IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】耐火性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20220823BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220823BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220823BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20220823BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20220823BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
E04B1/94 T
C08J5/18
C08K3/04
C08K3/32
C08K5/521
C08L101/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016508511
(86)(22)【出願日】2016-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2016051910
(87)【国際公開番号】W WO2016117699
(87)【国際公開日】2016-07-28
【審査請求日】2018-10-22
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2015010252
(32)【優先日】2015-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】大島 祥吾
【審判官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-247164(JP,A)
【文献】特開2003-243873(JP,A)
【文献】特開2001-323216(JP,A)
【文献】特開2004-224960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
C08J 5/18
C08L 1/00 -101/16
C08K 3/00 - 13/08
C09D 1/00 -201/10
C09J 1/00 -201/10
C09K 21/00 - 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂に、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛を含有してなる耐火性樹脂組成物をシート状に成形、硬化させたシート状建築材料用耐火材であって、
前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上であり、熱膨張性黒鉛とリン化合物の重量比が熱膨張性黒鉛:リン化合物=7:1~1:50であり、かつ無機充填剤が0~50重量部であることを特徴とするシート状建築材料用耐火材。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項3】
リン化合物が、ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;およびリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項1に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項4】
前記リン化合物がポリリン酸アンモニウムを含む請求項1に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項5】
前記リン化合物がリン酸系可塑剤を含む請求項1~4のいずれかに記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項6】
リン酸系可塑剤が、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む請求項5に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項7】
リン酸系可塑剤が、芳香族環を有するリン酸化合物である請求項5に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項8】
リン酸系可塑剤が、アリールエステルである請求項5に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項9】
アリールエステルがリン酸トリクレジルである請求項8に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項10】
ポリリン酸アンモニウム類の含有量が、熱硬化性樹脂100重量部に対して、30~200重量部である請求項4に記載のシート状建築材料用耐火材。
【請求項11】
リン酸系可塑剤の含有量が、熱硬化性樹脂100重量部に対して0よりも大きく300重量部以下重量部の範囲である請求項5~8のいずれか一項に記載のシート状建築材料用耐火材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2015年1月22日に出願した特願2015-010252号明細書の優先権の利益を主張するものであり、当該明細書はその全体が参照により本明細書中に援用される。
(技術分野)
本発明は、耐火性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料の分野においては、従来から、耐火性が重要な意味を持っている。近年、樹脂材料の用途拡大に伴って、建築材料として耐火性能を付与された樹脂材料が広く用いられるようになってきている。
【0003】
特許文献1は、エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛10~300重量部及び無機充填剤50~500重量部からなることを特徴とする耐火性樹脂組成物について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開第2000-143941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の耐火性樹脂組成物は、耐火性を付与するために、燃焼しない無機充填材を多く含有している。このため、耐火性能は良くても、無機充填剤が粉末状であるため、これを含有する耐火性樹脂組成物の結合性が損なわれ、耐火性樹脂組成物のシート成形性又は巻き付け性等の作業性が低下する。例えば、耐火性樹脂組成物に粉体の無機充填剤が大量に含まれていると、長尺のシートに成形したときに湾曲しづらかったり割れが生じたりすることから巻き付けが困難であったり、割れ、シワや跡がつきやすいためにサッシ等の建築材料への取り付け作業に支障をきたしたりすることがある。
【0006】
本発明の目的は、作業性を向上しつつ、耐火性も維持した耐火性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、耐火性樹脂組成物における無機充填材の配合量を減らし、かつリン系可塑剤等のリン化合物を含有させることで、優れた耐火性及び作業性の両方が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一態様によれば、 熱硬化性樹脂に、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛を含有してなり、それぞれの含有量が、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上であり、かつ無機充填剤が0~50重量部であることを特徴とする耐火性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐火性樹脂組成物の作業性に優れるため、耐火性樹脂組成物の成形品(押出し・ロール成形品、プレス成形シートなど)が優れた性能を発揮し、これを建築物等に被覆あるいは貼付することにより優れた耐火性を与えることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐火性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、リン化合物と、熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0011】
熱硬化性樹脂の例としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等が挙げられ、好ましくはエポキシ樹脂である。
【0012】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、基本的にはエポキシ基をもつモノマーと硬化剤とを反応させることにより得られる。上記エポキシ基をもつモノマーとしては、例えば、2官能のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、多官能のグリシジルエーテル型等のモノマーが例示される。
【0013】
上記2官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ネオペンチルグリコール型、1、6-ヘキサンジオール型、トリメチロールプロパン型、プロピレンオキサイド-ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型等のモノマーが例示される。
【0014】
上記グリシジルエステル型のモノマーとしては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸型、テトラヒドロ無水フタル酸型、ダイマー酸型、p-オキシ安息香酸型等のモノマーが例示される。
【0015】
上記多官能のグリシジルエーテル型のモノマーとしては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、ジシクロペンタジエン・フェノール型等のモノマーが例示される。
【0016】
これらのエポキシ基をもつモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等が例示される。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。
【0018】
エポキシ樹脂の硬化方法は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。
【0019】
また、上記エポキシ樹脂は可撓性が付与されたものであってもよい。可撓性を付与するためには次の方法が用いられる。
【0020】
(1)架橋点間の分子量を大きくする。
【0021】
(2)架橋密度を小さくする。
【0022】
(3)軟質分子構造を導入する。
【0023】
(4)可塑剤を添加する。
【0024】
(5)相互侵入網目(IPN)構造を導入する。
【0025】
(6)ゴム状粒子を分散導入する。
【0026】
(7)ミクロボイドを導入する。
【0027】
(1)は予め分子鎖の長いエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることで、架橋点の間の距離が長くなり可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤としてポリプロピレンジアミン等を用いる)。(2)は官能基の少ないエポキシモノマー及び/又は硬化剤を用いて反応させることにより、一定領域の架橋密度を小さくして可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として2官能アミン、エポキシモノマーとして1官能エポキシ等を用いる)。(3)は軟質分子構造をとるエポキシモノマー及び/又は硬化剤を導入して可撓性を発現させる方法である(例:硬化剤として複素環状ジアミン、エポキシモノマーとしてアルキレングリコールグルシジルエーテル等を用いる)。
【0028】
(4)は可塑剤として非反応性の希釈剤を添加する方法である(例:可塑剤としてDOP、タール、石油樹脂等を用いる)。(5)はエポキシ樹脂の架橋構造に別の軟質構造をもつ樹脂を導入する相互侵入網目(IPN)構造で可撓性を発現させる方法である。(6)はエポキシ樹脂マトリックスに液状又は粒状のゴム粒子を配合分散させる方法である(例:エポキシ樹脂マトリックスとしてポリエステルエーテル等を用いる)。(7)は1μm以下のミクロボイドをエポキシ樹脂マトリックスに導入させることで可撓性を発現させる(例:エポキシ樹脂マトリックスとして分子量1000~5000のポリエーテルを添加する)。
【0029】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂には、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛が含有される。本発明の耐火性樹脂組成物の耐火性能は、これら2成分がそれぞれの性質を発揮することにより発現する。具体的には、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張断熱層を形成して熱の伝達を阻止する。リン化合物は、膨張断熱層及び充填材に形状保持能力を付与する。
【0030】
上記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;各種リン酸エステル(ただしリン酸系可塑剤を除く);ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;リン酸金属塩;下記一般式(1)で表される化合物;リン酸系可塑剤等が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
式中、R1 、R3 は、水素、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6~16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は、炭素数6~16のアリールオキシ基を表す。
【0033】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好ましい。
【0034】
リン酸系可塑剤ではないリン酸エステルとしては、特に限定されないが、樹脂組成物の溶融混練時に液体状態のリン酸エステルを含む。
【0035】
ポリリン酸アンモニウム類としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取扱性等の点から、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。市販品としては、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」、住友化学工業社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」が挙げられる。
【0036】
ポリリン酸アンモニウム類の含有量は特に限定されないが、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であることが好ましく、50~150重量部であることがより好ましい。
【0037】
ポリリン酸メラミンの含有量は特に限定されないが、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であることが好ましく、50~150重量部であることがより好ましい。
【0038】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。上記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
リン酸系可塑剤は熱硬化性樹脂等の溶融粘度を調整するために添加される。リン酸系列可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、例えばリン酸トリクレジル(TCP)、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリキシレニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、リン酸キシレニルジフェニ、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニルなどのアリールエステル;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリス2-エチルヘキシルなどのアルキルエステル;リン酸レゾルシノールビス-ジフェニル、リン酸レゾルシノールビス-ジキシレニル、リン酸ビスフェノールAビス-ジフェニルなどのビスフェノール系芳香族縮合リン酸エステル類;ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。一実施形態において、リン酸系可塑剤は芳香族環を有するリン酸化合物である。好ましいリン酸系列可塑剤はリン酸トリクレジル(TCP)である。
【0040】
リン酸系可塑剤の含有量は特に限定されないが、リン酸系可塑剤の合計量が、熱硬化性樹脂100重量部に対して0よりも大きく300重量部以下であることが好ましく、25~200重量部であることがより好ましい。
【0041】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;およびリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む。別の実施形態では、リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であるポリリン酸アンモニウム類;30~200重量部であるポリリン酸メラミン;および0よりも大きく300重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む。これらの実施形態において、好ましくはリン酸系可塑剤はリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む。この場合、耐火性、シート成形性、および作業性に優れた耐火性樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類のみを含む。別の実施形態では、リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部、好ましくは100~200重量部であるポリリン酸アンモニウム類を含む。
【0043】
一実施形態では、リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類と、リン酸系可塑剤とを含む。別の実施形態では、リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であるポリリン酸アンモニウム類と、0よりも大きく300重量部以下であるリン酸系可塑剤とを含む。これらの実施形態において、好ましくはリン酸系可塑剤はリン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む。芳香族縮合リン酸エステルは例えばリン酸レゾルシノールビス-ジフェニルである。この場合、耐火性、シート成形性、および作業性に優れた耐火性樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
一実施形態では、リン化合物がアリールエステルを含む。別の実施形態では、熱硬化性樹脂100重量部に対して、50~300重量部のアリールエステルを含む。アリールエステルは特にはリン酸トリクレジルである。かかるアリールエステルを含む耐火性樹脂組成物はポリリン酸アンモニウム類を含んでもよく、その場合、熱硬化性樹脂100重量部に対して、ポリリン酸アンモニウム類は例えば30~200重量部である。
【0045】
なお、シート成形性には塗工工程にて得られたシートの外観が含まれる。巻き付け性は、本発明の耐火性樹脂組成物を曲面に巻き付け又は貼り付けた際の折れ、ヒビ、割れ、及び/又は欠けなどの有無を初めとする、本発明の耐火性樹脂組成物に曲げの力がかかったときの巻き易さを指す。
【0046】
本発明で用いられる熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたもので、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0047】
熱膨張性黒鉛は任意選択で中和処理されてもよい。つまり、上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和する。上記脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。中和処理した熱膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、日本化成社製「CA-60S」、東ソー社製「GREP-EG」等が挙げられる。
【0048】
本発明で用いられる熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュのものが好ましい。粒度が200メッシュより細かいと、黒鉛の膨張度が小さく、望む耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きいと、膨潤度が大きいという点では効果があるが、樹脂と混練する際、分散性が悪く物性の低下が避けられない。
【0049】
本発明においては、熱硬化性樹脂100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上含有される。また、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量の上限は特に限定されないが、例えば500重量部以下である。リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が500重量部以下であると、十分な機械的物性が維持される。
【0050】
本発明においては、熱膨張性黒鉛とリン化合物を組み合わせることにより、燃焼時の熱膨張性黒鉛の飛散を抑え、形状保持を図るもので、熱膨張性黒鉛が多すぎると、燃焼時に膨張した黒鉛が飛散し、加熱時に充分な膨張断熱層が得られず、逆にリン化合物が多すぎても、断熱層が充分でなく、望む効果が得られなくなるため、好ましくは、熱膨張性黒鉛と第2のリン化合物の重量比は熱膨張性黒鉛:リン化合物=9:1~1:100である。
【0051】
また、燃焼時の形状保持性という点からは、熱膨張性黒鉛:リン化合物=7:1~1:50の範囲が優れている。組成物自身が難燃性であっても形状保持性が不充分であると、脆くなった残渣が崩れ落ち、火炎を貫通させてしまうため、形状保持性が充分か否かにより、耐火性組成物の用途形態が大きく異なる。より好ましくは、熱膨張性黒鉛:リン化合物=5:1~1:30、特に好ましくは2:1~1:5の範囲である。
【0052】
本発明の耐火性樹脂組成物は、無機充填剤を0~50重量部含有する。耐火性樹脂組成物において、加熱時に熱膨張性黒鉛が膨張断熱層を形成して熱の伝達を阻止するが、無機充填剤は、その際に熱容量を増大させる。
【0053】
本発明で用いる無機充填剤としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が候補に挙げられ、本発明では、周期律表II族又はIII族に属する金属の金属塩又は酸化物は、燃焼時に発泡して発泡焼成物を形成する性質を有するため、形状保持性を高めるうえで特に好ましい。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0054】
一般的に、上記無機充填剤は、骨材的な働きをすることから、残渣強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。上記無機充填剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0055】
上記無機充填剤の粒径としては、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記無機充填剤の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲のなかでも粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性が低下する。
【0056】
上記無機充填剤の中でも、特に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0057】
上記含水無機物の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0058】
上記無機充填剤の市販品では、例えば、水酸化アルミニウムとして、粒径1μmの「H-42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H-31」(昭和電工社製);炭酸カルシウムとして、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「BF300」(白石カルシウム社製)等が挙げられる。また、粒径の大きい無機充填剤と粒径の小さいものを組み合わせて使用することがより好ましく、組み合わせることによって、さらに高充填化が可能となる。
【0059】
また、本発明において無機充填剤が含有される場合、熱硬化性樹脂100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上であり、無機充填剤が50重量部以下であると、作業性が良好に維持される。
【0060】
本発明の耐火性樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、更に、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。
【0061】
本発明の耐火性樹脂組成物は、混練、塗工、必要あれば乾燥、及び硬化の工程により得ることができる。混練には単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロール等の混練装置を用いる。また、本発明の耐火樹脂組成物は、不織布等の基材に積層も可能である。
【0062】
本発明の耐火性樹脂組成物は、建築材料に耐火性能を与えるために使用することができる。例えば、窓(引き違い窓、開き窓、上げ下げ窓等を含む)、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま、及び欄間等の開口部;防火区画の貫通部;目地;鉄骨コンクリート等に耐火性樹脂組成物を配置して、火災や煙の侵入を低減又は防止することができる。
【0063】
なお、本発明は以下の構成を取ることも可能である。
(1)熱硬化性樹脂に、リン化合物、及び熱膨張性黒鉛を含有してなり、それぞれの含有量が、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が250重量部以上、かつ無機充填剤が0~50重量部であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。
(2)前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことを特徴とする(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(3)リン化合物は、ポリリン酸アンモニウム類;ポリリン酸メラミン;およびリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(4)前記リン化合物がポリリン酸アンモニウム塩を含む(1)に記載の耐火性樹脂組成物。
(5)ポリリン酸アンモニウム類の含有量が熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部である(4)に記載の耐火性樹脂組成物。
(6)前記リン化合物がリン酸系可塑剤を含む(1)~(5)のいずれかに記載の耐火性樹脂組成物。
(7)前記リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して0よりも大きく300重量部以下であるリン酸系可塑剤を含む(6)に記載の耐火性樹脂組成物。
(8)リン酸系可塑剤の含有量が熱硬化性樹脂100重量部に対して25~200重量部である(6)または(7)に記載の耐火性樹脂組成物。
(9)リン酸系可塑剤は、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル、芳香族縮合リン酸エステル、リン酸トリクレジル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ2エチルヘキシル、またはそれらの組み合わせを含む(7)または(8)に記載の耐火性樹脂組成物。
【0064】
(10)前記リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であるポリリン酸アンモニウム類;30~200重量部であるポリリン酸メラミン;および0よりも大きく300重量部以下であるリン酸系可塑剤;からなる群から選択される少なくとも一つを含む(1)~(9)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(11)前記リン化合物が、ポリリン酸アンモニウム類と、リン酸系可塑とを含む(1)~(9)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(12)前記リン化合物は、熱硬化性樹脂100重量部に対して30~200重量部であるポリリン酸アンモニウム類と、0よりも大きく300重量部以下であるリン酸系可塑剤とを含む(1)~(9)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(13)リン酸系可塑剤が芳香族環を有するリン酸化合物である請求項(6)に記載の耐火性樹脂組成物。
(14)リン酸系可塑剤がアリールエステルである(6)に記載の耐火性樹脂組成物。
(15)前記熱硬化性樹脂100重量部に対して、アリールエステルが50~300重量部である(14)に記載の耐火性樹脂組成物。
(16)アリールエステルがリン酸トリクレジルである(14)または(15)に記載の耐火性樹脂組成物。
(17) 前記熱膨張性黒鉛:前記リン化合物の重量比が9:1~1:100であることを特徴とする(1)~(16)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(18) 前記熱膨張性黒鉛:前記リン化合物の重量比が2:1~1:20であることを特徴とする(1)~(16)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
(19)リン化合物と熱膨張性黒鉛との合計量が500重量部以下である(1)~(18)のいずれか一項に記載の耐火性樹脂組成物。
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0066】
実施例1
表1に示した配合量の、ビスフェノールF型エポキシモノマー(油化シェル社製「E807」)又はウレタン変性ビスフェノールA型エポキシモノマー(油化シェル社製「E292」)、ジアミン系硬化剤(油化シェル社製「EKFL052」)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREPEG」)、及びポリリン酸アンモニウム(スミセーフP、住友化学社製)を混練ロールで混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、0.5mm厚の亜鉛鉄板に塗布し、150℃で15分間プレスして硬化させ、耐火性評価及び作業性評価に用いる所定厚みの成形体シートを得た。
1.耐火性評価
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定した。
【0067】
(耐火性の評価)
耐火性について、以下のように評価した。
A:倍率30倍以上かつ残渣硬さ0.45以上または倍率40倍以上かつ残渣硬さ0.3以上である場合
B:倍率30倍以上かつ残渣硬さ0.45以下である場合
2.作業性評価
<シート成形性>
得られたシートの外観を目視にて観察し、以下のように評価した。
A:ヒビ等がなく、表面が平滑であるもの
B:ヒビ等はないが、若干、表面が荒れているもの
C:ワレやシワ、ヒビが存在するもの
<作業性>
実施例及び比較例の各々の樹脂組成物をローラーに巻付け、作業性としての巻き付け易さを作業者の感覚で評価すると共に、巻きつけたテープの割れなどを観察し、以下のように評価した。
A:ローラーの直径が100mmでヒビ等なし
B:ローラーの直径が200mmでヒビ等なし
C:ローラーの直径が200mmでヒビ等あり
実施例2~25、比較例1~5
表1に示した配合成分、配合割合で各成分をロールを用いて、溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を実施例1と同様にして試験片を作製し、耐火性及び作業性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】