(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】箔転写装置及び箔転写方法
(51)【国際特許分類】
B65C 9/00 20060101AFI20220823BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220823BHJP
B23K 26/18 20060101ALI20220823BHJP
B44C 1/17 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B65C9/00
B23K26/00 B
B23K26/18
B44C1/17 A
(21)【出願番号】P 2018125999
(22)【出願日】2018-07-02
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】久野 勉
【審査官】種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-138558(JP,A)
【文献】特開2008-189356(JP,A)
【文献】特開2017-226159(JP,A)
【文献】特許第5637371(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65C 9/00
B23K 26/00
B23K 26/18
B44C 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箔フィルムを被加工材に対して転写可能な転写部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記転写部を用いて、前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、
前記被加工材に対して前記第1角度とは異なる第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記転写部を用いて前記被加工材の前記第1領域とは異なる第2領域に転写する第2転写処理と、を実行可能である箔転写装置。
【請求項2】
前記転写部は、レーザー光を発光する照射部を有することを特徴とする、
請求項1に記載の箔転写装置。
【請求項3】
レーザー光を吸収する光吸収部をさらに備え、
前記制御部は、前記第1転写処理および前記第2転写処理において、前記照射部から発光されたレーザー光を、前記光吸収部を介して前記1つの箔フィルムに照射することを特徴とする、
請求項2に記載の箔転写装置。
【請求項4】
前記1つの箔フィルムは、構造色を有することを特徴とする、
請求項1から3のいずれかに記載の箔転写装置。
【請求項5】
前記1つの箔フィルムは、ホログラム箔であることを特徴とする、
請求項1から4のいずれかに記載の箔転写装置。
【請求項6】
前記第1領域と前記第2領域とは互いに隣接することを特徴とする、
請求項1から5のいずれかに記載の箔転写装置。
【請求項7】
箔フィルムを被加工材に対して転写する転写方法であって、
前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、
前記被加工材に対する前記1つの箔フィルムの配置を前記第1角度とは異なる第2角度へ変更する変更処理と、
前記被加工材に対して第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記被加工材の前記第1領域とは異なる第2領域に転写する第2転写処理と、を含む転写方法。
【請求項8】
箔フィルムを被加工材に対して転写可能な転写部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記転写部を用いて、前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、
前記被加工材に対して前記第1角度とは異なる第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記被加工材の前記第1領域と少なくとも一部が重複する第2領域に、前記転写部を用いて転写する第2転写処理と、を実行可能である箔転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は箔転写装置及び箔転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造色を持つことにより、観察角度によってその色彩や模様を変更する箔フィルムと、そのような箔フィルムを被加工材の表面に転写する転写装置または転写方法が、従来技術として知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような箔フィルムは、表面に配列された構造により、反射光が回折や干渉、散乱等の現象を起こす。そのため、箔フィルムに対して相対的に観察角度を変えた場合に、または観察者に対して箔フィルムの角度を変えた場合に、箔フィルムの色彩や模様が変わるように視認される。
【0005】
このような箔フィルムの配置の方法の一つとして、被加工材上で複数の領域を定め、各領域で箔フィルムの角度が異なるように配置する方法が考えられる。このような配置方法を採用した場合、同一の角度から観察しても、領域ごとに箔フィルムの色彩や模様が異なって視認されるため、多様な表現が可能となる。
【0006】
しかし、上記のような配置を採用した場合、領域ごとに、互いに角度の異なる箔フィルムをあらかじめ複数種用意して箔フィルムを転写する必要があり、転写にかかるコストが増大するおそれがあった。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、転写コストを抑制可能な箔フィルムの転写装置及び転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、箔フィルムを被加工材に対して転写可能な転写部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記転写部を用いて、前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、前記被加工材に対して前記第1角度とは異なる第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記転写部を用いて前記被加工材の前記第1領域とは異なる第2領域に転写する第2転写処理と、を実行可能である箔転写装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、箔フィルムを被加工材に対して転写する転写方法であって、前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、前記被加工材に対する前記1つの箔フィルムの配置を前記第1角度とは異なる第2角度へ変更する変更処理と、前記被加工材に対して第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記被加工材の前記第1領域とは異なる第2領域に転写する第2転写処理と、を含む転写方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、箔フィルムを被加工材に対して転写可能な転写部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記転写部を用いて、前記被加工材に対して第1角度に配置された1つの箔フィルムを、前記被加工材の第1領域に転写する第1転写処理と、前記被加工材に対して前記第1角度とは異なる第2角度に配置された前記1つの箔フィルムを、前記被加工材の前記第1領域と少なくとも一部が重複する第2領域に、前記転写部を用いて転写する第2転写処理と、を実行可能である箔転写装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転写コストを抑制可能な箔フィルムの転写装置及び転写方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る箔転写装置を示す外観斜視図である。
【
図2】実施形態に係る駆動機構を模式的に示す左側面図である。
【
図3】実施形態に係る転写部のうち、キャリッジを除いた部分を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る箔転写装置の機能的繋がりを示すブロック図である。
【
図5】実施形態に係る(a)設置部と、準備位置に配置された光吸収部とを示す上面図、及び(b)設置部と、設置位置に配置された光吸収部とを示す上面図である。なお、理解を容易にするため、固定具の図示を省略している。
【
図6】実施形態に係る、制御部が行う転写処理を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る(a)第1転写処理と(b)第2転写処理とにおける、ホログラム箔と被加工材との関係を示す模式図である。
【
図8】第1の変形例に係る(a)第1転写処理と(b)第2転写処理とにおける、ホログラム箔と被加工材との関係を示す模式図である。
【
図9】(a)第2の変形例、(b)第3の変形例、及び(c)第4の変形例に係る転写処理が実施された被転写体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
図1~
図7を参照して、本発明の実施形態に係る箔転写装置1について説明を行う。本実施形態に係る箔転写装置1は、ホログラム箔Fを重ねた被加工材Cに対してレーザー光を走査させ、被加工材Cに対してホログラム箔Fを所定形状に転写する。
図1から
図4に示すように、箔転写装置1は、筐体10、制御部20、転写部30、上下方向駆動機構40、前後方向駆動機構50、左右方向駆動機構60、変更部70、設置部80、及び光吸収部90を含む。箔転写装置1は、外部のコンピュータ2と通信可能に接続されている。箔転写装置1自体がコンピュータ2の機能を有していてもよい。ホログラム箔Fは、本発明における箔フィルムの一例である。
【0014】
コンピュータ2は、被加工材Cに転写する所定の図柄(文字の輪郭等)の形状に沿った走査経路のデータを作成して箔転写装置1に送信する。コンピュータ2は、たとえば一般的なパーソナルコンピュータを使用することができる。走査経路の作成処理は、コンピュータ2に予めインストールされた、所定のプログラムを用いて実行する。
【0015】
[筐体]
図1及び
図2に示すように、筐体10はベース部12を備える。ベース部12には、制御部20と電気的に接続する電源スイッチ11が設けられる。また、ベース部12の上面には、設置部80が固定される。
【0016】
なお、本実施形態においては、
図1に示すように、前後左右及び上下の方向を定める。詳細には、筐体10に対して電源スイッチ11の備わる方向を前方とし、その反対の方向を後方とする。また、筐体10を前面から見た場合を基準として、左右の方向を定める。筐体10において、ベース部12が配置される側を下方とし、その反対を上方とする。
【0017】
[制御部]
箔転写装置1の全体の動作は、制御部20によって制御されている。
図4に示すように、制御部20は、転写部30、上下方向駆動機構40、前後方向駆動機構50、及び左右方向駆動機構60と通信可能に接続され、それらを制御する。制御部20の構成は特に限定されないが、本実施形態においては、プログラムを記憶するROMと、プログラムを実行するCPUと、CPUによる処理において作業領域を提供するRAMと、不揮発性メモリであって各種データを記憶するNVRAMとを主に備える。
【0018】
[転写部]
図1から
図4に示すように、筐体10には、転写部30が設けられる。転写部30は、レーザー発振器31、照射部32、光ファイバ33、及びキャリッジ34を備える。
【0019】
レーザー発振器31は、半導体レーザー発振器である(
図3)。レーザー発振器31に所定の電流を流すことにより、レーザー発振器31からレーザー光が発振される。レーザー発振器31の性能は、たとえば、波長450nm、最大出力1Wである。なお、レーザー発振器31は、半導体レーザーに限らず、固体レーザーや気体レーザーであってもよい。
【0020】
図3に示すように、照射部32は、レーザー発振器31と光ファイバ33を介して接続される。照射部32は、レンズ32aと、下部においてレンズ32aを支持し、上下に延びる略円筒形部材32bとを備える。
【0021】
レンズ32aは、本実施形態では球状に形成され、レーザー光が透過する材料で形成されている。なお、レンズ32aは、球状に限定されず、レンズ状や半球状であっても良い。レーザー発振器31から発振されたレーザー光は、光ファイバ33を介して照射部32に伝達され、レンズ32aを介して外部に照射される。ホログラム箔Fの転写は、レンズ32aを、光吸収部90を介してホログラム箔F及び被加工材Cに押し付け、レーザー光を照射することにより行われる。
【0022】
図1に示すように、キャリッジ34は、照射部32をキャリッジ34の前部において支持する。キャリッジ34は、左右方向駆動機構60、前後方向駆動機構50、及び上下方向駆動機構40によって駆動可能に支持される。これらの駆動機構によって、キャリッジ34及びこれに支持される照射部32は、被加工材Cに対して、三次元方向に相対移動可能である。
【0023】
[駆動機構]
図1及び
図2に示すように、上下方向駆動機構40は、上下方向駆動シャフト41と、駆動用モータ42と、昇降ベース43とを備えている。上下方向駆動シャフト41は、上下方向に延び、螺旋状にねじが切られている。上下方向駆動シャフト41の上部は筐体10に回転可能に支持され、下端部は、ベース部12に回転可能に支持されている。駆動用モータ42は、筐体10の上部に固定されるとともに、制御部20と電気的に接続されている。また駆動用モータ42の出力軸は上下方向駆動シャフト41と機械的に接続しており、上下方向駆動シャフト41を回転駆動させることが可能である。
【0024】
昇降ベース43は、水平方向に延出する部材であり、図示せぬ上下に延びるスライドシャフトによって摺動可能に支持される。また、昇降ベース43は、上下方向駆動シャフト41と螺合している。上下方向駆動シャフト41が回転することにより、昇降ベース43は、上下方向に移動する。昇降ベース43は、前後方向に延びるスライドシャフト43a、43bを備える。
【0025】
前後方向駆動機構50は、前後方向駆動シャフト51と、駆動用モータ52と、スライドベース54とを備える。前後方向駆動シャフト51は、前後方向に延びるように昇降ベース43に設けられ、螺旋状にネジが切られている。駆動用モータ52は、昇降ベース43の後部に固定され、制御部20に電気的に接続されている。駆動用モータ52の出力軸は、前後方向駆動シャフト51の後端部と接続されており、前後方向駆動シャフト51を回転駆動させることが可能である。
【0026】
スライドベース54は、前後方向駆動シャフト51と螺合する。また、スライドベース54は、スライドシャフト43a、43bによって摺動可能に支持されている。スライドベース54は、駆動用モータ52が駆動されると、前後方向駆動シャフト51の回転により前後方向に移動する。スライドベース54は、左右方向に延びるスライドシャフト53a、53bを備える。
【0027】
左右方向駆動機構60は、スライドベース54と連結される。左右方向駆動機構60は、左右方向駆動シャフト61と、駆動用モータ62とを備えている。左右方向駆動シャフト61は、左右方向に延び、螺旋状にねじが切られている。駆動用モータ62の出力軸は、左右方向駆動シャフト61の右端部と機械的に接続し、左右方向駆動シャフト61を回転駆動することが可能である。駆動用モータ62は、制御部20と電気的に接続されている。
【0028】
左右方向駆動シャフト61は、キャリッジ34と螺合する。また、スライドシャフト53a、53bは、キャリッジ34を摺動可能に支持している。駆動用モータ62が駆動されると、左右方向駆動シャフト61が回転し、キャリッジ34は、スライドシャフト53a、53bに沿って左右方向に駆動される。
【0029】
[変更部]
図4に示すように、変更部70は、被加工材C上に載置されたホログラム箔Fの配置角度を変更する機能を備える部材である。変更部70は制御用のモータを備え、モータの出力軸がホログラム箔Fの移動または角度変更の動力源として利用される。変更部70は、制御部20と電気的に接続し、制御部20によって、その動作を制御される。
【0030】
[設置部]
図1及び
図2に示すように、設置部80は、ベース部12上に固定される平板状の台座81と、台座81上に着脱可能に固定される固定具82と、支持体83a、83bとを備える。本実施形態による固定具82は、左右の1対の部材を備え、被加工材Cを狭持することが可能である。固定具82は、被加工材Cを左右から狭持することにより、被加工材Cをベース部12上に固定する機能を備える。
【0031】
支持体83a、83bは、下端部が台座81に固定され、上方向に延出する略円柱状の部材である。支持体83aの上部は、光吸収部90を回動可能に支持する。
【0032】
[光吸収部]
光吸収部90は、枠体91とフィルム92とを備える。枠体91は、上面視で矩形の枠状部材であり、フィルム92を支持する。フィルム92は、レーザー光などの光線を吸収する機能を備える。
【0033】
図5に示すように、光吸収部90は支持体83aによって回動可能に支持され、準備位置(
図5(a))と設置位置(
図5(b))との間を略水平に回動可能である。光吸収部90が設置位置に配置されると枠体91が支持体83bと係合し、このため光吸収部90は、設置位置に固定される。
【0034】
[ホログラム箔及び被加工材]
ホログラム箔Fは、表面に配列された構造により、反射光が回折や干渉、散乱等の現象を起こす。そのため、一般にホログラム箔Fは、表面の構造に起因した異方性を持っている。すなわち、ホログラム箔Fに対して相対的に観察方向または観察角度を変えた場合に、若しくは、観察者に対してホログラム箔Fの方向または角度を変えた場合に、ホログラム箔Fの色彩や模様が変わるように視認される。
【0035】
被加工材Cは、略直方体形状の筐体を有する部材である。被加工材Cの筐体は樹脂製であり、具体的にはアクリルや、ABS、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどによって形成される。
【0036】
[転写処理]
箔転写装置1を用いてホログラム箔Fを被加工材Cに転写する際の、処理内容について以下に詳述する。なお、理解を容易にするため、転写処理の具体例として、
図7に示すホログラム箔Fを、図柄G1a及び図柄G2aに従って、被加工材C上で隣接する第1領域R1及び第2領域R2に順次転写する処理を説明する。この転写処理では、図柄G1b及び図柄G2bが、それぞれ被加工材C上の第1領域R1及び第2領域R2に、最終的に形成される(
図7(b))。
【0037】
転写処理において、最初にユーザは、光吸収部90を、準備位置(
図5(a))に配置する。次にユーザは、被加工材Cを、固定具82に狭持させることにより、ベース部12に対して相対移動不能となるように固定する。ユーザは、被加工材Cの固定後、被加工材Cの上にホログラム箔Fを覆うように載置する。さらにユーザは、光吸収部90を準備位置から設置位置に回動させ(
図5(b))、被加工材C及びホログラム箔Fの設置を完了する。被加工材C及びホログラム箔Fの設置が完了すると、ユーザは、コンピュータ2を用いて、転写すべき所定の図柄G1a、G2a、及び、角度変更処理(後述)において用いられる所定角度を入力し、制御部20に対して処理の開始を指示する。
【0038】
ユーザからの指示を受け、制御部20は、
図6に示される処理を実行する。なお、制御部20の操作は、筐体10上に操作部を配置し、これを用いて行う構成としてもよい。
【0039】
制御部20の実行する処理を、
図6を用いて以下に説明する。ステップS1において、制御部20は、第1転写処理を開始する。第1転写処理は、図柄G1aを、被加工材Cの第1領域R1に転写する処理である。第1転写処理において、制御部20は、上下方向駆動機構40、前後方向駆動機構50、及び左右方向駆動機構60を制御し、図柄G1aの形状に従って照射部32を走査する。
【0040】
同時に制御部20は、レーザー発振器31を起動して、レーザー光を照射部32のレンズ32aから照射する。このとき、レンズ32aはフィルム92に接触するとともに、図示せぬバネによって、フィルム92、ホログラム箔F及び被加工材Cに向けて付勢されている。レーザー光は、フィルム92を介してホログラム箔Fへ照射される。ホログラム箔Fのレーザー光の照射を受けた部分が加熱され、被加工材Cの第1領域R1へ転写される。
【0041】
ステップS3において、制御部20は、転写すべき図柄G1aが全て転写されたかどうかを確認する。図柄G1aの転写が完了していない場合は(S3:No)、処理をステップS1に戻し、第1転写処理を継続する。
【0042】
図柄G1aの転写が全て完了したと判断したとき(S3:Yes)、制御部20はレーザー発振器31を停止してレーザー光の照射を停止する(S5)。このようにして、制御部20は、第1転写処理を終了させる。
【0043】
制御部20は、ステップS7において角度変更処理を行う。制御部20は、変更部70を制御し、ホログラム箔Fを略水平方向に回動させ、被加工材Cに対する相対角度の変更を行う。あるいは、制御部20は、変更部70を制御し、ホログラム箔Fを回転しながら前後、左右に移動させる。上記の処理を行うことにより、ホログラム箔Fの被加工材Cに対する相対角度を変更する。
【0044】
制御部20は、ステップS9において、ホログラム箔Fの回動角が所定角度に達したかどうか判断する。制御部20は、ホログラム箔Fの回動角が所定角度に達していないと判断した場合(S9:No)、処理をステップS7に戻し、ホログラム箔Fの角度変更処理を継続する。
【0045】
所定角度に達したと判断した場合(S9:Yes)、制御部20は、変更部70の制御を停止し(S11)、第2転写処理を行う(S13)。角度変更処理の結果、ホログラム箔Fの被加工材Cに対する角度は、
図7(a)に示される第1角度から、
図7(b)に示される第2角度に変更される。
【0046】
第2転写処理は、図柄G2aを被加工材Cの第2領域R2へ転写する処理である。制御部20は、第2転写処理において、レーザー発振器31を起動して、レーザー光を照射部32から照射する。同時に、制御部20は、照射部32を走査することによって、図柄G2aの第2領域R2への転写処理を行う。
【0047】
ステップS15において、制御部20は、図柄G2aの転写処理が完了したかどうかを確認する。図柄G2aの転写処理が完了していないと判断した場合(S15:No)、制御部20は、処理をステップS13に戻して転写処理を継続する。
【0048】
図柄G2aの転写処理が全て完了したと判断した場合、制御部20はレーザー発振器31を停止してレーザー光の照射を停止する(S17)。このようにして、制御部20は、第2転写処理を終了させる。
【0049】
<変形例>
なお、本実施形態では、転写を行うための光発生器として、レーザー発振器31を用いる構成について述べたが、本発明はこのような構成に限られない。たとえば、レーザー発振器31に代わり、発光ダイオードを用いることも可能である。また、発光ダイオードに限らず、流す電流を変えることで光の出力を変えることができるような素子等を使用することもできる。また、転写部30にホットスタンプ方式や、ヒートペン方式に対応した機構を用いることも可能である。また、光吸収部90を用いずに転写処理を行うことも可能である。
【0050】
本実施形態では、変更部70によってホログラム箔Fの角度変更処理が行われたが、本発明はこのような構成に限定されない。第1転写処理完了後に、ユーザの手によって、角度変更処理が行われても良い。この場合は、ユーザが光吸収部90を回動して光吸収部90を準備位置に配置し(
図5(a))、ホログラム箔Fを水平方向に移動することにより被加工材Cに対する角度を変更する。その後、光吸収部90を設置位置(
図5(b))に戻し、第2転写処理を開始する。
【0051】
また、本実施形態では、照射部32のみが移動する例について述べたが、本発明はこのような構成に限定されない。すなわち、固定された照射部32に対し、設置部80が前後方向、左右方向、及び上下方向に移動することで箔転写を行ってもよい。この場合、上下方向駆動機構40、前後方向駆動機構50、及び左右方向駆動機構60は、設置部80を駆動させる構成(たとえば、設置部80を三軸方向に移動させるための駆動用モータ)を有する。或いは、照射部32と設置部80との双方を移動する構成としてもよい。
【0052】
本実施形態では、第1領域R1及び第2領域R2は互いに隣接し、これに伴い、図柄G1b及び図柄G2bは、互いに隣接するように転写、形成されていた。しかし、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。第1領域R1及び第2領域R2は、少なくとも一部が重複するように位置しても良い。
【0053】
図8に示すように、第1の変形例として、第2領域R2が第1領域R1内に位置し、図柄G3bの上に重なるように図柄G4bが形成されても良い。この場合であっても、図柄G3bと図柄G4bとは、ホログラム箔Fの角度が互いに異なるように転写、形成されたものであるため、それぞれ異なる模様、色彩として視認される。
【0054】
図9(a)に示すように、第2の変形例として、第1領域R1及び第2領域R2が互いに離間するように位置し、図柄G5b及び図柄G6bが形成されても良い。または
図9(b)に示すように、第3の変形例として、第1領域R1及び第2領域R2が互いに一部重複するように配置され、図柄G7b及び図柄G8bが形成されても良い。これらの場合であっても、被加工材C上に形成された各図柄は、ホログラム箔Fの角度が異なるように転写、形成されたものであるため、それぞれ異なる模様、色彩として視認される。
【0055】
また、
図9(c)に示すように、第4の変形例として、第1領域R1が第2領域R2内に位置し、図柄G9bを覆うように図柄G10bが形成されても良い。ホログラム箔Fが光を透過可能である場合、図柄G10bの下にある図柄G9bは視認可能である。この場合、図柄G9bと図柄106とは、互いにホログラム箔Fの角度が異なるように転写、形成されたものであるため、それぞれ異なる模様、色彩として視認される。
【0056】
なお、本発明における箔フィルムは、ホログラム箔Fに限定されない。箔フィルムとして、公知のメタリック箔、ハーフミラーメタリック箔、顔料箔、多色印刷箔等を採用することも可能である。
【0057】
なお、本発明における被加工材の素材は、樹脂に限定されず、金属や陶器など、他の材料から形成されていてもよい。また、本発明における被加工材の筐体の形状は、本実施形態のように直方体形状に限定されず、各側面が曲面で構成されていても良い。
【0058】
<効果>
このように、本実施形態に係る箔転写装置1は、ホログラム箔Fを被加工材Cに対して転写可能な転写部30と、制御部20とを備える。制御部20は、転写部30を用いて、被加工材Cに対して第1角度に配置された1つのホログラム箔Fを、被加工材Cの第1領域R1に転写する第1転写処理を実行可能であり、さらに、被加工材Cに対して第1角度とは異なる第2角度に配置されたホログラム箔Fを、転写部30を用いて被加工材Cの第1領域R1とは異なる第2領域R2に転写する第2転写処理を実行可能である。
【0059】
また、箔転写装置1は、1つのホログラム箔Fの被加工材Cに対する配置を変更可能な変更部70をさらに備えており、制御部20は、変更部70を用いて、1つのホログラム箔Fの配置を第1角度から第2角度へ変更する変更処理を実行可能である。
【0060】
上記構成による箔転写装置1、または箔転写装置1を用いた転写方法においては、1枚のホログラム箔Fを用い、ホログラム箔Fの被加工材Cに対する角度を領域ごとに変化させて、転写処理を行う。そのため、互いに角度の異なるホログラム箔Fを複数枚用意する必要がなく、転写処理に係るコストを抑制することができる。
【0061】
箔転写装置1の転写部30は、レーザー光を発光する照射部32を有する。
【0062】
従来の箔フィルムの転写方法(箔押し方法)として、接着剤を蒸着させた箔に対し金型(版)を押し当て、高温高圧下において被加工材に図柄を熱転写するホットスタンプ方式や、高温のペン状部材を用いたヒートペン方式が知られている。このような従来の箔転写方法は、高温に弱い樹脂製品への適用が難しい。
【0063】
一方、上記構成による箔転写装置1では、細いレーザー光を制御しながら照射し、箔フィルムの加熱を行う。そのため、箔転写装置1は、被加工材Cのような樹脂製品に対しても、ホログラム箔Fなどの箔フィルムの転写を可能としている。
【0064】
箔転写装置1は、レーザー光を吸収する光吸収部90を備え、制御部20は、第1転写処理及び第2転写処理において、照射部32から発光されたレーザー光を、光吸収部90を介してホログラム箔Fに照射する。
【0065】
上記構成によれば、光吸収部90によってホログラム箔F上での光の吸収率を均質にし、ホログラム箔Fに供給される熱を転写部分において均質化できる。そのため、箔表面の光の吸収率が部位によって異なる場合であっても、転写ムラが低減、または防止される。
【0066】
上記構成によるホログラム箔Fは、構造色を有する。上記構成によれば、転写された領域ごとにホログラム箔Fの色彩や模様が変わったように視認され、多様な表現が可能となる。
【0067】
また、第1の実施形態では、第1領域R1と第2領域R2とは互いに隣接している。第1領域R1と第2領域R2とが隣接している場合、転写された図柄G1bが、図柄G2bを背景として浮き出ているような視覚的効果が得られる。
【0068】
本実施形態に係る箔転写装置1は、ホログラム箔Fを被加工材Cに対して転写可能な転写部30と、制御部20とを備える。制御部20は、転写部30を用いて、被加工材Cに対して第1角度に配置された1つのホログラム箔Fを、被加工材Cの第1領域R1に転写する第1転写処理を実行可能であり、さらに、被加工材Cに対して第1角度とは異なる第2角度に配置されたホログラム箔Fを、転写部30を用いて被加工材Cの第1領域R1と少なくとも一部が重複する第2領域R2に転写する第2転写処理を実行可能である。
【0069】
上記構成による箔転写装置1では、1枚のホログラム箔Fを用いて、2つの領域において転写処理を行う。そのため、ホログラム箔Fを複数枚用意する必要がなく、転写処理に係るコストを抑制することができる。
【0070】
上記実施形態は、発明の例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 箔転写装置
2 コンピュータ
10 筐体
20 制御部
30 転写部
31 レーザー発振器
32 照射部
40 上下方向駆動機構
50 前後方向駆動機構
60 左右方向駆動機構
70 変更部
80 設置部
90 光吸収部
C 被加工材
F ホログラム箔