(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インクセット及び捺染物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20220823BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220823BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220823BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/572 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20220823BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20220823BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20220823BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/322
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 132
D06M15/564
D06M15/572
D06M15/263
D06M15/227
D06M15/05
D06P5/30
D06P5/00 104
(21)【出願番号】P 2018123076
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴久
(72)【発明者】
【氏名】甲 こころ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014372(JP,A)
【文献】特開2002-019263(JP,A)
【文献】特開2016-210977(JP,A)
【文献】特開2011-105805(JP,A)
【文献】特開2018-003184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/54
C09D 11/322
B41J 2/01
B41M 5/00
D06M 15/564
D06M 15/572
D06M 15/263
D06M 15/227
D06M 15/05
D06P 5/30
D06P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性樹脂A、及び水を含むインクジェット捺染用前処理液と、
アニオン性樹脂B、顔料、及び水を含むインクジェット捺染用インクとを含み、
前記カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格と前記アニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、
前記カチオン性樹脂Aは、ウレタン骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bは、ウレタン骨格を有し、
前記カチオン性樹脂Aの含有量は、前記インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、
インクジェット捺染用インクセット。
【請求項2】
カチオン性樹脂A、及び水を含むインクジェット捺染用前処理液と、
アニオン性樹脂B、顔料、及び水を含むインクジェット捺染用インクとを含み、
前記カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格と前記アニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、前記カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、前記アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂であ
り、
前記カチオン性樹脂Aの含有量は、前記インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、
インクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
前記カチオン性樹脂Aがポリエステル型ウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、前記アニオン性樹脂Bがポリエステル型ウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂である、請求項
2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
カチオン性樹脂A及び水を含むインクジェット捺染用前処理液を布帛に付与する工程と、
前記インクジェット捺染用前処理液が付与された布帛に、アニオン性樹脂B、顔料及び水を含むインクジェット捺染用インクを用いてインクジェット記録法により画像を形成する工程とを含み、
前記カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格と前記アニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、
前記カチオン性樹脂Aは、ウレタン骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bは、ウレタン骨格を有し、
前記カチオン性樹脂Aの含有量は、前記インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、
捺染物の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、前記アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂である、請求項4に記載の捺染物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェット捺染用インクセット及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛に文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、顔料インクを用いたダイレクト方式のインクジェット捺染方法が注目されている。
【0003】
被服等に用いられる布帛では、画像の発色はもちろんのこと、高い摩擦堅牢性も求められている。
例えば、セルロース繊維等の水分を吸収して膨潤しやすい繊維を含む布帛は、顔料インクが繊維に定着しにくい性質があり、このため、湿潤摩擦堅牢度を確保しにくい傾向がある。
【0004】
捺染用顔料インクでは、摩擦堅牢度を向上させるため、ウレタン、アクリル、スチレン-アクリル等の樹脂を定着樹脂としたインクが提案されている(特許文献1~3)。
摩擦堅牢度を向上させる別の手法として、色材を含まない樹脂層で画像をコートして保護する方法が提案されている(特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-148563号公報
【文献】特開2015-160860号公報
【文献】特開2015-193742号公報
【文献】特開2010-150453号公報
【文献】特開2013-221141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3には、ウレタン、アクリル、スチレン-アクリル等の樹脂を用いたインクが記載されているが、インク中の樹脂だけでは布帛への定着が不十分な場合がある。特許文献4及び5に記載された技術では、印刷した後に後処理をする工程が増加するため、生産性の低下が課題となる。
本発明の一目的は、湿潤摩擦堅牢性に優れた捺染物を製造することが可能なインクジェット捺染用インクセット、及び、捺染物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、カチオン性樹脂A、及び水を含むインクジェット捺染用前処理液と、アニオン性樹脂B、顔料、及び水を含むインクジェット捺染用インクとを含み、前記カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格と前記アニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、前記カチオン性樹脂Aの含有量は、前記インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、インクジェット捺染用インクセットが提供される。
本発明の他の実施形態によれば、カチオン性樹脂A及び水を含むインクジェット捺染用前処理液を布帛に付与する工程と、前記インクジェット捺染用前処理液が付与された布帛に、アニオン性樹脂B、顔料及び水を含むインクジェット捺染用インクを用いてインクジェット記録法により画像を形成する工程とを含み、前記カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格と前記アニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、前記カチオン性樹脂Aの含有量は、前記インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、捺染物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態のインクジェット捺染用インクセットによれば、湿潤摩擦堅牢性に優れた捺染物を製造することができる。
本発明の他の実施形態の捺染物の製造方法によれば、湿潤摩擦堅牢性に優れた捺染物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。
【0010】
実施形態のインクジェット捺染用インクセットは、カチオン性樹脂A、及び水を含むインクジェット捺染用前処理液と、アニオン性樹脂B、顔料、及び水を含むインクジェット捺染用インクとを含み、カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格とアニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、カチオン性樹脂Aの含有量は、インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である、インクジェット捺染用インクセットである。
以下、「インクジェット捺染用インク」を、単に「インク」という場合もある。また、「インクジェット捺染用前処理液」を単に「前処理液」という場合もある。また、「インクジェット捺染用インクセット」を単に「インクセット」という場合もある。
【0011】
このインクジェット捺染用インクセットによれば、湿潤摩擦堅牢性に優れた捺染物を製造することができる。この理由として、特定の理論の拘束されるものではないが、下記のように推察される。
前処理液中のカチオン性樹脂A、及び、インク中のアニオン性樹脂Bは、いずれも布帛に付与された後に布帛上で皮膜を作り、定着樹脂として機能する。前処理液がカチオン性樹脂Aを含み、インクがアニオン性樹脂Bを含むことで、インクと前処理液との間にアニオン-カチオン反応が生じ、インク及び前処理液の布帛への定着が高められると考えられる。また、前処理液のカチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格とインクのアニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格が少なくとも部分的に同じである場合、前処理液皮膜とインク皮膜との親和性が高まり、インク及び前処理液の布帛への定着がさらに高められると考えられる。
また、前処理液中のカチオン性樹脂Aの含有量が前処理液全量に対し2質量%以上であるとき、前処理液皮膜と布帛との接着性を向上させやすく、前処理液中のカチオン性樹脂Aの含有量が前処理液全量に対し10質量%以下であるとき、前処理液の流動性を良好としやすく、このため、塗工ムラが生じにくくなる。
これらにより、湿潤摩擦堅牢性を向上することができると考えられる。
また、前処理液がカチオン性樹脂Aを含み、インクがアニオン性樹脂Bを含み、前処理液中のカチオン性樹脂Aの含有量が前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下であるとき、良好な発色を得ることもできる。
【0012】
以下、前処理液及びインクについて説明する。
まず、前処理液に含まれるカチオン性樹脂A及びインクに含まれるアニオン性樹脂Bについて説明する。
【0013】
カチオン性樹脂Aの例としては、カチオン性基を有する樹脂が挙げられ、このような樹脂として、例えば、カチオン性基を主鎖または側鎖に備える樹脂骨格を有する樹脂が挙げられる。カチオン性基の例としては、第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等が挙げられる。
カチオン性樹脂Aの例としては、カチオン性の分散剤によって表面処理された樹脂も挙げられる。カチオン性の分散剤の例としては、例えば、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。
カチオン性樹脂Aの樹脂骨格としては、例えば、ウレタン骨格、(メタ)アクリル骨格、オレフィン骨格、ビニル骨格、セルロース骨格、デンプン骨格等が挙げられ、1種または2種以上を有してよい。
「(メタ)アクリル骨格」は、アクリル骨格、メタクリル骨格またはこれらの組合せを意味する。「(メタ)アクリル骨格」を有する樹脂は、アクリル骨格、メタクリル骨格、または両者を有してよい。
【0014】
カチオン性樹脂Aは、水分散性樹脂又は水溶性樹脂であってよい。
カチオン性樹脂Aは、水分散性樹脂の場合、例えば、ウレタン骨格、(メタ)アクリル骨格、オレフィン骨格等から選択される少なくとも1種を有する樹脂であってよい。水分散性カチオン性樹脂としては、具体的には、例えば、カチオン性ウレタン樹脂、カチオン性(メタ)アクリル樹脂、カチオン性ポリオレフィン樹脂(例えばカチオン性ポリエチレン樹脂)等が挙げられる。
カチオン性樹脂Aは、水溶性樹脂の場合、例えば、ビニル骨格、セルロース骨格、デンプン骨格から選択される少なくとも1種を有する樹脂であってよい。水溶性カチオン性樹脂としては、具体的には、例えば、カチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性デンプン、カチオン性セルロース誘導体(例えば、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等)が挙げられる。
【0015】
アニオン性樹脂Bの例としては、アニオン性基を有する樹脂が挙げられる。このような樹脂として、例えば、アニオン性基を主鎖または側鎖に備える樹脂骨格を有する樹脂が挙げられる。アニオン性基の例としては、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。
アニオン性樹脂Bの例としては、アニオン性の分散剤によって表面処理された樹脂も挙げられる。アニオン性の分散剤の例としては、例えば、アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
アニオン性樹脂Bの樹脂骨格としては、例えば、ウレタン骨格、(メタ)アクリル骨格、オレフィン骨格、ビニル骨格、セルロース骨格、デンプン骨格等が挙げられ、1種または2種以上有してよい。
【0016】
アニオン性樹脂Bは、水分散性樹脂又は水溶性樹脂であってよい。
アニオン性樹脂Bは、水分散性樹脂の場合は、例えば、ウレタン骨格、(メタ)アクリル骨格、オレフィン骨格等から選択される少なくとも1種を含む樹脂であってよい。水分散性アニオン性樹脂としては、具体的には、例えば、アニオン性ウレタン樹脂、アニオン性(メタ)アクリル樹脂、アニオン性ポリオレフィン樹脂(例えばアニオン性ポリエチレン樹脂)等が挙げられる。
アニオン性樹脂Bは、水溶性樹脂の場合は、例えば、ビニル骨格、セルロース骨格、デンプン骨格等から選択される少なくとも1種を含む樹脂であってよい。水溶性アニオン性樹脂としては、具体的には、例えば、アニオン性ポリビニルアルコール、アニオン性デンプン、アニオン性セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース等)が挙げられる。
【0017】
湿潤摩擦堅牢性の向上の観点から、カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格とアニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであることが好ましい。
カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格とアニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格が少なくとも部分的に同じであるカチオン性樹脂Aとアニオン性樹脂Bとの組合せとしては、例えば、カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有し、アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する組合せ、カチオン性樹脂Aが(メタ)アクリル骨格を有し、アニオン性樹脂が(メタ)アクリル骨格を有する組合せ、カチオン性樹脂Aがオレフィン骨格(例えばポリエチレン骨格)を有し、アニオン性樹脂Bがオレフィン骨格(例えばポリエチレン骨格)を有する組合せ、カチオン性樹脂Aがセルロース骨格を有し、アニオン性樹脂Bがセルロース骨格を有する組合せ、カチオン性樹脂Aがビニル骨格を有し、アニオン性樹脂Bがビニル骨格を有する組合せ、カチオン性樹脂Aがデンプン骨格を有し、アニオン性樹脂Bがデンプン骨格を有する組合せ等が挙げられる。
なかでも、下記の(1)~(4)の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(1)前記カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する。
(2)前記カチオン性樹脂Aが(メタ)アクリル骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bが(メタ)アクリル骨格を有する。
(3)前記カチオン性樹脂Aがポリエチレン骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bがポリエチレン骨格を有する。
(4)前記カチオン性樹脂Aがセルロース骨格を有し、前記アニオン性樹脂Bがセルロース骨格を有する。
【0018】
カチオン性樹脂Aに含まれる全単位に対して、アニオン性樹脂と共通する樹脂骨格を形成する単位は、30モル%以上が好ましく、50モル%以上が好ましく、100モル%であってもよい。同様に、アニオン性樹脂Aに含まれる全単位に対して、カチオン性樹脂と共通する樹脂骨格部分を形成する単位は、30モル%以上が好ましく、50モル%以上が好ましく、100モル%であってもよい。
例えば、カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有する樹脂であり、アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する樹脂である場合、カチオン性樹脂Aに含まれる全単位に対して、ウレタン骨格のウレタン結合を含む単位は、50モル%以上が好ましく、100モル%であってもよい。同様に、アニオン性樹脂Bに含まれる全単位に対して、ウレタン骨格のウレタン結合を含む単位は、50モル%以上が好ましく、100モル%であってもよい。
【0019】
湿潤摩擦堅牢性をさらに高める点から、カチオン性樹脂A及びアニオン性樹脂Bは、それぞれ、皮膜になった場合に水に溶けにくい水分散性樹脂が好ましい。カチオン性樹脂Aが水分散性カチオン性樹脂であり、アニオン性樹脂Bが水分散性アニオン性樹脂であることが好ましい。
カチオン性水分散性樹脂及びアニオン性水分散性樹脂の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。カチオン性樹脂の表面電荷量は、+50eq/g以上であることが好ましく、+80eq/g以上であることがさらに好ましい。アニオン性樹脂の表面電荷量は、-30eq/g以下であることが好ましく、-60eq/g以下であることがさらに好ましい。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計Model CAS等を用いることができる。
【0020】
水分散性樹脂の中でも、湿潤摩擦堅牢性をさらに高める点から、ウレタン骨格を有する樹脂が好ましく、カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂であることが好ましい。ウレタン骨格を有する樹脂は、樹脂皮膜の伸度が比較的高く、繊維の伸縮に対してインクや前処理の皮膜が追従しやすいため、剥れ落ちにくく、定着性に優れる傾向があり、湿潤摩擦堅牢性をさらに向上させやすい。
【0021】
ウレタン骨格としては、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン骨格、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン骨格、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン骨格、などが挙げられる。
【0022】
カチオン性樹脂Aがウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、アニオン性樹脂Bがウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂である場合、カチオン性樹脂Aは、ポリエーテル型ウレタン骨格、ポリエステル型ウレタン骨格、ポリカーボネート型ウレタン骨格等のいずれウレタン骨格を有してもよく、アニオン性樹脂Bも、ポリエーテル型ウレタン骨格、ポリエステル型ウレタン骨格、ポリカーボネート型ウレタン骨格等のいずれのウレタン骨格を有してもよい。例えば、カチオン性樹脂Aが、ポリエーテル型ウレタン骨格を有するとき、アニオン性樹脂Bは、ウレタン骨格として、ポリエーテル型ウレタン骨格、ポリエステル型ウレタン骨格、ポリカーボネート型ウレタン骨格等のいずれのウレタン骨格を有してもよい。カチオン性樹脂Aが、ポリエステル型ウレタン骨格、ポリカーボネート型ウレタン骨格等の他のウレタン骨格を有する場合も同様である。
湿潤摩擦堅牢性をさらに向上させる観点から、カチオン性樹脂A及びアニオン性樹脂Bの少なくともいずれか一方がポリエステル型ウレタン骨格を有することがより好ましい。カチオン性樹脂Aがポリエステル型ウレタン骨格を有する水分散性カチオン性樹脂であり、アニオン性樹脂Bがポリエステル型ウレタン骨格を有する水分散性アニオン性樹脂であることがさらに好ましい。
【0023】
カチオン性の水分散性樹脂の市販品の例としては、(メタ)アクリル骨格を有する樹脂の市販品の例としては、DIC株式会社製のボンコートSFC55、三菱ケミカル株式会社製のリカボンドET-664、リカボンドES-330、昭和電工株式会社製のポリゾールAE-803、ポリゾールAM-3400、互応化学株式会社製のRD-1250等が挙げられ、ウレタン骨格を有する樹脂の市販品の例としては、ポリエステル型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス620、DIC株式会社製のボンディック1230L等、ポリカーボネート型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス650、株式会社村山化学研究所製サンプレックスPUE-950、サンプレックスPUE-800等、ポリエーテル型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス600等が挙げられ、オレフィン骨格を有する樹脂の市販品の例としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のAQUACER 840(カチオン性ポリエチレン樹脂)等が挙げられる。
カチオン性の水溶性樹脂の市販品の例としては、セルロース骨格を有する樹脂の市販品の例として、花王株式会社製ポイズC-60H(セルロース誘導体)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のレオガードMLP、レオガードLP、レオガードMGP、レオガードG、レオガードGP、レオガードGPS、レオガードKG(いずれもセルロース誘導体)等が挙げられる。
【0024】
アニオン性の水分散性樹脂の市販品の例としては、(メタ)アクリル骨格を有する樹脂の市販品の例としては、日信化学工業株式会社製のビニブラン2585、DIC株式会社製のボンコートCM-8430、ボンコートHY-364、ボンコート5400EF、ボンコートVF-1060等が挙げられ、ウレタン骨格を有する樹脂の市販品の例としては、ポリエステル型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス210、スーパーフレックス860等、ポリカーボネート型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス460、スーパーフレックス460S、スーパーフレックス470等、ポリエーテル型ウレタン骨格を有する樹脂の例としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス130、DIC株式会社製ハイドランWLS-201等が挙げられ、オレフィン骨格を有する樹脂の市販品の例としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のAQUAMAT 263(アニオン性ポリエチレン樹脂)等が挙げられる。
アニオン性の水溶性樹脂の市販品の例としては、セルロース骨格を有する樹脂の市販品の例として三晶株式会社製Finnfix 4000G、Finnfix 300(いずれもセルロース誘導体)等が挙げられる。
【0025】
前処理液についてさらに説明する。
前処理液は、インクを用いて画像を形成する前に、基材である布帛に付与することができる。
前処理液は、上述のカチオン性樹脂A及び水を含むことが好ましい。
【0026】
カチオン性樹脂Aの含有量は、前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
前処理液中のカチオン性樹脂Aの含有量は、潤摩擦堅牢性改善の点から、前処理液全量に対し2質量%以上が好ましく、例えば、2.5質量%以上又は3質量%であってよい。カチオン性樹脂Aの含有量は、潤摩擦堅牢性改善及び良好な発色の点から、前処理液全量に対し10質量%以下が好ましく、例えば、9質量%以下、又は8質量%以下であってよい。
【0027】
前処理液は、水性溶媒として主に水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
水は、前処理液中に、前処理液全量に対して60質量%以上含まれることが好ましく、65質量%以上含まれることがより好ましい。前処理液中の水の含有量は、例えば、95質量%以下であってよい。
【0028】
前処理液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
界面活性剤としては、例えば、後述するインクに配合することができる界面活性剤として例示されるものを1種または2種以上用いることができる。
前処理液中の界面活性剤の量は、前処理液全量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。前処理液中の界面活性剤の量は、前処理液全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、10質量%以下が好ましい。
【0029】
前処理液は、必要に応じて、例えば、水溶性有機溶剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。
【0030】
前処理液の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。
例えば、スリーワンモーター等の公知の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して撹拌して調製できる。
【0031】
インクについてさらに説明する。
インクは、上述のアニオン性樹脂B、顔料及び水を含むことが好ましい。
【0032】
アニオン性樹脂Bの含有量は、特に限定されない。アニオン性樹脂Bの含有量は、インクの布帛への定着性を高める観点からインク全量に対し1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。アニオン性樹脂Bの含有量は、インクの吐出不良を防止する観点からインク全量に対し20質量%以下が好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
顔料は、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。
顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料の含有量は、印刷濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0034】
非白色の顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。
これらの顔料の平均粒径は、発色性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。これらの顔料の平均粒径は、例えば、50~500nmであることが好ましく、50~200nmであることがより一層好ましい。
【0035】
白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムなどの無機顔料が挙げられる。無機顔料以外に、中空樹脂微粒子や、高分子微粒子を使用することもできる。中でも、隠蔽力の観点から、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの平均粒径は、隠蔽性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを使用することが好ましい。表面処理量は、顔料中に5~20質量%程度であることが好ましい。
【0036】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤型分散剤に代表される顔料分散剤を使用することが好ましい。
高分子分散剤としては、たとえば市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ(TEGOディスパース740W、TEGOディスパース750W、TEGOディスパース755W、TEGOディスパース757W、TEGOディスパース760W)、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース41000、ソルスパース41090、ソルスパース43000、ソルスパース44000、ソルスパース46000)、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリル61J、ジョンクリル62、ジョンクリル63、ジョンクリル71、ジョンクリル501)、BYK製のDISPERBYK-102、DISPERBYK-185、DISPERBYK-190、DISPERBYK-193、DISPERBYK-199、富士フイルム和光純薬株式会社製のポリビニルピロリドンK-30、ポリビニルピロリドンK-90等が挙げられる。
界面活性剤型分散剤としては、たとえば、花王株式会社製デモールシリーズ(デモールEP、デモールN、デモールRN、デモールNL、デモールRNL、デモールT-45)などのアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA-60、エマルゲンA-90、エマルゲンA-500、エマルゲンB-40、エマルゲンL-40、エマルゲン420)、日信化学工業株式会社製サーフィノールシリーズ(サーフィノールCT111、サーフィノールCT121、サーフィノールCT131、サーフィノールCT136、サーフィノールCT151、サーフィノールTG、サーフィノールGA)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0037】
これらの顔料分散剤は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の配合量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分(固形分量)の質量比で顔料1に対し、0.005~2.0の範囲で使用されることが好ましい。
【0038】
顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を使用してもよい。自己分散顔料の市販品としては、たとえば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ(CAB-O-JET200、CAB-O-JET300、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET270)、オリヱント化学株式会社製BONJET BLACK CW-1S、CW-2、CW-3などが挙げられる。
顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
【0039】
顔料としては、画像濃度向上の点から、アニオン性顔料が好ましい。アニオン性顔料の例としては、例えば、スルホ基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基、リン酸基等のアニオン性基を顔料に導入したものが挙げられ、例えば、親水性官能基としてアニオン性基が表面に導入された自己分散顔料等が挙げられる。
【0040】
インクは、水性溶媒として主に水を含むことが好ましい。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの保存安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が低いことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
水は、粘度調整の観点から、インク中に、インク全量に対して20質量%~95質量%含まれていることが好ましく、30質量%~90質量%含まれていることがより好ましい。
【0041】
インクは、水溶性有機溶剤を含有してもよい。
水溶性有機溶剤としては、粘度調整と保湿効果の観点から、室温で液体であって水に溶解可能な水溶性有機溶剤が好ましい。たとえば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン等のグリセリン類;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノn‐ブチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、β-チオジグリコール、スルホラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等を用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190~630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200~600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250~800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。
【0042】
これらの水溶性有機溶剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、例えば、インク中に、インク全量に対して、1~80質量%含まれていることが好ましく、1~60質量%であることがより好ましく、例えば、1~50質量%、5~40質量%であってよい。
【0043】
インクは、その他の成分を適宜含んでもよい。その他の成分としては、分散助剤、表面張力調整剤(界面活性剤)、酸化防止剤、防腐剤、架橋剤等が挙げられる。
【0044】
ここでいう分散助剤とは、すでに分散されている顔料分散体に追加で添加する分散剤のことで、分散助剤としては、一般的な分散剤を使用することができる。市販品としては、上述の顔料分散剤の例として挙げたものを用いることができる。
【0045】
表面張力調整剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤を使用できる。
【0046】
この界面活性剤を配合することにより、インクジェット方式でインクを安定に吐出させることがより容易となり、かつ、インクの浸透を適切に制御しやすくすることができるために好ましい。その添加量は(顔料分散剤として界面活性剤が使用される場合はその合計量として)、界面活性剤の種類によっても異なるが、インクの表面張力、及び、布帛等の基材への浸透速度の観点から、インク中に0.1~10質量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、花王株式会社製エマールシリーズ(エマール0、エマール10、エマール2F、エマール40、エマール20C)、ネオペレックスシリーズ(ネオペレックスGS、ネオペレックスG-15、ネオペレックスG-25、ネオペレックスG-65)、ペレックスシリーズ(ペレックスOT-P、ペレックスTR、ペレックスCS、ペレックスTA、ペレックスSS-L、ペレックスSS-H)、デモールシリーズ(デモールN、デモールNL、デモールRN、デモールMS)が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、花王株式会社製アセタミンシリーズ(アセタミン24、アセタミン86)、コータミンシリーズ(コータミン24P、コータミン86P、コータミン60W、コータミン86W)、サニゾールシリーズ(サニゾールC、サニゾールB-50)が挙げられる。
【0048】
非イオン性界面活性剤としては、エアプロダクツ社製サーフィノールシリーズ(サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485)及び日信化学工業株式会社製のオルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020などのアセチレングリコール系界面活性剤や、花王株式会社製エマルゲンシリーズ(エマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン120、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン220、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン420、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン4085、エマルゲン2025G)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。
【0049】
両性界面活性剤としては、花王株式会社製アンヒトールシリーズ(アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20YB、アンヒトール20N)などが挙げられる。
【0050】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤が好ましい。市販品では「シルフェイスSAGシリーズ」(日信化学工業株式会社製)を好ましく使用できる。
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤および/またはシリコーン系界面活性剤を使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤および/またはシリコーン系界面活性剤を使用することで、少量の添加でもインクの表面張力を下げることが可能となる。
【0051】
インクの粘度は適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0052】
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。
例えば、スリーワンモーター等の公知の攪拌機又は分散機に全成分を一括又は分割して投入して撹拌又は分散し、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
【0053】
インクのインクジェット記録方式としては、例えば、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式であってもよい。
【0054】
本実施形態のインクセットは、布帛への印刷に好ましく用いることができる。
布帛は、特に限定されないが、例えば、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、キュプラ等の任意の天然繊維及び/又は合成繊維を含む布帛を用いることができる。布帛としては、織物、編物、または不織布等が挙げられる。
例えば、綿等のセルロース繊維を含む布帛は、セルロース繊維を含むため、水分を吸収して膨潤しやすく、顔料インクが繊維に定着しにくい傾向があり、このため、湿潤摩擦堅牢性を確保しにくい傾向がある。しかし、本実施形態のインクセットによれば、綿などのセルロース繊維を含む布帛に対しても、湿潤摩擦堅牢性の優れた捺染物を製造することができる。
【0055】
<捺染物の製造方法>
実施形態の捺染物の製造方法は、カチオン性樹脂A及び水を含むインクジェット捺染用前処理液を布帛に付与する工程(以下、「工程1」という場合もある。)と、インクジェット捺染用前処理液が付与された布帛に、アニオン性樹脂B、顔料及び水を含むインクジェット捺染用インクを用いてインクジェット記録法により画像を形成する工程(以下、「工程2」という場合もある。)とを含み、カチオン性樹脂Aに含まれる樹脂骨格とアニオン性樹脂Bに含まれる樹脂骨格は、少なくとも部分的に同じであり、カチオン性樹脂Aの含有量は、インクジェット捺染用前処理液全量に対し2質量%以上10質量%以下である。
インクジェット捺染用前処理液、インクジェット捺染用インク、及び、布帛については、それぞれ、上述のインクセットにおいて説明したものを用いることができ、上述のインクセットにおける説明を適用することができる。
この捺染物の製造方法によれば、湿潤摩擦堅牢性の優れた捺染物を製造することができる。
【0056】
工程1において、前処理液は、布帛の、少なくとも工程2で画像を形成する領域(以下、「印刷領域」という場合もある。)に付与することが好ましく、印刷領域を含む布帛の全面に付与してもよい。
工程1における前処理液の付与は、特に限定されないが、例えば、パディング法、コーティング法、スクリーン印刷法、インクジェット法、又はスプレー法等の方法によって行うことができる。
前処理液の布帛への付与量は、例えば、10~200g/m2、または、80~150g/m2であってよい。また、前処理液の布帛への付与量は、布帛質量に対して、例えば、1~120質量%、または、20~100質量%であってよい。
【0057】
工程2では、インクジェットヘッドを布帛上で走査してインクを所望の位置に付与することにより、布帛上に画像を形成することができる。使用するインクジェット記録法及び装置としては公知のものを使用できる。使用するインクジェット記録装置は、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、例えば、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出されたインク液滴を基材上に付着させる。
市販されているインクジェット記録装置の例としては、セイコーエプソン株式会社製EPSON PX-V700、EPSON PM-40000PX、株式会社ミマキエンジニアリング製TX-1600S、富士フイルム株式会社製FUJIFILM DMP-2831、株式会社マスターマインド製MMP-8130などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
インクの布帛への付与量は特に限定されないが、風合いの観点から、布帛の単位面積あたり、500g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより好ましく、50g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0059】
捺染物の製造方法は、布帛を加熱処理する加熱工程をさらに含んでもよい。
例えば、工程1の後、及び/又は、工程2の後に、布帛を加熱処理する加熱工程を行うことが好ましい。加熱処理を行うことで、樹脂を布帛の表面に融着させ、かつ、インク及び前処理液に含まれる水分を蒸発させることができる。加熱工程を行うことにより、より耐刷性に優れた画像が得られる傾向がある。加熱処理方法は、特に限定されないが、例えば、ホットプレートでの加熱、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。加熱処理時の温度は、例えば、樹脂を融着し、かつ、水分を蒸発させることができればよく、100℃~220℃が好ましく、150~200℃程度がより好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」である。表中の各成分の配合量も「質量%」で示す。
【0061】
<前処理液の調製>
表1に記載の原材料を混合し、スリーワンモーターで100rpmの速度で1分間撹拌し、前処理液A~Jを得た。表1及び3において「固形分濃度」は、樹脂については樹脂固形分濃度を示し、顔料分散体については顔料の濃度を示す。
【0062】
【0063】
表1に記載の材料は以下の通りである。表1中の各材料の配合量は、下記の各製品としての配合量である。
(水分散性樹脂)
スーパーフレックス620:ポリエステル型ウレタン樹脂の水分散体(固形分30質量%)(第一工業製薬株式会社製)
スーパーフレックス650:ポリカーボネート型ウレタン樹脂の水分散体(固形分26質量%)(第一工業製薬株式会社製)
スーパーフレックス500M:ポリエステル型ウレタン樹脂の水分散体(固形分45質量%)(第一工業製薬株式会社製
ボンコートSFC55:アクリル樹脂の水分散体(固形分40質量%)(DIC株式会社製)
AQUACER840:ポリオレフィン樹脂の水分散体(固形分35質量%)(ビックケミー株式会社製)
(水溶性樹脂)
ポイズC-60H:セルロース誘導体(固形分90質量%)(花王株式会社製)
(界面活性剤)
シルフェイスSAG503A:シリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製)
【0064】
<顔料分散体の調製>
表2に記載の原材料を混合し、超音波ホモジナイザー「Ultrasonic processor VC-750」(ソニックス社製)を用いて約13MPaの振動条件で10分間分散することにより顔料分散体1及び2を作製した。
【0065】
【0066】
表2に記載の材料は以下の通りである。表2中の各材料の配合量は、下記の各製品としての配合量である。
(顔料)
カーボンブラック:カーボンブラックMA-230(C.I.ピグメントブラック7)(三菱化学株式会社製)
フタロシアニン:FASTOGEN BLUE LA5380(C.I.ピグメントブルー15:3(DIC株式会社製)
(顔料分散剤)
ジョンクリル61J:高分子分散剤(ジョンソンポリマー社製)(有効成分30.5%)
サーフィノールGA:非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製)(有効成分85%)
【0067】
<インクの調製>
表3に記載の原材料を混合し、スリーワンモーターで100rpmの速度で1分間撹拌した。撹拌後、0.8μmのメンブレンフィルターで濾過し、インク1~6を得た。
【0068】
【0069】
表3に記載の材料は以下の通りである。表3中、顔料分散体の配合量は、各顔料分散体(顔料分散体1又は2)としての配合量である。また、その他の材料の配合量も、それぞれ、下記の各製品の配合量である。
(顔料分散体)
顔料分散体1:上記で製造
顔料分散体2:上記で製造
(水分散性樹脂)
スーパーフレックス860:ポリエステル型ウレタン樹脂の水分散体(固形分40質量%)(第一工業製薬株式会社製)
スーパーフレックス470:ポリカーボネート型ウレタン樹脂の水分散体(固形分38質量%)(第一工業製薬株式会社製)
ビニブラン2585:アクリル樹脂の水分散体(固形分45質量%)(日信化学工業株式会社製)
AQUAMAT263:ポリオレフィン樹脂の水分散体(固形分35質量%)(ビックケミー株式会社製)
(水溶性樹脂)
Finnfix4000G:セルロース誘導体(三晶株式会社製)
(界面活性剤)
シルフェイスSAG503A:シリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製)
【0070】
<捺染物の作製>
作製した前処理液及びインクを用いて、下記のように各実施例及び比較例の捺染物(捺染印刷物)を作製した。
【0071】
綿100%のオックスフォード生地を210mm×74mmに裁断したものを試験片とした。
表4に記載の前処理液を、パディング法で試験片に付与した。前処理液の付与量は、試験片(布帛)質量の100質量%とした。前処理液付与後、試験片を、Hotronix Fusionヒートプレス(Stahls Hotronix社製)を用いて150℃で60秒間加熱した。
表4に記載のインクを株式会社マスターマインド製インクジェットプリンターMMP813BT-Cに導入し、前処理液の付与及び加熱が行われた試験片に、単色ベタ画像をインクジェット印刷した。インク付与量は約20g/m2とした。印刷後、試験片を、Hotronix Fusionヒートプレスを用いて150℃で60秒間加熱した。
【0072】
<評価>
作製した捺染物の湿潤摩擦堅牢性及び画像濃度を、以下の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0073】
(湿潤摩擦堅牢度)
JIS L 0849に基づき、試験片の湿潤摩擦堅牢度を評価した。
学振試験機RT-200(株式会社大栄科学精器製作所製)を使用し、重り無しの状態で100往復擦過し、グレースケールで汚染を評価した。取り付けた布帛は、綿100%カナキン3号とし、布帛と同質量のイオン交換水を湿らせて使用した。
下記の評価基準で評価した。
A:3級以上
B:2級以上3級未満
C:1-2級以下
【0074】
(画像濃度)
印刷物のOD値を分光測色計X-Rite eXact(エックスライト社製)を用いて測定し、下記の評価基準で評価した。
A:OD値1.0以上
C:OD値1.0未満
【0075】
【0076】
表4に示されるように、実施例1~9において、湿潤摩擦堅牢性に優れた捺染物を作製することできた。