(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法、ならびに、被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20220823BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20220823BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CER
C08L1/10
C08L101/00
D06M15/263
(21)【出願番号】P 2018145331
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
(72)【発明者】
【氏名】中野 涼子
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201014(JP,A)
【文献】特開2014-162880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28;99/00
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、
疎水性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数
16以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との
ブロック共重合体であり、
前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、
前記共重合体と、セルロースナノファイバーの水分散物と、有機溶媒とを混合して、含水率20質量%以下の反応液を調製し、前記反応液を110℃以上に加熱し、前記反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒を含む組成物(1)を調製する被覆CNF調製工程と、
前記被覆セルロースナノファイバー
および前記有機溶媒を含む組成物(1)と、前記
疎水性樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーにおいて、前記セルロースナノファイバーに対する前記共重合体の質量比が1質量%以上100質量%以下である請求項1に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される1種以上である請求項
1または2に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、
疎水性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数
16以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との
ブロック共重合体であり、
前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体。
【請求項5】
セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーの製造方法であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数
16以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との
ブロック共重合体であり、
前記共重合体と
、セルロースナノファイバー
の水分散物と、有機溶媒とを混合し
て、含水率20質量%以下の反応液を調製し、前記反応液を110℃以上に加熱し、前記反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とをエステル結合させる工程を有する被覆セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーであって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数
16以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との
ブロック共重合体であり、
前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法、ならびに、被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂とセルロースナノファイバーとを複合化することで、樹脂の機械物性を向上させることができる。また、セルロースナノファイバーは植物由来の材料であり、カーボンニュートラルであることからも注目されている。しかしながら、セルロースは、親水性が高く、汎用樹脂のような疎水性の樹脂と相溶性が低いため、樹脂中に分散しにくい。このため、セルロースナノファイバーの樹脂中への分散を向上させることを目的として種々の検討がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルロースと、樹脂と、分散剤とを含む樹脂組成物が開示されている。特許文献1の分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものである。
【0004】
一方、本発明者等は、長鎖アルカン基を保有し側鎖結晶性を示すモノマーと溶媒親和性を示すモノマーを用いたブロック共重合体である、側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC:Side Chain Crystalline Block Copolymer)を用いた表面修飾材料を開示している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-162880号公報
【文献】特開2017-201014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとして種々の高分子の分散剤が記載されている。具体的には、HEMAのような水酸基を持つセルロース親和性セグメントBを有する分散剤を用いて、水素結合によりセルロースと相互作用させることを利用して、セルロースナノファイバーと樹脂を複合化する例が開示されている。しかしながら、複合体中でセルロースは凝集しており、セルロースを十分に分散できていなかった。また、多量に分散剤を添加する必要があり、これにより機械特性等が低下しやすいという問題があり、更なる改良が求められていた。
特許文献2に開示された技術は、SCCBCを利用した基材の表面の改質を目的とするものであり、凝集しやすいセルロースナノファイバーと樹脂との複合体の添加剤としてのSCCBCの利用には更なる検討の余地があった。
係る状況下、本発明は、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、優れた機械物性を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、前記被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、前記樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<2> 前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーにおいて、前記セルロースナノファイバーに対する前記共重合体の質量比が1質量%以上100質量%以下である<1>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<3> 前記樹脂は、疎水性樹脂である<1>または<2>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<4> 前記組成物(1)は、前記被覆セルロースナノファイバーと有機溶媒とを含む組成物である<1>から<3>のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<5> 前記有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される1種以上である<4>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<6> 前記被覆CNF樹脂混合工程の前に、前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、前記有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する被覆CNF調製工程を有する<4>または<5>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<7> 前記反応液の含水率が、20質量%以下である<6>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<8> 前記被覆CNF調製工程において、前記反応液を110℃以上に加熱し、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させる<6>または<7>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<9> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体。
<10> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーの製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とをエステル結合させる工程を有する被覆セルロースナノファイバーの製造方法。
<11> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーであって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、優れた機械物性を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法が提供される。本発明のセルロースファイバー樹脂複合体は、共重合体の添加量が少ない場合でも、セルロースナノファイバーが樹脂中に分散しており、機械物性の優れたものとなる。
また、本発明によれば、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】被覆CNF調製工程における、本発明に用いる共重合体によるセルロースナノファイバーの被覆を説明する図である。
【
図2】本発明のセルロースナノファイバー(CNF)樹脂複合体の製造方法の一例のフローを説明するための図である。
【
図3】実施例1及び比較例1のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜の偏光顕微鏡写真である。
【
図4】実施例2及び比較例2のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜、比較例3のポリスチレン膜の外観写真である。
【
図5】実施例2のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜の伸び-荷重曲線を示す図である。
【
図6】比較例2のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜の伸び-荷重曲線を示すである。
【
図7】比較例3のポリスチレン膜の伸び-荷重曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0012】
<セルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法>
本発明は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、前記被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、前記樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法(以下、「本発明のCNF樹脂複合体の製造方法」と称する場合がある。)に関する。
【0013】
なお、以下、「側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体」を「本発明に用いる共重合体」と称し、「側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー」を「モノマー(A)」と称する場合がある。
また、「本発明に用いる共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバー」を、「共重合体被覆CNF」と称する場合がある。
【0014】
本発明に用いる共重合体は、共重合体のモノマー(A)に由来する部位と樹脂との間の疎水性相互作用により樹脂に吸着しやすい性質を有するので、本発明に用いる共重合体で被覆された共重合体被覆CNFは、本発明に用いる共重合体を介して樹脂中に分散できる。
本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、樹脂とを混合すると、本発明に用いる共重合体の(メタ)アクリル酸に由来する部位とセルロースナノファイバーとの相互作用に比べて、本発明に用いる共重合体のモノマー(A)に由来する部位とポリスチレンやポリオレフィンのような疎水性樹脂との相互作用が強く働き、セルロースナノファイバー同士の凝集を十分に抑制できない場合がある。本発明のCNF樹脂複合体の製造方法では、予め共重合体により被覆された共重合被覆CNFを含む組成物(1)を樹脂と混合することで、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑制し、共重合被覆CNFを樹脂中に分散することができる。
また、セルロースナノファイバーと本発明に用いる共重合体とがエステル結合を形成していることで、樹脂混合時や乾燥時などにセルロースナノファイバー同士が凝集することも抑制できる。
【0015】
[被覆CNF樹脂混合工程]
被覆CNF樹脂混合工程は、セルロースナノファイバーが本発明に用いる共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、樹脂とを混合し組成物(2)を調製する工程である。
【0016】
(共重合体被覆CNFを含む組成物(1))
組成物(1)に含まれる被覆セルロースナノファイバー(共重合体被覆CNF)は、本発明に用いる共重合体の少なくとも一部とセルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成した構造である。具体的には、セルロースナノファイバーの表面の少なくとも一部のOH基と、本発明に用いる共重合体の(メタ)アクリル酸に由来する構造ユニットのカルボキシル基(COOH基)の少なくとも一部とでエステル結合を形成しているものである。エステル結合の有無は、IRスペクトル分析等を用いて確認することができる。
なお、共重合体被覆CNFは、本発明に用いる共重合体により完全に被覆されている必要はなく、共重合体被覆CNFが樹脂に分散できれば、本発明に用いる共重合体により被覆されていない部分があってもよい。
【0017】
共重合体被覆CNFにおいて、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比(本発明に用いる共重合体の質量/セルロースナノファイバーの質量×100)は、本発明の共重体の構造等に応じて適宜調整される。本発明に用いる共重合体が少なすぎると、本発明に用いる共重合体によるセルロースナノファイバーの被覆が不十分で、疎水性である樹脂と相溶しにくい場合がある。そのため、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
また、共重合体被覆CNFにおいて、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比が多すぎると、セルロースナノファイバーとエステル結合を形成しない共重合体が増えることとなる。セルロースナノファイバーと結合していない共重合体の量が増えることにより、得られるセルロースナノファイバー樹脂複合体の機械強度が向上しにくかったり、低下するおそれがある。そのため、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比は、100質量%以下とすることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
被覆CNF樹脂混合工程で用いられる組成物(1)は、共重合体被覆CNFからなるものを用いても、共重合体被覆CNFと、共重合体被覆CNF以外の成分を含む組成物を用いてもよい。混合時に樹脂中により均一に分散しやすいことから、組成物(1)は、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含むことが好ましい。共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物は、液状や、スラリー状、ゲル状の組成物が挙げられる。
【0020】
また、組成物(1)は、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを主成分として含む組成物が好ましく、組成物(1)中の共重合体被覆CNF及び有機溶媒の合計量の割合((共重合体被覆CNFの質量+有機溶媒の質量)/組成物(1)×100)が70質量%以上であることが好ましい。また、組成物(1)中の共重合体被覆CNF及び有機溶媒の合計量の割合は、80質量%以上や90質量%以上であってもよい。
また、組成物(1)は水を含む場合もあるが、含まれる水の量が多すぎると、樹脂と混合しにくくなる場合があるため、組成物(1)の含水率は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0021】
(本発明に用いる共重合体)
本発明に用いる共重合体は、上記のように、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体である。
すなわち、本発明に用いる共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構造単位(以下、「構造ユニット(A)」と称する場合がある)と、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位(以下、「構造ユニット(B)」と称する場合がある)とを有する共重合体である。
なお、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタアクリレートを指し、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミドを指し、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタアクリル酸を指す。
【0022】
本発明に用いる共重合体において、構造ユニット(A)からなる構造部分は、炭素数8以上の長さのアルカン鎖を側鎖に有し、疎水性及び結晶性を示す。この構造部分は、樹脂と相互作用する部位となる。また、本発明に用いる共重合体において、構造ユニット(B)からなる構造部分は、カルボキシル基を側鎖に有する。構造ユニット(B)からなる構造部分の少なくとも一部のカルボキシル基は、セルロースナノファイバーの少なくとも一部のOH基とエステル結合を形成する。
【0023】
本発明に用いる共重合体と樹脂とが相互作用しやすいほど、本発明に用いる共重合体に被覆されたセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が向上する。樹脂との相互作用をより高めるため、モノマー(A)の側鎖の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましい。
一方、その上限は、共重合体として重合することができ、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとの反応を阻害しない範囲で適宜設定することができる。現実的には24以下が好ましく、22以下がより好ましい。アルカン鎖が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれなかったり、重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0024】
また、モノマー(A)の側鎖のアルカン鎖は直鎖状のアルカン鎖であることが好ましい。このような炭素数8以上の長さのアルカン鎖としては、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基、ベヘニル基等が挙げられる。
【0025】
具体的なモノマー(A)としては、デシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基及びベヘニル基からからなる群から選択されるいずれかのアルキル基を有する(メタ)アクリレートや、ヘキサデシル基、ステアリル基及びベヘニル基からなる群から選択されるいずれかのアルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーに由来する構造ユニット(A)を有する本発明に用いる共重合体は、樹脂と相互作用しやすい。また、このような共重合体は、重合反応条件の設定も行いやすく製造しやすいという利点もある。
【0026】
本発明に用いる共重合体において、モノマー(A)由来の構造に対応する分子量(g/mol)と、(メタ)アクリル酸由来の構造に対応する分子量(g/mol)とは、それぞれ500以上であることが好ましい。
モノマー(A)由来の構造に対応する分子量が小さすぎると、セルロースナノファイバーを被覆する本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用が小さく、セルロースナノファイバー同士が凝集しやすくなる場合がある。500以上であることで、本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用により、セルロースナノファイバーの凝集を安定して抑制することができる。本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用を強め、セルロースナノファイバーの分散性を向上させるためには、モノマー(A)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
また、(メタ)アクリル酸由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、セルロースナノファイバーと安定して結合を形成したものとすることができる。被覆面積の向上や、共重合体被覆CNF調製時の反応性を向上させるためには、(メタ)アクリル酸由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明に用いる共重合体は、モノマー(A)及び(メタ)アクリル酸からなるものであってもよいし、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他のモノマーを含んでいてもよい。
【0028】
これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、モノマー(A)由来の構造は溶媒に溶けないことから分子量を測定しにくい場合がある。この場合、分子量を求めるために、共重合体全体の分子量から(メタ)アクリル酸由来の構造による分子量を差し引いた値とすることで推算することもできる。
【0029】
本発明に用いる共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、トリブロック共重合体等のいずれであってもよいが、好ましくは、ブロック共重合体である。
ブロック共重合体とすることで、構造ユニット(A)は樹脂とより相互作用しやすく、構造ユニット(B)は、安定してセルロースナノファイバーと結合したものとなる。そのため、本発明に用いる共重合体が少量であっても、セルロースナノファイバーを樹脂中に分散させることができる。また、共重合体被覆CNF調製時にも、構造ユニット(B)とセルロースナノファイバーとの反応性が向上するため好ましい。
【0030】
モノマー(A)と(メタ)アクリル酸との共重合体は、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することができる(例えば、WO2012/098750の共重合体の製造方法を準用できる。)。リビングラジカル重合法としては、NPM法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。
例えば、まず、任意のモノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合してモノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、別途(メタ)アクリル酸を混合して、溶液中のラジカル等によってさらに(メタ)アクリル酸を重合させる(メタ)アクリル酸重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロック(構造ユニット(A))と(メタ)アクリル酸由来ブロック(構造ユニット(B))を有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)と(メタ)アクリル酸との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更してもよい。
【0031】
具体的な本発明に用いる共重合体の一例を示すと、下記化学式(I)で表されるポリマーが挙げられる。これは、モノマー(A)として、ステアリルアクリレート(STA:側鎖のアルカン鎖が、炭素数18の直鎖状のアルカン基である。)を重合させ、その後、アクリル酸を用いて共重合させたブロック共重合体である。この共重合体は、モノマー(A)であるSTA由来の構造により疎水性及び側鎖結晶性を示すブロック共重合体部を有し、一方で、アクリル酸由来のカルボキシル基構造が、セルロースナノファイバーのOH基とエステル結合することができる。なお、化学式(I)において、nは2~1,000であることが好ましく、mは2~1,000程度であることが好ましい。このnはセルロースナノファイバーと樹脂との割合や樹脂の種類等に応じて選択され、樹脂とより強く相互作用させるためには5以上や、10以上とすることがより好ましい。一方、より安定してセルロースナノファイバーと化学結合させるために、このmは5以上や、10以上とすることがより好ましい。これらのnおよびmは、それぞれの効果が十分に得られる範囲で、それぞれ800以下や、500以下としてもよい。
【0032】
【0033】
(セルロースナノファイバー(CNF))
共重合体被覆CNFを構成する、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース繊維がナノオーダーレベルまで微細化した繊維であり、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーであればよい。通常、平均繊維径が4~1000nm程度、平均繊維長が10~1000μm程度の繊維である。
なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径や平均繊維長は、特に限定されず、例えば、平均繊維径が4~500nmや10~100nm、平均繊維長が10~500μmや100~500μmのセルロースナノファイバーを用いることができ、その調製方法については特に限定されない。
一般的に、木材チップからリグニンを除いて得られる繊維状パルプは、その主成分がセルロース繊維であり、この繊維状パルプがセルロース繊維として好適に用いられる。このセルロース繊維を解繊処理し、ミクロファブリル化した微細なセルロース繊維が、セルロースナノファイバーである。解繊処理は、水中で、高圧ホモジナイザー、水中対向衝突法、グラインダー法、ボールミル法、2軸混練法等を用いた物理的手法や、TEMPO触媒酸化法を用いた化学的手法等で行われるため、セルロースナノファイバーは水分散物として通常提供されている。例えば、本発明においては、このセルロースナノファイバーは、特開2007-231438号公報における微小繊維状セルロースに相当するもの等を使用することができる。
【0034】
(樹脂)
本発明において、被覆CNF樹脂混合工程で、組成物(2)を調製するために被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と混合するものとして、樹脂が用いられる。樹脂は、本発明に用いる共重合体のモノマー(A)に由来する構造ユニットと相互作用できる構造であれば特に限定されない。
具体的には、この樹脂として疎水性樹脂を用いることができる。疎水性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンやポリスチレン等を用いることができる。これらの1種の樹脂を用いてもよいし、異なる複数の樹脂を用いてもよい。これらの樹脂に、適宜、成形助剤や顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤が含まれたものを用いてもよい。本発明のCNF樹脂複合体の製造方法に用いる樹脂の形状も特に限定されず、粉末状やペレット状のものを用いることができる。
【0035】
(組成物(1)と樹脂との混合)
組成物(1)と樹脂との混合比は、組成物(1)の組成や樹脂の種類等に応じて適宜調整すればよい。樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比(共重合体被覆CNFの質量/樹脂の質量×100)は、小さすぎると、機械物性の向上の効果が小さい。そのため、樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比が0.05質量%以上となるように組成物(1)と樹脂とを混合することが好ましく、0.1質量%以上となるように組成物(1)と樹脂とを混合することがより好ましい。また、樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比は、大きすぎると、セルロースナノファイバーの凝集が起こりやすくなり、得られる複合体の機械物性等にばらつきが生じやすくなるため、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0036】
被覆CNF樹脂混合工程においては、共重合体被覆CNFと樹脂以外の界面活性剤や着色剤(顔料や色素等)、補強剤等のその他の添加剤を加えて混合することができ、組成物(2)は、共重合体被覆CNFと樹脂以外に、界面活性剤や着色剤、補強剤等のその他の添加剤を含んでもよい。
組成物(2)は、その他の成分として有機溶媒を含むものとすることができ、被覆CNF樹脂混合工程において、樹脂を任意の有機溶媒に溶解や分散させた後、組成物(1)と混合し、組成物(2)を調製してもよい。また、組成物(1)と樹脂との混合時にさらに有機溶媒を加えて、組成物(2)を調製してもよい。一方で、有機溶媒を含む組成物(1)と樹脂とを混合させる方が、共重合体被覆CNFを有機溶媒により均一に分散させた状態で樹脂と混合可能なので、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物と樹脂とを混合することが好ましい。
【0037】
また、組成物(1)と樹脂とをより均一に混合するために、組成物(1)と樹脂との混合時に加熱することが好ましい。例えば、組成物(1)と、樹脂とを加熱しながら混合して組成物(2)を調製してもよい。また、予め加熱された組成物(1)と、樹脂とを加熱しながら混合して組成物(2)を調製してもよいし、組成物(1)と、予め加熱された樹脂とを加熱しながら混合して組成物(2)を調製してもよい。組成物(1)と樹脂との混合時に加熱することで、組成物(1)と樹脂とがより均一に混合された組成物(2)が得られる。加熱温度は、110℃以上が好ましく、120℃以上で加熱することがさらに好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、セルロースナノファイバーや樹脂が分解したり、得られる組成物(2)に有機溶媒が含まれる場合には有機溶媒が揮発し、セルロースナノファイバーが凝集しやすくなる。加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下が好ましい。
【0038】
混合時間は、特に限定されず、10分以上や20分以上とすることもできる。また、混合時間は、5時間以下や1時間以下とすることもできる。例えば、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物と、樹脂とを混合する場合は、樹脂が有機溶媒に溶解する時間の範囲で適宜調整すればよい。
【0039】
得られた組成物(2)は、そのままセルロースナノファイバー樹脂複合体として用いてもよいし、適宜、所望の形状に成形してもよい。
【0040】
また、得られた組成物(2)が、共重合体被覆CNFと樹脂と有機溶媒とを含む組成物の場合、組成物(2)から有機溶媒を除去する溶媒除去工程を有することが好ましい。
【0041】
共重合体被覆CNFと樹脂と有機溶媒とを含む組成物は、固液分離や乾燥により有機溶媒を揮発させることで、有機溶媒を除去することができる。固液分離は、遠心分離や自然ろ過、吸引ろ過(減圧ろ過)等で利用できる。固液分離で得られた固形物は、さらに乾燥させてよい。
【0042】
乾燥方法は、送風乾燥、減圧乾燥、加圧乾燥、加熱乾燥等が利用できる。また、これらの乾燥方法は組み合わせることができる。例えば、送風乾燥や減圧乾燥を行った後に、加圧乾燥を行ってもよい。
【0043】
乾燥時に加熱する場合、温度は、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要したり、有機溶媒が残存しやすい。また、乾燥温度が高すぎると、得られるセルロースナノファイバー樹脂複合体が着色しやすくなる。また、組成物(2)に水が含まれる場合にも、100℃以上に加熱することで、水を揮発させることができる。
【0044】
乾燥時に加圧する場合、圧力は、10MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましい。また、圧力は、70MPa以下であることが好ましく、50MPa以下がより好ましい。プレス成形等することにより、残存する溶媒量を低減することができる。
【0045】
乾燥時間は、乾燥方法に応じて適宜調整されるが、例えば、加圧乾燥する場合、その時間は、1~10分とすることができる。
【0046】
セルロースナノファイバー樹脂複合体を得る方法として、例えば、共重合体被覆CNFと樹脂と有機溶媒とを含む組成物を支持体上に塗布した後、塗布した塗布膜を乾燥させる方法を挙げることができる。このようにすることで、膜状のセルロースナノファイバー樹脂複合体を得ることができる。
【0047】
また、セルロースナノファイバー樹脂複合体を得る方法として、共重合体被覆CNFと樹脂と有機溶媒を含む組成物を支持体上に塗布した後、水と接触させることで析出させた膜を乾燥させる方法が挙げられる。
【0048】
また、溶融混練等により、共重合体被覆CNFと樹脂と有機溶媒とを含む組成物から有機溶媒を除去しつつ、所望の形に成形することで、セルロースナノファイバー樹脂複合体としてもよい。
【0049】
また、上記のように、本発明のCNF樹脂複合体の製造方法では、組成物(1)は、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含むことが好ましい。そのため、被覆CNF樹脂混合工程の前に、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物を調製する工程を有することが好ましい。
【0050】
[被覆CNF調製工程]
被覆CNF調製工程は、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する工程である。
【0051】
上記のように、セルロースナノファイバーは、一般的に、水分散物として調製されるものである。また、セルロースナノファイバー同士の凝集力が強いと、本発明に用いる共重合体と反応させエステル結合を形成することが困難である。そのため、被覆CNF調製工程では、通常は、水を含む状態のセルロースナノファイバーが用いられる。具体的には、セルロースナノファイバーを水に分散させた水分散物を用いることが好ましく、1~50質量%や、5~40質量%の固形分濃度の水分散物を用いることが好ましい。セルロースナノファイバーは水への分散性が高く、水分散物中では、セルロースナノファイバーは凝集しにくい。なお、水分散物は、液状やスラリー状、ゲル状であってもよい。
また、本発明に用いる共重合体の溶解性等を考慮して、セルロースナノファイバーが凝集しない範囲で、水分散物の水の一部を有機溶媒に置換した分散物を用いてもよい。
また、適宜、分散剤等の添加剤を添加してもよい。
【0052】
被覆CNF調製工程は、例えば、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバー水分散物と、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、共重合体被覆CNFと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する工程とすることができる。例えば、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバー水分散物と、有機溶媒とを混合した反応液を加熱等することにより、
図1に示すように、前記共重合体のカルボキシル基(COOH基)の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーのOH基の少なくとも一部とでエステル結合を形成させることができる。
【0053】
また、被覆CNF調製工程で使用する本発明に用いる共重合体の量は、本発明に用いる共重合体やセルロースナノファイバーの種類に応じて適宜調整されるものである。セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比は、100質量%以下とすることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲とすることで、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、得られるセルロースナノファイバー樹脂複合体の機械強度が優れたものとなる。
セルロースナノファイバー水分散物を用いる場合は、水分散物の固形分濃度を考慮し、セルロースナノファイバー水分散物中のセルロースナノファイバーに対して、本発明に用いる共重合体が上記範囲となるようにすればよい。
【0054】
本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーとを加熱等により反応させエステル結合を形成させることで、セルロースナノファイバーとの反応時に生成する副生成物は水であるので、その後の製造工程において影響を与えにくく、環境にもやさしい。また、得られるセルロースナノファイバー樹脂複合体中に残存しにくく、副生成物が不純物となり残存し、セルロースナノファイバー樹脂複合体中の物性を低下させることがない。
【0055】
(有機溶媒)
有機溶媒は、セルロースナノファイバーの分散性や、本発明に用いる共重合体の溶解性、混合される樹脂の溶解性等を考慮して、通常、親水性の有機溶媒である。
【0056】
具体的には、有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系、トルエン、キシレン等の炭化水素系、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系等の有機溶媒が挙げられる。共重合体の溶解性や樹脂との相溶性、有機溶媒の沸点の観点からは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)からなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【0057】
また、加熱することで、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとがエステル結合を形成する反応が進行しやすくなるので、用いられる有機溶媒の沸点が120℃以上であることが好ましい。
【0058】
被覆CNF調製工程で使用する有機溶媒の量は、使用する本発明に用いる共重合体やセルロースナノファイバー、樹脂の量や種類に応じて適宜調整される。使用する有機溶媒の量が少なければ、本発明に用いる共重合体や樹脂が溶解しにくく、セルロースナノファイバーを分散させることが困難となる。そのため、セルロースナノファイバーに対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/セルロースナノファイバー)は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、使用する有機溶媒の量の上限は、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとの反応性を著しく低下させない限りであればよく、500以下や300以下とすることができる。また、セルロースナノファイバーに対する有機溶媒の質量比は10~200や80~150などであってもよい。
【0059】
また、一般的には、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバー水分散物と、有機溶媒とを混合した反応液は、有機溶媒に加えて、セルロースナノファイバー水分散物に由来する水を含有する。このときに、有機溶媒に対する水の割合が多すぎると、エステル形成の結合(脱水反応)が進行しにくいため、共重合体被覆CNFの反応液は、有機溶媒が溶媒の主成分となるように調製される。反応液の含水率(水の質量/反応液の質量×100)が20質量%以下となるように調製することが好ましく、10質量%以下がより好ましい。含水量を制御することで、セルロースナノファイバーの分散を維持しつつ、セルロースナノファイバーと本発明に用いる共重合体との反応が進行しやすくなる。
また、反応液の含水率は、セルロースナノファイバーの凝集が抑えられる範囲で有機溶媒の種類等に応じて適宜調整すればよい。例えば、1質量%以上や3質量%以上、5質量%以上とすることができる。
【0060】
(加熱)
被覆CNF調製工程では、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液を110℃以上に加熱し、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることが好ましい。加熱することで、触媒を使用しない場合でも反応しやすく、触媒を用いる場合でもその使用量を低減することができる。そのため、得られる共重合体被覆CNFやこれを用いて製造するセルロースナノファイバー樹脂複合体に不純物として残存する触媒の量を低減できる。
110℃以上に加熱することで、エステル結合形成の反応で生じた水やセルロースナノファイバー水分散物中の水が蒸発するため、エステルを形成する反応を促進することができる。加熱温度は、110℃以上が好ましく、120℃以上で加熱することがより好ましい。一方、加熱温度が高すぎると、有機溶媒も揮発し、セルロースナノファイバーが凝集したり、有機溶媒の揮発を抑制するため特殊な装置が必要となる場合がある。加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下が好ましい。
反応時間は、例えば、1時間以上や10時間以上、20時間以上とすることができる。また、50時間以下や30時間以下であってもよい。
【0061】
また、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物は、単離された共重合体被覆CNFを任意の有機溶媒に分散させることで調製してもよい。
【0062】
[本発明のCNF樹脂複合体の製造方法の一例]
図2は、本発明のCNF樹脂複合体の製造方法の一例のフローを説明するための図である。
図2に示すフローに従い、セルロースナノファイバー樹脂複合体を製造できる。
【0063】
被覆CNF調製工程では、まず、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバー水分散物(固形分濃度10~30%)と、有機溶媒とを混合して、反応液とする。このとき、セルロースナノファイバー水分散物100質量部に対し、本発明の共重体が1~10質量部となるように混合し、さらに、含水率が10%以下となるように有機溶媒の量を調整して加える。次いで、この溶液を110~180℃で10~30時間程度撹拌する。これにより、本発明に用いる共重合体の少なくとも一部のCOOH基とセルロースナノファイバーのOH基が脱水縮合し、エステル結合が形成され、共重合体被覆CNFと、有機溶媒とを含む組成物(1a)が得られる。
このように反応液の含水率や加熱温度を調製することにより、エステル結合を形成させることができる。
【0064】
エステル結合の有無は、被覆CNF調製工程後の反応液の一部をサンプリングし、反応液から溶媒を除去し、共重合体被覆CNFのIRスペクトルを測定することで確認できる。
エステル結合を形成すれば、セルロースナノファイバーのOH基に由来するピークが減少する。そのため、OH基に由来するピーク強度を、原料のセルロースナノファイバーと共重合体被覆CNFとで比較することで、エステル結合の有無を確認できる。
また、エステルのC=Oに由来するピーク強度や、カルボキシル基のOHに由来するピークの強度を、原料の共重合体と共重合体被覆CNFとで比較することで確認することもできる。
また、セルロースナノファイバーと、本発明に用いる共重合体とを混合しただけのもののIRを測定し、このIRチャートと共重合体被覆CNFのIRチャートとを比較してもよい。
ピーク強度の増減は、例えば、1000cm-1付近に観察されるピークを基準として、OHに由来するピークやエステルのC=Oに由来するピークの強度を比較することで確認することができる。
【0065】
被覆CNF樹脂混合工程では、組成物(1a)中の有機溶媒100質量部に対して、疎水性樹脂30~100質量部となるように、組成物(1a)に疎水性樹脂を加え、110~180℃で10~60分間程度撹拌する。これにより、組成物(1a)と疎水性樹脂とを含む組成物(2a)を得る。
【0066】
次いで、組成物(2a)を基板上に塗布した後、乾燥し、基板上から剥離することで膜状のセルロースナノファイバー樹脂複合体(3a)を得ることができる。
【0067】
<セルロースナノファイバー樹脂複合体>
本発明は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーと樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部はエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体(以下、「本発明のCNF樹脂複合体」と記載する場合がある。)に関する。本発明のCNF樹脂複合体は本発明のCNF樹脂複合体の製造方法で得ることができる。
【0068】
本発明のCNF樹脂複合体に含まれるセルロースナノファイバー、本発明に用いる共重合体、樹脂は、本発明のCNF樹脂複合体の製造方法で用いられるものと同様のものである。本発明のCNF樹脂複合体は、セルロースナノファイバーのOH基の少なくとも一部と本発明に用いる共重合体の(メタ)アクリル酸の側鎖のカルボキシル基の少なくとも一部が反応してエステル結合を形成しており、セルロースナノファイバーが樹脂中に分散した構成である。
【0069】
また、本発明のCNF樹脂複合体は、共重合体により被覆されたセルロースナノファイバー(共重合体被覆CNF)と樹脂以外にその他の成分を含んでもよいが、共重合体被覆CNF及び樹脂を主成分とするものであり、通常、本発明のCNF樹脂複合体中に共重合体被覆CNF及び樹脂を合計で50質量%以上含むものである。
このような本発明のCNF樹脂複合体は、セルロースナノファイバーが、本発明に用いる共重合体により被覆されているので、凝集が抑制されることに加えて、樹脂と接着力も強いものとなる。これにより、本発明のCNF樹脂複合体は、セルロースナノファイバーに由来する優れた引張特性等の機械特性を有し、また、セルロースナノファイバーと樹脂との界面で剥離等が抑制されることで全体的に優れた機械特性を有する。また、軽量で成形性に優れたものとなる。
【0070】
セルロースナノファイバーと樹脂の特性をより活かすためには、本発明のCNF樹脂複合体中に共重合体被覆CNF及び樹脂を合計で70質量%以上含むことが好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。このようにすることで、より軽量で、機械特性に優れ、成形性に優れた材料とすることができる。
【0071】
本発明のCNF樹脂複合体において、セルロースナノファイバーに対する本発明に用いる共重合体の質量比(本発明に用いる共重合体の質量/セルロースナノファイバーの質量×100)は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、100質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
また、樹脂に対するセルロースナノファイバーの質量比(セルロースナノファイバーの質量/樹脂の質量×100)は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
本発明のCNF樹脂複合体に含むことができる共重合体被覆CNF及び樹脂以外のその他の成分としては、成形助剤や着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。
【0074】
本発明のCNF樹脂複合体の形状は特に限定されず、シート状、粉末状、ペレット状等とすることができる。また、用途に応じて所望の形状としてもよい。本発明のCNF樹脂複合材は、成形性に優れるため、用途に応じた所望の形状とすることも容易である。
また、本発明のCNF樹脂複合体は、顔料や色素等の着色剤を混合することで、着色することができるため、目的や用途に応じて、本発明のCNF樹脂複合体を所望の色とすることもできる。
具体的な用途としては、例えば、自動車・電車・船舶・航空機等の輸送機の筐体や内装材、外装材、パソコン・テレビ・電話等の電子機器の筐体や部材、スポーツやレジャー用品の部材等に用いることができる。
【0075】
<被覆セルロースナノファイバー>
また、本発明の被覆セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーであって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体の少なくとも一部とセルロースナノファイバーの少なくとも一部はエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバーとすることができる。
これは、上記の本発明のCNF樹脂複合体に含まれる共重合体被覆CNFであり、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとが強固に接着しているので、樹脂混合時や乾燥時などにセルロースナノファイバー同士が凝集することを抑制できる。
【0076】
<被覆セルロースナノファイバーの製造方法>
また、本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させる工程を有する製造方法とすることができる。
本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、上記被覆セルロースナノファイバーの好適な製造方法である。また、本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、上記の本発明のCNF樹脂複合体の製造方法の被覆CNF樹脂混合工程の方法と同様にすることができ、好ましい態様も同様である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<共重合体(P1)の合成>(参考例1)
ステアリルアクリレート(STA)6.6g、酢酸ブチル6.6g、重合開始剤(BlocBuilder(登録商標) MA)0.386gを混合した溶液を、重合温度約105℃、リアクターの撹拌速度75rpm、窒素雰囲気下でリビングラジカル重合することにより、STAのブロック重合体を製造した。さらに、これにより得られたSTAのブロック重合体の溶液に、アクリル酸(AA)を3.415g、酢酸ブチルを3.42g投入してSTAのブロック重合体に、AAのブロック重合体が結合したブロック共重合体である共重合体(P1)を得た。
得られた共重合体(P1)の分子量(Mw:重量平均分子量)を、GPCにより測定し、ポリスチレン換算にて求めた。STA由来の構造は推算値として約4,519(g/mol)、AA由来の構造が約3,371(g/mol)の共重合体であった。
【0079】
<セルロースナノファイバー樹脂複合体の合成>
[原料]
・共重合体:上記で合成した共重合体(P1)(ステアリルアクリレートとアクリル酸とのブロック共重合体、STA-AA)
・セルロースナノファイバー水分散物(CNF水分散物):セリッシュ(ダイセルファインケム株式会社製KY100G、固形分濃度10%)
・樹脂:ポリスチレン(PS)(東洋スチレン株式会社、トーヨースチロールGP G200C)
・有機溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
【0080】
[実施例1]
ビーカーに、DMF50g、CNF水分散物2.5g、共重合体(P1)0.25gを入れ、115℃で24時間撹拌することによって、共重合体(P1)とセルロースナノファイバーとをエステル結合させ、被覆セルロースナノファイバーを含む反応液を得た。得られた反応液を組成物(1-1)とした。(被覆CNF調製工程)
前記組成物(1-1)に、PS47.5g、DMF100gを加え、115℃で20分間撹拌した。この溶液を組成物(2-1)とした。(被覆CNF樹脂混合工程)
組成物(2-1)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC-180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-1)を得た。(溶媒除去工程)
【0081】
[比較例1]
ビーカーに、DMF150g、PS47.5g、CNF水分散物2.5gを入れ、115℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’-1)とした。
比較組成物(2’-1)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC-180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-1)を得た。
【0082】
[評価(1)]偏光顕微鏡による観察
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-1)(実施例1)およびセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-1)(比較例1)の膜内部を偏光顕微鏡(カートン光学株式会社製、CS-T15)で観察した。
図3にセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-1)(実施例1)及びセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-1)(比較例1)の偏光顕微鏡写真を示す。
図3に示すように、比較例1の共重合体(P1)を添加していない膜の内部では、パルプが塊となって存在することが確認された。一方、実施例1の共重合体(P1)を添加した膜の内部は、パルプ同士の間に隙間ができているのが確認され、セルロースナノファイバー同士の凝集が抑制されていることがわかる。
この結果から、共重合体(P1)を添加することで、セルロースナノファイバーの外部に側鎖結晶性部分(STAの側鎖に由来する部分)が露出し、ポリスチレンとの相溶性が向上したと推察される。
【0083】
[実施例2]
ビーカーに、DMF20g、CNF水分散物2g、共重合体(P1)0.02gを入れ、110℃で24時間撹拌することによって、共重合体(P1)とセルロースナノファイバーとをエステル結合させ、被覆セルロースナノファイバーを含む反応液を得た。得られた反応液を組成物(1-2)とした。(被覆CNF調製工程)
前記組成物(1-2)に、PS20gを加え、110℃で20分間撹拌した。この溶液を組成物(2-2)とした。(被覆CNF樹脂混合工程)
組成物(2-2)をガラス板上に塗布した後、真空乾燥した。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC-180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)を得た。(溶媒除去工程)
【0084】
[比較例2]
ビーカーに、DMF20g、CNF水分散物2g、PS20gを入れ、110℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’-2)とした。
比較組成物(2’-2)をガラス板上に塗布した後、真空乾燥した。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC-180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)を得た。
【0085】
[比較例3]
ビーカーに、DMF50g、PS50gを入れ、110℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’-3)とした。
比較組成物(2’-3)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC-180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、ポリスチレン膜を得た。
【0086】
[評価(2)]目視評価
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)(実施例2)、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)(比較例2)およびポリスチレン膜(比較例3)の外観写真を
図4に示す。
図4に示すように、比較例2のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)は、セルロースナノファイバーが樹脂中で凝集していることがわかる。一方、共重合体(P1)を用いたセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)は、セルロースナノファイバーの凝集が抑えられ、ポリスチレン膜と同等の外観であり、成形性に優れていた。
【0087】
[評価(3)]破断力の評価
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)(実施例2)、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)(比較例2)およびポリスチレン膜(比較例3)をJIS K 7113 2(1/3)号試験片形状に打ち抜き作成した。引張試験器は株式会社島津製作所の小型卓上試験機EZ-LXを使用し、チャック間距離30mm、伸張速度1mm/minで引張試験を行った。
【0088】
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)(実施例2)の最大荷重は5回の平均で4.19Nであり、標準偏差は0.08であった。セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)(比較例2)の破断力は、セルロースナノファイバーの凝集部分付近を測定した。最大荷重は、5回の平均で2.02Nであり、標準偏差は0.21であった。ポリスチレン膜(比較例3)の最大荷重は、5回の平均で3.14Nであり、標準偏差は0.24であった。
また、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)(実施例2)の伸び(Extension)-荷重(Force)曲線を
図5に、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)(比較例2)の伸び(Extention)-荷重(Force)曲線を
図6に、ポリスチレン膜(比較例3)伸び(Extention)-荷重(Force)曲線を
図7に示す。
【0089】
引張試験の結果より、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3-2)(実施例2)は、破断力が大きく、ばらつきも小さく(標準偏差も小さく)、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’-2)(比較例2)に比べて、全体的に優れた機械特性を有することがわかる。
【0090】
[参考例2]
ビーカーに、DMF50g、CNF水分散物2.5g、共重合体(P1)0.25gを入れ、115℃で24時間撹拌した。得られた反応液を吸引ろ過し、ろ物を真空乾燥することで、共重合体被覆CNF(P1-CNF)を得た。
【0091】
[評価(4)]IRスペクトルの測定
共重合体被覆CNF(P1-CNF)のIRスペクトルを測定した。なお、IRスペクトルは、Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum two(登録商標)」を用いて測定した。共重合体被覆CNF(P1-CNF)のIRスペクトルでは、1726cm-1にエステル基に由来するピークが観察され、2800~3000cm-1付近に、共重合体(P1)を構成するSTAの側鎖のアルカン鎖に由来するピークが観察された。
また、共重合体(P1)に比べて、共重合体被覆CNF(P1-CNF)のIRでは、1726cm-1のエステル基のCOに由来するピークが増加した。また、3000~3800cm-1OHに由来するピークが減少した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、セルロースナノファイバーが樹脂中に分散され、機械物性に優れたセルロースナノファイバー樹脂複合体を得ることができる。このセルロースナノファイバー樹脂複合体は、例えば、自動車・電車・船舶・航空機等の輸送機の筐体や内装材、外装材、パソコン・テレビ・電話等の電子機器の筐体や部材、スポーツやレジャー用品の部材等の用途に用いることができる。