(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】果実風味アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
C12G3/06
(21)【出願番号】P 2018095640
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】竹内 曜
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-054664(JP,A)
【文献】特開2014-093945(JP,A)
【文献】Strong Salted Lemon Flavour Spirit Drink, Mintel GNPD, [online],記録番号(ID#) 4866569,2017年,[retrieved on 2022.01.19],Retrieved from the Internet,URL<https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/4866569/>
【文献】Lemon Tea Flavored Alcoholic Drink, Mintel GNPD, [online],記録番号(ID#) 4409799,2016年,[retrieved on 2022.01.19],Retrieved from the Internet,URL<https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/4409799/>
【文献】Lemon Beer, Mintel GNPD, [online],記録番号(ID#) 564137,2006年,[retrieved on 2022.01.19],Retrieved from the Internet,URL<https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/564137/>
【文献】ブログ“アキモト酒店 走る大地 踊る農業 歌う酒-秋田県”に掲載された2017年 6月 5日付け記事“クールゆず 生ゆず果汁をふんだんに使用した圧倒的なおいしさ”,[オンライン],2017年,[2022年 1月19日検索],インターネット<URL:http://blog.livedoor.jp/sakeakmt/archives/65778973.html>
【文献】世界のウェブアーカイブ|“文旦屋 白木果樹園”ウェブサイトに掲載された商品紹介「爽やかな小夏のお酒(小夏リキュール)」のアーカイブ,2016年,[オンライン],[2022年 1月19日検索],URL,http://web.archive.org/web/20161114010255/https://buntan.com/goods/konatsusyu.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,C12C,C12G,C12H
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実エキスを含有し、果汁を含有
せず、加熱殺菌処理が行われていない果実風味アルコール飲料
であって、
果実エキスは、生の果実又は生の果実を冷凍した冷凍果実を原料として使用し、液化ガスを溶媒として使用して抽出されたものであって、実質的に加熱されていない非加熱果実エキスであり、
アルコールの含有量が3~10v/v%であって、かつ、果実エキスの含有量が0.05~5g/Lである
果実風味アルコール飲料。
【請求項2】
果実風味アルコール飲料は炭酸飲料である請求項
1に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項3】
炭酸ガス圧が1.0~4.5ガスボリュームである請求項
1に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項4】
果実がレモン、ぶどう、桃、パイン、梅、シークァーサー及びグレープフルーツからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
1に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項5】
容器詰め飲料である請求項
1に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項6】
果実エキスの製造を行う温度は0~30℃である、請求項1に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項7】
果実エキスを含有させる工程を包含し、果汁を含有させる工程を包含しない果実風味アルコール飲料の製造方法
であって、
加熱殺菌処理を行う工程を包含せず、
果実エキスは、実質的に加熱されていない非加熱果実エキスであって、生の果実又は生の果実を冷凍した冷凍果実を原料として使用し、液化ガスを溶媒として使用して抽出されたものであり、
アルコールの含有量が3~10v/v%であって、かつ、果実エキスの含有量が0.05~5g/Lである、
果実風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
果実エキスの製造を行う温度は0~30℃である、請求項7に記載の果実風味アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果実風味アルコール飲料に関し、特に容器に充填された状態で市場に流通する容器詰め果実風味アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
果実風味アルコール飲料とは、食用果実の風味を有するアルコール飲料をいう。果実風味アルコール飲料においては、一般に、果実の甘味、酸味及び香りを付与し、アルコール飲料のおいしさを向上させる目的で、アルコール飲料中に果汁を含有させている。果汁とは、果実を搾汁して得られる汁液をいう。
【0003】
果実風味アルコール飲料としては、例えば、グレープフルーツ、レモン、ライム、オレンジなどの柑橘類の果汁を含有させた商品や、梅、林檎、葡萄、苺などの果汁を含有させた商品が多く市販されている。例えば、酎ハイは、元々、甲類焼酎をレモン及び炭酸水で希釈して、飲みやすくした果実風味アルコール飲料である。また、様々な果汁を炭酸水及びアルコールで割った果実風味アルコール飲料が数多く商品化されている。
【0004】
果汁を含有する果実風味アルコール飲料は、果実由来の甘味及び酸味、味のふくらみ等を楽しむことができる。果汁は糖質、クエン酸、アミノ酸等の成分によって味に厚み、ボディ感を付与し、炭酸の苦味を軽減する効果を有し、美味しさの向上に有益である。その一方、果汁は植物の組織成分を含み、果汁を含有する飲料は微生物が増殖し易いため、保存安定性に劣るという問題がある。
【0005】
飲料を市場に流通させるためには、飲料は容器に充填される必要があり、製造から容器に充填されて消費者が飲用するまでの期間、飲料に混濁や異臭をもたらす微生物の増殖を防止する必要がある。
【0006】
例えば、清涼飲料には食品衛生法が適用されており、主に飲料のpHによって殺菌処理条件が決まっている。即ち、pHが4未満の場合には、65℃で10分間の加熱処理と同等以上の殺菌処理を、pHが4以上4.6未満の場合には、85℃で30分間の加熱処理と同等以上の殺菌処理を、それぞれ行うべきとされている。炭酸清涼飲料は、植物又は動物の組織成分を含まないものについては殺菌処理を行わなくてもよい場合があるが、植物又は動物の組織成分を含む場合には、飲料のpHに応じた殺菌処理を行う必要がある。炭酸アルコール飲料には食品衛生法における殺菌処理条件は直接的に適用されないが、植物又は動物の組織成分を含む場合には、食品衛生法の殺菌処理条件を参考にすることができる。
【0007】
しかしながら、殺菌処理を行うために飲料を加熱した場合、香味成分が減少又は変化し、果実風味飲料においては、果実の生のフレッシュな風味が失われるという問題がある。
【0008】
果実の生のフレッシュな風味に寄与する香味成分は、その果実の種類等によって様々であるが、いずれも採果、搾汁後に継時的にその香味成分が減少したり、他の成分変化することによりフレッシュ感が損なわれる。特に殺菌のための加熱等で高温下におかれた場合、フレッシュな香味の減少、変化はより顕著なものになる。
【0009】
例えばレモン等の柑橘系の果実では、生のフレッシュな果実風味に寄与する香味成分としてシトラールが知られているが、シトラールは加熱や長期の保存により比較的容易に分解し柑橘の風味が弱まるとともに、分解物による劣化臭を生成しフレッシュ感が損なわれる。
【0010】
生のフレッシュな果実の香味が付与された常温流通の容器詰め飲料の製造方法として、例えば、10℃以下の低温条件下で調製された非炭酸系飲料を容器に充填・密封し、高圧処理した後、保管するまでの全工程にわたって、飲料の温度を前記低温条件に維持することを特徴とする、鮮度が有効に維持された非炭酸系飲料から成る容器詰め飲料の製造方法(特許文献1)や、飲料原料液を加熱殺菌した後で無菌的に香料を添加し、無菌的環境下で容器に飲料を充填することにより、加熱による飲料の香りの劣化を防止し、自然で新鮮な風味の飲料を得る方法(特許文献2)等が知られているが、これら従来の方法では特殊な製造装置が必要であったり、炭酸飲料には適用できなかったり、効果がいまだ十分ではない等の問題がある。
【0011】
特にアルコールを含有する飲料の場合には、エタノールに起因する苦味や刺激臭により、生のフレッシュな果実の香味がマスキングされてより感じ難くなるため、アルコールを含有していても、生のフレッシュな果実の香味がマスキングされずに十分感じられる容器詰めアルコール飲料が望まれている。
【0012】
飲料に果実の香味を付与する目的で、果実エキスが使用されることがある。果実エキスとは、アルコールや水等の溶媒を使用して抽出された果実成分をいう。果実の素材本来が持つ良好な香りを持った果実エキスを得る方法として、例えば被抽出物を前処理用ガスの雰囲気下で加圧処理した後に、抽出操作を行うことを特徴とするエキスの製造方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2016-208966号公報
【文献】特開2003-111579号公報
【文献】特開2007-229590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、製造後時間が経過しても製造時の果実らしさ、フレッシュ感が低下し難く、保存安定性に優れた果実風味アルコール飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、果実エキスを含有し、果汁を含有しない果実風味アルコール飲料を提供する。
【0016】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は、加熱殺菌処理が行われていないものである。
【0017】
ある一形態においては、果実エキスは実質的に加熱されていない非加熱果実エキスである。
【0018】
ある一形態においては、果実エキスは、生の果実又は生の果実を冷凍した冷凍果実を原料として使用し、液化ガスを溶媒として使用して抽出されたものである。
【0019】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は、アルコールの含有量が3~10v/v%である。
【0020】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は炭酸飲料である。
【0021】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は、炭酸ガス圧が1.0~4.5ガスボリュームである。
【0022】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は、果実エキスの含有量が0.05~5g/Lである。
【0023】
ある一形態においては、果実がレモン、ぶどう、桃、パイン、梅、シークァーサー及びグレープフルーツからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0024】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料は容器詰め飲料である。
【0025】
また、本発明は、果実エキスを含有させる工程を包含し、果汁を含有させる工程を包含しない果実風味アルコール飲料の製造方法を提供する。
【0026】
ある一形態においては、果実風味アルコール飲料の製造方法は加熱殺菌処理を行う工程を包含しない。
【0027】
ある一形態においては、果実エキスは実質的に加熱されていない非加熱果実エキスである。
【0028】
ある一形態においては、果実エキスは、生の果実又は生の果実を冷凍した冷凍果実を原料として使用し、液化ガスを溶媒として使用して抽出されたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、製造後時間が経過しても製造時の果実らしさ、フレッシュ感が低下し難く、保存安定性に優れた果実風味アルコール飲料が提供される。加えて、本発明の果実風味アルコール飲料は、長期間にわたって微生物の増殖が防止されるので殺菌処理を行う必要が無く、生のフレッシュな果実の香味が維持された状態で市場に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の果実風味アルコール飲料(以下単に「アルコール飲料」ということがある。)は果実エキスを含有する。果実エキスとは、果実をアルコールや水等の溶媒に接触させて成分を溶媒に溶出させて得られる果実成分をいう。
【0031】
果実エキスの製造方法は、果実から果実の香気成分及び呈味成分を抽出する方法であれば、特に限定されない。好ましい果実エキスの製造方法は、溶媒として液化ガス(超臨界ガスを含む)を用いて果実成分を溶出させた後に、液化ガスを気化させることによって果実エキスを分離回収する方法である。かかる方法は、例えば、特開昭59-73002号公報に具体的に記載されている。液化ガスの好ましい例は炭酸ガスが挙げられる。
【0032】
好ましい果実エキスの製造方法は、実質的に非加熱で行う方法である。製造方法を実質的に非加熱で行うとは、果実から成分を溶出させる工程、及び溶出液から溶媒を除去する工程で加熱を行わず常温程度で行うことをいう。そうすることで、果実から溶出した成分の揮発が防止され、また成分の変質が防止されて生のフレッシュな果実の香味が維持される。果実エキスの製造方法を行う温度は、好ましくは0~30℃、より好ましくは5~20℃である。
【0033】
好ましい果実エキスの製造方法は、原料として、生の果実、又は生の果実を冷凍した冷凍果実を使用する。これらは加熱されておらず、香味成分が減少又は変化していないので、原料として使用することで、果実の生のフレッシュな香味に優れた果実エキスを得ることができる。
【0034】
果実エキスを抽出する果実は、アルコール飲料のおいしさを向上させる香味を有していれば、特に限定されない。例えば、レモン、ぶどう、桃、パイン、梅、リンゴ、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、シークァーサー、シトラス、みかん、及びチェリー等が挙げられる。
【0035】
果実エキスとしては、一種類が用いられてもよく、複数の種類が用いられてもよい。好ましくは、果実エキスを抽出する果実は、レモン、ぶどう、梅、シークァーサー、及びグレープフルーツである。
【0036】
果実エキスの含有量は、果実の種類、抽出方法等に依存して変化するが、0.05~5g/L、好ましくは0.1~1.0g/Lである。果実エキスの含有量が0.05g/L未満であると果実の生のフレッシュな香味がアルコールの苦味、刺激臭によりマスキングされやすくなり、5g/Lを超えるとアルコール飲料として香味のバランスが悪くなりやすい。
【0037】
果実エキスを使用することにより、果実の香りだけでなく、果実の味も併せてアルコール飲料に付与することが可能になる。また、果実エキスは植物の組織成分を実質的に含有しない。そのため、果実エキスを使用した場合、植物の組織成分が飲料に導入されることがない。
【0038】
また、本発明のアルコール飲料は果汁を含有しない。そのため、植物の組織成分が飲料に導入されることがない。
【0039】
本発明のアルコール飲料は植物の組織成分を実質的に含有しない。そのため、長期間にわたって微生物の増殖が防止され、製造後時間が経過しても製造時の果実らしさ、フレッシュ感が低下し難く、保存安定性に優れたアルコール飲料になる。
【0040】
本発明のアルコール飲料は植物の組織成分を実質的に含有せず、長期間にわたって微生物の増殖が防止される。そのため、本発明のアルコール飲料は常温で流通させることができる。また、本発明のアルコール飲料は微生物の増殖を防止する目的で、加熱処理等の殺菌処理を行う必要が無い。
【0041】
好ましい一実施形態では、本発明のアルコール飲料は、製造の過程、例えば、容器充填前、及び製造後、例えば、容器充填後の両方において、加熱処理を行わない。その結果、本発明のアルコール飲料は、生のフレッシュな果実の香味が十分に維持された状態で市場に提供される。
【0042】
本発明のアルコール飲料は、3~12v/v%、好ましくは6~10v/v%の量でアルコール、即ち、エタノールを含有する。アルコールの含有量が3v/v%未満であるとアルコール飲料として香味のバランスが悪くなりやすく、12v/v%を超えると生のフレッシュな果実の香味がアルコールの苦味、刺激臭によりマスキングされやすくなる。
【0043】
本発明のアルコール飲料に用いるアルコールは、果実成分含有原料酒以外のものであれば、特に限定されない。果実成分含有原料酒を使用すると、植物の組織成分が導入されるのでアルコール飲料の保存安定性が低下する。
【0044】
アルコールの具体例には、原料用アルコール、スピリッツ類(ウォッカ、ジン、ラム、等)、リキュール類、ウイスキー、焼酎(甲類、乙類、甲乙混和)等や、清酒、ワイン、ビール等の醸造酒が挙げられる。これらは単独で又は複数を組み合わせていても良い。
【0045】
本発明のアルコール飲料は、炭酸ガスを含有することが好ましい。炭酸ガスは、ガスボリュームが1.0~4.5になる範囲の量で用いるのが好ましい。炭酸ガスのガスボリュームが1.0 未満であると、炭酸飲料らしい爽快感に乏しく、また、4.5を超えると、炭酸刺激と苦味が強くなりすぎて、飲料の美味しさが低下する。炭酸ガスボリュームは、好ましくは、1.5~3.5である。
【0046】
本発明のアルコール飲料は、好ましくは、甘味物質を含有する。甘味物質とは、飲料に甘味を付与することができる物質をいう。例えば、高甘味度甘味料、糖類及び糖アルコールは甘味物質に該当する。ここでいう高甘味度甘味料とは、厚生労働大臣が指定した「指定添加物」と長年使用されてきた天然添加物として品目が決められている「既存添加物」に「甘味料」と分類されている物質をいう。「指定添加物」及び「既存添加物」に含まれる物質は日本食品添加物協会のホームページに記載されている。
【0047】
甘味料の具体例としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン、サッカリンカルシウム、サッカリンナトリウム、スクラロース、ネオテーム、アラビノース、カンゾウ抽出物、キシロース、ステビア、タウマチン、ラカンカ抽出物、ラムノース及びリボースが挙げられる。
【0048】
糖類の具体例としては、果糖ぶどう糖液糖、砂糖、麦芽糖及び乳糖が挙げられる。
【0049】
糖アルコールの具体例としては、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、キシリトール及びマルチトールが挙げられる。
【0050】
甘味物質としては、一種類の物質が用いられてもよく、複数の種類の物質が用いられてもよい。好ましくは、甘味物質は、アセスルファムカリウム、スクラロース、果糖ぶどう糖液糖等である。
【0051】
本発明のアルコール飲料は、好ましくは、酸味物質を含有する。酸味物質とは、飲料に酸味を付与することができる物質をいう。一般に、酸味物質は酸味料、及び人体に無害な酸又はその塩である。ここでいう酸味料とは、上記「指定添加物」及び「既存添加物」に「酸味料」と分類されている物質をいう。
【0052】
酸味料の具体例としては、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム及びリン酸が挙げられる。これらは、カリウム塩やナトリウム塩といった塩の形態で用いることも可能であるし、緩衝液の形態で用いることも可能である。
【0053】
酸味物質としては、一種類の物質が用いられてもよく、複数の種類の物質が用いられてもよい。好ましくは、酸味物質は、クエン酸等である。
【0054】
本発明のアルコール飲料は、要すれば、フルーツフレーバーを含有する。フルーツフレーバーは食用果実の香りを再現した香料である。フルーツフレーバーはアルコール飲料の清涼感及びスッキリ感を増強させて、飲みやすくするために含有させる。フルーツフレーバーとしては、一種類のフレーバーが用いられてもよく、複数の種類のフレーバーが用いられてもよい。
【0055】
本発明のアルコール飲料では、更に必要に応じて、色素、香料、ビタミン類、アミノ酸、水溶性食物繊維、安定化剤、乳化剤等、炭酸アルコール飲料の分野で通常用いられている原料や食品添加物を用いてもよい。色素の具体例としては、カラメル等が挙げられる。
【0056】
本発明のアルコール飲料の製造方法は、一例として次に説明するとおり、アルコール飲料を製造する際に通常行われる工程を包含する。飲用水、果実エキス、アルコール、及び甘味物質、酸味物質、フルーツフレーバー、食品添加物等のその他の成分を所定量、均一に混合する。次いで、得られた混合液を冷却する。必要に応じてカーボネーションを行う。その後、容器に充填・密封することにより目的とするアルコール飲料を製造することができる。カーボネーション後に膜ろ過フィルターを用いてろ過してもよい。また、濃厚な状態で中間液を作成した後に、水又は炭酸水で希釈してアルコール飲料を調製してもよい。
【0057】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
非加熱レモンエキスの添加による香味改善
表1に示す原料を所定量配合することによりレモンアルコール飲料ベース液を調製した。レモン香料としては、汎用品を使用した。
【0059】
【0060】
レモンアルコール飲料ベース液は複数に分割し、それぞれに、湘南香料社製非加熱レモンエキスを所定量添加した。非加熱レモンエキスの添加量は濃度0~10g/Lの範囲で変化させた。
【0061】
非加熱レモンエキスは、凍結した生のレモンを原料として使用し、液化炭酸ガスを溶媒として使用して常温で抽出されたものである。
【0062】
得られたレモンアルコール飲料を官能試験に供した。レモンアルコール飲料の官能試験は次のようにして行った。
【0063】
果実風味アルコール飲料の開発担当パネル5名が各飲料を試飲し、(1)レモンらしい香味、(2)香味のフレッシュ感、(3)劣化臭、(4)エタノールの苦味、刺激、(5)飲料としての総合評価について、高いものを5、低いものを1として、5段階評価した。評価点は、5名の採点の平均値を採用した。結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
無添加の対照区に対し、非加熱レモンエキスを添加した試験区1~7において、香味のレモンらしさ、フレッシュ感が高く、劣化臭やエタノール起因の苦味や刺激が抑えられていた。特に非加熱レモンエキスを0.05~5g/100ml添加した試験区2~6の評価が高かった。
【0067】
<実施例2>
レモンエキス、レモン果汁を添加した場合の殺菌処理による影響
各種濃度の非加熱レモンエキスの代わりに、0.1g/Lの加熱レモンエキス汎用品、0.1g/Lの上記非加熱レモンエキス、又は1v/v%のレモン濃縮果汁汎用品をそれぞれ使用すること以外は実施例1と同様にしてレモンアルコール飲料を製造した。
【0068】
尚、加熱レモンエキス汎用品は、生のレモンを原料として使用し、加熱濃縮されたものである。
【0069】
次いで、各レモンアルコール飲料を殺菌処理に供した。殺菌処理の内容は、65℃で20分間加熱することである。
【0070】
実施例1と同様にして、殺菌処理の前後のレモンアルコール飲料を官能試験に供した。結果を表3に示す。尚、表中の「〇」はエキス又は果汁を配合したか殺菌処理を行ったことを示し、「×」はエキス又は果汁を配合していないか殺菌処理を行っていないことを示す。
【0071】
【0072】
【0073】
実験の結果、非加熱レモンエキスを添加し、殺菌処理を行わない試験区2が最も香味のレモンらしさ、フレッシュ感が高く、劣化臭、エタノール起因の苦味及び刺激が抑制された。非加熱レモンエキスを添加した場合は、殺菌処理を行った試験区4でも、高い香味改善効果が認められた。
【0074】
加熱レモンエキスを添加した場合は、殺菌処理を行わない試験区1で、殺菌処理を行った試験区3と比較して高い香味改善効果が確認された。
【0075】
<実施例3>
非加熱レモンエキスを添加した場合のアルコール濃度による影響
非加熱レモンエキスの濃度を0g/L及び0.1g/Lに調節し、アルコール濃度を3~12v/v%に調節すること以外は実施例1と同様にしてレモンアルコール飲料を製造し、レモンアルコール飲料を官能試験に供した。結果を表4に示す。尚、表中の「〇」はエキスを配合したことを示し、「×」はエキスを配合していないことを示す。
【0076】
【0077】
【0078】
実験の結果、アルコール3~10%の濃度範囲において、非加熱抽出レモンエキスを加えたサンプルの香味のレモンらしさ、フレッシュ感が高く、劣化臭及びエタノールに起因する苦味、刺激が抑制された。
【0079】
<実施例4>
ぶどうエキス、ぶどう果汁を添加した場合の殺菌処理による影響
表5に示す原料を所定量配合することによりぶどうアルコール飲料ベース液を調製した。ぶどう香料としては、汎用品を使用した。
【0080】
【0081】
レモンアルコール飲料ベース液の代わりにぶどうアルコール飲料ベース液を、加熱レモンエキスの代わりに加熱ぶどうエキス汎用品を、非加熱レモンエキスの代わりに非加熱ぶどうエキス(湘南香料社製)を、レモン果汁の代わりにぶどう果汁汎用品を使用すること以外は実施例2と同様にしてぶどうアルコール飲料を製造し、殺菌処理を施し、官能試験に供した。結果を表6に示す。
【0082】
尚、非加熱ぶどうエキスは、凍結した生のぶどうを原料として使用し、液化炭酸ガスを溶媒として使用して常温で抽出されたものである。
【0083】
加熱ぶどうエキスは生のぶどうを原料として使用し、加熱濃縮されたものである。
【0084】
【0085】
【0086】
実験の結果、非加熱ぶどうエキスを添加し、殺菌処理を行わない試験区2が最も香味のぶどうらしさ、フレッシュ感が高く、劣化臭、エタノール起因の苦味及び刺激が抑制された。非加熱ぶどうエキスを添加した場合は、殺菌処理を行った試験区4でも、香味改善効果が認められた。
【0087】
加熱ぶどうエキスを添加した場合は、殺菌処理を行わない試験区1で、殺菌処理を行った試験区3と比較して高い香味改善効果が確認された。
【0088】
<実施例5>
レモンエキス、レモン果汁を添加した場合の保存安定性
実施例1と同様にしてレモンアルコール飲料ベース液(表1)を調製し、これを4つに分割し、それぞれに(1)レモン果汁1%、(2)レモン果汁1%及び加熱レモンエキス0.1g/L、(3)加熱レモンエキス0.1g/L、及び(4)非加熱レモンエキス0.1g/Lを添加し、炭酸ガス付けした。
【0089】
得られた上記4種の飲料を350mlの缶に詰め、65℃で20分間加熱することで殺菌処理を行った。その後上記4種の容器詰め飲料を60℃でそれぞれ3日間及び5日
間保存し、それぞれの飲料について未保存(0日)の飲料の評価点を0点とした官能評価を実施した。官能評価項目、および評価パネルは実施例1と同様である。
結果を表7に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
果汁を使用せずに果実エキスのみを使用した飲料では、果汁又は果汁と果実エキスを使用した飲料と比較して強制劣化試験後の香味のレモンらしさ、フレッシュ感が維持され、劣化臭、エタノールの苦味、刺激臭の発生が抑制され、飲料としての総合評価が高い結果となった。果汁を使用せず果実エキスのみを使用することで、保存による香味劣化が抑制された。
【0093】
また実施例2、4で、加熱エキス、または非加熱エキスを用い加熱殺菌した飲料において、非加熱エキスを用いた場合の方が香味の評価が高い結果となっていること、および実施例5で加熱エキス、非加熱エキスのいずれを用いた場合でも、保存試験後の香味の劣化が同程度であることから、保存前、保存後のいずれの飲料についても非加熱エキスを用いた場合の方が香味劣化が抑制されていることが示された。