(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】金属との接合用ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法ならびに該ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と金属からなる異種複合成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220823BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20220823BHJP
C08L 7/02 20060101ALI20220823BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220823BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220823BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220823BHJP
C08G 69/04 20060101ALI20220823BHJP
B29C 65/08 20060101ALI20220823BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20220823BHJP
B29C 65/06 20060101ALI20220823BHJP
B29C 65/18 20060101ALI20220823BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220823BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L1/00
C08L7/02
C08K7/14
C08K7/06
C08K3/34
C08G69/04
B29C65/08
B29C65/16
B29C65/06
B29C65/18
B32B27/34
B32B15/088
(21)【出願番号】P 2022529952
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045187
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020209320
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】野口 彰太
(72)【発明者】
【氏名】中井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】友利 剛士
(72)【発明者】
【氏名】連 康一
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/203006(WO,A1)
【文献】特開2020-094321(JP,A)
【文献】特開2018-103387(JP,A)
【文献】特開2020-114924(JP,A)
【文献】特開2019-210406(JP,A)
【文献】特開2019-199540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
B32B 1/00-43/00
C08G 69/00-69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗化面を有する金属との接合用ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、平均繊維径が10~300nmのセルロース繊維(B)を0.1~50質量部含有し、
前記ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が
、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~200μmの
、JIS B 0601:2001の規定に準拠した算術平均表面粗さを有する、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記粗化面は前記金属表面にあけられた微細孔を有する面である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維(B)が、未変性のセルロース繊維であるか、またはセルロース由来の水酸基が親水性または疎水性の置換基で変性された変性セルロース繊維である、請求項1
または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、セルロース繊維以外の他の強化材(C)を0.1~50質量部含有する、請求項1~
3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記他の強化材(C)が、ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびマイカからなる群から選択される1種以上の強化材である、請求項
4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6を含み、
前記セルロース繊維(B)が未変性のセルロース繊維であり、
前記セルロース繊維(B)の含有量が4~18質量部であり、
前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10~100nmであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の
前記相対粘度が1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~80μmの
前記算術平均表面粗さを有し、
前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリオレフィン系重合体、エラストマー、合成ゴム、および天然ゴムからなる群から選択される耐衝撃材(D)をさらに含有するか、または含有せず、該耐衝撃剤の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以下である、請求項1~
5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)を0.1~50質量部含有する、粗化面を有する金属との接合用ポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、
ポリアミド樹脂の重合時にセルロース繊維を添加する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記粗化面は前記金属表面にあけられた微細孔を有する面である、請求項
7に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記粗化面が1μm以上500μm以下の
、JIS B 0601:2001の規定に準拠した算術平均表面粗さを有する、請求項
7または
8に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記セルロース繊維(B)が、未変性のセルロース繊維であるか、またはセルロース由来の水酸基が親水性または疎水性の置換基で変性された変性セルロース繊維である、請求項
7~
9のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記ポリアミド樹脂組成物が、さらに、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、セルロース繊維以外の他の強化材(C)を0.1~50質量部含有する、請求項
7~
10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記他の強化材(C)が、ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびマイカからなる群から選択される1種以上の強化材である、請求項
11に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10~300nmであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が
、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~200μmの
、JIS B 0601:2001の規定に準拠した算術平均表面粗さを有する、請求項
7~
12のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6を含み、
前記セルロース繊維(B)が未変性のセルロース繊維であり、
前記セルロース繊維(B)の含有量が4~18質量部であり、
前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10~100nmであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が
、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~80μmの
、JIS B 0601:2001の規定に準拠した算術平均表面粗さを有し、
前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリオレフィン系重合体、エラストマー、合成ゴム、および天然ゴムからなる群から選択される耐衝撃材(D)をさらに含有するか、または含有せず、該耐衝撃剤の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以下である、請求項
7~
13のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1~
6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体および該成形体に接合され、粗化面を有する金属を含む、異種複合成形体。
【請求項16】
前記金属が、エッチング剤、レーザ照射またはブラストエッチングによる粗化処理によって粗化面を形成させた金属である、請求項
15に記載の異種複合成形体。
【請求項17】
前記粗化面が5~80μmの
前記算術平均表面粗さを有する、請求項
15または
16に記載の異種複合成形体。
【請求項18】
前記金属が、前記粗化面を介して前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と接合されている、請求項
15~
17のいずれかに記載の異種複合成形体。
【請求項19】
前記粗化面が有する微細孔に、溶融した前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体が入り込むことにより、前記金属が前記成形体と接合されている、請求項
15~
18のいずれかに記載の異種複合成形体。
【請求項20】
請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物および粗化面を有する金属を用いる、異種複合成形体の製造方法であって、
金型に前記金属を挿入し、溶融した前記ポリアミド樹脂組成物を注入するインサート成形を行う
、異種複合成形体の製造方法。
【請求項21】
前記金属は、前記粗化面の少なくとも一部が前記溶融したポリアミド樹脂組成物と接触するように、挿入されている、請求項
20に記載の異種複合成形体の製造方法。
【請求項22】
請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物および粗化面を有する金属を用いる、異種複合成形体の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と前記金属とを重ね合わせ、熱および圧を付与する圧熱型接合方法により接合を行う
、異種複合成形体の製造方法。
【請求項23】
前記金属は、前記粗化面の少なくとも一部が前記成形体と接触するように重ね合わされている、請求項
22に記載の異種複合成形体の製造方法。
【請求項24】
前記圧熱型接合方法が、熱プレス法、超音波溶着法、振動溶着法、摩擦混合撹拌溶着法およびレーザ溶着法からなる群から選択される方法である、請求項
22または
23に記載の異種複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合強度が高く、高温高湿の過酷な環境下でもその強度が低下し難く、さらに接合界面での気密性にも優れた、金属との接合用ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法ならびに該ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と金属からなる異種複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種部品の軽量化の観点から、金属代替品として樹脂成形体が期待されている。しかし、強度面などの観点から、すべての金属部品を樹脂で代替することは難しいケースも多い。そこで、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造する試みがなされている。
【0003】
特許文献1および2には、金属基板表面に金属粉末による重畳的微細粒子構造を形成し、その金属基板と樹脂とをプレス成形または超音波溶着する方法が記載されている。特許文献3には、アルカリ性または酸性溶液で処理した後シランカップリング剤で処理した金属を、射出成形用金型に挿入し、インサート成形する方法が記載されている。特許文献4には、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含むアルカリ系エッチング剤、並びに第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含む酸系エッチング剤から選ばれる一種以上であるエッチング剤により処理された金属を、射出成形用金型に挿入しインサート成形する方法が記載されている。特許文献5には、レーザスキャニング加工を複数回重畳的に実施された金属を、射出成形用金型に挿入しインサート成形する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-190521号公報
【文献】特開2016-130003号公報
【文献】特開2003-103562号公報
【文献】特開2013-052671号公報
【文献】特開2010-167475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれの文献も、金属表面の改質のみに着目したものであり、接合させる樹脂の組成が接合強度に与える影響については検討されていない。さらなる接合強度の向上には、樹脂組成の設計が必要不可欠となる。詳しくは、従来の技術においては、金属と樹脂成形体との接合強度が比較的低く、過酷な使用環境下において当該接合強度が著しく低下した。さらに樹脂成形体と金属との接合界面での気密性が比較的低いことがあった。このような問題は、金属と樹脂とを、プレス成形、超音波溶着、振動溶着、摩擦混合撹拌溶着またはレーザ溶着する場合、および金属を金型に挿入し、インサート成形する場合のいずれの場合においても生じた。
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、従来の熱可塑性樹脂を含む成形体に比べて、金属との接合強度が高く、高温高湿の過酷な環境下でもその強度が低下し難く、さらに金属との接合界面での気密性にも優れた成形体を形成することができる、金属との接合用ポリアミド樹脂組成物およびその樹脂組成物を含む成形体と金属からなる異種複合成形体を提供することを目的とするものである。
【0007】
本発明において、高温高湿の過酷な環境下における接合強度の低下のし難さのことを「耐湿熱性」、樹脂成形体と金属との接合界面での気密性のことを「ガス封止性」とそれぞれ定義する。
【0008】
また、本発明において、金属と樹脂成形体とを後述する接合方法または成形方法で複合一体化させた成形物のことを「異種複合成形体」と定義する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂の重合時に特定のセルロース繊維を配合した樹脂組成物を用いることにより上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
<1> 粗化面を有する金属との接合用ポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)を0.1~50質量部含有する、ポリアミド樹脂組成物。
<2> 前記粗化面は前記金属表面にあけられた微細孔を有する面である、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<3> 前記粗化面は1μm以上500μm以下の算術平均表面粗さを有する、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<4> 前記セルロース繊維(B)が、未変性のセルロース繊維であるか、またはセルロース由来の水酸基が親水性または疎水性の置換基で変性された変性セルロース繊維である、<1>~<3>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<5> さらに、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、セルロース繊維以外の他の強化材(C)を0.1~50質量部含有する、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6> 前記他の強化材(C)が、ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびマイカからなる群から選択される1種以上の強化材である、<5>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<7> 前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10~300nmであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~200μmの算術平均表面粗さを有する、<1>~<6>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<8> 前記ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6を含み、
前記セルロース繊維(B)が未変性のセルロース繊維であり、
前記セルロース繊維(B)の含有量が4~18質量部であり、
前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10~100nmであり、
前記ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が1.5~2.8であり、
前記粗化面が5~80μmの算術平均表面粗さを有し、
前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリオレフィン系重合体、エラストマー、合成ゴム、および天然ゴムからなる群から選択される耐衝撃材(D)をさらに含有するか、または含有せず、該耐衝撃剤の含有量が、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<9> <1>~<8>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、
ポリアミド樹脂の重合時にセルロース繊維を添加する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<10> <1>~<8>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形体および該成形体に接合され、粗化面を有する金属を含む、異種複合成形体。
<11> 前記金属が、エッチング剤、レーザ照射またはブラストエッチングによる粗化処理によって粗化面を形成させた金属である、<10>に記載の異種複合成形体。
<12> 前記粗化面が5~80μmの算術平均表面粗さを有する、<10>または11に記載の異種複合成形体。
<13> 前記金属が、前記粗化面を介して前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と接合されている、<10>~<12>のいずれかに記載の異種複合成形体。
<14> 前記粗化面が有する微細孔に、溶融した前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体が入り込むことにより、前記金属が前記成形体と接合されている、<10>~<13>のいずれかに記載の異種複合成形体。
<15> <1>~<8>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物および粗化面を有する金属を用いる、異種複合成形体の製造方法。
<16> 金型に前記金属を挿入し、溶融した前記ポリアミド樹脂組成物を注入するインサート成形を行う、<15>に記載の異種複合成形体の製造方法。
<17> 前記金属は、前記粗化面の少なくとも一部が前記溶融したポリアミド樹脂組成物と接触するように、挿入されている、<16>に記載の異種複合成形体の製造方法。
<18> 前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形体と前記金属とを重ね合わせ、熱および圧を付与する圧熱型接合方法により接合を行う、<15>に記載の異種複合成形体の製造方法。
<19> 前記金属は、前記粗化面の少なくとも一部が前記成形体と接触するように重ね合わされている、<18>に記載の異種複合成形体の製造方法。
<20> 前記圧熱型接合方法が、熱プレス法、超音波溶着法、振動溶着法、摩擦混合撹拌溶着法およびレーザ溶着法からなる群から選択される方法である、<18>または<19>に記載の異種複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の熱可塑性樹脂組成物成形体に比べて、金属との接合強度が高く、過酷な使用環境下においてもその強度が低下し難く、さらに金属との接合界面での気密性にも優れた成形体を形成することができる、金属との接合用ポリアミド樹脂組成物およびその樹脂組成物を含む成形体と金属からなる異種複合成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は実施例で使用したガス封止性評価用の複合体の模式的平面図を示し、(b)は(a)の複合体の模式的断面図を示す。
【
図2】実施例におけるガス封止性の評価方法を説明するための模式的構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明の金属との接合用ポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)は、ポリアミド樹脂に対して、平均繊維径が10μm以下であるセルロース繊維を含有する。
【0014】
本発明に用いるポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とから形成されるアミド結合を有する重合体のことである。
【0015】
アミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
【0016】
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムが挙げられる。
【0017】
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0018】
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸が挙げられる。
【0019】
本発明で用いるポリアミド樹脂の具体例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))が挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。中でも、接合強度のさらなる向上の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、およびこれらの共重合体や混合物が好ましい。ポリアミド樹脂は、接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、ポリアミド6および/またはポリアミド66が好ましく、ポリアミド6がより好ましい。
【0020】
上記ポリアミド樹脂は、後述する重合法で、または、後述する重合法と固相重合法を併用して製造される。ポリアミド樹脂の分子量は特に限定されず、例えば、後述のように樹脂組成物が特定の相対粘度を有するような分子量であってよい。
【0021】
本発明に用いるセルロース繊維としては、例えば、木材、稲、綿、麻、ケナフ等の植物に由来するものの他にバクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等の生物由来のものも含まれる。また、再生セルロース、セルロース誘導体も含まれる。植物由来のセルロース繊維の市販品として、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」が挙げられる。
【0022】
本発明において、セルロース繊維の平均繊維径はできる限り小さい方が望ましい。セルロース繊維の平均繊維径が小さいほど、セルロース繊維が金属表面への微細構造特に後述する粗化面の微細孔へ入り込み、異種複合成形体の接合剪断強度、耐湿熱性およびガス封止性はより高くなる。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物中に含有されるセルロース繊維は、平均繊維径が10μm以下であることが必要であり、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、中でも平均繊維径は500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。平均繊維径が10μmを超えるセルロース繊維では、異種複合成形体の接合強度およびガス封止性が大きく損なわれてしまう。平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、セルロース繊維の生産性、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性を考慮すると3nm以上(特に10nm以上)とすることが好ましく、20nm以上とすることがより好ましい。
【0024】
ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径は、以下の方法で測定された平均繊維径を用いている。
ポリアミド樹脂組成物を用いて得られた射出成形片から、凍結ウルトラミクロトームを用いて厚さ100nmの切片を採取し、切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1230)を用いて観察をおこなう。電子顕微鏡画像から任意の10本のセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定し、これらの平均値を平均繊維径とする。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径を10μm以下とするためには、ポリアミド樹脂に配合するセルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが好ましい。このような平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維としては、セルロース繊維を引き裂くことによってミクロフィブリル化したものが好ましい。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、高圧粉砕装置、ミキサー等の各種粉砕装置を用いることができる。セルロース繊維としては、市販されているものとして、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」を用いることができる。
【0026】
平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維として、セルロース繊維を用いた繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を用いることもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、その他、繊維製品の加工時等が挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
【0027】
また、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維として、バクテリアが産出するバクテリアセルロース繊維を用いることもでき、例えば、アセトバクター族の酢酸菌を生産菌として産出されたものを用いることができる。植物のセルロース繊維は、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されているものであるのに対し、酢酸菌より産出されたセルロース繊維はもともと幅20~50nmのリボン状であり、植物のセルロース繊維と比較すると極めて細い網目状を形成している。
【0028】
セルロース繊維は、セルロース由来の水酸基がいかなる置換基によっても変性されていない未変性のセルロース繊維であってもよいし、またはセルロース由来の水酸基(特にその一部)が変性(または置換)された変性セルロース繊維であってもよい。セルロース由来の水酸基に導入される置換基としては特に限定されず、例えば、親水性の置換基、疎水性の置換基が挙げられる。変性セルロース繊維において、置換基により変性(または置換)される水酸基は、セルロース由来の水酸基のうちの一部であり、その置換度(セルロース繊維中の全体の水酸基のうち、置換基により変性される水酸基の個数の割合)としては、例えば、0.05~2.0が好ましく、0.1~1.0がより好ましく、0.1~0.8がさらに好ましい。親水性の置換基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基等が挙げられる。疎水性の置換基としては、例えば、シリルエーテル基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基等が挙げられる。
【0029】
セルロース繊維は、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、未変性のセルロース繊維であるか、または、セルロース由来の水酸基(特にその一部)が親水性または疎水性の置換基で変性された変性セルロース繊維であることが好ましく、より好ましくは当該未変性のセルロース繊維である。
【0030】
セルロース由来の水酸基が親水性の置換基で変性された、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維として、例えば、N-オキシル化合物の存在下にセルロース繊維を酸化させた後に、水洗、物理的解繊工程を経ることにより得られる、微細化されたセルロース繊維を用いてもよい。N-オキシル化合物としては各種あるが、例えば、Cellulose(1998)5,153-164に記載されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-oxyl radical)(以下、「TEMPO」と略称する。)等が好ましい。TEMPOにより、水酸基がカルボキシル基により置換される。
【0031】
セルロース由来の水酸基が疎水性の置換基で変性されたセルロース繊維として、例えば、溶媒中、セルロース繊維にシリルエーテル化剤を35~50℃で反応させることにより得られるセルロース繊維を用いてもよい。シリルエーテル化剤としては各種あるが、例えば、ヘキサメチルジシラザン等が好ましい。ヘキサメチルジシラザンにより、水酸基がシリルエーテル基により置換される。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維は、平均繊維径と平均繊維長との比であるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、得られる異種複合成形体の接合強度は高くなる。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成するセルロース繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.1~50質量部であることが必要であり、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、0.1~30質量部であることが好ましく、1~25質量部であることがより好ましく、3~20質量部であることがさらに好ましく、4~18質量部であることが特に好ましく、5~10質量部であることが最も好ましい。セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.1質量部未満である場合は、十分な接合強度、耐湿熱性およびガス封止性を得ることができない。一方、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部を超える場合は、セルロース繊維を樹脂組成物中に含有させることが困難となり、また溶融樹脂の流動性が悪化するため樹脂組成物の成形性が低下する場合がある。
【0034】
本発明における金属との接合用ポリアミド樹脂組成物は、さらにセルロース繊維以外の他の強化材(以下、単に「他の強化材」ということがある)を含有してもよい。詳しくは、本発明の樹脂組成物は他の強化材を含有してもよいし、または含有しなくてもよい。前記強化材としては、繊維状強化材や粒子状強化材が挙げられる。
【0035】
繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。中でも、機械特性(特に曲げ特性)の向上効果がより高く、ポリアミド樹脂との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が好ましい。繊維状強化材は、接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、ガラス繊維および炭素繊維から選択されることが好ましい。金属繊維としては、例えば、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維が挙げられる。
【0036】
ガラス繊維、炭素繊維を用いる場合、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられる。中でも、ポリアミド樹脂との密着効果が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0037】
セルロース繊維以外の他の強化材(特に繊維状強化材)の繊維長は、異種複合成形体の接合強度のさらなる向上ならびに成形性の向上の観点から、0.1~10mmであることが好ましく、0.5~8mmであることがより好ましい。また、前記強化材の繊維径は、接合強度のさらなる向上、ならびに溶融混練時の破損の防止の観点から、3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがより好ましい。前記強化材の断面形状は、円形断面、長方形、楕円、その他の異形断面いずれであってもよいが、中でも、円形断面が好ましい。
【0038】
繊維状強化材の繊維長は、以下の方法で測定された平均繊維長を用いている。繊維の長さを光学顕微鏡によって観察し、繊維の長さを測定する。そして、この測定を繊維100本について行い、その平均値を繊維強化材の平均繊維長とする。
繊維状強化材の繊維径は、断面形状における最大長の平均値であり、以下の方法で測定された平均繊維径を用いている。繊維の長さ方向に直交する断面を光学顕微鏡によって観察し、繊維の直径を測定する。そして、この測定を繊維100本について行い、その平均値を繊維強化材の平均繊維径とする。
【0039】
粒子状強化材としては、例えば、タルク、マイカ、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、ケイ酸カルシウム、黒鉛、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。中でも、異種複合成形体の接合強度のさらなる向上、ならびに耐熱性の向上の観点から、タルク、マイカ、層状珪酸塩が好ましく、タルクがより好ましい。
【0040】
粒状強化材の粒子径は、異種複合成形体の接合強度のさらなる向上の観点から、0.1~100μmであることが好ましく、0.5~80μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることがさらに好ましい。
【0041】
粒状強化材の粒子径は、以下の方法で測定された平均粒子径を用いている。島津製作所製粉体比表面積測定装置SS-100型(恒圧式空気透過法)を用いて粒子1gあたりの比表面積値を求め、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から、下記式により粒状強化材の平均粒子径を計算する。
平均粒子径=6×10,000/(比重×比重面積)
【0042】
他の強化材は、異種複合成形体の接合強度のさらなる向上の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびマイカからなる群から選択される1種以上の強化材を含むことが好ましく、ガラス繊維、炭素繊維およびタルクからなる群から選択される1種以上の強化材を含むことが好ましい。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、さらにセルロース繊維以外の他の強化材を用いる場合、その含有量は、異種複合成形体の接合強度のさらなる向上の観点から、ポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部以下(すなわち、0~50質量部、特に0.1~50質量部)とすることが好ましく、30質量部以下(すなわち、0~30質量部、特に5~30質量部)とすることがより好ましい。セルロース繊維以外の他の強化材は2種以上含有されてもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。他の強化材の含有量が0質量部であるとは、本発明の樹脂組成物が他の強化材を含有しないことを意味する。
【0044】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂の重合時にセルロース繊維を添加することで製造できる。詳しくは、まず、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とを混合し重合反応をおこなうことにより、セルロース繊維を含有する樹脂組成物を製造する。樹脂組成物は、いわゆるペレットの形態を有していてもよい。なお、重合反応時に、後述する樹脂組成物中に添加することができる添加剤を加えた場合は、樹脂組成物は該添加剤も含むものをいう。ポリアミドの重合時とは、ポリアミド樹脂を構成するモノマーを用いた重合時だけでなく、ポリアミドを構成し得るプレポリマーを用いた重合時も包含する。従って、重合させるモノマーは、プレポリマーであってもよい。プレポリマーとは、モノマーがポリマー化する途中の中間生成物のことである。
【0045】
セルロース繊維は水との親和性が非常に高く、平均繊維径が小さいほど水に対して良好な分散状態を保つことができる。また、水を失うと水素結合により強固にセルロース繊維同士が凝集し、一旦凝集すると凝集前と同様の分散状態をとることが困難となる。特にセルロース繊維の平均繊維径が小さくなるほどこの傾向は顕著となる。したがって、セルロース繊維は水を含んだ状態でポリアミド樹脂に配合することが好ましい。そこで、本発明においては、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応をおこなうことにより、セルロース繊維を含有する樹脂組成物を得る方法を採ることが好ましい。このような製造法により、ポリアミド樹脂中にセルロース繊維を凝集させずに均一に分散させることが可能となる。
【0046】
セルロース繊維の水分散液は、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水に分散させたものであり、水分散液中におけるセルロース繊維の含有量は水分散液全量に対して0.01~50質量%とすることが好ましい。セルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で撹拌することにより得ることができる。そして、セルロース繊維の水分散液とポリアミド樹脂を構成するモノマーとを混合しミキサー等で撹拌することにより、均一な分散液とする。その後、分散液を加熱し、150~270℃まで昇温させて撹拌することにより重合反応させる。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。なお、上記ポリアミド樹脂の重合時においては、必要に応じてリン酸や亜リン酸等の触媒を添加してもよい。そして、重合反応終了後は、得られた樹脂組成物を払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。
【0047】
セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを用いてもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整したものを、ポリアミド樹脂を構成するモノマーに混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
【0048】
上記方法においては、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供することになるため、セルロース繊維を分散性が良好な状態で重合反応に供することができる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水との相互作用により、また上記のような温度条件で撹拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した樹脂組成物を得ることが可能となる。なお、上記方法によれば、重合反応前に添加したセルロース繊維よりも、重合反応終了後に樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維の方が、平均繊維径が小さくなることがある。
【0049】
さらに上記方法においては、セルロース繊維を乾燥させる工程が不要となり、微細なセルロース繊維の飛散が生じる工程を経ずに製造が可能であるため、操業性よく樹脂組成物を得ることが可能となる。またモノマーとセルロース繊維を均一に分散させる目的として水を有機溶媒に置換する必要がないため、ハンドリングに優れるとともに製造工程中において化学物質の排出を抑制することが可能となる。
【0050】
本発明に用いる樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、上記した添加剤以外の他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤は、ポリアミド樹脂の重合時に配合してもよいし、重合後のポリアミド樹脂に対して溶融混練時等に配合してもよい。他の添加剤としては、例えば、耐衝撃剤、ポリアミド樹脂とは異なる他の重合体(以下、単に「他の重合体」ということがある)、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、相溶化剤、結晶核剤が挙げられる。なお、前記した他の強化材も、ポリアミド樹脂の重合時に配合してもよいし、重合後のポリアミド樹脂に対して溶融混練時等に配合してもよい。
【0051】
耐衝撃剤は「耐衝撃改善材」とも称される添加剤である。耐衝撃剤としては、例えば、ポリオレフィン系重合体、エラストマー、合成ゴム、および天然ゴムが挙げられ、これらの化合物からなる群から選択されて使用されてもよい。
【0052】
ポリオレフィン系重合体は、少なくともオレフィンをモノマー成分として含有する重合体である。ポリオレフィン系重合体は酸変性されていてもよい。ポリオレフィン系重合体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、ジエン等の他のモノマーをモノマー成分として含有してもよい。オレフィンは、1分子中に1つの二重結合を有する不飽和炭化水素であり、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンおよびこれらの組み合わせ等が挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸を包含して意味するものとする。(メタ)アクリル酸アルキルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル等が挙げられる。ジエンとして、例えば、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペンル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等が挙げられる。酸変性する官能基としては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基が挙げられ、中でも、カルボン酸無水物基が好ましく、無水マレイン酸基がより好ましい。
【0053】
ポリオレフィン系重合体の具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、アイオノマー重合体、酸変性エチレン-プロピレン共重合体、酸変性エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、酸変性エチレン-ブテン共重合体、酸変性エチレン-オクテン共重合体、酸変性エチレン-アクリル酸エチル共重合体、酸変性エチレン-アクリル酸メチル共重合体、酸変性エチレン-メタクリル酸メチル共重合体)が挙げられる。
【0054】
アイオノマー重合体とは、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体のカルボラートアニオンの少なくとも一部が金属イオンによる中和により相互に結合されたものである。なお、カルボラートアニオンとは、カルボキシル基から水素イオンが遊離してなる-COO-イオンのことである。アイオノマー重合体を構成するオレフィンとしては、上記したポリオレフィン系重合体を構成し得るオレフィンと同様の化合物が挙げられる。アイオノマー重合体を構成するα,β-不飽和カルボン酸としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等が挙げられる。アイオノマー重合体を構成する金属イオンとして、例えば、アルカリ金属イオン(例えば、Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属イオン(例えば、Mg2+、Ca2+)、Zn2+が挙げられる。アイオノマー重合体は酸変性ポリオレフィン系重合体に分類される耐衝撃剤の1つである。
【0055】
ポリオレフィン系重合体が酸変性されている場合、酸変性する官能基としては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基が挙げられ、中でも、カルボン酸無水物基が好ましく、無水マレイン酸基がより好ましい。酸変性は、上記のような酸変性する官能基を有する酸変性モノマー成分を共重合させることにより達成することができる。酸変性されたポリオレフィン系重合体を構成する酸変性モノマー成分の含有量は、特に限定されず、例えば、JIS K0070に準拠して測定した酸変性ポリオレフィン系重合体の酸価が0.1~200mgKOH/gであることが好ましく、1~100mgKOH/gであることがより好ましい。なお、酸価とは、酸変性ポリオレフィン系重合体1gを中和するのに必要なKOHのmg数として定義される。
【0056】
ポリオレフィン系重合体の分子量は特に限定されず、例えば、ASTM D3307-01に準拠して測定したポリオレフィン系重合体のMFR(190℃、2.16kg荷重下)が0.01~30g/10分、であることが好ましく、0.1~10g/10分であることがより好ましい。ポリオレフィン系重合体はフッ素原子を含有しない。
【0057】
エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エDラストマーが挙げられる。エラストマーの分子量は特に限定されず、例えば、重量平均分子量が10,000~500,000であることが好ましく、35,000~500,000であることがより好ましく、35,000~300,000であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量はGPC法(標準ポリスチレン換算)により測定される。
【0058】
合成ゴムとしては、例えば、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム 、ポリエーテルゴム、エピクロルヒドリンゴムが挙げられる。合成ゴムの分子量は特に限定されず、例えば、重量平均分子量が10,000~900,000であることが好ましく、20,000~500,000であることがより好ましく、50,000~200,000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量はGPC法(標準ポリスチレン換算)により測定される。
【0059】
天然ゴムとしては、例えば、天然ゴムラテックス、技術的格付けゴム(TSR)、スモークドシート(RSS)、ガタパーチャ、杜仲由来天然ゴム、グアユール由来天然ゴム、ロシアンタンポポ由来天然ゴムなどが挙げられ、さらにこれら天然ゴムを変性した、エポキシ化天然ゴム、メタクリル酸変性天然ゴム、スチレン変性天然ゴムなどの変性天然ゴムなども、本発明の天然ゴムに含まれる。天然ゴムの分子量は特に限定されず、例えば、重量平均分子量が10,000~700,000であることが好ましく、50,000~500,000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量はGPC法(標準ポリスチレン換算)により測定される。
【0060】
耐衝撃剤は、機械特性(特に曲げ特性)、摺動性および耐衝撃性の向上の観点から、ポリオレフィン系重合体(特に酸変性ポリオレフィン系重合体および/またはアイオノマー)を含むことが好ましい。
【0061】
本発明の樹脂組成物は耐衝撃剤を含んでもよいし、または含まなくてもよい。耐衝撃剤の含有量は、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性が損なわれない限り特に限定されず、例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部以下(すなわち0~50質量部)であってもよい。耐衝撃剤の含有量は、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、20質量部以下(特に0~20質量部)であることが好ましく、5質量部以下(すなわち0~5質量部)であることがより好ましく、3質量部以下(すなわち0~3質量部)であることがさらに好ましく、0質量部であることが特に好ましい。耐衝撃剤の含有量が0質量部であるとは、本発明の樹脂組成物が耐衝撃剤を含有しないことを意味する。
【0062】
樹脂組成物が耐衝撃剤を含有する場合、その含有量は、機械特性(特に曲げ特性)向上の観点から、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.1~50質量部とすることが好ましく、5~20質量部とすることがより好ましい。耐衝撃剤は2種以上含有されてもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0063】
他の重合体としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
【0064】
本発明に用いる樹脂組成物の相対粘度は、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上ならびに樹脂組成物の流動性および成形性の向上の観点から、溶媒として96%硫酸を用いて、温度25℃、濃度1g/100mLで測定した場合において、1.5~5.0であることが好ましく、1.5~4.0であることがより好ましく、1.5~2.8であることがさらに好ましく、1.7~2.8であることが特に好ましい。樹脂組成物の相対粘度はポリアミド樹脂の重合条件を調整することにより制御することができる。例えば、ポリアミド樹脂の重合条件(例えば、重合時間)を強めることにより、樹脂組成物の相対粘度を高くすることができる。また例えば、ポリアミド樹脂の重合条件(例えば、重合時間)を弱めることにより、樹脂組成物の相対粘度を低くすることができる。
【0065】
[異種複合成形体]
本発明の異種複合成形体は、上記したポリアミド樹脂組成物を含む成形体(以下、単に「ポリアミド樹脂組成物成形体」ということがある)および当該成形体に接合された金属を含む。詳しくは、本発明の異種複合成形体において、金属は後述するエッチング剤やレーザ照射等による粗化処理によって表面の少なくとも一部に粗化面を形成させた金属であり、当該金属は、上記の粗化面を介して、ポリアミド樹脂組成物成形体と接合されている。金属は通常、金属基材であり、当該金属基材における少なくとも一部の表面に粗化面を有する。より詳しくは、金属基材は、接合時においてポリアミド樹脂組成物と接触する領域における少なくとも一部(好ましくは全部)の領域に粗化面を有する。粗化面とは、粗化処理により、金属基材の表面にあけられた微細孔(または微細空洞)を有する面のことである。微細孔(または微細空洞)は、金属基材の表面を基準として、掘り下げられることにより形成されている。微細孔(または微細空洞)の各々は、金属基材表面における当該微細孔(または微細空洞)の周辺領域より、窪んでいる。微細孔(または微細空洞)は、金属基材の表面において、隆起することなく、開口している。さらに詳しくは、上記の粗化面の微細孔(または微細空洞)に、溶融した上記ポリアミド樹脂組成物成形体が入り込み、その後、固化することにより、アンカー効果に基づく金属と当該成形体との接合が達成されている。本発明においては、このように、粗化面の微細孔(または微細空洞)に、セルロース繊維を含むポリアミド樹脂組成物が入り込んで固化することにより、アンカー効果が発揮される。さらには、ポリアミド樹脂組成物がセルロース繊維を含むため、セルロース繊維を含まないポリアミド樹脂組成物と比較して、ポリアミド樹脂組成物の線膨張係数は金属の線膨張係数により近似している。それらの結果、接合強度、耐湿熱性およびガス封止性が十分に向上するものと考えられる。
【0066】
金属基材は金属または合金から構成されている。金属基材を構成する金属または合金は、粗化処理により微細な孔(または空洞)が形成され得る限り特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレス、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金等が挙げられる。金属基材としては、例えば、アルミニウム合金を用いることができるし、またはアルミニウム合金以外の、アルミダイキャスト、ステンレス、冷間圧延鋼板(SPCC)等の他の金属材料からなる基材を用いることができる。金属材料には、単一の金属元素からなる金属や二以上の金属元素を含む合金や、金属基材表面にメッキやコーティングを施したものも含まれる。
【0067】
金属基材の形状としては、特に制限はないが、平板、曲板、板状、棒状、筒状、塊状、シート状、フィルム状等、あるいは所望する特定の形状に製作されたものが好ましく挙げられる。粗化処理前の金属基材原料としての金属部材の面の形状は特に制限はなく、単一の平面や曲面に限定されず、それらの複合面形状を有していてもよいし、または段状部、凹部、凸部等、各種の形状を有していてもよい。
【0068】
金属基材の厚さとしては、特に制限はないが、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.1~50mmであることがより好ましく、0.12~10mmであることがさらに好ましい。特に、アルミニウム板および鉄板の場合の厚みは、それぞれ、0.1~50mmであることが好ましく、0.2~40mmであることがより好ましい。上記厚さについて、金属基材が平板状の場合は、その厚さをいう。また、平板状以外の場合は、金属基材におけるポリアミド樹脂組成物成形体と接触する金属部位のうち、最も薄い厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0069】
金属基材における粗化面は通常、1μm以上500μm以下の算術平均表面粗さを有し、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~300μm、より好ましくは1~200μm以下、さらに好ましくは5~200μm、特に好ましくは5~80μm、最も好ましくは8~60μmの算術平均表面粗さを有する。
【0070】
粗化面の算術平均表面粗さは、微細孔(または微細空洞)の深さを示す指標の1つである。算術平均表面粗さは、詳しくは、JIS B 0601:2001の規定に準拠した方法により、任意の10点で測定された値の平均値を用いている。
【0071】
金属基材は、その表面に酸化物や水酸化物等からなる被膜(特に厚い被膜)がないことが望ましい。このような被膜を除去するため、粗化処理する前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面を研磨してもよい。
【0072】
粗化処理としては、金属基材の表面に微細孔または微細空洞を形成できる限り特に限定されず、各種の公知の方法が採用可能である。粗化処理の具体例として、例えば、化学薬液などのエッチング剤処理(ケミカルエッチング)、レーザ処理(レーザエッチング)、ブラストエッチング、陽極酸化処理、液体ホーニング処理、ベーマイト処理等による加工が挙げられる。粗化処理は、このように金属基材表面に微細孔または微細空洞を形成する処理であるため、金属基材表面を基準としたとき、隆起が起こることはない。
【0073】
以下の粗化処理(1)~(3)において、粗化処理の具体例を詳しく説明するが、金属基材の表面に、微細孔または微細空洞を有する粗化面を形成できる限り、以下の具体例に限定されないことは明らかである。
【0074】
粗化処理(1):エッチング剤による粗化処理
本実施形態においては、金属を粗化処理するエッチング剤として、酸系エッチング剤またはアルカリ系エッチング剤の少なくとも一方を使用する。
【0075】
作業性の観点からは、少なくとも酸系エッチング剤によりエッチング処理することが好ましい。本発明では、酸系エッチング剤によるエッチング処理の後、アルカリ系エッチング剤によるエッチング処理を行うこともできる。以下、本実施形態で使用できるエッチング剤の各成分について説明する。
【0076】
(酸系エッチング剤)
酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含むことができる。
【0077】
<第二鉄イオン>
第二鉄イオンは、金属(特にアルミニウム)を酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等があげられる。第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0078】
本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが行われる場合、および酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは1.5~12質量%、更に好ましくは2.5~7質量%、更により好ましくは4~6質量%である。一方、アルカリ系エッチング剤によるエッチング後に酸系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.5~12質量%、更に好ましくは0.5~7質量%、更により好ましくは0.6~6質量%である。上記いずれの場合においても、当該含有量が0.01質量%以上であれば、金属の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、当該含有量が20質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0079】
<第二銅イオン>
第二銅イオンは金属を酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等があげられる。第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0080】
第二銅イオンの含有量は、0.001~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~7質量%、更に好ましくは0.05~1質量%、更により好ましくは0.1~0.8質量%、更により好ましくは0.15~0.7質量%、特に好ましくは0.15~0.4質量%である。当該含有量が0.001質量%以上であれば、金属の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、当該含有量が10質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0081】
酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよい。本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが行われる場合、および酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことで、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0082】
酸系エッチング剤が、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオン及び第二銅イオンのそれぞれの含有量が、前記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5~15質量%、更に好ましくは2.5~10質量%である。
【0083】
<マンガンイオン>
酸系エッチング剤には、金属表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等があげられる。マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0084】
マンガンイオンの含有量は、0.02~1.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.06~0.6質量%、更に好ましくは0.1~0.5質量%である。当該含有量が0.02質量%以上であれば、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。一方、当該含有量が1.5質量%以下であれば、コスト低減が容易となる。特に、本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが行われる場合、および酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合は、酸系エッチング剤がマンガンイオンを含有することで、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が均一に得られやすい。
【0085】
<酸>
酸は、第二鉄イオン及び/又は第二銅イオンにより酸化された金属(特にアルミニウム)を溶解させる成分である。酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸があげられる。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等があげられる。酸系エッチング剤には、これらの酸を一種又は2種以上配合することができる。無機酸のうちでは、臭気がほとんどなく、安価である点から硫酸が好ましい。また、有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0086】
酸の含有量は、0.1~50質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることが更に好ましく、5~30質量%であることが更により好ましく、7~25質量%であることが更により好ましく、8~18質量%であることが更により好ましい。含有量が0.1質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、含有量が50質量%以下であれば、液温が低下した際のアルミニウム塩の結晶析出を防止できるため、作業性を向上できる。
【0087】
<他の成分>
酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い微細孔(または微細空洞)を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、0.01~10質量%程度であるのが好ましい。
【0088】
酸系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0089】
(アルカリ系エッチング剤)
アルカリ系エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とチオ化合物とを含み、必要に応じて各種添加剤等を含むことができる。
【0090】
<両性金属イオン>
両性金属イオンは、粗化処理中に金属基材表面上で金属と置換反応することにより析出する。そして、析出した両性金属は、後述する酸化剤によりエッチング剤中に再溶解する。このように、両性金属イオンが析出と溶解を繰り返すことによって、樹脂組成物との密着性向上に適した微細孔(または微細空洞)が形成されるものと考えられる。両性金属イオンとしては、金属基材としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さい両性金属のイオンが好ましく、例えば、Znイオン、Pbイオン、Snイオン、Sbイオン、Cdイオン等が例示できる。金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点、及び環境負荷の低減の観点から、Znイオン、Snイオンが好ましく、Znイオンがより好ましい。両性金属イオンの含有量は、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、両性金属イオンの含有量は、6.0質量%以下であることが好ましく、4.4質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0091】
両性金属イオンは、両性金属イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。両性金属イオン源の例としては、Znイオン源の場合は、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。また、Snイオン源の場合は、塩化錫(IV)、塩化錫(II)、酢酸錫(II)、臭化錫(II)、二リン酸錫(II)、しゅう酸錫(II)、酸化錫(II)、ヨウ化錫(II)、硫酸錫(II)、硫化錫(IV)、ステアリン酸錫(II)等が挙げられる。
【0092】
<酸化剤>
酸化剤は、粗化処理中に金属基材表面上で金属と置換反応することにより析出する両性金属を再溶解させるために配合される。酸化剤の含有量は、両性金属の再溶解性の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましい。また、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、酸化剤の含有量は、10.0質量%以下であることが好ましく、8.4質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0093】
酸化剤としては、亜塩素酸及び次亜塩素酸等の塩素酸並びにそれらの塩、過マンガン酸塩、クロム酸塩、重クロム酸塩、セリウム(IV)塩等の酸化性金属塩類、ニトロ基含有化合物、過酸化水素、過硫酸塩等の過酸化物、硝酸、硝酸イオン等が挙げられる。硝酸イオンは、硝酸塩等の硝酸イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。中でも取扱い性の観点から、硝酸、硝酸イオンが好ましく、硝酸イオンがより好ましい。
【0094】
<アルカリ源>
アルカリ源は、両性金属イオンにより酸化された金属を溶解させる成分である。アルカリ源としては、特に限定されないが、金属としてアルミニウムを使用する場合、アルミニウムの溶解性の観点、及びコスト低減の観点から、無機アルカリ源が好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物がより好ましく、NaOH、KOHが更に好ましい。アルカリ源の含有量は、金属-樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、水酸化物イオンとして0.60質量%以上であることが好ましく、1.45質量%以上であることがより好ましく、2.50質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、アルカリ源の含有量は、水酸化物イオンとして22.80質量%以下であることが好ましく、16.30質量%以下であることがより好ましく、12.25質量%以下であることが更に好ましい。
【0095】
<チオ化合物>
アルカリ系エッチング剤には、緻密な粗化処理を行うことによって、複合体の付着界面における密着性を更に向上させるという観点からチオ化合物を配合する。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更に好ましい。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0096】
チオ化合物としては、特に限定されないが、緻密な粗化形状を得るという観点から、チオ硫酸イオン及び炭素数1~7のチオ化合物から選択される一種以上であることが好ましく、チオ硫酸イオン及び炭素数1~3のチオ化合物から選択される一種以上であることがより好ましい。このうち、チオ硫酸イオン等のイオンは、そのイオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。
【0097】
炭素数1~7のチオ化合物としては、チオ尿素(炭素数1)、チオグリコール酸イオン(炭素数2)、チオグリコール酸(炭素数2)、チオグリセロール(炭素数3)、L-チオプロリン(炭素数4)、ジチオジグリコール酸(炭素数4)、β,β'-チオジプロピオン酸(炭素数5)、N,N-ジエチルジチオカルバミン酸イオン(炭素数5)、3,3'-ジチオジプロピオン酸(炭素数6)、3,3'-ジチオジプロパノール(炭素数6)、o-チオクレゾール(炭素数7)、p-チオクレゾール(炭素数7)等が挙げられる。
【0098】
<他の成分>
アルカリ系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、アルミニウムの溶解に伴うスラッジ発生を抑制するための添加剤、例えば、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸及びそれらの塩等が例示できる。これら他の成分を添加する場合、その含有量は、0.1~5質量%程度であることが好ましい。
【0099】
アルカリ系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0100】
[エッチング剤による粗化工程]
次に、上述したエッチング剤を用いて金属の表面を粗化処理する粗化工程について説明する。
【0101】
エッチング剤として、酸系エッチング剤またはアルカリ系エッチング剤のいずれのエッチング剤を用いて粗化処理を行う際にも、処理対象物である金属(特にアルミニウム)表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、脱脂を行なった後、エッチング剤による粗化処理を行なうことが好ましい。酸系エッチング剤による粗化処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は10~500秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。アルカリ系エッチング剤による粗化処理方法は、アルカリ系エッチング剤を用いること以外、酸系エッチング剤による粗化処理方法と同様である。
【0102】
エッチング剤による粗化処理として、酸系エッチング剤による粗化処理のみを行う場合(以下、場合(1a)ということがある)、その後、好ましくはアルカリ性水溶液による洗浄および/またはハロゲン化水素酸溶液による洗浄を行う。このような場合(1a)において、酸系エッチング剤による粗化処理の後、より好ましくはアルカリ性水溶液による洗浄および/またはハロゲン化水素酸溶液による洗浄ならびに酸洗浄をこの順序で行う。
エッチング剤による粗化処理として、酸系エッチング剤による粗化処理を行った後、アルカリ系エッチング剤による粗化処理を行う場合(以下、場合(1b)ということがある)、その後、酸洗浄を行うことが好ましい。
場合(1a)および場合(1b)における酸洗浄は共通する同様の処理である。
【0103】
アルカリ性水溶液および/またはハロゲン化水素酸溶液により粗化面の洗浄を行うと、粗化面がわずかにエッチングされるため、粗化面の形状を制御することができる。より深い凹部を有する粗化面を形成するには、ハロゲン化水素酸溶液で処理することが好ましい。
【0104】
アルカリ性水溶液は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物を含むアルカリ性水溶液である。アルカリ性水溶液により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、水酸化物の濃度が1~48質量%のアルカリ性水溶液を用いるのが好ましい。水酸化物としては、コストの観点及び取扱い性の観点から水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ性水溶液により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は5~300秒程度が好ましい。アルカリ性水溶液による処理後は、水洗及び乾燥が行なわれてもよい。
【0105】
ハロゲン化水素酸溶液は、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸を含む水溶液である。ハロゲン化水素酸溶液により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、ハロゲン化水素の濃度が1~35質量%のハロゲン化水素酸溶液を用いるのが好ましい。ハロゲン化水素酸としては、コストの観点及び取扱い性の観点から塩酸が好ましい。ハロゲン化水素酸溶液により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は5~300秒程度が好ましい。ハロゲン化水素酸溶液による処理後は、水洗及び乾燥が行なわれてもよい。
【0106】
酸洗浄は、析出した両性金属の除去を目的として行われる。酸洗浄に用いる酸は両性金属を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液を用いることが好ましい。このような水溶液による酸洗浄は、金属表面に析出した両性金属の除去と、部品表面の再不働態化を同時に行うことができるため、処理表面の保存安定性向上の観点から好ましい。このような水溶液による酸処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は5~80秒程度が好ましい。処理後は、水洗及び乾燥が行なわれてもよい。
【0107】
酸洗浄のための水溶液として硝酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硝酸の濃度が5~65質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましい。水溶液として硫酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5~60質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0108】
酸洗浄のための水溶液として硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能の観点、及び金属の腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5~60質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。同様の観点から、過酸化水素の濃度が1~40質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
【0109】
酸洗浄を行った後(特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液で粗化面を処理した後)は、更に当該処理面を陽極酸化処理(アルマイト処理)してもよい。陽極酸化処理を行うと、耐食性を更に向上させることができる。
【0110】
エッチング剤を用いて金属を粗化処理する際、金属表面の全面を粗化処理してもよいし、または樹脂組成物と接触する面(特に接触領域)だけを部分的に粗化処理してもよい。
【0111】
粗化処理(2):レーザによる粗化処理
レーザによる金属基材表面の粗化処理を説明する。金属基材は、レーザ光を照射して金属表面を溝堀加工及び溶融させ再凝固させる条件にて加工することにより形成される。より具体的には、ある走査方向についてレーザスキャニング加工された後、前記走査方向とクロスする別の走査方向についてレーザスキャニング加工されるというクロスハッチング操作が複数回繰り返されることにより形成される。但し、1セットとして実行される必要は必ずしも無く、一方向での回数と別方向での回数が異なっていてもよい。以下、クロスレーザスキャニングの際の好適条件に関し、まず特に重要なパラメータである「クロス角度」及び「繰り返し加工回数」に関する好適条件を説明し、次いで他のパラメータに関する好適条件を順次説明することとする。なお、「クロス角度」、「繰り返し加工回数」および他のパラメータに関する各種条件は、金属基材の表面に、微細孔または微細空洞を有する粗化面(特に上記した算術平均表面粗さを有する粗化面)を形成できる限り特に限定されないことは明らかである。
【0112】
クロス角度(加工方向)は、ある走査方向と別の走査方向との角度が10°以上であることが好適であり、45°以上であることがより好適である。即ち、前の加工に対して、次の加工の走査方向が同じでないことが重要である。更に、どのような方向からの引張荷重に対しても高い接合強度を示すという点で、クロス角度が略90°であることが最適である。
【0113】
繰り返し加工回数(重畳回数、クロスハッチング回数)は、例えば、クロス角度が略90°であるとき、SUSの場合には8~10回が好適であり、AlやMgの場合には4~5回が好適である。ここで、ある加工とその次の加工の加工条件を変えてもよい。例えば、1回目を比較的大きな出力で深い面粗し加工を行い、2回目で形状を整える態様を挙げることができる。また、色の違いによるレーザ加工性については、一般的に、黒系に対して銀色系、更にはワインレッドや橙系は、同じ出力では、反射率の違いから加工性が落ちるとされている。しかしながら、走査方向を変えながら、何回も繰返し加工を行うため、同一条件で加工しても加工面に大きな差は見られないことが確認されている。また、例えば走査方向0°を加工後、45°づつ加工方向を回転させ、4回加工しても同様な効果が得られることが確認されている。
【0114】
次に、レーザスキャニング加工に関する他のパラメータの好適条件について詳述する。まず、他のパラメータとしては、加工機出力、ハッチング幅、レーザビームスポット径とハッチング幅のバランス等を挙げることができる。尚、これらパラメータの好適条件は、処理対象となる金属材料の種類、求められる気密性、使用するレーザ装置の出力等に応じて変わるものである。以下、各パラメータについて一般的な好適条件を説明する。
【0115】
まず、「加工機出力」は、平均出力20W程度の機種において、設定範囲80%以上であることが好適であり、より好適には92~95%である。出力の大きな設備については、設定出力を大きくすることにより、加工回数を少なくでき、加工時間の短縮が可能である。例えば、20Wよりも40Wの方が加工性は上がる(レーザスキャニングの設定速度・周波数を上げることが可能)。この場合、クロスハッチングの回数も多少減らすことが可能となる(例えば、SUSの場合、20Wでは8~10回であるところ、40Wでは6~8回程度)。尚、陽極酸化されていない金属材料の場合は、陽極酸化処理されているものよりも出力を高めに設定する必要がある。
【0116】
次に、「ハッチング幅」は、一般的には、0.02~0.6mmであることが好適である。ハッチング幅の設定値が小さい場合、プログラム量が増大し設備に負担がかかるのと、加工時間が増えることにより加工コストが上昇する。また、設定値が大きい場合、ハッチング幅が広がりすぎアンカー効果の高い微細孔(または微細空洞)が形成しにくくなる。なお、ハッチング幅に関しては、金属材料の種類によりその幅を決定することが好適である。例えばAlやMgのように加工性のよい材料は、比較的ハッチング幅を広めにとらないと微細孔(または微細空洞)が潰れてしまうのでハッチング幅を広めに設定する一方、SUSのようにそれ程加工性のよくない材料は、ハッチング幅を比較的広範囲で設定できる。更には、加工機出力を大きくすると、加工性が上がると共に加工部周辺への影響も大きく平坦な加工になり易いため、ハッチング幅をプラス気味に設定することが好適である。
【0117】
「レーザビームスポット径とハッチング幅のバランス」は、ハッチング幅をビームスポット径の50~300%に設定することが好適であり、60~150%に設定することがより好適である。例えば、20W機種のレーザビームスポット径をΦ0.1mmと設定した場合の設定ハッチング幅は0.05~0.3mmであり、より好適には0.06~0.15mmである。
【0118】
粗化処理(3):ブラストエッチングによる粗化処理
ブラストエッチングとは、投射材と呼ばれる粒体を金属基材表面に投射させることで粗化面を形成させる方法である。ブラストエッチングで用いる投射材の形成素材としては、例えば、鋳鉄もしくは鋳鋼等の球形粒子からなる金属;またはアルミナ(Al2O3)もしくは炭化珪素(SiC)等の球形粒子または微粉末からなるセラミック等を挙げることができる。ブラストエッチングで用いる投射材の形成素材は、投射の対象となる基材と同種の材料を用いることが好ましく、その基材と同等もしくはそれ以上の硬度を有する材料を用いることが望ましい。また、ブラストエッチングで用いる投射材の投射方法としては、たとえば機械式、乾式(空気式)、湿式等の投射方法を挙げることができる。さらに、ブラストエッチングで用いる投射材の形状、組成および硬度、ならびに投射材の投射速度、投射角度、投射量および投射圧力などの各種条件を調整することによって、金属基材表面のエッチング量(特に粗化面の算術平均表面粗さ)を適宜調整することができる。
【0119】
[異種複合成形体の製造方法]
本発明の異種複合成形体は、上記したポリアミド樹脂組成物成形体の成形時(または製造時)に金属と一体化(または接合)させることにより製造されてもよいし(成形時一体化法)、またはポリアミド樹脂組成物成形体を予め成形(または製造)した後、金属と一体化(または接合)させることにより製造されてもよい(成形後一体化法)。
【0120】
成形時一体化法においては、例えば、金型に前記した金属(特に微細孔または微細空洞を有する粗化面が形成された金属基材)を挿入し、溶融した前記ポリアミド樹脂組成物を注入(例えば射出)するインサート成形を行う(インサート成形法)。このとき、金属は、微細孔または微細空洞を有する粗化面の少なくとも一部が溶融したポリアミド樹脂組成物と接触するように、金型内に挿入されている。
【0121】
成形後一体化法においては、ポリアミド樹脂組成物成形体は、ポリアミド樹脂組成物を公知の成形方法により成形することで得ることができる。公知の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法が挙げられる。中でも、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダ内で加熱溶融された樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、得られる樹脂組成物の融点以上とすることが好ましく、「融点+100℃」未満とすることが好ましい。なお、樹脂組成物の加熱溶融時には、用いる樹脂組成物は十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダ内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いる樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0122】
ポリアミド樹脂組成物成形体と金属(特に粗化処理によって微細孔または微細空洞を有する粗化面が形成された金属基材)との一体化(または接合)は、当該成形体と当該金属とを重ね合わせ、圧および熱を付与する圧熱式接合方法により達成することができる。このとき、金属は、微細孔または微細空洞を有する粗化面の少なくとも一部が成形体と接触するように、重ね合わされている。
【0123】
圧熱型接合方法とは、圧および熱を付与することにより、ポリアミド樹脂組成物成形体を溶融させることができる限り特に限定されない。圧熱型接合方法として、例えば、熱プレス法、超音波溶着法、振動溶着法、摩擦混合撹拌溶着法およびレーザ溶着法からなる群から選択される方法が挙げられる。
【0124】
熱プレス法とは、ポリアミド樹脂組成物成形体と金属との少なくとも重ね合わせ部分に、加熱した型により圧と熱を付与することによって、双方を溶着させる方法である。
振動溶着法とは、ポリアミド樹脂組成物成形体と金属を重ね合わせ、重ね合わせにより形成される当接面を上下に圧接させた状態とし、この状態で横方向に振動を与えて発生する摩擦熱によって、双方を溶着させる方法である。
超音波溶着法とは、ポリアミド樹脂組成物成形体と金属を重ね合わせ、重ね合わせにより形成される当接面を上下に圧接させた状態とし、この状態で、超音波により当接面に縦方向の振動を発生させ、その摩擦熱によって双方を溶着させる方法である。
摩擦混合撹拌溶着法とは、ポリアミド樹脂組成物成形体と金属を重ね合わせ、重ね合わせにより形成される当接面を、円筒状の工具を回転させながら押し付け、摩擦による摩擦熱及び撹拌によって双方を溶着させる方法である。
レーザ溶着法とは、ポリアミド樹脂組成物成形体と金属を重ね合わせ、ポリアミド樹脂組成物成形体の外側に対してレーザ光を照射することにより、ポリアミド樹脂組成物成形体を通過したレーザ光が他方の金属部材の接触面を加熱し、そのときに発生した熱によって双方を溶着させる方法である。
【0125】
本発明の異種複合成形体は、異種複合成形体の接合強度、耐湿熱性およびガス封止性のさらなる向上の観点から、インサート成形法、熱プレス法、超音波溶着法により好ましく製造することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、ポリアミド樹脂組成物およびその樹脂組成物と金属からなる異種複合成形体の評価は以下の方法によりおこなった。
【0127】
I.樹脂組成物の原料
(1)ポリアミド樹脂モノマー成分
・ε-カプロラクタム(宇部興産社製)
・ポリアミド66塩(ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩、ポリアミドプレポリマー)
【0128】
(2)セルロース繊維(B)
・B-1:KY100G(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100G、平均繊維径が125nmの未変性のセルロース繊維が10質量%含有されたもの。
・B-2:KY100S(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100S、平均繊維径が140nmの未変性のセルロース繊維が25質量%含有されたもの。)
・B-3:KY110N(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY110N、平均繊維径が125nmの未変性のセルロース繊維が15質量%含有されたもの。)
【0129】
・B-4:バクテリアセルロース繊維(未変性のセルロース繊維):
0.5質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.5質量%酵母エキス、0.1質量%硫酸マグネシウム7水和物からなる組成の培地50mLを、200mL容三角フラスコに分注し、オートクレーブで120℃、20分間蒸気滅菌した。これに試験管斜面寒天培地で生育させたGluconacetobacter xylinus(NBRC 16670)を1白金耳接種し、30℃で7日間静置培養した。7日後、培養液の上層に白色のゲル膜状のバクテリアセルロース繊維が生成した。
得られたバクテリアセルロース繊維をミキサーで破砕後、水で浸漬、洗浄を繰り返すことにより、水置換をおこない、平均繊維径が60nmのバクテリアセルロース繊維が4.1質量%含有された水分散液を調製した。
【0130】
・B-5:屑糸(未変性のセルロース繊維):
不織布の製造工程において屑糸として出されたセルロース繊維の集合体に、精製水を加えてミキサーで撹拌し、平均繊維径が3240nmの未変性のセルロース繊維が6質量%含有された水分散液を調製した。
【0131】
・B-6:TEMPO触媒酸化セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が親水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
漂白後の針葉樹由来の未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO 780mgおよび臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mLに添加し、パルプが均一に分散するまで撹拌した。そこに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように加えることで酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するため、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターにより濾過してパルプを分離し、十分に水洗することで酸化されたパルプを得た。上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、平均繊維径が10nmのTEMPO触媒酸化セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、TEMPO触媒酸化セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IR、中和滴定で分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部がカルボキシル基で置換されており、その置換度は0.3であることを確認した。
【0132】
・B-7:エーテル変性セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が疎水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
針葉樹漂白クラフトパルプ(王子製紙社製、固形分25%)600gに水19.94kg添加し、固形分濃度が0.75質量%の水懸濁液を調製した。得られたスラリーの機械的解繊処理をビーズミル(アイメックス社製 NVM-2)を用いておこない、セルロース繊維を得た(ジルコニアビーズ直径1mm、ビーズ充填量70%、回転数2000rpm、処理回数2回)。遠心分離管一本あたりに、得られたセルロース繊維水分散液100gを入れ、遠心分離(7000rpm、20分)をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。遠心分離管一本あたりに、アセトン100gを加えて、よく撹拌し、アセトン中に分散させ、遠心分離をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。上記の操作をさらに二回繰り返し、固形分5質量%のセルロース繊維アセトンスラリーを得た。
【0133】
撹拌羽根を備えた四つ口1Lフラスコに、得られたセルロース繊維アセトンスラリーをセルロース繊維の固形分が5gになるように投入した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を500mL、トルエンを250mL加え、撹拌しながらセルロース繊維をNMP/トルエン中に分散させた。冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を150℃に加熱し、分散液中に含まれるアセトン、水分をトルエンとともに留去した。その後分散液を40℃まで冷却し、ピリジン15mL、ヘキサメチルジシラザン(シリルエーテル化剤)25gを添加して窒素雰囲気下90分反応させ、エーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を調製した。
【0134】
得られたエーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を遠心分離機によりセルロース繊維を沈殿させ水置換した。これを3回繰り返し、水で調製し、平均繊維径が100nmのエーテル変性セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、エーテル変性セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IRで分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部が疎水性のシリルエーテル基で置換されており、その置換度は0.3であることを確認した。
【0135】
(3)セルロース繊維以外の強化材(C)
・C-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製、T-262H、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm、酸共重合物を含んだ被膜形成剤を使用)
・C-2:炭素繊維(東邦テナックス社製、HTA-C6-NR、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm)
・C-3:タルク(日本タルク社製、SG-2000、平均粒径1μm)
【0136】
(4)耐衝撃剤(D)
・D-1:ポリオレフィン系重合体(酸変性ポリオレフィン系重合体):三井化学社製 タフマーMH-5020、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、MFR(190℃、2.16kg荷重下)0.6g/10分。
・D-2:ポリオレフィン系重合体(アイオノマー重合体):三井・デュポンポリケミカル社製 ハイミラン1706 エチレン-メタクリル酸共重合体を亜鉛イオンで架橋したアイオノマー樹脂、MFR(190℃、2.16kg荷重下)0.9g/10分。
【0137】
II.金属基材への粗化面の形成
<エッチング剤による粗化面の形成>
金属基材として、幅18mm、長さ45mm、厚さ1.5mmのアルミニウム合金(A5052)の板材を用意した。この部材を表1に示す組成の酸系エッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、エッチングした後、水洗を行った。次に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に前記処理後の金属を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行った。次に35質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後の金属を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行い、乾燥させた。なお、エッチング温度およびエッチング時間を調整することでエッチング量(特に粗化面の算術平均表面粗さ)を変更することができる。
【0138】
【0139】
<レーザによる粗化面の形成>
金属基材として、幅18mm、長さ45mm、厚さ1.5mmのアルミニウム合金(A5052)の板材を用意した。この部材の片面(18mm×45mm)のみをレーザ(Cobra、Electrox社製、レーザタイプ:継続波/Qswich付Nd:YAG 、発振波長:1.064μm、最大定格出力:20W(平均))を用いて粗化処理をした。なお。レーザ条件は、出力:95%、ハッチング幅:0.10mm、周波数6kHz、速度200mm/sとした。また、レーザの走査方向は、45°および135°(すなわち、クロス角度90°)とし、クロスハッチング回数は4回とした。
【0140】
<粗化面の微細孔の観察>
前記エッチング剤およびレーザ処理により表面が粗化された金属基材の表面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU8020、電界放射型走査顕微鏡)を用いて観察したところ、微細孔を有する粗化面が形成されていることを確認した。ここで得られた、表面に粗化面が形成された金属基材を、以下では「表面処理済みの金属基材」と呼ぶことにする。
【0141】
<粗化面の微細孔の深さの測定>
粗化面の微細孔深さは、金属基材の算術平均表面粗さで評価した。具体的には、JIS B 0601:2001の規定に準拠し、上記で得られた表面処理済みの金属基材の算術平均表面粗さを、サーフコーダ SE-30K(株式会社小坂研究所製)により測定した。
【0142】
III.接合剪断強度測定用の異種複合成形体の製造方法
接合剪断強度測定用の異種複合成形体は、ISO規格19095に基づく成形体であり、詳しくは、樹脂組成物を含む板状成形体と板状金属基材とが長手方向でそれぞれの端部(特に一端部)のみで相互に重なり合って接合されてなる形状を有している。
【0143】
(1)インサート成形法(成形時一体化成形)
前述した表面処理済みの金属基材を射出成形金型に挿入した。詳しくは、金属基板を、その表面処理領域(微細孔を有する粗化面)が溶融した樹脂組成物と接触するように、金型に挿入した。次に、十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製NEX110-12E)を用いて射出し、ISO規格19095に記載の異種複合成形体を得た。射出成形条件について、ポリアミド6樹脂に対しては、シリンダ温度:250℃、金型温度:140℃、射出速度:50mm/秒とし、ポリアミド66樹脂に対しては、シリンダ温度:280℃、金型温度:140℃、射出速度:50mm/秒とした。
【0144】
(2)熱プレス法(成形後一体化成形)
十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX110-12E)を用いて射出成形し、幅10mm、長さ45mm、厚さ3mmの成形片を得た。得られた成形片および前述した表面処理済みの金属基材を重ね合わせて、熱板プレス機(神藤金属工業所製)にて溶融プレスすることで、ISO規格19095に記載の異種複合成形体を得た。プレス成形条件について、ポリアミド6樹脂に対しては温度:240℃、圧力:0.2MPa、時間:60秒とし、ポリアミド66樹脂に対しては温度:260℃、圧力:0.2MPa、時間:60秒とした。重ね合わせ時において、詳しくは、金属基板はその表面処理領域(微細孔を有する粗化面)が成形片と接触するように、重ね合わせた。
【0145】
(3)超音波溶着法(成形後一体化成形)
十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX110-12E)を用いて射出成形し、成形片(幅10mm、長さ45mm、厚さ3mm)を得た。得られた成形片および前述した表面処理済みの金属基材(幅18mm、長さ45mm、厚さ1.5mm)を重ね合わせて、超音波溶着機で溶着した。具体的な溶着条件としては、超音波溶着機(ブランソン社製「BRANSON 8700」、出力1500W、20kHz)を用い、エアシリンダー圧力20kPa、溶着時間0.2秒で、成形片側から金属基材との接合領域にホーンを押し当てて溶着を行った。重ね合わせ時において、詳しくは、金属基板はその表面処理領域(微細孔を有する粗化面)が成形片と接触するように、重ね合わせた。
【0146】
IV.ガス封止性評価用の異種複合成形体の成形方法
図1に、ガス封止性評価用の複合体10の構成を示す(ISO規格19095-2:2015、タイプD)。詳しくは、中心に直径20mmの貫通孔を形成した金属基材11の貫通孔内周面に、前述した方法(例えば各実施例/比較例に記載の粗化処理方法)と同様にして微細孔を有する粗化面を形成させた。その金属基材を前記と同様にしてインサート成形することで、貫通孔にポリアミド樹脂を充填してなるISO規格19095に記載のガス封止性評価用の異種複合成形体10を得た。
【0147】
V.評価方法
(1)樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径
十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX110-12E)を用いて射出成形し、ISO規格3167に記載の多目的試験片A型を得た。この試験片を射出成形片として用いた。凍結ウルトラミクロトームを用いて射出成形片から厚さ100nmの切片を採取し、切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1230)を用いて観察をおこなった。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とした。同様にして、任意の10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径とした。
なお、セルロース繊維の繊維径が大きいもの(例えば平均繊維径が1μm以上のもの)については、ミクロトームにて厚さ10μmの切片を切り出したものか、樹脂組成物をそのままの状態で、実体顕微鏡(OLYMPUS社製 SZ-40)を用いて観察をおこない、得られた画像から上記と同様にして繊維径を測定し、平均繊維径を求めた。
【0148】
(2)相対粘度
樹脂組成物を、96%硫酸に、セルロースを除去後のポリアミドの濃度が1g/dLになるように溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて、25℃で測定した。
【0149】
(3)接合剪断強度
前述した種々の成形方法で得られた異種複合成形体の接合剪断強度を、引張試験機(AG-10kNX、島津製作所製)を用いて、ISO規格19095に準拠して測定した。まず、接合面が剥離した際の最大荷重を測定し、その値を樹脂成形片と表面処理済みの金属基材とがオーバーラップしている部分の面積(50mm2)で除すことで接合剪断強度を算出した。測定条件は、試験雰囲気:23℃、50%RH、引張速度:10mm/分とした。なお、接合剪断強度の際、成形体の端部を直接的に引張り破断するのではなく、ISO規格19095-3:2015(E)に記載された形状の補助具に収納した。
異種複合成形体の接合剪断強度が、強化材や添加剤を含有しないニートのポリアミド樹脂と対比して、150%未満の場合を「×」、150%以上かつ170%未満の場合を「△」、170%以上かつ180%未満の場合を「○」、180%以上を「◎」とそれぞれ評価した。強化材や添加剤を含有しないニートのポリアミド樹脂に対する接合剪断強度の比が150%以上(△または○または◎)の異種複合成形体を合格と判断した。
【0150】
(4)耐湿熱性(接合剪断強度保持率)
耐湿熱性を接合剪断強度保持率で評価した。まず、前述したように、インサート成形によりISO規格19095に記載の異種複合成形体を得た。得られた成形体に対して、オートクレーブを用いて温度:85℃、湿度:85%RH、時間:1000時間の条件下で湿熱処理をした。湿熱処理後の異種複合成形体の接合剪断強度を上記記載の方法で測定した。湿熱処理後の接合剪断強度を湿熱処理前の接合剪断強度で除すことで、接合剪断強度保持率を算出した。
異種複合成形体の耐湿熱性について、1000時間後の接合剪断強度保持率が70%未満の場合を「×」、70%以上かつ80%未満の場合を「△」、80%以上かつ90%未満の場合を「○」、90%以上を「◎」とそれぞれ評価した。実用に耐えうるものとして、1000時間後の接合剪断強度保持率が70%以上(△または○または◎)の異種複合成形体を合格と判断した。
【0151】
(5)ガス封止性の評価
ガス封止性評価用の異種複合成形体を35℃の水中に24時間浸漬した後に、ステンレス製の密閉治具に固定し、ヘリウムリーク試験を行った。詳しくは、
図2に示すように、ガス注入口(21)から密閉治具(22)内に0.3MPaの圧力でヘリウムガスを封入しながら、異種複合成形体における樹脂と金属基材との接合部近傍のヘリウムリーク量を測定した。ヘリウムリーク試験は、リークディテクタ(HELIOT714;株式会社アルバック)(23)および当該リークディテクタに連結されたスニッファープローブ(24)を用いてJISZ2331:2006(ヘリウム漏れ試験方法)の附属書3((規定)吸込み法(スニッファー法))に準拠して行った。
ガス封止性について、ヘリウムリーク量が1.0×10
-3Pa・m
3/s以上の場合を「×」、1.0×10
-5Pa・m
3/s以上かつ1.0×10
-3Pa・m
3/s未満の場合を「△」、1.0×10
-7Pa・m
3/s以上かつ1.0×10
-5Pa・m
3/s未満の場合を「○」、1.0×10
-7Pa・m
3/s未満の場合を「◎」とそれぞれ評価した。実用に耐えうるものとして、ヘリウムリーク量が1.0×10
-3Pa・m
3/s未満(△または○または◎)の異種複合成形体を合格と判断した。
【0152】
(6)線膨張係数
(1)で得られた樹脂試験片および金属基材(アルミニウム合金(A5052))を10mm×4mm×4mm(厚)に切り出した。それらの線膨張係数をJIS K7197に基づいて測定し、20~150℃の領域での平均値を算出した。ここで、樹脂試験片については、射出成形時の樹脂の流動方向(MD方向)が長手方向になるようにして線膨張係数を測定した。
なお、測定の結果、金属基材の線膨張係数は28ppm/℃であり、樹脂試験片の線膨張係数は表2A、表2Bおよび表3に記載した。
【0153】
(7)総合評価
接合剪断強度、耐湿熱性、ガス封止性の全ての評価結果について、総合的に評価した。
◎:接合剪断強度、耐湿熱性、ガス封止性の全ての評価結果が◎であった。
○:接合剪断強度、耐湿熱性、ガス封止性の全ての評価結果のうち最低の評価結果が○であった。
△:接合剪断強度、耐湿熱性、ガス封止性の全ての評価結果のうち最低の評価結果が△であった。
×:接合剪断強度、耐湿熱性、ガス封止性の全ての評価結果のうち最低の評価結果が×であった。
【0154】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100Gを用いて、これに精製水を加えてミキサーで撹拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液100質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合分散液を重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で精練した後、乾燥して、乾燥した樹脂組成物のペレットを得た。乾燥した樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0155】
実施例2~4
セルロース繊維の含有量が表1に示す値になるように、セリッシュKY100Gの配合量を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を行った。
【0156】
実施例5~6
表2Aのように、ポリアミド樹脂組成物の相対粘度を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。相対粘度は、重合時間を調整することにより、制御した。
【0157】
実施例7
実施例1で得られたセルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液167質量部と、ポリアミド66塩(プレポリマー)100質量部とを、均一な溶液となるまでミキサーで撹拌、混合した。続いて、この混合溶液を230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂組成物をストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で精練した後、乾燥して、乾燥した樹脂組成物のペレットを得た。乾燥した樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0158】
実施例8~13
表2Aのように、セルロース繊維の分散液を変更すること、およびセルロース繊維の配合量を変更すること以外は、実施例1と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。
【0159】
実施例14~16
二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに実施例2で得られた樹脂105質量部を供給し、途中、サイドフィーダーより表2Aに記載の強化材10質量部を供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。乾燥後、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0160】
実施例17~18および25
実施例2で得られた樹脂105質量部および表2Bに記載の耐衝撃剤を表2Bに記載の配合量でドライブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。乾燥後、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0161】
実施例19~20
表2Bのように、金属表面の粗化方法を変更すること以外は、それぞれ実施例2または実施例17と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。
【0162】
実施例21~24
表2Bのように、表面処理済みの金属基材の算術平均表面粗さを変更すること以外は、実施例2と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。
【0163】
比較例1
ε-カプロラクタムを重合装置に投入後、撹拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.5MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド6樹脂(PA6樹脂)のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で精練した後、乾燥して、乾燥したPA6樹脂のペレットを得た。乾燥した樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0164】
比較例2
ポリアミド66塩を230℃で撹拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、さらに1時間重合をおこなった。重合が終了した時点で樹脂をストランド状に払い出し、切断して、ポリアミド66樹脂のペレットを得た。
得られたペレットを95℃の熱水で精練した後、乾燥して、乾燥したポリアミド66樹脂のペレットを得た。乾燥したポリアミド66樹脂のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0165】
比較例3~5
比較例1で得られた乾燥したPA6樹脂100質量部を二軸押出機の主ホッパーに供給し、途中、サイドフィーダーより表3に記載の強化材10質量部を供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。乾燥後、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0166】
比較例6~7および15
比較例1で得られた乾燥したPA6樹脂100質量部を二軸押出機の主ホッパーに供給し、途中、サイドフィーダーより表3に記載の耐衝撃剤を表3に記載の配合量となるように供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。乾燥後、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0167】
比較例8~9
表3のように、金属表面の粗化方法を変更すること以外は、それぞれ比較例1または比較例6と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。
【0168】
比較例10
セリッシュKY100Gの水分散液を、棚式凍結乾燥機として東京理化器械製FD550を使用して-45℃にて凍結乾燥し、粉砕機を用いて粉末状にした。
得られたセルロース繊維の粉末5質量部と比較例1で得られた乾燥したPA6樹脂100質量部をドライブレンドし、二軸押出機の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。乾燥後、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各特性の評価を実施した。
【0169】
比較例11~14
表3のように、表面処理済みの金属基材の算術平均表面粗さを変更すること以外は、比較例1と同様の操作をおこない、乾燥した樹脂組成物のペレットを得て、各特性の評価を実施した。
【0170】
表2A、表2Bおよび表3に、用いる樹脂組成物の樹脂組成および異種複合成形体の評価結果を示す。
【0171】
実施例1~24は、セルロース繊維の配合量およびポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径が所定の範囲内であった。このため、接合剪断強度は高く、耐湿熱性およびガス封止性に優れていた。
【0172】
比較例1~9、11~14は、ポリアミド樹脂に、セルロース繊維を配合していないため、接合剪断強度は低く、耐湿熱性およびガス封止性は悪かった。
【0173】
比較例10は、ポリアミド樹脂に、セルロース繊維を溶融混練により配合した樹脂組成物を用いたため、接合剪断強度は低く、耐湿熱性およびガス封止性は悪かった。
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
表2A、表2Bおよび表3において、特記事項は以下の通りである。
(1)質量部;
(2)平均繊維径;
(3)セルロース繊維以外の強化材(C);
(4)耐衝撃改善剤(D);
(5)セルロース繊維の添加時期;
(6)ポリアミド樹脂組成物の相対粘度;
(7)表面処理済みの基板(特にその粗化面)の算術平均表面粗さ;
(8)1000時間後の接合剪断強度保持率;
実施例7の接合剪断強度の割合は比較例2の接合剪断強度に対する割合である;
実施例17の接合剪断強度の割合は比較例6の接合剪断強度に対する割合である;
実施例18の接合剪断強度の割合は比較例7の接合剪断強度に対する割合である;
実施例19の接合剪断強度の割合は比較例8の接合剪断強度に対する割合である;
実施例20の接合剪断強度の割合は比較例9の接合剪断強度に対する割合である;
実施例21~24の接合剪断強度の割合はそれぞれ比較例11~14の接合剪断強度に対する割合である;
実施例25の接合剪断強度の割合は比較例15の接合剪断強度に対する割合である;
それらの実施例以外の実施例(すなわち実施例1~6および実施例8~16)の接合剪断強度の割合は比較例1の接合剪断強度に対する割合である。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明の金属との接合用ポリアミド樹脂組成物、およびその樹脂組成物を含む成形体と金属からなる異種複合成形体は、ポリアミド樹脂組成物と金属基材との接着性が著しく優れるので、高レベルで防水が求められる部品(例えば、川、プール、スキー場、お風呂等で使用される部品)、自動車等の輸送機器用の電装部品(センサー部品、ECUケース、モーター部品、電池部品)、電気電子機器部品、産業機械用部品、その他民生用部品等に好適に使用できる。
【要約】
本発明は、従来の熱可塑性樹脂を含む成形体に比べて、金属との接合強度が高く、高温高湿の過酷な環境下でもその強度が低下し難く、さらに金属との接合界面での気密性にも優れた成形体を形成することができる、金属との接合用ポリアミド樹脂組成物を提供する。本発明は、粗化面を有する金属との接合用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(B)を0.1~50質量部含有する、ポリアミド樹脂組成物に関する。