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特許7128369放射線治療計画作成のためのシステム、コンピュータプログラム製品、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】放射線治療計画作成のためのシステム、コンピュータプログラム製品、及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220823BHJP
   A61B 34/10 20160101ALN20220823BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61B34/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021569003
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2020063113
(87)【国際公開番号】W WO2020234032
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】19175437.3
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521505471
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ,エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ボクランツ,ラスムス
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,キール
(72)【発明者】
【氏名】ロフマン,フレドリック
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510585(JP,A)
【文献】特表2016-532530(JP,A)
【文献】特表2019-511321(JP,A)
【文献】国際公開第2016/144914(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00-5/10
A61B 34/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の治療体積の放射線治療計画を生成する方法であって、前記方法は、コンピュータソフトウェアによって指令されるコンピュータにより自動的に実行され、前記方法は
-基準線量分布をもたらすように設計された少なくとも1つの基準線量関数を取得するステップであって、前記基準線量分布は、前記患者の治療体積にわたる許容できる線量分布であり、前記基準線量関数は、結果として生じる線量分布と基準線量分布との差を最小にするように設計されるステップと、
-少なくとも1つの最適化関数として少なくとも1つの基準線量関数を含む多基準最適化問題を定義するステップと、
-少なくとも2つの可能な治療計画のセットを生成するべく多基準最適化問題に基づいて少なくとも2つの最適化手順を実行するステップと、
-可能な治療計画のセットに基づいて、前記患者治療するために用いられる治療計画を取得するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記基準線量分布に対応する各基準線量関数を生成するステップが、
-前記患者の治療体積にわたる許容できる線量分布の範囲を示す信頼区間を提供することと、
-基準線量分布を生成することであって、前記基準線量分布は前記信頼区間内にあることと、
-前記基準線量分布に基づいて前記基準線量関数を生成することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信頼区間を提供するステップは、入力線量分布を提供し、前記入力線量分布の周りの区間を信頼区間として定義するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記入力線量分布は、治療される患者の既存の治療計画から得られる臨床的に送達可能な線量分布である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記入力線量分布は、線量予測アルゴリズムから得られる推定線量分布である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記治療計画を取得するステップは、前記可能な治療計画のうちの1つを、使用する治療計画として選択することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記治療計画を取得するステップは、少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
可能な治療計画のうちの少なくとも1つの品質を評価し、前記評価の結果に応じて、可能な治療計画のうちの1つを使用する計画として選択するか、又は少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することによって治療計画を取得するステップをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記最適化手順は、パレート最適の可能な治療計画のセットを生成するように行われ、前記治療計画を取得するステップが、少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの最適化関数は、目的関数を表す、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの最適化関数は、制約関数を表す、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも第1及び第2の基準線量関数が、それぞれ第1及び第2の基準線量分布に基づいて生成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータシステムのプロセッサで実行されるときにコンピュータシステムに請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施させるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品。
【請求項14】
プロセッサ(33)及びプログラムメモリ(36)を備えるコンピュータシステム(31)であって、前記プログラムメモリは請求項13に記載のコンピュータプログラムを備える、コンピュータシステム(31)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療計画作成に関し、特に、多基準最適化(MCO)を含むそのような計画作成に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療の分野では、重要課題は、高品質の計画を考案することである。健康な組織への損傷を可能な限り抑え、好ましくは心臓又は脊髄などのリスク臓器(OAR)への損傷をまったく引き起こさずに、腫瘍などの標的体積に所望の効果を確実に与えるべく、治療計画を最適化する方法の改善が常に探求されている。
【0003】
治療計画最適化の1つの形式は、臨床医がナビゲーションインターフェースを通じて様々な治療オプションを探索することを可能にする、多基準最適化(MCO)である。この形式の最適化は、最適化関数のセットを含む最適化問題に基づいている。各最適化関数は目的関数又は制約であり得る。いくつかの可能な治療計画が最適化関数に基づいて得られる。可能な計画を使用すると、目的関数の値を調整して計画間で直線的にナビゲートすることによって、多基準治療計画をリアルタイムで作成することができる。
【0004】
MCOを含む放射線治療計画作成は、光子、軽イオン、又は電子に基づく外部ビーム放射線療法、或いは小線源療法などの様々なタイプの放射線療法のために行うことができる。逆計画技術を用いる可能な計画の作成は、特定の治療技術に合わせる必要があり、一方、ナビゲーションの原理は、特定のカスタマイゼーションなしに治療技術に関係なく適用することができる。
【0005】
MCOでは、少なくとも2つの目的関数を含む最適化問題を使用して、特定の患者の症例に関係したいくつかの可能な治療計画を生成する。計画のうちの1つが、最も適切な計画として選択される。代替的に、送達可能な治療計画を生成するのに用いられ得るナビゲート線量分布を選択するために、そのようないくつかの可能な治療計画の線量分布間でナビゲートすることが知られている。
【0006】
この目的のために、いくつかの治療計画作成システムは、オペレータが線量分布の組み合わせを選択するべく異なる線量分布間でナビゲートできるようにするために、いくつかのスライダバーを表示するユーザインターフェースを有する。場合によっては、1つの好ましい線量分布が選択される。ナビゲーションは、好ましくは、最初の線量分布の周りの線量分布の特定の限られた範囲内で行われる。
【0007】
MCOによる最適化問題に用いられる少なくとも2つの目的関数は、1つの目的の改善に1つ以上の他の目的の劣化が必要とされるという意味で或る程度両立しない。パレート面は、他の目的のうちの少なくとも1つの劣化なしには目的を改善できないようなパレート最適治療計画、すなわち、実行可能な計画で構成される。実行可能性の定義は、MCO問題の制約によって決まる。したがって、ナビゲーションは、様々な目的関数の実行間で最良の妥協点を提示する線量分布を特定することを目的としている。欧州特許出願EP18177329 A1は、パレート最適化の原理をより詳細に説明している。
【0008】
MCOに用いられる目的関数及び制約は、治療計画の品質測定量に基づいている。目的関数は、例えば、特定の臓器への最小又は最大線量の観点で、通常は線量分布に関係した所望の値からのパラメータの偏差を測定する。制約は、品質測定量と、実行可能な値の関連するセットを含む。目的関数として及び制約において用いられる品質測定量は、連続性及び微分可能性などの、最適化に適した数学的特性を有しているべきである。目的関数として及び制約において用いられる品質測定量は、通常は、構造体への実際のボクセル線量と基準線量レベルとの偏差に対する二次ペナルティなどのペナルティである。
【0009】
オペレータが各目的関数の所望の値を調整することを可能にするユーザインターフェースが開発されている。目的関数ごとに1つのスライダバーが提供され、オペレータはスライダバーを操作することができる。スライダの動きは、入力として所望の目的関数値をとるナビゲーションアルゴリズムによって、線量分布のウエイトの変更に変換される。ナビゲーションを容易にするために、スライダの動きの可能な範囲を制限するべく、クランプが適合される場合がある。最も単純な実施形態では、クランプは、スライダに関連した目的関数値の上限として機能する。
【0010】
放射線治療計画は関連する線量分布を有するため、パレート面の近似を定義する可能な治療計画の線量分布を、本明細書ではパレート線量分布と呼ぶ。パレート面が定義又は近似されると、ナビゲート線量分布を生成するべく、パレート線量分布の線形補間によって実際の線量計画作成が行われる。
【0011】
効率的なMCOには、明確に定義された最適化問題と、満足のいく結果を保証する入力治療計画を含む、良好な入力データが必要とされる。臨床的に関連性がある、すなわち、患者への送達に許容できる線量分布を生じる治療計画をナビゲートして提供することが課題である。これにより、限られた数の治療計画を使用して満足のいく結果を達成することができるようになり、ナビゲーションがより効率的となる。
【0012】
US2017/0072221(米国特許出願公開第2017/0072221号公報)は、以前の治療計画を含む知識ベースから生成される複数のサンプル計画の品質測定量であるMCO目的関数又は制約を作成する目的識別モジュールを用いたパレート面の生成を開示している。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、そのままで又はMCOナビゲーションの入力計画として用いられ得る所与の患者の症例に関する可能な治療計画のコレクションを提供する改善された方法を提供することである。
【0014】
本発明は、放射線治療計画を生成する方法、患者の治療体積の放射線治療計画を生成する方法であって、コンピュータ内で実行される以下の、
-基準線量分布をもたらすように設計された少なくとも1つの基準線量関数を取得するステップであって、前記基準線量分布は、前記体積にわたる許容できる線量分布であり、前記基準線量関数は、結果として生じる線量分布と基準線量分布との差を最小にするように設計されるステップと、
-少なくとも1つの最適化関数として少なくとも1つの基準線量関数を含む多基準最適化問題を定義するステップと、
-少なくとも2つの可能な治療計画のセットを生成するべく多基準最適化問題に基づいて少なくとも2つの最適化手順を実行するステップと、
-可能な治療計画のセットに基づいて、患者の治療に用いられる治療計画を取得するステップと、
を含む、方法に関する。
【0015】
この方法は、治療計画が、患者への送達に臨床的に許容できる1つ以上の基準線量分布に基づいていることを保証する。これにより、臨床的に関連性があり、さらなる調整なしに患者の治療に用いるのに十分に高品質であり得る、可能な治療計画のセットを生成することができる。また、MCOナビゲーションに用いられる可能な線量分布は、すべて適切な線量分布の範囲内にあることが保証されているという意味で臨床的に関連性があるため、さらなる調整のための計画間のMCOナビゲーションが容易になる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、照射体積に適した線量分布であるとみなされる入力線量分布が提供される。入力線量分布は、好ましくは、例えば治療される患者の既存の治療計画から得られる、臨床的に送達可能な線量分布である。入力線量分布はまた、例えば線量予測アルゴリズムから得られる、推定線量分布とすることができる。臨床的に送達可能とは、治療送達システムが技術的に線量分布を送達できることを意味する。
【0017】
基準線量分布に対応する基準線量関数は、好ましい実施形態において、以下のように生成することができる:信頼区間が、入力線量分布の周りに定義され、入力線量分布からの基準線量分布の可能な偏差を制限する。1つ以上の基準線量分布が信頼区間内で定義され、基準線量関数が各基準線量分布に対して定義される。好ましくは、それぞれ基準線量分布に基づくいくつかの基準関数が生成され、基準線量分布は互いに異なる。各基準線量関数は、結果として得られる線量分布と所与の基準線量分布との差にペナルティを課す目的関数として、又は制約としてとして定式化することができる。基準線量関数は最適化問題に含まれる。最適化問題は、基準線量分布に関係した基準線量関数のみを含み得るが、普通は1つ以上の他の最適化関数を含むことになる。
【0018】
定義済みの基準線量関数の使用は、入力線量分布からの結果として得られる線量分布の偏差をより現実的に測定することができるようにすべての空間線量分布を考慮に入れることができることを意味する。これにより、標準の最適化関数の関数値の観点で偏差が測定される場合に比べて、代替的な計画を生成するときに入力線量分布の品質がより良好に保持される。特に、標準の最適化関数では測定できない線量形状の好みを考慮に入れることができる。
【0019】
他の目的関数、すなわち、基準線量分布に関係しないものは、臨床目標に関係するか、テンプレートから作成されるか、又は手動で選択され得る。それらは、例えばリスク臓器への低減した線量を処方する、すべての標的のカバレッジ及び均一性を改善する、又は標的への線量の適合性を改善し得る。
【0020】
好ましくはパレート最適である計画のセットは、MCO問題に基づく最適化プロセスの繰返しによって生成される。加重和法又はイプシロン制約法などの、パレート面表現を生成するためのいくつかのよく知られた技術が存在する。したがって、最適化手順は、パレート最適の可能な治療計画のセットを生成するように実行することができ、治療計画を得るステップは、少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することを含む。
【0021】
計画のセットは、放射線治療計画を選択する又は生成するのに用いられる。これは、計画のセットを個別の代替として提示し、その後、計画のうちの1つを選択するか、又は微調整のためのMCOナビゲーションへの入力として計画のセットを使用することを含み得る。後者のケースでは、治療計画を得るステップは、少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することを含む。この場合の線量分布は、好ましくは、上記で定義したパレート線量分布である。いくつかの実施形態では、計画のうちの1つをそのまま用いることができるかどうか、又はMCOナビゲーションを行うべきであるかどうかを判断するべく、計画のセットにおける各計画の品質を評価するステップが存在する。評価の結果に応じて、可能な治療計画のうちの1つを使用する計画として選択するか、又は少なくとも2つの可能な治療計画に対応する線量分布間でナビゲートし、ナビゲーションの結果に基づいて計画を生成することによって治療計画を取得するかどうかが決定される。
【0022】
本発明に係る方法は、治療計画の微調整のために用いることができ、これは、治療計画を自動的に生成する場合に特に興味深い可能性がある。
【0023】
計画のセットがMCOナビゲーションへの入力として用いられる場合、使用される最終的な治療計画は、パレート最適の治療計画に対応する基準線量分布間の微調整によって得ることができる。
【0024】
本発明の方法は、治療の送達に用いられるハードウェアに依存しない。したがって、この方法は、例えば、外部ビーム光子線療法、電子療法、イオンビーム療法、及び小線源療法などの、多基準最適化を適用可能な任意の治療技術に等しく有効である。
【0025】
本発明はまた、コンピュータシステムのプロセッサで実行されるときにコンピュータシステムに前記請求項のいずれか一項に記載の方法を実施させる、好ましくは非一時的なストレージ手段上にあるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品に関する。本発明はまた、プロセッサ及びプログラムメモリを備えるコンピュータシステムであって、前記プログラムメモリがこのようなコンピュータプログラムを備える、コンピュータシステムに関する。
【0026】
本発明は、例として、添付図面を参照して、以下でより詳細に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】入力線量分布と信頼区間と基準線量関数との関係性を例示する。
図2】二次元のパレート面を例示する。
図3】本発明に係る方法の流れ図である。
図4】信頼区間内の確率の使用を例示する。
図5】本発明の方法が実施され得るコンピュータシステムを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、x軸に沿った位置の関数としての線量分布を例示する二次元の座標系である。図1は、説明の目的で提供された、入力線量分布の単純化された例であり、信頼度尺度を指定する方法にすぎないことを理解されたい。普通は、線量分布は三次元になる。第1の実線11は、入力線量分布を例示する。入力線量分布は、患者の各領域への理想線量を含むが実際に達成され得るものからは程遠い、計画作成によく用いられる理想線量分布とは対照的に、実際に達成され得る現実的な線量分布であるべきである。入力線量分布は、例えば、既存の治療計画の結果として生じる線量、インポートされた線量分布、自動計画作成のための線量予測アルゴリズムからの推定線量分布、又は以前に治療された患者の線量であり得る。
【0029】
信頼度尺度は、好ましくは、患者体積のボクセルあたりの実行可能な偏差の区間の観点で定義されるべきである。図1では、実線の両側に1つずつある破線13、15は、入力線量分布の周りの信頼区間を画定し、入力線量分布からのどれだけ大きな偏差が許容されるか、すなわち、基準線量分布の許容値を指定する。見てわかるように、信頼区間は、x軸に沿った異なる位置で異なる幅を有することができる。これは、信頼区間、すなわち、所与の位置の破線間の距離が狭い、図1ではxの所与の値が狭い領域での高精度に対応する。自動計画作成の場合、信頼区間の基礎となる信頼度尺度は、線量予測の副産物として得ることができる。例えば、線量予測が、決定木のフォレストの多数決をとることで作成される場合、信頼度尺度は、個々のツリーにわたって観察された変動性に基づいている場合がある。線量予測がニューラルネットワークに基づいている場合、予測の不確実性は、ネットワークに外乱を導入し(例えば、ノード間のリンクをランダムに切断する)、予測の結果として得られる変動性を分析することによって推定することができる。代替的に、信頼区間は、ユーザが手動で指定することができる。
【0030】
本発明の実施形態によれば、1つ以上の基準線量分布が信頼区間内で定義される。1つの適切な可能な基準線量分布は、信頼区間内の最低線量、すなわち、最低の可能な線量分布に対応する、下側の破線13に正確に従うものである。リスク臓器(OAR)には常により低い線量が望ましいため、このような基準線量分布は、OARの目的関数として用いられる基準線量関数を生成するために用いることができる。同様に、信頼区間内の最高線量に対応する基準線量分布を使用してOARの制約を生成することができ、この制約は、OARの最小の許容できるレベルの回避に対応する。標的構造の目的及び制約は、処方線量レベルからの偏差を制限する、又は基準線量分布を理想的な標的線量に向けてプッシュする、又はこれらの組み合わせである信頼区間内の基準線量分布を選択することによって同様に定義することができる。例えば、標的の処方線量レベルに可能な限り近い、又は処方線量レベルから可能な限り遠い基準線量分布を選択することができる。基準線量分布はまた、入力線量分布11と一致し得る。基準線量分布の総数は自由に選択することができ、例えば、10個の基準線量分布を定義することができる。
【0031】
各基準線量分布は、その基準線量分布を達成するように設計された目的関数又は制約である基準線量関数を定式化するのに用いられる。したがって、基準線量関数は、基準線量関数に関連付けられた基準線量分布への、結果として生じる線量分布の近さの尺度である。基準線量関数は、ボクセルごとのレベルでの結果として生じる線量分布と基準線量分布との差の尺度であり得る。同様に、ボクセルのクラスタ間の差を測定することによって、あまり保守的でない基準線量関数が定義され得る。例えば、ボクセルのクラスタは、患者体積内のポイントへの近接性に基づいて、又は標的体積への近接性に基づいて定義され得る。次いで、このようなクラスタの平均線量を比較することができる。クラスタはまた、入力線量分布に従って同様の線量を受けるボクセルに基づいて形成することができる。基準線量関数はまた、治療計画の品質保証に用いられるガンマ関数などの線量分布間の類似性の他の空間的尺度、又はピクセル化された画像間の類似性の他の尺度に基づくことができる。
【0032】
多くの場合、基準線量関数は、所与の関心領域(ROI)に関連付けられたボクセルのセットにのみ作用するように制限される。基準線量関数はまた、複数の構成要素の基準線量関数の加重和として定義される複素関数とすることができる。基準線量関数は、線量体積ヒストグラム(DVH)ポイント又は平均線量値などのポイント特徴に関する類似性の尺度である標準の最適化関数とは対照的に、空間線量分布全体の近さの尺度であることに留意されたい。
【0033】
図2は、目的関数の簡略化されたセットの多基準最適化の原理を例示する。MCOでは、多基準最適化問題は、目的関数のセット及び制約のセットの観点で定義される。上で説明したように、本発明によれば、少なくとも1つの目的関数及び/又は少なくとも1つの制約は、上記で定義した基準線量関数である。
【0034】
これは、二次元の表示を可能にするためにそれぞれ2つの目的関数f及びf(両方とも最小にされる)のみを使用して図2に例示されている。実際のケースでは、目的関数の数は、通常は10個位までの間であり、多次元空間を必要とする。楕円で囲まれた領域は、制約に関して実行可能な解に対応する目的関数ベクトルを表す。
【0035】
太い実線の曲線は、2つの目的関数f及びfの達成可能な組み合わせを定義するパレート最適解に対応する目的関数値のベクトルを示す。この曲線は、多基準最適化におけるパレート面として知られている。一般的なケースでは、パレート面はN次元空間内の面であり、Nは目的関数の数である。見てわかるように、パレート面上のどのポイントにおいても、目的関数のうちの1つを改善すると他の1つが劣化することになる。目的関数の任意の選択された組み合わせは、所望の結果に基づくトレードオフとなる。
【0036】
このシステムは、いくつかのパレート線量分布を備え、そのそれぞれはパレート面上のポイントをもたらす。この例では、5つのパレート線量分布が存在し、それぞれパレート面上の対応するポイントA、B、C、D、Eを有する。ポイントAの場合、第2の目的関数fは高い値を有するが、第1の目的関数fはより望ましい低い値を有する。ポイントEの場合、第1の目的関数fは高い、より劣った値を有するが、第2の目的関数fは、ポイントAに比べて低い、より良好な値を有する。中間ポイントB、C、Dの場合、両方の目的関数の値は、最外ポイントA及びEに関する値の間である。図2はまた、これらの2つのポイントを生成する線量分布の加重和によってポイントDとEの間で補間されるポイントxを示す。
【0037】
多基準最適化の本質は、閉じた曲線上の又は影付き領域内のポイント、言い換えれば、すべてのパレート線量分布の加重和を見つけることであり、これにより、患者にとって最良の可能な臨床転帰が得られる。ナビゲート線量分布が選択される時点では正確な結果は未知のため、最も好ましい計画の選択は、臨床医に代わる部分的に主観的な選択である。これは、パレート面上のポイント、又はすべての実行可能な解によって定義される領域内のポイントであり、後者は領域内のポイントyによって示される。
【0038】
図3は、図1に関連して説明した概念を参照した、本発明の一実施形態に係る方法の流れ図である。この方法への入力データは、入力線量分布I31及び入力線量分布の周りの信頼区間I32である。入力線量分布及び信頼区間は、図1に関連して説明したとおりであり、任意の適切な様態で一緒に又は順次に提供又は取得することができる。
【0039】
ステップS31において、例えば信頼区間内のサンプリングによって、1つ以上の基準線量分布が得られる。図1に関連して説明したように、基準線量分布は、信頼区間内の可能な線量分布である。ステップS32において、ステップS31で得られた基準線量分布のそれぞれに対して基準線量関数が定義される。理解されるように、以下のステップで用いられる基準線量関数のセットは、各基準線量関数が許容限界内であることがわかっている線量分布をもたらす限り、任意の適切な様態で取得することができる。
【0040】
ステップS33は、異なる基準線量分布を選択することができ、この新たに選択された線量分布に対する基準線量関数を生成することができるという意味で、基準線量関数を調整できる随意的なステップである。調整の例は、基準線量のシフトなどの基準値のシフト、又は特定の正の上限内の基準線量関数値が実行可能であるとみなされるような制約の調整である。シフトの大きさは、ユーザ入力又は線量予測アルゴリズムによって計算される予測精度に基づいており、したがって、線量予測が不確実な領域でのより大きいシフトが許容される。領域は、空間的である、すなわち、互いに近くに存在するボクセルを含むか、又は線量ベースである、すなわち、同様の線量が割り当てられているボクセルを含み得る。
【0041】
ステップS34において、MCO問題が定義される。上で説明したように、MCO問題は、少なくとも2つの目的関数と、空であり得る制約のセットを含む最適化問題である。この場合、MCO問題は、基準線量関数、或いはステップS32で目的関数又は制約として得られた関数と、場合によっては他の目的関数及び制約を含む。MCO問題はまた、関連する基準線量分布が入力線量分布からどれだけ逸脱しているかに関係した各基準線量関数の情報を含み得る。
【0042】
数学的に、MCO問題は、導入部において以下のように定義され、
【数1】
式中、実行可能なセットXは、次のようないくつかの制約関数cによって定義される。
【数2】
ベクトルxは、パレート面の表現をなす事前に計算された計画が生成される最適化に用いられる最適化変数のベクトルである。制約の右側をゼロとして定義しても一般性を失うことはないことに留意されたい。
【0043】
単一の治療計画の最適化は、MCO問題のスカラー化カウンタパート、例えば、次のような加重和の定式化に関して行われる。
【数3】
ウエイトwは、パレート面の様々な部分から計画を生成するべく各最適化間で変更することができる。よく知られているように、加重和法以外の他のスカラー化技術、例えば、イプシロン制約法も用いられ得る。
【0044】
ステップS35において、ステップS33で定義されたMCO問題に基づく最適化を通じて可能な治療計画のセットが生成される。好ましくは、可能な治療計画は、MCO問題に関するパレート最適である。加重和法又はイプシロン制約法などの、パレート面表現を生成するためのいくつかのよく知られた技術が存在する。これは、最適化プロセスを何度も実行して、各繰返しで可能な治療計画を生成することを含む、反復プロセスである。
【0045】
可能な治療計画のセットは、治療計画を決定するのに用いられる。最も単純なケースでは、可能な治療計画のうちの1つが選択される。図3は、可能な治療計画のうちの1つが修正なしで用いるのに十分に良好であるかどうかを判定するための判定ステップS36を例示している。yesの場合、ステップS37に進み、noの場合、ステップS38に進む。
【0046】
ステップS37において、患者を治療するときに用いるために、十分に良好であると考えられる1つの可能な治療計画が選択される。ステップS38において、代わりに、改善された治療計画を生成するために可能な治療計画のセットが用いられる。これは、通常は、図2に関連して説明したようにいくつかの又はすべての可能な治療計画間のMCOナビゲーションによって行われる。デフォルトで、決定ステップS36なしに、ステップS37又はステップS38に直接進むことが可能である。
【0047】
基準線量分布は、好ましくは、最適化における固定パラメータである。信頼度尺度がボクセルごとの信頼区間として指定される場合、基準分布は、信頼区間にわたる可能な偏差の分布からサンプリングすることもできる。複数の基準線量関数が用いられる場合、各基準線量関数は、別個の基準線量分布を有し得る。
【0048】
最適化変数xは、放射線治療法のタイプに依存する。光子線治療技術の標準の最適化変数は、各ビームのビクセルあたりのエネルギーフルエンス(ビクセルはビーム断面の表面要素として定義される)、又はマルチリーフコリメータのリーフ位置と各ビームの各セグメントのモニタユニット(MU)の数である。走査イオン療法の標準の最適化変数は、各ビームのスキャンスポットあたりのMUの数である。前の説明では、信頼区間は、区間全体で線量が検出される確率の指定なしに、入力線量分布の周りの均一区間として取り扱っている。図4に示すように、ボクセルごとに異なる線量の異なる確率を考えることも可能である。
【0049】
図4は、特定のボクセルiの線量が特定の値dに到達する確率密度pを曲線17として表示する座標系であり、ボクセルは、治療体積内の体積要素である。信頼区間の上限及び下限がx軸上にマークされ、破線13及び15で表されている。定義による限界13、15間の曲線17の積分は、1に等しい。この確率分布は、各ボクセルのそれぞれの線量の確率に従って基準線量分布を選択することによって本発明の方法で考慮に入れることができる。
【0050】
図5は、本発明の方法が実施され得るコンピュータシステムの略図である。コンピュータ31は、第1及び第2のデータメモリ34、35及びプログラムメモリ36に接続されたプロセッサ33を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の、1つ以上のユーザ入力手段38、39も存在する。ユーザ入力手段はまた、外部メモリユニットからデータを受信するように構成され得る。
【0051】
第1のデータメモリ34は、方法を実行するために必要なデータと、適用可能な閾値及び限界値を備える。第2のデータメモリ35は、治療計画が作成される1人以上の現在の患者に関係したデータを保持する。プログラムメモリ36は、例えば、図3に関連して説明したように、コンピュータに方法ステップを実行させるように構成されたコンピュータプログラムを保持する。
【0052】
理解されるように、データメモリ34、35及びプログラムメモリ36は、概略的に示され説明されている。それぞれ1つ以上の異なるタイプのデータを保持するいくつかのデータメモリユニット、又はすべてのデータを適切に構造化された様態で保持する1つのデータメモリが存在する場合があり、同じことが、プログラムメモリにも当てはまる。
図1
図2
図3
図4
図5