(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】半導体結晶体の加工方法および半導体結晶体の加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2020155878
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2022-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316001250
【氏名又は名称】株式会社プラウド
(72)【発明者】
【氏名】八戸 啓
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特許第6429093(JP,B2)
【文献】特許第4331572(JP,B2)
【文献】特開2013-25037(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163419(WO,A1)
【文献】特開2008-286972(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116742(WO,A1)
【文献】特開2012-247872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶体を準備する工程と、
前記半導体結晶体を、導電性材料を主体とする1対の加圧治具で挟み込む工程と、
加熱装置により、前記1対の加圧治具および前記半導体結晶体を加熱し、前記半導体結晶体の温度を上昇させる工程と、
前記1対の加圧治具の間に電圧を印加し、一方の加圧治具と、前記半導体結晶体と、他方の加圧治具とを繋ぐ電流経路に電流を印加し、前記半導体結晶体を自己発熱させる工程と、
前記加熱装置による前記半導体結晶体への加熱と、前記半導体結晶体の自己発熱と、前記半導体結晶体と前記加圧治具との接触面の発熱と、によって、前記半導体結晶体の温度を塑性変形が可能な温度に維持したうえで、前記1対の加圧治具の間に圧力を加え、前記半導体結晶体を塑性変形させる工程と、を備えた、
半導体結晶体の加工方法。
【請求項2】
前記半導体結晶体を塑性変形させる工程において、前記一方の加圧治具と、前記半導体結晶体と、前記他方の加圧治具とを繋ぐ電流経路に流される電流が、電流制御された定値電流である、
請求項1に記載された半導体結晶体の加工方法。
【請求項3】
挟持された被加工物である半導体結晶体を所望の圧力で加圧する1対の加圧治具と、
前記1対の加圧治具を収容するチャンバーと、
前記チャンバーに設けられた、前記1対の加圧治具、および、前記半導体結晶体を加熱する加熱装置と、
前記1対の加圧治具の間に電流を印加する電流発生装置と、を備え、
前記加圧治具によって前記半導体結晶体を加圧するときに、
前記加熱装置によって、前記1対の加圧治具、および、前記半導体結晶体を加熱し、かつ、電流発生装置によって、一方の前記加圧治具、前記半導体結晶体、他方の前記加圧治具を繋ぐ電流経路に電流を印加し、前記半導体結晶体を自己発熱させる、
半導体結晶体の加工装置。
【請求項4】
前記1対の加圧治具の少なくとも一方が、下死点位置制御機能付きサーボプレス装置によって制御される、
請求項3に記載された半導体結晶体の加工装置。
【請求項5】
前記1対の加圧治具が、前記半導体結晶体との接触抵抗の大きい材質によって作製されるか、または、前記1対の加圧治具の表面に、前記1対の加圧治具を作製している材質よりも、前記半導体結晶体との接触抵抗の大きい材質が、コート、塗布、接合から選ばれる少なくとも1つの処理によって付与された、
請求項3または4に記載された半導体結晶体の加工装置。
【請求項6】
前記接触抵抗の大きい材質が、グラファイト、グラファイトシート、グラッシーカーボン、アモルファスカーボンから選ばれる少なくとも1つである、
請求項5に記載された半導体結晶体の加工装置。
【請求項7】
前記1対の加圧治具の芯合わせガイドとして、更にダイを備え、
前記ダイが、絶縁性の材質で作製されているか、または、導電性の材質で作製され、表面に絶縁処理が施されている、
請求項3ないし6のいずれか1項に記載された半導体結晶体の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶体の加工方法に関し、さらに詳しくは、加工品質が高く、加工再現性が高く、不良品の発生率が低く、加工装置の損傷が抑制された半導体結晶体の加工方法に関する。
【0002】
また、本発明は、上記本発明の半導体結晶体の加工方法を実施するのに適した加工装置に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体結晶体が、赤外線透過光学デバイスなどの素材として着目されている。たとえば、Si半導体結晶体やGe半導体結晶体は、屈折率が3~4と大きく、赤外線域で高い透過率があるため、レンズや窓材に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、半導体結晶体は、高い硬度を備えているがゆえに、取り扱いを誤るとクラックなどの欠陥が発生しやすく、加工が容易ではない。
【0005】
半導体結晶体の加工方法については、種々の研究がなされている。
【0006】
たとえば、特許文献1(特許第4331572号公報)に、Si半導体結晶体(Si単結晶体)を、1対のカーボン製の加圧治具の間に挟み、Si半導体結晶体の融点に近い高温にまで加熱したうえで、Si半導体結晶体を加工する半導体結晶体の加工方法が開示されている。
【0007】
図8(A)に、特許文献1の加工方法において使用される加工装置(加圧治具)1100を示す。加工装置1100は、上部ボード101と下部ボード102とを備えている。上部ボード101、下部ボード102は、いずれも、カーボン製である。
【0008】
特許文献1の加工方法においては、まず、上部ボード101と下部ボード102との間にSi半導体結晶体(図示せず)を挟み、全体を炉の中に配置する。次に、上部ボード101と下部ボード102とSi半導体結晶体とを、炉によって、1374℃以上、かつ、Siの融点である1414℃未満に加熱する。次に、上部ボード101と下部ボード102との間に圧力を加えることによって、Si半導体結晶体を塑性変形させて加工する。
【0009】
特許文献1の半導体結晶体の加工方法は、従来難しかった半導体結晶体の塑性変形による加工を可能にした画期的な発明であり、エックス線装置のレンズなどの加工に利用されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1の半導体結晶体の加工方法は、加工温度が高いため、上部ボード101、下部ボード102の材質に制約があり、カーボン材料の中でも、たとえばグラファイトなどの精密加工が難しい材質を使用せざるを得なかった。そのため、加圧治具の半導体結晶体との当接面を複雑な形状にしたり、高精度に仕上げたりすることができず、半導体結晶体を単純な形状にしか加工できないという問題があった。なお、グラファイトは、硬度が低く簡単に加工できるが、緻密でないため精密加工に絶えない。ただし、グラファイトは、2000℃超の耐熱性や高い熱間強度を持つ。
【0011】
この問題を解決した半導体結晶体の加工方法として、特許文献1の方法よりも低い温度での加工を可能にした、「通電加熱法(electrical heating)」による半導体結晶体の加工方法が、特許文献2(特許第5382382号公報)に開示されている。また、「通電加熱法」を更に改良した「直接通電加熱法(direct electrical heating)」による半導体結晶体の加工方法が、特許文献3(特許第6429093号公報)に開示されている。
【0012】
特許文献2の半導体結晶体の加工方法は、半導体結晶体に電流を印加し、半導体結晶体を自己発熱させることによって、特許文献1の半導体結晶体の加工方法よりも、低い温度での半導体結晶体の加工を可能にしている。
【0013】
図8(B)に、特許文献2の半導体結晶体の加工方法に使用する、半導体結晶体の加工装置1200を示す。半導体結晶体の加工装置1200は、筒状で導電性の材質によって作製された導電性ダイ111と、導電性ダイ111の内部に収容された上パンチ112、下パンチ113とを備えている。上パンチ112、下パンチ113も、導電性ダイ111と同様に、導電性の材質によって作製されている。
【0014】
特許文献2の加工方法においては、まず、上パンチ112と下パンチ113との間に、Siなどの半導体結晶体114を挟み込む。
【0015】
次に、上パンチ112と下パンチ113との間にパルス電流を印加する。上パンチ112と下パンチ113との間にパルス電流を印加すると、パルス電流を印加し始めた初期には、パルス電流は上パンチ112、導電性ダイ111、下パンチ113を繋ぐ電流経路を流れ、上パンチ112、半導体結晶体114、下パンチ113を繋ぐ電流経路には流れない。これは、半導体結晶体114が、常温では抵抗値が高く、高温では抵抗値が低いという、負の温度特性を備えているからである。すなわち、パルス電流を印加し始めた初期には、半導体結晶体114は、常温で抵抗値が高いため、パルス電流は半導体結晶体114を流れない。そのため、パルス電流は、上パンチ112、導電性ダイ111、下パンチ113を繋ぐ電流経路を流れるのである。
【0016】
そして、パルス電流が、上パンチ112、導電性ダイ111、下パンチ113を繋ぐ電流経路を流れることによって、上パンチ112、導電性ダイ111、下パンチ113が発熱し、半導体結晶体114の温度が上昇し、半導体結晶体114の抵抗値が降下する。そのため、半導体結晶体114の温度が一定以上に上昇すると、パルス電流は、上パンチ112、導電性ダイ111、下パンチ113を繋ぐ電流経路に加えて、上パンチ112、半導体結晶体114、下パンチ113を繋ぐ電流経路にも流れ始める。
【0017】
この結果、半導体結晶体114が自己発熱を開始する。そして、半導体結晶体114の温度が更に上昇し、半導体結晶体114の抵抗値が更に降下すると、パルス電流は、次第に、主に上パンチ112、半導体結晶体114、下パンチ113を繋ぐ電流経路を流れるようになる。そして、パルス電流が主にこの電流経路を流れることにより、半導体結晶体114の自己発熱、温度上昇、抵抗値降下が加速する。そして、半導体結晶体114は、短い時間で、塑性変形による加工が可能な温度(目標温度)に到達する。なお、半導体結晶体114の温度は、たとえば、導電性ダイ111に埋設された温度検知素子115によって測定される。
【0018】
そして、半導体結晶体114が目標温度に到達すると、次に、上パンチ112と下パンチ113の間に、所定の大きさの圧力を、所定の時間、加えることによって、半導体結晶体114を塑性変形させて、半導体結晶体114を所望の形状に加工する。なお、このとき、圧力を、段階的に大きくしたり、直線状に大きくしたりする場合がある。また、半導体結晶体114を加工している途中においても、温度検知素子115によって半導体結晶体114の温度を測定し、半導体結晶体114の温度を目標温度に維持するようにする。
【0019】
すなわち、半導体結晶体114を加工している間に、温度検知素子115で測定した半導体結晶体114の温度が目標温度を下回ると、自動制御されたパルス電流発生装置が、上パンチ112と下パンチ113との間に印加する電圧を高くし、上パンチ112と下パンチ113との間に印加する電流を大きくする。逆に、温度検知素子115で測定した半導体結晶体114の温度が目標温度を上回ると、自動制御されたパルス電流発生装置が、上パンチ112と下パンチ113との間に印加する電圧を低くし、上パンチ112と下パンチ113との間に印加する電流を小さくする。あるいは、上パンチ112と下パンチ113との間への電圧の印加を停止し、上パンチ112と下パンチ113との間に電流を流さなくする場合もある。したがって、半導体結晶体114を加工している間中、上パンチ112、半導体結晶体114、下パンチ113を繋ぐ電流経路に印加される電流の電流値は変動し、一定ではない。
【0020】
特許文献2の半導体結晶体の加工方法では、半導体結晶体114を自己発熱させるため、加工時の半導体結晶体114の温度(目標温度)を、特許文献1の半導体結晶体の加工方法に比べて低くすることができる。特許文献2では、たとえば、半導体結晶体114がSiである場合には、加工時の半導体結晶体114の温度(目標温度)を、810℃以上、1020℃以下に設定するとしている。そのため、特許文献2の半導体結晶体の加工方法では、上パンチ112や下パンチ113の材質の選択の自由度が高く、精密加工に適した材質を使用することができる。したがって、半導体結晶体114を、複雑な形状に加工したり、高精度に加工したりすることができる。
【0021】
このように、特許文献2の半導体結晶体の加工方法には、特許文献1の半導体結晶体の加工方法よりも低い温度で半導体結晶体を加工できるという大きな利点がある。しかしながら、特許文献2の半導体結晶体の加工方法には、上パンチ112と導電性ダイ111との間や、導電性ダイ111と下パンチ113との間に、突発的に、スパークが発生するという問題があった。
【0022】
すなわち、上パンチ112と導電性ダイ111との間や、導電性ダイ111と下パンチ113との間には数μmのギャップがあるため、電流の大きさが変動し、大きな電流が流れたときなどに、突発的に、上パンチ112と導電性ダイ111との間や、導電性ダイ111と下パンチ113との間に、スパークが発生する場合があった。そして、スパークが発生することにより、加工中の半導体結晶体が破損するだけではなく、高価な導電性ダイ111や、上パンチ112や、下パンチ1113が破損してしまう場合があった。
【0023】
この特許文献2の半導体結晶体の加工方法の問題を解決したのが、特許文献3(特許第6429093号公報)に開示された、「直接通電加熱法(direct electrical heating)」による半導体結晶体の加工方法である。
【0024】
図8(C)に、特許文献3の半導体結晶体の加工方法に使用する、半導体結晶体の加工装置1300を示す。半導体結晶体の加工装置1300は、半導体結晶体の加工装置1200が備えていた導電性ダイ111を省略している。なお、ダイが必要な場合は、絶縁性のダイや、導電性のダイに絶縁膜をコートしたものを使用することができる。半導体結晶体の加工装置1300は、導電性ダイ111を省略した代わりに、予熱装置121を備えている。
【0025】
特許文献3の加工方法においても、まず、上パンチ122と下パンチ123との間に、Siなどの半導体結晶体124を挟み込む。しかしながら、この時点では半導体結晶体124は抵抗値が高いため、電流が流れない。そこで、特許文献3の加工方法では、予熱装置121によって、半導体結晶体124を外部から加熱(外部予熱)し、半導体結晶体124の温度を上昇させて、半導体結晶体124の抵抗値を降下させる。
【0026】
そして、半導体結晶体124の抵抗値が充分に低くなったところで、上パンチ122と下パンチ123との間に電圧を印加し、上パンチ122、半導体結晶体124、下パンチ123を繋ぐ電流経路にパルス電流(ただし電流はパルス電流には限られない)を印加し、半導体結晶体124を自己発熱させる。なお、半導体結晶体124の抵抗値が充分に低くなり、上パンチ122、半導体結晶体124、下パンチ123を繋ぐ電流経路にパルス電流を印加し始めたところで、外部からの加熱は不要になるので、予熱装置121を停止させる。そして、半導体結晶体124は、自己発熱によって温度が上昇し、塑性変形による加工が可能な目標温度に到達する。
【0027】
特許文献3の加工方法においても、半導体結晶体124の温度が目標温度に到達した後に、上パンチ122と下パンチ123との間に、所定の大きさの圧力を、所定の時間、加えることによって、半導体結晶体124を塑性変形させて、半導体結晶体124を所望の形状に加工する。
【0028】
特許文献3の加工方法においても、半導体結晶体124を加工している途中に、温度検知素子125で半導体結晶体124の温度を測定し、自動制御されたパルス電流発生装置が、半導体結晶体124の温度が目標温度を下回ると、上パンチ122と下パンチ123との間に印加する電圧を高くし、上パンチ122と下パンチ123との間に印加する電流を大きくし、逆に、半導体結晶体124の温度が目標温度を上回ると、上パンチ122と下パンチ123との間に印加する電圧を低くし、上パンチ122と下パンチ123との間に印加する電流を小さくする。したがって、半導体結晶体124を加工している間中、上パンチ122、半導体結晶体124、下パンチ123を繋ぐ電流経路に印加させる電流の電流値は変動し、一定ではない。
【0029】
特許文献3の半導体結晶体の加工方法は、導電性ダイを備えないため、上パンチ122と導電性ダイとの間や、導電性ダイと下パンチ123との間にスパークが発生することがなく、特許文献2の半導体結晶体の加工方法が有していた問題が解決されている。特許文献3の半導体結晶体の加工方法も、特許文献2の半導体結晶体の加工方法と同様に、特許文献1の半導体結晶体の加工方法よりも低い温度で半導体結晶体を加工できるという大きな利点があり、半導体結晶体124を、複雑な形状に加工したり、高精度に加工したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】特許第4331572号公報
【文献】特許第5382382号公報
【文献】特許第6429093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
特許文献2の「通電加熱法」による半導体結晶体の加工方法や、特許文献3の「直接通電加熱法」による半導体結晶体の加工方法は、半導体結晶体の自己発熱により半導体結晶体の温度を上昇させたうえで、半導体結晶体の加工をおこなうため、炉で半導体結晶体を加熱する特許文献1の半導体結晶体の加工方法よりも、大幅に低い温度で半導体結晶体を加工することができる。しかしながら、特許文献2、3の加工方法には、半導体結晶体の加工中を通して、半導体結晶体の自己発熱によって、半導体結晶体の温度を、半導体結晶体を加工することができる目標温度近傍に維持しなければならなかった。
【0032】
すなわち、特許文献2、3の加工方法では、上パンチと下パンチとの間に圧力を加えて半導体結晶体を加工する工程の間中、温度検知素子などで半導体結晶体の温度を測定し、半導体結晶体の温度が目標温度を下回ると、上パンチと下パンチとの間に印加する電圧を高くし、半導体結晶体に印加する電流の電流値を大きくし、逆に、半導体結晶体の温度が目標温度を上回ると、上パンチと下パンチとの間に印加する電圧を低くし、半導体結晶体に印加する電流の電流値を小さくしなければならなかった。すなわち、半導体結晶体を加工する工程の間中、半導体結晶体に印加される電流の電流値が変動し、一定ではなかった。
【0033】
半導体結晶体を加工する工程の間中、半導体結晶体に印加させる電流の電流値が変動することは、加工をする毎に、半導体結晶体の結晶構造の状態が異なることになり、半導体結晶体の加工状態や加工精度にばらつきを生じさせる原因になる場合があった。より具体的には、加工をする毎に、加工後の半導体結晶体の形状に差が生じたり、加工後の半導体結晶体の赤外線の透過率などに差が生じたりする原因になる場合があった。すなわち、特許文献2、3の加工方法には、加工再現性が充分ではないという問題があった。
【0034】
また、特許文献2、3の加工方法においては、加工される半導体結晶体の厚みが小さかったり、平面方向の大きさが大きかったりする場合に、半導体結晶体に突発的に大電流が流れ、半導体結晶体(上パンチと下パンチとの間)にスパークが発生する場合があった。
【0035】
すなわち、半導体結晶体の厚みが小さかったり、平面方向の大きさが大きかったりすると、半導体結晶体の抵抗値が小さくなるため、半導体結晶体を自己発熱によって所定の温度にまで上昇させるためには、半導体結晶体に印加する電流の電流値を大きくする必要がある。一方、半導体結晶体の自己発熱は局所的な発熱であり、絶えず、上パンチや下パンチや周囲の空間を経由して熱が逃げる。また、上述したとおり、特許文献2、3の加工方法においては、半導体結晶体を加工する工程の間中、半導体結晶体の温度を測定し、半導体結晶体の温度が目標温度を下回ると、自動制御されたパルス電流発生装置が、上パンチと下パンチとの間に印加する電圧を高くし、半導体結晶体に印加する電流の電流値を大きくする。そのため、半導体結晶体を加工しているときに、半導体結晶体の温度が下がると、半導体結晶体に突発的に予期せぬ大電流が流れ、半導体結晶体(上パンチと下パンチとの間)にスパークが発生する場合があった。
【0036】
そして、半導体結晶体にスパークが発生すると、加工中の半導体結晶体が破損するだけではなく、高価な加圧治具が破損してしまう場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、その手段として、本発明の半導体結晶体の加工方法は、半導体結晶体を準備する工程と、半導体結晶体を、導電性材料を主体とする1対の加圧治具で挟み込む工程と、加熱装置により、1対の加圧治具および半導体結晶体を加熱し、半導体結晶体の温度を上昇させる工程と、1対の加圧治具の間に電圧を印加し、一方の加圧治具と、半導体結晶体と、他方の加圧治具とを繋ぐ電流経路に電流を印加し、半導体結晶体を自己発熱させる工程と、加熱装置による半導体結晶体への加熱と、半導体結晶体の自己発熱と、半導体結晶体と加圧治具との接触面の発熱と、によって、半導体結晶体の温度を塑性変形が可能な温度に維持したうえで、1対の加圧治具の間に圧力を加え、半導体結晶体を塑性変形させる工程と、を備えたものとする。
【0038】
半導体結晶体を塑性変形させる工程において、一方の加圧治具と、半導体結晶体と、他方の加圧治具とを繋ぐ電流経路に流される電流が、電流制御された定値電流であることも好ましい。この場合には、半導体結晶体に印加される電流の電流値が変動しないため、半導体結晶体の加工品質および加工再現性が向上する。
【0039】
また、本発明の半導体結晶体の加工装置は、挟持された被加工物である半導体結晶体を所望の圧力で加圧する1対の加圧治具と、1対の加圧治具を収容するチャンバーと、チャンバーに設けられた、1対の加圧治具、および、半導体結晶体を加熱する加熱装置と、1対の加圧治具の間に電流を印加する電流発生装置と、を備え、加圧治具によって半導体結晶体を加圧するときに、加熱装置によって、1対の加圧治具、および、半導体結晶体を加熱し、かつ、電流発生装置によって、一方の加圧治具、半導体結晶体、他方の前記加圧治具を繋ぐ電流経路に電流を印加し、半導体結晶体を自己発熱させるものとする。
【0040】
1対の加圧治具の少なくとも一方が、下死点位置制御機能付きサーボプレス装置によって制御されることも好ましい。この場合には、サーボプレス装置の押し込み量を制御することにより、半導体結晶体の変形量を制御することができる。
【0041】
また、1対の加圧治具が、半導体結晶体との接触抵抗の大きい材質によって作製されるか、または、1対の加圧治具の表面に、1対の加圧治具を作製している材質よりも、半導体結晶体との接触抵抗の大きい材質が、コート、塗布、接合から選ばれる少なくとも1つの処理によって付与されることも好ましい。この場合には、半導体結晶体に印加する電流の電流値が同じであれば、半導体結晶体の変形量を、より大きくすることができる。接触抵抗の大きい材質としては、たとえば、グラファイト、グラファイトシート、グラッシーカーボン、アモルファスカーボンから選ばれる少なくとも1つとすることができる。
【0042】
また、1対の加圧治具の芯合わせガイドとして、更にダイを備え、ダイが、絶縁性の材質で作製されているか、または、導電性の材質で作製され、表面に絶縁処理が施されていることも好ましい。この場合には、1対の加圧治具(たとえば上パンチと下パンチ)の芯合わせが容易になる。また、絶縁性の材質で作製されているか、または、表面に絶縁処理が施されているので、加圧治具とダイとの間に、スパークが発生することがない。
【発明の効果】
【0043】
本発明の半導体結晶体の加工方法は、加熱装置による加熱と、半導体結晶体の自己発熱とを併用しているため、加熱装置による加熱だけの場合よりも、低い温度で、半導体結晶体を良好に加工することができる。また、本発明の半導体結晶体の加工方法は、加熱装置による加熱と、半導体結晶体の自己発熱と、半導体結晶体と加圧治具との接触面の発熱と、を併用しているため、半導体結晶体の自己発熱だけの場合に比べて、自己発熱のために半導体結晶体に印加する電流を極小化し、スパークの発生を抑制しながら、半導体結晶体を良好に加工することができる。
【0044】
また、本発明の半導体結晶体の加工方法によれば、半導体結晶体の加工中に、半導体結晶体に突発的に大電流が流れることが抑制されているため、半導体結晶体が破損したり、加工装置(加圧治具など)が破損したりすることが抑制されている。すなわち、本発明の半導体結晶体の加工方法によれば、不良品の発生率を低くできるとともに、加工装置の破損を抑制できる。
【0045】
また、本発明の半導体結晶体の加工方法によれば、半導体結晶体の加工中に、半導体結晶体に定値電流を流すことが可能であるため、高い加工品質および高い加工再現性で、半導体結晶体を加工することができる。
【0046】
また、本発明の半導体結晶体の加工装置を使用すれば、容易に本発明の半導体結晶体の加工方法を実施することができる。すなわち、本発明の半導体結晶体の加工装置を使用すれば、高い加工品質、高い加工再現性、低い不良品の発生率で、半導体結晶体を加工することができる。また、本発明の半導体結晶体の加工装置は、半導体結晶体のスパークによって破損することが抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】第1実施形態において使用する半導体結晶体の加工装置100を示す断面図である。
【
図2】
図2(A)~(C)は、それぞれ、第1実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法の加工プロファイルを示すグラフである。
【
図3】第1実施形態の半導体結晶体の加工方法における、半導体結晶体に印加する電流の電流値と半導体結晶体の変形量との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4(A)は、第2実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法の加工プロファイルを示すグラフである。
図4(B)は、比較例1にかかる半導体結晶体の加工方法の加工プロファイルを示すグラフである。
【
図5】比較例1において使用する半導体結晶体の加工装置1400を示す断面図である。
【
図6】第3実施形態の半導体結晶体の加工方法における、上パンチの取り付けられた加圧機構の押し込み量と半導体結晶体の変形量との関係を示すグラフである。
【
図7】各材質と半導体結晶体(Si半導体結晶体)との接触抵抗の大きさを示すグラフである。
【
図8】
図8(A)~(C)は、それぞれ、特許文献1~3に開示された半導体結晶体の加工方法において使用された加工装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面とともに、本発明を実施するための形態について説明する。なお、各実施形態は、本発明の実施の形態を例示的に示したものであり、本発明が実施形態の内容に限定されることはない。また、異なる実施形態に記載された内容を組合せて実施することも可能であり、その場合の実施内容も本発明に含まれる。また、図面は、実施形態の理解を助けるためのものであり、必ずしも厳密に描画されていない場合がある。たとえば、描画された構成要素ないし構成要素間の寸法の比率が、明細書に記載されたそれらの寸法の比率と一致していない場合がある。また、明細書に記載されている構成要素が、図面において省略されている場合や、個数を省略して描画されている場合などがある。
【0049】
[第1実施形態]
(第1実施形態にかかる半導体結晶体の加工装置100)
図1に、第1実施形態において使用する半導体結晶体の加工装置100を示す。ただし、
図1は加工装置100の断面図である。
【0050】
加工装置100は、上パンチ1、下パンチ2からなる、1対の加圧治具を備えている。上パンチ1、下パンチ2は、たとえば、導電性材料である超硬により作製されている。ただし、超硬に代えて、ダイス鋼を使用してもよい。超硬やダイス鋼は、グラファイトに比べて格段に硬く、かつ緻密にできており、加工に時間はかかるが、上パンチ1や下パンチ2の当接面を複雑な形状にしたり、高精度に仕上げたりすることができる。ただし、上パンチ1、下パンチ2の材質は任意であり、超硬、ダイス鋼には限定されず、他の材質を使用してもよい。
【0051】
本実施形態の加工装置100は、ダイを有していない。しかしながら、加工装置100にダイを設けてもよい。ただし、その場合には、絶縁性材料により作製されたダイを使用するか、導電性材料により作製されたダイの表面に絶縁膜を設けたものを使用し、上パンチ1および下パンチ2と電気的な絶縁をはかる必要がある。ダイと、上パンチ1や下パンチ2との間で、スパークが発生しないようにするためである。
【0052】
上パンチ1と下パンチ2の少なくとも一方は、所望する半導体結晶体の加工形状に対応した当接面を有している。そして、当該当接面は、加工後の半導体結晶体(レンズ等)の設計形状と同一寸法にサブミクロンオーダーで高精度に加工されており、表面も数10nmの面粗さで研磨加工されている。
【0053】
本実施形態の加工装置100は、加圧機構3、4を備えている。上パンチ1が可動式の加圧機構3に取り付けられ、下パンチ2が固定式の加圧機構4に取り付けられている。本実施形態においては、加圧機構3は、エンコーダーによる下死点位置制御機能が付加されたサーボプレス装置である。加圧機構3のサーボプレス装置は、加圧力か、または、押し込み量かの、いずれかを指定して、動作させることができる。上パンチ1と下パンチ2との間に半導体結晶体5(被加工物)を挟み込み、加圧機構3を降下させることにより、上パンチ1と下パンチ2とで、半導体結晶体5を所望の圧力で加圧し、塑性変形させることができる。
【0054】
本実施形態の加工装置100は、チャンバー6を備えている。上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4が、チャンバー6に収容されている。また、チャンバー6の半導体結晶体5の近傍に、半導体結晶体5の温度を測定するための温度検知素子7が設けられている。温度検知素子7には、たとえば、熱電対を使用することができる。
【0055】
本実施形態においては、チャンバー6は金属製である。加圧機構3、加圧機構4は、それぞれ、絶縁性のシール部材8によって、チャンバー6と電気的に絶縁されている。チャンバー6の内部は、たとえば、大気、真空、窒素などの不活性ガスなど、所望の雰囲気に保つことができる。なお、チャンバー6は金属製には限られず、透明石英管など、他の材質を使用したものであってもよい。
【0056】
チャンバー6に、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5を加熱する、加熱装置9が設けられている。加熱装置9は、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5を、最高で1200℃程度まで加熱することができる。加熱装置9は、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度に応じで、自動制御により、加熱量を調整することができる。
【0057】
加工装置100は、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路を備えている。
【0058】
加工装置100は、パルス電流発生装置10を備えている。パルス電流発生装置10は、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路にパルス電流を印加し、半導体結晶体5を自己発熱させるためのものである。パルス電流発生装置10は、多相半波整流回路または多相全波整流回路を備え、20%~100%の範囲で調整された(可変された)デューティ比の電流を発生させる。
【0059】
本実施形態においては、パルス電流発生装置10に、電流制御方式を採用している。すなわち、パルス電流発生装置10は、半導体結晶体5に、所望の大きさの定値電流(一定の電流値の電流)を流すことができる。なお、通常、通電加熱法や直接通電加熱法では、パルス電流発生装置に電圧制御方式を採用している。電圧制御方式では、半導体結晶体5を塑性変形させる工程において、半導体結晶体5の温度を所定の目標温度に維持するために、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度に応じて、上パンチと下パンチとの間に印加する電圧の大きさを変化させる。そのため、電圧制御方式では、半導体結晶体5に印加される電流の電流値は一定ではなく、絶えず変化する。
【0060】
なお、本実施形態においては、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路にパルス電流を印加するものとし、パルス電流発生装置10を備えているが、電流経路に印加される電流はパルス電流には限定されず、直流電流であってもよい。この場合には、パルス電流発生装置10の代わりに、異なる電流発生装置が用意される。
【0061】
(第1実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法)
次に、同じく
図1を参照しながら、加工装置100を使用した、第1実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法について説明する。
【0062】
まず、被加工物として、Si半導体結晶体である半導体結晶体5を準備した。本実施形態においては、半導体結晶体5を、直径15mm、厚み3mmの円板状とした。
【0063】
次に、加工装置100を準備した。本実施形態においては、上パンチ1および下パンチ2に、超硬によって作製された、直径20mm、長さ(高さ)25mmの円柱形状のものを使用した。
【0064】
本実施形態においては、半導体結晶体5を加工する温度である目標温度を、約900℃に定めた。この目標温度は、半導体結晶体5がSi半導体結晶体であることを考慮したうえで、半導体結晶体5を自己発熱させた状態で良好に塑性変形させることができる温度として定めたものである。なお、目標温度は約900℃には限られず、半導体結晶体5を良好に塑性変形させることができる範囲内で、任意に設定することができる。
【0065】
本実施形態においては、半導体結晶体5を塑性変形させて加工しているときに、半導体結晶体5に流す電流の電流値を、200A、300A、400Aの3水準として、実施例1~3の3通りの加工をおこなった。一方、半導体結晶体5を塑性変形して加工するために、上パンチ1と下パンチ2との間に加える圧力は、実施例1~3のいずれにおいても、最大で10KNとした。
図2(A)に、実施例1の加工プロファイルを示す。
図2(B)に、実施例2の加工プロファイルを示す。
図2(C)に、実施例3の加工プロファイルを示す。なお、
図2(A)~(C)に示した加工プロファイルは、いずれも、加熱装置9による加熱によって半導体結晶体5の温度が目標温度である約900℃に達した後、上パンチ1と下パンチ2との間に電流を印加し始めた時点を、時間軸であるX軸の0分としている。
【0066】
【0067】
まず、上パンチ1と下パンチ2との間に、半導体結晶体5を挟み込んだ。この時点では、上パンチ1と下パンチ2との間に圧力は加えていない。
【0068】
次に、加熱装置9により、外部から、チャンバー6に収容された、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5への加熱を開始した。
【0069】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した後に、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そこで、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、電流値が10Aのパルス電流を印加した。なお、本実施形態においては、電流の印加開始と同時に、上パンチ1、下パンチ2との間に、0.2KNの圧力を加えた。この圧力は、電流を良好に流す等の目的で加えたものである。なお、加圧の開始はこの時点には限られず、これよりも早い時点で加圧を開始してもよい。
【0070】
電流の印加開始から3分30秒が経過した後に、半導体結晶体5の抵抗値が充分に小さくなっていることを確認したうえで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を、10Aから直線状に上昇させた。半導体結晶体5を自己発熱させるためである。そして、電流の印加開始から6分30秒が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を200Aとした。なお、本実施例においては、直線状に電流値を大きくしたが、この操作は必須のものではなく、階段状に電流値を大きくしてもよい(他の実施例等においても同じ)。
【0071】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了する、電流の印加開始から16分30秒が経過するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を200Aの定値電流に維持した。
【0072】
加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとする。しかしながら、本実施形態においては、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度を加熱装置9にフィードバックさせることによって、加熱装置9の加熱量を弱め、半導体結晶体5の温度を、目標温度である約900℃に維持した。ただし、半導体結晶体5の温度を加熱装置9にフィードバックし、加熱装置9の加熱量を弱める操作は必須のものではなく、半導体結晶体5の温度は、自己発熱した分だけ約900℃よりも高い温度になってもよい(他の実施例等においても同じ)。
【0073】
電流の印加開始から6分30秒が経過した時点(半導体結晶体5に印加する電流の電流値が200Aになった時点)から、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を、0.2KNから直線状に大きくした。そして、電流の印加開始から16分30秒が経過した時点において、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を最大の10KNとし、その直後に、塑性変形による半導体結晶体5の加工を終了させた。なお、本実施例においては、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を直線状に大きくしたが、この操作は必須のものではなく、階段状に圧力を大きくしてもよい(他の実施例等においても同じ)。
【0074】
自然冷却後に、半導体結晶体5の変形量を測定したところ、約70μmであった。また、半導体結晶体5の加工状態は、極めて良好であった。
【0075】
次に、
図2(B)に示す実施例2について、簡単に説明する。
【0076】
まず、上パンチ1と下パンチ2との間に、半導体結晶体5を挟み込んだ。この時点では、上パンチ1と下パンチ2との間に圧力は加えていない。
【0077】
次に、加熱装置9により、外部から、チャンバー6に収容された、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5への加熱を開始した。
【0078】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した後に、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そこで、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、電流値が10Aのパルス電流を印加した。なお、本実施形態においては、電流の印加開始と同時に、上パンチ1、下パンチ2との間に、0.2KNの圧力を加えた。
【0079】
電流の印加開始から3分30秒が経過した後に、半導体結晶体5の抵抗値が充分に小さくなっていることを確認したうえで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を、10Aから直線状に上昇させた。半導体結晶体5を自己発熱させるためである。そして、電流の印加開始から6分30秒が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を300Aとした。
【0080】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了する、電流の印加開始から16分30秒が経過するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を300Aの定値電流に維持した。加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとするが、加熱装置9の加熱量を弱めることによって、半導体結晶体5の温度を目標温度である約900℃に維持した。
【0081】
電流の印加開始から6分30秒が経過した時点(半導体結晶体5に印加する電流の電流値が300Aになった時点)から、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を、0.2KNから直線状に大きくした。そして、電流の印加開始から16分30秒が経過した時点において、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を最大の10KNとし、その直後に、塑性変形による半導体結晶体5の加工を終了させた。
【0082】
自然冷却後に、半導体結晶体5の変形量を測定したところ、約119μmであった。また、半導体結晶体5の加工状態は、極めて良好であった。
【0083】
次に、
図2(C)に示す実施例3について、簡単に説明する。
【0084】
まず、上パンチ1と下パンチ2との間に、半導体結晶体5を挟み込んだ。この時点では、上パンチ1と下パンチ2との間に圧力は加えていない。
【0085】
次に、加熱装置9により、外部から、チャンバー6に収容された、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5への加熱を開始した。
【0086】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した後に、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そこで、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、電流値が10Aのパルス電流を印加した。なお、本実施形態においては、電流の印加開始と同時に、上パンチ1、下パンチ2との間に、0.2KNの圧力を加えた。
【0087】
電流の印加開始から3分30秒が経過した後に、半導体結晶体5の抵抗値が充分に小さくなっていることを確認したうえで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を、10Aから直線状に上昇させた。半導体結晶体5を自己発熱させるためである。そして、電流の印加開始から6分30秒が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を400Aとした。
【0088】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了する、電流の印加開始から16分30秒が経過するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を400Aの定値電流に維持した。加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとするが、加熱装置9の加熱量を弱めることによって、半導体結晶体5の温度を目標温度である約900℃に維持した。
【0089】
電流の印加開始から6分30秒が経過した時点(半導体結晶体5に印加する電流の電流値が400Aになった時点)から、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を、0.2KNから直線状に大きくした。そして、電流の印加開始から16分30秒が経過した時点において、上パンチ1、下パンチ2との間に加える圧力を最大の10KNとし、その直後に、塑性変形による半導体結晶体5の加工を終了させた。
【0090】
自然冷却後に、半導体結晶体5の変形量を測定したところ、約177μmであった。また、半導体結晶体5の加工状態は、極めて良好であった。
【0091】
図3に、半導体結晶体5に印加した電流の電流値と、変形量との関係を示す。
図3から分かるように、電流値と変形量とには、相関係数0.998と強い相関性がある。したがって、本実施形態の半導体結晶体の加工方法によれば、半導体結晶体5に印加する電流の電流値の大きさを制御することにより、半導体結晶体5の加工量(変形量)を制御することができる。
【0092】
本実施形態の半導体結晶体の加工方法は、加熱装置9による加熱と、電流を流すことによる半導体結晶体5の自己発熱とを併用しているため、特許文献1に開示されたような、外部の加熱装置(たとえば炉)による加熱だけの場合よりも、低い目標温度で、半導体結晶体5を良好に加工することができる。
【0093】
また、本実施形態の半導体結晶体の加工方法は、加熱装置9による加熱と、電流を印加することによる半導体結晶体5の自己発熱とを併用しているため、特許文献2、3に開示された、半導体結晶体の自己発熱だけによる場合に比べて、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を小さくしても(たとえば200A)、半導体結晶体5を良好に加工することができる。
【0094】
また、本実施形態の半導体結晶体の加工方法によれば、半導体結晶体5を塑性変形させて加工しているときに、半導体結晶体5には定値電流が流され、電流値が変動しないため、半導体結晶体5の加工品質および加工再現性が高い。また、半導体結晶体5にスパークが発生しにくいため、不良品の発生率が低く、加工装置(上パンチ1、下パンチ2など)の破損も抑制されている。
【0095】
[第2実施形態]
第2実施形態においては、加熱装置による加熱と半導体結晶体の自己発熱とを併用し、かつ、半導体結晶体に定値電流を流す本発明と、特許文献2に開示された「直接通電加熱法」との対比をおこなった。なお、第2実施形態においては、半導体結晶体に印加する電流の電流値の大きさと、半導体結晶体の温度との関係に注目して説明し、上パンチと下パンチとの間に加える圧力の大きさなどの説明を省略する場合がある。
【0096】
本発明の第2実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法として、実施例3を実施した。また、比較のために、「直接通電加熱法」による半導体結晶体の加工方法として、比較例1を実施した。
【0097】
実施例3には、第1実施形態と同様に、
図1に示す半導体結晶体の加工装置100を使用した。
図4(A)に、実施例3の加工プロファイルを示す。なお、
図4(A)の実施例3の加工プロファイルは、加熱装置9による加熱によって半導体結晶体5の温度が目標温度である約900℃に達した後、上パンチ1と下パンチ2との間に電流を印加し始めた時点を、時間軸であるX軸の0分としている。
【0098】
まず、被加工物として、直径15mm、厚み3mmの円板状からなる、Si半導体結晶体である半導体結晶体5を準備した。
【0099】
まず、上パンチ1と下パンチ2との間に、半導体結晶体5を挟み込んだ。
【0100】
次に、加熱装置9により、外部から、チャンバー6に収容された、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5への加熱を開始した。
【0101】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した時点(時間軸であるX軸が0分の時点)に、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そして、この時点において、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、パルス電流を印加した。半導体結晶体5に印加する電流の電流値は、0Aから直線状に上昇させた。そして、電流の印加開始から18分が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を700Aとした。
【0102】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了する、電流の印加開始から30分が経過するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を700Aの定値電流に維持した。加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとするが、加熱装置9の加熱量を弱めることによって、半導体結晶体5の温度を目標温度である約900℃に維持した。
【0103】
電流の印加開始から18分が経過した時点(半導体結晶体5に印加する電流の電流値を700Aになった時点)から、上パンチ1、下パンチ2との間に所定の大きさの圧力を加え、直線状に圧力を大きくし、電流の印加開始から30分が経過した時点において圧力を最大にし、その直後に、塑性変形による半導体結晶体5の加工を終了させた。なお、圧力は、直線状に大きくするのに代えて、階段状に大きくしてもよい。
【0104】
自然冷却後に、実施例3の半導体結晶体5の加工状態を確認したところ、極めて良好であった。
【0105】
次に、比較例1について説明する。
図4(B)に、比較例1の加工プロファイルを示す。なお、
図4(B)の比較例1の加工プロファイルは、予熱装置209により予熱を開始した時点を、時間軸であるX軸の0分としている。
【0106】
比較例1では、
図5に示す、半導体結晶体の加工装置1400を使用した。加工装置1400は、加工装置100に対して数ヵ所において変更を加えている。
【0107】
まず、加工装置1400は、加工装置100の加熱装置9を省略し、代わりに半導体結晶体5の近傍に、半導体結晶体5を局所的に予熱(加熱)する予熱装置209が設けられている。また、加工装置1400は、加工装置100の電流制御方式のパルス電流発生装置10に代えて、電圧制御方式のパルス電流発生装置210が設けられている。パルス電流発生装置210は、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が目標温度から外れると、自動制御により、上パンチ1と下パンチ2との間に印加する電圧を調整し、半導体結晶体5に印加する電流の電流値の大きさを調整する。すなわち、半導体結晶体5の温度が目標温度を下回ると、上パンチ1と下パンチ2との間に印加する電圧を高くし、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を大きくし、逆に、半導体結晶体5の温度が目標温度を上回ると、上パンチ1と下パンチ2との間に印加する電圧を低くし、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を小さくする。
【0108】
比較例1においても、実施例3と同様に、まず、被加工物として、直径15mm、厚み3mmの円板状からなる、Si半導体結晶体である半導体結晶体5を準備した。
【0109】
次に、半導体結晶体5を、上パンチ1と下パンチ2との間に挟み込んだ。
【0110】
次に、予熱装置209により、半導体結晶体5への予熱を開始した。すなわち、半導体結晶体5は、常温では抵抗値が高く、電流が流れず、半導体結晶体5を自己発熱によって温度上昇させることができないため、予熱装置209により、半導体結晶体5へ予熱(加熱)するのである。
【0111】
加工開始(予熱装置209による予熱開始)から8分30秒が経過し、半導体結晶体5の温度が約400℃になったところで、パルス電流発生装置210を作動させ、半導体結晶体5に電流を印加し始めた。なお、予熱装置209による半導体結晶体5への予熱は、半導体結晶体5に電流を印加し始めた直後に終了した。
【0112】
上述したとおり、比較例1においては、パルス電流発生装置210が電圧制御方式により自動制御され、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が目標温度に到達するまで、上パンチ1と下パンチ2との間に印加する電圧を上昇させ、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を大きくしていく。そして、温度検知素子7で測定した半導体結晶体5の温度が目標温度に到達した後も、温度検知素子7で半導体結晶体5の温度を測定し、半導体結晶体5の温度が目標温度から外れると、自動制御により、上パンチ1と下パンチ2との間に印加する電圧の大きさを調整し、半導体結晶体5に印加する電流の電流値の大きさを調整する。なお、比較例1においても、目標温度を900℃にした。
【0113】
比較例1においては、加工開始から18分が経過したときに、半導体結晶体5の温度が目標温度である900℃に到達した。
【0114】
予熱装置209による予熱の開始から18分が経過した時点から、上パンチ1、下パンチ2との間に所定の大きさの圧力を加え、直線状に圧力を大きくし、電流の印加開始から30分が経過した時点において圧力を最大にし、その直後に、塑性変形による半導体結晶体5の加工を終了させた。なお、圧力は、直線状に大きくするのに代えて、階段状に大きくしてもよい。
【0115】
比較例1においては、半導体結晶体5の温度の維持が、局所的な半導体結晶体5の自己発熱によっておこなわれるため、半導体結晶体5の熱が、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、4を経由して外部に逃げる。そのため、パルス電流発生装置210は、半導体結晶体5の温度を維持するために、半導体結晶体5の塑性変形による加工中においても、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を絶えず変動させる。また、パルス電流発生装置210は、突発的に、半導体結晶体5に、予期せぬ大きな電流値の電流を印加する場合もある。
【0116】
自然冷却後に、比較例1の半導体結晶体5の加工状態を確認したところ、実用上問題のない加工精度であった。ただし、比較例1の半導体結晶体5は、塑性変形による加工中においても、印加される電流の電流値が変動したため、実施例3のものに比べて、光学的な品質にばらつきがあり、かつ、加工再現性が低かった。
【0117】
図4(A)から分かるように、実施例3においては、上パンチ1と下パンチ2との間に圧力をかけ、半導体結晶体5を塑性変形によって加工している間中、半導体結晶体5に電流制御による定値電流が印加されており、半導体結晶体5に突発的に大電流が印加されるようなことがない。したがって、実施例3によって加工された半導体結晶体5は、加工品質が高く、かつ、加工再現性が高い。また、半導体結晶体5にスパークが発生することがなく、加工装置(上パンチ1や下パンチ2など)が破損することがない。
【0118】
これに対し、比較例1においては、
図4(B)から分かるように、半導体結晶体5を塑性変形によって加工している間中、半導体結晶体5に印加される電流の電流値が変動している。また、突発的に、半導体結晶体5に大電流が流れる場合も起こり得る。したがって、比較例1によって加工された半導体結晶体5は、実施例3よって加工された半導体結晶体5に比べて、加工品質が低く、加工再現性が低く、不良品発生率が高い。また、半導体結晶体5にスパークが発生する場合があり、加工装置(上パンチ1や下パンチ2など)が破損する場合がある。
【0119】
以上より、本発明によれば、「直接通電加熱法」に比べて、高い加工品質、高い加工再現性、低い不良品発生率で、半導体結晶体を加工できることが分かった。
【0120】
また、本発明によれば、半導体結晶体5の温度を加熱装置9によって制御するとともに、半導体結晶体5に印加する電流の電流値をパルス電流発生装置10によって電流制御方式で制御することによって、半導体結晶体5の温度と、半導体結晶体5に印加する電流の電流値とを別々に制御することができるため、より精度の高い半導体結晶体5の加工が可能であることが分かった。
【0121】
[第3実施形態]
上述したとおり、第1実施形態で使用した加工装置100の加圧機構3は、サーボプレス装置であり、加圧力か、または、押し込み量かの、いずれかを指定して、動作させることができる。そこで、第3実施形態では、サーボプレス装置である加圧機構3の押し込み量を変化させて、半導体結晶体5の変形量の差を調べた。具体的には、押し込み量を変化させて、押し込み量が0.70mmの実施例4と、押し込み量が0.82mmの実施例5と、押し込み量が0.91mmの実施例6との3通りの加工をおこなった。
【0122】
なお、実施例4~6は、サーボプレス装置である加圧機構3の押し込み量だけが異なるため、3つの実施例を並行して説明する。
【0123】
まず、被加工物として、直径15mm、厚み3mmの円板状からなる、Si半導体結晶体である半導体結晶体5を準備した。
【0124】
次に、半導体結晶体5を、上パンチ1と下パンチ2との間に挟み込んだ。
【0125】
次に、加熱装置9により、上パンチ1、下パンチ2、加圧機構3、加圧機構4、半導体結晶体5への加熱を開始した。
【0126】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した時点に、半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そして、この時点において、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、パルス電流を印加した。半導体結晶体5に印加する電流の電流値は、0Aから直線状に上昇させた。そして、電流の印加開始から所定の時間が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を400Aとした。
【0127】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を400Aの定値電流に維持した。加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとするが、加熱装置9の加熱量を弱めることによって、半導体結晶体5の温度を目標温度である約900℃に維持した。
【0128】
電流の印加開始から所定の時間が経過したときに、上パンチ1の取り付けられた加圧機構3を、実施例4は、押し込み量0.70mmで降下させた。実施例5は、押し込み量0.82mmで降下させた。実施例4は、押し込み量0.91mmで降下させた。なお、下パンチ2が取り付けられた加圧機構4は固定式であり動かない。
【0129】
自然冷却後に、実施例4~6の半導体結晶体5について、それぞれ、変形量を測定した。
図6に、実施例4~6の半導体結晶体5の変形量を示す。
【0130】
図6から分かるように、押し込み量が0.70mmの実施例4は、変形量が約68μmであった。押し込み量が0.82mmの実施例5は、変形量が約88μmであった。押し込み量が0.91mmの実施例6は、変形量が約99μmであった。
【0131】
図6から分かるように、サーボプレス装置である加圧機構3の押し込み量と、半導体結晶体5の変形量とには、相関係数0.998と強い相関性がある。したがって、本実施形態の半導体結晶体の加工方法において、加圧機構にサーボプレス装置を使用し、加圧機構の押し込み量を制御すれば、半導体結晶体5の加工量(変形量)を制御することができることが分かった。
【0132】
[第4実施形態]
第4実施形態においては、上パンチ1と半導体結晶体5との間、および、半導体結晶体5と下パンチ2との間に、それぞれ、材質を挟入したうえで、半導体結晶体5の塑性変形による加工を実施した。なお、第4実施形態においても、第1実施形態と同様に、
図1に示す半導体結晶体の加工装置100を使用した。
【0133】
上パンチ1と半導体結晶体5との間、半導体結晶体5と下パンチ2との間に、それぞれ、材質を挟入すると、上パンチ1または下パンチ2と、半導体結晶体5との間の接触抵抗(Ω)が、挟入しないときに比べて変化する。
【0134】
材質を挟入したとき、および、材質を挟入しなかったときの接触抵抗(Ω)を、挟入する材質の種類を変えて、それぞれ測定した。挟入する材質は、アルミニウムシート、グラファイト、グラファイトシート、グラッシーカーボンの4種類とした。なお、上パンチ1および下パンチ2には、それぞれ、超硬により作製されたものを使用した。
【0135】
【0136】
アルミニウムシートは、半導体結晶体(Si半導体結晶体)とオーミック接触する材質であり、アルミニウムシートの場合のみ、挟入しないときの接触抵抗(62Ω)よりも、接触抵抗が小さくなった。その他の材質は、いずれも、挟入しないときの接触抵抗(62Ω)よりも、接触抵抗が大きくなった。たとえば、グラファイトを挟入した場合は、挟入しない場合の約2.6倍の大きさの接触抵抗になった。グラファイトシートを挟入した場合は、挟入しない場合の約6.3倍の大きさの接触抵抗になった。グラッシーカーボンを挟入した場合は、挟入しない場合の14倍の大きさの接触抵抗になった。
【0137】
この知見を活用すると、本発明の半導体結晶体の加工方法を、更に改善することができると考えられる。すなわち、上パンチ1および下パンチ2を、半導体結晶体5と接触抵抗の大きい材質で作製する、あるいは、上パンチ1および下パンチ2の表面に、半導体結晶体5との接触抵抗の大きい材質をコーティングすれば、上パンチ1と半導体結晶体5との接触抵抗、および、半導体結晶体5と下パンチ2との接触抵抗を、それぞれ大きくすることができ、上パンチ1と、半導体結晶体5と、下パンチ2とを繋ぐ電流経路に印加する電流の電流値が同じであっても、半導体結晶体5の自己発熱による発熱量を、より大きくすることができる。あるいは、半導体結晶体5を自己発熱させ、所定の温度に上昇させるときに、半導体結晶体5に印加する電流の電流値の大きさを、より小さくすることができる。
【0138】
上記の知見が正しいことを確認するために、次の実施例7~9を実施した。実施例7は、上パンチ1と半導体結晶体5との間、および、半導体結晶体5と下パンチ2との間に、何も挟入しなかった。実施例8は、上パンチ1と半導体結晶体5との間、および、半導体結晶体5と下パンチ2との間に、それぞれ、グラファイトシートを挟入した。実施例8は、上パンチ1と半導体結晶体5との間、および、半導体結晶体5と下パンチ2との間に、それぞれ、グラッシーカーボンを挟入した。
【0139】
以下に、実施例7~9について説明する。ただし、実施例7~9は、挟入の有無、または、挟入する材質の種類のみが異なるため、以下においては、3つの実施例を並行して説明する。
【0140】
まず、被加工物として、直径15mm、厚み3mmの円板状からなる、Si半導体結晶体である半導体結晶体5を準備した。
【0141】
そして、加熱装置9による加熱開始から所定の時間が経過した時点に、半導体結晶体5の温度が、目標温度である約900℃に達した。そして、この時点において、パルス電流発生装置10を作動させ、加圧機構3、上パンチ1、半導体結晶体5、下パンチ2、加圧機構4を繋ぐ電流経路に、パルス電流を印加した。半導体結晶体5に印加する電流の電流値は、0Aから直線状に上昇させた。そして、電流の印加開始から所定の時間が経過した時点において、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を300Aとした。
【0142】
そして、その後、半導体結晶体5の塑性変形による加工が終了するまで、半導体結晶体5に印加する電流の電流値を300Aの定値電流に維持した。加熱装置9による加熱により目標温度である約900℃に達した半導体結晶体5の温度は、半導体結晶体5に電流を印加することによって更に上昇しようとするが、加熱装置9の加熱量を弱めることによって、半導体結晶体5の温度を目標温度である約900℃に維持した。
【0143】
電流の印加開始から所定の時間が経過したときに、上パンチ1と下パンチ2との間に圧力をかけ始め、段階的または直線状に加圧力を大きくし、最終的には10KNまで加圧力を大きくし、その直後に、半導体結晶体5の塑性変形による加工を終了した。
【0144】
自然冷却後に、実施例7~9の半導体結晶体5について、それぞれ、変形量を測定した。表2に、実施例7~9の半導体結晶体5の変形量を示す。
【表2】
【0145】
表2から分かるように、接触抵抗の大きな材質を挟入するほど、変形量が大きくなった。具体的には、材質を挟入せず、接触抵抗62Ωの超硬により作製さられた上パンチ1と下パンチ2と、半導体結晶体5とを直接に接触させた実施例7は、変化量が8μmであった。接触抵抗393Ωのグラファイトシートを挟入させた実施例8は、変化量が119μmであった。接触抵抗868Ωのグラッシーカーボンを挟入させた実施例9は、変化量が181μmであった。
【0146】
以上より、本発明の半導体結晶体の加工方法において、上パンチ1および下パンチ2を、半導体結晶体5と接触抵抗の大きい材質で作製するか、あるいは、上パンチ1および下パンチ2の表面に、半導体結晶体5と接触抵抗の大きい材質を挟入すれば、半導体結晶体5に流す電流の電流値が同じであるとき、半導体結晶体5の加工量(変形量)をより大きくすることができることが分かった。あるいは、目標とする半導体結晶体5の加工量(変形量)が同じであれば、半導体結晶体5に流す電流の電流値を、より小さくできることが分かった。
【0147】
以上、第1実施形態~第4実施形態にかかる半導体結晶体の加工方法、および、それらの加工方法に使用する加工装置100について説明した。しかしながら、本発明が上述した内容に限定されることはなく、発明の趣旨に沿って、種々の変更をなすことができる。
【0148】
たとえば、第1実施形態~第4実施形態では、Si半導体結晶体を被加工物として加工したが、被加工物はSi半導体結晶体には限定されず、たとえばGe半導体結晶体などであっても、同様に、高い加工品質、高い加工再現性で加工することができる。
【符号の説明】
【0149】
1・・・上パンチ
2・・・下パンチ
3・・・加圧機構(下死点位置制御機能付きサーボプレス装置)
4・・・加圧機構(固定)
5・・・半導体結晶体
6・・・チャンバー
7・・・温度検知素子(熱電対)
8・・・シール部材(絶縁性)
9・・・加熱装置
10・・・パルス電流発生装置