(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-22
(45)【発行日】2022-08-30
(54)【発明の名称】鋼板製品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/50 20060101AFI20220823BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20220823BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220823BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220823BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220823BHJP
【FI】
C21D9/50 101B
C21D1/18 A
C22C38/00 301S
C22C38/00 301W
C22C38/00 301B
C22C38/58
B23K26/21 F
(21)【出願番号】P 2022500857
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068715
(87)【国際公開番号】W WO2021004900
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-07
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511126992
【氏名又は名称】エスエスアーベー テクノロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・カルレスタム
(72)【発明者】
【氏名】オスキャル・トシュテンソン
(72)【発明者】
【氏名】ジミー・クヌートソン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・エイデレフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス・トゥーネル
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01331058(EP,A1)
【文献】特表2016-531753(JP,A)
【文献】特開2000-000612(JP,A)
【文献】特開2016-052680(JP,A)
【文献】特開2020-127947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/50
C21D 9/42
C21D 1/18
C22C 38/00-38/60
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板製品(1)を製造する方法であって、
- 少なくとも1つの鋼スラブを用意する工程と、
- 少なくとも1つの鋼スラブをストリップ圧延して少なくとも1つの鋼帯を形成し、その少なくとも1つの鋼帯から、長手方向(A)に延びる少なくとも2つの鋼板(2、3)を形成する工程と、
- 鋼板(2、3)の長手方向の端部を、表面の酸化層を除去することによって洗浄する工程(102)であって、前記表面の酸化層が、ストリップ圧延プロセスに起因する鉄酸化物である工程と
- 洗浄された長手方向の端部に沿って鋼板(2、3)を溶加材なしの突合溶接で接合(103)して溶接部(4)を形成する工程であって、溶接時に溶接部(4)の表面部(6)と裏面部(7)の両方に不活性ガス保護(5)が適用され、それによって溶接鋼板製品(1)が得られる工程と、
- 溶接部(4)から余分な物質を除去(104)する工程と、
- 熱処理とそれに続く焼入れにより、溶接された鋼板製品(1)の硬化(105)を行う工程、
とを含む、
上記製造方法。
【請求項2】
鋼板(2、3)が低合金高強度鋼板である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鋼板(2、3)が非被覆鋼板である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
鋼板(2、3)が同一または実質的に同一の化学組成を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼板(2、3)が、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む化学組成を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
C: 0.050-0.32,
Si:0.10-0.70,
Mn:0.40-1.6,
P: 0-0.025,
S: 0-0.010,
Cr:0-1.5,
Ni:0-2.5,
Mo:0-0.70,
Ti:0-0.060,
Al:0-0.15,
V: 0-0.070,
Nb:0-0.20,
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【請求項6】
突合溶接がレーザー溶接により行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
焼入れが水焼入れまたは油焼入れである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
表面の酸化層の除去を、酸洗、研磨、レーザーアブレーションのうちのいずれか1つを用いて行う、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2枚の鋼板(2、3)が、1~6mmの同一または実質的に同一の厚さ(t)を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも2つの鋼板(2,3)が少なくとも1000m
mの幅を有し、その結果、鋼板製品が、横方向(B)で測定して少なくとも2000m
mの幅を得られる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板製品の製造方法および鋼板製品に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度鋼板は、コンテナや大型車のダンプボディなどによく使われている。高強度であることは、部品の厚みを減らすことで全体の質量を減らすことを可能にし、エネルギー効率の観点からも有益である。
【0003】
このような製品に使用される鋼板製品には、高い強度の他に、良好な成形性と高い表面品質が求められる。さらに、コンテナやトラックの平台などの多くの製品では、大きな幅と小さな厚さを兼ね備えた鋼板製品を提供することが有益である。用途によっては2500mm以上の幅が求められることもあり、5mm以下の厚さとの組み合わせもある。
【0004】
しかし、このような幅広で薄い製品を製造するのは難しい。自動車やコンテナ、トラックの荷台などに使われる広幅の鋼板は、ステッケル圧延機(Steckel rolling mills)や厚板圧延機を用いて、一対のロール間で鋼板を往復させて製造されるのが一般的である。
【0005】
このような圧延機で薄板を製造する場合、板厚が薄くなると生産量が大幅に減少するため、比較的コストがかかる。また、圧延速度が遅いため、鋼板の表面品質や板厚公差が劣ることが多い。そのため、製造方法や品質の改善が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の主な目的は、いくつかの側面において改良された鋼板製品の製造方法を提供することである。特に、一般的な鉄鋼圧延機では製造が困難な幅広の鋼板製品の製造を容易にする方法を提供することを目的としている。また、厚板圧延機の代替として使用可能な広幅鋼板製品を提供することも目的としている。さらに別の目的は、表面品質と厚さの均一性が改善された広幅鋼板製品を提供することである。
【0007】
少なくとも主な目的は、本発明の第1の側面による、請求項1で定義された鋼板製品の製造方法によって達成される。
【0008】
この方法は、以下の工程を含む。
- 長手方向に延びる少なくとも2枚の鋼板を用意する工程と
- 鋼板の長手方向の端部から、表面の酸化層を除去して洗浄する工程と
- 前記鋼板を、前記洗浄された長手方向の端部に沿って、溶加材(filler material)を用いない突合溶接により接合して溶接部を形成する工程であって、溶接時に、溶接部の表面部(top side)および裏面部(root side)の両方に不活性ガス保護を施すことにより、溶接された鋼板製品を得る工程と
- 溶接部から余分な物質を除去する工程と
- 熱処理とそれに続く焼入れにより、溶接鋼板製品を硬化する工程。
【0009】
本発明の第2の側面による目的は、提案された方法を用いて製造された鋼板製品によって達成される。提案された方法は、高い表面品質、良好な曲げ加工性、および高い強度を有する薄肉・広幅の鋼板製品をコスト効率よく製造することを可能にする。提案された鋼板製品は、板圧延機を使用して製造された薄肉および広幅の鋼板製品に取って代わることができ、一般に、これらの製品と比較して、改善された厚さ公差および低い表面粗さのより良い表面品質を有する。
【0010】
2枚以上の鋼板を接合することで、高い表面品質と良好な曲げ加工性を有する非常に幅広の鋼板製品を製造することができる。溶接は焼入れの前に行われるため、溶接作業が鋼板製品の最終的な微細構造に与える影響は無視できる。
【0011】
一般的に使用されている上面部側だけではなく、上面部側と下面部側の両方に不活性ガス保護を使用しているため、溶接中に溶接部が酸素から十分に保護され、溶接部の領域での粒界フェライトの形成が抑制される。これにより、焼入れ後にマルテンサイトまたは実質的にマルテンサイトの組織を得ることができ、高い強度と良好な曲げ加工性を確保することができる。また、溶接を行う部分の長手方向の端部(エッジ)から表面の酸化物を除去することで、完成した鋼板製品が、溶接部とそれ以外の部分との間で差のない均質な微細構造を得ることができる。
【0012】
なお、表面の酸化物は、Fe3O4からなるミルスケール、および/またはFe2O3からなる錆であってもよい。さらに、溶接部全体の鋼板の化学組成を維持するためには、溶加材を使用しない溶接が必要である。
【0013】
鋼板は、この方法によれば、厚板圧延の代わりにストリップ圧延を用いて製造することができる。ステッケル圧延機の使用も含めて、厚板圧延と比較して、ストリップ圧延工程ははるかに高速であり、鋼板は各対のロールの間を1回通過するだけである。そのため、生産量が大幅に増加する。同時に、より高い圧延速度により圧延プロセス中のミルスケールの形成が妨げられる。また、厚板圧延機と比較してロールの大きさが小さくなるため、厚さの公差が改善される。
【0014】
本発明の第1の側面の一実施形態によれば、鋼板は低合金高強度鋼板である。このような鋼板は、焼入れ後にマルテンサイト組織を有するか、または面積率で80%以上、好ましくは90%以上のマルテンサイトを含む組織を有する。
【0015】
焼入れ後の鋼板の引張強度Rmは、950MPa以上、好ましくは1100MPa以上、より好ましくは1350MPa以上であり、降伏強度Rp0.2は、850MPa以上、好ましくは900MPa以上、より好ましくは1000MP以上であってもよい。低合金高強度鋼は、炭素鋼よりも高い強度対質量比を示すため、例えば大型車両に使用される製品の製造に適している。
【0016】
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、鋼板は、非塗装鋼板(non-coated steel sheets)すなわち、金属プレコートなどの表面コーティングが施されていない鋼板である。これにより、溶接およびその後の合金化の結果として生じる溶接部周辺の金属間化合物領域(Intermetallic areas)が回避され、強固な溶接部が確保される。必要に応じて、焼入れ後に鋼板製品に金属コーティングを施すこともできる。
【0017】
一実施形態によれば、鋼板は、同一または実質的に同一の化学組成を有する。
【0018】
「実質的に同一の」化学組成とは、本明細書では、製造公差内で同一である化学組成を意味している。したがって、溶接後の鋼板製品は均一な組成を有する。
【0019】
溶接は溶加材を使用しないので、溶接部もまた、鋼板製品の残りの部分と同じ、または実質的に同じ化学組成を有する。
【0020】
一実施形態によれば、鋼板は、質量パーセント(wt.%)で、以下からなる化学組成を有する。
C: 0.050-0.32,
Si: 0.10-0.70,
Mn: 0.40-1.6,
P: 0-0.025,
S: 0-0.010,
Cr: 0-1.5,
Ni: 0-2.5,
Mo: 0-0.70,
Ti: 0-0.060,
Al: 0-0.15,
V: 0-0.070,
Nb: 0-0.20,
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【0021】
結果として得られる鋼板製品は、溶接中に溶加材を使用しないこと、溶接前に表面の酸化物を除去すること、および溶接部の両側を不活性ガスで保護することにより、溶接部全体においても鋼板と同じ化学組成を有することになる。
【0022】
一実施形態によれば、鋼板は、質量パーセント(wt.%)で、以下の化学組成を有する。
C: 0.050-0.26,
Si: 0.10-0.70,
Mn: 0.40-1.6,
P: 0-0.025,
S: 0-0.010,
Cr: 0-1.4,
Ni: 0-1.5,
Mo: 0-0.60,
Ti: 0.0010-0.050,
Al: 0.010-0.15,
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【0023】
これにより、優れた構造特性、良好な曲げ性および溶接性を有する耐摩耗性鋼板製品を得ることができる。
【0024】
別の実施形態では、鋼板は、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む化学組成を有する。
C: 0.050-0.21,
Si: 0.10-0.50,
Mn: 0.40-1.2,
P: 0-0.010,
S: 0-0.003,
Cr: 0.2-1.0,
Ni: 1.2-2.5,
Mo: 0.40-0.70,
V: 0.0010-0.070,
Nb: 0.0050-0.050,
Al: 0.020-0.10,
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【0025】
それにより、高硬度と高靭性の組み合わせが達成され得る。
【0026】
別の実施形態では、鋼板は、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む化学組成を有する。
C: 0.050-0.30,
Si: 0.10-0.70,
Mn: 0.40-1.6,
P: 0-0.020,
S: 0-0.010,
Cr: 0.2-1.5,
Ni: 0.20-1.5,
Mo: 0-0.60,
Al: 0.010-0.10,
Nb: 0.020-0.20
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【0027】
それにより、高い引張強度、硬度、および靭性の組み合わせが達成され得る。
【0028】
別の実施形態では、鋼板は、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む化学組成を有する。
C: 0.050-0.32,
Si: 0.10-0.40,
Mn: 0.40-1.2,
P: 0-0.010,
S: 0-0.003,
Cr: 0.20-1.0,
Ni: 0.50-1.8,
Mo: 0.10-0.70,
V: 0.010-0.070,
Al: 0.020-0.15,
B: 0.00020-0.0050,
残部はFeと不純物
【0029】
これにより、非常に高い靭性を得ることができる。
【0030】
一実施形態によれば、突合溶接は、レーザー溶接を用いて行われる。レーザー溶接を使用することで、比較的低コストで高い生産率を実現することができる。レーザー溶接の代替手段としては、プラズマ溶接、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接、電子ビーム溶接などがある。しかし、生産性とコスト効率の観点からは、レーザー溶接が好ましい。
【0031】
一実施形態によれば、焼入れは、水焼入れまたは油焼入れである。この種の焼入れは、急速な冷却を行い、それによって比較的少量の合金元素でも好ましい機械的特性を得る能力を向上させることができる。
【0032】
一実施形態によれば、表面酸化層の除去は、酸洗、研磨、およびレーザーアブレーション(laser ablation)のうちの少なくとも1つまたはいずれか1つを用いて行われる。
【0033】
研削は、表面酸化物を除去するコスト効率の高い方法であるが、酸洗および/またはレーザーアブレーション(好ましくはパルスレーザーを使用)を使用することもできる。
【0034】
表面酸化物層がミルスケールからなる場合、ミルスケールの除去には、研削および/または酸洗が好ましく用いられるが、比較的短いパルス持続時間を有するパルスレーザー、例えば、ナノ秒の時間範囲内、またはピコ秒の時間範囲内、またはそれより短いパルス持続時間を有するパルスレーザーを用いることも可能である。
【0035】
一実施形態によれば、少なくとも2枚の鋼板は、同一または実質的に同一の(製造公差内の)厚さが1~6mmである。例えば、厚さは、2~5mm、または3~5mm、または2~4mm、または3~4mmであってもよい。このようにして得られた鋼板製品は、2~5mm、または3~5mm、または2~4mm、または3~4mmなど、1~6mmの厚さを有していてもよい。少なくとも2つの鋼板のそれぞれは、長手方向に垂直な横方向に測定して、少なくとも1000mm、好ましくは少なくとも1250mmの幅を有してもよい。
【0036】
各鋼板の長さと幅の比は、例として5:1から10:1の間であってもよい。
【0037】
結果として得られる鋼板製品は、横方向に測定した幅が少なくとも2000mm、好ましくは少なくとも2500mmであってもよい。このような幅広の鋼板製品は、例えば、コンテナやトラック用のフラットベッドの製造に用いられる。
【0038】
一実施形態によれば、少なくとも2つの鋼板を準備するには、以下の工程を含む
- 少なくとも1つの鋼スラブを用意する工程
- 前記少なくとも1つの鋼スラブをストリップ圧延(strip rolling)して、少なくとも1つの鋼帯を形成し、この少なくとも1つの鋼帯から前記少なくとも2つの鋼板を形成する工程
【0039】
幅広の鋼板を板圧延する代わりに、ストリップを圧延することで、製造コストを大幅に削減することができる。さらに、厚板圧延に比べて高精度かつ高速なストリップ圧延を行うことで、表面品質や板厚製造公差を改善することができる。
【0040】
例えば、±0.4mm、±0.3mm、±0.2mm、±0.1mmの厚さの製造公差は、少なくとも1つの鋼スラブを、上記の範囲内の厚さを有する鋼帯にストリップ圧延することによって達成される。3~4mmの公称厚さおよび1200~1500mmの幅を有する鋼帯の場合、±0.3mm、または±0.2mm、または±0.1mmの厚さ製造公差が達成されてもよい。
【0041】
最終的な鋼板製品では、溶接部の厚さ偏差が若干大きくなる可能性があるが、最終的な鋼板製品の厚さ製造公差は、±0.4mm、または±0.3mmを達成することが可能である。
【0042】
板圧延工程は、冷間圧延または熱間圧延のいずれであってもよく、厚さが約2mm以下の非常に薄い板には冷間圧延が好ましく用いられる。圧延工程は、連続して配置された一対のロールの間に鋼スラブ/鋼帯を通過させることを含んでいてもよいが、鋼スラブ/鋼帯は各対のロールの間に一度だけ通過させられる。
【0043】
少なくとも2つの鋼板は、好ましくは、鋼板を形成するための長さに切断された同一の鋼帯から形成されてもよいが、異なる鋼スラブから製造された異なる鋼帯に由来するものであってもよい。
【0044】
一実施形態によれば、鋼板製品は、溶接部の引張強度Rmが少なくとも950MPa、好ましくは少なくとも1100MPa、より好ましくは少なくとも1350MPaであり、溶接部の降伏強度Rp0.2が少なくとも850MPa、好ましくは少なくとも900MPa、より好ましくは少なくとも1000MPaである。この鋼板製品は、それによって、自動車用途などの高い応力にさらされる可能性のある厳しい用途での使用に適している。
【0045】
本発明のさらなる利点および有利な特徴は、以下の説明および従属請求項に開示されている。
【0046】
添付の図面を参照して、以下では、例として引用した本発明の実施形態について、より詳細な説明を行う。
【0047】
図面を参照すると:
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の一実施形態による方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態による鋼板製品の溶接を説明する透視図である。
【0049】
すべての図面は概略的なものであることに留意されたい。そのため、詳細は省略され、様々な特徴は縮尺通りに描かれていない可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の実施形態による方法が、
図1に模式的に示されている。また、本発明の実施形態による方法を用いて製造される鋼板製品1を模式的に示す
図2も参照されたい。
【0051】
第1ステップ101では、長手方向Aに延びる少なくとも2枚の鋼板2,3を用意する。鋼板2,3は、好ましくは低合金高強度鋼板であり、金属被膜などの表面コーティングが施されていない。ただし、鋼板に表面酸化層が存在していてもよい。鋼板2,3は、例えば、鋼スラブを熱間圧延または冷間圧延で帯状に圧延して、鋼帯を形成することにより製造することができる。鋼板2,3は、その後、例えば、鋼帯を長さに合わせて切断することにより、圧延された鋼帯から形成される。鋼板2,3は、同一または実質的に同一の化学組成を有していてもよい。
【0052】
鋼板のそれぞれの幅wは、長手方向Aに垂直な横方向Bで測定すると、少なくとも1000mm、好ましくは少なくとも1250mmであってよい。なお、鋼板2,3は、必ずしも同じ幅を有していなくてもよい。鋼板2,3の厚さtは、2~6mmであってもよく、例えば、2~5mmまたは3~5mmであってもよい。鋼板2,3の長さと幅の比は、一例として、5:1~10:1であってもよい。
【0053】
第2のステップ102では、接合される鋼板2,3の長手方向の端部、またはそれらの長手方向の端部およびその周辺を含む鋼板2,3の部分を、その表面酸化層を除去することによって洗浄する。
【0054】
このような表面酸化物層は、Fe3O4からなるミルスケールやFe2O3からなる錆など、ストリップ圧延プロセスに起因する鉄酸化物であってもよい。表面酸化物層の除去は、例えば、研削、レーザーアブレーション、または酸洗を用いて行うことができる。
【0055】
第3のステップ103では、鋼板2,3を、洗浄された長手方向の端部に沿って、すなわち長手方向Aにおいて、溶加材を使用しない突合溶接を用いて接合し、長手方向Aに延びる溶接部4を形成する。
【0056】
溶接中の溶接部4の表面部6と裏面部7の両方に、HeやAr、あるいはHeとArの混合ガスなどの不活性ガス保護5を適用して、酸素の存在を排除する。これにより、溶接された鋼板製品1が得られる。突合溶接は、好ましくは、レーザ溶接工程で適用されるレーザビーム8によって行われてもよい。
【0057】
第4のステップ104では、シャープなエッジを取り除き、クラック形成のリスクを低減するように、溶接部から余分な材料を除去する。これは、例えば、研削、レーザーアブレーション、フライス、プランニング、またはそれらの技術の2つ以上の組み合わせを用いて実現することができる。
【0058】
第5のステップ105では、溶接された鋼板製品1を、熱処理、すなわち焼鈍、およびその後の焼入れによって硬化させ、マルテンサイトまたは主にマルテンサイトの微細構造を形成する。第5のステップ105は、図示の実施形態では、第4のステップ104の後に実施される。このステップの順序が好ましいが、最初に鋼板製品を焼入れし、その後に余分な材料を除去することも可能である。焼入れは、好ましくは水焼入れまたは油焼入れであるが、焼入れは、プレス焼入装置内で鋼板製品を焼入れするプレス焼入れであってもよい。
【実施例】
【0059】
厚さtが3.3mm、幅wが1270mm、長手方向の長さAが8900mmの多数の鋼板を、ストリップ圧延工程で製造して、製品バッチS1を得た。製品バッチS1の鋼板は、ハルドックス(R)450という商品名で入手可能な鋼種の単一の鋼スラブから製造され、質量パーセント(wt.%)で以下の化学組成を有する。
C: max 0.26,
Si: max 0.70,
Mn: max 1.6,
P: 0-0.025,
S: 0-0.010,
Cr: max 1.4,
Ni: max 1.5,
Mo: max 0.60,
B: max 0.005,
残部はFeと不純物
【0060】
製品バッチS1の鋼板を用いて、上述した本発明の実施形態による方法で、製品バッチS2の鋼板製品を製造した。溶接部の形成には、レーザー溶接が用いられた。
【0061】
溶接の前に、表面の酸化層を研削で除去した。硬化工程では、水冷を用いた。
【0062】
製品バッチS1の鋼板はまた、同じ方法ステップに従って基準製品バッチS3,S4を製造するために使用されたが、(S3)では、溶接中に溶接部のルート側に不活性ガス保護を使用せず、(S4)では、溶接前に表面酸化物を除去せず、溶接中に溶接部のルート側に不活性ガス保護を使用しなかった。
【0063】
製造された製品バッチS1~S4の詳細は、以下の表Iにまとめられている。
【0064】
【0065】
引張試験は、規格SS-EN ISO 6892-1 2016に従い、一方は溶接部を含む製品バッチS2の試験サンプルを用い、他方は溶接部を含まない製品バッチS1の試験サンプルを用いて行った。
【0066】
引張試験の結果が
図3に示されており、製品バッチS1の引張強度R
mおよび降伏強度R
p0.2が右に示され、溶接部を含む製品バッチS2の引張強度R
mおよび降伏強度R
p0.2が左に示されている。すべての試験サンプルにおいて、引張強度R
mは、バッチS1およびS2の両方のサンプルで約1400MPaであった。また、降伏強度R
p0.2は、製品バッチS1の母材(溶接なし)で約1150MPa、製品バッチS2の溶接部を含むサンプルでは1080~1150MPaであった。
【0067】
規格SS-EN ISO 7438 2016に従い、製品バッチS1、S2、S3、S4のサンプルを用いて、曲げ半径を7mm、8mm、9mmとし、表面部または裏面部のいずれかに張力をかけた状態で曲げ試験を行った。
【0068】
曲げ試験の結果を
図4に示す。提案された方法で製造されたバッチS2は、曲げ半径7mmの場合、表面部と裏面部のどちらに張力がかかっているかにかかわらず、曲げ試験に100%合格していることがわかる。一方、製品バッチS3は、裏面部側に張力がかかっている状態では、曲げ半径9mmでの合格率が30%しかなく、製品バッチS4は、曲げ半径8mmでの合格率が40%以下であった。このように、本発明に従って製造された製品バッチS2は、基準となる製品バッチS3およびS4よりも著しく優れた性能を有している。
【0069】
異なる製品バッチからのサンプルの顕微鏡観察によると、本発明に従って製造された製品バッチS2の微細構造は、溶接部の領域においてもマルテンサイトであることがわかった。製品バッチS4では、溶接部の領域内の微細構造は、粒界フェライトが顕著に存在するマルテンサイトである。
【0070】
本発明は、上述し、図面に図示した実施形態に限定されるものではなく、むしろ、添付の請求項の範囲内で多くの変更および修正を行うことができることを当業者は認識するであろう。