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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】センサ制御装置およびセンサ制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20220823BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
G01N27/41 325N
G01N27/419 327N
G01N27/419 327P
G01N27/41 325P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018215541
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020085489
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】芝田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】寺本 諭司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-170757(JP,A)
【文献】特開昭62-030948(JP,A)
【文献】特開2011-080992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/41,27/416,27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサは、
大気が導入される基準酸素室と、
固体電解質体と、前記固体電解質体上に配置されて前記排気ガスに晒される排気ガス側電極と、前記固体電解質体上において前記基準酸素室に面して配置される大気側電極とを有するセルとを備え、
前記センサ制御装置は、
前記排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい条件下において、前記内燃機関から取得した空燃比情報が示す空燃比が所定の切替空燃比以下であるか否かを判断するように構成された条件判断部と、
前記特定ガスの濃度に応じて値が変動する濃度検知電流を、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で流すように構成された電流供給部とを備え、
前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比より大きいと前記条件判断部が判断した場合には、前記電流供給部は、前記濃度検知電流を前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で継続して流し、
前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比以下であると前記条件判断部が判断した場合には、前記電流供給部は、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で前記濃度検知電流を流す供給状態と、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で前記濃度検知電流を流さない供給停止状態とを交互に繰り返すセンサ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ制御装置であって、
前記電流供給部は、前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比以下であると前記条件判断部が判断した場合には、前記排気ガスの空燃比に応じて、前記供給停止状態が継続する時間を変化させるセンサ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサ制御装置であって、
前記電流供給部は、前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比以下であると前記条件判断部が判断した場合には、前記排気ガスの空燃比に応じて、前記供給状態が継続する時間を変化させるセンサ制御装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のセンサ制御装置であって、
少なくとも、前記供給停止状態から前記供給状態に切り替わって予め設定された待機時間が経過した後に、前記濃度検知電流を利用するセンサ制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のセンサ制御装置であって、
前記切替空燃比は、12.2以下の所定の空燃比であるセンサ制御装置。
【請求項6】
内燃機関から排出される排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御方法であって、
前記ガスセンサは、
大気が導入される基準酸素室と、
固体電解質体と、前記固体電解質体上に配置されて前記排気ガスに晒される排気ガス側電極と、前記固体電解質体上において前記基準酸素室に面して配置される大気側電極とを有するセルとを備え、
前記センサ制御方法は、
前記排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい条件下において、前記内燃機関から取得した空燃比情報が示す空燃比が所定の切替空燃比以下であるか否かを判断する条件判断手順と、
前記特定ガスの濃度に応じて値が変動する濃度検知電流を、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で流す電流供給手順とを備え、
前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比より大きいと前記条件判断手順が判断した場合には、前記電流供給手順は、前記濃度検知電流を前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で継続して流し、
前記空燃比情報が示す空燃比が前記切替空燃比以下であると前記条件判断手順が判断した場合には、前記電流供給手順は、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で前記濃度検知電流を流す供給状態と、前記排気ガス側電極と前記大気側電極との間で前記濃度検知電流を流さない供給停止状態とを交互に繰り返すセンサ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置およびセンサ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、空燃比がリーン側である場合と、空燃比がリッチ側である場合との両方において、電流Ipの値に基づき、排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平6-16025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電流Ipの値に基づいて特定ガスの濃度を検出する装置では、空燃比がリッチ側である場合において、排気ガスに含まれる特定ガスの濃度の検出精度が低下するという問題があった。
【0005】
本開示は、空燃比がリッチ側である場合における特定ガスの濃度の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御装置である。ガスセンサは、大気が導入される基準酸素室と、固体電解質体と、固体電解質体上に配置されて排気ガスに晒される排気ガス側電極と、固体電解質体上において基準酸素室に面して配置される大気側電極とを有するセルとを備える。
【0007】
本開示のセンサ制御装置は、条件判断部と、電流供給部とを備える。条件判断部は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい条件下において、排気ガスの空燃比が所定の切替空燃比以下であるか否かを判断するように構成される。電流供給部は、特定ガスの濃度に応じて値が変動する濃度検知電流を、排気ガス側電極と大気側電極との間で流すように構成される。
【0008】
そして、排気ガスの空燃比が切替空燃比より大きいと条件判断部が判断した場合には、電流供給部は、濃度検知電流を排気ガス側電極と大気側電極との間で継続して流す。また、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると条件判断部が判断した場合には、電流供給部は、排気ガス側電極と大気側電極との間で濃度検知電流を流す供給状態と、排気ガス側電極と大気側電極との間で濃度検知電流を流さない供給停止状態とを交互に繰り返す。
【0009】
このように構成された本開示のセンサ制御装置は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さいときにおいて上記の供給停止状態とすることにより、大気側電極から排気ガス側電極への酸素の移動を停止し、基準酸素室内の酸素濃度の低下を抑制することができる。そして、供給停止状態であるときに基準酸素室内に導入される大気によって、基準酸素室内に酸素が供給される。このため、本開示のセンサ制御装置は、上記の供給停止状態とすることにより、基準酸素室内の酸素を上昇させることができる。
【0010】
これにより、本開示のセンサ制御装置は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さいときにおいて上記の供給状態とすることにより、基準酸素室内において酸素が不足していない状態で濃度検知電流を流すことができ、濃度検知電流が特定ガスの濃度に応じた値にならない事態の発生を抑制することができる。このため、本開示のセンサ制御装置は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい場合における特定ガスの濃度の検出精度を向上させることができる。
【0011】
また、本開示の一態様では、電流供給部は、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると条件判断部が判断した場合には、排気ガスの空燃比に応じて、供給停止状態が継続する時間を変化させるようにしてもよい。これにより、本開示のセンサ制御装置は、排気ガスの空燃比に応じた適切な期間が経過した後に濃度検知電流を流すことができ、特定ガスの濃度を検出できない期間が無駄に長くなるのを抑制することができる。
【0012】
また、本開示の一態様では、電流供給部は、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると条件判断部が判断した場合には、排気ガスの空燃比に応じて、供給状態が継続する時間を変化させるようにしてもよい。これにより、本開示のセンサ制御装置は、濃度検知電流を流している間に基準酸素室内の酸素が不足して特定ガス濃度の検出精度が低下してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0013】
また、本開示の一態様では、少なくとも、供給停止状態から供給状態に切り替わって予め設定された待機時間が経過した後に、濃度検知電流を利用するようにしてもよい。これにより、本開示のセンサ制御装置は、供給停止状態から供給状態に切り替わった直後で濃度検知電流の値が安定していないときにおける濃度検知電流の値を用いて特定ガスの濃度を算出してしまう事態の発生を抑制し、特定ガスの濃度の検出精度を更に向上させることができる。
【0014】
また、本開示の一態様では、切替空燃比は、12.2以下となる空燃比であるようにしてもよい。
本開示の別の態様は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれる特定ガスの濃度を検出するガスセンサを制御するセンサ制御方法である。
【0015】
本開示のセンサ制御方法は、条件判断手順と、電流供給手順とを備える。条件判断手順は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい条件下において、排気ガスの空燃比が所定の切替空燃比以下であるか否かを判断する。電流供給手順は、特定ガスの濃度に応じて値が変動する濃度検知電流を、排気ガス側電極と大気側電極との間で流す。
【0016】
そして、排気ガスの空燃比が切替空燃比より大きいと条件判断手順が判断した場合には、電流供給部は、濃度検知電流を排気ガス側電極と大気側電極との間で継続して流す。また、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると条件判断手順が判断した場合には、電流供給手順は、排気ガス側電極と大気側電極との間で濃度検知電流を流す供給状態と、排気ガス側電極と大気側電極との間で濃度検知電流を流さない供給停止状態とを交互に繰り返す。
【0017】
このように構成された本開示のセンサ制御方法は、本開示のセンサ制御装置にて実行される方法であり、当該方法を実行することで、本開示のセンサ制御装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】センサ制御装置を構成要素とするシステムの概略構成を示す図である。
図2】センサ制御装置とガスセンサの概略構成を示す図である。
図3】センサ素子の断面図である。
図4】スイッチ制御処理を示すフローチャートである。
図5】オン/オフ制御処理を示すフローチャートである。
図6】ポンプ電流の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本開示の実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態のセンサ制御装置1は、車両に搭載され、図1に示すように、ガスセンサ3を制御する。
【0020】
センサ制御装置1は、エンジン5を制御する電子制御装置9との間で通信線8を介して、データを送受信することが可能に構成されている。以下、電子制御装置9をエンジンECU9という。ECUは、Electronic Control Unitの略である。
【0021】
ガスセンサ3は、エンジン5の排気管7に取り付けられ、排気ガス中の酸素濃度を広域にわたって検出するものであり、リニアラムダセンサとも呼ばれる。
ガスセンサ3は、図2に示すように、センサ素子11と、ヒータ12とを備える。
【0022】
センサ素子11は、ポンプセル13を備える。ポンプセル13は、部分安定化ジルコニアにより板状に形成された酸素イオン伝導性固体電解質体14と、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成されたポンプ電極15,16とを備える。
【0023】
なお、センサ素子11は、センサ素子11の内部に、図3に示すように、測定室17と、基準酸素室18とを備える。ポンプ電極15は測定室17に対して露出し、ポンプ電極16は基準酸素室18に対して露出している。測定室17には、センサ素子11の外部から、多孔質拡散層19を介して測定対象ガスが導入される。基準酸素室18には、センサ素子11の外部から、基準ガスとしての大気が導入される。
【0024】
センサ素子11は、いわゆる限界電流方式によって酸素濃度を検出する酸素センサ素子である。一対のポンプ電極15,16間に印加される電圧(以下、センサ素子電圧Vp)と、一対のポンプ電極15,16間に流れる電流(以下、ポンプ電流Ip)との関係を示す出力特性は、比例領域と、平坦領域とを有している。比例領域では、センサ素子電圧Vpの増加に比例してポンプ電流Ipが変化する。平坦領域では、センサ素子電圧Vpが変化してもポンプ電流Ipが実質的に変化せず一定の値を保つ。
【0025】
この平坦領域は、上記出力特性の電圧軸に対して平行で平坦な領域、すなわちポンプ電流Ipが一定となる限界電流の領域(以下、限界電流域)である。
この限界電流域におけるポンプ電流Ipは、酸素濃度に対応した値となり、酸素濃度が高くなるほど大きくなることが知られている。つまり、排気ガス中の酸素濃度が高くなるほど(すなわち、空燃比がリーン側になるほど)、ポンプ電流Ipの限界電流は増加し、排気ガス中の酸素濃度が低くなるほど(すなわち、空燃比がリッチ側になるほど)、限界電流は減少する。このため、センサ素子11のポンプセル13に対して、限界電流域に応じたセンサ素子電圧Vpを印加し、それによって得られるポンプ電流Ipを測定することで、排気ガス中の酸素濃度を検出することができる。
【0026】
図2に示すように、ヒータ12は、アルミナを主体とする材料にて形成され、その内部には、白金を主体とする材料にて形成された発熱抵抗体を備えている。ヒータ12は、センサ制御装置1から供給される電力により、センサ素子11の温度が活性化温度となるように制御される。また、発熱抵抗体の両端は、センサ制御装置1に電気的に接続されている。なお、ガスセンサ3は、ヒータ12による加熱によりセンサ素子11が活性化することで、ガス検出が可能な状態となる。
【0027】
センサ制御装置1は、CANインターフェース回路21(以下、CANI/F回路21)と、制御回路22と、マイクロコンピュータ23(以下、マイコン23)と、接続端子24,25,26,27と、スイッチ28とを備える。CANは、Controller Area Networkの略である。また、CANは登録商標である。
【0028】
CANI/F回路21は、CAN通信プロトコルに従って、通信線8を介してエンジンECU9との間でデータの送受信を行う。
制御回路22は、特定用途向集積回路(すなわち、ASIC)で実現されている。ASICは、Application Specific ICの略である。
【0029】
制御回路22は、基準電圧生成部31、電流印加部32、アナログデジタル変換部33(以下、AD変換部33)、PID演算部34、電流デジタルアナログ変換部35(以下、電流DA変換部35)、Rpvs演算部36、デューティ演算部37およびヒータ駆動部38を備える。また制御回路22は、ポンプ電流端子41(以下、Ip+端子41)、検出電圧端子42(以下、Vs+端子42)、共通端子43(以下、COM端子43)およびヒータ端子44(以下、HTR+端子44)を備える。
【0030】
Ip+端子41およびVs+端子42は、センサ制御装置1の接続端子25に接続されている。COM端子43は、センサ制御装置1の接続端子24に接続されている。そして、センサ素子11のポンプ電極15,16はそれぞれ、センサ制御装置1の接続端子24,25に接続されている。またHTR+端子44は、センサ制御装置1の接続端子26に接続されている。そして、ヒータ12の両端はそれぞれ、センサ制御装置1の接続端子26,27に接続されている。なお、接続端子27は接地されている。
【0031】
基準電圧生成部31は、COM端子43に印加される基準電圧を発生させる。本実施形態では、基準電圧は2.7Vである。
電流印加部32は、ポンプセル13の内部抵抗値を検出するための微小電流Icpおよびパルス電流Irpvsを、Vs+端子42を介してセンサ素子11へ供給する。なお、電流印加部32は、微小電流Icpおよびパルス電流Irpvsを常時供給するのではなく、マイコン23からの指令に基づいて、微小電流Icpおよびパルス電流Irpvsをそれぞれの適切な時期に供給する。
【0032】
AD変換部33は、Vs+端子42から入力されるアナログ信号の電圧値をデジタルデータへ変換し、PID演算部34とRpvs演算部36へ出力する。
PID演算部34は、AD変換部33から入力されるデジタルデータに基づいて、Vs+端子42における電圧と、COM端子43における電圧との電圧差が、予め設定された制御基準電圧となるように、ポンプ電流IpをPID制御するためのPID演算を行う。本実施形態では、制御基準電圧は450mVである。PID演算部34は、PID演算によりポンプ電流Ipの値を算出し、この電流値を示すデジタルデータを電流DA変換部35へ出力する。
【0033】
電流DA変換部35は、PID演算部34から入力されるデジタルデータが示す電流値を有する電流を、Ip+端子41を介してセンサ素子11へ供給する。
Rpvs演算部36は、電流印加部32がパルス電流Irpvsを供給しているときにAD変換部33から入力されるデジタルデータに基づいて、ポンプセル13の内部抵抗値Rpvsを算出するための演算を実行し、この内部抵抗値Rpvsを示すデジタルデータをデューティ演算部37へ出力する。
【0034】
デューティ演算部37は、Rpvs演算部36から入力されるデジタルデータに基づいて、センサ素子11の温度を予め設定されたセンサ目標温度に維持するために必要なヒータ発熱量を算出する。そしてデューティ演算部37は、算出したヒータ発熱量に基づいて、ヒータ12に供給する電力のデューティ比を算出する。さらにデューティ演算部37は、算出したデューティ比に応じたPWM制御信号を生成し、このPWM制御信号をヒータ駆動部38へ出力する。PWMは、Pulse Width Modulationの略である。
【0035】
ヒータ駆動部38は、デューティ演算部37から入力されるPWM制御信号に基づいて、ヒータ12の両端に供給される電圧VhをPWM制御してヒータ12を発熱させる。
マイコン23は、CPU51、ROM52、RAM53を備える。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU51が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM52が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、センサ制御装置1を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。また、マイコン23が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0036】
CPU51は、ROM52に記憶されたプログラムに基づいて、センサ素子11を制御する処理と、ポンプ電流Ipの流れる向きとポンプ電流Ipの大きさに基づいて酸素濃度を算出する処理とを実行する。
【0037】
スイッチ28は、Ip+端子41と接続端子25とを電気的に接続する通電経路上に配置される。そしてスイッチ28は、マイコン23からの制御信号に基づいて、Ip+端子41と接続端子25との間を電気的に接続するオン状態と、Ip+端子41と接続端子25との間を電気的に遮断するオフ状態との何れかの状態になるように駆動される。
【0038】
また、マイコン23のCPU51は、スイッチ制御処理を実行する。スイッチ制御処理は、ヒータ12による加熱によりセンサ素子11が活性化した後に、開始される。
スイッチ制御処理が実行されると、CPU51は、図4に示すように、まずS10にて、連続オン制御を開始する。連続オン制御が開始されると、CPU51は、まず、スイッチ28をオン状態にする。そしてCPU51は、予め設定された取得周期(本実施形態では、例えば1ms)が経過する毎に、制御回路22から、ポンプ電流Ipの値(以下、ポンプ電流値)を示すデジタルデータを取得する。なお、連続オン制御を開始することにより、後述のオン/オフ制御が終了する。
【0039】
次にS20にて、排気ガスの空燃比が予め設定された切替空燃比(本実施形態では、例えば12.2)以下であるか否かを判断する。なお、空燃比が12.2である状態は、空気過剰率λが0.84である状態に対応する。また、混合気がエンジン5で燃焼することによりエンジン5から排気ガスが排出された場合において、この排気ガスが生成される起因となった混合気の空燃比を、「排気ガスの空燃比」という。例えば、空燃比が12.5である混合気がエンジン5で燃焼することにより排出された排気ガスの空燃比は、12.5である。また、空燃比が理論空燃比(すなわち、14.55)である混合気がエンジン5で燃焼することにより排出された排気ガスの空燃比は、理論空燃比である。
【0040】
そして、S20では、CPU51は、混合気の空燃比を指示する空燃比指示情報をエンジンECU9から取得し、空燃比指示情報が示す空燃比が切替空燃比以下である場合に、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると判断する。
【0041】
ここで、排気ガスの空燃比が切替空燃比を超えている場合には、S20の処理を繰り返すことにより、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下になるまで待機する。一方、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下である場合には、S30にて、オン/オフ制御を開始する。これにより、CPU51は、後述のオン/オフ制御処理を開始する。なお、オン/オフ制御処理を開始することにより、連続オン制御が終了する。
【0042】
そしてS40にて、排気ガスの空燃比が切替空燃比を超えているか否かを判断する。ここで、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下である場合には、S40の処理を繰り返すことにより、排気ガスの空燃比が切替空燃比を超えるまで待機する。一方、排気ガスの空燃比が切替空燃比を超えている場合には、S10に移行する。
【0043】
次に、CPU51が実行するオン/オフ制御処理の手順を説明する。オン/オフ制御処理は、スイッチ制御処理においてCPU51がオン/オフ制御を開始した場合に実行される。
【0044】
オン/オフ制御処理が実行されると、CPU51は、図5に示すように、まずS110にて、スイッチ28をオン状態にする。そしてS120にて、S110でスイッチ28をオン状態にしてから予め設定された取得開始時間(本実施形態では、例えば200ms)が経過したか否かを判断する。ここで、取得開始時間が経過していない場合には、S120の処理を繰り返すことにより、取得開始時間が経過するまで待機する。一方、取得開始時間が経過した場合には、S130にて、ポンプ電流値を示すデジタルデータを制御回路22から取得する。
【0045】
そしてS140にて、S130でデジタルデータを取得してから予め設定された取得周期(本実施形態では、例えば1ms)が経過したか否かを判断する。ここで、取得周期が経過していない場合には、S140の処理を繰り返すことにより、取得周期が経過するまで待機する。一方、取得周期が経過した場合には、S150にて、S110でスイッチ28をオン状態にしてから予め設定されたオン終了時間(本実施形態では、例えば300ms)が経過したか否かを判断する。
【0046】
ここで、オン終了時間が経過していない場合には、S130に移行する。一方、オン終了時間が経過した場合には、S160にて、スイッチ28をオフ状態にする。そしてS170にて、S110でスイッチ28をオン状態にしてから予め設定されたオフ終了時間(本実施形態では、例えば1000ms)が経過したか否かを判断する。
【0047】
ここで、オフ終了時間が経過していない場合には、S170の処理を繰り返すことにより、オフ終了時間が経過するまで待機する。一方、オフ終了時間が経過した場合には、S110に移行する。
【0048】
図6は、空気過剰率λが0.82,0.83,0.84,0.85,0.89であるときにおいてセンサ素子11に流れるポンプ電流Ipの時間変化を示すグラフである。なお、空気過剰率λが小さくなるほど、空燃比がリッチ側になる。
【0049】
図6に示すように、空気過剰率λが0.85,0.89であるときのポンプ電流値は、排気ガス中の酸素濃度に応じた値を常時維持している。空気過剰率λが0.84であるときのポンプ電流値は、約5秒が経過するまで、排気ガス中の酸素濃度に応じた値を維持し、その後、変動する。空気過剰率λが0.83であるときのポンプ電流値は、約4秒が経過するまで、排気ガス中の酸素濃度に応じた値を維持し、その後、変動する。空気過剰率λが0.82であるときのポンプ電流値は、約3秒が経過するまで、排気ガス中の酸素濃度に応じた値を維持し、その後、変動する。
【0050】
このように、空気過剰率λが小さくなるほど、排気ガス中の酸素濃度に応じたポンプ電流値を維持する時間が短くなる。これは、空気過剰率λが小さくなるほど、酸素イオン伝導性固体電解質体14を介して基準酸素室18側から測定室17側へ移動する酸素の量が多くなり、基準酸素室18内の酸素が不足するまでの時間が短くなるためである。
【0051】
このように構成されたセンサ制御装置1は、エンジン5から排出される排気ガスに含まれる酸素の濃度を検出するガスセンサ3を制御する。ガスセンサ3は、大気が導入される基準酸素室18と、酸素イオン伝導性固体電解質体14と、酸素イオン伝導性固体電解質体14上に配置されて排気ガスに晒されるポンプ電極15と、酸素イオン伝導性固体電解質体14上において基準酸素室18に面して配置されるポンプ電極16とを有するポンプセル13とを備える。
【0052】
センサ制御装置1は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい条件下において、排気ガスの空燃比が所定の切替空燃比以下であるか否かを判断する。センサ制御装置1は、酸素の濃度に応じて値が変動するポンプ電流Ipを、ポンプ電極15とポンプ電極16との間で流す。
【0053】
そして、排気ガスの空燃比が切替空燃比より大きいと判断した場合には、センサ制御装置1は、ポンプ電流Ipをポンプ電極15とポンプ電極16との間で継続して流す。また、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であると判断した場合には、センサ制御装置1は、ポンプ電極15とポンプ電極16との間でポンプ電流Ipを流す供給状態と、ポンプ電極15とポンプ電極16との間でポンプ電流Ipを流さない供給停止状態とを交互に繰り返す。
【0054】
このようにセンサ制御装置1は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さいときにおいて上記の供給停止状態とすることにより、ポンプ電極16からポンプ電極15への酸素の移動を停止し、基準酸素室18内の酸素濃度の低下を抑制することができる。そして、供給停止状態であるときに基準酸素室18内に導入される大気によって、基準酸素室18内に酸素が供給される。このため、センサ制御装置1は、上記の供給停止状態とすることにより、基準酸素室18内の酸素濃度を上昇させることができる。
【0055】
これにより、センサ制御装置1は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さいときにおいて上記の供給状態とすることにより、基準酸素室18内において酸素が不足していない状態でポンプ電流Ipを流すことができ、ポンプ電流Ipが酸素の濃度に応じた値にならない事態の発生を抑制することができる。このため、センサ制御装置1は、排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも小さい場合における酸素の濃度の検出精度を向上させることができる。
【0056】
またセンサ制御装置1は、大気雰囲気中に晒されたガスセンサ3によって検出されるポンプ電流Ipの値(以下、大気Ip値)を大きくした場合であっても、リッチ側の空燃比の検出限界の低下を抑制することができる。なお、大気Ip値を大きくすることにより、酸素濃度の検出精度を向上させることができる。換言すると、ポンプ電流Ipの値がずれたときに、ポンプ電流Ipを空燃比に換算するときのズレを小さくすることができる。
【0057】
またセンサ制御装置1は、少なくとも、供給停止状態から供給状態に切り替わって予め設定された取得開始時間が経過した後に、ポンプ電流Ipを利用する。本実施形態では、センサ制御装置1は、ポンプ電流Ipの利用として、ポンプ電流値を示すデジタルデータを制御回路22から取得する。これにより、センサ制御装置1は、供給停止状態から供給状態に切り替わった直後でポンプ電流Ipの値が安定していないときにおけるポンプ電流Ipの値を用いて酸素の濃度を特定してしまう事態の発生を抑制し、酸素の濃度の検出精度を更に向上させることができる。
【0058】
以上説明した実施形態において、酸素イオン伝導性固体電解質体14は固体電解質体に相当し、ポンプ電極15は排気ガス側電極に相当し、ポンプ電極16は大気側電極に相当し、ポンプセル13はセルに相当する。
【0059】
また、エンジン5は内燃機関に相当し、酸素は特定ガスに相当し、ポンプ電流Ipは濃度検知電流に相当し、電流DA変換部35は電流供給部に相当する。
また、S20は条件判断部および条件判断手順としての処理に相当し、S10,S30,S110,S150,S160,S170は電流供給部および電流供給手順としての処理に相当し、取得開始時間は待機時間に相当する。
【0060】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
例えば上記実施形態では、スイッチ28をオン状態にしてからオフ終了時間が経過した後にスイッチ28をオフ状態からオン状態に切り替える形態を示した。しかし、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下である場合に、排気ガスの空燃比に応じて、オフ状態が継続する時間(すなわち、(オフ終了時間-オン終了時間)に相当する時間)を変化させるようにしてもよい。これにより、センサ制御装置1は、排気ガスの空燃比に応じた適切な期間が経過した後にポンプ電流Ipを流すことができ、酸素濃度を検出できない期間が無駄に長くなるのを抑制することができる。
【0061】
上記実施形態では、スイッチ28をオン状態にしてからオン終了時間が経過した後にスイッチ28をオフ状態にする形態を示した。しかし、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下である場合に、排気ガスの空燃比に応じて、オン終了時間を変化させるようにしてもよい。具体的には、排気ガスの空燃比が小さくなる程、オン終了時間が短くなるようにする。これにより、センサ制御装置1は、ポンプ電流Ipを流している間に基準酸素室18内の酸素が不足して酸素濃度の検出精度が低下してしまう事態の発生を抑制することができる。
【0062】
上記実施形態では、エンジンECU9から取得した空燃比指示情報に基づいて、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であるか否かを判断する形態を示した。しかし、ガスセンサ3の検出結果に基づいて、排気ガスの空燃比が切替空燃比以下であるか否かを判断するようにしてもよい。
【0063】
供給停止状態から供給状態に切り替わって予め設定された待機時間が経過した後に、濃度検知電流を利用する動作の一例として、上記実施形態では、センサ制御装置1は、供給停止状態から供給状態に切り替わって予め設定された取得開始時間が経過した後に、ポンプ電流値を示すデジタルデータ(以下、ポンプ電流データ)を制御回路22から取得する形態を示した。しかし、センサ制御装置1は、供給停止状態から供給状態に切り替わって、ポンプ電流データを常時取得し続けるが、予め設定された時間が経過した後に、ガス濃度を演算するようにしてもよい。またセンサ制御装置1は、供給停止状態から供給状態に切り替わって、ポンプ電流データを常時取得し続け、更に、取得したポンプ電流データに基づいてガス濃度を演算するが、予め設定された時間が経過した後に、算出したガス濃度を示すガス濃度情報をエンジンECU9へ送信するようにしてもよい。またエンジンECU9は、予め設定された時間が経過した後に、センサ制御装置1からガス濃度情報を受信するようにしてもよい。また、センサ制御装置1および空燃比制御装置がエンジンECU9内に搭載されている場合には、センサ制御装置1は、ポンプ電流データを取得し、取得したポンプ電流データに基づいて算出したガス濃度情報を空燃比制御装置へ送信するようにしてもよい。そして、センサ制御装置1は、供給停止状態から供給状態に切り替わって、ポンプ電流データを取得し続け、更に、ガス濃度情報を空燃比制御装置へ送信し続け、更に、空燃比制御装置は、センサ制御装置1からのガス濃度情報を受信し続けるようにしてもよい。この場合において、センサ制御装置1は、予め設定した時間が経過した後に、空燃比制御装置に対して、空燃比制御のために、センサ制御装置1から受信したガス濃度情報を利用させるようにしてもよい。
【0064】
また上記実施形態では、ガスセンサとして酸素センサを用いる形態を説明したが、酸素以外のガス(例えば、NOxなど)を検出するガスセンサであってもよい。また、センサとして酸素センサを用いる場合であっても、上記実施形態のように1つのセルを用いつつ限界電流方式によって酸素濃度を検出するセンサ素子に限定されない、例えば、一対の電極を有する酸素ポンプセルと、一対の電極を有する酸素濃度検出セルとの2つのセルとの間に測定室を介在させたセンサ素子に対して、本開示を適用してもよい。
【0065】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0066】
上述したセンサ制御装置1の他、当該センサ制御装置1を構成要素とするシステム、当該センサ制御装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した媒体、センサ制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0067】
1…センサ制御装置、3…ガスセンサ、5…エンジン、13…ポンプセル、14…酸素イオン伝導性固体電解質体、15,16…ポンプ電極、18…基準酸素室
図1
図2
図3
図4
図5
図6