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  • 特許-ランフラットタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 17/00 20060101AFI20220823BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C15/00 M
B60C15/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020527414
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2019023950
(87)【国際公開番号】W WO2020004111
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018120305
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 正志
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-18771(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043205(WO,A1)
【文献】特開2006-35900(JP,A)
【文献】特開2002-301915(JP,A)
【文献】特開2012-126242(JP,A)
【文献】特開2008-149778(JP,A)
【文献】特表2001-510419(JP,A)
【文献】特開平11-157310(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ径方向外側へ向けて厚みが漸減すると共に、タイヤ軸方向の寸法に対してタイヤ径方向の寸法が大とされた、一対のビードコアと、
複数本のラジアルカーカスコードを含んで構成され、前記一対のビードコアを跨る本体部と前記ビードコアを折り返される折返し部とを備え、前記本体部と前記折返し部とで前記ビードコアの外周全体を覆うと共に、前記ビードコアからタイヤ径方向外側に向けて前記本体部と前記折返し部とが重ね合わされているカーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたベルトと、
前記カーカスのタイヤ幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向両側に向けて厚さが漸減するサイド補強層と、
タイヤ外側面に設けられ、ランフラット走行時にリムフランジに接触して前記ビードコアを埋設したビード部のタイヤ軸方向外側への倒れ込みを制限するリムガードと、
を備え、
前記カーカスの厚さの中心を通る中心線をケースラインとし、
標準リムに装着して零内圧の状態でタイヤ回転軸に沿った断面で見たときの、前記ビードコアのタイヤ径方向外側端を通って前記タイヤ回転軸に平行な基準線からタイヤ径方向へ計測した前記ケースラインの高さ寸法をサイドハイトSH、
前記基準線からタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの7%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線とケースラインとの交点を0.07SHp、
前記基準線からタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの44%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線とケースラインとの交点を0.44SHp、
タイヤ内面から前記リムガードを除くタイヤ外面までの総ゲージをG、
タイヤ内面から前記ケースラインまでのゲージをt、
としたきに、
前記基準線と前記交点0.07SHpとの間におけるt/Gが40~80%の範囲内に設定され、
前記交点0.07SHpと前記交点0.44SHpとの間におけるt/Gが55~95%の範囲内に設定され、
前記リムガードの頂点の位置が、前記基準線からタイヤ径方向外側へ前記サイドハイトSHの10~20%の範囲内に設定されている、
ランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記基準線からタイヤ径方向外側へ前記サイドハイトSHの20~40%の高さ位置における前記ケースラインを通って計測するt/Gが50~80%の範囲内に設定されている、請求項1に記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの内圧が低下した状態でも一定距離を走行可能にするランフラットタイヤとして、タイヤサイド部をサイド補強ゴムで補強したサイド補強型のランフラットタイヤがある(例えば、特開2012-116212号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ランフラットタイヤとして、通常走行時の乗り心地性能と、ランフラット走行時の耐久性、所謂ランフラット耐久性とを両立することが難しく、改善の余地があった。
例えば、通常走行時の乗り心地性能を向上するために、縦ばね定数を低下させる方法があるが、サイド補強ゴムを薄くしたり軟らかくすると、ランフラット耐久性が低下する。
ランフラット耐久性を確保するために、サイド補強ゴムを厚くすると、縦ばね定数が高くなり、通常走行時の乗り心地が悪化し、また、タイヤ重量が増加する。
【0004】
また、一般の空気入りラジアルタイヤでは、ビードコアのタイヤ径方向外側にビードフィラーが設けられており、カーカスは、ビードフィラー及びビードコアに巻き掛けられて係止されている。
ランフラット走行時では、ビード部が通常走行時に比較してタイヤ外側へ倒れ込む曲げ変形が大きくなる。ビード部に曲げ変形が生じると、ビード部、及びビードフィラーを挟んでタイヤ幅方向の一方側のカーカスには圧縮力が作用し、他方側のカーカスには張力が作用する。
【0005】
ラジアルタイヤのカーカスには、補強用のラジアルカーカスコードが埋設されているが、ビード部においては、ラジアルカーカスコードの向きがタイヤ径方向(ラジアル方向)となっているため、ビード部、及びビードフィラーを挟んでタイヤ幅方向の一方側のカーカスのラジアルカーカスコードに圧縮力が作用することになる。
【0006】
ラジアルカーカスコードには、一般的に有機繊維が用いられるが、有機繊維は、張力に比較して圧縮には弱い性質がある。このため、ラジアルカーカスコードに対し、ランフラット走行によって繰り返し圧縮力が作用するとラジアルカーカスコードが疲労し、ランフラット耐久性が低下する場合がある。
したがって、ランフラットタイヤのラジアルカーカスコードに対して圧縮力をできるだけ作用させないことが好ましい。
【0007】
本開示は、上記事実を考慮して、通常走行時の乗り心地性能と、ランフラット耐久性と、ラジアルカーカスコードの耐久性とを両立可能なランフラットタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るランフラットタイヤは、タイヤ径方向外側へ向けて厚みが漸減すると共に、タイヤ軸方向の寸法に対してタイヤ径方向の寸法が大とされた、一対のビードコアと、複数本のラジアルカーカスコードを含んで構成され、前記一対のビードコアを跨る本体部と前記ビードコアを折り返される折返し部とを備え、前記本体部と前記折返し部とで前記ビードコアの外周全体を覆うと共に、前記ビードコアからタイヤ径方向外側に向けて前記本体部と前記折返し部とが重ね合わされているカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられたベルトと、前記カーカスのタイヤ幅方向内側に設けられ、タイヤ径方向両側に向けて厚さが漸減するサイド補強層と、タイヤ外側面に設けられ、ランフラット走行時にリムフランジに接触して前記ビードコアを埋設したビード部のタイヤ軸方向外側への倒れ込みを制限するリムガードと、を備え、前記カーカスの厚さの中心を通る中心線をケースラインとし、標準リムに装着して零内圧の状態でタイヤ回転軸に沿った断面で見たときの、前記ビードコアのタイヤ径方向外側端を通って前記タイヤ回転軸に平行な基準線からタイヤ径方向へ計測した前記ケースラインの高さ寸法をサイドハイトSH、前記基準線からタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの7%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線とケースラインとの交点を0.07SHp、前記基準線からタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの44%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線とケースラインとの交点を0.44SHp、タイヤ内面から前記リムガードを除くタイヤ外面までの総ゲージをG、タイヤ内面から前記ケースラインまでのゲージをt、としたきに、前記基準線と前記交点0.07SHpとの間におけるt/Gが40~80%の範囲内に設定され、前記交点0.07SHpと前記交点0.44SHpとの間におけるt/Gが55~95%の範囲内に設定され、前記リムガードの頂点の位置が、前記基準線からタイヤ径方向外側へ前記サイドハイトSHの10~20%の範囲内に設定されている。
【0009】
本開示に係るランフラットタイヤでは、上記の様にしてt/Gが最適化されているので、サイド補強層を薄くしたりせずに、縦ばね定数を低下させ、通常走行時の乗り心地を改善することが出来る。
【0010】
本開示に係るランフラットタイヤでは、タイヤ外側面にリムガードを設けているので、ランフラット走行時におけるビード部の過剰な倒れ込みを抑制することができ、これによりビード部の歪みが抑制され、ランフラット耐久性を確保することができる。
【0011】
さらに、本開示に係るランフラットタイヤでは、ビードコアの断面形状が、通常の円形、矩形、多角形等と異なり、タイヤ径方向外側へ向けて厚みが漸減すると共に、タイヤ軸方向の寸法に対してタイヤ径方向の寸法が大とされた形状、言い換えれば、滴状に形成されている。そして、ビードコアを折り返すカーカスは、一対のビードコアを跨る本体部とビードコアを折り返される折返し部とを備え、本体部と折返し部とでビードコアの外周全体を覆うと共に、ビードコアからタイヤ径方向外側に向けて、本体部と折返し部とが重ね合わされている。
【0012】
このように、ビードコアよりもタイヤ径方向外側においてカーカスの本体部と折返し部とが重ねあわされているので、ランフラット走行時にビード部がタイヤ外側へ倒れ込むように曲げ変形を生じたときに、該本体部と該折返し部とが離間している場合に比較して、ラジアルカーカスコードに作用する圧縮力が抑制され、ラジアルカーカスコードの耐久性を確保することができる。
【0013】
これにより、本開示に係るランフラットタイヤでは、通常走行時の乗り心地性能と、ランフラット耐久性と、ラジアルカーカスコードの耐久性とを両立することが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本開示のランフラットタイヤによれば、通常走行時の乗り心地性能と、ランフラット耐久性と、ラジアルカーカスコードの耐久性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るランフラットタイヤをタイヤ軸方向に沿って切断した切断面の片側を示す半断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係るランフラットタイヤをタイヤ軸方向に沿って切断した切断面の片側を示す半断面図である。
図2B】タイヤ側部を示す拡大断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るランフラットタイヤをタイヤ軸方向に沿って切断した切断面の片側を示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ランフラットタイヤの構成)
以下、図1乃至図3を参照しながら本発明の実施形態に係るランフラットタイヤ10について説明する。なお、本実施形態では、乗用車用のランフラットタイヤ10について説明する。
【0017】
ここで、図中矢印TWはランフラットタイヤ10の幅方向(タイヤ幅方向)を示し、矢印TRはランフラットタイヤ10の径方向(タイヤ径方向)を示す。
【0018】
ここでいうタイヤ幅方向とは、ランフラットタイヤ10の回転軸と平行な方向を指し、タイヤ軸方向ともいう。また、タイヤ径方向とは、ランフラットタイヤ10の回転軸と直交する方向をいう。
【0019】
また、符号CLはランフラットタイヤ10の赤道面(タイヤ赤道面)を示している。さらに、本実施の形態では、タイヤ径方向に沿ってランフラットタイヤ10の回転軸側を「タイヤ径方向内側」、タイヤ径方向に沿ってランフラットタイヤ10の回転軸とは反対側を「タイヤ径方向外側」と記載する。
【0020】
一方、タイヤ幅方向に沿ってランフラットタイヤ10の赤道面CL側を「タイヤ幅方向内側」、タイヤ幅方向に沿ってランフラットタイヤ10の赤道面CLとは反対側を「タイヤ幅方向外側」と記載する。
【0021】
また、以下の説明において、リムとは、下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、”Approved Rim”、”Recommended Rim”)のことである。規格は、タイヤが生産又は使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国では、”The Tire and Rim Association Inc.のYear Book ”で、欧州では”The European Tire and Rim Technical OrganizationのStandards Manual”で、日本では日本自動車タイヤ協会の“JATMA Year Book”にて規定されている。
【0022】
図1乃至図3は、標準リム30に組み付けて内圧を充填していない状態(外気と同じ気圧)のランフラットタイヤ10のタイヤ回転軸に沿った断面図である。
図1に示されるように、本実施の形態に係るランフラットタイヤ10は、一対のビード部12と、カーカス14と、ベルト16と、ベルト補強層18と、トレッド部20と、タイヤサイド部22と、サイド補強層としてのサイド補強ゴム24と、インナーライナー32と、を備えている。
【0023】
ビード部12は、タイヤ幅方向に間隔を空けて左右一対設けられている(図1では、片側のビード部12のみ図示している。)。この一対のビード部12には、ビードコア26がそれぞれ埋設されており、このビードコア26の間には、カーカス14が跨っている。
本実施形態のビードコア26は、タイヤ径方向外側へ向けて厚みが漸減すると共に、タイヤ軸方向の寸法に対してタイヤ径方向の寸法が大とされた形状、言い換えれば、滴状に形成されている。
また、ビードコア26を折り返すカーカス14は、一対のビードコア26を跨る本体部14Aとビードコア26を折り返される折返し部14Bとを備え、本体部14Aと折返し部14Bとでビードコア26の外周全体を覆うと共に、ビードコア26からタイヤ径方向外側に向けて、本体部14Aと折返し部14Bとが重ね合わされている。
【0024】
(カーカス)
本実施形態のカーカス14は、1枚のカーカスプライ15によって構成されており、カーカスプライ15は、複数本のラジアルカーカスコード(図示省略。例えば、有機繊維コードや金属コードなど。)を被覆ゴムで被覆して形成されている。このようにして形成されたカーカス14が一方のビードコア26から他方のビードコア26へトロイド状に延びてタイヤの骨格を構成している。なお、本実施形態のランフラットタイヤ10は、ラジアル構造のタイヤであり、カーカスプライ15のラジアルカーカスコードは、タイヤ側部においてタイヤ径方向(ラジアル方向)に延びており、タイヤ外周部においてはタイヤ赤道面CLに対して交差する方向に延びている。
【0025】
なお、このカーカス14において、一方のビードコア26から他方のビードコア26に跨っている部分を本体部14A、ビードコア26をタイヤ内側から外側へ折り返されている部分を折返し部14Bと呼ぶ。なお、本実施形態において、折返し部14Bの端部14BEは、後述するベルト16のタイヤ幅方向最外端16Eの近傍において、ベルト16とカーカス14の本体部14Aとの間に挟持されている。
【0026】
以下の説明において、「ケースライン14CL」とは、カーカス14の厚みの中心線のことを指す。例えば、カーカスプライ15が一枚の部分においては、カーカスプライ15の厚みの中心線を「ケースライン14CL」とし、カーカスプライ15が複数枚重なっている部分においては、複数枚重なったカーカスプライ15の厚みの中心線を「ケースライン14CL」とする。また、カーカス14の本体部14Aと折返し部14Bとがある部分においては、本体部14Aと折返し部14Bとの中心線(図2Bにおける2点鎖線で図示する)を「ケースライン14CL」とする。
【0027】
また、本実施形態では、標準リム30に組み付けて内圧を充填していない状態のランフラットタイヤ10において、ビードコア26のタイヤ径方向外側端を通ってタイヤ回転軸(図示せず)に平行とされた基準線BLからタイヤ径方向外側へ向けて計測するケースライン14CLの最大高さSHをサイドハイトと呼ぶ(図1参照。)。
【0028】
さらに、本実施形態では、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの10%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FL1とケースライン14CLとの交点を0.1SHp、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの20%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FL2とケースライン14CLとの交点を0.2SHp、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの40%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FL4とケースライン14CLとの交点を0.4SHp、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの60%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FL6とケースライン14CLとの交点を0.6SHpと呼ぶ。
【0029】
本実施形態のカーカス14のケースライン14CLは、交点0.1SHpと交点0.2SHpとの間が、タイヤ内側に曲率中心を有し平均の曲率半径がR1とされたタイヤ外側へ凸となる円弧形状とされ、交点0.4SHpと交点0.6SHpとの間が、タイヤ内側に曲率中心を有し曲率半径がR2とされたタイヤ外側へ凸となる単一の曲率半径を有した円弧形状とされている。なお、交点0.2SHpと交点0.4SHpとの間のケースライン14CLは、交点0.1SHpと交点0.2SHpとの間の円弧形状、及び交点0.4SHpと交点0.6SHpとの間の円弧形状に対して滑らかに繋がるタイヤ外側へ凸となる円弧形状とされている。
【0030】
本実施形態では、曲率半径R1は、曲率半径R2よりも大きく設定されており、比R2/R1は0.3よりも大きく設定されている。また、比R2/R1は、0.4よりも大きく設定することが好ましい。なお、比R2/R1は、1.3よりも小さく設定することが好ましい。
さらに、曲率半径R1は、サイドハイトSHの100~200%の範囲内に設定されている事が好ましく、曲率半径R2は、サイドハイトSHの50~150%の範囲内に設定されている事が好ましい。
【0031】
ここで、曲率半径R1は平均値であり、交点0.1SHpと交点0.2SHpとの間のケースライン14CLは、単一の曲率半径を持つ円弧形状であってもよく、複数の曲率半径からなる円弧形状であってもよく、曲率半径が徐々に変化する略円弧形状であってもよい。
また、交点0.1SHpと交点0.2SHpとの間のケースライン14CLの曲率半径は、場合によっては無限大、言い換えれば、交点0.1SHpと交点0.2SHpとの間のケースライン14CLは直線形状であってもよい。
【0032】
図1と同じランフラットタイヤ10が記載された図2Aに示すように、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの7%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FLaとケースライン14CLとの交点を0.07SHp、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの44%離れた位置を通りタイヤ回転軸に沿って平行とされた仮想線FLbとケースライン14CLとの交点を0.44SHp、図2Bに示すように、タイヤ内面から後述するリムガード34を除くタイヤ外面までの総ゲージをG(タイヤ内面の接線に対して直角な方向、言い換えれば、法線の方向に計測)、タイヤ内面からケースライン14CLまでのゲージをt、としたきに、基準線BLと交点0.07SHpとの間(言い換えれば、ビード部12付近)におけるt/Gが40~80%の範囲内に設定され、交点0.07SHpと交点0.44SHpとの間(言い換えれば、後述するリムガード34付近)におけるt/Gが55~95%の範囲内に設定されている。
【0033】
本実施形態のビード部12においては、一般の空気入りタイヤで用いられているビードフィラーが設けられておらず、カーカス14の本体部14Aと折返し部14Bとでビードコア26の外周全体が覆われていると共に、本体部14Aと折返し部14Bとが、ビードコア26のタイヤ径方向端部26Aからタイヤ径方向外側に向けて互いに重ね合わされて密着している。
なお、折返し部14Bの端部14BEは、タイヤ最大幅部Wmaxの下方に位置している。
【0034】
仮想線FLWよりタイヤ径方向内側のサイド補強ゴム24の断面積をArri、仮想線FLWよりタイヤ径方向外側のサイド補強ゴム24の断面積をArroとしたときに、比Arri/Arroを、0.3~1.5の範囲内とすることが好ましく、0.3~1.0の範囲内とすることがより好ましく、0.5~0.6の範囲内とすることがより一層好ましい。
【0035】
総ゲージGと厚みtaとの比ta/Gは、0.6~1.0の範囲内とすることが好ましく、0.6~0.8の範囲内とすることがより好ましく、0.7~0.8の範囲内とすることがより一層好ましい。
【0036】
ランフラットタイヤ10の偏平率は、65%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、35%以下がより一層好ましい。
【0037】
図3に示すように、標準リム30のリム端を通りタイヤ径方向に平行な仮想線FLHが、タイヤ最大幅部Wmaxのタイヤ径方向内側のカーカス14の本体部14Aと交わる交点をPa、該交点Paとビードコア26のタイヤ幅方向内側端26Pとを結ぶ仮想線FLαがタイヤ幅方向に対してなす角度をαとしたきに、30°<α<70°とすることが好ましく、35°<α<60°とすることがより好ましく、35°<α<45°とすることがより一層好ましい。
【0038】
上記仮想線FLHが、タイヤ最大幅部Wmaxのタイヤ径方向外側のカーカス14の本体部14Aと交わる交点をPb、該交点Pbとビードコア26のタイヤ幅方向内側端26Pとを結ぶ仮想線FLβが、タイヤ幅方向に対してなす角度をβとしたときに、50°<β<80°とすることが好ましく、55°<β<70°とすることがより好ましく、55°<β<65°とすることがより一層好ましい。
【0039】
図1に示すように、サイド補強ゴム24のタイヤ径方向外側の他端部24B側は、第1ベルトプライ16Aのベルト端、及び第2ベルトプライ16Bのベルト端よりもタイヤ幅方向内側に配置されていることが好ましい。
【0040】
リムガード34の頂点34Tは、カーカス14の本体部14Aのタイヤ幅方向外端14maxよりもタイヤ幅方向外側に配置されていることが好ましい。
【0041】
(ベルト)
カーカス14のタイヤ径方向外側には、ベルト16が配設されている。本実施形態のベルト16は、1枚又は複数枚のベルトプライによって構成されている。本実施形態のベルト16は、一例として、タイヤ径方向内側の第1ベルトプライ16A、及び第1ベルトプライ16Aのタイヤ径方向外側に配置されて第1ベルトプライ16Aよりも幅狭の第2ベルトプライ16Bとを含んで構成されている。
【0042】
ベルトプライ16A、16Bは、互いに平行に並列された複数本のコード(本実施形態では、スチールコード)を被覆ゴムで被覆して形成されている。ベルトプライ16A、16Bを構成するコードは、タイヤ周方向に対して傾斜して配設されており(一例として、タイヤ周方向に対し15度~30度の傾斜角度で傾斜している。)。なお、ベルトプライ16Aのコードと、ベルトプライ16Bのコードとは、タイヤ赤道面CLに対して互いに反対方向に傾斜している。即ち、本実施形態のベルト16は、いわゆる交差ベルトである。
【0043】
ベルト16のタイヤ径方向外側には、ベルト補強層18が配設されている。ベルト補強層18は、一例としてタイヤ周方向に沿って延びるコードを含んで構成され、ベルト16の全体を覆うように配設されている。
【0044】
ベルト16及びベルト補強層18のタイヤ径方向外側には、トレッド部20を構成するトレッドゴム21が配置されている。トレッド部20は、走行中に路面に接地する部位であり、トレッド部20の表面には、タイヤ周方向に延びる周方向溝20Aが形成されている。また、トレッド部20には、タイヤ幅方向に延びる図示しない幅方向溝が形成されている。なお、周方向溝20A及び幅方向溝の形状や本数は、ランフラットタイヤ10に要求される排水性や操縦安定性等の性能に応じて適宜設定される。
【0045】
ビード部12とトレッド部20との間には、タイヤサイド部22が設けられている。タイヤサイド部22は、タイヤ径方向に延びてビード部12とトレッド部20とを連結している。タイヤサイド部22、及びビード部12において、カーカス14のタイヤ幅方向外側に、サイドゴム23が配置されている。
【0046】
(サイド補強ゴム)
タイヤサイド部22は、ランフラット走行時にランフラットタイヤ10に作用する荷重を負担できるように以下に説明するように構成されている。
タイヤサイド部22には、カーカス14のタイヤ幅方向内側にタイヤサイド部22を補強する単一のゴム材料からなるサイド補強ゴム24が配設されている。サイド補強ゴム24は、パンクなどでランフラットタイヤ10の内圧が減少した場合に車両及び乗員の重量を支えた状態で所定の距離を走行させるための補強ゴムである。なお、本実施形態では一例としてゴムを主成分とするサイド補強ゴム24を配設しているが、本発明はこれに限らず、サイド補強ゴム24は他の材料で形成してもよく、例えば、熱可塑性樹脂等を主成分として形成されていてもよい。
【0047】
本実施形態では、サイド補強ゴム24を1種類のゴム部材で形成しているが、これに限らず、例えば、硬さの異なる複数のゴム部材で形成してもよい。また、サイド補強ゴム24は、ゴム部材が主成分であれば、他にフィラー、短繊維、樹脂等の材料を含んでもよい。さらに、ランフラット走行時の耐久力を高めるため、サイド補強ゴム24を構成するゴム部材として、デュロメータ硬さ試験機を用いて20℃で測定したJIS硬度が70~85のゴム部材を含んでもよい。さらに、粘弾性スペクトロメータ(例えば、東洋精機製作所製スペクトロメータ)を用いて周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度60℃の条件で測定した損失係数tanδが0.10以下の物性を有するゴム部材を含んでもよい。
【0048】
サイド補強ゴム24は、カーカス14の本体部14Aの内面に沿ってタイヤ径方向に延びており、ビードコア26側及びトレッド部20側に向かうにつれて厚みが減少する形状、例えば、断面略三日月形状とされている。なお、ここでいう厚みとは、ランフラットタイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を零とした状態において、サイド補強ゴム24のタイヤ内面から垂直に測定した長さを指している。
【0049】
サイド補強ゴム24のタイヤ径方向内側の一端部24A側は、カーカス14を挟んでビードコア26のタイヤ幅方向内側に位置している。
一方、サイド補強ゴム24のタイヤ径方向外側の他端部24B側は、カーカス14を挟んでベルト16と重なっている。すなわち、サイド補強ゴム24の他端部24B側は、ベルト16とタイヤ幅方向にオーバーラップするように配設されている。
【0050】
さらに、ランフラットタイヤ10のタイヤ最大幅部Wmaxを通り、かつタイヤ回転軸に平行な仮想線FLW上で計測したときのタイヤ内面からタイヤ外面までの総ゲージをG、タイヤ内面からケースライン14CLまでをタイヤ内面に対して垂直な方向で計測したときの距離をtとしたときに、仮想線FL1と仮想線FL6との間において、距離tは、総ゲージGの30~70%の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0051】
また、サイド補強ゴム24が最大幅(tmax)となるサイド補強ゴム最大幅部位置24Pは、サイドハイトSHの20~60%の範囲内が好ましく、サイドハイトSHの30~50%の範囲内がより好ましく、サイドハイトSHの30~40%の範囲内がより一層好ましい。
【0052】
(インナーライナー)
本実施形態では、トレッド部20のタイヤ径方向内側におけるカーカス14、及びサイド補強ゴム24の内面に、インナーライナー32が配設されている。インナーライナー32は、一例として、ブチルゴムを主成分とするゴムで構成されている。インナーライナー32を構成するゴムは、ランフラットタイヤ10を構成する他のゴム(一例として、トレッドゴム21、サイドゴム23等)よりも、気体が透過し難く、かつロス(損失係数tanδ)が大きいものが用いられている。
【0053】
本実施形態のインナーライナー32は、タイヤ幅方向端32Eが、ベルト16のタイヤ幅方向最外端(第1ベルトプライ16Aの幅方向端部)16Eを通る仮想線FLEよりもタイヤ幅方向外側へ越えることのないように配置されている。
【0054】
タイヤサイド部22、及びビード部12の一部には、リムフランジ30Aとの離反点SP(ランフラットタイヤ10を標準リム30に装着して、内圧を零としたときのビード部12とリムフランジ30Aとが離間し始める点)よりもタイヤ径方向外側の外面に、リムガード34が一体的に設けられている。
【0055】
(リムガード)
リムガード34は、タイヤ回転軸に沿った断面で見たときに、タイヤサイド部22の仮想輪郭線22FLからタイヤ外側へ突出した略三角形状とされ、頂点34T(仮想輪郭線22FLからタイヤ外側へ最も離れた点)からタイヤ径方向外側の傾斜面34Aは、タイヤサイド部22の外面に滑らかに繋がっており、頂点34Tからタイヤ径方向内側の傾斜面34Bは、通常時、リムフランジ30Aとの間に隙間Sを介して対向している。
【0056】
リムガード34の頂点34Tは、基準線BLからタイヤ径方向外側へ前記サイドハイトSHの10~20%の範囲内に設けられている。
【0057】
リムガード34の頂点34Tと仮想線FL2とのタイヤ径方向の距離Laは、サイドハイトSHの4~10%の範囲内に設定することが好ましい。
リムガード34の頂点34Tとリムフランジ30Aのリム径方向最外側の端部を通るタイヤ回転軸に沿って平行な仮想線FLaとのタイヤ径方向の距離Lbは、サイドハイトSHの3~10%の範囲内に設定することが好ましい。
リムガード34の頂点34Tは、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの10~20%の範囲内に設けることが好ましい。
また、リムガード34の頂点34Tからケースライン14CLまでの厚みtaは、離反点SPにおけるビード部12の厚みtb(ケースライン14CLに対して垂直に計測)の140~300%の範囲内に設定することが好ましい。
【0058】
(作用、効果)
次に、本実施形態のランフラットタイヤ10の作用について説明する。
本実施形態のランフラットタイヤ10は、ビード部12からトレッド部20にかけて、上記の様にして比t/Gの値を最適化しているので、サイド補強ゴム24を薄くしたりせずに、縦ばね定数を低下させ、通常走行時の乗り心地を改善することが出来る。
【0059】
また、本実施形態のランフラットタイヤ10では、タイヤ外側面にリムガード34を設けているので、ランフラット走行時におけるビード部12の過剰な倒れ込みを抑制することができ、これによりビード部12の歪みが抑制され、ランフラット耐久性を確保することができる。
【0060】
さらに、本実施形態のランフラットタイヤ10では、ビードコア26の断面形状が、通常の円形、矩形、多角形等と異なり、タイヤ径方向外側へ向けて厚みが漸減すると共に、タイヤ軸方向の寸法に対してタイヤ径方向の寸法が大とされた形状、言い換えれば、滴状に形成されている。そして、ビードコア26を折り返すカーカス14は、一対のビードコア26を跨る本体部14Aとビードコア26を折り返される折返し部14Bとを備え、本体部14Aと折返し部14Bとでビードコア26の外周全体を覆うと共に、ビードコア26からタイヤ径方向外側に向けて、本体部14Aと折返し部14Bとが重ね合わされて密着しているので、ランフラット走行時にビード部12がタイヤ外側へ倒れ込むように曲げ変形を生じたときに、従来タイヤの様に本体部と折返し部とが離間している場合に比較して、ラジアルカーカスコードに作用する圧縮力が抑制され、ラジアルカーカスコードの耐久性(一例として、圧縮力を繰り返し受けることによる疲労に対する耐久性)を確保することができる。
【0061】
これにより、本実施形態のランフラットタイヤ10では、通常走行時の乗り心地性能と、ランフラット耐久性と、ラジアルカーカスコードの耐久性とを両立することが出来る。
【0062】
なお、本実施形態のランフラットタイヤ10では、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの20~40%の高さ位置(曲率半径R1の円弧と、曲率半径R2の円弧との切替位置付近)におけるケースライン14CLを通って計測するt/Gが50~80%の範囲内に設定することで、縦ばね定数を低下させる効果を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態のランフラットタイヤ10では、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの40~60%の高さ位置(リムガード34とバットレス(ショルダー)の中間の位置付近)におけるケースライン14CLを通って計測するt/Gを60~80%の範囲内に設定することで、縦ばね定数を低下させる効果を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態のランフラットタイヤ10では、リムガード34の頂点34Tの位置が、基準線BLからタイヤ径方向外側へサイドハイトSHの10~20%の範囲内に設けられているため、ランフラット走行時におけるビード部12の過剰な倒れ込みが抑制され、ランフラットタイヤ耐久性が確保される。
【0065】
[その他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0066】
上記実施形態のカーカス14は、1枚のカーカスプライ15によって構成されていたが、本発明はこれに限らず、カーカス14は複数枚のカーカスプライ15によって構成されていてもよい。
【0067】
上記実施形態のベルト16は、2枚のベルトプライによって構成された所謂交錯ベルトであったが、スパイラルベルトであってもよい。また、ベルト16は、樹脂層内にコードを埋設した構造のものであってもよい。
【0068】
上記実施形態では、乗用車用のランフラットタイヤについて説明したが、本発明は乗用車用以外の車両に用いるランフラットタイヤについても適用できる。
【0069】
2018年6月25日に出願された日本国特許出願2018-120305号の開示は、その全体が参照される。
本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照されることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照される。
図1
図2A
図2B
図3