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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】二重鎖DNAの標的化改変の方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20220823BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220823BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220823BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220823BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019528752
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2017084293
(87)【国際公開番号】W WO2018115390
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】2018049
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】バンドック, ポール
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03009511(EP,A2)
【文献】国際公開第2015/139008(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/201138(WO,A1)
【文献】特表2020-516255(JP,A)
【文献】特表2018-531024(JP,A)
【文献】特表2019-517261(JP,A)
【文献】特表2019-517805(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106755059(CN,A)
【文献】Levi Lowder et al.,Rapid Evolution of Manifold CRISPR Systems for Plant Genome Editing,Frontiers in Plant Science,2016年11月14日,Vol.7,Article1683, pp,1-12
【文献】Akira Endo et al.,Efficient targeted mutagenesis of rice and tobacco genomes using Cpf1 from Francisella novicida,Scientific Reports,2016年12月01日,Vol.6,Article number 38169, pp.1-9
【文献】Bernd Zetsche et al.,Cpf1 Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System,Cell,2015年,Vol.163,pp.759-771
【文献】Pu Gao et al.,Type V CRISPR-Cas Cpf1 endonuclease employs a unique mechanism for crRNA-mediated target DNA recognition,Cell Research,2016年07月22日,Vol.26,pp.901-913
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における二重鎖DNAの標的化改変の方法であって、前記二重鎖DNAの第1のDNA鎖が標的配列を含み、前記二重鎖DNAの第2のDNA鎖が前記標的配列に相補的な配列を含み、
(a)前記二重鎖DNAを含む植物プロトプラストを用意する工程と;
(b)前記プロトプラスト中の前記二重鎖DNAを
Cpf1タンパク質;及び
前記標的配列を含む前記二重鎖DNAの部位前記Cpf1タンパク質標的とするためのガイド配列を含むcrRNA
に曝露する工程であって、ポリエチレングリコール媒介トランスフォーメーションを使用して、前記植物プロトプラストに、前記Cpf1、前記crRNA、前記Cpf1をコードしている前記Cpf1の一過性発現のための核酸構築物、前記crRNAをコードしている前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物、及び/又は、前記Cpf1及び前記crRNAをコードしている前記Cpf1及び前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物を、導入することによって曝露する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記二重鎖DNAが、前記植物プロトプラストに前記Cpf1の一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記Cpf1に曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二重鎖DNAが、前記植物プロトプラストに前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記crRNAに曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記二重鎖DNAが、前記植物プロトプラストに前記Cpf1及び前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記Cpf1及びcrRNAに曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
crRNAをコードしているヌクレオチド配列を含む核酸分子が、pol IIIプロモーターに作動可能に連結される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記Cpf1をコードしている一過性発現のための前記構築物が、構成的35Sプロモーターに作動可能に連結されているCpf1をコードしているヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項7】
Cpf1をコードしているヌクレオチド配列が、前記植物プロトプラストにおける発現のためにコドン最適化される、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記プロトプラストの細胞周期を同期させる工程をさらに含、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)を実行する前及び/又は実行する間に、前記プロトプラストの細胞周期が同期される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
同期が、前記プロトプラストを同期薬剤と接触させることにより実行される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
細胞周期を同期させる前記工程が、前記細胞周期のS期、M期、G1及び/又はG2期において前記プロトプラストを同期させる工程である、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
2つ以上のcrRNAが使用される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの標的化改変が、前記二重鎖DNAに導入される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記改変が少なくとも1つの塩基対の挿入、欠失又は修飾を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記改変が、少なくとも1つの塩基対の欠失及び少なくとも1つの塩基対の挿入を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの標的化改変が、二対立遺伝子である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの標的化改変を含むプロトプラストら植物細胞又は植物を再生する工程をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ゲノム又は遺伝子編集ツールの分野に関する。
【0002】
(発明の背景)
生細胞の遺伝物質に改変を意図的に作出する過程は、生細胞、又は生細胞が部分を形成する若しくは再生できる生物の遺伝的にコードされている生物学的特性を1つ若しくは複数修飾するという目標を一般に有する。これらの変更は、遺伝物質の部分の欠失、外来性遺伝物質の付加又は遺伝物質の既存のヌクレオチド配列の変更という形をとり得る。
【0003】
真核生物の遺伝物質を改変する方法は、20年以上にわたって公知であり、農業、ヒトの健康、食物品質及び環境保護の分野における改善のために植物、ヒト及び動物細胞並びに微生物において幅広い用途を見出してきた。
【0004】
最も一般的な方法は、細胞のゲノムに外来性DNA断片を付加することからなり、その方法は、すでに存在する遺伝子にコードされている特性に加えて細胞又は生物に新たな特性を次いで付与することになる(既存の遺伝子の発現がそれによって抑制されることになる用途を含む)。これら例の多くは、所望の特性を得るのに有効であるが、にもかかわらずこれらの方法は、外来性DNA断片が挿入され得るゲノム位置の制御(それ故、発現の最終的なレベルの制御)がなされず、所望の効果が、元の及びバランスのとれたゲノムにコードされる天然の特性を上回って所望の効果を現わさなければならなくなるので、あまり的確でない。
【0005】
反対に、あらかじめ定義された、すなわち標的されたゲノム座においてヌクレオチドの付加、欠失又は変換をもたらすことになるゲノム編集の方法は、ゲノムの、例えば既存の遺伝子における的確な修飾を可能にする。
【0006】
文献に記述されている、標的化ゲノム編集の大部分は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用して実行されてきた。ZFNを使用して、広範囲にわたる生物及び細胞型において内在性遺伝子が修飾されてきた。点突然変異、欠失、挿入、転移、複製及び転座を含めいくつかの型のゲノム改変がZFNにより導入され得、したがって、遺伝子操作を実行するために先例のないツールを研究者に提供する。
【0007】
より近年、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が、ZFNに代わるものとしてゲノム編集及び標的化二本鎖切断(DSB)導入、すなわちDNA二重鎖の両方の鎖が切断される、のために急速に出現してきた。TALENはZFNと類似しており、カスタマイズ可能なDNA結合ドメインに融合された非特異的FokIヌクレアーゼドメインを含む。カスタマイズ可能なDNA結合ドメインは、キサントモナス(Xanthomonas)細菌によって分泌されて宿主植物細胞中で遺伝子の転写を改変するタンパク質である転写活性化因子様エフェクター(TALE)から得られる高度に保存された反復で構成されている。
【0008】
より詳細には、TALEは、いくつかの反復するタンパク質ドメインからなり、ドメインのそれぞれは、4種のDNAヌクレオチド(A、T、G、C)のうち1つを特異的に認識し、そのヌクレオチドに結合することができる。各ヌクレオチドに特異的なドメインが同定されており、任意のDNA配列に高い結合親和性を有する特異的なドメインの列が作製され得る(Christian、2010年、Genetics 186:757~761頁;Cermakら、2011年、Nucleic Acids Res 39:e82頁;Bogdanove及びVoytas、2011年、Science 333:1843~1846頁;Boch、2011年、Nature Biotechnology 29:135~136頁)。特異的なドメインの列を、FokIのヌクレアーゼドメインに次いで融合して、TALENを作出し、ZFNと同様に2つのTALENタンパク質を使用して標的DNA二重鎖にDNA DSBを誘導する。いくつかの論文が、標的配列において突然変異を作出するためのTALENの使用について記述している(Curtin[2012年]The Plant Genome、5、42~50頁)。Joungら(Nat Rev Mol Cell Biol.[2013年]14[1]:49~55頁、doi:10.1038/nrm3486A)は、標的化ゲノム編集においてTALENを利用する様々な技術について概説し、比較した。
【0009】
近年、標的化ゲノム編集の新規の別の方法が報告された。CRISPR(クラスター化された規則的な間隔のパリンドローム様短反復)(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)は、複数の短い直列反復を含有する座であり、配列決定された細菌の40%及び配列決定された古細菌の90%に見出される。
【0010】
CRISPR反復は、バクテリオファージ及びプラスミドなどの遺伝的病原体に対する後天性細菌免疫系を形成する。細菌が病原体に攻撃されると、病原体ゲノムの小片がCRISPR関連タンパク質(Cas)によってプロセッシングされ、CRISPR反復間で細菌ゲノムに組み込まれる。CRISPR座は次いで転写され、プロセッシングされて、病原体ゲノムと同一のおよそ30ヌクレオチドの配列を含むいわゆるcrRNAを形成する。これらRNA分子は、その後の感染に対する病原体の認識の基礎を形成し、RNAi様の過程又は病原体ゲノムの直接消化のいずれかにより病原体遺伝的エレメントのサイレンシングを導く。
【0011】
細菌及び古細菌適応免疫のCRISPR-Cas系は、タンパク質組成物及びゲノム座構造の大きな多様性を示す。CRISPR-Cas系は、50種以上の遺伝子ファミリーを有し、座構造の速い進化及び大きな多様性を示す厳密に普遍的な遺伝子が存在しない。Cas9タンパク質は、II型CRISPR/Cas系のCasタンパク質の一例であり、crRNA及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)と称される第2のRNAと組み合わさるとエンドヌクレアーゼを形成し、エンドヌクレアーゼは、侵入病原体DNAを標的して、crRNAによって定義される病原体ゲノム中の位置でDNA二本鎖切断(DSB)を導入することにより分解する。Jinekら(2012年、Science 337:816~820頁)は、crRNA及びtracrRNAの必須部分を融合することにより作製される一本鎖キメラガイドRNA(本明細書において「sgRNA」)が、Casタンパク質と組み合わさって機能エンドヌクレアーゼを形成できることを実証した。
【0012】
CRISPR/CAS9系の次に、新たなCRISPR/CAS系である、プレボテラ及びフランシセラ1由来のクラスター化された規則的な間隔のパリンドローム様短反復又はCRISPR/Cpf1が、最近記述された。Cpf1遺伝子は、CRISPR座と関係しており、crRNAを使用してDNAを標的とするエンドヌクレアーゼをコードする。Cpf1は、Cas9より小さく、より単純なエンドヌクレアーゼであり、CRISPR/Cas9系の制約のいくつかを克服できる。Cpf1は、tracrRNAを欠く単一RNA誘導型エンドヌクレアーゼであり、Tに富んだプロトスペーサー隣接モチーフを活用する。Cpf1は、突出したDNA二本鎖切断によりDNAを開裂する(Zetscheら[2015年]Cell 163[3]:759~771頁)。
【0013】
標的化DNA改変の機序を理解する上でのこれら最近の進歩にもかかわらず、植物材料における標的化改変は、今なお必ずしも成功していない又は効果的でない。実際、利用可能な方法は、動物、特にヒト細胞材料用としてしばしば最適化されており、植物細胞に特別に適用した場合、必ずしも成功しない又は効果的でない。加えて、先行技術の方法は、遺伝的に操作された生物をもたらすが、一部の実施形態において、遺伝的に操作された生物は植物分野において好ましくない。したがって、植物細胞を提供する新たな方法であって、標的化改変が、植物細胞用として特別に設計された系及びプロトコールにより導入される方法が必要である。植物細胞におけるDNAの標的化改変の方法は、好ましくは、当該技術分野で公知の方法と比較して様々な植物細胞において適当な効率で成功裏に適用され得る。
【0014】
これを考慮すると、植物細胞におけるDNAの標的化改変、並びに標的化改変が導入された植物細胞及び植物を提供する新たな方法が、非常に望ましくなる。特に、植物細胞のDNA分子の効果的な標的化改変を可能にする信頼性が高く、効果的で、再現性があり、特に標的化される方法が、当該技術分野において明白に必要である。したがって、本発明の根底にある技術的問題は、上述した必要性のいずれも満たす方法の提供に見ることができる。技術的問題は、請求項及び下記の開示において特徴付けられる実施形態により解決される。
【0015】
(発明の概要)
第1の態様において、本開示は、植物における二重鎖DNAの標的化改変の方法であって、二重鎖DNAの第1のDNA鎖が標的配列を含み、二重鎖DNAの第2のDNA鎖が標的配列に相補的な配列を含み、
(a)前記二重鎖DNAを含む植物細胞又は植物プロトプラストを用意する工程と;
(b)前記細胞又はプロトプラスト中の前記二重鎖DNAを:
Cpf1タンパク質;及び
標的配列を含む二重鎖DNAの部位に前記Cpf1タンパク質を標的とするためのガイド配列を含むcrRNA
に曝露する工程とを含む方法を提供する。
【0016】
前記二重鎖DNAは、植物プロトプラストに前記Cpf1の一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記Cpf1に曝露されてもよい。
【0017】
前記二重鎖DNAは、植物プロトプラストに前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記crRNAに曝露されてもよい。
【0018】
一実施形態において、前記二重鎖DNAは、植物プロトプラストに前記Cpf1及び前記crRNAの一過性発現のための核酸構築物を導入することによって前記Cpf1及びcrRNAに曝露される。
【0019】
一実施形態において、前記crRNAをコードしているヌクレオチド配列は、pol IIIプロモーターに作動可能に連結される。
【0020】
一実施形態において、前記Cpf1の一過性発現のための前記構築物は、構成的35Sプロモーターに作動可能に連結されているCpf1をコードしているヌクレオチド配列を含む。
【0021】
一実施形態において、工程(b)において二重鎖DNAは、ポリエチレングリコール媒介トランスフォーメーションを使用して前記Cpf1及びcrRNA又はこれらをコードしている核酸構築物を導入することにより前記Cpf1及びcrRNAに曝露される。
【0022】
好ましい実施形態において、Cpf1をコードしているヌクレオチド配列は、植物細胞又は植物プロトプラストにおける発現のためにコドン最適化される。
【0023】
一実施形態において、本明細書に教示される方法は、好ましくは工程(b)を実行する前及び/又は実行する間に、細胞若しくはプロトプラストの細胞周期の期を同期させる工程をさらに含み、好ましくは同期が、細胞若しくはプロトプラストを同期薬剤と接触させることにより実行される。
【0024】
一実施形態において、細胞期を同期させる工程は、細胞周期のS期、M期、G1及び/又はG2期においてプロトプラストを同期する。
【0025】
一実施形態において、2つ以上のcrRNAが使用される。
【0026】
一実施形態において、少なくとも1つの標的化改変が二重鎖DNAに導入され、好ましくは、改変は少なくとも1つの塩基対の挿入、欠失又は修飾を含む。
【0027】
一実施形態において、改変は、少なくとも1つの塩基対の欠失及び少なくとも1つの塩基対の挿入を含む。
【0028】
一実施形態において、少なくとも1つの標的化改変は、二対立遺伝子(biallelic)である。
【0029】
一実施形態において、本明細書に教示される方法は、植物プロトプラストから植物細胞又は植物を再生する工程をさらに含み、植物細胞、植物又はその植物の後代は、少なくとも1つの標的化改変を含む。
【0030】
最終的に、本開示は、本明細書に教示される方法によって入手できる植物、植物部分、種子又は植物細胞を教示し、植物、植物部分、種子又は植物細胞は、対照植物、植物部分、種子又は植物細胞と比較して修飾されており、前記対照植物、植物部分、種子又は植物細胞は、少なくとも1つの標的化改変が本明細書に教示される方法によって導入される前の植物、植物部分、種子又は植物細胞である。
【0031】
定義
本発明の方法、組成物、使用及び他の態様に関して様々な用語が、明細書及び請求項の全体を通じて使用される。そのような用語は、別段の指示がない限り、本発明が属する技術分野における通常の意味を与えられることになる。他の特別に定義された用語は、本明細書に提供される定義と整合した様式で解釈されるべきである。本明細書に記述される類似又は同等の任意の方法及び材料が、本発明の試験の実施に使用され得るが、好ましい材料及び方法については、本明細書に記述される。
【0032】
単数用語、「a」、「an」及び「the」は、文脈に別段の明確な指図がない限り複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞、等の組合せを含む。
【0033】
用語「及び/又は」とは、記載された事例のうちの1つ若しくは複数が、単独で又は記載された事例の少なくとも1つ、最高で記載された事例の全てと組み合わさって起こり得る状況のことを指す。
【0034】
用語「含む(comprising)」は、包括的であり、制約がなく、排他的でないものと解釈される。特に、本用語及びその変形は、指定された特徴、工程又は成分が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、工程又は成分の存在を除外すると解釈されるべきでない。
【0035】
用語「キメラ遺伝子」とは、種において天然に通常見られない任意の遺伝子、特に核酸配列の1つ又は複数の部分が、天然において互いに関係していない遺伝子のことを指す。例えば、プロモーターは、転写される領域の一部若しくは全部又は別の調節性領域と天然において関係していない。用語「キメラ遺伝子」は、プロモーター又は転写調節配列が、1つ若しくは複数のコード配列に作動可能に連結されている発現構築物を含むと理解される。
【0036】
「コドン最適化した」:この用語は、第1の生物(例えばバクテリア)の核酸のコドンの1つ又は複数を、第2の異なる生物(例えば植物)においてより高頻度に使用されるコドンで置きかえ(複数可)て、第2の生物における(遺伝子)発現に適応させ、最適化することを指す。
【0037】
「構築物」又は「核酸構築物」又は「ベクター」:これは、組換えDNA技術を使用した結果得られる人工核酸分子のことを指し、しばしば構築物に含まれるDNA領域を宿主細胞中で発現させる目的で使用して、宿主細胞に外来性DNAを送達する。構築物のベクター骨格は、例えば、(キメラ)遺伝子が組み込まれるプラスミドであってもよく、又は適切な転写調節配列(例えば[誘導可能な]プロモーター)がすでに存在する場合、所望の核酸配列(例えばコード配列)だけが、転写調節配列の下流に組み込まれる。ベクターは、分子クローニングにおける使用を助けるために、例えば選択可能なマーカー、多重クローニング部位、等などさらなる遺伝的エレメントを含んでもよい。
【0038】
「発現」:これは、適当な調節性領域、特にプロモーターに作動可能に連結されているDNA領域が、タンパク質又はペプチドに翻訳される能力があるRNAに転写される過程のことを指す。
【0039】
「植物」:これは、植物細胞、植物プロトプラスト、植物が再生され得る植物細胞組織培養、植物カルス、植物凝集塊、及び胚、花粉、胚珠、種子、葉、花、枝、果実、仁、穂、トウモロコシ穂軸、殻、茎、根、根端、葯、穀物、等など植物又は植物の部分において完全である植物細胞を含む。植物の非限定的な例には、作物、並びにオオムギ、キャベツ、カノーラ、カッサバ、カリフラワー、チコリ、綿、キュウリ、ナス、ブドウ、トウガラシ、レタス、トウモロコシ、メロン、アブラナ、ジャガイモ、カボチャ、米、ライ麦、モロコシ、スカッシュ、サトウキビ、テンサイ、ヒマワリ、アマトウガラシ、トマト(例えばソラヌムリコペルシクム[Solanum lycopersicum])、スイカ、小麦及びズッキーニなどの栽培植物がある。
【0040】
「配列」又は「核酸配列」:これは、核酸又は核酸中のヌクレオチドの順序のことを指す。換言すれば、核酸中のヌクレオチドの任意の順序は、核酸配列の配列と呼ばれてもよい。同様に、「標的配列」は、標的しようとする、すなわち改変を導入しようとする核酸中のヌクレオチドの順序を意味することになる。本発明の文脈の範囲において、第1の核酸配列は、さらなる核酸配列に含まれても又は重なってもよい。例えば、標的配列は、DNA二重鎖の第1の鎖に含まれるヌクレオチドの順序である。
【0041】
「ガイド配列」は、標的配列にガイドRNAを標的とするためのガイドRNA(好ましくはcrRNA又はsgRNAである)の区画として本明細書において理解されるべきである。
【0042】
CRISPR複合体の形成の文脈において、用語「標的配列」とは、ガイド配列が標的し、例えば相補性を有するように設計される、配列のことを指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。ガイドRNAは、tracrRNA配列を含むsgRNA(例えばCas9の場合)又はtracrRNA配列を欠くcrRNA(例えばCpf1の場合)でもよい。標的配列は、DNA又はRNAポリヌクレオチドなど任意のポリヌクレオチドを含んでもよく、対象の標的座内に含まれる。一部の実施形態において、標的配列は、細胞の核又は細胞質に位置する。標的配列は、任意のDNA又はRNA配列であってもよい。一部の実施形態において、標的配列は、メッセンジャーRNA(mRNA)、mRNA前駆体、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ノンコーディングRNA(ncRNA)、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)及び低分子量細胞質RNA(scRNA)からなる群から選択されるRNA分子内の配列であってもよい。一部の好ましい実施形態において、標的配列は、mRNA、mRNA前駆体及びrRNAからなる群から選択されるRNA分子内の配列であってもよい。一部の好ましい実施形態において、標的配列は、ncRNA及びlncRNAからなる群から選択されるRNA分子内の配列であってもよい。一部のさらに好ましい実施形態において、標的配列は、mRNA分子又はmRNA前駆体分子内の配列であってもよい。
【0043】
一部の実施形態において、ガイド配列は、長さ約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75若しくはより多い、又はより多いヌクレオチドである。一部の実施形態において、ガイド配列は、長さ約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12未満、又はより少ないヌクレオチドである。ガイド配列は、10~30又は15~25ヌクレオチド長であることが好ましい。
【0044】
本明細書では「核酸-標的化複合体」又は「CRISPR複合体」という用語は、標的配列とハイブリダイズし、1つ又は複数のCpf1タンパク質と複合体形成したガイドRNAの複合体のことを指す。核酸-標的化複合体の形成により、標的配列中若しくは近く(標的配列から例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50個以内、又はより多くの塩基対)にあるDNA又はRNA鎖両方の開裂が生じる。本明細書では、用語「対象の標的座と関連する配列(複数可)」とは、標的配列周辺近くの配列のことを指す(例えば、標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50個以内、又はより多くの塩基対であり、標的配列は、対象の標的座に含まれる)。
【0045】
(発明の詳細な説明)
第1の態様において、本開示は、植物における二重鎖DNAの標的化、例えば対象の標的座における、改変方法であって、
二重鎖DNAの第1のDNA鎖が標的配列を含み、二重鎖DNAの第2のDNA鎖が標的配列に相補的な配列を含み、
(a)前記二重鎖DNAを含む植物細胞又は植物プロトプラストを用意する工程と;
(b)前記プロトプラスト中の前記二重鎖DNAを
Cpf1タンパク質;及び
二重鎖DNAの部位、例えば、標的配列を含む対象の標的座に前記Cpf1を標的とするためのガイド配列を含むガイドRNA(crRNA)
に曝露する工程とを含む、方法を提供する。
【0046】
一実施形態において、標的化改変は、二本鎖切断などの鎖切断の導入を含む。
【0047】
二重鎖DNAは、対象の標的座に存在してもよい。二重鎖DNAは、細胞内のDNA分子に含まれてもよい。細胞は、植物細胞又は植物プロトプラストであってもよい。植物細胞又は植物プロトプラストは、単子葉植物若しくは双子葉植物などの作物又はカッサバ、トウモロコシ、モロコシ、ダイズ、小麦、オート麦若しくは米などの作物若しくは穀物植物のものであってもよい。植物細胞は、藻、木若しくは生産植物、果実又は野菜(例えば、柑橘類の木、例えば、オレンジ、グレープフルーツ若しくはレモンの木などの木;桃若しくはネクタリンの木;リンゴ若しくは西洋ナシの木;アーモンド若しくはクルミ若しくはピスタチオの木などの堅果樹;ナス科の植物;アブラナ属の植物;アキノノゲシ属の植物;ホウレンソウ属の植物;トウガラシ属の植物;ナス属の植物;綿、タバコ、アスパラガス、ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、トマト、ナス、コショウ、レタス、ホウレンソウ、イチゴ、ブルーベリー、キイチゴ、ブラックベリー、ブドウ、コーヒー、ココア、等)のものであってもよい。植物細胞は、ソラヌムリコペルシクム植物細胞であることが好ましい。
【0048】
本発明は、対象の標的座を修飾する方法を提供し、本方法は、前記座にCpf1タンパク質及び1つ若しくは複数の核酸成分、例えばcrRNAを含む天然に存在しない又は操作された組成物を送達する工程を含み、Cpf1タンパク質は、1つ又は複数の核酸成分と複合体を形成し、対象の座に前記複合体が結合すると即座にCpf1タンパク質が対象の標的座の修飾を誘導する。好ましい実施形態において、修飾は二本鎖切断の導入である。
【0049】
対象の標的座は、対象のゲノム又はエピゲノム座であってもよい。複合体は、多重化された使用のために複数のcrRNAで送達されてもよい。複数のCpf1タンパク質(複数可)が使用されてもよい。異なるPAM配列を認識する相同分子種又は操作されたCpf1タンパク質を含めて、任意のCpf1タンパク質が使用されてもよい。
【0050】
本発明によると、植物細胞が、部位特異的ヌクレアーゼ、一本鎖オリゴヌクレオチド、及び一部の実施形態においてガイドRNA(crRNA)へのDNA二重鎖の曝露を可能にしさえすれば、任意の型の植物細胞が、本方法に使用されてもよい。しかしながら、好ましい実施形態において、植物細胞は、植物プロトプラストである。当業者は、植物プロトプラストを調製し、増殖させる方法及びプロトコールを知っている、例えばPlant Tissue Culture(ISBN:978-0-12-415920-4、Roberta H.Smith)を参照のこと。本発明の方法に使用する植物プロトプラストは、植物細胞プロトプラストの生成に使用される一般的な手順(例えばセルラーゼ及びペクチナーゼを使用する)を使用して用意することができる。
【0051】
植物細胞プロトプラスト系については、例えばトマト、タバコ及びさらに多く(セイヨウアブラナ[Brassica napus]、ダウカスカロタ[Daucus carota]、ラクツカサティバ[Lactucca sativa]、ゼアマイズ[Zea mays]、ニコチアナベンサミアナ[Nicotiana benthamiana]、ペチュニアハイブリダ[Petunia hybrida]、ソラヌムツベロスム[Solanum tuberosum]、オリザサティバ[Oryza sativa])について記述されている。本発明は、それだけには限らないが、以下の参照:Barsbyら、1986年、Plant Cell Reports5(2):101~103頁;Fischerら、1992年、Plant Cell Rep.11(12):632~636頁;Huら、1999年、Plant Cell,Tissue and Organ Culture 59:189~196頁;Niedzら、1985年、Plant Science 39:199~204頁;Prioli及びSondahl、1989年、Nature Biotechnology 7:589~594頁;S.Roest及びGilissen 1989年、Acta Bot.Neerl.38(1):1~23頁;Shepard及びTotten、1975年、Plant Physiol. 55:689~694頁;Shepard及びTotten、1977年、Plant Physiol.60:313~316頁のいずれか1つに記述される系を含めた任意のプロトプラスト系に一般に適用でき、上記文献を参照により本明細書に組み込む。
【0052】
Cpf1タンパク質は、当該技術分野で公知の又はまだ発見されていない任意のCpf1タンパク質であってもよい。一実施形態において、Cpf1タンパク質は、アシダミノコッカス属のCpf1タンパク質又はアシダミノコッカス属から得られるCpf1タンパク質であってもよい。前記アシダミノコッカス属Cpf1タンパク質又はアシダミノコッカス属から得られる前記タンパク質は、植物における発現のためにコドン最適化されてもよい。当業者は、植物における外来タンパク質のコドン最適化発現の方法によく精通している。
【0053】
一実施形態において、前記Cpf1タンパク質は、図1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、又は図1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%など少なくとも70%配列同一性を有するそのバリアントである。
【0054】
本発明の方法の好ましい実施形態において、二重鎖DNAは、植物細胞においてCpf1タンパク質を発現させるための核酸構築物を植物細胞に導入することによりCpf1タンパク質に曝露される。
【0055】
本発明の方法は、植物細胞にCpf1タンパク質を導入する特定の方法に左右されない。一部の実施形態において、Cpf1タンパク質は、ポリペプチドとして植物細胞に提供され、ポリペプチドは、植物細胞内部に取り込まれる。
【0056】
他の実施形態において、Cpf1タンパク質は、植物細胞においてCpf1タンパク質を発現させるための核酸構築物、すなわちポリヌクレオチドを植物細胞に導入することにより用意される。そのような核酸構築物は、当該技術分野で公知の任意の適切な構築物であってもよく、宿主細胞中で構築物に含まれるDNA領域(ここではCpf1遺伝子)を発現させる目的で使用して、宿主細胞に外来性DNAを送達する。
【0057】
Cpf1タンパク質又は同一のものをコードしている核酸構築物の導入は、植物細胞へのタンパク質若しくは核酸構築物の良好な導入を可能にし、核酸構築物の場合に、導入された核酸の発現をもたらす任意の公知の方法により達成されてもよい。方法には、それだけには限らないが、トランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション及びリポフェクションなどの方法がある。
【0058】
crRNAは、また、任意の適切な方法により植物細胞に導入されてもよい。例えば、crRNAは、植物細胞に、直接、又は好ましい実施形態において、植物細胞においてcrRNAを発現させるための核酸構築物を植物細胞に導入することにより用意されてもよい。
【0059】
そのような核酸構築物は、当該技術分野で公知の任意の適切な構築物であってもよく、宿主細胞中で構築物に含まれるDNA領域(ここではcrRNA)を発現させる目的で使用して、宿主細胞に外来性DNAを送達する。
【0060】
crRNA又は同一のものをコードしている核酸構築物の導入は、植物細胞へのcrRNA若しくは核酸構築物の良好な導入を可能にし、核酸構築物の場合に、導入されたcrRNAの発現をもたらす任意の公知の方法により達成されてもよい。方法には、それだけには限らないが、トランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション及びリポフェクションなどの方法がある。
【0061】
Cpf1タンパク質及びcrRNAは、植物細胞においてCpf1タンパク質及びcrRNA両方を発現させるための核酸構築物を使用して植物細胞に導入されることが好ましい。これらの実施形態において、しかしながら、部位-Cpf1タンパク質をコードしている核酸配列及びcrRNAをコードしている核酸配列は、異なるプロモーターの制御下にあることが好ましい。
【0062】
例えば、crRNAは、好ましくは植物における発現の場合、好ましくはpol IIIプロモーター(例えばU6及びH1)の制御下にあり、すなわちそれに作動可能に連結されてもよく;U6及びH1などのRNA pol IIIプロモーターは、これら小さいRNAを発現するために一般的に使用される(例えばMaら、Molecular Therapy Nucleic Acids[2014年]3[e161]を参照のこと)。
【0063】
例えば、好ましくは、Cpf1タンパク質は、植物における発現の場合、好ましくは35Sプロモーターなどの構成的プロモーターの制御下であってもよい(例えば、カリフラワーモザイクウイルスから起用した35S[CaMV;Odellら、Nature 313:810~812頁;1985年])。他の適切な構成的プロモーターには、カッサバ葉脈モザイクウイルス(CsVMV)プロモーター及びサトウキビ稈菌状バドゥナウイルス(ScBV)プロモーター(例えば、Samacら、Transgenic Res.2004年8月;13[4]:349~61頁を参照のこと)があるが、これに限定されない。他の構成的プロモーターには、例えば、Rsyn7プロモーターのコアプロモーター及び国際公開第99/43838号及び米国特許第6072050号に開示される他の構成的プロモーター;ユビキチン(Christensenら、Plant Mol.Biol.12:619~632頁、1989年及びChristensenら、Plant Mol.Biol.18:675~689頁、1992年);pEMU(Lastら、Theor.Appl.Genet.81:581~588頁、1991年);AA6プロモーター(国際公開第2007/069894号);等がある。
【0064】
核酸構築物は、また、転写終結領域を含んでもよい。転写終結領域が使用される場合、任意の終結領域が、核酸構築物の調製物に使用されてもよい。
【0065】
好ましい実施形態において、核酸構築物は、一過性発現用である。換言すれば、植物材料における発現は、核酸構築物の非永続的存在ゆえに一時的である。例えば、構築物が宿主ゲノムに組み込まれない場合、発現は一過性であり得る。例えば、Cpf1タンパク質及びcrRNAは、植物細胞に一過性に提供され、その後一方又は両方の成分の量が低下してもよい。その後、二重鎖DNAが改変された植物細胞、植物細胞の後代、及び植物細胞を含む若しくは植物プロトプラストから得られる植物は、本発明の方法で使用される成分の一方若しくは両方の減少した量を含み、又は成分の1つ若しくは複数をもはや含有しない。
【0066】
本方法及び本明細書に開示される好ましい実施形態のいずれかと組み合わせて、核酸構築物は、形質転換された植物における発現を増大させるために最適化されてもよい。
【0067】
本実施形態において、Cpf1タンパク質をコードしている核酸配列が、植物細胞における発現のためにコドン最適化される本発明の方法が提供される。例えば、Cpf1タンパク質をコードしている核酸配列は、トマトにおける発現のためにコドン最適化されてもよく、前記トマトは、好ましくはソラヌムリコペルシクムである。
【0068】
すなわち、Cpf1タンパク質をコードしている核酸構築物は、発現を改善するために植物に望ましいコドンを使用して合成され得る。宿主に望ましいコドン使用頻度の考察については、例えば、Campbell及びGowri、Plant Physiol.92:1~11頁(1990年)を参照のこと。植物に望ましい遺伝子を合成するための方法は、当該技術分野で利用可能である(例えばMurrayら、Nucleic Acids Res.[1989年]17:477~498頁、又はLanzaら[2014年]BMC Systems Biology 8:33~43頁を参照のこと)。
【0069】
植物細胞へのCpf1タンパク質、crRNA、並びに/又は該当する場合には、Cpf1タンパク質及び/若しくはcrRNAをコードしている核酸構築物の導入は、植物細胞へのそれらの良好な導入を可能にし、核酸構築物の場合に、導入されたCpf1タンパク質及び/若しくはcrRNAの発現をもたらす任意の公知の方法により達成されてもよい。方法には、それだけには限らないが、トランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション及びリポフェクションなどの方法がある。
【0070】
しかしながら、好ましい実施形態において工程(b)において二重鎖DNAが、ポリエチレングリコール媒介トランスフォーメーションを使用して植物細胞若しくは植物プロトプラストにCpf1タンパク質及びcrRNA又はこれらをコードしている核酸構築物を導入することによりCpf1タンパク質及びcrRNAに曝露される本発明の方法が提供される。
【0071】
ポリエチレングリコール(PEG)は、工業生産から医学まで用途の多いポリエーテル化合物である。PEGは、ポリエチレンオキシド(PEO)又はポリオキシエチレン(POE)としても公知である。PEGの化学構造は、一般的にH-(O-CH2-CH2)n-OHと表示される。本発明による方法に使用されるPEGは、20000g/mol未満の分子量を持つオリゴマー及び/若しくはポリマー又はその混合物であることが好ましい。PEG媒介遺伝子トランスフォーメーションは、1985年以降公知であった。植物プロトプラストトランスフォーメーションの最初の方法は、PEGを活用した(Krensら[1982年]Nature 296:72~74頁;Potyrykusら[1985年]Plant MoI.Biol.Rep.3:117~128頁;Negrutiuら[1987年]Plant Mol.Biol.8:363~373頁)。本技術は、多くの異なる植物由来のプロトプラストに適用できる(Rasmussenら[1993年]Plant Sci.89:199~207頁)。PEGは、二価陽イオンの存在下で植物プロトプラストの表面上へDNAを沈殿させることによりトランスフォーメーションを刺激し、次いでそこからDNAが内部に取り込まれると考えられている(Maas及びWerr[1989年]Plant Cell Rep.8:148~151頁)。好ましい実施形態において、400g/L PEG4000及び0.1M Ca(NOを含む溶液が、トランスフォーメーションに使用される。
【0072】
しかしながら、これまで、植物細胞若しくは植物プロトプラストにCpf1タンパク質及び/若しくはcrRNA、又はCpf1タンパク質並びにcrRNAの一方若しくは両方をコードしている核酸構築物を導入するための本発明の方法におけるPEGトランスフォーメーションの使用は、提唱されてこなかった。
【0073】
一実施形態において、Cpf1タンパク質発現プラスミドのcrRNA発現プラスミドに対する質量比は、0.5~10、又は0.75:5など0.1:20の範囲、より好ましくは1:3の範囲、さらにより好ましくは、約1:2など1.5:2.5の範囲である。
【0074】
一実施形態において、少なくとも0.5μg、少なくとも1μg、少なくとも5μg、又は少なくとも10μgなど少なくとも0.1μgのCpf1発現プラスミドが、使用される。
【0075】
一実施形態において、少なくとも0.5μg、少なくとも1μg、少なくとも5μg、又は少なくとも10μgなど少なくとも0.1μgの前記Cpf1発現プラスミドが、明細書に教示される適当な質量範囲でcrRNA発現プラスミドと組み合わせられ、Cpf1発現プラスミド及びcrRNa発現プラスミドの前記組合せは、10000~10000000個、好ましくは約50000~5000000個、より好ましくは約100000~1000000個、例えば約500000個の植物細胞又は植物プロトプラストと組み合わせられる。
【0076】
一実施形態において、植物細胞又は植物プロトプラストは、容積約500μlで存在してもよい。一実施形態において、植物細胞/植物プロトプラスト(Cpf1タンパク質/crRNAを含む)と好ましくは400g/L PEG4000及び0.1M Ca(NOを含む溶液であるPEG溶液の容積比は、1:0.5~1:1.5の範囲、好ましくは約1:1である。
【0077】
一実施形態において、PEGトランスフェクションは、15~40分間など10~60分間の範囲内の期間、好ましくは約20分間起こさせておいてもよい。
【0078】
その後、0.2~0.4M、又は約0.275Mなど0.1~0.6M Ca(NO溶液が、上に教示されるトランスフェクション溶液に添加されてもよい。上に教示されるトランスフェクション溶液の約10倍など約8~12倍容積が、遠心分離によって回収される前に使用され得ることが好ましい。
【0079】
別の実施形態によると、本発明に記載の方法が提供され、前記方法は、好ましくは工程(b)を実行する前及び/又は実行する間に、植物細胞の細胞周期を同期させる工程を含み、好ましくは同期が、植物細胞を同期薬剤と接触させることにより実行される。
【0080】
植物細胞の細胞周期を同期させるこのような方法は、欧州特許第2516652号に詳述されており、参照により本明細書に組み込む。より具体的には、植物細胞、例えば、植物プロトプラストを同期させる工程は、本発明のある特定の実施形態において二重鎖DNAにおける改変の導入の有効性をさらに増強するのに有利であり得る。したがって、ある特定の実施形態において、本方法は、植物細胞の細胞周期を同期させる工程を含む。
【0081】
同期は、工程(b)を実行する前及び/又は実行する間に実行されることが好ましい。同期が工程(b)の前に実行される場合、二重鎖DNAが、例えば本明細書に定義されるCpf1タンパク質及び/又はcrRNAに曝露されるときに大部分の植物細胞は、同じ期の細胞周期になる。このことは、有利であり、二重鎖DNAにおける改変の導入の率を増大させ得る。また、植物細胞が工程(b)の間に同期される場合、これは、二重鎖DNAにおける改変の導入全体を増大させ得る。
【0082】
植物細胞を同期させることは、任意の適切な手段により達成されてもよい。例えば、細胞周期の同期は、リン酸飢餓、硝酸塩飢餓、イオン飢餓、血清飢餓、スクロース飢餓、オーキシン飢餓などの栄養欠乏により達成されてもよい。同期は、植物細胞に同期薬剤を添加することによっても達成され得る。
【0083】
アフィジコリン、水酸化尿素、チミジン、コルヒチン、コブトリン、ジニトロアニリン、ベネフィン、ブトラリン、ジニトラミン、エタルフルラリン、オリザリン、ペンディメタリン、トリフルラリン、アミプロホスメチル、ブタミホスジチオピル、チアゾピルプロピザミド、テブタムDCPA(クロルタールジメチル)、ミモシン、アニソマイシン、αアマニチン、ロバスタチン、ジャスモン酸、アブシジン酸、メナジオン、クリプトゲイン、過酸化水素、過マンガン酸ナトリウム、インドメタシン、エポキソマイシン、ラクタシスチン、icrf193、オロモウシン、ロスコビチン、ボヘミン、スタウロスポリン、K252a、オカダ酸、エンドタール、カフェイン、MG132、サイクリン依存的キナーゼ及びサイクリン依存的キナーゼ阻害剤などの同期薬剤、及び同期薬剤の標的メカニズム、量及び濃度並びに同期薬剤と関連する細胞周期の期については、例えば、「Flow Cytometry with plant cells」J.Dolezel c.s.編、Wiley-VCH Verlag 2007年 327ff頁に記述されている。アフィジコリン及び/又は水酸化尿素に優先傾向が存在する。
【0084】
本発明の方法において、細胞周期を同期させることは、植物細胞を細胞周期のS期、M期、G1及び/又はG2期に同期させることが好ましい。
【0085】
別の優先傾向によると、本発明の方法において、2つ以上のcrRNAが使用される。2つ若しくは複数のcrRNAが、DNA二重鎖中の同じ部位又は異なる部位に(例えば複数の二本鎖切断を導入するために)Cpf1タンパク質を仕向けてもよい。
【0086】
別の優先傾向によると、本明細書において上ですでに述べた通り、Cpf1タンパク質及びcrRNAは、植物細胞内で一過性に発現される。
【0087】
本明細書に教示される本方法により、植物プロトプラスト中の二重鎖DNAに改変を導入する。標的化改変は、少なくとも1つの塩基対の挿入、欠失又は修飾を含んでもよい。例えば、標的化改変は、少なくとも1つの塩基対の欠失及び少なくとも1つの塩基対の挿入を含んでもよい。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はより多くの塩基対が、本発明の方法により改変されてもよい。複数の修飾は、一回の実験で導入されてもよく、及び/又は実験を繰り返して植物細胞の二重鎖DNAにその後改変を導入してもよい。
【0088】
本発明の別の実施形態によると、本方法は、植物又は標的化改変を含む子孫を再生させる工程をさらに含む。当業者は、植物プロトプラストから植物を再生する方法及びプロトコールを承知している。再生された植物の後代、子孫、バリアント及び変異体も、これらの部分が本明細書に教示される方法により導入された標的化改変を含むならば、本発明の範囲に含まれる。
【0089】
最終的に、本発明の方法によって得られる植物、植物部分、種子又は植物細胞が提供され、対照植物、植物部分、種子又は植物細胞と比較した場合に、植物、植物部分、種子又は植物細胞が、標的化改変を含むことにより修飾されており、対照植物、植物部分、種子又は植物細胞は、標的化改変が本明細書に教示される方法によって導入される前の植物、植物部分、種子又は植物細胞である。
【0090】
本発明について今、全般的に記述したが、同じことが図解として提供され、本発明を限定することを意図しない以下の例への言及によってより直ちに理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】6×Hisドメインに下線を引き、NLS配列を太字体で示したCpf1-His-NLSのタンパク質配列、及びCpf1-His-NLS ORFのヌクレオチド配列を示す図である。
図2】実施例の節において使用したcrRNA及びsgRNAの配列を示す図である。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)U6プロモーターの配列に下線を引く。標的遺伝子から得られる配列を太字体で示し、crRNA又はsgRNAの残りをイタリック体で示す。
図3】Cpf1又はCas9で処理したトマトプロトプラストに見出される挿入欠失(indel)の定量化を示す図である。Cpf1 crRNA1及びCas9 sgRNAは、同じ標的配列でindelを生成し、一方Cpf1 crRNA2は、代わりの位置でindelを作出する。対照サンプルは、対応する標的化RNAを発現するプラスミドなしでCpf1又はCas9発現プラスミドだけでトランスフェクトしたプロトプラストから得た。
図4】トマトPDS1遺伝子においてCpf1/crRNA1 PDS1及びCpf1/crRNA2 PDS1試薬で生成されたindel突然変異を示す図である。
図5】Cpf1タンパク質及びcrRNAで処理したプロトプラストから得られたカルスの遺伝子型判定を示す図である。パネルA:Cpf1タンパク質及びcrRNA1 PDS1で処理したプロトプラストから得られたカルスからのPCR産物を、制限酵素XhoIで次いで消化した。制限酵素XhoIは、PCR産物の中央で切断し、アガロースゲルで分離されない非常によく似たサイズの消化産物を2つ作製する。パネルB:Cpf1タンパク質及びcrRNA2 PDS1で処理したプロトプラストから得られたカルスからのPCR産物を、制限酵素Sau3AIで次いで消化した。制限酵素Sau3AI酵素は、PCR産物から100bpの断片を除去する。
【実施例
【0092】
実施例1
構築物
バクテリアアシダミノコッカス種BV3L6由来Cpf1 ORFを、ソラヌムリコペルシクムにおける発現のためにコドン最適化し、NLS及び6×His配列をC末端に付加した(図1)。前記修飾されたCpf1 ORFを、GatewayエントリーベクターpDONR221中に次いで合成した(www.geneart.com)。Cpf1 ORFを、Gateway LR反応において植物発現ベクターK2GW7で次いで組み換え、Cpf1 ORFが構成的35Sプロモーターを使用して発現されるベクター(KG9858)を得た。
【0093】
トマトゲノム中の3つの異なる遺伝子、PDS1、Met1及びSolyc3g095310へCpf1タンパク質を標的とすることになる4つのCpf1 crRNA(crRNA)を設計した。Cpf1及びCas9の突然変異誘発頻度を比較するために、同じ場所にCas9タンパク質を標的とすることになるCas9に対するガイドRNA(sgRNA)も設計した。crRNA及びsgRNAを、シロイヌナズナ由来U6 pol IIIプロモーターを使用して発現させた。これらの実験に使用される発現カセットを、図2に示す。
【0094】
トマトプロトプラスト単離及びトランスフェクション
ソラヌムリコペルシクム品種モネイベルグ(Moneyberg)のin vitroシュート培養を、高いプラスチックジャー内の0.8%寒天を含むMS20培地上で、2000ルクスで16/8時間光周期、25℃及び相対湿度60~70%で維持した。若葉(1g)を、主脈に垂直に穏やかに切って、酵素混合物の浸透を容易にした。切った葉を、酵素混合物(CPW9M中の2%セルラーゼオノズカRS、0.4%マセロザイムオノズカR10)へ移し、細胞壁消化を、暗所で、25℃で終夜進行させておいた。プロトプラストを、50μmナイロンシーブを通して濾過し、遠心分離800rpm、5分間によって回収した。プロトプラストを、CPW9M(Frearson、1973年)培地に再懸濁し、CPW18S(Frearson、1973年)3mLを、長首ガラスパスツールピペットを使用して各管の底部に添加した。生プロトプラストを、スクロースとCPW9M培地との界面にある細胞画分として、遠心分離800rpm、10分間によって回収した。プロトプラストを計数し、最終密度1mL当たり10個でMaMg培地(Negrutiu、1987年)に再懸濁した。
【0095】
プロトプラストトランスフェクションのために、Cas9又はCpf1発現プラスミド10μg及びsgRNA又はcrRNA発現プラスミド20μgを、プロトプラスト懸濁液500μL(プロトプラスト500000個)と混合し、PEG溶液(400g/lポリ[エチレングリコール]4000、Sigma-Aldrich#81240;0.1M Ca(NO)500μLを次いで添加し、トランスフェクションを室温で20分間起こさせた。次いで、0.275M Ca(NO溶液10mLを添加し、完全に、しかし穏やかに混合した。プロトプラストを、遠心分離800rpm、5分間により回収し、1ml当たり0.5×10個の密度で9M培養培地に再懸濁し、直径4cmのペトリ皿へ移し、2%アルギン酸溶液(20g/lアルギン酸ナトリウム[Sigma-Aldrich #A0682]、0.14g/l CaCl.2HO、90g/lマンニトール)等容積を添加した。次いで、1mlアリコート(トランスフェクトしたプロトプラスト125000個)を、Ca寒天プレート(72.5g/lマンニトール、7.35g/l CaCl.2HO、8g/l寒天、pH5.8)上に広げ、1時間重合させておいた。プロトプラスト培養のために、埋め込まれたプロトプラストを、K8p(Kao、1975年)培養培地4mlを含有する4cm組織培養皿中で生長させた。トマトプロトプラスト中のindelを検出するために、48時間後に、トランスフェクトしたプロトプラストの円板を皿から取り出し、(緩衝液に)アルギン酸を溶解し、プロトプラストを単離した。カルスを再生するために、プロトプラストを、K8p培地中で、暗所で、28℃で21日間インキュベートした。21日後に、トランスフェクトしたプロトプラストの円板を、1mg.l-1ゼアチン及び0.2mg.l-1 GA3で補充した固体GM培地(Tan、1987年)へ移し、さらに3週間生長させ、生長させた時点でカルスは、サイズおよそ0.3mmであった。アルギン酸を次いで溶解し、カルスをGM培地の新しいプレート上に広げ、およそ1.5mmになるまで生長させておき、生長させた時点でそれを新しい培地へ再び移し、さらなる14日間後に次いで遺伝子型判定した。
【0096】
プロトプラスト及びカルスを遺伝子型判定する
Cas9/sgRNAプラスミド又はCpf1/crRNAプラスミドでトランスフェクトしたトマトプロトプラストを48時間培養し、アルギン酸溶解し、遠心分離によって採集した。全ゲノムDNA(gDNA)を、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を使用して各サンプルから次いで単離した。単離したgDNAをPCR反応に次いで使用して、標的部位を増幅した。以下のプライマーを使用して、異なる標的部位を増幅した:SlPDS1、5’-TGTGCAGAACCACTCCCT-3’及び5’-TTTAGTTGGGCGCGGAGA-3’;Solycl3g095310、5’-ATGGGAAGCGGTGAAAGAAAG-3’及び5’-AGGGTCACGATGAAGAGTTGG-3’;SlMET1、5’-GGACACAAAAAGAACAAACGCA-3’及び5’-TATGAACCCGCCCTGAGT-3’。これらを次いで使用して、固有の5bpタグを使用して同定される各サンプルで、MiSeq配列決定装置で次いで配列決定されるライブラリを生成した。配列決定後、各サンプルのリードを加工して、各サンプルに存在するindelの数及び型を同定した。
【0097】
カルスを、ダイレクトPCRキット(Phire Plant Direct PCRキット、Thermo Scientific)及び上記の遺伝子特異的プライマーを使用して直接遺伝子型判定した。得られたPCR産物を次いで配列決定して、どのカルスが意図した標的部位にINDEL突然変異を含有するか同定した。これらを、2mg.l-1ゼアチン及び0.1mg.l-1 IAA培地で補充したMS培地へ次いで移し、その後再生したトマト苗木を、温室へ移動させる前に0.5mg.l-1 IBAで補充したMS培地上で根付かせた。
【0098】
結果
トマトプロトプラストにおいてCpf1タンパク質及びそのcrRNAを異所的に発現させることにより、Cpf1がゲノム植物細胞にINDEL突然変異を生成する能力を試験した。最初に、トマトにおけるコドン使用頻度に対して最適化したCpf1 ORFを、C末端に融合した核局在化シグナル(NLS)と共に構築した。これを、植物細胞内で発現させるために構成的CaMV35Sプロモーターの後に次いでクローニングした。クローニングしたベクターを、シロイヌナズナU6プロモーターによって駆動されるcrRNAを発現するプラスミドと一緒に、精製したトマト葉プロトプラストに次いで導入した。そのような系において、Cpf1 mRNA及びcrRNAは、短時間、24~48時間、高レベルで発現されることになり、発現の時点で導入されたプラスミドは、細胞のヌクレアーゼによって分解されることになり、Cpf1試薬は、細胞から消滅することになる。Cpf1 mRNA及びcrRNAが存在する間はずっと、Cpf1 mRNA及びcrRNAは、INDEL突然変異を作出するゲノム中の特異的標的部位を発見できる。導入したプラスミドは、まれにしかゲノムに組み込まれず、そのため、本手法によってトランスジェニック株は得られない。プロトプラストを、次いで48時間培養し、次いで破壊し、標的部位におけるINDELの存在について遺伝子型判定した。
【0099】
Cpf1タンパク質は、SlPDS1遺伝子を標的とするcrRNAのいずれかと一緒に発現させると、トマトプロトプラストにおいて高効率でINDEL突然変異を作製できることを見出した(図3)。各トランスフェクションを3つ組で実行し、サンプルを別々に配列決定して、異なる生体サンプルにおけるCpf1の効果を試験した。crRNA2 PDS1を使用した場合、リードの30.7%が標的部位にINDELを含有した。それに対し、crRNA1 PDS1の場合、配列リードのおよそ6.5%が、INDELを含有した。この結果は、Cpf1タンパク質が、植物細胞においてINDELを生成するのに非常に効果的であり、生成効率が、標的配列によって変動することを実証するものである。sgRNA PDS1は、crRNA PDS1と同じ配列を標的とするので、これにより、Cas9又はCpf1タンパク質のいずれかを使用する場合に得られる突然変異効率の間で直接比較を行うことが可能になり、その結果植物細胞においてどちらがよりよく作用するか判断することができる。SpCas9/sgRNA PDS1サンプルから生成される配列リードにおいて、10%がINDELを含有した。これは、crRNA1 PDS1を使用して得られる効率と有意差がなく、そのためトランスフェクション48時間後に両方のCRISPRタンパク質が、同程度の頻度で突然変異を生成したと結論できる。
【0100】
Cpf1を使用して生長及び収量特質が改善された新規の植物を作製する場合、標的配列にINDELを保有する植物を変異したプロトプラストから再生できることを実証することが重要である。したがって、上記のトマトプロトプラストトランスフェクションを繰り返したが、この場合、生長培地中に細胞を維持して、プロトプラストがサンプル採取し、遺伝子型判定できるほど十分に大きなカルスを形成するまで細胞分裂を促進させた。PDS1遺伝子中の標的部位を増幅するように設計されたプライマーと共に直接PCR反応の鋳型として使用される少量の組織を取り出すことにより、個々のカルスのそれぞれをサンプル採取した。Cpf1標的部位は両方とも、INDELが作出されたときに失われる制限部位(crRNA1 PDS1に対してXhoI及びcrRNA2 PDS1に対してSau3AI)を含有する(図3及び図4)。したがって、適当な制限酵素でPDS1 PCR産物を消化し、アガロースゲル上でこれらを分析することにより、INDELを含有するカルスを容易に同定することができる。INDEL突然変異を含有するカルスは、制限酵素消化に耐性のあるPCR産物を生じ、このようにして変異体を容易に定量化することができた。crRNA1 PDS1標的において、32%のカルスがINDELを含有し(図5)、配列決定手法を使用して推定されるよりおよそ5倍高いことを見出した。また、crRNA2 PDS1標的を分析した場合、予想されるより多くの変異体カルスを見出した(図5)。この場合、57%のカルスが標的にINDELを含有した。したがって、Cpf1タンパク質及びそのcrRNAの一過性発現はプロトプラストの生長に負の影響を及ぼさず、変異体プロトプラストは再生して変異体カルスを形成できると結論することができた。カルスにおける突然変異誘発効率が、配列決定結果に基づいて予想した効率より2~5倍高かった点に注意することは非常に興味深い。SpCas9をトマトプロトプラストにおける突然変異誘発に使用する場合、このことは観察されず、プロトプラストとカルスの効率の間に有意差は全く見られない。このことに対する1つの説明は、Cpf1タンパク質及び/又はそのcRNAが、SpCas9及び/又はそのsgRNAと比較して植物プロトプラスト中でより安定であるということであり得る。この結果、Cpf1タンパク質及びcrRNAは、植物細胞中でより長期間活性があることになり、したがって突然変異を誘導する可能性がより高いことになる。
【0101】
標的部位に二対立遺伝子突然変異を含有するカルスの数を定量化することもできた。再生植物は、ヌル対立遺伝子の場合通常直ちにホモ接合性であり、分析され得る前に自家受粉の世代を経る必要がないので、二対立遺伝子変異体を得ることは有利であり得る。突然変異をホモ接合性にできない場合、このことは、栄養生長的に再生される作物種において特別に有益なものである。35S::Cpf1及びcrRNA1 PDS1ベクターでトランスフェクトしたプロトプラストから得られるカルスは、SpCas9を使用してこれまでに見られた二対立遺伝子突然変異と同程度の頻度で二対立遺伝子突然変異を示した(4/31個の変異体カルスが、二対立遺伝子突然変異を含有した、12%)。しかしながら、35S::Cpf1及びcrRNA2 PDS1ベクターでトランスフェクトしたプロトプラストから得られるカルスにおいては非常に高いパーセンテージの二対立遺伝子突然変異が見られた(58/111個の変異体カルスが、二対立遺伝子突然変異を含有した、52%)。これらの結果は、Cpf1が、植物細胞における突然変異誘発についてSpCas9より有意に優れていることを実証するものである。そのような高レベルの二対立遺伝子突然変異形成は、植物細胞においてこれまで報告されておらず、また倍数性作物種の突然変異誘発の著しい進展を表す。変異体カルスを、シュートを再生するまで生長培地上で維持した。これらを次いで遺伝子型判定して、カルスに存在する突然変異が再生されたシュートにも存在することを確認した。カルスに元々存在した突然変異と同じ突然変異がシュートに常に見られた。したがって、Cpf1 CRISPR系を使用して、変異体植物を作製し得ることを示すことができた。
【0102】
Cpf1 CRISPR系が、トマトゲノム内の他の座で突然変異を生成できるかどうか試験するために、SlMET1及びSolyc3g095310座の標的部位で追加の類似の実験を実行した。SlMET1及びSolyc3g095310座の両方について、Cpf1 CRISPR系が、SpCas9より有意に高い突然変異誘発頻度を与えることを発見した。Cpf1を使用する突然変異誘発頻度は、SpCas9が使用される場合より少なくとも2倍高かった。したがって、Cpf1タンパク質は、より高い突然変異誘発効率のため、より多くの遺伝子コピーにINDELを導入できることになり、結果的に、倍数種のプロトプラストにおいて収量及び栄養価を改善した植物を作製する際にSpCas9より適当になると結論される。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5A
図5B
【配列表】
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