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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】二次イオン質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20220823BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01J49/04 090
H01J49/14 200
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018126907
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020009549
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596043379
【氏名又は名称】アルバック・ファイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真一
(72)【発明者】
【氏名】宮山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 伊吹
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-123783(JP,A)
【文献】特開2015-087236(JP,A)
【文献】特開平05-047336(JP,A)
【文献】特開平05-135736(JP,A)
【文献】特開2011-237415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
H01J 49/14
H01J 49/26
G01N 27/68
G01N 23/2258
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料配置面が設けられた試料配置台と、
前記試料配置台上に配置され、貫通孔が設けられた引込電極と、
前記試料配置面上の前記貫通孔と対面する位置に配置された分析対象試料に一次イオンを照射する一次イオン源と、
前記一次イオンが照射された前記分析対象試料で発生し、前記引込電極によって質量電荷比に応じた速度に加速され、前記貫通孔を通過した二次イオンを走行させる質量分析部と、
前記二次イオンの量を検出する検出部と、
飛行時間に対応した前記二次イオンの量を求める制御部と、
を有する二次イオン質量分析装置であって、
前記引込電極の前記試料配置面と対面する表面が位置する平面を引込電極平面とすると、前記試料配置面が位置する平面である試料配置平面と前記引込電極平面とが成す傾斜角は35度以上にされ、
前記分析対象試料のうちの前記引込電極平面に最近な部分である頂上部を含み、前記試料配置面と前記引込電極平面との間に補正電極が配置され
前記試料配置面を、前記分析対象試料よりも前記引込電極平面から遠い部分である下部面と、前記分析対象試料よりも前記引込電極平面に近い部分である上部面とに区分けすると、
前記補正電極は、前記下部面上に位置し、前記質量分析部に入射する前記二次イオンが走行する経路に対面する縁である補正電極縁を有し、
前記頂上部を通り、前記引込電極平面と前記試料配置面とに平行な直線を頂上辺と呼び、
前記頂上辺を含み、前記引込電極平面と平行な平面を試料平面と呼び、
前記頂上辺と平行で前記頂上辺から前記下部面側に第一の基準距離離間された位置で前記試料平面に含まれる直線を第一の基準線とし、
前記頂上辺と平行で前記頂上辺から前記下部面側に所定の大きさの第二の基準距離だけ離間された位置で前記試料平面に含まれる直線を第二の基準線とし、
前記引込電極平面に位置する前記貫通孔の周囲のうち、前記下部面上に位置し、前記頂上辺との間の距離が最大となる基準点を通り、前記頂上辺と平行な直線を引込電極辺とし、
前記第一の基準線と前記引込電極辺とを含む平面を第一の基準平面とし、
前記第二の基準線を含み、前記試料平面と垂直な平面を第二の基準平面とし、
前記第一の基準平面と前記引込電極平面とがなす角度を基準角φとすると、
前記第一の基準距離は前記分析対象試料の太さ/tanφにされ、
前記補正電極縁は、前記第一の基準平面と前記第二の基準平面の間に位置するようにされた二次イオン質量分析装置。
【請求項2】
記第一の基準距離は、0.1/tanφmm以上、1/tanφmm以下にされた請求項1記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項3】
前記分析対象試料の前記下部面側の端と前記頂上辺との間の前記試料平面上での距離を下限距離とすると、前記第二の基準距離は前記下限距離以上の大きさにされた請求項2記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項4】
前記第二の基準距離は0.05mm以上0.5mm以下の範囲の大きさにされた請求項3記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項5】
前記第一の基準平面は、前記試料平面に対して正接の値tanφが0.85の交叉角度φで交叉された請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項6】
前記引込電極平面と前記頂上辺との間の距離は2mm以下にされた請求項2乃至請求項5のいずれか1項記載の二次イオン質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次イオン質量分析装置に係り、特に、飛行時間型二次イオン質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析方法(SIMS)は分析対象試料に一次イオンを照射し分析対象試料の表面から放出される二次イオンを質量分析して分析対象試料の組成や目的元素の濃度等の知見を得る分析方法であり、スパッタリングを併用し、深さ方向の分析も可能な分析方法である。
【0003】
それらの中で、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、二次イオンの飛行時間を計測することで質量分析を行う分析方法であり、分析対象試料から放出された二次イオンを質量分析部の中で長距離走行させ、質量に応じて飛行時間差を拡大させ、検出部で二次イオンを飛行時間と対応させて検出する。
【0004】
電場や磁場で分析する装置に比べて一次イオンの照射量を少なくすることができ、二次イオンとして分子イオンやフラグメントを検出することができるので、分析対象試料の表面状態の知見を得ることができる。
【0005】
飛行時間型二次イオン質量分析装置では、二次イオンを効率良く検出部に入射させるために、分析対象試料と引込電極との間のギャップを狭くして、引込電極に高電圧を印加して急峻な電位勾配を形成し、二次イオンを集光する。例えば、約2mmのギャップに、3kVの高電圧を印加する例がある。
【0006】
急峻な電位勾配のため、分析対象試料表面に凹凸があると試料周辺では電場の歪みが顕著となり、その結果、試料から放出された二次イオンの軌道が曲げられ、二次イオンが検出部に到達できなくなり、感度が悪化するという問題点がある。
【0007】
図4は、水平な平板状の試料配置台112上に乗せた線状の分析対象試料110に、図面右方向から一次イオンを照射したとき、図面左方に向けて放出された二次イオンAの飛行経路と、真上方向に向けて放出された二次イオンBの飛行経路と、図面右方に向けて放出された二次イオンCの飛行経路とが示されており、真上方向を向く飛行経路を走行する二次イオンB以外の二次イオンA,Cは検出部に到達できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-123783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、検出部に到達できる二次イオンを増加させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作された発明であり、試料配置面が設けられた試料配置台と、前記試料配置台上に配置され、貫通孔が設けられた引込電極と、前記試料配置面上の前記貫通孔と対面する位置に配置された分析対象試料に一次イオンを照射する一次イオン源と、前記一次イオンが照射された前記分析対象試料で発生し、前記引込電極によって質量電荷比に応じた速度に加速され、前記貫通孔を通過した二次イオンを走行させる質量分析部と、前記二次イオンの量を検出する検出部と、飛行時間に対応した前記二次イオンの量を求める制御部と、を有する二次イオン質量分析装置であって、前記引込電極の前記試料配置面と対面する表面が位置する平面を引込電極平面とすると、前記試料配置面が位置する平面である試料配置平面と前記引込電極平面とが成す傾斜角は35度以上にされ、前記分析対象試料のうちの前記引込電極平面に最近な部分である頂上部を含み、前記試料配置面と前記引込電極平面との間に補正電極が配置された二次イオン質量分析装置である。
本発明は、前記試料配置面を、前記分析対象試料よりも前記引込電極平面から遠い部分である下部面と、前記分析対象試料よりも前記引込電極平面に近い部分である上部面とに区分けすると、前記補正電極は、前記下部面上に位置し、前記質量分析部に入射する前記二次イオンが走行する経路に対面する縁である補正電極縁を有し、前記頂上部を通り、前記引込電極平面と前記試料配置面とに平行な直線を頂上辺と呼び、前記頂上辺を含み、前記引込電極平面と平行な平面を試料平面と呼び、前記頂上辺と平行で前記頂上辺から前記下部面側に第一の基準距離離間された位置で前記試料平面に含まれる直線を第一の基準線とし、前記頂上辺と平行で前記頂上辺から前記下部面側に所定の大きさの第二の基準距離だけ離間された位置で前記試料平面に含まれる直線を第二の基準線とし、前記引込電極平面に位置する前記貫通孔の周囲のうち、前記下部面上に位置し、前記頂上辺との間の距離が最大となる基準点を通り、前記頂上辺と平行な直線を引込電極辺とし、前記第一の基準線と前記引込電極辺とを含む平面を第一の基準平面とし、前記第二の基準線を含み、前記試料平面と垂直な平面を第二の基準平面とすると、前記第一の基準距離は0.58mmにされ、前記補正電極縁は、前記第一の基準平面と前記第二の基準平面の間に位置するようにされた二次イオン質量分析装置である。
本発明は、前記分析対象試料の前記下部面側の端と前記頂上辺との間の前記試料平面上での距離を下限距離とすると、前記第二の基準距離は前記下限距離以上の大きさにされた二次イオン質量分析装置である。
本発明は、前記第二の基準距離は0.05mm以上0.5mm以下の範囲の大きさにされた二次イオン質量分析装置である。
本発明は、前記第一の基準平面は、前記試料平面に対して正接の値tanφが0.85の交叉角度φで交叉された二次イオン質量分析装置である。
本発明は、前記引込電極平面と前記頂上辺との間の距離は2mm以下にされた二次イオン質量分析装置である。
【発明の効果】
【0011】
分析対象試料による電場の歪みが修整され、分析対象試料から放出された二次イオンが質量分析部の内部を走行して検出部に到達できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の二次イオン質量分析装置の一例
図2】試料配置台付近の斜視図
図3】分析対象試料付近の拡大図
図4】水平な試料配置台に分析対象試料が配置されたときの二次イオンの飛行経路
図5】傾斜角θ=40度 (a):補正電極なし、(b):補正電極縁は検出範囲外 (c):補正電極縁は検出範囲内
図6】(d):傾斜角θ=35度、補正電極縁は検出範囲内 (e):傾斜角θ=30度、補正電極縁は検出範囲内 (f):傾斜角θ=45度、補正電極縁は検出範囲内
図7】(g):傾斜角θ=40度、補正電極縁は検出範囲外 (h):傾斜角θ=40度 補正電極縁は検出範囲内
図8】太さが125μmの分析対象試料の二次イオンにより得られる画像であって (1):補正電極が無いときの画像 (2):補正電極縁が検出範囲内にあるときの画像
図9】分析対象試料の太さと得られた画像の太さの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の符号2は本発明の一例の二次イオン質量分析装置であり真空槽11を有している。
真空槽11の内部には試料配置台12が配置されており、試料配置台12には分析対象試料を配置する平坦な試料配置面17が設けられている。
【0014】
真空槽11の内部の試料配置面17と対面する場所には引込電極14が配置されている。図2図3は試料配置台12と引込電極14及びそれらの付近とを拡大して示した斜視図と側面図である。
【0015】
引込電極14は平板状であり、引込電極14の試料配置面17と対面する表面が含まれている平面を引込電極平面37とすると、試料配置面17は引込電極平面37に対して一定の傾斜角θで傾斜されている。試料配置面17が含まれた平面を試料配置平面34とすると、試料配置平面34と引込電極平面37とは傾斜角θで交叉する。傾斜角θは劣角である。
【0016】
試料配置面17が傾斜する方向は試料配置面17のどの場所でも同じ方向を向いており、試料配置面17上には分析対象試料10が配置される。引込電極平面37は水平であり、分析対象試料10も水平に配置される。
【0017】
引込電極14には、分析領域よりも十分大きな円形の貫通孔13が設けられており、分析対象試料10は貫通孔13の中央位置の真下に位置するようにされている。
【0018】
真空槽11には真空排気装置26が設けられており、分析対象試料10の質量分析を行う際には、真空排気装置26によって真空槽11の内部を真空排気し、真空雰囲気を形成する。
真空槽11の外部には電源装置29が配置されている。
【0019】
真空槽11と引込電極14とは接地電位に接続され、試料配置台12は電源装置29に接続されており、試料配置台12には、正電圧と負電圧のうち、分析対象試料10から取り出される二次イオンの極性と同じ極性の電圧が印加される。
【0020】
つまり、電源装置29によって、分析対象試料10から正電荷の二次イオンを取り出すときには、試料配置台12に正電圧が印加され、負電荷の二次イオンを取り出すときには試料配置台12に負電圧が印加される。
【0021】
引込電極平面37を間にして、試料配置台12が配置された場所とは反対側の場所には質量分析部22と一次イオン源25とが配置されている。
一次イオン源25は制御部24に接続され、制御部24の制御によって内部でイオンを生成し、真空槽11の内部に一次イオンとして放出するようにされている。
【0022】
質量分析部22と一次イオン源25とは、引込電極14の貫通孔13を介して、試料配置面17上の分析対象試料10と対面されており、一次イオン源25から短時間だけ一次イオンを放出すると一次イオンは貫通孔13を通過して分析対象試料10に照射され、分析対象試料10から短時間だけ二次イオンが少量放出される。一次イオンは、例えばビスマスやガリウム等である。
【0023】
短時間放出された二次イオンは、試料配置台12と引込電極14との間に形成された電場によって、質量電荷比の値に応じた加速度が発生し、質量電荷比に応じた速度で走行しながら貫通孔13を通過して質量分析部22に入射する。
【0024】
質量分析部22に入射した二次イオンは質量電荷比に応じた速度で質量分析部22の内部を走行し、質量電荷比毎の間隔が拡大して検出部23に入射する。
検出部23は、入射した二次イオンの量を入射時刻に対応づけて測定し、測定結果を制御部24に出力する。
【0025】
制御部24は、質量電荷比と走行時間の関係から、二次イオンを入射した時刻によって質量分析し、検出部23によって検出された二次イオンから、分析対象試料10の組成や特定の元素の濃度等を求めることができる。
【0026】
分析対象試料10の太さは一定であり、分析対象試料10のうちの引込電極平面37に最近な部分は分析対象試料10の頂上の部分であり、分析対象試料10の引込電極平面37に最近である頂上の部分を通り、引込電極平面37と試料配置面17とに平行な直線を頂上辺と呼ぶと、頂上辺は図中では符号30で示されている。
【0027】
頂上辺30を含み、引込電極平面37と平行な平面である試料平面35と引込電極平面37との間には、平板状の補正電極16が配置されており、補正電極16の表面のうちの試料平面35と対面する表面である補正電極平面36は引込電極平面37と平行にされている。
【0028】
試料配置面17のうち、分析対象試料10が配置される場所よりも引込電極平面37から遠い部分を下部面17aとし、分析対象試料10よりも引込電極平面37に近い部分を上部面17bとして試料配置面17を下部面17aと上部面17bの二個の領域に区分けすると、引込電極14は、貫通孔13の片側であって、下部面17a上に位置する第一の引込電極部分14aと、貫通孔13の反対側であって、上部面17b上に位置する第二の引込電極部分14bとに区分けすることができる。
【0029】
試料配置面17の下部面17aと引込電極14の第一の引込電極部分14aとの間には、補正電極16が配置されている。
補正電極16には引込電極14と同じ極性で同じ大きさの電圧が印加されるようにされている。ここでは引込電極14と補正電極16とは接地電位に接続されている。
一次イオン源25は上部面17b上に位置しており、一次イオンは貫通孔13を通過して分析対象試料10に照射される。
【0030】
試料配置台12と引込電極14との間に形成される電場は、補正電極16によって変形され、分析対象試料10から放出された二次イオンのうち、貫通孔13を通過して質量分析部22に入射する二次イオンが増加するようにされている。
【0031】
補正電極16の側面のうち、下部面17a上に位置し、質量分析部22に入射する二次イオンが走行する経路に対面する側面を補正電極縁20とすると、補正電極縁20と分析対象試料10との間の位置関係が変化すると、分析対象試料10と引込電極14との間に形成される電場の形状が変化し、二次イオンの分析対象試料10から飛び出した方向のうち、検出できる方向が変化する。
【0032】
引込電極平面37に位置する貫通孔13の周囲のうち、下部面17a上に位置し、頂上辺30からの距離が最大となる点を基準点とすると、基準点は、試料配置面17との間の距離が最大となる点でもあり、基準点を通り、頂上辺と平行な直線を引込電極辺33とする。
【0033】
頂上辺30と平行で頂上辺30から下部面17a側に所定の第一の基準距離だけ離間された位置で試料平面35に含まれる直線を第一の基準線31とし、第一の基準線31と引込電極辺33とを含む平面を第一の基準平面38とする。
【0034】
また、頂上辺30と平行であって、試料平面35に含まれる直線のうち、頂上辺30から所定の大きさの第二の基準距離だけ下部面17a側に離間した直線を第二の基準線32とし、第二の基準線32を含み、引込電極平面37に対して垂直な平面を第二の基準平面39とする。分析対象試料10は第二の基準平面39よりも上部面17b側に位置することになる。
【0035】
試料平面35と引込電極平面37との間であって、且つ、第一の基準平面38と第二の基準平面39との間である範囲を検出範囲とすると、本発明では補正電極16は、補正電極縁20が検出範囲内に位置する場所に配置されている。補正電極縁20が検出範囲内に位置するときは、補正電極16は、検出範囲内と第二の基準平面39よりも下部面17a側とに亘って位置することになる。
【0036】
分析対象試料10の下部面17a側の端と頂上辺30との間の試料平面35上での距離を下限距離とすると、第二の基準距離は下限距離以上の大きさにされている。
補正電極縁20が下限距離よりも上部面17b側に位置すると、補正電極縁20は検出範囲内に位置しないことになり、補正電極16の補正電極縁20近くの部分が検出対象試料10と引込電極平面37との間に位置し、その結果、分析対象試料10の一部が補正電極16によって覆われてしまうことになる。この場合は二次イオンの一部が質量分析部22に到達できないことになる。
【0037】
補正電極縁20が検出範囲内に位置する場合は分析対象試料10は一部であっても補正電極16によって覆われることがなく、補正電極16による電場の形状の修正により、分析対象試料10から下部面17a側に放出された二次イオンと上部面17b側に放出された二次イオンの両方が質量分析部22を通過して検出部23で検出されるようになり、その結果、補正電極縁20が検出範囲内に位置しない場合に比べて検出部23によって検出できる二次イオンが多くなるため、分析対象試料10の組成や目的元素の濃度を正確に求めることができる。なお、第一の基準平面38と第二の基準平面39とも、検出範囲に含まれる。
【0038】
第二の基準距離の具体例を説明すると、分析対象試料10が断面円形の線形状であり、第二の基準平面39が分析対象試料10の下部面17a側の端に接触して位置している場合は、第二の基準距離は分析対象試料10の断面の半径の大きさになり、分析対象試料10が直径5μmの金属線の場合は下限距離は2.5μmである。
【0039】
引込電極14上にはスパッタ用のイオンガン21が配置されており、イオンガン21によって分析対象試料10の表面をスパッタリングし、深さ方向の測定を行うこともできる。
【0040】
なお、引込電極平面37が水平にされている場合は、第二の基準平面39は鉛直になるが、本発明では引込電極平面37が水平にされた場合に限定されるものではない。
【0041】
補正電極16と分析対象試料10との位置関係の他、傾斜角θが変化した場合も、検出できる二次イオンの飛び出し方向が変化する。
特に、傾斜角θが35度よりも小さいと、分析対象試料10から上部面17b側に放出された二次イオンが検出部23に到達できなくなる。傾斜角θを35度以上にすれば検出することができるが、傾斜角θは大きすぎると試料配置台12が大きくなるので、例えば50度以下の大きさにする。
【0042】
第一の基準平面38と引込電極平面37とが成す角度を基準角φとすると、この実施例では基準角φは、基準角φの正接の値tanφが0.85になる大きさにされており、第一の基準距離は0.5/0.85mm(小数第三位以下を切り捨てると0.58mm)にされている。
検出対象物10の直径が0.5mmの場合は、下限距離は0.25mmであり、第二の基準距離は0.25mm以上の距離になる。
【0043】
次に、補正電極縁20の位置や傾斜角θと二次イオンの検出との関係を説明する。
図5(a)~(c)、図6(d)~(f)、図7(g)、(h)の二次イオン質量分析装置内部の等電位面50a~50hと二次イオンの軌跡a1~h1、a2~h2、a3~h3とが示されている。
【0044】
図5(a)、(b)は、傾斜角θが40度であり、傾斜角θは35度以上の条件を満たしているが、図5(a)では補正電極16が設けられておらず、図5(b)では補正電極16は設けられているが補正電極縁20が検出範囲内に位置していない構造であり、図5(a)、(b)ともに、太さ125μmの分析対象試料10を試料配置面17上に配置し、一次イオン源25によって分析対象試料10に一次イオンを照射し、質量分析部22を介して検出部23によって二次イオンを検出した。
【0045】
図5(a)、(b)では、共に上部面17b側に向いた軌跡a1、b1を走行した二次イオンと、真上方向に向いた軌跡a2、b2を走行した二次イオンとは質量分析部22を通過して検出部23に到達できたが、下部面17a側に向いた軌跡a3、b3を走行した二次イオンは到達できなかった。
【0046】
図5(a)の場合の検出部23で得られた画像を図8(1)に示す。下部面17a側に向いた軌跡a3を走行した二次イオンが検出されないため、画像の太さは50μmになっている。
【0047】
図5(c)は、傾斜角θは40度であり、補正電極縁20が検出範囲内に位置している場合であり、上記と同じ太さ125μmの分析対象試料10を配置し、一次イオンを照射して二次イオンを検出したところ、上部面17b側に向いた軌跡c1を走行した二次イオンと、真上方向に向いた軌跡c2を走行した二次イオンと、下部面17a側に向いた軌跡c3を走行した二次イオンとが質量分析部22を通過して検出部23に到達した。
【0048】
図5(c)の場合の検出部23で得られた画像を図8(2)に示す。各方向に向いた軌跡c1~c3を走行した二次イオンが検出されたため、画像の大きさも125μmになっており、分析対象試料10の太さが反映されている。
【0049】
次に、図6(d)~(f)では補正電極縁20は検出範囲内に位置しているが、傾斜角θの大きさは異なっており、図6(d)は傾斜角θ=35度、同図(e)は傾斜角θ=30度、同図(f)は傾斜角θ=45度の場合である。同図(e)の傾斜角θが35度以上の条件を満足させていない。
【0050】
そのため、図6(d)と図6(f)は、上部面17b側に向く軌跡d1、f1を走行した二次イオンと、真上方向に向いた軌跡d2、f2を走行した二次イオンと、下部面17a側に向いた軌跡d3、f3を走行した二次イオンとが質量分析部22を通過して検出部23に到達したが、図6(e)の場合では、真上方向に向いた軌跡e2を走行した二次イオンと、下部面17a側に向いた軌跡e3を走行した二次イオンとが検出部23に到達したが、上部面17b側に向いた軌跡e1を走行した二次イオンは到達しない。
【0051】
次に、図7(g)、(h)は傾斜角=40度の場合であるが、図7(g)は補正電極縁20が検出範囲外に位置し、図7(h)は補正電極縁20が検出範囲内に位置する点で異なっている。
そのため、図7(g)では上部面17b側に向いた軌跡g1を走行した二次イオンと、真上方向に向いた軌跡g2を走行した二次イオンとは検出部23に到達したが、下部面17a側に向いた軌跡g3を走行した二次イオンは検出部23に到達できなかった。
【0052】
それに対し、図7(h)では上部面17b側に向いた軌跡h1を走行した二次イオンと、真上方向に向いた軌跡h2を走行した二次イオンと、下部面17a側に向いた軌跡h3を走行した二次イオンとは検出部23に到達した。
【0053】
次に、図9には、本発明の二次イオン質量分析装置2によって測定した検出対象物10の太さと二次イオンから得られた画像の太さとを比較したグラフが示されている。同図記載のグラフの横軸は分析対象試料10の太さ(μm)であり、縦軸はその検出対象物試料10が放出した二次イオンによって観察された画像の太さ(μm)である。グラフ中に記載された分数の分母は測定した分析対象試料10の太さであり、分子は観察された画像の太さであり、本発明で得られた画像では、少なくとも分析対象試料10の太さの92%よりも大きい割合の太さになっている。
【0054】
なお、分析対象試料10が100×10-6m以上1000×10-6m以下の太さの金属線(ワイヤ)である場合は、第二の基準距離は0.05mm以上0.5mm以下の範囲の大きさにすると、金属線の周囲のうち、観察できる範囲が広くなる。
【符号の説明】
【0055】
2……二次イオン質量分析装置
10……分析対象試料
11……真空槽
12……試料配置台
13……貫通孔
14……引込電極
16……補正電極
17……試料配置面
17a……下部面
17b……上部面
20……補正電極縁
22……質量分析部
23……検出部
24……制御部
25……一次イオン源
30……頂上辺
31……第一の基準線
32……第二の基準線
33……引込電極辺
34……試料配置平面
35……試料平面
36……補正電極平面
37……引込電極平面
38……第一の基準平面
39……第二の基準平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9