(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】pH計測システム、pH計の校正方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20220824BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220824BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20220824BHJP
G01N 27/38 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
G01N27/26 381C
G01N27/416 353Z
G01N27/26 391Z
G01N27/28 341A
G01N27/38 311
(21)【出願番号】P 2018177441
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】澤崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 浩
(72)【発明者】
【氏名】森川 範広
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322736(JP,A)
【文献】特開昭57-132053(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137333(WO,A1)
【文献】特開平07-301614(JP,A)
【文献】米国特許第04260950(US,A)
【文献】中野泰介, 外,最近のpHセンサの新展開 最近の工業用pH計測の新展開〈pH電極,pH計および洗浄器の最新動向〉,計測技術,2007年,Vol.35, No.8,p.15-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26
G01N 27/416
G01N 27/28
G01N 27/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断させる中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開させた後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【請求項2】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断させる中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開させた後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【請求項3】
前記演算制御装置は、前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、異常対応処理を行う、請求項2に記載のpH計測システム。
【請求項4】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として記憶し、
前記第1時刻を記憶した後、前記変化率が前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【請求項5】
前記演算制御装置は、前記変化率が前記最終変化率以下となったか否かを判別開始後、所定の異常判別時間を経過しても前記変化率が前記最終変化率以下とならない場合、異常対応処理を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載のpH計測システム。
【請求項6】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【請求項7】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【請求項8】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として記憶し、
前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【請求項9】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する以前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶させ、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出させ、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせ、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として前記演算制御装置に記憶させ、
前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として前記演算制御装置に記憶させ、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として前記演算制御装置に算出させ、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として前記演算制御装置に記憶するようにさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として前記演算制御装置に記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH計測システム、pH計の校正方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、標準液による校正を完全に自動化した工業用pH計が用いられている。このような自動校正機能付きpH計では、電極を、試料液が混入しない状態で標準液に接触させる必要があり、種々の手法が採用されている。
例えば、特許文献1では、試料液から引き上げて空中に保持した電極に標準液を吹きつけ、電極を校正する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1の方法は、電極を試料液から引き上げるだけで標準液校正が可能であり、装置構造やシーケンス動作を非常に簡易なものとすることができる。しかしながら、この方法の場合、各標準液のpH値にガラス膜等が応答して安定するまでの間、標準液を毎分100mL程度流し続けるため、標準液の消費量が多い。特に、周囲温度が低い等の悪条件下では安定するまでに3分以上かかり、1回の校正に300mL以上の標準液を消費してしまう。そのため、標準液を頻繁に補充しなければならず、ランニングコストが高くなると共にメンテナンスも煩雑である。
そこで、特許文献2では、標準液の吹きつけを中断する中断期間を設けた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭56-38903号公報
【文献】特開2006-322736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の方法によれば、標準液の吹きつけを中断している間にも電極の応答が進行するため、全体として標準液の消費量を小さくすることができるが、中断期間も含めると、標準液校正に要する時間が長くなる。標準液校正に要する時間が長いと、前後の電極洗浄等の時間も含めた欠測時間が長くなるので好ましくない。
電極の応答時間は、測定対象の環境によって異なる。そこで、比較的良好な応答性を得やすい測定対象に使用する場合は、中断時間及び中断時間の前後の吹きつけ時間を短めに設定することも考えられる。
【0006】
しかし、電極の応答時間は、電極の使用期間やメンテナンスの状況等によっても異なるため、比較的良好な応答性を得やすい測定対象であったとしても、一律に設定時間を短くすることは難しい。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、電極を試料液から引き上げて校正する際の標準液の使用量を抑制しながら、可能な限り校正時間を短くすることが可能な、pH計測システム、pH計の校正方法およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断させる中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開させた後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【0008】
[2]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断させる中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開させた後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【0009】
[3]前記演算制御装置は、前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、異常対応処理を行う、[2]に記載のpH計測システム。
【0010】
[4]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムであって、
前記演算制御装置は、前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置に前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求める工程を開始し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として記憶し、
前記第1時刻を記憶した後、前記変化率が前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計測システム。
【0011】
[5]前記演算制御装置は、前記変化率が前記最終変化率以下となったか否かを判別開始後、所定の異常判別時間を経過しても前記変化率が前記最終変化率以下とならない場合、異常対応処理を行う、[1]~[4]のいずれか一項に記載のpH計測システム。
【0012】
[6]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【0013】
[7]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【0014】
[8]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極を空中に保持し、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつけながら、前記pH複合電極からの電位を校正電位として記憶するpH計の校正方法であって、
所定の判別時間あたりの前記pH複合電極からの電位の変化量を前記判別時間で除した変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として記憶し、
前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として記憶し、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出し、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続させ、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶し、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶することを特徴とするpH計の校正方法。
【0015】
[9]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する以前に所定の第1変化率以下となった場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【0016】
[10]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、所定の第1変化率以下となった第1時刻と、前記第1時刻の後、前変化率が前記第1変化率よりも小さい所定の第2変化率となった第2時刻とを記憶させ、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として算出させ、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせ、
前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【0017】
[11]ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されているpH複合電極と、前記pH複合電極を昇降させる昇降装置と、前記昇降装置で前記pH複合電極を空中に保持した状態で、前記pH複合電極の下端面に標準液の滴端が形成されるように、前記pH複合電極に標準液を吹きつける標準液供給装置と、前記pH複合電極が得た電位が入力されると共にシステム全体を制御する演算制御装置とを備えるpH計測システムに、校正作業を行わせるためのプログラムであって、
前記昇降装置に前記pH複合電極を空中に保持させ、前記標準液供給装置で前記pH複合電極に標準液を吹きつけさせながら、前記演算制御装置に所定の判別時間毎に前記pH複合電極からの電位を取得して前記判別時間あたりの電位変化量と、前記電位変化量を前記判別時間で除した変化率を求めさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後所定の基準第1時間を経過する前に所定の第1変化率以下となった場合に、前記第1変化率以下となった時刻を第1時刻として前記演算制御装置に記憶させ、
前記変化率が、前記第1時刻後所定の基準第2時間を経過する前に所定の第2変化率以下となった場合に、前記第2変化率以下となった時刻を第2時刻として前記演算制御装置に記憶させ、
前記第2時刻と前記第1時刻との差を評価時間として前記演算制御装置に算出させ、
前記評価時間が所定の基準評価時間より短い場合は標準液の吹きつけを継続し、その後、前記変化率が前記第2変化率よりも小さい所定の最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として前記演算制御装置に記憶するようにさせ、
前記変化率が、標準液の吹きつけ開始後前記基準第1時間を経過しても前記第1変化率以下とならない場合、もしくは前記変化率が、前記第1時刻後前記基準第2時間を経過しても前記第2変化率以下とならない場合、または前記評価時間が前記基準評価時間以上であった場合は、前記滴端が維持される範囲内で標準液の吹きつけを中断する中断期間を設け、前記中断期間が終了して標準液の吹きつけを再開した後に、前記変化率が前記最終変化率以下となった時点の電位を校正電位として前記演算制御装置に記憶するようにさせることを特徴とするプログラム。
【発明の効果】
【0018】
本発明のpH計測システム、pH計の校正方法およびプログラムによれば、電極を試料液から引き上げて校正する際の標準液の使用量を抑制しながら、可能な限り校正時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る計測システムの全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態における計測システムの、pH複合電極、昇降装置及び標準液供給装置の一例を示す構成図である。
【
図3】
図2のpH複合電極周辺を拡大した斜視図である。
【
図4】標準液吹きつけの状態を示す一部切り欠き断面図である。
【
図5】標準液吹きつけにより形成される滴端の説明図である。
【
図6】本発明の実施形態のpH計測システムが行う校正方法の第一の例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態のpH計測システムが行う校正方法の第二の例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態のpH計測システムが行う校正方法の第三の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態のpH計測システムは、常時は測定モードとされており、予め決められたスケジュールに従い、又は、使用者による操作に従い、校正モードに切り替えられるようになっている。また、予め決められたスケジュールに従い、又は、使用者による操作に従い、洗浄モードに切り替えられるようになっていてもよい。
測定モードでは、測定対象である試料液のpHに応じてpH複合電極から得られる電位を連続的に取得するようになっている。
また、校正モードでは、pH複合電極から得られる電位とpHとの関係を示す検量線の情報を修正すべく、標準液のpHに応じてpH複合電極から得られる電位を校正電位として記憶する本発明の校正方法を行うようになっている。
なお、洗浄モードでは電極の洗浄を行うが、標準液校正は行わない。
【0021】
[装置構成]
図1に示すように、本実施形態のpH計測システムは、pH複合電極20と装置本体1と昇降装置40と標準液供給装置70を備えている。
図1では、本実施形態のpH計測システムに、外部の記録計7を接続した例を示している。
【0022】
pH複合電極20は、常時は試料液に浸漬され、試料液のpHに応じた電位等の情報を得るようになっている。pH複合電極20は装置本体1の電極入力端子11に接続されており、測定モードと校正モードの何れの場合にも、電位と温度情報を継続的に得て装置本体1に入力するようになっている。
【0023】
昇降装置40は、装置本体1の昇降出力端子12に接続されている。昇降装置40は、装置本体1の昇降出力端子12から昇降信号に従い、pH複合電極20を昇降させるようになっている。
標準液供給装置70は、装置本体1の校正出力端子13に接続されている。標準液供給装置70は、装置本体1の校正出力端子13から校正信号に従い、pH複合電極20の感応部に標準液を吹きつけるようになっている。
【0024】
外部の記録計7は、装置本体1のデータ出力端子14に接続され、データ出力端子14から出力される伝送出力に応じて試料液のpH等を記録するようになっている。データ出力端子14と記録計7とは、直接、ケーブルで接続されていてもよいし、通信システムを利用して接続されていてもよい。
【0025】
装置本体1は、内部にシステム全体を制御する演算制御装置90を備えている。また、表示装置5と操作部6とを備えている。
表示装置5は、pH複合電極20が得た電位や、当該電位に対応するpHを表示するようになっている。また、校正中である旨の情報等、ユーザが認識すべき各種情報を表示できるようになっている。
【0026】
演算制御装置90は、変換部91、計時部92、記憶部93、演算部94、校正指示部95を備えている。
変換部91を除く演算制御装置90の一部、または全部は、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。また、計時部92、記憶部93、演算部94、校正指示部95を、各機能ブロックとして個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。
また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0027】
変換部91は、pH複合電極20から入力される電位をインピーダンス変換及びA/D変換して、演算部94に出力するようになっている。
計時部92は、時刻情報を生成し、演算部94に出力するようになっている。なお、本発明において時刻とは、単に、時の流れにおけるある一瞬、時点を意味する。ただし、時刻を特定するために、一日の起点である正子からの時間を時刻としてもよい。計時部92は、測定モードと校正モードの何れの場合にも、時刻情報を継続的に生成して演算部94に入力するようになっている。
【0028】
記憶部93は、本発明の校正方法を実施するための各種設定値を記憶する。各種設定値には基準第1時間、基準評価時間、第1変化率等の各種所定の値が含まれる。
また、校正によって得られた校正電位とpHとの関係が記憶されるようになっている。
【0029】
演算部94は、変換部91を経て継続的に得られる電位と、計時部92と記憶部93から得られる情報を総合して、各種演算を行うと共に、本発明の校正方法を実施するための指令を校正指示部に出力するようになっている。
校正指示部95は、演算部94からの指令に基づき、昇降信号や校正信号を生成し、昇降装置40と標準液供給装置70に出力するようになっている。
操作部6は、予めプログラムされた動作手順とは異なる動作をpH計測システムに行わせることや、種々の設定値を任意に変更するために用いられる。
【0030】
図2は、本実施形態のpH計測システムにおけるpH複合電極20、昇降装置40(要部のみ)及び標準液供給装置70(要部のみ)の一例を示す構成図である。
昇降装置40としては、例えば、エアシリンダーを用いることができる。
図2では、昇降装置40による下降時の状態を実線で、昇降装置40による上昇時の状態を破線で、各々示している。
【0031】
図2の例では、pH複合電極20は、下端部を露出させた状態で電極ホルダ10に内挿されている。pH複合電極20のリード線60は電極ホルダ10の頂部から導出され、
図1の電極入力端子11に接続されている。
また、電極ホルダ10の下端側には、pH複合電極20の露出部分を保護する保護筒30が固定されている。また、昇降装置40による上昇時において、保護筒30を包囲する位置に洗浄校正槽50が配置されている。
【0032】
電極ホルダ10は、昇降装置40の把持部41により把持されており、昇降装置40により昇降するようになっている。そして、pH複合電極20は、昇降装置40が電極ホルダ10を昇降させるのに伴い、電極ホルダ10及び保護等30と共に昇降するようになっている。
図2に実線で示すように、下降時には、pH複合電極20が試料液Wの中に浸漬され、試料液WのpHに応じた出力電位を発生するようになっている。
一方、上昇時には、pH複合電極20が空中に保持された状態となり、校正または洗浄を行えるようになっている。
【0033】
図3に示すように、pH複合電極20は、電極本体21の下端面21aに、ガラス電極のガラス膜22、比較電極の液絡部23、23、温度補償素子24が、各々露出して配置された構成となっている。
保護筒30は、略円筒の部材に切り欠き31が設けられており、この切り欠き31を通過させて、標準液等をpH複合電極20に吹きつけられるようになっている。
洗浄校正槽50は円筒状で底蓋等はなく、昇降装置40によりpH複合電極20が保護筒30と共に、上下動のみで出入可能となっている。
【0034】
図2に示すように本実施形態の標準液供給装置70は、標準液A(例えばpH7標準液)を送液する送液管71、標準液B(標準液Aとは異なる標準液、例えばpH4標準液)を送液する送液管72、洗浄水を送液する送液管73、薬液を送液する送液管74を備えている。
送液管71のジョイント81、送液管72のジョイント82、送液管73のジョイント83、薬液を送液する送液管74のジョイント84は、洗浄校正槽50に取り付けられている。
【0035】
なお、
図2では、図示の便宜上、ジョイント81~84の位置を上下に示したが、ジョイント81とジョイント82とは、
図4に示すように、水平方向に隣り合って取り付けられており、それらの取付位置は、電極ホルダ10の上昇時における電極本体21の露出部分とほぼ同等の高さとされている。
また、ジョイント83とジョイント84とは水平方向に隣り合って取り付けられており、それらの取付位置は、電極ホルダ10の上昇時における保護筒30の下端側とほぼ同等の高さとされている。
【0036】
図4に示すように、ジョイント81及び洗浄校正槽50の周面に、略水平に貫通するノズルN1が形成されており、このノズルN1から標準液Aが電極本体21の周面に向けて噴出されるようになっている。
同様に、ジョイント82及び洗浄校正槽50の周面を略水平に貫通するノズルN2が形成されており、このノズルN2から標準液Bが電極本体21の周面に向けて噴出されるようになっている。
【0037】
また、ジョイント83及び洗浄校正槽50の周面を斜めに貫通するノズルN3が形成されており、このノズルN3から洗浄水が電極本体21の下端面21aに向けて噴出されるようになっている。
同様に、ジョイント84及び洗浄校正槽50の周面を斜めに貫通するノズルN4が形成されており、このノズルN4から薬液が電極本体21の下端面21aに向けて噴出されるようになっている。
【0038】
[測定モード]
本実施形態のpH計測システムでは、測定モードの間、演算部94が、継続的に取得している電位を、同時に取得している温度情報に基づき温度補償されたpH測定値に換算する。そして、得られたpH測定値と温度を、逐次、表示装置5に表示させると共に、データ出力端子14から記録計7に出力する。記録計7には、pH測定値および温度と共に、該pH測定値を取得した際に計時部92が計時した時刻を併せて出力してもよい。
【0039】
[校正モード]
本実施形態のpH計測システムは、演算部94が、計時部92からの情報により前回の校正モード開始時刻から設定されている校正周期が経過したことを認識した場合、また、操作部6から校正開始の指示が入力された場合、測定モードを終了し、校正モードを開始する。
【0040】
校正モードの間も、演算部94は、継続的にpH複合電極20から電位と温度情報を取得する。ただし、試料液WのpHに応じたpH複合電極の電位を得られなくなるので、演算部94から表示装置5の表示や記録計7に送る信号を、校正モードにおける表示や信号に切り替える。
例えば、表示装置5には、校正モードであることを示す表示などを表示させる。また、記録計7には、校正モードであることを示す信号や、ダミー情報に基づく信号(測定モードの最後に得られたpH測定値や温度等)を出力する。
【0041】
本実施形態のpH計測システムにおいて、校正モードは、pH複合電極20を
図2の破線で示す位置まで上昇させ、空中に保持した状態とする上昇工程、薬液と洗浄水を用いた薬液洗浄工程、標準液Aを用いて本発明の校正方法を実施する標準液A工程、洗浄水を用いた水洗浄工程、標準液Bを用いて本発明の校正方法を実施する標準液B工程、洗浄水を用いた水洗浄工程、pH複合電極20を
図2の実線で示す位置まで下降させ、試料液W中に浸漬した状態とする下降工程からなる。
【0042】
校正モードを開始する情報を与えられた校正指示部95は、昇降装置40に上昇の指示を与え、昇降装置40は指示に従い、pH複合電極20を
図2の破線で示す位置まで上昇させ、空中に保持した状態とする(上昇工程)。
次いで、校正指示部95は標準液供給装置70に対して薬液洗浄信号を出力し、標準液供給装置70は、洗浄水と薬液を、洗浄水、薬液、洗浄水の順番で、pH複合電極20に向けて噴出し、pH複合電極20を洗浄する(薬液洗浄工程)。
なお、試料液Wの性状によっては、薬液洗浄工程を、水のみで洗浄する工程に変更してもよい。
【0043】
pH複合電極20の洗浄が終了すると、校正指示部95は標準液供給装置70に対して校正信号を出力し、標準液供給装置70は、まず標準液AをpH複合電極20に向けて噴出し、本発明の校正方法に従い、標準液Aから得られるpH複合電極20の電位を校正電位として記憶する(標準液A工程)。
次いで、校正指示部95は標準液供給装置70に対して水洗浄信号を出力し、標準液供給装置70は、洗浄水をpH複合電極20に向けて噴出し、pH複合電極20を洗浄する(水洗浄工程)。
【0044】
その後、校正指示部95は標準液供給装置70に対して校正信号を出力し、標準液供給装置70は、標準液BをpH複合電極20に向けて噴出し、本発明の校正方法に従い、標準液Bから得られるpH複合電極20の電位を校正電位として記憶する(標準液B工程)。
次いで、校正指示部95は標準液供給装置70に対して水洗浄信号を出力し、標準液供給装置70は、洗浄水をpH複合電極20に向けて噴出し、pH複合電極20を洗浄する(水洗浄工程)。
その後、昇降装置40に下降の指示を与え、昇降装置40は指示に従い、pH複合電極20を
図2の実線で示す位置まで下降させ、試料液Wに浸漬した状態とし(下降工程)、校正モードを終了する。校正モード終了後は測定モードに復帰する。
【0045】
[校正方法]
標準液A工程及び標準液B工程で実施する本発明の校正方法では、pH複合電極20を空中に保持した状態で、電極本体21の周面に向けて各標準液を吹きつけ、その際にpH複合電極20から得られる電位を校正電位として記憶し、記憶部93に、当該標準液のpHと関連づけて記憶させる。
本発明の校正方法では、標準液の吹きつけ開始から校正電位の記憶までの間に、必要に応じて標準液の吹きつけを中断する中断期間を設ける。中断期間は標準液の吹きつけにより形成された滴端が維持される範囲内に留める。
【0046】
標準液を電極本体21の周面に向けて吹きつけると、
図4に示すように、電極本体21を伝わって落下した標準液が、電極本体21の下端面21aで滴端Dを形成する。この滴端Dは、
図5に示すように、pH複合電極20のガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を総て覆った状態となる。換言すれば、pH複合電極20のガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を滴端Dの中に浸漬した状態となる。そのため、pH複合電極20は、空中に保持されているにもかかわらず、標準液のpHに応じた出力電位を発生することができる。
【0047】
この滴端Dは、いずれは落下して消滅するものである。しかし、連続的な吹きつけを中断しても、一旦形成された滴端Dはしばらくの間維持される。すなわち、滴端D形成後標準液の吹きつけを中断しても、ガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を滴端Dの中に浸漬した状態を継続することができ、その間標準液を消費することなく、電極の応答を進めることが可能である。
【0048】
滴端D形成までの時間は、吹きつける標準液の流量や電極本体21の径等にもよるが、直径15mm程度の標準的な電極に毎分100mL程度の標準液を吹きつける場合、30~60秒吹きつければ充分である。また、吹きつけを中断しても、通常60秒以上滴端Dが維持される。
【0049】
図6は、標準液A工程及び標準液B工程で実施する本発明の校正方法の第一の例を示すフローチャートである。
標準液(標準液Aまたは標準液B)の吹きつけを開始すると共に、pH複合電極20から得られる電位を取得して判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記所定の判別時間で除した変化率を求める工程を開始する(ステップA1)。
【0050】
本発明における変化率は、継続的に取得している電位と計時部92が計時している時刻に基づき求める。具体的には、時刻txにおける電位Dxと、時刻txから判別時間tdを経過した時刻tyにおける電位Dyとの差ΔDを、tdで除することにより求められる。例えば、単位時間が1秒で、判別時間tdが3秒の場合、3秒ごとに、取得した電位と、その3秒前に取得した電位との差(電位変化量)を求め、求めた電位変化量を3で除することにより求めることができる。
【0051】
なお、本発明において、変化率が第1変化率等の所定の値以下となった時刻は、変化率が所定の値以下となったことを演算制御部が認識した時点である。判別時間tdが経過する毎に変化率を求め、一度でも所定の値以下となった場合に、変化率が所定の値以下となったと認識するようにしてもよいし、複数回、例えば3回所定の値以下となった場合に、変化率が所定の値以下となったと認識するようにしてもよい。
また、変化率が第1変化率等の所定の値以下となったか否かは、所定の値に判別時間tdを乗じた値と電位変化量とを対比して判断するようにしてもよい。
【0052】
判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、所定の第1変化率以下となったか否かを判定する(ステップA2)。第1変化率以下となった場合は、判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、所定の最終変化率以下となったか否かを判定する(ステップA3)。そして、最終変化率以下となった場合は、その時の電位を校正電位として記憶する(ステップA4)。
【0053】
最終変化率は、第1変化率より小さい値である。第1変化率と最終変化率の具体的値に特に限定はないが、第1変化率を0.06~0.6mV/秒、最終変化率を0.03~0.3mV/秒と設定することが好ましく、第1変化率を0.1~0.3mV/秒、最終変化率を0.03~0.1mV/秒と設定することがより好ましい。
【0054】
なお、ステップA2とステップA3の判別時間tdは同じであっても異なっていてもよい。ステップA2の判別時間tdを1~10秒、ステップA3の判別時間tdを1~5秒と設定することが好ましく、ステップA2の判別時間tdを1~10秒、ステップA3の判別時間tdを1~5秒と設定することがより好ましい。
また、ステップA3は、複数回繰り返してもよい。すなわち、変化率が最終変化率となったことを複数回確認してからステップA4に進んでもよい。
【0055】
ステップA2で変化率が第1変化率以下となっていない場合は、開始からの経過時間が所定の基準第1時間以上となっているか否かを判定する(ステップA5)。ステップA5で開始からの経過時間が基準第1時間以上となっていないことを確認したら、ステップA2の判定を繰り返す。
基準第1時間は、30~120秒に設定することが好ましく、30~90秒に設定することがより好ましい。
【0056】
ステップA5で開始からの経過時間が基準第1時間以上となった場合は、標準液の吹きつけを中断し(ステップA6)、その後再開する(ステップA7)。
ステップA6で吹きつけを中断する場合の中断期間は、15~90秒と設定することが好ましく、30~90秒と設定することがより好ましい。
再開後は、判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、最終変化率以下となったか否かを判定し(ステップA3)、最終変化率以下となったら、その時の電位を校正電位として記憶する(ステップA4)。
【0057】
所定の異常判別時間以上となっても、ステップA3で変化率が最終変化率とならない場合は、異常対応処理を行うようにしもよい。
すなわち、変化率が最終変化率以下となっていない場合は、ステップA3開始からの経過時間が所定の異常判別時間以上か否かを判別する(ステップA8)。そして、所定の異常判別時間以上でなければステップA3を繰り返し、所定の異常判別時間以上であれば、異常対応処理(ステップA9)に進む。
異常判別時間は、180~600秒に設定することが好ましく、240~360秒に設定することがより好ましい。
【0058】
異常対応処理としては異常警告処理を行うことが好ましい。異常警告処理としては、例えば、警告メッセージの表示、警告灯の点灯、警報信号の出力等が挙げられる。また、直ちに異常警告処理を行わず再洗浄を行ってもよく、直ちに異常警告処理を行うと共に再洗浄を行ってもよい。
再洗浄は標準液の吹きつけを終了しpH複合電極20を薬液で洗浄する工程を含む。再洗浄は標準液の吹きつけを終了した後、洗浄水と薬液を、洗浄水、薬液、洗浄水の順番でpH複合電極20に向けて噴出し、pH複合電極20を洗浄する工程であることが好ましい。
再洗浄が終了した後は、pH複合電極20に標準液を吹きつけさせながら、電位変化量と変化率を求める工程の開始(ステップA1)に戻ることが好ましい。
【0059】
pH複合電極20の汚れが充分に落ちていないことが、所定の異常判別時間以上となっても変化率が最終変化率とならない要因であれば、再洗浄を行うことによって、再度異常対応処理(ステップA9)に進むことなく、校正電位を記憶(ステップA4)することができる。
また、再洗浄を一度または複数回行ったにもかかわらず、再度異常対応処理(ステップA9)に進んだ場合は、さらなる再洗浄を行うことなく、異常警告処理を行うことが好ましい。
【0060】
図6のフローチャートに従う校正方法によれば、標準液に対する応答が早く、基準第1時間に至る前に、変化率が第1変化率以下となった場合は、中断期間を設けることなく、ステップA4に進むことができる。そのため、校正に要する時間を短くすることができる。
また、標準液に対する応答が遅く、基準第1時間に至っても、変化率が第1変化率以下とならない場合は、中断期間を設けることにより、標準液の消費量を抑制しつつ、充分な応答が得られてからステップA4に進むことができる。
【0061】
図7は、標準液A工程及び標準液B工程で実施する本発明の校正方法の第二の例を示すフローチャートである。
標準液(標準液Aまたは標準液B)の吹きつけを開始すると共に、pH複合電極20から得られる電位を取得して判別時間あたりの電位変化量と前記電位変化量を前記所定の判別時間で除した変化率を求める工程を開始する(ステップB1)。
変化率は、先に説明したステップA1と同様にして求めることができる。
【0062】
判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、所定の第1変化率以下となったか否かを判定する(ステップB2)。第1変化率以下となった場合はその時の時刻を第1時刻として記憶する(ステップB3)。
ステップB3の後、変化率の算出を継続し、判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、所定の第2変化率以下となったか否かを判定する(ステップB4)。第2変化率以下となった場合はその時の時刻を第2時刻として記憶する(ステップB5)。
先に説明したステップA2と同様に、変化率が第1変化率等の所定の値以下となったか否かは、所定の値に判別時間tdを乗じた値と電位変化量とを対比して判断するようにしてもよい。
【0063】
次いで、記憶した第1時刻と第2時刻の差(第2時刻-第1時刻)を評価時間として求める(ステップB6)。
そして、求めた評価時間と所定の基準評価時間とを比較する(ステップB7)。基準評価時間は、15~60秒に設定することが好ましく、15~30秒に設定することがより好ましい。
評価時間が基準評価時間に満たなければ、判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、所定の最終変化率以下となったか否かを判定する(ステップB8)。そして、最終変化率以下となった場合は、その時の電位を校正電位として記憶する(ステップB9)。
【0064】
第2変化率は第1変化率より小さい値である。最終変化率は第2変化率よりさらに小さい値である。第1変化率、第2変化率と最終変化率の具体的値に特に限定はないが、第1変化率を6~30mV/秒、第2変化率を0.06~0.6mV/秒、最終変化率を0.03~0.3mV/秒と設定することが好ましく、第1変化率を10~20mV/秒、第2変化率を0.1~0.2mV/秒、最終変化率を0.03~0.1mV/秒と設定することがより好ましい。
【0065】
なお、ステップB2とステップB4とステップB8の判別時間tdは同じであっても異なっていてもよい。ステップB2の判別時間tdを1~10秒、ステップB4の判別時間tdを1~10秒、ステップB8の判別時間tdを1~10秒と設定することが好ましく、ステップB2の判別時間tdを1~5秒、ステップB4の判別時間tdを1~5秒、ステップB8の判別時間tdを1~5秒と設定することがより好ましい。
また、ステップB8は、複数回繰り返してもよい。すなわち、変化率が最終変化率となったことを複数回確認してからステップB9に進んでもよい。
【0066】
ステップB2で変化率が第1変化率以下となっていない場合は、開始からの経過時間が所定の基準第1時間以上となっているか否かを判定する(ステップB10)。ステップB10で開始からの経過時間が基準第1時間以上となっていないことを確認したら、ステップB2の判定を繰り返す。
基準第1時間は、30~120秒に設定することが好ましく、30~90秒に設定することがより好ましい。
ステップB10で開始からの経過時間が基準第1時間以上となった場合は、標準液の吹きつけを中断し(ステップB12)、その後再開する(ステップB13)。
【0067】
ステップB4で変化率が第2変化率以下となっていない場合は、第1時刻からの経過時間が所定の基準第2時間以上となっているか否かを判定する(ステップB11)。ステップB11で開始からの経過時間が基準第2時間以上となっていないことを確認したら、ステップB4の判定を繰り返す。
基準第2時間は、15~90秒に設定することが好ましく、30~90秒に設定することがより好ましい。
ステップB11で第1時刻からの経過時間が基準第2時間以上となった場合は、標準液の吹きつけを中断し(ステップB12)、その後再開する(ステップB13)。
【0068】
ステップB7で評価時間が基準評価時間以上となった場合は、標準液の吹きつけを中断し(ステップB12)、その後再開する(ステップB13)。
ステップB12で吹きつけを中断する場合の中断期間は、15~90秒と設定することが好ましく、30~90秒と設定することがより好ましい。
再開後は、判別時間tdが経過する毎に求めた変化率が、最終変化率以下となったか否かを判定し(ステップB8)、最終変化率以下となったら、その時の電位を校正電位として記憶する(ステップB9)。
【0069】
ステップB8では、所定の異常判別時間以上となっても変化率が最終変化率とならない場合に、異常対応処理を行うようにしもよい。
すなわち、変化率が最終変化率以下となっていない場合は、ステップB8開始からの経過時間が所定の異常判別時間以上か否かを判別する(ステップB14)。そして、所定の異常判別時間以上でなければステップB8を繰り返し、所定の異常判別時間以上であれば、異常対応処理(ステップB15)に進む。
異常判別時間は、180~600秒に設定することが好ましく、240~360秒に設定することがより好ましい。
【0070】
異常対応処理としては、
図6のフローチャートに従う校正方法(第一の例)と同様に異常警告処理を行うことが好ましい。また、直ちに異常警告処理を行わず再洗浄を行ってもよく、直ちに異常警告処理を行うと共に再洗浄を行ってもよい。
再洗浄が終了した後は、pH複合電極20に標準液を吹きつけさせながら、電位変化量と変化率を求める工程の開始(ステップB1)に戻ることが好ましい。
また、再洗浄を一度または複数回行ったにもかかわらず、再度異常対応処理(ステップB15)に進んだ場合は、さらなる再洗浄を行うことなく、異常警告処理を行うことが好ましい。
【0071】
図7のフローチャートに従う校正方法によれば、標準液に対する応答が早く、評価時間が基準評価時間に満たない場合は、中断期間を設けることなく、ステップB9に進むことができる。そのため、校正に要する時間を短くすることができる。
また、標準液に対する応答が遅く、変化率が第1変化率以下となるまでの時間、もしくは変化率が第2変化率以下となるまでの時間が長かった場合、または評価時間が長かった場合は、中断期間を設けることにより、標準液の消費量を抑制しつつ、充分な応答が得られてからステップB9に進むことができる。
【0072】
図8は、標準液A工程及び標準液B工程で実施する本発明の校正方法の第三の例を示すフローチャートである。
図8の例は、ステップB10で開始からの経過時間が基準第1時間以上となった場合と、ステップB11で第1時刻からの経過時間が基準第2時間以上となった場合に、標準液の吹きつけを中断するステップB12に進むのではなく、異常対応処理(ステップB15)に進む。その他は、
図7の第二の例と同じである。
【0073】
図7または
図8の例においては、ステップB2で変化率が第1変化率以下となっていない場合、ステップB10に進まず、そのままステップB2を繰り返すようにしてもよい。
また、ステップB4で変化率が第2変化率以下となっていない場合、ステップB11に進まず、そのままステップB4を繰り返すようにしてもよい。
【0074】
[プログラム等]
上記実施形態では、演算制御装置全体が装置本体に内蔵されている例を示したが、本発明の計測システムにおける演算制御装置の一部または全部は、装置本体に直接または通信システムを利用して接続される外部のコンピュータであってもよい。その場合、外部のコンピュータを、本発明における演算制御装置の一部または全部として機能させ、本発明の校正方法の実施にあたる校正作業を行わせるためのプログラムが必要となる。
【0075】
プログラムは、予めコンピュータに記録されていてもよいし、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませてもよい。
また、予めコンピュータに記録されているプログラムと、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録し、コンピュータに読み込ませるプログラムとを組み合わせてもよい。
【0076】
ただし、外部のコンピュータを、本発明における演算制御装置の一部または全部として機能させるためには、予めインピーダンス変換及びA/D変換された電位をコンピュータに入力する必要がある。そのため、上記実施形態における変換部は、装置本体に残すか、電極に変換部を持たせる必要がある。
また、上記実施形態における変換部を演算制御装置の一部とせず、電極に変換部を持たせてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、装置本体1に表示装置5を備える例を示したが、表示装置5は、装置本体に一体化されている必要はなく、直接、または通信システムを利用して接続された外部表示装置であってもよい。
【実施例】
【0078】
図7のフローチャートに従う校正方法において、判別時間を3秒、第1変化率を12mV/秒、第2変化率を0.12mV/秒、最終変化率を0.06mV/秒と設定し、基準第1時間を60秒、基準第2時間を60秒、基準評価時間を20秒、中断時間を60秒に設定した。
【0079】
比較的応答の早い電極を用いてpH7標準液を用いた校正を行ったところ、開始後25秒で第1時刻となり、40秒で第2時刻となり、評価時間は15秒で基準評価時間に満たなかった。
そこで、中断期間を設けることなく標準液の吹きつけを継続したところ、開始後70秒で最終変化率となり、校正電位の記憶を完了した。
【0080】
約1年程度使用し、比較的応答が遅くなった電極を用いてpH7標準液を用いた校正を行ったところ、開始後30秒で第1時刻となり、55秒で第2時刻となり、評価時間は25秒で基準評価時間以上であった。
そこで、60秒間標準液の吹きつけを中断し、その後再開したところ、再開後15秒で最終変化率となり、校正電位の記憶を完了した。最初の吹きつけ開始から校正電位の記憶完了までに要した時間は、2分10秒であった。
【0081】
以上の結果から、電極を試料液から引き上げて校正する際の標準液の使用量を抑制しながら、電極の応答性に合わせて、可能な限り校正時間を短くすることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0082】
1…装置本体、5…表示装置、6…操作部、20…pH複合電極、
90…演算制御装置、91…変換部、92…計時部、93…記憶部、94…演算部、
95…校正指示部、40…昇降装置、70…標準液供給装置、7…記録計