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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】塗料用配合剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220823BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20220823BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20220823BHJP
   C09C 1/30 20060101ALI20220823BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20220823BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220823BHJP
【FI】
C09D201/00
C09C3/10
C08K9/04
C09C1/30
C01B33/18
C09D7/62
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018159186
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2019059919
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2017186093
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】恩田 迪子
(72)【発明者】
【氏名】山内 理光
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-060231(JP,A)
【文献】特開2017-039839(JP,A)
【文献】特開2012-062414(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107446388(CN,A)
【文献】特開平07-166091(JP,A)
【文献】特開2011-105788(JP,A)
【文献】特開2004-311326(JP,A)
【文献】特開平01-036632(JP,A)
【文献】特開2002-097385(JP,A)
【文献】特開平09-030810(JP,A)
【文献】特開2000-136265(JP,A)
【文献】特表2008-544940(JP,A)
【文献】特開2012-097260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09C 3/10
C08K 9/04
C09C 1/30
C01B 33/18
C09D 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点140℃以上のポリプロピレンワックスの水性エマルジョンで表面処理された無機酸化物粒子からなる塗料用配合剤において、
前記ポリプロピレンワックスは、前記無機酸化物粒子100質量部当り1~15質量部の量で含まれており、
ハンター白色度が90%以上であることを特徴とする塗料用配合剤。
【請求項2】
前記無機酸化物粒子は、0.1~1.5g/cmの嵩密度を有している請求項1に記載の塗料用配合剤。
【請求項3】
前記無機酸化物粒子がシリカである請求項1または2に記載の塗料用配合剤。
【請求項4】
FT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O、Wavenumbers 1701cm-1)・・・(i)、カルボン酸塩中のカルボキシレート(―COO、Wavenumbers 1558cm-1)・・・(ii)、水(HO、Wavenumbers 1630cm-1)・・・(iii)、ポリプロピレン(PP、Wavenumbers 1461cm-1)・・・(iv)からなるピーク強度比((i)×(ii)/(iii)/(iv))が0.25以下にある請求項1~3の何れかに記載の塗料用配合剤。
【請求項5】
平均粒径が1~50μmに粒度調整されている請求項1~4の何れかに記載の塗料用配合剤。
【請求項6】
硬化型塗料用配合剤として用いられる請求項1~5の何れかに記載の塗料用配合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理無機酸化物粒子からなる塗料用配合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から塗膜表面の光沢を低下させる目的でシリカ等の無機酸化物粒子を艶消し剤として塗料中に配合することが行われている。この艶消し剤は塗膜表面に微細な凹凸を形成させ、これによりグロス値を低下させるものである。
【0003】
ところで、上記のような無機酸化物粒子は、通常、塗料や樹脂に対する分散性を高めるために、ポリオレフィンワックスなどの有機材料により表面処理して使用される(例えば特許文献1参照)。無機酸化物粒子の表面処理剤として使用されるワックスは、常温で固体であるものの、特に低融点のものを使用した場合にはブリードアウトの問題が生じる。そのため、高融点のポリオレフィンワックス、例えばポリプロピレンワックスの使用が望まれている。
【0004】
このような高融点のポリプロピレンワックスを表面処理剤として使用する場合は、一般に、無機酸化物粒子とともに溶融混練するが、高融点であるが故に、複雑な設備が必要となったり、製造コストが高くなるという不都合がある。
【0005】
このような不都合を解消するための手段として、有機溶剤を使うことも考えられるが、有機溶剤には廃棄や環境の問題があり、そのため、排気設備等が必要となり、製造コストがかかるという問題は依然として解決できない。
【0006】
そこで、比較的低温で無機酸化物粒子の表面処理を行うために、ポリプロピレンワックスをエマルジョンの形で使用することも知られている(特許文献2)。
【0007】
ポリプロピレンの水性エマルジョンを用いての無機酸化物粒子の表面処理は、比較的低温で行うことができ、しかも、有機溶剤を用いていないので廃棄や環境の問題も心配する必要がないという利点を有している。
【0008】
しかしながら、本発明者らの研究によると、ポリプロピレンの水性エマルジョンを用いて表面処理を行った場合、わずかではあるが黄変が生じる傾向があり、塗膜に対する美観を損なうおそれがあるため、塗料用配合剤としての実用性が阻まれているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-136265号公報
【文献】特開平11-60231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、高融点のポリプロピレンの水性エマルジョンを表面処理剤として用いているにも関わらず、黄変が有効に抑制されている塗料用配合剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、ポリプロピレンワックスのエマルジョンを用いて無機酸化物粒子の表面処理を行った時に生じる黄変について多くの実験を行い検討した結果、この黄変は、該エマルジョンを用いての表面処理条件に由来しているとの知見を得、かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明によれば、融点140℃以上のポリプロピレンワックスの水性エマルジョンで表面処理された無機酸化物粒子からなる塗料用配合剤において、
前記ポリプロピレンワックスは、前記無機酸化物粒子100質量部当り1~15質量部の量で含まれており、
ハンター白色度が90%以上であることを特徴とする塗料用配合剤が提供される。
【0013】
本発明の塗料用配合剤においては、
(1)前記無機酸化物粒子は、0.1~1.5g/cmの嵩密度を有していること、
(2)前記無機酸化物粒子がシリカであること、
(3)FT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O、Wavenumbers 1701cm-1)・・・(i)、カルボン酸塩中のカルボキシレート(―COO、Wavenumbers 1558cm-1)・・・(ii)、水(HO、Wavenumbers 1630cm-1)・・・(iii)、ポリプロピレン(PP、Wavenumbers 1461cm-1)・・・(iv)からなるピーク強度比(i×ii/iii/iv)が0.25以下にあること、
(4)平均粒径が1~50μmに粒度調整されていること、
(5)硬化型塗料用配合剤として用いられる平均粒径が1~50μmに粒度調整されていること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗料用配合剤は、ポリプロピレンワックスにより表面処理されており、これにより、塗料中に配合したとき、塗膜形成用の樹脂中に均一に分散し、無機酸化物微粒子による艶消し効果が発現するのであるが、第1の特徴は、このポリプロピレンワックスの融点が140℃以上である点にある。即ち、このポリプロピレンワックスの融点が低かったり、或いはポリプロピレンではなく、ポリエチレンワックスにより表面処理が行われている場合には、塗膜中からのブリーディングが顕著となり、白化等により塗膜の加飾性が損なわれるおそれがある。特に、UV硬化型塗料に配合した場合には、光照射により塗膜を形成する際の温度上昇に際してのブリーディングが顕著である。
しかるに、本発明では、上記のように、高融点のポリプロピレンワックスを用いて表面処理されているため、上記のようなブリーディングの問題は有効に解決されている。
【0015】
また、本発明の塗料用配合剤は、上記の高融点ポリプロピレンワックスの水性エマルジョンを用いて表面処理がなされていることが第二の特徴である。
即ち、水性エマルジョンを用いての表面処理であるため、溶融混練のような複雑な設備を使用することなく、しかも溶剤除去のための排気設備等が不要であり、環境に悪影響を与えることがなく、しかも製造コストを増大させることもない。
【0016】
さらに、本発明の塗料用配合剤においては、上記の高融点ポリプロピレンワックスの含有量(即ち、表面処理量)は、無機酸化物粒子100質量部あたり1~15質量部、好ましくは1~9質量部の範囲に調整されていることが第三の特徴である。即ち、ポリオレフィンワックス等による表面処理量は、一般に無機酸化物粒子100質量部あたり10質量部を越えており、本発明では、表面処理量が、従来採用されている範囲よりも少なく調整されている。これにより、エマルジョンを用いての表面処理条件(温度や処理時間)の調整により、黄変が有効に回避されており、そのハンター白色度が90%以上、好ましくは93%以上、特に好ましくは96%以上となり、極めて高い白色度が確保される。
【0017】
即ち、本発明の塗料用配合剤では、水性エマルジョンを用いて表面処理されているにもかかわらず、黄変が有効に抑制され、優れた白色度が得られている。従って、本発明の塗料用配合剤は、安価に製造することができ、しかも、黄変やブリーディングによる塗膜の外観低下が有効に回避されており、紫外線などの光硬化型塗料の配合剤として、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実験例で得られた塗料用配合剤の白色度とFT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O)を含むピーク強度比の関係。
図2】比較例1で得られた塗料用配合剤のFT-IR測定で観察されたピーク強度。
図3】塗料実験で用いた塗料用配合剤(実施例1)が配合されたUV硬化型塗料の粘度及びシリカ(無機酸化物粒子(A))が配合されたUV硬化型塗料の回転粘度計で測定した粘度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の塗料用配合剤は、表面処理剤として使用されたポリプロピレンワックスにより無機酸化物粒子の表面が覆われているという粒子構造を有している。
【0020】
<無機酸化物粒子>
表面処理される無機酸化物粒子としては、特に制限されず、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、或いはこれらの無機酸化物の2種以上からなる混合物、或いは2種以上が複合化している複合無機酸化物(例えばアルミノシリケート、チタノシリケート)など、それ自体公知のものであってよいが、特に化学的、熱的に安定であり、塗料用配合剤として好適に使用されるシリカ、アルミナ、酸化チタン等が好適であり、シリカが最も好適である。
【0021】
また、上記の無機酸化物粒子は、各種の無機塩等の不純物を多く含んでいる場合があるが、その不純物量が多いと、無機酸化物としての特性や、分散性、屈折率などの塗料用配合剤等としての特性にバラツキを生じ易くなってしまう。このため、このような不純物は可及的に少ないことが望ましく、不純物含量が多い無機酸化物粒子については、例えば水簸、水洗等により、不純物含量を低減させておくことが好適である。
例えば、高純度の無機酸化物粒子は、電気抵抗が高く、不純物含量の多いものは電気抵抗が小さいことから、5%水性懸濁液で測定した20℃での比抵抗が1kΩ・cm以上、特に40kΩ・cm以上となるように、不純物含量を低減させておくことが好適である。
【0022】
本発明において、上記の無機酸化物粒子は、嵩密度が0.1~1.5g/cm、特に0.1~0.7g/cmの範囲にあることが好ましい。即ち、嵩密度が小さい嵩高なものは、塗料や樹脂などに配合したときに粒子が崩壊し、著しい増粘や、屈折率の変動等を生じることがあるが、嵩密度が上記の範囲にある緻密な粒子を使用することにより、上記の問題を有効に防止することができる。また、嵩密度が必要以上に大きくなると、例えば塗料等に配合して塗膜を形成したとき、摺擦による塗膜の傷付性が高まってしまうので、その上限は、上記のような適度な範囲にあるのがよい。
【0023】
上述した観点から、本発明において、表面処理される無機酸化物として最も好適に使用される無機酸化物は、所謂ゲル法シリカまたは沈降法シリカである。
かかるゲル法シリカは、例えば、前述した特許文献2の二重構造非晶質シリカ粒子のコアに相当する緻密な構造を有するものであり、ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸水溶液とをpH2~10の条件下で中和することにより得られる。また、他のシリカとしては、所謂沈降法も知られており、かかる方法で得られる非晶質シリカも表面処理される無機酸化物粒子として好適に使用される。
【0024】
<ポリプロピレンワックス>
本発明において、表面処理剤として使用され、上述した無機酸化物粒子の表面を覆っているポリプロピレンワックスは、融点が140℃以上、特に160℃以上のものである。この融点は、所謂示差熱分析(DSC)により測定されるピークトップの値であるが、融点が上記範囲よりも低融点のもの或いはポリエチレンワックスなどを用いた場合には、例えば塗料や樹脂などに配合したとき、塗膜やフィルム形成時等の加熱により熱履歴を受けたときにブリーディングを生じ易くなってしまい、例えば滑り性が高められ、塗膜特性やフィルム物性等が損なわれ、その用途が大きく制限されてしまうため、本発明には不適当である。
【0025】
また、このワックスによる表面処理は、後述するように、該ワックスをエマルジョンの形で使用されて行われる。このため、このワックスを形成するポリプロピレンは、水に対する分散性を高めるため、無水マレイン酸や(メタ)アクリル酸等のエチレン系不飽和結合を有する不飽和カルボン酸などが共重合されている。即ち、このような極性基を有する化合物を共重合成分として導入することにより水に対する親和性を高め、エマルジョンを調製し得るようにしているわけである。
【0026】
尚、上記のように極性基が導入されていない通常のポリプロピレンワックスを用いた場合には、例えば、溶融混練や有機溶剤を用いて表面処理が行われることとなり、表面処理にワックスの融点以上の高温加熱や有機溶剤廃棄のための処理設備などが必要となり、コストの増大を招き、本発明の目的を実現することができない。
【0027】
本発明において、上述したポリプロピレンワックスは、前記無機酸化物粒子100質量部当り1~15質量部、特に1~9質量部の量で、該無機酸化物粒子の表面に存在する。この量(ワックス添着量)が、上記範囲よりも少ない場合には、粒子同士の凝集が生じ易く、塗料や樹脂に均一に分散させることが困難となったり、或いは塗料や樹脂に分散させたときの粘度上昇が大きくなり、結果として、その配合量が制限され、塗料や樹脂に所望の特性を付与することが困難となってしまう。また、この量を上記範囲よりも多く設定しようとすると、後述する水性エマルジョンを用いての表面処理によって黄変を生じてしまう。
【0028】
<表面処理無機酸化物粒子の特性>
本発明の塗料用配合剤として使用される表面処理無機酸化物粒子は、エマルジョン形成のために共重合変性されているポリプロピレンのワックスが上記のような量で無機酸化物粒子の表面に添着していると共に、ハンター白色度が90%以上、好ましくは93以上、特に好ましくは96%以上と、極めて高い白色度を有している。
【0029】
即ち、本発明者等の研究によると、ポリプロピレンワックスの水性エマルジョンを用いて表面処理(以下、エマルジョン法表面処理と呼ぶことがある)を行うと、黄変を生じることが判っている。特に、この黄変は、ラボ実験に代表されるように、少量の無機酸化物粒子を表面処理する場合には、比較的わずかであり、肉眼では問題になると思われない程度に見えるが、実機で多量の無機酸化物粒子について表面処理を行うと、かなり顕著に現れる。即ち、エマルジョン法表面処理では、従来採用されていた有機溶剤を用いての表面処理や溶融混練による表面処理とは全く異なる設備(水分除去のための乾燥設備)を用いて行うことが必要であるため、ラボ的に少量生産は行われていても、工業的にはほとんど実施されていなかったため、このような黄変については問題視されておらず、従って、その解決手段についても、これまで全く検討されていなかったのではないかと思われる。
【0030】
上記の黄変が生じる理由は、明確に解明されているわけではないが、本発明者等は、ポリプロピレンの酸化劣化が黄変の理由ではないかと推定している。即ち、ポリプロピレンは、酸化されやすい3級炭素原子を含んでいると同時に、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の共重合単位が分子中に導入されており、酸化され易い不飽和基を含んでいる。このため、表面処理に際しての加熱等により酸化され、アルデヒドやケトンなどの低分子量成分が発生し、これが黄変の原因になっているのではないかと考えている。特に、ポリプロピレンの水性エマルジョンは、エマルジョン化の際に、例えば界面活性剤や分散剤、中和剤として添加される塩の金属成分が触媒作用を持つ場合があり、上述の不飽和基の酸化劣化を促進すると考えている。また、無機酸化物粒子に含まれる不純物が多い場合においても、同様の触媒作用によって不飽和基の酸化劣化が促進する恐れがあるため、例えば、無機酸化物粒子は5%水性懸濁液で測定した20℃での比抵抗が1kΩ・cm以上、特に40kΩ・cm以上となるように、不純物含量を低減させておくことが好ましい。
【0031】
例えば、本発明の塗料用配合剤は、FT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O、Wavenumbers 1701cm-1)を含むピーク強度比((i)×(ii)/(iii)/(iv))が0.25以下、好ましくは0.20以下にある。ピーク強度(i)、(ii)、(iii)、(iv)の詳細を下記に示した。
カルボニル基(>C=O、Wavenumbers 1701cm-1)・・・(i)
カルボン酸塩中のカルボキシレート(―COO、Wavenumbers 1558cm-1)・・・(ii)
水(HO、Wavenumbers 1630cm-1)・・・(iii)
ポリプロピレン(PP、Wavenumbers 1461cm-1)・・・(iv)
カルボニル基(>C=O)を含むピーク強度比は、下記式より求めた。
(i)×(ii)/(iii)/(iv)
上記式においては、熱履歴等の外的要因によりポリプロピレン鎖が切断し、当該部分が酸化されカルボニル基を生成する事で(i)が増加、更に、先述の水性エマルジョンに含有される金属成分とカルボニル基の間でカルボン酸塩を生成し(ii)が増加する。一方、熱履歴により水の蒸発が促進される事で(iii)は減少し、また、ポリプロピレン鎖の切断により(iv)も減少する。以上より、上記式はポリプロピレンワックスの水性エマルジョンで表面処理された無機酸化物粒子の酸化の程度を示すパラメータである。
FT-IRの測定で算出されるこれらのピークは、Thermo Fisher Scientific社製FT-IR(Nicolet iS50)、Harrick Scientific社製拡散反射用アタッチメント(Seagull)、および検出器DLaTGSを用いる場合の測定条件を、例えば、入射角15度、積算回数128回、分解能4cm-1としたときは、上記のWavenumberに観察することができる(図2を参照)。このようなカルボニル基含量は、黄変がポリプロピレンの酸化によるものであることを示していると本発明者等は考えている。即ち、ポリエチレンのワックスにより表面処理されている無機酸化物粒子では、表面処理に際してポリプロピレンほど酸化されないため、そのカルボニル基含量は、本発明に比して小さい。また、ポリプロピレンワックスを用いたとしても、溶融混練や有機溶剤を用いての表面処理がなされているものでも、そのカルボニル基含量は、本発明に比して小さい。
このことから理解されるように、本発明において、カルボニル基含量が上記範囲にあることは、少なくとも、ポリプロピレンの水性エマルジョンを用いて表面処理がされていることを意味している。
【0032】
尚、本発明の塗料用配合剤として用いる表面処理無機酸化物粒子は、本発明者等が推定した黄変の発生原因に基づき、極力、酸化されにくいようにしてエマルジョン法により表面処理されたものであり、この結果、少量の表面処理であろうが大量の表面処理であろうが、上記のような高い白色度を有しているのであり、これは、従来公知のエマルジョン法による表面処理無機酸化物粒子には全く見られない特性である。例えば、ラボ実験で少量処理を行った場合でも、従来は、このような高い白色度のものは得られていない。
【0033】
さらに、付け加えると、本発明の塗料用配合剤は、5%水性懸濁液で測定した20℃での比抵抗が15kΩ・cm未満とかなり低い。先にも述べたように、表面処理される無機酸化物粒子の比抵抗が特に40kΩ・cm以上であることを考慮すると、この表面処理により、比抵抗が大きく低下していることが理解される。即ち、本発明の塗料用配合剤は、上記のようにエマルジョン法により無機酸化物粒子を表面処理することにより、得られるため、エマルジョン調製のための界面活性剤や分散剤、中和剤に由来する各種塩類がワックスと共に無機酸化物粒子表面に移行しており、さらにポリプロピレンワックス自体も、共重合により極性基が導入されている。このため、本発明の表面処理無機酸化物粒子は、未処理の無機酸化物粒子と比較して電気伝導度が高められ、上記のように比抵抗値が低下しているわけである。
【0034】
<表面処理>
上述したように、本発明の塗料用配合剤は、高融点ポリプロピレンワックスの水性エマルジョンを用いての表面処理により得られるものであるが、黄変を有効に抑制するために、酸化を極力防止するように、極めて厳密に管理された状態でエマルジョン法による表面処理が行われる。
【0035】
先ず、大まかに説明すると、前述した無機酸化物粒子を、表面処理されやすいように、粉砕等によって適度な粒径(通常、平均粒径が1~50μm)に粒度調整し、乾燥して水分を除去した後、前述したポリプロピレンワックスの水性エマルジョンを用い、粒度調整された無機酸化物粒子に該エマルジョンをスプレー噴霧し、引き続いて乾燥することにより、表面処理が行われる。
【0036】
無機酸化物粒子へのポリプロピレンワックスエマルジョンのスプレー噴霧は、例えばヘンシェルミキサー等の混合器中に無機酸化物粒子を導入し、撹拌下にスプレー噴霧が行われ、引き続き乾燥が行われる。
尚、ゲル法或いは沈降法などで得られたシリカの濾過水洗ケーキに、上記のワックスエマルジョンを混合撹拌することによっても表面処理を行うことができるが、この場合には、シリカとワックスエマルジョンを混合攪拌する大型設備や処理工程の増加が避けられないばかりか、乾燥を必要以上高温且つ長時間行わなければならず、この結果、黄変を抑制することが困難となってしまい、目的とする高白色度の表面処理粒子を得ることができない。従って、本発明の表面処理粒子を得るためには、上記のようにスプレー噴霧により表面処理を行うことが好ましく、特に、表面処理後の乾燥をできるだけ低温且つ短時間で行い得るように、適宜乾燥され、例えば、含水率が10質量%以下のレベルまで乾燥された無機酸化物粒子について、スプレー噴霧による表面処理を行うことが最適である。
【0037】
また、上記のようなスプレー噴霧に際して、混合機内への無機酸化物粒子の仕込み量に応じて、スプレー噴霧するエマルジョン中のポリプロピレンワックスの濃度、噴霧時間、スプレー噴霧に際しての混合機内温度、噴霧後の乾燥温度及び乾燥時間等の条件が、前述したハンター白色度或いはカルボニル基含量が得られるように設定されることとなる。即ち、適度な表面処理効率が確保される範囲内で、高温下でのポリプロピレンワックスの酸素との接触を可及的に抑制するように、各種条件が設定される。
【0038】
例えば、エマルジョンワックスの固形分濃度(ワックス濃度)は、高い程、ワックスと酸素との接触が抑制されるが、濃度が高すぎると、処理時間(スプレー噴霧時間や乾燥時間)が短く、酸化を防止する方向に作用する一方で、ワックスが単独で固化し易く、表面処理を均一に行うことが困難である。この場合には、水で希釈してワックス濃度を低下させて、ワックスの単独固化を抑制し均一な表面処理を行うことができるが、水分を除去するために高温且つ長時間の加熱を要することは避けなければならない。
また、スプレー噴霧に際しての混合機内の温度(スプレー噴霧温度)及びその後の乾燥温度(スプレー後の混合機内温度)は、低すぎると、乾燥に長時間要することとなり、結局、目的とするハンター白色度を有する表面処理粒子を得ることが困難となってしまう。また、この温度が高すぎると、ワックスの酸化が促進されてしまい、やはり、高いハンター白色度を有する表面処理粒子を得ることが困難となってしまう。
スプレー噴霧時間は、短い程、処理効率はよいが、反面、噴霧圧力が高く、ワックスが空気(酸素)と接触する頻度が高くなり、酸化を抑制することが困難となるため、適度な範囲に設定しなければならない。
さらに、乾燥時間も同様に、適度な範囲に設定することが必要である。この時間が短くなると、処理効率は向上するとしても、乾燥温度を高くすることが必要となり、乾燥温度の上昇は、酸化を促進し、ハンター白色度の低下(即ち、黄変)を招いてしまうからである。
【0039】
このように、黄変を防止するには、上述した各種条件が互いに関連しているため、仕込み量等に応じて、目的とするハンター白色度やカルボニル基含量が得られるように、各種条件を設定し、各条件を厳密に管理することが必要である。
因みに、60~100kgの無機粒子をヘンシェルミキサーに投入し、所定量のポリプリプロピレンワックスが添着された本発明の表面処理無機酸化物粒子を得るときの好適な条件は、以下の通りであることを実験的に確認している。
エマルジョン濃度(ワックス濃度):15~20質量%
スプレー噴霧温度(噴霧室内温度):130~140℃
スプレー噴霧時間:60~120分
乾燥温度:130~140℃
乾燥時間:0~30分
尚、乾燥自体は、スプレー噴霧と同時に始まっているが、上記の乾燥時間は、スプレー噴霧終了後からの時間である。
また、ポリプロピレンワックスのエマルジョンは市販されているものを一般に使うことができ、エマルジョン濃度の調整は、例えば、水での希釈により行われる。
【0040】
尚、本発明においては、上記のような細かい条件コントロールをせずに、表面処理及び乾燥を窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことにより、目的とする黄変が無く、ハンター白色の高い表面処理粒子を得ることができる。しかし、かかる手段では、格別の構造の表面処理装置が必要となり、コスト的に不利となってしまう。従って、本発明においては、通常の大気下での表面処理に際して、各条件をコントロールして目的とする表面処理無機酸化物粒子を得ることが好適である。
【0041】
上記のようにしてスプレー噴霧及び乾燥を行うことにより得られた本発明の表面処理酸化物粒子は、通常、樹脂や塗料等の媒体に配合して使用されるため、これら媒体に対する分散性を高め且つこれら媒体の粘度上昇を抑制し、作業性を確保するという観点から、その平均粒径(レーザー回折散乱法により測定した体積基準のメジアン径)が1~50μm、特に3~20μmとなる程度に粉砕・分級されて使用に供される。
さらに、上記媒体に配合した時の加熱時の水分による発泡を抑制する等の観点から、含水率が9%以下、特に5%以下に乾燥されて使用されることが好ましい。
【0042】
<用途>
本発明の塗料用配合剤は、これを塗料に配合することにより、塗膜の艶消し性や低滑り性を付与することができる。
塗料としては、樹脂の種類からいって、油性塗料、ニトロセルロース塗料、アルキッド樹脂塗料、アミノアルキッド塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、塩化ゴム系塗料等の慣用のそれ自体公知の塗料の他に、ロジン、エステルガム、ペンタレジン、クマロン・インデンレジン、フェノール系レジン、変性フェノール系レジン、マレイン系レジン、アルキド系レジン、アミノ系レジン、ビニル系レジン、石油レジン、エポキシ系レジン、ポリエステル系レジン、スチレン系レジン、アクリル系レジン、シリコーン系レジン、ゴムベース系レジン、塩素化物系レジン、ウレタン系レジン、ポリアミド系レジン、ポリイミド系レジン、フッ素系レジン、天然或いは合成の漆等の1種或いは2種以上を含有する塗料が挙げられる。
【0043】
また、用いる塗料は、その用い方によって、溶剤型塗料、水性塗料、硬化型塗料、粉体塗料などに分類されるが、本発明の表面処理酸化物粒子は、融点が140℃以上、特に160℃以上の高融点ポリプロピレンワックスにより表面処理されていることから、硬化型塗料の配合剤として最適である。
即ち、硬化型の塗料は、例えば熱硬化型或いはUV硬化型のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を樹脂成分として含んでおり、熱或いは光照射(UV)により硬化して塗膜を形成するのであるが、ワックスで表面処理されている酸化物粒子では、硬化時の発熱によってワックスが溶融し、表面にブリードし、この結果、塗膜の滑り性が増大してしまったり或いは艶消し性が損なわれてしまうこともある。しかるに、本発明の表面処理酸化物粒子では、ワックスの融点が高いため、硬化時の昇温によるブリーディングが有効に抑制され、上記のような不都合を生じることはない。
【0044】
勿論、本発明の表面処理酸化物粒子は、例えば、アンチブロッキング剤として種々の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、塩化ビニール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂等に配合することもできる。特に、その分散性という点で、オレフィン樹脂、例えば、低-、中-或いは高-密度のポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、或いはこれらのエチレン乃至α-オレフィンとの共重合体であるポリプロピレン系重合体、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びこれらのブレンド物などに配合されることが特に好ましく、ポリプロピレンもしくはその共重合体に配合することが最適である。
【0045】
さらに、本発明の表面処理酸化物粒子は、所謂充填材として、上記熱可塑性樹脂や、各種ゴム、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、或いは紙、繊維に配合することもできる。
【実施例
【0046】
本発明を次の実験例で説明する。尚、本発明に用いる各種粒子等の物性及び評価方法は以下の通りである。
【0047】
(1)平均粒径
体積基準のメジアン径はMalvern社製Mastersizer 3000を使用して、レーザー回折散乱法で測定した。
【0048】
(2)嵩密度
嵩密度はJIS K 6220-1 7.8.2:2015に準拠して、鉄シリンダー法により測定した。
【0049】
(3)含水率
含水率は試料の110℃乾燥水分量から算出した。
【0050】
(4)5%水性懸濁液で測定したときの比抵抗(20℃)
試料の5%水懸濁液を、JIS K 5101-17-1:2004に準拠して調製した。この懸濁液の20℃における比抵抗を(株)堀場製作所製電気伝導度計(DS-8F)で測定した。
【0051】
(5)ポリプロピレンワックスの含有量(ワックス添着量)
1050℃強熱減量により、無機酸化物粒子100質量部当りのポリプロピレンワックス量を測定した。
【0052】
(6)ハンター白色度
日本電色工業(株)製測色色差計カラーメーターZE-2000を用いて測定を行った。
【0053】
(7)FT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O)を含むピーク強度比
Thermo Fisher Scientific社製FT-IR(Nicolet iS50)、Harrick Scientific社製拡散反射用アタッチメント(Seagull)、および検出器DLaTGSを用い、入射角15度、積算回数128回、分解能4cm-1としたときの下記Wavenumberのピーク強度を測定した。
カルボニル基(>C=O、Wavenumbers 1701cm-1)・・(i)
カルボン酸塩中のカルボキシレート(―COO、Wavenumbers 155
8cm-1)・・・(ii)
水(HO、Wavenumbers 1630cm-1)・・(iii)
ポリプロピレン(PP、Wavenumbers 1461cm-1)・・(iv)
カルボニル基(>C=O)を含むピーク強度比は、下記式より求めた。
(i)×(ii)/(iii)/(iv)
【0054】
<実施例1~7及び比較例1,2>
本実験例で用いた無機酸化物粒子を示す。
(A)シリカ:水澤化学工業株式会社製ゲル法シリカ ミズカシル P-757C
(B)アルミノシリケート:水澤化学工業株式会社製ソジウムカルシウムアルミノシリ
ケート シルトンJC-30
なお、「ミズカシル」および「シルトン」は水澤化学工業株式会社の登録商標である。
上記無機酸化物粒子(A)および(B)の各物性値を表1に示す。
【0055】
本実験例における表面処理は、装置(a)ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)又は装置(b)スーパーミキサー(川田製作所製)を用いて行い、表2に示す表面処理条件によって塗料用配合剤を得た。
本実験例で用いたポリプロピレンワックスの水性エマルジョン(表面処理剤)を示す。
(C)BYK社製ポリプロピレンワックスの水性エマルジョン AQUACER 59
3(融点160℃)
(D)東邦化学社製ポリプロピレンワックスの水性エマルジョン P-9018(融点
156℃)
(E)丸芳化学社製ポリプロピレンワックスの水性エマルジョン MGP-1650
(融点140℃)
【0056】
上記の無機酸化物粒子(A)または(B)、及び水性エマルジョン(C)~(E)を表2に示すように配合し且つ表面処理を行って塗料用配合剤を得た(実施例1~7及び比較例1)。
また、比較例2では、無機酸化物粒子(A)を水分散した後のろ過ケーキ(含水率64%)と表面処理剤(C)(ワックス濃度30%)を用いた他は、特開平11-60231の実施例6と同様の条件にて処理を行い、塗料用配合剤を得た。
【0057】
上記の実施例1~7及び比較例1,2で調整された塗料用配合剤についての各物性値を表3に示す。また、これら塗料用配合剤の白色度とFT-IR測定により算出されるカルボニル基(>C=O)を含むピーク強度比の関係を図1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
<塗料試験>
塗料は、共栄社化学(株)製ウレタンアクリレートUA-306T、ライトアクリレート1.9ND-A、同P-200Aを配合した塗料90質量部に対し、共栄社化学(株)製フローレンDOPA-100、及びBASFジャパン(株)製IRGACURE 1173をそれぞれ5質量部添加した紫外線(UV)硬化型塗料を使用した。無機酸化物粒子配合条件は、上記UV硬化型塗料100質量部に対し無機酸化物粒子10質量部配合とした。分散条件は、プライミクス(株)製T.K.HOMODISPER(Model 2.5)を使用し、回転数1500rpmにて5分とした。塗布条件は、BYK―Gardner社製Cat.No.2120アプリケーターを使用し、日本テストパネル(株)製標準試験板(ガラス)に塗布した。硬化条件は、アイグラフィックス(株)製UVコンベア装置(アイminiグランデージ ECS-1511U)を使用し、積算光量115~130mJ/cmとした。
粘度は東機産業(株)製VISCOMETER TVB-10(CORD NO.21)を使用し、回転数6、30、60rpm(40℃)として測定した。粘度を図3に示す。60°グロスは日本電色工業(株)製Gloss Meter VG2000を使用し測定した。膜厚は(株)東洋精機製作所製THICKNESS METER B1を使用し測定した。60°グロス、膜厚を表4に示す。
【0062】
【表4】
図1
図2
図3