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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】気体成分検出用フローセル及び検出装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
C12M1/34 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018063837
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019170303
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒村 一到
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智和
(72)【発明者】
【氏名】三林 浩二
(72)【発明者】
【氏名】荒川 貴博
(72)【発明者】
【氏名】當麻 浩司
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-220573(JP,A)
【文献】特開2000-162761(JP,A)
【文献】特開平02-204747(JP,A)
【文献】特開2009-250937(JP,A)
【文献】特開2003-185588(JP,A)
【文献】実開平04-104601(JP,U)
【文献】特開平02-264847(JP,A)
【文献】特開平04-287694(JP,A)
【文献】国際公開第2006/054689(WO,A1)
【文献】特開2013-033008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素反応によって蛍光特性の有無が変化する補酵素を含む溶液が流れる溶液流路と、前記溶液流路と交差し、気体試料が流れる気体流路と、前記補酵素と前記気体試料との反応を触媒する酵素を保持し、かつ、前記溶液流路と前記気体流路とが交差する部分において前記溶液流路の前記溶液と前記気体流路の前記気体試料に接するように配されている酵素保持膜と、を有し、
前記溶液流路は、前記酵素保持膜が配されている領域から流路方向に沿って下流側にずれた位置に前記補酵素を励起する励起光を導入可能な透過領域を有し、
前記溶液流路の前記透過領域は、前記励起光の光軸に沿った方向において、前記気体流路と重なっていないことを特徴とする気体成分検出用フローセル。
【請求項2】
前記透過領域において前記励起光の光軸上に位置する前記溶液流路の壁部間の距離は、前記酵素保持膜から前記酵素保持膜と対向する前記溶液流路の壁部までの距離よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項3】
前記透過領域における前記溶液流路の幅は、前記酵素保持膜が配されている領域における前記溶液流路の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1又は2に記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項4】
前記溶液流路の前記酵素保持膜が配されている領域の前記溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積は、前記溶液流路の前記透過領域の前記溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積と等しいことを特徴とする請求項又はに記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項5】
前記溶液流路は、前記透過領域以外の少なくとも一部に遮光部材を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項6】
前記酵素保持膜が配されている領域において、前記溶液流路及び前記気体流路のうちの一方が他方に囲まれていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項7】
前記溶液流路の前記透過領域は、レンズ曲面を有する壁部を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項8】
前記溶液流路及び前記気体流路のうちの少なくとも一方は、前記酵素保持膜の表面に沿って渦巻状に形成されている渦形成部を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項9】
前記溶液流路、前記気体流路及び前記酵素保持膜のうち少なくとも一つは前記気体成分検出用フローセルに着脱可能であることを特徴とする請求項1乃至に記載の気体成分検出用フローセル。
【請求項10】
酵素反応によって蛍光特性の有無が変化する補酵素を含む溶液が流れる溶液流路と、
前記溶液流路と交差し、気体試料が流れる気体流路と、
前記補酵素と共に前記気体試料の反応を触媒する酵素を保持し、かつ、前記溶液流路と前記気体流路とが交差する部分において前記溶液流路の前記溶液と前記気体流路の前記気体試料に接するように配される酵素保持膜と
記補酵素が励起光によって励起されることによって発した蛍光を検出する検出部と、を有し、
前記溶液流路は、前記酵素保持膜が配される領域から流路方向に沿って下流側にずれた位置に前記励起光を導入可能な透過領域を有し、
前記溶液流路の前記透過領域は、前記励起光の光軸に沿った方向において、前記気体流路と重なっていないことを特徴とする検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体が流れる気体流路と溶液が流れる溶液流路とを有する気体成分検出用フローセル及び気体試料中に含まれる物質を検出する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素反応に伴う補酵素の減少を検出することにより、気体試料中に含まれる特定の物質を検出する検出装置が知られている。
【0003】
このような検出装置としては、例えば、アセトンなどのケトン類、又はノネナールなどの基質の反応に伴って補酵素であるNADHが減少することを利用して、気体試料中に含まれる基質の検出を行うバイオセンサシステムが特許文献1に開示されている。具体的には、特許文献1のバイオセンサシステムは、補酵素に特定の励起光を照射すると蛍光を発することを利用して基質の量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-220573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバイオセンサシステムは、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路と気体試料が流れる気体流路の両方に接するように酵素を保持する酵素保持膜を有している。このバイオセンサシステムは、酵素保持膜が配されている溶液流路の領域に励起光が照射され、励起光を受けた補酵素が発する蛍光を検出している。
【0006】
ところで、酵素保持膜は、光の透過率及び反射率に個体差を有する。このため、酵素保持膜の個体差が蛍光の計測に影響を与えることが課題の1つとして挙げられる。
【0007】
また、酵素保持膜は、溶液流路の圧力及び気体流路の圧力の影響を受ける。具体的には、例えば、両流路の圧力差により酵素保持膜が変形する。酵素保持膜が変形すると酵素保持膜と接する溶液流路における溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積が変化するため、蛍光を発する補酵素の量が変化することで検出する蛍光量が変化する問題がある。
【0008】
さらに、自動車等の移動体に検出装置を搭載する場合、搭載スペースが限られているため小型な装置であることが求められる。また検出精度は、装置の大きさが小型化されても維持されていることが求められる。
【0009】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、酵素保持膜の個体差による影響、気体流路及び溶液流路の圧力による影響を受けることなく、高精度で物質の検出を行うことが可能な気体成分検出用フローセル及び検出装置を提供することを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願請求項1に記載の気体成分検出用フローセルは、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路と、気体試料が流れる気体流路と、前記補酵素と前記気体試料との反応を触媒する酵素を保持し、かつ前記溶液流路の前記溶液と前記気体流路の前記気体試料に接するように配されている酵素保持膜と、を有し、前記溶液流路は、前記酵素保持膜が配されている領域から流路方向に沿ってずれた位置に前記反応前又は前記反応後のいずれか一方の前記補酵素を励起する励起光を導入可能な透過領域を有することを特徴とする。
【0011】
本願請求項13に記載の検出装置は、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路と、気体試料が流れる気体流路と、前記補酵素と共に前記気体試料の反応を触媒する酵素を保持し、前記溶液流路の前記溶液と前記気体流路の前記気体試料に接するように配される酵素保持膜と、前記反応前又は前記反応後のいずれか一方において前記補酵素が励起光によって励起されることによって発した蛍光を検出する検出部と、を有し、前記溶液流路は、前記酵素保持膜が配される領域から流路方向に沿ってずれた位置に前記励起光を導入可能な透過領域を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】実施例1に係る検出装置の構成を示す断面図である。
図1B図1AのA-A線に沿った検出装置の断面図である。
図2図1Aのフローセルの拡大断面図である。
図3図2のB-B線に沿ったフローセルの拡大断面図である。
図4】実施例2に係る検出装置のフローセルの拡大断面図である。
図5】実施例3に係る検出装置のフローセルの拡大断面図である。
図6】実施例4に係る検出装置のフローセルの拡大断面図である。
図7】実施例5に係る検出装置のフローセルの拡大断面図である。
図8】実施例6に係る検出装置のフローセルの拡大断面図である。
図9図8のC-C線に沿ったフローセルの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
図1Aは、本発明の実施例である検出装置としてのバイオセンサ10の一の軸AXに沿った断面を示している。
【0014】
図1Aに示すように、検出装置としてのバイオセンサ10は、酵素が持つ基質特異性を利用して基質と補酵素とを反応させ、補酵素が発する蛍光の変化から検出対象である基質を検出する装置である。このバイオセンサ10に気体成分検出用フローセル30(以下、フローセル30)が組み込まれた実施例を説明する。
【0015】
具体的には、バイオセンサ10の基質の検出に用いる補酵素は、基質の反応前後の一方の状態において励起光により励起されて蛍光を発する。したがって、バイオセンサ10は、基質の反応によって補酵素が発する蛍光の量が変化することを利用して、基質を検出する。
【0016】
例えば、化1に示すように、補酵素としてNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を用いた場合、酵素であるS-ADH(2級アルコール脱水素酵素)は、基質であるアセトンが2-プロパノールに還元される反応を触媒する。この際、補酵素であるNADHは、酵素反応によりNAD+(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に酸化される。
【0017】
ここでNADHは、所定の波長の励起光を受けて蛍光を発するが、同じ波長の励起光をNAD+が受けても蛍光を発しない。したがって、この反応の前後において検出される蛍光強度は変動する。
【0018】
本発明のバイオセンサ10は、このNADHが発する蛍光の量を測定することにより基質の濃度を測定する装置である。
【0019】
【化1】



【0020】
図1Aにおいて、光源LTは、励起光を出射する発光装置である。光源LTは、例えば、励起光としてピーク波長が340nmである紫外光を出射する紫外光発光ダイオードである。光源LTは、紫外光発光ダイオードに限られず、例えば、紫外レーザーダイオード、水銀ランプ等であってもよい。
【0021】
一の軸AX上において、光源LTから出射された励起光に対する光学系である励起光光学系20が設けられている。励起光光学系20は、励起光を一の軸AX上に向けて集光する。一の軸AXは、本実施例においては励起光の光軸と同一の軸である。
【0022】
励起光光学系20は、励起光を平行光にするコリメートレンズ21と、コリメートレンズ21によって平行光にされた励起光を一の軸AX上に向けて集光する集光レンズであるボールレンズ22を含む。
【0023】
ボールレンズ22とコリメートレンズ21の間には、励起光の波長を透過する励起光バンドパスフィルタEFが設けられている。励起光バンドパスフィルタEFが透過させる帯域は、補酵素が励起する励起光の波長を含む帯域である。本実施例では、補酵素にNADHを用いている。NADHは340nmの紫外線を吸収して蛍光を発する。したがって、励起光バンドパスフィルタEFの透過させる波長の範囲は、330~350nmとしている。
【0024】
一の軸上AXにおいて、フローセル30が設けられている。フローセル30においては、化1に示した酵素反応が行われる。フローセル30は、基質を含む気体試料が流れる気体流路31aと、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路32aと、酵素を保持する酵素保持膜33と、を有する。
【0025】
基質は、ケトン基を含んでいる。補酵素は、基質の反応前後の一方の状態において励起光により励起されて蛍光を発するものが用いられる。このような補酵素の一例としては、NADH、NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)等が挙げられる。尚、補酵素は、基質の反応前後の2つの状態の間で可逆的に化学構造が変化する。
【0026】
酵素は、補酵素としてNADH又はNADPHを用いる場合、例えば、アラニン脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素、ウリジン-5’-ジホスフォ-グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、コレステロール脱水素酵素、サルコシン脱水素酵素、ソルビトール脱水素酵素、炭酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、フルクトース脱水素酵素、6-ホスフォグルコン酸脱水素酵素、ホルムアルデヒド脱水素酵素、マンニトール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素等を挙げることができ、特に、NADH又はNADPHを電子供与体として用いてケトン(アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノンなど)またはエノン(ノネナール、エチルビニルケトンなど)を還元する酵素、より具体的には、二級アルコール脱水素酵素(S-ADH)(二級アルコール脱水素酵素(secondary alcohol dehydrogenase) EC:1.1.1.x)、エノン還元酵素(ER1)(エノン還元酵素(enone reductase type 1, ER1))等が利用できる。
【0027】
一の軸上AX上において、フローセル30から出射された蛍光に対する光学系である蛍光光学系40が設けられている。蛍光光学系40は、フローセル30から光源LTと反対の方向に出射された蛍光を一の軸AX上に向けて集光する。
【0028】
蛍光光学系40は、蛍光を平行光にするコリメートレンズ41と、コリメートレンズ41によって平行光にされた蛍光を一の軸AX上に集光する集光レンズ42を含む。
【0029】
集光レンズ42とコリメートレンズ41の間には、蛍光の波長を含む帯域を透過する蛍光バンドパスフィルタFFが設けられている。補酵素であるNADHが励起することにより発する蛍光の波長は、440~510nm、より具体的には491nm付近である。従って、本実施例においては、蛍光バンドパスフィルタFFが透過させる波長の範囲は、440~510nmとしている。
【0030】
一の軸AX上において、蛍光光学系40を通過した蛍光を検出する検出部50が設けられている。
【0031】
検出部50は、蛍光を検出する分光光度計を有し、分光光度計で検出した蛍光の量に基づいて気体試料中における基質の濃度を検出する。尚、分光光度計としては、例えば、光電子増倍管、フォトダイオード検出器などを用いることができる。
【0032】
ケースCは、光源LT、励起光光学系、フローセル30、蛍光光学系40、検出部50の各々の周囲を覆う筒状に形成されている。すなわち、ケースCは、光源LT、励起光光学系20、フローセル30、蛍光光学系40、検出部50の各々を内部に収容する収容部材である。したがって、ケースCは、ケースCの内部に外光が入らないように構成されている。
【0033】
ケースCには、一の軸AXに垂直な方向にケースCを貫通して設けられた2つの貫通穴HLが形成されている。この2つの貫通穴HLに溶液流路32aを有する溶液流路管32を挿通することで、溶液流路32aを一の軸AX上に取付けることができる。すなわち、2つの貫通穴HLは、溶液流路32aを一の軸AX上に取付可能な溶液流路取付部として機能する。
【0034】
図1Bは、図1AのA-A線に沿った(光軸AXを軸に90度回転させた)バイオセンサ10の断面を示している。図1Bに示すように、ケースCには、一の軸AXに垂直な方向にケースCを貫通して設けられた2つの貫通穴HAが形成されている。この2つの貫通穴HAに気体流路31aを有する気体流路管31を挿通することで、気体流路31aを取付けることができる。すなわち、2つの貫通穴HAは、気体流路31aを取付可能な気体流路取付部として機能する。
【0035】
このとき、気体流路31a、溶液流路32a及び酵素保持膜33は、それぞれケースCに着脱可能となっていてもよい。尚、気体流路31a、溶液流路32a及び酵素保持膜33のうち少なくとも1つがケースCに着脱可能に取り付けられていてもよい。
【0036】
着脱可能な取り付け態様としては、ボルト、固定ピン、面ファスナー等が挙げられる。このように、気体流路31a、溶液流路32a及び酵素保持膜33のうち少なくとも1つの部材がケースCに着脱可能に取り付けられていれば、他の部材は、ケースCから容易に外せない態様で固定されていてもよい。例えば、気体流路31a及び溶液流路32aは、ケースCと一体に形成されているようにしてもよいし、リベット、接着剤等でケースCに固定されてもよい。また、気体流路31a、溶液流路32a及び酵素保持膜33は、それぞれフローセル30に着脱可能となっていてもよい。
【0037】
図2は、一の軸AXに沿ったフローセル30の拡大断面を示している。尚、図中において実線矢印は、溶液流路内の溶液の流れ方向を示している。また、一点鎖線は、励起光の光軸OAを示している。
【0038】
図2に示すように、フローセル30は、管状に形成された気体流路管31を有する。気体流路管31によって、基質を含む気体試料が流れる気体流路31aが形成されている。気体流路管31は、光透過性の材料によって形成されている。光透過性の材料としては、330~510nmの波長の光を透過し、かつ自家蛍光が少ないものがよく、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)や、アクリル樹脂が挙げられる。
【0039】
フローセル30は、気体流路管31と互いに垂直な方向に交差し、かつ気体流路管31と互いに接して配されている溶液流路管32を有する。溶液流路管32によって、補酵素を含む溶液が流れる溶液流路32aが形成されている。溶液流路管32は、気体流路管31と同様の光透過性の材料によって形成されている。溶液流路32aを流れる溶液は、補酵素と、酵素の至適pH値を考慮したpH値を有する緩衝液と、を成分として含んでいる。尚、気体流路管31及び溶液流路管32は、それぞれ別部材で構成されている。
【0040】
気体流路管31の溶液流路管32と接する領域には、外部に貫通する貫通穴H1が設けられている。溶液流路32aの気体流路管31と接する領域には、外部に貫通する貫通穴H2が設けられている。
【0041】
酵素を保持する酵素保持膜33は、気体流路31aの貫通穴H1と溶液流路32aの貫通穴H2とを塞ぐように、気体流路31aと溶液流路32aとの両方に露出して設けられている。すなわち、酵素保持膜33は、保持されている酵素が溶液流路32aの溶液及び気体流路31aの気体試料に接触可能であり、かつ溶液流路32aと気体流路31aとを隔てる隔膜である。
【0042】
酵素保持膜33は、膜材料である担体上に酵素が固定化されたものである。酵素保持膜33の担体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニリデンフロライド、ポリエーテルスルホン、セルロース混合エステル、セルロースアセテート等が挙げられる。
【0043】
尚、溶液流路管32と気体流路管31とは互いに垂直な方向に交差して配されてケースCに各々が組み付けられている。具体的には、励起光の光軸OA上を避けるように気体流路管31が配されている。言い換えれば、励起光の光軸OA上には、気体流路管31が配されてはいない。このため、気体流路31a内に結露が発生したとしても、結露が蛍光の検出に影響を与えることを防止することができる。
【0044】
また、溶液流路32a内において気泡が生じると、気泡が酵素保持膜33に付着して酵素反応を阻害することになる。このような溶液流路32a内で生じた気泡が酵素反応を阻害するのを防止するため、溶液流路32aは、鉛直方向において気体流路31aの上側に配されているとよい。
【0045】
溶液流路32aは、酵素保持膜33が配されている膜配置領域FRから流路方向に沿ってずれた位置の溶液流路32aに光源LTから出射された励起光を導入可能な透過領域TRを有する。透過領域TRは、膜配置領域FRよりも溶液流路32aの下流側に設けられている。
【0046】
溶液流路管32には、酵素保持膜33を取り付ける保持膜取付部32bが形成されている。保持膜取付部32bは、一の軸AXに沿った方向において酵素保持膜33の端部を挟み込んで嵌合するように溶液流路管32の壁部が窪んで形成されている。すなわち、保持膜取付部32bは、溶液流路32aの溶液と気体流路31aの気体試料に接するように取付可能な酵素保持膜取付部として機能する。
【0047】
なお、図2では酵素保持膜33は溶液流路管32に形成されている保持膜取付部32bに取付けられているように説明したが、気体流路管31に酵素保持膜33を取付けられるように形成された保持膜取付部を設けて酵素保持膜を取付けてもよい。また、溶液流路管32と気体流路管31の間に挟み込んで酵素保持膜を取付けられるように形成してもよい。
【0048】
透過領域TRにおいて励起光の光軸OA上に位置する溶液流路32aの内壁部W1間の距離L1は、酵素保持膜33から酵素保持膜33と対向する溶液流路32aの内壁部W2までの距離L2よりも長い。このように透過領域TRにおける溶液流路32aを形成することにより、励起光を受光する補酵素の量が増加する。このため、補酵素が発する蛍光の量を増加させることが可能となる。
【0049】
図3は、図2のB-B線に沿ったフローセル30の断面を示している。図3に示すように、透過領域TRにおける溶液流路32aの幅D1は、膜配置領域FRにおける溶液流路32aの幅D2よりも狭い。このように、膜配置領域FRの溶液流路32aを形成することで、溶液流路32aと気体流路31aが酵素保持膜33を介して接する面積を増加させることができ、気体試料及び補酵素の利用効率を高めることが可能となる。
【0050】
尚、溶液流路32aの溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積が変化すると、対流によって溶液の流れが乱れやすくなる。溶液の流れが乱れると、溶液流路32aの内部における溶液の移動が一様でなくなり、結果として信号出力の応答性が悪化するおそれがある。
【0051】
そこで、溶液流路32aの膜配置領域FRの溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積は、溶液流路32aの透過領域TRの溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積と等しくするとよい。これにより、溶液流路内の溶液の対流を防止し、信号出力の応答性を維持することが可能となる。
【0052】
以上のように、本発明の検出装置であるバイオセンサ10によれば、励起光が照射される溶液流路32aの透過領域TRは、膜配置領域FRから流路方向にずれた位置に配置されている。このため、透過領域TRにおいては、酵素保持膜33の個体差、すなわち、酵素保持膜33が有する光の透過率、光の反射率の個体差の影響を受けずに励起光が照射される。同様に、蛍光を受光する検出部50は、酵素保持膜33の個体差による影響を受けずに蛍光を受光することが可能となる。
【0053】
また、透過領域TRが膜配置領域FRから流路方向にずれた位置に配置されている。このため、検出部50は、溶液流路32a内の圧力と気体流路31aとの間に圧力差があったとしても、透過領域TRの溶液流路はその影響を受けずに、すなわち、透過領域TRの溶液流路における溶液が流れる方向に垂直な方向の断面の面積に応じた補酵素の蛍光を受光することが可能となる。
【0054】
したがって、本実施例に係るバイオセンサ10は、酵素保持膜33の個体差の影響、気体流路31a及び溶液流路32aの影響を受けることなく、高精度で気体試料中の物質を検出することが可能となる。
【0055】
また、膜配置領域FRと透過領域TRが離間していることにより、酵素保持膜33が有する光の透過率、光の反射率及び自家蛍光等の物性を考慮せずに材料を選択することが可能となり、製造コストの低下を図ることが可能となる。
【0056】
尚、本実施例に係るバイオセンサ10においては、励起光光学系20は、レンズのみを用いて構成した。しかし、励起光光学系20は、このようなレンズのみを用いた構成に限られず、例えば、光ファイバプローブを用いて構成してもよい。
【0057】
また、溶液流路32aの幅は、一定に形成してもよい。フローセル30を単純な構造で形成することができるため、コストの低減を図ることが可能となる。
【0058】
さらに、本実施例においては、気体流路管31と溶液流路管32とは互いに交差するように構成されているように説明した。しかし、気体流路管31は、溶液流路管32に沿って形成されるようにしてもよい。このように、気体流路管31を形成することにより、気体流路31aの設計が容易となる。特に、気体試料の湿度が低い場合、このように気体流路31aを形成しても、結露対策が不要になるため有用である。
【0059】
尚、本実施例においては、気体流路31aと溶液流路32aと酵素保持膜33とはケースCの内部に収容されているように説明した。しかし、ケースCの内部には透過領域TRが収容されていればよく、膜配置領域FRはケースCの外部に配置されてもよい。このため、少なくとも溶液流路32aがケースCの内部に収容されていればよく、気体流路31aと酵素保持膜33はケースCの外部に配置されていてもよい。
【0060】
また、本実施例においては、補酵素としてNADHを、基質にはアセトンを用いて説明した。このとき、バイオセンサ10は、補酵素と基質の反応により、反応後は反応前に比べてNADHの濃度が減少するために測定する蛍光の量は減少することを利用して検出対象である基質を検出する。
【0061】
しかし、本発明は蛍光の量が減少する場合だけに限らず、蛍光の量が増加する反応を用いて検出対象である基質を検出するようにしてもよい。より具体的には、酵素にS-ADHを用いた場合、補酵素としてNAD+又はNADP+を、基質には2-プロパノールのような2級アルコールを用いた場合、補酵素と基質の反応により反応後は反応前に比べてNADHの濃度が増加する。これにより、測定する蛍光の量は増加するため、バイオセンサ10は、基質である2級アルコールの濃度を測定し検出することも可能である。
【実施例2】
【0062】
実施例2に係るバイオセンサ10について説明する。実施例2に係るバイオセンサ10は、実施例1のバイオセンサ10とは光源LTから出射された励起光を遮光する遮光部材を備える点で異なる。尚、実施例1と同一の構成については同一箇所に同一符号を付すことによって説明を省略し、以後の実施例についても同様とする。
【0063】
図4は、本実施例に係るバイオセンサ10のフローセル30の拡大断面を示している。図4に示すように、溶液流路32aは、透過領域TRの周囲に遮光部材SHを有する。より具体的には、遮光部材SHは、透過領域TRを除く溶液流路32aの全周を覆うように設けられている。
【0064】
遮光部材SHは、少なくとも可視光、紫外光を遮光する素材で構成されている。このような素材としては、例えば、金属や樹脂等が挙げられる。したがって、透過領域TR以外の場所においては、励起光が溶液流路32a内に入射されないようになっている。
【0065】
尚、溶液流路32aの透過領域TR以外の場所すべてが遮光部材SHを有していなくてもよい。例えば、透過領域TRから軸AXに垂直な方向に沿って所定距離離れた部分については、遮光部材SHを有していなくとも励起光が溶液流路32a内に入射しにくいため、遮光部材SHを有していなくともよい。
【0066】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、透過領域TRを除いて溶液流路32a内に励起光以外の光が入射することを防ぐことができる。この結果、蛍光の光路以外からの迷光が検出部50に入射されることを防止することができる。したがって、バイオセンサ10の検出精度の向上を図ることが可能となる。
【実施例3】
【0067】
実施例3に係るバイオセンサ10について説明する。実施例3に係るバイオセンサ10は、実施例1又は実施例2のバイオセンサ10とは、フローセル30の気体流路31aの形状が異なる。
【0068】
図5は、本実施例に係るバイオセンサ10のフローセル30の拡大断面を示している。図5に示すように、溶液流路32aと気体流路31aとは、励起光の光軸OA上において互いに接していない。
【0069】
具体的には、気体流路31aは、励起光の光軸OAに沿って形成されている上流部及び下流部と、上流部と下流部に接続されかつ、溶液流路32aの流路方向に沿って形成された接続部と、を有する。接続部は、溶液流路32aに対向する領域において気体流路31aから外部に貫通する貫通穴H1を有している。
【0070】
このように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、フローセル30の気体流路31aを溶液流路32aと励起光の光軸OA上において互いに接しないように形成することで、気体流路31a内に結露が発生したとしても、結露が蛍光の検出に影響を与えることを防止することができ、実施例1に係るバイオセンサ10より小型化を図ることができる。
【実施例4】
【0071】
実施例4に係るバイオセンサ10について説明する。実施例4に係るバイオセンサ10は、実施例1乃至実施例3のバイオセンサ10とは、フローセル30の溶液流路32aの形状が異なる。
【0072】
図6は、本実施例に係るバイオセンサ10のフローセル30の拡大断面を示している。図6に示すように、溶液流路32aの透過領域TRは、レンズ曲面を有する内壁部W1を含む。
【0073】
具体的には、透過領域TRの溶液流路32aは、励起光の光軸OAを中心として、光源LTに向かって凸となる曲面を有するように形成されたレンズ部LN1と、励起光の光軸OAを中心として、検出部50に向かって凸となる曲面を有するように形成されたレンズ部LN2と、を有している。
【0074】
レンズ部LN1は、溶液流路32aに向かって照射された励起光を集光する集光レンズとして機能するように形成されるとよい。また、レンズ部LN2は、検出部50に向かって発せられた蛍光をコリメートするコリメートレンズとして機能するように形成されるとよい。
【0075】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、レンズ部LN1は、溶液流路32aに向かって照射された励起光を集光する集光レンズとして機能するため、励起光光学系20の構成を簡素化することが可能となる。したがって、バイオセンサ10の小型化を図ることができる。
【0076】
また、レンズ部LN2は、検出部50に向かって発せられた蛍光をコリメートするコリメートレンズとして機能するため、蛍光光学系40の構成を簡素化することが可能となる。したがって、バイオセンサ10の小型化を図ることができる。
【実施例5】
【0077】
実施例5に係るバイオセンサ10について説明する。実施例5に係るバイオセンサ10は、実施例1乃至実施例4のバイオセンサ10とは、フローセル30の気体流路31aの形状が異なる。
【0078】
図7は、本実施例に係るバイオセンサ10のフローセル30の拡大断面を示している。図7に示すように、酵素保持膜33が配されている膜配置領域FRにおいて気体流路31aが、溶液流路32aに囲まれている。
【0079】
具体的には、気体流路管31は、励起光の光軸OAの垂直方向に沿って溶液流路管32を貫通して設けられている。
【0080】
気体流路31aの溶液流路32aに囲まれている領域には、全周に亘って貫通穴H1が形成されている。この貫通穴H1を塞ぐように酵素保持膜33が設けられている。
【0081】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、気体流路31aの気体試料、酵素保持膜33の酵素及び溶液流路32aを流れる補酵素の互いの接触面積を増加させることが可能となる。したがって、酵素反応の反応効率を高めることが可能となる。これにより、バイオセンサ10の基質の検出精度の向上を図ることが可能となる。
【0082】
尚、本実施例においては、膜配置領域FRにおいて気体流路31aが、溶液流路32aに囲まれているように構成した。しかし、膜配置領域FRにおいて溶液流路32aが、気体流路31aに囲まれているように構成してもよい。このように構成しても本実施例と同様の効果を得ることが可能となる。
【実施例6】
【0083】
実施例6に係るバイオセンサ10について説明する。実施例6に係るバイオセンサ10は、実施例1乃至実施例5のバイオセンサ10とは、フローセル30の溶液流路32aの形状が異なる。
【0084】
図8は、本実施例に係るバイオセンサ10のフローセル30の拡大断面を示している。図8に示すように、溶液流路32aは、酵素保持膜33の表面に沿って渦巻状に形成されている渦形成部SPを有する。
【0085】
具体的には、溶液流路32aの渦形成部SPは、渦状の円弧の径が外側から内側に向かって徐々に短くなるように形成されている。
【0086】
渦形成部SPの円弧の最も外側には、渦形成部SPに溶液を導入する導入口IPが設けられている。渦形成部SPの円弧の最も内側には、渦形成部SPに溶液を下流に排出する排出口EPが設けられている。
【0087】
図9は、図8のC-C線に沿ったフローセル30の拡大断面を示している。図9に示すように、励起光の光軸OAに垂直な渦形成部SPの面の全体に接するように酵素保持膜33が設けられている。酵素保持膜33の渦形成部SPに接する反対側の面の全体に接するように気体流路31aが設けられている。
【0088】
上流側の溶液流路32aは、導入口IPに接続されている。導入口IPから渦形成部SPに入った溶液は、渦形成部SPの円弧の内側に向かって進み、排出口EPから下流側の溶液流路32aに排出される。したがって、上流側の溶液流路32aを流れる溶液は、渦形成部SPにおいて満遍なく酵素保持膜33と接して下流側の溶液流路32aに進む。
【0089】
以上のように、本実施例に係るバイオセンサ10によれば、補酵素が酵素保持膜33の酵素と接する確率を高めることができる。したがって、酵素反応を効率よく行うことが可能となる。この結果、気体試料に含まれる基質の検出精度を高めることが可能となる。
【0090】
尚、本実施例においては、膜配置領域FRにおいて溶液流路32aが、渦形成部SPを有するようにフローセル30を構成した。しかし、気体流路31aが渦形成部SPを有するように構成してもよい。具体的には、本実施例で説明した溶液流路32aを気体流路31aとし、本実施例で説明した気体流路31aを溶液流路として構成してもよい。このように構成しても本実施例と同様の効果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
10 バイオセンサ
30 フローセル
31a 気体流路
32a 溶液流路
33 酵素保持膜
TR 透過領域
FR 膜配置領域
OA 励起光の光軸
SP 渦形成部
SH 遮光部材
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9