IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 梨木 政行の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02P 31/00 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
H02P31/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017004944
(22)【出願日】2017-01-16
(65)【公開番号】P2018117398
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2019-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】713009714
【氏名又は名称】梨木 政行
(72)【発明者】
【氏名】梨木 政行
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04573003(US,A)
【文献】特開昭53-000810(JP,A)
【文献】特開昭62-104491(JP,A)
【文献】米国特許第05418446(US,A)
【文献】特表2006-521080(JP,A)
【文献】特開2015-065803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的に突極特性のロータと、
前記ロータのステータ側の円周上に分布状に配置した単相のロータ巻線RWと、
ステータのロータ側の円周上に配置した多相のステータ巻線SWと、
前記ステータ巻線SWの各相のステータ電流SIGを供給するステータ電流供給手段MSCと、
前記ロータ巻線RWのロータ電流RIGを供給するロータ電流供給手段MRCと、
前記ステータ電流SIGと前記ロータ電流RIGを制御する電流制御手段MCCとを備えたモータであって、
前記ロータ電流供給手段MRCにより前記ロータ電流RIGとして直流電流を前記ロータ巻線RWへ通電し、
前記電流制御手段MCCは、前記ロータの円周方向に配置する各スロットへ巻回する前記ロータ巻線RWに通電する前記ロータ電流RIGとエアギャップ部を介し対向して、前記ステータの円周方向の各スロットの前記ステータ巻線SWへ各相の前記ステータ電流SIGを通電するように制御し、
前記電流制御手段MCCは、前記ロータの回転角位置をθrとし前記ロータ電流RIGに対する前記ステータ電流SIGの円周方向の相対的な電流位相をθiとして、各相の前記ステータ電流SIGの電流位相を(θr-θi)に制御し、
前記電流制御手段MCCは、各相の前記ステータ電流SIGの一部の電流成分である界磁電流成分Ifsと前記ロータ電流RIGの一部の電流成分である界磁電流成分Ifrとを同一方向に通電し、前記ステータ側の前記界磁電流成分Ifsと前記ロータ側の前記界磁電流成分Ifrの合計(Ifs+Ifr)により前記モータの界磁磁束φを励磁し、
前記電流制御手段MCCは、各相の前記ステータ電流SIGの一部の電流成分であるトルク電流成分Itsと前記ロータ電流RIGの一部の電流成分であるトルク電流成分Itrとを逆方向に通電して相互に起磁力を相殺し、前記ステータ側の前記トルク電流成分Itsと前記ロータ側の前記トルク電流成分Itrにより出力トルクを生成する
ことを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1において、
突極型ロータの磁気抵抗の大きいロータスペースへ配置する界磁巻線RFWを備える
ことを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項1において、
前記ロータ電流供給手段MRCが、前記ロータ電流RIGを供給する回転トランスRTT、あるいは、交流発電機AGと、
前記回転トランスRTT、あるいは、前記交流発電機AGの出力である交流電流を直流の前記ロータ電流RIGへ整流する整流部REC1とを備える
ことを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項1において、
前記ロータ電流供給手段MRCは、前記ステータ電流供給手段MSCが生成する前記ステータ電流SIGを使用して前記ロータ電流RIGを供給する
ことを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項1において、
前記ロータ電流供給手段MRCは、QNが2以上の整数として、前記ステータの円周方向に電気角で360°のQN倍の周期の交流磁束の成分を励磁するステータ給電巻線PSWと、
円周方向の巻線ピッチが電気角360°の整数倍であって、前記ステータ給電巻線PSWがロータ側へ供給する電力を受け取るロータ受電巻線PRWと、
前記ロータ受電巻線PRWの交流電流を流の前記ロータ電流RIGへ整流する整流部REC2とを備える
ことを特徴とするモータ。
【請求項6】
請求項1において、
前記電流制御手段MCCは、前記界磁磁束φを励磁する前記ステータ側の前記界磁電流成分Ifsに前記ステータの界磁電流成分ISFADを付加して制御する、あるいは、前記界磁磁束φを励磁する前記ロータ側の前記界磁電流成分Ifrに前記ロータの界磁電流成分IRFADを付加して制御する
ことを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項1において、
前記ロータに前記界磁磁束φの生成を補う永久磁石を備える
ことを特徴とするモータ。
【請求項8】
請求項1において、
前記ロータ電流供給手段MRCの一部であって、固定部側から回転側である前記ロータへ電力の授受を行う電力供給手段MSPと、
前記ロータ電流供給手段MRCの一部であって、前記ロータ電流RIGを供給する、前記ロータ上に配置した電流制御手段RCCとを備える
ことを特徴とするモータ。
【請求項9】
請求項1において、
前記ステータ巻線SW周囲に軟磁性体の少ないいわゆるコアレス巻線である
とを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大きなピークトルクを必要とするような用途、界磁弱め制御による定出力制御が必要な用途、あるいは、それらの両方を必要とする用途のモータに関わる技術である。具体的には、電気自動車EVの主機用モータ、産業用モータ、航空機用モータなどに関わる。モータ技術的には、界磁磁束の大きさとトルクの制御が自由にできるモータとその制御装置であり、さらには、大きなピークトルク時に電機子反作用がほとんど発生しないモータとその制御装置に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ハイブリッド自動車用の主機モータとして永久磁石内蔵型モータが多く使用されている。今後、小型から大型の電気自動車などに広く普及していくことが予想される。しかし、急坂道の登坂運転では、低速回転ではあるが大トルクが必要となり、大トルク時の力率が低下する問題がある。図27の速度VとトルクTの特性に示す領域Aの動作点である。縦軸はトルクTで横軸は回転数Vであり、定出力特性を示している。例えば、力率が0.6に低下する場合、力率が1のモータに比較して電流が1.666倍に増加し、モータ銅損は2.777倍に増加することになり、効率が低下するのでモータが大型化し、コストも増大する問題がある。モータを駆動するインバータも大型化する問題がある。
【0003】
また、高速道路での高速走行時などではモータの高速回転が必要となるが、モータの弱め界磁制御を自在に行うことが難しく、モータ電圧が過大となる傾向がある。図27に示す領域Bの動作点である。その結果、駆動用インバータの負担が大きくなり、力率も低下し、大型、高コストになる問題がある。大トルク時には界磁磁束をできるだけ大きくし、高速回転では界磁磁束を小さくする必要があり、界磁磁束についてこれらの2つの運転モードでの界磁制御は相反する関係の特性が求められる。
【0004】
前記永久磁石内蔵型モータの問題点は、トルク電流成分が発生する電機子反作用により界磁磁束の位置が円周方向へ変化することに起因している。また、モータ効率を向上するため永久磁石を多く使用しているため、高速回転では弱め界磁制御が必要となっていることにも起因している。ここで、電機子反作用とは、トルク電流成分が発生する電磁気的な作用により界磁磁束の分布状態が円周方向に偏るなどの弊害を指している。
【0005】
一方、10kW以上の大きなモータとして、界磁巻線付きの同期モータ、同期発電機が産業用などに使用されている。永久磁石は使用されておらず、永久磁石コストがかからないので、コストメリットがある。図28に横断面図の例を示す。説明を解り易くするため、2極の例を示している。U、V、W相の3相交流、分布数2の分布巻きで、スロット数は12である。図28のロータ位置では、紙面の上方と下方がロータ磁極で、紙面の上方がd軸方向であり、紙面の左側がq軸方向である。通常、パワートランジスタを使用したインバータで、PWM制御などにより、正弦波電圧、正弦波電流で制御される。
【0006】
図28の261はステータで、262はロータである。263、264、265、266は、3相の内のU相巻線で、全節巻き、分布巻きである。例えば、巻線263は紙面の表側から裏側の方向へ巻回し、巻線264へコイルエンド部で巻線264へ接続し、巻線264は紙面の裏側から表側の方向へ巻回して巻線263へ戻り、巻き回数分だけ巻回する。巻線265と266についても同様で有り、通常これらの分布巻きの2組のU相巻線は直列に接続する。267、268、269、26Aは、3相の内のV相巻線で、全節巻き、分布巻きである。26B、26C、26D、26Eは、3相の内のW相巻線で、全節巻き、分布巻きである。26Jと26Kは界磁巻線で、丸印の中にXの字マークを書き入れたシンボルである26Jは紙面の表側から裏側へ界磁電流Ifcmを通電し、丸印に点を書き入れたシンボルである26Kは紙面の裏側から表側へ界磁電流Ifcmを通電する。この界磁電流Ifcmにより、紙面の下側から上側へ向かう界磁磁束が作られる。
【0007】
ここで、ステータのU、V、W相巻線へトルク電流成分を通電した場合の現象とその問題点について説明する。U、V、W相巻線が星形結線であるとし、U相巻線からW相巻線へ電流Ipcmを通電し、V相電流は0Aである瞬間について考える。巻線263、265、26C、26Eには、それらの巻線シンボルに示すように、図28の紙面の表側から裏側へ(電流Ipcm×巻き回数)の電流が流れる。巻線264、266、26B、26Dには、それらの巻線シンボルに示すように、図28の紙面の裏側から表側へ(電流Ipcm×巻き回数)の電流が流れる。これらのトルク電流成分と界磁磁束との電磁気的作用により反時計回転方向CCWのトルクがロータに発生する。
【0008】
しかしこの時、図28の紙面の下側から上側へ向かう界磁磁束は、トルク電流成分が発生する電機子反作用により、2点鎖線で示す磁束線26F、26G、26Hのように界磁磁束の方向が斜め方向に歪められる。その結果、電圧と電流との位相がずれ、力率が低下し、モータ効率が低下する問題がある。特に、大きな電流を通電して大きなトルクを得ようとする場合には、電機子反作用が顕著になり、トルク電流成分を増加してもトルク出力の増加が大幅に低下し、いわゆるトルク飽和の問題が発生する。トルク飽和の問題を低減する一つの方法は界磁電流Ifcmの増加であるが、界磁電流の増加の問題、その発熱の問題がある。ステータ電流の位相を進める、あるいは、遅らせることも可能であるが、弊害があるため改善の程度は少ない。また、図28は2極の例であるが、実用的なモータとして8極程度とする場合、界磁巻線26J、26Kの配置スペースが不足する、現実の大きな問題がある。もちろん、モータの大型化は、重量増加とコスト増大の問題がある。
【0009】
なお、図28は突極型と言われるロータ構成で、比較的低速回転の用途に使用される。図29に示す同期機は円筒型と言われるロータ構成で、高速回転の用途に使用される。図28の界磁巻線26J、26Kが、図29の例では26L、26Mのように5個の界磁巻線に分割し、各スロットに巻回している。界磁巻線26L、26Mがそれぞれスロットに収められるので、遠心力に対する保持強度を高めることができる。2点鎖線で示す26M等はトルク電流成分が0の時の界磁磁束で、紙面の上側がN極、下側がS極となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平5-236714(図3
【文献】特開2015-65803(図1
【非特許文献】
【0011】
【文献】平成28年電気学会産業応用部門大会論文誌、3_36(式1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電気自動車の主機用モータには、急坂道の登坂運転時に使用する低速回転での大トルク、高力率、および、高速回転時の弱め界磁特性との両方の特性が求められる。本発明の課題は、大きなトルク出力を高効率に実現すること、高速回転でモータ電圧が過大とならないようなモータとその制御装置を実現することである。この時同時に、小型化、軽量化、および、低コスト化が必要である。技術的には、電機子反作用が発生しないモータ構成とし、また、エアギャップ部近傍に円周方向磁束を集中させることが可能な構成とし、従来常識を遙かに超える大きなトルク出力を可能とする。そして、界磁磁束制御の容易なモータ構成とし、界磁弱めによる定出力制御、高速回転制御を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、磁気的に突極特性のロータと、前記ロータのステータ側の円周上に分布状に配置した単相のロータ巻線RWと、ステータのロータ側の円周上に配置した多相のステータ巻線SWと、前記ステータ巻線SWの各相のステータ電流SIGを供給するステータ電流供給手段MSCと、前記ロータ巻線RWのロータ電流RIGを供給するロータ電流供給手段MRCと、前記ステータ電流SIGと前記ロータ電流RIGを制御する電流制御手段MCCとを備えたモータであって、前記ロータ電流供給手段MRCにより前記ロータ電流RIGとして直流電流を前記ロータ巻線RWへ通電し、前記電流制御手段MCCは、前記ロータの円周方向に配置する各スロットへ巻回する前記ロータ巻線RWに通電する前記ロータ電流RIGとエアギャップ部を介し対向して、前記ステータの円周方向の各スロットの前記ステータ巻線SWへ各相の前記ステータ電流SIGを通電するように制御し、前記電流制御手段MCCは、前記ロータの回転角位置をθrとし前記ロータ電流RIGに対する前記ステータ電流SIGの円周方向の相対的な電流位相をθiとして、各相の前記ステータ電流SIGの電流位相を(θr-θi)に制御し、前記電流制御手段MCCは、各相の前記ステータ電流SIGの一部の電流成分である界磁電流成分Ifsと前記ロータ電流RIGの一部の電流成分である界磁電流成分Ifrとを同一方向に通電し、前記ステータ側の前記界磁電流成分Ifsと前記ロータ側の前記界磁電流成分Ifrの合計(Ifs+Ifr)により前記モータの界磁磁束φを励磁し、前記電流制御手段MCCは、各相の前記ステータ電流SIGの一部の電流成分であるトルク電流成分Itsと前記ロータ電流RIGの一部の電流成分であるトルク電流成分Itrとを逆方向に通電して相互に起磁力を相殺し、前記ステータ側の前記トルク電流成分Itsと前記ロータ側の前記トルク電流成分Itrにより出力トルクを生成することを特徴とするモータである。
この構成によれば、電機子反作用を排除、あるいは、低減できるので大きなトルク出力が可能で、高速回転域での界磁弱め制御に優れたモータを実現することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、突極型ロータの磁気抵抗の大きいロータスペースへ配置する界磁巻線RFWを備えることを特徴とするモータである。
この構成によれば、特に高速回転における界磁磁束の励磁が容易になる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ電流供給手段MRCが、前記ロータ電流RIGを供給する回転トランスRTT、あるいは、交流発電機AGと、前記回転トランスRTT、あるいは、前記交流発電機AGの出力である交流電流を直流の前記ロータ電流RIGへ整流する整流部REC1とを備えることを特徴とするモータである。
この構成によれば、簡素な構成でロータ電流を供給することができ、かつ、非接触な給電なので信頼性も高い。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ電流供給手段MRCは、前記ステータ電流供給手段MSCが生成する前記ステータ電流SIGを使用して前記ロータ電流RIGを供給することを特徴とするモータである。
この構成によれば、ステータの巻線構成を流用してロータ電流を供給することができる
のでモータを簡素に構成できる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ電流供給手段MRCは、QNが2以上の整数として、前記ステータの円周方向に電気角で360°のQN倍の周期の交流磁束の成分を励磁するステータ給電巻線PSWと、円周方向の巻線ピッチが電気角360°の整数倍であって、前記ステータ給電巻線PSWがロータ側へ供給する電力を受け取るロータ受電巻線PRWと、前記ロータ受電巻線PRWの交流電流を流の前記ロータ電流RIGへ整流する整流部REC2とを備えることを特徴とするモータである。
この構成によれば、ステータの巻線構成を流用してロータ電流を供給することができる
のでモータを簡素に構成できる。ブラシ等を使用せず、非接触なので信頼性も高い。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1において、前記電流制御手段MCCは、前記界磁磁束φを励磁する前記ステータ側の前記界磁電流成分Ifsに前記ステータの界磁電流成分ISFADを付加して制御する、あるいは、前記界磁磁束φを励磁する前記ロータ側の前記界磁電流成分Ifrに前記ロータの界磁電流成分IRFADを付加して制御することを特徴とするモータである。
この構成によれば、モータの界磁電流成分を増加させることができ、ロータ電流を軽減することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1において、前記ロータに前記界磁磁束φの生成を補う永久磁石を備えることを特徴とするモータである。
この構成によれば、永久磁石により界磁磁束の生成を補うことができるので、軽負荷時のモータ効率の改善に効果的である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ電流供給手段MRCの一部であって、固定部側から回転側である前記ロータへ電力の授受を行う電力供給手段MSPと、前記ロータ電流供給手段MRCの一部であって、前記ロータ電流RIGを供給する、前記ロータ上に配置した電流制御手段RCCとを備えることを特徴とするモータである。
この構成によれば、回転するロータ上に、前記ロータ電流RIGの制御手段、駆動手段を備えるので、ロータ電流をより正確に、高速に制御することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項1において、前記ステータ巻線SW周囲に軟磁性体の少ないいわゆるコアレス巻線であることを特徴とするモータである。
【0022】
この構成によれば、大電流を通電して大トルクを得る場合に、前記ステータ巻線SWの径方向寸法を縮小することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明モータの特徴は、電機子反作用を発生しない、あるいは、大幅に低減する。また同時に、エアギャップ部近傍に円周方向磁束を集中させることが可能な構成とし、エアギャップ部近傍の円周方向の磁束密度を高めることができる。その結果、従来より極めて大きなトルク出力を実現することが可能となる。極めて大きなモータ出力密度を実現することが可能となる。そして、界磁弱め制御をより高精度に実現することにより良好な定出力制御を実現できる。具体的には、高速回転におけるモータ電圧が過大とならないような制御を実現し、高速回転域での力率を改善し、トルク出力を改善することが可能となる。その結果、電気自動車の主機用モータなどの高性能化、小型化、軽量化、低コスト化を実現し、インバータの電流容量も低減でき小型化できる。また、高速回転では、界磁巻線により界磁磁束を安定化し、ステータ電流の力率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明モータの横断面図例
図2】本発明モータの横断面図例
図3】本発明モータの直線展開図例
図4】本発明モータの直線展開図例
図5】ロータを回転する動作の説明図
図6】台形状の電流で駆動する例
図7】本発明モータの縦断面図例
図8】本発明のモータとその制御装置の例
図9】電流位相角θiとトルクTの関係例
図10】電流IとトルクTの関係例
図11】本発明モータの作用を説明する部分拡大図
図12】界磁巻線を追加したモータ横断面図の例
図13】ステータとロータの歯を縮小したモータ横断面図の例
図14】星形結線とした本発明のモータとその制御装置の例
図15】ブラシとスリップリングを使用し、ロータの電流を通電する構成
図16】ロータへ界磁励磁の電力を非接触で供給するモータ構成
図17】ロータへ界磁励磁の電力を非接触で供給する駆動装置と巻線
図18】ロータへ界磁励磁の電力を非接触で供給する時のロータ側巻線と整流回路
図19】本発明モータの横断面図例
図20】回転トランスを利用してロータ電流を推測、計測する方法を説明する図
図21】回転トランスを活用してロータ回転位置を計測する方法を説明する図
図22】回転トランスの一部を活用してロータ回転位置を計測する場合の特性
図23】ロータ側へ電源回路と電流制御回路を配置し、多様に制御する構成例
図24】回転トランス、発電機の例
図25】矩形状の電流で駆動する例
図26】DC-ACコンバータを使用してロータの電流を通電する構成
図27】電気自動車の主機モータなどに求められるトルク特性を示す図
図28】従来の同期モータの横断面図
図29】従来の同期モータの横断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に本発明のモータの横断面図を示す。11はステータ、12はロータで、2極の同期モータである。ステータに10個のスロットがあり、ロータに8個のスロットがあるモータ構成の例である。ステータの巻線は、5相の全節巻き、集中巻きの構成となっている。SAはステータのA相の巻線であり、180°反対側に配置する巻線SA/とで一巡していて、円周方向に相互に電気角180°のピッチで巻回している。巻線SAにはA相電流Iaを通電し、巻線SA/には逆向きの電流-Iaが流れる。同様に、SBはステータのB相の巻線でB相電流Ibを通電し、巻線SB/には-Ibを通電し、一巡している。SCはステータのC相の巻線でC相電流Icを通電し、巻線SC/には-Icを通電し、一巡している。SDはステータのD相の巻線でD相電流Idを通電し、巻線SD/には-Idを通電し、一巡している。SEはステータのE相の巻線でE相電流Ieを通電し、巻線SE/には-Ieを通電し、一巡している。
【0026】
本発明モータのステータ巻線への通電方法は、正弦波の電圧と電流で駆動する方法、矩形波の電圧と電流で駆動する方法、台形波の電圧と電流で駆動する方法などがあり、種々の通電方法を適用することができる。まず最初に、5相の台形波の電圧と電流で駆動する方法について説明する。現状モータ技術では3相の正弦波駆動が主流であるが、5相、7相などの多相交流で、矩形波状、台形波状の電圧と電流で駆動する方がモータ効率の向上、インバータの小型化の可能性がある。正弦波とは異なる新たな可能性も出てくる。
【0027】
図1のモータは交流モータなので、ロータ12の回転と共に各相の電流値が正の値と負の値とを交互にとることになり、0となるタイミングも存在する。電流振幅がImaxの矩形波電流を想定すると、一瞬で電流値が+Imaxから-Imaxへ変化し、電流が0となる時間は無視できる程度に高速で制御することも不可能ではない。しかし、モータのトルクリップル、振動、騒音、損失などの問題もある。ここでは、電流振幅がImaxで台形波電流の例について説明する。例えば、図6のような台形状の波形で、前記Ia、Ib、Ic、Id、Ieは、それぞれ、図6のIak、Ibk、Ick、Idk、Iekの電流波形である。横軸はロータ回転角θrの電気角である。
【0028】
なお、各巻線を示す形状でありシンボルは、電流が紙面の表側から裏側へ流れる巻線については丸印の中にXの字マークを書き入れたシンボルとして、本発明ではそのような電流を正電流と言うことにする。電流が紙面の裏側から表側に流れる巻線については丸印に点を書き入れたシンボルとして、本発明ではそのような電流を負電流と言うことにする。一般的に良く使用されるシンボルであり、視覚的に判断し易いように示している。
【0029】
今、図1の状態で、紙面でステータの上側の各相巻線は円周方向の順でSA、SD/、SB、SE/、SCで、各巻線の通電電流はIa、-Id、Ib、-Ie、Icの順となる。そして、ロータ電流をIrとすると、次式の関係とする。
-Id=Ib=-Ie=Ic=Ir (1)
Ia=0 (2)
Ia+Ib+Ic+Id+Ie=0 (3)
紙面でステータの上側の各相巻線の電流は全て正電流である。(3)式はステータの 電流の総和である。また、図6のロータ回転角θr=0°の各相電流の値でもある。そして、図1の紙面で下側の各相巻線は円周方向の順でSD、SB/、SE、SC/で、各巻線の通電電流はId、-Ib、Ie、-Icの順となる。紙面でステータの下側の各相巻線の電流は全て負電流である。
【0030】
ロータ12は円周方向に自在に回転し、図1のロータ回転位置θrは0°である。反時計回転方向CCWへ回転するとθrの値は増加し、2極のモータなのでCCWへ半回転するとθr=180°である。図1では、ステータの各巻線とロータの各巻線とが、エアギャップ部を介して、丁度対向している。ロータの各巻線へは対向するステータ巻線の電流とは逆方向の電流を通電する。ロータの巻線R1にロータ電流-Irを通電し、巻線R1/には電流Irを通電し、一巡している。ロータの巻線R2にロータ電流-Irを通電し、巻線R2/には電流Irを通電し、一巡している。ロータの巻線R3にロータ電流-Irを通電し、巻線R3/には電流Irを通電し、一巡している。ロータの巻線R4にロータ電流-Irを通電し、巻線R4/には電流Irを通電し、一巡している。
【0031】
各スロットに通電する電流は、巻線の巻き回数と通電電流の積なので、積であるスロット電流が同じになるように巻き回数と通電電流とを変更して設計することもできる。また、巻線接続の自由度があるので、同一の電流が流れる巻線は、その接続を相互に変更することもできる。巻線巻回の容易な方法、あるいは、コイルエンド部の巻線量の少ない方法などを選択できる。
【0032】
図1のステータのスロットは10個で、ロータのスロットも8個である。しかし、図6のような台形状のスロット電流を通電するので、ステータのスロット電流の数は、ロータと同じ8個である。図1のθr=0°の状態では、ステータのスロットおよびその巻線とロータのスロットおよびその巻線とが、ステータとロータ間のエアギャップを介して、丁度対向している。図1の状態では、丁度対向するステータ巻線とロータ巻線は、スロット電流の大きさは同じで、電流の向きを反対方向としている。
【0033】
例えば、ステータ巻線SBへは紙面の表側から裏側へ電流Ibが流れ、ロータ巻線R3へは紙面の裏側から表側へ電流Irが流れ、電流の大きさはIb=Irである。従って、磁束13の2点鎖線で示す経路の磁界の強さHの積分は、この経路を通過する電流が相殺して零なので、アンペアの法則に従って零である。磁束13の成分は零である。各ステータ巻線とエアギャップを介して対向しているロータ巻線も同様な状態であり、図1のモータ全体の磁束が零である。但し、部分的な磁束は各電流の周辺で発生するが全体としては影響しない。図1の状態では、界磁磁束が発生せず、モータの発生するトルクは零である。図1のモータは、図2以降の動作を説明するために、基本となる状態を示している。
【0034】
次に、ロータ回転位置θrに対するステータ電流の位相、通電状態を定義し、図1の状態をステータの電流位相θi=0°と定義する。電流位相の方向は時計回転方向CWが正方向で、電気角で表す。ステータの各相巻線の反時計回転方向の円周方向電気角位置は、A相巻線が0°、B相巻線が72°、C相巻線が144°、D相巻線が216°、E相巻線が288°である。各相のステータ電流の制御角は次式となる。
(A相のステータ電流の制御角)θa=-0°-θi+θr (4)
(B相のステータ電流の制御角)θb=-72°-θi+θr (5)
(C相のステータ電流の制御角)θc=-144°-θi+θr (6)
(D相のステータ電流の制御角)θd=-216°-θi+θr (7)
(E相のステータ電流の制御角)θe=-288°-θi+θr (8)
【0035】
次に、図2の状態は電流位相θi=36°である。図1に比較し、ステータ電流の分布状態がCWへ36°移動した関係となっている。図1の状態に比較し、A相巻線SAの電流Iaが0からIrに変化し、C相巻線SCのC相電流IcがIrから0に変化している。E相巻線SEのE相電流Ieは-Irで、B相巻線SBのB相電流IbはIrで、D相巻線SDのD相電流Idは-Irで変化していない。なお、図2のロータ回転位置θrは図1と同じで、ロータ回転位置θr=0°であり、ロータ電流Irも変化していない。これらの各相の電流の制御角は(4)、(5)、(6)、(7)、(8)式の通りである。また、図6は電流位相θi=0°の場合の特性なので、図2の各相電流は図6の電流波形を紙面の右側へ36°移動した特性となる。
【0036】
また、例えば、図2の状態からロータが回転し、ロータ回転位置θrの値が0°からΔθr増加する時、図2の状態の電流位相θi=36°に固定した条件で制御している場合には、A相のステータ電流の制御角θaの値は(4)式に従って(-0°-36°+0°)=-36°から(-0°-36°+Δθr)へ変化して制御する。他の相の電流の制御角θb、θc、θd、θeも同様である。
【0037】
また、図1などのモータ中心点から見たモータ角度θz各部の方向を定義し、図2に示す。モータの中心から紙面で図2の右側水平方向をモータ角度θz=0°とし、紙面の上側をθz=90°、紙面の左側水平方向をモータ角度θz=180°とする。
【0038】
図2の状態は、ロータ回転位置θr=0°で、電流位相θi=36°となっていて、界磁磁束を生成する界磁電流成分が発生している。ステータの巻線SAの電流Irとロータの巻線R1/の電流Irと、巻線SA/の電流-Irと巻線R4の電流-Irであり、これらが界磁電流成分となっている。
【0039】
これらの4個、2組の巻線の電流2×Irが、2点鎖線で示す磁束21、22、23などを生成する界磁電流成分となっている。図1の電流位相θi=0の場合、各ステータ電流と対向するロータ電流とが相殺するので、界磁電流成分は0である。また、電流位相θi=72°の場合は4×Irの界磁電流成分が発生する。このように、電流位相θiの大きさに応じて界磁電流成分が発生する構成となっている。
【0040】
また、他方、図2の巻線SE/にはIrの電流が通電し、巻線R3には-Irが通電するので、これらの2巻線の合計電流は0であり、これらの2巻線がその外部へ及ぼす起磁力は0である。同様に、巻線SBとR2との合計電流、巻線SD/とR1、巻線R2/とSE、巻線R3/とSB/、巻線R4/とSDについてもそれらの2巻線の合計電流は0であり、これらのステータ側とロータ側との対向する巻線の電流はお互いに起磁力を相殺し、周囲に磁気的な影響を与えない。
【0041】
しかしこの時、ステータ巻線SE/、SB、SD/、SE、SB/、SDの各電流は界磁磁束21、22、23と電磁気的に作用し、界磁磁束に対してCCWのトルクTssを発生する。ロータ巻線R3、R2、R1、R2/、R3/、R4/の各電流は界磁磁束21、22、23と電磁気的に作用し、界磁磁束に対してCWのトルクTrrを発生する。すなわち、界磁磁束21、22、23等を介して、前記トルクTssと前記トルクTrrとが作用、反作用の関係でトルクを発生していると見ることができる。前記トルクTss、Trrを発生する電流をトルク電流と称すことにする。ステータが固定されている場合は、ロータ12へCCWのトルクTrrが生成する。なお、この作用、反作用の状態は、電機子反作用を発生せずにトルクを生成する基本的な構成である。
【0042】
このように、ステータ電流の電流位相θiを変えることにより界磁磁束を増減できる構成としている。また、図2において、ステータ電流とロータ電流の両方の電流成分が界磁磁束を励磁している。従来のモータは、界磁電流成分がステータとロータのどちらか片方に存在していることが多く、この点も本発明モータの特徴の一つである。
【0043】
以上のことから、前記のトルクを発生する巻線の電流がエアギャップを介して対向する2個の電流で起磁力を相殺するため、図1図2の説明で示したように、それら2個の電流の外側へは起磁力を生成しない。即ち、各トルク電流成分が電機子反作用を起こさないという特徴である。例えば、連続定格電流の100倍というような大きなモータ電流を通電しても、電流位相θiの制御により適切な界磁磁束の大きさを維持しながら、大きなトルクの生成が可能であることを論理的に示している。但し、図1図2のモータ構成は説明を容易にするために簡単な構造の例を示しているが、後に説明するように、ステータのスロットおよびロータのスロットの離散性などはトルクリップル等の問題がある。また、現実のモータ構造上の制約などもある。これらの問題点については、目的に応じて離散性の解消法など種々の改良が効果的である。
【0044】
なお、図1の説明で示したように、ステータのある巻線の電流と対向するロータの電流とでそれらの外部に作用する起磁力を相殺する構成であれば、種々の界磁磁束を励磁する方法が可能となる。例えば、後に説明するが、ステータに界磁励磁電流成分を付加する方法、永久磁石を付加する方法、永久磁石の強さを着磁、脱磁の電流で可変する可変磁石の方法、スリットを付加する方法、スリットと永久磁石を密接させて配置する方法、ロータに突極性を持たせる形状など種々の方法を効果的に作用させることができる。これらの方法を複合的に活用することも可能である。
【0045】
また、本発明の記述で、スロットに流れる電流とは巻線の電流と巻き回数の積の[A・Turn]をさしている。例えば、巻線電流5Aでスロットの巻き回数20回と、巻線電流10Aでスロットの巻き回数10回とは同じである。また、各スロットの巻線に通電する電流は、図1図2などのようにステータのスロットとロータのとが丁度対向している場所以外では、一つのスロットの巻線に通電する電流に界磁電流成分とトルク電流成分とを重畳して通電することになる。
【0046】
図1図2に示すロータは、紙面で上下方向の磁気抵抗は小さく、紙面で左右の磁気抵抗は大きい。従って、このロータ形状は磁気的な突極性があり、モータの電流制御において、界磁磁束の磁極方向を安定化し易い特長がある。また、電流の通電方法を変えて、リラクタンストルクを発生することも可能である。また、図1図2の前記説明では、界磁電流成分とトルク電流成分との表現により定性的に説明したが、厳密ではない。正確に定量的に求めるためには、電磁気的な有限要素法解析などでコンピュータ解析を行って、電流、電圧、トルクなどの関係を求める方法が効果的である。
【0047】
図3にモータ要素の関係が解り易いように、円状の図2のモータを直線上に展開した図を示す。図2のモータを4極のモータに変形し、その中のモータ角度θzが0°から360°について詳しく示している。ロータ回転位置θr=0°、電流位相θi=36°である。図2で示すスロット形状は省略している。波状の破線の外側は記載を省略している。図3では、各巻線の番号は図2と同じ番号を使用している。31はステータで、32はロータであり、これらの間はエアギャップ部である。モータ角度θzが0°から360°が図2に相当する。巻線SA、T1/、SA/、R4などの電流は、図2で説明したように、界磁励磁電流成分を含んでおり、2点鎖線で示す界磁磁束21、22、23、33、34、35、36などを励磁している。その他の巻線の電流はトルク電流成分である。ステータ31のトルク電流成分には紙面で右側へ作用するトルクTが作用し、ロータ32のトルク電流成分には紙面で左側へ作用するトルクTが作用し、両トルクは界磁磁束を介して相対的に作用する。
【0048】
図4は、図3の電流位相θiを36°から72°へ増加した例である。巻線SA、TC/、T1/、T2/、および、SA/、SC、R4、R3などの電流は界磁励磁電流成分を含んでおり、界磁励磁電流成分が図3の2倍に増加している。41、42、43、44、45、46、47などが界磁磁束である。電流位相θiの値を72°に増加して界磁電流成分を増加した例を示している。なお、モータの負荷が比較的軽負荷で、電流振幅が小さいような動作領域では、電流位相θiを大きくして界磁磁束電流成分の比率を大きくした方がトルクが増加し、モータ効率が良くなる。
【0049】
次に、ステータとロータのスロット数に起因する離散性の問題点とその解決方法の例について説明する。図1図2では、ステータのスロットは10個で、ロータのスロットも10個の例を示している。この形状は、本発明の原理的な説明が容易なのでこのモータモデルを選んでいる。図1は電流位相θi=0°で、図2はθi=36°、図4はθi=72°で、これらのロータ回転位置θr=0°の例である。電流位相θi、ロータ回転位置θrが36°の整数倍であればそれらの動作の図示、説明が容易である。
【0050】
しかし、図1図2ではステータとロータのスロットの間隔は36°と離れていて、離散性が大きい。従って、大きなトルクリップルが危惧される。電流位相θiと界磁磁束の大きさとの線形性も低下する。離散性の問題を低減する一つの方法は、相数を増加することである。図1図2では5相のステータ例を示しているが、3相、4相も可能であり、6相、7相、9相、11相など相数を増加することができる。ロータのスロット数を増加し、円周方向に均一に並べて配置することにより離散性が低減し、好適である。また、ステータ、ロータのスキューを行うことにより離散性を低減できる。また、誘導電動機で行われているように、ロータのスロット数をステータのスロット数とは異なる値にして、平均化効果により離散性を低減できる。また、図1図2では、全節巻き、集中巻きとしているが、ステータ巻線を分布巻きとし、離散性を低減できる。また、分布巻きの場合、短節巻きとして離散性をさらに低減できる。なお、ステータとロータの片方の離散性が小さくなれば、モータ特性としての離散性の弊害を低減することができる。本発明モータの実用化設計時には、極数を含め、前記対策を適宜選択することが効果的である。
【0051】
特に、5相以上の相数では、離散性の低減、トルクリップルの軽減が顕著であり、本発明の効果と品質の確保が容易となる。また、ロータ電流が1種類で、Irの場合について説明したが、2以上の種類のロータ電流を通電することも可能である。ただし、ロータ電流の供給方法、駆動回路などが複雑化する。その場合には、ロータ電流の自由度が増すので、ステータの各相電流との組み合わせで、界磁磁束分布の変更、トルク電流成分の分布状態の改良なども可能である。
【0052】
また、電機子反作用をなくす、あるいは、低減するためには、ステータの正側のトルク電流成分の総和IWSPが、ロータの負側のトルク電流成分の総和IWRNに等しい値とし、次式のように、これらの電流が周辺に起磁力を発生しないように制御すれば良い。
(IWSP-IWRN)=0 (9)
ここで、IWSPと1WRNは、エアギャップ部を介しておおよそ対向している電流成分で、IWSPと1WRNの電流成分の向きは逆方向である。
【0053】
また、図1図2の原理説明用モータの場合、(1)式、(2)式、(3)式などを使用して説明したが、実用的なモータでは、エアギャップ部を介して両スロットが真正面に対向する状態は一つの状態に過ぎず、もちろん、前記両スロットが真正面に対向していない状態が大半である。そして、おおよそ対向する前記両スロットの電流の大きさも、個々のスロットでは同じでない場合が多い。モータ設計的には、スロットの離散性の問題を低減するために、ステータのスロット数とロータのスロット数に異なる素数を含ませ、トルクリップルなどの問題を低減する。その場合には、前記の「おおよそ対向している電流成分で、IWSPと1WRNの電流成分の向きは逆方向」との定義は、いわゆるdq軸理論でd軸電流、q軸電流と称して使用している程度に曖昧な定義となる。
【0054】
例えば、ステータのスロット数が14で、ロータのスロット数が22の場合は、ステータの各スロットの電流値とロータの各スロットの電流値とを直接対比することは難しく、(9)式のような表現となる。図2の場合、IWSPはステータ巻線SA、SD/、SB、SE/の電流の内の3×Irである。この時、-IWRNはロータ巻線R1、R2、R3、R4の電流の内の-3×Irである。
【0055】
また、本発明では、ステータ電流をトルク電流成分と界磁電流成分の和として説明している。ここでは、ステータトルク電流成分IWSPとは、エアギャップ部を介しておおよそ対向しているロータのトルク電流成分IWRNと同じ電流値であって、電流の向きが反対方向の電流成分である。従って、両トルク電流成分の和(IWSP-IWRN)はモータの他の部分へ起磁力を生成せず、界磁磁束へも影響しない電流成分の総称である。他方、トルク電流成分以外の電流を界磁電流成分としていて、界磁磁束の大きさ、分布に関わる。ただし、前記界磁電流成分は、界磁磁束の分布状態によってトルクを生成することもあるので、トルク電流成分と界磁電流成分の区分けは、その意味では、厳密ではない。
【0056】
また、トルク電流成分IWSP、IWRNと界磁電流成分による電流の定義は、図1から図5の説明で使用しているように、電流位相θiと電流の大きさImsで定義することもできる。但し、その定義は、ステータの電流の大きさImsとロータの電流大きさImrが等しい場合に表現することができる。つまり、本発明モータでは、界磁電流成分については、ステータ側の界磁電流成分Ifsとロータ側の界磁電流成分Ifrとは同じ値でなくても良い。
【0057】
この不整合の問題を解決する一つの方法として、ロータ側の界磁電流成分Ifrを次のように定義する。
Ifr=Ifs+Ifrx (10)
Ifrxはステータ側の界磁電流成分Ifsとロータ側の界磁電流成分Ifrとの差分で正あるいは負の値であり、アンバランスな界磁電流成分である。この差分の界磁電流成分Ifrは、制御的に別の扱いとすることにより、モータ電流を電流の大きさImsと電流位相θiで表現することができる。そして、電流位相θiの値により、おおよその界磁電流成分とトルク電流成分の比率を認識して制御することができる。後に、図9とその説明で示すように、電流位相θiとトルクTの特性図を作成することができる。
【0058】
なお、界磁磁束の大きさを制御する方法として、電流位相θiを制御する方法を説明したが、もちろん、電流の大きさを制御する方法もある。また、モータの電圧は、界磁磁束の大きさと回転数の積に比例するので、運転状況に応じた界磁磁束の制御が必要である。特に、高速回転域では界磁弱めが必要となり、界磁磁束を小さく制御する必要がある。界磁弱めについては後述する。
【0059】
次に、図5に、図2のロータが回転する時のモータ断面図の例を示す。電流位相θi=36°の例である。図2はロータ回転位置θr=0°で界磁磁束の向きは磁束22の方向である。図5の(a)はロータ回転位置θr=36°で界磁磁束の向きは2点鎖線で示す52の方向である。図5の(b)はロータ回転位置θr=72°で界磁磁束の向きは2点鎖線で示す55の方向である。この時、ロータ電流Irは一定値で、ロータが回転してもロータの各巻線の電流値は一定としている。そして、ステータの電流は、ロータが回転しても、ロータの各電流に対するステータの電流は相対的に同じ関係、即ち、電流位相θi=36°となるようにステータの各相電流を(4)から(8)式に従って制御する。図6の各相の電流波形は電流位相θi=0°の時の各相の電流波形なので、電流位相θi=36°となるように位相を36°遅らせる。即ち、図6の紙面で、各電流波形を右側へ36°移動すると、図5の(a)、(b)の各相の電流波形となる。
【0060】
次に、請求項3について説明する。図1図2等のモータの縦断面図と、回転トランスを用いてロータ電流Irを供給する構成の例を図7に示す。71はステータ、72はロータ、73はステータの巻線のコイルエンド部、74はロータの巻線でコイルエンド部、75はロータ軸である。76は、ロータ電流Irを通電するための電力を、駆動装置からロータ72のロータ巻線74へ伝達する回転トランスである。7Aは回転トランスのステータ、7Bは回転トランスのロータで、図7の断面を円形にした形状である。78は回転トランスのステータ側巻線で、円形の形状となっている。79は回転トランスのロータ側巻線で、円形の形状となっている。ステータ側巻線78にシンボルの方向に電流を流すと、7Kの方向に2点鎖線で示す磁束が生成される。7Hは整流回路で、7Gは回転トランスのロータ側巻線から7Hへの接続線である。整流回路7Hの出力は接続線7Jによりロータ巻線74接続され、ロータ電流Irが供給される。
【0061】
図7において、図解、説明のため、回転トランス76を誇張して、大きく記載している。しかし、ロータへ供給する電力は、ロータ巻線の抵抗損失分が主であり、モータ出力に比べれば小さな値である。しかも、100kHz以上の高周波交流で駆動すれば、スイッチングレギュレータ電源の変圧器のように小さなコアサイズ、小さな巻線巻き回数とすることができ、小型化が可能である。例えば、ロータの直径が150mm程度で8極などの多極であれば、ロータの内径側にスペースが有り、そこへ回転トランス76、および、整流回路7Hを配置することができる。その時、回転トランスのステータ7Aとロータ7Bとの外径側と内径側を逆にし、モータのロータ72と回転トランスのロータ7Bを一体化することもできる。回転トランスのロータ側巻線79の遠心力対策の点でも有利である。なお、使用する磁性体は鉄損が過大とならないように、アモルファス、フェライト、薄板鉄心などが小型化に有利である。なお、回転トランス76はロータ軸方向へ励磁するので、一部に非磁性体を使用するなどの対策が効果的である。
【0062】
図24の(a)に、図7の回転トランス76で発生するロータ軸方向起磁力の問題点を解決する回転トランス241の例を示す。242は回転トランスのステータ、243は回転トランスのロータで、図24の断面を円形にした形状である。244と245は回転トランスのステータ側巻線で、逆向きに直列に接続していて、それぞれの巻線は円形の形状となっている。246と247は回転トランスのロータ側巻線で、逆向きに直列に接続していて、出力248は図7の整流回路7Hへ接続する。ロータ側巻線246、247は、それぞれ、円形の形状となっている。ステータ側巻線244と245にシンボルの方向に電流を流すと、7Kの方向に2点鎖線で示す磁束24G、24Hが生成される。図24の(a)の構成にすることにより、ロータ軸75の軸方向起磁力は相殺し、生成されず、周囲の鉄粉が付着するなどの問題を解決できる。
【0063】
また、図24の(a)は、2組の円形状巻線に同一の交流を逆向きに作用させているが、異なる2つの相であっても良い。但しその場合は、整流回路7Hへの接続方法と整流回路の変更が必要である。また、図24の(a)の円形状巻線と鉄芯の構成を3組とし、3相交流の回転トランスとすることもできる。その場合は、整流回路7Hへの接続方法の変更と、3相整流回路への変更が必要である。
【0064】
図24の(b)に、図7の回転トランス76の代わりに使用できる発電機249の例を示す。24Aはステータで、24Cの3相巻線の入力線24Dへ3相の電圧、電流を入力する。24Bはロータで、24Eの3相巻線の出力線24Fを図7の整流回路7Hへ接続する。この場合、3相全波整流回路である。入力線24Dへ一定振幅の3相交流を入力すると、その周波数FFMで発電機の回転界磁磁束が作られ、ロータ回転周波数がFFRであるとすると、出力線24Fの周波数は(FFM-FFR)となり、発電電圧も(FFM-FFR)に比例する。なお、出力線24Fを、ロータ側の3相交流電源として活用することもできる。また、入力線24Dへ入力する電圧振幅を変化させて、振幅変調することもできる。ロータ側の出力線24Fへはロータ回転周波数FFRだけ周波数が変化した電圧が出力される。また、図24の(b)の発電機は、発電すると共に正あるいは負のトルクも発生するので、ロータ軸75のトルク出力の一部として活用することができる。また、発電機249の場合も、ロータ軸75の軸方向に起磁力は生成されない。同様に、その他の種類の発電機を使用することもできる。
【0065】
次に、図8図1図2等に示した本発明モータの各巻線へ電流、電圧を供給する駆動装置の例である。81は直流電源である。87はA相巻線で、図1のSA、SA/に相当する。88は電流検出手段の出力で、図1のA相電流Iaを検出する。82、83、84、85はトランジスタなどの電力変換素子で、前記A相巻線87の電流をPWM制御などで駆動し、正あるいは負の任意の値とする。86はこれら4個のトランジスタを指していて、89、8C、8F、8J、8Mは86と同一の機能を持つ電力駆動ユニットである。8AはB相巻線で、図1のSB、SB/に相当する。8Bは電流検出手段の出力で、図1のB相電流Ibを検出する。8DはC相巻線で、図1のSC、SC/に相当する。8Eは電流検出手段の出力で、図1のC相電流Icを検出する。8GはD相巻線で、図1のSD、SD/に相当する。8Hは電流検出手段の出力で、図1のD相電流Idを検出する。8KはE相巻線で、図1のSE、SE/に相当する。8Lは電流検出手段の出力で、図1のE相電流Ieを検出する。なお、電力変換素子としては、MOSFET、IGBT、GaNやSiCを活用した半導体など種々のものが使え、また、高集積化した素子、モジュールなどが使える。
【0066】
811はこれらの駆動回路を制御する制御装置であり、モータの位置、速度、トルク、電流などを制御する。812は制御指令信号で有り、モータ位置指令を含んでいる。813はロータの位置検出手段で、その出力814はロータ回転角θrである。モータの位置制御は、位置指令に対しロータ回転角θrをフィードバック制御して、その差分を速度指令とする。モータの速度制御は、速度指令に対してロータ回転角θrの時間微分値をフィードバック制御して、その差分をトルク指令95とする。
【0067】
97は電流指令作成手段で、トルク指令95とモータ諸情報96を使用して、99の電流振幅Imax、98の電流位相θiなどを求める。モータトルクとモータ電圧、および、モータ電流が適正な値となるような情報処理である。なお、前記モータ諸情報96とは、ロータ回転角θr、ロータ速度、図9図10に示すようなモータ固有情報である。9Aは加算器であり、9Bの電流位相情報(-θi+θr)を求める。
【0068】
9Cは電流制御手段で、電流振幅Imax、電流位相情報(-θi+θr)、前記電流検出手段の出力88、8B、8E、8H、8Lを入力し、各相電流のフィードバック制御を行う。(4)式から(8)式のような各相電流の制御角となる。そして、電力駆動ユニット86、89、8C、8F、8J、8Mの各トランジスタをオン、オフしてPWM制御するためのそれらの駆動出力9Dを出力する。以上の制御装置811の制御によりモータの回転制御を行うことができる。
【0069】
また、8Mは86と同様の電力駆動ユニットで、駆動出力81Bにより駆動し、制御する。破線で囲う8Nは図7に示した回転トランス76であり、8Pは図7のステータ側巻線78、8Qは図7のロータ側巻線79である。ステータ側巻線8Pに流れる電流を電流検出手段により検出した電流値8Rで、制御装置811でロータ電流Irを推測計算する。推測計算の方法、回転トランス76の動作は図20で説明する。8Sは図7の整流回路7Hに相当するもので、回転トランス76の出力を整流し、ロータ電流Irを通電する。8T、8U、8V、8Wはロータの各巻線で、図1のロータ巻線R1とR1/、R2とR2/、R3とR3/、R4とR4/に相当する巻線であり、直列に接続している。制御装置811は、前記のような構成で、ステータ各相の電流Ia、Ib、Ic、Id、Ieとロータ電流Irを駆動し、モータの回転位置、速度、トルクなどを制御する。
【0070】
次に、図1図2のモータの電流位相θiとトルクTの定性的な関係を図9に示し、説明する。図9の横軸は電流位相θiで0°から360°までを示している。縦軸はトルクTである。図1の通電状態で、電流位相をθi=0から360°まで変化させた時のトルク91の特性である。この時、各相の電流制御角は(4)式から(8)式の関係で変化し、ロータ回転角はθr=0°で固定である。例えば、電流位相θi=0°の動作点では、図1の通電状態になっていて、ステータの電流とロータの電流とが起磁力を相殺して界磁磁束ができない状態なので、トルクTは0となる。電流位相θi=36°の動作点は、図2図3の状態で、界磁電流成分が増加して界磁磁束が増加し、トルクも増加している。92の動作点は、界磁電流成分は増加するが電磁鋼板の飽和磁気特性により界磁磁束の増加が少なくなってきて、界磁磁束とトルク電流成分の積が最大となる点である。電流位相θi=180°の動作点は、界磁磁束が最大になるがトルク電流成分が0となる点でトルクT=0となる。94は負のトルクの最大点である。電流位相θiが0°の動作点、180°の動作点からみて点対象の特性となっている。
【0071】
図9のトルク特性91に対し、ロータ電流Irとステータ各相の電流振幅Imaxの比率を同じにし、大きさを変えた場合は、図9の上下にトルクが増減し、トルク特性91とほぼ相似形の特性となる。しかし、ロータ電流Irとステータ各相の電流振幅Imaxをそれぞれ変えた場合は、図9のグラフ上で様々な特性となる。その特性も活用できる。
【0072】
次に、モータの電流IとトルクTの関係について、従来モータと本発明モータを比較して、図10に示し、定性的に比較、説明する。図10の横軸は連続定格電流を1としたモータ電流である。例えば、横軸の4は連続定格電流の4倍の電流を通電した状態である。縦軸はトルクTである。
【0073】
図10の特性101は、従来の磁石内蔵型同期モータIPMSMなどの特性例である。現在市販されているモータは、連続定格トルクの3倍程度まではトルクTが直線的に電流に比例して増加するが、3倍以上は保証されておらず5倍程度でトルクが飽和することが多い。大きな電流領域では、一般的に、電磁鋼板などの磁性体が磁気飽和し、永久磁石の動作点も変化するので、その結果、力率が低下し、銅損が増加し、効率が低下する。
【0074】
一方、本発明モータは、ロータ電流Irとステータ各相の電流振幅Imaxと電流位相θiとを変化させて、図9の動作点92のような最大トルク点を求め、モータの電流IとトルクTの関係を描くと、図10の102のトルク特性となる。電流の小さい領域では、従来モータと大差のない特性であり、むしろ本発明モータはロータ電流を通電する必要があり、不利な面もある。しかし、連続定格の5倍以上の大きな電流領域では大きなトルク発生が可能となる。しかも、トルクの増加は、大電流領域では電流値の1.3乗以上になるなど、直線状より遙かに大きなトルク発生が可能である。
【0075】
本発明モータが大きなトルクを出力できる説明として、その一つは前記のように、ステータ電流とロータ電流がエアギャップ面を中心に対向していて、かつ、正電流と負電流なので両電流の起磁力を相殺し、両電流の周囲に起磁力を発生しないことである。即ち、界磁電流成分は界磁磁束を作り、トルク電流成分はトルクを発生するが電機子反作用を発生せず、界磁磁束に悪影響しないことである。
【0076】
一般的に、発生する力Fとして次式がよく知られている。
F=B・I・L (11)
Bは磁束密度、Iは電流、Lは磁束が作用する電線長である。トルクTは力Fと半径の積である。しかし、従来モータでは、電機子反作用により、大電流時に磁束密度Bの分布が変化し、界磁磁束を一定に保つことが難しい。そして、トルク定数が低下し、トルク飽和などの問題も発生する。従って、(11)式の問題点の一つは、大きな電流領域、大きなトルク領域では磁束密度Bが変化する点である。また、実際のモータモデルにおいて、力が発生する部分での電磁気的作用を解析、分析するには不十分である。なお、BがIに比例するような構成のモータであって、Bが磁気飽和していなければ、力Fは(11)式に従い、電流の2乗のトルクを生成できることになる。
【0077】
そこで、マクスウェルの応力式から導かれる次式に基づいて、本発明モータのトルク発生メカニズムを図11に示し、説明する。(12)式は、モータのエアギャップ部に作用する円周方向の力を示す。
FEN=(BR×BEN)/μ (12)
ここで、FENは円周方向の力、BRはエアギャップ部のラジアル方向の磁束密度成分、BENはエアギャップ部の円周方向の磁束密度成分、μは真空の透磁率である。この(12)式にはモータ電流は無く、電磁気的な作用の結果としての磁束密度で表されている。どのような磁束の状態、分布にすれば円周方向の力FENを発生できるのかを考えることができる。円周方向の力FENの発生に寄与する磁束と力FENの発生にあまり寄与していない磁束などについても考察し易い。
【0078】
図11は、図3のモータ角度θzが-36°から180°の間の中央部のみを拡大した部分的な図である。図3と同一のものは同じ符号をつけている。直線状の展開図であり、紙面で上方はステータ、下方はロータである。113はステータのエアギャップ面、114はロータのエアギャップ面で、115の間がエアギャップ部である。ステータの波状の破線118の外側、および、ロータの波状の破線119の外側は省略して記載していない。なお、エアギャップ部115は説明のため大きく誇張して描いている。図2に示したスロットの外形形状は省略している。
【0079】
図1図2図3の説明では、ロータ回転に伴う各相のステータ電流の変化が急変しない電流波形として図6のような台形状の電流波形で駆動する例を説明した。しかし、この図11では、特に、低速回転での大電流、大トルク出力の領域の動作について説明するので、矩形波状の電流波形で駆動する例を示す。後に示すように、矩形波駆動はモータの損失低減、インバータの小型化の点で有利である。また、図11のモータについて、(12)式に基づく力FENを簡潔に説明できる。矩形波状の電流波形は、図2において、丸印の中にXの字マークを書き入れたシンボルである正電流には全て紙面の表側から裏側へ電流Irを通電し、丸印に点を書き入れたシンボルである負電流には全て紙面の裏側から表側へ電流Irを通電する。図2の状態は、電流位相θi=36°、ロータ回転位置θr=0°である。図2の展開図が図3で、図3の一部を拡大した図が図11なので、図11の巻線TC/、SA、SD/、SB、SE/へはそれぞれ正電流であるIrを通電する。巻線R1、R2、R3、R4、へは負電流である-Irを通電する。T1/へは正電流であるIrを通電する。SCとSA/へは負電流である-Irを通電する。
【0080】
図11の矩形波状の電流波形の例を図25に示す。電流位相θi=36°で、横軸をロータ回転位置θrとし、縦軸は各電流である。図25の(a)はA相の界磁電流成分Iafで、(f)はA相のトルク電流成分Iatで、(k)はA相電流Ia=(Iaf+Iat)である。B相、C相、D相、E相も同様である。図25の(p)はロータ電流Irである。なお、各相の電流波形については、モータ特性に応じて修正し、トルクリップル低減などの改良を行える。また、高速回転では、より滑らかな増減波形とする、より正弦波状の波形とするなど、適宜、変形することができる。
【0081】
図11の前記通電状態では、破線11Bで囲って示す巻線TC/とT1/とSAの電流3×Irと破線11Cで囲って示す巻線SCとR4とSA/の電流-3×Irにより、それらの電流の間の領域に、2点鎖線で示すラジアル方向磁束成分11F、11Gを作っている。ロータ119のN極を通る磁束成分11F、11Gはステータ118のバックヨーク部を通り、モータ角度θzが-180°から0°の間のロータS極、もしくは、モータ角度θzが180°から360°の間のロータS極を通り、ロータ119のバックヨーク部を通り、一巡している。
【0082】
ステータ巻線SD/の正電流Irとロータ巻線R1の負電流-Irとが近接していて、これら2巻線の合計起磁力は相殺して0Aなので、アンペアの法則により、これら2巻線が周囲に与える起磁力は0である。同様に、巻線SBとR2、巻線SE/とR3についても、それぞれ周囲に与える起磁力は0である。これら6個の電流は、エアギャップ部115を介して対向する電流が相互に起磁力を相殺しているので、これら6個の電流の外側へは起磁力を生成せず、電機子反作用を発生しない。
【0083】
さらに具体的には、2点鎖線の経路11Eに沿った磁界の強さHベクトルの周回積分値は、その内部の通過電流の総和が0Aなので、アンペアの法則により0である。従って、経路11Eに沿うような磁束は0である。しかし、前記経路11Eの内側の部分的な起磁力は発生していて、2点鎖線で示す磁束111の経路に沿った磁界の強さHベクトルの周回積分値は、アンペアの法則により、その内部のステータ巻線SD/、SB、SE/の通過電流の総和で3×Irである。また、2点鎖線で示す磁束112の経路に沿った磁界の強さHベクトルの周回積分値は、アンペアの法則により、その内部のロータ巻線R1、R2、R3の通過電流の総和で-3×Irである。なお、矩形波電流駆動は非線形であり、ロータ回転に伴う過不足をモータ全電流で補うアルゴリズムが効果的である。
【0084】
磁束111と磁束112とがエアギャップ部115とその近傍に円周方向磁束成分MFGを作っている。エアギャップ部115とその近傍におけるラジアル方向磁束成分11F、11Gと円周方向磁束成分MFGとの合成磁束は、磁束117、11A、11Dのように描ける。図が煩雑となるので、これらの合成磁束はエアギャップ部115だけに局部的に描いている。この磁束密度をラジアル方向磁束密度成分と円周方向磁束密度成分に分割し、(12)式に代入して、ステータとロータ間に作用する円周方向の力を求めることができる。さらに、ロータの半径を乗じてトルクを計算できる。
【0085】
ステータコア内周部とロータコア外周部との間のエアギャップ長は0.5mm程度に小さくできるので、図11の本発明モータではステータ巻線とロータ巻線をできるだけ近接して、両巻線の隙間をエアギャップ長に近づけることが可能である。従って、エアギャップ部115のラジアル方向磁束密度が2テスラを超える大きな磁束密度になっても、エアギャップ部とその近傍の円周方向の通過断面積は小さく、円周方向の磁束量は比較的小さい。一方、ステータのエアギャップ部とは反対側で、外径側のバックヨーク部のラジアル方向幅は、エアギャップ長の0.5mmに比較し、数10倍も広い。従って、磁束111のバックヨーク部の円周方向磁束密度成分は小さく、磁束111のこの部分での磁気抵抗は小さい。また、ロータ側の磁束112についても、エアギャップ部とは反対側で、ロータの内径側のバックヨーク部は広いので磁束112のバックヨーク部の円周方向磁束密度成分も小さく、磁束112のこの部分での磁気抵抗は小さい。そして、これらの磁束111、磁束112がバックヨーク部でラジアル方向磁束成分11F、11Gへ与える磁束密度の影響は小さい。
【0086】
このように本発明モータは、ステータ巻線SD/、SB、SE/の電流とロータ巻線R1、R2、R3の電流の両方でエアギャップ部の円周方向磁束成分MFGを薄いエアギャップ部とその近傍に閉じ込める効果がある。前記のように、磁束111、112に関して、バックヨーク部の磁気抵抗は小さく、起磁力の消費は小さい。その結果、これらの6個の電流がエアギャップ部の円周方向磁束成分MFGの磁束密度成分BENを非常に大きな値にまで高めることが可能である。
【0087】
また、ラジアル方向磁束成分11F、11Gがエアギャップ部115を通過することは、エアギャップ部115の円周方向磁束密度成分が非常に大きくても、距離は0.5mm等の小さな値であり、比較的容易である。
【0088】
合成磁束117、11A、11Dの方向に、ステータとロータの相互に吸引力が作用し、(12)式に従って円周方向の力が発生する。しかし、ステータ巻線SD/、SB、SE/の電流とロータ巻線R1、R2、R3の電流の総和は0で、これらの電流の起磁力は相殺し、ラジアル方向磁束成分11F、11Gへ与える影響はマクロ的には小さい。即ち、これらの巻線の電流は、原理的には、周囲へ電機子反作用を発生しない。
【0089】
そして、ステータ巻線TC/とSAとSCとSA/、および、ロータ巻線T1/とR4へ大きな電流を通電することにより、他の電流による電機子反作用の影響を受けることなく、界磁磁束成分である、ラジアル方向磁束成分11F、11Gを大きくすることができる。即ち、(12)式のラジアル方向の磁束密度BRを大きくすることができる。なお、電機子反作用の影響が小さいので、ロータに配置する永久磁石、あるいは、ステータおよびロータに配置する界磁磁束専用の界磁巻線などの他の手段で、界磁磁束成分を生成することも比較的容易である。
【0090】
このように、(12)式に示されるラジアル方向の磁束密度成分BRと円周方向の磁束密度成分BENとの両方を大きくすることができるので、大電流域におけるトルクを、図10に示すように、電流に比例した値よりも大きな値とすることができる。具体的には、合成磁束117、11A、11Dなどの磁束密度を2テスラ以上に高めることも可能である。図10に示すトルク特性の大電流域におけるトルク増加の曲線は、単純モデル的には両磁束密度BRとBENの積なので、大きな電流を通電することにより原理的に電流の2乗の特性曲線に近づくと考えることができる。
【0091】
特に、合成磁束117、11A、11Dなどの磁束密度を高めるが、しかし、エアギャップ近傍の円周方向の磁束の量を小さな値とするためには、ステータ電流とロータ電流とができるだけ径方向に接近する構成とする必要がある。エアギャップ長115の大きさだけではない。この観点では、後に示す図13の(a)、(b)のモータのように、ステータ巻線とロータ巻線の径方向寸法を小さくできる構成が有利である。
【0092】
また、大電流を通電して大トルクを得る場合には、巻線部の磁束密度が大きくなり、導線部内での渦電流損が、高速回転で問題となる。この対策として、細い絶縁電線を多数の並列巻線とする方法が効果的である。並列巻線の電流アンバランス問題については、撚り線とする、あるいは、巻線位置のアンバランスを解消する変位などの方法が効果的である。
【0093】
前記説明のように、本発明モータはトルク密度、出力密度の大きな優れた特性を得ることが可能である。図11のエアギャップ部の近傍において、円周方向磁束成分MFGの円周方向磁束密度成分BENは、大きなトルク電流成分を通電することにより、通常の電磁鋼板の飽和磁束密度である2テスラを超えた4テスラ、6テスラなどの大きな磁束密度を局部的に生成可能である。(12)式のように、図11のエアギャップ部の近傍の磁束密度の大きさが発生トルクの大きさに関わる。バックヨークなどの他の部分の磁束密度は、トルク発生に寄与せず、モータ設計の都合上2テスラ以下でむしろ小さい方が良い。例えば本発明モータの場合、トルク発生部が実質6テスラで作用するモータを、飽和磁束密度が2テスラの磁性材料を使用して作ることができることになる。
【0094】
界磁磁束成分であるラジアル方向磁束成分11F、11Gのエアギャップ部近傍の磁束密度の大きさも原理的な制限は無い。飽和磁束密度が2テスラの磁性材料を使用していても、界磁励磁電流成分を極端に大きくし、2テスラ以上の磁束密度とすることもできる。2テスラ以上の動作点では比透磁率が1に近づくが、構成的、原理的な制約は無い。(12)式に示されるように、トルクはエアギャップ部近傍のラジアル方向の磁束密度成分BRに比例し、BRはトルク生成に重要である。
【0095】
なお、マクスウェルの応力式から導かれた(12)式の円周方向の力は、発生する力をその動作点の磁束密度で表現しているので、モータを構成する磁性体の磁束密度が大きい領域、即ち、比透磁率が1に近づくような、いわゆる磁気飽和上限以上の領域まで、その場所で発生する力を表現できる。また、図11に示し説明したように、本発明モータは、単に電機子反作用による界磁磁束の偏りを低減するという効果だけでなく、エアギャップ部の磁束密度を軟磁性体の飽和磁束密度以上に高めて高トルクを実現し、また、ラジアル方向の磁束密度成分を自在に制御して高速回転時の界磁弱めを実現するものである。そして、図11は電磁気的に大きな力を発生する基本構成を示す図であると考えている。
【0096】
なお、図11では、モータ角度θzが0°から180°の間のロータのN極とその近傍について示したが、モータ角度θzが180°から360°の間のロータのS極とその近傍の作用については、電流の向きと磁束の向きが反対となる。しかし、力、および、トルクの発生する方向と大きさは図11と同じである。
【0097】
次に、請求項2の実施例で、図2のモータ構成にロータの界磁巻線RWFを追加した例を図12に示す。界磁巻線126へ紙面の表側から裏側へ界磁電流Ifrrへ通電し、界磁巻線127へ紙面の裏側から表側へ界磁電流Ifrrへ通電する。図2で説明したように、ステータの巻線SAとロータの巻線R1/には界磁電流成分Irを通電し、ステータの巻線SA/とロータの巻線R1には界磁電流成分-Irを通電している。これらの6個の巻線の界磁電流成分で、2点鎖線で示す界磁磁束128、129、12Aを生成する。
【0098】
図12の界磁巻線126、127の機能は界磁磁束を生成することであり、存在意義が明確である。しかし、低速回転領域における大トルク出力時の界磁磁束の生成ができるほど大きな界磁巻線は巻線スペースが大きくなる問題がある。そして、高速回転での界磁弱め領域ではその界磁電流Ifrrを減少させる必要があり、大きなパワーを出力する場合には界磁巻線RWFの巻線スペースが有効に活用できていないことになる。特に実用的なモータとして8極程度の多極の構成にする場合、設計的には、界磁巻線126、127とその他のロータ巻線とがロータスペースを取り合う構成となる。
【0099】
その観点では、界磁巻線126、127の通電容量を、モータが連続定格トルクを出力するときに必要な界磁電流の1/2以下の通電容量とする巻線太さとし、界磁巻線126、127の巻線スペースを削減しておくことがモータ全体設計の観点で好ましい。大きなトルク時に界磁励磁が不足する分は、ステータの各巻線とロータの巻線R1、R1/、R2、R2/、R3、R3/、R4、R4/との電流位相θiの制御により界磁励磁電流成分を作れば良い。この時、ステータ側のトルク電流成分とロータ側のトルク電流成分とが釣り合っている場合は、界磁磁束を生成する界磁励磁電流成分がステータ側に通電していてもロータ側に通電していてもほぼ同じ効果を得ることができる。そして、高速回転での界磁弱め領域では、通電容量を低減した界磁巻線で効果的に界磁励磁を行うことができる。
【0100】
また、図2のモータ構成に、図29の円筒型ロータの界磁巻線26Mを付加することもできる。但し、ロータ形状は界磁巻線26Mに合わせて変形する必要がある。界磁巻線26Mの機能、作用、効果は、図12の界磁巻線126、127とほぼ同じである。なお、界磁巻線26Mの円周方向の配置位置は、ロータの巻線R1、R1/、R2、R2/、R3、R3/、R4、R4/と電気角で90°の位相差がある。
【0101】
また、界磁巻線126、127の界磁電流Ifrrを制御装置側、ステータ側からどのように供給するかという課題もある。駆動装置が図8のような構成の場合、電力駆動ユニット8M、回転トランス8N、整流回路8S、電流検出回路などと同様の回路、装置を付加して界磁電流Ifrrを制御、通電することができる。但し、モータの複雑化、大型化、高コスト化の課題がある。界磁電流Ifrrの他の供給方法については、後に述べる。
【0102】
また、図12の前記界磁巻線126、127へ界磁電流Ifrrを通電している場合は、モータトルク指令が大きな値から急速に減少する時に、モータが大きなトルクを発生している状態からトルクを急減するために何らかの対策が必要となる。トルクを低減させるためには、界磁磁束を減少するか、あるいは、トルク電流成分を減少する必要がある。しかし、界磁電流Ifrrとロータ電流Irとの両方の電流がダイオードで循環するフライホイール状態の場合は、両電流は、共に、急速な減少が難しい。
【0103】
この対策として、ステータ電流とロータ電流との電流位相θiを負の値として、負の界磁励磁電流成分を生成し、前記界磁電流Ifrrの起磁力を打ち消すように制御することができる。その結果、界磁磁束を急速に減少して、界磁電流Ifrrとロータ電流Irとの両方が通電している状態でも、モータトルクを急速に減少させることが可能となる。但し、モータトルク指令が大きな値の時に、界磁電流Ifrrが大きな値であれば、負の界磁励磁電流成分で界磁電流Ifrrの起磁力を打ち消すことが困難な場合も発生する。その観点では、前記界磁巻線126、127の最大の発生起磁力は、モータ界磁の最大起磁力の1/2程度、あるいは、それ以下とすることが好ましい。
【0104】
他の対策として、ブラシとスリップリングで界磁電流Ifrrを供給している場合は、制御的に界磁電流Ifrrを急速に減少させることが可能である。また、他の対策として、ロータ側に界磁電流Ifrrを制御する回路を持ち、電気エネルギーに変換して、界磁電流Ifrrを急速に減少させることも技術的には可能である。なお、トルクを急速に減少させるために、ステータの電流を急減すると、界磁電流Ifrrとロータ電流Irにより界磁磁束が増加するので、高速回転時には過大電圧となるなど、新たな問題が発生することがある。また、図29の界磁巻線26Mについても同様の問題がある。
【0105】
次に、請求項9に関して、図1とは異なる本発明のモータの形態例を図13の(a)と(b)に示し、説明する。大電流を通電して大トルクを出力するモータ例である。まず、図11のラジアル方向磁束成分11F、11Gの大きさについて考えると、磁束の大きさがロータの歯およびステータの歯の磁束密度が2テスラ以下の場合その磁気抵抗は比較的小さい。しかし、さらにラジアル方向磁束成分11F、11Gが大きくなると、磁気飽和した歯およびスロットの部分に磁束を通さなければならない。図11において、115のエアギャップ長は0.5mm程度に小さくできるが、116のロータ巻線の内径側からステータ巻線の外形側までの径方向長さは、図1のスロット形状から分かるように、例えば50mmなどの大きさである。エアギャップ部の0.5mmの100倍にもなる。図11では、エアギャップ部115を拡大し、誇張して描いている。また、ラジアル方向磁束成分22は、歯を通過する磁束を考えると、2テスラの半分程度の平均磁束密度までは磁気抵抗が小さいが、それを超える平均磁束密度では磁気抵抗が大幅に大きくなる問題がある。なおここで、モータに使用する通常の電磁鋼板の飽和磁束密度を2テスラとしている。
【0106】
図13の(a)に、ステータの歯とロータの歯を削除した、いわゆるコアレス構造のモータの横断面図を示す。図1等の本発明モータの構造を変形して図13の(a)の構造とすることができる。121はステータのバックヨーク、122はステータ巻線、123はロータのバックヨーク、124はロータ巻線である。ステータ巻線122は、例えば、丸線あるいは平角線などで折りたたむ様に多相巻線を形成し、高耐熱の樹脂などで成形、固定する。125は巻線部分の径方向長さであり、図1などのモータの歯の部分にも巻線を配置できることから、図11の巻線の径方向長さ116に比べて、径方向長さ125を、単純比較で、1/2程度に縮小することができる。当然、図13の(a)の構造のモータでは、モータ設計的に、径方向長さ125をさらに小さくすることもできる。従って、径方向の平均磁束密度を1テスラ以上の、例えば2テスラなどの大きな平均磁束密度とする場合、図13の(a)のモータではそのラジアル方向界磁の励磁負担をむしろ軽減することができる。また、径方向の平均磁束密度を大きくできれば、ステータ巻線122およびロータ巻線124の電流を小さくしても、大きなトルク、大きな出力を生成することが可能となる。以上説明したように、図13の(a)に示すコアレス構造のモータは、大きな電流を通電して大きなトルクを出力する時に、小型化、軽量化、低振動化、低騒音化等の特徴を発揮するモータ構造である。但し、比較的小さな電流で小さなトルクを出力する時は、界磁の励磁負担が相対的に大きいので、モータ効率は低くなる。
【0107】
次に、図13の(b)に、図1のモータと図13の(a)のモータとの中間的なモータ構成を示し、説明する。図13の(b)のステータの部分形状は、図1のモータを4極化した図16のステータ形状を変形したものである。破線で示すスロット形状137は、変形前の図16のスロット形状である。134はステータの歯、スロット135はスロットである。波状の破線の外側は省略している。131はステータの歯134の歯幅、132はスロット135の内径側の広さである。通常は、歯幅131とスロット内径側の広さ132は同じくらいの大きさであるが、大幅に縮小している。ここで、ステータの歯134の歯幅131を小さくすることによりスロット135の断面積を増加させ、スロットのラジアル方向長さ133を小さくすることが可能となる。電磁気的に、図13の(a)のモータに近づけることができる。
【0108】
この結果、ステータの歯134は、その歯幅131が小さくなっても、ステータ巻線を整列したり、強固に固定することができる。特にロータ側の場合には遠心力に対する巻線の保持強度が大変重要であり、スロット開口部を閉じて高強度化することもできる。このように、本発明モータの歯幅131を小さくすることにより、図13の(a)のモータに比較すると、巻線の製作性を確保し、巻線の固定強度を確保することができる。
【0109】
また、用途によっては、大電流時の大トルクを出力するだけでなく、低トルク域での高効率が同時に求められることもある。そのような場合には、低トルク時に必要な最低限の歯幅131とすることにより、低トルク時の径方向の平均磁束密度を高めることができ、大電流時の大トルク化とバランス良く両立させることも可能である。また、大電流時の大トルクの生成はモータの電流密度が大きくなるため、巻線の銅損が大きくなり、モータの積極的な冷却が必要となる。136に示す冷却用パイプなどをスロット内部、バックヨーク部近傍、あるいは、歯134の一部などに配置し、歯134により固定することができる。用途により、ステータとロータは、図1図13の(a)、図13の(b)等の構成を組み合わせて使用、変形して使用することができる。特に、大きな電流を通電する場合、高速回転を行う場合には、冷却性能が重要であり、種々冷却手段が必要となる。
【0110】
次に、界磁弱め制御による高速回転、および、定出力制御について説明する。図1図2図3図4を示し、説明したように、界磁磁束の制御が可能である。定性的には、界磁電流成分以外の電流はステータ側電流とロータ側電流とで起磁力が相殺するように通電できるので、電機子反作用が発生しないか、あるいは小さな作用である。その状態で、界磁電流成分を増減することにより、トルク電流成分の影響を受けることなく、界磁の強め、弱めの制御を行うことができる。
【0111】
図27の速度VとトルクTの特性に示す領域Aの動作点では、図2などで界磁電流成分が最大で、トルク電流成分も最大の状態である。図9の電流位相θiとトルクTの定性的特性では92の動作点などである。図27の領域Bの動作点では、図2などで界磁電流成分が弱められ、トルク電流成分が大きな状態である。図9の電流位相θiとトルクTの特性では93の動作点などである。界磁磁束が小さい時はモータの誘起電圧定数が小さいので、モータ回転数を高速回転で駆動することができる。モータの基底回転数から高速回転まで、界磁弱めによりモータ電圧が一定値になるように界磁弱め制御を行い、その時トルク電流成分を一定に保てば、モータ電圧とモータ電流の積が一定値となり、いわゆる定出力制御の状態となる。
【0112】
次に、図14図8とは異なり、モータ巻線を星形結線とした場合の駆動回路を示す。トランジスタ147とトランジスタ148とでA相巻線141にA相電流Iaを通電し、トランジスタ149とトランジスタ14AとでB相巻線142にB相電流Ibを通電し、トランジスタ14Bとトランジスタ14CとでC相巻線143にC相電流Icを通電し、トランジスタ14Dとトランジスタ14EとでD相巻線144にD相電流Idを通電し、トランジスタ14Fとトランジスタ14GとでE相巻線145にE相電流Ieを通電する。ここで、星形結線の場合は、各相の通電電流に次式の制約が発生する。
Ia+Ib+Ic+Id+Ie=0 (13)
【0113】
図8の駆動回路では、各相電流を4個のトランジスタによってそれぞれ個別に駆動して、それぞれが独立しているので自在な制御が可能である。図14の星形結線の駆動回路では(13)式の制約があるものの、トランジスタの数を図8の20個から10個に減らすことができ、駆動回路を簡素化できる特徴がある。逆に、図8の構成は(13)式の電流制約が無く、電流制御の自由度が高い。なお、モータ出力が同一の時、図8図14とのモータでは、巻線の電圧と電流の配分が変わる。そして、インバータの各トランジスタの電流容量と個数との積は、モータ出力が同一の時、図8図14とのインバータ構成で大差が無い。本発明モータはどちらの方法でも制御することができる。
【0114】
次に、請求項4の実施例について、図15に示し、説明する。請求項3の回転トランスを使用する方法とは異なる方法で、ロータ電流Irを供給する方法である。図15の各相巻線141、142、143、144、145は図14の各相巻線と同じものであるが、中性点146の部分に151のダイオードブリッジを挿入し、各相電流を整流している。152はステータ側へ取り付けたブラシで、153はロータ側に取り付けたスリップリングである。同様に、154はブラシで、155はスリップリングである。各巻線8T、8U、8V、8Wは、図1図2に示したロータ巻線R1とR1/、R2とR2/、R3とR3/、R4とR4/である。前記ダイオードブリッジ151で整流したステータ電流を、2個のブラシ152,154とスリップリング153、155を使用してロータ側へ供給し、ロータ電流Irとして通電する。図7の回転トランス76、整流回路7Hに置き換えて、ブラシとスリップリングを取り付ける。
【0115】
図15の場合、ステータ電流を活用してダイオードブリッジ151を使用してロータ電流Irを作れるので、図8に示すようなロータ電流Irの駆動回路を簡素化できる。また、ロータ電流Irの大きさについても、受動的にステータ電流と一致し、ステータ側とロータ側のバランスを確実に維持することができる。簡素な構成であり、誤差も小さい。しかし、図15の構成、方法の場合、ブラシとスリップリングの信頼性と寿命およびメンテナンス負担がある。低速回転で稼働率が低い用途ではこの方法が好適である。また、ロータ電流Irを図8の電力駆動ユニット8Mのような駆動回路で通電しても良い。
【0116】
また他の方法として、図15のブラシとスリップリングを使用しない方法を図26に示し説明する。ブラシとスリップリングに換えて、破線290で囲うDC-ACコンバータと回転トランス8Nと整流回路8Sを使用している。図26の紙面で電流検出手段の出力8Rおよび回転トランス8Nより右側は、図8の構成と同じである。
【0117】
DC-ACコンバータ290のトランジスタ291、292、293、294により、ダイオードブリッジ151の出力である直流電流を交流電流に変換し、回転トランスの1次側巻線8Pに通電する。295はコンデンサー、フィルターなどであり、過電圧を防止する。回転トランスの2次側巻線8Qの出力を整流回路8Sで直流に変換し、ロータ巻線8T、8U、8V、8W、8Xへロータ電流Irを通電する。図26の機能は、図15の構成の機能とほぼ同じで、ロータ電流Irの大きさを受動的にステータ電流と一致させることができる。そして、ブラシとスリップリングの信頼性と寿命の問題およびメンテナンス負担を解消することができる。ただし、図15図26の構成において、ステータ電流が急激に減少する場合は、ロータ電流Irがダイオードで循環するために減少が遅れるので電流位相θiの制御等の対応が必要である。なお、DC-ACコンバータ290は種々形態の回路を使用できる。
【0118】
また、ロータ電流Irの通電方法として、図15図26とは異なる方法がある。図14の直流電源81とインバータとの間、すなわち、14Hの矢印で指す部分の電流をロータ電流Irとして使用する方法である。インバータへの直流電流分である。この部分を分断し、図15のブラシ152、154への接続してロータ電流Irとして通電することができる。あるいは、図26のDC-ACコンバータ290と回転トランス290を使用する方法もある。
【0119】
但し、この場合はインバータとモータ巻線間で循環する電流分、いわゆるフライホイール電流分はロータ側へ流れないので、ステータ電流とロータ電流との間に誤差が発生する。特に、EV等で重要となる運転モードの一つとして、低速回転で大きなトルクを発生する必要がある。その場合には、前記誤差が極端に増大し、しかも、回転数により大きく変化するので、大きな問題である。しかし、ほぼ一定回転で、ほぼ一定トルクで運転する場合には、例えばステータ電流の位相調整などで問題をカバーすることもできる。
【0120】
次に、請求項5の実施例について、図16図17に示し、説明する。請求項3、請求項4とは異なる方法で、ロータ電流Irを供給する方法である。図16は、図1のモータを4極化したモータ横断面図である。ステータに20個のスロットがあり、ロータに20個のスロットがある。ステータの巻線は、5相の全節巻き、集中巻きの構成となっている。各巻線の駆動回路は図17であり、図14と比較すると、A相巻線141がA1相巻線171とA2相巻線172に分かれている。A1相巻線171へは、トランジスタ174と175で178の電流Ia1を通電する。A2相巻線172へは、トランジスタ176と177で179の電流Ia2を通電する。A1相巻線171とA2相巻線172との間には、ロータの電力を供給するために、モータ5相電流とは別の交流電流である給電電流Ifaを重畳して通電する。これらの関係は次式となる。
Ia1=Ia/2+Ifa (14)
Ia2=Ia/2-Ifa (15)
Ia=Ia1+Ia2 (16)
Ifa=(Ia1-Ia2)/2 (17)
A1相巻線171とA2相巻線172の巻き回数は、電圧が同じになるように他相と同じ巻き回数にする。A1相とA2相以外は、図14図17は同じである。
【0121】
図16において、ステータ側からロータ側へロータ電流を通電すための電力を供給する方法について説明する。A1相巻線171とA2相巻線172を使用して給電するので、図16ステータの巻線はA1相巻線171とA2相巻線172だけを示している。前記のように、図1のモータを4極化した構成であり、A相巻線を除いて、他の相の巻線は図16図1は同じ構成である。モータ角度θzの電気角で0°から360°の巻線161、162、163と巻線164、165、166がA1相巻線171で、電気角で360°から720°の巻線167、168、169と巻線16A、16B、16CがA2相巻線172である。A相電流の電流の向きは図16に記載した電流シンボルの方向である。ここで、重畳して通電する給電電流Ifaだけについて考えると、(15)式より、A2相巻線の前記電流シンボル167、168、16A、16Bは逆向きになる。そして、給電電流Ifaに関しては、165と167が相殺し、161と16Bが相殺する。168と16Aの給電電流Ifaの通電方向は、電流シンボルと逆方向の向きとなる。その結果、給電電流Ifaが励磁する磁束Φsupは2点鎖線で示す16Fとなる。A相電流Iaに重畳して通電する給電電流Ifaにより720°周期の磁束を励磁したことになる。B相、C相、D相、E相については図14と同じ構成、作用である。
【0122】
一方、ロータには直交する受電G巻線16Gと受電H巻線16Hを巻回していて、前記磁束Φsupが鎖交する。受電G巻線16Gと受電H巻線16Hは、それぞれ、360°のピッチで巻回していて、720°周期の巻線である。図18に示すように、受電G巻線16Gはダイオードブリッジ181に入力され交流電圧が直流に整流される。受電H巻線16Hはダイオードブリッジ182に入力され交流電圧が直流に整流される。それらの電圧は足し合わされ、図15と同じロータ巻線8T、8U、8V、8W、8Xへ接続され、ロータ電流Irが通電される。このように、A相巻線を流用して、ステータ側から、非接触でロータ側へロータ電流Irに必要な電力を供給することができる。また、交流の給電電流Ifaと直流のロータ電流とは、変圧器の1次電流と2次電流のような単純な関係なので、ステータ側からロータ電流Irを推測することができ、フィードバック制御により、ロータ電流Irを正確に制御することができる。また、電気角で360°周期の5相電流と720°周期の前記給電電流Ifaとは原理的に非干渉な関係であり、5相モータとしての機能、性能には影響が少ない。また、給電電力がロータ巻線の抵抗消費分であって大きさが相対的に小さいので、このロータ電力の供給がステータ電流の制御に与える負担、影響は比較的小さい。
【0123】
図18でダイオードブリッジ181、182の電圧降下はダイオード4個分の電圧であり、ダイオード183を追加することにより、ロータ電流Irが循環する時の電圧降下を1/4に低減することもできる。図16図17で説明した方法は、巻線、整流器、インバータなどの種々の変形も可能である。A相以外の相を利用することもできる。全部の相を利用することもできる。また、モータをほぼ一定の回転で使用するような用途では、ステータに永久磁石を取り付け、前記受電G巻線16Gと受電H巻線16Hを発電機巻線として使用してロータ電流Irを供給することもできる。ロータ側の受電巻線についても、図16のG、Hの2相巻線ではなく、単相にしたり、3相以上の多相にすることも可能である。また、5相以外の、相数が異なるモータへも同様に適用できる。
【0124】
次に、図16図17で説明した方法を変形して、5相の巻線を活用する方法で、ロータ電流Irを供給する方法について説明する。そのステータ巻線構成は、B相、C相、D相、E相についても、A相と同様に、それぞれの相の巻線を2個の巻線とし、10相の巻線構成とする。前記のA1相巻線とA2相巻線の関係と同様に、B1相巻線とB2相巻線、C1相巻線とC2相巻線、D1相巻線とD2相巻線、E1相巻線とE2相巻線を構成する。それぞれの巻線には、A相の給電電流Ifaと同様に、給電電流Ifb、給電電流Ifc、給電電流Ifd、給電電流Ifeを通電できる構成とし、これらの電流はそれぞれモータの720°周期の電流となる構成とする。各相電流Ib、Ic、Id、Ieと前記各給電電流Ifb、Ifc、Ifd、Ifeとの関係は、(14)、(15)、(16)、(17)式と同様である。
【0125】
図16図17で説明した給電電流Ifaは単相であったので、単相の交流電流、電圧だったが、給電電流Ifa、Ifb、Ifc、Ifd、Ifeは5相で電気角720°周期の交流電流とする。これら5相の給電電流がロータへ720°周期の回転磁束Φimを作ることになる。回転磁束Φimの周波数Fimは任意の値を選択できる。図16図18に示すロータ側の受電G巻線16Gと受電H巻線16H、および、整流器181、182と接続方法などは同じである。
【0126】
5相の給電電流Ifa、Ifb、Ifc、Ifd、Ifeによる720°周期の前記回転磁束が受電G巻線16Gと受電H巻線16Hに鎖交して両巻線に電圧Vg、Vhを発生する。その電圧Vg、Vhは、(回転磁束の大きさ)と(回転磁束の周波数とロータ回転の電気角回転周波数の1/2との差)との積に比例する。図18に示すように、前記電圧Vg、Vhを整流してロータ電流Irを通電するので、ロータ回転数に応じて、5相の給電電流の振幅と周波数Fimを正確に制御する必要がある。
【0127】
給電電流の解り易い一つの方法は、(回転磁束Φimの電気角周波数Fimとロータの電気角回転周波数の1/2との差の周波数)が一定値Fsとなるように、5相の給電電流の周波数Fimを決定、制御する。この時、受電G巻線16Gと受電H巻線16Hに誘起する電圧の周波数はFsとなる。そして、通電すべきロータ電流Irの大きさに応じて5相の給電電流の振幅を決定、制御すれば良い。なお、この時、受電G巻線16Gと受電H巻線16Hは、前記回転磁束によって発電する発電機の巻線となっていると考えることもできる。なお、前記回転磁束Φimはそのモータの周期の2倍の720°となる例について説明したが、応用、変形して360°の整数倍でも同様の電力給電を実現できる。
【0128】
ロータへ電力を供給する他の方法として、図8の電力駆動ユニット86、89、8C、8F、8J、8Mでパルス電流、あるいは、高周波電流などを重畳し、ロータ巻線8T、8U、8V、8W、8Xへその磁束が鎖交するようにし、図18のダイオード183によりロータ電流Irがフライホイール電流として保持させることもできる。また、前記パルス電流、あるいは、高周波電流を受け取る受電巻線を設け、受電巻線の電圧を全波整流して、ロータ巻線8T、8U、8V、8W、8Xへロータ電流Irを通電することもできる。また、モータ構造、あるいは、ステータ電流により、エアギャップ部に空間高調波の磁束成分を生成し、ロータ側へその空間高調波磁束と鎖交する巻線WKMを配置し、巻線WKMの電圧を整流し、ロータ電流Irを通電することもできる。
【0129】
次に、トルク電流成分と電機子反作用について、図1から図5図8図9図11、および、(9)式、(10)式等に示す、本発明モータを制御する方法、装置である。本発明モータのトルクは、概略として、ステータ電流の大きさとロータ電流の大きさ、そして、それらの相対的な位相差を制御することにより制御することができる。そして、電機子反作用をなくす、あるいは、低減するために、ステータのトルク電流成分の総和IWSPがロータのトルク電流成分の総和IWRNに等しい値とし、すなわち(9)式のように制御する。この方法により、電機子反作用を低減するだけでなく、(12)式に示す円周方向の磁束密度成分BENをエアギャップ部近傍に集中させることが可能となり、(12)式に示す力FENを大きな値とすることができる。なお、界磁電流成分がラジアル方向の磁束密度成分BRをつくる。
【0130】
次に、ステータ電流の電流位相について説明する。その内容は、図1から図6図8図9図11等に示す本発明モータとそのステータ電流の制御方法、装置である。具体的には、ロータ巻線RWの円周方向位置θrに対するステータの電流位相θiを制御する。電流位相θiを制御することにより、界磁電流成分とトルク電流成分との比率を任意の値に制御することができる。この時、ロータ電流Irは、界磁電流成分とトルク電流成分との和にバランスするように通電する。これらの制御の例については、図1から図6などで説明した。もちろん、トルクの大きさ、界磁磁束の大きさの制御には、電流位相θiだけでなく、各電流の大きさ、振幅を可変して制御することができる。
【0131】
なお、ステータ側の界磁電流成分Ifsとロータ側の界磁電流成分Ifrとの差分が発生する場合は、(10)式のアンバランスな界磁電流成分Ifrxを別の変数として扱うなど、種々変形が可能である。この方法により、電機子反作用を低減するだけでなく、(12)式に示す円周方向の磁束密度成分BENをエアギャップ部近傍に集中させることが可能となり、(12)式に示す力FENを大きな値とすることができる。以上の様に、トルク、界磁磁束は、電機子反作用が発生しないように、ステータ電流とロータ電流の大きさと分布状態と相対的な電流位相を制御して実現する。
【0132】
電流位相θiをパラメータとして制御する方法の他の特徴の一つは、電流位相θiにより界磁電流成分とトルク電流成分と分離するので、特定相のステータ電流の大きさが他相の電流値より大きくなるなどの電流の偏りが少ないことである。従って、駆動インバータの各トランジスタの負担を均一にでき、駆動インバータの負担を軽減できる。
【0133】
また、他の特徴として、モータトルク指令が大きな値から急減する時にも、良好なモータトルクの応答性を得ることができる。具体的には、図8の実施例の場合、ロータ電流は回転トランス8Nの出力である交流電圧をダイオード整流回路8Sで整流し、ロータの各巻線8T、8U、8V、8Wへロータ電流Irを通電している。この構成で、ロータ電流Irを急激に減少させようとすると、ロータ巻線とダイオード整流回路8Sでロータ電流Irが循環することになり、急激な電流減少は困難である。そこで、電流位相θiを制御する方法であれば、ロータ電流Irがゆるやかに減少する時にでも、電流位相θiを小さな値に変えることにより界磁磁束成分を素早く小さな値に変えることができるので、急激にトルクを減少させることができる。EVの駆動において、大きなトルク出力から急速に減少することは、安全上必須で重要な機能、性能である。なお、トルクを急減させるために、ステータの電流を単純に急減すると、ロータ電流により界磁磁束が増加するので、高速回転時には過大電圧となるなど、新たな問題が発生することがある。
【0134】
また、図1から図5では、5相のステータ電流で、ロータ電流は各スロットの巻線を直列に接続し、同一の電流を通電する例について説明した。ステータ電流の波形形状についても矩形波形状の電流、ほぼ台形波形状の電流の例について説明した。しかし、ステータ電流の波形形状は正弦波の波形形状とすることも可能であり、矩形波と正弦波の間の種々波形とすることも可能である。図8の86などの駆動回路であれば、自在な電流波形に制御することができる。
【0135】
特に、高速回転になると、ステータ電流が矩形波形状に近い場合、電流値が急変する部分が出てきて電流の制御が難しくなる。従って、高速回転になるにつれ、ステータの各相電流の波形を正弦波に近づける制御方法が効果的である。前記(9)式を満たすように制御することにより、電機子反作用を低減するという効果が得られる。
【0136】
ステータの各相電流の波形が正弦波に近づくと、従来の磁石内蔵型モータの正弦波制御との類似点が出てくる。しかし、本発明モータではロータ電流が存在する点、ロータ電流の一部が界磁電流成分となる点などは、従来のモータ制御と異なる点である。また、ステータの電流とロータの電流とでアンバランスな制御もできる。しかし、両電流の起磁力が相殺しない成分は界磁磁束の大きさ、分布に影響するので注意を要する。
【0137】
本発明モータの狙いの一つは、低速回転での大電流、大トルク出力の領域において、モータの損失を低減すること、インバータの電流容量を低減することである。低コスト化、小型化につながる。この観点で正弦波と矩形波を比較すると、正弦波で振幅が1V、1Aの交流電圧と交流電流の場合、出力は0.5Wとなる。矩形波で振幅が1V、1Aの交流電圧と交流電流の場合、出力は1Wとなる。同一の電圧、電流のインバータで比較すると、矩形波のモータの方が2倍の出力が可能となる。従って、矩形波モータはインバータを1/2に小型化できる可能性がある。ここで、損失は0としている。モータの巻線の損失について考えると、銅損は電流の2乗と巻線抵抗の積なので、同一出力時の銅損は矩形波モータの方が1/2に小さくできる。従って、矩形波モータはモータサイズを小型化できる可能性がある。
【0138】
電気自動車の主機モータでは、低速回転での大電流、大トルク出力の能力によりモータサイズ、インバータ容量が決まる。低速回転なので矩形波に近い電圧波形、電流波形のモータ制御が可能であり、小型化、低コスト化の点で有利である。一方、高速回転での運転、中トルク負荷での運転、軽負荷での運転などでは、矩形波から正弦波に近づけた波形としても大きな不都合は無い。むしろ、低トルクリップル化、低騒音化、高調波成分に起因する損失の低減などの観点では、正弦波波形に近づけた方が好ましいことも多い。適宜、使い分けができる。
【0139】
ロータ電流は各スロットの巻線を直列に接続し、同一の電流を各スロットに通電する例について説明した。しかし、各スロットの巻き回数を同一とせず、例えば、円周方向の各スロットの巻き回数分布を正弦波状とするなどの変形も可能である。また、モータが複雑化するが、複数種類のロータ巻線、複数種類のロータ電流を作ることも可能である。
【0140】
次に、請求項6と請求項7の実施例を図19に示し、説明する。図1図2等に示したように、本発明モータは、エアギャップ部を介してステータのトルク電流成分IWSPとロータのトルク電流成分IWRNとが対向して通電され、対向する電流は片方が正電流で他方が負電流とする構成としている。(1)式、(9)式などの関係である。そして、それぞれに対向する正電流と負電流とで周囲に与える起磁力が相殺し、それらの周囲へは電機子反作用をほとんど発生しない。
【0141】
その状態では、トルク電流成分の影響を受けないので、界磁磁束を種々の方法で比較的容易に生成できる。ステータに通電する界磁電流成分ISFAD、ロータに通電する界磁電流成分IRFAD、ロータに配置する永久磁石などである。これらの方法と前記の電流位相を制御する手法とを組み合わせて使用して界磁磁束を生成することができる。なお、発生する力、トルクは、(11)式、(12)式などの表現ができる。一つの表現として、この界磁磁束Φxと前記IWSPとである方向に力が作用し、前記界磁磁束Φxと前記IWRNとでその反対方向に力が作用すると考えることができる。結果として、前記界磁磁束Φxを介して相対的にステータとロータの間に力が発生すると考えることができる。
【0142】
ステータの前記界磁電流成分ISFADは、例えば、図19の巻線SAへ紙面の表から裏側へ通電し、巻線SA/からもどす電流成分Iuを付加し、あるいは、巻線SC/の紙面の表側から裏側へ通電し、巻線SCからもどす電流成分Ivを付加し、IuやIvなどで196、197に示すような界磁磁束を生成することができる。
【0143】
ロータの前記界磁電流成分IRFADは、例えば、図19の巻線126と127とを追
加し、巻線126へ紙面の表側から裏側へ通電し、巻線127により裏側から表側へもど
す電流Ixを通電し、196、197に示すような界磁磁束を生成することができる。な
お、界磁磁束の大きさを前記ロータ電流Irとは独立に制御したい場合には、巻線R1/
R4とは別の巻線126と127を配置し、必要な界磁電流Ixを通電する必要がある
。なお、巻線126と127は複数のスロットに分布させても良く、巻線R1/、R4
は別のスロットを設けても良い。また、電流を重畳させるなどの変形も可能である。
【0144】
ロータ巻線へロータ電流Irを通電して駆動する場合、ロータ内の界磁磁束の方向はほぼ固定方向となるので、ロータへ191、19Aのような永久磁石を配置して界磁磁束を生成することもできる。界磁磁束の増減が必要な場合は、前記の界磁電流成分ISFAD、あるいは、前記界磁電流成分IRFAD、あるいは、電流位相θiを制御する手法と併用することができる。
【0145】
負のトルクを発生する回生、逆方向回転等を含む4象限運転は、界磁磁束の方向、電流の方向などを変える必要がある。図2等に示したモータでは電流位相θiを正の値から負の値として、界磁磁束の方向を逆転し、負のトルクを生成することができる。しかし、図19のモータで永久磁石191、19Aを備える場合は、負のトルクを発生するためにこれら永久磁石の極性方向とは反対方向の界磁励磁を行う、永久磁石を反対方向に着磁する方法がある。あるいは、ロータ電流を零としてステータ電流の通電方向を逆向きとする。あるいは、ロータ電流とステータ電流の両方の通電方向を逆向きとする。このように、図2等のモータよりは少し複雑になる。
【0146】
また、永久磁石191、19Aの無い状態で、192、193に示すようなスリットあるいはフラックスバリアといわれる空隙、非磁性体などを追加することもでき、その数は増減できる。また、フラックスバリア192、193などの中に永久磁石を配置しても良い。特に、永久磁石198のNとS極の磁極方向に空隙部あるいは非磁性体199を密着させて配置することにより、永久磁石が発生する磁束量を減少させ、しかし、外部から印可される起磁力に対しては大きな磁界の強さを発揮し、起磁力外乱に強い特性とすることができ、効果的である。また、永久磁石191、19Aとフラックスバリア192、193などの両方を付加しても良い。
【0147】
特に、永久磁石191、19Aを着磁、減磁、あるいは、任意の強さの磁気特性が得られる永久磁石とすることにより、ラジアル方向磁束成分22を永久磁石191、19Aで作成することができ、界磁励磁の電流負担を軽減することができる。永久磁石191、19Aの磁気特性の可変は、各相のステータ電流、ロータ電流などを活用して着磁、減磁できる。また、勿論、永久磁石と界磁電流成分などとの併用もできる。
【0148】
本発明モータでは、電機子反作用が発生しないので、永久磁石の減磁などに対する余裕を大幅に低減することができる。そして、磁石厚みを薄くするなど、少量の永久磁石で構成でき、コスト的な負担を少なくでき、永久磁石の強さを可変することがより容易となる。もし、意図せず減磁しても着磁すれば良い。
【0149】
図1から図5などに示したモータで大きなトルクを発生する場合には、図19に示す永久磁石191、19A、フラックスバリア192、193等を付加してもその効果は限定的である。しかし、図1から図5に示したモータで比較的小さなトルクを発生する場合には、ロータ電流Irによる抵抗損失、および、界磁電流成分の抵抗損失が負担となり、モータ効率が低下する問題がある。従って、図19に示すモータは、比較的小さなトルク領域では、永久磁石191、19A、フラックスバリア192、193等を利用して、ロータ電流Irと界磁電流成分を低減し、従来の永久磁石モータのように、高効率化が可能である。そして、大きなトルク領域では、図1から図5などに示した動作を行う。中間のトルク領域では、各動作の適正化を行うことができる。このように、図1から図5などに示したモータの特長と従来の永久磁石モータの特長とを合わせ持った特性とすることができる。なお、図19は原理を説明するため2極のモデルを示しているが、8極程度に多極化した場合には永久磁石を平板形状にするなど、より実用的な形状に変形できる。
【0150】
また、図19のロータはほぼ円形の形状例を示しているが、ロータ外周が凹凸の形状でも良い。また、簡素な構成とすることにより機能、性能は限定されるが、種々変形が可能である。例えば、8極以上の多極の構成では、ロータ巻線を各極当たり1本とし、ロータのスロットへ太めの銅線を1ターンだけ配置する構成とし、巻線実装上の簡素化を図れる。その場合には、ロータ電流が大きくなるため、回転トランス76の巻線比を大きくする必要がある。また、ステータ構造を集中巻きの簡素な構成とすることもできる。
【0151】
次に、図7に示す回転トランス76、および、図8の回転トランス8Nの入力電圧Vrp、入力電流Irpとロータ電流Irの関係、ロータ電流Irの検出方法について説明する。図20は回転トランス周辺の電圧、電流を示すタイムチャートである。横軸は時間で、回転トランスを100kHzで駆動する例であり、その1周期は10μsecである。図20の(a)は、図8の回転トランス8Nの入力電圧Vrpの例である。201の部分はパルス幅が広くて比較的大きな平均電圧であり、202の部分はパルス幅が狭くて比較的小さな平均電圧の領域である。図20の(b)は、回転トランスの出力を整流した直流電圧Vrsであり、前記入力電圧Vrpを整流した波形形状となっている。図20の(c)はロータ電流Irの例である。ロータ巻線はインダクタンスLrが大きく、巻線抵抗Rrは小さいので、ロータ電流Irは印加電圧の1次遅れの電流値となる。図20の(d)は、回転トランス8Nの入力電流Irpの波形の例である。破線203はロータ電流Irの波形であり、破線204は203の負の値である。
【0152】
注目すべき点は、入力電圧Vrpがオンであって、正あるいは負の大きな電圧を出力している間は、ロータ電流Irと回転トランス8Nの入力電流Irpとは比例関係にあり、ロータ電流Irを計測できることである。回転トランス8Nの入力電流Irpは、図8の電流検出値8Rにより計測することができる。即ち、回転トランス8Nへ大きな電圧を供給するタイミングで回転トランス8Nへ供給している電流値Itvを計測すれば、その値がロータ電流Irの比例する値であり、ロータ電流Irの値を計測することができる。本発明モータではロータ電流Irを計測する必要があり、回転トランスでロータ電流Irの供給とロータ電流Irの検出とを行えるので効果的である。
なお、入力電圧Vrpがオフでほぼ零ボルトの間は、ロータ電流Irは図8の整流回路8Sにより循環し、フライホイール状態となる。回転トランス8N、整流回路8S、インダクタンスLr、巻線抵抗Rrの電気回路として計算できる。
また、図20の(e)は、回転トランスで最大の電圧を供給する場合の電圧波形である。
【0153】
次に、回転トランス76を利用したロータの回転位置検出について、図7図21図22に示し、説明する。図7の回転トランス76が高周波で励磁していることを利用して、回転トランス76の一部にロータの回転位置検出装置を備える技術である。図21は横軸をモータ角度θzとし、回転位置検出装置の各部をそのステータとそのロータとの間のエアギャップに面した円周方向形状を直線状に水平展開した図である。図21の(a)は、図7の7Eで、ステータ側の位置センサー部である。この例では、電気角で22.5°の周期で円周方向に四角形の凸部211が並んでいる。図21の(b)は、図7の7Fで、その内、212はロータ側に配置したセンサー磁極で、ロータ位置を検出するために、磁束の通過する場所と磁束が通過しない場所とを、その凹凸で作り出している。図21のロータ回転位置θrは0°である。この例では、前記センサー磁極212は電気角で45°幅の凸部で、円周方向ピッチは90°である。残りの45°の間は凹部となっている。前記凸部211とセンサー磁極212とはエアギャップを介して対向している。一方、前記凸部211には電気角で45°ピッチのA相検出巻線213を巻回していて、その出力はSaである。同様のB相検出巻線214は、A相検出巻線213と円周方向に22.5°の位相差を持って配置され、45°ピッチであり、その出力はSbである。
【0154】
前記センサー磁極212の図21のロータ回転位置θrを0°とすると、前記Saに発生する電圧は、θr=0°の時に最大となり、θr=45°の時に最小となり、90°周期で最大と最小を繰り返す。前記Sbに発生する電圧は、Saより22.5°円周方向位置が異なるので、、θr=22.5°の時に最大となり、θr=67.5°の時に最小となり、90°周期で最大と最小を繰り返す。また、SaとSbの信号は回転トランス76の磁束の一部を流用するので、図20の(a)にその電圧波形の例を示すように、例えば、100kHzの周波数の場合、給電電力の大きさにより0から5μsecまでパルス幅が変化する交流電圧である。
【0155】
SaとSbからロータ回転位置情報とするために、それぞれを全波整流して交流から直流の信号Sax、Sbxを作る。次に、Sax、Sbxを回転トランスの供給電圧に影響されないように正規化を行う。回転トランスの供給電圧を整流した電圧は図20の(b)のVrsなので、この電圧をフィルター処理して平均値Vrsaを作る。前記Sax、SbxをVrsaで除算して、図22に示す2相の位置信号Pa、Pbを作成する。
Pa=Sax/Vrsa (18)
Pb=Sbx/Vrsa (19)
【0156】
また、電気角で位相の90°異なる正弦波をそれぞれ二乗して加算するとその正弦波の振幅値の二乗となり、一定値になることが知られている。正規化の方法として、前記Sax、Sbxよりその振幅値CXVを求め、(18)、(19)式のVrsaの代わりにCXVを代入することにより、Pa、Pbの正規化信号を得ることもできる。また、前記2つの正規化方法の組み合わせでも良い。また、2つの正弦波信号で、相対的に90°位相差のある2相正弦波信号からその正弦波周期内の位置を内挿計算する技術については、位置検出用のレゾルバー、光式エンコーダ、磁気式エンコーダなどで使用され、主流の位置検出技術として良く知られている。図22の位置信号Pa、Pbは、ロータの電気角で90°周期の三角波信号で、22.5°の位相差があり、同じような手法で内挿計算して、ロータの電気角90°周期のロータ回転位置信号を作ることができる。なお、前記の2相正弦波信号から位置を内挿計算する技術の説明は省略する。また、センサー磁極212の形状を四角形から丸みを持たせた形状へ変形して、三角波信号から正弦波信号に近づけることもできる。
【0157】
モータの各相電流、各相電圧を制御するためには、ロータの電気角360°周期の絶対位置情報が必要である。図21の(a)と(b)の周期を電気角360°とすることもできるが、ロータの位置検出精度を高めるために2重、3重などの多層の位置検出方法とすることもできる。図21の(c)の215はステータ側の位置センサー部で、90度幅である。(d)の216はロータ側に配置したセンサー磁極で180度幅あり、これらは電気角360°周期の回転位置検出装置を構成する。巻線217はC相検出巻線で、180°ピッチであり、その出力はScである。巻線218はD相検出巻線で、180°ピッチであり、C相検出巻線217と円周方向に90°の位相差を持って配置され、その出力はSdである。なお、図21の(c)と(d)の構成は、図7には記載しておらず、位置センサー部7E、センサー磁極7Fと同様に追加することができる。
【0158】
前記信号ScとSdは、SaとSbの信号処理と同様の方法で、図22のPcとPdを作成することができ、電気角360度のロータ位置検出を行うことができる。そして、PaとPbから作成する90度周期のロータ位置信号と組み合わせて、高精度な電気角360度のロータ位置検出を行うことができる。このように、密と粗の多段の位置検出とすることができる。また、図21の(a)と(b)による精密な位置検出は、高速回転での位置検出は処理時間が短くなるため難しくなる場合があり、高速回転では図21の(c)と(d)の粗の位置検出部の情報を主として利用し制御することもできる。
【0159】
なお、図7図21図22に示した各構成は、種々変形、組み合わせなどが可能である。例えば、巻線213、214、217、218は1ターンの構成を図示したが、実用上、巻き回数を適正化する必要があり、他の同相の位置センサー部へも巻回し、直列に接続することにより、位置検出精度を向上し、ロータの偏心などの外乱にも強い信号とすることができる。また、モータ角度θzの特定位置の検出手段と図21の(a)と(b)のインクレメンタルな位置検出とで機械角360°の絶対位置化を実現しても良い。なお、全く異なる位置検出装置、センサーレス位置検出などを利用して、本発明モータとその制御装置を構成することも、勿論可能である。
【0160】
次に、請求項8について、図23に示し、説明する。ロータに各種制御回路を備え、必要に応じて、ロータの各電流を制御する方法である。図23の例では、ロータの電力供給手段に、図8と同じ回転トランス8Nを用いている。回転トランス8Nの電圧は、図20の(e)に示す電圧として、高周波交流電圧源として機能させ、ステータ側からロータ側へ電力を供給し、整流して直流電圧を得、ロータ側の各種制御に使うことができる。また、図23の構成では、ロータ側からステータ側へ電力回生も行なうことができる。
【0161】
23Qはステータ側の送信受信回路であり、ロータ電流Irの指令、界磁電流の指令などの送信信号を出力し、また一方、ロータ側からのロータ情報を受信する。23Rは通信手段を示していて、電波による通信、光による通信、あるいは、回転トランス8Nを通る高周波電流成分による通信等である。23Gはロータ側の送信受信回路であり、23Qの前記送信信号を受信してロータ側制御回路23Hへ出力し、また一方、ロータ側制御回路23Hからのロータ側情報をステータ側送信受信回路23Qへ送信する。
【0162】
図23の各巻線8T、8U、8V、8Wへロータ電流Irを通電する場合、回転トランス8Nから供給される23E、23Fの交流電圧を、231、232、233、234のトランジスタに並列に接続したダイオードで整流し、23Dのコンデンサーなどで直流電圧を安定化する。そして、トランジスタ235と238でロータ電流Irを通電する。この時、ロータ側からステータ側へ電力回生は行わない場合、図23のトランジスタ231、232、233、234は不要である。また、各巻線負荷へ供給するが片方向の電流だけの場合は、トランジスタ236、237は不要である。
【0163】
前記ロータ側制御回路23Hは、例えば、ロータ電流Irの電流値23Mを検出し、ロータ電流Irの指令値と比較してトランジスタ231、232、233、234の制御信号23Kを出力してロータ電流Irを制御する。このように、ステータ側からは回転トランス8Nの入力巻線8Pへ交流電力を供給し、ロータ電流Irの指令値を通信手段23Rでロータ側へ伝え、ロータ側で自律的にロータ電流Irを制御することができる。
【0164】
界磁巻線23Pへ電流Ifxを通電する場合は、通信手段23Rにより伝えられる電流Ifxの指令値と電流Ifxの電流値23Nの値により、トランジスタ239、23A、23B、23Cの制御信号23Lを出力し、電流Ifxを制御する。
【0165】
また、ロータのその他の電流制御も、必要に応じて同様に追加することができる。図23の構成であれば、ロータ側で多くの種類の電流を制御することができるので、モータの機能、性能を改善できる。例えば、ロータの電流を多相にして制御することができる。ロータ側に界磁を励磁する巻線を追加して、界磁励磁を行うこともできる。
【0166】
また、図23の構成であれば、トランジスタ231、232、233、234と回転トランス8Nを利用して、ロータ側からステータ側へ電力回生を行うこともできる。従って、ロータ側の巻線、電流によって励磁されている磁束のエネルギをステータ側へ回生でき、これらの電流を急減することができ、これらの電流制御の応答性を高めることができる。また、ステータ側へ回生することの意味は、電解コンデンサなどの強度、寿命などに不安のある素子をロータ側へ配置しないこと、あるいは、減少することでもある。
【0167】
また、図23図8の回転トランス8Nは図7の回転トランス76を指しているが、図24の(a)に示した回転トランス241でも良く、3相交流の回転トランスを使用することもできる。また、図24の(b)に示した発電機249を使用することもできる。ただし、図23のトランジスタ、ダイオードなどの電源回路を修正する必要がある。そして、これらの場合についても、ステータ側からロータ側への電力供給と、ロータ側からステータ側への電力回生も行うことができる。
【0168】
次に、図8に示すような本発明モータとその制御装置において、信頼性、安全性を高める方法について説明する。電気自動車は、極寒の地、猛暑の地、紛争地帯などの危険地帯で使用されることもあり、万が一、一部の部品などが破損するなどの故障を起こしても、残った正常な部分を活用してモータの駆動を行うことができれば、信頼性、安全性を高めることができる。図8の815は、モータとその制御装置の状態を監視する異常動作監視手段であり、モータ巻線の断線、絶縁不良などの検出、トランジスタおよびのそのドライバーなどの異常などの検出、そして、異常状態の判断を行なう。また、故障した部品、異常な動作をした部分等の動作を停止させ、正常な部分を使用してモータを駆動するように指令する。その結果、不完全であっても最低限のモータ駆動を実現し、非常時駆動を行える。特に図8の構成は、ステータの各相の巻線とその電流を駆動するトランジスタブリッジが他の相とは電気的に分離、絶縁できる構成としている。その結果、故障部分の停止、分離が容易となり、非常時駆動をより高い確率で実現でき、信頼性を高められる。
【0169】
以上本発明について説明したが、種々の変形、応用、組み合わせが可能である。モータのステータ巻線およびロータ巻線の相数は、3相、5相、7相、11相などへ変形できる。各種スキュー、スロット数の選択もでき、スロット数に起因する離散性も解消できる。特に多相化により、本発明モータの性能、特徴を発揮することができる。多相化により駆動装置の部品点数は増加するが、高集積技術などが可能であり、パワー部の電力的な増加は理論的に無い。極数は主に2極の例について説明したが、実用化には4、6、8極などを選択できる。巻線の巻回方法は、集中巻き、あるいは、分布巻き、短節巻き、トロイダル巻きなどの構成とすることができる。超電導の巻線、種々冷却機構も使用できる。
モータ形状は、アウターロータ型モータ、アキシャルギャップ型モータ、リニアモータ、あるいは、円錐状、多段状などのモータ形状を選択できる。内外径方向に、あるいは、ロータ軸方向に、複数のモータ要素とした複合モータの構成とすることができる。また、他の種類のモータ要素と組み合わせることも可能である。
モータ、および、回転トランスの軟磁性体には電磁鋼板の薄板化、6.5%ケイ素鋼板、アモルファス金属、フェライト、圧分磁心、パーメンジュールなどの種々の材料が使える。また、種々の永久磁石が使用できる。種々の高強度化材料、機構も使用できる。
各種センサー、位置検出器、センサレス位置検出技術の活用も可能である。また、モータのトルクリップル、振動、騒音を低減するための種々技術を適用できる。また、自動車用の主機モータは前進が主なので、片方向トルクを優先するモータ構造であっても良い。本発明にこれらの技術を適用したものは、本発明に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明モータとその制御装置は、低速回転などでの大トルクと高速回転の特性との両方が必要となる電気自動車の主機用モータとして好適である。産業用モータとしても、高トルクの必要な用途、高速回転の必要な用途に好適である。将来は、航空機の電動化も予想され、軽量化のため極めて大きなモータ出力密度が必要となるので、本発明モータとその制御装置は好適である。
【符号の説明】
【0171】
11 ステータ
12 ロータ
SA、SA/ A相巻線
SB、SB/ B相巻線
SC、SC/ C相巻線
SD、SD/ D相巻線
SE、SE/ E相巻線
R1、RI/ ロータの巻線R1
R2、R2/ ロータの巻線R2
R3、R3/ ロータの巻線R3
R4、R4/ ロータの巻線R4
R5、R5/ ロータの巻線R5
81 直流電源
86、89、8C、8F、8J、8M 電力駆動ユニット
88、8B、8E、8H、8L 各相の電流検出手段の出力
811 制御装置
812 制御指令
81A、81B 各トランジスタの駆動信号
76、8N 回転トランス
813 ロータの位置検出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29