(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/10 20060101AFI20220823BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20220823BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20220823BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C08F220/10
C09J4/02
C08J5/12 CEZ
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2021083461
(22)【出願日】2021-05-17
(62)【分割の表示】P 2019543679の分割
【原出願日】2018-09-19
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017179741
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 英喜
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶次
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 千亜紀
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-043427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/10 -220/40
C09J 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(5)を含有する組成物。
(1)(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、(1-1)10~70質量部、(1-2)10~60質量部であり、(1-3)
17~60質量部を含有する重合性ビニルモノマー
(1-1)一般式(A)で示される(メタ)アクリル系モノマー
一般式(A)
Z-O-R
1
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R
1はアルキル基を示す。)
(1-2)一般式(B)で示される(メタ)アクリル系モノマー
【化1】
(1-3)多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである
、非環式の(メタ)アクリル系モノマー
(2)熱ラジカル重合開始剤
(3)光ラジカル重合開始剤
(4)芳香族アミン及び/又はピリジン誘導体
(5)有機金属塩
【請求項2】
(1-3)多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである(メタ)アクリル系モノマーが、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(5)有機金属塩がβ-ジケトンキレート、β-ケトエステルキレート、有機酸金属塩からなる群の1種以上である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のうちの1項記載の組成物を第一剤と第二剤の二剤に分け、第一剤が少なくとも(2)熱ラジカル重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(4)芳香族アミン及び/又はピリジン誘導体と(5)有機金属塩を含有する二剤型の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のうちの1項記載の組成物からなる接着剤組成物。
【請求項6】
ダンパー材の接着に使用する請求項5記載の接着剤組成物。
【請求項7】
請求項5又は6記載の接着剤組成物により被着体を接合する接合体。
【請求項8】
被着体がダンパー材である請求項7記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、接着剤組成物等の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
常温かつ短時間で硬化する常温硬化型接着剤への要求は、省力化、省資源及び省エネルギー等のために年々増大する傾向にある。従来、常温硬化型接着剤として例えば、第二世代アクリル系接着剤(以下SGAという)が知られている。
【0003】
SGAは二剤型であるが、二剤の正確な計量を必要とせず、不完全な計量や混合、時には二剤の接触だけでも、常温で数分又は数十分で硬化するため、作業性に優れる。しかもSGAは衝撃接着強さが高く、ハミ出し部分の硬化も良好であるために、スピーカー部品の組み立て用の接着に好適である(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、最近では、さらに生産タクトを短縮するために、数秒単位での硬化速度が求められている。
【0005】
紫外線硬化型接着剤は一般的に数秒で硬化するものもあるが、紫外線が当たらない部分は硬化しないという問題がある。
【0006】
特許文献2には、部材同士の接着に使用する組成物の硬化体を水に浸漬して接着した部材同士を水に浸漬し取り外す仮固定用の組成物であり、かつ、(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)有機過酸化物、(D)分解促進剤、(E)光重合開始剤及び(G)粒状物質を含有する組成物を二剤に分け、第一剤が少なくとも(C)を含有し、第二剤が少なくとも(D)を含有する二剤型の組成物が記載されている。しかし特許文献2は、(メタ)アクリル系モノマーの種類や配合割合については概括的に記載しているのみであって、硬度が要求されるダンパー材としての使用を想定できるものでもない。
【0007】
特許文献3には、(A)ニトリルブタジエンラバー、(B)(メタ)アクリル系組成物、(C)エナール構造を有する化合物及び(F)ラジカル重合開始剤を含有する第一剤と、(A)ニトリルブタジエンラバー、(B)(メタ)アクリル系組成物、(D)アミン構造を有する化合物及び(E)銅を含む化合物を含有する第二剤と、を含有する組成物が記載されている。しかし、特許文献3も(メタ)アクリル系モノマーの種類や配合割合については概括的に記載しているのみであって、硬度が要求されるダンパー材としての使用を想定できるものでもない。また特許文献3の実施例は、メタクリル酸を使用するものであり、(メタ)アクリル酸エステルを使用しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-159835号公報
【文献】国際公開第2013/039226号
【文献】国際公開第2010/041710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では上述した課題を解決できないことに鑑み、例えば、硬化性、硬度、接着性が両立できる組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、以下を提供できる。
【0011】
<1>下記(1)~(5)を含有する組成物。
(1)(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、(1-1)10~70質量部、(1-2)10~60質量部であり、(1-3)10~60質量部を含有する重合性ビニルモノマー
(1-1)一般式(A)で示される(メタ)アクリル系モノマー
一般式(A)
Z-O-R
1
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R
1はアルキル基を示す。)
(1-2)一般式(B)で示される(メタ)アクリル系モノマー
【化1】
(1-3)多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである(メタ)アクリル系モノマー
(2)熱ラジカル重合開始剤
(3)光ラジカル重合開始剤
(4)芳香族アミン及び/又はピリジン誘導体
(5)有機金属塩
【0012】
<2>(1-3)多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである(メタ)アクリル系モノマーが、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートである<1>記載の組成物。
【0013】
<3>(5)有機金属塩がβ-ジケトンキレート、β-ケトエステルキレート、有機酸金属塩からなる群の1種以上である<1>又は<2>記載の組成物。
【0014】
<4><1>~<3>のうちの1項記載の組成物を第一剤と第二剤の二剤に分け、第一剤が少なくとも(2)熱ラジカル重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(4)芳香族アミン及び/又はピリジン誘導体と(5)有機金属塩を含有する二剤型の組成物。
【0015】
<5><1>~<4>のうちの1項記載の組成物からなる接着剤組成物。
【0016】
<6>ダンパー材の接着に使用する<5>記載の接着剤組成物。
【0017】
<7><5>又は<6>記載の接着剤組成物により被着体を接合する接合体。
【0018】
<8>被着体がダンパー材である<7>記載の接合体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、硬化性と接着性と硬度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】スピーカー3点部の構造を示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態を詳細に説明する。本明細書における数値範囲は、別段の定めのないかぎり、その上限値と下限値を含むものとする。
【0022】
(1)重合性ビニルモノマーは、ラジカル重合可能であればよい。重合性ビニルモノマーは、(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。(メタ)アクリル系モノマーとは、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーをいう。
【0023】
(1)重合性ビニルモノマー100質量部とは、(1-1)、(1-2)及び(1-3)の合計100質量部であることが好ましい。(1)重合性ビニルモノマー100質量部とは、第一剤中の(1)重合性ビニルモノマーと第二剤中の(1)重合性ビニルモノマーの合計100質量部であることが好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル系モノマーの含有量は重合性ビニルモノマー100質量部中、70質量部以上が好ましく、85質量部以上がより好ましく、100質量部が最も好ましい。
【0025】
(1)重合性ビニルモノマーの含有量は、組成物100質量部中、70質量部以上が好ましく、85質量部以上が好ましく、90質量部以上が最も好ましい。
【0026】
本実施形態で使用する(1)重合性ビニルモノマーは下記の(1-1)~(1-3)を含有する。
【0027】
(1-1)一般式(A)で示される(メタ)アクリル系モノマー
一般式(A)
Z-O-R1
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R1はアルキル基を示す。)
【0028】
R1は、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。炭素数10以下だと表面硬化性が向上してベタツキがなく、硬化速度が向上する。R1は、非置換の炭化水素基が好ましい。R1は、鎖式基が好ましい。R1は、飽和基が好ましい。
【0029】
このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びイソプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、安価で接着性が良好な点で、メチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
(1-2)一般式(B)で示される(メタ)アクリル系モノマー
【化2】
【0031】
R2、R2’は炭素数2~6個のアルキレン基が好ましく、炭素数2個のエチレン基がより好ましい。R3、R3’はメチル基が好ましい。m+nは0~40が好ましく、1~30がより好ましく、3~20が最も好ましく、4~17が尚更好ましい。m+nが40以下であると接着性が向上する。
【0032】
このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン及び2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、接着性と硬化速度の点で、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0033】
(1-3)多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである(メタ)アクリル系モノマー。
【0034】
このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、一般式(C)、一般式(D)、一般式(E)又は一般式(F)で表される(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましい。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
一般式(C)~(F)においてR4のうちの少なくとも2つは一般式(G)で表される基であることが好ましい。一般式(C)~(E)においてR4のうちの3つは一般式(G)で表される基であることがより好ましい。
【0041】
これらの中では、非環式の多官能(メタ)アクリレートが好ましい。多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物をいう。
【0042】
このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、硬度と硬化速度の点で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0043】
(1-1)の使用量は、(1)の合計100質量部中、10~70質量部が好ましく、20~60質量部がより好ましく、30~50質量部が最も好ましい。10質量部以上だと硬度が高くなりすぎず、70質量部以下だと硬化速度が早く、硬度が低下しすぎない。
【0044】
(1-2)の使用量は、(1)100質量部中、10~60質量部が好ましく、17~50質量部がより好ましく、20~40質量部が最も好ましい。10質量部以上だと硬化速度が早く、接着性が大きく、硬度も低下しすぎず、60質量部以下だと硬度が低下しすぎない。
【0045】
(1-3)の使用量は、(1)100質量部中、10~60質量部が好ましく、17~50質量部がより好ましく、20~40質量部が最も好ましい。10質量部以上だと硬化速度が早く、接着性が大きく、60質量部以下だと硬度が高くなりすぎず、接着性が大きい。
【0046】
本実施形態で使用する(2)熱ラジカル重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド及びターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物が好ましく、これらの1種以上が使用できる。これらの中では、成分(1)との反応性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0047】
本実施形態で使用する成分(2)の使用量は、成分(1)100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましい。0.5質量部以上だと硬化速度が早くなり、10質量部以下だと貯蔵安定性が良くなる。
【0048】
本実施形態で使用する(3)光ラジカル重合開始剤としては、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾイン安息香酸、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン誘導体、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール等のアルキルアセトフェノン誘導体、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアセトフェノン誘導体、ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン-1等のα-アミノアルキルアセトフェノン誘導体、イソブチリル-メチルフォスフィン酸メチルエステル、イソブチリル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、ピバロイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2-エチルヘキサノイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、ピバロイル-フェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル、p-トルイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、o-トルイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,4-ジメチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、p-3級ブチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル、ビバロイル-(4-メチルフェニル)-フォスフィン酸メチルエステル、ピバロイル-フェニルフォスフィン酸ビニルエステル、(メタ)アクリロイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、イソブチリル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、1-メチル-1-シクロヘキサノイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2-エチルヘキサノイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-トルイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、o-トルイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-3級ブチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、(メタ)アクリロイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,2-ジメチル-ヘプタノイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、テレフタロイル-ビス-ジフェニルフォスフィンオキサイド、アジポイル-ビス-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6-ジメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイル-ジフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,3,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-トリフォスフィン酸メチルエステル、2,4,6-トリメトキシベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸エステル、2,6-ジクロルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,3,4,6-テトラメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジブロムベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6-ジクロルベンゾイル-若しくは2,6-ジメトキシベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体、1,2-オクタンジオン,1-〔-4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)〕、エタノン1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル化合物が挙げられる。これらの中では、硬化速度に優れる点で、アルキルアセトフェノン誘導体、α-ヒドロキシアセトフェノン類、ホスフィンオキサイド類からなる群の1種以上が好ましく、アルキルアセトフェノン誘導体がより好ましい。アルキルアセトフェノン誘導体の中では、ベンジルジメチルケタールが好ましい。これらは1種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
本実施形態で使用する成分(3)の使用量は、成分(1)100質量部に対して、0.5~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましい。0.5質量部以上だと硬化速度が早くなり、10質量部以下だと貯蔵安定性が良くなる。
【0050】
本実施形態で使用する(4)芳香族アミン及び/又はピリジン誘導体としては、以下が挙げられる。芳香族アミンとして、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン及びN,N-ジオキシエチル-p-トルイジン等が挙げられる。ピリジン誘導体としては、2,4-ピリジンジアミン等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。
これらの中では、成分(1)との反応性の点で、芳香族アミンが好ましい。芳香族アミンの中では、N,N-ジメチルアニリンが好ましい。
【0051】
成分(4)の使用量は、成分(1)100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。0.05質量部以上だと硬化速度が早くなり、5質量部以下だと貯蔵安定性が良くなる。
【0052】
本実施形態で使用する成分(5)有機金属塩としては、β-ジケトンキレート、β-ケトエステルキレート、有機酸金属塩からなる群の1種以上が好ましい。β-ジケトンキレートとしては、アセチルアセトネートのキレートが好ましい。アセチルアセトネートのキレートとしては、バナジルアセチルアセトネート、コバルトアセチルアセトネート及び銅アセチルアセトネート等が挙げられる。アセチルアセトネートのキレートの中では、バナジルアセチルアセトネートが好ましい。β-ケトエステルキレートとしては、アセト酢酸エチルのキレート、ナフテン酸(naphthenic acid)銅、ナフテン酸バナジル等が挙げられる。有機酸金属塩としては、脂肪族カルボン酸が好ましい。脂肪族カルボン酸としては、2-エチルヘキシル酸銅、ステアリン酸バナジル等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、成分(2)との反応性の点で、還元性を有する金属塩が好ましく、β-ジケトンキレート、β-ケトエステルキレートからなる1種以上がより好ましく、β-ジケトンキレートが最も好ましい。
【0053】
成分(5)の使用量は、成分(1)100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。0.05質量部以上だと硬化速度が早く、接着性が大きく、5質量部以下だと未反応の成分が残らず、接着性が向上する。
【0054】
本実施態様としては、硬化性組成物として使用することが挙げられる。本実施態様としては、硬化性樹脂組成物として使用することが挙げられる。本実施態様としては、二剤型の組成物として使用することが挙げられる。本実施態様としては、接着剤組成物として使用することが挙げられる。
【0055】
本実施態様の中では、貯蔵安定性に優れる点で、二剤型の接着剤組成物として使用することが好ましい。
【0056】
二剤型の接着剤組成物については、本実施形態の接着剤組成物の必須成分全てを貯蔵中は混合せず、接着剤組成物を第一剤及び第二剤に分け、第一剤に少なくとも成分(2)を、第二剤に少なくとも成分(4)と成分(5)を別々に貯蔵する。成分(3)は第一剤、第二剤のどちらに貯蔵しても構わない。この場合、両剤を同時に又は別々に被着体に塗布して接触、硬化することによって、二剤型の接着剤組成物として使用できる。
【0057】
二剤型の接着剤組成物については、第一剤及び第二剤を、2:1~1:2の割合(質量比)で混合することが好ましく、1.5:1~1:1.5の割合(質量比)で混合することがより好ましく、1:1の割合(質量比)で混合することが最も好ましい。
【0058】
別の実施態様としては、第一剤及び第二剤のいずれか一方又は両方に(メタ)アクリル系モノマー及びその他の任意の成分を予め含有せしめ、使用時に両者を混合することによって、一剤型の接着剤組成物として使用できる。
【0059】
本実施形態の接着剤組成物は、下記の光源を用いたエネルギー線の照射により、硬化することができる。
【0060】
本実施形態において、接着剤組成物の硬化、接着に用いられる光源としては、特に限定されないが、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ(インジウム等を含有する)、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、キセノンエキシマランプ、キセノンフラッシュランプ、ライトエミッティングダイオード(以下、LEDという)等が挙げられる。これらの光源は、それぞれの光ラジカル重合開始剤の反応波長に対応したエネルギー線の照射を効率よく行える点で、好ましい。
【0061】
上記光源は、各々放射波長、エネルギー分布が異なる。そのため、上記光源は光ラジカル重合開始剤の反応波長等により適宜選択される。又、自然光(太陽光)も反応開始光源になり得る。
【0062】
上記光源は、直接照射、反射鏡等による集光照射、ファイバー等による集光照射を行ってもよい。低波長カットフィルター、熱線カットフィルター、コールドミラー等も用いることもできる。
【0063】
エネルギー線を照射して、組成物を硬化させる際は、波長365nmにおいて10~1000mW/cm2の照度で組成物に照射し硬化させることが好ましく、波長365nmにおいて50~500mW/cm2の照度で組成物に照射し硬化させることがより好ましく、波長365nmにおいて100~200mW/cm2の照度で組成物に照射し硬化させることが最も好ましい。
【0064】
本実施形態の組成物は、ダンパー材の接着に使用することが好ましい。本明細書におけるダンパー材とは、スピーカー用ダンパーに使用する材料をいう。スピーカー用ダンパーは、例えば、スピーカーの振動板を振動可能になるように支持する。スピーカー用ダンパーは、繊維材料等からなる布材に樹脂を含浸した後、加熱成型加工することにより、製造している。布材の中では、綿が好ましい。樹脂の中では、成型性の点で、フェノール樹脂が好ましい。
【0065】
スピーカーは、例えば、
図1の構造を示す。スピーカーは、ボトムプレート1、リング状のマグネット2、リング状のトッププレート3を積層し、接着することにより得られる界磁部にフレーム4を結合し、このフレーム4の周縁部5にコーン6の周縁部(コーンエッジ)7を結合し、このコーン6の中央部にボイスコイル8を結合し、このボイスコイル8の中間部をダンパー9で保持してボイスコイル8の下部をボトムプレート1の中央部にはまりこむように構成している。スピーカーは、コーン6の中央上面にダストキャップ10を貼り付けて構成している。
【0066】
コーン6、ボイスコイル8及びダンパー9からなるスピーカー3点部の接着は、例えば、
図2に示すようになっている。ボイスコイル8は、ボイスコイル8の外周に紙テープ11を巻き付け、さらに紙テープ11の外周にコイル12を巻き付けて構成している(図中、丸印で明示した部分はスピーカー3点部の接着箇所を示す。スピーカー3点部は接着剤組成物13により接着している)。
【実施例】
【0067】
以下の実験例により本実施形態を詳細に説明する。以下、各使用材料の使用量の単位は質量部で示す。
【0068】
使用材料は、表1~4に示した。
【0069】
組成物や評価に使用した材料を以下に示した。
[使用材料]
メタクリル酸メチル
メタクリル酸
2,2-ビス(4-メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン:m、nは、一般式(B)のm、nをいう。一般式(B)において、Z、Z’はメタクリロイル基を示し、R2、R2’はエチレン基を示し、R3、R3’はメチル基を示す。
トリメチロールプロパントリメタクリレート
トリメチロールプロパントリアクリレート
クメンハイドロパーオキサイド
ベンジルジメチルケタール
N,N-ジメチルアニリン
バナジルアセチルアセトネート
SPCC:市販品、SPCC-Dブラスト処理鋼板
【0070】
各物性については、以下のようにして測定した。特記しない限り、温度23℃、相対湿度50%の環境下において、測定した。
【0071】
[固着時間]
ダンパー材の片方に第一剤と第二剤を等量混合したものを塗布し、その後ダンパー材(布材にフェノール樹脂を含浸させた素材、布として綿を使用)同士を重ね合わせて貼り合わせたものを試料とした。貼り合わせ(接着面積:10mm×10mm)直後に、紫外線(水銀キセノンランプ:Execure3000 HOYA社製、波長:365nm、照度:150mW/cm2)を所定の時間照射した。試料の固着時間(単位:秒)は、温度23℃、湿度50%の環境下で、プッシュプルゲージ(ModelS、Komura社製)で引っ張り、貼り合わせ直後から、2N以上の強度が測定されるまでの時間を測定した。
【0072】
固着時間においては、硬化性の点で、10秒以内に2N以上の強度が発現することが好ましい。
【0073】
[硬度]
JIS K6253-3:2012に則り、第一剤と第二剤を等量混合したものを、直径:100mm、厚さ2mmの円型枠(シリコーンシート)に塗布し、PETフィルム(188μm)にて、両面を貼り合わせ、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間硬化させた樹脂を、同環境雰囲気下で硬度計(高分子機器株式会社社製 タイプDデュロメーター)にて測定を行った。測定開始から3秒後の数値を記載した。
【0074】
硬度は、スピーカーの音質と耐振動性の点で、ショアーD61以上71以下が好ましい。
【0075】
[SPCC/SPCC引張剪断接着強さ(引張剪断接着強さ)]
JIS K6856:1994に従い、試験片(100mm×25mm×1.6mmt、SPCC-Dサンドブラスト処理)の片方に第一剤と第二剤を等量混合したものを塗布し、その後、直ちにもう片方の試験片(100mm×25mm×1.6mmt、SPCC-Dサンドブラスト処理)を重ね合わせて貼り合わせた後、温度23℃、相対湿度50%の環境下において、24時間養生したものを試料とした。試料の引張剪断接着強さ(単位:MPa)は、温度23℃、相対湿度50%の環境下において、引張速度10mm/分で測定した。
【0076】
引張剪断接着強さは、接着性の点で、4.2MPa以上が好ましい。
【0077】
[実験例1~18]
表1~4の組成(質量部で示す)で各使用材料を混合して、第一剤と第二剤からなる接着剤組成物を調製し、測定結果を表1~4に併記した。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
本実施形態は、硬化性と接着性が優れる。本実施形態は、ショアーD(硬度)が61以上71以下であるので、スピーカーの音質と耐振動性が優れる(実験例1~10)。また本実施形態は、(1-1)~(1-3)の使用量を更にそれぞれ30~50質量部、20~40質量部、20~40質量部の範囲とすることにより、一段と効果が向上する(実験例1~4と実験例5~10との対比)。
【0083】
(1-1)を使用しないと、硬度が大きすぎ、接着性が小さい(実験例11)。(1-1)の代わりに、メタクリル酸を使用すると、接着性が小さい(実験例18)。(1-2)を使用しないと、接着性が小さい(実験例17)。(1-3)を使用しないと、光ラジカル硬化性が小さく、接着性が小さい(実験例16)。(2)を使用しないと、硬化しない(実験例12)。(3)を使用しないと、光ラジカル硬化性が小さい(実験例13)。(4)を使用しないと、光ラジカル硬化性が小さく、硬度が小さい(実験例14)。(5)を使用しないと、硬化しない(実験例15)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本実施形態は、スピーカー部品の組み立て用の接着に好適であり、硬化速度が速く、スピーカー組立等の生産タクトを短縮できる効果を奏する。
【0085】
本実施形態は、紫外線を照射する事により、数秒で次工程に移る際の振動等で位置ズレを発生しない強度を確保でき、更に、紫外線が当たらない箇所でも良好な硬化性を示すため、生産性に優れるという効果を奏する。
【0086】
本実施形態は、最適な硬度を有し、スピーカーの音質や耐振動性に優れる組成物を提供できる。
【0087】
本実施形態は、SGA接着剤の優れた性能と光硬化型接着剤の速硬化性を有する接着剤組成物を提供でき、産業上の有益性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0088】
1 ボトムプレート
2 マグネット
3 トッププレート
4 フレーム
5 フレームの周縁部
6 コーン
7 コーンの周縁部(コーンエッジ)
8 ボイスコイル
9 ダンパー
10 ダストキャップ
11 紙テープ
12 コイル
13 接着剤組成物