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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】多層膜構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220823BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C23C14/06 N
G02B5/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021715
(22)【出願日】2020-02-12
(62)【分割の表示】P 2019021094の分割
【原出願日】2015-03-31
(65)【公開番号】P2020090724
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2020-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】菅原 利明
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-280384(JP,A)
【文献】特開2006-010929(JP,A)
【文献】特開2002-246465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が活性化された金属含有ターゲットを用いて、不活性ガスの供給により金属膜上に第1の誘電体膜を成膜した後、反応性ガスの供給により前記金属含有ターゲットを用いて前記第1の誘電体膜上に第2の誘電体膜を成膜する誘電体膜成膜工程を有する多層膜構造体の製造方法。
【請求項2】
前記誘電体膜成膜工程では、前記反応性ガスの供給により前記第2の誘電体膜を成膜した後、前記金属含有ターゲットを用いて前記反応性ガスの供給量を増加させ、第3の誘電体膜を成膜するとともに、前記金属含有ターゲットの表面を活性化させる請求項1記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項3】
前記金属含有ターゲットの表面を活性化させるターゲット活性化工程をさらに有する請求項1記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項4】
前記反応性ガスが、酸化性ガス又は窒化性ガスである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の誘電体膜、及び第2の誘電体膜が、金属酸化物膜又は金属窒化物である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属膜がAg又はInであり、前記第1の誘電体膜、及び第2の誘電体膜がZn,Sn,Si,Al,Moのいずれかを含む、請求項5に記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項7】
前記金属含有ターゲットが、金属酸化物又は金属炭化物からなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の多層膜構造体の製造方法。
【請求項8】
金属からなる金属膜と、
誘電体からなる誘電体膜とを積層してなる多層膜構造体であって、
前記金属膜の表面が、酸化しておらず、
前記誘電体膜が、組成が同一である少なくとも2層からなり、
前記金属膜がAg又はInであり、前記誘電体膜がZn,Sn,Si,Al,Moのいずれかを含む、多層膜構造体。
【請求項9】
前記誘電体膜のうち、前記金属膜上に設けられる誘電体膜がバリア層である、請求項8に記載の多層膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットを用いて成膜する多層膜構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばND(Neutral Density)フィルターなど、金属膜と誘電体膜とを交互に積層し、所定のフィルター特性を有する光学多層膜が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-216209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のような多層膜の製造において、反応性スパッタリングの反応性ガスとして酸素を供給し、金属膜上に誘電体膜を成膜した場合、金属膜表面が酸化し、特性が劣化する。このため、従来、酸素を供給せずに透明な膜となるSiO、Alなどにより、金属膜表面にバリア膜を成膜し、バリア膜上に誘電体膜を成膜していた。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、金属膜、誘電体膜、及びバリア膜の3種類を成膜可能な3元スパッタ設備が必要であった。また、従来の方法では、本来不要であるバリア膜が成膜されるため、多層膜本来の特性が得られなかった。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、反応性ガスによる金属膜の特性変化を抑制し、優れた特性を得ることができる多層膜構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、表面が活性化されたスパッタリングターゲットを用いて、金属膜上に誘電体膜を成膜することにより、金属膜の特性変化を抑制することができ、優れた特性を有する多層膜構造体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る多層膜構造体の製造方法は、表面が活性化された金属含有ターゲットを用いて、不活性ガスの供給により金属膜上に第1の誘電体膜を成膜した後、反応性ガスの供給により前記金属含有ターゲットを用いて前記第1の誘電体膜上に第2の誘電体膜を成膜する誘電体膜成膜工程を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る多層膜構造体は、金属からなる金属膜と、誘電体からなる誘電体膜とを積層してなる多層膜構造体であって、前記金属膜の表面が、酸化しておらず、前記誘電体膜が、組成が同一である少なくとも2層からなり、前記金属膜がAg又はInであり、前記誘電体膜がZn,Sn,Si,Al,Moのいずれかを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面が活性化されたスパッタリングターゲットを用いて、金属膜上に誘電体膜を成膜することにより、金属膜の特性変化を抑制することができ、優れた特性を有する多層膜構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係る多層膜構造体の製造方法により得られる多層膜構造体の一部断面を示す概略図である。
図2】アルゴン/酸素ガス比に対する金属酸化物膜の成膜速度の影響を示す説明図である。
図3】反応性スパッタリング装置の構成例を示す概略図である。
図4】実施例の成膜条件で成膜したNDフィルターの断面構成を示す説明図である。
図5】実施例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率を示すグラフである。
図6】比較例の成膜条件で成膜したNDフィルターの断面構成を示す説明図である。
図7】比較例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率を示すグラフである。
図8】従来例のNDフィルターにおける透過率のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.多層膜構造体の製造方法
2.多層膜構造体
3.実施例
【0014】
<1.多層膜構造体の製造方法>
図1は、本実施の形態に係る多層膜構造体の製造方法により得られる多層膜構造体の一部断面を示す概略図である。
【0015】
本実施の形態に係る多層膜構造体の製造方法は、第1の金属ターゲットを用いて、金属膜1を成膜する金属膜成膜工程と、表面が活性化された第2の金属含有ターゲットを用いて、不活性ガスの供給により金属膜1上に第1の誘電体膜2を成膜した後、反応性ガスの供給により第1の誘電体膜2上に第2の誘電体膜3を成膜する誘電体膜成膜工程とを有する。ここで、表面が活性化された第2の金属含有ターゲットは、反応性ガスにより表面が予め反応された状態のものをいう。具体的には、第2の金属含有ターゲットの表面が、酸化又は窒化された状態のものをいう。これにより、不活性ガスの供給により金属膜1上にバリア層としての第1の誘電体膜2を成膜することができ、金属膜1の特性変化を抑制することができる。
【0016】
また、反応性ガスとしては、酸化性ガス、窒化性ガスなどが挙げられ、第2の誘電体膜3としては、SiOなどの金属酸化膜、Siなどの金属窒化膜などが挙げられる。
【0017】
以下、本発明の一実施形態として、反応性ガスとして酸化性ガスを用い、第2の誘電体膜3として金属酸化膜を成膜する具体例について説明する。すなわち、具体例として示す多層膜構造体の製造方法は、第1の金属ターゲットを用いて、金属膜を成膜する金属膜成膜工程と、表面が酸化された第2の金属含有ターゲットを用いて、不活性ガスの供給により金属膜上に第1の金属酸化物膜を成膜した後、酸化性ガスの供給により第1の金属酸化物膜上に第2の金属酸化物膜を成膜する誘電体膜成膜工程とを有する。
【0018】
金属膜成膜工程にて使用可能な第1の金属ターゲットは、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、比較的酸化されやすい金属を用いることができる。このような第1の金属ターゲットとしては、例えば、Ti、Al、Zn、Cr、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Nb、Inから選択される1種以上の金属を含むものを挙げることができる。また、第1の金属ターゲットを用いたスパッタ法も、特に限定されるものではなく、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などを用いることができる。
【0019】
誘電体膜成膜工程にて使用可能な第2の金属含有ターゲットは、酸化によってターゲット表面に金属酸化物が形成されれば、特に限定されるものではない。このような第2の金属含有ターゲットとしては、例えば、Si、Al、Nb、Ti、Zn、Sn、Inから選択される金属を含む金属酸化物、金属窒化物、若しくは金属炭化物、又は金属単体を挙げることができる。具体的には、Si、SiC、SiO、SiN、Al、AlO、AlN、Nb、NbO、Ti、TiO、TiN、Zn、ZnO、Sn、SnO、In、InOなどや、これらの混合物を挙げることができる。これらの中でも、SiOを成膜する場合、SiO(x<2)ターゲット、又はSiC粉末1質量部に対してSi粉末を1.1~1.5質量部の割合で焼結されてなるSixC(x=2.3±0.2)ターゲットを用いることが好ましい。SiO(x<2)ターゲットを用いることにより、スパッタ中の酸素供給量を少なくしても透明にできるため、高真空下でのスパッタが容易になり、よりバリア性の高い緻密な膜を得ることができる。また、SixC(x=2.3±0.2)ターゲットを用いることにより、大きい成膜速度を得ることが可能となる。
【0020】
また、第2の金属含有ターゲットを用いたスパッタ法は、反応性スパッタリング(Reactive Sputtering)を用いる。また、膜付着性を向上させるために、交流(高周波)を掛けるRFスパッタを用いてもよい。また、被着体の耐熱性に乏しい場合には、ターゲット側に磁石で磁界をつくり、プラズマを試料から分離するマグネトロンスパッタを用いてもよい。
【0021】
反応性スパッタリングに用いられる反応性ガスとしては、酸化性ガス及び不活性ガスの混合ガスが用いられる。酸化性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、炭酸ガス、又はこれらの混合ガスが挙げられる。また、不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、又はこれらの混合ガスが挙げられる。これらの中でも、本実施の形態では、アルゴンガスと酸素との混合ガスが好ましく用いられる。
【0022】
図2は、アルゴン/酸素ガス比に対する金属酸化物膜の成膜速度の影響を示す説明図である。図2に示すように、反応性スパッタリングでは、ターゲット表面がそのままスパッタされる金属モード(Metal mode)と、ターゲット表面が反応性ガスと反応し、化合物となった状態でスパッタされる反応モードである酸化物モード(Oxide mode)と、その中間領域である遷移領域(Transition area)とがある。
【0023】
金属モードでは、アルゴン/酸素ガス比が大きい、すなわち酸素分圧が低い。金属モードのA点では、ターゲット表面がそのままスパッタされ、成膜速度が大きい。この状態から酸素の供給量を増やし、酸素分圧を高くすると、ターゲット表面の酸化が進行して成膜速度が急激に低下し、酸化物モードに移行する。酸化物モードのB点では、ターゲット表面が酸素ガスと反応し、酸化物となった状態でスパッタされる。
【0024】
すなわち、誘電体膜成膜工程では、金属モードにおいて、第2の金属含有ターゲット表面の金属酸化物がスパッタされ、第1の金属酸化膜が成膜される。バリア層としての第1の金属酸化膜は、十分なバリア性能を得るために3nm以上成膜することが好ましく、生産性などを考慮すると3nm~10nm成膜することがより好ましく、生産性をより考慮すると3nm~5nm成膜することがさらに好ましい。膜厚が3nm未満であると、酸化物モードにおいて、金属膜の酸化抑制が困難となる。なお、バリア層とは、金属を変質させる酸素などの物質に対する保護機能を有するものをいう。
【0025】
また、誘電体膜成膜工程では、第1の金属酸化膜の成膜後、反応モードである酸化物モードにおいて、第2の金属含有ターゲット表面が酸素と反応し、金属酸化物となった状態でスパッタされ、第2の金属酸化物膜が成膜される。第2の金属酸化膜は、その厚みに関わらず、他の誘電体膜と組成がほぼ一致しているため、分析等によって区別するのは困難である。但し、第2の金属酸化膜を金属層に置き換えたり、酸素欠損の大きな誘電体膜にしたりした場合には、第2の金属酸化膜層を判別することが可能となる。
【0026】
また、誘電体膜成膜工程では、第2の金属酸化物膜の成膜後、酸化性ガスの供給量を増加させ、酸化物モードのB点よりもアルゴン/酸素ガス比が小さい、すなわち酸素分圧が大きいC点とすることが好ましい。具体的には、C点の酸素供給量は、B点の50%以上であることが好ましい。このC点では、成膜速度が低いものの第3の金属酸化物膜がごく僅かに成膜される。さらに、第2の金属含有ターゲットの表面が酸化され、表面に金属酸化物が形成される。
【0027】
このような金属膜成膜工程と誘電体膜成膜工程とを交互に繰り返すことにより、酸化劣化の少ない金属膜と誘電体膜とが交互に積層されてなる多層膜を得ることができる。また、金属膜と誘電体膜とが交互に積層されてなる多層膜は、光学特性上の酸化劣化がないことから、誘電体膜の第1の金属酸化物膜及び第3の金属酸化物膜は、バリア層として作用していることが伺える。また、第1の金属酸化物膜及び第3の金属酸化物膜は、第2の金属酸化物膜の成膜時と同一のターゲット材から得ることができるため、生産性を向上させることができる。
【0028】
図3は、本法を適用可能な反応性スパッタリング装置の構成例を示す概略図である。図3に示す反応性スパッタリング装置は、ラジカル酸化源11と、酸化源用電源12と、スパッタ電源13a,13bと、スパッタリングターゲット14a,14bと、排気ポンプ15a,15bと、円筒型基板ホルダー16と、不活性ガス供給源17a,17bと、反応性ガス供給源18a,18bと、ロードロック室19とを備える。本実施の形態では、スパッタリングターゲット14a,14bとして、それぞれ第1の金属ターゲット及び第2の金属含有ターゲットを用い、2元スパッタとして構成される。
【0029】
金属膜成膜工程では、例えば、不活性ガス供給源17aからArガスを供給し、スパッタ電源13aにより第1の金属ターゲットに高電圧を印加することにより、円筒型基板ホルダー16に保持された基板上に金属膜を金属モードにて成膜することが可能である。
【0030】
誘電体膜成膜工程では、例えば、円筒型基板ホルダー16を180度回転させ、不活性ガス供給源17aからArガスを供給し、スパッタ電源13bにより表面が酸化された第2の金属含有ターゲットに高電圧を印加することにより、金属膜上に第1の金属酸化物膜を金属モードにて成膜することが可能である。また、反応性ガス供給源18bからOガスを供給することにより、第1の金属酸化物膜上に第2の金属酸化物膜を酸化モードにて成膜することが可能である。また、例えば、反応性ガス供給源18bからOガスの供給量を増加させることにより、第3の金属酸化物膜を成膜するとともに、第2の金属含有ターゲットの表面を酸化させることが可能である。
【0031】
このような操作により、金属膜の酸化を抑制し、理論設計に極めて忠実な光学特性を有する多層膜構造体を得ることができる。また、バリア層を成膜するためのスパッタリングターゲットやカソード源の追加など、装置の過度な大型化や改造を施すことなく、優れた光学特性を有する多層膜構造体を効率よく生産することができる。また、バリア膜となる第1の金属酸化物膜と第2の金属酸化物膜を、同一の第2の金属含有ターゲットから得ることができる。また、第2の金属含有ターゲットとして、成膜速度の高い金属ターゲットを使用することができるため、生産性を向上させることができる。
【0032】
また、反応性スパッタリング装置は、前述した構成例に限られることなく、例えば、金属膜を成膜する第1の成膜室と、誘電体膜を成膜する第2の成膜室とを備え、基板が搬送手段としての搬送トレイにより支持されて第1の成膜室及び第2の成膜室に搬送される構成であってもよい。この場合、第2の金属含有ターゲットの表面を酸化させるターゲット酸化工程を別に設け、第1の成膜室における金属膜成膜工程と第2の成膜室におけるターゲット酸化工程とを並行して行うようにしてもよい。また、第1の成膜室に第1の金属ターゲット及び第3の金属ターゲットを配置し、第2の成膜室に第2の金属含有ターゲット及び第4の金属含有ターゲットを配置し、第1~第4の金属が任意に積層された多層膜を成膜するようにしてもよい。
【0033】
<2.多層膜構造体>
図1に示すように、本実施の形態に係る多層膜構造体は、金属からなる金属膜1と、金属膜1上に成膜され、バリア層である誘電体からなる第1の誘電体膜2と、第1の誘電体膜上に成膜され、誘電体からなる第2の誘電体膜3とを有する。ここで、第1の誘電体膜は、第2の誘電体膜の組成と同一であることが好ましい。これにより、理論設計に極めて忠実な光学特性を有する多層膜構造体を得ることができる。
【0034】
また、具体例として示す多層膜構造体は、金属からなる金属膜と、金属膜上に成膜され、バリア層である金属酸化物からなる第1の金属酸化物膜と、第1の金属酸化物膜上に成膜され、前記金属酸化物からなる第2の金属酸化物膜とを有することが好ましい。ここで、第1の金属酸化物膜は、前述した反応性スパッタリングにより、金属モードにて成膜されてなるバリア層として機能する。また、第2の金属酸化物膜は、酸化物モードにて成膜されてなる。これにより、金属膜の酸化が抑制されるため、理論値とほぼ同等の特性を有する多層膜構造体を得ることができる。
【0035】
多層膜構造体の具体例としては、例えば、NDフィルターなどの光学フィルターを挙げることができる。また、多層膜構造体は、多層構造を維持していれば、その大きさは、特に制限されることはない。
【実施例
【0036】
<3.実施例>
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。本実施例では、反応性スパッタリングによりTi膜とSiO膜とを積層させたND(Neutral Density)フィルターを作製した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例>
可視波長域(400nm~700nm)において、透過率が40%の一定値となるNDフィルターについて、光学多層膜のシミュレーションソフト(商品名:OptiLayer、(株)ケイワン)を用いて設計した。設計環境は、垂直入射とし、金属膜をTi、誘電体膜をSiO、入射及び出射媒質を空気、基板を白板ガラス基板としてシミュレーション設計を行った。
【0038】
表1に、基板側から第1層~第6層からなる光学多層膜のシミュレーション設計の結果を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
図3に示すようなバッチ式の反応性スパッタリング装置(RAS1100B、(株)シンクロン)を用いて、表1に示す6層構成のNDフィルターを作製した。このような反応性スパッタリング装置において、スパッタリングターゲット14a,14bが保持されたカソードが2元あるスパッタ室に、Arガスをそれぞれカソード近傍に供給し、ラジカル酸化源11を備えるラジカル室にOガスを供給し、Ar/Oガス比を制御した。なお、スパッタ室及びラジカル室は、同じ真空チャンバー内に存在し、間仕切りされているものの密閉されていないため、ArとOは、真空チャンバー内で混合される。
【0041】
Ti材料としてTiからなるスパッタリングターゲット(3N以上グレード、デクセリアルズ(株)製)を準備した。また、SiO材料としてケイ素(Si)1に対して炭化ケイ素(SiC)が1.3の割合で焼成されたSiC(x=2.3)からなるスパッタリングターゲット(デクセリアルズ(株)製)を準備した。
【0042】
表2に、実施例におけるTi膜及びSiO膜の成膜条件を示す。表2において、金属モードは、無酸素モードである。また、酸化物モードは、酸化物成膜時の通常モードである。また、ターゲット酸化モードは、成膜速度が非常に小さい過剰酸化モードである。
【0043】
【表2】
【0044】
図4は、実施例の成膜条件で成膜したNDフィルターの断面構成を示す説明図である。図4に示すように、先ず、ガラス基板100上に密着膜として厚み2.5nmのSiOからなる第1層101を酸化物モードにて成膜した。次に、第1層101上に密着膜として厚み0.5nmのSiOからなる第2層102をターゲット酸化モードにて成膜した。次に、第2層102上に金属膜として厚み3nmのTiからなる第3層103を金属モードにて成膜した。次に、第3層103上に第1の金属酸化物膜として厚み3nmのSiOからなる第4層104を金属モードにて成膜した。次に、第4層104上に第2の金属酸化物膜として厚み36.5nmのSiOからなる第5層105を酸化物モードにて成膜した。次に、第5層105上に第3の金属酸化物膜として厚み0.5nmのSiOからなる第6層106をターゲット酸化モードにて成膜した。次に、第6層106上に金属膜として厚み3nmのTiからなる第7層107を金属モードにて成膜した。次に、第7層107上に第1の金属酸化物膜として厚み3nmのSiOからなる第8層108を金属モードにて成膜した。次に、第8層108上に第2の金属酸化物膜として厚み16.5nmのSiOからなる第9層109を酸化物モードにて成膜した。次に、第9層109上に第3の金属酸化物膜として厚み0.5nmのSiOからなる第10層110をターゲット酸化モードにて成膜した。次に、第10層110上に金属膜として厚み4nmのTiからなる第11層111を金属モードにて成膜した。次に、第11層111上に第1の金属酸化物膜として厚み3nmのSiOからなる第12層112を金属モードにて成膜した。次に、第12層112上に第2の金属酸化物膜として厚み77nmのSiOからなる第13層113を酸化物モードにて成膜した。これにより、基板側から3nmのTi膜、40nmのSiO膜、3nmのTi膜、20nmのSiO膜、4nmのTi膜、80nmのSiO膜が順次積層されたシミュレーション設計通りのNDフィルターを得た。
【0045】
図5は、実施例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率を示すグラフである。また、図5のグラフに、シミュレーション設計したNDフィルターの透過率の理論値を示す。実施例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率は、波長400nm~700nmの範囲において、理論値とほぼ一致した。これは、第1の金属酸化膜を無酸素状態で成膜したことによって、下地の金属膜の酸化を抑制したためであると考えられる。さらに、第1の金属膜が、第2の金属酸化膜及び第3の金属酸化膜と同一組成であることによって、光学特性の変化を抑制したためであると考えられる。
【0046】
また、SiO材料としてSiO(x=1.8)からなるスパッタリングターゲット(デクセリアルズ(株)製)を準備した以外は、前述の実施例と同様にしてNDフィルターを作製した。SiC(x=2.3)スパッタリングターゲットを使用したときに比べ、第2の金属酸化物膜の成膜速度が小さかったものの、NDフィルターの透過率は、波長400nm~700nmの範囲において、理論値とほぼ一致した。これにより、緻密でバリア性が高くなりやすいSiOターゲット材料を用いた場合でも、同様の多層膜が得られることが分かった。
【0047】
<比較例>
表2に示すSiOの成膜条件において、酸化物モードのみを用いた以外は、実施例と同様にしてNDフィルターを作製した。
【0048】
図6は、比較例の成膜条件で成膜したNDフィルターの断面構成を示す説明図である。図6に示すように、先ず、ガラス基板200上に密着膜として厚み3nmのSiOからなる第1層201を酸化物モードにて成膜した。次に、第1層201上に金属膜として厚み3nmのTiからなる第2層202を金属モードにて成膜した。次に、第2層202上に金属酸化物膜として厚み40nmのSiOからなる第3層203を酸化物モードにて成膜した。次に、第3層203上に金属膜として厚み3nmのTiからなる第4層204を金属モードにて成膜した。次に、第4層204上に金属酸化物膜として厚み20nmのSiOからなる第5層205を酸化物モードにて成膜した。次に、第5層205上に金属膜として厚み4nmのTiからなる第6層206を金属モードにて成膜した。次に、第6層206上に金属酸化物膜として厚み80nmのSiOからなる第7層207を酸化物モードにて成膜した。これにより、基板側から3nmのTi膜、40nmのSiO膜、3nmのTi膜、20nmのSiO膜、4nmのTi膜、80nmのSiO膜が順次積層されたシミュレーション設計通りのNDフィルターを得た。
【0049】
図7は、比較例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率を示すグラフである。また、図7のグラフに、シミュレーション設計したNDフィルターの透過率の理論値を示す。比較例の成膜条件で成膜したNDフィルターの透過率は、波長400nm~700nmの範囲において、30%ほど理論値よりも高くなった。これは、金属酸化膜を酸素が供給された状態で成膜したことによって、下地の金属膜が酸化されたためであると考えられる。
【0050】
<従来例>
実施例と同様、可視波長域(400nm~700nm)において、透過率が40%の一定値となるNDフィルターを、従来技術であるバリア膜を設けた構成としてシミュレーションを行った。設計環境は、バリア膜をSiO、金属膜をTi、誘電体膜をSiOとし、各膜厚を最適化した以外は、実施例と同様にシミュレーション設計を行った。
【0051】
表3に、基板側から第1層~第12層からなる光学多層膜のシミュレーション設計の結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
図8は、従来例のNDフィルターにおける透過率のシミュレーション結果を示すグラフである。また、図8のグラフに、実施例でシミュレーション設計したNDフィルターの透過率の理論値を示す。表3に示すように、バリア膜を設け、各膜厚を最適化したのにも関わらず、従来例のNDフィルターの理論値は、波長400nm~700nmの範囲において、3~5%ほど実施例のNDフィルターの理論値よりも低くなった。これは、バリア膜のSiOが酸素欠損を有し、光学吸収を有するため、透過率が低下したものと考えられる。
【符号の説明】
【0054】
1 金属膜、2 第1の誘電体膜、3 第2の誘電体膜、11 ラジカル酸化源、12 酸化源用電源、13a,13b スパッタ電源、14a,14b スパッタリングターゲット、15a,15b 排気ポンプ、16 円筒型基板ホルダー、17a,17b 不活性ガス供給源、18a,18b 反応性ガス供給源、19 ロードロック室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8