(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/03 20140101AFI20220823BHJP
C09D 11/107 20140101ALI20220823BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20220823BHJP
C09D 11/023 20140101ALI20220823BHJP
【FI】
C09D11/03
C09D11/107
B41M1/30 D
C09D11/023
(21)【出願番号】P 2018192918
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 裕史
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢太郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149808(JP,A)
【文献】特開昭56-166276(JP,A)
【文献】特開昭56-072063(JP,A)
【文献】特表平06-503370(JP,A)
【文献】特開2016-027194(JP,A)
【文献】特開2017-128701(JP,A)
【文献】特開2010-006919(JP,A)
【文献】特開昭64-038277(JP,A)
【文献】特開2015-101593(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047817(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/117079(WO,A1)
【文献】特開2011-046838(JP,A)
【文献】特開2004-107592(JP,A)
【文献】特開平01-282273(JP,A)
【文献】特開平10-204365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、水性媒体を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物であって、さらに、アニオン系界面活性剤
としてリン酸エステル系界面活性剤及び/又はタウリン系界面活性剤をインキ組成物中に0.1~1.0質量%含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂が、酸価10~100mgKOH/g、ガラス転移温度-30~150℃のアクリル系エマルジョンであり、これをインキ中に固形分で5~30質量%含有する請求項
1に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項3】
アクリル系エマルジョンが、アクリルエマルジョン、スチレン・アクリルエマルジョン、アクリル・マレイン酸エマルジョン及びスチレン・アクリル・マレイン酸エマルジョンから選ばれる少なくとも1種である請求項
2に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項4】
バインダー樹脂として、さらにアルカリ可溶性樹脂を含有する請求項1~
3のいずれかに記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、菓子、生活雑貨、ペットフード等には意匠性、経済性、内容物保護性、輸送性等の点から、各種プラスチックフィルムを使用した包装材料が使用されている。また、多くの包装材料には、消費者へアピールする意匠性、メッセージ性の付与を意図してグラビア印刷やフレキソ印刷が施されている。
そしてこれらの包装材料を得るために、包装材料の基材フィルムの表面に印刷される表刷り印刷、あるいは包装材料の基材フィルムの印刷面に必要に応じて接着剤やアンカー剤を塗布し、フィルムにラミネート加工を施す印刷が行われる。
印刷では、ポリエステル、ナイロン、アルミニウム箔等の各種フィルム上に色インキ、白インキを順次印刷後、該白インキの印刷層上に、接着剤を用いたドライラミネート加工や、アンカーコート剤を用いたエクストルージョンラミネート加工等によりヒートシールを目的としたポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等が積層されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ヒドラジン化合物とカルボジイミド化合物を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は公知(例えば、特許文献2参照)であり、コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンを含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物も公知であるが、いずれも耐熱性までも考慮したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-97959号公報
【文献】特開2018-076431号公報
【文献】特開2017-190416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、フィルム用印刷インキ組成物として表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物とすることに加え、耐熱性が向上した表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を発明した。
1.顔料、バインダー樹脂、水性媒体を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物であって、さらに、アニオン系界面活性剤をインキ組成物中に0.1~1.0質量%含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
2.アニオン系界面活性剤が、リン酸エステル系界面活性剤である1.記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
3.バインダー樹脂が、酸価10~100mgKOH/g、ガラス転移温度-30~150℃のアクリル系エマルジョンであり、これをインキ中に固形分で5~30質量%含有する1.又は2.に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
4.アクリル系エマルジョンが、アクリルエマルジョン、スチレン・アクリルエマルジョン、アクリル・マレイン酸エマルジョン及びスチレン・アクリル・マレイン酸エマルジョンから選ばれる少なくとも1種である3.に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
5.バインダー樹脂として、さらにアルカリ可溶性樹脂を含有する1.~4.のいずれかに記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、優れた樹脂フィルムへの密着性、耐熱性、耐水及び耐摩擦性をバランス良く発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物についてより詳しく説明する。
<顔料>
本発明において使用できる顔料としては、印刷インキにおいて一般的に用いられている各種無機顔料及び/又は有機顔料等を使用できる。
無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料を挙げることができる。
有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
本発明における顔料の含有量は、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物中に0.5~40.0質量%が好ましい。表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物中の顔料の含有量が上記の範囲より少なくなると、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物としての着色力が低下し、上記の範囲より多くなると、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の粘度が高くなり、印刷物が汚れやすくなる。
【0009】
<バインダー樹脂>
(水性樹脂エマルジョン)
バインダー樹脂として使用する水性樹脂エマルジョンとしては、酸価が10~100mgKOH/gで、揮発性塩基性化合物で酸価の一部又は全てを中和した酸基含有水性樹脂エマルジョンであるものが好ましい。
酸基含有水性樹脂エマルジョンとしては、アクリルエマルジョン、スチレン・アクリルエマルジョン、アクリル・マレイン酸エマルジョン及びスチレン・アクリル・マレイン酸エマルジョンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
具体的には、カルボキシル基を有する水溶性樹脂を高分子乳化剤として、水性溶媒中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる酸基含有水性樹脂エマルジョンである。
【0010】
酸基含有水性樹脂エマルジョンの具体例について説明する。
本発明中の酸基含有水性樹脂エマルジョンを得るための、カルボキシル基を有する水溶性樹脂は、i成分:ラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物を2~50質量%、ii成分(必要に応じて使用される):ラジカル重合性二重結合を有するケトン化合物および/またはアルデヒド化合物を0~5質量%、およびiii成分:iおよびii成分を除くラジカル重合性二重結合を有する化合物を50~98質量%共重合して得られ、アルカリ水溶液に溶解可能な共重合体樹脂である。なお、ここでは、i、iiおよびiii成分を合わせてI成分と称する。
【0011】
ここで、i成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸とそのモノアルキルエステル、モノヒドロキシアルキルエステル、モノアミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を挙げることができる。
これらのラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物の中でも、得られる高分子乳化剤の乳化能の点から、モノカルボン酸、特にアクリル酸またはメタクリル酸の使用が好適である。
【0012】
次に、ii成分のラジカル重合性二重結合を有するケトン化合物とは、分子中に少なくとも1つ以上のケト基を有するラジカル重合性化合物であって、具体的には、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、ビニルアルキルケトン類等を挙げることができる。
また、ii成分のラジカル重合性二重結合を有するアルデヒド化合物とは、分子中に少なくとも1つ以上のアルド基を有するラジカル重合性化合物であって、アクロレイン、ホルミルスチロール、アルカナール(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。
【0013】
次に、iii成分としては、例えば以下に記載する(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物およびマレイン酸誘導体が使用できる。
・(メタ)アクリル酸誘導体:(メタ)アクリル酸の炭素原子数が1~18のアルキルエステル、炭素原子数が1~18のアルキルアミド、炭素原子数が2~4のヒドロキシアルキルエステル等で、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、ヘキシル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0014】
・スチレン系化合物:スチレンおよび炭素原子数が8~10程度の誘導体で、具体的には、α-メチルスチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
・マレイン酸誘導体:マレイン酸の炭素原子数が1~18のジアルキルエステル、炭素原子数が1~18のジアルキルアミド、炭素原子数が2~4のジヒドロキシアルキルエステル等で、具体的には、ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジブチルマレート、ジオクチルマレート、ビス-2-ヒドロキシエチルマレート、マレイン酸ジメチルアミド、マレイン酸ジエチルアミド、マレイン酸ジブチルアミド等を挙げることができる。
【0015】
なお、上記カルボキシル基を有する水溶性樹脂を得るための、i成分の使用量は2~50質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%、ii成分の使用量は0~5質量%が好ましく、より好ましくは1~4質量%、iii成分の使用量は50~98質量%が好ましい。
ここでi成分の使用量が前記範囲より少ない場合は、カルボキシル基を有する水溶性樹脂がアルカリ水溶液中で充分な溶解性が得られない可能性があり、乳化重合の安定性、さらに重合物の分散安定性が低下する可能性があると共に、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の流動性も不良となる場合がある。一方、前記範囲を超える場合は、耐水性、印刷適性が低下して好ましくない場合がある。
また、ii成分の使用量が前記範囲を超える場合は、得られた表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物が、経時での増粘・固化、印刷適性の低下を起こす可能性がある。
【0016】
以上のI成分を共重合させてカルボキシル基を有する水溶性樹脂を得る方法としては、有機溶剤中で重合開始剤の存在下、前記化合物の混合物を所定の温度および反応時間で反応させた後、有機溶剤を留去する方法が利用できる。
ここで、使用可能な有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、低級アルコール系、グリコールおよびその誘導体等を挙げることができ、一方、使用可能な重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類、また、必要に応じて還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤を挙げることができる。
【0017】
このカルボキシル基を有する水溶性樹脂を高分子乳化剤として使用する場合、好適な分子量(数平均分子量、以下同じ)は3,000~100,000、より好適には5,000~30,000の範囲である。分子量が3,000より低くなると、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物に耐水性や耐ブロッキング性を持たせるために別の手段が必要となり、一方、100,000より高くなると、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の粘度が高くなる。
またこのカルボキシル基を有する水溶性樹脂の酸価は20~300mgKOH/gが好ましい。酸価が20mgKOH/g未満ではアルカリ水溶液中での充分な溶解性が得られず、一方300mgKOH/gを超えると、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の耐水性、印刷適性が低下する傾向がある。
【0018】
次に、乳化重合に供されるラジカル重合性二重結合を有する化合物IIとしては、iv成分(必要に応じて使用される):ラジカル重合性二重結合を有するケトンおよび/またはアルデヒド化合物と、v成分:iv成分を除くラジカル重合性二重結合を有する化合物を使用するものである。なお、本発明では、ivおよびv成分を合わせてII成分と称する。
ここで、iv成分としては、上記ii成分として示したラジカル重合性二重結合を有するケトンおよびアルデヒド化合物を挙げることができる。
【0019】
一方、v成分としては、上記i成分として例示した前記のラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物、上記iii成分として例示した(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物、マレイン酸誘導体が挙げられ、その他、炭素原子数2~18の飽和カルボン酸のビニルエステル、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル等を挙げることができる。
これらのv成分の中でも、水性樹脂エマルジョンの分散性、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の性能から、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物が好ましい。
【0020】
以上のII成分の全量中、iv成分の使用量は0~30質量%、v成分の使用量は70~100質量%であることが好ましい。
ここで、iv成分の使用量が30質量%を超える場合は、経時での増粘・固化、印刷適性の低下が起こり得るので好ましくないことがある。
【0021】
カルボキシル基を有する水溶性樹脂を高分子乳化剤として使用し、さらにII成分を用いて水性樹脂エマルジョン、酸基含有水性樹脂エマルジョンやアクリル系エマルジョンを合成する場合、結果的に、ii成分とiv成分の質量の和が、i~v全単量体成分の質量の和に対して、0.5~25質量%となるものである。ここでii成分とiv成分の質量の和が0.5質量%より少なくなると、インキのプラスチックフィルムに対する接着性が低下して好ましくない。
【0022】
また、I成分/II成分の質量比率は、20/80~80/20、好ましくは30/70~70/30となる範囲である。
ここで、I成分の質量比率が20/80より低くなると、インキの再溶解性、流動性や保存安定性が低下する可能性があり、一方、80/20より高くなるとインキの耐水性等が低下する可能性がある。
【0023】
以上のI成分を共重合して得られるアルカリ可溶性樹脂、II成分およびアルカリ水溶液を使用して、酸基含有樹脂エマルジョンを製造する方法としては、アルカリ可溶性樹脂をアルカリ水溶液中に溶解させた後、II成分と重合開始剤との混合物を滴下し、所定の温度および反応時間で反応させる方法が利用できる。
ここで、アルカリ可溶性樹脂を水中に溶解させるために使用するアルカリ性物質としては、後述する揮発性塩基性化合物を使用する。なお、アルカリ性物質の使用量としては、アルカリ可溶性樹脂の中和量の100~120%程度が最も適量であり、使用量が100%より少なくなるに従ってアルカリ可溶性樹脂の溶解性が低下傾向を示し、一方、120%より多くしたとしても、溶解性がさらに良好となることはない。
また、重合開始剤としては前記のアルカリ可溶性樹脂を製造するために使用する重合開始剤を使用することができる。
【0024】
上記により得られる樹脂の中でも、ガラス転移温度が-30~150℃であることが好ましく、より好ましくは-25~120℃である。ガラス転移温度が-30℃未満であると、耐熱性が悪化する可能性があり、150℃を超えると基材のフィルムの屈曲等に印字が追随できない可能性がある。
また、酸基を含有するアクリルエマルジョン、スチレン・アクリルエマルジョン、アクリル・マレイン酸エマルジョン及びスチレン・アクリル・マレイン酸エマルジョンであることが好ましい。エマルジョン中の樹脂固形分は20~60質量%である。
これらの樹脂が樹脂エマルジョンであるときの酸価は10~100mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは20~90mgKOH/g、さらに好ましくは30~70mgKOH/gである。酸価が10mgKOH/g未満であると、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の水性溶媒への分散性が不足する可能性がある。一方、酸価が100mgKOH/gを超えると、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の安定性が損なわれる可能性がある。
また本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物中の水性樹脂エマルジョンの含有量としては、固形分として5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。
なお、これらの樹脂エマルジョンとしては、コアシェル型でも良く、そうでなくてもよい。
【0025】
(水溶性アクリル樹脂)
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物には、顔料を分散させるために水溶性アクリル樹脂を含有することが好ましい。
水溶性アクリル樹脂としては、酸基の一部又は全部が揮発性塩基性化合物により中和されてなるアルカリ可溶性樹脂を使用することができる。
このようなアルカリ可溶性樹脂を構成する単量体成分は、カルボキシル基を有する単量体、顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体、及び重合可能な他の単量体からなる。
カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等を使用できる。
顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体としては、好ましくは、炭素数6~20の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、なかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等がより好ましく、さらに、スチレン系単量体として、スチレン、α-スチレン、ビニルトルエン等を使用できる。
重合可能な他の単量体としては、アルカリ可溶性樹脂の性質を損なわない範囲にて使用できる単量体であり、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等を使用できる。
前記アルカリ可溶性樹脂の酸価は40~250mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは70~250mgKOH/gである。酸価が40mgKOH/g未満であると、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の水性溶媒への溶解性が不足する可能性がある。一方、酸価が250mgKOH/gを超えると、親水性が高くなり過ぎるため、貯蔵安定性、耐水性が低下する可能性がある。
アルカリ可溶性樹脂の分子量としては、通常重量平均分子量が3,000~200,000であるのが好ましく、より好ましくは5,000~50,000である。アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が3,000未満の場合には顔料の分散安定性や得られる印刷物の耐擦過性が低下する傾向にあり、一方200,000を超えると、粘度が高くなるため好ましくない。
アルカリ可溶性樹脂の配合量は、上記記載の顔料100質量部に対して10~100質量部が好ましい。
なお、水溶性アクリル樹脂を使用するかわりに、顔料分散剤を使用することも可能である。
【0026】
(揮発性塩基性化合物)
本発明における揮発性の塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、モノエタノールアミン等が例示でき、中でもアンモニアが好ましい。性能が低下しない範囲で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ化合物、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジアザビシクロオクタン等の不揮発性アミン化合物も併用することが可能である。
【0027】
なお、酸価は、樹脂を合成するために用いる単量体の組成に基づいて、樹脂1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置にWater 2690(ウォーターズ社製)、カラムにPLgel 5μm MIXED-D(Agilent Technologies社製)を使用してクロマトグラフィーを行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0028】
<アニオン性界面活性剤>
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物には、耐熱性向上のためにアニオン性界面活性剤を含有させる。
アニオン性界面活性剤としてはリン酸塩系界面活性剤、アルケニルコハク酸系界面活性剤、タウリン系界面活性剤等を採用できる。
リン酸塩系界面活性剤としては、リン酸エステル系界面活性剤が好ましく、プライサーフAL、プライサーフDB-01、プライサーフA219B、プライサーフA208B、プライサーフ212C(第一工業製薬)を使用することができる。リン酸塩系界面活性剤と共に、アルケニルコハク酸系界面活性剤及び/又はタウリン系界面活性剤等を併用できる。
アルケニルコハク酸又はその塩としては、アルケニルコハク酸(星光PMC)、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王)を使用できる。
その他に、N-アシルタウリン塩(日光ケミカルズ)、LMT(N-ラウロイルメチルタウリンNa)、MMT(N-ミリストイルメチルタウリンNa)、SMT(N-ステアロイルメチルタウリンNa)、PMT(N-パルミトイルメチルタウリンNa)、N-アシルサルコシン、N-オレオイルサルコシン(日光ケミカルズ)、N-アシルグリシンを使用することもできる。
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物におけるアニオン性界面活性剤の配合量としては、好ましくは0.1~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.3~0.5質量%である。
このようなアニオン性界面活性剤を配合することにより、耐熱性を向上させることができるので、ヒートシール耐性を強くすることができる。配合量が0.1質量%未満であると、十分な添加効果を得られない可能性があり、配合量が1.0質量%を超えると、耐水性及びトラッピング性が低下する可能性がある。
また、本発明におけるアニオン性界面活性剤による効果を阻害しない範囲において、カチオン性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を配合することもできる。
【0029】
<水性媒体として使用される水溶性有機溶媒>
水性媒体として、水と共に使用される水溶性有機溶媒としては、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記モノアルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、またはこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1~6のアルコールを使用できる。
上記多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等を使用できる。
上記多価アルコールの低級アルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等を使用できる。
上記水溶性有機溶媒の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の含有量としては、極力少なくすることが好ましく、配合しないこともできる。
しかしながら配合する際の含有量は、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物中0~10.0質量%が好ましく、さらに好ましくは0~5.0質量%である。10.0質量%を超えるときには乾燥不良や耐ブロッキング性が低下する。
【0030】
<その他添加剤>
その他、インキ性能の必要性に応じて、かつ本発明による効果を阻害しない範囲で、耐ブロッキング剤、消泡剤、静電気防止剤等の各種添加剤を含有させる事もできる。また、耐水耐摩擦性等の塗膜物性を向上させるためにヒドラジン化合物又はカルボジイミド化合物を含有させることも可能である。
【0031】
[表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の製造]
前記の各種材料を使用して、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を製造する方法としては、顔料、バインダー樹脂、アニオン性界面活性剤、水性溶媒、及び必要に応じて顔料分散剤を混合して混練し、さらに架橋剤等の所定の材料の残りを添加、混合する方法が一般的である。
【0032】
[印刷物]
以上の方法により得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、フレキソ印刷方式又はグラビア印刷方式によって、プラスチックフィルムに印刷することができる。
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物が印刷されるプラスチックフィルムとしては、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等の各種プラスチックフィルムが挙げられ、特にコロナ放電処理等の表面処理されたものがより好適である。
【0033】
[本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の製造方法]
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、上述の顔料、水溶性アクリル樹脂、水性媒体の各種材料を従来一般的に使用されている各種の分散・混練装置を使用し製造した後、水性樹脂エマルジョン、アニオン性界面活性剤、水性媒体を加え撹拌混合することにより得ることができる。
【0034】
[印刷物]
上記表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を使用し、フレキソ印刷方式によって、基材フィルムに印刷することによりフレキソ印刷物を得ることができる。
【0035】
[基材フィルム]
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を用いて印刷する対象の基材フィルムとしては特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルフィルム、ナイロン、ビニロンといった各種印刷用樹脂フィルムが使用できる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0037】
【0038】
水溶性アクリル樹脂:スチレン・ラウリルメタクリレート・アクリル酸共重合体、
AV100mgKOH/g、Tg107℃、Mw11000、
アンモニア中和、固形分28質量%
エマルジョン樹脂A:スチレンアクリル樹脂エマルジョン
AV62mgKOH/g、Tg7℃
エマルジョン樹脂B:アクリル樹脂エマルジョン
AV42mgKOH/g、Tg-24℃
エマルジョン樹脂C:スチレンアクリル樹脂エマルジョン
AV87mgKOH/g、Tg117℃
<印刷物の製造>
表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物(実施例Y1~Y10、比較例Y1~Y3、実施例B1~B4、比較例B1~B3)、フィルムの処理面にフレキソ印刷機を利用し、下記条件で印刷、乾燥させて、印刷物を得た。得られた印刷物を用いて、基材密着性、耐熱性、耐水耐摩擦性の評価を行った。具体的な評価方法を以下に示す。
(印刷方法・印刷条件)
フィルム:OPP(コロナ放電した二軸延伸ポリプロピレンフィルム、東洋紡製
P-2161、厚さ25μm)
印刷時部屋の環境:温度25℃、湿度50%
塗工機 :フレキソ印刷機
塗工速度:150m/min
刷版 :ベタ版
乾燥温度:55℃
【0039】
(基材密着性)
印刷面にセロハンテープを貼り付け、これを急速に剥がしたときの印刷皮膜がフィルムから剥離する度合いから、密着性を評価した。
A:印刷皮膜がフィルムから全く剥離しない
B:印刷皮膜の面積比率として、20%未満がフィルムから剥離した
C:印刷皮膜の面積比率として、20%以上、50%未満がフィルムから剥離した
D:印刷皮膜の面積比率として、50%以上がフィルムから剥離した
【0040】
(耐熱性)
実施例、比較例の各表刷り印刷物の印刷面に、80~250℃の熱傾斜を有する熱板を備えたヒートシール試験機を用いて、印刷面とアルミ箔を2.0kg/cm2の圧力で、
1秒間押圧した。
印刷面のインキがアルミ箔に転移する最低温度から耐熱性を評価した。
A:200℃以上のもの
B:160℃以上、200℃未満のもの
C:140℃以上、160℃未満のもの
D:140℃未満のもの
【0041】
(耐水耐摩擦性)
印刷面に、摩擦子に水に浸漬したカナキンを用い、学振試験機(大栄科学精機製作所)にて荷重200gで100回往復し、インキの脱落した度合いから耐水耐摩擦性を評価した。
A:インキの脱落がない
B:インキが20%未満の範囲で脱落する
C:インキが20%以上50%未満の範囲で脱落する
D:インキが50%以上の範囲で脱落する
【0042】
上記の結果によれば、本発明に沿った例である実施例によると、基材密着性、耐熱性、耐水耐摩擦性に優れた表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を得ることができた。これに対して、アニオン系界面活性剤の配合量が少ない比較例Y1、比較例B1及び比較例B3によれば耐熱性が悪化し、逆に多い比較例Y2及び比較例B2によれば、耐水耐摩擦性に劣る結果となった。