(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20220823BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220823BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220823BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 E
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020174737
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】10-2019-0130033
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0051074
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホ ギョン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン アルム
(72)【発明者】
【氏名】カン ジュ キョン
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-070789(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053357(WO,A1)
【文献】特開2015-122235(JP,A)
【文献】特開2012-138352(JP,A)
【文献】特表2018-508929(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化1]で示されるリチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)を含む正極活物質であって
、
一次粒子が凝集して二次粒子を形成し、300nm~10μmの大きさを有する一次粒子が、前記二次粒子を構成する全一次粒子中の50~100体積%であ
り、
前記正極活物質は、下記[化2]で示される物質をさらに含むものである、
二次電池用正極活物質。
[化1]
(式中、0<r≦0.6、0<a≦1、0≦x≦1、0≦y<1、0≦z<1、及び0<x+y+z<1であり、前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Nb、Cu、In、S、B、及びBiのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)
[化2]
(式中、0<a≦7、0<b≦15であり、M1’は、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)
【請求項2】
前記正極活物質の二次粒子の平均粒径は、2μm~20μmである、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記[化1]中の前記M1は、前記一次粒子を成長させる融剤(フラックス)として作用するドーパントである、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記[化1]中の前記M1は、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である、請求項3に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記[化1]中の前記M1は、前記正極活物質を構成する金属の全モル数に対して、0.001~10モル%で含まれる、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質の充填密度(packing density)は、2.0~4.0(g/cc)である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質の比表面積(BET、m
2/g)は、0.1~1.5(BET、m
2/g)である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム過剰層状酸化物において、Ni、Co、又はMn金属の全モル数に対するリチウムのモル数の割合(Li/(Ni+Co+Mn))は、1.1~1.6である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム過剰層状酸化物において、Niの全モル数に対するMnのモル数の割合(Mn/Ni)は、1~4.5である、請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項10】
Ni、Co、及びMnのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上の元素を含む正極活物質前駆体を製造するステップ;及び
前記正極活物質前駆体に、リチウム化合物及び前記[化1]中のM1を含む化合物を混合して焼成するステップ;
を含む、請求項1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記前駆体を製造するステップの後でかつ焼成するステップの前に、300~600℃で製造された前駆体を焙焼するステップをさらに含む、請求項
10に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の正極活物質を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)を含む正極活物質に関し、より詳しくは、一次粒子を成長させる融剤(フラックス)として作用するドーパントにより一次粒子の大きさが調節されたリチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートホン、MP3プレーヤー、タブレットPCのようなモバイル電子機器の発展に伴い、電気エネルギーを貯蔵可能な二次電池に対する需要が急増している。特に、電気自動車、中大型のエネルギー貯蔵システム、及び高エネルギー密度が要求される携帯機器が登場し、リチウム二次電池に対する需要が増加しつつある。
【0003】
近年、最も脚光を浴びている正極活物質として、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物Li(NixCoyMn2)O2(式中、x、y、zは、それぞれ独立した酸化物組成元素の原子分率であり、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1、及び0<x+y+z≦1を満たす。)がある。この材料は、正極活物質として盛んに研究が行われて使用されてきたLiCoO2より高電圧で使用されるため、高容量を出すという長所があり、また、Co含有量が相対的に少ないため、低価格であるという長所がある。しかし、レート特性(rate capability)及び高温での寿命特性が十分でないという短所を有する。
【0004】
それで、既存の Li(NixCoyMn2)O2を凌駕する、高い可逆容量を示すリチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)をリチウム二次電池に適用するための研究が行われている。
【0005】
しかし、寿命サイクル中に発生する電圧降下(voltage decay)現象が問題となっているが、これは、寿命サイクル中、遷移金属の移動による、スピネルに類似の構造からキュービック(cubic)までの相転移によるものである。このような電圧降下現象は、リチウム二次電池の商用化のためには、必ず解決する必要がある課題である。また、充填密度が低いという点も改善する必要がある問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施例に係るリチウム過剰層状酸化物を含む二次電池用正極活物質は、一次粒子の成長を調節することにより、従来の多結晶OLOに比べて、エネルギー密度が増加し、粒子の比表面積が減少するように調節することを目的としている。
【0007】
また、本発明は、正極活物質粒子の内部構造の安定性を向上させるためのドーパント物質を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施例に係るリチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)は、下記[化1]で示され、一次粒子が凝集して二次粒子を形成し、300nm~10μmの大きさを有する一次粒子が、前記二次粒子を構成する全一次粒子中の50~100体積%である。
【0009】
[化1]
(式中、0<r≦0.6、0<a≦1、0≦x≦1、0≦y<1、0≦z<1、及び0<x+y+z<1であり、前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Nb、Cu、In、S、B、及びBiのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)
【0010】
本発明の実施例に係る前記正極活物質において、前記一次粒子は、不規則形状(irregular)であり、一次粒子の大きさとは、最長の長さを意味する。
【0011】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、前駆体状態での一次粒子の大きさよりも正極活物質状態での一次粒子の大きさの方が大きくなり、(ドーパントを追加した正極活物質の一次粒子の大きさ)/(ドーパントを追加しない正極活物質の一次粒子の大きさ)の比が、1以上、好ましくは、50以上である。
【0012】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、1μm~2μmの大きさを有する一次粒子が、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、50~100体積%の含有量で含まれ得る。
【0013】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の前記二次粒子の平均粒径は、2μm~20μmであることができる。
【0014】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、前記[化1]中の前記M1は、前記リチウム過剰層状酸化物において前記一次粒子の成長を誘導する融剤(フラックス)として作用するドーパントであることができる。
【0015】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、前記[化1]中の前記M1は、Nb、Ta、Mo、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であり、前記M1は、NbまたはTaであることができる。
【0016】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、前記M1は、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、0.001~10モル%で含まれ得る。
【0017】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、前記M1は、Nbであり、前記Nbは、リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、0.1~1モル%で含まれ得る。
【0018】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、[化2]LiaM1’Ob(式中、0<a≦7、0<b≦15であり、M1’は、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)をさらに含むことができる。前記[化2]のLiaM1’Ob は、一次粒子間の成長を誘導するドーパントがリチウムと反応して生成される物質であることができる。
【0019】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、一次粒子の成長に伴い、XRD分析時に、I(104)での半値幅(FWHM(deg.))が、同じ条件で焼成する場合、M1が含まれていない物質に対して、M1を含むことによって、5~50%の割合で減少することができる。
【0020】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、2.7~4.0(Wh/L)であることができる。
【0021】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、M1が含まれていない物質に対して、5~30%の割合で増加することができる。
【0022】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の充填密度(g/cc)は、2.0~4.0(g/cc)であることができる。
【0023】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の比表面積(BET、m2/g)は、0.1~1.5(BET、m2/g)であることができる。
【0024】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の比表面積(BET、m2/g)は、一次粒子の成長に伴い、M1が含まれていない物質に対して、25~80%の割合で減少することができる。
【0025】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、Ni、Co、又はMnのうちから選択された金属の全モル数に対するリチウムのモル数の割合(Li/(Ni+Co+Mn))は、1.1~1.6であることができる。
【0026】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質において、Niの全モル数に対するMnのモル数の割合(Mn/Ni)は、1~4.5であることができる。
【0027】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、単斜晶系(monoclinic)構造のLi2MnO3と、菱面体晶系(rhombohedral)構造のLiMO2とが混在している固溶体相(phase)であり、前記Mは、Ni、Co、Mn、M1のうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であることができる。
【0028】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、初期充放電プロファイルの4.4V領域において、Li2MnO3による平坦な区間(plateau)を示すことができる。
【0029】
本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法は、Ni、Co及びMnのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上の元素を含む正極活物質前駆体を製造するステップ;及び、前記正極活物質前駆体に、リチウム化合物及び前記[化1]中のM1を含む化合物を混合して焼成するステップ;を含む。
【0030】
本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法では、前駆体状態での一次粒子の大きさよりも正極活物質状態での一次粒子の大きさの方が大きくなり、(ドーパントを追加した正極活物質の一次粒子の大きさ)/(ドーパントを追加しない正極活物質の一次粒子の大きさ)の比が、1以上、好ましくは、50以上である。
【0031】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法において、前記焼成するステップの温度は、750~950℃であることができる。
【0032】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法において、前記前駆体を製造するステップの後でかつ焼成するステップの前に、得られた前駆体を焙焼するステップをさらに含むことができ、前記焙焼するステップの温度は、300~600℃であることができる。
【0033】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法において、前記M1は、Nbであり、前記Nbを含む化合物は、Nb2O5であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法において、前記焼成ステップ後、前記焼成された正極活物質を水洗及び乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0035】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質の製造方法において、前記焼成ステップ後、前記焼成された正極活物質を熱処理するステップをさらに含むことができる。
【0036】
本発明の実施例に係る二次電池は、前記正極活物質を含む。
【発明の効果】
【0037】
本発明の実施例に係る、リチウム過剰層状酸化物を含む二次電池用正極活物質は、正極活物質粒子の内部構造の安定性を向上させるためのドーパント物質を含むことにより、従来知られた多結晶リチウム過剰正極活物質(OLO)に比べて、一次粒子が単結晶化され、これによって、充填密度が改善されると共にエネルギー密度が改善され、粒子の比表面積が減少する。
【0038】
また、前記正極活物質を含む二次電池は、従来知られた多結晶リチウム過剰正極活物質(OLO)を使用した場合に比べて、比表面積が減少することで正極活物質の表面部が減少するため、寿命及び電圧降下の問題が顕著に低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のSEM分析画像である。
【
図2A】2a及び2bは、本発明の比較例及び実施例による正極活物質断面のSEM分析画像である。
【
図2B】2a及び2bは、本発明の比較例及び実施例による正極活物質断面のSEM分析画像である。
【
図3A】3a及び3bは、本発明の比較例及び実施例による正極活物質のEDX分析結果を示す図である。
【
図3B】3a及び3bは、本発明の比較例及び実施例による正極活物質のEDX分析結果を示す図である。
【
図4】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のXRD分析結果示す図である。
【
図5】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のXRD分析結果示す図である。
【
図6】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のX線回折(X-ray Diffraction:XRD)分析の測定結果及びI(104)での半値幅(FWHM(deg.))を比較したグラフである。
【
図7】本発明の比較例及び実施例による正極活物質の充填密度(Packing density、g/cc)を比較したグラフである。
【
図8】本発明の比較例及び実施例による正極活物質の比表面積(BET、m
2/g)を比較したグラフである。
【
図9】本発明の比較例及び実施例による正極活物質の初期電圧プロファイルを比較したグラフである。
【
図10】本発明の比較例及び実施例による正極活物質の体積当たりのエネルギー密度を比較したグラフである。
【
図11】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のサイクル数(cycle number)による容量維持率(capacity retention)を比較したグラフである。
【
図12】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のサイクル数(cycle number)による容量(capacity)を比較したグラフである。
【
図13】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のサイクル数(cycle number)による電圧保持率(voltage retention)を比較したグラフである。
【
図14】本発明の比較例及び実施例による正極活物質のサイクル数(cycle number)による公称電圧(nominal voltage)を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明において使用される「含む」といった表現は、他の実施例を含む可能性を内包する開放型用語(open-ended terms)と理解されるべきである。
【0041】
本発明において使用される「好ましい」及び「好ましく」は、所定の環境下で所定の利点を提供し得る本発明の実施形態を指称するものであり、本発明の範疇から他の実施形態を排除するのではない。
【0042】
以下、本発明の一実施例による正極活物質について詳述する。
【0043】
本発明の実施例に係る正極活物質は、リチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)を含む。
【0044】
前記リチウム過剰層状酸化物は、単斜晶系(monoclinic)構造のLi2MnO3と、菱面体晶系(rhombohedral)構造のLiMO2とが混在している固溶体相(phase)であることができ、前記Mは、Ni、Co、Mn、M1のうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であることができる。
【0045】
また、本発明の実施例に係る前記過剰層状酸化物は、初期充放電プロファイルの4.4Vの領域においてLi2MnO3による平坦な区間(plateau)を有することができる。本発明の実施例に係る前記リチウム過剰層状酸化物は、初期充電の過程で、リチウムに対して、4.4Vの領域までは Li2MnO3相が電気化学的に非活性状態であり、4.4V以上では、Li2MnO3相からリチウムが脱離する反応、及び酸素発生(oxygen evolution)が起こることがあり得る。
【0046】
本発明の実施例に係る前記リチウム過剰層状酸化物は、下記[化1]で示される。
[化1]
(式中、0<r≦0.6、0<a≦1、0≦x≦1、0≦y<1、0≦z<1、及び0<x+y+z<1であり、前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Nb、Cu、In、S、B、及びBiのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)
【0047】
Ni、Co又はMnのうちから選択される金属の全モル数に対して、リチウムのモル%の割合(Li/(Ni+Co+Mn))は、1.1~1.6であることができる。
【0048】
前記[化1]で示されるリチウム過剰層状酸化物において、Ni、Co又はMnのうちから選択される金属の全モル数に対して、リチウムのモル数の割合(Li/(Ni+Co+Mn))は、1.1~1.6、1.2~1.6、1.2~1.5、1.2~1.4、又は1.2~1.3であることができる。
【0049】
前記[化1]中、前記xの値は、0超~0.5、0超~0.4、0超~0.3、0超~0.2、又は0超~0.1であることができる。
【0050】
前記[化1]中、前記yの値は、0超~0.5、0超~0.4、0超~0.3、0超~0.2、又は0超~0.1であることができる。
【0051】
また、Niの全モル数に対して、Mnのモル数の割合(Mn/Ni)が、1~4.5、1~4、2~4.5、2~4、3~4.5、又は3~4であることができる。
【0052】
本発明に係る正極活物質は、リチウム及びマンガンが豊富な酸化物であって、Mn及びLiの含有量と結晶粒界密度との割合を所定の範囲に調節することにより、密度及び電圧降下の問題などを効率よく改善することが可能である。
【0053】
本発明の酸化物は、層状構造であって、リチウム原子層と、Ni、Co、Mn、又はM1の金属原子層とが、酸素原子層を経て交互に重なるような層状構造を有することができる。
【0054】
前記正極活物質の層状構造の層をなす面は、C軸に垂直な方向に結晶配向性を有することができ、この場合、前記正極活物質中に含まれるリチウムイオンの移動性が向上し、前記正極活物質の構造安定性が増大することで、電池に適用すると、初期容量特性、出力特性、抵抗特性、及び長寿命特性が向上できる。
【0055】
また、一例として、本発明による前記リチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質は、単結晶(single-crystal)構造を有することができる。
【0056】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成することができ、前記一次粒子の大きさは、0.01~10μmであることができる。
【0057】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、300nm~5μmの大きさを有する一次粒子が、前記二次粒子を構成する全一次粒子中、50~100体積%、70~100体積%、又は100体積%に調節され得る。
【0058】
また、本発明の実施例に係る前記正極活物質は、300nm~10μmの大きさを有する一次粒子が、前記二次粒子を構成する全一次粒子中、50~100体積%、70~100体積%、又は100体積%に調節され得る。
【0059】
また、一例として、前記正極活物質は、500nm超~10μmの大きさを有する一次粒子が、前記二次粒子を構成する全一次粒子中、50~100体積%、70~100体積%、又は100体積%に調節され得る。
【0060】
また、一例として、前記正極活物質は、1μm~2μmの大きさを有する一次粒子が、二次粒子を構成する一次粒子の全体に対して、50~100%の含有量で含まれ得る。
【0061】
また、一例として、前記正極活物質は、1μm~10μmの大きさを有する一次粒子が、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、50~100体積%、70~100体積%、又は、100体積%に調節され得る。
【0062】
また、一例として、前記正極活物質は、1μm超の大きさを有する一次粒子が、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、50~100体積%、70~100体積%、又は100体積%に調節され得る。
【0063】
また、一例として、前記正極活物質は、2μm以上の大きさを有する一次粒子が、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、50~100体積%、50~70体積%未満に調節され得る。
【0064】
前記一次粒子の大きさとは、粒子の最長の長さを意味する。
【0065】
また、一例として、前記正極活物質の一次粒子の平均粒径は、500nm超~10μm、又は1μm~10μmに調節され得る。
【0066】
本発明において、平均粒径とは、粒径分布曲線において体積累積量の50%に相当する粒径と定義される。前記平均粒径は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。
【0067】
本発明は、リチウム過剰層状酸化物において、一次粒子の大きさを増大させて単結晶構造を有するように調節することにより、同じ条件下で焼成を行った場合、XRD分析時に、I(104)での半値幅(FWHM(deg.))が、M1が含まれていない比較例に比べて、M1が含まれている場合は、5~25%、5~20%、10~25%、又は10~20%の割合で減少するように調節することができる。
【0068】
また、本発明による正極活物質は、リチウム過剰層状酸化物において、一次粒子の大きさを増大させて単結晶構造を有するように調節することにより、体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)が、M1が含まれていない比較例に比べて、M1が含まれている場合は、5~25%、5~20%、10~25%、又は10~20%の割合で増加するように調節することができる。
【0069】
また、本発明による正極活物質は、前記リチウム過剰層状酸化物において、一次粒子の大きさを増大させて単結晶構造を有するように調節することにより、比表面積(BET、m2/g)が、M1が含まれていない比較例に比べて、M1が含まれている場合は、20~80%の割合で減少するように調節することができる。
【0070】
従来、リチウム過剰層状酸化物は、サイクリング中において電圧が降下するという問題があった。電圧降下は、サイクリング中、遷移金属の移動によるスピネル(spinel)に類似の構造からキュービック(cubic)までの相転移によるものであり、このような現象は、主に正極活物質の表面部において発生する。本発明は、前記一次粒子の成長を誘導し、前記正極活物質が単結晶を有するように調節することにより、体積当たりのエネルギー密度を増加させ、比表面積を減少させ、正極活物の表面部が減少されるようになり、寿命及び電圧降下の問題を解消することが可能となる。本発明において、前記一次粒子の成長誘導は、nucleation & ostwald ripening & particle aggregationの概念をいずれも含む。
【0071】
さらに、比表面積の減少によって電解液との副反応発生の問題を解消することが可能となる。
【0072】
本発明による正極活物質では、単結晶構造に相当する部分が多いほど、多結晶において発生する電圧降下の問題を改善することが可能となる。
【0073】
本発明による正極活物質は、一次粒子間の成長を誘導するドーパント(dopant)として、前記[化1]中のM1を含む。より好ましくは、前記M1は、前記リチウム過剰層状酸化物において、一次粒子間の成長を誘導する融剤(フラックス)として作用するドーパントであって、格子の構造にドーピングされ得る。一実施例として、リチウム化合物との焼成ステップにおいて、前記融剤(フラックス)ドーパントを添加、混合して共に熱処理を行うことで、一次粒子の大きさが増大するように調節することができる。融剤として作動するとは、一次粒子間の成長によって一次粒子の大きさを増大させるドーパントとして作用可能であることを意味する。
【0074】
前記M1は、Na、K、Mg、Al、Fe、Cr、Y、Sn、Ti、B、P、Zr、Ru、Nb、W、Ba、Sr、La、Ga、Mg、Gd、Sm、Ca、Ce、Fe、Al、Ta、Mo、Sc、V、Zn、Nb、Cu、In、S,B、及びBiのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であり、より好ましくは、一次粒子の大きさをより成長させて、特定の範囲に、より適宜に調節し得る、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であることができ、最も好ましくは、Nb及びTaのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上であることができる。
【0075】
本発明による正極活物質において、前記一次粒子間の成長を誘導するドーパント元素を、リチウム化合物との焼成ステップで混合して共に熱処理を行う場合、正極活物質の表面部が減少することで、寿命及び電圧降下の問題を改善することが可能となる。
【0076】
本発明による正極活物質は、前記正極活物質の表面と内部に前記ドーパント元素が均一に含まれるようになり、これによって、正極活物質の構造安定性が向上し、寿命特性及び熱的安定性が向上できる。
【0077】
本発明による正極活物質において、前記M1は、前記リチウム過剰層状酸化物の全体に対して、0.01~3モル%で含まれ得る。また、0.1~2モル%、より好ましくは、0.1~1モル%で含まれ得る。一次粒子の成長を誘導する融剤として含まれるドーパントM1が上記の範囲を超過する場合、リチウム複合酸化物が過量となって容量及び効率低下の原因となり、上記の範囲未満である場合、一次粒子を成長させる効果が十分に得られない。
【0078】
また、本発明の実施例に係る前記二次電池用正極活物質は、下記[化2]で示されるリチウム過剰層状酸化物(overlithiated layered oxide:OLO)をさらに含むことができる。
[化2]
(式中、0<a≦7、0<b≦15であり、前記M1
’は、Ba、Sr、B、P、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、及びWのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上である。)
【0079】
前記[化2]のLiaM1’Obは、一次粒子間の成長を誘導するドーパントがリチウムと反応して生成される物質であることができる。
【0080】
本発明の実施例に係る前記正極活物質のXRD分析時、I(104)での半値幅(FWHM(deg.))は、0.1~2.45(deg.)であることができるが、前記値は、マンガンの含有量に応じて変化し得る。それで、前記ドーパントM1の添加及び含有量を調節して半値幅の減少率を調節することにより、寿命及び電圧降下の問題を解消することができる。
【0081】
また、前記ドーパントM1の添加及び含有量を調節して得られる一実施例による正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、2.7~4.0(Wh/L)であることができる。
【0082】
また、ドーパントM1の添加及び含有量を調節して得られる一実施例による正極活物質の比表面積(BET、m2/g)は、0.01~2(BET、m2/g)であることができる。
【0083】
本発明の実施例に係る前記正極活物質粒子の平均粒径は、0.1~30μm、又は0.1~25μm、又は0.1~20μm、又は0.1~15μm、又は0.1~10μmであることができる。
【0084】
本発明の実施例に係るリチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質は、一次粒子が成長して二次粒子が形成されるような構造であることができる。
【0085】
また、前記正極活物質の粒子形態は、繊維、膜、又は球状であることができるが、より好ましくは、球状である。
【0086】
本発明において、平均粒径は、粒径分布曲線において、体積累積量の0%に相当する粒径と定義される。前記平均粒径は、例えば、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。
【0087】
なお、前記一次粒子の形状は、棒状(rod)、板状(plate)、球状(spherical)、楕円状(ellipse)、円盤状(disk)、不規則形状(irregular)であることができる。好ましくは、前記一次粒子の形状は、板状又は不規則形状のいずれか1つ以上である。
【0088】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、一次粒子の大きさが調節されることにより、二次粒子中の前記一次粒子の数が、1~10,000個、1~1,000個、1~100個、1~10個に調節され得る。
【0089】
本発明の実施例に係る前記正極活物質は、コーティング層をさらに含むことができる。
【0090】
前記コーティング層は、P、Nb、Si、Sn、Al、Pr、Al、Ti、Zr、Fe、Al、Fe、Co、Ca、Mn、Ti、Sm、Zr、Fe、La、Ce、Pr、Mg、Bi、Li、W、Co、Zr、B、Ba、F、K、Na、V、Ge、Ga、As、Sr、Y、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Ir、Ni、Zn、In、Na、K、Rb、Cs、Fr、Sc、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sb、Hf、Ta、Re、Os、Pt、Au、Pb、Bi、及びPoのうちから選択されるいずれか1つ以上のコーティング物質を含むことができるが、これらに制限されない。
【0091】
前記コーティング層は、前記正極活物質とリチウム二次電池に含まれる電解液との接触を遮断して副反応の発生を抑制することで、寿命特性が向上し、充填密度が増加され、コーティング層によって、リチウムイオン伝導体として作用すること可能となる。
【0092】
また、前記コーティング層は、前記一次粒子の粒界(grain boundary)の間に形成され得る。
【0093】
また、前記コーティング層の厚さは、0.1~500nmであることができる。
前記コーティング層は、前記正極活物質表面の全体に形成又は部分的に形成され得る。
【0094】
また、前記コーティング層は、単層コーティング、二重層コーティング、粒界コーティング、均一コーティング、又は島状コーティングの形態であることができる。
【0095】
本発明の実施例に係る前記リチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質において、前記正極活物質は、正極活物質粒子の内外部、即ち、二次粒子の内外部又は一次粒子の内外部の少なくとも一部において、前記Ni、Co、Mn、及びM1のうちの少なくともいずれか1つ以上が濃度勾配を示す濃度勾配部を含むことができる。
【0096】
本発明の実施例に係る正極活物質において、前記一次粒子内にリチウムイオン拡散経路を設けることができる。
【0097】
本発明の実施例に係る正極活物質において、前記層状構造の層をなす面は、一次粒子内でC軸に垂直な方向に結晶配向性を有し、一次粒子の内部又は外部に、正極活物質粒子の中心方向にリチウムイオン移動経路を設けることができる。
【0098】
以下、本発明の一実施例による正極活物質の製造方法について詳述する。
【0099】
本発明の実施例に係る前記二次電池用正極活物質の製造方法は、Ni、Co、及びMnのうちから選択される少なくともいずれか1つ以上の元素を含む正極活物質の前駆体を製造するステップを含む。
【0100】
前記前駆体を製造するため、ニッケル、コバルト、マンガン、ドーパントの原料物質として、それぞれの金属元素含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハライド、水酸化物、又はオキシ水酸化物などを使用することができ、水などの溶媒に溶解可能なものであれば、特に制限されることなく使用可能である。
【0101】
また、前記前駆体を製造するため、共沈(co-precipitation)、噴霧乾燥(spray-drying)、固相法、湿式粉砕、流動層乾燥法、振動乾燥法などで行うことができる。
【0102】
本発明の実施例に係る前記二次電池用正極活物質の製造方法は、前記得られた正極活物質の前駆体に、リチウム化合物、及び一次粒子間の成長を誘導する融剤として含まれるドーパントである前記[化1]中のM1を含む化合物を混合して焼成するステップを行う。
【0103】
本発明は、リチウム化合物との焼成ステップにおいて、一次粒子間の成長を誘導する融剤として含まれるドーパントM1、フラックスドーパントを添加することで一次粒子を成長させ、正極活物質の表面部が減少されるようになり、結果的に寿命及び電圧降下の問題を解消することが可能となる。
【0104】
本発明に係る二次電池用正極活物質の製造方法において、前記リチウム化合物は、リチウム含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハライド、水酸化物、又はオキシ水酸化物などを使用可能であるが、これらに制限されない。
【0105】
また、前記焼成ステップの温度は、750~950℃、800~950℃、850~950℃であることができる。
【0106】
また、前記前駆体製造ステップの後でかつ後述の焼成ステップの前に、得られた前駆体を焙焼するステップをさらに含むことができ、前記焙焼ステップの温度は、300~600℃、400~600℃、500~600℃であることができる。
【0107】
前記前駆体を焙焼するステップは、昇温及び維持を繰り返して行うか、昇温、維持、冷却、再昇温、維持、及び冷却の順に行うことができる。
【0108】
また、前記焼成ステップの後、前記焼成された正極活物質を水洗及び乾燥させるステップをさらに含むことができる。
【0109】
さらに、上述のステップを行った後、正極活物質の内部又は外部にコーティング層を形成するステップを含むことができ、前記コーティング層は、乾式コーティング、湿式コーティング、CVDコーティング、又はALDコーティング法により形成することができる。しかし、前記コーティング法は、前記正極活物質の一部にコーティング層を形成可能であれば、これらに制限されない。
【0110】
前記正極活物質の製造方法について、上述の正極活物質に関する記述がいずれも適用可能である。
【0111】
本発明の実施例に係る二次電池は、上述の正極活物質を含む。
【0112】
前記正極活物質は、上述の通りであり、バインダー、導電材、及び溶媒としては、二次電池の正極集電体上に使用可能なものであれば、特に制限されない。
【0113】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極に対向して位置する負極、前記正極と負極との間に電解質を含むことができるが、二次電池として使用可能なものであれば、特に制限されない。
【0114】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されない。
【0115】
<実施例1>正極活物質の製造
合成
共沈法(co-precipitation method)を用いて球形のNi0.2Co0.1Mn0.7CO3前駆体の合成を行った。
【0116】
90L級の反応器で、NiSO4・6H2O、CoSO4・7H2O、及びMnSO4・H2Oを、20:10:70のモル比(mole ratio)で混合した2.5Mの複合遷移金属硫酸水溶液に、25wt%のNaCO3と28wt%のNH4OHとを投入した。この時、反応器内のpHは、8.0~11.0、温度は、45~50℃に維持した。また、 得られた前駆体が酸化しないように、不活性ガスであるN2を反応器に投入した。合成撹拌完了後、フィルタプレス(Filter Press:F/P)装備を用いて洗浄及び脱水を行った。最後に脱水品を120℃で2日間乾燥し、75μm(200mesh)の篩にかけて4~20μmのNi0.2Co0.1Mn0.7CO3の前駆体を得た。
【0117】
焙焼
前記得られた前駆体を、Box焼成炉で、O2又はAir(50L/min)の雰囲気を維持しながら、2℃/分で昇温し、550℃で1~6時間維持した後、炉冷(furnace cooling)を行った。
【0118】
焼成
前記焙焼された前駆体を、Li/(Ni+Co+Mn)の比率が1.45となるようにLiOH又はLi2CO3を秤量し、また、一次粒子間の成長を誘導する融剤ドーパント(Flux dopant)としてNb2O5を0.3モル%秤量し、ミキサー(Manual mixer:MM)を用いて混合した。
【0119】
混合品を、Box焼成炉で、O2又はAir(50L/min)の雰囲気を維持しながら、2℃/分で昇温し、焼成温度900℃で7~12時間維持した後、炉冷(furnace cooling)を行い、正極活物質を製造した。
【0120】
実施例1で製造された正極活物質の組成は、Li:Ni:Co:Mn:Nb=15.3:15.1:9.3:59.8:0.4(wt%)であった。
【0121】
<実施例2>正極活物質の製造
上述の実施例1の焼成ステップにおいて融剤ドーパントとしてNb2O5を0.6モル%混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を製造した。
【0122】
実施例2で製造された正極活物質の組成は、Li:Ni:Co:Mn:Nb=15.0:14.8:9.3:60.0:0.8(wt%)であった。
【0123】
<比較例1>正極活物質の製造
上述の実施例1の焼成ステップにおいて融剤ドーパントとしてNb2O5を混合しない以外は、実施例1と同様にして正極活物質を製造した。
【0124】
<比較例2>正極活物質の製造
上述の実施例2の焼成ステップにおいて融剤ドーパントとしてアンモニウムニオベートオキサレート(C4H4NNbO9xH2O)を混合した以外は、実施例2と同様にして正極活物質を製造した。
【0125】
<実験例>SEM測定
上述の実施例及び比較例で製造された正極活物質のSEM測定を行い、その結果を
図1に示す。
【0126】
図に示されるように、上述の実施例1による正極活物質の一次粒子の大きさは、比較例に比べて大きさが増大し、一次粒子間の成長を誘導する融剤ドーパントとして添加されるNb2O5の添加量を増加させるほど一次粒子の大きさが増大することが確認された。
【0127】
本発明の実施例によって製造される正極活物質の場合、一次粒子の大きさが300nm~5μmと測定され、既存のナノサイズの一次粒子でなく、サブミクロン(sub-micron)サイズの一次粒子に調節可能であることが確認された。
【0128】
比較例2では、Nb化合物は、同じく0.6モル%を加えたが、比較例1で使用されたNb化合物とは異なって、Nbをより少量に0.3モル%添加した実施例1に比べて、粒子の大きさが小さく形成されることが確認された。
【0129】
<実験例>断面SEM測定
上述の実施例及び比較例で製造された正極活物質の断面SEMを測定し、その結果を
図2a及び
図2bに示す。
【0130】
図2aは、上述の比較例1で製造された正極活物質の断面SEM像であって、正極活物質の二次粒子の外部に存在する一次粒子だけでなく、二次粒子の内部に存在する一次粒子の大きさが小さいことが確認された。
【0131】
また、
図2bは、上述の実施例2で製造された正極活物質の断面SEM像であって、正極活物質の二次粒子の外部に存在する一次粒子だけでなく、二次粒子の内部に存在する一次粒子の大きさも成長したことが確認された。
【0132】
<実験例>EDXの測定
上述の実施例及び比較例で製造された正極活物質のEDX写真を測定し、その結果を
図3a及び
図3bに示す。
【0133】
図3aは、上述の実施例2で製造された融剤ドーパントが加えられた正極活物質のEDX結果を示すものであって、Ni、Co、及びMnの元素だけでなく、一次粒子間の成長を誘導する融剤ドーパントとして添加されるNbが、粒子内に均一に含まれていることが確認された。
【0134】
図3bは、上述の比較例1で製造された融剤ドーパントが加えられない正極活物質のEDX結果を示すものであって、Ni、Co、及びMnの元素のみが粒子内に均一に含まれていることが確認された。
【0135】
<実験例>XRD分析
本発明の実施例又は比較例で製造された正極活物質のXRD分析結果を、
図4~
図6に示す。XRD分析は、CuKα radiation=1.5406Å波長で使用された。
【0136】
図4から、フラックスドーパントを添加する場合、XRD分析時、リチウム過剰層状酸化物の主ピーク(major peak)であるI(003)が低い角度で移動(shifting)することが確認された。これは、フラックスドーパントであるNbがリチウム過剰層状酸化物の格子内にドーピングされた証拠であると確認される。
【0137】
図5から、本発明の実施例2によってNbが混合された場合、XRD分析時に、Li
3NbO
4によるピークが現われることが確認された。
【0138】
図6から、上述の実施例による正極活物質のXRD分析時に、I(104)での半値幅(FWHM(deg.))は、比較例に比べて減少し、一次粒子間の成長を誘導する融剤ドーパントの含有量を増加させるほど半値幅が減少することが確認された。
【0139】
より具体的に、一次粒子間の成長を誘導する融剤ドーパントとしてNbを0.3モル%添加して7.5%の減少率に調節され、0.6モル%を添加して17.3%の減少率に調節されることが確認された。同じ温度で焼成したにもかかわらず、ドーパントを添加して一次粒子の大きさを調節することができ、これによって、I(104)での半値幅を調節可能であることが確認された。
【0140】
<実験例>充填密度測定
図7から、上述の実施例による正極活物質の充填密度(packing density、g/cc)は、上述の比較例に比べて増加し、フラックスドーパントの含有量を増加させるほど充填密度が増加することが確認された。
【0141】
<実験例>BET測定
図8から、上述の実施例による正極活物質の比表面積(BET、m
2/g)は、比較例に比べて減少し、融剤ドーパントの含有量を増加させるほど比表面積(BET、m
2/g)が増加されることが確認された。より具体的に、融剤ドーパントとしてNbを0.3モル%添加すると、比表面積が60%減少し、0.6モル%を添加すると、比表面積が80%以上減少することが確認された。
【0142】
<実験例>電気化学特性測定
図9から、一次粒子の成長を誘導する融剤ドーパントを焼成ステップで添加した実施例では、そうでない比較例に比べて、優れた電圧特性が得られることが確認された。このように、比較例に比べてリチウム過剰層状酸化物を含む正極活物質の初期充放電容量が増加するのは、融剤ドーパントによりインタースラブ(inter-slab)が増加し、また、イオン伝導体コーティング層の存在によって、リチウムイオン(Liイオン)のキネティックス(kinetics)が増加するためである。
【0143】
図10から、上述の実施例による正極活物質の体積当たりのエネルギー密度(Wh/L)は、比較例に比べて増加し、融剤ドーパントの含有量を増加させるほど増加することが確認された。より具体的に、融剤ドーパントとしてNbを0.3モル%を添加して9.1%の増加率に調節され、0.6モル%を添加して14.9%の増加率に調節されることが確認された。
【0144】
図11から、融剤ドーパントを焼成ステップで添加した実施例では、そうでない比較例に比べて、優れた電圧特性が得られ、融剤ドーパントの含有量を増加させるほどサイクル数(cycle number)による容量維持率(capacity retention)が維持されることが確認された。
【0145】
図12から、融剤ドーパントを焼成ステップで添加した実施例では、そうでない比較例に比べて、優れた電圧特性が得られ、融剤ドーパントの含有量を増加させるほどサイクル数(cycle number)による容量(capacity)が維持されることが確認された。
【0146】
図13から、融剤ドーパントを焼成ステップで添加した実施例では、そうでない比較例に比べて、優れた電圧特性が得られ、融剤ドーパントの含有量を増加させるほどサイクル数(cycle number)による電圧保持率(voltage retention)が維持されることが確認された。
【0147】
図14から、融剤ドーパントを焼成ステップで添加した実施例では、そうでない比較例に比べて、優れた電圧特性が得られ、融剤ドーパントの含有量を増加させるほどサイクル数(cycle number)による公称電圧(nominal voltage)が維持されることが確認された。
【0148】