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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】シューズ及びシューズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20220823BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019151956
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021029537
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】別所 亜友
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】谷口 憲彦
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094056(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0297642(US,A1)
【文献】特表2015-534876(JP,A)
【文献】特表2002-537878(JP,A)
【文献】実公昭18-004312(JP,Y1)
【文献】特表2018-532461(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0131853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/00 - 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性を有する糸を含むベースシートと、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材と、が重ね合わせて接合された繊維シートにより構成されたアッパーを備え
前記複数のチップ材は、前記繊維シートの表面に前記ベースシートが露出しないように前記ベースシートに重ね合わされており、
共通または類似の機械特性を備える前記チップ材を複数集合させたチップ材集合体が複数用いられ、前記アッパーの部位に応じて異なる機械特性を備える前記チップ材集合体が前記ベースシート上に配置されたシューズ。
【請求項2】
前記複数のチップ材と前記ベースシートとは、ニードルパンチ加工が施されて一体化されている、請求項1に記載のシューズ。
【請求項3】
前記ベースシートは、内部空隙を有する編物または織物よりなる、請求項1または2に記載のシューズ。
【請求項4】
前記複数のチップ材は、少なくとも前記アッパーにおける前記ベースシートの外側に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載のシューズ。
【請求項5】
前記アッパーにおける前記ベースシートの内側に不織布、編物、織物のいずれかを含む層を備える、請求項1~4のいずれかに記載のシューズ。
【請求項6】
前記複数のチップ材の各々は、リサイクル材から作製された不織布、編物、織物のいずれかよりなる、請求項1~5のいずれかに記載のシューズ。
【請求項7】
前記複数のチップ材は、部分的に相互に重なり合わされた状態で前記ベースシートに接合されている、請求項1~6のいずれかに記載のシューズ。
【請求項8】
熱収縮性を有する糸を含むベースシートの少なくとも一方の面に、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材を配置するチップ材配置工程であって、共通または類似の機械特性を備える前記チップ材を複数集合させたチップ材集合体が複数用いられたチップ材配置工程と、
前記ベースシートと前記複数のチップ材とをニードルパンチ加工により一体化して繊維シートを作製する接合工程と、
前記繊維シートをアッパーの形状に裁断してラストにかぶせられる形状に加工することで成形前アッパーを作製し、当該成形前アッパーをラストにかぶせる第1成形工程と、
加熱により前記成形前アッパーをラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を含み、
前記チップ材配置工程では、前記繊維シートの表面に前記ベースシートが露出しないように、前記複数のチップ材が配置され、かつ、前記アッパーの部位に応じて異なる機械特性を備える前記チップ材集合体が前記ベースシート上に配置される、シューズの製造方法。
【請求項9】
像認識、3次元計測、計量のいずれかにより各チップ材の機械特性を判別するチップ材判別工程を更に含、請求項8に記載のシューズの製造方法。
【請求項10】
前記複数のチップ材の各々は、異なる表面形状または色彩を備え、
前記チップ材配置工程では、情報処理装置により、前記ベースシート上に配置される前記複数のチップ材の選定、及び、前記複数のチップ材の各々の前記ベースシートにおける配置部位の決定がなされ、前記決定に従い前記複数のチップ材が前記ベースシート上に配置される、請求項8または9に記載のシューズの製造方法。
【請求項11】
前記複数のチップ材の各々は、複数種の異なる外観を呈しており、または、複数種の異なる機械特性を備えており、
前記チップ材配置工程では、前記複数のチップ材が、前記ベースシートの両面に接合され、
前記ベースシートの有する面のうち一方の面には、前記外観基準で前記複数のチップ材が配置され、他方の面には、前記機械特性基準で前記複数のチップ材が配置される、請求項8~10のいずれかに記載のシューズの製造方法。
【請求項12】
前記チップ材配置工程には、前記ベースシートの有する面のうち一方の面に前記複数のチップ材を配置する第1チップ材配置工程と、前記ベースシートの有する面のうち他方の面に前記複数のチップ材を配置する第2チップ材配置工程と、が含まれ、
前記接合工程には、前記第1チップ材配置工程を経た前記ベースシート及び前記複数のチップ材をニードルパンチ加工により一体化して第1繊維シートを形成する第1接合工程と、前記第2チップ材配置工程を経た前記ベースシート及び前記複数のチップ材をニードルパンチ加工により一体化して第2繊維シートを形成する第2接合工程と、が含まれる、請求項8~11のいずれかに記載のシューズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布製のアッパーを備えたシューズ(靴)、及び、このシューズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アッパーを作製することにつき、従来、種々の提案がされている。例えば、特許文献1には、リサイクル材を用いてアッパーを作製することの開示がある。特許文献2には、加熱することで特性を変えた融着領域を部分的に形成した不織布を用いたシューズ用アッパーの開示がある。特許文献3には、不織布を用いたシューズ用アッパーの開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9185947号明細書
【文献】米国特許出願公開第2019/078245号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/103724号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運動時に着用者の足からシューズにかかる力は、シューズの各部で異なる。また、デザインの観点でも、シューズの各部で種々のデザイン選択がなされる。このため、アッパーの部位ごとに異なる特性を容易に付与させることが望まれている。しかし、特許文献1~3にはこのことに関して開示がない。特許文献1、3に記載のシューズはアッパーの全領域で同じ特性である。また、特許文献2に記載のシューズでは、融着領域とそれ以外の領域で異なる特性とできるものの、2種の特性しか付与できず、しかも、不織布を作製した段階で融着領域の位置が決まっているため、アッパーの部位ごとで特性を変更することの自由度が低い。
【0005】
本発明は、部位ごとに異なる特性を容易に付与できるアッパーを備えたシューズの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱収縮性を有する糸を含むベースシートと、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材と、が重ね合わせて接合された繊維シートにより構成されたアッパーを備えたシューズである。
【0007】
この構成によれば、複数のチップ材を使用し、ベースシートにおける部位ごとで接合するチップ材を変えることにより、アッパーの部位ごとに異なる性質を付与することができる。
【0008】
また本発明は、熱収縮性を有する糸を含むベースシートの少なくとも一方の面に、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材を配置するチップ材配置工程と、前記ベースシートと前記複数のチップ材とをニードルパンチ加工により一体化して繊維シートを作製する接合工程と、前記繊維シートをアッパーの形状に裁断してラストにかぶせられる形状に加工することで成形前アッパーを作製し、当該成形前アッパーをラストにかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパーをラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を含む、シューズの製造方法である。
【0009】
この構成によれば、複数のチップ材を使用し、ベースシートにおける部位ごとで接合するチップ材を変えることにより、アッパーの部位ごとに異なる性質を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るシューズにおける、ソールとアッパーを示す分解斜視図である。
図2】前記アッパーの本体部の層構造の一例を示す断面図であり、図1のII囲み部分におけるものである。
図3】織物であるベースシートを不織布よりなる複数のチップ材の集合体と一枚の不織布で挟んだ状態を示す概略図である。
図4】(a)は芯鞘材からなる糸の構成を概略的に示す斜視図である。(b)は織物の当初の状態を示し、(c)は緯糸が収縮した状態を模式的に示し、(d)は経糸と緯糸とが溶着した状態を模式的に示す。
図5】ニードルパンチ加工の概略を示す図である。
図6】前記アッパーの材料である本体部と底面部の、裁断工程及びチップ材配置工程の後の状態を示す平面図である。
図7】前記本体部と底面部を縫製した成形前アッパーを示す側面図である。
図8】前記成形前アッパーをラストにかぶせ、加熱箱の内部でスチーム加熱されている状態を示す側面図である。
図9】シューズの製造方法に関し、(a)はチップ材判別工程を説明するための図である。(b)はチップ材が仕分けされた状態を示す図である。(c)はチップ材配置工程を説明するための図である。
図10】ベースシートの両面にチップ材を接合する場合を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明につき、実施形態を図面とともに例示する。本実施形態のシューズ1の左右各片は、図1に示すように、主にソール2とアッパー3とを備え、ソール2に対してアッパー3が取り付けられている。アッパー3は少なくとも二層構造であって、図2図3に示すように、シート状のベースシート31と、ベースシート31に積層されたそれぞれがシート状であって、集合体となっている複数のチップ材32…32とを含む。なお、以下で製造の途中段階(成形前後)のアッパー3について説明する際には、区別のために成形前アッパー3Aや成形後アッパー3Bとも表示することがある。
【0012】
ベースシート31は、熱収縮性を有する糸311を含む。ベースシート31は、内部空隙312を有する編物(編地)または織物(織地)よりなる。編物における編み方は特に限定されないが、例えばラッセル編みやトリコット編みとできる。織物における織り方も特に限定されないが、例えば平織りや綾織りとできる。
【0013】
ここで、前記「内部空隙」とは、編物または織物を構成する糸等の繊維同士、または繊維の集合体同士の間に存在する空間のことである。また、一般的に編物または織物において、繊維が平面方向に延びるように配置されている場合、前記平面の法線方向に貫通する空間、または平面方向において分断された空間のことである。また、繊維の交差点のうち隣り合うもの同士で距離が保たれている場合には、複数の繊維の交差点に囲まれた空間である。なお、後述のように融着糸を用いる場合、アッパー3(成形前アッパー3A)に対する熱成形によって融着された後における繊維の交差点は固着状態となり、交差する繊維(糸)同士が固定される。前記「内部空隙」は、例えば、メッシュの目(図3において重なり合いの2枚目として示した、ベースシート31の織物における緯糸311と経糸313とにより形成される内部空隙312を参照)や、布地の目開き部分が該当する。本実施形態では、隣り合う繊維の交差点間の距離が1~5mmに設定される。または、編物または織物に占める、平面方向での空間率が15~30%に設定される。前記二つの条件は、いずれか一方を満たすよう設定することができる。
【0014】
ベースシート31が内部空隙312を有することにより、熱収縮性を有する糸311の変形(収縮)、及び、これに伴う交差する糸313(図4(b)参照)の移動を内部空隙312の空間が許容する。よって、熱収縮性を有する糸311によるベースシート31の変形を内部空隙312の空間が阻害しない。従って、ベースシート31を設計通り変形させることができるので、熱収縮のための条件(加熱温度及び加熱時間等)を設定しやすい。
【0015】
ベースシート31に含まれる熱収縮性を有する糸311は、図4(a)に略示するように、芯3111(内周部分)と鞘3112(外周部分)とが一体形成された芯鞘材よりなるものとできる。この糸311は熱により融着する融着糸であって、芯3111と鞘3112とで融点が異なっている。この糸311において、融点は芯3111よりも鞘3112の方が低い。このため、アッパー3を成形する際の成形前アッパー3Aに対する加熱により、糸311の全体を収縮させ、かつ、鞘3112の部分のみ融解させられる。このため、鞘3112による保形作用と、芯3111による弾性作用とが両立できる。この熱収縮性を有する糸311として、例えばポリエステル樹脂を含む糸、より詳しくは、ポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる鞘芯材、また、芯3111がポリエステル系熱可塑性エラストマーからなり、鞘3112がポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる鞘芯材等を用いることができる。
【0016】
また、ベースシート31は、経糸または緯糸のうち一方が熱収縮性を有する糸311である織物、または、10%以上が熱収縮性を有する糸311である編物で構成されることができる。織物の場合、熱収縮性を有する糸311(経糸または緯糸)は、アッパー3における幅方向Y(図1参照)に沿って配置される。幅方向Yは水平方向であって前後方向Xに直交する方向である。なお、本願出願の時点では、熱収縮性を有する糸311は緯糸に用いられることが、(技術的には)一般的である。このため、熱収縮性を有する糸311が緯糸に用いられた場合のベースシート31における織物の構成を図4(b)に示す。この構成によると、ベースシート31を加熱することにより、図4(c)に示すように緯糸311が長さ方向に収縮する(矢印で示した方向の収縮により、隣り合う経糸313,313同士の間隔が小さく変化する)。そして、芯鞘材よりなる糸311の鞘3112が溶融して経糸313に固着する(図4(d)に黒丸で示した固着箇所314)。このようにベースシート31が変形する。この変形を利用することで、アッパー3を所望の形状とするため、具体的にはラスト(靴型)4の形状に沿わせるための適切な成形が可能である。
【0017】
複数のチップ材32…32の各々(単体のチップ材32)は、ベースシート31よりも面積の小さいシートであって、本実施形態では不織布よりなる。各チップ材32は、例えば10mm~50mmの範囲の辺長または径寸法を有する四角形、多角形、円形等とすることができる。ただし、各チップ材32のサイズや形状(輪郭の形状)は上記に限定されない。不織布は、例えばポリエステル繊維を有するものとできる。各チップ材32の不織布は、繊維が絡み合っていることから、ベースシート31の内部空隙312に相当する内部空隙は有さない。
【0018】
アッパー3において、複数のチップ材32…32は、少なくともベースシート31の外側(着用時において着用者の足から遠い側であり、図2における上側)に配置されている。つまり、ベースシート31からなる層が内層であり、複数のチップ材32…32が集合した層は外層である。このため、複数のチップ材32…32を最外層に位置させることができ、その場合、最外層に現れるチップ材32によりアッパー3の外観を変更できる。
【0019】
複数のチップ材32…32の各々は、リサイクル材から作製された不織布よりなる。前記「リサイクル材」とは、例えば、シューズや他の製品の製造に伴って生じた端材や、廃棄された使用済シューズにおけるアッパーを裁断した小片のように、別の目的で作製された材料であって、当該目的に用いられなかった、または、当該目的を達成した後の材料である。このようにリサイクル材を用いてシューズ1を製造することにより、省資源化できることから、環境負荷を低減できる。なお、各チップ材32は、不織布のほか、編物、織物のいずれかであってもよい。また、不織布、編物、織物のいずれかよりなるチップ材32と、前記チップ材32とは別の材質のチップ材32とを組み合わせることもできる。
【0020】
ベースシート31と複数のチップ材32…32とは、図5に示すように、ベースシート31からなる層と複数のチップ材32…32が集合した層の二層が重ね合された状態で、多数の針(ニードル)Nを有するニードル装置を図示の方向Mに往復動させ、重なった二層に多数の針針(ニードル)を繰り返し貫通させるニードルパンチ加工が施されて一体化された繊維シート3Sとなっている。繊維シート3Sを構成するベースシート31と複数のチップ材32…32の材質的な組み合わせは、編物と不織布、織物と不織布、編物と織物、織物と編物のいずれであってもよい。複数のチップ材32…32を使用し、ベースシート31における部位ごとで接合するチップ材32を変えることにより、アッパー3の部位ごとに異なる特性を付与することができる。前述の「特性」には、例えば機械特性や外観上の特徴に係る性質(輪郭形状、色彩、模様、質感等)が含まれる。また、別々の層である、ベースシート31からなる層と複数のチップ材32…32が集合した層の二層が一体化されて繊維シート3Sとされることで、ベース材と複数のチップ材32…32との接合強度を大きくできる。また、ベースシート31と複数のチップ材32…32の色彩の組合せや、ニードルパンチ加工を施す位置の選定等により、繊維シート3Sのデザインの自由度を高められる。この繊維シート3Sは、アッパー3に対応した成形前アッパー3Aの形状とする縫製を行う前の状態で、例えばシート状(平面状)または袋状に形成されている。前記「袋状」とは、アッパー3が備える履き口11となる部分に対応して開口が設けられ、場合により底面部35となる部分も形成された立体的形状である。シート状とは一例として図6に示す形状であり、袋状とは一例として図7に示す形状である。
【0021】
複数のチップ材32…32は、図2に示すように、部分的に相互に重なり合わされた状態でベースシート31に接合されている。このため、繊維シート3Sの表面には複数のチップ材32…32が露出することになり、ベースシート31そのものが(シートの形態としては)露出しない。また、部分的に相互に重なり合わされた複数のチップ材32…32が最外層に位置することで、アッパー3の見栄えを良くできる。また、複数のチップ材32…32同士が重なり合うため、重なり合ったチップ材32,32が支持しあうことにより、ベースシート31に対するチップ材の接合が安定する。
【0022】
前述のように、繊維シート3Sが熱収縮性を有する糸311を含むベースシート31を備え、ベースシート31が内部空隙312を有する。この繊維シート3Sの構成により、図8に示すように、加熱してベースシート31を熱収縮させることによるアッパー3の成形(熱成形)を行う際に、アッパー3を構成する繊維シート3Sが熱を受けることで容易に変形する。このため、繊維シート3Sをラスト4の形状(立体形状)に沿わせやすい。また、図5に例示するニードルパンチ加工により、ベースシート31と複数のチップ材32…32とを強固に一体化できる。また、ベースシート31が内部空隙312を有することから、ニードル装置の針(ニードル)Nをベースシート31に貫通させやすいため、ニードルパンチ加工を容易にできる。
【0023】
このように繊維シート3Sをラスト4の形状に沿わせやすいことから、例えば、足の外側部分でラスト4の表面に対して隙間ができるような成形にならないので、シューズ着用時に着用者の足が動いてしまいにくく、ホールド性に優れる。また、できた隙間を詰め物や金具を用いることにより埋める必要がないから、着用感も良好である。
【0024】
また、ベースシート31が複数のチップ材32…32よりも内側に配置されていることから、熱収縮性を有する糸311を含むベースシート31が、ラスト4にかぶせられた際にラスト4の表面に近い内側に位置することになる。よって、繊維シート3Sをラスト4にかぶせて熱成形を行う際、ベースシート31が複数のチップ材32…32よりも内側に配置されていない構成に比べると、ベースシート31をラスト4に近い位置とできるので、よりラスト4に沿わせやすい。
【0025】
なおここでは、ベースシート31が複数のチップ材32…32よりも内側に配置されていることを例示した。しかし、各層の内外関係はこれに限定されず、逆の配置、つまり、ベースシート31が複数のチップ材32…32よりも外側に配置されていてもよい。また、ベースシート31の内側に、追加的に複数のチップ材32…32が位置していてもよい。
【0026】
繊維シート3Sは、図3に示すようにベースシート31の内側に、不織布よりなるシート状の追加層33をさらに備えた三層構造とすることもできる。この場合の追加層33についても、ベースシート31に対し、ニードルパンチ加工が施されて、ベースシート31、複数のチップ材32…32、追加層33の三層が一体化されている。追加層33は不織布に限らず、編物、織物等であってもよい。また、追加層33を複数のチップ材32…32から構成してもよい。この場合、不織布、編物、織物のいずれかよりなるチップ材32と、前記チップ材32とは別の材質のチップ材32とを組み合わせて追加層33を構成することもできる。このように追加層33を備えたことにより、シューズ着用者の足当たりを良くできる。また、追加層33の材質及び層厚を設定することで、製造されたシューズ1に所望の特性を付与できる。追加層33は、ベースシート31に対して全面的に設けられることもできるし、部分的に設けられることもできる。部分的に設ける場合、例えば追加層33を、着用者の足が出入りする履き口11の周縁部を補強するために用いたり、ハトメを形成する部分の補強として用いたりすることができる。
【0027】
アッパー3は、繊維シート3Sが縫製された後の状態で上下方向Z(図1参照)の上側に位置する本体部34と、本体部34の下端に連続する底面部35とを備えることができる。なお、アッパー3が本体部34だけを備え、底面部35を備えないものともできる。また、後述のように、作製した底面部35を後に除去する(本体部34から分離する)こともできる。
【0028】
次に、前記構成のアッパー3を備えたシューズ1の製造方法について説明する。この製造方法は、チップ材配置工程、接合工程、裁断工程、第1成形工程、第2成形工程と、ソール取付工程を主に含む。なお、前記工程以外の工程を適宜付加することもできる。
【0029】
チップ材配置工程では、図6に示すように、裁断されたベースシート31の片面または両面、つまり、少なくとも一方の面に複数のチップ材32…32を配置する。接合工程では、ベースシート31と複数のチップ材32…32とをニードルパンチ加工により一体化して繊維シート3Sを作製する。裁断工程では、シート状であるベースシート31の材料を所定のサイズ及び形状に裁断し、本体部34及び底面部35を展開した形状とする。本実施形態では、チップ材配置工程、接合工程の後に裁断工程を行っているが、裁断工程を先に行ってから、チップ材配置工程、接合工程を行ってもよい。第1成形工程では、繊維シート3Sをアッパーの形状に裁断してラスト4にかぶせられる形状に加工することで成形前アッパー3Aを作製し(図7参照)、この成形前アッパー3Aをラスト4にかぶせる。ラスト4にかぶせられる形状への加工は、例えば縫製による接合によりなされるが、これに限らず、超音波、接着材等による、縫わない接合であってもよい。第2成形工程では、図8に示すように、加熱により成形前アッパー3Aをラスト4の形状に沿わせて成形後アッパー3Bとする。温度と加熱時間は、成形前アッパー3Aの構成に合わせて適宜設定できる。第2成形工程において用いられる加熱手段はスチーム加熱である。図8に略示したように、例えば成形前アッパー3Aが加熱箱51の内部に収納され、加熱箱51の内面から放出される高温の蒸気52により加熱がなされる。このスチーム加熱により、成形前アッパー3Aの全体を均一に加熱することができる。このため、成形前アッパー3Aをラスト4に合わせて均一に変形させ、成形後アッパー3Bとすることができる。なお第2成形工程では、スチーム加熱のほか熱風加熱、温水加熱等を用いることもできる。また、成形前アッパー3Aに対する加熱を全体ではなく部分的に行うこともできる。ソール取付工程では、成形後アッパー3Bが別に作製されたソール2に、例えば接着により取り付けられる。なお、接着以外に、熱融着等によって第2成形工程と同時にソール取付工程を実施することもできる。
【0030】
前述した一連の工程を経ることでシューズ1が製造される。なお、シュータンの形成、履き口11の加工、シューレース(靴紐)を通すためのハトメの取り付け、装飾部材やタグの取り付け、ロゴのプリント、インソール(中敷)の取り付けを前記各工程中、または全工程終了後に適宜行うことができる。各部材の取り付けに関してもニードルパンチを利用することができる。
【0031】
複数のチップ材32…32の各々が、異なる機械特性を備えたものであった場合、製造方法にチップ材判別工程を含むものとできる。機械特性は、例えば、剛性、厚み、圧縮硬さ、空隙量(通気性)が挙げられるが、測定値で評価できる種々の機械的な性質が、この機械特性に該当する。このチップ材判別工程では、画像認識、3次元計測、計量のいずれかにより各チップ材の機械特性を判別する。図9(a)には、前記画像認識に関し、カメラCを用いて画像を取り込むことを例示している。
【0032】
製造方法にチップ材判別工程を含む場合、前記接合工程では、図9(b)に示すように、共通または類似の機械特性(ハッチングの違いで図示している)を備えるチップ材32を複数集合させたチップ材集合体32Uが複数用いられる。そして、図9(c)に示すように、アッパー3の部位(二点鎖線で示す部位3X,3Y,3Z)に応じて異なる機械特性を備える複数のチップ材集合体32U…32Uがベースシート31上に配置されて繊維シート3Sが作製される。チップ材判別工程と接合工程とにより、共通または類似の機械特性を備える複数のチップ材32…32をチップ材集合体32Uとして、アッパーの各部位に、広がりを持って配置することができる。
【0033】
なお、チップ材配置工程において、共通または類似の機械特性を持つ複数のチップ材32…32を、ベースシート31に対して偏在させてもよいし、異なる機械特性を持つ複数のチップ材32…32を混ぜ合わせることで、チップ材集合体32U単位で特性を変えることもできる。
【0034】
また、複数のチップ材32…32の各々が、異なる表面形状または色彩を備えたものであった場合、前記チップ材配置工程では、情報処理装置(例えばパーソナルコンピュータ、図示しない)により、ベースシート31上に配置される複数のチップ材32…32の選定、及び、複数のチップ材32…32の各々のベースシート31における配置部位の決定がなされ、前記決定に従い複数のチップ材32…32が前記ベースシート31上に配置される。情報処理装置により決定されたアッパー3の各部位に、情報処理装置により選定された複数のチップ材32…32を配置することができるため、所望のデザインを備えたシューズとできる。
【0035】
また、複数のチップ材32…32の各々は、複数種の異なる外観を呈しており、または、複数種の異なる機械特性を備えたものであった場合、前記チップ材配置工程では、複数のチップ材32…32が、ベースシート31の両面に接合されることができる。この際、ベースシート31の有する面のうち一方の面には、前記外観基準で前記複数のチップ材32…32が配置され、他方の面には、前記機械特性基準で前記複数のチップ材32…32が配置される。このようにチップ材配置工程を行うことにより、アッパーにおける一方の面と他方の面に所望のデザインと機械特性とを付与することができる。
【0036】
前記チップ材配置工程には、ベースシート31の一方の面(例えば表面)に複数のチップ材32…32を配置する第1チップ材配置工程と、ベースシート31の他方の面(例えば裏面)に複数のチップ材32…32を配置する第2チップ材配置工程と、が含まれることができる。この場合、前記接合工程には、前記第1チップ材配置工程を経たベースシート31及び前記複数のチップ材32…32をニードルパンチ加工により一体化して第1繊維シートを形成する第1接合工程と、前記第2チップ材配置工程を経たベースシート31及び前記複数のチップ材32…32をニードルパンチ加工により一体化して第2繊維シートを形成する第2接合工程と、が含まれる(図10参照)。なお、本実施形態では、第2繊維シートは第1繊維シートのベースシート31を共有するように形成され、第2接合工程により第1繊維シートと第2繊維シートとが1枚のシート(繊維シート3S)となる。ただし、第2繊維シートが第1繊維シートのベースシート31を共有せず、ベースシート31を含む第1繊維シートと、別のベースシート31を含む第2繊維シートとを縫製等することで1枚のシート(繊維シート3S)としてもよい。更にこの場合、第1繊維シートのベースシート31と第2繊維シートのベースシート31との間にクッション材や補強材を適宜挿入してもよい。このチップ材配置工程と接合工程とにより、ベースシート31の両面に安定的にチップ材を接合することができる。
【0037】
成形前アッパー3Aが、上側に位置する本体部34と、本体部34の下端に連続する底面部35とを備える場合、第2成形工程において、底面部35には熱を加えないことができる。底面部35に熱を加えないようにするため、例えば、遮蔽板など、断熱性を有する治具を使用したり、底面に断熱性を有するラスト4を使用したりすることで、底面部35に及ぶ熱を低減できる。このようにすることで、加熱時に底面部35が変形しにくい。よって、接着工程における底面部35のソール2への接着が正確にできる。
【0038】
また、前記とは別に、上側に位置する本体部34と、本体部34の下端に連続する底面部35とを備える場合、第2成形工程において、底面部35に熱を加え、第2成形工程の後に底面部35を除去する底面部除去工程を含むこともできる。底面部除去工程により、図6の右側に示した形状の底面部35が本体部34から分離され、成形後アッパー3Bの下部には貫通穴(図示しない)が形成されることになる。底面部除去工程を経た成形後アッパー3Bにおいて、前記貫通穴の縁部がソール2に取り付けられる。第2成形工程において成形前アッパー3Aをラスト4の形状に確実に沿わせ、その後に、ソール2に接着する際に加熱で収縮することによって硬くなる可能性のある底面部35を成形後アッパー3Bから除去することで、ソール2が加熱された底面部35の影響を受けることなく、適切な硬さのソール2を有するシューズ1を製造できる。
【0039】
なお、前述のように底面部35には熱を加えない場合であっても、底面部35に接着剤を塗布すると底面部35が硬化してしまうことがある。このため、底面部35に熱を加えない場合に底面部除去工程を実施することも可能である。
【0040】
ここで、本発明の実施形態に係る構成と奏する作用につきまとめる。本実施形態は、熱収縮性を有する糸を含むベースシートと、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材と、が重ね合わせて接合された繊維シートにより構成されたアッパーを備えたシューズである。
【0041】
この構成によれば、複数のチップ材を使用し、ベースシートにおける部位ごとで接合するチップ材を変えることにより、アッパーの部位ごとに異なる性質を付与することができる。
【0042】
また、前記複数のチップ材と前記ベースシートとは、ニードルパンチ加工が施されて一体化されているものとできる。
【0043】
この構成によれば、チップ材とベース材との接合強度を大きくできる。
【0044】
また、前記ベースシートは、内部空隙を有する編物または織物よりなるものとできる。
【0045】
この構成によれば、熱収縮によるアッパーの成形を行う際に、アッパーを構成する繊維シートが容易に変形するため、ラストの形状に沿わせやすい。
【0046】
前記複数のチップ材は、少なくとも前記アッパーにおける前記ベースシートの外側に配置されているものとできる。
【0047】
この構成によれば、複数のチップ材を最外層に位置させることができ、その場合、最外層に現れるチップ材によりアッパーの外観を変更できる。
【0048】
前記アッパーにおける前記ベースシートの内側に不織布、編物、織物のいずれかを含む層を備えるものとできる。
【0049】
この構成によれば、シューズ着用者の足当たりが良い。
【0050】
前記複数のチップ材の各々は、リサイクル材から作製された不織布よりなるものとできる。
【0051】
この構成によれば、環境負荷を低減できる。
【0052】
前記複数のチップ材は、部分的に相互に重なり合わされた状態で前記ベースシートに接合されているものとできる。
【0053】
この構成によれば、部分的に相互に重なり合わされた複数のチップ材が最外層に位置することで、アッパーの見栄えを良くできる。また、複数のチップ材同士が重なり合うため、ベースシートに対するチップ材の接合が安定する。
【0054】
また本実施形態は、熱収縮性を有する糸を含むベースシートの少なくとも一方の面に、単体では前記ベースシートよりも面積の小さいシートである複数のチップ材を配置するチップ材配置工程と、前記ベースシートと前記複数のチップ材とをニードルパンチ加工により一体化して繊維シートを作製する接合工程と、前記繊維シートをアッパーの形状に裁断してラストにかぶせられる形状に加工することで成形前アッパーを作製し、当該成形前アッパーをラストにかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパーをラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を含む、シューズの製造方法である。
【0055】
この構成によれば、複数のチップ材を使用し、ベースシートにおける部位ごとで接合するチップ材を変えることにより、アッパーの部位ごとに異なる性質を付与することができる。
【0056】
前記複数のチップ材の各々は、異なる機械特性を備え、画像認識、3次元計測、計量のいずれかにより各チップ材の機械特性を判別するチップ材判別工程を更に含み、前記接合工程では、共通または類似の機械特性を備えるチップ材を複数集合させたチップ材集合体が複数用いられ、前記アッパーの部位に応じて異なる機械特性を備える複数のチップ材集合体が前記ベースシート上に配置されて前記繊維シートが作製されるものとできる。
【0057】
この構成によれば、共通または類似の機械特性を備える複数のチップ材をチップ材集合体として、アッパーの各部位に、広がりを持って配置することができる。
【0058】
前記複数のチップ材の各々は、異なる表面形状または色彩を備え、前記チップ材配置工程では、情報処理装置により、前記ベースシート上に配置される前記複数のチップ材の選定、及び、前記複数のチップ材の各々の前記ベースシートにおける配置部位の決定がなされ、前記決定に従い前記複数のチップ材が前記ベースシート上に配置されるものとできる。
【0059】
この構成によれば、情報処理装置により決定されたアッパーの各部位に、情報処理装置により選定された複数のチップ材を配置することができるため、所望のデザインを備えたシューズとできる。
【0060】
前記複数のチップ材の各々は、複数種の異なる外観を呈しており、または、複数種の異なる機械特性を備えており、
前記チップ材配置工程では、前記複数のチップ材が、前記ベースシートの両面に接合され、前記ベースシートの有する面のうち一方の面には、前記外観基準で前記複数のチップ材が配置され、他方の面には、前記機械特性基準で前記複数のチップ材が配置されるものとできる。
【0061】
この構成によれば、アッパーにおける一方の面と他方の面に所望のデザインと機械特性とを付与することができる。
【0062】
前記チップ材配置工程には、前記ベースシートの有する面のうち一方の面に前記複数のチップ材を配置する第1チップ材配置工程と、前記ベースシートの有する面のうち他方の面に前記複数のチップ材を配置する第2チップ材配置工程と、が含まれ、前記接合工程には、前記第1チップ材配置工程を経た前記ベースシート及び前記複数のチップ材をニードルパンチ加工により一体化して第1繊維シートを形成する第1接合工程と、前記第2チップ材配置工程を経た前記ベースシート及び前記複数のチップ材をニードルパンチ加工により一体化して第2繊維シートを形成する第2接合工程と、が含まれるものとできる。
【0063】
この構成によれば、ベースシートの両面に安定的にチップ材を接合することができる。
【0064】
以上、本発明につき実施形態を取り上げて説明してきたが、この説明はあくまでも例示に過ぎない。本発明に係るシューズ1及びシューズ1の製造方法は、前記実施形態に限定されない。このため、本発明に係るシューズ1及びシューズ1の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。前記変更には、例えば、前記実施形態を構成する複数の要素の一部入れ替えや一部省略、また、別々の例に属する要素を適宜組み合わせることが含まれる。また、シューズ1及びシューズ1の製造方法に関して技術常識に属する事項を組み合わせることも含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 シューズ
11 履き口
2 ソール
3 アッパー
31 ベースシート
311 熱収縮性を有する糸、緯糸
3111 芯鞘材の芯
3112 芯鞘材の鞘
312 内部空隙
313 交差する糸、経糸
314 固着箇所
32 チップ材
32U チップ材集合体
33 追加層
34 本体部
35 底面部
3A 成形前アッパー
3B 成形後アッパー
3S 繊維シート
4 ラスト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10