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特許7128190ウィルソン病を処置するための遺伝子療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ウィルソン病を処置するための遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20220823BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220823BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220823BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220823BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220823BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K48/00 ZNA
A61K35/76
A61P1/16
A61P39/02
A61K9/10
C12N15/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019535891
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2017068919
(87)【国際公開番号】W WO2018126116
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】62/440,659
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/473,656
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】シドレーン,ジェニー・アグネス
(72)【発明者】
【氏名】ゴヴィンダサミイ,ラクシュマナン
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-512533(JP,A)
【文献】国際公開第2016/097218(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF HEPATOLOGY,2015年09月25日,2016, Vol. 64,pp. 419-426
【文献】Human Molecular Genetics,2006年,Vol. 15, No. 7,pp. 1225-1236
【文献】BLOOD,2013年,Vol. 121, No. 17,pp. 3335-3344
【文献】Molecular Therapy,2008年,Vol. 16, No. 2,pp. 280-289
【文献】Biochemistry,2009年,Vol. 48,pp. 5573-5581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/76-35/768
A61K 48/00
C12N 7/01
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルソン病(WD)のための肝臓指向性治療薬として有用な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)であって、前記rAAVが、AAVカプシドと、その中にパッケージングされたベクターゲノムとを含み、前記ベクターゲノムが、
(a)AAV 5’逆位末端リピート(ITR)配列と、
(b)エンハンサー及びTTRプロモーターと、
(c)トランケート型ATP7Bが金属結合ドメイン1-3(MBD1-3)欠失を有する、トランケート型ヒト銅輸送ATPase 2(ATP7B)をコードするコーディング配列と、
(d)AAV 3’ITR配列と
を含む、前記組換えアデノ随伴ウイルス。
【請求項2】
前記AAVカプシドが、AAV8カプシドである、請求項1に記載のrAAV。
【請求項3】
前記AAV 5’ITR配列及び/またはAAV3’ITR配列が、AAV2に由来する、請求項1又は2に記載のrAAV。
【請求項4】
前記ベクターゲノムがポリAを更に含む、請求項1~3のいずれか1に記載のrAAV。
【請求項5】
前記ベクターゲノムがWPREを更に含む、請求項1~4のいずれか1に記載のrAAV。
【請求項6】
前記ベクターゲノムがイントロンを更に含む、請求項1~5のいずれかに記載のrAAV。
【請求項7】
前記イントロンが、ヒトベータグロビンIVS2またはSV40に由来する、請求項6に記載のrAAV。
【請求項8】
前記エンハンサーが、α1ミクログロブリン/ビクニン前駆体(ABP)エンハンサー、ABPSエンハンサー、TTRエンハンサー、en34エンハンサー、またはApoEエンハンサーである、請求項1~7のいずれか1に記載のrAAV。
【請求項9】
前記ベクターゲノムが、約3キロベース~約5.5キロベースのサイズである、請求項1~8のいずれか1に記載のrAAV。
【請求項10】
前記ポリAがSV40ポリAである、請求項4に記載のrAAV。
【請求項11】
前記(c)のコーディング配列が天然のコーディング配列である、請求項1に記載のrAAV。
【請求項12】
前記(c)のコーディング配列がコドン最適化配列である、請求項1に記載のrAAV。
【請求項13】
ウィルソン病患者へ投与するための水性サスペンションであって、前記サスペンションが、水性懸濁液と、ウィルソン病のための肝臓指向性治療薬として有用な約1×1012GC/mL~約1×1014GC/mLの組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)とを含み、前記rAAVが、AAVカプシドを有し、かつその中に、
(a)AAV 5’逆位末端リピート(ITR)配列と、
(b)エンハンサー及びTTRプロモーターと、
(c)トランケート型ATP7Bが金属結合ドメイン1-3(MBD1-3)欠失を有する、トランケート型ヒト銅輸送ATPase 2(ATP7B)をコードするコーディング配列と、
(d)AAV 3’ITR配列と
を含むベクターゲノムがパッケージングされている、
前記水性サスペンション。
【請求項14】
前記水性サスペンションが静脈内注射のための、請求項13に記載の水性サスペンション。
【請求項15】
前記水性サスペンションが、前記水性懸濁液中に溶解した界面活性剤、保存剤、及び/またはバッファーを更に含む、請求項13または14に記載の水性サスペンション。
【請求項16】
前記(c)のコーディング配列が天然のコーディング配列である、請求項13に記載の水性サスペンション
【請求項17】
前記(c)のコーディング配列がコドン最適化配列である、請求項13に記載の水性サスペンション
【請求項18】
ウィルソン病を有する患者を処置するための、請求項1に記載のrAAVを含んでなる医薬組成物であって、前記rAAVが、水性サスペンション中約1×1012~約1×1014ゲノムコピー(GC)/kgで送達され、前記GCがoqPCRまたはddPCRに基づいて決定され計算される、前記医薬組成物
【請求項19】
前記rAAVカプシドがAAV8カプシドである、請求項13に記載の水性サスペンション。
【請求項20】
ウィルソン病の処置を必要とする対象のウィルソン病の処置に使用するための、請求項1~12のいずれか1項に記載のrAAV。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子形態で提出された資料の参照による組み込み
出願人は、本明細書と共に電子形態で提出された配列表資料を参照することにより本明細書に組み込む。このファイルは「UPN-16-7940PCT_ST25.txt」という名称である。
【0002】
1.導入
本出願は、ウィルソン病を処置するための遺伝子療法で有用な実施形態に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景
本出願は、ウィルソン病を処置するための遺伝子療法で有用な実施形態に関する。ウィルソン病は、第13染色体上の銅輸送ATPase 2(ATP7B)遺伝子の突然変異に起因する、常染色体劣性の遺伝性障害である銅蓄積障害である。銅が組織中に蓄積すると、典型的には12歳から23歳の間に観察される神経症状または精神症状及び肝疾患として顕在化する。高い銅レベルは、適切な処置がなければ、やがて重篤な臓器損傷を引き起こし得る。
【0004】
ウィルソン病の現在の処置アプローチは、キレート剤(ペニシラミン[Cuprimine]及び塩酸トリエンチン[Syprine])、亜鉛(腸細胞による銅の吸収を遮断するため)、及び循環中のアルブミンと錯体を形成する銅キレート薬であるテトラチオモリブデート(TM)を用いる連日経口療法であり、これには、罹患した個体がその生涯にわたって薬を服用することが必要である。更に、こうした処置は、薬物誘導性ループス、筋無力症、逆説的悪化などの副作用を引き起こす場合があり、正常な銅代謝を回復させない。肝臓移植はウィルソン病の治癒に有効であるが、移植レシピエントは、拒絶反応を防止するために不断の免疫抑制レジメンを維持することが必要である。
【発明の概要】
【0005】
3.概要
本明細書に記述される実施形態は、ベクターの静脈内(IV)投与後、長期間、ことによると10年以上にわたり、ウィルソン病(「WD」)の臨床的に意義のある是正をもたらす、それを必要とする対象に正常なヒト銅輸送ATPase 2(ATP7B)を送達するためのAAV遺伝子療法ベクターに関する。ベクター用量は、循環銅レベルを約25%以上低下させる血中レベルのATP7Bを送達するよう意図される。一実施形態において、循環銅のレベルは、尿中の銅の排泄量によって評価される。別の実施形態では、血漿中の循環銅のレベルが評価される。
【0006】
一態様において、本出願は、WDと診断された患者(ヒト対象)の肝臓細胞にヒト銅輸送ATPase 2(ATP7B)遺伝子を送達するための複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)の使用を提示する。hATP7B遺伝子を送達するために使用される組換えAAVベクター(rAAV)(「rAAV.hATP7B」)は、肝臓への指向性を有するべきであり(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV)、hATP7B導入遺伝子は、肝臓特異的な発現制御エレメントによって制御されるべきである。一実施形態において、発現制御エレメントは、エンハンサー、プロモーター、イントロン、WPRE、及びポリAシグナルのうちの1つ以上を含む。このようなエレメントについては、本明細書において更に記述する。hATP7Bコーディング配列のサイズのため、効果的な発現を可能にする制御エレメントの選択が重要である。導入遺伝子の発現が十分でなければ、異常の
是正に必要なベクター投与量は、高すぎて実用的でないものになる。したがって、本明細書に記述されるように、例えばエンハンサー、プロモーター、及びポリAの選択は重要である。
【0007】
一実施形態において、hATP7Bコーディング配列は配列番号1に示されている。一実施形態において、ATP7Bタンパク質配列は配列番号2に示されている。hATP7Bのコーディング配列は、一実施形態では、ヒトにおける発現のためにコドン最適化されている。このような配列は、天然のhATP7Bコーディング配列(配列番号3)と80%未満の同一性を共有し得る。一実施形態において、hATP7Bコーディング配列は、配列番号1に示されているものである。
【0008】
別の態様において、本明細書では、WD患者への投与に好適な、本明細書に記述されるrAAVを含む水性サスペンションが提示される。一部の実施形態では、サスペンションは、水性懸濁液と、1mLあたり約1×1012~約1×1014ゲノムコピー(GC)のrAAVとを含む。サスペンションは、一実施形態では静脈内注射に好適である。他の実施形態では、サスペンションは、水性懸濁液中に溶解した界面活性剤、保存剤、及び/またはバッファーを更に含む。
【0009】
別の実施形態において、本明細書では、WDを有する患者を本明細書に記述されるrAAVで処置する方法が提示される。一実施形態では、水性サスペンションにおいて、患者の体重1kgあたり約1×1011~約3×1013ゲノムコピー(GC)のrAAVが患者に送達される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75ベクターの概略表現である。
図2図2A及び図2Bは、Atp7b KOマウスにおける尿中及び血清中の銅レベルが経時的に上昇することを示す。Atp7b KOマウスにおける経時的な(A)尿中銅レベル及び(B)血清銅レベル(黒色)。ヘテロ接合性同腹仔(Het)を対照とした(灰色)。自然史研究で試料を毎週収集し、誘導結合型プラズマ質量分析を行って、銅レベルを評価した。
図3図3A図3Cは、Atp7b KOマウスの尿中銅レベル、血清銅レベル、及び肝疾患スコアを示す。誘導結合型プラズマ質量分析により、雄及び雌のヘテロ接合性(Het)マウスならびにAtp7b KOマウス(KO)の経時的な(A)尿中銅レベル及び(B)血清銅レベルを評価した。(C)2月齢、3月齢、4月齢、5月齢、9月齢、10月齢、及び12月齢でAtp7b KOマウスを剖検した。肝臓を採取し、H&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図4図4は、Atp7b KOマウスにおけるTimm染色を示す。識別番号1345の2月齢のAtp7b KOマウスの肝臓における、Timm染色による銅染色の代表的結果。黒色沈着物は、銅に対する陽性染色を示す。識別番号307の3.7月齢の野生型マウスを陰性対照とした。
図5図5は、Atp7b KOマウスにおいて肝疾患が経時的に発生することを示す。2月齢、3月齢、4月齢、5月齢、9月齢、10月齢、及び12月齢でAtp7b KOマウスを剖検し、肝臓を採取して肝疾患を評価した。線維症及び銅の蓄積を含む肝臓病変の組織病理学的評価のため、H&E染色、Sirius Red染色、及びTimm染色を行った。*は、12月齢のAtp7b KOマウスの肝臓における再生の領域である。WTは、Timm染色により見られる銅の蓄積の陰性対照としての野生型マウスから得た切片である。
図6図6A図6Cは、8月齢のAtp7b KOマウスにおける血清化学値を示す。8月齢のAtp7b KOマウス(KO)及びヘテロ接合性マウス(Het)における、(A)ALT、(B)AST、及び(C)総ビリルビンレベル。
図7図7は、8月齢のAtp7b KOマウスにおける肝疾患を示す。Atp7b KOマウス及びヘテロ接合性(Het)マウスを8月齢時に剖検した。肝臓を採取し、H&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図8図8A及び図8Bは、8月齢のAtp7b KOマウスにおける肝線維症及び銅の蓄積を示す。Atp7b KO(KO)マウス及びヘテロ接合性(Het)マウスを8月齢時に剖検した。肝臓を採取し、線維症及び銅の蓄積の評価のため、それぞれSirius Red及びTimm染色で染色した。(A)線維症及び(B)銅の蓄積を含む肝臓病変の組織病理学的評価を、1~5のスコアリングシステムに従って行った。値は平均±SEMとして表してある。
図9図9は、8月齢のAtp7b KOマウスにおける肝臓銅レベルを示す。Atp7b KO(KO)マウス及びヘテロ接合性(Het)マウスを8月齢時に剖検した。肝臓を採取し、誘導結合型プラズマ質量分析によって肝臓銅レベルを評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図10図10A図10Cは、AAV8遺伝子療法が、Atp7b KOマウスの正常な肝臓の銅代謝を回復させ得ることを示す。雄のAtp7b KOマウスには、AAV8.TTR.hATP7Bcoを1011GC/マウス及び1010GC/マウスでi.v.注射し、雌のAtp7b KOマウスには、同じベクターを1011、1010、及び10GC/マウスでi.v.注射した。(A)雄及び(B)雌における血清銅レベルを誘導結合型プラズマ質量分析によって評価し、同齢の雄及び雌のヘテロ接合性(het)マウスならびにAtp7b KOマウスの血清銅レベルと比較した。マウスを9月齢時に剖検し、肝臓を採取した。(C)誘導結合型プラズマ質量分析によって肝臓銅レベルも評価し、同齢で未注射のヘテロ接合性(het)マウス及びAtp7b KOマウスと比較した。値は平均±SEMとして表してある。nsは有意差なし、**p<0.01、****p<0.0001である。
図11図11は、高用量のAAV8遺伝子療法が、Atp7b KOマウスにおける肝疾患の発生を防止することを示す。雄のAtp7b KOマウスには、AAV8.TTR.hATP7Bcoを1011GC/マウス及び1010GC/マウスでi.v.注射し、雌のAtp7b KOマウスには、同じベクターを1011、1010、及び10GC/マウスでi.v.注射した。マウスを9月齢時に剖検し、肝臓を採取して肝疾患を評価した。線維症及び銅の蓄積を含む肝臓の組織病理学的病変を評価するため、H&E染色、Sirius Red染色、及びTimm染色を行った。同齢で未注射のAtp7b KOマウスの画像を比較のために含めてある(図2にも提示した)。WTは、Timm染色により見られる銅の蓄積の陰性対照としての野生型(WT)マウスから得た切片である。KOは、Timm染色により見られる銅の蓄積の陽性対照としての2月齢のAtp7b KOマウスから得た切片である。
図12図12A図12Cは、Atp7b KOマウスにおける高用量AAV8遺伝子療法後の肝疾患の防止の数量化を示す。雄のAtp7b KOマウスには、AAV8.TTR.hATP7Bcoを1011GC/マウス及び1010GC/マウスでi.v.注射し、雌のAtp7b KOマウスには、同じベクターを1011、1010、及び10GC/マウスでi.v.注射した。マウスを9月齢時に剖検し、組織学的評価のために肝臓を採取した。(A)肝臓切片をH&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した。(B)肝臓切片をSirius Redで染色し、1~3のスコアリングシステムに従って線維症の評価を行い、(C)1~5のスコアリングシステムに従って銅の蓄積を評価するために、肝臓切片のTimm染色を行った。平均±SEMとして表してある値は、同齢で未注射のヘテロ接合性(Het)マウス及びAtp7b KOマウスと比較した。nsは有意差なし、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001である。
図13図13A図13Cは、AAV8遺伝子療法後のAtp7b KOマウスにおける血清化学レベルを示す。雄のAtp7b KOマウスには、AAV8.TTR.hATP7Bcoを1011GC/マウス及び1010GC/マウスでIV注射し、雌のAtp7b KOマウスには、同じベクターを1011、1010、及び10GC/マウスでi.v.注射した。血清中の(A)ALT、(B)AST、及び(C)総ビリルビンレベルを評価した。
図14図14は、ウェスタンブロットによるセルロプラスミンの検出を示す。マウス1匹あたり1010または1011GCのAAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75をi.v.注射したAtp7b KOマウスにおける、銅結合形態(ホロ、下のバンド)及び銅非結合形態(アポ、上のバンド)のセルロプラスミンを検出したウェスタンブロット。投与後21日目に血液試料を収集した。タンパク質マーカーを比較のために中央レーンに提示した。ベクター注射なしのAtp7b KO同腹仔及びヘテロ接合性(het)同腹仔を対照とした(1318、6月齢het;1313、6月齢Atp7b KO;388、Atp7b KO)。
図15図15A及び図15Bは、AAV8ベクターを投与した雌及び雄のAtp7b KOマウスにおける血清銅レベルを示す。Atp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(円形、EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;正方形、En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;上向き三角形、En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;逆三角形、ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;ひし形、En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。未注射のAtp7b KOマウス及びヘテロ接合性(Het)マウスを対照とした。誘導結合型プラズマ質量分析により、(A)雌及び(B)雄のAtp7b KOマウスにおける血清銅レベルを評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図16図16A図16Cは、AAV8ベクターを投与した雌及び雄のAtp7b KOマウスにおける血清化学を示す。雌及び雄のAtp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。血清中の(A)ALT、(B)AST、及び(C)総ビリルビンレベルを評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図17図17は、ウェスタンブロットによって決定された、肝臓におけるATP7Bco発現量を示す。雌及び雄のAtp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与し、6月齢時に殺処分した。Atp7b KOマウスにおけるATP7Bを検出したウェスタンブロットを、バンド濃度測定によって数量化した。値は平均±SEMとして表してある。
図18図18は、AAV8ベクターを投与した雌及び雄のAtp7b KOマウスにおける肝疾患を示す。雌及び雄のAtp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与し、6月齢時に殺処分した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。肝臓切片をH&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図19図19A及び図19Bは、AAV8ベクターを投与した雌及び雄のAtp7b KOマウスにおける肝線維症及び銅の蓄積を示す。雌及び雄のAtp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与し、6月齢時に殺処分した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。(A)肝臓切片をSirius Redで染色し、1~3のスコアリングシステムに従って線維症の評価を行い、(B)1~5のスコアリングシステムに従って銅の蓄積を評価するために、肝臓切片のTimm染色を行った。平均±SEMとして表してある値は、同齢で未注射のヘテロ接合性(Het)マウス及びAtp7b KO(KO)マウスと比較した。
図20図20は、AAV8ベクターを投与した雌及び雄のAtp7b KOマウスにおける肝臓銅レベルを示す。雌及び雄のAtp7b KOマウスに、様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(EnTTR.TTR、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;En34.TBG-S1、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.TTR、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;ABPS.TBG-S1、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;En34.mTTR、AAV8.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与し、6月齢時に殺処分した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。誘導結合型プラズマ質量分析によって肝臓銅レベルを評価し、同齢で未注射のヘテロ接合性(het)マウス及びAtp7b KO(KO)マウスと比較した。値は平均±SEMとして表してある。
図21図21は、AAV8ベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおけるセルロプラスミンのウェスタンブロットによる検出を示す。様々なエンハンサー/プロモーターの組み合わせを有するhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(1、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75;2、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75;3、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75;4、AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した雄のAtp7b KOマウスにおける、銅結合形態(ホロ、下のバンド)及び銅非結合形態(アポ、上のバンド)のセルロプラスミンを検出したウェスタンブロット。投与後21日目に血液試料を収集した。タンパク質マーカーを比較のために中央レーンに提示した。ベクター注射なしのAtp7b KO同腹仔、ヘテロ接合性(het)同腹仔、及び野生型(WT)同腹仔を対照とした(1313、6月齢Atp7b KO;1318、6月齢het;1345、2月齢Atp7b KO;1945、WT)。
図22図22は、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおける血清銅レベルを示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。誘導結合型プラズマ質量分析によって血清銅レベルを評価し、ヘテロ接合性(Het)マウス及びAtp7b KOマウス(KO)と経時的に比較した。値は平均±SEMとして表してある。
図23図23A図23Cは、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおける血清化学を示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。マウスを6月齢時に剖検し、血清中の(A)ALT、(B)AST、及び(C)総ビリルビンレベルを評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図24図24は、ウェスタンブロットによって決定された、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスの肝臓におけるATP7Bco発現量を示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。マウスを6月齢時に剖検した。Atp7b KOマウスにおけるATP7Bを検出したウェスタンブロットを、バンド濃度測定によって数量化した。値は平均±SEMとして表してある。
図25図25は、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおける肝疾患を示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。マウスを6月齢時に剖検した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。肝臓切片をH&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した。値は平均±SEMとして表してある。
図26図26A及び図26Bは、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおける肝線維症及び銅の蓄積を示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。マウスを6月齢時に剖検した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。(A)肝臓切片をSirius Redで染色し、1~3のスコアリングシステムに従って線維症の評価を行い、(B)1~5のスコアリングシステムに従って銅の蓄積を評価するために、肝臓切片のTimm染色を行った。平均±SEMとして表してある値は、同齢で未注射のヘテロ接合性(Het)マウス及びAtp7b KO(KO)マウスと比較した。
図27図27は、AAV8トランケート型ATP7Bベクターを投与した雄のAtp7b KOマウスにおける肝臓銅レベルを示す。雄のAtp7b KOマウスに、様々なトランケート型バージョンのhATP7Bcoの発現のためのAAV8ベクター(MBD1Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1Del.PA75;MBD2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD2Del.PA75;MBD3Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD3Del.PA75;MBD1-2Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-2Del.PA75;MBD1-4Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;MBD1-5Del、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75;TBG-MBD1-4Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-4Del.PA75;TBG-MBD1-5Del、AAV8.TBG.hATP7BcoMBD1-5Del.PA75)を3×1012GC/kgでi.v.投与した。マウスを6月齢時に剖検した。ビヒクル対照を投与したAtp7b KO(PBS)マウスを対照とした。誘導結合型プラズマ質量分析によって肝臓銅レベルを評価し、同齢で未注射のヘテロ接合性(het)マウス及びAtp7b KO(KO)マウスと比較した。平均±SEMとして表してある値は、同齢で未注射のヘテロ接合性(Het)マウス及びAtp7b KO(KO)マウスと比較した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
4.詳細な説明
本出願に記述される実施形態は、ウィルソン病(WD)と診断された患者(ヒト対象)の肝臓細胞にヒト銅輸送ATPase 2(ATP7B)遺伝子を送達するための複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)の使用に関する。hATP7B遺伝子を送達するために使用される組換えAAVベクター(rAAV)(「rAAV.hATP7B」)は、肝臓への指向性を有するべきであり(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV)、hATP7B導入遺伝子は、肝臓特異的な発現制御エレメントによって制御されるべきである。一実施形態において、発現制御エレメントは、エンハンサー、プロモーター、イントロン、WPRE、及びポリAシグナルのうちの1つ以上を含む。このようなエレメントについては、本明細書において更に記述する。
【0012】
本明細書において使用される場合、「AAV8カプシド」とは、参照により本明細書に組み込まれているGenBank受託番号YP_077180.1、配列番号16のアミノ酸配列を有するAAV8カプシドを指す。このコードされる配列からのある程度の差異が許容され、これには、YP_077180.1及びWO2003/052051(これは参照により本明細書に組み込まれている)における参照アミノ酸配列と約99%の同一性(すなわち、参照配列からの約1%未満の差異)を有する配列が含まれ得る。カプシドひいてはコーディング配列を生成する方法、及びrAAVウイルスベクターの産生のための方法については記述されている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及びUS2015/0315612を参照されたい。
【0013】
本明細書において使用される場合、「NAb力価」とは、標的となるエピトープ(例えばAAV)の生理的効果を中和する中和抗体(例えば抗AAV Nab)がどれだけ産生されるかの測定値である。抗AAV NAb力価は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているCalcedo,R.,et al.,Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases,2009.199(3):p.381-390に記述されているように測定することができる。
【0014】
アミノ酸配列との関連における「同一性パーセント(%)」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」、または「パーセント同一」という用語は、2つの配列のうち、対応するようにアラインされたときに同じである残基を指す。同一性パーセントは、タンパク質の完全長にわたるアミノ酸配列、ポリペプチド、約32アミノ酸、約330アミノ酸、もしくはそれらのペプチド断片、または対応する核酸配列コーディングシーケンサーについて容易に決定され得る。好適なアミノ酸断片は、少なくとも約8アミノ酸長であってよく、最長約700アミノ酸であり得る。概して、2つの異なる配列間の「同一性」、「相同性」、または「類似性」を参照するとき、「同一性」、「相同性」、または「類似性」は、「アラインされた」配列に関して決定されたものである。「アラインされた」配列または「アライメント」とは、多くの場合、参照配列と比較した塩基またはアミノ酸の欠失または付加に対する補正を含む、複数の核酸配列またはタンパク質(アミノ酸)配列を指す。アライメントは、公的または商業的に利用可能な様々なMultiple Sequence Alignmentプログラムのいずれかを使用して行われる。アミノ酸配列には、例えば、「Clustal Omega」、「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」、及び「Match-Box」プログラムといった配列アライメントプログラムが利用可能である。概し
て、これらのプログラムのいずれかがデフォルト設定で使用されるが、当業者は、必要に応じてこれらの設定を変更することができる。代替的には、当業者は、参照されるアルゴリズム及びプログラムによって提供されるレベルの同一性またはアライメントを少なくとも提供する別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用してもよい。例えば、J.D.Thomson et al,Nucl.Acids.Res.,“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”,27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0015】
本明細書において使用される場合、「作動可能に連結した」という用語は、目的の遺伝子と連続している発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するようにトランスに、すなわち離れて作用する発現制御配列との両方を指す。
【0016】
「複製欠損ウイルス」または「ウイルスベクター」とは、目的の遺伝子を含有する発現カセットがウイルスカプシドまたはエンベロープ内にパッケージングされている合成または人工のウイルス粒子で、同様にウイルスカプシドまたはエンベロープ内にパッケージングされているあらゆるウイルスゲノム配列が複製欠損である、すなわち子孫ビリオンを生成することができないが、標的細胞に感染する能力を保持するものを指す。一実施形態において、ウイルスベクターのゲノムは、複製するのに必要な酵素をコードする遺伝子を含まないが(このゲノムは、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要なシグナルに挟まれた目的の導入遺伝子のみを含有する「ガットレス」であるように工学操作されていてよい)、これらの遺伝子は産生中に供給されてもよい。したがって、これは遺伝子療法に使用するのに安全であるとみなされる。子孫ビリオンによる複製及び感染は、複製に必要なウイルス酵素の存在下を除いては起こり得ないためである。
【0017】
「a」または「an」という用語は、1つ以上を指すことに留意されたい。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0018】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」という言葉は、排他的ではなく包括的に解釈されるものとする。「からなる(consist)」、「からなる(consisting)」という言葉、及びその変化形は、包括的ではなく排他的に解釈されるものとする。本明細書における種々の実施形態は「含む(comprising)」という文言を使用して提示されるが、他の状況下では、関連する実施形態が「からなる(consisting of)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」という文言を使用して解釈され、かつ記述されていることも意図される。
【0019】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、別途指定しない限り、与えられている基準から10%の変動を意味する。
【0020】
本明細書において別途定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解し、また本出願において使用される用語の多くに関する一般的指針を当業者に提供する公開文献の参照により理解されるものと同じ意味を有する。
【0021】
5.1 遺伝子療法ベクター
一態様では、遺伝子療法において使用するためのヒトATP7B遺伝子を搭載した組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターが提示される。rAAV.hATP7Bベクターは、肝臓への指向性を有するべきであり(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV)、hATP7B導入遺伝子は、肝臓特異的な発現制御エレメントによって制御される
べきである。ベクターは、ヒト対象への注入に好適なバッファー/担体において製剤化される。バッファー/担体には、rAAVが注入チューブに固着することを防止するが、インビボでrAAV結合活性に干渉しない成分が含まれているべきである。
【0022】
5.1.1.rAAV.hATP7Bベクター
5.1.1.1.hATP7B配列
ウィルソン病は、銅輸送P型ATPaseをコードするATP7B遺伝子の突然変異によって主に引き起こされる遺伝性代謝異常である。ATP7Bは、銅を細胞内シャペロンタンパク質から分泌経路に輸送し、胆汁に排泄し、また、アポセルロプラスミンに組み込んで機能的なセルロプラスミンを合成するのに関与している。ウィルソン病の発生は、患部組織における銅の蓄積に起因する。参照により本明細書に組み込まれている、EASL
Clinical Practice Guidelines:Wilson’s disease,EASL Journal of Hepatology,2012,56(671-85)を参照されたい。
【0023】
ウィルソン病の臨床的特徴はカイザー・フライシャー輪であり、これは、神経症状のある患者の95%及び神経症状のない者の半分をやや超える患者に存在する。神経学的徴候は不定であり、ほとんどの場合は振戦、運動失調、及びジストニアである。ウィルソン病患者は、あらゆるタイプの肝疾患を経験し得る。臨床的に明らかな肝疾患は、早ければ神経学的兆候の10年前に起こる場合があり、神経症状のあるほとんどの患者は、ある程度の肝疾患を発症時に有する。肝疾患の主症状は、生化学的異常のみで無症候性のものから、その全ての合併症を伴う明白な硬変まで、大きくばらつき得る。ウィルソン病は、場合によりクームス陰性溶血性貧血及び急性腎不全が付随する急性肝不全として現れることもある。以下の表1は、WDの予後指数を提示する(参照により本明細書に組み込まれている、EASL Clinical Practice Guidelines:Wilson’s disease,EASL Journal of Hepatology,2012,56(671-85)を参照されたい)。
【表1】
=スコアポイント、ASTの正常上限=20 IU/ml(King’s Collegeにて)。≧11のスコアは、肝臓移植なしの高い死亡確率に関連付けられる。
【0024】
ATP7Bは、細胞膜を通る銅の移動のための経路を形成する8つの膜貫通ドメインと、およそ70アミノ酸及び高度に保存された金属結合モチーフGMxCxxC(ここでxは任意のアミノ酸である)を各々が含む6つの金属結合ドメイン(MBD)をもつ大きなN末端とを有する。他のドメインには、膜を通る銅の移動に必要な膜内CPCモチーフ、ATP結合部位を含有するNドメイン、保存されたアスパラギン酸残基を含有するPドメイン、及びホスファターゼドメインを含むAドメインが含まれる。ウィルソン病患者の一部または全てに存在する、hATP7B遺伝子及び/または結果として生じるタンパク質における種々の突然変異が公知である。WBに寄与する公知の突然変異の完全なリストは
、http://www.uniprot.org/uniprot/P35670にて確認することができ、これは参照により本明細書に組み込まれている。更に、カノニカル配列(アイソフォームaとも呼ばれ、最長のアイソフォームである;NCBI参照配列:NP_000044.2)に加えて、4つの更なるアイソフォーム:NCBI参照配列NP_001005918.1、NP_001230111.1、NP_001317507.1、NP_001317508.1が公知であり、これらは各々、参照により本明細書に組み込まれている。本明細書に記述される組成物及び方法は、疾患を引き起こすいずれかのATP7Bバリアントタンパク質を有する対象を処置するために使用され得る。
【0025】
一実施形態において、hATP7B遺伝子は、配列番号2に示されるhATP7Bタンパク質をコードする。したがって、一実施形態において、hATP7B導入遺伝子は、参照により本明細書に組み込まれている添付の配列表に提示されている配列番号1または配列番号3により提示される配列を含み得るが、これらに限定されない。配列番号3は、天然のヒトATP7BのcDNAを提示する。配列番号1は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化された、工学操作されたヒトATP7BのcDNA(本明細書では場合によりhATP7Bcoと呼ばれる)を提示する。本明細書におけるhATP7Bへの言及は、一部の実施形態では、hATP7Bの天然配列もしくはコドン最適化配列、または本明細書に記述されるバリアントのうちのいずれかを指し得ることを理解されたい。代替的には、または更に、ウェブベースまたは商業的に利用可能なコンピュータプログラム、ならびにサービスベースの企業を利用して、両RNA及び/またはcDNAを含む核酸コーディング配列にアミノ酸配列を逆翻訳してもよい。例えば、EMBOSSによるbacktranseq(www.ebi.ac.uk/Tools/st/)、Gene Infinity(www.geneinfinity.org/sms-/sms_backtranslation.html)、ExPasy(www.expasy.org/tools/)を参照されたい。所望の標的対象における発現のために(例えば、コドン最適化によって)最適化されている核酸配列を含め、記述されるhATP7Bポリペプチド配列をコードする全ての核酸が包含されることが意図される。
【0026】
ATP7Bの天然コーディング配列は4.3kb超(配列番号3;Genbank受託番号XM_005266430)であり、アミノ酸数1465のタンパク質(配列番号2)をもたらす。ATP7Bの大きなサイズ及びAAVベクターを含むウイルスベクターのパッケージング能が理由で、一部の実施形態では、ATP7Bコーディング配列を短縮することが望ましい。初めの5つのMBDの欠失は、結果として生じるタンパク質の触媒的リン酸化を、野生型と一致するレベルで示したことが示されている。参照により本明細書に組み込まれている、Huster and Lutsenko,J.Biological Chem,June 2003を参照されたい。したがって、一実施形態において、ATP7Bコーディング配列は、1つ以上のMDBを欠失させることによって短縮される。一実施形態において、ATP7Bコーディング配列は、MBD1~2が欠失している(例えば、配列番号17及び配列番号35のnt403~nt4368に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD1~3が欠失している。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD1~4が欠失している(例えば、配列番号18、及び配列番号34のnt403~nt3762、及び配列番号29のnt1059~nt4418に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD1~5が欠失している(例えば、配列番号19、配列番号33のnt403~nt3369、及び配列番号28のnt1059~nt4025に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD1が欠失している(例えば、配列番号20及び配列番号32のnt403~nt4686に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD2が欠失している(例えば、配列番号21及び配列番号31のnt403~nt4617に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD3が欠失している(例
えば、配列番号22及び配列番号30のnt403~nt4719に示されている通り)。別の実施形態では、ATP7Bコーディング配列は、MBD1~4及び6が欠失している(例えば、参照により本明細書に組み込まれているCater et al,Biochem J.2004 Jun 15;380(Pt 3):805-813に記述されている通り)。また、Gourdon et al,Biol Chem.2012 Apr;393(4):205-16、Lutsenko,S.,et al.(2007).“Function and regulation of human copper-transporting ATPases.”Physiological reviews 87(3):1011-1046、Safaei,R.,et al.(2013).“The role of metal binding and phosphorylation domains in the regulation of cisplatin-induced trafficking of ATP7B.”Metallomics 5(8):964-972、及び米国特許公開第2015/0045284号も参照されたい。これらは各々、参照により本明細書に組み込まれている。
【0027】
一実施形態において、hATP7Bをコードする核酸配列は、配列番号3もしくは配列番号1の天然hATP7Bコーディング配列、または配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、もしくは配列番号22に示されているバリアントのうちのいずれかと、少なくとも95%の同一性を共有する。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は、配列番号3もしくは配列番号1の天然hATP7Bコーディング配列、または配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、もしくは配列番号22に示されているバリアントのうちのいずれかと、少なくとも90、85、80、75、70、または65%の同一性を共有する。一実施形態において、hATP7Bをコードする核酸配列は、配列番号3もしくは配列番号1の天然hATP7Bコーディング配列、または配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、もしくは配列番号22に示されているバリアントのうちのいずれかと、約79%の同一性を共有する。一実施形態において、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号1である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号17である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号18である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号19である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号20である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号21である。別の実施形態では、hATP7Bをコードする核酸配列は配列番号22である。
【0028】
コドン最適化されたコーディング領域は、種々の異なる方法によってデザインすることができる。この最適化は、オンラインで利用可能な方法(例えばGeneArt)、公開されている方法、または例えばDNA2.0(Menlo Park,CA)のようなコドン最適化サービスを提供する企業を利用して行ってもよい。コドン最適化アプローチの1つは、例えば、参照により本明細書に組み込まれている国際特許公開第WO2015/012924号に記述されている。例えば、米国特許公開第2014/0032186号及び米国特許公開第2006/0136184号も参照されたい。好適には、産物のオープンリーディングフレーム(ORF)の全長が改変される。しかしながら一部の実施形態では、ORFの断片のみを変更してもよい。これらの方法のうちの1つを使用することにより、任意の所与のポリペプチド配列に頻度を適用し、このポリペプチドをコードするコドン最適化されたコーディング領域の核酸断片を産生することができる。
【0029】
コドンの実際の変更を行うため、または本明細書に記述されるようにデザインされたコドン最適化コーディング領域を合成するためには、いくつかの選択肢が利用可能である。このような改変または合成は、当業者に周知の標準的かつルーチン的な分子生物学的操作
を使用して行うことができる。1つのアプローチでは、各々80~90ヌクレオチド長であり所望の配列の長さに及ぶ一連の相補的オリゴヌクレオチド対を、標準的方法によって合成する。これらのオリゴヌクレオチド対は、アニールすると、付着末端を含有する80~90塩基対の二本鎖断片を形成するように合成される。例えば、対における各オリゴヌクレオチドは、対における他方のオリゴヌクレオチドに対して相補的である領域を、塩基3個分、4個分、5個分、6個分、7個分、8個分、9個分、10個分、またはそれ以上超えて伸びるように合成される。各オリゴヌクレオチド対の一本鎖末端は、別のオリゴヌクレオチド対の一本鎖末端とアニールするようにデザインする。オリゴヌクレオチド対をアニールさせ、次に、一本鎖の付着末端を介してこれらの二本鎖断片のうちおよそ5~6つを一緒にアニールさせてから、それらを一緒にライゲートし、標準的な細菌クローニングベクター、例えばThermo Fisher Scientific Incから入手可能なTOPO(登録商標)ベクターにクローニングする。次に、この構築物を標準的方法によってシーケンシングする。80~90塩基対の断片が5~6つ一緒にライゲートされた断片(すなわち約500塩基対の断片)からなる、こうした構築物をいくつか調製することで、一連のプラスミド構築物において所望の配列全体が表されるようにする。次に、これらのプラスミドのインサートを適切な制限酵素で切断し、一緒にライゲートして、最終構築物を形成する。次に、最終構築物を標準的な細菌クローニングベクターにクローニングし、シーケンシングする。更なる方法は、当業者にはすぐに明らかになるであろう。加えて、遺伝子合成は商業的に容易に利用可能である。
【0030】
本明細書に記述される療法の目標は、血清銅レベルを25%以上低下させる機能的なATP7B酵素をもたらすことである。一実施形態では、24時間あたり3~8μmol以下の尿中銅排泄量が望ましい。
【0031】
本明細書に記述される療法の一次/二次目標としては、次のものが挙げられるが、これらに限定されない。
・血清セルロプラスミン非結合銅(NCC)の正常化(<150μg/L)
・血清アミノトランスフェラーゼの正常化(肝臓生化学検査、ALT/AST)
・尿中Cuの正常化(<40μg/24時間(0.6μmol/24時間)ULN)
・血清セルロプラスミンの正常化(>200mg/L)[不定であってよい]
・医師の全般的印象(Clinician Global Impression、CGI)スケールの改善(1:重症度&2:全般的改善)
・AEの発生率
探索的:
65Cu、質量分析により検出することができる銅の非放射性同位体
・IQ、認知神経科学的機能、及び精神医学的機能の改善(Unified Wilson’s Disease Rating Scale(UWDRS)& Mini International Neuropsychiatric Interview(M.I.N.I.))、及び
・PRO(EQ5D、MMAS-8、TSQM)。
【0032】
一実施形態において、「対象」または「患者」は、上述のようにWDを有する哺乳動物対象である。いかなる重症度のWDを有する患者も、意図される対象であることが意図される。
【0033】
5.1.1.2.rAAVベクター
ATP7Bは肝臓で天然に発現するため、肝臓への指向性を示すAAVを使用することが望ましい。一実施形態において、カプシドを供給するAAVは、AAV8である。別の実施形態では、カプシドを供給するAAVは、AAVrh.10である。更に別の実施形態では、カプシドを供給するAAVは、クレードEのAAVである。このようなAAVに
は、rh.2;rh.10;rh.25;bb.1、bb.2、pi.1、pi.2、pi.3、rh.38、rh.40、rh.43、rh.49、rh.50、rh.51、rh.52、rh.53、rh.57、rh.58、rh.61、rh.64、hu.6、hu.17、hu.37、hu.39、hu.40、hu.41、hu.42、hu.66、及びhu.67が含まれる。このクレードは、改変されたrh.2、改変されたrh.58、及び改変されたrh.64を更に含む。参照により本明細書に組み込まれているWO2005/033321を参照されたい。しかしながら、肝臓指向性のあるいくつかのrAAVベクターのうち、いずれを使用してもよい。
【0034】
下記の実施例に記述される特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターは、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75と呼ばれるチロキシン結合グロブリン(TBG-S1)プロモーターの制御下でhATP7B導入遺伝子を発現するAAV8ベクターである。外部のAAVベクター成分は、VP1、VP2、及びVP3の3種のAAVウイルスタンパク質の1:1:10の比における60個のコピーからなる、血清型8、T=1の正二十面体カプシドである。このカプシドは、一本鎖DNA rAAVベクターゲノムを含有する。
【0035】
一実施形態において、rAAV.hATP7Bゲノムは、2つのAAV逆位末端リピート(ITR)に挟まれたhATP7B導入遺伝子を含有する。一実施形態において、hATP7B導入遺伝子は、エンハンサー、プロモーター、hATP7Bコーディング配列、及びポリアデニル化(ポリA)シグナルのうちの1つ以上を含む。これらの制御配列は、hATP7B遺伝子配列に「作動可能に連結している」。これらの配列を含有する発現カセットは、ウイルスベクターの産生に使用されるプラスミドに、工学操作によって載せてもよい。
【0036】
ITRは、ベクター産生中のゲノムの複製及びパッケージングに関与する遺伝子エレメントであり、rAAVを生成するために必要な唯一のウイルスシスエレメントである。発現カセットをAAVウイルス粒子中にパッケージングするために必要な最小限の配列はAAV 5’ITR及び3’ITRであり、これらは、カプシドと同じAAV起源をもっていてもよいし、異なるAAV起源をもっていてもよい(AAVシュードタイプを産生するため)。一実施形態では、AAV2由来のITR配列、またはその欠失バージョン(ΔITR)が使用される。しかしながら、他のAAV源に由来するITRを選択してもよい。ITRの源がAAV2に由来し、AAVカプシドが別のAAV源に由来する場合、結果として生じるベクターは、シュードタイプ型と呼ばれる場合がある。典型的には、AAVベクターの発現カセットは、AAV 5’ITR、hATP7Bコーディング配列及び任意の調節配列、及びAAV 3’ITRを含む。しかしながら、これらのエレメントの他の構成が好適な場合がある。D配列及び末端分解部位(trs)が欠失している、ΔITRと呼ばれる5’ITRの短縮バージョンが記述されている。他の実施形態では、完全長のAAV 5’ITR及び3’ITRが使用される。一実施形態において、5’ITRは、配列番号14に示されているものである。一実施形態において、3’ITRは、配列番号15に示されているものである。
【0037】
一実施形態において、発現制御配列は、1つ以上のエンハンサーを含む。一実施形態では、配列番号4に示されているEn34エンハンサー(ヒトアポリポタンパク質肝臓制御領域の34bpコアエンハンサー)が含まれる。別の実施形態では、EnTTR(トランスサイレチンの100bpエンハンサー配列)が含まれる。このような配列は、配列番号5に示されている。参照により本明細書に組み込まれている、Wu et al,Molecular Therapy,16(2):280-289,Feb.2008を参照されたい。更に別の実施形態では、α1ミクログロブリン/ビクニン前駆体エンハンサーが含まれる。更に別の実施形態では、ABPS(α1ミクログロブリン/ビクニン前駆体
[ABP]の100bpの遠位エンハンサーが42bpに短縮されたバージョン)エンハンサーが含まれる。このような配列は、配列番号6に示されている。更に別の実施形態では、ApoEエンハンサーが含まれる。このような配列は、配列番号7に示されている。別の実施形態では、2つ以上のエンハンサーが存在する。このような組み合わせは、本明細書に記述されるエンハンサーのうちのいずれかの2つ以上のコピー、及び/または2つ以上のタイプのエンハンサーを含み得る。
【0038】
hATP7Bコーディング配列の発現は、肝臓特異的プロモーターから駆動される。ATP7B導入遺伝子のサイズが理由で、比較的小さいサイズのプロモーターの使用が望ましい。本明細書に記述される、説明に役立つプラスミド及びベクターは、改変されたチロキシン結合グロブリン(TBG-S1)プロモーター(配列番号8)を使用する。別の実施形態では、TBGプロモーターが使用される。TBGプロモーター配列は、配列番号9に示されている。代替的には、他の肝臓特異的プロモーター、例えば配列番号11に示されるトランスサイレチンプロモーター(TTRプロモーター)、または配列番号11のnt21~nt190に示される改変されたトランスサイレチンプロモーター(mTTRプロモーター)を使用してもよい。別の好適なプロモーターは、アルファ1抗トリプシン(A1AT)、またはその改変バージョン(この配列は配列番号10に示されている)である。種々のプロモーター及びエンハンサーの組み合わせについては、以下の実施例で詳解する。
【0039】
他の好適なプロモーターとしては、ヒトアルブミン(Miyatake et al.,J.Virol.,71:5124 32(1997))、humAlb;肝臓特異的プロモーター(LSP)、及びB型肝炎ウイルスコアプロモーター(Sandig et
al.,Gene Ther.,3:1002-9(1996)が挙げられる。例えば、参照により組み込まれているThe Liver Specific Gene Promoter Database,Cold Spring Harbor,http://rulai.schl.edu/LSPDrulai.schl.edu/LSPDを参照されたい。さほど望ましくはないが、他のプロモーター、例えばウイルスプロモーター、構成的プロモーター、調節可能プロモーター[例えば、WO2011/126808及びWO2013/04943を参照されたい]、または生理学的合図に応答するプロモーターを使用してもよく、本明細書に記述されるベクターにおいて利用してもよい。
【0040】
発現カセット及び/またはベクターは、プロモーターに加えて、他の適切な転写開始配列、終止配列、エンハンサー配列、及び効率的なRNAプロセシングシグナルを含有してもよい。このような配列には、スプライシングシグナル及びポリアデニル化(ポリA)シグナル、発現を増強する調節エレメント(例えばWPRE)、細胞質mRNAを安定化させる配列、翻訳効率を増強する配列(すなわちKozakコンセンサス配列)、タンパク質安定性を増強する配列、そして所望であれば、コードされる産物の分泌を増強する配列が含まれる。一実施形態では、KOZAK配列が含まれる。一実施形態では、hATP7B mRNA転写物の終止を媒介するため、ポリアデニル化(ポリA)シグナルが含まれる。本明細書において有用なポリAシグナルは、配列番号13に示されている約75bpのサイズの人工ポリA(PA75)である。他の好適なポリA配列の例としては、例えば、とりわけウシ成長ホルモン(配列番号12)、SV40、ウサギベータグロビン、及びTKポリAが挙げられる。
【0041】
一実施形態において、調節配列は、rAAVベクターゲノム全体が約3.0~約5.5キロベースのサイズになるように選択される。一実施形態では、rAAVベクターゲノムが天然AAVゲノムのサイズに近似することが望ましい。したがって、一実施形態において、調節配列は、rAAVベクターゲノム全体が約4.7kbのサイズになるように選択される。別の実施形態では、rAAVベクターゲノム全体は、約5.2kb未満のサイズ
である。更なる実施形態において、rAAVベクターゲノム全体は、約5.1kbまたは約5.0kbのサイズである。ベクターゲノムのサイズは、プロモーター、エンハンサー、イントロン、ポリAなどを含む調節配列のサイズに基づいて操作され得る。参照により本明細書に組み込まれている、Wu et al,Mol Ther,Jan 2010
18(1):80-6を参照されたい。
【0042】
一実施形態において、rAAVベクターゲノムは、配列番号23のnt1~nt5134、配列番号24のnt1~nt5056、配列番号25のnt1~nt5064、配列番号26のnt1~nt5068、配列番号27のnt1~nt5048、配列番号28のnt1~nt4284、配列番号29のnt1~nt4677、配列番号30のnt1~nt4978、配列番号31のnt1~nt4876、配列番号32のnt1~nt4945、配列番号33のnt1~nt3628、配列番号34のnt1~nt4021、または配列番号35のnt1~nt4627を含む。
【0043】
rAAVを生成するための例示的な産生プラスミドは、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、及び配列番号35に示されている。
【0044】
5.1.2.組成物
一実施形態において、rAAV.hATP7Bウイルスは、水性担体、賦形剤、希釈剤、またはバッファーを含む医薬組成物で提供される。一実施形態において、バッファーはPBSである。特定の実施形態では、rAAV.hATP7B製剤は、TMN200(200mM塩化ナトリウム、1mM塩化マグネシウム、20mMトリス、pH8.0)中に0.001%Pluronic F-68を含有する水溶液に懸濁した、有効量のrAAV.hATP7Bベクターを含有するサスペンションである。しかしながら、緩衝食塩水、界面活性剤、及び塩化ナトリウム(NaCl)約100mM~塩化ナトリウム約250mMと同等のイオン強度に調整した生理的に適合性がある塩もしくは塩の混合物、または同等のイオン濃度に調整した生理的に適合性がある塩のうちの1つ以上を含むものをはじめとする、種々の好適な溶液が公知である。
【0045】
例えば、本明細書において提示されるサスペンションは、NaCl及びKClの両方を含有し得る。pHは、6.5~8.5、または7~8.5、または7.5~8の範囲内であり得る。好適な界面活性剤または界面活性剤の組み合わせは、ポロキサマー、すなわち、中央にある疎水性のポリオキシプロピレン鎖(ポリ(プロピレンオキシド))が2つの親水性のポリオキシエチレン鎖(ポリ(エチレンオキシド))に挟まれた構成をしている非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール、及びポリエチレングリコールの中から選択され得る。一実施形態において、製剤はポロキサマーを含有する。これらのコポリマーは、一般的に、「P」の文字(ポロキサマーを表す)の後に3つの数字が続く名称を与えられる。最初の2つの数字に100をかけると、ポリオキシプロピレンコアのおよその分子質量が求められ、最後の数字に10をかけると、ポリオキシエチレン含有率が求められる。一実施形態では、ポロキサマー188が選択される。界面活性剤は、サスペンションの最大約0.0005%~約0.001%の量で存在してよい。別の実施形態では、ベクターは、180mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロキサマー188を含有する水溶液(pH7.3)に懸濁される。
【0046】
一実施形態において、製剤は、ヒト対象に使用するのに好適であり、静脈内投与される
。一実施形態において、製剤は、ボーラス注射により、末梢静脈を介して送達される。一実施形態において、製剤は、約10分(±5分)にわたる注入により、末梢静脈を介して送達される。一実施形態において、製剤は、約20分(±5分)にわたる注入により、末梢静脈を介して送達される。一実施形態において、製剤は、約30分(±5分)にわたる注入により、末梢静脈を介して送達される。一実施形態において、製剤は、約60分(±5分)にわたる注入により、末梢静脈を介して送達される。一実施形態において、製剤は、約90分(±10分)にわたる注入により、末梢静脈を介して送達される。しかしながら、必要または所望であれば、この時間を調整してよい。任意の好適な方法またはルートを使用して、本明細書に記述されるAAV含有組成物を投与し、場合によっては、本明細書に記述されるhATP7BのAAV媒介性送達と併せて、他の活性薬または療法薬を共投与することができる。投与ルートとしては、例えば、全身、経口、吸入、鼻腔内、気管内、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、及び他の非経口投与ルートが挙げられる。
【0047】
一実施形態において、製剤は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、M.Lock et al,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14に記述されているように、oqPCRまたはデジタルドロップレットPCR(ddPCR)によって測定した場合、例えば、約1.0×1011GC/kg(患者の体重1キログラムあたりのゲノムコピー)~約1×1014GC/kg、約5×1011GC/kg(患者の体重1キログラムあたりのゲノムコピー)~約3×1013GC/kg、または約1×1012~約1×1014GC/kgを含有し得る。一実施形態において、rAAV.hATP7B製剤は、例えば、M.Lock et al(上記)に記述されているように、oqPCRまたはデジタルドロップレットPCR(ddPCR)によって測定した場合、少なくとも1×1013ゲノムコピー(GC)/mLまたはそれ以上を含有するサスペンションである。
【0048】
患者に投与されるAAV.hATP7Bの用量から空のカプシドが除去されることを確実にするために、空のカプシドは、ベクター精製プロセス中に、例えば、本明細書において詳解される方法を使用して、ベクター粒子から分離される。一実施形態において、パッケージングされたゲノムを含有するベクター粒子は、参照により本明細書に組み込まれている「Scalable Purification Method for AAV8」と題するWO2017/100676に記述されているプロセスを使用して、空のカプシドから精製される。簡潔に述べると、清澄化され濃縮されたrAAV産生細胞培養物の上清から、ゲノムを含有するrAAVベクター粒子を選択的に捕捉して単離する、2ステップの精製スキームが記述されている。このプロセスでは、高い塩濃度で行われる親和性捕捉法の後に、高いpHで行われるアニオン交換樹脂法を利用して、rAAV中間体を実質的に含まないrAAVベクター粒子をもたらす。他のカプシドを有するベクターのために同様の精製法を使用してもよい。
【0049】
いかなる従来の製造プロセスを利用してもよいが、本明細書(及びWO2017/100676)に記述されるプロセスは、50~70%の粒子がベクターゲノムを有する、すなわち、完全粒子50~70%のベクター調製物をもたらす。したがって、1.6×1012GC/kgの例示的な用量では、総粒子用量は2.3×1012~3×1012の粒子となる。別の実施形態では、提唱される用量は、1/2対数高いか、または5×1012GC/kgであり、総粒子用量は7.6×1012~1.1×1013の粒子となる。一実施形態において、製剤は、「空」対「完全」比が1以下、好ましくは0.75未満、より好ましくは0.5、好ましくは0.3未満のrAAVストックを特徴とする。
【0050】
rAAV8粒子(パッケージングされたゲノム)のストックまたは調製物は、ストック
中のrAAV8粒子が、ストック中のrAAV8の少なくとも約75%~約100%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも99%であり、「空のカプシド」が、ストックまたは調製物中のrAAV8の約1%未満、約5%未満、約10%未満、約15%未満であるとき、空のAAVカプシド(及び他の中間体)を「実質的に含まない」。
【0051】
概して、空のカプシド及びパッケージングされたゲノムを含むAAVベクター粒子についてアッセイするための方法は、当技術分野において知られてきた。例えば、Grimm
et al.,Gene Therapy(1999)6:1322-1330、Sommer et al.,Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性カプシドについて試験するには、その方法は、3つのカプシドタンパク質を分離させることができる任意のゲル、例えば、バッファー中に3~8%トリス-アセテートを含有する勾配ゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に、処置済みAAVストックを供し、次に、試料物質が分離されるまでゲルを泳動し、ナイロンまたはニトロセルロース膜、好ましくはナイロンにゲルをブロッティングすることを含む。次に、抗AAVカプシド抗体、好ましくは抗AAVカプシドモノクローナル抗体、最も好ましくはB1抗AAV-2モノクローナル抗体を、変性カプシドタンパク質に結合する一次抗体として使用する(Wobus et al.,J.Virol.(2000)74:9281-9293)。次に、一次抗体に結合し、一次抗体との結合を検出するための手段を含む二次抗体、より好ましくはそれに共有結合した検出分子を含有する抗IgG抗体、最も好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼに共有結合によって連結したヒツジ抗マウスIgG抗体を使用する。一次抗体と二次抗体との間の結合を半定量的に決定するために、結合を検出するための方法、好ましくは、放射性同位体の放出、電磁放射、または比色変化を検出することができる検出方法、最も好ましくは化学発光検出キットを使用する。例えば、SDS-PAGEの場合、カラム画分から試料を取り、還元剤(例えばDTT)を含有するSDS-PAGEローディングバッファー中で加熱してもよい。カプシドタンパク質は、プレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えば、Novex)で分解した。製造元の説明に従ってSilverXpress(Invitrogen,CA)を使用し、銀染色を行ってもよい。一実施形態において、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は、定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)によって測定することができる。試料を希釈し、DNase I(または別の好適なヌクレアーゼ)で消化して、外来性DNAを除去する。ヌクレアーゼの失活後、試料を更に希釈し、複数のプライマーと、これらのプライマー間のDNA配列に対して特異的なTaqMan(商標)蛍光発生プローブとを使用して増幅した。各試料について、規定の蛍光レベルに達するために必要なサイクル数(閾値サイクル、Ct)を、Applied BiosystemsのPrism 7700 Sequence Detection Systemで測定する。AAVベクターに含まれるものと同一の配列を含有するプラスミドDNAを用い、Q-PCR反応の標準曲線を生成する。試料から得られたサイクル閾値(Ct)を使用して、ベクターゲノム力価をプラスミドの標準曲線のCt値に対して正規化することにより、これを決定する。デジタルPCRに基づくエンドポイントアッセイを使用することもできる。
【0052】
一態様において、広域スペクトルセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼK(例えばQiagenから市販されているもの)を利用する、最適化されたq-PCR法が本明細書において提示される。より特定すると、最適化されたqPCRゲノム力価アッセイは、DNase I消化後に試料をプロテイナーゼKバッファーで希釈し、プロテイナーゼKで処置してから熱失活することを除いては、標準的アッセイと同様である。好適には、試料サイズと等しい量のプロテイナーゼKバッファーで試料を希釈する。プロテイナーゼKバッファーは、2倍以上に濃縮してよい。典型的には、プロテイナーゼK処置は約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mLから約1mg/mLまで様々であり得る。処置ステップは約55℃で約15分間にわたって実施されるのが一般的だが、より低い温度(
例えば、約37℃~約50℃)でより長い期間(例えば、約20分間~約30分間)にわたって、またはより高い温度(例えば、最高約60℃)でより短い期間(例えば、約5~10分間)にわたって行ってもよい。同様に、熱失活は約95℃で約15分間にわたるのが一般的だが、温度を低下させ(例えば、約70~約90℃)、時間を延長してもよい(例えば、約20分間~約30分間)。次に、標準的アッセイにおいて説明されるように、試料を希釈し(例えば1000倍)、TaqMan解析に供する。
【0053】
更に、または代替的には、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を使用してもよい。例えば、一本鎖及び自己相補的なAAVベクターゲノムの力価をddPCRによって決定するための方法が記述されている。例えば、M.Lock et al,Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0054】
5.2 患者集団
上記で詳解したように、いかなる重症度のWDを有する対象も、本明細書に記述される組成物及び方法の意図されるレシピエントである。
【0055】
対象は、各自の担当医の裁量にて、遺伝子療法処置の前及びそれと同時に、各自の標準治療処置(複数可)(例えば、銅の少ない食事;D-ペニシラミン及びトリエンチンなどのキレート剤での処置。他の薬剤としては、ジメルカプトコハク酸ナトリウム、ジメルカプトコハク酸、亜鉛、及びテトラチオモリブデートが挙げられる)の継続が許容され得る。代替策では、医師が、遺伝子療法処置を供与する前に標準治療療法を停止し、場合により、遺伝子療法を供与した後に併用療法として標準治療処置を再開することを選ぶ場合がある。
【0056】
遺伝子療法レジメンの望ましいエンドポイントは、血清銅レベルを25%以上低下させる機能的なATP7B酵素をもたらす。一実施形態では、24時間あたり3~8μmol以下の尿中銅排泄量が望ましい。
【0057】
ウィルソン病を有し得る患者を調査するためには、セルロプラスミン非結合銅(NCC;別称「遊離銅」または銅指数)、24時間尿中銅、肝臓銅、及び遺伝子突然変異試験をはじめとする多くの試験を使用することができる。銅レベルの測定のための方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、McMillin et al,Am J
Clin Pathol.2009;131(2):160-165に記述されているように、当技術分野で公知である。一実施形態において、患者は、単独かつ/または補助的処置の使用と組み合わせたrAAV.hATP7Bを用いた処置の後に、所望の循環ATP7Bレベルを達成する。
【0058】
5.3.投薬及び投与ルート
一実施形態において、rAAV.hATP7Bベクターは、患者ごとに単回用量として送達される。一実施形態において、対象には、最小有効量(MED)(本明細書の実施例に記述される前臨床研究によって決定される)が送達される。本明細書において使用される場合、MEDとは、血清銅レベルを25%以上低下させる機能的なATP7B酵素をもたらすのに必要なrAAV.hATP7Bの用量を指す。
【0059】
従来通り、ベクター力価は、ベクター調製物のDNA含有量に基づいて決定される。一実施形態では、実施例に記述される定量的PCRまたは最適化された定量的PCRを使用して、rAAV.hATP7Bベクター調製物のDNA含有量を決定する。一実施形態では、上述のデジタルドロップレットPCRを使用して、rAAV.hATP7Bベクター
調製物のDNA含有量を決定する。一実施形態において、投与量は、約1×1011ゲノムコピー(GC)/体重1kg~約1×1013GC/kg(両終点を含む)である。一実施形態において、投与量は5×1011GC/kgである。別の実施形態では、投与量は5×1012GC/kgである。特定の実施形態では、患者に投与されるrAAV.hATP7Bの用量は、少なくとも5×1011GC/kg、1×1012GC/kg、1.5×1012GC/kg、2.0×1012GC/kg、2.5×1012GC/kg、3.0×1012GC/kg、3.5×1012GC/kg、4.0×1012GC/kg、4.5×1012GC/kg、5.0×1012GC/kg、5.5×1012GC/kg、6.0×1012GC/kg、6.5×1012GC/kg、7.0×1012GC/kg、または7.5×1012GC/kgである。また、複製欠損ウイルス組成物は、約1.0×10GC~約1.0×1015GCの範囲内の量の複製欠損ウイルスを含有するような投与量単位で製剤化され得る。本明細書において使用される場合、「投与量」という用語は、処置の過程において対象に送達される総投与量、または(複数のうちの)単一の投与において送達される量を指す場合がある。
【0060】
一部の実施形態では、rAAV.hATP7Bは、例えば低銅食、あるいはD-ペニシラミン、トリエンチン、ジメルカプトコハク酸ナトリウム、ジメルカプトコハク酸、亜鉛、及び/またはテトラチオモリブデートの投与といった、WDを処置するための1つ以上の療法と組み合わせて投与される。
【0061】
5.4.臨床的目標の測定
処置の効力の測定値は、ATP7B活性及びまたはセルロプラスミン非結合銅(NCC;別称「遊離銅」または銅指数)、24時間尿中銅、または肝臓銅レベルによって決定される導入遺伝子の発現及び活性によって測定することができる。効力の更なる評価は、食事性の銅に対する耐性の臨床的評価によって決定することができる。
【0062】
本明細書において使用される場合、本明細書におけるrAAV.hATP7Bベクターは、セルロプラスミン非結合銅、24時間尿中銅、及び/または肝臓銅を25%以上低下させるATP7B活性を達成するのに十分なレベルのATP7Bを患者が発現する場合、患者の欠損したATP7Bを活性ATP7Bで「機能的に置き換える」または「機能的に補う」。
【0063】
以下の実施例は単なる説明であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0064】
以下の実施例は単なる説明であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0065】
実施例1:hATP7Bを含有するAAVベクター(AAV.hATP7Bco)
TBG-S1プロモーター及びEn34エンハンサーの制御下にあるコドン最適化されたヒトhATP7B cDNA(hATP7Bco)を有するAAV8ベクターにより、例示的な遺伝子療法ベクターAAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75を構築した(図1)。ATP7B発現カセットは、AAV2由来の逆位末端リピート(ITR)に挟まれ、Kozakコンセンサス配列及びPA75ポリ(A)シグナルを更に含んだ。AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75ゲノムの配列は、配列番号24のnt1~nt5056に示されている。
【0066】
肝細胞特異的TTRプロモーターをTBG-S1の代わりに用い、ベクターAAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75を上述のように構築した。AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75の配列は、配列番号26のnt1~nt5068に示されている。
【0067】
TBG-S1の代わりに、配列番号11のnt21~nt190として示されている配列を有する改変されたTTRプロモーターを利用して、ベクターAAV.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75を構築した。AAV.En34.mTTR.hATP7Bco.PA75の配列は、配列番号27のnt1~nt5048に示されている。
【0068】
AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75ベクターのATP7B発現カセットは、Kozakコンセンサス配列及びPA75ポリ(A)シグナルと共に、EnTTRエンハンサー及びTTRプロモーターによって駆動された。AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75の配列は、配列番号23のnt1~nt5134に示されている。
【0069】
AAV8.EnABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75ベクターは、Kozakコンセンサス配列及びPA75ポリ(A)シグナルと共に、ABP-S2(ABPSエンハンサー)エンハンサー及びTBG-S1プロモーターの制御下で、コドン最適化されたヒトATP7B cDNA(hATP7Bco)をコードする。AAV8.ABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75の配列は、配列番号25のnt1~nt5064に示されている。
【0070】
更に、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1Del).PA75(配列番号32のnt1~nt4945に示されている通り)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD2Del).PA75(配列番号31のnt1~nt4876に示されている通り)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD3Del).PA75(配列番号30のnt1~nt4978)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-2Del).PA75(配列番号35のnt1~nt4627)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-4Del).PA75(配列番号34のnt1~nt4021)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-5Del).PA75(配列番号33のnt1~nt3628)、AAV8.TBG.hATP7Bco(MBD1-4Del).PA75(配列番号29のnt1~nt4677)、及びAAV8.TBG.hATP7Bco(MBD1-5Del).PA75(配列番号28のnt1~nt4284)を含むトランケート型hATP7Bcoベクターを、Kozakコンセンサス配列、PA75ポリ(A)シグナル、ならびに表2に示したプロモーター及びエンハンサーを有する、示されているトランケート型hATP7Bcoとしてデザインし、構築し、産生した。
【0071】
簡潔に述べると、縮小サイズのトランスサイレチンエンハンサー及びプロモーターからコドン最適化バージョンのhATP7B(hATP7Bco)を発現するプラスミドを、AAV8ウイルスカプシドにパッケージングした。
【0072】
このベクターは、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Mizukami,Hiroaki,et al.A Protocol for AAV vector
production and purification.Diss.Division of Genetic Therapeutics,Center for MolecularMedicine,1998に記述されている、293細胞における従来のトリプルトランスフェクション技術を使用して調製した。全てのベクターは、これまでに記述されているように[Lock,M.,et al,Hum Gene Ther,21:1259-1271(2010)]、University of PennsylvaniaにてVector Coreによって産生された。
【表2】
【0073】
実施例2:ウィルソン病のマウスモデル
ウィルソン病の処置のための遺伝子療法アプローチを開発する前に、疾患表現型の動物モデルの十分な特性評価を行わなければならない。本明細書に記述される研究は、txマウス系統、ならびに全てのAtp7b KOマウスを出生時から哺育した後の銅代謝及び疾患病態の評価の両方に関する、初めての詳細な特性評価である。罹患した母の乳腺におけるAtp7b欠損に起因して離乳前にもたらされる相反する銅欠乏症がない状態で、疾患進行のタイムラインを正確に決定した。Atp7b KOマウスは出生時から肝臓内に銅を蓄積させ、2月齢までに重度の銅の蓄積が明らかになり、肝疾患を併発する。
【0074】
単一の臓器に影響を及ぼす単一遺伝子性疾患は、関連する組織学的病変が比較的少ない場合は特に、遺伝子療法アプローチのための魅力的な標的である。しかしながら、肝臓に影響を及ぼす代謝障害では、多くの場合、疾患の結果として肝実質が重度に損傷し得る。この代表例のうちの1つが、ウィルソン病タンパク質(銅輸送P型ATPase、Atp7b)の突然変異によって引き起こされる常染色体劣性疾患のウィルソン病である。機能的なAtp7bの欠如は、肝臓及び他の組織における銅の蓄積をもたらし、これが神経症状または精神症状を伴う肝疾患として顕在化する。ウィルソン病は、銅の吸収を低減させること、またはキレート療法を使用して身体から過剰な銅を除去することによって処置され得るが、多くの他の代謝障害に関しては、肝臓移植によって疾患に関連する遺伝的欠損を是正し、また機能不全の臓器を置き換えることもできる。
【0075】
ウィルソン病は1:30,000の人々に影響を及ぼし、様々な疾患症状及び進行を示す。キレート化及び肝臓移植に代わる新たな治療代替策の開発を可能にするためには、この疾患の信頼できる動物モデルの十分な特性評価を行わなければならない。Long-Evans Cinnamon(LEC)ラット及び種々のトランスジェニックマウス系統を含め、いくつかのラット及びマウスのウィルソン病動物モデルがこれまでに報告されている(1~6)。マウスモデルにおけるウィルソン病の表現型の評価のために、我々は、Jackson Labs(2)から入手可能な毒性乳マウス(tx)を選択した。これらのマウスは、コードされるタンパク質の第2の推定膜通過ドメイン内に位置し、機能不全のAtp7bタンパク質をもたらす、Atp7b遺伝子のGly712Aspミスセンス突然変異を有する。
【0076】
この系統の元々の名前である毒性乳マウスは、Atp7bが肝臓に加えて乳腺組織でも
発現することの結果である。したがって、このモデルにおいて毒性乳の表現型が「自然発生する」のは、ウィルソン病の直接的結果である(7)。Atp7bタンパク質が欠損しているため、銅が母から母乳に輸送されることができない(8)。罹患した母の乳を飲む罹患した子は、離乳して通常のマウス飼料を摂取するまで、その食餌から銅を一切受け取ることができないため、逆形態のウィルソン病(銅欠乏症)を呈する。この逆形態のウィルソン病は、これまでに記述されている白い毛色及び精神異常の原因でもある(9)。ここで我々は、このマウスモデルをtxとしてではなくAtp7bノックアウト(KO)として記述することにする。その理由は、Atp7bタンパク質が機能不全であること、そして、これらの研究で使用した全てのマウスを、毒性乳の問題を軽減するために生後72時間以内にBalb/c乳母に哺育させたという事実である。したがって、ここで記述されるウィルソン病表現型の特性評価は、離乳前の銅欠乏症に関連するあらゆる潜在的な問題から切り離されたものである。
【0077】
動物手技は全て、University of PennsylvaniaのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により認可されたプロトコールに従って行った。
【0078】
ATP7B KOマウスは、機能的な銅輸送ATPaseを発現しないため(Lutsenko et al,Function and Regulation of Human Copper-Transporting ATPases,Physiological Reviews,87(3):1011-46(July 2007)、ウィルソン病のマウスモデルとした。ATP7B KOマウスにおけるウィルソン病の進行を評価するため、自然史研究を行った。この研究は、2段階で行った。第1段階では、肝疾患の評価のために、マウスを様々な齢で剖検した。第2段階では、いくつかのバイオマーカーの評価のために、マウスを9月齢まで追跡した。
【0079】
Atp7bヘテロ接合性マウス及びKOマウスを、2月齢から7か月にわたり、尿中及び血清中の銅レベルについて、それぞれ毎週及び隔週ベースで評価した(図3A及び3B)。肝臓内のAtp7bは、銅を胆汁に排出し、糞便で排泄されるようにする(7)。Atp7bの非存在下では、銅の排泄は尿路を介して起こる。尿中銅レベルは、研究した両方の遺伝子型において初めは同様であったが、3月齢において、Atp7b KOマウスの尿中の銅レベルは、ヘテロ接合性動物と比較して上昇し始めた(図3A)。研究終了時の尿中銅レベルは、平均して、ヘテロ接合性マウスでは0.18μg/g、Atp7b KOマウスでは1.08μg/gであった。2月齢時のAtp7b KOマウスの血清銅レベルは、0.47μg/gと比較して0.07μg/gで、ヘテロ接合性動物と有意差があった(スチューデントt検定によりp<0.0001、図3B)。3~4月齢においてAtp7b KOマウスの血清銅レベルは上がり始め、ヘテロ接合性マウスのそれと同等のレベルに達した。雄マウスまたは雌マウスの尿中銅レベルまたは血清銅レベルのいずれにも、差はほとんどまたは全くなかった。第1段階の結果は、肝臓における銅の蓄積が出生時から観察されたことを示す。Atp7b KOマウスが2月齢に達したとき、Timm法による銅染色により、肝臓における重度の銅の蓄積が明らかになった(図4)。
【0080】
肝臓の代謝に影響を及ぼす単一遺伝子性疾患は、肝臓病変を伴うものと伴わないものとの2つのサブカテゴリーに分類することができる。ウィルソン病患者は、通常は硬変として顕在化する中等度から重度の肝疾患を呈する(13、14)。したがって我々は、このウィルソン病マウスモデルにおいて肝臓病態が発生する時間的過程を評価しようとした。経時的な肝臓病変の評価のため、2月齢、3月齢、4月齢、5月齢、9月齢、10月齢、及び12月齢でAtp7b KOマウスを剖検した(図5)。肝臓の切片をH&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織病理を評価した(図3C)。単細胞壊死及び炎症を伴うわずかな肝細胞の肥大及び変性が、2月齢からAtp7b KOマウスに
存在した。肝細胞の肥大、変性、及び壊死の重症度は、6月齢までに最高になり、その後は一定の状態を保った。評価した他のパラメータは、炎症、胆管過形成、及び卵形細胞過形成を含め、2~3月齢から7月齢まで経時的に増加した。肝臓トランスアミナーゼのALT及びASTは、2月齢時の正常値から、10か月時点でALT及びASTがそれぞれ199U/l及び381U/lと、並行して増加した(表3)。10月齢時の肝臓損傷の程度も、血清総ビリルビンレベルが2.5mg/dlで突然上がったことから明らかであった。このマウスモデルでは、肝臓病変に加えて、肝結節性再生の領域が6月齢から明らかであった(一例が図5にアスタリスクによって示されている)。これはおそらく、肝疾患の重症度のため、驚くに当たらない。
【表3】
【0081】
肝臓切片の線維症及び銅の蓄積についても、それぞれSirius Red染色及びTimm染色によって評価した(図5)。Atp7b KOマウスにおいて、限局性または多巣性の門脈周囲線維症が3月齢までに見られた。これは、7月齢までには構造的破壊を伴うびまん性架橋線維症へと急速に進行した。肝臓病変の発生は、Timm染色(図5)によって見られるように、肝臓における大量の銅の蓄積に起因したと思われる。2月齢からAtp7b KOマウスの肝臓は、黒い染色によって示されるように、銅で飽和した状態になった。肝臓における銅の蓄積は、機能的なAtp7bの非存在下において胆汁への銅の排出が妨げられることに起因して起こる。肝臓内の銅のレベルは、肝細胞の損傷及び血清への銅の放出がおそらく原因で、経時的に低下した。このことはこれまでに示されており、ここで銅値は、亜広範壊死または広範壊死に伴って著しく低減し、再生及び線維症に伴って更に一層低減した(1、15~17)。線維性結合組織及び再生する肝細胞は、過剰濃度の銅を含有しない(18)。
【0082】
ATP7B KOマウスの尿中の銅レベルもモニタリングした。自然史研究で試料を毎週収集し、次に誘導結合型プラズマ質量分析を行って、銅濃度を評価した。結果は、ヘテロ接合性同腹仔が低い銅レベルを維持した一方で、Atp7b KOマウスは、およそ第3週を起点として過剰な銅の尿への流出を呈し、その後、観察期間にわたって銅の尿中濃度が着実に上昇した(図2A、3A)ことを示しており、ウィルソン病患者に観察される高い尿中銅排泄率を表している。
【0083】
Atp7b KOマウスの血清を隔週で収集し、誘導結合型プラズマ質量分析によって銅濃度を評価した。結果は、ヘテロ接合性同腹仔と比較して2月齢まで非常に低い血清銅レベルを示し、Atp7b KOマウスの組織から銅を抽出して血液に送る能力の不全を示唆した。Atp7b KOマウスが3~4月齢のとき、銅の血清濃度が著しく上昇し、ヘテロ接合性同腹仔のレベルに達した(図2B、3B)。
【0084】
このAtp7b KOマウスモデルにおいて、疾患の進行は次の通りであった。Timm法による銅染色により、肝臓における重度の銅の蓄積が2月齢時に見られたが、他者がこれまでに記述しているのと同様に(1、15~17)、経時的に減少した。子の哺育によって、出生時からAtp7b KOマウスの肝臓内で銅が蓄積し、約2~3月齢で飽和レベルに達すると思われる。2月齢で肝疾患が発生した後、銅は血清中に放出され、3~4月齢までに肝細胞中の蓄積量の明らかな減少及び血清銅レベルの上昇がもたらされると思われる。この、初めは低かったレベルからヘテロ接合性マウスと同様のレベルへの血清銅レベルの上昇は、別のウィルソン病マウスモデルについてこれまでに報告されている(17)、6週齢においてAtp7b-/-系統の血清銅レベルが野生型マウスに見られるものと同様であり、44週齢までに野生型マウスよりも2~3倍高く経時的に上昇するものとは異なる。
【0085】
我々は、過剰な銅の尿への流出が約3月齢で始まることを観察したが、これも同様に、肝細胞の壊死及びその後の蓄積した銅の放出に起因する可能性がある。排泄の増加をもたらす腎臓におけるAtp7b活性の欠如(23~25)、または肝臓銅輸送体Ctr1の下方調節につながる肝臓内の銅の蓄積、及び小さな銅担体による尿中排泄(26)を含め、腎臓を介する代替的な銅の排泄機構が示唆されている。繰り返しになるが、尿中銅排泄の時間的過程は、このマウスモデルと、これまでに報告されているものとでは異なる。ここで、尿中銅排泄はヘテロ接合性マウスとAtp7b KOマウスとで初めは同様だが、研究過程の間にKOマウスでは増加する。比較すると、Atp7b-/-系統の6週齢における尿中銅レベルは野生型マウスよりも3倍高く、14~20週齢まで上昇し、その後20週齢で実質的に低下する(26)。
【0086】
肝細胞の肥大、変性、及び壊死は6月齢でピークに達し、付随すると思われる肝結節性再生の領域がこの齢以降に観察される。この再生への進行は、他のウィルソン病マウスモデルで報告されている(17)。しかしながら、他のマウスモデルとは異なり、ここで記述するAtp7b KOマウスには胆管細胞癌の証拠はなかった。3月齢までには線維症の領域が見られ、7月齢までには構造的破壊と共に経時的に重症度が急速に増加した。3~4月齢までに血清トランスアミナーゼが顕著に増加しているが、血清総ビリルビンレベルの上昇は9か月でやっと起こり始め、肝疾患の進行を示している。
【0087】
自然史研究の第2段階では、Atp7b KO同腹仔及びヘテロ接合性同腹仔を8月齢時に殺処分した。ALT、AST、及び総ビリルビンレベルを得た。図6A~6C。H&E染色の後に病理学者が組織病理をスコアリングスキームに照らして評価したものを図7に示す。図8A及び8Bにはそれぞれ、線維症スコア及びTimm染色による銅染色スコアを示してある。図9には肝臓内の銅レベルを示してある。
【0088】
実施例3:ウィルソン病のモデルにおけるAAV8.hATP7Bcoベクター
雄のAtp7b KOマウスには、AAV8.TTR.hATP7Bcoを1010GC/マウス及び1011GC/マウスでIV注射し、雌のAtp7b KOマウスには、同じベクターを10、1010、及び1011GC/マウスでIV注射した。ベクター注射後の血清銅レベルをモニタリングした(図10A及び10B)。雄Atp7b KOマウスにおける1010または1011GC/マウスの投与は、ベクター投与2週間後ま
でに、血清銅レベルを平均0.11μg/gからそれぞれ0.52μg/g及び0.34μg/gまで上昇させた(図10A)。しかしながら、雌のマウスにおける効果はこれより低かった(図10B)。ベクター投与7か月後の約9月齢時にマウスを殺処分し、肝臓銅レベルの評価のために肝臓を採取した。ヘテロ接合性マウス及びAtp7b KOマウスにおける肝臓銅レベルは、それぞれ平均して6μg/g及び222μg/gであった(図10C)。>10GC/マウスの用量におけるAAV8ベクター投与は、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較して肝臓銅レベルを著しく低下させた。しかしながら、10GC/マウスを投与した雌マウスと対照Atp7b KOマウスとの間で肝臓銅レベルに有意差はなかった。この測定では、肝臓銅レベルにヘテロ接合性マウスとの有意差がなかったことから、雌マウスにおける高いベクター用量のより強力な効果があった(図10C)。
【0089】
AAV8ベクターを投与したマウスを9月齢で剖検し、線維症及びTimm染色による銅レベルを含む銅関連肝疾患のパラメータについて肝臓を組織学的に評価した(図11)。肝臓の切片をH&Eで染色し、1~5のスコアリングシステムに従って組織学的に評価した(図12A)。肝臓銅レベルについて見られたものと同様に、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと、10GC/マウスのAAV8ベクターを投与した雌マウスとの間で、肝臓病変の有意差はなかった。軽度のカリオサイトメガリー(karyocytomegaly)(肝細胞の肥大及び変性を意味する)、軽度の炎症、及び限局性または多巣性の門脈周囲卵形細胞過形成のみを有すると観察された、1011GC/マウスを注射した雄マウスの肝臓病変では、用量依存的な減少があった。同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較して、1010及び1011GC/マウスを投与したマウスでは、肝細胞の肥大、変性/壊死、及び胆管過形成が有意に低減した(p<0.05)。炎症及び卵形細胞過形成については、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較した有意な低減は、1011GC/マウスの用量でのみ観察された(p<0.05)。組織病理学的パラメータを組み合わせ、フィッシャーの複合確率検定(Fisher’s combined
probability test)を使用して評価したとき、1010及び1011GC/マウスのいずれの投与の後にも、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較して有意差があった(p<0.0001)。
【0090】
最も高いベクター用量を受けた雄マウスも線維症を有しなかった(これはSirius
Red染色で評価した)(図11及び12B)。他の全てのベクター投与マウスに関し、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較して線維症の有意差はなかった(図12B)。しかしながら、1011GC/マウスを投与した雌マウスに見られた線維症の低減は十分であり、これらのマウスと雌Atp7bヘテロ接合性マウスとの間の肝線維症スコアにも有意差はなかった。肝臓内の銅の蓄積についてのTimm染色は、誘導結合型プラズマ質量分析によって決定された定量的肝臓銅レベルにより見られたものと同様の結果を示した(図12C)。同齢で未注射のAtp7b KOマウスと、ベクター投与群のうちのいずれとの間でも、Timm染色スコアの有意差はなかった。AAV8.hATP7Bcoベクターの効力を評価するために、Atp7b KOマウスに、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75(図21、群1)、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75(図21、群2)、AAV8.En34.TTR.hATP7Bco.PA75(図21、群3)、及びAAV8.EnABPS.TBG-S1.hATP7Bco.PA75(図21、群4)をはじめとする種々の遺伝子療法ベクターを3×1012GC/kgでi.v.投与した。ヘテロ接合性同腹仔及び野生型同腹仔、ならびに処置なしのAtp7b KOマウスを対照とした。血液試料を毎週収集し、銅結合形態と銅非結合形態と両方のセルロプラスミンのレベルをウェスタンブロットによって評価した。投与後21日目に、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco.PA75で処置したAtp7b KOマウスにおいて銅結合型セルロプラスミンの出現が観察され、血液中への銅の抽出の促進が示された(図21、群2)。しかしなが
ら、上述の実験設定下では、試験した他の3つのベクターは、銅結合型セルロプラスミンの増加を示さなかった(図21)。
【0091】
本明細書に記述されるAAV8.hATP7Bcoベクターを注射したATP7B KOマウスの肝臓内の銅の蓄積を評価するため、その肝臓切片にTimm法による銅染色を行った。黒色沈着物は、銅の蓄積を示す。結果を図19Bに示す。雄Atp7b KOマウスに注射した5種全てのベクターにより、肝臓切片の黒色沈着物が、無処置またはPBSのみのマウスから得た試料と比較して減少し、AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75ベクターは、最小の黒色沈着物及び野生型と同様のパターンを示した(図19B)。雌Atp7b KOマウス(図19B)は、肝臓内に雄と比較してより多くの銅沈着物を示し、性差を示している。更に無処置マウスと比較すると、雌Atp7b KOマウスは、より少ない肝臓内の銅沈着物を示した。本明細書に記述されるAAV.hATP7Bcoベクターを注射した雄及び雌両方のAtp7b KOマウスにおけるヒトATP7Bタンパク質に対する抗体の生成については調査中である。
【0092】
一方で、血清試料を収集し、実施例2に記述したように銅濃度を評価した。雌マウス及び雄マウスについて、データをそれぞれ図15A及び15Bにプロットした。結果は、本明細書に記述されるAAV8.hATP7Bcoベクター3×1012GC/kgの処置が、Atp7b KOマウスの血清銅レベルを上昇させるのに成功したことを示す(図15A及び15B)。
【0093】
更なる試験を次の通りに行った。
【表4】
【0094】
経時的な血清銅レベルを図15A及び15Bに示す。ALT、AST、及び総ビリルビンレベルを得た。図16A~C。ATP7B相対発現量を図17に示す。H&E染色の後に病理学者が組織病理をスコアリングスキームに照らして評価したものを図18に示す。図19A及び19Bにはそれぞれ、線維症スコア及びTimm染色による銅染色スコアを示してある。
【0095】
実施例4:AAV.hATP7Bcoベクターを注射したウィルソン病モデルにおけるセルロプラスミンのオキシダーゼ活性
銅は潜在的に毒性のある金属だが、様々な酵素の補因子として作用し、多くの生理機能に必須である。銅は、腸管吸収された後に肝細胞に輸送され、ここでトランスゴルジ網(TGN)の膜内に位置するATP7Bに結合する。この大きな膜貫通タンパク質は、この
金属を銅依存性酵素に移送することを担っている。健常な個体の血漿中に存在する銅の95%がセルロプラスミンに結合しているため、セルロプラスミンへの銅の負荷は、この酵素のフェロキシダーゼ活性に必須であり、この金属の重要な分泌経路を構成する。例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Murillo,Oihana,et al.“Long-term metabolic correction of Wilson’s disease in a murine model by gene therapy”Journal of Hepatology 64.2(2016):419-426を参照されたい。
【0096】
オキシダーゼ活性を測定するため、SigmaのCeruloplasmin Activity Colorimetric Kit(MAK177)またはBioVisionのCeruloplasmin Activity Colorimetric Kitを使用し、参照により本明細書に組み込まれている、その対応する製品情報に示されているプロトコールに従い、20μlの血清をプロセシングした。また、Schosinsky et al,“Measurement of ceruloplasmin from its oxidase activity in serum by use of o-dianisidine dihydrochloride”Clinical Chemistry 20.12(1974):1556-1563、及びMurillo et al.“Long-term metabolic correction of Wilson’s disease in a murine model by gene therapy”Journal of Hepatology 64.2(2016):419-426(これらは参照により本明細書に組み込まれている)に示されているプロトコールに従い、オキシダーゼ活性アッセイを行った。
【0097】
上述の4つのアッセイを使用して、Atp7b KOマウスの血清セルロプラスミンのオキシダーゼ活性を測定した。野生型マウス及びヘテロ接合性マウスから得た試料を対照とした。野生型マウスとAtp7b KOマウスとの間で差は検出されなかった。
【0098】
更に、Atp7b KOマウスを硫酸アンモニウムありまたはなしで処置した。対照として野生型マウスを用意した。Schosinsky et al,“Measurement of ceruloplasmin from its oxidase activity in serum by use of o-dianisidine dihydrochloride”Clinical Chemistry 20.12(1974):1556-1563に示されているプロトコールを使用したセルロプラスミンオキシダーゼ活性アッセイにおいて、野生型マウスまたはAtp7b KOマウスの間の差は検出されなかった。
【0099】
別の実験では、Atp7b KOマウスを硫酸銅ありまたはなしで処置した。対照として野生型マウスを用意した。硫酸銅ありまたはなしで処置したマウスの間の差を検出するため、上述の4つの方法を使用してセルロプラスミンオキシダーゼ活性アッセイを行う。本明細書に記述されるマウスの肝臓ホモジネートも収集し、上述の4つの方法を使用して、セルロプラスミンのオキシダーゼ活性について試験する。硫酸銅を肝臓ホモジネートに更に加え、これを陽性対照とした。
【0100】
実施例5:AAV8.TTR.hATP7Bcoベクターの更なる試験
AAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75ベクターの用量依存的効果及び最小有効量(MED)を決定するため、雄及び雌両方の2月齢のATP7B KOマウスに、1×10、1×1010、または1×1011GC/マウスのベクターを静脈内注射した。セルロプラスミンのウェスタンブロットは、1×1011GCのAAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75を受けた、試験した4匹のマウスの
うち3匹の血清における、銅結合型セルロプラスミンの出現を示し、銅抽出の増加を示唆している(図14)。一方、同じベクターを1×1010GCで処置した際には、試験した5匹のマウスのうち1匹が、血液中の銅結合型セルロプラスミンを示した(図14)。これらのデータは、マウス1匹あたり1×1011GCの用量におけるAAV8.EnTTR.TTR.hATP7Bco.PA75の単回静脈内注射が、ウィルソン病のマウスモデルにおける銅の抽出を促進するのに成功したことを実証した。
【0101】
実施例6:トランケート型ベクター
単一遺伝子性疾患は、AAVベクターを使用した遺伝子置換療法アプローチのための優れた候補である。しかしながら、AAVベクターカプシドの内部にパッケージングされ得るcDNAのサイズには限界がある。野生型AAVゲノムは4,700bpであり、より大きなゲノムをパッケージングする要請は、AAVカプシド内に封入されるDNA配列の完全性を低減させ得る(19)。これまでに、所与の導入遺伝子のサイズと、発現に必要な転写制御配列及びポリA制御配列との両方を低減させる方法を調査するため、集中的な研究が行われてきた。これが首尾よく行われた一例は、長さ4,374bpであるヒト凝固因子VIIIのBドメイン欠失導入遺伝子配列の生成を伴う、血友病Aの処置のための遺伝子療法ベクターの開発である(19~21)。ウィルソン病の処置では、ATP7B
cDNAが4,395bpであるため、この問題は増大する。したがって我々は、コドン最適化バージョンのヒトATP7B導入遺伝子の発現のため、縮小サイズのトランスサイレチンエンハンサー及びプロモーター(TTR)配列を、75bpの合成ポリA配列(PA75)(19)と組み合わせて使用することを選択した。結果として生じたAAVゲノムは5.1kbであり、これをAAV8カプシド内にパッケージングした。
【0102】
更に、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1Del).PA75、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD2Del).PA75、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD3Del).PA75、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-2Del).PA75、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-4Del).PA75、AAV8.En34.TBG-S1.hATP7Bco(MBD1-5Del).PA75、AAV8.TBG.PI.hATP7Bco(MBD1-4Del).PA75、及びAAV8.TBG.PI.hATP7Bco(MBD1-5Del).PA75をはじめとするトランケート型hATP7Bcoベクターをデザインし、産生し、3×1012GC/kgの用量でATP7B KOマウスに静脈内注射した。
【0103】
上述の種々のトランケート型ベクターで処置したAtp7b KOマウス、及びヘテロ接合性同腹仔について研究し、6月齢時に殺処分した。経時的な血清銅レベルを図22に示す。ALT、AST、及び総ビリルビンレベルを得た。図23。ATP7B相対発現量を図24に示す。H&E染色の後に病理学者が組織病理をスコアリングスキームに照らして評価したものを図25に示す。図26には、線維症スコア及びTimm染色による銅染色スコアを示してある。剖検時の肝臓銅レベルを図27に示す。
【0104】
実施例7:上記実験の材料及び方法
A.AAVベクターの産生
全てのAAVベクターは、これまでに記述されているように(10)、University of PennsylvaniaにてPenn Vector Coreによって産生された。簡潔に述べると、縮小サイズのトランスサイレチンエンハンサー及びプロモーターからコドン最適化バージョンのhATP7B(hATP7Bco)を発現するプラスミドを、AAV8ウイルスカプシドにパッケージングした。
【0105】
B.マウス
ヘテロ接合性Atp7b+/-マウスの繁殖ペアをThe Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME,USA)から得て、University
of Pennsylvaniaにて特定病原体除去条件下でコロニーを管理した。動物手技及びプロトコールは全て、University of PennsylvaniaのInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により認可された。Atp7b KOを生成し、その後の繁殖のために使用した。Atp7b KO交配ペアから生成された子は全て、生後72時間以内にBalb/c乳母に哺育させた。雄及び雌のAtp7b KOマウス(2月齢)に、尾静脈を介して、10~1011ゲノムコピー(GC)/マウスのAAV8.TTR.hATP7BcoをIV注射した(n=5/性別/群)。
【0106】
C.血清解析
示された時点で血液を血清分離管に収集し、凝固させ、室温で5分間3,500×gの遠心分離によって血清を単離した。血清のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、及び総ビリルビンレベルについて、Antech Diagnostics(Irvine,CA,USA)によって解析した。血清及び尿の銅レベルについても、Exova(Edinburgh,UK)によって解析した。
【0107】
D.肝臓銅解析
剖検時に採った肝臓試料の銅レベルについて、Exova(Edinburgh,UK)によって解析した。
【0108】
E.組織病理
ホルマリン固定パラフィン包埋組織試料を細切し、標準的なプロトコールに従ってヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色した。肝線維症を検出するため、パラフィン切片にSirius Red染色を行った。切片を脱パラフィンし、0.1%(w/v)Direct Red(Sigma)、4%(w/v)ピクリン酸(Sigma)の溶液中で90分間染色し、0.01N HClで洗浄し(2×1分)、エタノール及びキシレンで段階的に脱水し、カバースリップを適用した。
【0109】
F.Timm法による銅染色
ホルマリン固定パラフィン包埋した肝臓の切片を脱脂し、0.5%硫化アンモニウム(5分)、脱イオン水(1分すすぐ)、0.1N HCl(2~3分)、脱イオン水(2~3分すすぐ)、及び顕色剤(1部の5%硝酸銀、5部の2%(w/v)ヒドロキノン/5%(w/v)クエン酸、およそ10分)において順次インキュベートした。対照動物(野生型及びATP7B KO)の肝臓切片を各ランに含め、一貫した染色強度についてモニタリングした。切片を最終的に水で洗浄し、Nuclear Fast Redで対比染色し、脱水し、カバースリップを適用した。
【0110】
G.組織病理スコアリング
組織病理学的病変を次の基準に基づいてスコアリングした。肝細胞の肥大及び変性:0、重大な病変なし;1、わずかなカリオサイトメガリー(低頻度から中頻度、小葉内の1~2つの肝細胞)、2、軽度のカリオサイトメガリー(小葉内の<10%の肝細胞);3、肝細胞の解離及び低頻度から少数の単細胞壊死を伴う中等度のカリオサイトメガリー(小葉内の10~50%の肝細胞);4、広範な肝細胞の解離及び高頻度の単細胞壊死を伴う重度のカリオサイトメガリー(小葉内の51~90%の肝細胞);比較的正常な肝臓構造が維持される;5、小葉の崩壊及び多数の単細胞壊死を伴う顕著なカリオサイトメガリー(小葉内の>90%の肝細胞)。炎症:0、なし;1、軽度-門脈域内の少数の凝集物及び稀な実質内の病巣;正常範囲内とみなされる;2、中等度-周りの門脈周囲肝細胞に
及ぶか、または実質内で多巣性である;3、顕著-肝細胞の架橋もしくは解離または実質内で多巣性から癒合性。胆管過形成:0、なし;1、門脈域内で限局性または多巣性;2、門脈周囲領域内の肝細胞の解離;3、構造的歪みを伴う肝細胞の架橋または解離。卵形細胞過形成:0、なし;1、限局性または多巣性(門脈周囲);2、肝細胞の架橋または解離;3、構造的歪みを伴う肝細胞の架橋または解離。結節性再生:0、非存在;1、存在。
【0111】
Sirius red染色に基づく線維症の類別スキームは、文献(11)に報告されているものから引用した:0、なし;1、限局性または多巣性;2、架橋;3、構造的破壊を伴う架橋(分布が小葉中心性か、中間帯性か、門脈周囲性か、またはびまん性かの注記付き)。
【0112】
H.Timm染色に基づく銅の蓄積の類別スキームは、これまでに文献(12)で記述されているものと同じであった:1、肝細胞の細胞質内に銅含有顆粒なし、または少数の銅含有顆粒が時折見られる;正常範囲内とみなされる;2、一部の小葉中心性肝細胞に明らかな銅含有顆粒;正常範囲内とみなされる;3、軽度-ほとんどの小葉中心性肝細胞(各小葉の1/3)に多数の顆粒;4、中等度-全ての小葉中心性肝細胞及び中間帯性肝細胞(全小葉内の肝細胞のおよそ2/3)に多数の顆粒が存在する;5、顕著-全小葉内の肝臓細胞の2/3超に大量の顆粒。
【0113】
統計解析
全てのデータについて、群平均及び平均値の標準誤差(SEM)を計算し、報告した。スチューデントt検定を行って2つの群を比較し、テューキーの多重比較検定を用いた一元分散分析(AVOVA)を群間で行い、性別によって層別化した。ベクター投与において5つの病態パラメータを解析し、同齢で未注射のAtp7b KOマウスのものと比較した。比較は、Rプログラム(バージョン3.3.1;https//cran.r-project.org)でウィルコクソンの順位和検定を使用して行った。各用量群について、「metap」パッケージの「sumlog」関数を使用し、Rプログラムでフィッシャーの複合確率検定を使用して、同齢で未注射のATP7B KOマウスと比較した、組み合わせた病態パラメータにおける差を評価した。0.05のp値を有意とみなした。
【0114】
実施例8:詳解
治療アプローチの臨床への応用可能性(translatability)を評価するために疾患のマウスモデルが使用可能になる前に、モデルの詳細な特性評価を行わなければならない。他のウィルソン病マウスモデルの特性評価は行われてきたが(1、15、17)、この研究は、txマウス系統、ならびに全てのAtp7b KOマウスを出生時から哺育した後の銅代謝及び肝疾患の評価の両方に関する、初めての詳細な特性評価である。罹患した母の乳腺におけるAtp7b欠損に起因して離乳前に起こる相反する銅欠乏症がない状態で、離乳前の銅欠乏症に関連するあらゆる潜在的な問題から疾患表現型を確実に切り離すことにより、これらのマウスにおける疾患進行のタイムラインをより正確に決定することができる。このマウスモデルにおける肝疾患及び結節性再生の発生は、他者が開発したAtp7b-/-系統についてこれまでに報告されているものと同様であった(1、17)。しかしながら、子を出生時から哺育することでもたらされた銅の連続供給がおそらく理由で、このマウス系統のタイムラインはわずかに増加した。
【0115】
このAtp7b KOマウスモデルにおいて、疾患の進行は次の通りであった。Timm法による銅染色により、肝臓における重度の銅の蓄積が2月齢時に見られたが、他者がこれまでに記述しているのと同様に(1、15~17)、経時的に減少した。子の哺育によって、出生時からAtp7b KOマウスの肝臓内で銅が蓄積し、約2~3月齢で飽和
レベルに達すると思われる。2月齢で肝疾患が発生した後、銅は血清中に放出され、3~4月齢までに肝細胞中の蓄積量の明らかな減少及び血清銅レベルの上昇がもたらされると思われる。この、初めは低かったレベルからヘテロ接合性マウスと同様のレベルへの血清銅レベルの上昇は、別のウィルソン病マウスモデルについてこれまでに報告されている(17)、6週齢においてAtp7b-/-系統の血清銅レベルが野生型マウスに見られるものと同様であり、44週齢までに野生型マウスよりも2~3倍高く経時的に上昇するものとは異なる。
【0116】
我々は、過剰な銅の尿への流出が約3月齢で始まることを観察したが、これも同様に、肝細胞の壊死及びその後の蓄積した銅の放出に起因する可能性がある。排泄の増加をもたらす腎臓におけるAtp7b活性の欠如(23~25)、または肝臓銅輸送体Ctr1の下方調節につながる肝臓内の銅の蓄積、及び小さな銅担体による尿中排泄(26)を含め、腎臓を介する代替的な銅の排泄機構が示唆されている。繰り返しになるが、尿中銅排泄の時間的過程は、このマウスモデルと、これまでに報告されているものとでは異なる。ここで、尿中銅排泄はヘテロ接合性マウスとAtp7b KOマウスとで初めは同様だが、研究過程の間にKOマウスでは増加する。比較すると、Atp7b-/-系統の6週齢における尿中銅レベルは野生型マウスよりも3倍高く、14~20週齢まで上昇し、その後20週齢で実質的に低下する(26)。
【0117】
肝細胞の肥大、変性、及び壊死は6月齢でピークに達し、付随すると思われる肝結節性再生の領域がこの齢以降に観察される。この再生への進行は、他のウィルソン病マウスモデルで報告されている(17)。しかしながら、他のマウスモデルとは異なり、ここで記述するAtp7b KOマウスには胆管細胞癌の証拠はなかった。3月齢までには線維症の領域が見られ、7月齢までには構造的破壊と共に経時的に重症度が急速に増加した。3~4月齢までに血清トランスアミナーゼが顕著に増加しているが、血清総ビリルビンレベルの上昇は9か月でやっと起こり始め、肝疾患の進行を示している。
【0118】
このAtp7b KOマウスモデルの特性評価後、我々は、ウィルソン病を処置するための遺伝子療法アプローチを開発した。コドン最適化バージョンのヒトATP7B導入遺伝子を発現するAAV8ベクターを2月齢のAtp7b KOマウスにIV投与すると、ベクター投与の2週間後までに血清銅レベルが上昇した。ここで評価した、より高い用量のベクター(>10GC/マウス)は、同齢で未注射のAtp7b KOマウスと比較して肝臓銅レベルを著しく低下させた。肝臓病変は著しく用量依存的に減少し、1011GC/マウスを注射した雄マウスには軽度の組織病理学的所見しか存在せず、肝線維症は全く存在しなかった。したがって、疾患発症の初期段階中に遺伝子療法アプローチを供与することで、ウィルソン病のマウスモデルにおける肝臓損傷が防止され、銅代謝が是正された。
【0119】
本明細書に引用される全ての公開文献、ならびに米国仮特許出願第62/440,659号及び同第62/473,656号は、参照により本明細書に組み込まれている。同様に、本明細書において参照され、添付の配列表に記載される配列番号は、参照により組み込まれている。特定の実施形態を参照しながら本発明について記述したが、本発明の趣旨から逸脱することなく改変を行ってよいことは理解されよう。このような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるよう意図される。
【0120】
【表5】
【0121】
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