行ない、外部に排出する。
【0083】
制御手段100が、船舶がこれからSOx規制海域に入るとの位置情報をGPS40から得た場合、燃料切替バルブ30を燃料供給手段20Aのサブタンク22が開となるように切り替え、A重油をエンジン10に供給する。更に制御手段100はタイムテーブルの規制情報を確認し、排ガス濃度センサ71で検出する有害物質NOx濃度が、これから船舶140が入ろうとする規制海域における規制値を上回っていると判断した場合、制御手段100は、排ガスの有害物質を処理するため、排ガス処理手段70Aの排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、排ガスをSCR装置74に通し、排ガス処理を行なう。
【0084】
燃料供給手段20Aをメインタンク21からサブタンク22に切り替える場合、制御手段100は排ガス濃度センサ71又は排ガス濃度センサ76で排ガスの有害物質であるNOx濃度を検出し、タイムテーブルの規制値に適合していることを確認した場合は、排ガス処理手段70Aの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、そのまま処理せずに外部に排出する。
【0085】
制御手段100が、燃料供給手段20Aをメインタンク21のままにして排ガスを処理させることを判断した場合、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替える。SCR装置74は選択触媒還元脱硝装置(SCR:Selective Catalytic Reduction)であり、排ガス中の主にNOxを除去するため、還元剤としてアンモニアガス若しくは尿素水75を供給し、NOxは無害な窒素(N)と水(HO)に分解される。制御手段100はSCR装置74で処理された排ガスの有害物質濃度を排ガス濃度センサ76で検出し、排ガスの有害物質濃度がタイムテーブルの規制値に適合していることを確認し、分解された窒素と水を排ガスとして外部に排出する。なお、実施例1においても、実施例2で説明するようなSOxを処理するためのスクラバを設けてもよく、燃料供給手段20Aをメインタンク21のままにした場合に、一般海域であっても排ガスのSOx濃度がSOx規制に適合しないと判断される場合は、適宜スクラバを起動させて、SOxを処理してもよい。
【0086】
(実施例1の規制海域)
次に、一般海域を運転する船舶が規制海域に進入しようとする際の制御について説明する。図6は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス規制に対応した運転方法における制御タイミングを表す図である。図6に示すように、一般海域110(第1の海域)、規制海域120(第2の海域)、一般海域110と規制海域120の境界130が示され、船舶140は一般海域110から規制海域120に進入しようとしている。
【0087】
現在、船舶140が一般海域110を運転しているが、制御手段100が、船舶140が規制海域120との境界130に近づいていることを示す情報を、地点AにおいてGPS40から得た場合、排ガス濃度センサ71又は排ガス濃度センサ76で排ガスの有害物質濃度を検出し、船舶140が境界130に到達する前の地点Bの時点において、排ガスに含まれる有害物質濃度がその規制海域120の規制値に適合するよう、燃料供給手段20Aの切り替えと、排ガス処理手段70Aの機能の切り替えを準備する。
【0088】
まず、図4において、制御手段100は、燃料切替バルブ30をサブタンク22が開となるように切り替え、A重油をエンジン10に供給する。制御手段100は、排ガス処理手段70Aの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に設定したまま、排ガス濃度センサ71又は排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度と、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して得た規制情報とを参照し、エンジン10で燃焼されたA重油の排ガスの有害物質濃度が、境界130の手前の地点Bにおいて、これから進入しようとする規制海域120における規制値に適合すると判断できた場合、排ガス処理手段70Aによる有害物質の排出が規制海域120における規制発効時期に関連付けられた規制値に適合する、すなわち、排ガス処理手段70Aの準備が完了したと判断する。
【0089】
次に、制御手段100が、排ガス濃度センサ71若しくは排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度と、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して得た規制情報とを参照した結果、現在の排ガス処理手段70Aの機能のまま、船舶140が規制海域120に進入してしまうと、排ガスの有害物質濃度が規制海域120における規制値を上回ると、地点Aにおいて判断した場合、制御手段100は、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、SCR装置74を起動する。
【0090】
SCR装置74は、NOxに尿素水75を供給し、NOxを窒素と水に分解して排ガスとして外部に排出する。制御手段100は、排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度に基づいて、排ガス処理手段70Aで処理される有害物質濃度が規制値に適合することを確認する。そして、制御手段100は、地点Bにおいて、排ガス処理手段70Aによる有害物質の排出が規制海域120における規制値に適合するように処理することが可能な状態になった、すなわち、排ガス処理手段70Aの準備が完了したと判断する。
【0091】
なお、ここでは、燃料供給手段20Aをサブタンク22に切り替え、SOx濃度が低いA重油を供給しているので、排ガス処理手段70AにおいてSOxを処理するスクラバを起動させる必要がないことを前提としているが、実施例2で説明するようなSOxを処理するためのスクラバを設けてもよく、燃料供給手段20Aをサブタンク22に切り替えても、排ガスのSOx濃度がSOx規制に適合しないと判断される場合は、適宜スクラバを起動させて、SOxを処理してもよい。
【0092】
制御手段100は、船舶140が規制海域120に進入する前に、燃料供給手段20Aの切り替えが完了したこと、又は、排ガス処理手段70Aにおいて、排ガス中に含まれる有害物質を、船舶140がこれから進入しようとする規制海域120に適合する規制値内の濃度に処理可能な状態となったこと、すなわち、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したことを判断すると、完了通知手段80を起動してそのことを船員に通知する。
【0093】
併せて、船舶140が規制海域120に進入する前に、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能がその規制海域120に適合した機能に設定若しくは切り替えが完了した場合、若しくは何らかの理由で船舶140が規制海域120に進入する前に完了できなかった場合は、制御手段100は報告手段90を起動し、その規制海域120の管轄部署に報告する。
【実施例2】
【0094】
(SCR装置又はスクラバで処理する場合の実施例)
(一般海域)
次に、図を用いて本願発明における実施例2を説明する。図5は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例2を表す図である。実施例2では、以下で説明する制御手順をすべて制御手段100(図1)が自動で行う。
【0095】
実施例2は、燃料供給手段20Bとして、高硫黄含有燃料であるC重油を貯蔵するメインタンク21のみを備える。
【0096】
制御手段100が、現在、船舶が一般海域にあるとの位置情報をGPS40から得た場合、メインタンク21からC重油をエンジン10に供給する。エンジン10で燃焼されたC重油は有害物質を含有する排ガスとして排出されるが、排ガス濃度センサ71で検出された排ガスの有害物質濃度と排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、有害物質濃度が現在船舶が運転している一般海域における規制値に適合していると判断した場合、排ガス処理手段70Bの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、後述するスクラバ77自体も作動させず、排ガスを外部に排出する。
【0097】
ここで、スクラバ77とは、排ガスに水ポンプ78から洗浄水を高拡散で噴霧して、液滴にSOx等の有害物質を吸収させて除去する装置であり、スクラバ77の方式(モード)として、取水した海水を直接排ガスに散布して洗浄し、そのまま排出するオープンループモードと、洗浄水に清水を使用し排ガス洗浄後に再利用し、外に出さないクローズドループモード等を搭載したものがある。スクラバ77はこのどちらかの方式を持つものとこれらの複数の機能を同時に有し、制御手段100によってはこれらのモードを切り替えることができるハイブリッド方式を備えたものもある。これにより、大洋,河川,港内等、多様な航行海域における排ガスの処理が可能となる。
【0098】
次に、制御手段100が、排ガス濃度センサ71または排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度と排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、SOx濃度が現在船舶が運転している一般海域における規制値を上回っていると判断した場合、制御手段100は、水ポンプ78を運転してスクラバ77を起動する。制御手段100は、スクラバ77で処理された排ガスの有害物質濃度を排ガス濃度センサ76で検出し、タイムテーブルの規制値に適合していることを確認し、排ガスを外部に排出する。
【0099】
併せて、制御手段100が、排ガス濃度センサ71または排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度と排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、NOx濃度が現在船舶が運転している一般海域における規制値を上回っていると判断した場合、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、SCR装置74を起動する。
【0100】
SCR装置74でNOxが処理された排ガスは、次に、スクラバ77に送り込まれ、SOxやPMが処理される。制御手段100は、SCR装置74とスクラバ77で処理された排ガスの有害物質濃度を排ガス濃度センサ76で検出し、タイムテーブルの規制値に適合していることを確認し、排ガスを外部に排出する。
【0101】
(実施例2の規制海域)
次に、一般海域110を運転する船舶が規制海域120に進入しようとする際の制御について、図5図6を用いて説明する。図6において、現在、船舶140が一般海域110を運転しているが、制御手段100が、船舶140が規制海域120との境界130に近づいていることを示す情報を、地点AにおいてGPS40から得た場合、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bの時点において、排ガスに含まれる有害物質濃度がその規制海域120の規制値に適合するよう、排ガス処理手段70Bの機能の切り替えを準備する。
【0102】
まず、図5において、制御手段100は、排ガス濃度センサ71若しくは排ガス濃度センサ76で検出された排ガスの有害物質濃度と排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、地点Aにおいて、有害物質濃度がこれから船舶140が進入しようとしている規制海域120における規制値に適合していると判断した場合、排ガス処理手段70Bの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、スクラバ77自体も作動させず、排ガスを排出できる状態にする。これにより、境界130の手前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Bによる有害物質の排出が規制海域120における規制発効時期に関連付けられた規制値に適合する、すなわち、排ガス処理手段70Bの機能の切り替え準備が完了したと判断する。
【0103】
次に、制御手段100が、排ガス濃度センサ71若しくは排ガス濃度センサ76で検出された排ガスのSOx濃度と、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、排ガス処理手段70Bを現状の状態で動作させたままでは、SOx濃度がこれから船舶140が進入しようとしている規制海域120における規制値を上回ってしまうと、地点Aにおいて判断した場合、排ガス処理手段70Bの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、水ポンプ78を運転してスクラバ77を起動させる。これにより、地点Bにおいて、排ガスをスクラバ77を通して排出できる状態にする。
【0104】
次に、制御手段100が、排ガス濃度センサ71若しくは排ガス濃度センサ76で検出された排ガスのNOx濃度と、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルの規制情報とから、排ガス処理手段70Bを現状の状態で動作させたままでは、NOx濃度がこれから船舶140が進入しようとしている規制海域120における規制値を上回ってしまうと、地点Aにおいて判断した場合、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、SCR装置74とスクラバ77の両方とも起動させる。
【0105】
SCR装置74で処理された排ガスは、次に、スクラバ77に送り込まれる。制御手段100は、SCR装置74とスクラバ77で処理された排ガスの有害物質濃度を排ガス濃度センサ76で検出し、処理される有害物質濃度がタイムテーブルの規制値内となることを確認する。そして、制御手段100は、地点Bにおいて、排ガス処理手段70Bから排出される有害物質濃度が規制海域120における規制値に適合するように処理することが可能な状態になった、すなわち、排ガス処理手段70Bの準備が完了したと判断する。
【0106】
制御手段100は、排ガス処理手段70Bにおいて、船舶140が規制海域120に進入する前に、排ガス中に含まれる有害物質濃度を、船舶140がこれから進入しようとする規制海域120に対応する規制値内に処理可能な状態となったこと、すなわち、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Bの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したことを判断すると、完了通知手段80を起動してそのことを船員に通知する。
【0107】
併せて、船舶140が規制海域120に進入する前に、排ガス処理手段70Bの排ガス処理機能がその規制海域120に適合した機能に設定若しくは切り替えが完了したこと、若しくは何らかの理由で船舶140が規制海域120に進入する前に完了できなかった場合は、制御手段100は報告手段90を起動し、その規制海域120の管轄部署に報告する。
【0108】
なお、本願において、一般海域110を「第1の海域」、規制海域120を「第2の海域」と定義したが、規制海域を「第1の海域」とし、前記規制海域よりも厳しい規制値が設定されている規制海域を「第2の海域」と置換して定義することもでき、その場合の制御手段の制御も実施例1及び実施例2の内容を準用することができる。
【0109】
(実施例1、2の判定手順)
次に、実施例1、2で説明したように、船舶が規制海域に進入しようとする場合の制御フローについて、図4図5図6図7を用いて説明する。図7は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例1、2の制御を説明するフローチャートである。
【0110】
図6に示すように、現在、船舶140が一般海域110を運転しており、その時の時刻情報と地点Aの位置情報とをGPS40から得ることにより(S10)、制御手段100が、船舶140が規制海域120との境界130に近づいていることを判定する(S20)。
【0111】
制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、規制対象の有害物質および規制海域の規制項目を読み込み、GPS40から得た時刻において、その規制海域が規制対象の有害物質の規制発効時期に入っているか否かを判別し、その規制値に基づく判定結果に応じて、実施例1の図4のように、燃料供給手段20のメインタンク21とサブタンク22を切り替えるか、又は、実施例2の図5のように、排ガス処理手段70のSCR装置74又はスクラバ77の起動の要否を選択する。
【0112】
排ガス処理手段70の機能の切り替えは、実施例1の図4のように、燃料供給手段20が、実施例1のようにメインタンク21とサブタンク22を有するか、実施例2の図5のように、メインタンク21のみを有するかによって変わり、また、排ガス処理手段70が、実施例1の図4のように、SCR装置74のみを有するか、実施例2の図5のように、SCR装置74とスクラバ77を有するかによって変わる。
【0113】
まず、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、規制対象の有害物質および規制海域120の規制項目を読み込み(S30)、GPS40から得た時刻情報に基づき、その規制海域120が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S40)。
【0114】
YESと判定した場合、図4に示すように、燃料供給手段20Aを切り替えるか、又は、図5に示すように、スクラバ77を起動し、SOxを処理可能な状態にする(S50)。燃料供給手段20Aを切り替える場合、制御手段100は、燃料切替バルブ30をサブタンク22が開となるように切り替えることにより、C重油を貯蔵するメインタンク21からA重油を貯蔵するサブタンク22に切り替えて、A重油をエンジン10に供給する。スクラバ77を起動させる場合、制御手段100は、排ガス処理手段70Bの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、水ポンプ78を運転してスクラバ77を起動し、SOxを処理可能な状態にする。
【0115】
次に、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、その規制海域120が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S60)。
【0116】
YESと判定した場合、制御手段100は、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、SCR装置74を起動し、NOxを処理可能な状態にする(S70)。
【0117】
NOと判定した場合、制御手段100は、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側にしたまま、SCR装置74は起動しない(S80)。
【0118】
S40に戻り、規制海域120が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っておらず、NOと判定した場合、図4に示すように、燃料供給手段20を切り替えないか、又は、図5に示すように、スクラバ77を起動させない(S90)。
【0119】
燃料供給手段20を切り替えない場合、図4に示すように、制御手段100は、排ガス処理手段70Aの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、排ガスをバイパス通路73に通す処理を行ない、外部に放出する。スクラバ77を起動させない場合、図5に示すように、排ガス処理手段70Bの排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替えたまま、スクラバ77を起動せずに、排ガスをそのまま外部に放出する。
【0120】
次に、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、その規制海域120が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S100)。
【0121】
YESと判定した場合、制御手段100は、排ガス通路切替バルブ72をSCR装置74側に切り替え、SCR装置74を起動し、NOxを処理可能な状態にする(S110)。
【0122】
NOと判定した場合、制御手段100は、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側にしたまま、SCR装置74は起動しない(S120)。
【0123】
制御手段100は、排ガス処理手段において、船舶140が規制海域120に進入する前に、排ガス中に含まれる有害物質の濃度を、船舶140がこれから進入しようとする規制海域120に適合する規制値内の濃度に処理可能な状態となったか否か、すなわち、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S130)。
【0124】
また、S60において、規制海域120が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っていることを判別し、SCR装置74を起動した場合(S70)、制御手段100は、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S130)。
【0125】
また、S70において、規制海域120が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っていないことを判別し、SCR装置74を起動しないこととした場合(S80)、制御手段100は、船舶140が一般海域110と規制海域120との境界130に到達する前の地点Bにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S130)。
【0126】
S130で適合していないと判断される場合(NO)は、SCR装置74が起動されているか否かを判断する(S160)。SCR装置74が起動されている場合(YES)、完了通知を行ない(S140)、SCR装置74が起動されていなければ(NO)、S170に進み、更にS110に戻って、SCR装置74を起動し、処理を継続する。
【0127】
S130で適合していると判断される場合(YES)、又はSCR装置74を起動しても不適合の場合、制御手段100は、完了通知手段80を起動してそのことを船員に通知する(S140)。併せて、船舶140が規制海域120に進入する前に、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能がその規制海域120に適合した機能に設定若しくは切り替えが完了した場合、若しくは何らかの理由で船舶140が規制海域120に進入する前に完了できなかった場合は、制御手段100は報告手段90を起動し、その規制海域120の管轄部署に報告(S150)、一連の処理を終了する(S180)。
【0128】
スクラバ77を搭載した船舶140の場合、排ガスを処理した後の廃液の処理に進む(S200)。制御手段100が、GPS40からの情報に基づき、船舶140が運転している海域が廃液の廃棄が許可されている海域か否かを判断し(S210)、廃液の廃棄が許可されている海域でなければ(NO)、船内に廃液を貯留する。廃液の廃棄が許可されている海域であれば(YES)、その海域に必要に応じて廃液を処理して廃棄する(S220)。そして、以上の処理を終了する(S230)。
【0129】
なお、規制海域を「第1の海域」とし、前記規制海域よりも厳しい規制値が設定されている規制海域を「第2の海域」と置換して定義することも可能であり、その場合の判定手順も、上記判定手順を準用するものである。
【実施例3】
【0130】
(規制海域から退出する場合の実施例)
次に、実施例3を説明する。実施例3は、船舶140が第2規制海域160(第3の海域)から第1規制海域150(第4の海域)に退出しようとする場合を例示したものである。
【0131】
図8は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶の排ガス規制に対応した運転方法における制御タイミングを表す図である。
【0132】
図8において、船舶140が第2規制海域160内を運転しており、制御手段100は、その時の時刻情報と地点Cの位置情報とをGPS40から得ることにより、地点Cにおいて、船舶140が第2規制海域160を退出して第1規制海域150に進入しようとしており、第1規制海域150と第2規制海域160との境界である境界130に近づいていることを判定する。
【0133】
制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、規制対象の有害物質および第1規制海域150の規制項目を読み込み、GPS40から得た時刻における第1規制海域150における規制対象である有害物質の濃度の規制値を確認し、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っているか否かを判別するとともに、船舶140が地点Cにおいて作動させている排ガス処理手段70Bの処理能力を第1規制海域150においても維持する必要があるか否かを判別する。
【0134】
制御手段100は、その規制値に基づく判定結果に応じて、実施例1の図4のように、燃料供給手段20のメインタンク21とサブタンク22を切り替えるか、又は、実施例2の図4における排ガス処理手段70AのSCR装置74の駆動停止の要否、又は図5のように、排ガス処理手段70BのSCR装置74又はスクラバ77の駆動停止の要否を選択する。
【0135】
排ガス処理手段70の機能の切り替えは、実施例1の図4のように、燃料供給手段20が、実施例1のようにメインタンク21とサブタンク22を有するか、実施例2の図5のように、メインタンク21のみを有するかによって変わり、また、排ガス処理手段70が、実施例1の図4のように、SCR装置74のみを有するか、実施例2の図5のように、SCR装置74とスクラバ77を有するかによって変わる。
【0136】
制御手段100が、地点Cにおいて作動させている排ガス処理手段70Aの処理能力を第1規制海域150において維持する必要がないと判断した場合、制御手段100は、図4に示すように、燃料供給手段20Aを切り替えるか、又は、図5に示すように、スクラバ77の処理能力の調整を行う。
【0137】
燃料供給手段20Aを切り替える場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、外域である第1規制海域150の地点Dにあることを確認してから、図4の燃料切替バルブ30をメインタンク21が開となるように切り替えることにより、A重油を貯蔵するサブタンク22からC重油を貯蔵するメインタンク21に切り替えて、C重油をエンジン10に供給する。
【0138】
スクラバ77の処理能力を調整する場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、スクラバ77の駆動状態を確認し、スクラバ77が第1規制海域150におけるSOx規制値よりも厳しくSOxを処理している場合は、第1規制海域150におけるSOx規制値に適合するよう、スクラバ77の処理能力を調整する。具体的には、第1規制海域150におけるSOx規制値が第2規制海域160におけるSOx規制値よりも緩やかである場合は、制御手段100は、スクラバ77の処理能力を弱めるか、若しくはスクラバ77の動作を停止する。
【0139】
次に、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っているか否かを判別するとともに、船舶140が地点Cにおいて作動させている排ガス処理手段70A又は排ガス処理手段70BにおけるSCR装置74の処理能力を第1規制海域150においても維持する必要があるか否かを判別する。
【0140】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っていると判別され、かつ、船舶140が地点Cにおいて作動させているSCR装置74の処理能力を第1規制海域150において維持する必要がないと判断した場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、SCR装置74の駆動状態を確認し、SCR装置74が処理した後の排ガスに含まれるNOx濃度が第1規制海域150における規制値に適合するようSCR装置74の処理能力を調節する。また、SCR装置74の駆動を停止する場合は、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、SCR装置74の駆動を停止し、排ガスをバイパス通路73を通して排出する。
【0141】
なお、図6図8における一般海域110と第1規制海域150、規制海域120と第2規制海域160は、同一海域であってもよいし、異なる海域であってもよい。
【0142】
(実施例3の判定手順)
次に、実施例3で説明したように、船舶140が第2規制海域160から第1規制海域150に退出しようとする場合の制御フローについて、図4図5図8図9を用いて説明する。図9は、本発明の実施形態に係る排ガス規制に対応した運転を行なう船舶における実施例3の制御を説明するフローチャートである。
【0143】
例えば、図9に示すように、現在、船舶140が第2規制海域160内を運転しており、その時の時刻情報と地点Cの位置情報とをGPS40から得ることにより(S190)、制御手段100が、地点Cにおいて、船舶140が第2規制海域160の外域である第1規制海域150との境界130に近づいていることを判定する(S200)。
【0144】
制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、規制対象の有害物質および第1規制海域150の規制項目を読み込み、GPS40から得た時刻において、第2規制海域160を退出して、これから進入しようとする第1規制海域150における規制対象の有害物質の規制値を確認し、地点Cにおいて排出している排ガスが第1規制海域150における規制値に適合しているか否かを判別し、その規制値に基づく判定結果に応じて、実施例1の図4のように、燃料供給手段20のメインタンク21とサブタンク22を切り替えるか、又は、実施例1の図4、実施例2の図5のように、排ガス処理手段70A又は排ガス処理手段70BのSCR装置74又はスクラバ77の調整又は駆動停止の要否を選択する。
【0145】
まず、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、規制対象の有害物質および第1規制海域150の規制項目を読み込み(S210)、GPS40から得た時刻情報に基づき、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S220)。
【0146】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っており、S220でYESと判定した場合、図4に示すように、燃料供給手段20Aを切り替えるか、又は、図5に示すように、スクラバ77の処理能力の調整を行う。燃料供給手段20Aを切り替える場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、外域である第1規制海域150の地点Dにあることを確認してから、図4の燃料切替バルブ30をメインタンク21が開となるように切り替えることにより、A重油を貯蔵するサブタンク22からC重油を貯蔵するメインタンク21に切り替えて、C重油をエンジン10に供給する。スクラバ77の処理能力を調整する場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、図5のスクラバ77が処理した後の排ガスに含まれるSOx濃度が、第1規制海域150におけるSOx規制値に適合するよう、スクラバ77の処理能力を調整する(S230)。
【0147】
次に、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S240)。
【0148】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っており、S240でYESと判定した場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、図4又は図5のSCR装置74の駆動状態を確認し、SCR装置74が処理した後の排ガスに含まれるNOx濃度が第1規制海域150における規制値に適合するよう、SCR装置74の処理能力を調節する(S250)。
【0149】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っておらず、S240でNOと判定した場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、図4の場合、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、SCR装置74の駆動を停止する。図5の場合、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、SCR装置74の駆動を停止する(S260)。
【0150】
S220に戻り、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるSOxの規制発効時期に入っておらず、NOと判定した場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、図4に示すように、燃料供給手段20Aをメインタンク21側に切り替えるか、又は、図5に示すように、スクラバ77の駆動を停止する(S270)。
【0151】
燃料供給手段20Aを切り替える場合、図4に示すように、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、燃料切替バルブ30をメインタンク21が開となるように切り替えることにより、A重油を貯蔵するサブタンク22からC重油を貯蔵するメインタンク21に切り替えて、C重油をエンジン10に供給する。スクラバ77の駆動を停止する場合、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、図5に示すように、スクラバ77の駆動を停止し、SCR装置74だけを駆動させて、排ガスを外部に放出する。
【0152】
次に、制御手段100は、排ガス規制記憶手段50のタイムテーブルを参照して、その第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っているか否かを判別する(S280)。
【0153】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っており、S280でYESと判定した場合、制御手段100は、図4図5において、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、SCR装置74の駆動状態を調べ、SCR装置74が処理した後の排ガスにおけるNOx濃度が第1規制海域150における規制値に適合するよう、SCR装置74の処理能力を調整する(S290)。
【0154】
第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っておらず、S280でNOと判定した場合、図4において、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、SCR装置74の駆動を停止する。また、図5において、制御手段100は、GPS40から得た位置情報に基づき、船舶140が境界130を越え、第1規制海域150内の地点Dにあることを確認してから、排ガス通路切替バルブ72をバイパス通路73側に切り替え、SCR装置74の駆動を停止する(S300)。
【0155】
制御手段100は、排ガス処理手段において、船舶140が第1規制海域150に出た後に、排ガス中に含まれる有害物質を、船舶140が第1規制海域150に適合する規制値内の濃度に処理可能な状態となったか否か、すなわち、船舶140が第1規制海域150の地点Dにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S310)。
【0156】
また、S240において、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っていることを判別し、SCR装置74の処理能力を調節した場合(S250)、制御手段100は、船舶140が第1規制海域150の地点Dにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S310)。
【0157】
また、S240において、第1規制海域150が規制対象の有害物質であるNOxの規制発効時期に入っていないことを判別し、SCR装置74の駆動を停止することとした場合(S260)、制御手段100は、船舶140が第1規制海域150の地点Dにおいて、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能の切り替え作業が完了したか否かを判断する(S310)。
【0158】
S310において、適合していないと判断される場合は(NO)、SCR装置74の処理能力を調整したかどうか判定し(S350)、処理能力を調整していなければ(NO)、S360に進み、更にS290に戻って、SCR装置74の処理能力を調整する。処理能力の調整が済んでいれば(YES)、完了通知の処理を実施継続する(S320)。
【0159】
S310で、第1規制海域150の規制値内の濃度に適合する場合(YES)、又はSCR装置74の処理能力を調整しても不適合と判断される場合、制御手段100は、完了通知手段80を起動してそのことを船員に通知する(S320)。併せて、船舶140が第1規制海域150に出た後に、排ガス処理手段70Aの排ガス処理機能が第1規制海域150に適合した機能に設定若しくは切り替えが完了した場合、制御手段100は、必要に応じて、報告手段90を起動し、適不適を第1規制海域150の管轄部署に報告する(S330)。
【0160】
スクラバ77を搭載した船舶140の場合、排ガスを処理した後の廃液の処理に進む(S400)。制御手段100が、GPS40からの情報に基づき、船舶140が運転している海域が廃液の廃棄が許可されている海域か否かを判断し(S410)、廃液の廃棄が許可されている海域でなければ(NO)、船内に廃液を貯留し、S410の判定を繰り返す。廃液の廃棄が許可されている海域であれば(YES)、その海域に必要に応じて廃液を処理して廃棄する(S420)。そして、以上の処理を終了する(S430)。
【0161】
なお、第1規制海域150は一般海域110であってもよく、その場合の処理も上記判定手順を準用する。
【符号の説明】
【0162】
10 燃焼機関(エンジン)、20 燃料供給手段、20A 燃料供給手段、20B 燃料供給手段、21 メインタンク、22 サブタンク、30 切替又は調整手段(燃料切替バルブ)、40 位置検出手段(GPS)、50 排ガス規制記憶手段、60 更新手段、70 排ガス処理手段、70A 排ガス処理手段、70B 排ガス処理手段、71 排ガス濃度センサ、72 排ガス通路切替バルブ、73 バイパス通路、74 SCR装置、75 尿素水、76 排ガス濃度センサ、77 スクラバ、78 水ポンプ、80 完了通知手段、81 通路、90 報告手段、100 制御手段、110 一般海域(第1の海域)、120 規制海域(第2の海域)、130 境界、140 船舶、150 第1規制海域(第4の海域)、160 第2規制海域(第3の海域)。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9